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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022137881
(43)【公開日】2022-09-22
(54)【発明の名称】接着接合部の非破壊検査法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/06 20060101AFI20220914BHJP
   G01N 25/72 20060101ALI20220914BHJP
【FI】
G01N29/06
G01N25/72 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021037587
(22)【出願日】2021-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】306024148
【氏名又は名称】公立大学法人秋田県立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水野 衛
(72)【発明者】
【氏名】森 南
(72)【発明者】
【氏名】望月 貴生
【テーマコード(参考)】
2G040
2G047
【Fターム(参考)】
2G040AA07
2G040AB09
2G040BA14
2G040BA26
2G040CA02
2G040DA06
2G040DA13
2G040DA15
2G040EA01
2G040HA02
2G047AA05
2G047AB05
2G047AB07
2G047BC09
2G047BC10
2G047EA10
2G047EA16
2G047GH06
2G047GJ22
(57)【要約】
【課題】簡易な方法で、接着接合部の非破壊検査を行うことが可能な新規な方法を提供する。
【解決方法】2つの部材を、接着剤を介して接合してなる接合体に超音波振動子を押圧し、当該接合体における接着不良部が発熱するようなモードで前記接合体に前記超音波を印加する第1ステップと、前記接合体の発熱分布を測定して、当該発熱分布の発熱箇所から前記接合体の接着不良部を検出する第2ステップと、を含む。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの部材を、接着剤を介して接合してなる接合体に超音波振動子を押圧し、当該接合体における接着不良部が発熱するようなモードで前記接合体に前記超音波を印加する第1ステップと、
前記接合体の発熱分布を測定して、当該発熱分布の発熱箇所から前記接合体の接着不良部を検出する第2ステップと、
を含むことを特徴とする、接着接合部の非破壊検査法。
【請求項2】
前記第1ステップにおいて、前記超音波振動子の前記接合体に押圧する箇所を変化させるとともに、前記第2ステップにおいて、押圧箇所毎に前記接合体の発熱分布を測定して、当該発熱分布の発熱箇所から前記接合体の接着不良部を検出することを特徴とする、請求項1に記載の接着接合部の非破壊検査法。
【請求項3】
前記第1ステップにおいて、前記超音波振動子から印加する前記超音波の振動数を変化させるとともに、前記第2ステップにおいて、振動数毎に前記接合体の発熱分布を測定して、当該発熱分布の発熱箇所から前記接合体の接着不良部を検出することを特徴とする、請求項1に記載の接着接合部の非破壊検査法。
【請求項4】
接着不良部のない追加の接合体を準備し、当該追加の接合体に前記第1ステップにおける超音波モードと同じモードの超音波を印加して、前記追加の接合体の追加の発熱分布を得る第3ステップと、
前記接合体の発熱分布と前記追加の発熱分布との差分を取ることにより、前記接合体の接着不良部を検出する第4ステップと、
を含むことを特徴とする、請求項1に記載の接着接合部の非破壊検査法。
【請求項5】
前記接合体を治具に設置し、前記接合体を治具に設置する際の固定状態、及び前記超音波振動子の振動モードの少なくとも1つを変化させることにより、前記接着不良部を発熱させることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の接着接合部の非破壊検査法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着接合部の非破壊検査法に関する。
【背景技術】
【0002】
非破壊検査法は、検査対象となる材料や、その材料に含まれる欠陥の種類、形状、位置などにより、適用が可能な方法とそうでないものがある。また、適用が可能であっても最適な検査条件の設定や治具の製作をする必要がある。
【0003】
接着剤によって2枚の平板を接合する場合の接着接合率や接着不良を検知するには、従来、超音波探傷等の方法が採られていた。この方法では、用いる装置やプローブ、測定環境により得られるエコーが変化するため、事前に欠陥の有無が明確な標準サンプルを作製、測定する必要がある。
【0004】
例えば、インジウム-バッキングチューブ界面の接着接合率の測定においては、円筒状インジウムターゲットのバッキングチューブ内面側からターゲットに到達するようにφ1mmの穴を開け、内部に水がはいらないようマスキングをした上で、これを欠陥と見立てて、判別可能な条件にて探傷を行うような標準サンプルを作製する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-191087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記超音波探傷法では、上述のように標準サンプルの作製及び測定という操作を行う必要があり、操作が煩雑になるとともに、標準サンプルの作製等に伴って、測定に伴う費用が高額になるという問題があった。
【0007】
本発明は、簡易な方法で、接着接合部の非破壊検査を行うことが可能な新規な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成すべく、本発明は、2つの部材を、接着剤を介して接合してなる接合体に超音波振動子を押圧し、当該接合体における接着不良部が発熱するようなモードで前記接合体に前記超音波を印加する第1ステップと、前記接合体の発熱分布を測定して、当該発熱分布の発熱箇所から前記接合体の接着不良部を検出する第2ステップと、を含むことを特徴とする、接着接合部の非破壊検査法に関する。
【0009】
本発明によれば、2つの部材を接着剤を介して接合して得た接合体の、接着接合部を非破壊で検査するに際し、当該接合体の表面に超音波振動子を押圧し、当該接合体の接着不良部に所定のモードの超音波を印加するようにしている。すると、接合体の接着不良部には、例えばせん断モードの振動が生じて当該箇所が発熱するようになる。したがって、接合体の発熱分布を測定し、当該発熱分布の発熱箇所を特定することにより、上記接合体の接着不良部を検出することができる。
【0010】
なお、超音波モードとしては、接合体の表面に垂直方向のモード、接合体の表面に平行方向のモード及びこれら両者を含む複合モード等があり、接着不良部の形態によってこれらのモードから適宜選択する。
【0011】
本発明の一例においては、第1ステップにおいて、超音波振動子の接合体に押圧する箇所を変化させるとともに、第2ステップにおいて、押圧箇所毎に前記接合体の発熱分布を測定して、当該発熱分布の発熱箇所から接合体の接着不良部を検出することができる。
【0012】
接合体において、接着不良部がどの位置に存在するのか不明である場合には、上記例にしたがって、超音波振動子の、接合体に対する押圧位置を変化させることにより、接着不良部に起因した発熱が顕著になるような発熱分布を得ることができる。したがって、当該発熱分布における発熱箇所を特定することにより、接合体の接着不良部を高精度に検出することができる。
【0013】
本発明の一例においては、第1ステップにおいて、超音波振動子から印加する超音波の振動数を変化させるとともに、第2ステップにおいて、振動数毎に前記接合体の発熱分布を測定して、当該発熱分布の発熱箇所から接合体の接着不良部を検出することができる。
【0014】
接合体において、接着不良部がどの位置に存在するのか不明である場合には、上記例にしたがって、接合体に対して超音波振動子から印加する超音波の振動数を変化させることにより、接着不良部に起因した発熱が顕著になるような発熱分布を得ることができる。したがって、当該発熱分布における発熱箇所を特定することにより、接合体の接着不良部を高精度に検出することができる。
【0015】
本発明の一例においては、接着不良部のない追加の接合体を準備し、当該追加の接合体に第1ステップにおける超音波モードと同じモードの超音波を印加して、追加の接合体の追加の発熱分布を得る第3ステップと、接合体の発熱分布と追加の発熱分布との差分を取ることにより、前記接合体の接着不良部を検出する第4ステップと、を含むことができる。
【0016】
本例によれば、接着不良部のない追加の接合体、いわゆる標準サンプルを準備し、この標準サンプルに対して目的とする接合体に対する場合と同条件で超音波印加を行って発熱分布を得、上記接合体の発熱分布と比較して差分を採るようにする。標準サンプルにおける発熱分布は均一であることから、上記差分によって温度の高い箇所があれば、当該箇所が接着不良部に相当することになる。したがって、本例においても、接合体において、接着不良部がどの位置に存在するのか不明である場合において、接合体の接着不良部を高精度に検出することができる。
【0017】
本発明の一例においては、接合体を治具に設置して接着不良部の検出を行うことができる。この場合、接合体を治具に設置する際の固定状態、接合体の表面に対する超音波振動子の押圧位置、及び超音波振動子の振動モードの少なくとも1つを変化させることにより、前記接着不良部を発熱させることができ、当該接着不良部を検出することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上、本発明によれば、簡易な方法で、接着接合部の非破壊検査を行うことが可能な新規な方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施形態における接着接合部の非破壊検査装置の概略構成を示す図である。
図2図1に示す検査に供する接合体の固定方法を示す図である。
図3】実施形態における接合体の概略構成を示す図である。
図4】実施形態における接合体の接着不良部の形態を示す模式図である。
図5】実施形態における接合体の接着不良部の形態を示す模式図である。
図6】実施形態における接合体の接着不良部の形態を示す模式図である。
図7】実施例における接合体の接着不良部の形態を示す模式図である。
図8】実施例における接合体の発熱分布を示す図である。
図9】実施例における接合体の発熱分布を示す図である。
図10】実施例における落錘式衝撃試験機の治具とストライカーの概略図である。
図11】実施例における接合体の発熱分布を示す図である。
図12】実施例における接合体の発熱分布を示す図である。
図13】実施例における接合体の発熱部の温度の時間変化を示すグラフである。
図14】実施例における接合体の発熱分布を示す図である。
図15】実施例における接合体の発熱部の温度の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の詳細及びその他の特徴について、実施の形態に基づいて説明する。
【0021】
図1は、本実施形態における接着接合部の非破壊検査装置の概略構成を示す図であり、図2は、図1に示す検査に供する接合体の固定方法を示す図である。
【0022】
なお、本実施形態では、本発明の特徴及び作用効果を明確にすべく、接合体の中心部に予め接着不良部が存在している場合について説明する。
【0023】
図1及び2に示すように、本実施形態の非破壊検査装置は、接合体20を垂直に固定する治具11と、治具11と対向するようにして配設され、接合体20に対して超音波を印加する超音波振動子としてのハンドウェルダ13とを備えている。また、治具11の、ハンドウェルダ13と反対側には赤外線カメラ14が配設されている。
【0024】
治具11は金属やセラミック等、接合体20を固定するに足る剛性を有する材料から構成する。なお、本実施形態では、治具11は2分割することができ、これらの間に接合体20を挟持するように構成されている。但し、相対向する上辺20A及び下辺20Bは非固定状態として開放しておき、これら上辺20A及び下辺20Bと隣接する側辺20C及び20Dのみを治具11にビス11Aで固定する。
【0025】
本実施形態では、最初に、2つの平板20Xを、接着剤20Yを介して接合して接合体20を作製する(図3参照)。
【0026】
平板20Xは、目的に応じて任意のものを用いることができ、例えば、構造材を考慮した場合は、鉄、ニッケル、アルミニウム等の汎用の金属板や、物理蒸着等の物理化学的材料を考慮した場合は、白金、パラジウム、金、銀、銅等の貴金属板とすることもできる。さらに、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等のセラミック板等とすることもできるし、ポリプロピレン樹脂やポリエチレン樹脂等の汎用の樹脂板やポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド等のエンジニアリングプラスチックとすることもできる。さらには、繊維強化樹脂(FRP)板等とすることもできる。
【0027】
上記2つの平板20Xを接合する接着剤20Yとしても汎用のものを用いることができ、アクリル樹脂系接着剤、α-オレフィン系接着剤、ウレタン樹脂系接着剤、エチレン-酢酸ビニル樹脂ホットメルト接着剤、クロロプレンゴム系接着剤、酢酸ビニル樹脂エマルジョン接着剤、シアノアクリレート系接着剤、フェノール樹脂系接着剤、変成シリコーン系接着剤、ポリビニルブチラール樹脂系接着剤、メラミン樹脂系接着剤、ユリア樹脂系接着剤等を挙げることができる。
【0028】
次いで、接合体20を治具11に固定する。本実施形態の場合、相対向する上辺20A及び下辺20Bを非固定状態として開放し、これら上辺20A及び下辺20Bと隣接する側辺20C及び20Dのみを治具11にビス11Aで固定している。また、接合体20の接着面に対して垂直にハンドウェルダ13を押圧し、接着面に垂直方向に振動するようにしている。これにより、接着部全体にせん断モードの超音波を印加することができ、当該接着不良部が自己的に発熱し、高温になる。
【0029】
本実施形態では、例えば、図4に示すように、工業油、離型剤、保護シートなど接着面の汚染物質が層状に接着層に混入しているとき、板が互いに平行に振動することにより、層状の汚染物質が粘性変形を起こし発熱するような場合は、治具11によって接合体20の側辺20C及び20Dのみを治具11にビス11Aで固定し、接合体20に対して平行方向のモードの超音波を印加する。これによって、接着不良部に汚染物質の粘性変形に基づく発熱が生じるようになり、当該接着不良部が自己的に発熱するようになる。
【0030】
このように、接合体20を治具11に設置する際の固定状態を適宜変化させることにより、接合体20に印加される超音波モードが変化するので、接着不良部の発熱状態を変化させることができ、ひいては最適な発熱状態を得ることができる。すなわち、接合体20において、接着不良部の形態等が不明である場合において、接合体20の接着不良部を高精度に検出することができる。
【0031】
また、本実施形態では、接合体20を四角形状としているが、任意の方向に振動できるように治具11に固定できるものであれば、円形、楕円形であってもよいし、三角形状、五角形以上の多角形状としてもよい。
【0032】
さらに、本実施形態では、2つの平板20Xから接合体20を構成しているが、平板である必要はなく、波型や凹凸状、曲面状の表面を有する任意の2つの部材を選択し、これらを接着剤20Yで接合することもできる。
【0033】
次いで、接合体20の表面に金属片Mを取り付ける。この金属片Mは任意の金属から構成することができるが、以下に説明する金属片Mと接合体20との摩擦による外部加熱を助長させる観点から、金、銀、銅、アルミニウム等の熱伝導性に優れる金属から構成することが好ましく、特にはアルミニウムが好ましい。熱伝導性の観点からのみではアルミニウム等よりも銀等の方が好ましいが、数多くの材料の取捨選択の結果としてアルミニウムが最も好ましいことが判明したものである。
【0034】
なお、金属片Mは省略することもできるが、金属片Mを用いることにより、以下に説明するように、外部加熱を利用して接着不良部をより高精度に検出という利点を得ることができる。
【0035】
なお、金属片の代わりにセラミックや樹脂等を用いた場合は、十分な外部加熱の効果を得ることができなかった。
【0036】
なお、本実施形態では、接着不良部が接合体20の中心部に存在するので、金属片Mの取り付け位置は、接合体20の上下方向の中心部であって、例えば治具11の端部から50mm~55mm程度離れた位置とする。また、接合体20の大きさが、例えば100mm×100mmの場合、金属片Mの大きさは、10mm×10mm~25mm~25mmとすることが好ましい。
【0037】
次いで、金属片Mに対して超音波振動子としてのハンドウェルダ13の先端部13Aを押圧し、金属片Mを介して、接合体20における接着不良部が発熱するようなモードで当該接合体20に超音波を印加する。
【0038】
なお、図5に示すように、接着剤の塗り残しによる非接着部が存在したり、指紋などにより接着面がきれいに剥がれたりしたとき、板が互いにぶつかるように振動することにより、滑らかな非接着面や剥離面が互いにぶつかること(clapping)により発熱する場合に有効である。
【0039】
また、図6に示すように、接着層または界面が外力により割れて剥がれたとき、板が互いに平行に振動することにより割れた面が擦り合わされ摩擦により発熱する場合と、割れた面が互いに打ち合うこと(clapping)により発熱する場合が重畳する場合は、治具11によって接合体20の側辺20C及び20Dのみを治具11にビス11Aで固定し、接合体20に対して垂直方向のモードと平行方向のモードとを含む複合モードの超音波を印加する。これによって、接着不良部にせん断モードの超音波を印加でき、これに基づく自己発熱と摩擦に基づく発熱とを利用することができる。したがって、上記接着不良部を高精度に検出することができる。
【0040】
すなわち、接合体20において、接着不良部の形態等が不明である場合において、接合体20の接着不良部を高精度に検出することができる。
【0041】
なお、超音波振動子であるハンドウェルダ13は、例えば接合体20の大きさが100mm×100mmの場合、治具11の端部よりt=5mm~20mmの位置であって、接合体20の上下方向における中心部Hに押圧する。これによって、接合体20中の接着不良部における自己発熱をより増大させることができ、当該接着不良部の検知、すなわち接着接合部の非破壊検査をより正確に行うことができる。なお、当該知見は、多数の実験の結果に基づいて得られたものである。また、中心部Hとは、接合体20上下方向の中心から上下に40mmの範囲でずれている場合をも含む。
【0042】
但し、ハンドウェルダ13の押圧位置を変化させることにより、接合体20に印加される超音波モードが変化するので、接着不良部の発熱状態を変化させることができ、ひいては最適な発熱状態を得ることができる。すなわち、接合体20において、接着不良部の形態等が不明である場合において、接合体20の接着不良部を高精度に検出することができる。
【0043】
ハンドウェルダ13の押圧力は0.255MPa~0.765MPaが好ましく、特には0.510MPa~0.640MPaが好ましい。これによって、接合体20中の接着不良部の自己発熱と金属片Mによる外部加熱とがバランスし、接着不良部の検知、すなわち接合体20の接着接合部の非破壊検査をより正確に行うことができる。
【0044】
なお、印加する超音波は、例えば振動数が20kHz~60kHz、出力60W~250Wである。
【0045】
次いで、接合体20に対する超音波印加によって生じた発熱分布を赤外線カメラ14で測定する。このとき、接着接合部の非破壊検査を赤外線サーモグラフィの形態で得ることができ、当該非破壊検査を簡易なものとすることができる。
【0046】
以上説明したように、本実施形態では、2つの平板を接着剤を介して接合して得た接合体20の、接着接合部を非破壊で検査するに際し、接合体20の表面に金属片Mを取り付けるとともに、金属片Mにハンドウェルダ13の先端部13Aを押圧し、金属片Mを介して接合体20に超音波を印加するようにしている。
【0047】
したがって、接合体20の接着不良部が存在した場合、当該接着不良部が超音波振動によって自己発熱するようになる。一方、金属片M自体も接合体20との摩擦によって発熱するようになり、当該熱が接合体内部に伝達するようになる。このとき、接合体の内部に接着不良部があるとその熱の伝わり方が変化し、接着不良部が存在する箇所とその周囲とで温度分布に差が生じる。
【0048】
すなわち、本実施形態によれば、接着不良部の超音波振動による自己発熱と、金属片Mと接合体20との摩擦による外部加熱との相乗効果によって、上記接着不良部を熱的に検知することができる。換言すれば、接着接合部の接合状態を非破壊で検査することができる。
【0049】
接合体20において、接着不良部がどの位置に存在するのか不明である場合には、ハンドウェルダ13の、接合体20に対する押圧位置を変化させる。ハンドウェルダ13の押圧位置が金属片Mと重なっている場合は、当該箇所が接着不良部でないにも拘らず発熱してしまい、接着不良部と誤認してしまう可能性がある。しかしながら、ハンドウェルダ13の押圧位置を変化させ、金属片Mと異なる位置にハンドウェルダ13を押圧すれば、当該押圧位置は発熱することなく、接着不良部が存在する位置のみが発熱するようになる。
したがって、接着不良部の検出を正確に行うことができる。
【0050】
同様に、接合体20において、接着不良部がどの位置に存在するのか不明である場合には、接合体20に対してハンドウェルダ13から印加する超音波の振動数を変化させることにより、接着不良部に起因した発熱が顕著になるような発熱分布を得ることができる。したがって、当該発熱分布における発熱箇所を特定することにより、接合体20の接着不良部を高精度に検出することができる。
【0051】
同様に、接着不良部のない追加の接合体、いわゆる標準サンプルを準備し、この標準サンプルに対して接合体20に対する場合と同条件で超音波印加を行って発熱分布を得、接合体20の発熱分布と比較して差分を採るようにする。当該差分又は当該差分に応じた温度差が大きい箇所があれば、当該箇所が接着不良部に相当すると推察することができる。したがって、この場合においても、接合体20において、接着不良部がどの位置に存在するのか不明である場合において、接合体20の接着不良部を高精度に検出することができる。
【0052】
なお、上記いずれの場合においても、接着不良部がどの位置に存在するのか不明である場合には、接合体20の表面に金属片Mは貼付しない方が好ましい。接合体20の貼付箇所が接着不良部と重なってしまうと、接着不良部からの発熱と金属片Mからの発熱とが区別できず、接着不良部の検出が困難となってしまうからである。
【実施例0053】
(実施例1)
炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、市販の積層板(TIPcomposite、Zero-Carbonハードカーボン)を購入して使用した。寸法は450×450mm、厚さは1mmと3mmのものを用意した。積層構成は、最外層が3K平織のクロスであり、その内側は0°と90°の直交積層板である。積層板をダイヤモンドカッター(ホーザン、K-210)で寸法110×110mmの試験片に切り出した。
【0054】
切り出した試験片は、常温の蒸留水(柴田科学、PP-101)を用いて10分間の超音波洗浄(エスエヌディ、US-3KS)を行い、送風定温恒温器(ヤマト科学、DKN402)により100℃で10分間乾燥させた。
【0055】
次いで、1mmと3mmのCFRP積層板を一液加熱硬化型エポキシ系接着剤(セメダイン、EP171)を用いて、80℃、30分間の条件で硬化させ、接着接合した。その際、接着不良として図7に示すようにA×Ammの接着不良部を設けた。ここでは、接着不良としてカプトンテープ(Kp;アズワン、PB416-20-30)またはグリース(Gs;ダウコーニングアジア、FS-50)を挿入した。また、接着不良部の寸法は、A=5、30mmとし、非破壊検査で検出できる接着不良部の寸法を検証した。
【0056】
次いで、上述のようにして得たCFRP積層板を図1に示す治具11に固定し、積層板の上下方向の中央であって、治具11の端部から10mmの位置にアルミニウムテープ(寺岡製作所、No.8303、厚さ:0.085mm、大きさ10mm×10mm)を貼付した。
【0057】
次いで、ハンドウェルダ13(先端径10mm)をアルミニウムテープに対して0.510MPaで押圧し、28kHzの周波数かつ250Wの出力で、積層板の垂直方向に超音波を印加した。なお、ハンドウェルダ13の押圧箇所は、積層板の上下方向の中央であって、治具11の端部から10mmの位置とした。その後、積層板の発熱分布を赤外線カメラ14で撮像し、赤外線サーモグラフィを得た。
【0058】
接着不良として接着層にカプトンテープ(Kp)を挿入した場合の結果を図8に示す。図8(a)、(b)に示すように、A=5、30mmの場合は、試験片中央部の接着不良部に明確な発熱が現れ、当該接着不良部の判別が可能である。
【0059】
同様に、接着層にグリース(Gs)を挿入し、正方形の接着不良部の一辺の長さをA=5、30mmと変化させた結果を図9に示す。図9(a)、(b)に示すように、A=5、30mmの場合は、試験片中央部の接着不良部に発熱が現れ、接着不良部の判別が可能である。
【0060】
(実施例2)
炭素繊維強化熱可塑性プラスチック(CFRTP)は、PEEK樹脂に炭素繊維を1方向に配向したプリプレグシート(UDテープ;東レ、TC1200)を直交方向(0°と90°)に積層し、熱プレス成形法で積層板を大気圧下で作製した。
【0061】
UDテープを140×110mmの寸法に切り出し、16層積層した。積層したプリプレグシートは超音波ハンドウェルダ(日本アビオニクス、W2005-28)でシートの周囲を仮止めし、自作の金型(内寸:160×140×2mm)内に入れた。この際、成形後の積層板を金型から取り出しやすくするため、離型剤(ダイキン、GA-3000)を塗布したカプトンフィルム(東レ・デュポン、300V)を金型の内側に挿入した。
【0062】
金型を熱プレス成形機(井元製作所、IMC-180C-1-3)に設置し、360℃で1時間、2MPaの圧力で熱プレス成形した。成形後は加圧したまま室温まで自然冷却し、積層板を取り出した。成形後の積層板は水冷式のダイヤモンドカッター(リトク、RC-150)で寸法100×100mmの試験片に切り出した。16層積層した試験片の厚さは約2mmであった。
【0063】
成形欠陥として、積層板の8層目と9層目の間に、カプトンテープ(Kp;アズワン、PB416-20-30)を挿入した。
【0064】
また、CFRTP試験片に落錘式衝撃試験機(インストロン、CEAST 9310)で衝撃エネルギーがE=10.5Jの衝撃荷重(Im)を与えた。図10に示すように、試験片を治具で挟み、落錘式衝撃試験機の下部に設置した。治具には直径40mmの穴があいており、この穴を通って直径12.6mmの半球状のストライカーが試験片に自由落下し、試験片中央部に衝撃荷重を与えた。
【0065】
次いで、実施例1と同様にしてアルミニウムテープを貼付し、ハンドウェルダ13を試験片の表面に垂直に押圧して超音波を印加し、赤外線カメラ14で赤外線サーモグラフィを得た。図11に発熱分布を示す。
【0066】
図11(a)が成形欠陥の無い試験片に衝撃エネルギーE=10.5Jの落錘衝撃荷重を与え、衝撃損傷を生成した場合(Im試験片)、図11(b)が熱プレス成形時にカプトンテープを中央層の間に挿入した場合(Kp試験片)、図11(c)が熱プレス成形時にカプトンテープを中央層の間に挿入し、さらにE=10.5Jの落錘衝撃荷重を与え、衝撃損傷も生成した場合(Kp+Im試験片)の結果である。
【0067】
いずれの試験片においても欠陥部で発熱が生じており、非破壊検査が可能であることが判明した。但し、図11(c)のKp+Im試験片では、欠陥部全体が発熱するわけではなく、発熱の強弱にムラが生じている。
【0068】
(実施例3)
アルミニウム合金は、市販のA2017平板(Al)を購入し、使用した。Al平板を寸法100×100mmに切り出し、常温の蒸留水(柴田科学、PP-101)を用いて10分間の超音波洗浄(エスエヌディ、US-3KS)を行った。その後、送風定温恒温器(ヤマト科学、DKN402)により100℃で10分間乾燥させた。2枚のAl平板を一液加熱硬化型エポキシ系接着剤(セメダイン、EP171)を用いて、80℃、30分間の条件で硬化させ、接着接合した。
【0069】
接着接合したAl平板では、落錘衝撃荷重を与えた試験片(Im)、試験片中央部に60×60mmの非接着部を設けた試験片(Nc)、試験片中央部にカプトンテープ(Kp;アズワン、PB416-20-30)またはグリース(Gs;ダウコーニングアジア、FS-50)を挿入し、60×60mmの接着不良部を設けた試験片を用意した。いずれの試験片においても厚さ1mmのAl平板を2枚接着接合した。
【0070】
アルミニウム合金(A2017)の接着接合試験片を作製後に、試験片の中央部に衝撃エネルギーがE=5.9Jと7.3Jの落錘衝撃荷重を与え、接着層に衝撃損傷が生じた試験片(Im)に対し、実施例1と同様にしてアルミニウムテープを貼付し、ハンドウェルダ13を押圧して試験片の表面に垂直に超音波を印加し、赤外線カメラ14で赤外線サーモグラフィを得た。結果を図12に示す。
【0071】
図12から明らかなように、いずれの場合もAl試験片にリング状の発熱が見られた。発熱が生じた領域の半径を測定したところ、衝撃エネルギーがE=5.9Jのとき41.2mm、E=7.3Jのとき42.9mmだった。一方、試験片の断面観察から接着層が損傷していた領域の半径を測定したところ、それぞれ40.8mmと43.8mmであった。誤差はあるものの、衝撃荷重のエネルギーの違いによる損傷領域の大きさの違いを検出できた。
【0072】
図13には、発熱部の温度の時間変化を示す。標準試験片(St)ではほとんど発熱が無いのに対し、衝撃エネルギーがE=5.9Jと7.3Jの衝撃荷重を与えたIm試験片では、時間とともに温度が上昇していく様子が分かる。ただし、衝撃エネルギーがE=5.9Jと7.3Jとでは、上昇する温度に大きな差は見られなかった。このように、本発明の非破壊検査法では、発熱部の温度の時間変化からも内部損傷の有無を判別可能である。
【0073】
図14は、アルミニウム合金の接着接合試験片の接着層に異なる種類の接着不良(寸法:60×60 mm)を導入したときの発熱分布を示す。なお、超音波印加等は実施例1と同様にして実施した。
【0074】
図14(a)が非接着部(Nc)がある場合、(b)が接着層にカプトンテープ(Kp)を挿入した場合、(c)が接着層にグリース(Gs)を挿入した場合である。また、図15は発熱温度の時間変化を示すグラフである。いずれの接着不良でも本発明の非破壊検査法を適用することにより発熱が見られ、Nc、Kp、Gsの順に上昇した温度が大きいことが分かる。
【0075】
なお、非接着部の大きさは25mm×25mmとした。
【0076】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として掲示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0077】
11 治具
13 ハンドウェルダ
14 赤外線カメラ
20 接合体
M 金属片
図1
図2
図3
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図5
図6
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図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15