(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022137751
(43)【公開日】2022-09-22
(54)【発明の名称】制御装置、制御方法および排気浄化システム
(51)【国際特許分類】
F01N 3/08 20060101AFI20220914BHJP
【FI】
F01N3/08 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021037402
(22)【出願日】2021-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長堂 嘉利
【テーマコード(参考)】
3G091
【Fターム(参考)】
3G091AB04
3G091AB13
3G091AB15
3G091BA01
3G091CA17
3G091CB02
3G091DA01
3G091DA02
3G091EA01
3G091EA08
3G091EA33
3G091HA16
3G091HA36
3G091HA37
(57)【要約】
【課題】簡単な構成で還元剤の噴射量を補正する。
【解決手段】本発明の一態様は、内燃機関の排気通路に設けられた選択還元触媒に供給する還元剤の噴射量を制御する制御装置であって、前記内燃機関の運転状態に基づき前記還元剤の補正前噴射量を算出する補正前噴射量算出部と、前記内燃機関の回転数の時間変化率と前記内燃機関の燃料噴射量の時間変化率とに基づき、少なくとも前記回転数の時間変化率と前記燃料噴射量の時間変化率の両者が正である場合に前記還元剤の噴射量が増加し、少なくとも前記回転数の時間変化率と前記燃料噴射量の時間変化率の両者が負である場合に前記還元剤の噴射量が減少するように、前記補正前噴射量を補正した補正後噴射量を算出する噴射量補正部とを備える制御装置である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられた選択還元触媒に供給する還元剤の噴射量を制御する制御装置であって、
前記内燃機関の運転状態に基づき前記還元剤の補正前噴射量を算出する補正前噴射量算出部と、
前記内燃機関の回転数の時間変化率と前記内燃機関の燃料噴射量の時間変化率とに基づき、少なくとも前記回転数の時間変化率と前記燃料噴射量の時間変化率の両者が正である場合に前記還元剤の噴射量が増加し、少なくとも前記回転数の時間変化率と前記燃料噴射量の時間変化率の両者が負である場合に前記還元剤の噴射量が減少するように、前記補正前噴射量を補正した補正後噴射量を算出する噴射量補正部と
を備える制御装置。
【請求項2】
前記噴射量補正部は、さらに、前記補正前噴射量と前記補正後噴射量との差分の積算値が零となるように前記補正後噴射量を調整する
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記噴射量補正部は、さらに、前記還元剤の噴射量を減少させる場合、所定の下限値以上となるように前記補正後噴射量を調整する
請求項1または2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記運転状態を表す情報は、前記排気通路における窒素酸化物の濃度を検知するセンサの検知情報を少なくとも含む
請求項1から3のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項5】
内燃機関の排気通路に設けられた選択還元触媒に供給する還元剤の噴射量を制御する制御方法であって、
前記内燃機関の運転状態に基づき前記還元剤の補正前噴射量を算出するステップと、
前記内燃機関の回転数の時間変化率と前記内燃機関の燃料噴射量の時間変化率とに基づき、少なくとも前記回転数の時間変化率と前記燃料噴射量の時間変化率の両者が正である場合に前記還元剤の噴射量が増加し、少なくとも前記回転数の時間変化率と前記燃料噴射量の時間変化率の両者が負である場合に前記還元剤の噴射量が減少するように、前記補正前噴射量を補正した補正後噴射量を算出するステップと
を含む制御方法。
【請求項6】
内燃機関の排気通路に設けられた選択還元触媒と、
前記選択還元触媒に供給される還元剤を噴射する噴射装置と、
前記噴射装置による前記還元剤の噴射量を制御する制御装置と
を備え、
前記制御装置は、前記内燃機関の運転状態に基づき前記還元剤の補正前噴射量を算出する補正前噴射量算出部と、前記内燃機関の回転数の時間変化率と前記内燃機関の燃料噴射量の時間変化率とに基づき、少なくとも前記回転数の時間変化率と前記燃料噴射量の時間変化率の両者が正である場合に前記還元剤の噴射量が増加し、少なくとも前記回転数の時間変化率と前記燃料噴射量の時間変化率の両者が負である場合に前記還元剤の噴射量が減少するように、前記補正前噴射量を補正した補正後噴射量を算出する噴射量補正部とを備える
排気浄化システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置、制御方法および排気浄化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、次のような排気浄化制御システムが記載されている。すなわち、特許文献1に記載されている排気浄化制御システムは、内燃機関の排気通路に設けられて排気ガスを浄化する触媒と、その触媒よりも上流側に触媒の反応に必要な反応剤を供給する反応剤供給手段と、その反応剤供給手段による反応剤の供給量を制御する制御装置とを備える。そして、この制御装置は、内燃機関の運転状況から基本反応剤供給量を算出する工程と、エンジン回転数の増加量が大きいほど補正量が小さくなるように補正量を算出する工程と、基本反応剤供給量と補正量から目標反応剤供給量を算出する工程とを実行する。また、この制御装置は、アクセル開度の増加量が大きいほど補正量が大きくなるように補正量を算出する。
【0003】
また、特許文献2には、次のような触媒効率向上方法が記載されている。すなわち、特許文献1に記載されている触媒効率向上方法は、内燃機関の下流に接続されたNOx還元触媒の効率を向上させる方法であって、内燃機関に起きようとしている加速を検出するステップと、内燃機関の加速によりその内燃機関の供給NOx量に生ずる変動を相殺するためにNOx還元触媒への還元剤噴射量を調整するステップを有する。この触媒効率向上方法では、ペダル位置の変化率、燃料噴射量変化率、機関速度または負荷の変化率等の機関過渡状態を迅速に表示することができるパラメータを連続的に監視し、これらをパラメータとする関数を用いて触媒へ入るNOxの量の増減を考慮して還元剤の噴射量が連続的に調整される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-214494号公報
【特許文献2】特開2004-156615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されている排気浄化制御システムでは、一方、アクセル開度の増加量が大きいほど補正量が大きくなり、他方、エンジン回転数の増加量が大きいほど補正量が小さくなるように、補正量が算出される。したがって、例えば、アクセル開度の増加量が大きく、かつ、エンジン回転数の増加量が大きい場合には、補正量の調整が複雑となる可能性があるという課題がある。
【0006】
また、特許文献2に記載されている触媒効率向上方法では、機関過渡状態を迅速に表示する複数のパラメータをどのように還元剤の噴射量を調整するための関数に用いるのかは示されていない。
【0007】
本発明は、上記事情を考慮してなされたものであり、上記課題を解決し、簡単な構成で還元剤の噴射量を補正することができる制御装置、制御方法および排気浄化システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の一態様は、内燃機関の排気通路に設けられた選択還元触媒に供給する還元剤の噴射量を制御する制御装置であって、前記内燃機関の運転状態に基づき前記還元剤の補正前噴射量を算出する補正前噴射量算出部と、前記内燃機関の回転数の時間変化率と前記内燃機関の燃料噴射量の時間変化率とに基づき、少なくとも前記回転数の時間変化率と前記燃料噴射量の時間変化率の両者が正である場合に前記還元剤の噴射量が増加し、少なくとも前記回転数の時間変化率と前記燃料噴射量の時間変化率の両者が負である場合に前記還元剤の噴射量が減少するように、前記補正前噴射量を補正した補正後噴射量を算出する噴射量補正部とを備える制御装置である。
【0009】
また、本発明の一態様は、内燃機関の排気通路に設けられた選択還元触媒に供給する還元剤の噴射量を制御する制御方法であって、前記内燃機関の運転状態に基づき前記還元剤の補正前噴射量を算出するステップと、前記内燃機関の回転数の時間変化率と前記内燃機関の燃料噴射量の時間変化率とに基づき、少なくとも前記回転数の時間変化率と前記燃料噴射量の時間変化率の両者が正である場合に前記還元剤の噴射量が増加し、少なくとも前記回転数の時間変化率と前記燃料噴射量の時間変化率の両者が負である場合に前記還元剤の噴射量が減少するように、前記補正前噴射量を補正した補正後噴射量を算出するステップとを含む制御方法である。
【0010】
また、本発明の一態様は、内燃機関の排気通路に設けられた選択還元触媒と、前記選択還元触媒に供給される還元剤を噴射する噴射装置と、前記噴射装置による前記還元剤の噴射量を制御する制御装置とを備え、前記制御装置は、前記内燃機関の運転状態に基づき前記還元剤の補正前噴射量を算出する補正前噴射量算出部と、前記内燃機関の回転数の時間変化率と前記内燃機関の燃料噴射量の時間変化率とに基づき、少なくとも前記回転数の時間変化率と前記燃料噴射量の時間変化率の両者が正である場合に前記還元剤の噴射量が増加し、少なくとも前記回転数の時間変化率と前記燃料噴射量の時間変化率の両者が負である場合に前記還元剤の噴射量が減少するように、前記補正前噴射量を補正した補正後噴射量を算出する噴射量補正部とを備える排気浄化システムである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の各態様によれば、簡単な構成で還元剤の噴射量を補正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係る排気浄化システムの構成例を示すシステム図である。
【
図2】
図1に示す制御装置100の構成例を示すブロック図である。
【
図3】
図2に示す尿素水噴射量補正部104の構成例を示すブロック図である。
【
図4】
図3に示す尿素水噴射量補正係数演算部105の構成例を説明するための模式図である。
【
図5】
図3に示す補正量調整部107の構成例を示すブロック図である。
【
図6】
図5に示すに補正量調整部107の動作例を示すフローチャートである。
【
図7】
図1に示す排気浄化システム10の動作例を示すフローチャートである。
【
図8】
図1に示す排気浄化システム10の動作例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、各図において同一または対応する構成には同一の符号を用いて説明を適宜省略する。
図1は、本発明の実施形態に係る排気浄化システムの構成例を示すシステム図である。
図2は、
図1に示す制御装置100の構成例を示すブロック図である。
図3は、
図2に示す尿素水噴射量補正部104の構成例を示すブロック図である。
図4は、
図3に示す尿素水噴射量補正係数演算部105の構成例を説明するための模式図である。
図5は、
図3に示す補正量調整部107の構成例を示すブロック図である。
図6は、
図5に示すに補正量調整部107の動作例を示すフローチャートである。
図7は、
図1に示す排気浄化システム10の動作例を示すフローチャートである。
図8は、
図1に示す排気浄化システム10の動作例を示す模式図である。
【0014】
(排気浄化システム10の構成例)
図1は、本発明の実施形態に係る排気浄化システム10の構成例を示す。
図1に示す排気浄化システム10は、エンジン1と、排気通路3と、DPF装置5と、SCR装置6と、尿素水インジェクタ7と、エンジン出口NOx(窒素酸化物)センサ91と、SCR出口NOxセンサ92と、SCRベッド温度センサ93と、制御装置100とを備える。なお、本実施形態に係る排気浄化システム10は、例えば、SCR装置6と、尿素水インジェクタ7と、制御装置100とを少なくとも備えるものである。なお、
図1では、本実施形態の排気浄化システム10あるいは制御装置100において、尿素水インジェクタ7の噴射量制御に係る構成を主に示し、エンジン1の燃料噴射制御等の他の機能に係る構成については図示を適宜省略している。
【0015】
エンジン1は、内燃機関の一構成例であり、本実施形態では多気筒のディーゼルエンジンである。排気通路3は、エンジン1の排気を、DPF装置5と、SCR装置6とを通して大気に排気する。
【0016】
DPF装置5は、例えば連続再生式DPFシステムであり、内部にDOC(Diesel Oxidation Catalyst;ディーゼル酸化触媒)51と、DPF(Diesel Particulate Filter;ディーゼルパティキュレートフィルタ)52とを備え、DPF52でPM(Particulate Matter;粒子状物質)を捕集し、DOC51で変換された二酸化窒素によって下流で捕集されたPMを酸化して二酸化炭素とし、PMを除去する。ただし、DPF装置5は、自動再生式DPFシステム、手動再生式DPFシステム等の他の形式のシステムであってもよい。
【0017】
SCR装置6は、内部にSCR(Selective Catalytic Ruduction;アンモニア選択還元型触媒)61を備え、尿素水インジェクタ7によってSCR61の上流側の排気中に供給された還元剤の一例としての尿素水によって、窒素酸化物(NOx)を窒素分子(N2)と水(H2O)に転換する。なお、還元剤は、無水の尿素等であってもよい。
【0018】
尿素水インジェクタ7は、SCR装置6内のSCR61に供給される尿素水を噴射する噴射装置である。尿素水インジェクタ7が排気通路3内に噴射する尿素水の噴射量は制御装置100によって制御される。
【0019】
エンジン出口NOxセンサ91は、排気通路3におけるエンジン1の排気出口近傍におけるNOxの濃度を検知するセンサであり、検知結果を示す信号を制御装置100へ出力する。SCR出口NOxセンサ92は、排気通路3におけるSCR装置6の排気出口近傍におけるNOxの濃度を検知するセンサであり、検知結果を示す信号を制御装置100へ出力する。エンジン出口NOxセンサ91とエンジン出口NOxセンサ92は、例えば、各計測値を比較することで、SCR61によるNOxの低減効果等を算出する際に用いられる。SCRベッド温度センサ93は、SCR装置6のSCR61の触媒床温度を計測して、計測した結果を制御装置100へ出力する。なお、SCRベッド温度センサ93は、複数の温度センサから構成されていてもよく、その場合、例えば、複数の計測値の平均値等を触媒床温度とすることができる。
【0020】
制御装置100は、エンジン出口NOxセンサ91、SCR出口NOxセンサ92、SCRベッド温度センサ93や、エンジン1の回転数(回転速度)を検知する図示していないエンジン回転センサ、図示していないアクセルペダルの操作量を検知するペダル操作量センサ等を含む複数のセンサから出力されたアナログまたはデジタルのセンサ信号を所定の周期で繰り返し入力し、エンジン1が備える複数のインジェクタを用いて燃料噴射制御を行ったり、各種モータや弁の制御を行ったり、尿素水インジェクタ7の噴射量制御を行ったりする。
【0021】
(制御装置100)
図1に示すエンジン制御装置100は、例えばマイクロコンピュータ等のコンピュータと、そのコンピュータの周辺回路や周辺装置とを用いて構成することができ、そのコンピュータ等のハードウェアと、そのコンピュータが実行するプログラム等のソフトウェアとの組み合わせから構成される機能的構成として、
図2に示す複数のブロックを備える。なお、
図2は、制御装置100が備える複数の機能的構成のうち、尿素水インジェクタ7の噴射量制御に係る機能的構成を示している。
図2に示す制御装置100は、燃料噴射制御部101と、尿素水噴射量制御部102とを備える。また、尿素水噴射量制御部102は、補正前尿素水噴射量算出部103と、尿素水噴射量補正部104とを含む。
【0022】
燃料噴射制御部101は、例えば、エンジン1の図示していない燃料噴射装置等を制御して燃料噴射制御を行う。燃料噴射制御部101は、尿素水噴射量制御部102に対して、エンジン1の回転数、燃料噴射量等を示す情報を出力する。
【0023】
尿素水噴射量制御部102は、補正前尿素水噴射量算出部103が算出した補正前尿素水噴射量D11(
図3)を補正および調整することで尿素水噴射量補正部104が出力した尿素水噴射量最終値D16(
図3)を目標値として、尿素水インジェクタ7による尿素水の噴射量を制御する。
【0024】
補正前尿素水噴射量算出部103は、エンジン1の運転状態に基づき例えばNOx排出量を予測し、尿素水の噴射量の目標値の基準値である補正前尿素水噴射量D11を算出する。本実施形態においてエンジン1の運転状態を表す情報は、エンジン1の排気ガスに含まれるNOxの量を算出(推定)する際に用いられる複数のパラメータを表す情報であり、例えば、エンジン1の回転数、冷却水温度、吸気温度、SCR装置6のSCR61の触媒床温度、燃料噴射量、燃料噴射期間、エンジン出口NOxセンサ91の検知結果、SCR出口NOxセンサ92の検知結果等である。なお、本実施形態では、エンジン1の運転状態を表す情報が、排気通路3におけるNOxの濃度を検知するエンジン出口NOxセンサ91(あるいはSCR出口NOxセンサ92)の検知情報を少なくとも含むものとする。ただし、補正前尿素水噴射量算出部103は、エンジン出口NOxセンサ91やSCR出口NOxセンサ92の検知結果を用いずにエンジン1の排気ガスに含まれるNOxの量を算出(推定)してもよい。
【0025】
尿素水噴射量補正部(噴射量補正部)104は、エンジン1の回転数の時間変化率(時間微分値、単に変化率ともいう)とエンジン1の燃料噴射量の時間変化率とに基づき、補正前尿素水噴射量算出部103が算出した補正前噴射量を補正して補正後噴射量を算出する。その際、尿素水噴射量補正部104は、少なくとも回転数の時間変化率と燃料噴射量の時間変化率の両者が正である場合に尿素水の噴射量が増加し、少なくとも回転数の時間変化率と燃料噴射量の時間変化率の両者が負である場合に尿素水の噴射量が減少するように、補正前噴射量を補正して補正後噴射量を算出する。また、尿素水噴射量補正部104は、さらに、補正前噴射量と補正後噴射量との差分の積算値が零となるように補正後噴射量を調整してもよい。また、尿素水噴射量補正部104は、さらに、尿素水の噴射量を減少させる場合、所定の下限値以上となるように補正後噴射量を調整してもよい。
【0026】
図3は、
図2に示す尿素水噴射量補正部104の構成例を示す。
図3に示す尿素水噴射量補正部104は、尿素水噴射量補正係数演算部105と、乗算器106と、補正量調整部107とを備え、補正前尿素水噴射量D11と、エンジン回転数変化率D12と、燃料噴射量変化率D13とを入力し、補正前尿素水噴射量D11を補正して補正後尿素水噴射量D15を算出し、さらに、補正後尿素水噴射量D15を調整して、尿素水噴射量最終値D16として出力する。なお、尿素水噴射量補正部104は、尿素水噴射量最終値D16が、補正前尿素水噴射量D11、補正後尿素水噴射量D15、または、所定の下限値(以下の例では0.3ml/sとする)のいずれかの値となるように、補正後尿素水噴射量D15を調整して、尿素水噴射量最終値D16を算出する。
【0027】
尿素水噴射量補正係数演算部105は、例えば、
図4に示すテーブル(あるいはマップ)1051を用いて、尿素水噴射量補正係数D14を演算する。また、乗算器106は、補正前尿素水噴射量D11に尿素水噴射補正量係数D14を乗算して、補正後尿素水噴射量D15を算出する。
図4に示すテーブル1051は、燃料噴射量変化率[mg/stroke/s]とエンジン回転数変化率[rpm/s]とをパラメータとして、燃料噴射量変化率とエンジン回転数変化率の各組み合わせに対応する尿素水噴射補正量係数D14の各値を定義する。ここで、燃料噴射量変化率は、正の値である場合、燃料噴射量変化率の増加を意味し、負の値である場合、燃料噴射量変化率の減少を意味する。エンジン回転数変化率は、正の値である場合、エンジン回転数の増加を意味し、負の値である場合、エンジン回転数の減少を意味する。
【0028】
尿素水噴射量補正係数演算部105は、
図4に示すテーブル1051を用いて、例えば、燃料噴射量変化率が200[mg/stroke/s]でエンジン回転数変化率が200[rpm/s]の場合、尿素水噴射補正量係数D14を「2.0」と演算する。また、尿素水噴射量補正係数演算部105は、例えば、燃料噴射量変化率が-200[mg/stroke/s]でエンジン回転数変化率が-200[rpm/s]の場合、尿素水噴射補正量係数D14を「0.5」と演算する。尿素水噴射補正量係数D14が「1」の場合、補正前尿素水噴射量D11と補正後尿素水噴射量D15は同一となり、「1」より大きい場合、補正前尿素水噴射量D11より補正後尿素水噴射量D15が大きくなり(増加方向の補正となり)、「1」より小さい場合、補正前尿素水噴射量D11より補正後尿素水噴射量D15が小さくなる(減少方向の補正となる)。
【0029】
また、テーブル1051は、以下の傾向に対応する。すなわち、燃料噴射量が増加するときは、負荷が増大していることを示し、SCR61へ流入するNOxの増加が予測できる。反対に燃料噴射量が減少しているときは、NOxの減少が予測できる。また、燃料噴射量の変化が無いときは、補正を行わない。回転数が増加するならNOxの絶対量は増える。回転数が減少するならNOxの絶対量は減ることが推測できる。
【0030】
また、燃料噴射量変化率とエンジン回転数変化率の組み合わせと尿素水噴射補正量係数D14との対応関係は、実機での実験結果に基づいたり、モデルを使ったシミュレーション結果等に基づいて設定することができる。
【0031】
なお、
図4に示すテーブル1051を用いた場合、補正前尿素水噴射量D11と比較して、少なくとも回転数の時間変化率と燃料噴射量の時間変化率の両者が正である場合に補正後尿素水噴射量D15が増加し、少なくとも回転数の時間変化率と燃料噴射量の時間変化率の両者が負である場合に補正後尿素水噴射量D15が減少するように、尿素水補正係数D14が演算される。また、
図4に示すテーブル1051を用いた場合、補正前尿素水噴射量D11と比較して、燃料噴射量の時間変化率が正である場合に補正後尿素水噴射量D15が増加し、燃料噴射量の時間変化率が負である場合に補正後尿素水噴射量D15が減少するように、尿素水補正係数D14が演算される。
【0032】
なお、テーブル1051は、一例であって、例えば、各変化率の範囲を細分化してもよい。あるいは、乗算器106が。各変化率に基づいて、尿素水補正係数D14の値を補間処理した上で、補正後尿素水噴射量D15を算出してもよい。
【0033】
次に、
図3に示す補正量調整部107について説明する。補正量調整部107は、例えば、
図5に示すように、温度補正値演算部1071と、加算器1072と、合計補正量計算部1073と、尿素水噴射量最終値決定部1074とを備える。
図5に示す補正量調整部107は、補正後尿素水噴射量D15と、補正前尿素水噴射量D11と、SCRベッド温度D17と、尿素水噴射量補正係数D14とを入力し、尿素水噴射量最終値D16を算出して、出力する。なお、
図5に示す例では、補正量調整部107が、
図3に示す補正量調整部107と比較して、新たにSCRベッド温度D17を入力している点が異なる。
【0034】
温度補正値演算部1071は、SCRベッド温度D17に基づいて、SCR61の飽和吸着量曲線に基づき、SCR61のアンモニアの吸着量の積算値を算出する際の補正値(SCRベッド温度補正値D18という)を演算する。飽和吸着量曲線は各温度におけるSCR61のアンモニア吸着量の最大値を表す曲線であり(例えば特開2010-261388号公報)、SCRベッド温度補正値D18は、アンモニアの吸着量の積算値を算出する際に、飽和吸着量を超えないようにその積算値を算出するための補正値であり、ある温度を基準として例えば零、正または負の値をとる。
【0035】
加算器1072は、(尿素水噴射量最終値D16)-(補正前尿素水噴射量D11)+(SCRベッド温度補正値D18)を算出し、算出した結果を合計補正量計算部1073へ出力する。
【0036】
合計補正量計算部1073は、{(尿素水噴射量最終値D16)-(補正前尿素水噴射量D11)+(SCRベッド温度補正値D18)}を積算し、合計補正量Sを算出する。合計補正量Sは、尿素水噴射量最終値D16における補正前尿素水噴射量D11からの差分にSCRベッド温度補正値D18による補正を加えて積算した値であり、補正前尿素水噴射量D11を基準とする補正後の噴射量との差分によって、SCR61に蓄積していると推定されるアンモニアの量に対応する値である。なお、合計補正量計算部1073は、合計補正量Sが0より大きい値となるように合計補正量Sの値を制限する。
【0037】
なお、合計補正量計算部1073は、補正によってベースの尿素水噴射量から増加させた分を正として積算する。その際、補正後尿素水噴射量D15-補正前尿素噴射量D11は正または負の値をとる。また、減少させる場合に噴射量を例えば0.3ml/s以上に制限する場合はベースの尿素水噴射量から減少させるため、合計補正量Sも減少していく。
【0038】
なお、合計補正量計算部1073は、SCRベッド温度補正値D18を、合計補正量Sの上限値として用いてもよい。この場合、温度補正値演算部1071は、SCRベッド温度D17に基づいて、SCR61の飽和吸着量曲線に基づき、SCR61のアンモニアの吸着量の積算値を算出する際の上限値を、SCRベッド温度補正値(上限値)D18として算出して出力する。温度補正値演算部1071が出力したSCRベッド温度補正値D18は、加算器1072へ入力されず、合計補正量計算部1073へ入力される。また、加算器1072は、(尿素水噴射量最終値D16)-(補正前尿素水噴射量D11)を算出し、算出した結果を合計補正量計算部1073へ出力する。そして、合計補正量計算部1073は、SCRベッド温度補正値D18を上限値として、{(尿素水噴射量最終値D16)-(補正前尿素水噴射量D11)}を積算し、合計補正量S(ただし、S>0)を算出する。
【0039】
尿素水噴射量最終値決定部1074は、補正後尿素水噴射量D15と、補正前尿素水噴射量D11と、合計補正量Sと、尿素水噴射量補正係数D14とを入力し、基準となる尿素水噴射量(補正前尿素水噴射量D11)に対して補正によって総噴射量が変化しないことと、減少方向の補正によって噴射量が所定の下限値を下回らないようにすることのため、補正後尿素水噴射量D15を調整することで(補正後尿素水噴射量D15の値をそのまま尿素水噴射量最終値D16とするのではなく、補正後尿素水噴射量D15の値を条件に応じて異なる値とすることで)、尿素水噴射量最終値D16を算出して、出力する。
【0040】
尿素水噴射量最終値決定部1074は、例えばSCRベッド温度補正値D18が所定の範囲内の値である場合、補正前尿素水噴射量D11(補正前噴射量)と補正後尿素水噴射量D15(補正後噴射量)との差分の積算値が零となるように補正後尿素水噴射量D15を調整して尿素水噴射量最終値D16を算出することができる。あるいは、尿素水噴射量補正部104は、例えば、尿素水の噴射量を減少させる場合、所定の下限値以上となるように補正後尿素水噴射量D15を調整して尿素水噴射量最終値D16を算出することができる。
【0041】
尿素水噴射量最終値決定部1074は、例えば次の(1)~(3)に場合分けして尿素水噴射量最終値D16を算出する。(1)尿素水噴射量補正係数D14(補正係数)>1の場合、尿素水噴射量最終値D16(最終値)=補正後尿素水噴射量D15とし、(2)尿素水噴射量補正係数D14≦1かつ合計補正量S>0の場合、尿素水噴射量最終値D16=補正後尿素水噴射量D15とし(最小値は所定の下限値(例えば0.3ml/s)とする)、そして、(3)尿素水噴射量補正係数D14≦1かつ合計補正量S=0の場合、尿素水噴射量最終値D16=補正前尿素水噴射量D11とする。
【0042】
図6は、尿素水噴射量最終値決定部1074の動作例を示す。
図6に示す動作例では、尿素水噴射量最終値決定部1074は、まず、尿素水噴射量最終値D16を暫定的に補正後尿素水噴射量D15とする(ステップS101)。次に、尿素水噴射量最終値決定部1074は、尿素水噴射量補正係数D14が1以下であるか否かを判定する(ステップS102)。尿素水噴射量補正係数D14が1より大きい場合(ステップS102で「N」の場合)、尿素水噴射量最終値決定部1074は、
図6に示す処理を終了する。この場合、尿素水噴射量最終値D16は補正後尿素水噴射量D15となる。
【0043】
一方、尿素水噴射量補正係数D14が1以下の場合(ステップS102で「Y」の場合)、尿素水噴射量最終値決定部1074は、補正前尿素水噴射量D11が下限値(0.3ml/s)を超えているか否かを判定する(ステップS103)。補正前尿素水噴射量D11が下限値(0.3ml/s)を超えていない場合(ステップS103で「N」の場合)、尿素水噴射量最終値決定部1074は、尿素水噴射量最終値D16を補正前尿素水噴射量D11として(ステップS106)、
図6に示す処理を終了する。この場合、尿素水噴射量最終値D16は補正前尿素水噴射量D11となる。
【0044】
他方、補正前尿素水噴射量D11が下限値(0.3ml/s)を超えている場合(ステップS103で「Y」の場合)、尿素水噴射量最終値決定部1074は、合計補正量Sが0より大きいか否かを判定する(ステップS104)。合計補正量Sが0より大きい場合(ステップS104で「Y」の場合)、尿素水噴射量最終値決定部1074は、合計補正量S=0となるのを限度に、尿素水噴射量最終値D16を0.3ml/sに制限し(ステップS105)、
図6に示す処理を終了する。この場合、尿素水噴射量最終値D16は、合計補正量S>0の範囲で、補正後尿素水噴射量D15または0.3ml/sとなる。
【0045】
他方、合計補正量S=0の場合(ステップS104で「N」の場合)、尿素水噴射量最終値決定部1074は、尿素水噴射量最終値D16を補正前尿素水噴射量D11として(ステップS106)、
図6に示す処理を終了する。この場合、尿素水噴射量最終値D16は補正前尿素水噴射量D11となる。
【0046】
以上のように、本実施形態の制御装置100は、エンジン1(内燃機関)の排気通路3に設けられたSCR61(選択還元触媒)に供給する尿素水(還元剤)の噴射量を制御する制御装置であって、エンジン1の運転状態に基づき尿素水の補正前尿素水噴射量D11(補正前噴射量)を算出する補正前噴射量算出部103と、エンジン1の回転数の時間変化率(エンジン回転数変化率D12)とエンジン1の燃料噴射量の時間変化率(燃料噴射量変化率D13)とに基づき、少なくともエンジン回転数変化率D12と燃料噴射量変化率D13の両者が正である場合に尿素水の噴射量が増加し、少なくともエンジン回転数変化率D12と燃料噴射量変化率D13の両者が負である場合に尿素水の噴射量が減少するように、補正前尿素水噴射量D11を補正した補正後尿素水噴射量D15を算出する尿素水噴射量補正部104(噴射量補正部)とを備える。本実施形態によれば、簡単な構成で、燃料噴射量の増加量が大きく、かつ、エンジン回転数の増加量が大きい場合でも、尿素水の噴射量を補正することができる。
【0047】
また、尿素水噴射量補正部104(噴射量補正部)は、さらに、補正前尿素水噴射量D11と補正後尿素水噴射量D15との差分の積算値が零となるように補正後尿素水噴射量D15を調整することができる。この構成によれば、補正前と補正後の尿素水の噴射量を同一とすることができる。また、本実施形態によれば、補正前尿素水噴射量D11が、所定時間の噴射量の総量がシステムにとって最適化されているような場合でも、補正後の噴射量で最適化を維持することができる。
【0048】
また、尿素水噴射量補正部104(噴射量補正部)は、さらに、尿素水の噴射量を減少させる場合、所定の下限値以上となるように補正後尿素水噴射量D15を調整することができる。
【0049】
(排気浄化システム10の動作例)
次に、
図7を参照して、排気浄化システム10の動作例について説明する。
図7に示す動作は、所定の周期で繰り返し行われる。
図7に示す動作では、まず、制御装置100(例えば尿素水噴射量制御部102)が、(例えば燃焼噴射量制御部101から)エンジン回転数、燃料噴射量を取得する(ステップS201)。次に、制御装置100(例えば尿素水噴射量制御部102)が、エンジン回転数の変化率と、燃料噴射量の変化率を演算する(ステップS202)。ここで、エンジン1の回転数と燃料噴射量が変化する(S203)。
【0050】
次に、補正前尿素水噴射量算出部103が、NOx排出量を予測し、補正前尿素水噴射量D11を算出する(ステップS204)。ステップS204で、燃料噴射量の変化率が負の値(NOxが減る)場合、尿素水噴射量補正部104が、噴射量を補正すると(ステップS205)、尿素水噴射量を減少させることになる(ステップS206)。すると、エンジン出口NOxセンサ91がNOxの減少を検知するので(ステップS207)、補正前尿素水噴射量D11が減少することになる(ステップS208)。
【0051】
一方、ステップS204で、燃料噴射量の変化率が正の値(NOxが増える)場合、尿素水噴射量補正部104が、噴射量を補正すると(ステップS209)、尿素水噴射量を増加させることになる(ステップS210)。すると、エンジン出口NOxセンサ91がNOxの増加を検知するので(ステップS211)、補正前尿素水噴射量D11が増加することになる(ステップS212)。
【0052】
図8は、本実施形態に係る尿素水噴射量の制御例を示す。上から順に、燃料噴射量の変化率とエンジン回転数の変化率との時間変化、エンジン出口NOxセンサ91の計測結果と尿素水噴射量(補正前)との時間変化、および、エンジン出口NOxセンサ91の計測結果と尿素水噴射量(補正後)との時間変化を示す。尿素水噴射量(補正後)は、燃料噴射量の変化率の増加C1に対応して斜線で網掛けして示す面積A1の分だけ増加している。また、その後、尿素水噴射量(補正前)が下限値0.3ml/sを上回ったところで、面積A2の分だけ尿素水噴射量(補正後)が下限値0.3ml/sに減少している。この面積A2は面積A1と等しい。この場合、尿素水の噴射量が最大値から下限値0.3ml/sに抑えられているので、尿素水噴射量が最大値となる時間が短縮され、尿素の析出物が排気通路内部に堆積するリスクを抑制することができる。
【0053】
一方、燃料噴射量の変化率の減少C2に対しては、燃料噴射量(補正前)の値が下限値0.3ml/sを下回っているので、尿素水噴射量(補正後)は、燃料噴射量(補正前)から変化していない。
【0054】
他方、燃料噴射量の変化率の増加C3に対しては、尿素水噴射量(補正後)は、面積A3の分だけ増加している。
【0055】
以上のように、本実施形態によれば、例えば、(1)エンジン回転数の変化率と燃料噴射量の変化率からNOxの変化を計算することにより、エンジン出口に設置したNOxセンサが排ガス中のNOxの変化を検知するより前に尿素噴射量を変化させることができる。これにより、NOxセンサが排ガス中のNOx量の変化を検知するまでの遅れ時間をカバーすることができるため、NOxセンサの設置場所について自由度を増やすことができる。
【0056】
また、尿素噴射量を変化させた場合でも、NOxセンサが排ガス中のNOxの変化を検知することにより制御装置は尿素噴射量を増加させる。このとき、上記(1)で増加させた尿素水噴射量分を差し引くことにより、排気ガス1単位あたりの尿素量を低下させることができ、尿素の析出物が排気管内部に堆積するリスクを減らすことができる。
【0057】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して説明してきたが、具体的な構成は上記実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。例えば、
図3において、補正量調整部107を省略して、補正後尿素水噴射量D15を尿素水噴射量最終値D16としたり、
図5において、温度補正値演算部1071を省略したり、合計値補正量計算部1073を省略して尿素水噴射量最終値決定部1074で合計補正量Sに基づく場合分けを省略したりしてもよい。
【0058】
また、上記実施形態でコンピュータが実行するプログラムの一部または全部は、コンピュータ読取可能な記録媒体や通信回線を介して頒布することができる。
【符号の説明】
【0059】
1…エンジン(内燃機関)、3…排気通路、5…DPF装置、51…DOC、52…DPF、6…SCR装置、61…SCR、7…尿素水インジェクタ(噴射装置)、10…排気浄化システム、91…エンジン出口NOxセンサ、92…SCR出口NOxセンサ、93…SCRベッド温度センサ、100…制御装置、101…燃料噴射制御部、102…尿素水噴射量制御部、103…補正前尿素水噴射量算出部、104…尿素水噴射量補正部