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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022013785
(43)【公開日】2022-01-18
(54)【発明の名称】抗菌・抗ウイルスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/342 20060101AFI20220111BHJP
   D06L 1/04 20060101ALI20220111BHJP
   D06L 1/16 20060101ALI20220111BHJP
   D06M 13/192 20060101ALI20220111BHJP
   D06M 13/418 20060101ALI20220111BHJP
   D06M 11/56 20060101ALI20220111BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20220111BHJP
   A01N 55/02 20060101ALI20220111BHJP
   A01N 59/20 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
D06M13/342
D06L1/04
D06L1/16
D06M13/192
D06M13/418
D06M11/56
A01P1/00
A01N55/02
A01N55/02 150
A01N59/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021104761
(22)【出願日】2021-06-24
(31)【優先権主張番号】P 2020115622
(32)【優先日】2020-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】599134609
【氏名又は名称】株式会社不二ドライ
(71)【出願人】
【識別番号】511190018
【氏名又は名称】株式会社CSL
(71)【出願人】
【識別番号】594025069
【氏名又は名称】株式会社マルゼン
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 善胤
(72)【発明者】
【氏名】蜷川 博生
【テーマコード(参考)】
4H011
4L031
4L033
【Fターム(参考)】
4H011AA04
4H011BB16
4H011BB18
4H011DA13
4L031BA13
4L031DA12
4L033AB04
4L033AC10
4L033BA18
4L033BA53
4L033BA75
(57)【要約】
【課題】 クリーニングに際し、被クリーニング繊維に対する抗菌・抗ウイルス性組成物の効果を維持しつつ、より簡単な方法によりクリーニングが可能な、抗菌・抗ウイルスクリーニング方法を提供する。
【解決手段】 被クリーニング繊維に抗菌性及び抗ウイルス性を付与するクリーニング方法であって、前記被クリーニング繊維を水洗クリーニング又はドライクリーニングするクリーニング工程と、該クリーニング工程の後に、前記被クリーニング繊維に付着した塩素を除去する塩素除去工程と、少なくとも、ピロリドンカルボン酸銀、ピロリドンカルボン酸亜鉛及び銅イオンを含む抗菌・抗ウイルス性組成物を噴霧・塗布又は含浸する抗菌・抗ウイルス処理工程とを有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被クリーニング繊維に抗菌性及び抗ウイルス性を付与するクリーニング方法であって、
前記被クリーニング繊維を水洗クリーニング又はドライクリーニングするクリーニング工程と、
該クリーニング工程の後に、前記被クリーニング繊維に付着した塩素を除去する塩素除去工程と、
少なくとも、ピロリドンカルボン酸銀、ピロリドンカルボン酸亜鉛及び銅イオンを含む抗菌・抗ウイルス性組成物を噴霧・塗布又は含浸する抗菌・抗ウイルス処理工程とを有することを特徴とする抗菌・抗ウイルスクリーニング方法。
【請求項2】
前記抗菌・抗ウイルス性組成物が、ピロリドンカルボン酸銅及びN-長鎖アシルアミノ酸カリウムの少なくともいずれかを含むことを特徴とする請求項1に記載の抗菌・抗ウイルスクリーニング方法。
【請求項3】
前記塩素除去工程が、被クリーニング繊維の乾燥処理であることを特徴とする請求項1又は2に記載の抗菌・抗ウイルスクリーニング方法。
【請求項4】
前記抗菌・抗ウイルス処理工程において、前記抗菌・抗ウイルス性組成物を前記被クリーニング繊維1m当たり5~60ml噴霧・塗布又は含浸することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の抗菌・抗ウイルスクリーニング方法。
【請求項5】
前記抗菌・抗ウイルス性組成物が、硫酸、グルタミン酸、クエン酸の少なくともいずれかを含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の抗菌・抗ウイルスクリーニング方法。
【請求項6】
前記抗菌・抗ウイルス性組成物が、アルコールを5~80質量%含むことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の抗菌・抗ウイルスクリーニング方法。
【請求項7】
前記クリーニング工程に導入する被クリーニング繊維が用いられた洗濯物が指定洗濯物であることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の抗菌・抗ウイルスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌・抗ウイルスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、微粒子状の銀や亜鉛等の金属を含む抗菌・抗ウイルス性組成物が知られている(例えば特許文献1~6等)。また、抗菌・抗ウイルス性を有する繊維製品も提案されている(特許文献7、8)。
【0003】
しかしながら、特許文献1~6の抗菌・抗ウイルス性組成物を繊維に塗布等した場合、抗菌・抗ウイルス性成分が繊維から脱落しやすく、抗菌・抗ウイルス性を長期間に亘って維持することは難しい。また、抗菌・抗ウイルス性組成物に銀等の金属が含まれる場合には、変色が生じる虞があった。
【0004】
また、特許文献7、8の繊維製品の場合も、抗菌・抗ウイルス性成分が繊維から脱落しやすく、それに伴い抗菌・抗ウイルス性効果も次第に低下していくという問題があった。さらに、特許文献7、8の繊維製品の場合、染料や顔料を用いての染色や、柔軟剤、加工溶剤の使用等によっても抗菌・抗ウイルス性効果が阻害される虞があるため、使用可能な材料が大きく制限されてしまうという問題もあった。
【0005】
そこで、本発明者らは、上記従来の抗菌・抗ウイルス性組成物の問題点を解決するために、抗菌・抗ウイルス性成分の繊維からの脱落や変色が抑制され、優れた抗菌・抗ウイルス効果を長期間維持することができ、使用可能な材料の制限も少ない繊維用抗菌・抗ウイルス性組成物を完成させた(特許文献9)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-2227号公報
【特許文献2】特開2008-520570号公報
【特許文献3】特開2010-70571号公報
【特許文献4】特開2004-528389号公報
【特許文献5】特開2014-208606号公報
【特許文献6】特開2013-503124号公報
【特許文献7】特開2010-30984号公報
【特許文献8】特開2009-57647号公報
【特許文献9】特許第6689613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、上記本発明者による発明の繊維用抗菌・抗ウイルス性組成物は従来公知のクリーニング方法に適用することが考えられるが、例えば、使用する洗剤や有機溶剤等とともに上記繊維用抗菌・抗ウイルス性組成物を用いた場合、条件によっては被クリーニング繊維に繊維用抗菌・抗ウイルス性組成物が定着しづらかったり、本来の繊維用抗菌・抗ウイルス性組成物の効果を十分に得ることができない場合があった。
【0008】
本発明は、以上の事情に鑑みてなされたものであり、通常のクリーニングに際し、より簡単な方法により、確実に被クリーニング繊維に対して抗菌・抗ウイルス性組成物を定着させ、抗菌・抗ウイルス性能を維持させることが可能な抗菌・抗ウイルスクリーニング方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の抗菌・抗ウイルスクリーニング方法は、上記の技術的課題を解決するためになされたものであって、以下のことを特徴としている。
【0010】
第1に、本発明の抗菌・抗ウイルスクリーニング方法は、被クリーニング繊維に抗菌性及び抗ウイルス性を付与するクリーニング方法であって、前記被クリーニング繊維を水洗クリーニング又はドライクリーニングするクリーニング工程と、該クリーニング工程の後に、前記被クリーニング繊維に付着した塩素を除去する塩素除去工程と、少なくとも、ピロリドンカルボン酸銀、ピロリドンカルボン酸亜鉛及び銅イオンを含む抗菌・抗ウイルス性組成物を噴霧・塗布又は含浸する抗菌・抗ウイルス処理工程とを有することを特徴とする。
【0011】
第2に、上記第1の発明の抗菌・抗ウイルスクリーニング方法において、前記抗菌・抗ウイルス性組成物が、ピロリドンカルボン酸銅及びN-長鎖アシルアミノ酸カリウムの少なくともいずれかを含むことが好ましい。
【0012】
第3に、上記第1又は第2の発明の抗菌・抗ウイルスクリーニング方法において、前記塩素除去工程が、被クリーニング繊維の乾燥処理であることが好ましい。
【0013】
第4に、上記第1から第3の発明の抗菌・抗ウイルスクリーニング方法において、前記抗菌・抗ウイルス処理工程において、前記抗菌・抗ウイルス性組成物を前記被クリーニング繊維1m当たり5~60ml噴霧・塗布又は含浸することが好ましい。
【0014】
第5に、上記第1から第4の発明の抗菌・抗ウイルスクリーニング方法において、前記抗菌・抗ウイルス性組成物が、硫酸、グルタミン酸、クエン酸の少なくともいずれかを含むことが好ましい。
【0015】
第6に、上記第1から第5の発明の抗菌・抗ウイルスクリーニング方法において、前記抗菌・抗ウイルス性組成物が、アルコールを5~80質量%含むことが好ましい。
【0016】
第7に、上記第1から第6の発明の抗菌・抗ウイルスクリーニング方法において、前記クリーニング工程に導入する被クリーニング繊維が用いられた洗濯物が指定洗濯物であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の抗菌・抗ウイルスクリーニング方法によれば、被クリーニング繊維に対する抗菌・抗ウイルス性組成物の効果を維持しつつ、より簡単な方法により確実に被クリーニング繊維に対して抗菌・抗ウイルス性組成物を定着させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の抗菌・抗ウイルスクリーニング方法は、被クリーニング繊維に抗菌性及び抗ウイルス性を付与するクリーニング方法であり、被クリーニング繊維をクリーニングするクリーニング工程と、該クリーニング工程の後に、前記被クリーニング繊維に付着した塩素を除去する塩素除去工程と、抗菌・抗ウイルス性組成物を噴霧・塗布又は含浸する抗菌・抗ウイルス処理工程とを有している。以下に、本発明の抗菌・抗ウイルスクリーニング方法の各工程について詳述する。
【0019】
(クリーニング工程)
本発明の抗菌・抗ウイルスクリーニング方法では、まず、通常のクリーニングを行う。本発明における通常のクリーニングとしては、現在一般に実施されている商業クリーニングが適用可能である。商業クリーニングは、一般的に、水で洗浄する「水洗」と、有機溶剤で洗浄する「ドライクリーニング」の2種類の方法に大別できる。そして、上記のクリーニング方法の選択は、被クリーニング繊維の材質や汚れ具合、汚れ種類等に応じて適宜判断される。
【0020】
また、水で洗浄する「水洗」は「ランドリー」と「ウェットクリーニング」に分類される。
ランドリーは、水中で洗剤と共に物理的な力をかけて「洗浄」、「すすぎ」、「脱水」の順番で行われる。また、ランドリーにおける上記一連の処理では、必要に応じて常温から高温(約15~80℃)に設定した温度条件下で実施される。
【0021】
ウェットクリーニングは、上記ランドリーとほぼ同様の手順で行われるが、ランドリーの処理における「物理的な力」の付与を極力避けて、繊維へのダメージを抑えた状態で行う洗浄方法である。ダメージを抑えた洗浄方法としては、例えば、洗浄の工程において、手洗いによる洗浄や弱い水流での機械洗浄等が例示される。
【0022】
ドライクリーニングは、有機溶剤の中で洗剤と共に物理的な力をかけて「洗浄・すすぎ」、「脱水」の順番で行う。ドライクリーニングで用いる有機溶剤は複数種類あるが、現在日本では約9割程度の割合で石油系溶剤が用いられている。また、石油系溶剤の他には、パーク系、フッ素系、シリコン系が極少数用いられている。これらの有機溶剤によるクリーニング性能の違いとしては、比重の差による物理的な力の強弱、油脂溶解力の差による油性汚れの除去力の強弱、抱水能力の差による水溶性汚れの除去力の強弱が挙げられ、被クリーニング繊維の材質や汚れ具合、汚れ種類等に応じて適宜使い分けされる。本発明の抗菌・抗ウイルスクリーニング方法では、上記いずれの種類のクリーニング方法に対しても適用可能である。なお、本クリーニング工程においては、以後の各工程において被クリーニング繊維に対して処理を施す必要があるため、仕上げの工程は不要である。
【0023】
本発明において、クリーニングの対象となる被クリーニング繊維は、抗菌・抗ウイルス性組成物を噴霧・塗布又は含浸可能な繊維であればその材料は特に限定されないが、例えば、セルロース系繊維(木綿、麻、レーヨン、パルプ等)、蛋白質系繊維(羊毛、絹等)、ポリアミド系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアクリル系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維、ポリオレフィン系繊維、ポリウレタン系繊維等の各種の天然繊維、再生繊維、半合成繊維、合成繊維等を挙げることができる。また、これらを用いた糸、織編物、ウェブ、不織布、紙、ネット等に成形されたものを含み、これを少なくとも一部に含む繊維製品として、例えば、衣類(帽子、手袋、ハンカチを含む)、寝具(布団、枕を含む)、カーテン、壁紙、カーペット、マット、シーツ、フィルター、マスク、ワイパー、タオル、防護衣類、防護ネット等を例示することができる。
【0024】
また、本発明のクリーニング工程においては、上記で例示した被クリーニング繊維を用いた繊維製品の指定洗濯物、又は指定洗濯物となり得る洗濯物を導入することが好ましい。なお、指定洗濯物とは、感染症を起こす病原体により汚染されたもの、又は汚染の虞のあるもの等、また、し尿、嘔吐物が付着した洗濯物などを意味する。
【0025】
(塩素除去工程)
次に、クリーニング工程が完了した被クリーニング繊維に付着した塩素を除去する塩素除去工程を行う。上記クリーニング工程の完了時においては、使用する洗剤等によって被クリーニング繊維の表面に残留塩素が存在する場合がある。この残存塩素は、後述する本発明で用いる抗菌・抗ウイルス性組成物の被クリーニング繊維に対する付着性や抗菌・抗ウイルス性能の低下を及ぼす虞がある。そのため、本塩素除去工程では、クリーニング工程の完了時に被クリーニング繊維表面に残存する残留塩素を完全に除去する。塩素除去の方法は、被クリーニング繊維から塩素を除去できれば特に限定されるものではないが、本発明においては、被クリーニング繊維を完全に乾燥させることにより残留塩素を除去することが好ましい。
【0026】
本発明における完全に乾燥させる方法としては、タンブラー乾燥機、静止型乾燥機(自然乾燥を含む)、綿プレス機、Yシャツプレス機、人体プレス機、アイロン等を例示することができる。また、乾燥条件としては40℃~80℃の温風、又は120℃~180℃の鉄板面接触が好ましい。なお、前工程のクリーニング工程において乾燥を行う場合があるが、この乾燥では完全に塩素が除去し切れない場合があるため、本塩素除去工程は必須の工程である。
【0027】
また、クリーニング工程において、ドライクリーニングをパーク系(テトラクロロエチレン)の溶剤を用いた場合、パーク系は塩素系有機溶剤であるため乾燥によっても残量塩素を除去しきれず本発明を適用しづらい場合がある。
【0028】
(抗菌・抗ウイルス処理工程)
次に、塩素除去工程を施した被クリーニング繊維に対して抗菌・抗ウイルス処理を行う。具体的には、被クリーニング繊維に対して抗菌・抗ウイルス性組成物を噴霧・塗布又は含浸させる。
【0029】
本発明の抗菌・抗ウイルスクリーニング方法で用いる抗菌・抗ウイルス性組成物は、溶媒としての水中に、アミノ酸銀、アミノ酸亜鉛及び銅イオンを含むものである。そして、抗菌・抗ウイルス性組成物においては、配合されたアミノ酸銀、アミノ酸亜鉛のうちの少なくとも一部の銀、亜鉛はイオン化した状態で存在している。
【0030】
アミノ酸銀及びアミノ酸亜鉛におけるアミノ酸としては、例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、フェニルアラニン、チロシン、トレオニン、トリプトファン、メチオニン、アスパラギン酸、リジン、アルギニン、ヒスチジンピドール酸、L-グルタミン酸、L-グルチム酸、L-グルチミン酸、L-グルタミン酸ラクタム、L-グルチミニン酸、L-ピロリドンカルボン酸、L-ピログルタミン酸、オキソプロリンのうちの1種又は2種以上を例示することができる。これらの中でも、L-ピロリドンカルボン酸は、抗菌・抗ウイルス効果に優れているため、抗菌・抗ウイルス性組成物に、ピロリドンカルボン酸銀、ピロリドンカルボン酸亜鉛を配合することで、抗菌・抗ウイルス効果を確実に高めることができる。
【0031】
アミノ酸銀及びアミノ酸亜鉛の配合量は適宜設計することができるが、例えば、水1000mlに対する銀イオン及び亜鉛イオンの合計が15000mg/L以上であることが好ましく、実際的には、水1000mlに対する銀イオン及び亜鉛イオンの合計が、15000mg/L~100000mg/L程度の範囲であることがより好ましい。
【0032】
本発明で用いる抗菌・抗ウイルス性組成物に含まれる銅イオンは、各種の銅化合物によるものであってよく、具体的には、例えば、硝酸銅、塩化銅、硫酸銅、酸化銅、硫酸銅、ヨウ化銅、炭酸銅、クエン酸銅、グルタミン酸銅、アミノ酸銅等うちの1種又は2種以上を例示することができ、なかでもアミノ酸銅であることが好ましい。これらの中でも特に硫酸銅(硫酸銅五水和物)を好適に用いることができる。
【0033】
アミノ酸銅のアミノ酸は、アミノ酸銀及びアミノ酸亜鉛と同様に、例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、フェニルアラニン、チロシン、トレオニン、トリプトファン、メチオニン、アスパラギン酸、リジン、アルギニン、ヒスチジンピドール酸、L-グルタミン酸、L-グルチム酸、L-グルチミン酸、L-グルタミン酸ラクタム、L-グルチミニン酸、L-ピロリドンカルボン酸、L-ピログルタミン酸、オキソプロリンのうちの1種又は2種以上を例示することができる。これらの中でも、L-ピロリドンカルボン酸は、抗菌・抗ウイルス効果に優れているため、抗菌・抗ウイルス性組成物に、ピロリドンカルボン酸銅を配合することで、抗菌・抗ウイルス効果を確実に高めることができる。
【0034】
アミノ酸銅の配合量は適宜設計することができるが、例えば、水1000mlに対する
銅イオンが100mg/L以上であることが好ましく、実際的には、水1000mlに対する銀イオン及び亜鉛イオンの合計が、100mg/L~500mg/L程度の範囲であることがより好ましい。
【0035】
また、本発明で用いる抗菌・抗ウイルス性組成物には、例えば、ニッケル、マグネシウム、鉄、チタン等のその他の金属を適宜含むことができる。
【0036】
さらに、本発明で用いる抗菌・抗ウイルス性組成物は、界面活性剤として、N-長錯アシルアミノ酸カリウムを含むことが好ましい。N-長錯アシルアミノ酸カリウムは、カリウムイオンが容易に抗ウイルス性組成物の銀イオン、亜鉛イオン、銅イオンと結合し、効果的に繊維と結合する。このため、N-長錯アシルアミノ酸カリウムは、抗ウイルス性成分を保持する役割を有している。また、N-長錯アシルアミノ酸カリウムは、界面活性剤として繊維の内部への抗菌・抗ウイルス性組成物の浸透性とpHによる凝集性を高めることができる。抗菌・抗ウイルス性組成物が繊維の内部へ浸透した後、凝集することで、抗菌・抗ウイルス性組成物が繊維に固定されるため、脱落が抑制され、抗菌・抗ウイルス性を長期間維持することができる。
【0037】
抗菌・抗ウイルス性組成物とN-長錯アシルアミノ酸カリウムの配合割合は、用途、目的等応じて適宜設定することができるが、例えば、抗菌・抗ウイルス性組成物に対して、0.005質量%~10質量%の範囲内を例示することができる。N-長錯アシルアミノ酸カリウムの配合割合がこの範囲であると、上記の効果が確実に発揮される。
【0038】
また、抗菌・抗ウイルス性組成物には、塩酸、硝酸、リン酸、酢酸、硫酸等の各種の酸類を配合することで、凝集性を高めることができる。これらの中でも、金属イオンの溶解性と浸透性(浸透安定性)の観点から、硫酸が好ましい。抗菌・抗ウイルス性組成物における硫酸等の各種の酸類の濃度等は特に限定されず、抗菌・抗ウイルス性を妨げない範囲で適宜設定することができる。
【0039】
本発明で用いる抗菌・抗ウイルス性組成物には、グルタミン酸を配合することが好ましい。グルタミン酸は、水に対する溶解性、カルボン酸系材料との相関性に優れ、ピロリドンカルボン酸の原料ともなるため、繊維に対する浸透性をさらに高めることができる。
【0040】
また、抗菌・抗ウイルス性組成物には、クエン酸を配合することが好ましい。クエン酸は溶解性に優れ、繊維への浸透性をさらに高めることができる。
【0041】
また、抗菌・抗ウイルス性組成物には、アルコールを配合することが好ましい。アルコールとしてはエタノール、イソプロピルアルコール(IPA)を好適に用いることができる。アルコールの添加量は特に限定されないが、通常5~80質量%、好ましくは10~70質量%の範囲が考慮される。抗菌・抗ウイルス性組成物にアルコールを配合することにより、塩素除去工程後に付着等した塩素を確実に除去することが可能となる。
【0042】
さらに、本発明で用いる抗菌・抗ウイルス性組成物には、用途、取り扱い性、保存性等を考慮して、その他各種の添加物を配合することができる。例えば、通常製剤に用いられる配合剤としての界面活性剤、油分、上記以外のアルコール類、保湿剤、増粘剤、防腐剤、酸化防止剤、キレート剤、pH調整剤、香料、色素、ビタミン類、生薬、植物エキス等を配合することができる。また、硫酸亜鉛七水和物、硫酸銅五水和物等の酸や水酸化ナトリウム等を利用してpHを調整することもできる。
【0043】
本抗菌・抗ウイルス処理工程では、上記構成の抗菌・抗ウイルス性組成物を被クリーニング繊維に対して噴霧・塗布又は含浸するが、その方法は被クリーニング繊維の表面に確実に定着させることができれば特に限定されるものではなく、例えば、洗濯機、ハンドスプレー、霧吹き、スプレーマチック、桶、バケツ等を用いて噴霧・塗布又は含浸させることができる。
【0044】
抗菌・抗ウイルス性組成物の定着量は、抗菌・抗ウイルス性能に応じて適宜設定することができるが、通常、被クリーニング繊維1m当たり5~60ml、好ましくは30~50mlの範囲で噴霧・塗布又は含浸することが考慮される。
【0045】
また、本抗菌・抗ウイルス処理工程では、被クリーニング繊維に噴霧・塗布又は含浸した後の乾燥工程及び仕上げ工程等も含む。本発明においては、上記クリーニング工程、塩素除去工程、抗菌・抗ウイルス処理工程により完了する。
【0046】
本発明の抗菌・抗ウイルスクリーニング方法によれば、塩素除去工程により被クリーニング繊維表面から塩素が除去されているため、確実に抗菌・抗ウイルス性組成物を定着させることができる。また、本発明で用いる上記被クリーニング繊維表面に定着させる抗菌・抗ウイルス性組成物が、アミノ酸銀、アミノ酸亜鉛及び銅イオン等を含むため、抗菌・抗ウイルス性成分の被クリーニング繊維からの脱落や変色が抑制され、優れた抗菌・抗ウイルス効果を長期間維持することができる。
【0047】
また、被クリーニング繊維に噴霧・塗布又は含浸された抗菌・抗ウイルス性組成物の抗菌・抗ウイルス効果は染料、顔料、柔軟剤、加工溶剤等の他の材料によって阻害され難い。そして、このような抗菌・抗ウイルス性組成物が噴霧・塗布又は含浸されているクリーニング後の繊維は、生活空間に飛散浮遊する菌やウイルスを不活化させることができ、優れた抗菌・抗ウイルス性を持続することができる。
【0048】
さらに、本発明の抗菌・抗ウイルスクリーニング方法は、指定洗濯物となり得る衣類、寝具、カーテン、カーペット、マット、シーツ、フィルター、マスク、ワイパー、タオル、防護衣類、防護ネット等に対するクリーニングに対して特に好適に適用することができる。本発明の抗菌・抗ウイルスクリーニング方法によりクリーニングが完了した洗濯物は、確実な殺菌、抗菌・抗ウィルス効果を有するため、指定洗濯物となり得る環境下において安全に使用することができる。
【実施例0049】
以下、実施例とともに本発明の抗菌・抗ウイルスクリーニング方法について説明するが、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0050】
<抗菌・抗ウイルス性組成物の作製>
以下の手順で、抗菌・抗ウイルス性組成物を作製した。
(1)純水1000ml中に、硝酸銀0.1molと炭酸水素ナトリウム0.1molを添加し、常温、遮光した室内で添加後10分間攪拌した。
(2)濾過紙を用いて脱水し、純水1000mlで洗浄を行った。
(3)上記(2)によって得られた乾燥重量6.75g相当のペーストと、L-ピロリドンカルボン酸6.96gとを純水1000mlに加えて、加温反応させることでピロリドンカルボン酸銀1000mg/Lを得た。
(4)上記(1)(2)(3)と同様に、硝酸亜鉛を材料として、L-ピロリドンカルボン酸と反応させ、ピロリドンカルボン酸亜鉛(亜鉛:82%、ピロリドンカルボン酸化合物:18%)16.5g(乾燥重量)を得た。
(5)ピロリドンカルボン酸銀、L-ピロリドンカルボン酸亜鉛、硫酸銅五水和物を以下のように配合し、抗菌・抗ウイルス性組成物を作製した。
水1000ml中の配合
上記記載のピロリドンカルボン酸銀 100mg/L
L-ピロリドンカルボン酸亜鉛 16500mg/L
硫酸銅五水和物 2400mg/L
【0051】
<試験用繊維布の準備>
被クリーニング繊維として、毛(100%ウール、黒布)及びポリエステル(100%白布)及び綿(100%白布)を用意し、クリーニング工程として、これらを水洗クリーニングにより十分に洗浄した後、塩素除去工程として、クリーニング繊維に付着した塩素を除去するために十分に乾燥させて、毛(ウール)布、ポリエステル布及び綿布の各試験用繊維布を準備した。
【0052】
次に、抗菌・抗ウイルス処理工程として、上記毛(ウール)布及びポリエステル布の表面に対して、4%水溶液に調合した上記抗菌・抗ウイルス性組成物を、1m当たり50mlの条件で噴霧した。なお、綿布は標準布とするために、抗菌・抗ウイルス処理を施さず未加工とした。
【0053】
<抗ウイルス性試験>
上記の手順で準備した試料布に対して抗ウイルス性試験を行った。試験はJIS L 1922:2016(ISO 18184:2014)「繊維製品の抗ウイルス性試験方法」に準拠して行った。なお、ウイルス力価の定量方法はプラーク法、ウイルス(宿主細胞)は、A型インフルエンザウイルス(H3N2)ATCC VR-1679(MDCK細胞 ATCC CCL-34)を使用した。その結果を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
JIS L 1922:2016の抗ウイルス性試験においては、抗ウイルス効果の指標として、抗ウイルス活性値Mvが3>Mv≧2.0で効果あり、Mv≧3.0で十分な効果ありとされており、上記試験では毛(ウール)布が2.8、ポリエステル布が3.0であることから、上記試験から本発明の抗菌・抗ウイルスクリーニング方法の効果が実証された。
【0056】
<洗濯後の抗ウイルス性試験>
綿布(180本)ブロード生地に対して、上記と同様の抗菌・抗ウイルス処理を施した試料を2枚準備した。
【0057】
上記試料の一枚を50回洗濯し、原品と50回洗濯後の試料について上記と同様のJIS L 1922:2016(ISO 18184:2014)に準拠した抗ウイルス性試験を行った。なお、基準布は上記と同様の綿(100%白布)を用いた。その結果を表2に示す。
【0058】
【表2】
【0059】
上記結果では、50回洗濯後の布の抗ウイルス活性値Mvが4.6、原布が4.2と洗濯後の布の方が高い抗ウイルス活性値を示した。これらの結果から、本発明の抗菌・抗ウイルスクリーニング方法を施した布の複数回洗濯後の優れた抗ウイルス効果が確認された。