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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022137736
(43)【公開日】2022-09-22
(54)【発明の名称】アーク溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/12 20060101AFI20220914BHJP
   B23K 9/173 20060101ALI20220914BHJP
   B23K 9/02 20060101ALI20220914BHJP
【FI】
B23K9/12 331F
B23K9/173 A
B23K9/02 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021037381
(22)【出願日】2021-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】500213915
【氏名又は名称】株式会社ワイテック
(71)【出願人】
【識別番号】520200584
【氏名又は名称】株式会社キーレックス・ワイテック・インターナショナル
(71)【出願人】
【識別番号】590000721
【氏名又は名称】株式会社キーレックス
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡 英範
(72)【発明者】
【氏名】高村 克幸
(72)【発明者】
【氏名】田中 寛之
(72)【発明者】
【氏名】田村 敬和
【テーマコード(参考)】
4E001
4E081
【Fターム(参考)】
4E001BB06
4E001CC04
4E001DA01
4E001DA04
4E001DD02
4E001DD04
4E001QA03
4E081AA14
4E081CA07
4E081DA07
4E081DA18
4E081DA21
4E081EA06
4E081EA24
(57)【要約】      (修正有)
【課題】被溶接部材をへり溶接する場合に、一方の側部の縁と他方の側部の縁とを同時に溶接可能にして工程数及び製造工数を削減する方法を提供する。
【解決手段】被溶接部材Wの第1縁部及び第2縁部73aが横に向くように、かつ、第1縁部及び第2縁部73aが下降傾斜するように被溶接部材Wの姿勢を保持する。その後、第1溶接トーチ32の先端を第1縁部に側方から接近させて下へ進めながら溶接し、第2溶接トーチ42の先端を第2縁部73aに側方から接近させて下へ進めながら溶接する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被溶接部材の一方の側部に位置する第1縁部同士を重ね合わせてへり溶接するとともに、被溶接部材の他方の側部に位置する第2縁部同士を重ね合わせてへり溶接するアーク溶接方法において、
前記第1縁部及び前記第2縁部が横に向くように、かつ、前記第1縁部及び前記第2縁部が下降傾斜するように前記被溶接部材の姿勢を保持する保持工程を行った後、
第1溶接トーチの先端を前記第1縁部に側方から接近させて当該第1縁部に沿って下へ進めながらアークを発生させて溶接し、第2溶接トーチの先端を前記第2縁部に側方から接近させて当該第2縁部に沿って下へ進めながらアークを発生させて溶接する溶接工程を行うことを特徴とするアーク溶接方法。
【請求項2】
請求項1に記載のアーク溶接方法において、
前記保持工程では、前記第1縁部及び前記第2縁部の下降傾斜角度が45゜以上となるように前記被溶接部材の姿勢を保持することを特徴とするアーク溶接方法。
【請求項3】
請求項2に記載のアーク溶接方法において、
前記保持工程では、三次元に曲がっている前記第1縁部及び前記第2縁部の各部分の傾斜角度のうち、最小の傾斜角度となる部分の傾斜角度を45゜以上とすることを特徴とするアーク溶接方法。
【請求項4】
請求項2または3に記載のアーク溶接方法において、
前記保持工程では、前記第1縁部及び前記第2縁部の下降傾斜角度が50゜以上となるように前記被溶接部材の姿勢を保持することを特徴とするアーク溶接方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1つに記載のアーク溶接方法において、
前記溶接工程では、前記第1溶接トーチ及び前記第2溶接トーチの姿勢を、先端が基端に比べて下に位置するように水平面に対して10゜の傾斜角度を持った下向き姿勢と、先端が基端に比べて上に位置するように水平面に対して5゜の傾斜角度を持った上向き姿勢との間で設定することを特徴とするアーク溶接方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1つに記載のアーク溶接方法において、
前記溶接工程では、第1ロボットに前記第1溶接トーチを把持させ、第2ロボットに前記第2溶接トーチを把持させ、前記第1縁部の溶接と前記第2縁部の溶接とを並行して行うことを特徴とするアーク溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消耗電極を用いたアーク溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ガスシールドアーク溶接では、被溶接部材の溶接部にシールドガスを供給しながら、溶接部と消耗電極ワイヤとの間でアークを発生させ、アーク熱によって溶接部及び消耗電極ワイヤを溶融させ、溶接部の接合を行う。
【0003】
特許文献1には、2枚の被溶接部材の縁が溶接部とされて当該縁同士を重ねた状態で溶接する、いわゆるへり溶接方法が開示されている。特許文献1のへり溶接方法では、下進溶接法を採用している。下進溶接法では、被溶接部材の縁が下降傾斜するように、かつ縁同士の合わせ部分が上に向くように当該被溶接部材を保持しておく。そして、溶接トーチの先端を下に向けるとともに被溶接部材の縁同士の合わせ部の上方に配置し、被溶接部材の縁に沿って上から下へ進めながら溶接する。溶接トーチを上から下へ進めるので、下進溶接と呼ばれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭55-153679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
下進溶接法では、被溶接部材の縁が下降傾斜しているので、重力が作用している溶融金属は縁に沿ってアークの後を追うように流れていき、このことで良好な溶接が可能になる。ところが、例えば2枚の板材を合わせて中空部材を構成するような場合を想定すると、一方の側部と他方の側部の両方向に縁があるので、一方の側部の縁を上に向けた状態で下進溶接した後、被溶接部材を回転させて他方の側部の縁を上に向け、再び下進溶接しなければならないので、工程数及び製造工数が増加する。
【0006】
また、従来工法は製品形状によって適切な下進角度を維持するため、ポジショナによる協調溶接を行う必要がある。
【0007】
そこで、本発明者は、一方の側部の縁と他方の側部の縁とが共に横に向くように被溶接部材を水平に配置し、一方の側部の縁に対して第1の溶接トーチを側方からアプローチし、他方の側部の縁に対して第2の溶接トーチを側方からアプローチして溶接を同時に進行させる方法を見出した。これにより、工程数及び製造工数の削減につながると考えられる。
【0008】
しかしながら、被溶接部材を水平に配置した状態で溶接してみると、縁の溶融金属が重力の影響で縁から垂れ落ちてしまい、溶接不良を引き起こす結果となった。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、被溶接部材をへり溶接する場合に、一方の側部の縁と他方の側部の縁とを同時に溶接可能にして工程数及び製造工数を削減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本開示の第1の側面では、被溶接部材の一方の側部に位置する第1縁部同士を重ね合わせてへり溶接するとともに、被溶接部材の他方の側部に位置する第2縁部同士を重ね合わせてへり溶接するアーク溶接方法を前提とする。このアーク溶接方法では、前記第1縁部及び前記第2縁部が横に向くように、かつ、前記第1縁部及び前記第2縁部が下降傾斜するように前記被溶接部材の姿勢を保持する保持工程を行った後、第1溶接トーチの先端を前記第1縁部に側方から接近させて当該第1縁部に沿って下へ進めながらアークを発生させて溶接し、第2溶接トーチの先端を前記第2縁部に側方から接近させて当該第2縁部に沿って下へ進めながらアークを発生させて溶接する溶接工程を行う。
【0011】
この構成によれば、第1縁部及び第2縁部が共に横に向いているので、第1溶接トーチを第1縁部に対して側方から接近させながら溶接することと、第2溶接トーチを第2縁部に対して側方から接近させながら溶接することとが並行して行えるようになる。このとき、第1縁部及び第2縁部が下降傾斜していて、第1溶接トーチ及び第2溶接トーチを第1縁部及び第2縁部に沿って下へ進めるようにしているので、重力が作用している溶融金属は第1縁部及び第2縁部に沿ってアークの後を追うように流れていき、このことで良好な溶接が可能になる。
【0012】
本開示の第2の側面では、前記保持工程では、前記第1縁部及び前記第2縁部の下降傾斜角度が45゜以上となるように前記被溶接部材の姿勢を保持するものである。
【0013】
すなわち、仮に第1縁部及び第2縁部の傾斜角度を45゜未満にすると、溶接条件等によっては溶融金属が垂れ落ちやすくなってしまうが、本構成によれば、アーク溶接時における第1縁部及び第2縁部の水平面に対する角度が45゜以上になるので、溶融金属がより一層垂れ落ちにくくなり、溶接ビードの外観がきれいになる。
【0014】
本開示の第3の側面では、前記保持工程では、三次元に曲がっている前記第1縁部及び前記第2縁部の各部分の傾斜角度のうち、最小の傾斜角度となる部分の傾斜角度を45゜以上とするものである。
【0015】
すなわち、一対の被溶接部材で構成される製品の形状によっては、第1縁部及び第2縁部が三次元に曲がっている場合がある。三次元に曲がっている場合、保持工程時に第1縁部及び第2縁部の水平面に対する傾斜角度は各部分で異なることになり、一部分の傾斜角度が0゜になると溶融金属が垂れて落下し、溶接不良の原因のなるおそれがある。本構成では、最小の傾斜角度となる部分の傾斜角度が45゜以上であることから、第1縁部及び第2縁部の全体で溶融金属の落下を抑制して溶接品質を高めることができる。
【0016】
本開示の第4の側面では、前記保持工程では、前記第1縁部及び前記第2縁部の下降傾斜角度が50゜以上となるように前記被溶接部材の姿勢を保持することで、溶接品質をより一層向上させることができる。
【0017】
本開示の第5の側面では、前記溶接工程では、前記第1溶接トーチ及び前記第2溶接トーチの姿勢を、先端が基端に比べて下に位置するように水平面に対して10゜の傾斜角度を持った下向き姿勢と、先端が基端に比べて上に位置するように水平面に対して5゜の傾斜角度を持った上向き姿勢との間で設定するものである。
【0018】
すなわち、仮に溶接トーチの下向き姿勢時の角度が10゜よりも大きくなると、縁部の溶け込みが均一になり難く、また、溶接トーチの上向き姿勢時の角度が5゜よりも大きくなると、縁部の溶け込みが均一になり難い。本構成では、溶接トーチの下向き姿勢時の角度を10゜以下とし、溶接トーチの上向き姿勢時の角度を5゜以下とすることができるので、縁部の溶け込みを均一化することができる。尚、溶接トーチは水平であってもよい。
【0019】
本開示の第6の側面では、前記溶接工程では、第1ロボットに前記第1溶接トーチを把持させ、第2ロボットに前記第2溶接トーチを把持させ、前記第1縁部の溶接と前記第2縁部の溶接とを並行して行うものである。
【0020】
この構成によれば、第1ロボット及び第2ロボットを使用して第1縁部の溶接と第2縁部の溶接とを同時に行うことができる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、被溶接部材の第1縁部及び第2縁部を横に向けた状態で下降傾斜するように保持しておき、第1溶接トーチで第1縁部同士を溶接し、第2溶接トーチで第2縁部同士を溶接するようにしたので、第1縁部同士及び第2縁部同士を同時に溶接することができ、工程数及び製造工数を削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態に係るアーク溶接方法を行うための溶接システムの概略構成図である。
図2】溶接システムのブロック図である。
図3】ワークを左右同時溶接する様子を示す斜視図である。
図4図3におけるIV-IV線端面図である。
図5】下進角とビード外観との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0024】
図1は、本発明の実施形態に係るアーク溶接方法を行うための溶接システム1の概略構成図である。溶接システム1は、第1ロボット10と、第2ロボット20と、第1溶接装置30と、第2溶接装置40と、制御装置50とを備えている。第1ロボット10、第2ロボット20、第1溶接装置30、第2溶接装置40及び制御装置50は、例えば自動車部品等を製造する工場の床面等に設置されている。第1ロボット10、第2ロボット20、第1溶接装置30、第2溶接装置40及び制御装置50によって1つの部品Wの2箇所の溶接部を同時に溶接することができるようになっている。部品Wの具体的な構造については後述する。
【0025】
(ロボットの構成)
第1ロボット10と第2ロボット20とは同様に構成されている。第1ロボット10は、ベース11と、ロボットアーム12と、第1ロボット制御装置13(図2に示す)とを備えており、6軸制御が可能な産業用ロボットで構成されている。ベース11が床面等に固定されている。ロボットアーム12の先端部は各種部材等を把持することが可能になっており、第1溶接トーチ32を把持している。第1ロボット制御装置13は、ロボットアーム12を制御するための装置である。例えば事前にティーチング等の処理を行っておくことで、第1ロボット制御装置13によってロボットアーム12に所望の動作をさせることができる。溶接速度の変更は、ロボットアーム12の動作速度を変えることで可能である。尚、第2ロボット20も、第1ロボット10と同様にベース21と、ロボットアーム22と、第2ロボット制御装置23とを備えている。第1ロボット制御装置13と第2ロボット制御装置23とは共通化されていてもよい。
【0026】
(溶接装置の構成)
第1溶接装置30と第2溶接装置40は同様に構成されている。第1溶接装置30は、装置本体31と第1溶接トーチ32とを備えており、従来からガスシールドアーク溶接装置として使用されている溶接装置で構成することができる。装置本体31は、消耗電極ワイヤ100を第1溶接トーチ32へ所定の速度で供給するとともに、第1溶接トーチ32の先端へシールドガスを所定の流量で供給するように構成されている。シールドガスは、例えばアルゴンガス、炭酸ガス等を用いることができる。第1溶接トーチ32は、第1ロボット10のロボットアーム12の先端に把持されている。
【0027】
装置本体31は所定の溶接電流及び電圧を供給する電源部(図示せず)も備えている。電源部は、パルス電流と、非パルス電流とのうち、一方を選択して供給可能に構成されている。パルス電流の場合、溶接電流が脈動電流となり、例えばベース電流時に生じた溶滴をピーク電流時にワイヤから切り離して母材へ移行させることができる。
【0028】
第2溶接装置40も装置本体41と第2溶接トーチ42とを備えている。第2溶接トーチ42は、第2ロボット20のロボットアーム22の先端に把持されている。
【0029】
(制御装置の構成)
図2に示すように、制御装置50は、マイクロコンピュータ等からなる制御部51と、操作盤52とを備えている。操作盤52は、溶接システム1の動作開始や停止の各操作、各種設定値の入力等を行うものである。制御部51には、操作盤52が接続されており、操作盤52の操作情報が入力される。さらに、制御部51には、第1ロボット制御装置13、第2ロボット制御装置23、第1溶接装置30及び第2溶接装置40が接続されており、これら装置13、23、30、40に対して制御部51が制御信号を出力する。第1ロボット制御装置13、第2ロボット制御装置23、第1溶接装置30及び第2溶接装置40は、制御部51からの制御信号が入力されると、所定のプログラムや設定値に従って動作する。
【0030】
尚、制御装置50を省略し、第1ロボット制御装置13、第2ロボット制御装置23、第1溶接装置30及び第2溶接装置40を統合して動作させる統合制御部を設けてもよい。また、制御装置50を省略し、第1ロボット制御装置13、第2ロボット制御装置23、第1溶接装置30及び第2溶接装置40を連係させて動作させてもよい。
【0031】
(部品保持装置の構成)
図1に示すように、溶接システム1は部品保持装置600を備えている。部品保持装置600は、部品Wを所定の姿勢で保持することが可能に構成されており、例えば各種クランプ装置等を備えている。図示しないが、部品保持装置600は産業用ロボットであってもよい。この場合、ロボットアームの先端に部品Wを把持させて所定の姿勢で保持することができる。
【0032】
(部品の構成)
本溶接システム1で溶接可能な被溶接部材としての部品Wの一例については、図3及び図4に基づいて説明する。図4に示すように、部品Wは、第1板材60及び第2板材70が溶接されることによって構成されたものであり、内部が空洞の中空部品である。この実施形態の部品Wは、自動車のペダルアームであり、従って自動車への取付状態で上下方向に長い形状を有している。図3における上側が自動車への取付状態で上になり、図3における下側が自動車への取付状態で下になる。このように所定方向に長い形状の部品Wは、厚み方向一方側が第1板材60で構成され、厚み方向他方側が第2板材70で構成される場合がある。
【0033】
図4に示すように、第1板材60は、頂壁部61と、頂壁部61の両側端部から第2板材70側へ延びる側壁部62、63とを備えており、頂壁部61及び側壁部62、63は1枚の板材をプレス加工することによって一体成形されている。一方の側壁部62の端部は、他方の側壁部63から離れる方向へ延びるフランジ状に形成されている。また、他方の側壁部63の端部は、一方の側壁部62から離れる方向へ延びるフランジ状に形成されている。
【0034】
第2板材70は、頂壁部71と、頂壁部71の両側端部から第1板材60側へ延びる側壁部72、73とを備えており、頂壁部71及び側壁部72、73は1枚の板材をプレス加工することによって一体成形されている。一方の側壁部72の端部は、他方の側壁部73から離れる方向へ延びるフランジ状に形成されている。また、他方の側壁部73の端部は、一方の側壁部72から離れる方向へ延びるフランジ状に形成されている。
【0035】
第1板材60の一方の側壁部62のフランジ状の部分と第2板材70の一方の側壁部72のフランジ状の部分とが重ね合わされるとともに、第1板材60の他方の側壁部63のフランジ状の部分と第2板材70の他方の側壁部73のフランジ状の部分とが重ね合わされている。この状態で、第1板材60の一方の側部に位置する第1縁部62aと、第2板材70の一方の側部に位置する第1縁部72aとが重ね合わされるとともに、第1板材60の他方の側部に位置する第2縁部63aと、第2板材70の他方の側部に位置する第2縁部73aとが重ね合わされる。つまり、第1縁部62a、72a同士を重ね合わせてへり溶接するとともに、第2縁部63a、73a同士を重ね合わせてへり溶接することによって第1板材60と第2板材70とが接合される。第1縁部62a、72a及び第2縁部63a、73aは、ともに部品Wの長手方向に延びており、第1縁部62a、72aは、部品Wの2つの長手方向の縁部のうちの一方の縁部であり、第2縁部63a、73aは、部品Wの2つの長手方向の縁部のうちの他方の縁部である。
【0036】
また、第1板材60及び第2板材70は三次元形状に湾曲ないし屈曲した複雑な形状である。このため、第1縁部62a、72a及び第2縁部63a、73aは、それぞれ、三次元に曲がった形状となっている。すなわち、部品Wを上から見た時、側方から見た時、長手方向に沿って見た時のいずれの場合も、第1縁部62a、72a及び第2縁部63a、73aが曲がって見える。尚、第1縁部62a、72aと、第2縁部63a、73aとは同じ形状であってもよいし、異なる形状であってもよい。また、第1縁部62a、72a及び第2縁部63a、73aは、直線状に延びていてもよい。
【0037】
上述した部品Wの構造や形状は一例であり、他の構造や形状であってもよい。図示しないが、例えば一方が第1板材60のような形状で、他方が平板形状であってもよく、この場合も、第1縁部同士を重ね合わせてへり溶接するとともに、第2縁部同士を重ね合わせてへり溶接することが可能である。また、ドーム状に成形された板材を組み合わせた部品Wであってもよいし、箱型の部品Wであってもよい。
【0038】
(アーク溶接方法)
本実施形態に係るアーク溶接方法は、第1縁部62a、72a同士を重ね合わせてへり溶接するとともに、第2縁部63a、73a同士を重ね合わせてへり溶接する方法であり、部品Wを保持する保持工程と、溶接を実行する溶接工程とを備えている。
【0039】
保持工程では、部品保持装置600を使用する。すなわち、プレス加工によって得られた第1板材60及び第2板材70を、第1縁部62a、72a同士を重ね合わせるとともに、第2縁部63a、73a同士を重ね合わせる。この状態で、第1板材60及び第2板材70を部品保持装置600のクランプ装置でクランプする。
【0040】
部品保持装置600は、クランプ装置の位置や角度を変えることができるとともに、部品Wのクランプ位置を変えることができる。これにより、部品Wの姿勢を任意の姿勢にすることができる。具体的には、図3に示すように、第1縁部62a、72a及び第2縁部63a、73aが共に横に向くように、かつ、第1縁部62a、72a及び第2縁部63a、73aが下降傾斜するように部品Wの姿勢を決定し、この姿勢のままで部品保持装置600が部品Wを保持する。保持された部品Wを上から見たとき、第1縁部62a、72aが左に位置し、第2縁部63a、73aが右に位置している。第1縁部62a、72aは互いに上下方向に重なった状態で左に向き、また、第2縁部63a、73aは互いに上下方向に重なった状態で右に向いている。すなわち、第1縁部62a、72aと、第2縁部63a、73aとは、水平方向で互いに反対に向いている。
【0041】
また、保持された部品Wは、当該部品Wの長手方向一方が他方に比べて下に位置する姿勢である。これにより、第1縁部62a、72a及び第2縁部63a、73aは、長手方向一方が他方に比べて下に位置するように全体として傾斜する。このとき、第1縁部62a、72a及び第2縁部63a、73aの下降傾斜角度が45゜以上となるように部品Wの姿勢を保持する。下降傾斜角度は、水平面に対する第1縁部62a、72aの角度、水平面に対する第2縁部63a、73aの角度である。
【0042】
ここで、第1縁部62a、72a及び第2縁部63a、73aは、三次元に曲がっているので、第1縁部62a、72a及び第2縁部63a、73aの部分によって下降傾斜角度は異なっており、1つの部品Wの中に下降傾斜角度が小さな部分と下降傾斜角度が大きな部分とが存在している。この実施形態では、保持状態にある第1縁部62a、72a及び第2縁部63a、73aを側方から見た時に第1縁部62a、72a及び第2縁部63a、73aが曲がっている場合があり、第1縁部62a、72a及び第2縁部63a、73aの各部分の傾斜角度のうち、最小の傾斜角度となる部分の傾斜角度を45゜以上としている。尚、下降傾斜角度は50゜以上がより好ましい。下降傾斜角度は、第1溶接トーチ32及び第2溶接トーチ42の下進方向を規定する角度となるので、下進角と呼ぶこともできる。
【0043】
上記保持工程が完了した後、溶接工程に進む。溶接工程では、図1に示すように第1ロボット10と第2ロボット20とを同時に動かしながら、第1溶接装置30と第2溶接装置40とで同時に下進溶接を行う。図3に示すように、第1ロボット10のロボットアーム12に把持した第1溶接トーチ32の先端を第1縁部62a、72aに側方から接近させて当該第1縁部62a、72aに沿って下へ進めながらアークを発生させて第1縁部62a、72aを溶接する。第1溶接トーチ32の進行方向を矢印Bで示す。第1縁部62a、72aが三次元に曲がっているので、第1溶接トーチ32を左右方向に移動させる場合もある。
【0044】
また、第2ロボット20のロボットアーム22に把持した第2溶接トーチ42の先端を第2縁部63a、73aに側方から接近させて当該第2縁部63a、73aに沿って下へ進めながらアークを発生させて第2縁部63a、73aを溶接する。第2溶接トーチ42の進行方向を矢印Cで示す。第2縁部63a、73aも三次元に曲がっているので、第2溶接トーチ42を左右方向に移動させる場合もある。第1縁部62a、72aの溶接と、第2縁部63a、73aの溶接とは、並行して行う。
【0045】
尚、第1縁部62a、72aの溶接と、第2縁部63a、73aの溶接との開始タイミングは異なっていてもよいし、第1縁部62a、72aの溶接と、第2縁部63a、73aの溶接との終了タイミングは異なっていてもよい。例えば、第1縁部62a、72aの長さが第2縁部63a、73aの長さよりも短い場合には、第1縁部62a、72aの溶接開始タイミングを第2縁部63a、73aの溶接開始タイミングよりも遅くしたり、第1縁部62a、72aの溶接終了タイミングを第2縁部63a、73aの溶接終了タイミングよりも早くすることができる。また、第1縁部62a、72aの溶接開始タイミングと第2縁部63a、73aの溶接開始タイミングとは同じであってもよい。また、第1縁部62a、72aの溶接終了タイミングと第2縁部63a、73aの溶接終了タイミングとは同じであってもよい。溶接開始タイミング及び終了タイミングは、第1溶接装置30、第2溶接装置40及び制御装置50によってコントロール可能である。
【0046】
溶接工程では、第1溶接トーチ32及び第2溶接トーチ42の姿勢を、先端が基端に比べて下に位置する下向き姿勢としてもよいし、先端が基端に比べて上に位置する上向き姿勢としてもよいし、先端と基端が同じ高さになる水平姿勢としてもよい。第1溶接トーチ32及び第2溶接トーチ42の姿勢は、それぞれ、第1ロボット10及び第2ロボット20の制御によって変更できる。
【0047】
図4に示すように、第1溶接トーチ32及び第2溶接トーチ42が下向き姿勢にある時には、水平面(一点鎖線で示す)に対する角度αが10゜以下となるようにするのが好ましい。また、第1溶接トーチ32及び第2溶接トーチ42が上向き姿勢にある時には、水平面に対する角度βが5゜以下となるようにするのが好ましい。すなわち、第1溶接トーチ32及び第2溶接トーチ42の姿勢を、水平面に対して10゜の傾斜角度を持った下向き姿勢と、水平面に対して5゜の傾斜角度を持った上向き姿勢との間で設定するのが好ましい。尚、角度αは8゜以下とするのがより好ましく、角度βは3゜以下とするのがより好ましい。
【0048】
すなわち、仮に溶接トーチ32、42の下向き姿勢時の角度αが10゜よりも大きくなると、縁部62a、72a、63a、73aの溶け込みが均一になり難く、また、溶接トーチ32、42の上向き姿勢時の角度βが5゜よりも大きくなると、縁部62a、72a、63a、73aの溶け込みが均一になり難い。本実施形態では、溶接トーチ32、42の下向き姿勢時の角度αを10゜以下とし、溶接トーチ32、42の上向き姿勢時の角度βを5゜以下とすることができるので、縁部62a、72a、63a、73aの溶け込みを均一化することができる。
【0049】
(実施形態の作用効果)
以上説明したように、この実施形態によれば、部品Wの第1縁部62a、72a及び第2縁部63a、73aが共に横に向いているので、第1溶接トーチ32を第1縁部62a、72aに対して側方から接近させながら溶接することと、第2溶接トーチ42を第2縁部63a、73aに対して側方から接近させながら溶接することとが並行して行えるようになる。このとき、第1縁部62a、72a及び第2縁部63a、73aが下降傾斜していて、第1溶接トーチ32及び第2溶接トーチ42を第1縁部62a、72a及び第2縁部63a、73aに沿って下へ進めるようにしているので、重力が作用している溶融金属は第1縁部62a、72a及び第2縁部63a、73aに沿ってアークの後を追うように流れていき、このことで良好な溶接が可能になる。
【0050】
すなわち、仮に第1縁部62a、72a及び第2縁部63a、73aの傾斜角度を45゜未満にすると、溶接条件等によっては溶融金属が垂れ落ちやすくなってしまうが、本実施形態によれば、アーク溶接時における第1縁部62a、72a及び第2縁部63a、73aの下進角が45゜以上になるので、溶融金属がより一層垂れ落ちにくくなり、溶接ビードの外観がきれいになる。
【0051】
このことを図5に基づいて説明する。図5には、下進角を0゜(水平)にした場合と、30゜にした場合と、50゜にした場合のそれぞれで実際に溶接して得られたビードの外観写真を示している。下進角が50゜と45゜とではビードの外観は殆ど同じ外観であったため、45゜のときの外観写真を省略している。図5に示すように、下進角が0゜では、溶融金属が垂れ落ちてしまい、溶接不良が発生する。下進角が30゜では、0゜に比べればビードがきれいになり、溶接条件によっては溶接不良とはならないが、厳しめの溶接条件の場合には溶接不良が発生し得る。一方、下進角が45゜以上であれば、ビードがきれいになり、厳しめの溶接条件の場合であっても溶接不良が発生しにくくなる。溶接部の断面写真を見ても、きれいに溶け込んでいることが分かる。
【0052】
また、横向き下進溶接の場合はワークを固定したまま、形状に対してトーチの動きだけで追従させることができる。また、溶融金属の流れ具合のコントロールは予め設定した下進角度と溶接速度によって行うことができる。例えば、形状によっては傾斜角度が大きくなり溶融金属が先行してしまう部位が存在することがあるため、そこは速度でコントロールすることができる。また、ワークを横にしているのでワークの形状による湯流れの変化が小さい。形状に対する溶融金属の追従性は横向き下進の方が良好である。
【0053】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0054】
以上説明したように、本発明に係るアーク溶接方法は、例えば各種部品等を溶接する場合に利用することができる。
【符号の説明】
【0055】
10 第1ロボット
20 第2ロボット
32 第1溶接トーチ
42 第2溶接トーチ
60 第1板材
62a 第1縁部
63a 第2縁部
70 第2板材
72a 第1縁部
73a 第2縁部
W 部品(被溶接部材)
図1
図2
図3
図4
図5