(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022137868
(43)【公開日】2022-09-22
(54)【発明の名称】血液浄化装置
(51)【国際特許分類】
A61M 1/16 20060101AFI20220914BHJP
【FI】
A61M1/16 110
A61M1/16 111
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021037566
(22)【出願日】2021-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000153030
【氏名又は名称】株式会社ジェイ・エム・エス
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(72)【発明者】
【氏名】正岡 勝則
【テーマコード(参考)】
4C077
【Fターム(参考)】
4C077AA05
4C077BB01
4C077HH03
4C077HH12
4C077HH15
4C077JJ12
4C077JJ16
4C077JJ30
4C077KK25
(57)【要約】
【課題】循環血液量を算出可能な血液浄化装置を提供すること。
【解決手段】血液浄化装置100は、血液回路110と、血液浄化器120と、注水により循環血液の濃度を変化させる濃度変化手段と、血液濃度に応じて変わる血液性状を測定する測定部115と、制御装置140と、を備え、制御装置140は、測定部115で測定された注水前の測定値Hctb、注水後の測定値Hcta及び注水量qに基づいて循環血液量BVを算出する循環血液量算出部141を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液回路と、
前記血液回路に設けられる血液浄化器と、
前記血液回路に注水又は除水を行うことにより循環血液の濃度を変化させる濃度変化手段と、
前記血液回路に配置され、血液濃度に応じて変化する血液性状を測定する測定部と、
制御装置と、を備える血液浄化装置であって、
前記制御装置は、
前記測定部で測定された前記濃度変化手段による注水前又は除水前の測定値、注水後又は除水後の測定値、及び前記濃度変化手段による注水量又は除水量に基づいて循環血液量を算出する循環血液量算出部を備える血液浄化装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記循環血液量算出部により算出された循環血液量及び患者の治療開始前の体重に基づいて、循環血液量の変化率の目標値を算出する目標値算出部を更に備える請求項1に記載の血液浄化装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記血液回路の上流側と下流側の両側から血液を導入して前記血液回路に血液を充填する両側脱血工程を行う請求項1又は2に記載の血液浄化装置。
【請求項4】
前記血液浄化器に透析液を供給する透析液回路を更に備え、
前記濃度変化手段は、前記血液浄化器及び前記透析液回路を含み、
前記制御装置は、前記血液浄化器を介して逆濾過により透析液を注水する請求項1~3のいずれかに記載の血液浄化装置。
【請求項5】
前記血液浄化器に透析液を供給する透析液回路と、前記透析液回路から前記血液回路のうち前記血液浄化器の上流側又は下流側に透析液を注水する補充液ラインと、を更に備え、
前記濃度変化手段は、前記透析液回路及び前記補充液ラインを含み、
前記制御装置は、前記補充液ラインを介して所定の注水量で注水を行う請求項1~3のいずれかに記載の血液浄化装置。
【請求項6】
前記濃度変化手段は、前記血液浄化器を含み、
前記制御装置は、前記血液浄化器において所定の除水量で除水を行う請求項1~3のいずれかに記載の血液浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、循環血液量を算出可能な血液浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
慢性腎不全患者に適応される血液透析等の血液浄化療法においては、体内の水分や電解質の調整、老廃物の除去が行われる。体内への水分の蓄積により患者は溢水状態となり、余剰水分は血管内、細胞内及び細胞間質に溜まることとなる。
治療において除水を開始すると、最初に血管内の血液から余剰水分が除去され、血管内の水分減少に続いて、細胞間質液、細胞内液が移動して、全身の溢水状態が改善されていく。このように血管外の余剰水分が血管内に移動することを「血漿再充填」と呼ぶ。血漿再充填の速度に比べて除水速度が大きければ、徐々に循環血液量が減少することになり、循環血液量が減少しすぎると血圧低下や下肢痙攣等の症状が発生することがある。
【0003】
このような症状を予防するために、循環血液量の変化率に基づいて除水速度を制御することで、前述の症状の発生を低減する等の方法が用いられている(特許文献1参照)。循環血液量の変化率は、血液濃度の指標であるヘマトクリット値に基づいて算出される。一般的に、循環血液量の変化率は-15%以内を目標値とする見方があるが、基準となる治療開始時のヘマトクリット値は患者の水分増加や体重増減によって変動する。また、患者によっては、循環血液量の変化率が-15%以内であっても血圧低下や下肢痙攣等の症状が発生して除水を継続できない場合や、変化率が-15%を超えても問題なく除水を継続できる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、循環血液量の変化率の目標値は、一律に決められるものではないため、患者ごと、治療ごとに適切に設定することが求められ、そのためには、治療開始前の患者の循環血液量を求める必要がある。
【0006】
従って、本発明は、循環血液量を算出可能な血液浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、血液回路と、前記血液回路に設けられる血液浄化器と、前記血液回路に注水又は除水を行うことにより循環血液の濃度を変化させる濃度変化手段と、前記血液回路に配置され、血液濃度に応じて変化する血液性状を測定する測定部と、制御装置と、を備える血液浄化装置であって、前記制御装置は、前記測定部で測定された前記濃度変化手段による注水前又は除水前の測定値、注水後又は除水後の測定値及び前記濃度変化手段による注水量又は除水量に基づいて循環血液量を算出する循環血液量算出部を備える血液浄化装置に関する。
【0008】
また、前記制御装置は、前記循環血液量算出部により算出された循環血液量及び患者の治療開始前の体重に基づいて、循環血液量の変化率の目標値を算出する目標値算出部を更に備えることが好ましい。
【0009】
また、前記制御装置は、前記血液回路の上流側と下流側の両側から血液を導入して前記血液回路に血液を充填する両側脱血工程を行うことが好ましい。
【0010】
また、血液浄化装置は、前記血液浄化器に透析液を供給する透析液回路を更に備え、前記濃度変化手段は、前記血液浄化器及び前記透析液回路を含み、前記制御装置は、前記血液浄化器を介して逆濾過により透析液を注水することが好ましい。
【0011】
また、前記血液浄化装置は、前記血液浄化器に透析液を供給する透析液回路と、前記透析液回路から前記血液回路のうち前記血液浄化器の上流側又は下流側に透析液を注水する補充液ラインと、を更に備え、前記濃度変化手段は、前記透析液回路及び前記補充液ラインを含み、前記制御装置は、前記補充液ラインを介して所定の注水量で注水を行うことが好ましい。
【0012】
また、前記濃度変化手段は、前記血液浄化器を含み、前記制御装置は、前記血液浄化器において所定の除水量で除水を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の血液浄化装置によれば、患者の循環血液量を増減させて血液濃度に変化を与えて変化前後の血液性状を測定することにより、循環血液量が算出できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る血液浄化装置の概略構成を示す図である。
【
図2】第1実施形態に係る血液浄化装置のブロック図である。
【
図3】血液浄化装置で実施される脱血工程の説明図である。
【
図4】第1実施形態における血液濃度の変化方法の説明図である。
【
図5】循環血液量の変化率の目標値を算出する方法の説明図である。
【
図6】第1実施形態の変形例における血液濃度の変化方法の説明図である。
【
図7】第2実施形態における血液濃度の変化方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の血液浄化装置の好ましい各実施形態について、図面を参照しながら説明する。
本発明の血液浄化装置は、腎不全患者や薬物中毒患者の血液を浄化すると共に、血液中の余分な水分を除去する透析工程を行う。また、本発明の血液浄化装置は、プライミング工程、脱血工程、補液工程、返血工程等の各工程を、血液回路内の透析液の流れを制御することで連続して自動的に行う自動血液浄化装置である。
【0016】
<第1実施形態>
図1~
図5を参照して第1実施形態について詳細に説明する。第1実施形態では、血液濃度に変化を与える方法として逆濾過による透析液の注水を行う場合について説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る血液浄化装置100の概略構成を示す図であり、
図2は、血液浄化装置100のブロック図である。
【0017】
図1に示すように、血液浄化装置100は、血液回路110と、測定部115と、血液浄化器120と、透析液回路130と、制御装置140と、を備える。
【0018】
血液回路110は、動脈側ライン111と、静脈側ライン112と、薬剤ライン113と、排液ライン114と、を有する。動脈側ライン111、静脈側ライン112、薬剤ライン113及び排液ライン114は、いずれも液体が流通可能な可撓性を有する軟質のチューブを主体として構成される。
【0019】
動脈側ライン111は、一端側が後述する血液浄化器120の血液導入口122aに接続される。動脈側ライン111には、動脈側接続部111a、動脈側気泡検知器111b、血液ポンプ111c、及び動脈側クランプ111dが配置される。
【0020】
動脈側接続部111aは、動脈側ライン111の他端側に配置される。動脈側接続部111aには、患者の血管に穿刺される針が接続される。
動脈側気泡検知器111bは、チューブ内の気泡の有無を検出する。
血液ポンプ111cは、動脈側ライン111における動脈側気泡検知器111bよりも下流側に配置される。血液ポンプ111cは、動脈側ライン111を構成するチューブをローラーでしごくことにより、動脈側ライン111の内部の血液やプライミング液等の液体を送出する。
【0021】
動脈側クランプ111dは、動脈側気泡検知器111bよりも上流側に配置される。動脈側クランプ111dは、例えば、動脈側ライン111を介して返血する場合に、動脈側気泡検知器111bによる気泡の検出結果に応じて制御され、動脈側ライン111の流路を開閉する。
【0022】
静脈側ライン112は、一端側が後述する血液浄化器120の血液導出口122bに接続される。静脈側ライン112には、静脈側接続部112a、静脈側気泡検知器112b、ドリップチャンバ112c、及び静脈側クランプ112dが配置される。
【0023】
静脈側接続部112aは、静脈側ライン112の他端側に配置される。静脈側接続部112aには、患者の血管に穿刺される針が接続される。
静脈側気泡検知器112bは、チューブ内の気泡の有無を検出する。
ドリップチャンバ112cは、静脈側気泡検知器112bよりも上流側に配置される。ドリップチャンバ112cは、静脈側ライン112に混入した気泡や凝固した血液等を除去するため、また、静脈圧を測定するため、一定量の血液を貯留する。
【0024】
静脈側クランプ112dは、静脈側気泡検知器112bよりも下流側に配置される。静脈側クランプ112dは、静脈側気泡検知器112bによる気泡の検出結果に応じて制御され、静脈側ライン112の流路を開閉する。
【0025】
薬剤ライン113は、血液透析中に必要な薬剤を動脈側ライン111に供給する。薬剤ライン113は、一端側が薬剤を送り出す薬液ポンプ113aに接続され、他端側が動脈側ライン111に接続される。また、薬剤ライン113には不図示のクランプ手段が設けられており、薬剤を注入するとき以外は、クランプ手段により流路は閉鎖された状態である。第1実施形態では、薬剤ライン113の他端側は、動脈側ライン111における血液ポンプ111cよりも下流側に接続される。
【0026】
排液ライン114は、ドリップチャンバ112cに接続される。排液ライン114には、排液ラインクランプ114aが配置される。排液ライン114は、血液回路110及び血液浄化器120を洗浄して清浄化するプライミング工程でプライミング液を排液するためのラインである。
【0027】
測定部115は、患者から取り出す血液濃度に応じて変わる血液性状を測定するためのセンサである。ここで、血液性状とは、具体的には、ヘマトクリット値、ヘモグロビン値、電気抵抗率等が挙げられる。本明細書で説明する各実施形態では、血液性状を示す指標としてヘマトクリット値が測定される。
【0028】
測定部115の配置箇所は、血液回路110のいずれでもよいが、血液回路110内の濃度変化直後の影響を受けにくい場所が望ましい。本実施形態では、後述する血液浄化器120にて逆濾過により透析液が注水されるので、測定部115の配置箇所は、血液浄化器120の上流側が望ましく、動脈側ライン111のうち血液浄化器120の血液導入口122a近傍に配置される。
【0029】
血液浄化器120は、筒状に形成された容器本体121と、この容器本体121の内部に収容された透析膜(図示せず)と、を備え、容器本体121の内部は、透析膜により血液側流路と透析液側流路とに区画される(いずれも図示せず)。容器本体121には、血液回路110に連通する血液導入口122a及び血液導出口122bと、透析液回路130に連通する透析液導入口123a及び透析液導出口123bと、が形成される。
【0030】
以上の血液回路110及び血液浄化器120によれば、対象者(透析患者)の動脈から取り出された血液は、血液ポンプ111cにより動脈側ライン111を流通して血液浄化器120の血液側流路に導入される。血液浄化器120に導入された血液は、透析膜を介して後述する透析液回路130を流通する透析液により浄化される。血液浄化器120において浄化された血液は、静脈側ライン112を流通して対象者の静脈に返血される。
【0031】
透析液回路130は、第1実施形態では、いわゆる密閉容量制御方式の透析液回路130により構成される。この透析液回路130は、透析液供給ライン131aと、透析液排液ライン131bと、透析液導入ライン132aと、透析液導出ライン132bと、透析液送液部133と、を備える。
【0032】
透析液送液部133は、透析液チャンバ1331と、バイパスライン1332と、除水/逆濾過ポンプ1333と、を備える。
透析液チャンバ1331は、一定容量(例えば、300mL~500mL)の透析液を収容可能な硬質の容器で構成され、この容器の内部は軟質の隔膜(ダイアフラム)により、送液収容部1331a及び排液収容部1331bに区画される。
バイパスライン1332は、透析液導出ライン132bと透析液排液ライン131bとを接続する。
【0033】
除水/逆濾過ポンプ1333は、バイパスライン1332に配置される。除水/逆濾過ポンプ1333は、バイパスライン1332の内部の透析液を透析液排液ライン131b側に流通させる方向(除水方向)及び透析液導出ライン132b側に流通させる方向(逆濾過方向)に送液可能に駆動するポンプにより構成される。
【0034】
透析液供給ライン131aは、基端側が透析液供給装置(図示せず)に接続され、先端側が透析液チャンバ1331に接続される。透析液供給ライン131aは透析液チャンバ1331の送液収容部1331aに透析液を供給する。
【0035】
透析液導入ライン132aは、透析液チャンバ1331と血液浄化器120の透析液導入口123aとを接続し、透析液チャンバ1331の送液収容部1331aに収容された透析液を血液浄化器120の透析液側流路に導入する。
【0036】
透析液導出ライン132bは、血液浄化器120の透析液導出口123bと透析液チャンバ1331とを接続し、血液浄化器120から排出された透析液を透析液チャンバ1331の排液収容部1331bに導出する。
【0037】
透析液排液ライン131bは、基端側が透析液チャンバ1331に接続され、排液収容部1331bに収容された透析液の排液を排出する。
【0038】
以上の透析液回路130によれば、透析液チャンバ1331を構成する硬質の容器の内部を軟質の隔膜(ダイアフラム)により区画することで、透析液チャンバ1331からの透析液の導出量(送液収容部1331aへの透析液の供給量)と、透析液チャンバ1331(排液収容部1331b)に回収される排液の量と、を同量にできる。
これにより、除水/逆濾過ポンプ1333を停止させた状態では、血液浄化器120に導入される透析液の流量と血液浄化器120から導出される透析液(排液)の量とを同量にできる。また、除水/逆濾過ポンプ1333を除水方向に送液するように駆動させた場合は、血液浄化器120において、血液から所定の速度で所定量の除水が行われる。また、除水/逆濾過ポンプ1333を逆濾過方向に送液するように駆動させた場合は、血液浄化器120において、血液回路110に所定量の透析液が注入(逆濾過)される。
【0039】
制御装置140は、情報処理装置(コンピュータ)により構成され、制御プログラムを実行することにより、血液浄化装置100の動作を制御する。
制御装置140は、血液回路110、透析液回路130に配置された各種のポンプやクランプ等の動作を制御して、血液浄化装置100により行われる各工程、例えば、プライミング工程、脱血工程、透析工程、補液工程、返血工程等を実行する。
【0040】
第1実施形態では、制御装置140は、上述の各工程を実行する機能に加えて、患者の循環血液量を算出する機能及び循環血液量の変化率の目標値を算出する機能を有する。具体的には、制御装置140は、測定部115において測定される、血液回路110に透析液を注水する前のヘマトクリット値、及び血液回路110に透析液を注水した後のヘマトクリット値、並びに注水された透析液の量に基づいて、患者の循環血液量を算出する。また、算出された循環血液量及び患者の体重に基づいて、循環血液量の変化率の目標値を算出する。
当該機能を実現するために、制御装置140は、循環血液量算出部141と、目標値算出部142と、を備える。
【0041】
第1実施形態において、循環血液量を算出する場合における血液浄化装置100の動作について、
図3~
図5を参照しながら説明する。第1実施形態では、循環血液量算出部141による循環血液量の算出及び目標値算出部142による循環血液量の変化率の目標値算出は、脱血工程終了後、透析工程開始時に行われる。
【0042】
脱血工程は、穿刺後に動脈側接続部111a及び静脈側接続部112aの両方から患者の血液を吸引して動脈側ライン111及び静脈側ライン112に血液を充填させる工程である。
【0043】
脱血工程では、
図3に示すように、動脈側接続部111a及び静脈側接続部112aは、それぞれ患者の血管に穿刺される針に接続され、排液ラインクランプ114aは閉状態、動脈側クランプ111d及び静脈側クランプ112dは開状態である。
【0044】
制御装置140は、透析液チャンバ1331から、例えば500mL/minの送液量で透析液を供給及び排出し、除水/逆濾過ポンプ1333を、除水方向に送液するように駆動させる。除水/逆濾過ポンプ1333の送給量を100mL/minとした場合には、血液浄化器120において、100mL/minの除水が行われる。
血液ポンプ111cは40~50mL/minの低流量で動脈側接続部111a側から血液浄化器120側に送液する。本実施形態においては50mL/minとする。
血液浄化器120内には、血液導入口122aから50mL/minの流量でプライミング液、続いて血液が流入し、血液導出口122bから50mL/minの流量でプライミング液、続いて血液が流入する。また、プライミング液は、透析液導出口123bから導出される。このようにして、血液浄化器120内及び血液回路110内は血液で充填される。
【0045】
この状態で、制御装置140(循環血液量算出部141)は、透析液チャンバ1331から、例えば、500mL/minの送液量で透析液を供給させ、血液ポンプ111cは、例えば、200mL/minの流量で動脈側接続部111a側から血液浄化器120側に血液を送出する。
【0046】
ここで、循環血液量算出部141は、例えば、200mL/minの流量で動脈側接続部111a側から血液浄化器120側に血液が送出されている状態において、血液導入口122aの近傍に配置された測定部115によりヘマトクリット値を測定する。これにより、血液回路110に透析液が注水される前(循環血液の希釈前)のヘマトクリット値が測定される。
【0047】
次いで、制御装置140は、
図4に示すように、除水/逆濾過ポンプ1333を、逆濾過方向に所定の注水量q(例えば、0.1L)の送液を行うように作動させる。
これにより、血液浄化器120には、逆濾過により所定の注水量qの透析液が注水される。このようにして、血液浄化器120において所定の注水量qの注水が行われる。即ち、第1実施形態では、血液浄化器120及び透析液回路130が血液回路110に注水を行う濃度変化手段として用いられる。
【0048】
循環血液量算出部141は、血液回路110に透析液が注水されてから所定時間(例えば、1分)が経過した状態において、血液導入口122aの近傍に配置された測定部115によりヘマトクリット値を測定する。これにより、患者の体内に所定の注水量qの透析液が注水されて患者の循環血液が希釈された後のヘマトクリット値が測定される。この所定時間は、血液回路110に注水された透析液が患者の体内に戻されて循環し、患者の循環血液が希釈されるまでの時間として設定される。
【0049】
(循環血液量算出方法)
測定部115により測定される濃度変化前のヘマトクリット値をHctb(変化前の測定値)、濃度変化後のヘマトクリット値をHcta(変化後の測定値)とし、濃度変化前(治療開始前)の患者の循環血液量をBV[L]と置く。
循環血液量算出部141は、上述の変化前の測定値Hctb、変化後の測定値Hcta及び所定の注水量q[L]に基づいて、循環血液量BV[L]を算出する。具体的には、濃度変化前後で赤血球の容量は変わらないので、数式(数1)が成り立つ。
【数1】
これより、循環血液量BV[L]は、数式(数2)で算出できる。
【数2】
【0050】
次に、具体的な循環血液量の変化率の目標値算出方法について
図5を参照して説明する。
【0051】
(ΔBV%の目標値算出方法)
患者の体内の水分が適正な状態の体重であるドライウェイトをDW[kg]、治療開始前の患者の体重をW[kg]、ドライウェイト時の循環血液量をBV
適[L]、治療開始前の血管内の余剰水分をEV
内[L]、と置く。ドライウェイト時及び治療開始前における患者の体重の構成要素について、横棒グラフを用いて
図5に示す。ここでは、治療開始前の余剰水分は血管内に存在するものとする。
【0052】
ドライウェイト時の循環血液量BV適は、一般に、体重の約1/13と言われているので、BV適=DW/13の関係式が成り立つ。よって、ドライウェイトDWから循環血液量BV適を除いた体重は、12BV適で表すことができる。ここで、体重[kg]と容量[L]の換算は、血液の比重を1として行うものとする。
【0053】
また、循環血液量算出部141により算出された循環血液量BV[L]は、ドライウェイト時の循環血液量をBV適[L]と治療開始前の血管内の余剰水分EC内[L]の和で表すことができる。また、ドライウェイトDWから循環血液量BV適を除いた体重12BV適は、治療開始前の患者の体重Wから、治療開始前の循環血液量BVを除いた体重と一致する。よって、BV適は、数式(数3)で表せる。
【0054】
【0055】
ここで、ΔBV%は、治療開始前の循環血液量を基準にして、治療中における循環血液量の増減率を表すものであるので、ΔBV%の目標値として、治療終了時の循環血液量がBV適となる場合を算出する。ΔBV%の目標値は数式(数4)で表せる。
【0056】
【0057】
数式(数4)のBV適に、数式(数3)を代入すると、ΔBV%の目標値は数式(数5)で算出できる。
【0058】
【0059】
以上より、ΔBV%の目標値を、治療開始前の患者の体重W及び循環血液量算出部141で算出された循環血液量BVに基づいて算出できることが示された。
上述したように治療開始前の血管外の余剰水分を考慮しないものとしたため、数式(数3)で算出されるBV適は、血管外の余剰水分を考慮した場合の真のBV適よりも大きい値となる。つまり、真のΔBV%の目標値は、数式(数5)で算出されるΔBV%の目標値よりも小さい値となる。従って、数式(数5)で算出されるΔBV%の目標値を下回らないように、除水速度の制御を行えば、循環血液量の減少に起因する血圧低下や下肢痙攣等の症状の発生を低減できる。
【0060】
また、実際には、血管外の余剰水分は血漿再充填により血管内に移動するので、治療開始前の循環血液量BVは、数式(数2)による算出通りにはならないが、ΔBV%の変化が除水速度と比例状態になった場合は、血漿再充填の速度が0になったと判断し、比例状態となる直前の状態がドライウェイトの状態となる。
【0061】
本実施形態では、治療前の患者の体重Wに基づいてBV適やΔBV%の目標値を算出するため、脱血の方法は、治療開始前に患者の体内にプライミング液が注入されない両側脱血が望ましい。片側脱血により、治療開始前に患者の体内にプライミング液が所定量PV注入される場合は、治療開始前の患者の体重WをW+PVと置き換え、血液回路110に血液が充填された状態、即ち、患者の体内にプライミング液が注入されて患者の循環血液が希釈された状態における血液性状の測定値を変化前の測定値Hctbとする必要がある。
【0062】
以上説明した第1実施形態の血液浄化装置100によれば、以下のような効果を奏する。
【0063】
(1)血液浄化装置100を、血液回路110と、血液浄化器120と、血液回路110に注水を行うことにより循環血液量を増加させる濃度変化手段と、血液濃度に応じて変化する血液性状を測定する測定部115と、測定部115で測定された濃度変化手段による注水前の測定値Hctb、注水後の測定値Hcta及び濃度変化手段による注水量qに基づいて循環血液量を算出する循環血液量算出部141と、を含んで構成した。これにより、循環血液量BVが測定可能となる。
【0064】
(2)制御装置140を、循環血液量算出部141により算出された循環血液量BV及び患者の治療開始前の体重Wに基づいて、循環血液量の変化率ΔBV%の目標値を算出する目標値算出部142を更に備えるものとした。これにより、ΔBV%の目標値を算出できるので、ΔBV%の目標値を下回らないように、除水速度の制御を行えば、循環血液量の減少に起因する血圧低下や下肢痙攣等の症状の発生を低減できる。
【0065】
(3)制御装置140に、血液回路110の上流側と下流側の両側から血液を導入して血液回路110に血液を充填する両側脱血により脱血を行わせた。これにより、治療開始前に患者の体内にプライミング液が注入されないので、治療開始前に測定された患者の体重Wを補正することなく、循環血液量BVの算出が可能となる。
【0066】
(4)濃度変化手段を、血液浄化器120及び血液浄化器120に透析液を供給する透析液回路130を含んで構成し、制御装置140に、血液浄化器120を介して逆濾過により透析液を注水させた。これにより、医療従事者が所定量の生理食塩水を血液回路に注入する等の操作をしなくても、簡単に患者の循環血液に濃度変化を与えることができる。
【0067】
<第1実施形態の変形例>
次に、第1実施形態の変形例に係る血液浄化装置100Aについて
図6を参照して説明する。
変形例に係る血液浄化装置100Aは、補充液ライン150を備えている点及び測定部115の配置において第1実施形態と異なる。よって、第1実施形態で説明した構成と同様のものには同じ符号を付して説明を省略し、異なる点について説明する。
【0068】
図6に示すように、変形例では、補充液ライン150を介して血液回路110に透析液を注入する。即ち、変形例に係る血液浄化装置100Aでは、透析液回路130及び補充液ライン150を濃度変化手段として用いる。
変形例では、測定部115の配置箇所は、第1実施形態の場合と同様に、血液回路110のいずれでもよいが、血液回路110内の濃度変化直後の影響を受けにくい場所が好ましい。変形例では、後述する補充液ライン150を介して透析液が血液回路110に注水される。よって、測定部115の配置箇所は、補充液ライン150が血液浄化器120の上流側に接続される前希釈方式の場合は、
図6に示すように補充液ライン150と動脈側ライン111との接続部より上流側が好ましい。また、補充液ライン150が血液浄化器120よりも下流側に接続される後希釈方式の場合は、補充液ライン150と静脈側ライン112との接続部であるドリップチャンバ112cより上流側が好ましい。
【0069】
補充液ライン150は、透析液回路130内の透析液を血液回路110に直接注入するラインであり、液体が流通可能な可撓性を有する軟質のチューブを主体として構成される。
図6に示すように、補充液ライン150の上流側は、透析液回路130の透析液導入ライン132aに接続されている。補充液ライン150の下流側は、動脈側ライン111のうち血液ポンプ111cの下流側又はドリップチャンバ112cに接続される。補充液ライン150には、補充液ポンプ151及び補充液ラインクランプ152が配置される。
【0070】
補充液ポンプ151は、透析液回路130から透析液を取り出して、血液回路110(動脈側ライン111又は静脈側ライン112)に送液する。除水/逆濾過ポンプ1333の送液をしなかった場合、補充液ライン150を介して動脈側ライン111又は静脈側ライン112に注水された透析液と同量の水分が、血液浄化器120において除水により回収される。また、注水された透析液を患者の体内に送液する場合(補液を行う場合)、補充液ポンプ151と同じ流量で除水/逆濾過ポンプ1333を逆濾過方向に送液するよう駆動させる。本実施形態では、補充液ポンプ151は、精度良く送液可能なピストンポンプを用いることが好ましい。
補充液ラインクランプ152は、補充液ライン150の流路を開閉する。
【0071】
第1実施形態で説明した場合と同様に、両側の脱血工程(
図3参照)を行った後、制御装置140(循環血液量算出部141)は、透析液チャンバ1331から、例えば、500mL/minの送液量で透析液を供給させ、血液ポンプ111cは、例えば、200mL/minの流量で動脈側接続部111a側から血液浄化器120側に血液を送出する。
【0072】
ここで、循環血液量算出部141は、例えば、200mL/minの流量で動脈側接続部111a側から血液浄化器120側に血液が送出されている状態において、血液ポンプ111cの下流側近傍に配置された測定部115によりヘマトクリット値を測定する。これにより、血液回路110に透析液が注水される前(循環血液の希釈前)のヘマトクリット値が測定される。
【0073】
次いで、制御装置140は、
図6に示すように、除水/逆濾過ポンプ1333を、逆濾過方向に所定の注水量q(例えば、0.1L)の送液を行うように作動させると共に、補充液ポンプ151を所定の注水量qの送液を行うように作動させる。例えば、制御装置140は、除水/逆濾過ポンプ1333を、逆濾過方向に100mL/minの送液量で1分間作動させると共に、補充液ポンプ151を100mL/minの送液量で1分間作動させる。これにより、血液回路110において所定の注水量q(例えば、0.1L)の透析液が動脈側ライン111又は静脈側ライン112(ドリップチャンバ112c)に注水される。即ち、第1実施形態の変形例では、透析液回路130及び補充液ライン150が血液回路110に注水を行う濃度変化手段として用いられる。
【0074】
循環血液量算出部141は、血液回路110に透析液が注水されて患者の循環血液が希釈された状態において、血液ポンプ111cの下流側近傍に配置された測定部115によりヘマトクリット値を測定する。これにより、患者の体内に所定の注水量qの透析液が注水されて患者の循環血液が希釈された後のヘマトクリット値が測定される。
【0075】
本実施形態では、濃度変化手段が第1実施形態で説明した場合と異なるが、以降の循環血液量の算出方法及び循環血液量の変化率の目標値の算出方法は、第1実施形態で説明した場合と同様であるので説明を省略する。
【0076】
以上説明した第1実施形態の変形例に係る血液浄化装置100Aによれば、上述の効果(1)~(3)に加えて、以下のような効果を奏する。
【0077】
(5)血液浄化装置100Aを、透析液回路130と、血液浄化器120の上流側又は下流側に透析液を注水する補充液ライン150と、を更に含んで構成し、濃度変化手段を、透析液回路130及び補充液ライン150を含んで構成した。そして、制御装置140
に、補充液ライン150を介して所定の注水量qで注水を行わせた。これにより、医療従事者が所定量の生理食塩水を血液回路に注入する等の操作をしなくても、簡単に患者の循環血液に濃度変化を与えることができる。
【0078】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態に係る血液浄化装置100について
図7を参照して説明する。
第2実施形態では、第1実施形態及び第1実施形態の変形例が透析液の注水により循環血液を希釈して濃度変化を与えるものであったのに対し、除水により循環血液を濃縮して濃度変化を与える点で第1実施形態と異なる。血液浄化装置100は、第1実施形態で説明したものと同じであるので、説明を省略する。
【0079】
第1実施形態で説明した場合と同様に、両側の脱血工程(
図3参照)を行った後、制御装置140(循環血液量算出部141)は、透析液チャンバ1331から、例えば、500mL/minの送液量で透析液を供給させ、血液ポンプ111cは、例えば、200mL/minの流量で動脈側接続部111a側から血液浄化器120側に血液を送出する。
【0080】
ここで、循環血液量算出部141は、例えば、200mL/minの流量で動脈側接続部111a側から血液浄化器120側に血液が送出されている状態において、血液導入口122aの近傍に配置された測定部115によりヘマトクリット値を測定する。これにより、血液回路110から除水される前(循環血液の濃縮前)のヘマトクリット値が測定される。
【0081】
次いで、制御装置140は、
図7に示すように、除水/逆濾過ポンプ1333を、除水方向に所定の除水量q(例えば、0.1L)の送液を行うように作動させる。これにより、血液浄化器120において所定の除水量q(例えば、0.1L)の除水が行われる。即ち、第2実施形態では、血液浄化器120が血液回路110の血液から除水を行う濃度変化手段として用いられる。
【0082】
循環血液量算出部141は、血液回路110における除水により患者の循環血液が濃縮された状態において、血液導入口122aの近傍に配置された測定部115によりヘマトクリット値を測定する。これにより、患者の体内で所定の除水量qの除水が行われて患者の循環血液が濃縮された後のヘマトクリット値が測定される。
【0083】
(循環血液量算出方法)
第1実施形態で説明した場合と同様に測定部115により測定される濃度変化前のヘマトクリット値をHctb(変化前の測定値)、濃度変化後のヘマトクリット値をHcta(変化後の測定値)とし、濃度変化前(治療開始前)の患者の循環血液量をBV[L]とする。
循環血液量算出部141は、上述の変化前の測定値Hctb、変化後の測定値Hcta及び所定の除水量q[L]に基づいて、循環血液量BV[L]を算出する。具体的には、濃度変化前後で赤血球の容量は変わらないので、数式(数6)が成り立つ。
【0084】
【0085】
これより、循環血液量BV[L]は、数式(数7)で算出できる。
【0086】
【0087】
本実施形態では、濃度変化を与える方法が第1実施形態及びその変形例で説明した場合と異なるが、以降の循環血液量の変化率の目標値の算出方法は、第1実施形態で説明した場合と同様であるので説明を省略する。
【0088】
以上説明した第2実施形態に係る血液浄化装置100によれば、上述の効果(1)~(3)に加えて、以下のような効果を奏する。
【0089】
(6)濃度変化手段を、血液浄化器120を含んで構成し、制御装置140に、血液浄化器120において所定の除水量qで除水を行わせた。これにより、簡単に患者の循環血液に濃度変化を与えることができる。
【0090】
以上、本発明の血液浄化装置の好ましい各実施形態について説明したが、本発明は、上述した各実施形態に制限されるものではなく、適宜変更が可能である。
【0091】
例えば、上述の各実施形態では、血液浄化装置が透析液回路を備える構成としたが、これに限らない。循環血液の濃度変化を血液回路に生理食塩水を注入することにより行ってもよいし、透析を行わず血液濾過のみの除水で行ってもよい。
【符号の説明】
【0092】
100、100A 血液浄化装置
110 血液回路
111 動脈側ライン
111c 血液ポンプ
112 静脈側ライン
120 血液浄化器
130 透析液回路
133 透析液送液部
140 制御装置
141 循環血液量算出部
142 ΔBV%の目標値算出部
150 補充液ライン
151 補充液ポンプ