(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022137783
(43)【公開日】2022-09-22
(54)【発明の名称】水性シリコーン樹脂エマルションを含む水性クリヤー塗料組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 183/04 20060101AFI20220914BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20220914BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20220914BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20220914BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20220914BHJP
【FI】
C09D183/04
C09D5/02
C09D7/20
C09D7/61
C09D7/63
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021037451
(22)【出願日】2021-03-09
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】300075348
【氏名又は名称】日本ペイント・インダストリアルコーティングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 宗雄
(72)【発明者】
【氏名】檜垣 泰士
(72)【発明者】
【氏名】安東 弘喜
(72)【発明者】
【氏名】西脇 誉真
(72)【発明者】
【氏名】原田 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】小島 健敬
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038DL031
4J038HA216
4J038JA02
4J038JA05
4J038JA17
4J038JA25
4J038KA06
4J038KA08
4J038KA09
4J038MA06
4J038MA10
4J038MA14
4J038MA16
4J038NA03
4J038PB05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】貯蔵安定性が良好で、優れた耐候性及び耐久性を有し、透明性の高い塗膜を形成することのできる水性クリヤー塗料組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】重量平均分子量が5,000~300,000の範囲内である分岐状オルガノポリシロキサンであるシリコーン樹脂と、水に対する溶解度が小さい炭化水素系溶媒との混合物から、アルコール、アルキレングリコールモノアルキルエーテル、及びアルキレングリコールジアルキルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種の、水に対して溶解する有機溶媒に置換する有機溶媒置換工程、無機酸化物微粒子を混合する工程、更に、乳化剤及び水性媒体の混合物とを機械的乳化処理する工程による、水性シリコーン樹脂エマルションを含む水性クリヤー塗料組成物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性シリコーン樹脂エマルションを含む水性クリヤー塗料組成物の製造方法であって、下記工程;
シリコーン樹脂(A)及び有機溶媒(B1)の混合物から、前記有機溶媒(B1)の少なくとも一部を有機溶媒(B2)及び/又は(B3)に置換し、シリコーン樹脂有機溶媒混合物を得る、有機溶媒置換工程と、
前記シリコーン樹脂有機溶媒混合物と、有機溶媒(B2)及び/又は(B3)と、無機酸化物微粒子(D)とを混合し、シリコーン樹脂混合物を得る、混合工程と、
前記シリコーン樹脂混合物と乳化剤(C)及び水性媒体の混合物とを機械的乳化処理を行うか、又は、前記シリコーン樹脂混合物及び乳化剤(C)の混合物と水性媒体とを機械的乳化処理を行い、水性シリコーン樹脂エマルションを得る、エマルション化工程と、
を包含し、
前記シリコーン樹脂(A)は、重量平均分子量が5,000~300,000の範囲内である分岐状オルガノポリシロキサン(A1)を含み、
前記有機溶媒(B1)は、水に対する溶解度が1g/100gH2O以下の炭化水素系溶媒であり、
前記有機溶媒(B2)は、アルコール、アルキレングリコールモノアルキルエーテル、及びアルキレングリコールジアルキルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒であり、前記有機溶媒(B2)の水に対する溶解度は5g/100gH2O未満であり、
前記有機溶媒(B3)は、アルコール、アルキレングリコールモノアルキルエーテル、及びアルキレングリコールジアルキルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒であり、前記有機溶媒(B3)の水に対する溶解度は5g/100gH2O以上であり、
前記シリコーン樹脂混合物は、有機溶媒(B2)及び(B3)の双方を含む、製造方法。
【請求項2】
前記シリコーン樹脂(A)は、更に、重量平均分子量が1,000~30,000の範囲内である直鎖状オルガノポリシロキサン(A2)を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
更に、前記水性シリコーン樹脂エマルションに、予め調製した重量平均分子量が1,000~30,000の範囲内である直鎖状オルガノポリシロキサン(A2)を含むシリコーン樹脂エマルションを混合する、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記水性クリヤー塗料組成物において、前記分岐状オルガノポリシロキサン(A1)と直鎖状オルガノポリシロキサン(A2)との質量比(A1):(A2)は、98:2~40:60の範囲にある、請求項2又は3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記水性クリヤー塗料組成物において、前記シリコーン樹脂(A)と前記有機溶媒(B)との質量比(A):(B)は、1:1~1:0.2の範囲にある、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記水性クリヤー塗料組成物において、前記有機溶媒(B2)と前記有機溶媒(B3)との質量比(B2):(B3)は、1:0.2~1:2の範囲にある、請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記乳化剤(C)は、アニオン系界面活性剤を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記水性クリヤー塗料組成物において、前記無機酸化物微粒子(D)の含有量は、前記シリコーン樹脂(A)の固形分100質量部に対し、3~20質量部である、請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記無機酸化物微粒子(D)は、酸化チタン、酸化亜鉛及び酸化セリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記無機酸化物微粒子(D)は、平均粒子径が20~300nmの範囲にある、請求項1~9のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性シリコーン樹脂エマルションを含む水性クリヤー塗料組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
住宅、ビル等の建築物の壁面には、風雨に晒され且つ日光の直射を受ける条件において、壁面の品質及び外観を維持することを目的として、種々の外装用塗料組成物が塗装される。このような塗料組成物は、風雨に対する耐候性、耐水性、耐光性、耐変色性、基材に対する密着性等の性能を有することが求められる。また、塗料分野においては、近年、環境負荷、塗装作業上の安全及び衛生等の観点により、塗料組成物の水性化が進んでいる。外装用水性塗料組成物としては、アクリル樹脂エマルションを含む塗料組成物が広く用いられている。
【0003】
長期の耐候性及び耐久性が必要とされる場合には、特定のシリコーン構造を有する変性剤を用いてシリコーン変性したアクリルシリコーン樹脂系エマルションを含む塗料組成物が用いられている。近年においては、性能のさらなる向上が求められており、特に野外の過酷な環境においても長期間外観を維持することができる、優れた耐候性及び耐久性を発揮する水性塗料組成物が求められている。更に、例えば水性クリヤー塗料組成物においては、上記耐候性及び耐久性に加えて、得られる塗膜の透明性が高い、即ち、可視光範囲において透明性を有することもまた必要とされる。
【0004】
例えば、特開2001-172340号公報(特許文献1)には、ポリアルコキシポリシロキサン(a1)と該シロキサンと反応可能な官能基を有する高分子化合物(a2)と反応させて得られるポリアルコキシポリシロキサン系化合物(A)、ラジカル重合性不飽和単量体(B)の重合物(B’)及びシリケートオリゴマー(C)を含有してなることを特徴とする樹脂組成物が記載されている。特許文献1には、上記のような水性樹脂組成物であるため、樹脂組成物の放置安定性、塗膜の耐候性、耐汚染性、耐水性、耐溶剤性、耐割れ性等に優れた効果を示すと記載されている。
【0005】
また、特開2014-031413号公報(特許文献2)には、(i)有機溶剤中で合成されたシリコーンレジン(A)の有機溶剤溶液の溶剤成分をノニオン系乳化剤(B)で置換してシリコーンレジン(A)のノニオン系乳化剤溶液とし;(ii)該シリコーンレジン(A)のノニオン系乳化剤溶液に水を加え;(iii)乳化する;ことを特徴とする、有機溶剤を含有しないシリコーンレジンエマルジョンの製造方法が記載される。特許文献2には、有機溶剤を含有しない安定性に優れたシリコーンレジンエマルジョンが得られることが記載されている。
【0006】
別の例としては、特開2003-213005号公報(特許文献3)には、オルガノポリシロキサン、界面活性剤及び水を主成分とする分散液を少なくとも2つ以上の通路に分岐させた後、該分散液同士を噴射衝突させて微粒子化するオルガノポリシロキサンエマルジョンの製造方法において、該分散液を流速400m/s以上で噴射衝突させることを特徴とするオルガノポリシロキサンエマルジョンの製造方法が記載される。特許文献3では、平均粒子径が小さく、保存安定性、希釈安定性、機械的安定性等の各種安定性が良好なオルガノポリシロキサンエマルジョンが得られることが記載されている。
【0007】
一方で、クリヤー塗料組成物において、耐候性を向上させることを目的として、一般的に、有機紫外線吸収剤(例えば、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤など)が加えられる。有機紫外線吸収剤を用いることによって、クリヤー塗料組成物において求められる可視光透明性を維持しつつ、塗膜に紫外線遮断性を付与することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001-172340号公報
【特許文献2】特開2014-031413号公報
【特許文献3】特開2003-213005号公報
【特許文献4】特開2013-159668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1乃至3に記載されているようなエマルジョンにおいて、耐候性を更に向上させることを目的として、前記エマルジョンに有機紫外線吸収剤、例えば、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を添加した塗料組成物について検討が行われている。
しかしながら、有機紫外線吸収剤を用いた場合には、長期間の屋外曝露により、紫外線吸収剤が塗膜から溶出してしまい、形成される塗膜の紫外線遮断性が長期間維持できず、期待どおりの耐候性を発現させることが困難であることが判明した。
【0010】
例えば、特開2013-159668号公報(特許文献4)では、紫外線吸収剤として、塗膜より溶出し難い無機系紫外線吸収剤を添加した塗料組成物について検討が行われている。しかしながら、無機系紫外線吸収剤を用いた場合には、得られた塗料組成物の貯蔵安定性や、形成された塗膜の耐久性、特に、耐酸性及び耐候性が不十分であるという課題が判明した。
【0011】
本発明は、上記のような課題を解決することを目的とする。具体的には、紫外線吸収剤として無機酸化物微粒子を含む水性クリヤー塗料組成物であって、貯蔵安定性の良好な水性シリコーン樹脂エマルションを含み、優れた耐候性及び耐久性(特に耐酸性)を有し、透明性の高い塗膜を形成することのできる水性クリヤー塗料組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示は、以下の[1]~[10]を提供するものである。
[1]
水性シリコーン樹脂エマルションを含む水性クリヤー塗料組成物の製造方法であって、下記工程;
シリコーン樹脂(A)及び有機溶媒(B1)の混合物から、前記有機溶媒(B1)の少なくとも一部を有機溶媒(B2)及び/又は(B3)に置換し、シリコーン樹脂有機溶媒混合物を得る、有機溶媒置換工程と、
前記シリコーン樹脂有機溶媒混合物と、有機溶媒(B2)及び/又は(B3)と、無機酸化物微粒子(D)とを混合し、シリコーン樹脂混合物を得る、混合工程と、
前記シリコーン樹脂混合物と乳化剤(C)及び水性媒体の混合物とを機械的乳化処理を行うか、又は、前記シリコーン樹脂混合物及び乳化剤(C)の混合物と水性媒体とを機械的乳化処理を行い、水性シリコーン樹脂エマルションを得る、エマルション化工程と、
を包含し、
前記シリコーン樹脂(A)は、重量平均分子量が5,000~300,000の範囲内である分岐状オルガノポリシロキサン(A1)を含み、
前記有機溶媒(B1)は、水に対する溶解度が1g/100gH2O以下の炭化水素系溶媒であり、
前記有機溶媒(B2)は、アルコール、アルキレングリコールモノアルキルエーテル、及びアルキレングリコールジアルキルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒であり、前記有機溶媒(B2)の水に対する溶解度は5g/100gH2O未満であり、
前記有機溶媒(B3)は、アルコール、アルキレングリコールモノアルキルエーテル、及びアルキレングリコールジアルキルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒であり、前記有機溶媒(B3)の水に対する溶解度は5g/100gH2O以上であり、
前記シリコーン樹脂混合物は、有機溶媒(B2)及び(B3)の双方を含む、製造方法。
[2]
前記シリコーン樹脂(A)は、更に、重量平均分子量が1,000~30,000の範囲内である直鎖状オルガノポリシロキサン(A2)を含む、[1]に記載の製造方法。
[3]
更に、前記水性シリコーン樹脂エマルションに、予め調製した重量平均分子量が1,000~30,000の範囲内である直鎖状オルガノポリシロキサン(A2)を含むシリコーン樹脂エマルションを混合する、[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]
前記水性クリヤー塗料組成物において、前記分岐状オルガノポリシロキサン(A1)と直鎖状オルガノポリシロキサン(A2)との質量比(A1):(A2)は、98:2~40:60の範囲にある、[2]又は[3]に記載の製造方法。
[5]
前記水性クリヤー塗料組成物において、前記シリコーン樹脂(A)と前記有機溶媒(B)との質量比(A):(B)は、1:1~1:0.2の範囲にある、[1]~[4]のいずれか1つに記載の製造方法。
[6]
前記水性クリヤー塗料組成物において、前記有機溶媒(B2)と前記有機溶媒(B3)との質量比(B2):(B3)は、1:0.2~1:2の範囲にある、[1]~[5]のいずれか1つに記載の製造方法。
[7]
前記乳化剤(C)は、アニオン系界面活性剤を含む、[1]~[6]のいずれか1つに記載の製造方法。
[8]
前記水性クリヤー塗料組成物において、前記無機酸化物微粒子(D)の含有量は、前記シリコーン樹脂(A)の固形分100質量部に対し、3~20質量部である、[1]~[7]のいずれか1つに記載の製造方法。
[9]
前記無機酸化物微粒子(D)は、酸化チタン、酸化亜鉛及び酸化セリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、[1]~[8]のいずれか1つに記載の製造方法。
[10]
前記無機酸化物微粒子(D)は、平均粒子径が20~300nmの範囲にある、[1]~[9]のいずれか1つに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、無機系紫外線吸収剤として無機酸化物微粒子を含む水性クリヤー塗料組成物であって、貯蔵安定性の良好な水性シリコーン樹脂エマルションを含み、優れた耐候性及び耐久性(特に耐酸性)を有し、透明性の高い塗膜を形成することのできる水性クリヤー塗料組成物の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
水性シリコーン樹脂エマルションに無機酸化物微粒子を後添加して、ディスパー等で混合する方法の場合、得られた塗料組成物の貯蔵安定性や、形成された塗膜の耐久性、特に、耐酸性及び耐候性が不十分であった。
また、特許文献1のように高圧ホモジナイザー等を用いて高剪断力で乳化させる方法(以下、「高圧乳化法」とも言う。)を用いた場合、無機酸化物微粒子を用いる場合には、比重の高い無機酸化物微粒子がシリコーン樹脂と分離する等、得られたエマルションの貯蔵安定性が良好でないことがあった。また、高圧乳化法を用いて形成されたエマルションを含む水性クリヤー塗料組成物では、形成される塗膜物性、特に耐酸性が良好でないことがあった。
そこで本件発明者等は、シリコーン樹脂(A)と無機酸化物微粒子(D)を適切に混合する方法を鋭意検討した結果、以下の本開示の方法を見出した。
【0015】
本開示の水性シリコーン樹脂エマルションを含む水性クリヤー塗料組成物の製造方法は、下記工程;
シリコーン樹脂(A)及び有機溶媒(B1)の混合物から、前記有機溶媒(B1)の少なくとも一部を有機溶媒(B2)及び/又は(B3)に置換し、シリコーン樹脂有機溶媒混合物を得る、有機溶媒置換工程と、
前記シリコーン樹脂有機溶媒混合物と、有機溶媒(B2)及び/又は(B3)と、無機酸化物微粒子(D)とを混合し、シリコーン樹脂混合物を得る、混合工程と、
前記シリコーン樹脂混合物と乳化剤(C)及び水性媒体の混合物とを機械的乳化処理を行うか、又は、前記シリコーン樹脂混合物及び乳化剤(C)の混合物と水性媒体とを機械的乳化処理を行い、水性シリコーン樹脂エマルションを得る、エマルション化工程、
を包含する。但し、前記シリコーン樹脂混合物は、有機溶媒(B2)及び(B3)の双方を含む。
【0016】
本開示の方法を用いると、貯蔵安定性の良好な水性シリコーン樹脂エマルションを含み、優れた耐候性及び耐久性(特に耐酸性)を有し、透明性の高い塗膜を形成することのできる水性クリヤー塗料組成物を製造できる。特定の理論に限定して解釈すべきではないが、特定の有機溶媒(B2)及び(B3)を用い、且つ、上記のような工程を経ることによって、少なくとも一部の無機酸化物微粒子(D)がシリコーン樹脂(A)に内包されると考えられる。その結果、無機酸化物微粒子(D)が水性シリコーン樹脂エマルション及び水性クリヤー塗料組成物中に安定に存在でき、また、塗膜中からの無機酸化物微粒子(D)の脱離を抑制できると考えられる。
また、本開示の方法を用いることにより、分岐状オルガノポリシロキサン(A1)を含むシリコーン樹脂(A)を、十分に微細な平均粒子径で良好にエマルション化することができる。
【0017】
[シリコーン樹脂(A)]
シリコーン樹脂(A)は、重量平均分子量が5,000~300,000の範囲内である分岐状オルガノポリシロキサン(A1)を含む。分岐状オルガノポリシロキサン(A1)の重量平均分子量は、好ましくは、5,000~100,000であり、より好ましくは、5,000~80,000であり、更に好ましくは、5,000~50,000である。分岐状オルガノポリシロキサン(A1)の重量平均分子量が上記範囲内であることにより、貯蔵安定性が良好なシリコーン樹脂エマルションを調製することが可能である。更に、上記シリコーン樹脂エマルションを用いて調製した水性クリヤー塗料組成物では、良好な塗膜強度、耐候性等を有する塗膜が得られる利点がある。
【0018】
分岐状オルガノポリシロキサン(A1)は、例えば、下記式で示される構造を有する化合物である。
[R1SiO3/2]m[R2
2SiO]n
上記式中、R1及びR2は、それぞれ独立して、必要に応じて置換基を有してもよい、水酸基又は炭素数1~20の1価の有機基であり、mは1~1,000の範囲内であり、nは0~100の範囲内である。
なお、上記式中、mは[R1SiO3/2]単位の数を表し、nは[R2
2SiO]単位の数を表す。[R1SiO3/2]単位が含まれることによって、分岐状のオルガノポリシロキサンとなる。上記式において、m+nは1~1,000の範囲内であるのが好ましい。
【0019】
上記式中のR1及びR2の具体例として、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等の、炭素数1~20のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等の、炭素数6~20のアリール基;ビニル基、アリル基等の、炭素数2~20のアルケニル基;水酸基;等が挙げられる。これらの基は、必要に応じて置換基を有してもよい。置換基として、例えば、ハロゲン原子、アミノ基、アクリロキシル基、メタクリロキシル基、エポキシ基、メルカプト基、カルボキシル基等の極性基含有置換基が挙げられる。
【0020】
上記式中、R1及びR2は、それぞれ独立して、水酸基、炭素数1~6の直鎖状炭化水素基、又は炭素数5~7の芳香族炭化水素基であるのが好ましい。
【0021】
分岐状オルガノポリシロキサン(A1)は、上記式で示される構造を有する化合物であり、上記式中、R1及びR2は、それぞれ独立して、水酸基、炭素数1~6の直鎖状炭化水素基、又は炭素数5~7の芳香族炭化水素基であり、mは1~1,000の範囲内であり、nは1~100の範囲内であり、m+nは1~1,000の範囲内であるのがより好ましい。
【0022】
上記式中のR1及びR2において、30モル%以上がメチル基であるのがより好ましく、50モル%以上がメチル基であるのが更に好ましい。
【0023】
上記式中、m:nは、2:8~10:0の範囲内であるのが好ましく、3:7~10:0の範囲内であるのがより好ましく、4:6~10:0の範囲内であるのが更に好ましい。上記比率において、nの比率が8以下であることによって、得られる塗膜の硬度が良好な範囲となり、また良好な耐久性を得ることができる利点がある。
【0024】
上記分岐状オルガノポリシロキサン(A1)は、例えば、クロロシラン又はアルコキシシラン等のシラン化合物を加水分解し、縮合反応することによって調製することができる。
【0025】
上記分岐状オルガノポリシロキサン(A1)として、市販品を用いてもよい。
市販品として、例えば、東レ・ダウコーニング社製の804RESIN、805RESIN、840RESIN、SR-2400;信越化学工業社製のKR-220L、KR-242A、KR-251、KR-225、KR-271、KR-282、X40-2406;旭化成ワッカーシリコーン社製のSILRES K、SILRES KX、SILRES HK46、SILRES REN50、SILRES REN60、SILRES H62C、SILRES MES100;等が挙げられる。
【0026】
シリコーン樹脂(A)は、上記分岐状オルガノポリシロキサン(A1)に加えて、更に、重量平均分子量が1,000~30,000の範囲内である直鎖状オルガノポリシロキサン(A2)を含むのが好ましい。
このようなシリコーン樹脂(A)を含むことにより、水性クリヤー塗料組成物から形成される塗膜の耐水性及び耐薬品性等がより良好になる。これは、分岐状オルガノポリシロキサン(A1)と共に直鎖状オルガノポリシロキサン(A2)を含むことにより、塗膜形成時における硬化反応性が向上するためと考えられる。また、直鎖状オルガノポリシロキサン(A2)を含むことによって、シリコーン樹脂(A)に橋掛け構造、又は橋掛け構造に類似する構造が形成され、耐水性及び耐薬品性等の向上に寄与し得ると考えられる。
【0027】
直鎖状オルガノポリシロキサン(A2)として、例えば下記式で示される構造を有する化合物が挙げられる。
R3-[R4
2SiO]x-R5
上記式中、R3は、水酸基、炭素数1~6の直鎖状炭化水素基、又は、炭素数5~7の芳香族炭化水素基であり、R4は、炭素数1~6の直鎖状炭化水素基、又は、炭素数5~7の芳香族炭化水素基であり、R5は、水素、炭素数1~6の直鎖状炭化水素基、又は、炭素数5~7の芳香族炭化水素基であり、xは1~400の範囲内である。
【0028】
水性クリヤー塗料組成物に含まれる分岐状オルガノポリシロキサン(A1)及び直鎖状オルガノポリシロキサン(A2)の固形分質量比は、(A1):(A2)=98:2~40:60の範囲にあるのが好ましく、98:2~50:50の範囲にあるのがより好ましく、例えば98:2~70:30の範囲にあってもよい。上記範囲にあることによって、得られる塗膜の耐水性及び耐薬品性がより良好となる。
【0029】
[有機溶媒(B)]
有機溶媒(B)は、有機溶媒(B1)、(B2)及び(B3)を含む。
【0030】
水性クリヤー塗料組成物において、シリコーン樹脂(A)と有機溶媒(B)との質量比(A):(B)は、1:2~1:0.1の範囲にあることが好ましく、1:1~1:0.2の範囲にあることがより好ましく、1:0.8~1:0.3の範囲にあることがさらに好ましい。有機溶媒(B)を上記の比率で含むことにより、水性クリヤー塗料組成物の粘度の調整が容易になり、また、水性クリヤー塗料組成物が安定に存在し得る。
【0031】
(有機溶媒(B1))
有機溶媒(B1)は、シリコーン樹脂(A)との混合物として提供される。有機溶媒(B1)は、水に対する溶解度が1g/100gH2O以下の炭化水素系溶媒である。なお、本明細書において、炭化水素系とは、炭素原子及び水素原子のみからなる化合物を示す。また、本明細書において、「水に対する溶解度」は、20℃における溶解度を意味する。
【0032】
有機溶媒(B1)の水に対する溶解度は、例えば、0.01g/100gH2O以上であってもよい。
【0033】
有機溶媒(B1)は、シリコーン樹脂(A)と、好ましくは、任意の比率で混和する。ここで、混和するとは、20℃において混和することを意味する。
【0034】
有機溶媒(B1)は、溶解度が1g/100gH2O以下である1種類の炭化水素系溶媒であってもよく、このような炭化水素系溶媒の混合物であってもよい。
【0035】
有機溶媒(B1)は、炭素数6~20の芳香族炭化水素系溶媒、及び炭素数6~20の脂肪族炭化水素系溶媒から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、炭素数6~10の芳香族炭化水素系溶媒、及び炭素数6~10の脂肪族炭化水素系溶媒から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましく、炭素数6~8の芳香族炭化水素系溶媒であることが更に好ましい。
【0036】
有機溶媒(B1)のうち、有機溶媒の具体例としては、例えば、炭素数6~8の炭化水素系溶媒、具体的にはベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン及びシクロヘキサン等の炭化水素系溶媒が挙げられる。
【0037】
一実施態様において、有機溶媒(B1)は、有機溶媒(B2)及び(B3)よりも低沸点の有機溶媒である。
【0038】
有機溶媒(B1)の沸点は、65~140℃の範囲にあってもよい。
【0039】
有機溶媒(B1)は、水性クリヤー塗料組成物100質量部に対して、0~15質量部含まれていてもよく、0~10質量部含まれていてもよい。
【0040】
有機溶媒(B1)は、水性クリヤー塗料組成物100質量部に対して、1~15質量部含まれていてもよく、2~10質量部含まれていてもよい。
【0041】
一実施態様において、水性クリヤー塗料組成物は、有機溶媒(B1)を実質的に含まない。ここで、実質的に含まないとは、全く含まない、又は極微量であれば含まれていてもよいことを意味する。例えば、有機溶媒(B1)の含有量は、水性クリヤー塗料組成物100質量部に対して、1質量部以下であってもよく、0.5質量部以下であってもよく、0.1質量部未満であってもよい。
【0042】
(有機溶媒(B2))
有機溶媒(B2)は、アルコール、アルキレングリコールモノアルキルエーテル、及びアルキレングリコールジアルキルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒であり、有機溶媒(B2)の水に対する溶解度は5g/100gH2O未満である。有機溶媒(B2)を用いることにより、有機溶媒置換工程及び/又は混合工程における粘度を低減でき、操作を容易にすることができる。また、エマルジョン化工程における粘度の調整を容易にし得る。
有機溶媒(B2)は、例えば、水に対する溶解度が0.1g/100gH2O超である。
有機溶媒(B2)を用いることにより、エマルション化工程における乳化処理において、樹脂エマルションの粘度を調整することが可能となり、安定なエマルション微粒子を得ることができる。
【0043】
有機溶媒(B2)は、好ましくは、アルキレングリコールジアルキルエーテルである。
【0044】
一実施態様において、有機溶媒(B2)としては、炭素数6~16の有機溶媒を挙げることができる。
【0045】
有機溶媒(B2)において、アルコールとしては、例えば、炭素数6~12、好ましくは炭素数6~8の炭化水素基と1つの水酸基とを有する1価のアルコールを挙げることができる。なお、炭化水素基は、環構造を有している構造であってもよく、直鎖或いは分岐状の環構造を有しない構造であってもよい。
【0046】
一実施態様において、アルキレングリコールモノアルキルエーテルとしては、以下の式で表される化合物を用いることができる。
CbH2b+1O(CaH2aO)a’H
ここで、aは、1~4の整数、好ましくは、1~3の整数;a’は1~2の整数、好ましくは、1~2の整数;bは4~10の整数、好ましくは、4~8の整数である。
【0047】
一実施態様において、アルキレングリコールジアルキルエーテルとしては、以下の式で表される化合物を用いることができる。
CdH2d+1O(CcH2cO)c’CdH2d+1
ここで、cは、1~4の整数、好ましくは、1~3の整数;c’は1~3の整数、好ましくは、1~3の整数;dはそれぞれ独立して3~6の整数である。例えば、cが2、c’が1又は2、dが4の化合物を用いることができる。
【0048】
有機溶媒(B2)としては、例えば、ヘキサノール、シクロヘキサノール、オクタノール等のアルコール;エチルヘキシルグリコール、エチレングリコールフェニルエーテル、プロピレングリコールフェニルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル;エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル等のアルキレングリコールジアルキルエーテルが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
有機溶媒(B2)の沸点は、150~260℃の範囲にあってもよい。
【0050】
有機溶媒(B2)は、水性クリヤー塗料組成物100質量部に対して、1~20質量部含まれていてもよく、1~15質量部含まれていてもよい。有機溶媒(B2)を上記範囲含むことにより、エマルジョン化工程において粘度の調整を容易にし得る。
【0051】
(有機溶媒(B3))
有機溶媒(B3)は、アルコール、アルキレングリコールモノアルキルエーテル、及びアルキレングリコールジアルキルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒であり、前記有機溶媒(B3)の水に対する溶解度は5g/100gH2O以上である。有機溶媒(B3)を用いることにより、有機溶媒置換工程及び/又は混合工程における粘度を低減でき、操作を容易にすることができる。また、エマルジョン化工程において、より安定に乳化し得るように調整できる。
【0052】
一実施態様において、有機溶媒(B3)は、例えば、水に対する溶解度が20g/100gH2O以下である。
【0053】
一実施態様において、有機溶媒(B3)は、水と任意の比率で混合し得る。
【0054】
有機溶媒(B3)は、好ましくは、アルキレングリコールモノアルキルエーテルである。
【0055】
一実施態様において、有機溶媒(B3)としては、炭素数4~8の有機溶媒を挙げることができる。
【0056】
有機溶媒(B3)において、アルコールとしては、例えば、炭素数4~5の炭化水素基と1つの水酸基とを有する1価のアルコール、炭素数2~3の炭化水素基と2つの水酸基とを有する2価のアルコール(即ち、アルキレングリコール)、炭素数3~4の炭化水素基と3つの水酸基とを有する3価のアルコール(即ち、アルキレントリオール)を挙げることができる。
【0057】
一実施態様において、アルキレングリコールモノアルキルエーテルとしては、以下の式で表される化合物を用いることができる。
CfH2f+1O(CeH2eO)e’H
ここで、eは、1~4の整数、好ましくは、1~3の整数;e’は1~2の整数、好ましくは、1~2の整数;fは1~5の整数、好ましくは、1~4の整数である。例えば、eが3、e’が1、fが4の化合物を用いることができる。
【0058】
一実施態様において、アルキレングリコールジアルキルエーテルとしては、以下の式で表される化合物を用いることができる。
ChH2h+1O(CgH2gO)g’ChH2h+1
ここで、gは、1~3の整数、好ましくは、1~2の整数;g’は1~2の整数、好ましくは、1~2の整数;hはそれぞれ独立して1~3の整数、好ましくは、それぞれ独立して1~2の整数である。例えば、gが2、g’が1、hが1の化合物を用いることができる。
【0059】
有機溶媒(B3)としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等のアルコール;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等のアルキレングリコールジアルキルエーテルが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0060】
有機溶媒(B3)の沸点は、120~200℃の範囲にあってもよい。
【0061】
有機溶媒(B3)は、水性クリヤー塗料組成物100質量部に対して、1~20質量部含まれていてもよく、1~15質量部含まれていてもよい。有機溶媒(B3)を上記範囲含むことにより、エマルジョン化工程において、より容易に乳化し得る。
【0062】
有機溶媒(B2)及び(B3)の合計量は、水性クリヤー塗料組成物100質量部に対して、1~30質量部の範囲にであってもよく、1~20質量部の範囲にあってもよい。
【0063】
上記の有機溶媒(B2)及び(B3)を含むことにより、シリコーン樹脂混合物において凝集が生じることを抑制できる。また、有機溶媒(B2)及び(B3)を含むことにより、シリコーン樹脂混合物の粘度を上げることができ、エマルション化工程における乳化を容易にすることができる。更に、得られる水性シリコーン樹脂エマルションが安定に存在し得る。
【0064】
水性クリヤー塗料組成物において、有機溶媒(B2)と有機溶媒(B3)との質量比(B2):(B3)は、1:0.2~1:2の範囲にあってもよく、1:0.2~1:1の範囲にあってもよい。このような質量比で含まれることにより、エマルション化工程における乳化をより容易にすることができる。また、得られる水性シリコーン樹脂エマルションがより安定に存在し得る。
【0065】
[乳化剤(C)]
乳化剤(C)を添加することにより、水性シリコーン樹脂エマルションを安定に乳化できる。
【0066】
乳化剤(C)は、水性シリコーン樹脂エマルションを安定に乳化できるものであれば特に限定されない。例えば、
アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸エステル塩、アルキルジフェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルケニルコハク酸塩等のアニオン界面活性剤;
第四級アンモニウム塩等のカチオン界面活性剤;
グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、アルキルグリセリルエーテル、アルキルアルカノールアミド、アルキルポリグルコシド等のノニオン界面活性剤;
アルキルベタイン、イミダゾリン型ベタイン、アルキルアミンオキサイド、アルキルアミドプロピルベタイン、アルキルヒドロキシスルホベタイン等の両性界面活性剤;
等を用いることができる。
【0067】
これらの乳化剤(C)は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0068】
乳化剤(C)は、アニオン界面活性剤を含むのが好ましい。アニオン界面活性剤を含む乳化剤(C)を用いると、好適な範囲の平均粒子径を有し、貯蔵安定性に優れたシリコーン樹脂エマルションを得ることができる。
【0069】
好ましいアニオン界面活性剤として、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩である、ニューコール707SN、ニューコール714SN、ニューコール780SF、ニューコール2308SF(いずれも日本乳化剤社製);ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸エステル塩である、ラテムルPD-104(花王社製)、アクアロンKH-1025(第一工業製薬社製);アルキルベンゼンスルホン酸塩である、ネオゲンS-20F(第一工業製薬社製)、ネオペレックスG-65、ネオペレックスG-25(いずれも花王社製);アルキルジフェニルエーテル硫酸エステル塩である、ペレックスSS-L、ペレックスSS-H(いずれも花王社製);アルケニルコハク酸塩である、ラテムルASK、ラテムルDSK(いずれも花王社製)等が挙げられる。
【0070】
一実施態様において、乳化剤(C)は、アニオン界面活性剤及びノニオン界面活性剤を含む。
【0071】
[無機酸化物微粒子(D)]
水性クリヤー塗料組成物に無機酸化物微粒子(D)が含まれることによって、クリヤー塗料組成物において求められる得られる塗膜の可視光透明性を維持しつつ、耐候性を長期間維持することができる。
【0072】
無機酸化物微粒子(D)を構成する無機酸化物として、例えば、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化セリウム、酸化アンチモン及びこれらの複酸化物が挙げられる。無機酸化物微粒子(D)は、好ましくは、酸化チタン、酸化亜鉛、及び酸化セリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、酸化チタン及び酸化亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましい。このような無機酸化物を含むことにより、塗膜の紫外線吸収性能及び可視光透過性等がより良好になる。このような無機酸化物微粒子(D)は、水性クリヤー塗料組成物の貯蔵安定性の向上に寄与し得る。
【0073】
一実施態様において、無機酸化物微粒子(D)は、好ましくは、酸化チタン、酸化亜鉛、及び酸化セリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、酸化チタン及び酸化亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種であるのがより好ましい。
【0074】
水性クリヤー塗料組成物において、無機酸化物微粒子(D)の含有量は、シリコーン樹脂(A)の固形分100質量部に対し、3~20質量部であるのが好ましく、2~15質量部であるのがより好ましい。無機酸化物微粒子(D)の量が上記範囲内であることにより、クリヤー塗料組成物において求められる可視光透明性を維持しつつ、耐候性の良好な塗膜を形成し得る。
【0075】
無機酸化物微粒子(D)は、その表面が表面処理されていてもよい。即ち、無機酸化物微粒子(D)のは、その表面に表面被覆層を含んでいてもよい。
【0076】
上記無機酸化物微粒子(D)は、例えば、有機ケイ素化合物による有機表面被覆が形成されたものであってもよく、ケイ素、アルミニウム、亜鉛、鉄、チタン及びジルコニウムから選択される1種又はそれ以上の元素の水酸化物及び又は酸化物による無機表面被覆が形成されたものであってもよく、上記無機表面被覆及び上記有機表面被覆の両方が形成されたものであってもよい。
【0077】
上記有機表面被覆を形成する表面処理として、例えば、メチルハイドロジェンポリシロキサンコポリマー等の水素-ケイ素結合を有するシリコーン化合物、又は、反応基としてアルコキシ基-ケイ素結合を有する化合物(例えば、トリエトキシシリルエチルポリジメチルシロキシエチルジメチコン、トリエトキシシリルエチルポリジメチルシロキシエチルヘキシルジメチコン等)等の有機ケイ素化合物を用いた処理が挙げられる。
有機表面被覆処理方法としては、特に限定されず、乾式処理又は湿式処理等の公知の方法を用いることができる。
有機表面被覆処理は、被覆処理後の無機酸化物微粒子(D)の質量に対して、0.1~20質量%の範囲内となる量で行うのが好ましい。
【0078】
上記無機表面被覆を形成する表面処理として、ケイ素、アルミニウム、亜鉛、鉄、チタン及びジルコニウムから選択される1種又はそれ以上の元素の水酸化物及び又は酸化物を含む無機表面被覆を提供する表面処理剤を用いた処理を挙げることができる。このような表面処理剤としては、例えば、ケイ酸ナトリウム、テトラメチルシリケート及びその縮合物、テトラエチルシリケート及びその縮合物、アルミン酸ナトリウム、ジルコン酸ナトリウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム、その他上記元素の硫酸塩、硝酸塩、塩化物等を含む表面処理剤が挙げられる。
【0079】
表面処理剤を用いた無機表面被覆処理方法は、特に限定されず、例えば、無機酸化物微粒子を水に分散させて水スラリーとし、この水スラリーに表面処理剤を添加し、乾燥・焼成・粉砕を行う方法;無機酸化物微粒子を水分散させて水スラリーとし、この水スラリーに表面処理剤を添加し、中和・水洗・乾燥・粉砕を行う方法;無機酸化物微粒子に表面処理剤を添加し、焼成を行い、表面処理剤を熱分解させる方法;等が挙げられる。
無機表面被覆の量は、被覆処理後の無機酸化物微粒子(D)の質量に対して、0.1~30質量%の範囲であることが好ましい。
【0080】
上記表面処理は、第1の表面処理として無機表面被覆処理を行い、無機表面被覆層を形成し、次いで第2の表面処理として有機表面被覆処理を行い、有機表面被覆層を形成する態様がより好ましい。より好ましい態様として、例えば、第1の表面処理として、含水シリカを用いて、無機表面被覆層を形成し、次いで、第2の表面処理として、オルガノポリシロキサンを用いて、有機表面被覆層を形成する態様が挙げられる。このような表面処理を行った無機酸化物微粒子(D)として、例えば、堺化学工業社製のFINEXシリーズ等が挙げられる。
【0081】
酸化ケイ素の無機酸化物微粒子(D)として、上記範囲の平均粒子径を有するシリカ微粒子が挙げられる。このようなシリカ微粒子の具体例として、例えば、日産化学工業社製のオルガノシリカゾルである、メタノールシリカゾル、IPA-ST、IPA-ST-ZL、EG-ST、NPC-ST-30、DMAC-ST、MEK-ST、MIBK-ST、XBA-ST、PMA-ST、PGM-ST等が挙げられる。
酸化チタンの無機酸化物微粒子(D)として、例えば、日揮触媒化成社製の1120Z、2120Z、6320Z、TECNAN社製のTECNADIS-TI-220等、堺化学工業社製のSTRシリーズ、石原産業社製のTTOシリーズ等が挙げられる。
酸化スズの無機酸化物微粒子(D)として、例えば、日産化学工業社製のCX-S303IP、CX-S301H、CX-S501M、CX-S505M等が挙げられる。
酸化セリウムの無機酸化物微粒子(D)として、例えば、日産化学工業社製のCE-20A、TECNAN社製のTECNADIS-CE-220等が挙げられる。
酸化亜鉛の無機酸化物微粒子(D)として、例えば、ハクスイテック社製のF-2、F-1、住友大阪セメント社製のZnO-310、ZnO-410、ZnO-510、TECNAN社製のTECNADIS-ZN-220等、堺化学工業社製のFINEXシリーズ等、石原産業社製のFZOシリーズ等が挙げられる。
酸化アンチモンの無機酸化物微粒子(D)として、例えば、日本精鉱社製のPATOX-U等が挙げられる。
金属酸化物の複酸化物の無機酸化物微粒子(D)として、例えば、酸化亜鉛(ZnO)及び五酸化アンチモン(Sb2O5)の複酸化物(ZnSb2O6)等が挙げられる。このような複酸化物の具体例として、例えば、日産化学工業社製のCX-Z210IP-F2、CX-Z330H、CX-Z610M-F2等が挙げられる。
【0082】
無機酸化物微粒子(D)の平均粒子径は、20~300nmの範囲にあることが好ましく、20~100nmの範囲にあることがより好ましい。上記のような無機酸化物微粒子(D)を用いることにより、塗膜において、可視光透明性を維持しつつ、紫外線遮断性能を付与することができ、且つ、紫外線遮断性を長期間維持し得る。
本明細書において、無機酸化物微粒子(D)の平均粒子径は、50%体積粒径(D50、体積累積粒子径D50とも言われる)を意味する。具体的には、無機酸化物微粒子(D)の粒度分布において、小粒子径側からある粒子径までの間で積算した粒子の合計体積を、粒子全体の体積に対する百分率で表したときに、その値が50%となるときの粒子径である。50%体積粒径(D50)は、レーザー回折・散乱法、例えば、UPA-150(マイクロトラック・ベル社製粒度分布測定装置)等を用いて測定することができる。
【0083】
上記のような平均粒子径を有する無機酸化物微粒子(D)は、湿式分散処理を行うことによって得られる。湿式分散処理は、無機酸化物微粒子(D)を、有機溶媒を含む液体中で細分化するかくはん方式である。
【0084】
無機酸化物微粒子(D)の湿式分散処理は、一般的なディスパー分散、ミル分散等で行うことが可能である。湿式分散処理には、必要に応じて分散剤を使用してもよい。
【0085】
湿式分散時の粘度は300mPa・s以下であるのが好ましく、100mPa・s以下であるのがより好ましい。
【0086】
上記分散剤として、塗料分野において用いられる分散剤である高分子分散剤を好ましく用いることができる。
【0087】
上記高分子分散剤としては、例えば、ポリエステル系、ポリアクリル系、ポリウレタン系、ポリアミン系、ポリカプトラクトン系の主鎖を有し、側鎖に、アミノ基、カルボキシ基、スルホ基、ヒドロキシ基等の極性基を有する分散剤等が挙げられる。
【0088】
高分子分散剤の具体例として、例えば、
ポリアクリル酸エステル等の不飽和カルボン酸エステルの(共)重合体類;
スチレン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物とアクリル酸エステル等の不飽和カルボン酸エステルの共重合体類;
ポリアクリル酸等の不飽和カルボン酸の(共)重合体の(部分)アミン塩、(部分)アンモニウム塩又は(部分)アルキルアミン塩類;
水酸基含有ポリアクリル酸エステル等の水酸基含有不飽和カルボン酸エステルの(共)重合体又はそれらの変性物;
ポリウレタン類;不飽和ポリアミド類;ポリシロキサン類;長鎖ポリアミノアミドリン酸塩類;ポリエチレンイミン誘導体(ポリ(低級アルキレンイミン)と遊離カルボキシル基含有ポリエステルとの反応により得られるアミド又はそれらの塩基);
ポリアリルアミン誘導体(ポリアリルアミンと、遊離のカルボキシル基を有するポリエステル、ポリアミド又はエステルとアミドの共縮合物(ポリエステルアミド)の3種の化合物の中から選ばれる1種以上の化合物とを反応させて得られる反応生成物);等が挙げられる。
【0089】
高分子分散剤として、市販品を用いてもよい。市販品として、例えば、DISPERBYKシリーズ(BYK Chemie社製)、ソルスパースシリーズ(Lubrizol社製)、EFKAPOLYMERシリーズ(BASF社製)、SNディスパーサントシリーズ(サンノプコ社製)等が挙げられる。
【0090】
上記有機溶媒を含む液体に含まれる有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール系溶媒;メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、アニソール、フェネトール等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、エチレングリコールジアセテート等のエステル系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等のアミド系溶媒;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒;等が挙げられる。上記有機溶媒を含むことにより、無機酸化物微粒子(D)をより良好に湿式分散させることができる。
【0091】
上記有機溶媒を含む液体は、水を含んでいてもよい。
【0092】
一実施態様において、上記有機溶媒を含む液体に含まれる有機溶媒としては、有機溶媒(B2)及び/又は(B3)として挙げた有機溶媒を用いる。
【0093】
無機酸化物微粒子(D)は、有機溶媒を含む液体中に分散した状態で用いることが好ましい。上記有機溶媒は、好ましくは有機溶媒(B2)及び/又は(B3)である。
有機溶媒を含む液体中に分散した状態で用いる場合、該液体100質量部に対して、無機酸化物微粒子(D)は、100~300質量部含まれることが好ましく、100~200質量部含まれることがより好ましい。無機酸化物微粒子(D)の量が上記範囲内にあることで、無機酸化物微粒子の分散性が良好となる。
【0094】
[水性媒体]
本開示において、水性媒体とは、水を含む媒体である。この水性媒体は、場合によって、水親和性有機溶媒を数質量%の範囲で含んでもよい。
【0095】
水親和性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール系溶媒;メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、アニソール、フェネトール等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、エチレングリコールジアセテート等のエステル系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等のアミド系溶媒;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒;等が挙げられる。
【0096】
以下、本開示の製造方法の各工程について説明する。
【0097】
[有機溶媒置換工程]
有機溶媒置換工程は、シリコーン樹脂(A)及び有機溶媒(B1)の混合物から、前記有機溶媒(B1)の少なくとも一部を有機溶媒(B2)及び/又は(B3)に置換し、シリコーン樹脂有機溶媒混合物を得る工程である。
本工程において、具体的には、シリコーン樹脂(A)及び有機溶媒(B1)の混合物に、有機溶媒(B2)及び/又は(B3)を添加した後、有機溶媒(B1)の少なくとも一部を取り除くことができる(脱溶媒)。
有機溶媒(B1)の少なくとも一部を有機溶媒(B2)及び/又は(B3)に置換することにより、安定な水性シリコーン樹脂エマルションを得ることができる。また、有機溶媒(B1)を有機溶媒(B2)及び/又は(B3)に置換することにより、溶剤臭が低減された水性シリコーン樹脂エマルションを得ることができる。この置換工程は、有機溶媒(B1)を用いることにより、簡便に行うことができる。
なお、以下において、有機溶媒置換工程を「有機溶媒置換工程(1)」と記載することがある。
【0098】
有機溶媒(B1)を取り除く方法としては、当業者に知られる一般的な脱溶媒方法を用いることができる。脱溶媒方法の一例として、例えば、一般的なかくはん脱溶媒槽を使用する方法;流下薄膜方式を用いる方法;又は、ロータリーエバポレーター等を使用し、加熱及び/又は減圧することにより、取り除く方法等が挙げられる。
【0099】
上記シリコーン樹脂(A)及び有機溶媒(B1)の混合物は、例えば、シリコーン樹脂(A)と有機溶媒(B1)とを質量比1:2~1:0.2の範囲で含んでいてもよく、1:1.5~1:0.2の範囲で含んでいてもよい。
【0100】
シリコーン樹脂(A)及び有機溶媒(B1)の混合物として、市販品を用いてもよい。
【0101】
上記工程において、シリコーン樹脂(A)は、分岐状オルガノポリシロキサン(A1)を含む。
【0102】
上記工程において、シリコーン樹脂(A)は、更に、直鎖状オルガノポリシロキサン(A2)を含んでいてもよい。この場合、分岐状オルガノポリシロキサン(A1)及び直鎖状オルガノポリシロキサン(A2)の質量比(A1):(A2)は98:2~40:60の範囲にあってもよい。
【0103】
上記工程において、有機溶媒(B2)及び/又は(B3)としては、有機溶媒(B2)のみを用いてもよく、有機溶媒(B3)のみを用いてもよく、有機溶媒(B2)及び(B3)を用いてもよい。
有機溶媒(B2)及び/又は(B3)を添加することにより、シリコーン樹脂有機溶媒混合物の粘度を調整し得る。
【0104】
上記工程において、有機溶媒(B2)及び(B3)を用いてもよい。
【0105】
シリコーン樹脂有機溶媒混合物において、シリコーン樹脂(A)と、有機溶媒(B2)及び(B3)の合計との質量比(A):(B2)+(B3)は、1.0:0.2~1.0:1.0の範囲にあることが好ましく、1.0:0.3~1.0:0.8の範囲にあることが好ましい。
【0106】
シリコーン樹脂有機溶媒混合物100質量部に対して、有機溶媒(B1)は、0~10質量部含まれていてもよく、0~8質量部含まれていてもよい。有機溶媒(B1)の含有量が上記範囲内にあることで、水性エマルション樹脂において、無機酸化物微粒子(D)が安定に分散するという利点がある。
【0107】
一実施態様において、シリコーン樹脂有機溶媒混合物は、有機溶媒(B1)を実質的に含まない。ここで、実質的に含まないとは、全く含まない、又は極微量であれば含まれていてもよいことを意味する。例えば、シリコーン樹脂有機溶媒混合物100質量部に対して1.0質量部以下含まれていてもよく、0.5質量部以下含まれていてもよい。
【0108】
[混合工程]
混合工程は、シリコーン樹脂有機溶媒混合物と、有機溶媒(B2)及び/又は(B3)と、無機酸化物微粒子(D)とを混合し、シリコーン樹脂混合物を得る工程である。
なお、以下において、混合工程を「混合工程(2)」と記載することがある。
【0109】
上記混合する方法としては、塗料分野で通常用いられる混合、分散処理方法(例えば、ディスパーかくはん、ミル分散等)を用いることができる。
【0110】
混合工程において、有機溶媒として、有機溶媒(B2)のみを添加してもよく、有機溶媒(B3)のみを添加してもよく、有機溶媒(B2)及び(B3)を添加してもよい。但し、シリコーン樹脂混合物中には、有機溶媒(B2)及び(B3)の双方が含まれる。
言い換えると、有機溶媒置換工程において、有機溶媒(B2)のみを添加した場合には、混合工程において、少なくとも有機溶媒(B3)を添加し;有機溶媒置換工程において、有機溶媒(B3)のみを添加した場合には、混合工程においては少なくとも有機溶媒(B2)を添加し;有機溶媒置換工程において、有機溶媒(B2)及び(B3)を添加した場合には、混合工程において、有機溶媒(B2)及び(B3)の少なくとも一方を添加することができる。また、有機溶媒置換工程において、有機溶媒(B2)及び(B3)を所定の量添加した場合には、混合工程において、有機溶媒(B2)及び(B3)を添加しなくてもよい。
有機溶媒(B2)及び(B3)を含むことにより、シリコーン樹脂混合物において、シリコーン樹脂(A)及び無機酸化物微粒子(D)等が凝集することを抑制できる。更に、有機溶媒(B2)及び(B3)を含むことにより、シリコーン樹脂混合物の粘度を増加させることができ、エマルション化工程における乳化を容易にすることができる。
【0111】
混合工程において、有機溶媒(B2)及び(B3)を添加する場合、添加する有機溶媒(B2)及び(B3)の質量比は、1.0:0.1~1.0:2.0の範囲にあってもよく、好ましくは1.0:0.3~1.0:1.5の範囲にあってもよい。
【0112】
混合工程において添加する有機溶媒(B2)及び(B3)の合計量は、シリコーン樹脂有機溶媒混合物100質量部に対し、1~50質量部であることが好ましく、2~40質量部であることがより好ましい。有機溶媒(B2)及び(B3)の合計量が上記範囲内にあることで、シリコーン樹脂混合物の粘度を増加させることができ、エマルション化工程における乳化を容易にすることができる。
【0113】
混合工程において添加する無機酸化物微粒子(D)は、シリコーン樹脂(A)100質量部に対し、1~15質量部であることが好ましく、4~12質量部であることがより好ましい。無機酸化物微粒子(D)の量が上記範囲内にあることで、得られる塗膜の可視光透明性を維持しつつ、塗膜の耐候性を長期間維持することができる。
【0114】
混合工程において、無機酸化物微粒子(D)は、予め、有機溶媒(B2)及び/又は(B3)に分散させた分散液として添加することが好ましい。この場合、該分散液は、無機酸化物微粒子(D)を、有機溶媒(B2)及び/又は(B3)中で、湿式分散処理することにより得ることができる。
【0115】
一実施態様において、混合工程は、シリコーン樹脂有機溶媒混合物と、有機溶媒(B2)及び/又は(B3)に分散させた無機酸化物微粒子(D)とを混合し、シリコーン樹脂混合物を得る工程である。
【0116】
一実施態様において、混合工程は、シリコーン樹脂有機溶媒混合物と、有機溶媒(B2)及び/又は(B3)と、有機溶媒(B2)及び/又は(B3)に分散させた無機酸化物微粒子(D)とを混合し、シリコーン樹脂混合物を得る工程である。
【0117】
シリコーン樹脂混合物において、シリコーン樹脂(A)は、シリコーン樹脂混合物100質量部に対し、50~80質量部含まれていてもよく、60~70質量部含まれていてもよい。
【0118】
シリコーン樹脂混合物における有機溶媒(B2)及び(B3)の合計量は、シリコーン樹脂(A)100質量部に対し、10~200質量部であることが好ましく、20~100質量部であることがより好ましく、30~80質量部であることが更に好ましい。有機溶媒(B2)及び(B3)の合計量が上記範囲内にあることで、シリコーン樹脂混合物の粘度を増加させることができ、エマルション化工程における乳化を容易にすることができる。
【0119】
シリコーン樹脂混合物において、有機溶媒(B2)は、シリコーン樹脂(A)100質量部に対し、10~70質量部であることが好ましく、15~60質量部であることがより好ましい。
【0120】
シリコーン樹脂混合物において、有機溶媒(B3)は、シリコーン樹脂(A)100質量部に対し、5~30質量部であることが好ましく、7~25質量部であることがより好ましく、7~20質量部であることが更に好ましい。
【0121】
シリコーン樹脂混合物において、無機酸化物微粒子(D)の含有量は、シリコーン樹脂(A)100質量部に対し、2~20質量部であることが好ましく、2~10質量部であることがより好ましい。
【0122】
[エマルション化工程]
エマルション化工程は、シリコーン樹脂混合物と乳化剤(C)及び水性媒体の混合物とを機械的乳化処理を行うか、又は、前記シリコーン樹脂混合物及び乳化剤(C)の混合物と水性媒体とを機械的乳化処理を行い、水性シリコーン樹脂エマルションを得る工程である。
なお、以下において、エマルション化工程を「エマルション化工程(3)」と記載することがある。
【0123】
エマルション化工程において、乳化剤(C)は、シリコーン樹脂混合物100質量部に対し、1~15質量部添加してもよく、1~10質量部添加してもよい。
【0124】
一実施態様において、乳化剤(C)は、アニオン界面活性剤及びノニオン界面活性剤を含む。
【0125】
アニオン界面活性剤及びノニオン界面活性剤の質量比は、1:0~1:10であってもよく、1:0~1:5であってもよい。
【0126】
上記水性シリコーン樹脂エマルションは、より詳細には、例えば下記(1)~(8)のいずれかを行うことにより得ることができる。
(1)シリコーン樹脂混合物の全量と、乳化剤(C)及び水性媒体の混合物の全量とを一旦混合し、次いで機械的乳化処理を行う手順。
(2)シリコーン樹脂混合物の全量に対して、乳化剤(C)及び水性媒体の混合物の一部を最初に添加して機械的乳化処理を行い、次いで、残りの乳化剤(C)及び水性媒体の混合物を添加して機械的乳化処理を行う手順。
(3)シリコーン樹脂混合物の全量に対して、乳化剤(C)を一旦混合し、次いで、水性媒体を添加しながら機械的乳化処理を行う手順。
(4)シリコーン樹脂混合物の一部と、乳化剤(C)及び水性媒体の混合物の一部とを最初に添加して機械的乳化処理を行い、次いで、それぞれの残りの混合物を添加しながら機械的乳化処理を行う手順。
(5)シリコーン樹脂混合物の一部と、乳化剤(C)及び水性媒体の混合物の全量を最初に添加して機械的乳化処理を行い、次いで、残りのシリコーン樹脂混合物を添加ししながら機械的乳化処理を行う手順。
(6)乳化剤(C)及び水性媒体の混合物の全量に対して、シリコーン樹脂混合物の一部を添加して混合し、次いで、残りのシリコーン樹脂混合物を添加しながら機械的乳化処理を行う手順。
(7)シリコーン樹脂混合物の全量に対して、乳化剤(C)の一部を一旦混合し、次いで、残りの乳化剤と水性媒体の混合物を添加しながら機械的乳化処理を行う手順。
(8)シリコーン樹脂混合物の全量に対して、乳化剤(C)及び水性媒体の一部を一旦混合し、次いで残りの水性媒体を添加しながら機械的乳化処理を行う手順。
【0127】
エマルション化工程における上記機械的乳化処理は、物理的対流を利用して行う乳化処理を意味する。機械的乳化処理の具体例として、例えば、ディスパーやホモミキサーを用いたかくはん処理(500~5,000rpm)、及び高速回転かくはん処理等が挙げられる。
【0128】
高速回転かくはん処理は、かくはん子を高速回転させることによるかくはん処理である。高速回転としては、例えば、5,000~30,000rpmでかくはんを行う態様が挙げられる。高速回転かくはん処理の具体例として、例えばクレアミックス、クレアミックスWモーション(エム・テクニック社製)等を用いた高速回転かくはん処理が挙げられる。
【0129】
水性シリコーン樹脂エマルションの平均粒子径は、100~500nmの範囲内であるのが好ましく、100~400nmの範囲内であるのがより好ましい。
本明細書において、樹脂エマルションの平均粒子径は、動的光散乱法によって決定される平均粒子径であり、具体的には、電気泳動光散乱光度計ELSZシリーズ(大塚電子社製)等を使用して測定することができる。
水性シリコーン樹脂エマルションは、水性クリヤー塗料組成物調製用として好適であり、良好な貯蔵安定性を有する。
【0130】
本開示の製造方法は、更に他の工程を含んでいてもよい。
他の工程としては、例えば、エマルション化工程で得られた水性シリコーン樹脂エマルションに、別途調製したエマルションを添加する工程、無機酸化物微粒子(D)を更に添加する工程、他の添加剤を添加する工程等が挙げられる。
【0131】
本開示の製造方法の具体的な例を、以下に第1態様、第2態様として例示する。本発明がこれらの態様に限定されないのは言うまでもない。なお、特に記載がなければ、各工程については、上述した工程と同様に行うことができ、各成分については、上述した成分を用いることができる。
【0132】
(第1態様)
第1態様では、水性シリコーン樹脂エマルションを含む水性クリヤー塗料組成物の製造方法は、以下の工程を包含する。
シリコーン樹脂(A)及び有機溶媒(B1)の混合物から、前記有機溶媒(B1)の少なくとも一部を有機溶媒(B2)及び/又は(B3)に置換し、シリコーン樹脂有機溶媒混合物を得る、有機溶媒置換工程(1)と、
前記シリコーン樹脂有機溶媒混合物と、有機溶媒(B2)及び/又は(B3)と、無機酸化物微粒子(D)とを混合し、シリコーン樹脂混合物を得る、混合工程(2)と、
前記シリコーン樹脂混合物と乳化剤(C)及び水性媒体の混合物とを機械的乳化処理を行うか、又は、前記シリコーン樹脂混合物及び乳化剤(C)の混合物と水性媒体とを機械的乳化処理を行い、水性シリコーン樹脂エマルションを得る、エマルション化工程(3)。
【0133】
上記第1態様においては、シリコーン樹脂有機溶媒混合物の調製に用いられるシリコーン樹脂(A)は、分岐状オルガノポリシロキサン(A1)を含む。
【0134】
上記第1態様においては、シリコーン樹脂有機溶媒混合物の調製に用いられるシリコーン樹脂(A)は、分岐状オルガノポリシロキサン(A1)に加えて、更に、直鎖状オルガノポリシロキサン(A2)を含むことが好ましい。この場合、シリコーン樹脂有機溶媒混合物の粘度及び/又はエマルション化工程における粘度を適正範囲に調整することがより容易となる。
【0135】
(第2態様)
第2態様では、水性シリコーン樹脂エマルションを含む水性クリヤー塗料組成物の製造方法は、以下の工程を包含する。
シリコーン樹脂(A)及び有機溶媒(B1)の混合物から、前記有機溶媒(B1)の少なくとも一部を有機溶媒(B2)及び/又は(B3)に置換し、シリコーン樹脂有機溶媒混合物を得る、有機溶媒置換工程(1)と、
前記シリコーン樹脂有機溶媒混合物と、有機溶媒(B2)及び/又は(B3)と、無機酸化物微粒子(D)とを混合し、シリコーン樹脂混合物を得る、混合工程(2)と、
前記シリコーン樹脂混合物と乳化剤(C)及び水性媒体の混合物とを機械的乳化処理を行うか、又は、前記シリコーン樹脂混合物及び乳化剤(C)の混合物と水性媒体とを機械的乳化処理を行い、水性シリコーン樹脂エマルション(「シリコーン樹脂エマルション(I)」と称することがある)を得る、エマルション化工程(3)と、
シリコーン樹脂エマルション(I)に、予め調製した直鎖状オルガノポリシロキサン(A2)を含むエマルション(「エマルション(II)」と称することがある)を混合し、混合物を得る工程(4)。
【0136】
上記第2態様においては、シリコーン樹脂有機溶媒混合物の調製に用いられるシリコーン樹脂(A)は、分岐状オルガノポリシロキサン(A1)を含む。
【0137】
上記第2態様においては、シリコーン樹脂有機溶媒混合物の調製に用いられるシリコーン樹脂(A)は、分岐状オルガノポリシロキサン(A1)に加えて、更に、直鎖状オルガノポリシロキサン(A2)を含むことが好ましい。
【0138】
上記第2態様において、エマルション(II)は、混合工程において、無機酸化物微粒子(D)を使用しないこと以外は、上記の工程と同様の方法で得ることができる。有機溶媒(B)、乳化剤(C)及び水性媒体としては、上記と同様のものを用いることができる。
【0139】
上記工程(4)において、上記シリコーン樹脂エマルション(I)と、上記エマルション(II)とは、例えば、得られる混合物中の分岐状オルガノポリシロキサン(A1)と直鎖状オルガノポリシロキサン(A2)の固形分質量比が98:2~40:60で混合し得る。
【0140】
上記第2態様では、シリコーン樹脂エマルション(I)と、エマルション(II)の配合量比を塗料化する際に適宜決めることができる。したがって、第2態様には、用途により要求される性能に合わせて、得られる塗膜の物性を適宜調整できるという利点がある。
【0141】
[水性クリヤー塗料組成物の調製]
水性クリヤー塗料組成物は、水性シリコーン樹脂エマルションに、必要に応じて用いられる顔料、そして添加剤等を、当業者において通常用いられるかくはん機、例えばディスパー等を用いて混合することによって得ることができる。
【0142】
本開示の方法で得られる水性クリヤー塗料組成物は、分岐状オルガノポリシロキサン(A1)を含む水性シリコーン樹脂エマルションを含むため、強靱性、耐候性等の塗膜物性に優れた塗膜を形成することができる。また、本開示の方法で得られる水性クリヤー塗料組成物は、貯蔵安定性の優れたシリコーン樹脂エマルションを含むため、水性クリヤー塗料組成物もまた、貯蔵安定性に優れるという利点がある。
本開示の方法で得られる水性クリヤー塗料組成物は、無機酸化物微粒子(D)を含むため、更に優れた耐候性を有するクリヤー塗膜を形成することができる利点がある。また、水性クリヤー塗料組成物は、可視光透過性を有しクリヤー性能に優れる一方で、良好な紫外線遮断性をも有するという特徴がある。そのため、クリヤー塗膜の下層に存在する塗膜及び基材等の紫外線劣化を防ぐことができるという利点も有している。
【0143】
水性クリヤー塗料組成物は、必要に応じて、無機酸化物微粒子(D)以外の顔料を含んでもよい。但し、他の顔料を用いる場合は、水性クリヤー塗料組成物の透明性を大きく損なわない種類及び量であることを条件とする。他の顔料は、上記条件を満たす限りは特に限定されるものではない。他の顔料としては、例えば、体質顔料、無機着色顔料、有機顔料等が挙げられる。
【0144】
水性クリヤー塗料組成物は、必要に応じて、通常用いられる添加剤、例えば、粘性調整剤、充填材、分散剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、艶消し剤、凍結防止剤、防藻剤、消泡剤、造膜助剤、防腐剤、防かび剤、反応触媒等を混合してもよい。
【0145】
水性クリヤー塗料組成物は、樹脂固形分質量に対して0.01~20質量%の粘性調整剤を含むのが好ましい。粘性調整剤の量は、樹脂固形分質量に対して0.05~10質量%であるのがより好ましく、0.5~5質量%であるのが更に好ましい。
【0146】
上記粘性調整剤として、例えば、ポリアマイド系粘性調整剤、ウレタン系粘性調整剤、ポリカルボン酸系粘性調整剤、セルロース系粘性調整剤、無機層状化合物系粘性調整剤及びアミノプラスト系粘性調整剤等の粘性調整剤が挙げられる。
【0147】
ポリアマイド系粘性調整剤として、例えば、脂肪酸アマイド、ポリアマイド、アクリルアマイド、長鎖ポリアミノアマイド、アミノアマイド及びこれらの塩(例えばリン酸塩)等が挙げられる。
ウレタン系粘性調整剤として、例えば、ポリエーテルポリオール系ウレタンプレポリマー、ウレタン変性ポリエーテル型粘性調整剤等が挙げられる。
ポリカルボン酸系粘性調整剤として、例えば高分子量ポリカルボン酸、高分子量不飽和酸ポリカルボン酸及びこれらの部分アミド化物等が挙げられる。
セルロース系粘性調整剤として、例えば、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース系粘性調整剤等が挙げられる。
無機層状化合物系粘性調整剤として、例えば、モンモリロナイト、ベントナイト、クレイ等の層状化合物が挙げられる。
アミノプラスト系粘性調整剤として、例えば、疎水変性エトキシレートアミノプラスト系会合型粘性調整剤等が挙げられる。
【0148】
上記粘性調整剤は1種のみを用いてもよく、2種又は以上を併用してもよい。
【0149】
粘性調整剤として市販品を用いてもよい。市販される粘性調整剤として、例えば、
ポリアマイド系粘性調整剤である、ディスパロンAQ-600(楠本化成社製)、Anti-Terra-U(BYK Chemie社製)、Disperbyk-101、Disperbyk-130(BYK Chemie社製)等;
ポリカルボン酸系粘性調整剤である、Anti-Terra-203、204(BYK Chemie社製)、Disperbyk-107(BYK Chemie社製)、BYK-P104、BYK-P105(BYK Chemie社製)、プライマルASE-60、プライマルTT-615(ダウ・ケミカル社製)、ビスカレックスHV-30(BASF社製)、SNシックナー617、SNシックナー618、SNシックナー630、SNシックナー634、SNシックナー636(サンノプコ社製)等;
ウレタン系粘性調整剤である、アデカノールUH-814N、UH-752、UH-750、UH-420、UH-462(ADEKA社製)、SNシックナー621N、SNシックナー623N(サンノプコ社製)、RHEOLATE244、278(エレメンティス社製)等;
セルロース系粘性調整剤である、HECダイセルSP600N(ダイセルファインケム社製)等;
層状化合物系粘性調整剤である、BENTONE HD(エレメンティス社製)等;
アミノプラスト系粘性調整剤である、Optiflo H600VF(BYK Chemie社製)等;
が挙げられる。
【0150】
上記粘性調整剤は、ポリカルボン酸系粘性調整剤及びウレタン系粘性調整剤のうち1種又はそれ以上を含むのが好ましい。ポリカルボン酸系粘性調整剤を含む粘性調整剤がより好ましい。粘性調整剤がポリカルボン酸系粘性調整剤を含む場合は、中和剤としてアンモニアを用いるのが好ましい。粘性調整剤がポリカルボン酸系粘性調整剤を含む場合において、中和剤としてアンモニアを用いることによって、ゲル分率(JIS K 6796に準拠して測定される、乾燥塗膜の有機溶媒に対する抽出不溶分の質量分率)を良好な範囲に保持することができる利点がある。
【0151】
一実施態様において、本開示のクリヤー塗料組成物は、クリヤー塗料組成物において一般的に用いられる有機紫外線吸収剤を含まなくてよい。本開示のクリヤー塗料組成物は、無機酸化物微粒子(D)を含むことにより、有機紫外線吸収剤を含まない場合であっても、クリヤー塗料組成物において求められる可視光透明性を維持しつつ、紫外線遮断性能を付与することができ、且つ、紫外線遮断性を長期間維持することができる。なお、有機紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤等を挙げることができる。
【0152】
一実施態様において、本開示のクリヤー塗料組成物は、一般的に用いられる有機紫外線吸収剤を含んでもよい。有機紫外線吸収剤は、可視光透過率が高い一方で、優れた紫外線遮断性を有する。そのため、有機紫外線吸収剤を用いることによって、塗膜に可視光透明性及び紫外線遮断性を付与することができる。
【0153】
[塗膜の形成]
本開示の方法によって製造される水性クリヤー塗料組成物は、各種被塗物に塗装することができる。
【0154】
被塗物は、例えば、住宅又はビル等の建築物の内壁若しくは外壁等の壁面又は屋根に用いられる建材が好ましい。
従って、水性クリヤー塗料組成物は、建材塗装用水性塗料組成物、又は建築物塗装用水性塗料組成物として用いることができる。水性クリヤー塗料組成物は例えば、建材塗装用水性クリヤー塗料組成物、又は建築物塗装用水性クリヤー塗料組成物として用いることができる。
【0155】
水性クリヤー塗料組成物の被塗物として好適な建材としては特に限定されず、例えば、無機材料建材、木質建材、金属建材、プラスチック建材等を挙げることができる。
上記無機材料建材としては、例えば、JIS A 5422、JIS A 5430等に記載された窯業建材、ガラス基材等を挙げることができ、例えば、珪カル板、パルプセメント板、スラグ石膏板、炭酸マグネシウム板、石綿パーライト板、木片セメント板、硬質木質セメント板、コンクリート板、軽量気泡コンクリート板等を挙げることができる。
上記木質建材としては、例えば、製材、集成材、合板、パーティクルボード、ファイバーボード、改良木材、薬剤処理木材、床板等を挙げることができる。
上記プラスチック建材としては、例えば、アクリル板、ポリ塩化ビニル板、ポリカーボネート板、ABS板、ポリエチレンテレフタレート板、ポリオレフィン板等を挙げることができる。
上記金属建材としては、例えば、アルミニウム板、鉄板、亜鉛メッキ鋼板、アルミニウム亜鉛メッキ鋼板、ステンレス板、ブリキ板等を挙げることができる。
【0156】
被塗物は、必要に応じて、シーラー組成物、下塗り塗料組成物等が予め塗装されていてもよい。下塗り塗料組成物として、例えば、顔料(例えば各種着色顔料等)を含む水性下塗り塗料組成物が挙げられる。水性クリヤー塗料組成物は、着色顔料を含む各種下塗り塗料組成物の塗膜に対して良好に密着する利点も有する。
【0157】
水性クリヤー塗料組成物を塗装する方法は特に限定されず、例えば、浸漬、刷毛、ローラー、ロールコーター、エアースプレー、エアレススプレー、カーテンフローコーター、ローラーカーテンコーター、ダイコーター等の一般に用いられている塗装方法等を挙げることができる。これらは建材の種類等に応じて適宜選択することができる。
【0158】
水性クリヤー塗料組成物は、乾燥膜厚として30μm~1mmとなるように塗装することが好ましく、50~500μmとなるように塗装するのがより好ましい。
【0159】
水性クリヤー塗料組成物を塗装した後、必要に応じて乾燥工程を行ってもよい。乾燥条件は、被塗物の形状及び大きさ等によって適宜選択することができる。乾燥条件の具体例として、例えば、50~200℃の温度で1~60分間加熱する等の条件が挙げられる。
【0160】
水性クリヤー塗料組成物を調製する方法は、特に限定されない。例えば、サンドグラインドミル、ボールミル、ブレンダー、ペイントシェーカー又はディスパー等の混合機、分散機、混練機等を選択して使用し、各成分を混合することにより、調製することができる。
【実施例0161】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中「部」及び「%」は、ことわりのない限り質量基準による。
【0162】
表1に、実施例及び比較例で用いたシリコーン樹脂を示す。なお、表1において、「m/n」は、シリコーン樹脂を以下の式で示したときのm及びnの値を示す。
[R1SiO3/2]m[R2
2SiO]n
【0163】
【0164】
実施例及び比較例で用いた有機溶媒(B1)、(B2)及び(B3)、乳化剤(C)、無機酸化物微粒子(D)はそれぞれ以下のとおりである。
【0165】
有機溶媒(B1):
有機溶媒(B1-1):トルエン、水への溶解度:0.05g/100gH2O、沸点:111℃
有機溶媒(B1-2):キシレン、水への溶解度:0.15g/100gH2O、沸点:139℃
有機溶媒(B2):
有機溶媒(B2-1):ジエチレングリコールジブチルエーテル、水への溶解度0.3g/100gH2O、沸点:256℃
有機溶媒(B2-2):エチレングリコールジブチルエーテル、水への溶解度:0.2g/100gH2O、沸点:202℃
有機溶媒(B3):
有機溶媒(B3-1):プロピレングリコールモノブチルエーテル、水への溶解度:6.0g/100gH2O、沸点:170℃
有機溶媒(B3-2):プロピレングリコールモノプロピルエーテル、水への溶解度:19g/100gH2O、沸点:149℃:
【0166】
乳化剤(C):
乳化剤(C1):ノニオン界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル)、NL-40、第一工業製薬社製;成分含有率:100%
乳化剤(C2):アニオン界面活性剤(ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸エステル塩)、ラテムルPD-104、花王社製;成分含有率:20質量%
乳化剤(C3):アニオン界面活性剤(アルキルジフェニルエーテル硫酸エステル塩)、ペレックスSS-H、花王社製;成分含有率:50質量%
【0167】
無機酸化物微粒子(D):
無機酸化物微粒子(D1):酸化亜鉛、FINEX-52W-LP-2、堺化学工業社製;平均粒子径:20nm
無機酸化物微粒子(D2):酸化亜鉛、NANOFINE-50LP、堺化学工業社製;平均粒子径:20nm
無機酸化物微粒子(D3):酸化チタン、TTO-51、石原産業社製;平均粒子径:20nm
【0168】
(実施例1)
<有機溶媒置換工程>
密閉できる反応容器に、シリコーン樹脂(A1-1)(製品名:SR-2400(固形分濃度:50質量%とトルエン(有機溶媒(B1-1)50質量%)との混合物))183.2質量部と、シリコーン樹脂(A2-1)としてYF-3800 1.9質量部、有機溶媒(B2-1)としてジエチレングリコールジブチルエーテル 29.7質量部、及び有機溶媒(B3-1)としてプロピレングリコールモノブチルエーテル 14.0質量部とを添加し、密閉減圧下で加温しながら有機溶媒(B1)を留去し、シリコーン樹脂有機溶媒混合物(固形分濃度:68質量%)を得た。なお、有機溶媒(B1)の残存量はガスクロマトグラフGC-2014(島津製作所社製)にて測定し、実質的に除去されていることを確認した(水性クリヤー塗料組成物100質量部に対して、0.1質量部未満であった)。
【0169】
<無機酸化物微粒子湿式処理工程>
ステンレス容器に、無機酸化微粒子(D1)としてFINEX-52W-LP-2(酸化亜鉛)50質量部及び有機溶媒(B2-1)としてジエチレングリコールジブチルエーテル27質量部を仕込み、ディスパーを用いて5,000rpm、30分間分散することで無機酸化微粒子(D1)の分散スラリー(固形分濃度:65質量%)を得た。
【0170】
<混合工程>
ステンレス容器に、上記シリコーン樹脂有機溶媒混合物137.2質量部及び上記無機酸化微粒子(D1)の分散スラリー8.6質量部(分散媒として、有機溶媒(B2-1)を3.0g質量部含有)を仕込み、ディスパーを用いて1,000rpm、10分間かくはんすることでシリコーン樹脂混合物を得た。
【0171】
<エマルション化工程>
上記混合工程で得たシリコーン樹脂混合物145.8質量部に、ディスパーを用いて1,000rpmでかくはんしながら、乳化剤(C-1)としてノニオン界面活性剤のNL-40 6.1質量部を添加して10分間かくはんした。次に、乳化剤(C-2)としてアニオン界面活性剤のラテムルPD-104 9.6質量部(成分量:1.9質量部)を添加し、30分かくはんし、更に、イオン交換水129.1質量部を添加してシリコーン樹脂エマルション(S-1)(固形分濃度:36.6質量%)を得た。得られたシリコーン樹脂エマルション(S-1)の平均粒子径は250nmであった。
【0172】
<水性クリヤー塗料組成物の調製>
上記により得られたシリコーン樹脂エマルション(S-1)100質量部に、25%アンモニア水0.4質量部を添加し、次に、アルカリ膨潤型増粘剤としてプライマルASE-60(ダウ・ケミカル社製)0.2質量部を添加して混合した。次いで、水道水36.4質量部を混合し、更に、硬化触媒としてDIBUTYL TIN OXIDE(日東化成社製)を2.2質量部添加して混合して、水性クリヤー塗料組成物を得た。
【0173】
(実施例2~28)
実施例1の条件を、表2~5に記載の条件に変えて、水性クリヤー塗料組成物をそれぞれ得た。なお、各実施例で得られたシリコーン樹脂エマルションは、それぞれ(S-2)~(S-28)とした。
【0174】
(実施例29)
有機溶媒置換工程では、有機溶媒として有機溶媒(B3-1)のみを加え、混合工程において、シリコーン樹脂有機溶媒混合物と無機酸化微粒子(D1)の分散スラリー(分散媒として、有機溶媒(B2-1)を3.0質量部含有)とともに、有機溶媒(B2-1)を加えた以外は、実施例1と同様に行い、水性クリヤー塗料組成物を得た。
【0175】
(実施例30)
有機溶媒置換工程において、有機溶媒として有機溶媒(B2-1)のみを加え、混合工程において、シリコーン樹脂有機溶媒混合物と無機酸化微粒子(D1)の分散スラリー(分散媒として、有機溶媒(B2-1)を3.0質量部含有)とともに、有機溶媒(B3-1)を加えた以外は、実施例1と同様に行い、水性クリヤー塗料組成物を得た。
【0176】
(実施例31)
有機溶媒置換工程における有機溶媒(B2-1)及び(B3-1)の添加量を表5に記載の量に変更し、混合工程において、シリコーン樹脂有機溶媒混合物と無機酸化微粒子(D1)の分散スラリー(分散媒として、有機溶媒(B2-1)を3.0質量部含有)とともに、有機溶媒(B2-1)及び有機溶媒(B3-1)を表5に記載の量加えた以外は、実施例1と同様に行い、水性クリヤー塗料組成物を得た。
【0177】
(実施例32)
予め、乳化剤(C1)6.1質量部、乳化剤(C2)9.6質量部及びイオン交換水129.1質量部を混合し、ディスパーを用いて1,000rpmでかくはんしながら、乳化剤((C1)及び(C2)の混合物)の水溶液を作成した。
エマルション化工程において、混合工程で得たシリコーン樹脂混合物に、ディスパーを用いて1,000rpmでかくはんしながら、乳化剤((C1)及び(C2)の混合物)の水溶液144.8質量部を添加して、30分かくはんしてシリコーン樹脂エマルションを得た以外は、実施例1と同様に行い、水性クリヤー塗料組成物を得た。
【0178】
(比較例1)
<有機溶媒置換工程>
有機溶媒置換工程は、実施例1と同様に行い、シリコーン樹脂有機溶媒混合物(固形分濃度:68質量%)を得た。なお、有機溶媒(B1)の残存量はガスクロマトグラフGC-2014(島津製作所社製)にて測定し、実質的に除去されていることを確認した。
【0179】
<エマルション化工程>
上記混合工程で得たシリコーン樹脂混合物140.2質量部を、ディスパーを用いて1,000rpmでかくはんしながら、乳化剤(C-1)としてノニオン界面活性剤のNL-40 6.2質量部を添加して10分間かくはんした。次に、乳化剤(C-2)としてアニオン界面活性剤のラテムルPD-104 9.6質量部を添加し、30分かくはんし、更に、イオン交換水129.1質量部を添加してシリコーン樹脂エマルション(s-1)(固形分濃度:36.6質量%)を得た。得られたシリコーン樹脂エマルション(s-1)の平均粒子径は250nmであった。
【0180】
<無機酸化物微粒子の後混合工程>
エマルション化工程で得たシリコーン樹脂エマルション277.3質量部及び無機酸化微粒子(D1)の分散スラリー 8.6質量部を仕込み、ディスパーを用いて1,000rpm、10分間かくはんすることでシリコーン樹脂混合物を得た。なお、無機酸化微粒子(D1)の分散スラリーは、実施例1と同様の酸化亜鉛湿式処理工程で得られたものを用いた。
【0181】
<水性クリヤー塗料組成物の調製>
水性クリヤー塗料組成物の調製は、得られたシリコーン樹脂エマルションを用いて、実施例1と同様に行った。
【0182】
(比較例2~9)
実施例1の条件を、表6に記載の条件に変えて、水性クリヤー塗料組成物をそれぞれ得た。なお、各実施例で得られたシリコーン樹脂エマルションは、それぞれ(s-2)~(s-9)とした。
【0183】
(実施例33)
実施例33は、以下に示す2種類のシリコーン樹脂エマルション(S-12)及び(s-8)を、樹脂固形分比が1:1となるように混合したものである。これは、シリコーン樹脂全体として、(A1):(A2)=98:2、(A):(B)=1:0.5、(B2):(B3)=1:0.43、及び(A)100質量部に対する(D)の含有量(質量部)が6.0質量部となるものである。
なお、シリコーン樹脂エマルション(S-12)は、実施例12で得られたシリコーン樹脂エマルションであり、無機酸化物微粒子(D)の量を、シリコーン樹脂(A)の固形分100質量部に対し12質量部としたものである。シリコーン樹脂エマルション(s-8)は、比較例8で得られたシリコーン樹脂エマルションであり、無機酸化物微粒子(D)を含まないものである。
【0184】
(実施例34)
実施例34は、以下に示す2種類のシリコーン樹脂エマルション(S-13)及び(s-9)を、樹脂固形分比が98:2となるように混合したものである。これは、シリコーン樹脂全体として、(A1):(A2)=98:2、(A):(B)=1:0.5、(B2):(B3)=1:0.43、及び(A)100質量部に対する(D)の含有量(質量部)が5.9質量部となるものである。
なお、シリコーン樹脂エマルション(S-13)は、実施例13で得られたシリコーン樹脂エマルションであり、シリコーン樹脂(A)を(A1)単独にて調製したエマルションである。また、シリコーン樹脂エマルション(s-9)は、比較例9で得られたシリコーン樹脂(A)を(A2)単独にて調製したシリコーン樹脂エマルションであり、無機酸化物微粒子(D)を含まないものである。
【0185】
<試験板の調製>
サイディングボードに対して、着色顔料を含む水性下塗り塗料組成物であるオーデパワー390スプレー用(シリコンアクリル樹脂系:日本ペイント・インダストリアルコーティングス社製)を、乾燥膜厚が50μmとなるようにスプレー塗装し、ジェット乾燥器(風速:10m/s)にて100℃で3分間乾燥させ、下塗り塗膜を得た。
次いで、上記下塗り塗膜の上に、実施例又は比較例で得た水性クリヤー塗料組成物を、乾燥膜厚が30μmとなるようにスプレー塗装し、ジェット乾燥機(風速:10m/s)にて100℃で10分間乾燥させることにより試験板を得た。
【0186】
<評価項目>
[シリコーン樹脂エマルションの分散性評価]
上記実施例及び比較例で得られた水性シリコーン樹脂エマルションを200メッシュのフィルターでろ過した後、樹脂エマルションの状態を目視観察及び平均粒子径測定を実施し、エマルションの分散性を評価した。評価基準は以下のとおりである。
○:平均粒子径測定において、粒子径2μm以上の粗粒が確認されず、かつ目視観察で分離・凝集物等も生じていない
○△:平均粒子径測定において、粒子径2μm以上の粗粒が確認できるが、目視観察で分離・凝集物等は生じていない
△:目視観察で少量の凝集物が生じている
×:目視観察で分離・凝集物が生じている
【0187】
[シリコーン樹脂エマルションの貯蔵安定性評価]
上記実施例及び比較例で得られた水性シリコーン樹脂エマルションを200メッシュのフィルターでろ過した後、40℃で3ヶ月間静置した。静置後のシリコーン樹脂エマルションの状態を目視観察し、貯蔵安定性を評価した。評価基準は以下のとおりである。
○:分離・沈降等生じていない
×:分離・沈降が生じる
【0188】
[クリヤー塗膜外観(塗装後初期塗膜外観)]
石英ガラス板(紫外線領域において吸収を有しない基材)に対して、実施例及び比較例で得られた水性クリヤー塗料組成物を、ドクターブレード(2mil)を用いて、乾燥膜厚が10μmとなるように塗装し、次いで、160℃で10分間乾燥して、評価試験板を得た。得られた評価試験板の状態を目視観察し、塗膜外観を評価した。評価基準は以下のとおりである。
○:塗膜に無機酸化物微粒子による軽微な白濁が認められる。
△:塗膜に無機酸化物微粒子による白濁及び/又は無機酸化物微粒子の凝集物が認められる。
×:塗膜に無機酸化物微粒子による著しい白濁及び/又は無機酸化物微粒子の多数の凝集物が認められる
【0189】
[クリヤー塗膜の紫外線透過率の測定]
石英ガラス板(紫外線領域において吸収を有しない基材)に対して、実施例及び比較例で得られた水性クリヤー塗料組成物を、ドクターブレード(2mil)を用いて、乾燥膜厚が10μmとなるように塗装し、次いで160℃で10分間乾燥して、評価試験板を得た。
上記より得られた評価試験板の波長280nm~780nmにおける光透過率を、紫外可視分光光度計(UV-3100、島津製作所社製)を用いて測定した。以下の方法に基づいて、紫外線透過率を測定し、得られた値を初期紫外線透過率とした。
【0190】
<紫外線透過率の測定方法>
紫外線透過率(%)として、波長280~380nmの範囲の光透過率(%)を求めた。具体的には、波長280nmから380nmまでの透過スペクトルを測定し、その積分値より紫外線光透過率を求めた。より具体的には、波長280~380nmの範囲の光透過率を、2nm毎に51点測定し、これらの平均値を紫外線透過率とした。
【0191】
[耐酸性評価]
上記より得られた石英ガラス板を、pH=3.0に調整した硫酸水溶液に、23℃にて24時間浸漬した後、上記と同様の方法で耐酸性評価試験後の紫外線透過率を測定し、初期紫外線透過率からの変化率によって耐酸性を評価した。評価基準は以下のとおりである。
○:初期紫外線透過率からの変化率が100%~150%未満であり、塗膜からの酸化亜鉛の溶出がほとんど確認されない。
×:初期紫外線透過率からの変化率が150%以上であり、塗膜からの酸化亜鉛の溶出が確認される。
【0192】
[耐候性評価(促進耐候性試験後の塗膜外観評価)]
試験板を、JIS B 7753に規定するサンシャインカーボンアーク灯式促進耐候性試験機であるサンシャインウェザーメーターS80(スガ試験機社製)を使用し、10,000時間の促進耐候性試験を行った。運転条件は、以下のとおりである
放射照度:255W/m2
ブラックパネル温度:63℃
水噴射時間:120分中18分
促進耐候性試験後の評価試験板の状態を目視観察し、塗膜外観を評価した。評価基準は以下のとおりである。
○:変化なし
△:塗膜の一部に白化が認められる
×:塗膜に著しい白化及び/又は剥がれが認められる
【0193】
評価結果を表2~6に示す。
【0194】
【0195】
【0196】
【0197】
【0198】
【0199】
実施例1~34は、本発明の実施例であり、無機系紫外線吸収剤として無機酸化物微粒子を含む水性クリヤー塗料組成物であって、貯蔵安定性の良好な水性シリコーン樹脂エマルションを含み、優れた耐候性及び耐久性(特に耐酸性)を有し、透明性の高い塗膜を形成することのできる水性クリヤー塗料組成物を製造することが可能であった。
【0200】
比較例1は、エマルション化工程において、シリコーン樹脂混合物が無機酸化物微粒子を含まない例であり、得られる塗膜の耐久性(耐酸性)が劣っていた。
比較例2、3及び7は、有機溶媒置換工程を有しない例であり、得られる水性シリコーン樹脂エマルションの分散性が劣っていた。
比較例4は、有機溶媒(B2)を用いない例であり、得られる水性シリコーン樹脂エマルションの分散性が劣っていた。
比較例5は、有機溶媒(B3)を用いない例であり、得られる水性シリコーン樹脂エマルションの分散性が劣っていた。
比較例6は、有機溶媒(B2)、(B3)を用いない例であり、得られる水性シリコーン樹脂エマルションの分散性が劣っていた。
比較例8及び9は、無機酸化物微粒子(D)を用いない例であり、得られる塗膜の耐候性、紫外線透過率が劣っていた。
本開示の水性クリヤー塗料組成物の製造方法を用いると、貯蔵安定性の良好な水性シリコーン樹脂エマルションを含み、優れた耐候性及び耐久性(特に耐酸性)を有し、透明性の高い塗膜を形成することのできる水性クリヤー塗料組成物が得られる。
前記シリコーン樹脂(A)は、更に、重量平均分子量が1,000~30,000の範囲内である直鎖状オルガノポリシロキサン(A2)を含む、請求項1に記載の製造方法。
更に、前記水性シリコーン樹脂エマルションに、予め調製した重量平均分子量が1,000~30,000の範囲内である直鎖状オルガノポリシロキサン(A2)を含むシリコーン樹脂エマルションを混合する、請求項1又は2に記載の製造方法。
前記水性クリヤー塗料組成物において、前記分岐状オルガノポリシロキサン(A1)と直鎖状オルガノポリシロキサン(A2)との質量比(A1):(A2)は、98:2~40:60の範囲にある、請求項2又は3に記載の製造方法。
前記水性クリヤー塗料組成物において、前記シリコーン樹脂(A)と前記有機溶媒(B)との質量比(A):(B)は、1:1~1:0.2の範囲にある、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
前記水性クリヤー塗料組成物において、前記有機溶媒(B2)と前記有機溶媒(B3)との質量比(B2):(B3)は、1:0.2~1:2の範囲にある、請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
前記水性クリヤー塗料組成物において、前記無機酸化物微粒子(D)の含有量は、前記シリコーン樹脂(A)の固形分100質量部に対し、3~20質量部である、請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法。
前記無機酸化物微粒子(D)は、酸化チタン、酸化亜鉛及び酸化セリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の製造方法。