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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022137833
(43)【公開日】2022-09-22
(54)【発明の名称】溶媒抽出工程用の油水混合分離装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 17/025 20060101AFI20220914BHJP
   B01D 11/04 20060101ALI20220914BHJP
   B01D 17/032 20060101ALI20220914BHJP
   B01D 17/12 20060101ALI20220914BHJP
   C22B 11/00 20060101ALI20220914BHJP
   C22B 3/26 20060101ALI20220914BHJP
【FI】
B01D17/025 502D
B01D11/04 B
B01D17/032 501Z
B01D17/12 Z
B01D17/025 504
C22B11/00 101
C22B3/26
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021037517
(22)【出願日】2021-03-09
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-10-13
(71)【出願人】
【識別番号】000198709
【氏名又は名称】石福金属興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166039
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 款
(72)【発明者】
【氏名】炭山 裕彰
(72)【発明者】
【氏名】松山 聡
(72)【発明者】
【氏名】前川 愛美
(72)【発明者】
【氏名】軽部 友朗
(72)【発明者】
【氏名】内海 辰哉
【テーマコード(参考)】
4D056
4K001
【Fターム(参考)】
4D056AB04
4D056AC07
4D056BA03
4D056CA01
4D056CA02
4D056CA06
4D056CA13
4D056CA26
4D056CA31
4D056CA33
4D056CA34
4D056CA40
4D056DA10
4K001AA01
4K001AA04
4K001AA41
4K001BA19
4K001DB02
4K001DB26
(57)【要約】      (修正有)
【課題】装置が停止することなく連続稼働できる油水混合分離装置を提供する。
【解決手段】油相また水相中に含有している貴金属を精製する溶媒抽出用油水混合分離装置である。油水混合分離部は、油水混合部と、第一の流入口の水相導入手段P1と、第二の流入口の油相導入手段P2と、第一室と第二室は下部でつながっている、油水分離用のU字型分離槽とを備え、U字型分離槽は、流出口からの油水を第一室に注入する開口1と、第一室の開口2と、開口2の油相排出手段P3と、第二室の開口3と、開口3の水相排出手段P4と、第一室の上部油相面の高さを検知する油相側センサと、第二室の上部水相面の高さを検知する水相側センサを備え、制御手段は、油相側センサと水相側センサの出力に応じて、油水混合部の第一および第二の流入口に水相および油相を導入する時期と、開口2および開口3から油相および水相を排出する時期と、を制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物溶液(油相)または水溶液(水相)中に含有している貴金属を精製するための溶媒抽出工程用の油水混合分離装置であって、
油水混合分離部および制御手段を備え、
前記油水混合分離部は、
前記有機物溶液(油相)と前記水溶液(水相)を混合することができる油水混合部と、
前記油水混合部の第一の流入口に水相を導入する水相導入手段(ポンプ1)と、
前記油水混合部の第二の流入口に油相を導入する油相導入手段(ポンプ2)と、
前記油水混合部の流出口から出た液(油水)を油水分離するためのU字型分離槽であって、第一室と第二室を有し、それら2つの室は下部でつながっている前記U字型分離槽とを備え、
前記U字型分離槽は、
前記油水混合部の流出口から出た液(油水)を第一室に注入する開口1と、
前記第一室に設けられた開口2と、
前記開口2から油相を排出する油相排出手段(ポンプ3)と、
前記第二室に設けられた開口3と、
前記開口3から水相を排出する水相排出手段(ポンプ4)と、
前記第一室の上部油相面が所定の高さ以上か以下かを検知する第一の検知手段(油相側センサ)と、
前記第二室の上部水相面が前記第一室の所定の高さより低い第二室の所定の高さ以上か以下かを検知する第二の検知手段(水相側センサ)を備え、
前記制御手段は、前記第一の検知手段の出力と前記第二の検知手段の出力に応じて、前記油水混合部の第一の流入口に水相を導入する時期(ポンプ1オン)と、前記油水混合部の第二の流入口に油相を導入する時期(ポンプ2オン)と、前記開口2から油相を排出する時期(ポンプ3オン)と、前記開口3から水相を排出する時期(ポンプ4オン)と、を制御する、
ことを特徴とする溶媒抽出工程用の油水混合分離装置。
【請求項2】
請求項1に記載の油水混合分離装置をn(nは3以上)段直列に構成し、
所定段(n段)における前記油水混合分離装置の開口2は前記所定段の前段((n-1)段)の油水混合分離装置の油水混合部の第二の流入口とつながっており、
前記所定段(n段)における前記油水混合分離装置の開口3はその所定段の後段((n+1)段)の油水混合分離装置の油水混合部の第一の流入口につながっており、
前記制御手段は、前記前段((n-1)段)の油相導入手段(ポンプ2)がオンになる条件でのみ、前記所定段(n段)の油相排出手段(ポンプ3)をオンに制御し、前記後段((n+1)段)の水相導入手段(ポンプ1)がオンになる条件でのみ、前記所定段(n段)の水相排出手段(ポンプ4)をオンに制御する、
ことを特徴とする溶媒抽出工程用の油水混合分離装置。
【請求項3】
請求項1に記載の油水混合分離装置をn(nは3以上)段直列に構成し、
所定段(n段)における前記油水混合分離装置の開口2は前記所定段の前段((n-1)段)の油水混合分離装置の油水混合部の第二の流入口とつながっており、
前記所定段(n段)における前記油水混合分離装置の開口3はその所定段の後段((n+1)段)の油水混合分離装置の油水混合部の第一の流入口につながっており、
前記前段((n-1)段)の油相導入手段(ポンプ2)と前記所定段(n段)の油相排出手段(ポンプ3)は同じ(共用)であり、
前記後段((n+1)段)の水相導入手段(ポンプ1)と前記所定段(n段)の水相排出手段(ポンプ4)は同じ(共用)である、
ことを特徴とする溶媒抽出工程用の油水混合分離装置。
【請求項4】
前記油水混合部は、微細流路内で有機物溶液(油相)と水溶液(水相)を混合し、混合された流体がスラグ流を形成し前記油相と水相とを接触させることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の溶媒抽出工程用の油水混合分離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貴金属精製における溶媒抽出工程用の油水混合分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
目的貴金属元素と他元素である不純物元素とを含む合金廃材から純度の高い目的貴金属元素を得るため、合金廃材を強酸に直接溶解させるか、一旦、不純物を含む貴金属を酸化剤と高温化で溶融反応させた後強酸に溶解させて溶液化した後、例えば、溶媒抽出によって目的貴金属元素以外を除去する精製が行われている。
【0003】
溶媒抽出とは、例えば、貴金属含有水溶液と不純物元素を取り込む性質のある油を油水混合部で混合させ、貴金属含有水溶液に溶け込んだ不純物を油に抽出させ、次に、油水分離して不純物元素の低減された貴金属含有水溶液を得る方法である。
【0004】
溶媒抽出のための油水分離装置は、種々の方法が提案されている。
【0005】
特許文献1には、円筒状の分離槽に非相溶性の二種の液体を充填して2種の液体の液界面のレベルを検知して2種の液体を二液分離する技術が開示されている。分離槽内壁の同じ高さの相対する位置に超音波発信器及び超音波受信器が取り付けられており、発信子から出された超音波が受信子に到達するか否かによって、2液が混合しているかまたは2液が分離しているか(液界面が形成されているか)を区別するものである。
【0006】
特許文献2には、被処理水(水分、油分含む)を貯留し比重差によって水分と油分とを分離する分離タンクと、分離タンクにサイホン管を経由して接続され分離水を貯留する分離水タンクと、分離水タンクに接続され水位の上昇を排水レベルセンサで検出した時に作動させられて分離水の排出を行なう排水手段と、分離タンクのオイルディテクタで油分を検出した時に、分離タンクの上方内部に接続された排油手段)が分離油を排出する、ことを特徴とする油水分離装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭56-78604号
【特許文献2】実開平4-33903号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の方法は、他元素を多く含む場合、前記廃材が溶解している液(水相)と目的貴金属元素を抽出する油とを混合した際、混合状態が一部安定化(エマルション化)してしまったり、濁りが発生(不純物元素の析出等)してしまったりすると、油水境界部を確認することが困難になり装置が停止してしまい、連続的な溶媒抽出が困難になってしまう問題があった。
【0009】
特許文献2の方法も、混合状態が一部安定化(エマルション化)してしまったり、濁りが発生(不純物元素の析出等)してしまったりすると、分離タンクでの分離状態の油分の検出が困難になり装置が停止してしまい、連続的な溶媒抽出が困難になってしまうという問題があった。
【0010】
本発明の目的は、装置が停止することなく連続して稼働できる油水混合分離装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第一室に、有機物溶液(油相)と水溶液(水相)を混合した油水混合液を導入する開口1と分離後の油相を排出する開口2を備え、第二室に分離後の水相を排出する開口3を備えた U字型系分離槽において、油と水の密度差に応じて油と水が分離した際には、油相面と水相面の高さに所定の差分が生じることに着目し、上部油相面、上部水相面の高さを確実に検出するため、上部油相面と前記上部水相面をフロートセンサ等の検知手段で検知することによって、装置が停止することなく稼働し続けられることを見出し、本発明を完成するにいたった。また、多段装置間の給水給油(油水混合部からの)、および、排出条件を所定の条件に制御することで、多段の油水分離システムを完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は、
有機物溶液(油相)または水溶液(水相)中に含有している貴金属を精製するための溶媒抽出工程用の油水混合分離装置であって、
油水混合分離部および制御手段を備え、
前記油水混合分離部は、
有機物溶液(油相)と水溶液(水相)を混合することができる油水混合部と、
前記油水混合部の第一の流入口に水相を導入する水相導入手段(ポンプ1)と、
前記油水混合部の第二の流入口に油相を導入する油相導入手段(ポンプ2)と、
前記油水混合部の流出口から出た液(油水)を油水分離するためのU字型分離槽であって、第一室と第二室を有し、それら2つの室は下部でつながっている前記U字型分離槽とを備え、
前記U字型分離槽は、前記油水混合部の流出口から出た液(油水)を第一室に注入する開口1と、
前記第一室に設けられた開口2と、
前記開口2から油相を排出する油相排出手段(ポンプ3)と、
前記第二室に設けられた開口3と、
前記開口3から水相を排出する水相排出手段(ポンプ4)と、
前記第一室の上部油相面が所定の高さ以上か以下かを検知する第一の検知手段(油相側センサ)と、
前記第二室の上部水相面が前記第一室の所定の高さより低い第二室の所定の高さ以上か以下かを検知する第二の検知手段(水相側センサ)を備え、
前記制御手段は、前記第一の検知手段の出力と前記第二の検知手段の出力に応じて、前記油水混合部の第一の流入口に水相を導入する時期(ポンプ1オン)と、前記油水混合部の第二の流入口に油相を導入する時期(ポンプ2オン)と、前記開口2から油相を排出する(ポンプ3オン)時期と、前記開口3から水相を排出する(ポンプ4オン)時期と、を制御する、
ことを特徴とする溶媒抽出工程用の油水混合分離装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に従うと、装置が停止することなく連続して稼働できる油水分離装置を提供するができる。多量の不純物元素を含む場合に発生する混合状態の一部安定化や濁りの発生等の影響を受けない油水分離装置として、特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の油水混合分離装置(U字型系分離槽)の一例を示す。
図2】本発明の油水混合分離装置(U字型系分離槽)の他の一例を示す。
図3】本発明の油水混合分離装置(U字型系分離槽)の多段構造のn段とその前後の段を示す。
図4】本発明の油水混合分離装置が具備する機能的構成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、有機物溶液(油相)または水溶液(水相)中に含有している貴金属を精製するための溶媒抽出工程用の油水混合分離装置である。油水混合分離装置は、油水混合分離部および制御手段を備えている。
【0016】
油水混合分離部は、有機物溶液(油相)と水溶液(水相)を混合することができる油水混合部と、油水混合部の第一の流入口に水相を導入する水相導入手段(ポンプ1)と、油水混合部の第二の流入口に油相を導入する油相導入手段(ポンプ2)と、油水混合部の流出口から出た液(油水)を油水分離するためのU字型分離槽であって、第一室と第二室を有し、それら2つの室は下部でつながっているU字型分離槽とを備えている。
【0017】
U字型分離槽は、油水混合部の流出口から出た液(油水)を第一室に注入する開口1と、第一室に設けられた開口2と、開口2から油相を排出する油相排出手段(ポンプ3)と、第二室に設けられた開口3と、開口3から水相を排出する水相排出手段(ポンプ4)と、第一室の上部油相面が所定の高さ以上か以下かを検知する第一の検知手段(油相側センサ)と、第二室の上部水相面が第一室の所定の高さより低い第二室の所定の高さ以上か以下かを検知する第二の検知手段(水相側センサ)を備えている。第一の検知手段、第二の検知手段は、フロートセンサ、光学センサ、超音波センサ、電極式センサ、静電容量式センサ、振動式センサ、レーザ式センサ、ガイドパルス式センサ等を使用することができる。
【0018】
図1は本発明の油水混合分離装置の一例である。図1の上部は油水混合部、下部はU字型分離槽である。図2は本発明の油水混合分離装置の他の一例であり、第一室に対する第二室の容積を大きくした例である。第一室の容積と第二室の容積の比率が異なる点以外の構成は、図1の油水混合分離装置と同じである。以下の説明は図1を主として説明する。
【0019】
油水混合部は、有機物溶液(油相)と水溶液(水相)を混合する。油水混合部での混合方法としては、攪拌器(メカニカルスターラ、マグネチックスターラ等)を使う方法がある。また、例えば、油水混合部での混合方法は、微細流路内で有機物溶液(油相)と水溶液(水相)を混合し、混合された流体がスラグ流を形成し前記油相と水相とを接触させる。スラグ流とは、一流路内で2液が交互に縞模様を形成して現れる流れである。
【0020】
図1において、U字型分離槽の右側は第一室、左側は第二室である。第一室は油水混合部から出た液体を開口1を経て受け入れ、比重差によって水分と油分を分離する。第二室は分離した水分を貯蔵する室である。第一室の内部の上側には油相側センサ(例えば、フロートセンサ)、第二室の内部の上側には水相側センサ(例えば、フロートセンサ)が配置される。第一の検知手段(油相側センサ)は、第一室の上部油相面が所定の高さ以上か以下かを検知する。第二の検知手段(水相側センサ)は、第二室の上部水相面が第一室の所定の高さより低い第二室の所定の高さ以上か以下かを検知する。
【0021】
油水混合部の流出口から出た液(油水)は、油分と水分を所定比率(例えば概ね等量)含む。図1に示すように、油分が第一室の上側に配置し、水分は第二室と第一室の下部に配置され、油相と水相の間には油相/水相界面が形成されるとともに、油相の上面が水相の上面より高くなる。すなわち、図1において、H1は油相/水相界面から油相上面までの高さを示し、H2は、油相/水相界面から水相上面までの高さを示すが、それら油水が分離している場合には油相上面と水相上面の高さに所定の差分(「第一の高さ」-「第二の高さ」=H1-H2)が生じる。そして、第一の高さと第二の高さの差が所定の差になったときに2つのセンサが共に作動する(オンする)ように2つのセンサ(例えば、フロートセンサ)を設置する。
【0022】
図2の油水混合分離装置のように、第一室に対する第二室の容積を大きくした場合には、あらかじめ、油分と水分を所定量装置に導入しておき、図2に示すように、油分が第一室の上側に配置し、水分は第二室と第一室の下部に配置され、油相と水相の間には油相/水相界面が形成されるようにしておくこともできる。
【0023】
油分と水分とが所定比率(例えば概ね等量)入っている状態において、第一室の容積に対する第二室の容積を小さくしていくと、第一室の下部の存在する水の割合が増加するので、U字型分離槽における油相/水相界面をある範囲(開口2~第一室と第二室の仕切りの下端)に維持することが相対的に容易となる。一方、油相上面と水相上面の高さの所定の差分(「第一の高さ」-「第二の高さ」=H1-H2)を大きくしたいという観点からは、第一室の容積に対して第二室の容積が大きいことが好ましい。
【0024】
以上を踏まえ、第一室の容積(V1)と第二室の容積(V2)の比率(V2/V1)は、1/10≦V2/V1≦10とすることができる。1/3≦V2/V1≦3とすることが好ましい。また、1/2≦V2/V1≦2がより好ましい。
【0025】
また、開口1の位置は、上記油相/水相界面付近とする。開口2の位置は、上記油相上面と上記水相上面の間とする。開口3の位置は、上記水相上面と上記油相/水相界面の間とする。
【0026】
制御手段は、図4のブロック図に示すように、第一の検知手段の出力と第二の検知手段の出力に応じて、油水混合部の第一の流入口に水相を導入する時期(ポンプ1オン)と、油水混合部の第二の流入口に油相を導入する時期(ポンプ2オン)と、開口2から油相を排出する(ポンプ3オン)時期と、開口3から水層を排出する(ポンプ4オン)時期と、を制御する。この制御手段は、例えば、ポンプ1、ポンプ2、ポンプ3、ポンプ4をそれぞれ個別に電子制御可能に構成された電子回路などで構成される。
【0027】
油水混合部からは所定比率の油水が出力されるが、所定比率が多少ずれてもU字型分離槽における油相/水相界面をある範囲(開口2~第1室と第2室の仕切りの下端)に維持することができる。
【0028】
その理由を以下説明する。油水混合部からは所定比率からずれた油水が出力されると仮定する。例えば、水100%の液体が第一室に入ると仮定する。その場合、U字型分離槽内の圧力計算を行うと判るように、水相上面の上昇分は油相上面の上昇分よりも大きくなる(両上面の差は減少する)。そうすると、水を検知するフロートセンサが先にオンとなり、水が優先的に排出される。一方、油100%の液体が第一室に入ると仮定する。その場合、U字型分離槽内の圧力計算を行うと判るように、油相上面の上昇分は水相上面の上昇分よりも大きくなる(両上面の差は増加する)。そうすると、油を検知するフロートセンサが先にオンとなり、油が優先的に排出される。このようにして、所定比率からずれた油水がU字型分離槽内に入っても余剰な成分が優先的に排出され、槽内の油と水の比率は所定比率から大きくずれることなく、ほぼ一定となり、油相/水相界面の高さもほぼ一定となり、油相/水相界面を検出してその位置を一定とする制御をする必要がなく、自動運転ができることとなる。
【0029】
図1に示すU字型分離槽にある2つのセンサ(水相側センサ,油相側センサ)のオン・オフ状態を検知した出力に応じて、制御手段が各ポンプを作動させるか否かの状態の一例(ポンプ作動基本パターン)を表1に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
界面差分が所定量(H2-H1)以上になると第一の検知手段(油相側センサ)がオンになりやすいこと、界面差分が所定量(H2-H1)以下になると第二の検知手段(水相側センサ)がオンになりやすいことに着目して表1の状態を設定した。
【0032】
具体的には、水を入れる(P1オン)のは水面・油面がともに下がった場合(水相センサ、油相センサともにオフ)のみ(水面より油面が高いので水面が下がっていても油面が高すぎると装置が溢れてしまう)。また、油を入れる(P2オン)のは油面が下がった場合(油相センサオフ)である。また、水面が上がったら(水相センサオン)水を排出する(P4オン)。また、油面が上がったら(油相センサオン)油を排出する(P3オン)。
【0033】
次に、油水分離装置をN(Nは3以上)段直列に構成した場合の構成と制御を説明する。
【0034】
図3に油水分離装置をN(Nは3以上)段直列に構成した場合の構成を示す。
【0035】
所定段(n段)における前記油水混合分離装置の開口2は前記所定段の前段((n-1)段)の油水混合分離装置の油水混合部の第二の流入口とつながっている。また、所定段(n段)における前記油水混合分離装置の開口3はその所定段の後段((n+1)段)の油水混合分離装置の油水混合部の第一の流入口につながっている。
【0036】
したがって、各段の油水混合分離装置が動作するためには、各段の前後の油水混合分離装置の動作条件を加味することが必要である。すなわち、制御手段は、前段((n-1)段)の油相導入手段(ポンプ2)がオンになる条件でのみ、前記所定段(n段)の油相排出手段(ポンプ3)をオンに制御し、後段((n+1)段)の水相導入手段(ポンプ1)がオンになる条件でのみ、所定段(n段)の水相排出手段(ポンプ4)をオンに制御する。
【0037】
上記制御手段の制御状態を以下説明する。
【0038】
いま、(n-1)段のU字型分離槽(以下、(n-1)槽と記す)、n段のU字型分離槽(以下、n槽と記す)、(n+1)段のU字型分離槽(以下、(n+1)槽と記す)のセンサの検知状態の組み合わせに対して、それぞれ表1を適用すると、n槽における4台のポンプ(P1(n)、P2(n),P3(n),P4(n))のオン・オフ状態が得られる。表2は、(n-1)槽,n槽,(n+1)槽のセンサ検知状態と、(n-1)槽,n槽,(n+1)槽のポンプの作動状況を示した表である。
【0039】
【表2】
【0040】
表2において、(n-1)槽,n槽,(n+1)槽のフロートセンサ検知状態を表の左側に示している。また、表2の右側上段にはn槽のポンプ4台の作動状況を示している。表2の右側下段には、上記制御条件を説明するため、対応する前後の槽のポンプの作動状態を示している。
【0041】
上記の制御条件は、
P1(n)=P4(n-1)=オン、
P2(n)=P3(n+1)=オン、
P3(n)=P2(n-1)=オン、
P4(n)=P1(n+1)=オン
と表せるので、その条件を満たす表2の右側の欄をグレーで着色表示した。
【0042】
すなわち、表2において、欄がグレーの場合にそれらのポンプが作動し、欄が色なしの場合にはそれらのポンプは作動しない。制御手段は、このような条件にて所定段(n段)のn槽のポンプを制御する。
【0043】
また、前段((n-1)段)の油相導入手段(ポンプ2)と前記所定段(n段)の油相排出手段(ポンプ3)は同じ(共用)とし、後段((n+1)段)の水相導入手段(ポンプ1)と所定段(n段)の水相排出手段(ポンプ4)は同じ(共用)にする、こともできる。
【0044】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
【0045】
【実施例0046】
本発明の溶媒抽出工程用の油水混合分離装置を用いた。油水混合部は、微細流路内で有機物溶液(油相)と水溶液(水相)を混合し、混合された流体がスラグ流を形成し油相と水相とを接触させる混合部とした。U字型分離槽の第一室と第二室の容積比は2対1、段数は10段とした。
【0047】
有機物溶液(油相) としてDBC(ジブチルカルビトール)を使用した。水溶液(水相)として、 塩酸酸性水溶液を使用した。塩酸性水溶液には、精製対象である貴金属(Ir)と不純物としてのFeを含有している。水溶液(水相)は、 Ir塩酸酸性水溶液200L(Ir:5.4%,Fe:3.0%)とした。
【0048】
上記条件で130時間、装置を連続運転させた。油相/水相界面付近には濁りの発生が認められたが、油相/水相界面の位置が変わることなく、連続的に処理することができた。
【0049】
処理後のIr塩酸酸性水溶液中の各濃度はIr:5.4%,Fe:1ppmであった。
【0050】
(比較例)
油水混合部は実施例1と同じものを用いた。分離槽として、円筒状の分離槽を用い、油相/水相界面のレベルはレーザで検知する混合分離装置を用いた。円筒状の分離槽の容積は実施例1のU字型分離槽の第一室と第二室の合計容積と同等とした。段数は10段とした。有機物溶液(油相) は、DBC(ジブチルカルビトール)であり、水溶液(水相)は、 Feを含むIr塩酸酸性溶液200L(Ir:5.4%,Fe:3.0%)とした。
【0051】
上記条件で装置を連続運転させた。油水境界部付近に濁りが発生した後、油相/水相界面を検知できなくなってしまい、12時間で停止し、所定量を連続的に処理することができなかった。
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2021-08-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物溶液(油相)または水溶液(水相)中に含有している貴金属を精製するための溶媒抽出工程用の油水混合分離装置であって、
油水混合分離部および制御手段を備え、
前記油水混合分離部は、
前記有機物溶液(油相)と前記水溶液(水相)を混合することができる油水混合部と、
前記油水混合部の第一の流入口に水相を導入する水相導入手段(ポンプ1)と、
前記油水混合部の第二の流入口に油相を導入する油相導入手段(ポンプ2)と、
前記油水混合部の流出口から出た液(油水)を油水分離するためのU字型分離槽であって、第一室と第二室を有し、それら2つの室は下部でつながっており、油相が前記第一室の上側に配置され、水相が前記第二室と第一室の下部に配置され、油相と水相の間には油相/水相界面が形成されるとともに、油相上面が水相上面より高くなる前記U字型分離槽とを備え、
前記U字型分離槽は、
前記油水混合部の流出口から出た液(油水)を第一室に注入する開口1と、
前記第一室に設けられた、油相排出用の開口2と、
前記開口2から油相を排出する油相排出手段(ポンプ3)と、
前記第二室に設けられた、水相排出用の開口3と、
前記開口3から水相を排出する水相排出手段(ポンプ4)と、
前記第一室の油相上面が所定の高さ以上か以下かを検知する第一の検知手段(油相側センサ)と、
前記第一室の油相上面よりも低い前記第二室の水相上面が所定の高さ以上か以下かを検知する第二の検知手段(水相側センサ)を備え、
前記開口2の高さは前記油相上面より低く、
前記開口3の高さは前記水相上面より低く、
第一の検知手段(油相側センサ)が前記第一室の油相上面が所定の高さ以上であることを検知した場合をオン状態、それ以外をオフ状態とし、第二の検知手段(水相側センサ)が前記第一室の油相上面よりも低い前記第二室の水相上面が所定の高さ以上であることを検知した場合をオン状態、それ以外をオフ状態とした場合において、前記制御手段は、
第一の検知手段(油相側センサ)、第二の検知手段(水相側センサ)がともにオフ状態のときに水相導入手段(ポンプ1)をオンに、それ以外のときに水相導入手段(ポンプ1)をオフにし、
第一の検知手段(油相側センサ)がオフ状態のときに油相導入手段(ポンプ2)をオンに、それ以外のときに油相導入手段(ポンプ2)をオフにし、
第一の検知手段(油相側センサ)がオン状態のときに油相排出手段(ポンプ3)をオンに、それ以外のときに油相排出手段(ポンプ3)をオフにし、
第二の検知手段(水相側センサ)がオン状態のときに水相排出手段(ポンプ4)をオンに、それ以外のときに水相排出手段(ポンプ4)をオフにする、
ことを特徴とする溶媒抽出工程用の油水混合分離装置。
【請求項2】
請求項1に記載の油水混合分離装置をn(nは3以上)段直列に構成し、
所定段(n段)における前記油水混合分離装置の開口2は前記所定段の前段((n-1)段)の油水混合分離装置の油水混合部の第二の流入口とつながっており、
前記所定段(n段)における前記油水混合分離装置の開口3はその所定段の後段((n+1)段)の油水混合分離装置の油水混合部の第一の流入口につながっており、
前記制御手段は、前記前段((n-1)段)の油相導入手段(ポンプ2)がオンのときに、前記所定段(n段)の油相排出手段(ポンプ3)をオンに制御し、前記後段((n+1)段)の水相導入手段(ポンプ1)がオンのときに、前記所定段(n段)の水相排出手段(ポンプ4)をオンに制御する、
ことを特徴とする溶媒抽出工程用の油水混合分離装置。
【請求項3】
請求項1に記載の油水混合分離装置をn(nは3以上)段直列に構成し、
所定段(n段)における前記油水混合分離装置の開口2は前記所定段の前段((n-1)段)の油水混合分離装置の油水混合部の第二の流入口とつながっており、
前記所定段(n段)における前記油水混合分離装置の開口3はその所定段の後段((n+1)段)の油水混合分離装置の油水混合部の第一の流入口につながっており、
前記前段((n-1)段)の油相導入手段(ポンプ2)と前記所定段(n段)の油相排出手段(ポンプ3)は同じ(共用)であり、
前記後段((n+1)段)の水相導入手段(ポンプ1)と前記所定段(n段)の水相排出手段(ポンプ4)は同じ(共用)である、
ことを特徴とする溶媒抽出工程用の油水混合分離装置。
【請求項4】
前記油水混合部は、微細流路内で有機物溶液(油相)と水溶液(水相)を混合し、混合された流体がスラグ流を形成し前記油相と水相とを接触させることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の溶媒抽出工程用の油水混合分離装置。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貴金属精製における溶媒抽出工程用の油水混合分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
目的貴金属元素と他元素である不純物元素とを含む合金廃材から純度の高い目的貴金属元素を得るため、合金廃材を強酸に直接溶解させるか、一旦、不純物を含む貴金属を酸化剤と高温化で溶融反応させた後強酸に溶解させて溶液化した後、例えば、溶媒抽出によって目的貴金属元素以外を除去する精製が行われている。
【0003】
溶媒抽出とは、例えば、貴金属含有水溶液と不純物元素を取り込む性質のある油を油水混合部で混合させ、貴金属含有水溶液に溶け込んだ不純物を油に抽出させ、次に、油水分離して不純物元素の低減された貴金属含有水溶液を得る方法である。
【0004】
溶媒抽出のための油水分離装置は、種々の方法が提案されている。
【0005】
特許文献1には、円筒状の分離槽に非相溶性の二種の液体を充填して2種の液体の液界面のレベルを検知して2種の液体を二液分離する技術が開示されている。分離槽内壁の同じ高さの相対する位置に超音波発信器及び超音波受信器が取り付けられており、発信子から出された超音波が受信子に到達するか否かによって、2液が混合しているかまたは2液が分離しているか(液界面が形成されているか)を区別するものである。
【0006】
特許文献2には、被処理水(水分、油分含む)を貯留し比重差によって水分と油分とを分離する分離タンクと、分離タンクにサイホン管を経由して接続され分離水を貯留する分離水タンクと、分離水タンクに接続され水位の上昇を排水レベルセンサで検出した時に作動させられて分離水の排出を行なう排水手段と、分離タンクのオイルディテクタで油分を検出した時に、分離タンクの上方内部に接続された排油手段)が分離油を排出する、ことを特徴とする油水分離装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭56-78604号
【特許文献2】実開平4-33903号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の方法は、他元素を多く含む場合、前記廃材が溶解している液(水相)と目的貴金属元素を抽出する油とを混合した際、混合状態が一部安定化(エマルション化)してしまったり、濁りが発生(不純物元素の析出等)してしまったりすると、油水境界部を確認することが困難になり装置が停止してしまい、連続的な溶媒抽出が困難になってしまう問題があった。
【0009】
特許文献2の方法も、混合状態が一部安定化(エマルション化)してしまったり、濁りが発生(不純物元素の析出等)してしまったりすると、分離タンクでの分離状態の油分の検出が困難になり装置が停止してしまい、連続的な溶媒抽出が困難になってしまうという問題があった。
【0010】
本発明の目的は、装置が停止することなく連続して稼働できる油水混合分離装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第一室に、有機物溶液(油相)と水溶液(水相)を混合した油水混合液を導入する開口1と分離後の油相を排出する開口2を備え、第二室に分離後の水相を排出する開口3を備えた U字型系分離槽において、油と水の密度差に応じて油と水が分離した際には、油相面と水相面の高さに所定の差分が生じることに着目し、油相上面水相上面の高さを確実に検出するため、油相上面と前記水相上面をフロートセンサ等の検知手段で検知することによって、装置が停止することなく稼働し続けられることを見出し、本発明を完成するにいたった。また、多段装置間の給水給油(油水混合部からの)、および、排出条件を所定の条件に制御することで、多段の油水分離システムを完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は、
有機物溶液(油相)または水溶液(水相)中に含有している貴金属を精製するための溶媒抽出工程用の油水混合分離装置であって、
油水混合分離部および制御手段を備え、
前記油水混合分離部は、
有機物溶液(油相)と水溶液(水相)を混合することができる油水混合部と、
前記油水混合部の第一の流入口に水相を導入する水相導入手段(ポンプ1)と、
前記油水混合部の第二の流入口に油相を導入する油相導入手段(ポンプ2)と、
前記油水混合部の流出口から出た液(油水)を油水分離するためのU字型分離槽であって、第一室と第二室を有し、それら2つの室は下部でつながっている前記U字型分離槽とを備え、
前記U字型分離槽は、前記油水混合部の流出口から出た液(油水)を第一室に注入する開口1と、
前記第一室に設けられた開口2と、
前記開口2から油相を排出する油相排出手段(ポンプ3)と、
前記第二室に設けられた開口3と、
前記開口3から水相を排出する水相排出手段(ポンプ4)と、
前記第一室の油相上面が所定の高さ以上か以下かを検知する第一の検知手段(油相側センサ)と、
前記第二室の水相上面が前記第一室の所定の高さより低い第二室の所定の高さ以上か以下かを検知する第二の検知手段(水相側センサ)を備え、
前記制御手段は、前記第一の検知手段の出力と前記第二の検知手段の出力に応じて、前記油水混合部の第一の流入口に水相を導入する時期(ポンプ1オン)と、前記油水混合部の第二の流入口に油相を導入する時期(ポンプ2オン)と、前記開口2から油相を排出する(ポンプ3オン)時期と、前記開口3から水相を排出する(ポンプ4オン)時期と、を制御する、
ことを特徴とする溶媒抽出工程用の油水混合分離装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に従うと、装置が停止することなく連続して稼働できる油水分離装置を提供するができる。多量の不純物元素を含む場合に発生する混合状態の一部安定化や濁りの発生等の影響を受けない油水分離装置として、特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の油水混合分離装置(U字型系分離槽)の一例を示す。
図2】本発明の油水混合分離装置(U字型系分離槽)の他の一例を示す。
図3】本発明の油水混合分離装置(U字型系分離槽)の多段構造のn段とその前後の段を示す。
図4】本発明の油水混合分離装置が具備する機能的構成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、有機物溶液(油相)または水溶液(水相)中に含有している貴金属を精製するための溶媒抽出工程用の油水混合分離装置である。油水混合分離装置は、油水混合分離部および制御手段を備えている。
【0016】
油水混合分離部は、有機物溶液(油相)と水溶液(水相)を混合することができる油水混合部と、油水混合部の第一の流入口に水相を導入する水相導入手段(ポンプ1)と、油水混合部の第二の流入口に油相を導入する油相導入手段(ポンプ2)と、油水混合部の流出口から出た液(油水)を油水分離するためのU字型分離槽であって、第一室と第二室を有し、それら2つの室は下部でつながっているU字型分離槽とを備えている。
【0017】
U字型分離槽は、油水混合部の流出口から出た液(油水)を第一室に注入する開口1と、第一室に設けられた開口2と、開口2から油相を排出する油相排出手段(ポンプ3)と、第二室に設けられた開口3と、開口3から水相を排出する水相排出手段(ポンプ4)と、第一室の油相上面が所定の高さ以上か以下かを検知する第一の検知手段(油相側センサ)と、第二室の水相上面が第一室の所定の高さより低い第二室の所定の高さ以上か以下かを検知する第二の検知手段(水相側センサ)を備えている。第一の検知手段、第二の検知手段は、フロートセンサ、光学センサ、超音波センサ、電極式センサ、静電容量式センサ、振動式センサ、レーザ式センサ、ガイドパルス式センサ等を使用することができる。
【0018】
図1は本発明の油水混合分離装置の一例である。図1の上部は油水混合部、下部はU字型分離槽である。図2は本発明の油水混合分離装置の他の一例であり、第一室に対する第二室の容積を大きくした例である。第一室の容積と第二室の容積の比率が異なる点以外の構成は、図1の油水混合分離装置と同じである。以下の説明は図1を主として説明する。
【0019】
油水混合部は、有機物溶液(油相)と水溶液(水相)を混合する。油水混合部での混合方法としては、攪拌器(メカニカルスターラ、マグネチックスターラ等)を使う方法がある。また、例えば、油水混合部での混合方法は、微細流路内で有機物溶液(油相)と水溶液(水相)を混合し、混合された流体がスラグ流を形成し前記油相と水相とを接触させる。スラグ流とは、一流路内で2液が交互に縞模様を形成して現れる流れである。
【0020】
図1において、U字型分離槽の右側は第一室、左側は第二室である。第一室は油水混合部から出た液体を開口1を経て受け入れ、比重差によって水分と油分を分離する。第二室は分離した水分を貯蔵する室である。第一室の内部の上側には油相側センサ(例えば、フロートセンサ)、第二室の内部の上側には水相側センサ(例えば、フロートセンサ)が配置される。第一の検知手段(油相側センサ)は、第一室の油相上面が所定の高さ以上か以下かを検知する。第二の検知手段(水相側センサ)は、第二室の水相上面が第一室の所定の高さより低い第二室の所定の高さ以上か以下かを検知する。
【0021】
油水混合部の流出口から出た液(油水)は、油分と水分を所定比率(例えば概ね等量)含む。図1に示すように、油分が第一室の上側に配置し、水分は第二室と第一室の下部に配置され、油相と水相の間には油相/水相界面が形成されるとともに、油相の上面が水相の上面より高くなる。すなわち、図1において、H1は油相/水相界面から油相上面までの高さを示し、H2は、油相/水相界面から水相上面までの高さを示すが、それら油水が分離している場合には油相上面と水相上面の高さに所定の差分(「第一の高さ」-「第二の高さ」=H1-H2)が生じる。そして、第一の高さと第二の高さの差が所定の差になったときに2つのセンサが共に作動する(オンする)ように2つのセンサ(例えば、フロートセンサ)を設置する。
【0022】
図2の油水混合分離装置のように、第一室に対する第二室の容積を大きくした場合には、あらかじめ、油分と水分を所定量装置に導入しておき、図2に示すように、油分が第一室の上側に配置し、水分は第二室と第一室の下部に配置され、油相と水相の間には油相/水相界面が形成されるようにしておくこともできる。
【0023】
油分と水分とが所定比率(例えば概ね等量)入っている状態において、第一室の容積に対する第二室の容積を小さくしていくと、第一室の下部の存在する水の割合が増加するので、U字型分離槽における油相/水相界面をある範囲(開口2~第一室と第二室の仕切りの下端)に維持することが相対的に容易となる。一方、油相上面と水相上面の高さの所定の差分(「第一の高さ」-「第二の高さ」=H1-H2)を大きくしたいという観点からは、第一室の容積に対して第二室の容積が大きいことが好ましい。
【0024】
以上を踏まえ、第一室の容積(V1)と第二室の容積(V2)の比率(V2/V1)は、1/10≦V2/V1≦10とすることができる。1/3≦V2/V1≦3とすることが好ましい。また、1/2≦V2/V1≦2がより好ましい。
【0025】
また、開口1の位置は、上記油相/水相界面付近とする。開口2の位置は、上記油相上面と上記水相上面の間とする。開口3の位置は、上記水相上面と上記油相/水相界面の間とする。
【0026】
制御手段は、図4のブロック図に示すように、第一の検知手段の出力と第二の検知手段の出力に応じて、油水混合部の第一の流入口に水相を導入する時期(ポンプ1オン)と、油水混合部の第二の流入口に油相を導入する時期(ポンプ2オン)と、開口2から油相を排出する(ポンプ3オン)時期と、開口3から水層を排出する(ポンプ4オン)時期と、を制御する。この制御手段は、例えば、ポンプ1、ポンプ2、ポンプ3、ポンプ4をそれぞれ個別に電子制御可能に構成された電子回路などで構成される。
【0027】
油水混合部からは所定比率の油水が出力されるが、所定比率が多少ずれてもU字型分離槽における油相/水相界面をある範囲(開口2~第1室と第2室の仕切りの下端)に維持することができる。
【0028】
その理由を以下説明する。油水混合部からは所定比率からずれた油水が出力されると仮定する。例えば、水100%の液体が第一室に入ると仮定する。その場合、U字型分離槽内の圧力計算を行うと判るように、水相上面の上昇分は油相上面の上昇分よりも大きくなる(両上面の差は減少する)。そうすると、水を検知するフロートセンサが先にオンとなり、水が優先的に排出される。一方、油100%の液体が第一室に入ると仮定する。その場合、U字型分離槽内の圧力計算を行うと判るように、油相上面の上昇分は水相上面の上昇分よりも大きくなる(両上面の差は増加する)。そうすると、油を検知するフロートセンサが先にオンとなり、油が優先的に排出される。このようにして、所定比率からずれた油水がU字型分離槽内に入っても余剰な成分が優先的に排出され、槽内の油と水の比率は所定比率から大きくずれることなく、ほぼ一定となり、油相/水相界面の高さもほぼ一定となり、油相/水相界面を検出してその位置を一定とする制御をする必要がなく、自動運転ができることとなる。
【0029】
図1に示すU字型分離槽にある2つのセンサ(水相側センサ,油相側センサ)のオン・オフ状態を検知した出力に応じて、制御手段が各ポンプを作動させるか否かの状態の一例(ポンプ作動基本パターン)を表1に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
界面差分が所定量(H2-H1)以上になると第一の検知手段(油相側センサ)がオンになりやすいこと、界面差分が所定量(H2-H1)以下になると第二の検知手段(水相側センサ)がオンになりやすいことに着目して表1の状態を設定した。
【0032】
具体的には、水を入れる(P1オン)のは水面・油面がともに下がった場合(水相センサ、油相センサともにオフ)のみ(水面より油面が高いので水面が下がっていても油面が高すぎると装置が溢れてしまう)。また、油を入れる(P2オン)のは油面が下がった場合(油相センサオフ)である。また、水面が上がったら(水相センサオン)水を排出する(P4オン)。また、油面が上がったら(油相センサオン)油を排出する(P3オン)。
【0033】
次に、油水分離装置をN(Nは3以上)段直列に構成した場合の構成と制御を説明する。
【0034】
図3に油水分離装置をN(Nは3以上)段直列に構成した場合の構成を示す。
【0035】
所定段(n段)における前記油水混合分離装置の開口2は前記所定段の前段((n-1)段)の油水混合分離装置の油水混合部の第二の流入口とつながっている。また、所定段(n段)における前記油水混合分離装置の開口3はその所定段の後段((n+1)段)の油水混合分離装置の油水混合部の第一の流入口につながっている。
【0036】
したがって、各段の油水混合分離装置が動作するためには、各段の前後の油水混合分離装置の動作条件を加味することが必要である。すなわち、制御手段は、前段((n-1)段)の油相導入手段(ポンプ2)がオンになる条件でのみ、前記所定段(n段)の油相排出手段(ポンプ3)をオンに制御し、後段((n+1)段)の水相導入手段(ポンプ1)がオンになる条件でのみ、所定段(n段)の水相排出手段(ポンプ4)をオンに制御する。
【0037】
上記制御手段の制御状態を以下説明する。
【0038】
いま、(n-1)段のU字型分離槽(以下、(n-1)槽と記す)、n段のU字型分離槽(以下、n槽と記す)、(n+1)段のU字型分離槽(以下、(n+1)槽と記す)のセンサの検知状態の組み合わせに対して、それぞれ表1を適用すると、n槽における4台のポンプ(P1(n)、P2(n),P3(n),P4(n))のオン・オフ状態が得られる。表2は、(n-1)槽,n槽,(n+1)槽のセンサ検知状態と、(n-1)槽,n槽,(n+1)槽のポンプの作動状況を示した表である。
【0039】
【表2】
【0040】
表2において、(n-1)槽,n槽,(n+1)槽のフロートセンサ検知状態を表の左側に示している。また、表2の右側上段にはn槽のポンプ4台の作動状況を示している。表2の右側下段には、上記制御条件を説明するため、対応する前後の槽のポンプの作動状態を示している。
【0041】
上記の制御条件は、
P1(n)=P4(n-1)=オン、
P2(n)=P3(n+1)=オン、
P3(n)=P2(n-1)=オン、
P4(n)=P1(n+1)=オン
と表せるので、その条件を満たす表2の右側の欄をグレーで着色表示した。
【0042】
すなわち、表2において、欄がグレーの場合にそれらのポンプが作動し、欄が色なしの場合にはそれらのポンプは作動しない。制御手段は、このような条件にて所定段(n段)のn槽のポンプを制御する。
【0043】
また、前段((n-1)段)の油相導入手段(ポンプ2)と前記所定段(n段)の油相排出手段(ポンプ3)は同じ(共用)とし、後段((n+1)段)の水相導入手段(ポンプ1)と所定段(n段)の水相排出手段(ポンプ4)は同じ(共用)にする、こともできる。
【0044】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
【0045】
【実施例0046】
本発明の溶媒抽出工程用の油水混合分離装置を用いた。油水混合部は、微細流路内で有機物溶液(油相)と水溶液(水相)を混合し、混合された流体がスラグ流を形成し油相と水相とを接触させる混合部とした。U字型分離槽の第一室と第二室の容積比は2対1、段数は10段とした。
【0047】
有機物溶液(油相) としてDBC(ジブチルカルビトール)を使用した。水溶液(水相)として、 塩酸酸性水溶液を使用した。塩酸性水溶液には、精製対象である貴金属(Ir)と不純物としてのFeを含有している。水溶液(水相)は、 Ir塩酸酸性水溶液200L(Ir:5.4%,Fe:3.0%)とした。
【0048】
上記条件で130時間、装置を連続運転させた。油相/水相界面付近には濁りの発生が認められたが、油相/水相界面の位置が変わることなく、連続的に処理することができた。
【0049】
処理後のIr塩酸酸性水溶液中の各濃度はIr:5.4%,Fe:1ppmであった。
【0050】
(比較例)
油水混合部は実施例1と同じものを用いた。分離槽として、円筒状の分離槽を用い、油相/水相界面のレベルはレーザで検知する混合分離装置を用いた。円筒状の分離槽の容積は実施例1のU字型分離槽の第一室と第二室の合計容積と同等とした。段数は10段とした。有機物溶液(油相) は、DBC(ジブチルカルビトール)であり、水溶液(水相)は、 Feを含むIr塩酸酸性溶液200L(Ir:5.4%,Fe:3.0%)とした。
【0051】
上記条件で装置を連続運転させた。油水境界部付近に濁りが発生した後、油相/水相界面を検知できなくなってしまい、12時間で停止し、所定量を連続的に処理することができなかった。