(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022137820
(43)【公開日】2022-09-22
(54)【発明の名称】導電性耐熱性高タフネス繊維、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 1/09 20060101AFI20220914BHJP
D01F 6/80 20060101ALI20220914BHJP
【FI】
D01F1/09
D01F6/80 331
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021037500
(22)【出願日】2021-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 悠介
【テーマコード(参考)】
4L035
【Fターム(参考)】
4L035AA04
4L035BB03
4L035BB16
4L035BB66
4L035BB89
4L035BB91
4L035CC02
4L035EE08
4L035EE09
4L035EE13
4L035JJ03
4L035MG05
(57)【要約】
【課題】高耐熱性を有しながらも、防護衣料用途など柔軟性が求められる用途に好適に使用可能な強度と伸度を有し、高い電気伝導性を有する導電性耐熱性高タフネス繊維を提供する。
【解決手段】電気抵抗率が103Ωcm以下、破断強度が3.5~10cN/dtex、破断伸度が10~30%、融点が290℃以上であることを特徴とする導電性耐熱性高タフネス繊維により得られる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気抵抗率が103Ωcm以下、破断強度が3.5~10cN/dtex、破断伸度が10~30%、融点が290℃以上であることを特徴とする導電性耐熱性高タフネス繊維。
【請求項2】
繊維中に導電性微粒子を6~40質量%含む、請求項1記載の導電性耐熱性高タフネス繊維。
【請求項3】
導電性微粒子が導電性カーボンブラックである請求項2に記載の導電性耐熱性高タフネス繊維。
【請求項4】
導電性耐熱性高タフネス繊維が、メタフェニレンテレフタルアミド単位および/またはメタフェニレンイソフタルアミド単位と、パラフェニレンテレフタルアミド単位および/またはパラフェニレンイソフタルアミド単位と、を含む構造から構成される共重合アラミド重合体からなる、請求項1~3のいずれか1項に記載の導電性耐熱性高タフネス繊維。
【請求項5】
導電性耐熱性高タフネス繊維が、メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン、イソフタロイル、テレフタロイルの群から選ばれる少なくとも3種類の構造を含み、メタフェニレンジアミンおよび/またはイソフタロイルモノマー単位と、パラフェニレンジアミンおよび/またはテレフタロイルモノマー単位のモル比率が50以上70未満:50以下30より大きい範囲である請求項1~4のいずれか1項に記載の導電性耐熱性高タフネス繊維。
【請求項6】
導電性耐熱性高タフネス繊維の製造方法であって、
メタフェニレンテレフタルアミド単位および/またはメタフェニレンイソフタルアミド単位と、パラフェニレンテレフタルアミド単位および/またはパラフェニレンイソフタルアミド単位と、を含む構造から構成され、前記それぞれのアミド単位は、メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン、イソフタロイル、テレフタロイルの群から選ばれる少なくとも3種類の構造を含み、メタフェニレンジアミンおよび/またはイソフタロイルモノマー単位とパラフェニレンジアミンおよび/またはテレフタロイルモノマー単位のモル比率が50以上70未満:50以下30より大きい範囲であり、重量平均分子量が40万~100万である共重合アラミド重合体を用いて、以下(1)~(5)のステップで製造し、かつ(6)の製造条件を満足する、導電性耐熱性高タフネス繊維の製造方法。
(1).前記共重合アラミド重合体をアミド系溶媒に10~30質量%の範囲で溶解させ、導電性微粒子をアラミド重合体に対して6~40質量%分散させて紡糸用ドープとし、紡糸口金に通し、
(2).アミド系溶媒を1~20質量%含む水性凝固浴中に紡出して凝固し、
(3).水性洗浄浴水洗し、引き続き沸水延伸浴中で1.1~5.0倍の範囲で延伸し、(4).100~250℃の範囲で乾熱処理を行い、
(5).290~380℃の範囲で熱処理を加えながら、延伸倍率2.0~10.0倍の範囲で熱延伸し、
(6).前記沸水延伸倍率と前記熱延伸倍率の合計延伸倍率が5倍以上である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導電性耐熱性高タフネス繊維、およびその製造方法に関するものである。さらに詳しくは、強度、伸度、耐熱性、および導電性の物性のバランスが優れていることを特徴とする導電性耐熱性高タフネス繊維、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、紡糸技術の発展により、様々な繊維が工業化され、繊維を構成する化学構造と紡糸条件を選択することで、求められる性能・用途に応じた物性をもつ繊維が開発・製造されている。
【0003】
そして、導電性を有する繊維は、その使用方法により導電性を付与するという効果の他に、除電性能を付与する場合にも好適に用いることができる。このような性質から導電性繊維は汎用繊維を中心として衣料や産業用途に応用され、今日においても重要な機能性繊維のひとつである。導電性繊維については、種々な製造方法が開示されており、例えば繊維表面に金属メッキを施して導電性を付与するものや、導電性粒子を原料ポリマー中に充填し紡糸することで導電性を付与する方法が存在する。
【0004】
一方で、材料開発において必要な性能として耐熱性が挙げられる。例えば、全芳香族ポリアミドからなる繊維(アラミド繊維と称する場合がある)は、高強度・耐熱性・難燃性繊維として特に有用なものである。これまでに汎用的に普及している導電性繊維はナイロンやアクリル繊維などであり、耐熱性が求められる用途には不適な場合がある。しかし、全芳香族ポリアミドのような耐熱繊維に導電性を付与することができれば、用途の拡大が期待できる。
【0005】
このような全芳香族ポリアミド繊維に導電性を付与する試みはこれまでにも開示されている。例えば、特開平2-216264号公報(特許文献1)、および特開2006-2213号公報(特許文献2)では、アラミド繊維表面に硫化銅または銀をコーティングする方法により導電性の付与を実現している。特開2006-342471号公報(特許文献3)では、カーボンナノチューブ及びカーボンナノチューブ以外の導電性微粒子を紡糸溶液内に添加し紡糸することで、導電性パラ型アラミド繊維を得る方法が開示されている。
【0006】
しかしながら、導電性を付与するために繊維表面にコーティングする方法では、表面処理加工が必要であり、生産性に課題があり、品質面では、摩耗などによる耐久性に問題がある。
【0007】
また、導電性微粒子を樹脂中に添加、混合し紡糸する方法では、繊維内部に導電性微粒子を保持させるため、導電率の耐久性は比較的高くなるが、繊維の機械物性の低下に繋がり、充分な強度を得ることができなかった。
そこで、導電性を有しつつも、高耐熱性、高物性を保持するバランスがとれた繊維が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平2-216264号公報
【特許文献2】特開2006-2213号公報
【特許文献3】特開2006-342471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、前述した背景の通り、高耐熱性を有しながらも、強度と伸度を有し、さらには高い電気伝導性を有する導電性耐熱性高タフネス繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討をおこなった結果、複数の特定のモノマーを特定の比率で共重合にしたポリマーに導電性微粒子を付与し、繊維とすることにより、高耐熱性、強度、伸度のバランスを有し、高い電気伝導性を有する導電性耐熱性高タフネス繊維が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明によれば、
1.電気抵抗率が103Ωcm以下、破断強度が3.5~10cN/dtex、破断伸度が10~30%、融点が290℃以上であることを特徴とする導電性耐熱性高タフネス繊維、
2.繊維中に導電性微粒子を6~40質量%含む、前記1記載の導電性耐熱性高タフネス繊維、
3.導電性微粒子が導電性カーボンブラックである前記2に記載の導電性耐熱性高タフネス繊維、
4.導電性耐熱性高タフネス繊維が、メタフェニレンテレフタルアミド単位および/またはメタフェニレンイソフタルアミド単位と、パラフェニレンテレフタルアミド単位および/またはパラフェニレンイソフタルアミド単位と、を含む構造から構成される共重合アラミド重合体からなる、前記1~3のいずれか1つに記載の導電性耐熱性高タフネス繊維、5.導電性耐熱性高タフネス繊維が、メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン、イソフタロイル、テレフタロイルの群から選ばれる少なくとも3種類の構造を含み、メタフェニレンジアミンおよび/またはイソフタロイルモノマー単位と、パラフェニレンジアミンおよび/またはテレフタロイルモノマー単位のモル比率が50以上70未満:50以下30より大きい範囲である前記1~4のいずれか1つに記載の導電性全芳香族ポリアミド繊維、そして、
6.導電性耐熱性高タフネス繊維の製造方法であって、
メタフェニレンテレフタルアミド単位および/またはメタフェニレンイソフタルアミド単位と、パラフェニレンテレフタルアミド単位および/またはパラフェニレンイソフタルアミド単位と、を含む構造から構成され、前記それぞれのアミド単位は、メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン、イソフタロイル、テレフタロイルの群から選ばれる少なくとも3種類の構造を含み、メタフェニレンジアミンおよび/またはイソフタロイルモノマー単位とパラフェニレンジアミンおよび/またはテレフタロイルモノマー単位のモル比率が50以上70未満:50以下30より大きい範囲であり、重量平均分子量が40万~100万である共重合アラミド重合体を用いて、以下(1)~(5)のステップで製造し、かつ(6)の製造条件を満足する、導電性耐熱性高タフネス繊維の製造方法、
(1).前記共重合アラミド重合体をアミド系溶媒に10~30質量%の範囲で溶解させ、導電性微粒子を共重合アラミド重合体に対して6~40質量%分散させて紡糸用ドープとし、紡糸口金に通し、
(2).アミド系溶媒を1~20質量%含む水性凝固浴中に紡出して凝固し、
(3).水性洗浄浴水洗し、引き続き沸水延伸浴中で1.1~5.0倍の範囲で延伸し、(4).100~250℃の範囲で乾熱処理を行い、
(5).290~380℃の範囲で熱処理を加えながら、延伸倍率2.0~10.0倍の範囲で熱延伸し、
(6).前記沸水延伸倍率と前記熱延伸倍率の合計延伸倍率が5倍以上である。
【発明の効果】
【0012】
本発明で得られる導電性耐熱性高タフネス繊維は、250℃以上の使用環境に耐えうる耐熱性を有し、破断強度が3.5~10cN/dtexかつ伸度が10~30%の物性を有しながら、電気抵抗率が103Ωcm以下と、これまでにない高い導電性を示すことから、例えば、強度と柔軟性をおよび高い静電性が必要な防護衣料用途などにおいて好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細を説明する。
本発明の導電性耐熱性高タフネス繊維は、電気抵抗率が103Ωcm以下、破断強度が3.5~10cN/dtex、破断伸度が10~30%、融点が290℃以上であることを特徴とする。
【0014】
かかる導電性耐熱性高タフネス繊維を構成するポリマーとして、全芳香族ポリアミド(以下、アラミドと称する場合がある)が挙げられ、具体的には芳香族ジアミン成分と芳香族ジカルボン酸成分とから構成されるものであり、かかる芳香族ジアミン成分、芳香族ジカルボン酸成分が、それぞれ、メタ型、パラ型の少なくとも1つの構造を有し、これらの共重合により合成されるものである。
【0015】
本発明の導電性耐熱性高タフネス繊維において、好ましく使用されるのは、力学特性、耐熱性、難燃性の観点から、メタフェニレンテレフタルアミド単位および/またはメタフェニレンイソフタルアミド単位と、パラフェニレンテレフタルアミド単位および/またはパラフェニレンイソフタルアミド単位と、を含む構造から構成される共重合アラミド重合体からなる全芳香族ポリアミドである。
【0016】
本発明の導電性耐熱性高タフネス繊維において、好ましくは、全芳香族ポリアミドがランダム共重合されており、メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン、イソフタロイル、テレフタロイルの群から選ばれる少なくとも3種類の構造を含み、メタフェニレンジアミンおよび/またはイソフタロイルモノマー単位のモル%が全体の50以上70未満、パラフェニレンジアミンおよび/またはテレフタロイルモノマー単位のモル%が全体の50以下30超過であることが好ましく、メタフェニレンジアミンおよび/またはイソフタロイルモノマー単位のモル%が全体の50以上67未満、パラフェニレンジアミンおよび/またはテレフタロイルモノマー単位のモル%が全体の50以下33超過であることがより好ましい。メタフェニレンジアミンおよび/またはイソフタロイルモノマー単位のモル%が70以上であった場合、目的の強度を達成することができない。また、メタフェニレンジアミンおよび/またはイソフタロイルモノマー単位のモル%が50未満であった場合、得られるポリマーは後述するアミド系溶媒に溶解しないため、紡糸することができない。なお、メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン、イソフタロイル、テレフタロイルの組み合わせを下記表1に示す。本発明は、例1~4に示すような、少なくとも3種類の構造を含むことが好ましく、例5のように4種類の構造を含むことが特に好ましい。
【0017】
【0018】
前記全芳香族ポリアミドの原料となる芳香族ジアミン成分としては、メタフェニレンジ
アミンまたはパラフェニレンジアミン、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン等、およびこれらの芳香環にハロゲン、炭素数1~3のアルキル基等の置換基を有する誘導体を例示することができる。
【0019】
本発明の全芳香族ポリアミドを構成する芳香族ジカルボン酸成分の原料としては、例えば、芳香族ジカルボン酸ハライドを挙げることができる。メタ型芳香族ジカルボン酸ハライドとしては、イソフタロイルモノマーである、イソフタル酸クロライド、イソフタル酸ブロマイド等のイソフタル酸ハライド、およびこれらの芳香環にハロゲン、炭素数1~3のアルコキシ基等の置換基を有する誘導体を例示することができる。同様に、パラ型芳香族ジカルボン酸ハライドとしては、テレフタロイルモノマーであるテレフタル酸クロライド、テレフタル酸ブロマイド等のテレフタル酸ハライド、および、これらの芳香環にハロゲン、炭素数1~3のアルコキシ基等の置換基を有する誘導体を例示することができる。
【0020】
本発明の導電性耐熱性高タフネス繊維に好適に用いることができる全芳香族ポリアミドの重合方法としては、メタフェニレンジアミンとイソフタル酸クロライドとを含む生成ポリアミドの良溶媒ではない有機溶媒系(例えばテトラヒドロフラン)と無機の酸受容剤ならびに可溶性中性塩を含む水溶液系とを接触させることによって、ポリメタフェニレンイソフタルアミド重合体の粉末を単離する方法(界面重合、特公昭47-10863号公報)、またはアミド系溶媒で上記ジアミンと酸クロライドを溶液重合し次いで水酸化カルシウム、酸化カルシウム等で中和する方法(溶液重合、特開平8-074121号公報、特開平10-88421号公報)などに記載の方法が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0021】
なお、本発明の導電性耐熱性高タフネス繊維に好適に用いられる共重合アラミド重合体(全芳香族ポリアミド共重合体ともいう)の重量平均分子量は、実用に耐え得る破断強度を持つ繊維を形成し得る観点から、後述する分析方法に従い40万~100万であることが必要である。なお、重量平均分子量40万に満たない場合、破断強度が著しく減少するだけでなく、安定な紡糸を行うことができなくなる。また、分子量が100万を超える場合、後述する全芳香族ポリアミド溶液を作製し紡出する際、粘度が高すぎるため取扱が難しく、専用の設備が必要となってしまう。
【0022】
なお、前述で規定する分子量範囲のポリマーは、低分子量ポリマーと高分子量ポリマーの混合物を使用することができ、混合比の調整により全体分子量が規定する分子量範囲の値であればよい。例えば、重量平均分子量が20万のポリマーと80万のポリマーを混合し、この混合されたポリマーの重量平均分子量が60万であった場合、本発明で規定する分子量範囲のため、利用は何ら問題ない。
【0023】
本発明の導電性耐熱性高タフネス繊維において、電気抵抗率の特性を得るために導電性微粒子を6~40質量%含むことが好ましい。
本発明の導電性耐熱性高タフネス繊維は、上記の製造方法によって得られた全芳香族ポリアミドおよび導電性微粒子を用いて、以下に説明する紡糸液調製工程、紡糸・凝固工程、洗浄工程、沸水延伸工程、乾熱処理工程、熱延伸工程を経て製造される。
【0024】
[紡糸液調製工程]
紡糸液調製工程においては、例えば、全芳香族ポリアミドおよび導電性微粒子を溶媒に溶解、分散させて、紡糸液(ドープ)を調製する。紡糸液の調製にあたっては、通常アミド系溶媒を用い、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)等を例示することができる。これらの中では溶解性と取扱い安全性の観点から、NMP、またはDMAcを用いることが好ましい。
【0025】
紡糸液中の全芳香族ポリアミドの濃度としては、次工程である紡糸・凝固工程での凝固速度および重合体の溶解性の観点から、適当な濃度を適宜選択すればよく、通常は10~30質量%の範囲とすることが必要である。安定な紡糸を達成するためには15~25質量%の範囲とすることがより好ましい。
【0026】
導電性微粒子の濃度は、繊維を構成する全芳香族ポリアミドに対して6~40質量%添加することが好ましく、10~35%がより好ましく、20~30質量%がさらに好ましい。導電性微粒子の濃度が6質量%に満たなかった場合、目的の導電性を発揮できなくなり、40質量%を超える場合、目的の強度を得ることができない。ここで、導電性微粒子とは金属微粒子、金属酸化物ないしはカーボンブラック(導電性カーボンブラックとも称す)など、それ自体が導電性能を示す物質であって、繊維形成を阻害するようなものでなければ特に限定されないが、製造技術から見て本発明においては導電性カーボンブラックが好ましい。
【0027】
導電性カーボンブラックは、その表面固有抵抗が、温度20℃及び湿度65%条件下で測定したときに10~108Ωであることが好ましく、102~106Ωがより好ましく、103~105Ωがより好ましい。導電性カーボンブラックの表面固有抵抗が上記範囲内であると、本発明の目的である電気抵抗率を有する導電性耐熱性高タフネス繊維を得るために好ましい。
【0028】
なお、導電性カーボンブラックの表面固有抵抗(Ω)は、後記の実施例1で得たポリマー溶液に、導電性カーボンブラックをポリマーに対して25%添加し、3mlアプリケーターでガラス布上に塗工したのち水洗乾燥し、これを電気炉で330℃×2分間熱処理してテストピースを得て、ハイレスタUP(三菱化学社製)で表面固有抵抗を測定する。
【0029】
また、導電性カーボンブラックの粒子径は、繊維断面に対して十分に小さければ特に問題はないが、粒子径の大きさが5~500nmの範囲にあることが好ましく、10~50nmの範囲であることがさらに好ましい。粒子径が500nmより大きいと繊維強度の低下を招き、粒子径が5nmに満たないと、自己凝集による分散性悪化が起こる。
【0030】
本発明ではドープ中に無機塩を導入してもよく、ドープに対して0~20質量%の無機塩を含むことが好ましく、安定した紡糸性を得るためには0~10質量%の無機塩を含むことがより好ましい。
【0031】
ここで、20質量%を超えた無機塩を含むと凝固速度が速くなりすぎてしまい、繊維中に多数のボイドを形成することから目的の物性を持った繊維を得ることができない。なお、無機塩としては塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化リチウムなどの塩化物塩を使用することが好ましい。
【0032】
[紡糸・凝固工程]
紡糸・凝固工程においては、上記で得られたドープを凝固液中に紡出して凝固させる。紡糸装置としては特に限定されるものではなく、従来公知の湿式紡糸装置を使用することができる。安定して湿式紡糸できるものであれば、紡糸口金の紡糸孔数、紡糸孔径、配列状態等は特に制限する必要はなく、例えば、紡糸孔数が10~30000個、紡糸孔径が0.03~0.2mmの多ホール紡糸口金等を用いることができる。
【0033】
また、紡糸口金から紡出する際のドープの温度は、20~90℃の範囲が好ましく、70~90℃がより好ましい。
本発明の繊維を得るために用いる凝固浴としては、アミド系溶媒を1~20質量%を含む水溶液であり、好ましくは3~15質量%含む水溶液である。この水溶液の温度は50
~90℃の範囲が好ましい。
【0034】
また、凝固浴中に、塩化カルシウムまたは塩化マグネシウム等の無機塩を、好ましくは30質量%以上、より好ましくは35~45質量%含むことができる。
前記のように、ドープを紡糸口金から凝固液中に紡出して凝固浴を通過させて凝固糸を得る。
【0035】
[洗浄工程、沸水延伸工程]
かくして得られた凝固糸は、水性洗浄浴にて十分水洗され、沸水延伸工程に送られる。
沸水延伸浴中の延伸倍率は1.1~5.0倍の範囲が必要であり、1.1~3.0倍の範囲がより好ましい。延伸を当該倍率の範囲で行い、分子鎖配向を上げることにより、最終的に得られる繊維の強度を確保することができる。
【0036】
[乾熱処理工程]
上記の洗浄・延伸工程を経た繊維に対して、乾熱処理工程を実施する。乾熱処理工程においては、上記の洗浄工程により洗浄が実施された繊維を、100~250℃の範囲で乾熱処理をする。好ましくは100~200℃の範囲で乾熱処理をする。また、乾熱処理は定長下で行うのが好ましい。なお、上記の乾熱処理の温度は、熱板、加熱ローラーなどの繊維加熱手段の設定温度をいう。
【0037】
[熱延伸工程]
本発明においては、上記乾熱処理工程を経た繊維に対して、熱延伸工程を施す。熱延伸工程においては、290~380℃の範囲で熱処理を加えながら延伸を実施する。処理温度は、好ましく290~350℃の範囲である。290℃に満たない場合、高倍率延伸ができないため不適であり、380℃を超えると繊維の変色や断糸が起きる可能性がある。熱延伸工程において、延伸倍率は、2.0~10.0倍の範囲が必要であり、好ましくは3.0~10.0倍の範囲である。なお、熱延伸処理の温度は、熱板、加熱ローラーなどの繊維加熱手段の設定温度をいう。
【0038】
そして、本発明における前記の沸水延伸倍率および熱延伸倍率の合計延伸倍率は、5倍以上であることが必要である。前記の合計延伸倍率が5倍に満たないと、目標の強度および導電性を発現することができない。そのため、沸水延伸倍率および熱延伸倍率は工程の調子を鑑みて適宜調整する必要がある。
【0039】
以上の方法により得られる導電性耐熱性高タフネス繊維の電気抵抗率は103Ωcm以下であり、より好ましくは、700Ωcm以下、さらに好ましくは500Ωcm以下、最も好ましくは200Ωcm以下である。電気抵抗率が低いほど十分な静電性を得られるため好ましいが、後述するように本発明の目標強度や伸度、紡糸性などのバランスによって適時調整されることが好ましい。
【0040】
また、本発明の導電性耐熱性高タフネス繊維の破断強度は、3.5~10cN/dtexであり、より好ましくは、4.0~10.0cN/dtex、さらに好ましくは4.0~7.0cN/dtexである。破断強度が3.5cN/dtexに満たない場合、本発明が目的とする防護衣料等の用途としての強度としては不十分である。また、本発明の導電性耐熱性高タフネス繊維の破断伸度は10%~30%であり、より好ましくは10%~20%である。破断伸度が10%未満である場合、伸度が十分ではないことから柔軟性の発揮が不十分である。本発明の導電性耐熱性高タフネス繊維の融点は、290℃以上が必要であり、300℃以上が好ましい。融点が290℃より低くなると耐熱性繊維としての性能を発揮することができなくなる。
【実施例0041】
以下、実施例および比較例により、本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲は、以下の実施例及び比較例に制限されるものではない。尚、実施例および比較例における各物性値は、下記の方法で測定した。
【0042】
[重量平均分子量Mw]
JIS-K-7252に準じ、サイズ排除クロマトグラフィー用カラムを装着した高速液体クロマトグラフィー装置にて分析をおこない、展開溶媒にはジメチルホルムアミド(塩化リチウムを0.01モル%含有)を用いて測定した。なお、標準分子量サンプルとしてはシグマアルドリッチ製ポリスチレンセット(ピークトップ分子量Mp=400~2000000)を用いた。
【0043】
[単繊維繊度]
JIS-L-1015に準じ、正量繊度のA法に準拠した測定を実施し、見掛け繊度にて表記した。
【0044】
[破断強度、破断伸度]
引張試験機(インストロン社製、型式:5565)を用いて、JIS-L-1015に準じ、以下の条件で測定した。
(測定条件)
つかみ間隔 :20mm
初荷重 :0.044cN(1/20g/dtex)
引張速度 :20mm/分
【0045】
[繊維の電気抵抗率]
東亜電波工業社製のSM-8210極超絶縁計を使用し、相対湿度65RH%雰囲気中において測定した。繊維の試料長を10cm(L(cm))とし、この試料長間に0.5KVの電圧をかけ、そのときの電気抵抗率R(Ω)を測定し、導電糸の断面積をS(cm2)としてρ(Ωcm)=R×(S/L)より求めた。本発明の実施例および比較例においては、Sは繊維の密度d=1.39g/cm3とみなし、Dは総繊度値(dtex)をそのまま重量に読み替えた値として、S=D/(1000000×d)より求めた。また、この時の繰り返し測定数は5とし、その平均値を電気抵抗率とした。
【0046】
[繊維の融点]
繊維の融点はJIS-K-7197に準じ、熱機械分析により求めた。得られたサンプルのピークのうち、高温側に検出されたピークの頂点温度または、繊維の溶解によりピーク検出が不可能となった温度を融点とした。
【0047】
[実施例1]
特公昭47-10863号公報に準じた界面重合により、メタフェニレンジアミンおよびイソフタロイルモノマー単位が全体の67モル%、パラフェニレンジアミンおよびテレフタロイルモノマー単位が33モル%である共重合アラミド重合体粉末を合成した。この際、酸クロライドモノマーはイソフタル酸クロライドおよびテレフタル酸クロライドの双方を使用し、重量比が2:1となるようにした。また、アミンモノマーはメタフェニレンジアミンおよびパラフェニレンジアミンの双方を使用し重量比が2:1となるようにした。重量平均分子量は66万であった。この重合体粉末および導電性カーボンブラック粒子(表面固有抵抗が104Ω)を、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解、分散させ、ポリマー溶液を得た。この際、ポリマー溶液に対して共重合アラミド重合体の質量濃度が16%、アラミド重合体に対して導電性カーボンブラックが30質量%になるよう調整した。
【0048】
このポリマー溶液を85℃に加温し紡糸原液として、孔径0.1mm、孔数100の吐出孔が円形の紡糸口金から85℃の凝固浴中に吐出して紡糸した。この凝固浴の組成は、塩化カルシウムが43質量%、NMPが4質量%、残りの水が53質量%であり、浸漬長(有効凝固浴長)100cmにて糸速5.0m/分で通過させた後、いったん空気中に引き出した。
【0049】
この凝固糸条を第1~第2水洗浄浴にて水洗し、この際の総浸漬時間は200秒とした。なお、第1~第2水性洗浄浴温度はそれぞれ20℃、30℃の水を用いた。この洗浄糸条を90℃の沸水中にて1.4倍に延伸し、引続き90℃の温水中に40秒浸漬し、洗浄した。
【0050】
次に、表面温度が170℃のローラーに巻回して乾熱処理した後、表面温度が325℃の熱板にて5.7倍に延伸し、全芳香族ポリアミド繊維を得た。
得られた繊維は、繊度2.0dtex、破断強度4.9cN/dtex、破断伸度14%、融点301℃、電気抵抗率は61.1Ωcmであった。
【0051】
[実施例2]
特公昭47-10863号公報に準じた界面重合によりメタフェニレンジアミンおよびイソフタロイルモノマー単位が全体の60モル%、パラフェニレンジアミンおよびテレフタロイルモノマー単位が40モル%である共重合アラミド重合体粉末を合成した。この際、酸クロライドモノマーはイソフタル酸クロライドおよびテレフタル酸クロライドの双方を使用し、重量比が3:2となるようにした。また、アミンモノマーはメタフェニレンジアミンおよびパラフェニレンジアミンの双方を使用し重量比が3:2となるようにした。重量平均分子量は65万であった。この重合体粉末および導電性カーボンブラック粒子(表面固有抵抗が104Ω)を、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解、分散させ、ポリマー溶液を得た。この際、ポリマー溶液に対して共重合アラミド重合体の質量濃度が18%、アラミド重合体に対して導電性カーボンブラックが25%になるよう調整した。
【0052】
このポリマー溶液を85℃に加温し紡糸原液として、孔径0.1mm、孔数100の吐出孔が円形の紡糸口金から88℃の凝固浴中に吐出して紡糸した。この凝固浴の組成は、塩化カルシウムが44質量%、NMPが2質量%、残りの水が54質量%であり、浸漬長(有効凝固浴長)100cmにて糸速5.0m/分で通過させた後、いったん空気中に引き出した。
【0053】
この凝固糸条を第1~第2水洗浄浴にて水洗し、この際の総浸漬時間は200秒とした。なお、第1~第2水性洗浄浴温度はそれぞれ20℃、30℃の水を用いた。この洗浄糸条を90℃の沸水中にて2.5倍に延伸し、引続き90℃の温水中に40秒浸漬し、洗浄した。次に、表面温度170℃のローラーに巻回して乾熱処理した後、表面温度330℃の熱板にて4倍に延伸し、全芳香族ポリアミド繊維を得た。
得られた繊維は、繊度1.7dtex、破断強度5.2cN/dtex、破断伸度16%、融点306℃、電気抵抗率は171Ωcmであった。
【0054】
[比較例1]
特公昭47-10863号公報に準じた界面重合によりメタフェニレンジアミンおよびイソフタロイルモノマー単位が全体の75モル%、パラフェニレンジアミンおよびテレフタロイルモノマー単位が25モル%である共重合アラミド重合体粉末を合成した。この際、酸クロライドモノマーはイソフタル酸クロライドおよびテレフタル酸クロライドの双方を使用し、重量比が3:1となるようにした。また、アミンモノマーはメタフェニレンジアミンおよびパラフェニレンジアミンの双方を使用し重量比が3:1となるようにした。重量平均分子量は70万であった。この重合体粉末および導電性カーボンブラック粒子(表面固有抵抗が104Ω)を、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解・分散させ、ポリマー溶液を得た。この際、ポリマー溶液に対して共重合アラミド重合体の質量濃度が18%、アラミド重合体に対して導電性カーボンブラックが25%になるよう調整した。
【0055】
このポリマー溶液を実施例1の条件で紡糸し、全芳香族ポリアミド繊維を得た。この際、沸水延伸倍率は3.0倍、熱板延伸倍率は1.3倍が限界であり、これ以上倍率を上げると繊維破断が起きた。
得られた繊維は、繊度1.9dtex、破断強度4.9cN/dtex、破断伸度17%、融点340℃であった。上記のように全延伸倍率が充分に得られなかったことから、電気抵抗率は7.98×106Ωcmと高い値を示した。
【0056】
[比較例2]
特公昭47-10863号公報に準じた界面重合によりメタフェニレンジアミンおよびイソフタロイルモノマー単位が全体の33モル%、パラフェニレンジアミンおよびテレフタロイルモノマー単位が64モル%である共重合アラミド重合体粉末を合成した。この際、酸クロライドモノマーはイソフタル酸クロライドおよびテレフタル酸クロライドの双方を使用し、重量比が1:2となるようにした。また、アミンモノマーはメタフェニレンジアミンおよびパラフェニレンジアミンの双方を使用し重量比が1:2となるようにした。本ポリマーはNMPをはじめとする溶媒への良好な溶解性を示さないことから、紡糸することができなかった。
【0057】
[比較例3]
メタフェニレンジアミンおよびイソフタロイルモノマー単位が全体の67モル%、パラフェニレンジアミンおよびテレフタロイルモノマー単位が33モル%である共重合アラミド重合体粉末を合成した。この際、酸クロライドモノマーはイソフタル酸クロライドおよびテレフタル酸クロライドの双方を使用し、重量比が2:1となるようにした。また、アミンモノマーはメタフェニレンジアミンおよびパラフェニレンジアミンの双方を使用し重量比が2:1となるようにした。重量平均分子量は59万であった。この重合体粉末および導電性カーボンブラック粒子(表面固有抵抗が104Ω)を、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解・分散させ、ポリマー溶液を得た。この際、ポリマー溶液に対して共重合アラミド重合体の質量濃度が21%、アラミド重合体に対して導電性カーボンブラックが5%になるよう調整した。
【0058】
このポリマー溶液を実施例1の条件で紡糸し、全芳香族ポリアミド繊維を得た。この際、沸水延伸倍率は2.5倍、熱板延伸倍率は3.2倍であった。
得られた繊維は、繊度1.7dtex、破断強度6.4cN/dtex、破断伸度21%、融点304℃、電気抵抗率は2.69×106Ωcmであった。
【0059】
[比較例4]
メタフェニレンジアミンおよびイソフタロイルモノマー単位が全体の67モル%、パラフェニレンジアミンおよびテレフタロイルモノマー単位が33モル%である共重合アラミド重合体粉末を合成した。この際、酸クロライドモノマーはイソフタル酸クロライドおよびテレフタル酸クロライドの双方を使用し、重量比が2:1となるようにした。また、アミンモノマーはメタフェニレンジアミンおよびパラフェニレンジアミンの双方を使用し重量比が2:1となるようにした。重量平均分子量は66万であった。この重合体粉末および導電性カーボンブラック粒子(表面固有抵抗が104Ω)を、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解・分散させ、ポリマー溶液を得た。この際、ポリマー溶液に対して
共重合アラミド重合体の質量濃度が16%、アラミド重合体に対して導電性カーボンブラックが45%になるよう調整した。
【0060】
このポリマー溶液を実施例1の条件で紡糸し、全芳香族ポリアミド繊維を得た。この際、沸水延伸倍率は1.1倍、熱板延伸倍率は2.5倍が限界であり、これ以上倍率を上げると繊維破断が起きた。
得られた繊維は、繊度7.0dtex、破断強度1.9cN/dtex、破断伸度13%、融点313℃、電気抵抗率は8.5Ωcmであった。
前記の実施例及び比較例で得られた繊維の物性を表2に示す。
【0061】
本発明で得られる導電性耐熱性高タフネス繊維は、290℃以上の使用環境に耐えうる耐熱性を有し、破断強度3.5~10cN/dtexかつ伸度10%以上であることから防護衣料などの耐熱性と柔軟性が求められる用途に好適な繊維である。そして、電気抵抗率が103Ωcm以下とこれまでの報告にない高い導電性を示すことから、本発明の繊維の使用により、高い静電性を付与することが可能である。したがって、従来のような耐熱性に乏しい導電性繊維では高温環境下でその機能を発揮できなかったのに対し、本発明の繊維は同環境下でも高い導電性・静電性を維持することが可能であり、防護衣料に限らず、静電性が必要かつ高温環境下に曝される樹脂構造材などの補強繊維としても有用である。