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特開2022-137951磁界発生装置、磁界発生装置の製造方法及び磁界発生装置を用いたリニアモータ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022137951
(43)【公開日】2022-09-22
(54)【発明の名称】磁界発生装置、磁界発生装置の製造方法及び磁界発生装置を用いたリニアモータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 41/03 20060101AFI20220914BHJP
   H02K 15/03 20060101ALI20220914BHJP
   H01F 7/02 20060101ALI20220914BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20220914BHJP
【FI】
H02K41/03 A
H02K15/03 Z
H01F7/02 Z
H01F7/02 E
H01F41/02 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021037695
(22)【出願日】2021-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(72)【発明者】
【氏名】今盛 聡
(72)【発明者】
【氏名】秋山 輝和
【テーマコード(参考)】
5E062
5H622
5H641
【Fターム(参考)】
5E062CG02
5H622AA03
5H622CA10
5H622CB02
5H622DD02
5H641BB06
5H641HH02
5H641HH03
5H641HH05
5H641HH20
(57)【要約】
【課題】減磁耐量の低下を防止することができるハルバッハ磁石配列の磁界発生装置を提供する。
【解決手段】ヨーク2に、磁極の向きが互いに略90°異なる希土類焼結磁石からなる複数の主磁極磁石3及び複数の副磁極磁石4を、交互に隙間なく直線状にハルバッハ磁石配列して固定した磁界発生装置1である。主磁極磁石及び副磁極磁石の接触面近傍に、接触面から内部の粒界に重希土類元素であるDy及びTbの少なくとも一方、若しくは前記Dy及び前記Tbの少なくとも一方の化合物が拡散された粒界拡散層6、8を形成した。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨークに、磁極の向きが互いに略90°異なる希土類焼結磁石からなる複数の主磁極磁石及び複数の副磁極磁石を、交互に隙間なく直線状にハルバッハ磁石配列して固定した磁界発生装置において、
前記主磁極磁石及び前記副磁極磁石の接触面近傍に、当該接触面から内部の粒界に重希土類元素であるDy及びTbの少なくとも一方、若しくは前記Dy及び前記Tbの少なくとも一方の化合物が拡散された粒界拡散層が形成されていることを特徴とする磁界発生装置。
【請求項2】
前記粒界拡散層は、前記主磁極磁石の前記副磁極磁石に接する主磁極側接触面、及び前記副磁極磁石の前記主磁極磁石に接する副磁極側接触面の両者に形成されていることを特徴とする請求項1記載の磁界発生装置。
【請求項3】
前記粒界拡散層は、前記主磁極磁石の前記副磁極磁石に接する主磁極側接触面、及び前記副磁極磁石の前記主磁極磁石に接する副磁極側接触面の一方に形成されており、
前記粒界拡散層が形成されていない前記主磁極磁石及び前記副磁極磁石の他方は、前記Dy及び前記Tbの少なくとも一方を含んだ前記希土類焼結磁石で形成されていることを特徴とする請求項1記載の磁界発生装置。
【請求項4】
前記粒界拡散層は、前記主磁極側接触面、若しくは前記副磁極側接触面の端部に形成されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の磁界発生装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4の何れか1項に記載の磁界発生装置を、可動子或いは固定子として用いることを特徴とするリニアモータ。
【請求項6】
主磁極磁石の副磁極磁石に接する主磁極側接触面、及び前記副磁極磁石の前記主磁極磁石に接する副磁極側接触面の少なくとも一方に、重希土類元素であるDy及びTbの少なくとも一方、若しくは前記Dy及び前記Tbの少なくとも一方の化合物を含んだ塗料を塗付する工程と、
前記塗料を塗付した前記主磁極磁石及び前記副磁極磁石の少なくとも一方を加熱して、前記主磁極側接触面及び前記副磁極側接触面の少なくとも一方に粒界拡散層を形成する工程と、
磁極の向きが互いに略90°異なるように前記主磁極磁石及び前記副磁極磁石を前記主磁極側接触面及び前記副磁極側接触面同士を接触させて交互に隙間なく直線状にハルバッハ磁石配列してヨークの配置面に固定する工程と、を備えたことを特徴とする磁界発生装置の製造方法。
【請求項7】
主磁極磁石の副磁極磁石に接する主磁極側接触面、及び前記副磁極磁石の前記主磁極磁石に接する副磁極側接触面の少なくとも一方に、粒界拡散層を形成する位置以外の部位にマスク処理を施す工程と、
蒸着炉に、マスク処理を施した前記主磁極磁石及び前記副磁極磁石の少なくとも一方を装入し、重希土類元素であるDy及びTbの少なくとも一方、若しくは前記Dy及び前記Tbの少なくとも一方の化合物を加熱することで蒸気として発生し、前記主磁極側接触面及び前記副磁極側接触面の少なくとも一方に粒界拡散層を形成する工程と、
前記主磁極磁石及び前記副磁極磁石の少なくとも一方のマスク処理を施した箇所を露出させる工程と、
磁極の向きが互いに略90°異なるように前記主磁極磁石及び前記副磁極磁石を前記主磁極側接触面及び前記副磁極側接触面同士を接触させて交互に隙間なく直線状にハルバッハ磁石配列してヨークの配置面に固定する工程と、を備えたことを特徴とする磁界発生装置の製造方法。
【請求項8】
前記粒界拡散層は、前記主磁極側接触面、若しくは前記副磁極側接触面の端部に形成することを特徴とする請求項6又は7に記載の磁界発生装置の製造方法。
【請求項9】
前記ヨークを軟磁性材料で構成し、ハルバッハ磁石配列した複数の主磁極磁石及び複数の副磁極磁石のうち前記主磁極磁石を前記ヨークに磁気吸着により固定することを特徴とする請求項6から8の何れか1項に記載の磁界発生装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁界発生装置、磁界発生装置の製造方法及び磁界発生装置を用いたリニアモータに関する。
【背景技術】
【0002】
リニアモータは、半導体製造装置、自動ドアといった様々な用途に用いられており、直接直線的な運動を実現できる点から信頼性が高い。
近年の希土類永久磁石の性能向上によって、高い推力が求められるリニアモータには、磁極の向きが互いに略90°異なる複数の希土類永久磁石を交互に隙間なく直線状にハルバッハ磁石配列してヨークに固定した磁界発生装置が、固定子や可動子として採用されている。
上記の磁界発生装置を採用したリニアモータは、従来のように逆方向に磁化した永久磁石を交互に配列した装置と比較して高い磁束密度を得ることができる。
【0003】
ところが、ハルバッハ磁石配列の磁界発生装置は、複数の永久磁石が隙間なく配列されているため、隣接する永久磁石同士が常に強い逆磁場に曝されることになり、永久磁石の接触面近傍に大きな減磁が発生し、減磁耐量が低くなりやすい。
永久磁石の減磁を防ぐ方法として、重希土類元素であるDy(ジスプロシウム)やTb(テレビウム)を多く含んだ保磁力の高いネオジム焼結磁石を用いる方法が考えられる。しかし、Dy,Tbは高価な上、資源として偏在しており供給が安定しない。また、Dy,Tbを多く含んだネオジム焼結磁石は残留磁束密度が低減しやすいので、リニアモータに用いた場合推力の低下を招いてしまうおそれがある。
【0004】
そこで近年では、Dy,Tb、若しくはそれら化合物を永久磁石の表面近傍の粒界に拡散させる粒界拡散処理を行うことで、減磁の発生源となる粒界近傍にDy,Tb、若しくはそれら化合物を偏在させて保磁力を高めた永久磁石(粒界拡散磁石)とし、この粒界拡散磁石を直線状にハルバッハ磁石配列した磁界発生装置が開発されている(例えば、特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-13651号公報
【特許文献2】特表2014-51623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、粒界拡散磁石を直線状にハルバッハ磁石配列した磁界発生装置は、高価であるDy,Tbの使用量をさらに低減することが求められている。
また、粒界拡散磁石は、粒界拡散処理により膨張してしまう。このため、特許文献1、2のハルバッハ磁石配列した磁界発生装置は、配列される方向に粒界拡散磁石が膨張してしまうと、ハルバッハ磁石配列を高精度に組み立てることができないという課題がある。
【0007】
そこで、本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、減磁耐量の低下を防止した磁界発生装置を提供し、Dy(ジスプロシウム)やTb(テレビウム)の使用量低減を図るとともに、組立精度が向上した磁界発生装置の製造方法を提供するとともに、推力特性が向上したリニアモータを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る磁界発生装置は、ヨークに、磁極の向きが互いに略90°異なる希土類焼結磁石からなる複数の主磁極磁石及び複数の副磁極磁石を、交互に隙間なく直線状にハルバッハ磁石配列して固定した磁界発生装置において、主磁極磁石及び副磁極磁石の接触面近傍に、接触面から内部の粒界に重希土類元素であるDy及びTbの少なくとも一方、若しくはDy及びTbの少なくとも一方の化合物が拡散された粒界拡散層が形成されている。
【0009】
また、本発明の一態様に係るリニアモータは、上述した磁界発生装置を可動子或いは固定子として用いる。
【0010】
また、本発明の一態様に係る磁界発生装置の製造方法は、主磁極磁石の副磁極磁石に接する主磁極側接触面、及び副磁極磁石の主磁極磁石に接する副磁極側接触面の少なくとも一方に、重希土類元素であるDy及びTbの少なくとも一方、若しくはDy及びTbの少なくとも一方の化合物を含んだ塗料を塗付する工程と、塗料を塗付した主磁極磁石及び副磁極磁石の少なくとも一方を加熱して、主磁極側接触面及び副磁極側接触面の少なくとも一方に粒界拡散層を形成する工程と、磁極の向きが互いに略90°異なるように主磁極磁石及び副磁極磁石を主磁極側接触面及び副磁極側接触面同士を接触させて交互に隙間なく直線状にハルバッハ磁石配列してヨークの固定面に固定する工程と、を備えている。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る磁界発生装置によると、減磁耐量の低下を防止することができる。また、本発明に係る磁界発生装置の製造方法によると、重希土類元素のDy(ジスプロシウム)やTb(テレビウム)の使用量の低減を図ることができるとともに、組立精度を向上させることができる。さらに、本発明に係る磁界発生装置を用いたリニアモータによると、推力特性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る第1実施形態の磁界発生装置の構成を示す図である。
図2】従来の磁界発生装置を示す図である。
図3】従来の磁界発生装置の減磁解析を実施した結果を示すグラフである。
図4】本発明に係る第2実施形態の磁界発生装置の製造方法を説明するフローチャートである。
図5】本発明に係る第3実施形態の磁界発生装置の製造方法を説明するフローチャートである。
図6】本発明に係る第4実施形態の磁界発生装置の構成を示す図である。
図7】本発明に係る第4実施形態において主磁極磁石の接触面近傍に形成された主磁極側粒界拡散層と、副磁極磁石の接触面近傍に形成された副磁極側粒界拡散層を示す図である。
図8】本発明に係る第5実施形態の磁界発生装置の構成を示す図である。
図9】本発明に係る第6実施形態の磁界発生装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、図面を参照して、本発明に係る実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0014】
[第1実施形態]
図1は、本発明に係る第1実施形態の磁界発生装置1を示すものである。
磁界発生装置1は、軟磁性材料のヨーク2と、直方体形状に形成された複数の主磁極磁石3及び副磁極磁石4とを備えている。主磁極磁石3及び副磁極磁石4は、白抜き矢印方向で示す磁極の向きが互いに略90°異なるように交互に隙間なく直線状にハルバッハ磁石配列されてヨーク2の配置面2aに接着剤で貼付されている。
【0015】
主磁極磁石3及び副磁極磁石4は、ネオジム焼結磁石などの希土類焼結磁石により形成されている。主磁極磁石3の副磁極磁石4に接する接触面5の全域には、粒界拡散処理により主磁極側粒界拡散層6が形成されている。また、副磁極磁石4の主磁極磁石3に接する接触面7の全域にも、粒界拡散処理により副磁極側粒界拡散層8が形成されている。
主磁極側粒界拡散層6及び副磁極側粒界拡散層8は、接触面5,7から磁石内部の粒界に、重希土類元素であるDy(ジスプロシウム)及びTb(テレビウム)の少なくとも一方、若しくはDy及びTbの少なくとも一方の化合物が拡散された層であり、Dy及びTbの少なくとも一方が含まれていることで接触面5,7近傍の保磁力が高くなる。
【0016】
ここで、図2は、従来のハルバッハ磁石配列された磁界発生装置9を示すものあり、図1で示した第1実施形態のように、主磁極磁石3及び副磁極磁石4の接触面5,7には、主磁極側粒界拡散層6及び副磁極側粒界拡散層8を設けていない。そして、図3は、従来の磁界発生装置9の減磁解析を実施した例を示している。従来の磁界発生装置9は、図3で明らかなように、主磁極磁石3及び副磁極磁石4が隙間なく配列されているため、接触面5,7近傍で減磁が発生する。特に、接触面5,7の端部で減磁が大きく発生している。しかも、減磁を起こす部位は不完全着磁された状態であるため、電流起因の逆磁場や熱などのストレスに再び曝されると減磁が進行する。
【0017】
これに対して、第1実施形態の磁界発生装置1は、図2で示した従来の磁界発生装置9に対して、減磁が発生する主磁極磁石3の接触面5に主磁極側粒界拡散層6が形成され、副磁極磁石4の接触面7に副磁極側粒界拡散層8が形成されており、Dy及びTbの少なくとも一方が含まれていることで接触面5,7近傍の保磁力が高くなり、減磁耐量の低下を防止した磁界発生装置1を提供することができる。
また、第1実施形態の磁界発生装置1を、リニアモータの固定子、或いは可動子として使用すると、主磁極側粒界拡散層6、副磁極側粒界拡散層8に含まれているDy及びTbの少なくとも一方がネオジム焼結磁石からなる主磁極磁石3及び副磁極磁石4の内部の残留磁束密度を低減させないので、リニアモータの推力を向上させることができる。
【0018】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態の磁界発生装置1の製造方法について、図4のフローチャートを参照して説明する。
先ず、Dy及びTbの少なくとも一方を含み、若しくはDy及びTbの少なくとも一方の化合物を含んだフッ化物の塗料を、主磁極磁石3の接触面5と、副磁極磁石4の接触面7に塗付する(ステップST1)。
次に、塗料を塗付した複数の主磁極磁石3及び副磁極磁石4を、所定の条件の加熱により粒界拡散処理を行い、主磁極磁石3の接触面5の全域に主磁極側粒界拡散層6を形成し、副磁極磁石4の接触面7の全域に副磁極側粒界拡散層8を形成する(ステップST2)。なお、粒界拡散処理の加熱条件は、塗料の材料や塗布量、主磁極磁石3及び副磁極磁石4のサイズ等に応じて適切に決定される。
【0019】
次に、塗付・加熱により粒界拡散処理を行った複数の主磁極磁石3のヨーク2に貼付される面に接着剤を塗る。そして、ヨーク2の配置面2aに、副磁極磁石4を配置する間隔を空けて複数の主磁極磁石3を貼付する。次いで、塗付・加熱により粒界拡散処理を行った複数の副磁極磁石4のヨーク2に貼付される面に接着剤を塗る。そして、複数の主磁極磁石3の間のヨーク2の配置面2aに副磁極磁石4を貼付し、全ての主磁極磁石3及び副磁極磁石4をハルバッハ磁石配列した磁界発生装置1を組み立てる(ステップST3)。
【0020】
ここで、ステップST2において、主磁極磁石3及び副磁極磁石4の粒界拡散処理を行う際には、加熱により主磁極磁石3及び副磁極磁石4が膨張する。主磁極磁石3及び副磁極磁石4の加熱による膨張は、塗料が塗付されている接触面5,7に沿う方向(面内方向)の膨張率が支配的であり、接触面5,7に直交する方向の膨張率は小さい。
したがって、上述した磁界発生装置1の製造方法によると、接触面5,7に塗料を塗付し加熱により粒界拡散処理を行った主磁極磁石3及び副磁極磁石4は、接触面5,7に直交する方向(主磁極磁石3及び副磁極磁石4が隣接する方向)の寸法がほとんど変化しないので、ハルバッハ磁石配列の磁界発生装置1を高精度に組み立てることができる。
【0021】
なお、ヨーク2は、SS400などの軟磁性を示す構造材や積層した無方向性電磁鋼板などを用いることができる。ここで、ハルバッハ磁石配列を用いると磁束はギャップ面側に集中するため、磁気回路の観点からはヨークを省略し、或いは非磁性の材料で構成することも可能である。しかし、軟磁性材料のヨーク2を用いることで、主磁極磁石3がヨーク2の配置面2aに磁気吸着されるため、生産性や耐久性の向上のためには軟磁性材料のヨーク2を用いることが好ましい。
【0022】
[第3実施形態]
図5は、第3実施形態の磁界発生装置1の製造方法を示すフローチャートである。
本実施形態は、先ず、主磁極磁石3の接触面5以外の面にマスク処理を施すとともに、副磁極磁石4の接触面7以外の面にマスク処理を施す(ステップST5)。なお、マスク処理は、接触面5,7以外の面に対してDy及びTbの粒界拡散処理が進行するのを防止できれば、どのような材料、厚みのものを用いても良い。
次に、蒸着炉に、マスク処理を施した主磁極磁石3及び副磁極磁石4を入れる。また、蒸着炉に、Dy及びTbの少なくとも一方を含み、若しくはDy及びTbの少なくとも一方の化合物を加熱することで蒸気として発生させ、主磁極磁石3のマスク処理をしていない接触面5の全域に主磁極側粒界拡散層6を形成し、副磁極磁石4のマスク処理をしていない接触面7の全域に副磁極側粒界拡散層8を形成する(ステップST6)。
【0023】
次に、蒸着炉から取り出した主磁極磁石3及び副磁極磁石4のマスク処理を施した箇所を露出させる(ステップST7)。
次に、蒸着による粒界拡散処理を行った複数の主磁極磁石3のヨーク2に貼付される面に接着剤を塗る。そして、ヨーク2の配置面2aに、副磁極磁石4を配置する間隔を空けて複数の主磁極磁石3を貼付する。次いで、蒸着による粒界拡散処理を行った複数の副磁極磁石4のヨーク2に貼付される面に接着剤を塗る。そして、複数の主磁極磁石3の間のヨーク2の配置面2aに副磁極磁石4を貼付し、全ての主磁極磁石3及び副磁極磁石4をハルバッハ磁石配列した磁界発生装置1を組み立てる(ステップST8)。
【0024】
ここで、ステップST6において、主磁極磁石3及び副磁極磁石4の蒸着による粒界拡散処理を行っても、主磁極磁石3及び副磁極磁石4の蒸着された接触面5,7に直交する方向の膨張率は小さい。
したがって、上述した第2実施形態の磁界発生装置1の製造方法も、接触面5,7に蒸着で粒界拡散処理を行った主磁極磁石3及び副磁極磁石4は、接触面5,7に直交する方向(主磁極磁石3及び副磁極磁石4が隣接する方向)の寸法が変化しないので、ハルバッハ磁石配列の磁界発生装置1を高精度に組み立てることができる。
【0025】
[第4実施形態]
次に、図6及び図7は、本発明に係る第4実施形態の磁界発生装置10を示すものである。なお、図1で示した構成と同一構成には、同一符号を付して説明は省略する。
第4実施形態の磁界発生装置10が第1実施形態の磁界発生装置1と異なる点は、図7(a)に示すように、主磁極磁石3の接触面5の端部の環状領域に、粒界拡散処理により主磁極側粒界拡散層11が形成されているとともに、図7(b)に示すように、副磁極磁石4の接触面7の端部の環状領域に、粒界拡散処理により副磁極側粒界拡散層12が形成されていることである。これら主磁極側粒界拡散層11及び副磁極側粒界拡散層12は、第1及び第2実施形態と同様に、接触面5,7の端部から磁石内部の粒界に、Dy及びTbの少なくとも一方、若しくはDy及びTbの少なくとも一方の化合物が拡散されている層である。
【0026】
図3で説明したように、従来のハルバッハ磁石配列された磁界発生装置9は接触面5,7の端部で減磁が大きく発生するが、本実施形態の磁界発生装置10は、主磁極磁石3の接触面5の端部の環状領域に主磁極側粒界拡散層11が形成され、副磁極磁石4の接触面7の端部の環状領域に副磁極側粒界拡散層12が形成されており、主磁極側粒界拡散層11及び副磁極側粒界拡散層12にDy及びTbの少なくとも一方が含まれていることで接触面5,7近傍の保磁力が高くなり、減磁耐量の低下を防止した磁界発生装置10を提供することができる。
【0027】
また、本実施形態の磁界発生装置10は、第1実施形態の磁界発生装置1と比較して、主磁極磁石3の接触面5の端部の環状領域に主磁極側粒界拡散層11が形成され、副磁極磁石4の接触面7の端部の環状領域に副磁極側粒界拡散層12が形成されているので、DyやTbの使用量を削減することができる。
ここで、本実施形態の主磁極磁石3の接触面5の端部側の環状領域に主磁極側粒界拡散層11と、副磁極磁石4の接触面7の端部側の環状領域に副磁極側粒界拡散層12は、図4で示した塗付・加熱による粒界拡散処理や、図5で示した蒸着による粒界拡散処理により形成される。
【0028】
[第5実施形態]
次に、図8は、本発明に係る第5実施形態の磁界発生装置15を示すものである。
第5実施形態の磁界発生装置15が第1実施形態の磁界発生装置1と異なる点は、Dy及びTbの少なくとも一方を含んだネオジム焼結磁石などの希土類焼結磁石からなる副磁極磁石16を備えていることである。なお、主磁極磁石3は、Dy及びTbを含まないネオジム焼結磁石などの希土類焼結磁石により形成されている。
本実施形態の主磁極磁石3及び副磁極磁石16は、磁極の向きが互いに略90°異なるように交互に隙間なく直線状にハルバッハ磁石配列されてヨーク2の配置面2aに配置されている。
【0029】
そして、主磁極磁石3の接触面5の全域には、粒界拡散処理により主磁極側粒界拡散層6が形成されており、副磁極磁石16の接触面17に接している。
主磁極側粒界拡散層6は、第1実施形態と同様に、Dy及びTbの少なくとも一方、若しくはDy及びTbの少なくとも一方の化合物が拡散された層である。
本実施形態の磁界発生装置15は、主磁極磁石3の接触面5の全域に主磁極側粒界拡散層6が形成され、副磁極磁石16がDy及びTbの少なくとも一方を含んだ希土類焼結磁石により形成されているので、主磁極磁石3の接触面5及び副磁極磁石16の接触面17近傍の保磁力が高くなり、減磁耐量の低下を防止することができる。
【0030】
そして、主磁極磁石3の主磁極側粒界拡散層6は、図4(第2実施形態)で示した塗付・加熱による粒界拡散処理や、図5(第3実施形態)で示した蒸着による粒界拡散処理により形成されるが、本実施形態の磁界発生装置15は、第1実施形態の磁界発生装置1と比較して、副磁極磁石16に粒界拡散処理を施す作業が不要となるので、磁界発生装置15の製造コストの低減化を図ることができる。
また、第4実施形態のように、主磁極磁石3の接触面5の端部の環状領域のみに主磁極側粒界拡散層11を形成すると、DyやTbの使用量が削減されるので、さらに磁界発生装置15の製造コストの低減化を図ることができる。
【0031】
[第6実施形態]
さらに、図9は、本発明に係る第6実施形態の磁界発生装置18を示すものである。
第6実施形態の磁界発生装置18が第1実施形態の磁界発生装置1と異なる点は、Dy及びTbの少なくとも一方を含んだネオジム焼結磁石などの希土類焼結磁石からなる主磁極磁石19を備えていることである。なお、副磁極磁石4は、Dy及びTbを含まないネオジム焼結磁石などの希土類焼結磁石により形成されている。
本実施形態の主磁極磁石19及び副磁極磁石4は、磁極の向きが互いに略90°異なるように交互に隙間なく直線状にハルバッハ磁石配列されてヨーク2の配置面2aに配置されている。
【0032】
そして、副磁極磁石4の接触面7の全域には、粒界拡散処理により副磁極側粒界拡散層8が形成されており、主磁極磁石19の接触面20に接している。
副磁極側粒界拡散層8は、第1実施形態と同様に、Dy及びTbの少なくとも一方、若しくはDy及びTbの少なくとも一方の化合物が拡散された層である。
本実施形態の磁界発生装置18は、副磁極磁石4の接触面7の全域に副磁極側粒界拡散層8が形成され、主磁極磁石19がDy及びTbの少なくとも一方を含んだ希土類焼結磁石により形成されているので、主磁極磁石19の接触面20及び副磁極磁石4の接触面7近傍の保磁力が高くなり、減磁耐量の低下を防止することができる。
【0033】
そして、副磁極磁石4の副磁極側粒界拡散層8は、図4(第2実施形態)で示した塗付・加熱による粒界拡散処理や、図5(第3実施形態)で示した蒸着による粒界拡散処理により形成されるが、本実施形態の磁界発生装置18は、第1実施形態の磁界発生装置1と比較して、主磁極磁石19に粒界拡散処理を施す作業が不要となるので、磁界発生装置18の製造コストの低減化を図ることができる。
また、第4実施形態のように、副磁極磁石4の接触面7の端部の環状領域のみに副磁極側粒界拡散層12を形成すると、DyやTbの使用量が削減されるので、さらに磁界発生装置18の製造コストの低減化を図ることができる。
【符号の説明】
【0034】
1,15、10,18 磁界発生装置
2 ヨーク
2a 配置面
3,19 主磁極磁石
4、16 副磁極磁石
5、20 主磁極磁石の接触面
6,11 主磁極側粒界拡散層(粒界拡散層)
7,17 副磁極磁石の接触面
8,12 副磁極側粒界拡散層(粒界拡散層)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9