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  • 特開-冷蔵流通用調味液 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022137710
(43)【公開日】2022-09-22
(54)【発明の名称】冷蔵流通用調味液
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/00 20160101AFI20220914BHJP
   A23L 3/36 20060101ALI20220914BHJP
   A23L 27/50 20160101ALI20220914BHJP
【FI】
A23L27/00 D
A23L3/36 Z
A23L27/50 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021037332
(22)【出願日】2021-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】521100379
【氏名又は名称】B-MAX株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100158698
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 基樹
(72)【発明者】
【氏名】寺原 寛也
(72)【発明者】
【氏名】杉山 久
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 清
(72)【発明者】
【氏名】中山 素一
【テーマコード(参考)】
4B022
4B039
4B047
【Fターム(参考)】
4B022LA02
4B022LB02
4B022LJ01
4B022LJ04
4B039LB14
4B039LC06
4B039LC12
4B047LB09
4B047LE01
4B047LF02
4B047LF08
4B047LG04
4B047LG15
4B047LG23
4B047LG55
4B047LG60
4B047LG63
4B047LP05
4B047LP06
4B047LP11
(57)【要約】
【課題】-2℃以上10℃以下の冷蔵温度帯での流通および保管において十分な保存性を有し、且つ香味の優れた冷蔵流通用調味液を提供する。
【解決手段】乳酸カリウムおよび/または乳酸ナトリウムの含有量が0.040mоl/kg以上0.600mоl/kg以下であり、調味液のpHが5.40超6.00以下であり、乳酸カリウムおよび/または乳酸ナトリウムの含有量をX、調味液のpHをYとした場合に、下記関係式(1)を満たす冷蔵流通用調味液とすることにより、前記課題を解決する。
(1)Y≦2.721X+5.495
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸カリウムおよび/または乳酸ナトリウムを含有する冷蔵流通用調味液であって、
前記乳酸カリウムおよび/または乳酸ナトリウムの含有量が0.040mоl/kg以上0.600mоl/kg以下であり、前記冷蔵流通用調味液のpHが5.40超6.00以下であり、さらに、前記含有量をX、前記pHをYとした場合に、下記関係式(1)を満たす、冷蔵流通用調味液。
(1)Y≦2.721X+5.495
【請求項2】
前記冷蔵流通用調味液が乳酸カリウムを0.045mоl/kg以上含有し、さらに、前記Xと、前記Yと、が下記関係式(2)を満たす、請求項1に記載の冷蔵流通用調味液。
(2)Y≦2.395X+5.495
【請求項3】
前記冷蔵流通用調味液の塩分が1.0w/w%以上5.0w/w%以下である、請求項1または2に記載の冷蔵流通用調味液。
【請求項4】
前記冷蔵流通用調味液の水分活性(Aw)が0.92以上0.98以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の冷蔵流通用調味液。
【請求項5】
水産原料を含有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の冷蔵流通用調味液。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の冷蔵流通用調味液が容器に充填された、容器詰め冷蔵流通用調味液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷蔵流通用調味液に関する。
【背景技術】
【0002】
つゆ、だし、たれ、スープ、ドレッシングなどに代表される調味液は、加工食品等に多く利用されているが、希釈せずにそのまま喫食されるストレートタイプの調味液など一部の調味液については、その保存性を確保するために、冷蔵域(例えば10℃以下)での流通および保管が必要とされているもの、つまり冷蔵流通用のものがある。
【0003】
このような冷蔵流通用調味液の一例として、例えば特許文献1には、所定の条件で殺菌した、ホットパック製法やアセプティック製法に比較して非常に加熱履歴が低く、本来の香り、風味が豊かで、なおかつ安全に流通可能な低温流通用調味液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-325128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
なお、このような冷蔵流通用調味液は、上記したように冷蔵域での流通および保管が必要とされているが、低温での増殖が可能な耐熱性芽胞菌などの影響を考慮した場合、それだけでは保存性を確実に保証することができないため、現状では、さらに有機酸の添加などによりこの調味液のpHを5.40以下とすることが求められている。しかしながら、調味液のpHを5.40以下とすると、酸味の影響などによって香味の優れた製品となりにくいという課題がある。
【0006】
そこで本発明は、-2℃以上10℃以下の冷蔵温度帯での流通および保管において十分な保存性を有し、且つ香味の優れた冷蔵流通用調味液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明者は鋭意検討し、乳酸カリウムおよび/または乳酸ナトリウムの含有量が0.040mоl/kg以上0.600mоl/kg以下であり、調味液のpHが5.40超6.00以下であり、この乳酸カリウムおよび/または乳酸ナトリウムの含有量と、調味液のpHと、が所定の関係式を満たす冷蔵流通用調味液とすることにより、-2℃以上10℃以下の冷蔵温度帯での流通および保管において十分な保存性を有し、且つ香味の優れたものとすることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は次の<1>~<6>である。
<1>乳酸カリウムおよび/または乳酸ナトリウムを含有する冷蔵流通用調味液であって、前記乳酸カリウムおよび/または乳酸ナトリウムの含有量が0.040mоl/kg以上0.600mоl/kg以下であり、前記冷蔵流通用調味液のpHが5.40超6.00以下であり、さらに、前記含有量をX、前記pHをYとした場合に、下記関係式(1)を満たす、冷蔵流通用調味液。
(1)Y≦2.721X+5.495
<2>前記冷蔵流通用調味液が乳酸カリウムを0.045mоl/kg以上含有し、さらに、前記Xと、前記Yと、が下記関係式(2)を満たす、<1>に記載の冷蔵流通用調味液。
(2)Y≦2.395X+5.495
<3>前記冷蔵流通用調味液の塩分が1.0w/w%以上5.0w/w%以下である、<1>または<2>に記載の冷蔵流通用調味液。
<4>前記冷蔵流通用調味液の水分活性(Aw)が0.92~0.98である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の冷蔵流通用調味液。
<5>水産原料を含有する、<1>~<4>のいずれか1つに記載の冷蔵流通用調味液。
<6><1>~<5>のいずれか1つに記載の冷蔵流通用調味液が容器に充填された、容器詰め冷蔵流通用調味液。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、-2℃以上10℃以下の冷蔵温度帯での流通および保管において十分な保存性を有し、且つ香味の優れた冷蔵流通用調味液を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例の表1~3に記載された、乳酸カリウムまたは乳酸ナトリウムを添加したそばつゆサンプルの保存性の結果をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明について説明する。
本発明は、乳酸カリウムおよび/または乳酸ナトリウムを含有する冷蔵流通用調味液であって、乳酸カリウムおよび/または乳酸ナトリウムの含有量が0.040mоl/kg以上0.600mоl/kg以下であり、冷蔵流通用調味液のpHが5.40超6.00以下であり、さらに、乳酸カリウムおよび/または乳酸ナトリウムの含有量をX、冷蔵流通用調味液のpHをYとした場合に、所定の関係式を満たす冷蔵流通用調味液である。以下においては、これを「本発明に係る冷蔵流通用調味液」という場合もある。
【0012】
ここで、この「冷蔵流通用調味液」とは、保存性の観点から、-2℃以上10℃以下の冷蔵温度帯において流通および保管される必要がある液状の調味料(つゆ、たれ、だし、スープ、ドレッシングなど)を意味する。つまり、本発明の「冷蔵」とは-2℃以上10℃以下を意味する。したがって、本発明に係る冷蔵流通用調味液からは、保存性の観点において、10℃超の温度帯(例えば常温温度帯など)での流通および保管が可能なものは除外される。同様に、-2℃未満の冷凍温度帯での流通および保管が必要なものも除外される。
【0013】
なお、本発明に係る冷蔵流通用調味液は、流動性などの液状の調味料としての機能を失わない範囲内において、不溶性固形分が含まれていたり粘性を有していたりしていても良い。そして、本発明に係る冷蔵流通用調味液は、この不溶性固形分の含有量が0.8w/w%以下、さらには0.6w/w%以下、さらには0.5w/w%以下である構成であっても良い。さらに、流動性を有するゼリー状(ジュレ状)の調味料も、上記した冷蔵温度帯において流通および保管される必要があるものである限り、本発明に係る冷蔵流通用調味液に包含される。しかしながら、流動性を有さない固形状の調味料は、本発明に係る冷蔵流通用調味液から除外される。また、粉体状や顆粒状の調味料も当然除外される。
【0014】
まず、本発明に係る冷蔵流通用調味液は、必須成分として、乳酸カリウム(C35KO3:分子量128.17)および/または乳酸ナトリウム(C35NaO3:分子量112.06)を含有する。そして、この乳酸カリウムおよび/または乳酸ナトリウムを0.040mоl/kg以上0.600mоl/kg以下の範囲で含有させることにより、後述する調味液のpHとの相乗効果により、本発明に係る冷蔵流通用調味液を、-2℃以上10℃以下の冷蔵温度帯での流通および保管において十分な保存性(低温でも増殖できる細菌(例えば低温芽胞菌など)の増殖を抑制または遅延可能な保存性)を有するものとすることができ、且つ優れた香味を有するものとすることができる。
【0015】
この乳酸カリウムおよび/または乳酸ナトリウムの含有量(質量モル濃度)は、0.040mоl/kg以上0.600mоl/kg以下であることが必要であるが、下限は、0.045mоl/kg以上であるのが好ましく、0.047mоl/kg以上であるのがより好ましく、0.050mоl/kg以上であるのがさらに好ましく、0.080mоl/kg以上であるのがさらに好ましく、0.090mоl/kg以上であるのがさらに好ましく、0.100mоl/kg以上であるのがさらに好ましく、0.120mоl/kg以上であるのがさらに好ましく、0.150mоl/kg以上であるのがさらに好ましく、0.170mоl/kg以上であるのがさらに好ましく、0.185mоl/kg以上であるのがさらに好ましい。また上限は、0.540mоl/kg以下であるのが好ましく、0.500mоl/kg以下であるのがより好ましく、0.400mоl/kg以下であるのがさらに好ましく、0.300mоl/kg以下であるのがさらに好ましく、0.280mоl/kg以下であるのがさらに好ましく、0.250mоl/kg以下であるのがさらに好ましい。ここで、この含有量とは、乳酸カリウムと乳酸ナトリウムとを併用した場合には、これらの合計の質量モル濃度である。乳酸カリウムおよび/または乳酸ナトリウムの含有量が上記範囲未満であると、後述するpHの範囲では、-2℃以上10℃以下の冷蔵温度帯での流通および保管において十分な保存性が得られない可能性がある。また、上記範囲を超えると、優れた香味の調味液とすることができない可能性がある。
【0016】
なお、この乳酸カリウムおよび乳酸ナトリウムの含有量は、原子吸光光度法により本発明に係る冷蔵流通用調味液に含まれるナトリウム量およびカリウム量を分析し、さらに、高速液体クロマトグラフィーにより本発明に係る冷蔵流通用調味液に含まれる乳酸量を分析して、これらの分析値から算出されたものである。
【0017】
そして、この乳酸カリウムおよび乳酸ナトリウムは、食品添加物として販売されている乳酸カリウムまたは乳酸ナトリウムの製剤等を原材料として用いて含有させても良く、あるいは、乳酸カリウムまたは乳酸ナトリウムを含む発酵調味料などの食品材料を原材料として用いて含有させても良い。
【0018】
さらに、本発明に係る冷蔵流通用調味液は、そのpHを5.40超6.00以下とする。これによって、前述した乳酸カリウムおよび/または乳酸ナトリウムとの相乗効果により、-2℃以上10℃以下の冷蔵温度帯での流通および保管において十分な保存性を有するものとすることができ、且つ優れた香味の調味液とすることができるからである。
【0019】
このpHの下限は、香味がより優れたものとなり易いことから、5.45以上であるのが好ましく、5.50以上であるのがより好ましく、5.55以上であるのがさらに好ましく、5.60以上であるのがさらに好ましい。また、pHの上限は、前述した保存性をより保ち易いことから、5.95以下であるのが好ましく、5.90以下であるのがより好ましい。
【0020】
さらに、本発明に係る冷蔵流通用調味液は、前述した乳酸カリウムおよび/または乳酸ナトリウムの含有量(mоl/kg)をX、前述したpHをYとした場合に、下記関係式(1)を満たす必要がある。
(1)Y≦2.721X+5.495
【0021】
ここで、図1は、本発明に係る冷蔵流通用調味液における乳酸カリウムまたは乳酸ナトリウムの含有量(mоl/kg)を横軸、pHを縦軸として記載したグラフ(散布図)の一例であるが、本発明に係る冷蔵流通用調味液は、この図1に示されるグラフ内の太字直線で囲まれた領域内に含まれるものとなる必要がある。なお、図1中の傾きを有する太字直線がY=2.721X+5.495を表す直線であり、よって、本発明に係る冷蔵流通用調味液は、乳酸カリウムおよび/または乳酸ナトリウムの含有量が0.040mоl/kg以上0.186mоl/kg以下の場合に、上記関係式(1)を満たすpHとすれば良い。これによって、-2℃以上10℃以下の冷蔵温度帯での流通および保管において十分な保存性を有するものとすることができ、且つ優れた香味のものとすることができる。
【0022】
なお、本発明に係る冷蔵流通用調味液は、乳酸カリウムを必須成分として含有するものであると、より香味が優れた冷蔵流通用調味液とし易いため非常に好ましい。特に、乳酸カリウムと乳酸ナトリウムとの合計量のうち、乳酸カリウムの割合がモル質量割合で60%以上、さらには70%以上、さらには80%以上となるようにすると、香味の観点からさらに好ましい。そして、乳酸カリウムを必須成分として含有する場合には、この乳酸カリウムを0.045mоl/kg以上、より好ましくは0.050mоl/kg以上、さらに好ましくは0.080mоl/kg以上、さらに好ましくは0.090mоl/kg以上、さらに好ましくは0.100mоl/kg以上、さらに好ましくは0.120mоl/kg以上、さらに好ましくは0.150mоl/kg以上、さらに好ましくは0.170mоl/kg以上、さらに好ましくは0.185mоl/kg以上含有し、さらに、この乳酸カリウムおよび乳酸ナトリウムの合計の含有量(X:mоl/kg、乳酸ナトリウムを含まない構成である場合には乳酸カリウムの含有量)と、前述したpH(Y)と、が下記関係式(2)を満たすものであるのが好ましい。
(2)Y≦2.395X+5.495
【0023】
また、乳酸カリウムを必須成分として含有する場合の乳酸カリウムの含有量上限は、香味などの観点から、同様に、0.600mоl/kg以下である必要があり、0.540mоl/kg以下であるのが好ましく、0.500mоl/kg以下であるのがより好ましく、0.400mоl/kg以下であるのがさらに好ましく、0.300mоl/kg以下であるのがさらに好ましく、0.280mоl/kg以下であるのがさらに好ましく、0.250mоl/kg以下であるのがさらに好ましい。
【0024】
ここで、図1中の点線がY=2.395X+5.495を表す直線であり、よって、本発明に係る冷蔵流通用調味液は、乳酸カリウムを必須成分として含有する場合において、乳酸カリウムの含有量、または、乳酸カリウムおよび乳酸ナトリウムの合計含有量が0.045mоl/kg以上0.211mоl/kg以下の場合に、前述した関係式(2)を満たすpHとすると好適である。特に、本発明に係る冷蔵流通用調味液が乳酸カリウムと乳酸ナトリウムとをいずれも含む場合であっても、その乳酸カリウムの含有量(X)とpH(Y)とが前述した関係式(2)を満たす構成であるとより好ましい。
【0025】
そして、本発明に係る冷蔵流通用調味液は、塩分(塩化ナトリウム濃度)が1w/w%以上5w/w%以下であるのが好ましく、1w/w%以上3w/w%以下であるのがより好ましい。本発明に係る冷蔵流通用調味液を希釈せずにそのまま喫食する調味液(ストレートタイプの調味液)や、喫食する際の希釈倍率が低い調味液(例えば3倍以下、さらには2倍以下の希釈倍率である調味液)とし易いからである。本発明に係る冷蔵流通用調味液は、このような塩分であっても、前述した構成によって-2℃以上10℃以下の冷蔵温度帯での流通および保管において十分な保存性を有することが特徴である。
なお、この塩分は、塩分計(例えば東亜ディーケーケー社製の塩分分析計SAT-500など)により測定される値である。
【0026】
さらに、本発明に係る冷蔵流通用調味液は、水分活性(Water Activity:Aw)が0.92以上0.98以下であるのが好ましく、0.93以上0.97以下であるのがより好ましい。これも、本発明に係る冷蔵流通用調味液をストレートタイプの調味液や希釈倍率が低い調味液とし易いからである。そして、同様に、本発明に係る冷蔵流通用調味液は、このような水分活性であっても、前述した構成によって-2℃以上10℃以下の冷蔵温度帯での流通および保管において十分な保存性を有することが特徴である。
なお、この水分活性は、水分活性測定装置(例えばロトロニック社製のAW測定装置HYGROLAB2など)により測定される値である。
【0027】
さらに、本発明に係る冷蔵流通用調味液は、限定されるものではないが、水分が70質量%以上であっても良く、75質量%以上であっても良く、80質量%以上であっても良く、83質量%以上であっても良い。また、これも限定されるものではないが、Brixが30%以下であっても良く、25%以下であっても良く、20%以下であっても良く、17%以下であっても良い。
【0028】
そして、本発明に係る冷蔵流通用調味液は、上記した構成を満たすものとなる限りにおいて、つゆ、たれ、だし、スープ、ドレッシングなどの調味液製造において慣用されている原材料および製造方法により製造することができる。
【0029】
具体的には、まず原材料としては、水産原料(鰹節、宗田節、鯖節、鰺節、鰯節、その他の節類、煮干、昆布、これらの抽出エキス、その他の水産エキスなど)、畜産原料(鶏、豚、牛などの肉や骨の抽出エキス、これら由来の油脂等)、野菜原料(野菜エキスや野菜ピューレなど)、椎茸または椎茸エキス、醤油、味噌、みりん、食塩、砂糖、発酵調味料、酵母エキス、清酒、グルタミン酸ナトリウムやイノシン酸ナトリウムなどの調味料等を用いることができる。さらに、香辛料(不溶性固形分を含むものであっても良い)、澱粉類(加工澱粉も含む)、増粘剤、香料なども用いることができる。特に、本発明に係る冷蔵流通用調味液が水産原料を含有するものであると、本発明の効果がより発揮され易い。ここで、この「水産原料を含有する」とは、本発明に係る冷蔵流通用調味液に水産原料が実質的に含まれる(水産原料の固形分含有量が0.1w/w%以上である)ことであり、原材料名の表記に水産原料が示される構成などが例示される。
【0030】
なお、本発明に係る冷蔵流通用調味液には、グリシンなどの保存性向上成分を原材料としてさらに用いても良いが、本発明に係る冷蔵流通用調味液は、このような保存性向上成分を原材料として使用しなくても、前述した構成を有することによって所定の保存性を備えることが特徴である。
【0031】
また、本発明に係る冷蔵流通用調味液に酒精などを用いる場合には、他の原材料由来のアルコール量や加熱処理による揮発量なども考慮して、本発明に係る冷蔵流通用調味液のアルコール(エタノール)濃度が例えば3v/v%以下、さらには2v/v%以下、さらには1v/v%未満となるように用いるのが好適である。なお、本発明に係る冷蔵流通用調味液は、そのアルコール(エタノール)濃度が1v/v%未満であっても、前述した構成によって所定の保存性を有することが特徴である。
【0032】
さらに、本発明に係る冷蔵流通用調味液には、有機酸(例えば乳酸やクエン酸)などの酸味料についても使用は可能であるが、本発明に係る冷蔵流通用調味液のpHが5.40以下となってしまうと香味が優れたものとなりにくいため、酸味料を使用する場合でも、本発明に係る冷蔵流通用調味液のpHが5.40超6.00以下となるように使用すべきである。
【0033】
次に、本発明に係る冷蔵流通用調味液を製造する方法の具体例としては、まず上記した原材料と水とをミキサーなどによって混合して調合液を得る調合工程と、この得られた調合液について加熱処理(殺菌など)を行う加熱工程と、を含む方法などが示される。そして、この加熱処理の条件としては、70℃~100℃において20秒間~25分間保持などが例示される。つまり、本発明に係る冷蔵流通用調味液は、加熱処理されたものであっても良い。また、この加熱工程の前または後において、必要に応じて、濾過処理、希釈処理、濃縮処理などを行う工程を含んでいても良く、さらに、本発明の効果に大きな影響を与えない範囲において、上記以外の任意の工程を含んでも良い。
【0034】
また、このようにして製造された本発明に係る冷蔵流通用調味液は、容器に充填された(必要であればさらに密封された)容器詰め冷蔵流通用調味液としても良い。容器としては、プラスチック製容器(軟包材容器、成型容器など)、ガラス製容器、金属製容器(アルミ製容器、スチール製容器など)、紙容器等が例示される。このような容器に容器詰めされた容器詰め冷蔵流通用調味液とすることにより、流通や保管などにおける利便性がより高まる。特に、プラスチック製容器に充填された容器詰め冷蔵流通用調味液(例えばプラスチック製の軟包材容器に10~230gの冷蔵流通用調味液が充填されて密封された小袋パックなど)とすると、流通や保管における利便性だけでなく、他の加工食品との組み合わせのし易さなどの観点からも、非常に好ましい。
【0035】
容器への充填方法も、限定されるものではなく、公知の容器充填方法により行うことができるが、例えばプラスチック製容器に本発明に係る冷蔵流通用調味液の充填を行う場合には、その保存性などの観点から、ホットパック充填、あるいはこれと同等の加熱処理を行った後に無菌充填(アセプティック充填)を行うのが好ましい。
【0036】
ホットパックとしては、例えば、プレートヒーター等の間接加熱装置により本発明に係る冷蔵流通用調味液を品温70℃~100℃、20秒間~25分間の条件で加熱処理し、この品温を維持したままプラスチック製容器に充填および密封して、冷却する方法などが示される。
【0037】
また、無菌充填としては、例えば、本発明に係る冷蔵流通用調味液を上記したホットパック充填と同等の加熱処理をした後、無菌環境下(閉鎖系の無菌充填装置など)において別途殺菌処理を行ったプラスチック製容器や紙容器に充填および密封して、冷却する方法などが示される。
【0038】
このようにして容器詰めされた容器詰め冷蔵流通用調味液については、必要に応じて、さらに外包装や箱詰めなどをして、製品としても良い。
【0039】
以上のようにして得られる本発明に係る冷蔵流通用調味液、および容器詰め冷蔵流通用調味液は、-2℃以上10℃以下の冷蔵温度帯での流通および保管において十分な保存性を有し、且つ香味の優れたものとなる。特に、pHを5.40超とすることができ、且つ所定量の乳酸カリウムおよび乳酸ナトリウムは香味への影響がほとんどないため、酸味を必要としない製品などにおいても味の設計の自由度が高まるのが特徴である。
【0040】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において様々な変形が可能である。
【実施例0041】
(実施例1)
濃口醤油、鰹節抽出だし、砂糖、みりん、清酒、酒精、および調味料(グルタミン酸ナトリウムおよびイノシン酸二ナトリウム)を用いて作製したそばつゆ(コントロール)に、乳酸カリウム、乳酸ナトリウム、塩化カリウム、硝酸カリウム、またはグルコン酸カリウムを、その含有量が0.150mоl/kgとなるようにそれぞれ添加して、そばつゆサンプルを作製した。なお、各そばつゆサンプルは、いずれもpH5.60、塩分2.8w/w%、水分活性(Aw)0.94~0.96、Brix13~15%となるように調整して作製した(下記表1)。なお、これらのアルコール濃度はいずれも1v/v%未満であった。そして、各そばつゆサンプルに醤油由来の低温芽胞菌8菌株(Bacillus属の4種、およびPaenibacillus属の4種:いずれも10℃以下の温度帯でも増殖が可能な芽胞菌)を植菌し、加熱処理(70℃、20分間保持)してから、芽胞および生菌での25℃における菌数の経時変化(保存性)を調査した。
【0042】
この結果を下記表1に示した。この結果から、乳酸カリウムを添加したそばつゆサンプル、および乳酸ナトリウムを添加したそばつゆサンプルでは、低温芽胞菌の増殖抑制効果が認められた。一方、塩化カリウムを添加したそばつゆサンプル、硝酸カリウムを添加したそばつゆサンプル、およびグルコン酸カリウムを添加したそばつゆサンプルでは、いずれも低温芽胞菌の増殖抑制効果や増殖遅延効果は認められなかった。
【0043】
【表1】
【0044】
(実施例2)
乳酸カリウムまたは乳酸ナトリウムを、その含有量が下記表2に示す量(質量モル濃度)となるように添加した以外は実施例1と同様の方法により、pH5.60、塩分2.8w/w%、水分活性(Aw)0.94~0.96、Brix13~16%であるそばつゆサンプルを作製した(下記表2)。なお、これらのアルコール濃度はいずれも1v/v%未満であった。そして、これも実施例1と同様に、各そばつゆサンプルに低温芽胞菌8菌株を植菌し、加熱処理してから、芽胞および生菌での25℃における菌数の経時変化(保存性)を調査した。
【0045】
この結果を下記表2に示した。この結果から、乳酸カリウム含有量が0.046mоl/kg以上のそばつゆサンプル、および乳酸ナトリウム含有量が0.040mоl/kg以上のそばつゆサンプルでは、低温芽胞菌の増殖抑制効果または増殖遅延効果が認められた。
また、この低温芽胞菌の増殖抑制効果または増殖遅延効果が認められたそばつゆサンプルについては、訓練された複数名のパネリストにより官能評価も行った。その結果、いずれも酸味が強すぎず且つ香味が優れたものであることが明らかとなった。そして、乳酸カリウムを添加したそばつゆサンプルは、特に香味が優れたものであることも明らかとなった。
【0046】
【表2】
【0047】
これとは別に、乳酸カリウムまたは乳酸ナトリウムの含有量をさらに段階的に増加させたそばつゆサンプル(pH5.60、塩分2.8w/w%、水分活性(Aw)0.94~0.96)も同様に作製し、同様に官能評価を行ったが、乳酸カリウムおよび乳酸ナトリウムのいずれについても、その含有量が0.600mоl/kgまでは良好な評価結果であることが明らかとなった。
【0048】
(実施例3)
乳酸カリウムまたは乳酸ナトリウムをその含有量が下記表3に示す量(質量モル濃度)となるように添加し、且つそのpHを下記表3に示す値に調整した以外は実施例1と同様の方法により、塩分2.8w/w%、水分活性(Aw)0.94~0.96、Brix14~16%であるそばつゆサンプルを作製した(下記表3)。なお、これらのアルコール濃度はいずれも1v/v%未満であった。そして、これも実施例1と同様に、各そばつゆサンプルに低温芽胞菌8菌株を植菌し、加熱処理してから、芽胞および生菌での25℃における菌数の経時変化(保存性)を調査した。
【0049】
この結果を下記表3に示した。この結果から、乳酸カリウム添加のそばつゆサンプルおよび乳酸ナトリウム添加のそばつゆサンプルのいずれについても、pHが6.00以下において乳酸カリウムまたは乳酸ナトリウムの含有量が所定量以上であると、低温芽胞菌の増殖抑制効果または増殖遅延効果が認められた。
また、この低温芽胞菌の増殖抑制効果または増殖遅延効果が認められたそばつゆサンプルについては、訓練された複数名のパネリストにより官能評価も行った。その結果、いずれも酸味が強すぎず且つ香味が優れたものであることが明らかとなった。そして、乳酸カリウムを添加したそばつゆサンプルは、特に香味が優れたものであることも明らかとなった。
【0050】
【表3】
【0051】
さらに、前述した実施例1(乳酸カリウム添加品、乳酸ナトリウム添加品)および実施例2、ならびにこの実施例3のそばつゆサンプルのデータについて、乳酸カリウムまたは乳酸ナトリウムの含有量(mоl/kg)を横軸(X軸)、そばつゆサンプル(調味液)のpHを縦軸(Y軸)とし、低温芽胞菌の増殖抑制効果または増殖遅延効果が認められたサンプルを〇、低温芽胞菌の増殖抑制効果および増殖遅延効果がいずれも認められなかったサンプルを×としてプロットして、グラフ(散布図)を作成した。このグラフを図1に示す。
【0052】
この結果から、そばつゆサンプルのpHが5.60以上6.00以下、および乳酸カリウムおよび/または乳酸ナトリウムの含有量が0.040mоl/kg以上0.186mоl/kg以下の範囲において、乳酸カリウムまたは乳酸ナトリウムの含有量(X:mоl/kg)と、そばつゆサンプルのpH(Y)と、が関係式(1)Y≦2.721X+5.495を満たすようにすると、低温芽胞菌の増殖抑制効果または増殖遅延効果が認められることが明らかとなった。また、乳酸カリウムを使用する場合には、乳酸カリウムの含有量が0.045mоl/kg以上0.211mоl/kg以下の範囲において、XとYとが関係式(2)Y≦2.395X+5.495を満たすようにするとより好ましいことも明らかとなった。
図1