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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022137853
(43)【公開日】2022-09-22
(54)【発明の名称】電動弁及び流体制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16K 31/04 20060101AFI20220914BHJP
【FI】
F16K31/04 B
F16K31/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021037547
(22)【出願日】2021-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000101514
【氏名又は名称】アドバンス電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079050
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 憲秋
(74)【代理人】
【識別番号】100201879
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 大輝
(72)【発明者】
【氏名】笹尾 起美仁
【テーマコード(参考)】
3H062
【Fターム(参考)】
3H062AA02
3H062AA15
3H062BB24
3H062BB26
3H062CC02
3H062DD01
3H062EE06
3H062FF33
3H062GG01
3H062HH02
3H062HH03
3H062HH10
(57)【要約】
【課題】全閉時にばね部材の付勢力が過剰になることを回避することができる新規な電動弁及び該電動弁が配置された流体制御装置を提供する。
【解決手段】弁体40の開放停止状態では、ばね部材Sが後側への付勢力により可動ばね受け部60を作動室25の後側に保持しているとともに、ばね部材の前側への付勢力に抗して弁体保持部51を停止させて弁体を弁座23から離隔された位置で停止させ、弁体の閉鎖状態では、ばね部材が前側への付勢力により弁体保持部を弁体が弁座に当接された位置で保持しているとともに、作動軸70の前進により連結部材75が第1長穴部54内及び第2長穴部64内を前側へ摺動して第2長穴部の前端部に当接した後、作動軸がさらに前進することによって第2長穴部の前端部に当接した連結部材を介して可動ばね受け部をばね部材の後側への付勢力に抗して前進させてばね部材を押圧して圧縮させる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁座が形成された弁室と、前記弁室の後部側に配置された作動室と、前記作動室の後部側に配置された電動式駆動機構を有する駆動室とが形成されたハウジングと、
前記弁室にダイアフラムと一体に配置されて前記弁座を開閉する弁体と、
前記作動室に配置されて前記弁体が取り付けられる弁機構体と、
前記電動式駆動機構により進退動する作動軸と、
を備えた電動弁であって、
前記弁機構体は、
前記弁体が取り付けられる弁体取付部と前記作動軸の進退方向に延設された第1長穴部と前側ばね受け部とを有する弁体保持部と、
前記作動軸の進退方向に延設された第2長穴部と前記前側ばね受け部に対向配置された後側ばね受け部とを有する可動ばね受け部と、
前記前側ばね受け部と前記後側ばね受け部との間に配設されて外方向に付勢力が作用するばね部材と、を備え、
前記作動軸の先部に固設された連結部材が前記弁体保持部の前記第1長穴部及び前記可動ばね受け部の前記第2長穴部に摺動可能に嵌挿されて前記作動軸と前記弁体保持部と前記可動ばね受け部とが連結されており、
前記弁体の開放停止状態においては、前記ばね部材が後側への付勢力により前記後側ばね受け部を介して前記可動ばね受け部を前記作動室の後側に保持しているとともに、前記第1長穴部の後端部が前記連結部材に係着して前記前側ばね受け部を介して作用する前記ばね部材の前側への付勢力に抗して前記弁体保持部を停止させて、前記弁体を前記弁座から離隔された位置で停止させ、
前記弁体の後退移動状態においては、前記作動軸の後退により前記連結部材が前記第1長穴部の後端部に係着しつつ前記第2長穴部を後側へ摺動し、前記ばね部材の前側への付勢力に抗して前記弁体保持部を後退させて、前記弁体を前記弁座から離隔する方向へ移動させ、
前記弁体の前進移動状態においては、前記作動軸の前進により前記連結部材が前記第1長穴部の後端部との係着状態を保持しつつ前記第2長穴部を前側へ摺動し、前記弁体保持部を前記ばね部材の前側への付勢力とともに前進させて、前記弁体を前記弁座方向へ移動させ、
前記弁体の閉鎖状態においては、前記ばね部材が前側への付勢力により前記前側ばね受け部を介して前記弁体保持部を前記弁体が前記弁座に当接された位置で保持しているとともに、前記作動軸の前進により前記連結部材が前記第1長穴部内及び前記第2長穴部内を前側へ摺動して前記第2長穴部の前端部に当接した後、前記作動軸がさらに前進することによって前記第2長穴部の前端部に当接した前記連結部材を介して前記可動ばね受け部を前記ばね部材の後側への付勢力に抗して前進させて前記ばね部材を押圧して圧縮させる
ことを特徴とする電動弁。
【請求項2】
請求項1に記載の電動弁の下流側の流路に、緊急時に前記流路を閉鎖する緊急用開閉弁が配置されていることを特徴とする流体制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電動弁及び流体制御装置に関し、特には直動型ステッピングモータによって作動される電動弁及び該電動弁が配置された流体制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体製造における大規模集積化、加工の微細化が進み、2023年には配線ピッチ3nmの半導体デバイスが量産される計画がある。このように微細な配線幅の半導体製造では、その製造工程内における流体の流通経路での微細なゴミ(パーティクル)の混入が、製品の歩留まりに大きな影響を与える。歩留まりを維持するためには、パーティクルを配線ピッチの半分以下のサイズとして流体の清浄度を維持しながら流通させることが要求される。
【0003】
例えば、従来の半導体製造の流路構造では、ポンプ等の流体の供給源に接続された流路に、流体圧力を調節する調圧弁、流体の流量を調節する流量調節弁、流体を遮断又は通過可能とする開閉弁等が適宜に配置される。この半導体製造に使用される開閉弁では、エアー操作弁が一般的に使用される(例えば、特許文献1参照)。図12,13に示すエアー操作弁100は、流体が流通する流路と弁座が形成されたハウジング111と、ダイアフラム145が一体に形成され弁座123を開閉する弁体140を有する弁機構体150と、弁機構体150を弁座123方向へ付勢するばね部材S10と、加圧気体により弁体を進退させる加圧手段130,131とを備える。このエアー操作弁110では、ばね部材S10の付勢力又は加圧気体とばね部材S10の付勢力によって弁体140を弁座123に着座させて閉鎖(全閉)するように構成される。図において、符号120はハウジング111内に形成され弁座123を有する弁室、121は流体の流入部、122は流体の流出部、125は弁機構体150が配置される作動室である。
【0004】
また、エアー操作弁100の代わりに、電動弁200を開閉弁として用いる場合がある。図14,15に示す電動弁200は、弁室220と作動室225と駆動室230とを有するハウジング211と、ダイアフラム245と一体に形成され弁室220内の弁座223を開閉する弁体240と、作動室225に配置されて弁体240が取り付けられるとともに駆動室230配置された電動式駆動機構235の作動軸270の先端係合部272と空間を介して係合する係合空間部255有しかつばね部材S20により常時弁室220側へ付勢される弁機構体250とを備える(例えば、特許文献2参照)。この電動弁200では、作動軸270の先端係合部272が弁機構体250の係合空間部255内に位置してばね部材S20の付勢力とともに弁機構体250を前進させて弁体240を弁座223に着座させて閉鎖(全閉)するように構成される。図において、符号221は流体の流入部、222は流体の流出部である。
【0005】
開閉弁である上記エアー操作弁100や電動弁200では、ばね部材(S10,S20)の付勢力のみで弁体(140,240)を弁座(123,223)に着座させて閉鎖することが可能であることから、ばね部材(S10,S20)が最大使用圧力に応じた付勢力となるように構成される。しかしながら、流体圧力が最大使用圧力より低い場合には、ばね部材(S10,S20)の付勢力が過剰になるため、弁体(140,240)が弁座(123,223)に着座する際にパーティクルが発生しやすくなる問題があった。また、弁体が強く押し付けられることによって弁座の変形量が大きくなってパーティクルが発生する可能性があるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-138641号公報
【特許文献2】特開2020-091015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明は、前記の点に鑑みなされたものであり、全閉時にばね部材の付勢力が過剰になることを回避することができる新規な電動弁及び該電動弁が配置された流体制御装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、請求項1の発明は、弁座が形成された弁室と、前記弁室の後部側に配置された作動室と、前記作動室の後部側に配置された電動式駆動機構を有する駆動室とが形成されたハウジングと、前記弁室にダイアフラムと一体に配置されて前記弁座を開閉する弁体と、前記作動室に配置されて前記弁体が取り付けられる弁機構体と、前記電動式駆動機構により進退動する作動軸と、を備えた電動弁であって、前記弁機構体は、前記弁体が取り付けられる弁体取付部と前記作動軸の進退方向に延設された第1長穴部と前側ばね受け部とを有する弁体保持部と、前記作動軸の進退方向に延設された第2長穴部と前記前側ばね受け部に対向配置された後側ばね受け部とを有する可動ばね受け部と、前記前側ばね受け部と前記後側ばね受け部との間に配設されて外方向に付勢力が作用するばね部材と、を備え、前記作動軸の先部に固設された連結部材が前記弁体保持部の前記第1長穴部及び前記可動ばね受け部の前記第2長穴部に摺動可能に嵌挿されて前記作動軸と前記弁体保持部と前記可動ばね受け部とが連結されており、前記弁体の開放停止状態においては、前記ばね部材が後側への付勢力により前記後側ばね受け部を介して前記可動ばね受け部を前記作動室の後側に保持しているとともに、前記第1長穴部の後端部が前記連結部材に係着して前記前側ばね受け部を介して作用する前記ばね部材の前側への付勢力に抗して前記弁体保持部を停止させて、前記弁体を前記弁座から離隔された位置で停止させ、前記弁体の後退移動状態においては、前記作動軸の後退により前記連結部材が前記第1長穴部の後端部に係着しつつ前記第2長穴部を後側へ摺動し、前記ばね部材の前側への付勢力に抗して前記弁体保持部を後退させて、前記弁体を前記弁座から離隔する方向へ移動させ、前記弁体の前進移動状態においては、前記作動軸の前進により前記連結部材が前記第1長穴部の後端部との係着状態を保持しつつ前記第2長穴部を前側へ摺動し、前記弁体保持部を前記ばね部材の前側への付勢力とともに前進させて、前記弁体を前記弁座方向へ移動させ、前記弁体の閉鎖状態においては、前記ばね部材が前側への付勢力により前記前側ばね受け部を介して前記弁体保持部を前記弁体が前記弁座に当接された位置で保持しているとともに、前記作動軸の前進により前記連結部材が前記第1長穴部内及び前記第2長穴部内を前側へ摺動して前記第2長穴部の前端部に当接した後、前記作動軸がさらに前進することによって前記第2長穴部の前端部に当接した前記連結部材を介して前記可動ばね受け部を前記ばね部材の後側への付勢力に抗して前進させて前記ばね部材を押圧して圧縮させることを特徴とする電動弁に係る。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載の電動弁の下流側の流路に、緊急時に前記流路を閉鎖する緊急用開閉弁が配置されていることを特徴とする流体制御装置に係る。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明に係る電動弁によると、弁座が形成された弁室と、前記弁室の後部側に配置された作動室と、前記作動室の後部側に配置された電動式駆動機構を有する駆動室とが形成されたハウジングと、前記弁室にダイアフラムと一体に配置されて前記弁座を開閉する弁体と、前記作動室に配置されて前記弁体が取り付けられる弁機構体と、前記電動式駆動機構により進退動する作動軸と、を備えた電動弁であって、前記弁機構体は、前記弁体が取り付けられる弁体取付部と前記作動軸の進退方向に延設された第1長穴部と前側ばね受け部とを有する弁体保持部と、前記作動軸の進退方向に延設された第2長穴部と前記前側ばね受け部に対向配置された後側ばね受け部とを有する可動ばね受け部と、前記前側ばね受け部と前記後側ばね受け部との間に配設されて外方向に付勢力が作用するばね部材と、を備え、前記作動軸の先部に固設された連結部材が前記弁体保持部の前記第1長穴部及び前記可動ばね受け部の前記第2長穴部に摺動可能に嵌挿されて前記作動軸と前記弁体保持部と前記可動ばね受け部とが連結されており、前記弁体の開放停止状態においては、前記ばね部材が後側への付勢力により前記後側ばね受け部を介して前記可動ばね受け部を前記作動室の後側に保持しているとともに、前記第1長穴部の後端部が前記連結部材に係着して前記前側ばね受け部を介して作用する前記ばね部材の前側への付勢力に抗して前記弁体保持部を停止させて、前記弁体を前記弁座から離隔された位置で停止させ、前記弁体の後退移動状態においては、前記作動軸の後退により前記連結部材が前記第1長穴部の後端部に係着しつつ前記第2長穴部を後側へ摺動し、前記ばね部材の前側への付勢力に抗して前記弁体保持部を後退させて、前記弁体を前記弁座から離隔する方向へ移動させ、前記弁体の前進移動状態においては、前記作動軸の前進により前記連結部材が前記第1長穴部の後端部との係着状態を保持しつつ前記第2長穴部を前側へ摺動し、前記弁体保持部を前記ばね部材の前側への付勢力とともに前進させて、前記弁体を前記弁座方向へ移動させ、前記弁体の閉鎖状態においては、前記ばね部材が前側への付勢力により前記前側ばね受け部を介して前記弁体保持部を前記弁体が前記弁座に当接された位置で保持しているとともに、前記作動軸の前進により前記連結部材が前記第1長穴部内及び前記第2長穴部内を前側へ摺動して前記第2長穴部の前端部に当接した後、前記作動軸がさらに前進することによって前記第2長穴部の前端部に当接した前記連結部材を介して前記可動ばね受け部を前記ばね部材の後側への付勢力に抗して前進させて前記ばね部材を押圧して圧縮させるため、閉弁(全閉)時に可動ばね受け部を前進させてばね部材を圧縮させてその付勢力を調節することが可能であり、流体圧力に対してばね部材の付勢力が過剰になることを回避して適切な任意の付勢力を設定することができる。
【0011】
請求項2の発明に係る流体制御装置によると、請求項1に記載の電動弁の下流側の流路に、緊急時に前記流路を閉鎖する緊急用開閉弁が配置されているため、緊急時に安全に流路の閉鎖を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る電動弁の開弁時の縦断面図である。
図2図1の電動弁の閉弁時の縦断面図である。
図3図1の電動弁のばね部材圧縮時の縦断面図である。
図4図1のA-A断面図である。
図5】弁体の開弁時における弁機構体近傍の拡大断面図である。
図6】弁体の閉弁時点における弁機構体近傍の拡大断面図である。
図7】弁体の閉弁時において作動軸が自由移動している状態の弁機構体近傍の拡大断面図である。
図8】弁体の閉弁時において作動軸が第2長穴部の前端部に当接した状態の弁機構体近傍の拡大断面図である。
図9】弁体の閉弁時において可動ばね受け部が前進した状態の弁機構体近傍の第1の拡大断面図である。
図10】弁体の閉弁時において可動ばね受け部が前進した状態の弁機構体近傍の第2の拡大断面図である。
図11】電動弁を利用した回路の概略図ある。
図12】従来のエアー操作弁の開弁時の縦断面図である。
図13図12のエアー操作弁の閉弁時の縦断面図である。
図14】従来の電動弁の開弁時の縦断面図である。
図15図14の電動弁の閉弁時の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1図3に示す本発明の一実施形態に係る電動弁10は、主に半導体製造工場や半導体製造装置等の流体管路に配設される開閉弁であって、流体の流量の調節や遮断を行うように構成される。この電動弁10は、ハウジング11と、電動式駆動機構35と、弁体40と、弁機構体50と、作動軸70とを備える。
【0014】
電動弁10では、流体と接触するハウジング11、弁体40等の各部が耐食性及び耐薬品性の高い材料で構成される。例えば、PTFE、PFA、PVDF等のフッ素樹脂である。フッ素樹脂は、切削等により所望する形状に容易に加工することができる。また、この電動弁10では、純水、アンモニア水、フッ酸、過酸化水素水、塩酸、オゾン水、水素水、酸素水、界面活性剤等の薬液、水素、酸素等のガス等の被制御流体が流通される。
【0015】
ハウジング11は、弁座23が形成された弁室20と、弁室20の後部側に配置された作動室25と、作動室25の後部側に配置された電動式駆動機構35を有する駆動室30とが形成される。図において、符号21は弁室20の一側に接続された被制御流体の流入部、22は弁座23を介して弁室20の他側に接続された被制御流体の流出部、22aは流出部22の流路径を縮小させたオリフィス部、31は駆動室30の隔壁部である。
【0016】
電動式駆動機構35は、適宜の演算装置(図示せず)の制御により進退量を調節して後述の作動軸70を進退動させる部材である。電動式駆動機構35としては、作動軸70の進退量を精度良く再現できるものであれば特に限定されず、例えば、ステッピングモータ、サーボモータ、超音波モータ等が好適に用いられる。実施形態の電動式駆動機構35は、直動型ステッピングモータである。電動式駆動機構35に関して、36はロータ、37は作動軸70を進退動させるシャフト、38は配線部である。
【0017】
弁体40は、弁室20にダイアフラム45,46と一体に配置されて弁座23を開閉する部材である。この弁体40は、進退することにより弁座23に対して着座又は弁座23から後退して弁座23を開閉する弁部41を有する。弁部41の形状は、弁座23の開閉を確実に行うことが可能であれば特に限定されない。図示の弁部41は、フラット形状のシール部42を有する。ダイアフラム45,46は、薄肉の可動膜からなり、弁室20内を流通する被制御流体の作動室25側への浸入を防止する。図において、符号47はダイアフラム45,46の後部側と連通する通気孔である。
【0018】
弁機構体50は、作動室25に周方向に回転不能に同軸的に進退自在に配置されて弁体40が取り付けられる部材であって、弁体保持部51と、可動ばね受け部60と、ばね部材Sとを備える。弁体保持部51は、弁体40が取り付けられる弁体取付部52と、筒状の連結部53に作動軸70の進退方向に延設された一対の第1長穴部54,54と、前側ばね受け部55とを有する。前側ばね受け部55は、例えば、図4に示す公知のスプライン嵌合構造で構成される。
【0019】
可動ばね受け部60は、筒状の連結部63に作動軸70の進退方向に延設された一対の第2長穴部64,64と、前側ばね受け部55に対向配置された後側ばね受け部65とを有する。第2長穴部64は、弁体保持部51の第1長穴部54と連通するように配置されている。図において、符号61は駆動室30の隔壁部31との当接部である。
【0020】
ばね部材Sは、前側ばね受け部55と後側ばね受け部65との間に配設されて外方向に付勢力が作用する弾性部材である。ばね部材Sの外方向への付勢力は、作動軸70の進退方向に相当する付勢力であって、前側ばね受け部55を常時駆動室30側へ付勢する力と、後側ばね受け部65を常時弁室20側へ付勢する力で構成される。ばね部材Sは、外方向へ付勢力が作用する弾性部材であれば特に限定されないが、簡素な構成で安価な公知のコイルばねが好適である。
【0021】
作動軸70は、電動式駆動機構35により進退動する部材であって、弁機構体50の弁体保持部51の連結部53に連結される。作動軸70は、電動式駆動機構35により直動可能な適宜の棒状部材からなる。作動軸70としては、例えば公知のネジ部材を所望する長さに切断して容易に製造することができる。また、この作動軸70は、電動式駆動機構35の前側に突出して弁機構体50と連結するとともに、電動式駆動機構35の後側に突出してハウジング11の後部のセンサー部15により進退動が検知されるように構成される。ハウジング11の後部側で作動軸70の作動の検知を可能とすることにより、弁体側にセンサー部を配置する必要がなくなって電動弁の大型化を回避することができる。なお、図の符号71は作動軸70の後部に設けられてセンサー部15に検知される被検知部である。
【0022】
また、作動軸70の先部72には、連結部材75が固設される。連結部材75は、連通するように配置された弁体保持部51の第1長穴部54と、可動ばね受け部60の第2長穴部64とにそれぞれ摺動可能に嵌挿されて、弁体保持部51と可動ばね受け部60と作動軸70とを連結するように構成される。連結部材75は、第1長穴部54と第2長穴部64に摺動可能に嵌挿することができる部材であれば特に限定されない。例えば、構造が簡素なピン部材であれば簡単で確実な連結が可能で好ましく、特にスプリングピンであれば作動軸70の先部72に強固に固定可能であるため、より好ましい。
【0023】
弁体保持部51と、可動ばね受け部60と、作動軸70との連結構造は、上記連結部材75と第1長穴部54及び第2長穴部64との関係が成立する構造であれば、特に限定されない。実施形態では、弁体保持部51の連結部53内に作動軸70が嵌挿され、かつ可動ばね受け部60の連結部63内に弁体保持部51の連結部53が嵌挿されるように構成されている。
【0024】
本発明の電動弁10は、電動式駆動機構35が作動軸70を進退動させることによって、作動軸70に連結された弁機構体50を介して弁体40が弁座23に対して進退するように作動させて、弁座23を開閉して流体の流量の調節や遮断を行うように構成される。ここで、上記電動弁10の作動について、弁体40の進退動における開放停止状態、前進移動状態、閉鎖状態、後退移動状態の各状態に応じて説明する。
【0025】
弁体40の開放停止状態は、図1,5に示すように、弁体40を弁座23から離隔された位置で停止させた状態である。この開放停止状態において、まず作動軸70は、後退位置において電動式駆動機構35の作動停止により停止状態で保持されている。その際、作動軸70は、後部に設けられた被検知部71がセンサー部15により後退位置で停止していることが検知される。また、先部72に固設された連結部材75は、連通する弁体保持部51の第1長穴部54と、可動ばね受け部60の第2長穴部64の双方に嵌挿される。
【0026】
また、弁体保持部51は、第1長穴部54の後端部54aが連結部材75に係着して、前側ばね受け部55を介して作用するばね部材Sの前側への付勢力に抗して停止される。すなわち、弁体保持部51にばね部材Sの前側への付勢力が作用するが、第1長穴部54の後端部54aが係着する連結部材75が停止状態の作動軸70の先部72に固設されていることにより、弁体保持部51は前進不可能とされる。その際、作動軸70が後退位置で停止されているため、弁体保持部51は弁体40を弁座23から離隔させる後退位置で停止した状態となる。
【0027】
一方、ばね部材Sは、後側への付勢力により後側ばね受け部65を介して可動ばね受け部60を作動室25の後側に保持している。すなわち、可動ばね受け部60が、ばね部材Sの後側への付勢力により、駆動室30の隔壁部31に当接された状態で押圧保持された状態となる。この時、可動ばね受け部60の第2長穴部64は、その後端部64aが第1長穴部54の後端部54aと同位置又は第1長穴部54の後端部54aより後方(図示の例では後方)に位置し、その前端部64bが第1長穴部54の後端部54aと前端部54bの間、つまり第1長穴部54の前端部54bより後側に第2長穴部64の前端部64bが位置している。この第2長穴部64の前端部64bの位置は、第1長穴部54の後端部54aに係着した連結部材75との距離が少なくとも弁体保持部51の移動距離より離れている位置とされる。
【0028】
弁体40の前進移動状態は、弁体40が弁座23方向へ移動している状態である。この前進移動状態において、まず作動軸70は、電動式駆動機構35の作動により、先部72に固着された連結部材75とともに弁室20方向へ前進される。この時、弁体保持部51にばね部材Sの前側の付勢力が作用していることから、連結部材75が第1長穴部54の後端部54aとの係着状態を保持しつつ第2長穴部64を前側へ摺動する。したがって、弁体保持部51は、ばね部材Sの前側への付勢力とともに前進され、弁体40を弁座23方向へ移動させる。なお、前進移動状態では、連結部材75と弁体保持部51の第1長穴部54の後端部54aとの係着状態が保持されるため、弁体保持部51が作動軸70の移動量を超えて移動することがなく、作動軸70の作動に応じてその移動量が制御される。
【0029】
弁体40の閉鎖状態(閉弁状態)は、図2,3,6~10に示すように、弁体40が弁座23に当接して閉鎖(閉弁)した状態である。この閉鎖状態においては、図2,6に示すように、作動軸70の前進とともに弁体保持部51を介して弁体40が前進移動して弁座23に到達することによって、弁体40が弁座23に当接される。この時、ばね部材Sが前側への付勢力により前側ばね受け部55を介して弁体保持部51を弁体40が弁座23に当接された位置で保持している。すなわち、ばね部材Sの前側への付勢力により弁体40による弁座23の閉鎖が行われる。
【0030】
また、作動軸70とともに前進した連結部材75が第1長穴部54の後端部54aに係着しているとともに第2長穴部64内に嵌挿されているため、連結部材75に対して第1長穴部54の前部側及び第2長穴部64の前部側に、それぞれ間隙54c,64cが形成される。すなわち、連結部材75は、作動軸70の前進時に第1長穴部54の前部側及び第2長穴部64の前部側に間隙54c,64cを有するので、閉弁後は自由(フリー)状態となっており、必要により、この間隙S1を前進移動可能となる。そこで、ばね部材Sの付勢力によって弁体40が弁座23を閉鎖(閉弁)した場合、図7に示すように、弁体保持部51が前進位置(閉弁位置)で停止した状態、すなわち前進できなくなった状態で連結部材75とともに作動軸70がさらに前進される。
【0031】
図からも理解されるように、ばね部材Sの付勢力によって弁体40が移動され、弁体40が弁座23に当接して弁座23が閉鎖(閉弁)後に、作動軸70に固設された連結部材75が第1長穴部54及び第2長穴部64の間隙54c,64cを自由(フリー)移動できるということは、弁体40の閉鎖時における弁座23との衝突や過大な摩擦等が回避ないし緩和されることを意味する。そのため、これらの衝突や摩擦等に伴う問題の発生を一挙に解決することができる。
【0032】
上記の閉弁状態での作動軸70の自由移動により、作動軸70が継続して前進されると、図8に示すように、連結部材75は第1長穴部54内及び第2長穴部64内を前側へ摺動して、第2長穴部64の前端部64bに当接される。この時、第2長穴部64の前端部64bが第1長穴部54の前端部54bより後側に位置しているため、第2長穴部64の前端部64bに当接した連結部材75に対して、第1長穴部54の前部側に依然として間隙54cが存在している。そこで作動軸70は、さらに継続して前進可能である。
【0033】
第2長穴部64の前端部64bに連結部材75が当接された状態で作動軸70がさらに前進すると、図9に示すように、第2長穴部64の前端部64bに当接した連結部材75を介して可動ばね受け部60がばね部材Sの後側への付勢力に抗して前進される。すなわち、可動ばね受け部60が駆動室30の隔壁部31から離隔されて、弁室20方向へ移動(前進)される。ここで、弁体保持部51が閉弁により前側ばね受け部55を介して作用するばね部材Sの前側への付勢力に抗して停止状態(前進不可能)となっていることから、可動ばね受け部60が後側ばね受け部65を介してばね部材Sの後側への付勢力に抗して前進することにより、ばね部材Sを押圧して圧縮させる。このように、ばね部材Sが圧縮されることにより、ばね部材Sの外側への付勢力が大きくなって、弁体40のシール荷重を増加させることができる。
【0034】
また、可動ばね受け部60を前進させてばね部材Sを圧縮させた場合、連結部材75に対して第1長穴部54の前部側に間隙54cが形成されていれば、図10に示すように、さらに連結部材75を介してばね部材Sの後側の付勢力に抗して可動ばね受け部60を前進させることが可能である。これにより、ばね部材Sがさらに圧縮されてその外側への付勢力より大きくなり、弁体40のシール荷重をさらに増加させることができる。
【0035】
このように、弁体40の閉鎖状態(閉弁状態)においては、作動軸70の前進に伴って連結部材75を介して可動ばね受け部60を前進させることにより、その前進量に応じてばね部材Sを圧縮させて付勢力が増加するように構成される。つまり、弁体40の閉鎖状態では、可動ばね受け部60の移動量に対応してばね部材Sの付勢力を任意に変更することができる。
【0036】
ここで、従来の電動弁では、前記したように弁座を全閉(閉弁)する場合には、最大使用圧力に応じたばね部材の付勢力により弁体が弁座に押し付けられるように構成されるため、流体圧力が最大使用圧力より低い場合にばね部材の付勢力が過剰となる問題があった。これに対し、本発明の電動弁10では、図2,6~8に示す可動ばね受け部60の後退保持時の閉弁状態において作用するばね部材Sの付勢力が、最大使用圧力より低い圧力に応じた付勢力となるように設定されている。そして、図3,9,10に示す可動ばね受け部60の前進時の閉弁状態において、その移動量に応じて少なくとも最大使用圧力に応じたばね部材Sの付勢力まで増加させることができる。したがって、可動ばね受け部60の移動量を制御することで、ばね部材Sの付勢力を電動弁10内を流通する流体圧力に対応する適切な付勢力に設定可能となり、流体圧力に対してばね部材の付勢力が過剰になる問題を回避することができる。
【0037】
なお、前進(駆動室30の隔壁部31から離隔)した可動ばね受け部60を後退方向へ移動させる場合は、可動ばね受け部60にばね部材Sの後側への付勢力が作用していることにより、連結部材75と第2長穴部64の前端部64bとの係着が保持されたまま作動軸70とともに後退する。
【0038】
弁体40の後退移動状態は、弁体40が弁座23から離隔する方向へ移動している状態である。この後退移動状態において、まず作動軸70は、電動式駆動機構35の作動により、連結部材75とともに駆動室30方向へ後退される。この時、弁体保持部51にばね部材Sの前側の付勢力が作用していることから、連結部材75が第1長穴部54の後端部54aに係着しつつ第2長穴部64を後側へ摺動する。したがって、弁体保持部51はばね部材Sの前側への付勢力に抗して後退され、弁体40を弁座23から離隔する方向へ移動させる。
【0039】
このように、本発明の電動弁10では、可動ばね受け部60の移動量、すなわち電動式駆動機構35のモータの回転量によってばね部材Sの付勢力を任意に調節することができるため、流体圧力に対してばね部材の付勢力が過剰になることを回避して適切な任意の付勢力を設定することができる。これにより、流体圧力が低い場合でも弁体40が弁座23に対して過剰な押し付け状態とならず、弁座23に着座する際にパーティクルが発生しやすくなる状況を回避することができる。また、弁体40が過剰に押し付けられないため、弁座23の変形量も小さくなってパーティクルが発生しにくくなり、さらに流量制御の再現性やフィードバック制御をした際の応答性が向上する。
【0040】
本発明の電動弁10は、上記のように弁座23を閉鎖して流体を遮断する開閉弁として機能するが、特に電動式駆動機構35がマイクロステップ駆動方式でステッピングモータを駆動させた場合には、弁体40の進退動をより精密に制御して弁座23の開度を微調整することも可能となる。そこで、電動式駆動機構35をマイクロステップ駆動方式のステッピングモータとした電動弁10では、流量調節弁としても機能させることができる。
【0041】
図11は電動弁10を利用した流量制御装置80の回路の概略図であって、電動弁10の下流側の流路に、緊急時に流路を閉鎖する緊急用開閉弁85を配置するように構成される。緊急用開閉弁85は、流量制御装置80の動力が停止した場合や緊急停止スイッチ(図示せず)が押された場合等に流路の閉鎖を行うように作動する開閉弁である。緊急用開閉弁85は公知のものが好適に使用される。図において、符号Pは流体の供給源であり、公知の供給装置が使用される。また、供給源には必要に応じて調圧装置等が適宜に配置される。
【0042】
図11(a)の流量制御装置80Aは、開閉弁として機能する電動弁10Aを用いた例であり、公知の流量調節弁81の下流側の流路に開閉弁である電動弁10Aが配置され、さらにその下流側に緊急用開閉弁85が配置される。この流量制御装置80Aでは、電動弁10Aにより全閉時にばね部材の付勢力を調節することが可能となって流体圧力に対してばね部材の付勢力が過剰になることを回避して適切な任意の付勢力を設定することができるとともに、緊急用開閉弁85により緊急時に安全に流路の閉鎖を行うことができる。
【0043】
図11(b)の流量制御装置80Bは、流量調節弁と開閉弁の双方の機能を兼ねる電動弁10Bを用いた例であり、電動弁10Bの下流側に緊急用開閉弁85が配置される。この流量制御装置80Bは、流量制御装置80Aと同様の効果を奏するとともに、電動弁10Bの他に別途流量調節弁を配置する必要がないため、装置が簡素化することができてコスト低減や装置の小型化を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上の通り、本発明の電動弁は、閉弁時に可動ばね受け部を前進させてばね部材を圧縮させてその付勢力を調節することが可能であるため、流体圧力に対してばね部材の付勢力が過剰になることを回避して適切な任意の付勢力を設定することができる。したがって、従来の電動弁の代替品として有望である。
【符号の説明】
【0045】
10,10A,10B 電動弁
11 ハウジング
15 センサー部
20 弁室
21 被制御流体の流入部
22 被制御流体の流出部
22a オリフィス部
23 弁座
25 作動室
30 駆動室
31 駆動室の隔壁部
35 電動式駆動機構
36 電動式駆動機構のロータ
37 電動式駆動機構のシャフト
38 電動式駆動機構の配線部
40 弁体
41 弁部
42 シール部
45,46 ダイアフラム
47 通気孔
50 弁機構体
51 弁体保持部
52 弁体取付部
53 弁体保持部の連結部
54 第1長穴部
54a 第1長穴部の後端部
54b 第1長穴部の前端部
54c 第1長穴部の間隙
55 前側ばね受け部
60 可動ばね受け部
61 駆動室の隔壁部との当接部
63 可動ばね受け部の連結部
64 第2長穴部
64a 第2長穴部の後端部
64b 第2長穴部の前端部
64c 第2長穴部の間隙
65 後側ばね受け部
70 作動軸
71 被検知部
72 作動軸の先部
75 連結部材
80,80A,80B 流体制御装置
81 流量調節弁
85 緊急用開閉弁
P 流体の供給源
S ばね部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15