(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022137862
(43)【公開日】2022-09-22
(54)【発明の名称】吸湿性が低減された有機酸粒子
(51)【国際特許分類】
A23L 5/00 20160101AFI20220914BHJP
【FI】
A23L5/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021037559
(22)【出願日】2021-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】591062331
【氏名又は名称】磐田化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】奥野 美智子
【テーマコード(参考)】
4B035
【Fターム(参考)】
4B035LC05
4B035LC16
4B035LE01
4B035LG04
4B035LG06
4B035LP24
4B035LP36
4B035LP59
(57)【要約】
【課題】吸湿性が低減された有機酸粒子を提供すること。
【解決手段】1つの局面において、本開示は、有機酸を含むコアと、有機酸を含む被覆層とを含む、粒子を提供する。1つの実施形態において、コアはクエン酸を含む。1つの実施形態において、被覆層は2価の有機酸を含む。1つの実施形態において、被覆層の有機酸は分子量100~250の有機酸を含む。1つの実施形態において、被覆層の有機酸は、フマル酸、アジピン酸およびコハク酸のうちの少なくとも1つを含む。1つの実施形態において、本開示は、有機酸粒子を含む食品または食品添加物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1有機酸を含むコアと、第2有機酸を含む被覆層とを含む、粒子。
【請求項2】
前記第1有機酸がクエン酸を含む、請求項1に記載の粒子。
【請求項3】
前記コアがクエン酸からなる、請求項1または2に記載の粒子。
【請求項4】
前記コアがクエン酸結晶またはクエン酸結晶破砕物である、請求項1~3のいずれか一項に記載の粒子。
【請求項5】
前記第2有機酸が、2価の有機酸を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の粒子。
【請求項6】
前記第2有機酸が、分子量100~250の有機酸を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の粒子。
【請求項7】
前記第2有機酸が、100mLの水への20℃での溶解度が10g以下である有機酸を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の粒子。
【請求項8】
前記第2有機酸が、30℃において約0.8以上の水分活性(Aw)を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の粒子。
【請求項9】
前記第2有機酸が、フマル酸、アジピン酸およびコハク酸のうちの少なくとも1つを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の粒子。
【請求項10】
前記第2有機酸が、前記被覆層の重量の少なくとも約75%を占める、請求項1~9のいずれか一項に記載の粒子。
【請求項11】
前記粒子は、1%水溶液にした場合のpHが1~5である、請求項1~10のいずれか一項に記載の粒子。
【請求項12】
前記コアの直径が約0.05~5mmである、請求項1~11のいずれか一項に記載の粒子。
【請求項13】
前記被覆層の重量が、前記コアの重量の約3~30%である、請求項1~12のいずれか一項に記載の粒子。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の粒子を含む組成物。
【請求項15】
前記粒子のメジアン径が約0.1~3mmである、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
乾燥状態にある、請求項14または15に記載の組成物。
【請求項17】
食品または食品添加物である、請求項14~16のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コアおよび被覆層を含む有機酸粒子およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
クエン酸などの有機酸は、食品やキレート剤として幅広く使用されている(特許文献1)。粒子状の有機酸は、取り扱いが容易で最終製品および製品原料として有利に使用される。粒子状の有機酸が高い安定性を備えるとさらに取り扱いが容易になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、有機酸を含む被覆層で有機酸粒子を被覆すると有機酸粒子の吸湿が抑制されることを予想外に見出した。この知見に基づき、本開示は、新たな構造の有機酸粒子およびその使用を提供する。
【0005】
したがって、本発明は以下を提供する。
(項目1)
第1有機酸を含むコアと、第2有機酸を含む被覆層とを含む、粒子。
(項目2)
前記第1有機酸がクエン酸を含む、上記項目のいずれかの粒子。
(項目3)
前記コアがクエン酸からなる、上記項目のいずれかの粒子。
(項目4)
前記コアがクエン酸結晶またはクエン酸結晶破砕物である、上記項目のいずれかの粒子。
(項目5)
前記第2有機酸が、2価の有機酸を含む、上記項目のいずれかの粒子。
(項目6)
前記第2有機酸が、分子量100~250の有機酸を含む、上記項目のいずれかの粒子。
(項目7)
前記第2有機酸が、100mLの水への20℃での溶解度が10g以下である有機酸を含む、上記項目のいずれかの粒子。
(項目8)
前記第2有機酸が、30℃において約0.8以上の水分活性(Aw)を有する、上記項目のいずれかの粒子。
(項目9)
前記第2有機酸が、フマル酸、アジピン酸およびコハク酸のうちの少なくとも1つを含む、上記項目のいずれかの粒子。
(項目10)
前記第2有機酸が、前記被覆層の重量の少なくとも約75%を占める、上記項目のいずれかの粒子。
(項目11)
前記粒子は、1%水溶液にした場合のpHが1~5である、上記項目のいずれかの粒子。
(項目12)
前記コアの直径が約0.05~5mmである、上記項目のいずれかの粒子。
(項目13)
前記被覆層の重量が、前記コアの重量の約3~30%である、上記項目のいずれかの粒子。
(項目14)
上記項目のいずれかの粒子を含む組成物。
(項目15)
前記粒子のメジアン径が約0.1~3mmである、上記項目のいずれかの組成物。
(項目16)
乾燥状態にある、上記項目のいずれかの組成物。
(項目17)
食品または食品添加物である、上記項目のいずれかの組成物。
【0006】
本発明において、上記の1つまたは複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供され得ることが意図される。本発明のなおさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
【発明の効果】
【0007】
本開示は、新たな構造の有機酸粒子を提供することで、有機酸粒子の安定的な利用を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例で使用したクエン酸粒子(コア)の粒径分布を示す。
【
図2】実施例で使用したフマル酸(被覆層)の粒径分布を示す。
【
図3】実施例で使用したリンゴ酸(被覆層)の粒径分布を示す。
【
図4】実施例で使用したアジピン酸(被覆層)の粒径分布を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を最良の形態を示しながら説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0010】
(定義)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義および/または基本的技術内容を適宜説明する。
本明細書において、「有機酸」とは、カルボキシル基を有する分子と、この分子が塩を形成している場合およびイオン化した状態におけるこの分子から塩の形成またはイオン化に係る水素(例えば、(CH2COONa)2の場合、2つの水素)を除いた部分とを指す。有機酸に該当する具体的な化合物についても、同様の意味であることが企図される。例えば、「酢酸」には、酢酸分子、酢酸イオンおよび酢酸塩(K、Naなどとの塩)におけるCH3COO部分が含まれ、酢酸を90重量%含む組成物において、これらの酢酸の各形態(酢酸分子、酢酸イオンおよび酢酸塩におけるCH3COO部分)の合計重量は、組成物重量の90%を占める。
【0011】
本明細書において、「塩基」とは、有機酸分子と反応して塩を形成できる物質および有機酸分子と反応して形成された塩における有機酸以外の部分を指す。
【0012】
本明細書において、有機酸の「価数」とは、有機酸分子が有するカルボキシル基の数を指し、1価、2価などと数えられる。
【0013】
本明細書において、塩基の「価数」とは、有機酸分子の代表である酢酸と当該塩基とが塩を形成する場合の塩基の混合比率(分子数基準)の逆数を指し、1価、2価などと数えられる。例えば、K、Naおよびアンモニアは1価の塩基であり、Ca、Mgおよびエチレンジアミンは2価の塩基である。例えば、本開示の粒子において使用され得る塩基として、K、Na、Li、Ca、Mg、アミン(アンモニア、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、グアニジン、アルギニン、リシンなど)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0014】
本明細書において、「有機酸の価数に相当する塩基」とは、有機酸の分子数に有機酸の価数を掛け合わせた合計価数に等しい合計価数を与えるような比率の量で存在する塩基を指す。例えば、1kgの組成物中に酢酸1molおよびシュウ酸2molが存在する場合(すなわち、合計価数5mol)、この組成物の有機酸の価数に相当する塩基は、5molのNa、2.5molのCa、3molのKおよび1molのCaなどである。また別の例では、1kgの組成物中に酢酸1molが存在する場合、この組成物の有機酸の価数の50%に相当する塩基は、0.5molのNaなどである。
【0015】
本明細書において、粒子の「コア」とは、粒子の中心点を含む部分を指す。
【0016】
本明細書において、粒子の「被覆層」とは、コアに隣接し、コアとは異なる化学組成を有する部分を指す。被覆層は、必ずしも粒子の外縁に位置する必要はなく、例えば、被覆層のさらに外側に追加の層が存在していてもよい。コアと被覆層と(必要に応じてさらなる層と)の境界は必ずしも明瞭である必要はなく、粒子の中心部の化学組成が粒子の外縁部の化学組成と異なっていれば、または粒子の中心部の化学組成と異なる化学組成を有する中間層(この場合、この中間層が本開示の被覆層に相当する)を経て粒子の外縁部が存在すれば、粒子はコアおよび被覆層を含むとみなされる。粒子内部の化学組成が徐々に変化する構造を有する場合、本開示のコアおよび被覆層の化学組成に関する記載は、化学組成が最も大きく異なる箇所をコアおよび被覆層とみなして理解されることが企図される。多くの場合、本明細書における「コア」および「被覆層」は、それぞれ、均一に製されたコア粒子に被覆剤を加えて形成した粒子におけるコア粒子部分および被覆剤部分を指す。
【0017】
本明細書において、「吸湿」とは、気体中に配置した物(粒子など)が、気体中に存在する水分子を捕捉することを指す。
【0018】
本明細書において「食品」とは、哺乳動物が経口摂取するための物を指す。
【0019】
用語「約」は、示された値プラスまたはマイナス10%を指す。
【0020】
(有機酸粒子)
1つの局面において、本開示は、第1有機酸を含むコアと、第2有機酸を含む被覆層とを含む、粒子を提供する。粒子は、コアおよび被覆層に加えてさらなる層を含んでもよい。
【0021】
1つの実施形態において、本開示の有機酸粒子の直径(またはメジアン径)は、約0.01~20mm、例えば、約0.02~10mm、約0.05~5mm、約0.1~3mm、約0.2~1mmなどであり得る。本明細書において、粒子(またはコア)の直径(またはメジアン径)とは、顕微鏡観察により計測した粒子の最も長い距離を指すか(主に粒子1粒などの場合)、または、乾式、圧縮空気:0.20MPa、屈折率:1.600の測定条件で測定した場合の粒子の直径を指す(主に多数の粒子の集合体の場合)。1つの実施形態において、1粒子の本開示の有機酸粒子の重量(またはメジアン重量)は、約0.01~10mg、例えば、約0.02~5mg、約0.05~2mg、約0.07~1mg、約0.1~0.7mg、約0.2~0.5mgなどであり得る。粒子の形状は、特に限定されず、球状であってもよいし、板状、針状など鋭角を有する形状であってもよい。
【0022】
1つの実施形態において、本開示の有機酸粒子は、吸湿耐性を有し得る。1つの実施形態において、本開示の有機酸粒子は、被覆層を備えない以外は同一の粒子と比較して高い吸湿耐性を有し得る。1つの実施形態において、本開示の有機酸粒子は、30℃、湿度70%の条件で7日間保管した場合に、約0.2重量%以下、約0.1重量%以下、約0.07重量%以下、約0.05重量%以下、約0.03重量%以下、約0.02重量%以下、約0.01重量%以下などの重量増加を示すような吸湿耐性を有し得る。
【0023】
(コア)
本開示の有機酸粒子のコアは、有機酸(本明細書において第1有機酸と呼ばれ得る)を含む。1つの実施形態において、コアは、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%または少なくとも95%の重量割合の有機酸(複数種の有機酸の場合、有機酸の合計重量に基づく)を含む。1つの実施形態において、コアは、有機酸からなる。
【0024】
1つの実施形態において、コアの有機酸は、1種または複数種の有機酸を含む。1つの実施形態において、コアの有機酸は、1種の有機酸のみ含む。1つの実施形態において、コアの有機酸は、式I
【化1】
(式中、R
Aは、1~10個(例えば3~6個)の炭素原子、1~5個(例えば2~4個)の酸素原子および水素原子からなり、式量20~200を有する直鎖状または分枝鎖状の部分であり、0~2個(例えば1個)のヒドロキシル基を含んでいてもよく、0~2個(例えば1個)のカルボキシル基を含んでいてもよく、0~2個の二重結合を含んでいてもよい)の構造を有する有機酸を含む。1つの実施形態において、コアの有機酸は、100~300、例えば、120~260、140~220、160~200の分子量を有する有機酸を含む。1つの実施形態において、コアの有機酸は、20℃において100mlの水に対して約50~200g、例えば、約55~180g、約60~160g、約65~140g、約70~120gの溶解度を有する有機酸を含む。1つの実施形態において、コアの有機酸は、クエン酸を含む。1つの実施形態において、コアの有機酸は、クエン酸、イソクエン酸、オキサロコハク酸、アコニット酸(cisまたはtrans)、酒石酸(L-酒石酸など)、グルコノデルタラクトン、およびアスコルビン酸(D体および/またはL体)からなる群から選択される有機酸を含む。1つの実施形態において、コアは、塩基を含み、有機酸と塩を形成してもよく、例えば、有機酸の塩からコアを調製してもよい。1つの実施形態において、コアの有機酸のうちクエン酸の重量割合は、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%または少なくとも95%であり得る。1つの実施形態において、コアの有機酸は、クエン酸からなる。
【0025】
1つの実施形態において、コアの有機酸は、低い水分活性(Aw)または臨界相対湿度(RHc)を有し得る。水分活性および臨界相対湿度は吸湿性の指標である(「粉体技術」、2016年、8巻、3号、210~215頁)。1つの実施形態において、被覆層の有機酸は、30℃または35℃において約0.8以下、約0.7以下、または約0.6以下の水分活性(Aw)を有し得る。1つの実施形態において、被覆層の有機酸は、30℃または35℃において約80%以下、約70%以下、または約60%以下の臨界相対湿度(RHc)を有し得る。クエン酸(無水)の(飽和溶液)におけるAwは、30℃において0.759、35℃において0.757であり、DL-リンゴ酸の(飽和溶液)におけるAwは、30℃において0.800、35℃において0.79であり、L-酒石酸の(飽和溶液)におけるAwは、30℃において0.779、35℃において0.763であった。臨界相対湿度(RHc)は、水分活性(Aw)×100によって概算され得るが、測定物質の粒度や結晶水などの影響をさらに受け得るため、実際の値は直接測定により決定され得る。吸湿性および/または反応性(アルカリ剤などとの)が比較的高いコアの有機酸は、本明細書の粒子において、被覆層の存在により吸湿性および/または反応性が低減され得る。
【0026】
1つの実施形態において、コアは、有機酸の結晶または結晶破砕物であるか、またはこれを含む。1つの実施形態において、コアは、1重量%水溶液にした場合に約1~9、例えば、約1、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、もしくは約9、またはその間の任意の範囲、例えば、約1~7、約1~5、約2~6、約2~5、約3~5のpHをもたらす組成を有し得る。1つの実施形態において、コアは粒子の大部分を占め得るため、本明細書に記載の粒子も同様に、1重量%水溶液にした場合に約1~9のpHをもたらし得る。約3~5のpHは、食品(例えば、酸性飲料)として好ましい酸味を提供し得る。1つの実施形態において、コアは、コアの有機酸の価数の約25%以下、約20%以下、約15%以下、約10%以下、約7%以下、約5%以下、約3%以下、約2%以下または約1%以下に相当する塩基を含む。1つの実施形態において、コアは、約20%以下、約15%以下、約10%以下、約7%以下、約5%以下、約3%以下、約2%以下または約1%以下の重量割合の塩基を含む。1つの実施形態において、コアは、塩基を含まない。
【0027】
1つの実施形態において、本開示の有機酸粒子のコアの直径(またはメジアン径)は、約0.01~10mm、例えば、約0.02~5mm、約0.05~2mm、約0.1~1mm、約0.2~0.7mmなどであり得る。1つの実施形態において、被覆層は非常に薄くてもよいので、コアの直径は、本開示の有機酸粒子の直径と同じまたは実質的に同じであり得る。1つの実施形態において、1粒子の本開示の有機酸粒子のコアの重量(またはメジアン重量)は、約0.01~10mg、例えば、約0.02~5mg、約0.05~2mg、約0.07~1mg、約0.1~0.7mg、約0.2~0.5mgなどであり得る。コアの形状は、特に限定されず、球状であってもよいし、板状、針状など鋭角を有する形状であってもよい。
【0028】
1つの実施形態において、コアは、結合剤などを含んでもよい。1つの実施形態において、コアは、5重量%以下、4重量%以下、3重量%以下、2重量%以下、1重量%以下、0.5重量%以下、0.2重量%以下または0.1重量%以下の水分子を含んでもよい。
【0029】
(被覆層)
本開示の有機酸粒子の被覆層は、有機酸(本明細書において第2有機酸と呼ばれ得る)を含む。1つの実施形態において、被覆層は、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%または少なくとも95%の重量割合の有機酸(複数種の有機酸の場合、有機酸の合計重量に基づく)を含む。1つの実施形態において、被覆層は、有機酸からなる。
【0030】
1つの実施形態において、被覆層の有機酸は、1種または複数種の有機酸を含む。1つの実施形態において、被覆層の有機酸は、1種の有機酸のみ含む。1つの実施形態において、被覆層の有機酸は、2価の有機酸を含む。1つの実施形態において、被覆層の有機酸は、ヒドロキシル基を有さない有機酸を含む。1つの実施形態において、被覆層の有機酸は、式II
【化2】
(式中、R
Bは、結合であるか、あるいは1~10個(例えば3~6個)の炭素原子、0~2個(例えば0~1個)の酸素原子、0~2個の窒素原子および水素原子からなり、式量20~200(例えば50~100)を有する直鎖状または分枝鎖状の部分であり、0~1個のヒドロキシル基を含んでいてもよく、0~1個のカルボキシル基を含んでいてもよく、0~2個の二重結合を含んでいてもよい)の構造を有する有機酸を含む。1つの実施形態において、被覆層の有機酸は、100~500、例えば、110~400、120~350、130~300、140~250の分子量を有する有機酸を含む。1つの実施形態において、被覆層の有機酸は、20℃において100mlの水に対して約40g以下、約30g以下、約20g以下、約15g以下、約10g以下、約9g以下、約8g以下、約7g以下、約6g以下、約5g以下、約4g以下、約3g以下、約2g以下、約1.5g以下または約1g以下の溶解度を有する有機酸を含む。例えば、20℃における有機酸の100mlの水に対する溶解度は、フマル酸:約0.5g、アジピン酸:約2.2g、コハク酸:約5.8gなどであり、このような水溶解度の低い有機酸でコアの有機酸を被覆することで有機酸粒子の吸湿が抑制され得る。1つの実施形態において、被覆層の有機酸は、高い水分活性(Aw)または臨界相対湿度(RHc)を有し得る。1つの実施形態において、被覆層の有機酸は、30℃または35℃において約0.65以上、約0.7以上、約0.75以上、約0.8以上、または約0.85以上の水分活性(Aw)を有し得る。1つの実施形態において、被覆層の有機酸は、30℃または35℃において約65%以上、約70%以上、約75%以上、約80%以上、または約85%以上の臨界相対湿度(RHc)を有し得る。1つの実施形態において、被覆層の有機酸は、シュウ酸、オキサロ酢酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸、酒石酸、ケトグルタル酸(α-ケトグルタル酸など)、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、アジピン酸、アスパラギン酸、グルタル酸、グルタコン酸、グルタミン酸、フマリルアセト酢酸、ピメリン酸、2-ヒドロキシ-3-オキソコハク酸、タルトロン酸、セバシン酸、スベリン酸、アルダル酸、アセトンジカルボン酸、アゼライン酸、イソプロピルリンゴ酸およびシトラコン酸のうちの少なくとも1つを含む。1つの実施形態において、被覆層の有機酸は、フマル酸、アジピン酸およびコハク酸のうちの少なくとも1つを含む。
【0031】
1つの実施形態において、被覆層は、被覆層の有機酸の価数の約25%以下、約20%以下、約15%以下、約10%以下、約7%以下、約5%以下、約3%以下、約2%以下または約1%以下に相当する塩基を含む。1つの実施形態において、被覆層は、約20%以下、約15%以下、約10%以下、約7%以下、約5%以下、約3%以下、約2%以下または約1%以下の重量割合の塩基を含む。1つの実施形態において、被覆層は、塩基を含まない。
【0032】
1つの実施形態において、1粒子の本開示の有機酸粒子のコアの重量に対する被覆層の重量の割合(または最頻割合)は、約0.5~50%、例えば、約1~45%、約2~40%、約3~30%、約4~20%、約5~15%などであり得る。1つの実施形態において、1粒子の本開示の有機酸粒子の被覆層の重量は、約0.2~200μg、例えば、約0.4~100μg、約1~40μg、約1.5~20μg、約2~15μgなどであり得る。1つの実施形態において、被覆層はコア全体を被覆していることが好ましいが、部分的にコアを被覆していない箇所があってもよい。1つの実施形態において、本開示の被覆層の粒子の直径(またはメジアン径)は、約1~1000μm、例えば、約2~500μm、約5~200μm、約10~100μmなどであり得る。
【0033】
1つの実施形態において、被覆層は、プルラン、アルギン酸塩、アラビアガム、HPC(ヒドロキシプロピルセルロース)HPMC(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、メチルセルロース、CMC(カルボキシメチルセルロース)またはその塩、キサンタンガム、グアーガム、タラガム、カラギナン、キトサン、ペクチン、ゼラチン、寒天などの増粘剤、エリスリトールなど吸湿性の低い糖アルコール、架橋でんぷんなどを含んでもよい。1つの実施形態において、被覆層は、5重量%以下、4重量%以下、3重量%以下、2重量%以下、1重量%以下、0.5重量%以下、0.2重量%以下または0.1重量%以下の水分子を含んでもよい。
【0034】
(作製法)
一つの局面において、本開示の有機酸粒子は、コアの周囲に被覆層を形成させることで作製できる。被覆層はコア全体を被覆していることが好ましいが、部分的にコアを被覆していない箇所があってもよい。一つの実施形態において、本開示の有機酸粒子は、コア粒子とコーティング剤とを混合することで作製できる。一つの実施形態において、コア粒子とコーティング剤と少量の水(約1~2重量%など)とを混合して、必要に応じてその後乾燥させてもよい。一つの実施形態において、本開示の有機酸粒子は、整粒を経て調製されてもよい。
【0035】
(組成物)
1つの局面において、本開示は、本明細書に記載の有機酸粒子を含む組成物を提供する。1つの実施形態において、組成物は、乾燥組成物である。
【0036】
1つの実施形態において、組成物は、酸味料、甘味料、調味料、香料、着色料、ミネラル、ビタミン、酸化防止剤、防腐剤、発泡剤、助泡剤、結合剤、増量剤、増粘剤、界面活性剤、固化防止剤などの添加成分を含んでもよい。一般に食品に使用され得る任意の好適な添加成分が本開示の組成物において使用され得る。
【0037】
1つの実施形態において、組成物は、任意の好適な割合の本開示の有機酸粒子を含んでよく、例えば、約0.001重量%、約0.002重量%、約0.005重量%、約0.01重量%、約0.02重量%、約0.05重量%、約0.1重量%、約0.2重量%、約0.5重量%、約1重量%、約2重量%、約5重量%、約10重量%、約20重量%、約50重量%、約70重量%、約80重量%または約90重量%、あるいはこれらの任意の2つの値の組合せで表される範囲の割合で含み得る。
【0038】
本開示の組成物は、任意の形態であってよく、例えば、液体、粉末、顆粒、錠剤、ペースト、カプセル、タブレット、懸濁液、食品形態などの形態であり得る。
【0039】
本開示の微生物抑制剤は、任意の追加成分または添加剤が添加されていてもよく、例えば、界面活性剤、増粘剤、溶剤、噴射剤、酸化防止剤、還元剤、酸化剤、防腐剤、キレート剤、pH調整剤、無機塩類、紫外線吸収剤、ビタミン類、清涼剤、香料、色素・着色剤・染料・顔料などが添加されていてもよい。1つの実施形態において、被覆層は、5重量%以下、4重量%以下、3重量%以下、2重量%以下、1重量%以下、0.5重量%以下、0.2重量%以下または0.1重量%以下の水分子を含んでもよい。
【0040】
(用途)
一つの実施形態において、本開示の有機酸粒子は、コアの有機酸(例えば、クエン酸)の用途と同じ用途において使用され得る。一つの実施形態において、本開示の有機酸粒子は、食品または食品添加物において使用できる。一つの実施形態において、本開示の有機酸粒子は、粉末飲料、クラッカ、ビスケット、菓子、餅、スナック、チューインガム、飴、ソフトキャンディ、ベーカリ製品、ケーキ、ブラウニ、冷凍食品、アイスクリーム、トウモロコシ製品、加工農産物、加工畜産物、加工海産物、加工肉製品、レトルト食品、ピクルス、保存食品、シリアル製品などの食品またはその添加物として使用され得る。
【0041】
(使用方法)
1つの局面において、本開示は、本明細書に記載の有機酸粒子を添加する工程を含む、製品の製造方法を提供する。一つの実施形態において、本明細書に記載の有機酸粒子は直接的に製品に添加されてもよいし、溶媒などに分散または溶解する工程を経て添加されてもよい。
【0042】
本明細書において「または」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも1つ以上」を採用できるときに使用される。「もしくは」も同様である。本明細書において「2つの値」の「範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。
【0043】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0044】
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したのではない。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例0045】
以下の実施例において、粒径測定、吸湿試験および粒子コーティングは以下のように行った。
・粒径測定
Laser Scattering Particle Size Distribution Analyzer LA-950 (HORIBA) 乾式法にて測定した。測定条件は、乾式、圧縮空気:0.20MPa、屈折率:1.600であった。
【0046】
・吸湿試験
調製した試料10gをポリカップに入れ、30℃、湿度70%の条件で保管した。経過時間ごとに重量を測定し、試験開始時の重量と比較して経時的な重量増加率を算出した。
【0047】
・粒子コーティング
粒子とコーティング剤とを混合し、これに約1~2%の水を添加し、混合した後、乾燥(60~90℃)させ、整粒(16メッシュパス)した。
【0048】
(実施例1)
クエン酸粒子は放置すると吸湿するため、安定性が低く、取り扱いの際に問題となり得ることが見出されている。クエン酸粒子の吸湿を抑制するためのコーティングを検討した。
【0049】
クエン酸粒子には、クエン酸(無水)(磐田化学工業(静岡))を使用した。クエン酸粒子の粒度分布を
図1に示す(メジアン径:1495.28μm、平均径:1537.37μm)。クエン酸粒子の約5重量%の酸化でんぷん、フマル酸またはGDLでクエン酸粒子をコーティングして、吸湿試験を行った。結果を表1に示す。
【表1】
・酸化でんぷん(ラスターゲンFK)・・・日澱化学(大阪)
・フマル酸・・・磐田化学工業(静岡)。ハンマー粉砕した。粒径分布を
図2に示す。
・GDL(グルコノデルタラクトン)・・・神戸化成(兵庫)
【0050】
フマル酸でコーティングしたクエン酸粒子は、コーティングしていないクエン酸粒子よりも吸湿性が低減されていることが見出された。他方、酸化でんぷんおよびGDLによるコーティングではこのような効果は見られなかった。
【0051】
(実施例2)
種々の有機酸について、コーティングによるクエン酸粒子の吸湿性への影響を評価した。
【0052】
実施例1と同様のクエン酸粒子を使用した。クエン酸粒子の約5重量%のフマル酸、アジピン酸、コハク酸またはリンゴ酸でクエン酸粒子をコーティングして、吸湿試験を行った。結果を表2に示す。
【表2】
・油脂コートクエン酸・・・日本油脂(東京)の油脂コートクエン酸(MC-80R)
・フマル酸・・・磐田化学工業(静岡)。ハンマー粉砕した。粒径分布を
図2に示す。
・DL-リンゴ酸・・・磐田化学工業(静岡)(粒度分布を
図3に示す)
・アジピン酸・・・ハンマー粉砕した。粒径分布を
図4に示す。
・コハク酸・・・乳鉢粉砕した。
【0053】
フマル酸、アジピン酸またはコハク酸でコーティングしたクエン酸粒子は、コーティングしていないクエン酸粒子よりも吸湿性が低減されていることが見出された。油脂コートクエン酸でも同程度の吸湿性の低減が確認された。油脂コートクエン酸は使用時に水に溶けにくいなどの問題があるが、本開示の有機酸でコーティングした有機酸粒子ではこのような問題は少ないので、使用感を損なわずに吸湿性が改善されている。リンゴ酸の20℃における有機酸の100mlの水に対する溶解度は約55gであり、吸湿性低減効果が確認されたフマル酸、アジピン酸およびコハク酸よりも水溶解性が高い。これらの結果から、有機酸によるコーティングで吸湿を抑制するためには、有機酸分子が2つのカルボキシル基を有すること、有機酸分子単独の水溶解性が低いことなどが有利であり得る。
【0054】
(注記)
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。