(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022137747
(43)【公開日】2022-09-22
(54)【発明の名称】ダム貯水量調整システム、及びダム貯水量調整方法
(51)【国際特許分類】
E02B 7/00 20060101AFI20220914BHJP
G05D 9/12 20060101ALI20220914BHJP
【FI】
E02B7/00 Z
G05D9/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021037397
(22)【出願日】2021-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 寿章
(72)【発明者】
【氏名】岩渕 雅和
【テーマコード(参考)】
5H309
【Fターム(参考)】
5H309AA06
5H309BB18
5H309CC09
5H309DD22
5H309EE03
5H309FF09
5H309GG03
(57)【要約】
【課題】想定外の降水量の予報に基づいて事前に貯水量を確保すると共に、予報が外れた場合でも降雨後における水不足を防止することができる。
【解決手段】ダムの流域における洪水を防止するためのダム2と浄水場30とを連携するダム貯水量調整システム1であって、ダムは、洪水期に備えて下流側の河川に放流される貯留水の放流量を調整する放流部4と、ダムの貯留水の水位を監視し放流部及び制御して水位を調整するダム管理装置20と、を備え、浄水場30は、河川の河川水を取水する取水量を調整する取水部32と、他の浄水場35に確保された上水の供給を行う上水供給部36と、取水部及び上水供給部を制御する浄水場管理装置40と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダムの流域における洪水を防止するための前記ダムと浄水場とを連携するダム貯水量調整システムであって、
前記ダムは、
洪水期に備えて下流側の河川に放流される貯留水の放流量を調整する放流部と、
前記ダムの貯留水の水位を監視し前記放流部及び制御して前記水位を調整するダム管理装置と、を備え、
前記浄水場は、
前記河川の河川水を取水する取水量を調整する取水部と、
他の浄水場に確保された上水の供給を行う上水供給部と、
前記取水部及び前記上水供給部を制御する浄水場管理装置と、を備え、
前記ダム管理装置は、
前記洪水期において貯留可能な洪水貯留容量を確保するために前記放流部を制御して事前放流し、前記水位を予め設定された洪水貯留準備水位に調整し、
降雨の事前予測に基づいて前記ダムへの流入量が前記洪水貯留容量を超えると予想される場合、降雨時における放流を防止するために前記放流部を制御して、前記洪水貯留準備水位に比して低い緊急時水位まで前記貯留水を事前放流し、前記洪水貯留容量に比して多くの貯水量を貯水可能に調整し、
前記降雨が経過した後、前記水位が前記洪水貯留準備水位に比して低い場合、前記放流部を制御して下流側の河川に放流する前記貯留水の放流量を通常運転に比して制限する回復運転を行い、前記水位を前記洪水貯留準備水位まで回復させ、
前記回復運転を行う際に前記浄水場に前記回復運転を行う旨の報知を行い、
前記浄水場管理装置は、
前記回復運転が行われる場合、前記取水部を制御して前記河川水の取水量を通常運転に比して制限する制限運転を行い、
前記制限運転において前記河川水が不足する場合、前記上水供給部を制御して前記他の浄水場から前記上水の供給を受け前記制限運転により減少した取水量を確保する、ダム貯水量調整システム。
【請求項2】
ダムの流域における洪水を防止するための前記ダムと浄水場とを連携するダム貯水量調整方法であって、
前記ダム側において、
前記ダムの貯留水の水位を監視する工程と、
洪水期において貯留可能な洪水貯留容量を確保するために放流部を制御して前記貯留水を下流側の河川に事前放流し、前記水位を予め設定された洪水貯留準備水位に調整する工程と、
降雨の事前予測に基づいて前記ダムへの流入量が前記洪水貯留容量を超えると予想される場合、降雨時における放流を防止するために前記放流部を制御して、前記洪水貯留準備水位に比して低い緊急時水位まで前記貯留水を事前放流し、前記洪水貯留容量に比して多くの貯水量を貯水可能に調整する工程と、
前記降雨が経過した後、前記水位が前記洪水貯留準備水位に比して低い場合、前記放流部を制御して、前記貯留水の放流量を通常時に比して削減し、前記水位を前記洪水貯留準備水位まで回復させる回復運転を行う工程と、
前記回復運転を行う際に前記浄水場に前記回復運転を行う旨の報知を行う工程と、
前記浄水場側において、
前記回復運転が行われる場合、前記河川の河川水を取水する取水量を調整する取水部を制御して前記河川水の取水量を通常運転に比して制限する制限運転を行う工程と、
前記制限運転において前記河川水が不足する場合、他の浄水場に確保された上水の供給を行う上水供給部を制御して前記他の浄水場から前記上水の供給を受け前記制限運転により減少した取水量を確保する工程と、を備える、
ダム貯水量調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洪水を未然に防止するためのダム貯水量調整システム、及びダム貯水量調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダムには、発電や上水道、農業用水などの利水を確保すると共に、降雨量が多い際に一時的に流入水を貯留し、降雨後に放流して下流域における洪水を防止する治水の役割がある。洪水を防止するため、台風や大雨などの降雨量が多い洪水期において、ダムにおいて降雨時の貯水量を確保するために降雨前に前もって放流する予備放流が行われている。
【0003】
予備放流とは、ダムの貯留水を予め設定された利水容量に干渉することなく、洪水期制限水位まで放流することである。予備放流において、ダムの設計時にダムの貯水量に応じて予備放流を行う洪水期制限水位(洪水貯留準備水位ともいう)が設定されている。
【0004】
近年、想定外の降水量となる大雨や台風が発生し、ダムには洪水期制限水位に比して多くの流入水が流入する虞がある。そのため、ダムにおいては、気象予報に基づいて予備放流水位に比して低く利水容量まで干渉する水位まで貯留水を事前放流することが行われている。そして、ダムにおいて降雨時に洪水貯留容量に比して多くの流入水が貯留されることで、降雨時における放流を防止し洪水被害を低減することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、更なる想定外の降水量となる大雨や台風が発生し、ダムにおいて、洪水貯留準備水位に比して多くの流入水が流入する虞がある。そこで、気象予報に基づいて通常時に比して極めて多い降水量が予想される場合、洪水準備水位よりさらに低い水位まで事前放流することが行われている。しかしながら、降雨量が予想に反して少なくなった場合、降雨後に水位が洪水貯留準備水位まで回復せず、上水などの利水が確保できなくなる虞がある。特許文献1に記載されたダム水位制御システムによれば、事前放流後の水位の回復について考慮されていなかった。
【0007】
本発明は、設計を超える降水量に対して事前放流を行った後に、降雨量が予想に反して少ない場合でも降雨後における水不足を防止することができるダム貯水量調整システム、及びダム貯水量調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ダムの流域における洪水を防止するための前記ダムと浄水場とを連携するダム貯水量調整システムであって、前記ダムは、洪水期に備えて下流側の河川に放流される貯留水の放流量を調整する放流部と、前記ダムの貯留水の水位を監視し前記放流部及び制御して前記水位を調整するダム管理装置と、を備え、前記浄水場は、前記河川の河川水を取水する取水量を調整する取水部と、他の浄水場に確保された上水の供給を行う上水供給部と、前記取水部及び前記上水供給部を制御する浄水場管理装置と、を備え、前記ダム管理装置は、前記洪水期において貯留可能な洪水貯留容量を確保するために前記放流部を制御して事前放流し、前記水位を予め設定された洪水貯留準備水位に調整し、降雨の事前予測に基づいて前記ダムへの流入量が前記洪水貯留容量を超えると予想される場合、降雨時における放流を防止するために前記放流部を制御して、前記洪水貯留準備水位に比して低い緊急時水位まで前記貯留水を事前放流し、前記洪水貯留容量に比して多くの貯水量を貯水可能に調整し、前記降雨が経過した後、前記水位が前記洪水貯留準備水位に比して低い場合、前記放流部を制御して下流側の河川に放流する前記貯留水の放流量を通常運転に比して制限する回復運転を行い、前記水位を前記洪水貯留準備水位まで回復させ、前記回復運転を行う際に前記浄水場に前記回復運転を行う旨の報知を行い、前記浄水場管理装置は、前記回復運転が行われる場合、前記取水部を制御して前記河川水の取水量を通常運転に比して制限する制限運転を行い、前記制限運転において前記河川水が不足する場合、前記上水供給部を制御して前記他の浄水場から前記上水の供給を受け前記制限運転により減少した取水量を確保する、ダム貯水量調整システムである。
【0009】
本発明によれば、台風や大雨が発生する洪水期にダムの水位を洪水貯留準備水位に調整している状態において、降雨の事前予報によりダムへの流入量が洪水貯留容量を超えると予想される場合、放流部を制御して事前放流を行って洪水貯留準備水位に比してさらに水位を下げ、降雨時における貯水量を確保することができる。本発明によれば、予報が外れて、降水量が少なく降雨後に洪水貯留準備水位まで水位が回復していない場合、放流部からの放流量を削減して貯水量を増加させ、洪水貯留準備水位まで水位を回復させる回復運転を行うことができる。また、浄水場において上水の供給不足が生じないように制限運転を行うとともに、上水の供給不足が生じる前に他の浄水場35から上水の供給を受けることにより水不足を防止することができる。
【0010】
本発明は、ダムの流域における洪水を防止するための前記ダムと浄水場とを連携するダム貯水量調整方法であって、前記ダム側において、前記ダムの貯留水の水位を監視する工程と、洪水期において貯留可能な洪水貯留容量を確保するために放流部を制御して前記貯留水を下流側の河川に事前放流し、前記水位を予め設定された洪水貯留準備水位に調整する工程と、降雨の事前予測に基づいて前記ダムへの流入量が前記洪水貯留容量を超えると予想される場合、降雨時における放流を防止するために前記放流部を制御して、前記洪水貯留準備水位に比して低い緊急時水位まで前記貯留水を事前放流し、前記洪水貯留容量に比して多くの貯水量を貯水可能に調整する工程と、前記降雨が経過した後、前記水位が前記洪水貯留準備水位に比して低い場合、前記放流部を制御して、前記貯留水の放流量を通常時に比して削減し、前記水位を前記洪水貯留準備水位まで回復させる回復運転を行う工程と、前記回復運転を行う際に前記浄水場に前記回復運転を行う旨の報知を行う工程と、前記浄水場側において、前記回復運転が行われる場合、前記河川の河川水を取水する取水量を調整する取水部を制御して前記河川水の取水量を通常運転に比して制限する制限運転を行う工程と、前記制限運転において前記河川水が不足する場合、他の浄水場に確保された上水の供給を行う上水供給部を制御して前記他の浄水場から前記上水の供給を受け前記制限運転により減少した取水量を確保する工程と、を備える、ダム貯水量調整方法である。
【0011】
本発明によれば、洪水期における洪水を防止すると共に、水不足となることを防止することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、想定外の降水量の予報に基づいて事前に貯水量を確保すると共に、予報が外れた場合でも降雨後における水不足を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係るダムおよび浄水場の構成を示す断面図である。
【
図2】ダム貯水量調整システムの構成を示すブロック図である。
【
図3】ダムにおいて調整される水位を概略的に示す図である。
【
図4】大雨が予想される場合において調整される水位を概略的に示す図である。
【
図5】大雨が予想される場合において本発明を適用して調整される水位を概略的に示す図である。
【
図6】ダム側のダム貯水量調整方法の各工程の流れを示すフローチャートである。
【
図7】浄水場側のダム貯水量調整方法の各工程の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係るダム貯水量調整システム、及びダム貯水量調整方法の実施形態について説明する。
【0015】
図1に示されるように、ダム貯水量調整システム1は、ダム2と、ダム2から上水の供給を受ける浄水場30と、他の浄水場35とにより構成される。ダム貯水量調整システム1は、既存のダム2、浄水場30、及び他の浄水場35に適用可能であり、ダム2、浄水場30、及び他の浄水場35を連携させて洪水を予防するシステムである。
【0016】
ダム2は、例えば、コンクリート重力式ダムである。ダム2は、例えば、上水、発電、洪水予防に用いられる多目的ダムである。ダム2に隣接してダム2を管理する管理棟Sが設けられている。
【0017】
ダム2は、上流側からの流入水を堰き止める止水壁3を備える。放流部4は、例えば、貯留水Wを放流する流路である。放流部4により、河川に対して貯留水Wの放流が行われる。放流部4には、開閉自在なゲート(不図示)等を備え、貯留水Wを下流側の河川に放流する。通常運転時は、浄水場30において水不足が生じない程度に所定量の貯留水Wの放流が行われる。
【0018】
ダム2は、洪水期においては、気象予報により大雨が降ると予想される場合に、洪水準備水位(
図4参照)まで貯留水Wを事前放流する。ダム2は、後述のように、気象予報により更なる大雨が予想される場合に、洪水準備水位より低い水位の緊急時水位(
図4参照)まで事前放流する。
【0019】
浄水場30は、所定の高度に設けられ、河川から取水した上水を揚水し、浄化後に配水する。浄水場30は、配水する水道水の水不足が生じた際に連絡管38を介して隣接する他の浄水場35が取水した上水の供給を受けることができる。浄水場30に隣接して浄水場管理棟Rが設けられている。浄水場管理棟Rには、浄水場30及び他の浄水場35からの上水の供給を管理する後述の浄水場管理装置が設けられている。
【0020】
図2に示されるように、ダム貯水量調整システム1は、ダム2と、ダム2の水位を管理するダム管理装置20と、浄水場30と、他の浄水場35と、浄水場30の取水及び他の浄水場35からの上水の供給を管理する浄水場管理装置40とを備える。
【0021】
ダム管理装置20は、ダム2に設けられ貯留水Wの水位を検出する検出部12の検出値に基づいて貯留水Wの水位を調整する。検出部12は、例えば、水位計を備える。検出部12は、検出データをダム管理装置20に出力する。以下、ダム管理装置20に含まれる構成について説明する。
【0022】
ダム管理装置20は、例えば、検出部12から検出データを取得する取得部22と、ダム2の水位を調整する制御を行う制御部24と、ダム2の状態を画像表示する表示部26と、ダム2の制御に関する操作を受け付ける操作部29とを備える。
【0023】
取得部22は、検出部12により出力された検出値を含む検出データを取得する。取得部22は、検出部12に通信可能に接続されている。取得部22は、外部ネットワークに接続され、降雨量等の気象予報に関するデータを取得する。
【0024】
表示部26は、検出部12により検出された水位等の検出値の表示画像を表示する。表示画像は、例えば、制御部24により生成され、水位等の検出値を表示する。表示部26は、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイなどの表示装置により構成される。操作部29は、操作者による操作を受け付ける。
【0025】
制御部24は、検出部12の検出値に基づいて放流部4を制限する制御を行う。制御部24は、後述の回復運転を行う際に、ネットワークを通じて浄水場管理装置40に所定の報知をさせてもよい。報知には、電子メールの送信、画像、音声等の報知の実施等を含む。
【0026】
浄水場30は、放流部4から放流された貯留水が合流する河川の河川水を取水する取水部32と、取水量を検出する検出部34とを備える。取水部32は、例えば、水を圧送するポンプである。取水部32は、負荷や回転数に基づいて流量が調整される。取水部32は、浄水場管理装置40により制御される。取水部32は、例えば、河川水を取水するポンプ32Aと、ポンプ32Aの取水量を制限する調整弁32Bとを備える。他の浄水場35は、例えば、連絡管38を介して浄水場30に上水を供給する上水供給部36を備える。
【0027】
浄水場管理装置40は、例えば、送信されたデータを取得する取得部42と、取得したデータに基づいて取水部32を制御する制御部44と、浄水場30の管理及び制御に関する表示画像を表示する表示部46と、浄水場30の管理及び制御に関する操作を受け付ける操作部48とを備える。
【0028】
取得部42は、ネットワークに接続して通信する。取得部42は、ネットワークを介してダム2の検出部12のデータを取得する。
【0029】
制御部44は、取水部32における取水量を調整する。制御部44は、ポンプ32Aの回転数を調整して取水量を調整する。制御部44は、ポンプ32Aの低回転数域においてポンプ32Aで取水量の調整がしにくい場合、調整弁32Bを調整し、取水量を調整する。制御部44は、浄水場30が供給する水道水が不足する場合に、他の浄水場35の上水供給部36を制御して連絡管38を介して他の浄水場35から上水を供給させる。制御部44における制御方法については後述する。
【0030】
表示部46は、検出部12により検出された水位等の検出値の表示画像を表示する。表示画像は、例えば、制御部44により生成され、水位等の検出値やダム管理装置20から取得した回復運転に関する報知に関する画像を表示する。表示部46は、例えば、液晶ディスプレイなどの表示装置により構成される。
【0031】
操作部48は、操作者による操作を受け付ける。操作部48は、制御部44が取水部32を自動的に制御するように構成されている場合、必ずしも操作を受け付けなくてもよい。
【0032】
次にダム貯水量調整システム1によるダム2の水位の調整について説明する。
【0033】
図3に示されるように、ダム2には、雨量が多い洪水期における水位と、非洪水期における水位とが異なる。洪水期は、例えば、ダム2の設置場所に応じて6月から10月の間に設定される。ダム2における洪水期の満水位は、上流側から流入する流入水が増加するため、非洪水期の満水位(常時満水位)に比して低くなるように調整される。洪水期の満水位は、例えば、洪水貯留準備水位L1と呼ばれる。
【0034】
洪水貯留準備水位は、洪水期における上水、農業用水、河川維持に必要な洪水期利水容量Q2を確保可能な水位に設定されている。洪水貯留準備水位に水位を調整すると、ダム2の貯水能力の限界となるサーチャージ水位LF(満水位)まで洪水を貯留するための洪水貯留容量Q1を確保することができる。
【0035】
ダム管理装置20は、洪水期に入ると、貯留可能な洪水貯留容量Q1を確保するために放流部を制御して事前放流する。ダム管理装置20は、貯留水Wの水位を予め設定された洪水貯留準備水位L1に調整する。
【0036】
しかしながら、近年、降水量が通常に比して多い大雨や台風が発生し、ダム2に洪水貯留容量Q1に比して多くの水量が流入する状態が増加しつつある。このような降雨時において、ダム2から仮に放流を行うと、下流側に洪水被害を発生させる虞がある。
【0037】
そのため、降水量が通常に比して多い大雨や台風が発生するという事前予報が提供された場合、ダム2において水位をダム下流の水利権(上水等)に関係する洪水貯留準備水位L1に比して下げるように事前放流することが行われる。
【0038】
図4に示されるように、降雨の事前予測に基づいてダム2への流入量が洪水貯留容量Q1を超えると予想される場合、ダム管理装置20は、第2放流部5及び第3放流部6(放流部)を制御して、洪水貯留準備水位L1に比して低い緊急時水位L2まで事前放流する。これにより、ダム2は、洪水貯留容量Q1に比して多くの貯水量を貯水可能な緊急貯留容量Q3が確保される。この場合、ダム下流の河川から原水を取水する浄水場30は、給水人口の減少により、計画給水量よりも少ない給水量で運転できるため、取水量を制限する。
【0039】
その後、降雨が発生し、ダム2は、流入水を一時的に貯水し下流側の洪水被害を防止する。降雨が経過した後、ダム2に洪水貯留準備水位L1に比して水位が高い水位まで流入水が貯水されている場合、ダム管理装置20は、大雨や異常降雨による洪水被害に対応するため放流部4を制御してダム下流の水利権(上水等)に干渉する洪水貯留準備水位L1まで事前放流を行う。ダム管理装置20は、貯留水Wの水位が洪水貯留準備水位L1まで低下するように放流部4を制御して事前放流を行う。ダム管理装置20は、下流側の浄水場30に事前放流する旨の報知を行う。
【0040】
図5に示されるように、降雨が経過した後、降水量が予想に比して少なく、降雨により貯留された貯留水Wの水位L3が洪水貯留準備水位L1まで回復していない場合、上水、農業用水、河川維持に必要な洪水期利水容量Q2を確保できず、水不足が発生する虞がある。従って、大雨や台風に備えて事前放流した後、貯留水Wの水位L3が洪水貯留準備水位L1まで回復していない場合の対策が必要となる。
【0041】
ダム2の水位を早期に回復させるためには、ダム2からの取水量を低減することが考えられる。しかし、発電部10には、一定量の貯留水Wを供給する必要があり、発電部10に供給する貯留水Wを削減することは極めて困難である。また、農業用水は、既得水利権が存在し、農業用水に供給する貯留水Wを削減することは極めて困難である。
【0042】
近年、全国的に人口が減少し、ダム2の設計時に比して給水需要が減少しつつある。従って、浄水場の取水量は削減する余地がある。そこで、事前放流を報知し、予め通常時に比して取水量を多くさせ、上水を確保させる。そして、後述の回復運転を行う場合には、水不足とならない程度に浄水場30において取水量を減少させる制限運転を行わせる。
【0043】
降雨が経過した後、降水量が予想に比して少なく、降雨により貯留された貯留水Wの水位L3が洪水貯留準備水位L1まで回復していない場合、ダム管理装置20は、水位の回復運転を行う。具体的には、ダム管理装置20は、放流部4を制御して、放水量を通常時に比して削減し、通常時に比して多くの貯留水Wを貯留して水位L3を洪水貯留準備水位L1まで回復させる。ダム管理装置20は、浄水場側に回復運転を実施する旨の報知を行う。
【0044】
浄水場30側において、浄水場管理装置40は、ダム管理装置20から事前放流を実施する旨の報知を受信すると、取水部32のポンプ32Aや調整弁32Bを制御して通常に比して多くの水量を取水する。浄水場30側において、浄水場管理装置40は、ダム管理装置20から回復運転を実施する旨の報知を受信すると、取水部32のポンプ32Aや調整弁32Bを制御して取水量を制限する制限運転を行う。浄水場管理装置40は、取水部32のポンプ32Aや調整弁32Bを制御して浄水場30への取水を制限する。浄水場管理装置40は、浄水場30の上水が不足する場合には、他の浄水場35の上水供給部36を制御して上水の供給を受け、上水の供給量を確保する。他の浄水場35から上水の供給を受けられない場合、浄水場管理装置40は、給水車の派遣を要請する報知を所定の機関に送信する。
【0045】
図6には、ダムの流域における洪水を防止するためのダム貯水量調整方法におけるダム2側において実行される各工程の流れについて示されている。ダム管理装置20により、検出部12の検出値に基づいてダムの貯留水の水位を常時監視する(ステップS10)。非洪水期から洪水期に移行する際に、ダム管理装置20により、貯留可能な洪水貯留容量Q1を確保するために放流部4を制御して事前放流し、水位を予め設定された洪水貯留準備水位L1に調整する(ステップS12)。ダム管理装置20は、降雨の事前予測を取得し、降雨によるダム2への流入量が洪水貯留容量Q1を超えるか否かを判定する(ステップS14)。
【0046】
ダム管理装置20は、降雨の事前予測に基づいて、ダム2への流入量が洪水貯留容量Q1を超えないと予想される場合、ステップS20に進む。ダム管理装置20は、降雨の事前予測に基づいて、ダム2への流入量が洪水貯留容量Q1を超えると予想される場合、放流部4を制御して、洪水貯留準備水位L1に比して低い緊急時水位L2まで貯留水Wを事前放流し、洪水貯留容量Q1に比して多くの貯水量を貯水可能に調整する(ステップS16)。ダム管理装置20は、浄水場30に事前放流を行う旨の報知を行う(ステップS17)。
【0047】
降雨が経過した後、ダム管理装置20は、降雨後のダム2の水位が洪水貯留準備水位L1に比して高いか否かを判定する(ステップS18)。ダム管理装置20は、降雨後のダム2の水位が洪水貯留準備水位L1に比して高い場合、下流側に洪水が発生しない程度に放流量を設定し放流部4を制御して放流し、降雨後の水位を予め設定された洪水貯留準備水位L1に調整する(ステップS20)。
【0048】
ダム管理装置20は、降雨後のダム2の水位が洪水貯留準備水位L1に比して低い場合、回復運転を行う旨の報知を浄水場に送信すると共に(ステップS21)、放流部4を制御して、放水量を通常時に比して削減し、通常時に比して多くの貯留水Wを貯留して水位を洪水貯留準備水位L1まで回復させる回復運転を行う(ステップS22)。
【0049】
図7には、上記ダム側の回復運転時における浄水場30側の運転方法の処理の流れが示されている。浄水場管理装置40は、ダム管理装置20から事前放流を行う旨の報知を受信する(ステップS50)。浄水場管理装置40は、通常時に比して多くの水量を取水する(ステップS51)。降雨後、浄水場管理装置40は、ダム管理装置20から回復運転を行う旨の報知を受信する(ステップS52)。浄水場管理装置40は、取水部32を制御して取水量を通常運転に比して制限あるいは停止する制限運転を行う(ステップS53)。浄水場管理装置40は、上水を取水制限することにより上水から生成する水道水の供給が不足するか否かを判定する(ステップS54)。
【0050】
浄水場管理装置40は、水道水の供給不足が生じない場合(ステップS54:No)、制限運転を継続する。浄水場管理装置40は、水道水の供給不足が生じる場合、他の浄水場35から上水の供給が可能か否かを判定する(ステップS56)。浄水場管理装置40は、他の浄水場35から上水の供給が可能である場合(ステップS56:Yes)、他の浄水場35の上水供給部36を制御して上水の供給を受ける(ステップS58)。
【0051】
このとき、浄水場管理装置40は、上水供給部36を制御できない場合、他の浄水場35に上水供給を要請する旨の報知を送信し、上水の供給を受けてもよい。浄水場管理装置40は、他の浄水場35から上水の供給ができない場合(ステップS56:No)、所定の機関に対して給水車の派遣要請を行う(ステップS60)。浄水場管理装置40は、回復運転が終了したか否かを判定する(ステップS62)。回復運転が終了しない場合、浄水場管理装置40は、ステップS54に処理を戻し、制限運転を継続する。回復運転が終了した場合、浄水場管理装置40は、取水部32を制御して通常の運転に戻す(ステップS64)。
【0052】
上述したようにダム貯水量調整システム1を用いたダム貯水量調整方法によれば、ダムを増設することなく、洪水期において想定を超えた降雨が発生しても、予め水位を洪水貯留準備水位L1に比して低い緊急時水位となるまで事前放流することにより、洪水貯留容量Q1に比して多くの貯水量を貯水することができる。ダム貯水量調整システム1を用いたダム貯水量調整方法によれば、降雨量が事前予報に比して少なく、降雨後のダムの水位が洪水貯留準備水位L1に比して低くなった場合でも、回復運転を行うことにより、ダムの水位を洪水貯留準備水位L1に早期に回復することができる。
【0053】
ダム貯水量調整システム1を用いたダム貯水量調整方法によれば、浄水場30においては、ダムの事前放流中に通常より多く取水して上水を蓄えると共に、ダム事前放流後は原水取水量をできるだけ絞って水不足に備えることができる。浄水場30は、ダム2側において回復運転を行って、河川水への放流量が制限され、上水の取水量を制限した場合でも他の浄水場35と連絡管38でから上水の供給を受けることにより、水道水の供給不足を防止することができる。それによって、緊急給水のための給水車派遣の費用や、住民の節水や水不足の不満を抑えることができる。
【0054】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、ダム貯水量調整システム1を用いたダム貯水量調整方法は、アースダム、ロックフィルダム、アーチダム等の他の形式のダムに適用してもよい。
【符号の説明】
【0055】
1…ダム貯水量調整システム、2…ダム、3…止水壁、4…放流部、12…検出部、20…ダム管理装置、22…取得部、24…制御部、26…表示部、29…操作部、30…浄水場、32…取水部、32A…ポンプ、32B…調整弁、34…検出部、35…他の浄水場、36…上水供給部、38…連絡管、40…浄水場管理装置、42…取得部、44…制御部、46…表示部、48…操作部、D…導水管、E…地表面、R…浄水場管理棟、S…管理棟、W…貯留水