(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022137748
(43)【公開日】2022-09-22
(54)【発明の名称】大スパン構造物の構築方法
(51)【国際特許分類】
E01D 21/00 20060101AFI20220914BHJP
【FI】
E01D21/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021037398
(22)【出願日】2021-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】小倉 大季
(72)【発明者】
【氏名】磯田 和彦
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059AA43
2D059BB37
2D059BB39
2D059CC04
(57)【要約】
【課題】付加製造装置を用いて施工性良く構築することができる大スパン構造物の構築方法を提供する。
【解決手段】大スパン構造物の構築方法は、一対の線材14を設置する線材設置工程と、付加製造装置4を一対の線材14にまたがるように設置しつつ線材14の延在方向に移動させて、付加製造装置から水硬性混合物21を吐出して、水硬性混合物21で一対の線材14を覆うとともに一対の線材14の間に面材22を構築する面材構築工程と、を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の線材を設置する線材設置工程と、
付加製造装置を前記一対の線材にまたがるように設置しつつ前記線材の延在方向に移動させて、前記付加製造装置から水硬性混合物を吐出して、該水硬性混合物で前記一対の線材を覆うとともに前記一対の線材の間に面材を構築する面材構築工程と、を備える大スパン構造物の構築方法。
【請求項2】
前記線材は緊張力が導入された緊張材である請求項1に記載の大スパン構造物の構築方法。
【請求項3】
前記一対の線材の間に、他の線材を網状に設置する網状線材設置工程を備え、
前記面材構築工程では、前記水硬性混合物で、網状に設置された前記他の線材も覆って前記面材を構築する請求項1または2に記載の大スパン構造物の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大スパン構造物の構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、橋梁等の大スパン構造物の構築方法として,張出し架設工法が知られている。地盤に橋脚を立設して、橋台側から橋脚間に橋桁を順次設置していくものである(下記の特許文献1参照)。
【0003】
一方、近年では、3Dプリンタ等の付加製造装置を用いて、セメント系材料のコンクリート部材を所定箇所に押し出して、構造物を一気に構築する方法が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、橋桁建設時には、現場打ち工法の場合は生コンクリートを所定の位置まで運搬して打設したり、PCa工法の場合はプレキャスト部材を所定の位置まで運搬して設置したりする必要があり、資材及び労務の運搬が作業のボトルネックとなるという問題点がある。
【0006】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、3Dプリンタ等の付加製造装置を用いて施工性良く構築することができる大スパン構造物の構築方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用している。
すなわち、本発明に係る大スパン構造物の構築方法は、一対の線材を設置する線材設置工程と、付加製造装置を前記一対の線材にまたがるように設置しつつ前記線材の延在方向に移動させて、前記付加製造装置から水硬性混合物を吐出して、該水硬性混合物で前記一対の線材を覆うとともに前記一対の線材の間に面材を構築する面材構築工程と、を備える。
【0008】
このように構成された大スパン構造物の構築方法では、付加製造装置から吐出された水硬性混合物によって、一対の線材を覆うとともに一対の線材の間に面材が構築され、構造物が段階的に構築される。よって、面材を支持する橋脚等の部材を水中内に設置する必要がなく、面材を設置する施工性が良い。なお、「水硬性混合物」とは、種々のセメント系材料(例えば、セメントペースト、モルタル、コンクリートなど)、およびジオポリマー組成物などを含む材料のことである。
【0009】
また、本発明に係る大スパン構造物の構築方法では、前記線材は緊張力が導入された緊張材であってもよい。
【0010】
このように構成された大スパン構造物の構築方法では、線材は緊張力が導入された緊張材であるため、線材を内包する面材に引張力が作用しなくなり剛性と耐力を高めることができる。
【0011】
また、本発明に係る大スパン構造物の構築方法は、前記一対の線材の間に、他の線材を網状に設置する網状線材設置工程を備え、前記面材構築工程では、前記水硬性混合物で、網状に設置された前記他の線材も覆って前記面材を構築してもよい。
【0012】
このように構成された大スパン構造物の構築方法では、一対の線材の間には網状に他の線材が設置され、他の線材も水硬性混合物で覆われている。よって、線材及び他の線材を内包する面材の剛性をさらに高めることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る大スパン構造物の構築方法によれば、付加製造装置を用いて施工性良く構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る大スパン構造物の構築方法を示す正面図である。
【
図2】本発明の第一実施形態に係る大スパン構造物の構築方法を示す正面図であり、
図1の後工程を示す。
【
図3】本発明の第一実施形態に係る大スパン構造物の構築方法を示す正面図であり、
図2の後工程を示す。
【
図4】本発明の第一実施形態に係る大スパン構造物の構築方法の面材構築工程を示す拡大図である。
【
図5】本発明の第一実施形態に係る大スパン構造物の構築方法の構築された面材の断面図である。
【
図6】本発明の第二実施形態に係る大スパン構造物の構築方法の面材構築工程を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第一実施形態)
本発明の第一実施形態に係る大スパン構造物の構築方法について、図面を用いて説明する。本実施形態では、橋梁を構築する場合の説明を行う。大スパン構造物の構築方法は、線材設置工程と、面材構築工程と、を備えている。
【0016】
まず、線材設置工程を行う。
図1に示すように、両岸に、一対の橋脚11及び橋台12を設置する。橋脚11は、両岸または両岸近辺の水中に設置すればよく、一対の橋脚11の間には他の橋脚を水中に設置しなくてよい。橋脚11と橋台12との間に、ブレース(引張材)13を設置する。
【0017】
橋脚11の上部どうしの間に、PCケーブル(PC鋼材、線材、緊張材)14を設置する。PCケーブル14の延在方向をX方向とする。橋梁1の延在方向は、X方向となる。
【0018】
PCケーブル14は、橋梁1の幅方向(Y方向とする)に離間して一対設置する(
図4参照)。一対のPCケーブル14は、略平行またはその一部が略平行に配置されている。この際には、PCケーブル14を、ドローン(UAV:Unmanned Aerial Vehicle)等の飛行体や船で運搬して架設してもよい。
【0019】
PCケーブル14には、緊張力が導入されている。PCケーブル14を橋脚11の頂部11uに固定すると、PCケーブル14は、懸垂曲線(カテナリー曲線)となる。PCケーブル14は荷重の増加に伴い撓むため、PCケーブル14を緊張させて撓みを制御する。
【0020】
図4に示すように、PCケーブル14の外周は、鞘管15で被覆されている。鞘管15はPCケーブル14とともに設置してもよいし、PCケーブル14設置後に橋脚11の頂部11uから順次送り出すようにしてもよい。鞘管15で被覆されたPCケーブル14を、ケーブル体16と称する。
【0021】
次に、面材構築工程を行う。
図2に示すように、PCケーブル14を内包するように、下弦材20を構築する。面材構築工程の詳細については、後述する。
【0022】
次に、下弦材20上に、鉛直方向に延びる束材31を設置する。複数の束材31を、橋脚11の間に互いに離間して設置する。束材31は、下弦材20上で3Dプリンタによって製造したコンクリート製であってもよい。束材31は、鋼製であって、下弦材20上を運搬車で運搬して設置してもよく、鋼製の束材31をモルタルで被覆してもよい。隣り合う一方の束材31の上部と他方の束材31の下部とを、ブレース32で連結する。
【0023】
隣り合う束材31の上部どうしを、上弦材33で連結する。上弦材33は、H鋼のような単材でも、トラス組材でもよい。なお、上弦材33は両端が橋台12まで延伸され、橋台12とはローラー支承(可動)としてよい。
【0024】
図3に示すように、上弦材33上に、床版36を設置する。床版36は、両岸まで設置する。床版36は、橋脚11の上部及び束材31の上部に支持されている。床版36は、コンクリート製であって、プレキャストコンクリートであって順次設置してもよいし、現場で打設してもよい。
【0025】
面材構築工程について、詳しく説明する。
本実施形態では、
図4に示すX方向の一方側(X2側とする)から他方側(X1側とする)に向かって、下弦面材(面材)22を構築していくものとする。X1方向が進行方向となる。
【0026】
一対のケーブル体16間に、支持板5をX2側からX1側に向かって順次設置していく。支持板5は、X方向に連続して複数設置される。
【0027】
図5に示すように、支持板5は、一対のケーブル体16上に架設されている。平板部51を有している。平板部51は、平板状に形成されている。平板部51の板面は、鉛直方向を向いている。平板部51のY方向の両端部近傍には、上方に膨らむ凸部52が形成されている。凸部52の内部には、ケーブル体16と対応した形状の挿通孔53が形成されている。挿通孔53には、ケーブル体16が挿通される。
【0028】
次に、付加製造装置4を用いて、下弦面材22を施工する。付加製造装置4は、一対のケーブル体16にまたがるように設置され、ケーブル体16上を走行しながら、コンクリート流動体(水硬性混合物)21を吐出して下弦面材22を形成する。
【0029】
付加製造装置4は、本体支持部41と、自走部42と、ノズル支持部43と、ノズル44と、ホース45と、を有している。
【0030】
本体支持部41は、一対のケーブル体16の間に配置されている。自走部42は、本体支持部41のY方向の両側に設けられている。自走部42の車輪42aは、ケーブル体16の上側に配置された支持板5の凸部52上をケーブル体16の延在方向(X方向)に走行可能とされている。ノズル支持部43は、本体支持部41の上面に設けられている。ノズル44は、ノズル支持部43の先端部に設けられている。ノズル支持部43は、ノズル44を所望の位置に移動可能である。ノズル44には、未硬化状態のコンクリート流動体21が流通するホース45が接続されている。ホース45には、未硬化状態のコンクリート流動体21が収容された不図示のタンクが接続されている。ノズル44は、コンクリート流動体21を吐出して、支持板5上にコンクリート流動体21を平板状に積層する。付加製造装置4の構成は、特に限定されない。付加製造装置4は、遠隔操作可能であってもよい。
【0031】
自走部42を、一方の岸からケーブル体16上をX1側に移動させる。ノズル44は、X2側を向いている。ノズル44は、コンクリート流動体21を吐出して積層することで、一対のケーブル体16の上方を覆うとともに一対のケーブル体16の間に下弦面材22を構築する。自走部42がX1側に移動するにともなって、下弦面材22がX1方向に構築されていき、両岸間に構築される。
【0032】
下弦面材22は、板状に形成されている。下弦面材22は、一対の鞘管15を覆う幅をしている。
【0033】
図5に示すように、PCケーブル14は鞘管15に被覆され、鞘管15は支持板5の挿通孔53に挿通されている。PCケーブル14と鞘管15との間には、わずかに隙間s1が形成されている。このように、PCケーブル14と下弦面材22とは、アンボンド状態である。下弦材20を施工していくと自重により下弦材20が撓むため、橋脚11の頂部11uでPCケーブル14を逐次緊張して撓みを制御することができる。
【0034】
水硬性混合物の一例のコンクリート流動体21は、種々のセメント系材料(例えば、セメントペースト、モルタル、コンクリートなど)、およびジオポリマー組成物などを含む材料のことである。
【0035】
このように構成された大スパン構造物の構築方法では、付加製造装置4ら吐出されたコンクリート流動体21によって、一対のPCケーブル14を覆うとともに一対のPCケーブル14の間に下弦面材22が構築され、構造物が段階的に構築される。よって、下弦面材22を支持する橋脚等の部材を水中内に設置する必要がなく、下弦面材22を設置する施工性が良い。
【0036】
また、PCケーブル14は緊張力が導入された緊張材であるため、PCケーブル14を内包する下弦面材22に引張力が作用しなくなり剛性と耐力を高めることができる。
【0037】
また、施工時に設置した下弦材20の上を作業ロボットや車両等が走行したりすることができる。
【0038】
また、下弦材20にPCケーブル14を被覆する下弦面材22を付加することで断面性能が向上し、鉛直方向と水平方向とも、高耐力及び高剛性となる。よって、上載荷重による下弦材20の撓みを小さくすることができる。
【0039】
また、下弦材20にコンクリートを用いると引張り時にひび割れてコンクリート部分の耐力と剛性が期待できない可能性があるが、PCケーブル14を緊張することでコンクリートが圧縮状態となり全断面が有効になる。よって、下弦材20にコンクリート部分の耐力及び剛性が付与される。さらに、束材31やブレース32を介して上弦材33と一体化することで、橋梁構造物の耐力及び剛性が飛躍的に増大し、
図3に示す工程以降はより大きな載荷重に耐え、撓みの小さい橋となる。
【0040】
また、PCケーブル14で緊張力を導入することで、下弦材20の撓みを制御しながら施工するため、工事中も大きな変位を生じず安全に施工できる。また、竣工後にクリープなどにより撓みを生じた場合でも、再緊張することで対処できる。
【0041】
(第二実施形態)
次に、本発明第二実施形態に係る大スパン構造物の構築方法について、主に
図6を用いて説明する。なお、下記に示す実施形態において、第一実施形態と略同一の構成の箇所については、同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0042】
図6に示すように、本実施形態では、大スパン構造物の構築方法は、線材設置工程と面材構築工程との間に網状線材設置工程を備えている。
【0043】
網状線材設置工程では、一対のケーブル体16の間に補強線材(他の線材)18を網状に設置する。網状に設置された補強線材18の下部に、係止部材6を一体に設ける。係止部材6を、Y方向に間隔を有して複数設ける。
【0044】
係止部材6は、棒状部61と、係止部62と、を有している。棒状部61は、Y方向に延びる棒状部材である。係止部62は、棒状部61の両端部に設けられている。係止部62は、棒状部61の端部から上方に延び、先端がケーブル体16の上側に係止可能とされている。
【0045】
ケーブル体16上を走行する付加製造装置4の下部に設けられた不図示の網状線材敷設装置によって、補強線材18を進行方向(X1側)に引張りながら、補強線材18及び係止部材6をケーブル体16に取付け敷設していく。
【0046】
係止部材6の係止部62がケーブル体16に係止されることで、係止部材6と一体に設けられた網状の補強線材18が設置される。
【0047】
面材構築工程では、付加製造装置4Aの自走部42の車輪42aがケーブル体16の上を走行し、ノズル44Aから、コンクリート流動体21を噴射して吹き付けるように吐出する。一対のケーブル体16、補強線材18及び係止部材6を覆うようにして、下弦面材22を構築する。
【0048】
網状の補強線材18を付加製造装置4Aの下端部で引っ張ると、コンクリート流動体21を打設して補強線材18も一体化した部分を反力に、補強線材18が引張応力状態となり、打設自重によりたわむことを抑制できる。
【0049】
このように構成された大スパン構造物の構築方法では、付加製造装置4Aら吐出されたコンクリート流動体21によって、一対のPCケーブル14を覆うとともに一対のPCケーブル14の間に下弦面材22が構築される。よって、下弦面材22を支持する橋脚等の部材を水中内に設置する必要がなく、下弦面材22を設置する施工性が良い。
【0050】
また、一対のPCケーブル14の間には網状に補強線材18が設置され、補強線材18もコンクリート流動体21で覆われている。よって、PCケーブル14及び補強線材18を内包する下弦面材22の剛性をさらに高めることができる。
【0051】
なお、上述した実施の形態において示した組立手順、あるいは各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0052】
例えば、上記に示す実施形態では、橋梁1を例に挙げて説明したが、大スパン構造物の構築方法によって、屋根を構築してもよい。
【0053】
また、PCケーブル14上を走行可能なロボットを使用して、PCケーブル14以外の複数本の線材を架橋したり、金属や樹脂材を使用した3Dプリンティングを行ったりして、PCケーブル14を増径(例えば、H鋼形状になるように拡幅)してもよい。コンクリート流動体21の吐出口はPCケーブル14の上側に配置される構成としたが、PCケーブル14の下側に配置される構成であってもよい。
【0054】
また、下弦材20上を移動できるロボットを使用して、コンクリート材料を使用した3Dプリンティングを行い、下弦材20を増厚し剛性を付加してもよい。あるいは、棒材を運搬及び溶接できるロボットで、下弦材20から立ち上がる方向に棒部材(例えば、束材31)を溶接していき、アーチやトラスなどの構造を形成する等の立体構造を構築してもよい。部材断面を増大させることで、部材の耐力及び剛性を向上させることができる。このように、構造を成長させることで、重量が大きいロボットを使用できるようになるため、ドローン、小型ロボット、中型ロボット、大型ロボット等の機械を順番に、あるいは追っかけながら同時に使用して、構造を成長させることができる。
【0055】
また、橋脚11の頂部11uが橋桁(床版36)よりも高い位置なるようにすれば、下弦材20の下端高さを高い位置にすることができる。懸垂曲線のライズ(上下方向の高さ)を確保できるため、より大スパンの橋梁1を構築することができる。
【0056】
また、PCケーブル14の芯の高さを下弦材20の重心高さよりも高くすれば、橋梁1の下弦材20の転倒を防止することができる。
【符号の説明】
【0057】
4,4A 付加製造装置
14 PCケーブル(PC鋼材、線材、緊張材)
18 補強線材(他の線材)
21 コンクリート流動体(水硬性混合物)
22 下弦面材(面材)