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特開2022-137972位相シフトマスクブランク、位相シフトマスク、位相シフトマスクの製造方法及び位相シフトマスクの修正方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022137972
(43)【公開日】2022-09-22
(54)【発明の名称】位相シフトマスクブランク、位相シフトマスク、位相シフトマスクの製造方法及び位相シフトマスクの修正方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/32 20120101AFI20220914BHJP
   G03F 1/58 20120101ALI20220914BHJP
   G03F 1/74 20120101ALI20220914BHJP
   G03F 1/80 20120101ALI20220914BHJP
【FI】
G03F1/32
G03F1/58
G03F1/74
G03F1/80
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021037722
(22)【出願日】2021-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】522212882
【氏名又は名称】株式会社トッパンフォトマスク
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】松井 一晃
(72)【発明者】
【氏名】黒木 恭子
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 洋介
【テーマコード(参考)】
2H195
【Fターム(参考)】
2H195BA07
2H195BB03
2H195BB14
2H195BB25
2H195BB35
2H195BC05
2H195BC11
2H195BC20
2H195BC24
2H195BD32
2H195BD36
(57)【要約】
【課題】位相シフト膜表面(位相マスク上)におけるヘイズの発生を十分に抑制することができる位相シフトマスクブランク、ヘイズ欠陥の少ない位相シフトマスク及びその位相シフトマスクの製造方法を提供するとともに、その位相シフトマスクの電子線修正エッチングによる修正方法を提供する。
【解決手段】本実施形態に係る位相シフトマスクブランク10は、波長200nm以下の露光光が適用される位相シフトマスクを作製するために用いられる位相シフトマスクブランクであって、透明基板11と、透明基板11の上に形成された位相シフト膜14と、位相シフト膜14の上に形成された遮光膜15と、を備え、位相シフト膜14は、位相層12と保護層13とを複数層交互に積層した多層位相シフト膜であり、保護層13の電子線修正時における修正エッチングレートは、位相層12よりも大きい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長200nm以下の露光光が適用される位相シフトマスクを作製するために用いられる位相シフトマスクブランクであって、
透明基板と、前記透明基板の上に形成された位相シフト膜と、前記位相シフト膜の上に形成された遮光膜と、を備え、
前記位相シフト膜は、透過する露光光に対して所定量の位相及び透過率をそれぞれ調整可能とする位相差透過率調整層と、前記位相差透過率調整層への気体透過を阻止する気体透過保護層と、を複数層交互に積層した多層位相シフト膜であり、
前記気体透過保護層の電子線修正時における修正エッチングレートは、前記位相差透過率調整層よりも大きいことを特徴とする位相シフトマスクブランク。
【請求項2】
前記位相シフト膜は、酸素含有塩素系エッチング(Cl/O系)に対して耐性を有し、且つフッ素系エッチング(F系)でエッチング可能であることを特徴とする請求項1に記載の位相シフトマスクブランク。
【請求項3】
前記位相差透過率調整層は、ケイ素を含有し、且つ遷移金属、窒素、酸素、及び炭素から選ばれる少なくとも1種を含有し、
前記遷移金属は、モリブデン、チタン、バナジウム、コバルト、ニッケル、ジルコニウム、ニオブ、及びハフニウムから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の位相シフトマスクブランク。
【請求項4】
前記位相差透過率調整層の膜厚は、各層0.5nm以上であり、
前記位相差透過率調整層の各膜厚の合計は、前記気体透過保護層の各膜厚の合計よりも厚いことを特徴とする請求項3に記載の位相シフトマスクブランク。
【請求項5】
前記気体透過保護層は、タンタル金属、タンタル化合物、タングステン金属、タングステン化合物、テルル金属、テルル化合物から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の位相シフトマスクブランク。
【請求項6】
前記気体透過保護層の膜厚は、各層0.5nm以上であり、
前記気体透過保護層の各膜厚の合計は、30nm以下であることを特徴とする請求項5に記載の位相シフトマスクブランク。
【請求項7】
前記タンタル化合物は、タンタルと、酸素、窒素、及び炭素から選ばれる少なくとも1種と、を含有することを特徴とする請求項5または請求項6に記載の位相シフトマスクブランク。
【請求項8】
前記タングステン化合物は、タングステンと、酸素、窒素、及び炭素から選ばれる少なくとも1種と、を含有することを特徴とする請求項5または請求項6に記載の位相シフトマスクブランク。
【請求項9】
前記テルル化合物は、テルルと、酸素、窒素、及び炭素から選ばれる少なくとも1種と、を含有することを特徴とする請求項5または請求項6に記載の位相シフトマスクブランク。
【請求項10】
前記位相シフト膜の最表層は、前記気体透過保護層であることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の位相シフトマスクブランク。
【請求項11】
波長200nm以下の露光光が適用される回路パターンを有する位相シフトマスクであって、
透明基板と、前記透明基板の上に形成された位相シフト膜と、前記位相シフト膜の上に形成された遮光膜と、を備え、
前記位相シフト膜は、透過する露光光に対して所定量の位相及び透過率をそれぞれ調整可能とする位相差透過率調整層と、前記位相差透過率調整層への気体透過を阻止する気体透過保護層と、を複数層交互に積層した多層位相シフト膜であり、
前記気体透過保護層の電子線修正時における修正エッチングレートは、前記位相差透過率調整層よりも大きいことを特徴とする位相シフトマスク。
【請求項12】
前記位相シフト膜は、酸素含有塩素系エッチング(Cl/O系)に対して耐性を有し、且つフッ素系エッチング(F系)でエッチング可能であることを特徴とする請求項11に記載の位相シフトマスク。
【請求項13】
前記位相差透過率調整層は、ケイ素を含有し、且つ遷移金属、窒素、酸素、及び炭素から選ばれる少なくとも1種を含有し、
前記遷移金属は、モリブデン、チタン、バナジウム、コバルト、ニッケル、ジルコニウム、ニオブ、及びハフニウムから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項11または請求項12に記載の位相シフトマスク。
【請求項14】
前記位相差透過率調整層の膜厚は、各層0.5nm以上であり、
前記位相差透過率調整層の各膜厚の合計は、前記気体透過保護層の各膜厚の合計よりも厚いことを特徴とする請求項13に記載の位相シフトマスク。
【請求項15】
前記気体透過保護層は、タンタル金属、タンタル化合物、タングステン金属、タングステン化合物、テルル金属、テルル化合物から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項11から請求項14のいずれか1項に記載の位相シフトマスク。
【請求項16】
前記気体透過保護層の膜厚は、各層0.5nm以上であり、
前記気体透過保護層の各膜厚の合計は、30nm以下であることを特徴とする請求項15に記載の位相シフトマスク。
【請求項17】
前記タンタル化合物は、タンタルと、酸素、窒素、及び炭素から選ばれる少なくとも1種と、を含有することを特徴とする請求項15または請求項16に記載の位相シフトマスク。
【請求項18】
前記タングステン化合物は、タングステンと、酸素、窒素、及び炭素から選ばれる少なくとも1種と、を含有することを特徴とする請求項15または請求項16に記載の位相シフトマスク。
【請求項19】
前記テルル化合物は、テルルと、酸素、窒素、及び炭素から選ばれる少なくとも1種と、を含有することを特徴とする請求項15または請求項16に記載の位相シフトマスク。
【請求項20】
前記位相シフト膜の最表層は、前記気体透過保護層であることを特徴とする請求項11から請求項19のいずれか1項に記載の位相シフトマスク。
【請求項21】
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の位相シフトマスクブランクを用いる位相シフトマスクの製造方法であって、
前記位相シフト膜上に遮光膜を形成する工程と、
前記遮光膜上にレジストパターンを形成する工程と、
前記レジストパターンを形成した後に、酸素含有塩素系エッチング(Cl/O系)にて前記遮光膜にパターンを形成する工程と、
前記遮光膜にパターンを形成した後に、フッ素系エッチング(F系)にて前記位相シフト膜にパターンを形成する工程と、
前記位相シフト膜にパターンを形成した後に、前記レジストパターンを除去する工程と、
前記レジストパターンを除去した後、前記位相シフト膜上から、酸素含有塩素系エッチング(Cl/O系)にて前記遮光膜を除去する工程と、を含むことを特徴とする位相シフトマスクの製造方法。
【請求項22】
請求項11から請求項20のいずれか1項に記載の位相シフトマスクの、電子線修正エッチングによる修正方法であって、
前記気体透過保護層の修正直前に、前記気体透過保護層毎に表面酸化処理を施すことを特徴とする位相シフトマスクの修正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイス等の製造において使用される位相シフトマスクブランク、位相シフトマスク、位相シフトマスクの製造方法及び位相シフトマスクの修正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体加工においては、特に大規模集積回路の高集積化により、回路パターンの微細化が必要になってきており、回路を構成する配線パターンやコンタクトホールパターンの微細化技術への要求が高まってきている。そのため、半導体デバイス等の製造で用いられる露光光源は、KrFエキシマレーザー(波長248nm)から、ArFエキシマレーザー(波長193nm)へと短波長化が進んでいる。
【0003】
また、ウエハ転写特性を向上させたマスクとして、例えば、位相シフトマスクがある。位相シフトマスクでは、透明基板を透過するArFエキシマレーザー光と、透明基板と位相シフト膜の両方を透過するArFエキシマレーザー光との位相差(以下、単に「位相差」という。)が180度、かつ透明基板を透過するArFエキシマレーザー光の光量に対し、透明基板と位相シフト膜の両方を透過するArFエキシマレーザー光の光量の比率(以下、単に「透過率」という)が6%というように、位相差と透過率の両方を調整することが可能である。
【0004】
例えば、位相差が180度の位相シフトマスクを製造する場合、位相差が177度付近になるよう位相シフト膜の膜厚を設定した後、位相シフト膜をフッ素系ガスにてドライエッチングすると同時に透明基板を3nm程度加工して、最終的に位相差を180度付近に調整する方法が知られている。
【0005】
波長200nm以下の露光光が適用される位相シフトマスクにおいては、露光することにより、マスクに「ヘイズ」と呼ばれる異物が徐々に生成・成長・顕在化して、そのマスクが使用できなくなることがある。特に位相シフト膜がシリコンと遷移金属と酸素や窒素などの軽元素とで構成された膜である場合、位相シフト膜表面に異物が発生することがある。
ヘイズを抑制するための技術としては、例えば、特許文献1、2に記載されたものある。
しかしながら、特許文献1、2に記載された技術では、上述のようなヘイズを抑制する効果が十分でない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-173621号公報
【特許文献2】特許第4579728号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上のような事情の元になされ、位相シフト膜表面(位相マスク上)におけるヘイズの発生を十分に抑制することができる位相シフトマスクブランク、ヘイズ欠陥の少ない位相シフトマスク及びその位相シフトマスクの製造方法を提供するとともに、その位相シフトマスクの電子線修正エッチングによる修正方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであって、本発明の一態様に係る位相シフトマスクブランクは、波長200nm以下の露光光が適用される位相シフトマスクを作製するために用いられる位相シフトマスクブランクであって、透明基板と、前記透明基板の上に形成された位相シフト膜と、前記位相シフト膜の上に形成された遮光膜と、を備え、前記位相シフト膜は、透過する露光光に対して所定量の位相及び透過率をそれぞれ調整可能とする位相差透過率調整層と、前記位相差透過率調整層への気体透過を阻止する気体透過保護層と、を複数層交互に積層した多層位相シフト膜であり、前記気体透過保護層の電子線修正時における修正エッチングレートは、前記位相差透過率調整層よりも大きいことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の一態様に係る位相シフトマスクは、波長200nm以下の露光光が適用される回路パターンを有する位相シフトマスクであって、透明基板と、前記透明基板の上に形成された位相シフト膜と、前記位相シフト膜の上に形成された遮光膜と、を備え、前記位相シフト膜は、透過する露光光に対して所定量の位相及び透過率をそれぞれ調整可能とする位相差透過率調整層と、前記位相差透過率調整層への気体透過を阻止する気体透過保護層と、を複数層交互に積層した多層位相シフト膜であり、前記気体透過保護層の電子線修正時における修正エッチングレートは、前記位相差透過率調整層よりも大きいことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の一態様に係る位相シフトマスクの製造方法は、上述した位相シフトマスクブランクを用いる位相シフトマスクの製造方法であって、前記位相シフト膜上に遮光膜を形成する工程と、前記遮光膜上にレジストパターンを形成する工程と、前記レジストパターンを形成した後に、酸素含有塩素系エッチング(Cl/O系)にて前記遮光膜にパターンを形成する工程と、前記遮光膜にパターンを形成した後に、フッ素系エッチング(F系)にて前記位相シフト膜にパターンを形成する工程と、前記位相シフト膜にパターンを形成した後に、前記レジストパターンを除去する工程と、前記レジストパターンを除去した後、前記位相シフト膜上から、酸素含有塩素系エッチング(Cl/O系)にて前記遮光膜を除去する工程と、を含むことを特徴とする。
また、本発明の一態様に係る位相シフトマスクの修正方法は、上述した位相シフトマスクの、電子線修正エッチングによる修正方法であって、前記気体透過保護層の修正直前に、前記気体透過保護層毎に表面酸化処理を施すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様に係る位相シフトマスクブランクを用いることで、位相シフトマスク上におけるヘイズの発生を十分に抑制することができ、且つ位相シフトマスクの電子線修正エッチングによる修正が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る位相シフトマスクブランクの構成を示す断面概略図である。
図2】本発明の実施形態に係る位相シフトマスクの構成を示す断面概略図である。
図3】単層の位相シフト膜を電子線修正エッチングした後のサイドエッチングを示す概略断面図である。
図4】本発明の実施形態に係る位相シフトマスクの位相シフト膜を電子線修正エッチングした後のサイドエッチングを示す概略断面図である。
図5】本発明の実施形態に係る位相シフトマスクの位相シフト膜を電子線修正エッチングしている最中のサイドエッチングを示す概略断面拡大図である。
図6】本発明の実施形態に係る位相シフトマスクブランクを用いた位相シフトマスクの製造工程を示す断面概略図である。
図7】本発明の実施形態に係る位相シフトマスクの位相シフト膜を電子線修正エッチングした後のサイドエッチングの変形例を示す概略断面図である。
図8】本発明の実施例に係る位相シフトマスクの修正工程前の構造を示す概略平面図(a)及び概略断面図(b)である。
図9】本発明の実施例に係る位相シフトマスクの修正工程を示す概略断面図である。
図10】本発明の実施例に係る位相シフトマスクの修正工程を示す概略断面図である。
図11】本発明の実施例に係る位相シフトマスクの修正工程後の構造を示す概略平面図(a)及び概略断面図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本願発明者らは、位相シフトマスクブランクまたは位相シフトマスクを構成する位相調整膜(後述する位相差透過率調整層)の構成材料と、水や酸素等の酸化性気体と、露光エネルギーとの3要素が全て揃わなければマスクブランクまたはマスクにおけるヘイズの発生は低減可能と考え、位相シフトマスクブランクまたは位相シフトマスクを下記構成とした。つまり、本実施形態に係る位相シフトマスクブランク、位相シフトマスク及びその製造方法は、位相調整膜上に気体保護層(所謂、気体バリア層)を設けることで、位相調整膜の構成材料に酸化性気体が接触しないようにし、その結果としてヘイズの発生を低減するという技術的思想に基づくものである。
【0014】
以下に図面を参照して、本発明を実施するための形態について説明する。なお、断面概略図は、実際の寸法比やパターン数を正確には反映しておらず、透明基板の掘り込み量や膜のダメージ量は省略してある。
本発明の位相シフトマスクブランクの好適な実施形態としては、以下に示す形態が挙げられる。
【0015】
(位相シフトマスクブランクの全体構成)
図1は、本発明の実施形態に係る位相シフトマスクブランクの構成を示す断面概略図である。図1に示す位相シフトマスクブランク10は、波長200nm以下の露光光が適用される位相シフトマスクを作製するために用いられる位相シフトマスクブランクであって、露光波長に対して透明な基板(以下、単に「基板」ともいう)11と、基板11の上に成膜された位相シフト膜14とを備えている。また、位相シフト膜14は、透過する露光光に対して所定量の位相及び透過率をそれぞれ調整可能とする位相差透過率調整層(以下、単に「位相層」ともいう)12と、位相差透過率調整層12の上に形成され、位相差透過率調整層12への気体透過を阻止する気体透過保護層(以下、単に「保護層」ともいう)13と、を複数層交互に積層した多層位相シフト膜である。また、各保護層13の電子線修正時における修正エッチングレートは、各位相層12よりも大きい。
なお、位相シフト膜14の最下層、即ち基板11に最も近い層は位相層12であることが好ましい。また、位相シフト膜14の最表層、即ち基板11から最も離れた層は保護層13であることが好ましい。
以下、本発明の実施形態に係る位相シフトマスクブランク10の構成する各層について詳しく説明する。
【0016】
(基板)
基板11に対する特別な制限はなく、基板11としては、例えば、石英ガラスやCaFあるいはアルミノシリケートガラスなどが一般的に用いられる。
【0017】
(位相シフト膜)
位相シフト膜14は、位相層12と保護層13とをこの順に複数層交互に積層した多層位相シフト膜であり、基板11上に他の膜を介して又は介さずに形成されている。
位相シフト膜14は、例えば、酸素含有塩素系エッチング(Cl/O系)に対して耐性を有し、且つフッ素系エッチング(F系)でエッチング可能な膜である。
【0018】
位相シフト膜14の透過率の値は、基板11の透過率に対して、例えば、3%以上80%以下の範囲内であり、所望のウエハパターンに応じて最適な透過率を適宜選択することが可能である。また、位相シフト膜14の位相差の値は、例えば、160度以上220度以下の範囲内であり、175度以上190度以下の範囲内であればより好ましい。つまり、位相シフト膜14は、露光光に対する透過率が3%以上80%以下の範囲内であり、位相差が160度以上220度以下の範囲内であってもよい。位相シフト膜14の露光光に対する透過率が3%未満の場合には、良好な露光性能が得られないことがある。また、位相差が160度以上220度以下の範囲内であれば、必要な露光性能を容易に維持することができる。
【0019】
<位相層>
位相層12は、基板11上あるいは保護層13上に他の膜を介して又は介さずに形成されており、透過する露光光に対して所定量の位相及び透過率をそれぞれ調整可能とする層である。ここで、「位相を調整」とは、例えば、位相を反転させることを意味する。また、「透過率」とは、露光光に対する透過率を意味する。
また、位相層12は、酸素含有塩素系(Cl/O系)のガスエッチングに耐性があり、フッ素系ガス(F系)でエッチング可能であり、EB(電子ビーム)修正法で修正できる層である。
位相層12は、例えば、ケイ素を含有し、且つ遷移金属、窒素、酸素、及び炭素から選ばれる少なくとも1種を含有した単層膜、又はこれらの複数層膜もしくは傾斜膜であり、組成と膜厚とを適宜選択することで露光波長に対する透過率と位相差とを調整させたものである。ここで、「傾斜膜」とは、位相層12を構成する成分(材料)の組成比が、位相層12全体で均一となっている膜ではなく、一定の割合で変化している膜をいう。
【0020】
位相層12は、位相層12全体の元素比率において、ケイ素を20原子%以上60原子%以下の範囲内で含有することが好ましく、遷移金属を0原子%以上20原子%以下の範囲内で含有することが好ましく、窒素を30原子%以上80原子%以下の範囲内で含有することが好ましく、酸素を0原子%以上30原子%以下の範囲内で含有することが好ましく、炭素を0原子%以上10原子%以下の範囲内で含有することが好ましい。位相層12における各元素のより好ましい含有量の範囲は、位相層12全体の元素比率において、ケイ素は30原子%以上50原子%以下の範囲内であり、遷移金属は0原子%以上10原子%以下の範囲内であり、窒素は40原子%以上70原子%以下の範囲内であり、酸素は0原子%以上20原子%以下の範囲内であり、炭素は0原子%以上5原子%以下の範囲内である。位相層12における各元素の含有量が上記数値範囲内であれば、位相層12の透過率とともに、位相差も容易に制御することができる。
なお、位相層12は、金属シリサイドの酸化物、炭化物及び窒化物の少なくとも1種を含有したものであってもよい。その場合、金属シリサイドを構成する金属は、後述する遷移金属であってもよい。
【0021】
位相層12が含有する遷移金属は、モリブデン、チタン、バナジウム、コバルト、ニッケル、ジルコニウム、ニオブ、及びハフニウムから選ばれる少なくとも1種が好ましく、モリブデンであればより好ましい。位相層12が含有する遷移金属が、モリブデン、チタン、バナジウム、コバルト、ニッケル、ジルコニウム、ニオブ、及びハフニウムから選ばれる少なくとも1種であれば、位相層12の加工が容易になり、モリブデンであればさらに位相層12のエッチング等の加工性が高くなる。
【0022】
位相層12の膜厚は、各層0.5nm以上であることが好ましく、各位相層12の膜厚の合計は、各保護層13の膜厚の合計よりも厚いことが好ましい。各位相層12の膜厚が0.5nm未満であると、位相シフトの効果を得にくい。また、位相層12の膜厚は、スパッタリング等の成膜方法における位相層12の成膜限界を考慮すると、0.5nm以上であることが好ましい。また、各位相層12の膜厚の合計が各保護層13の膜厚の合計よりも薄いと、位相シフト膜14全体に占める位相層12の割合が相対的に少なくなり、その結果として位相シフトの効果を得にくくなる。
なお、位相層12の膜厚は各層毎に異なっていてもよいし、同じであってもよい。位相層12の膜厚が各層で異なる場合には、各位相層12の膜厚の合計値の調整が容易になる。また、位相層12の膜厚が各層で同じである場合には、各位相層12の膜厚の合計値の精度が高まる。
【0023】
また、上述のように、位相シフト膜14は位相層12を複数備えているが、位相層12は各層毎にその膜種(構成材料の種類や組成比)が異なっていてもよいし、同じであってもよい。例えば、位相層12は各層毎に位相層12に含まれる遷移金属の種類が異なっていてもよいし、同じであってもよい。位相層12に含まれる遷移金属の種類が各層で異なる場合には、各層毎に特定の機能を付与することができる、即ち各層毎に機能を分離して付与することができる。また、位相層12に含まれる遷移金属の種類が各層で同じである場合には、各位相層12の成膜条件を同じになるため、各位相層12の膜質(物性)が均一になる。
【0024】
<保護層>
保護層13は、位相層12上に他の膜を介して又は介さずに形成されており、位相層12への気体透過(特に、水や酸素等の酸化性気体の透過)を阻止・抑制するための層、即ち気体バリア層である。本実施形態であれば、ヘイズ発生の要素の1つと考える気体の位相層12への侵入を阻止・抑制することができるため、長期間マスクを使用した場合(例えば、マスク上のドーズ量が100kJ/cmを超えた場合)であっても、位相シフトマスク表面におけるヘイズの発生を阻止・抑制することができる。
なお、保護層13で透過が阻止・抑制される気体(雰囲気ガス)は、酸化性気体であり、具体的には酸素含有分子であり、さらに具体的には水分子である。
【0025】
保護層13は、酸素含有塩素系(Cl/O系)のガスエッチングに耐性があり、フッ素系ガス(F系)でエッチング可能であり、EB(電子ビーム)修正法で修正できる層である。
保護層13は、タンタル金属、タンタル化合物、タングステン金属、タングステン化合物、テルル金属、及びテルル化合物から選ばれる1種以上の化合物からなる単層膜、またはこれらの化合物の混合膜、もしくは複数層膜であることが好ましいが、バリア機能を備える層であれば特に組成は限定されるものではない。なお、上述のタンタル金属、タングステン金属、及びテルル金属は、各金属の単体を意味する。
【0026】
タンタル化合物からなる保護層13は、タンタルと、酸素、窒素、及び炭素から選ばれる1種以上の元素とを含有する単層膜、またはこれらの複数層膜、もしくは傾斜膜である。
タンタル化合物からなる保護層13は、保護層13全体の元素比率において、タンタルを10原子%以上90原子%以下の範囲内で含有することが好ましく、酸素を0原子%以上90原子%以下の範囲内で含有することが好ましく、窒素を0原子%以上70原子%以下の範囲内で含有することが好ましく、炭素を0原子%以上20原子%以下の範囲内で含有することが好ましい。タンタル化合物からなる保護層13における各元素のより好ましい含有量の範囲は、保護層13全体の元素比率において、タンタルは20原子%以上80原子%以下の範囲内であり、酸素は0原子%以上80原子%以下の範囲内であり、窒素は0原子%以上60原子%以下の範囲内であり、炭素は0原子%以上10原子%以下の範囲内である。タンタル化合物からなる保護層13における各元素の含有量が上記数値範囲内であれば、保護層13の位相層12への気体透過のバリア性が高まる。
【0027】
また、タングステン化合物からなる保護層13は、タングステンと、酸素、窒素、及び炭素から選ばれる1種以上の元素とを含有する単層膜、またはこれらの複数層膜、もしくは傾斜膜である。
タングステン化合物からなる保護層13は、保護層13全体の元素比率において、タングステンを10原子%以上70原子%以下の範囲内で含有することが好ましく、酸素を30原子%以上90原子%以下の範囲内で含有することが好ましく、窒素を0原子%以上20原子%以下の範囲内で含有することが好ましく、炭素を0原子%以上20原子%以下の範囲内で含有することが好ましい。タングステン化合物からなる保護層13における各元素のより好ましい含有量の範囲は、保護層13全体の元素比率において、タングステンは20原子%以上60原子%以下の範囲内であり、酸素は50原子%以上80原子%以下の範囲内であり、窒素は0原子%以上10原子%以下の範囲内であり、炭素は0原子%以上10原子%以下の範囲内である。タングステン化合物からなる保護層13における各元素の含有量が上記数値範囲内であれば、保護層13の位相層12への気体透過のバリア性が高まる。
【0028】
また、テルル化合物からなる保護層13は、テルルと、酸素、窒素、及び炭素から選ばれる1類種以上の元素とを含有する単層膜、またはこれらの複数層膜、もしくは傾斜膜である。
テルル化合物からなる保護層13は、保護層13全体の元素比率において、テルルを20原子%以上70原子%以下の範囲内で含有することが好ましく、酸素を30原子%以上90原子%以下の範囲内で含有することが好ましく、窒素を0原子%以上20原子%以下の範囲内で含有することが好ましく、炭素を0原子%以上20原子%以下の範囲内で含有することが好ましい。テルル化合物からなる保護層13における各元素のより好ましい含有量の範囲は、保護層13全体の元素比率において、テルルは30原子%以上60原子%以下の範囲内であり、酸素は50原子%以上80原子%以下の範囲内であり、窒素は0原子%以上10原子%以下の範囲内であり、炭素は0原子%以上10原子%以下の範囲内である。テルル化合物からなる保護層13における各元素の含有量が上記数値範囲内であれば、保護層13の位相層12への気体透過のバリア性が高まる。
【0029】
以上のように、保護層13が、タンタル金属、タンタル化合物、タングステン金属、タングステン化合物、テルル金属、及びテルル化合物から選ばれる1種以上の化合物からなる単層膜、またはこれらの化合物の混合膜、もしくは複数層膜であれば、位相層12への気体透過を効果的に阻止することができる。
なお、保護層13の膜厚は、各層0.5nm以上であることが好ましく、各保護層13の膜厚の合計は、30nm以下であることが好ましい。各保護層13の膜厚が0.5nm未満であると、保護層13の膜厚が薄すぎて、気体バリア性が低下する可能性が高まる。また、保護層13の膜厚は、スパッタリング等の成膜方法における保護層13の成膜限界を考慮すると、0.5nm以上であることが好ましい。また、各保護層13の膜厚の合計が30nmを超えると、位相シフト膜14全体に占める位相層12の割合が相対的に少なくなり、その結果として位相シフトの効果を得にくくなる。
【0030】
また、保護層13の膜厚は各層毎に異なっていてもよいし、同じであってもよい。保護層13の膜厚が各層で異なる場合には、各保護層13の膜厚の合計値の調整が容易になる。また、保護層13の膜厚が各層で同じである場合には、各保護層13の膜厚の合計値の精度が高まる。
また、上述のように、位相シフト膜14は保護層13を複数備えているが、保護層13は各層毎にその膜種(構成材料の種類や組成比)が異なっていてもよいし、同じであってもよい。例えば、保護層13は各層毎に保護層13に含まれる金属元素の種類が異なっていてもよいし、同じであってもよい。保護層13に含まれる金属元素の種類が各層で異なる場合には、各層毎に特定の機能を付与することができる、即ち各層毎に機能を分離して付与することができる。また、保護層13に含まれる金属元素の種類が各層で同じである場合には、各保護層13の成膜条件を同じになるため、各保護層13の膜質(物性)が均一になる。
【0031】
(位相シフトマスクの全体構成)
以下、本発明の実施形態に係る位相シフトマスク100の構成について説明する。
図2は、本発明の実施形態に係る位相シフトマスクの構成を示す断面概略図である。図2に示す位相シフトマスク100は、波長200nm以下の露光光が適用され、回路パターンを備えた位相シフトマスク(即ち、パターニングされた位相シフトマスク)であって、露光波長に対して透明な基板11と、基板11の上に成膜された位相シフト膜14とを備えている。また、位相シフト膜14は、透過する露光光に対して所定量の位相及び透過率をそれぞれ調整可能とする位相層12と、位相層12の上に形成され、位相層12への気体透過を阻止する保護層13と、を複数層交互に積層した多層位相シフト膜である。また、各保護層13の電子線修正時における修正エッチングレートは、各位相層12よりも大きい。
なお、位相シフト膜14の最下層、即ち基板11に最も近い層は位相層12であることが好ましい。また、位相シフト膜14の最表層、即ち基板11から最も離れた層は保護層13であることが好ましい。
【0032】
位相シフトマスク100は、位相シフト膜14の一部を除去して基板11の表面を露出することで形成した位相シフト膜パターン17を備えている。
なお、本発明の実施形態に係る位相シフトマスク100を構成する各層の組成等は、上述した本発明の実施形態に係る位相シフトマスクブランク10の構成する各層の組成等と同じであるため、各層の組成等に関する詳細な説明については省略する。
【0033】
図3は、単層の位相層12のみで位相シフト膜14を作製した際の電子線修正エッチング処理後における位相シフト膜14(位相層12)の形状を示す概略断面図である。電子線修正エッチングは、例えばフッ素系ガス(キセノンとフッ素からなるガス、XeF等)をエッチングガスとして供給しつつ、被エッチング箇所に電子線を照射することにより、フッ素のエッチャントの反応性を促進して位相シフト膜14(位相層12)を構成する材料をエッチングする。しかし、位相層12を構成する材料は、上述したフッ素系ガスに対するエッチング耐性が強く、エッチングに極めて長い時間を要するため、図3に示すようなサイドエッチングBSと呼ばれるエッチング方向(位相層12の表面側から基板11側に向かう方向)とは垂直な方向(位相層12の面内方向)に向かってダメージが発生する。このサイドエッチングが大きいと、電子線修正エッチングした箇所の線幅が予定した線幅に対して大きくずれるため、修正に失敗する原因の一つとなる。
【0034】
なお、図3に示す「サイドエッチング量(サイドエッチングの幅)BW」とは、位相層12の位相シフト膜パターン17が形成された側面、即ち電子線修正エッチング箇所17bに接する側面において、位相層12の面内方向において最も突出した部分を凸部とし、位相層12の面内方向において最も後退した部分を凹部とした場合に、位相層12の面内方向における凸部から凹部までの距離をいう。図3では、上述の凸部は位相層12の基板11と接する部分に該当し、上述の凹部は位相層12の表面部分に該当する。本発明の実施形態に係るサイドエッチング量BWは、5nm以下であることが好ましい。サイドエッチング量BWが5nm以下であれば、転写性能の悪化を低減することができる。
【0035】
本実施形態では、図4に示すように、位相層12を構成する材料と比べて電子線修正のエッチングレートが相対的に速い保護層13と、保護層13を構成する材料と比べて電子線修正のエッチングレートが相対的に遅い位相層12とが交互に積層された位相シフト膜14を用いることでサイドエッチングBSを抑制し、電子線修正エッチングの成功率を向上することが可能となる。
【0036】
以下、詳しいメカニズムを、位相シフト膜14の一部を拡大した図5を用いて説明する。
図5は、位相シフト膜14の内部に位置する保護層13を電子線修正エッチングしている最中を示す図であり、BHは位相層12の側面に形成された保護層(エッチング耐性膜)である。本実施形態の位相シフト膜14を電子線修正エッチングする際には、エッチングガスを保護層13と位相層12とで切り替える多段エッチングプロセスを用いることが好ましいが、エッチングガスを保護層13と位相層12とで切り替えないエッチングプロセスであってもよい。位相層12と保護層13とを1種類のエッチングガスでエッチングする際は前述の通りフッ素系ガス(例えば、XeF)を用いてエッチングを行うことが好ましい。位相層12に対しては、上述したフッ素系ガス(例えば、XeF)はエッチングガスとしての機能は弱く、デポジッション(堆積)ガスとして働くため、位相層12をエッチングすることは極めて低く、位相層12の側面に保護層BHを形成する。そのため、保護層13と位相層12とが積層した多層位相シフト膜である位相シフト膜14を用いることで、図4に示すように、サイドエッチングBSの発生を抑えた電子線修正エッチングが可能となる。
【0037】
なお、本実施形態では、保護層13のみを電子線修正する際の修正エッチングレートは、位相層12のみを電子線修正する際の修正エッチングレートに対して、1倍以上10倍以下の範囲内であればよく、4倍以上8倍以下の範囲内であれば好ましく、5倍以上7倍以下の範囲内であればさらに好ましい。保護層13のみを電子線修正する際の修正エッチングレートが上記数値範囲内であれば、電子線修正に要する時間を従来技術と比べて効果的に短縮することができる。
また、本実施形態では、位相層12のみを電子線修正する際の修正エッチングレートは、例えば、2.5nm/min以上であれば好ましく、3.0nm/min以上であればより好ましく、3.5nm/min以上であればさらに好ましい。位相層12のみを電子線修正する際の修正エッチングレートが上記数値範囲内であれば、電子線修正に要する時間を従来技術と比べて効果的に短縮することができる。
【0038】
保護層BHは、例えば、タンタル金属、タンタル化合物、タングステン金属、タングステン化合物、テルル金属、及びテルル化合物から選ばれる1種以上の化合物を含んだ酸化膜、窒化膜、酸窒化膜、及び炭化膜の少なくとも一種で形成された層である。つまり、本実施形態では、位相層12の組成とは異なる組成を有し、位相層12の位相シフト膜パターン17が形成された側面の少なくとも一部を覆って位相層12の側面を保護する保護層BHをさらに有していてもよい。
【0039】
なお、本実施形態では、電子線修正エッチングする際、保護層13の表面酸化処理を、保護層13の各層毎に、各保護層13の電子線修正エッチングの直前に実施してもよい。つまり、本実施形態では、電子線修正エッチングする際、まず保護層13の表面酸化処理を実施し、その表面酸化処理が実施された保護層13を電子線修正エッチングし、その後、電子線修正エッチングした保護層13の下層に位置する位相層12を電子線修正エッチングし、その後、電子線修正エッチングした位相層12の下層に位置する保護層13を表面酸化処理する工程を繰り返してもよい。
【0040】
(位相シフトマスクの製造方法)
本実施形態に係る位相シフトマスクブランク10を用いる位相シフトマスク100の製造方法は、位相シフト膜14上に遮光膜15を形成する工程と、位相シフト膜14上に形成された遮光膜15上にレジストパターン16を形成する工程と、レジストパターン16を形成した後に、酸素含有塩素系エッチング(Cl/O系)にて遮光膜15にパターンを形成する工程と、遮光膜15にパターンを形成した後に、フッ素系エッチング(F系)にて位相シフト膜14にパターンを形成する工程と、位相シフト膜14にパターンを形成した後に、レジストパターン16を除去する工程と、レジストパターン16を除去した後、位相シフト膜14上から、酸素含有塩素系エッチング(Cl/O系)にて遮光膜15を除去する工程と、を含んでいる。
ここで、本発明の実施形態に係る遮光膜15について説明する。
【0041】
<遮光膜>
遮光膜15は、上述した本発明の実施形態に係る位相シフトマスクブランク10(保護層13)の上に形成される層である。
遮光膜15は、例えば、クロム単体、又はクロム化合物からなる単層膜、またはこれらの複数層膜、もしくは傾斜膜である。より詳しくは、クロム化合物からなる遮光膜15は、クロムと、窒素及び酸素から選ばれる1種以上の元素とを含有する単層膜、またはこれらの複数層膜、もしくは傾斜膜である。
【0042】
クロム化合物からなる遮光膜15は、遮光膜15全体の元素比率において、クロムを30原子%以上100原子%以下の範囲内で含有することが好ましく、酸素を0原子%以上50原子%以下の範囲内で含有することが好ましく、窒素を0原子%以上50原子%以下の範囲内で含有することが好ましく、炭素を0原子%以上10原子%以下の範囲内で含有することが好ましい。クロム化合物からなる遮光膜15における各元素のより好ましい含有量の範囲は、遮光膜15全体の元素比率において、クロムは50原子%以上100原子%以下の範囲内であり、酸素は0原子%以上40原子%以下の範囲内であり、窒素は0原子%以上40原子%以下の範囲内であり、炭素は0原子%以上5原子%以下の範囲内である。クロム化合物からなる遮光膜15における各元素の含有量が上記数値範囲内であれば、遮光膜15の遮光性が高まる。
【0043】
遮光膜15の膜厚は、例えば、35nm以上80nm以下の範囲内、特に40nm以上75nm以下の範囲内が好ましい。
遮光膜15は、公知の方法により成膜することができる。最も容易に均質性に優れた膜を得る方法としては、スパッタ成膜法が好ましく挙げられるが、本実施形態ではスパッタ成膜法に限定する必要はない。
【0044】
ターゲットとスパッタガスは膜組成によって選択される。例えば、クロムを含有する膜の成膜方法としては、クロムを含有するターゲットを用い、アルゴンガス等の不活性ガスのみ、酸素等の反応性ガスのみ、又は不活性ガスと反応性ガスとの混合ガス中で反応性スパッタリングを行う方法を挙げることができる。スパッタガスの流量は膜特性に合わせて調整すればよく、成膜中一定としてもよいし、酸素量や窒素量を膜の厚み方向に変化させたいときは、目的とする組成に応じて変化させてもよい。また、ターゲットに対する印加電力、ターゲットと基板との距離、成膜チャンバー内の圧力を調整してもよい。
【0045】
なお、本実施形態に係る遮光膜15を、上述した複数層膜とする場合には、各層毎に膜厚が異なっていてもよいし、同じであってもよい。例えば、遮光膜15を、位相シフトマスクブランク10(保護層13)側に形成された下層遮光膜(図示せず)と、下層遮光膜上に形成された上層遮光膜(図示せず)との2層構造とした場合、下層遮光膜の膜厚を、上層遮光膜の膜厚よりも厚くしてもよいし、薄くしてもよい。
また、本実施形態に係る遮光膜15を複数層膜とした場合には、各層毎にその膜種(構成材料の種類や組成比)が異なっていてもよいし、同じであってもよい。
【0046】
以下、本発明の実施形態に係る位相シフトマスク100の製造方法が有する各工程について詳しく説明する。
図6は、図1に示す位相シフトマスクブランク10を用いた位相シフトマスク100の製造工程を示す断面概略図である。図6(a)は、位相シフト膜14上に遮光膜15を形成する工程を示す。図6(b)は、遮光膜15上にレジスト膜を塗布し、描画を施し、その後に現像処理を行い、レジストパターン16を形成する工程を示す。図6(c)は、レジストパターン16に沿って酸素含有塩素系ドライエッチング(Cl/O系)により遮光膜15をパターニングする工程を示す。図6(d)は、遮光膜15のパターンに沿ってフッ素系エッチング(F系)により位相シフト膜14をパターニングし、位相シフト膜パターン17を形成する工程を示す。図6(e)は、レジストパターン16を剥離除去した後、洗浄する工程を示す。図6(f)は、位相シフト膜パターン17が形成された位相シフト膜14上から、酸素含有塩素系エッチング(Cl/O系)にて遮光膜15を除去する工程を示す。こうして、本実施形態に係る位相シフトマスク100を製造する。
【0047】
本実施形態に係る位相シフトマスク100は、波長200nm以下の露光光が適用される位相シフトマスクであって、基板11と、基板11上に他の膜を介して又は介さずに形成された位相シフト膜14と、を備えている。また、位相シフト膜14は、透過する露光光に対して所定量の位相及び透過率をそれぞれ調整可能とする位相層12と、位相層12の上に形成され、位相層12への気体透過を阻止する保護層13と、を複数層交互に積層した多層位相シフト膜である。また、各保護層13の電子線修正時における修正エッチングレートは、各位相層12よりも大きい。また、位相シフトマスク100は、基板11の一部が露出するように位相シフト膜14の一部を除去して形成した位相シフト膜パターン17を備えている。
【0048】
図6(b)の工程において、レジスト膜の材料としては、ポジ型レジストでもネガ型レジストでも用いることができるが、高精度パターンの形成を可能とする電子ビーム描画用の化学増幅型レジストを用いることが好ましい。レジスト膜の膜厚は、例えば50nm以上250nm以下の範囲内である。特に、微細なパターン形成が求められる位相シフトマスクを作製する場合、パターン倒れを防止する上で、レジストパターン16のアスペクト比が大きくならないようにレジスト膜を薄膜化することが必要であり、200nm以下の膜厚が好ましい。一方、レジスト膜の膜厚の下限は、用いるレジスト材料のエッチング耐性などの条件を総合的に考慮して決定され、60nm以上が好ましい。レジスト膜として電子ビーム描画用の化学増幅型のものを使用する場合、描画の際の電子ビームのエネルギー密度は35μC/cmから100μC/cmの範囲内であり、この描画の後に加熱処理及び現像処理を施してレジストパターン16を得る。
【0049】
また、図6(e)の工程において、レジストパターン16の剥離除去は、剥離液によるウェット剥離であってもよく、また、ドライエッチングによるドライ剥離であってもよい。
また、図6(c)の工程において、クロム単体、又はクロム化合物からなる遮光膜15をパターニングする酸素含有塩素系ドライエッチング(Cl/O系)の条件は、クロム化合物膜の除去に用いられてきた公知のものであってもよく、塩素ガスと酸素ガスとに加えて、必要に応じて窒素ガスやヘリウムガスなどの不活性ガスを混合してもよい。遮光膜15の下層に位置する位相シフト膜14は、酸素含有塩素系ドライエッチング(Cl/O系)に対して耐性を有しているため、本工程では除去もしくはパターニングされずに残る。
【0050】
また、図6(d)の工程において、位相シフト膜14をパターニングするフッ素系ドライエッチング(F系)の条件は、ケイ素系化合物膜、タンタル化合物膜、あるいはモリブデン化合物膜等をドライエッチングする際に用いられてきた公知のものであってもよく、フッ素系ガスとしては、CFやCやSFが一般的であり、必要に応じて酸素などの活性ガスや窒素ガスやヘリウムガスなどの不活性ガスを混合してもよい。図6(d)の場合は、位相シフト膜14の上層に位置する遮光膜15又はレジストパターン16は、フッ素系ドライエッチング(F系)に対して耐性を有しているため、本工程では除去もしくはパターニングされずに残る。図6(d)では、同時に基板11を1nmから3nm程度掘り込み、位相シフト膜14の抜け不良を防止すると共に、位相差の微調整を行うことが一般的である。
【0051】
また、図6(f)の工程において、遮光膜15を除去する酸素含有塩素系ドライエッチング(Cl/O系)の条件は、クロム化合物膜の除去に用いられてきた公知のものであってもよく、塩素ガスと酸素ガスとに加えて、必要に応じて窒素ガスやヘリウムガスなどの不活性ガスを混合してもよい。遮光膜15の下層に位置する位相シフト膜14及び基板11は、いずれも酸素含有塩素系ドライエッチング(Cl/O系)に対して耐性を有しているため、本工程では除去もしくはパターニングされずに残る。
【0052】
(変形例)
本実施形態では、サイドエッチングBSされた位相層12の面、即ちサイドエッチング面の形状について、位相層12の表面側から基板11側に向かって一定の割合で傾斜した形態を図3図5を用いて説明したが、本発明はこれに限定されたものではない。
図7(a)~(c)に示すように、例えば、サイドエッチング面の形状は、湾曲した形態であってもよい。また、図7(a)及び(b)に示すように、例えば、サイドエッチング量(サイドエッチングBSの幅)BWは、位相層12の上面側で最も大きくてもよいし、図7(c)に示すように、位相層12の中央部で最も大きくてもよい。なお、図7(a)~(c)では、保護層BHの記載は省略されている。
【0053】
[実施例]
以下、実施例により、本発明の実施形態を更に具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0054】
(実施例1)
石英基板の上に2つのターゲットを用いたDCスパッタ装置を用いて、ケイ素とモリブデンと酸素と窒素とからなる位相層を14nmの厚さで成膜した。ターゲットはモリブデンとケイ素とを用い、スパッタガスはアルゴンと酸素と窒素とを用いた。この位相層の組成をESCAで分析したところ、Si:Mo:O:N=42:7:5:46(原子%比)であった。
この位相層の上にDCスパッタ装置を用いて、タンタルと酸素とからなる保護層を2nmの厚さで成膜した。ターゲットはタンタルを用い、スパッタガスはアルゴンと酸素を用いた。この保護層の組成をESCAで分析したところ、Ta:O=35:65(原子%比)であった。
【0055】
なお、こうして形成した位相層と保護層とから構成される1対の積層膜を5層、即ち膜厚が14nmの位相層と、膜厚が2nmの保護層とを交互に各5層積層し、位相層の合計膜厚が70nmであり、保護層の合計膜厚が10nmであり、位相層及び保護層の合計総厚(膜厚)が80nmである多層積層膜を位相シフト膜(多層位相シフト膜)とした。また、この位相シフト膜は、露光光の透過率が5%であり、位相差が177度であった。
次に、この位相シフト膜の最表層(最上層)に位置する保護層の上にDCスパッタ装置を用いて、クロムと酸素と窒素とからなる下層遮光膜を30nmの厚さで成膜した。ターゲットはクロムを用い、スパッタガスはアルゴンと酸素と窒素とを用いた。この下層遮光膜の組成をESCAで分析したところ、Cr:O:N=50:30:20(原子%比)であった。
次に、この下層遮光膜の上にDCスパッタ装置を用いて、クロムと酸素と窒素とからなる上層遮光膜を20nmの厚さで成膜した。ターゲットはクロムを用い、スパッタガスはアルゴンと酸素と窒素とを用いた。この上層遮光膜の組成をESCAで分析したところ、Cr:O:N=45:45:10(原子%比)であった。
こうして形成した実施例1に係る位相シフトマスクブランクのOD(Optical Density)値は、3であった。
【0056】
次に、この上層遮光膜上にネガ型化学増幅型電子線レジストを膜厚160nmでスピンコートし、パターンをドーズ量35μC/cmで電子ビーム描画し、110℃で10分間熱処理し、パドル現像で90秒間現像を行い、レジストパターンを形成した。
次に、ドライエッチング装置を用いて、上層遮光膜及び下層遮光膜の各遮光膜をパターニングした。エッチングガスは塩素と酸素とヘリウムとを用い、ガス圧力は5mTorr、ICP電力は400W、バイアスパワーは40Wに設定した。オーバーエッチングは100%行った。
次に、ドライエッチング装置を用いて、保護層と位相層とを5層交互に積層して構成された位相シフト膜をパターニングした。エッチングガスはCFと酸素とを用い、ガス圧力は5mTorr、ICP電力は400W、バイアスパワーは40Wに設定した。ドライエッチングは、石英基板を平均3nm掘り込んだ時点で停止した。
【0057】
次に、レジストパターンを硫酸加水洗浄によって剥膜洗浄した。
次に、ドライエッチング装置を用いて、各遮光膜を除去した。エッチングガスは塩素と酸素とヘリウムとを用い、ガス圧力は10mTorr、ICP電力は500W、バイアスパワーは10Wに設定した。オーバーエッチングは200%行った。この際、遮光膜(下層遮光膜)の下層に位置する位相シフト膜及び石英基板にはダメージは発生しなかった。
こうして、実施例1に係る位相シフトマスクを得た。
次に、この位相シフトマスクに対し、加速露光によりヘイズが発生したドーズ量を測定したところ、110kJ/cmであった。
【0058】
上記「加速露光によりヘイズが発生したドーズ量」は、その値が大きい程、ヘイズが発生しにくいことを意味する。ドーズ量が70kJ/cm以上(下記表で「△」と評価)であれば、位相シフトマスクを使用する上で何ら問題なく、ドーズ量が80kJ/cm以上(下記表で「○」と評価)であれば、位相シフトマスクを使用する上で優れており、ドーズ量が100kJ/cm以上(下記表で「◎」と評価)であれば、極めてヘイズが発生しにくい位相シフトマスクといえる。なお、ドーズ量が70kJ/cm未満(下記表で「×」と評価)であると、位相シフトマスクを使用する上でヘイズの発生を無視することができないといえる。
上記測定結果から、実施例1の位相シフトマスクであれば、ドーズ量が110kJ/cmであるため、ヘイズの発生を低減可能であることが確認された。
【0059】
次に、この位相シフトマスクに対し、電子線修正を行った。以下、その方法について説明する。
(修正方法)
次に、位相シフトマスク100の電子線修正の方法について図8図11を用いて説明する。
図8に位相シフトマスク100における位相シフト膜14の一部を拡大した図を示す。より詳しくは、図8(a)は、本実施例に係る位相シフトマスク100の修正工程前の構造を示す概略平面図であり、図8(b)は、本実施例に係る位相シフトマスク100の修正工程前の構造を示す概略断面図である。
以下、レジストパターン16を用いたドライエッチング処理により、形成した位相シフト膜パターン17(17a)に対して電子線修正エッチングを行う際の具体的な手法について説明する。なお、図8(a)において、「L」は位相シフト膜14が形成された領域を示し、「S」は透明基板11が露出した領域を示す。
【0060】
まず、図9に示すように、最表層である保護層13に対して電子線修正機(MeRiT MG45:CarlZeiss社製)を用いて、フッ素系ガス、例えばフッ素とキセノンとからなるガス雰囲気(XeF)にて電子線を照射し、電子線修正エッチングを行った。この時のフッ素系ガス流量は、温度にて制御されるコールドトラップ技術を用いた。本実施例では、フッ素系ガスの温度を0℃(以降、制御温度とする)とした。また、EB電流は50pA、EB加速電圧は1kVに設定した。
【0061】
続いて、図10に示すように、最表層から2層目にあたる位相層12に対して、同装置を用いて制御温度を0℃とし、最上層の保護層13の電子線修正エッチングと同様にフッ素系ガス雰囲気にて電子線を照射し電子線修正エッチングを行った。上記工程を繰り返して、図11に示すように、位相シフト膜14全てを電子線修正エッチングした位相シフトマスク100を得た。その際のサイドエッチングBSの量(サイドエッチング量BW)は、SEM(LWM9045:ADVANTEST社製)にて線幅を計測し、1nm未満であることを確認した。また、電子線修正エッチングの際のQzエッチング選択比は、1.7であることを確認した。ここで、「Qzエッチング選択比」とは、保護層及び位相層の修正エッチングレート(位相シフト膜14全体に対する修正エッチングレート)と、基板である石英(Qz)の修正エッチングレートとの比を示したものである。
また、実施例1では、保護層13と位相層14の選択比は5.4であった。
【0062】
なお、参考として、保護層及び位相層の各修正エッチングレートと、保護層の位相層に対するエッチングレート比(保護層の修正エッチングレート/位相層の修正エッチングレート)とを各表に示した。上述した保護層の位相層に対するエッチングレート比が1以上であれば、保護層の電子線修正時における修正エッチングレートは、位相層の電子線修正時における修正エッチングレートよりも大きいことを意味する。
【0063】
上記「サイドエッチングBSの量(サイドエッチング量BW)」は、その値が小さい程、転写性能が高いことを意味する。サイドエッチング量BWが5nm以下(下記表で「○」と評価)であれば、位相シフトマスクの転写性能は十分であり、サイドエッチング量BWが1nm以下(下記表で「◎」と評価)であれば、極めて転写性能が高い位相シフトマスクといえる。なお、サイドエッチング量BWが5nm超(下記表で「△」と評価)であると、位相シフトマスクを使用する上で十分な転写性能は得にくいといえる。
上記測定結果から、実施例1の位相シフトマスクであれば、サイドエッチング量BWが1nmであるため、優れた転写性能を備えていることが確認された。
【0064】
上記「Qzエッチング選択比」は、その値が大きい程、位相シフト膜の電子線修正エッチングが容易であることを意味する。Qzエッチング選択比が1.2以上(下記表で「○」と評価)であれば、位相シフト膜14の電子線修正は容易であり、Qzエッチング選択比が1.5以上(下記表で「◎」と評価)であれば、電子線修正が極めて容易な位相シフトマスク(位相シフト膜)といえる。なお、Qzエッチング選択比が1.2未満(下記表で「△」と評価)であれば、電子線修正が困難な位相シフトマスク(位相シフト膜)といえる。
上記測定結果から、実施例1の位相シフトマスクであれば、Qzエッチング選択比が1.7であるため、位相シフトマスク(位相シフト膜)の電子線修正は極めて容易であることが確認された。
【0065】
(実施例2)
石英基板の上に2つのターゲットを用いたDCスパッタ装置を用いて、ケイ素とモリブデンと酸素と窒素とからなる位相層を15nmの厚さで成膜した。ターゲットはモリブデンとケイ素とを用い、スパッタガスはアルゴンと酸素と窒素とを用いた。この位相層の組成をESCAで分析したところ、Si:Mo:O:N=42:7:5:46(原子%比)であった。
この位相層の上にDCスパッタ装置を用いて、タンタルと窒素とからなる保護層を2nmの厚さで成膜した。ターゲットはタンタルを用い、スパッタガスはアルゴンと窒素を用いた。この保護層の組成をESCAで分析したところ、Ta:N=80:20(原子%比)であった。
【0066】
なお、こうして形成した位相層と保護層とから構成される1対の積層膜を5層、即ち膜厚が15nmの位相層と、膜厚が2nmの保護層とを交互に各5層積層し、位相層の合計膜厚が75nmであり、保護層の合計膜厚が10nmであり、位相層及び保護層の合計総厚(膜厚)が85nmである多層積層膜を位相シフト膜(多層位相シフト膜)とした。また、この位相シフト膜は、露光光の透過率が5%であり、位相差が177度であった。
次に、この位相シフト膜の最表層(最上層)に位置する保護層の上にDCスパッタ装置を用いて、クロムと酸素と窒素とからなる下層遮光膜を30nmの厚さで成膜した。ターゲットはクロムを用い、スパッタガスはアルゴンと酸素と窒素とを用いた。この下層遮光膜の組成をESCAで分析したところ、Cr:O:N=50:30:20(原子%比)であった。
【0067】
次に、この下層遮光膜の上にDCスパッタ装置を用いて、クロムと酸素と窒素とからなる上層遮光膜を20nmの厚さで成膜した。ターゲットはクロムを用い、スパッタガスはアルゴンと酸素と窒素とを用いた。この上層遮光膜の組成をESCAで分析したところ、Cr:O:N=45:45:10(原子%比)であった。
こうして形成した実施例2に係る位相シフトマスクブランクのOD(Optical Density)値は、3であった。
次に、この上層遮光膜上にネガ型化学増幅型電子線レジストを膜厚160nmでスピンコートし、パターンをドーズ量35μC/cmで電子ビーム描画し、110℃で10分間熱処理し、パドル現像で90秒間現像を行い、レジストパターンを形成した。
【0068】
次に、ドライエッチング装置を用いて、上層遮光膜及び下層遮光膜の各遮光膜をパターニングした。エッチングガスは塩素と酸素とヘリウムとを用い、ガス圧力は5mTorr、ICP電力は400W、バイアスパワーは40Wに設定した。オーバーエッチングは100%行った。
次に、ドライエッチング装置を用いて、保護層と位相層とを5層交互に積層して構成された位相シフト膜をパターニングした。エッチングガスはCFと酸素とを用い、ガス圧力は5mTorr、ICP電力は400W、バイアスパワーは40Wに設定した。ドライエッチングは、石英基板を平均3nm掘り込んだ時点で停止した。
【0069】
次に、レジストパターンを硫酸加水洗浄によって剥膜洗浄した。
次に、ドライエッチング装置を用いて、各遮光膜を除去した。エッチングガスは塩素と酸素とヘリウムとを用い、ガス圧力は10mTorr、ICP電力は500W、バイアスパワーは10Wに設定した。オーバーエッチングは200%行った。この際、遮光膜(下層遮光膜)の下層に位置する位相シフト膜及び石英基板にはダメージは発生しなかった。
こうして、実施例2に係る位相シフトマスクを得た。
次に、この位相シフトマスクに対し、加速露光によりヘイズが発生したドーズ量を測定したところ、90kJ/cmであった。
以上の結果から、実施例2の位相シフトマスクであれば、ドーズ量が90kJ/cmであるため、ヘイズの発生を低減可能であることが確認された。
【0070】
次に、この位相シフトマスクに対し、電子線修正を行い、そのサイドエッチング量BWを測定したところ、2nmであった。
以上の結果から、実施例2の位相シフトマスクであれば、サイドエッチング量BWが2nmであるため、十分な転写性能を備えていることが確認された。
また、この位相シフトマスクに対し、電子線修正におけるQzエッチング選択比を測定したところ、1.9であった。
以上の結果から、実施例2の位相シフトマスクであれば、Qzエッチング選択比が1.9であるため、位相シフトマスク(位相シフト膜)の電子線修正は極めて容易であることが確認された。
なお、実施例2では、保護層13と位相層14の選択比は5.7であった。
【0071】
(実施例3)
石英基板の上に2つのターゲットを用いたDCスパッタ装置を用いて、ケイ素とモリブデンと酸素と窒素とからなる位相層を16nmの厚さで成膜した。ターゲットはモリブデンとケイ素とを用い、スパッタガスはアルゴンと酸素と窒素とを用いた。この位相層の組成をESCAで分析したところ、Si:Mo:O:N=42:7:5:46(原子%比)であった。
この位相層の上にDCスパッタ装置を用いて、タングステンと酸素とからなる保護層を2nmの厚さで成膜した。ターゲットはタングステンを用い、スパッタガスはアルゴンと酸素を用いた。この保護層の組成をESCAで分析したところ、W:O=25:75(原子%比)であった。
【0072】
なお、こうして形成した位相層と保護層とから構成される1対の積層膜を5層、即ち膜厚が16nmの位相層と、膜厚が2nmの保護層とを交互に各5層積層し、位相層の合計膜厚が80nmであり、保護層の合計膜厚が10nmであり、位相層及び保護層の合計総厚(膜厚)が90nmである多層積層膜を位相シフト膜(多層位相シフト膜)とした。また、この位相シフト膜は、露光光の透過率が5%であり、位相差が177度であった。
次に、この位相シフト膜の最表層(最上層)に位置する保護層の上にDCスパッタ装置を用いて、クロムと酸素と窒素とからなる下層遮光膜を30nmの厚さで成膜した。ターゲットはクロムを用い、スパッタガスはアルゴンと酸素と窒素とを用いた。この下層遮光膜の組成をESCAで分析したところ、Cr:O:N=50:30:20(原子%比)であった。
【0073】
次に、この下層遮光膜の上にDCスパッタ装置を用いて、クロムと酸素と窒素とからなる上層遮光膜を20nmの厚さで成膜した。ターゲットはクロムを用い、スパッタガスはアルゴンと酸素と窒素とを用いた。この上層遮光膜の組成をESCAで分析したところ、Cr:O:N=45:45:10(原子%比)であった。
こうして形成した実施例3に係る位相シフトマスクブランクのOD(Optical Density)値は、3であった。
次に、この上層遮光膜上にネガ型化学増幅型電子線レジストを膜厚160nmでスピンコートし、パターンをドーズ量35μC/cmで電子ビーム描画し、110℃で10分間熱処理し、パドル現像で90秒間現像を行い、レジストパターンを形成した。
【0074】
次に、ドライエッチング装置を用いて、上層遮光膜及び下層遮光膜の各遮光膜をパターニングした。エッチングガスは塩素と酸素とヘリウムとを用い、ガス圧力は5mTorr、ICP電力は400W、バイアスパワーは40Wに設定した。オーバーエッチングは100%行った。
次に、ドライエッチング装置を用いて、保護層と位相層とを5層交互に積層して構成された位相シフト膜をパターニングした。エッチングガスはCFと酸素とを用い、ガス圧力は5mTorr、ICP電力は400W、バイアスパワーは40Wに設定した。ドライエッチングは、石英基板を平均3nm掘り込んだ時点で停止した。
【0075】
次に、レジストパターンを硫酸加水洗浄によって剥膜洗浄した。
次に、ドライエッチング装置を用いて、各遮光膜を除去した。エッチングガスは塩素と酸素とヘリウムとを用い、ガス圧力は10mTorr、ICP電力は500W、バイアスパワーは10Wに設定した。オーバーエッチングは200%行った。この際、遮光膜(下層遮光膜)の下層に位置する位相シフト膜及び石英基板にはダメージは発生しなかった。
こうして、実施例3に係る位相シフトマスクを得た。
次に、この位相シフトマスクに対し、加速露光によりヘイズが発生したドーズ量を測定したところ、75kJ/cmであった。
以上の結果から、実施例3の位相シフトマスクであれば、ドーズ量が75kJ/cmであるため、ヘイズの発生を低減可能であることが確認された。
【0076】
次に、この位相シフトマスクに対し、電子線修正を行い、そのサイドエッチング量BWを測定したところ、3nmであった。
以上の結果から、実施例3の位相シフトマスクであれば、サイドエッチング量BWが3nmであるため、十分な転写性能を備えていることが確認された。
また、この位相シフトマスクに対し、電子線修正におけるQzエッチング選択比を測定したところ、1.4であった。
以上の結果から、実施例3の位相シフトマスクであれば、Qzエッチング選択比が1.4であるため、位相シフトマスク(位相シフト膜)の電子線修正は極めて容易であることが確認された。
なお、実施例3では、保護層13と位相層14の選択比は4.0であった。
【0077】
(実施例4)
石英基板の上に2つのターゲットを用いたDCスパッタ装置を用いて、ケイ素とモリブデンと酸素と窒素とからなる位相層を15nmの厚さで成膜した。ターゲットはモリブデンとケイ素とを用い、スパッタガスはアルゴンと酸素と窒素とを用いた。この位相層の組成をESCAで分析したところ、Si:Mo:O:N=42:7:5:46(原子%比)であった。
この位相層の上にDCスパッタ装置を用いて、テルルと酸素とからなる保護層を2nmの厚さで成膜した。ターゲットはテルルを用い、スパッタガスはアルゴンと酸素を用いた。この保護層の組成をESCAで分析したところ、Te:O=35:65(原子%比)であった。
【0078】
なお、こうして形成した位相層と保護層とから構成される1対の積層膜を5層、即ち膜厚が15nmの位相層と、膜厚が2nmの保護層とを交互に各5層積層し、位相層の合計膜厚が75nmであり、保護層の合計膜厚が10nmであり、位相層及び保護層の合計総厚(膜厚)が85nmである多層積層膜を位相シフト膜(多層位相シフト膜)とした。また、この位相シフト膜は、露光光の透過率が5%であり、位相差が177度であった。
次に、この位相シフト膜の最表層(最上層)に位置する保護層の上にDCスパッタ装置を用いて、クロムと酸素と窒素とからなる下層遮光膜を30nmの厚さで成膜した。ターゲットはクロムを用い、スパッタガスはアルゴンと酸素と窒素とを用いた。この下層遮光膜の組成をESCAで分析したところ、Cr:O:N=50:30:20(原子%比)であった。
【0079】
次に、この下層遮光膜の上にDCスパッタ装置を用いて、クロムと酸素と窒素とからなる上層遮光膜を20nmの厚さで成膜した。ターゲットはクロムを用い、スパッタガスはアルゴンと酸素と窒素とを用いた。この上層遮光膜の組成をESCAで分析したところ、Cr:O:N=45:45:10(原子%比)であった。
こうして形成した実施例4に係る位相シフトマスクブランクのOD(Optical Density)値は、3であった。
次に、この上層遮光膜上にネガ型化学増幅型電子線レジストを膜厚160nmでスピンコートし、パターンをドーズ量35μC/cmで電子ビーム描画し、110℃で10分間熱処理し、パドル現像で90秒間現像を行い、レジストパターンを形成した。
【0080】
次に、ドライエッチング装置を用いて、上層遮光膜及び下層遮光膜の各遮光膜をパターニングした。エッチングガスは塩素と酸素とヘリウムとを用い、ガス圧力は5mTorr、ICP電力は400W、バイアスパワーは40Wに設定した。オーバーエッチングは100%行った。
次に、ドライエッチング装置を用いて、保護層と位相層とを5層交互に積層して構成された位相シフト膜をパターニングした。エッチングガスはCFと酸素とを用い、ガス圧力は5mTorr、ICP電力は400W、バイアスパワーは40Wに設定した。ドライエッチングは、石英基板を平均3nm掘り込んだ時点で停止した。
【0081】
次に、レジストパターンを硫酸加水洗浄によって剥膜洗浄した。
次に、ドライエッチング装置を用いて、各遮光膜を除去した。エッチングガスは塩素と酸素とヘリウムとを用い、ガス圧力は10mTorr、ICP電力は500W、バイアスパワーは10Wに設定した。オーバーエッチングは200%行った。この際、遮光膜(下層遮光膜)の下層に位置する位相シフト膜及び石英基板にはダメージは発生しなかった。
こうして、実施例4に係る位相シフトマスクを得た。
次に、この位相シフトマスクに対し、加速露光によりヘイズが発生したドーズ量を測定したところ、71kJ/cmであった。
以上の結果から、実施例4の位相シフトマスクであれば、ドーズ量が71kJ/cmであるため、ヘイズの発生を低減可能であることが確認された。
【0082】
次に、この位相シフトマスクに対し、電子線修正を行い、そのサイドエッチング量BWを測定したところ、2nmであった。
以上の結果から、実施例4の位相シフトマスクであれば、サイドエッチング量BWが2nmであるため、十分な転写性能を備えていることが確認された。
また、この位相シフトマスクに対し、電子線修正におけるQzエッチング選択比を測定したところ、1.3であった。
以上の結果から、実施例4の位相シフトマスクであれば、Qzエッチング選択比が1.3であるため、位相シフトマスク(位相シフト膜)の電子線修正は極めて容易であることが確認された。
なお、実施例4では、保護層13と位相層14の選択比は2.6であった。
【0083】
(比較例1)
石英基板の上に2つのターゲットを用いたDCスパッタ装置を用いて、ケイ素とモリブデンと酸素と窒素とからなる位相層を75nmの厚さで成膜した。ターゲットはモリブデンとケイ素とを用い、スパッタガスはアルゴンと酸素と窒素とを用いた。この位相層の組成をESCAで分析したところ、Si:Mo:O:N=42:7:5:46(原子%比)であった。
【0084】
次に、この位相層の上にDCスパッタ装置を用いて、クロムと酸素と窒素とからなる下層遮光膜を30nmの厚さで成膜した。ターゲットはクロムを用い、スパッタガスはアルゴンと酸素と窒素とを用いた。この遮光膜の組成をESCAで分析したところ、Cr:O:N=50:30:20(原子%比)であった。
次に、この下層遮光膜の上にDCスパッタ装置を用いて、クロムと酸素と窒素とからなる上層遮光膜を20nmの厚さで成膜した。ターゲットはクロムを用い、スパッタガスはアルゴンと酸素と窒素とを用いた。この上層遮光膜の組成をESCAで分析したところ、Cr:O:N=45:45:10(原子%比)であった。
こうして形成した比較例1に係る位相シフトマスクブランクのOD(Optical Density)値は、3であった。
【0085】
次に、この上層遮光膜上にネガ型化学増幅型電子線レジストを膜厚160nmでスピンコートし、パターンをドーズ量35μC/cmで電子ビーム描画し、110℃で10分間熱処理し、パドル現像で90秒間現像を行い、レジストパターンを形成した。
次に、ドライエッチング装置を用いて、上層遮光膜及び下層遮光膜の各遮光膜をパターニングした。エッチングガスは塩素と酸素とヘリウムとを用い、ガス圧力は5mTorr、ICP電力は400W、バイアスパワーは40Wに設定した。オーバーエッチングは100%行った。
【0086】
次に、ドライエッチング装置を用いて、位相層のみで構成された位相シフト膜をパターニングした。エッチングガスはCFと酸素とを用い、ガス圧力は5mTorr、ICP電力は400W、バイアスパワーは40Wに設定した。ドライエッチングは、石英基板を平均3nm掘り込んだ時点で停止した。
次に、レジストパターンを硫酸加水洗浄によって剥膜洗浄した。
次に、ドライエッチング装置を用いて、各遮光膜を除去した。エッチングガスは塩素と酸素とヘリウムとを用い、ガス圧力は10mTorr、ICP電力は500W、バイアスパワーは10Wに設定した。オーバーエッチングは200%行った。この際、遮光膜(下層遮光膜)の下層に位置する位相シフト膜及び石英基板にはダメージは発生しなかった。
【0087】
こうして、比較例1に係る位相シフトマスクを得た。つまり、比較例1に係る位相シフトマスクは、実施例1~4で形成した保護層を備えない位相シフトマスクであり、且つ実施例1~4で形成した保護層と位相層とを5層交互に積層して構成された多層位相シフト膜を備えない位相シフトマスクである。
次に、この位相シフトマスクに対し、加速露光によりヘイズが発生したドーズ量を測定したところ、58kJ/cmであった。
以上の結果から、比較例1の位相シフトマスクでは、ドーズ量が58kJ/cmであるため、ヘイズの発生を十分に低減することができないことが確認された。
【0088】
次に、この位相シフトマスクに対し、電子線修正を行い、そのサイドエッチング量BWを測定したところ、7nmであった。
以上の結果から、比較例1の位相シフトマスクでは、サイドエッチング量BWが7nmであるため、十分な転写性能を備えていないことが確認された。
また、この位相シフトマスクに対し、電子線修正におけるQzエッチング選択比を測定したところ、1.1であった。
以上の結果から、比較例1の位相シフトマスクでは、Qzエッチング選択比が1.1であるため、位相シフトマスク(位相シフト膜)の電子線修正は困難であることが確認された。
【0089】
上述した実施例1~3及び比較例1の評価結果を、表1及び表2に示す。
本実施例では、ヘイズ耐性(ヘイズが発生するドーズ量)と、修正加工性(Qzエッチング選択比)と、断面形状(サイドエッチング量)と、転写性能とについてそれぞれ評価した。
ヘイズが発生するドーズ量については、その量が「70kJ/cm」以上であれば、使用上問題がないため、合格とした。
サイドエッチング量については、その量が「5nm」以下であれば、使用上問題がないため、合格とした。
修正エッチングレート比については、その量が「1.2」以上であれば、使用上問題がないため、合格とした。
表1及び表2では、転写性能について、射影効果が少なく、使用する上で転写性能に全く問題がない場合を「○」とし、射影効果が無視できず、使用する上で転写性能に改善が望まれる場合を「△」とした。
なお、表1の「位相シフト膜(保護層と位相層)のエッチング時間(min.)」は、表2の「位相シフト膜(位相層)のエッチング時間(min.)」を30(min.)と仮定し、各Qzエッチング選択比の値を用いて算出した値である。
【0090】
【表1】
【0091】
【表2】
【0092】
上述のように、位相層上に保護層を形成し、且つ位相層と保護層とを複数交互に積層した多層位相シフト膜を形成することは、位相シフトマスクにおけるヘイズの発生量を低減させる際に有効であることが分かる。
また、位相層上に保護層を形成し、且つ位相層と保護層とを複数交互に積層した多層位相シフト膜を形成することは、位相シフトマスク(位相シフト膜)における電子線修正を容易にする際に有効であることが分かる。
さらに、位相層上に保護層を形成し、且つ位相層と保護層とを複数交互に積層した多層位相シフト膜を形成することは、位相シフトマスク(位相シフト膜)の転写性能を向上させる際に有効であることが分かる。
【0093】
以上、上記実施例により、本発明の位相シフトマスクブランクおよびこれを用いて作成される位相シフトマスクについて説明したが、上記実施例は本発明を実施するための例にすぎず、本発明はこれらに限定されるものではない。また、これらの実施例を変形することは本発明の範囲内であり、更に本発明の範囲内において他の様々な実施例が可能であることは上記の記載から自明である。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明では、位相シフトマスクブランクの組成及び膜厚及び層構造と、これを用いた位相シフトマスクの製造工程及び条件を適切な範囲で選択したので、28nm以下のロジック系デバイス、又は30nm以下のメモリ系デバイス製造に対応した、微細なパターンを高精度で形成した位相シフトマスクを提供することができる。
【符号の説明】
【0095】
10・・・位相シフトマスクブランク
11・・・露光波長に対して透明な基板(基板)
12・・・位相層(位相差透過率調整層)
13・・・保護層(気体透過保護層)
14・・・位相シフト膜(多層位相シフト膜)
15・・・遮光膜
16・・・レジストパターン
17・・・位相シフト膜パターン
17a・・・位相シフト膜パターン
17b・・・電子線修正エッチング箇所
100・・・位相シフトマスク
BS・・・サイドエッチング
BH・・・保護層(エッチング耐性膜)
BW・・・サイドエッチング量(サイドエッチングの幅)
L・・・位相シフト膜が形成された領域
S・・・透明基板が露出した領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11