(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022138032
(43)【公開日】2022-09-22
(54)【発明の名称】インジェクタ制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 41/40 20060101AFI20220914BHJP
F02D 41/34 20060101ALI20220914BHJP
F02M 51/06 20060101ALI20220914BHJP
F02M 51/00 20060101ALI20220914BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20220914BHJP
【FI】
F02D41/40
F02D41/34
F02M51/06 M
F02M51/00 A
F02D45/00 372
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021037802
(22)【出願日】2021-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100187377
【弁理士】
【氏名又は名称】芳野 理之
(74)【代理人】
【識別番号】100098796
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 全
(74)【代理人】
【識別番号】100121647
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 和孝
(72)【発明者】
【氏名】小林 泰
(72)【発明者】
【氏名】松延 新吾
(72)【発明者】
【氏名】末廣 貴一
(72)【発明者】
【氏名】長井 順太郎
【テーマコード(参考)】
3G066
3G301
3G384
【Fターム(参考)】
3G066AA02
3G066AA07
3G066AB02
3G066BA51
3G066DA01
3G066DA04
3G301HA02
3G301HA04
3G301LB04
3G301LB11
3G301MA11
3G301MA18
3G301PB03
3G301PB05
3G384AA06
3G384BA13
3G384BA18
3G384DA04
3G384FA14
3G384FA17
(57)【要約】
【課題】多段噴射のうちメイン噴射よりも先に実行される先行噴射が消失することを抑えつつ、先行噴射量をメイン噴射量よりも少ない燃料噴射量に設定することができるインジェクタ制御装置を提供すること。
【解決手段】インジェクタ制御装置2は、1サイクル中の多段噴射における合計の燃料噴射量としての全噴射量と、多段噴射のうちメイン噴射よりも先に実行される先行噴射における燃料噴射量としての先行噴射量と、を設定する噴射量設定部211と、噴射量設定部211により設定された燃料噴射量に基づいてインジェクタ31の通電期間を設定する通電期間設定部212と、通電期間設定部212により設定された通電期間に基づいてインジェクタ31の駆動を制御するインジェクタ駆動部213と、を備える。噴射量設定部211は、全噴射量に対する所定割合の燃料噴射量を先行噴射量に設定する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1サイクル中に燃料噴射を複数回に分割する多段噴射を行うインジェクタの駆動を制御するインジェクタ制御装置であって、
前記1サイクル中の前記多段噴射における合計の燃料噴射量としての全噴射量と、前記多段噴射のうちメイン噴射よりも先に実行される先行噴射における燃料噴射量としての先行噴射量と、を設定する噴射量設定部と、
前記噴射量設定部により設定された前記燃料噴射量に基づいて前記インジェクタの通電期間を設定する通電期間設定部と、
前記通電期間設定部により設定された前記通電期間に基づいて前記インジェクタの駆動を制御するインジェクタ駆動部と、
を備え、
前記噴射量設定部は、前記全噴射量に対する所定割合の燃料噴射量を前記先行噴射量に設定することを特徴とするインジェクタ制御装置。
【請求項2】
前記全噴射量が微小噴射量領域に含まれるか否かを判定する微小噴射量領域判定部をさらに備え、
前記噴射量設定部は、前記全噴射量が前記微小噴射量領域に含まれることを前記微小噴射量領域判定部が判定した場合に、前記全噴射量に対する前記所定割合の燃料噴射量を前記先行噴射量に設定することを特徴とする請求項1に記載のインジェクタ制御装置。
【請求項3】
前記噴射量設定部は、前記全噴射量が前記微小噴射量領域に含まれないことを前記微小噴射量領域判定部が判定した場合には、予め設定された所定燃料噴射量を前記先行噴射量に設定することを特徴とする請求項2に記載のインジェクタ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料を噴射するインジェクタの駆動を制御するインジェクタ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばディーゼルエンジンにおいて、騒音低減等を目的として1サイクル中に燃料噴射を複数回に分割する多段噴射が実行される場合がある。この場合において、1サイクル中の多段噴射における合計の燃料噴射量としての全噴射量と、多段噴射のうちメイン噴射よりも先に実行されるパイロット噴射やプレ噴射などの先行噴射における燃料噴射量としての先行噴射量と、を燃料噴射量の絶対値で指示する制御が一般的に実行される。このとき、インジェクタの個体差や電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)の個体差などを加味して、例えば約2mm3/ストローク(st)程度の保証最小噴射量が設定されている。
【0003】
ここで、アイドリング中の全噴射量(すなわちアイドル噴射量)が例えば約6mm3/st程度以下の微小噴射量に設定される小排気量(例えば1000cc未満)のエンジンにおいて、例えば約2mm3/st程度の保証最小噴射量の絶対値が先行噴射量として指示されると、先行噴射量がメイン噴射量以上になる場合がある。例えば、アイドル噴射量が3mm3/stの絶対値で指示され、先行噴射量が2mm3/stの絶対値で指示されると、メイン噴射量が1mm3/stに設定される。そうすると、先行噴射量がメイン噴射量よりも多くなり、異常燃焼が生ずるという問題がある。
【0004】
特許文献1には、噴射量設定変更部を備える燃料噴射制御装置が開示されている。特許文献1に記載された噴射量設定変更部は、メイン噴射量が所定噴射量未満でありパイロット噴射量が所定噴射量を超える場合には、メイン噴射量の値を、所定噴射量に変更するとともに、パイロット噴射量の値を、合計噴射量から変更後のメイン噴射量を減算した値に変更する。そのため、特許文献1に記載された燃料噴射制御装置が、前述した小排気量のエンジンに適用されると、パイロット噴射量が保証最小噴射量以下に設定されることがある。しかし、そうすると、インジェクタの個体差およびECUの個体差によっては、パイロット噴射が消失し、騒音低減の効果が低下するおそれがある。
【0005】
また、特許文献1に記載された噴射量設定変更部は、メイン噴射量が所定噴射量未満でありパイロット噴射量が所定噴射量未満である場合には、メイン噴射量の値を、合計噴射量に変更する。しかし、そうすると、パイロット噴射が消失し、騒音低減の効果が低下するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、多段噴射のうちメイン噴射よりも先に実行される先行噴射が消失することを抑えつつ、先行噴射量をメイン噴射量よりも少ない燃料噴射量に設定することができるインジェクタ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題は、1サイクル中に燃料噴射を複数回に分割する多段噴射を行うインジェクタの駆動を制御するインジェクタ制御装置であって、前記1サイクル中の前記多段噴射における合計の燃料噴射量としての全噴射量と、前記多段噴射のうちメイン噴射よりも先に実行される先行噴射における燃料噴射量としての先行噴射量と、を設定する噴射量設定部と、前記噴射量設定部により設定された前記燃料噴射量に基づいて前記インジェクタの通電期間を設定する通電期間設定部と、前記通電期間設定部により設定された前記通電期間に基づいて前記インジェクタの駆動を制御するインジェクタ駆動部と、を備え、前記噴射量設定部は、前記全噴射量に対する所定割合の燃料噴射量を前記先行噴射量に設定することを特徴とする本発明に係るインジェクタ制御装置により解決される。
【0009】
本発明に係るインジェクタ制御装置によれば、噴射量設定部は、1サイクル中の多段噴射における合計の燃料噴射量としての全噴射量と、多段噴射のうちメイン噴射よりも先に実行される先行噴射における燃料噴射量としての先行噴射量と、を設定する。このとき、噴射量設定部は、絶対値の燃料噴射量ではなく全噴射量に対する所定割合の燃料噴射量を先行噴射量に設定する。つまり、本発明に係るインジェクタ制御装置は、先行噴射量を絶対値で指示する制御ではなく、先行噴射量を全噴射量に対する割合で指示する制御を実行する。そのため、本発明に係るインジェクタ制御装置は、多段噴射のうちメイン噴射よりも先に実行される先行噴射が消失することを抑えつつ、先行噴射量をメイン噴射量よりも少ない燃料噴射量に設定することができる。
【0010】
また、噴射量設定部が全噴射量に対する所定割合の燃料噴射量を先行噴射量に設定するため、全噴射量に対する先行噴射量の割合が、インジェクタの個体差やECUの個体差に依らず維持される。これにより、本発明に係るインジェクタ制御装置は、インジェクタの個体差やECUの個体差に依らず、多段噴射による騒音低減の効果を維持することができる。
【0011】
本発明に係るインジェクタ制御装置は、好ましくは、前記全噴射量が微小噴射量領域に含まれるか否かを判定する微小噴射量領域判定部をさらに備え、前記噴射量設定部は、前記全噴射量が前記微小噴射量領域に含まれることを前記微小噴射量領域判定部が判定した場合に、前記全噴射量に対する前記所定割合の燃料噴射量を前記先行噴射量に設定することを特徴とする。
【0012】
本発明に係るインジェクタ制御装置によれば、微小噴射量領域判定部は、全噴射量が微小噴射量領域に含まれるか否かを判定する。そして、全噴射量が微小噴射量領域に含まれることを微小噴射量領域判定部が判定すると、噴射量設定部は、全噴射量に対する所定割合の燃料噴射量を先行噴射量に設定する。そのため、全噴射量が微小噴射量に設定される小排気量のエンジンにおいても、本発明に係るインジェクタ制御装置は、多段噴射のうちメイン噴射よりも先に実行される先行噴射が消失することを抑えつつ、先行噴射量をメイン噴射量よりも少ない燃料噴射量に設定することができる。
【0013】
本発明に係るインジェクタ制御装置において、好ましくは、前記噴射量設定部は、前記全噴射量が前記微小噴射量領域に含まれないことを前記微小噴射量領域判定部が判定した場合には、予め設定された所定燃料噴射量を前記先行噴射量に設定することを特徴とする。
【0014】
本発明に係るインジェクタ制御装置によれば、全噴射量が微小噴射量領域に含まれないことを微小噴射量領域判定部が判定した場合には、噴射量設定部は、予め設定された所定燃料噴射量を先行噴射量に設定する。そのため、全噴射量が微小噴射量領域に含まれないことを微小噴射量領域判定部が判定した場合には、噴射量設定部は、絶対値の燃料噴射量を先行噴射量に設定する。これにより、本発明に係るインジェクタ制御装置は、全噴射量が例えば高噴射量領域などの微小噴射量領域以外に含まれる場合に、先行噴射量が過多になることを抑えることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、多段噴射のうちメイン噴射よりも先に実行される先行噴射が消失することを抑えつつ、先行噴射量をメイン噴射量よりも少ない燃料噴射量に設定することができるインジェクタ制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係るインジェクタ制御装置の概要を説明するブロック図である。
【
図2】本発明の変形例に係るインジェクタ制御装置の概要を説明するブロック図である。
【
図3】本実施形態に係るインジェクタ制御装置の要部構成を表すブロック図である。
【
図4】本実施形態に係るインジェクタ制御装置の動作を例示するフローチャートである。
【
図5】インジェクタ通電期間と燃料噴射量との関係を例示するグラフである。
【
図6】本発明者が実施した検討結果の一例を例示するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の好ましい実施形態を、図面を参照して詳しく説明する。
なお、以下に説明する実施形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0018】
図1は、本発明に係るインジェクタ制御装置の概要を説明するブロック図である。
図2は、本発明の変形例に係るインジェクタ制御装置の概要を説明するブロック図である。
【0019】
本実施形態に係るインジェクタ制御装置2、2Aは、例えば産業用機械のエンジン3に搭載され、燃料を噴射するインジェクタ31の駆動を制御する。
図1および
図2に表したように、本実施形態に係るインジェクタ制御装置2、2Aは、電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)の一部として機能する。なお、
図1および
図2に表した例では、3つのインジェクタ31がエンジン3に設けられている。但し、インジェクタ31の設置数は、3つに限定されるわけではない。
【0020】
図1に表したインジェクタ制御装置2は、ガバナマップ221と、噴射期間マップ222と、インジェクタ駆動部213と、を有する。後述するように、ガバナマップ221および噴射期間マップ222は、記憶部22(
図3参照)に格納(記憶)されている。
図1に表したように、エンジン回転数に関する検出信号が、エンジン3からインジェクタ制御装置2に入力される。また、アクセル開度に関する検出信号が、スロットルセンサ4からインジェクタ制御装置2に入力される。
【0021】
図1に表したインジェクタ制御装置2は、エンジン3から送信されたエンジン回転数に関する検出信号と、スロットルセンサ4から送信されたアクセル開度に関する検出信号と、に基づいて、ガバナマップ221を用いて燃料の要求噴射量を設定する。すなわち、インジェクタ制御装置2は、ガバナマップ221を用いて、エンジン回転数がエンジン3に掛かる負荷と釣り合うような制御(ガバナ制御)を実行する。例えば、アクセル開度が一定であっても、エンジン回転数が下がると、インジェクタ制御装置2は、要求噴射量を増加させる制御を実行する。一方で、例えば、アクセル開度が一定であっても、エンジン回転数が上がると、インジェクタ制御装置2は、要求噴射量を減少させる制御を実行する。
【0022】
なお、
図2に表したインジェクタ制御装置2Aのように、インジェクタ制御装置2Aは、ガバナマップ221を用いて燃料の要求噴射量を設定する代わりに、ISC制御(アイドル回転数制御)224を実行して燃料の要求噴射量を設定してもよい。例えば、インジェクタ制御装置2Aは、ISC制御において、エンジン回転数が所定の値となるようにPIDフィードバック制御を実行する。
以下の説明では、説明の便宜上、
図1に表したインジェクタ制御装置2を例に挙げる。
【0023】
続いて、インジェクタ制御装置2は、ガバナマップ221を用いて設定した要求噴射量に基づいて、噴射期間マップ222を用いてインジェクタ31の通電期間(すなわち通電時間)を設定する。
【0024】
続いて、インジェクタ駆動部213は、噴射期間マップ222を用いて設定したインジェクタ31の通電期間に基づいて、インジェクタ31の駆動を制御する。例えば、インジェクタ駆動部213は、昇圧回路(図示せず)により生成される昇圧電圧(すなわちコンデンサのチャージ電圧)やバッテリ(図示せず)から供給される電圧をインジェクタ31のソレノイドコイルに供給する。これにより、インジェクタ31のニードル弁が開き、燃料噴射が開始する。そして、インジェクタ31の通電を開始した時点(すなわちインジェクタ31に対する電圧の供給を開始した時点)から噴射期間マップ222を用いて設定されたインジェクタ31の通電期間が経過すると、インジェクタ駆動部213は、インジェクタ31のソレノイドコイルに対する電圧の供給を停止する。これにより、インジェクタ31のニードル弁が閉じ、燃料噴射が終了する。
【0025】
また、インジェクタ駆動部213は、エンジン3の騒音低減等を目的として、1サイクル中に燃料噴射を複数回に分割する多段噴射を行うようにインジェクタ31の駆動を制御する。例えば、インジェクタ31は、メイン噴射と、メイン噴射における噴射量よりも少ない噴射量の燃料をメイン噴射よりも先に噴射するプレ噴射と、を1サイクル中に行う。本実施形態のプレ噴射は、本発明の「先行噴射」の一例である。なお、インジェクタ31が1サイクル中に行う燃料噴射は、メイン噴射とプレ噴射とに限定されるわけではない。例えば、インジェクタ31は、メイン噴射と、メイン噴射における噴射量よりも少ない噴射量の燃料をメイン噴射よりも先に噴射するパイロット噴射と、を1サイクル中に行ってもよい。本実施形態のパイロット噴射は、本発明の「先行噴射」の一例である。あるいは、インジェクタ31は、メイン噴射よりも先に、パイロット噴射とプレ噴射とを1サイクル中にこの順序で行ってもよい。すなわち、本発明の「先行噴射」は、本実施形態のパイロット噴射およびプレ噴射の少なくともいずれかを含む。あるいは、インジェクタ31は、メイン噴射よりも後に、アフター噴射とポスト噴射とを1サイクル中にこの順序で行ってもよい。
以下の説明では、説明の便宜上、インジェクタ31がメイン噴射とプレ噴射とを行う場合を例に挙げる。
【0026】
前述したように、インジェクタ駆動部213は、多段噴射を行うようにインジェクタ31の駆動を制御する。そのため、インジェクタ制御装置2は、1サイクル中の多段噴射における合計の燃料噴射量としての全噴射量をガバナマップを用いて設定する。本実施形態では、全噴射量は、メイン噴射における燃料噴射量としてのメイン噴射量と、プレ噴射における燃料噴射量としてのプレ噴射量と、を合計した燃料噴射量である。本実施形態のプレ噴射量は、本発明の「先行噴射量」の一例である。例えば、インジェクタ31がメイン噴射とパイロット噴射とを行う場合には、全噴射量は、メイン噴射における燃料噴射量としてのメイン噴射量と、パイロット噴射における燃料噴射量としてのパイロット噴射量と、を合計した燃料噴射量である。パイロット噴射量は、本発明の「先行噴射量」の一例である。また、例えば、インジェクタ31がメイン噴射とプレ噴射とパイロット噴射とを行う場合には、全噴射量は、メイン噴射量とプレ噴射量とパイロット噴射量とを合計した燃料噴射量である。
【0027】
次に、本実施形態に係るインジェクタ制御装置2を、図面を参照して詳しく説明する。
図3は、本実施形態に係るインジェクタ制御装置の要部構成を表すブロック図である。
【0028】
図3に表したように、本実施形態に係るインジェクタ制御装置2は、演算処理部21と、記憶部22と、入出力部23と、を備える。
演算処理部21は、CPU(Central Processing Unit)としての機能を有し、記憶部22に記憶されたプログラム223を読み出して種々の演算や処理を実行する。演算処理部21は、噴射量設定部211と、通電期間設定部212と、インジェクタ駆動部213と、微小噴射量領域判定部214と、を有する。噴射量設定部211、通電期間設定部212、インジェクタ駆動部213および微小噴射量領域判定部214は、記憶部22に格納(記憶)されているプログラム223を演算処理部21が実行することにより実現される。なお、噴射量設定部211、通電期間設定部212、インジェクタ駆動部213および微小噴射量領域判定部214は、ハードウェアによって実現されてもよく、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせによって実現されてもよい。
【0029】
噴射量設定部211は、記憶部22に格納されているガバナマップ221を用いて、1サイクル中の多段噴射における合計の燃料噴射量としての全噴射量を設定する。また、噴射量設定部211は、多段噴射のうちメイン噴射よりも先に実行される先行噴射(本実施形態ではプレ噴射)における燃料噴射量としての先行噴射量(本実施形態ではプレ噴射量)を設定する。噴射量設定部211がプレ噴射量を設定する工程の詳細については、後述する。
【0030】
通電期間設定部212は、噴射量設定部211により設定された燃料噴射量に基づいてインジェクタ31の通電期間を設定する。具体的には、
図1に関して前述したように、通電期間設定部212は、噴射量設定部211がガバナマップ221を用いて設定した要求噴射量に基づいて、記憶部22に格納されている噴射期間マップ222を用いてインジェクタ31の通電期間(すなわち通電時間)を設定する。
【0031】
インジェクタ駆動部213は、通電期間設定部212が噴射期間マップ222を用いて設定したインジェクタ31の通電期間に基づいて、入出力部23を介して制御信号をインジェクタ31に送信し、インジェクタ31の駆動を制御する。
図1に関して前述したように、インジェクタ駆動部213は、昇圧回路により生成される昇圧電圧やバッテリから供給される電圧を入出力部23を介してインジェクタ31に供給する。これにより、インジェクタ31のニードル弁が開き、燃料噴射が開始する。そして、インジェクタ駆動部213は、インジェクタ31に対する電圧の供給を開始した時点から通電期間設定部212により設定されたインジェクタ31の通電期間が経過すると、インジェクタ31に対する電圧の供給を停止する。これにより、インジェクタ31のニードル弁が閉じ、燃料噴射が終了する。
【0032】
微小噴射量領域判定部214は、1サイクル中の多段噴射における合計の燃料噴射量としての全噴射量が微小噴射量領域に含まれるか否かを判定する。例えば、微小噴射量領域判定部214は、全噴射量が所定燃料噴射量以下である場合に、全噴射量が微小噴射量領域に含まれると判定する。所定燃料噴射量としては、例えば約6mm3/st程度が挙げられる。但し、所定燃料噴射量は、6mm3/stに限定されるわけではない。あるいは、微小噴射量領域判定部214は、全噴射量だけではなく、全噴射量およびエンジン回転数の両方に基づいて、全噴射量が微小噴射量領域に含まれるか否かを判定してもよい。例えば、微小噴射量領域判定部214は、エンジン3から入出力部23を介して受信したエンジン回転数が所定回転数以下であり、かつ、全噴射量が所定燃料噴射量以下である場合に、全噴射量が微小噴射量領域に含まれると判定してもよい。所定回転数としては、例えば約2400rpm程度が挙げられる。但し、所定回転数は、2400rpmに限定されるわけではない。
【0033】
記憶部22は、ガバナマップ221と、噴射期間マップ222と、プログラム223と、を格納(記憶)する。記憶部22としては、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などが挙げられる。なお、記憶部22は、インジェクタ制御装置2に接続された外部の記憶装置であってもよい。
【0034】
ガバナマップ221は、
図1に例示したように、エンジン回転数と燃料噴射量(すなわち要求噴射量)との関係を示す分布図を含む。なお、ガバナマップ221は、エンジン回転数と燃料噴射量との関係を示す数式や表であってもよい。
噴射期間マップ222は、
図1に例示したように、燃料噴射量(すなわち要求噴射量)とインジェクタ31の通電期間との関係を示す分布図を含む。なお、噴射期間マップ222は、燃料噴射量とインジェクタ31の通電期間との関係を示す数式や表であってもよい。
プログラム223は、燃料噴射量(すなわち要求噴射量)およびインジェクタ31の通電期間を設定するためのシーケンスプログラムや演算プログラムを含む。
【0035】
次に、本実施形態に係るインジェクタ制御装置2の動作を、図面を参照して詳しく説明する。
図4は、本実施形態に係るインジェクタ制御装置の動作を例示するフローチャートである。
図5は、インジェクタ通電期間と燃料噴射量との関係を例示するグラフである。
【0036】
まず、アイドリング中の全噴射量(すなわちアイドル噴射量)が例えば約6mm3/st程度以下の微小噴射量に設定される小排気量(例えば1000cc未満)のエンジンにおいて、インジェクタの保証最小噴射量(例えば約2mm3/st程度)の絶対値がプレ噴射量として指示されると、プレ噴射量がメイン噴射量以上になる場合がある。例えば、全噴射量が3mm3/stの絶対値で指示され、プレ噴射量が2mm3/stの絶対値で指示されると、メイン噴射量が1mm3/stに設定される。そうすると、プレ噴射量がメイン噴射量よりも多くなり、異常燃焼が生ずることがある。
【0037】
また、プレ噴射量が保証最小噴射量以下(例えば約0.9mm3/st程度)の絶対値で指示されると、インジェクタの個体差によっては、プレ噴射が消失し、騒音低減の効果が低下するおそれがある。
【0038】
これについて、さらに説明する。インジェクタには、個体差が存在する。インジェクタの個体差は、インジェクタの製造ばらつきなどにより生ずる。例えば、インジェクタのノズル孔の径は、製造ばらつきによりインジェクタ毎に異なる。そのため、例えば
図5に表したグラフのように、同一のインジェクタ通電期間が設定される場合であっても、インジェクタのノズル孔から噴射される燃料の噴射量は、インジェクタ毎に異なる。そこで、本実施形態では、製造される複数のインジェクタのうち、所定通電期間における燃料噴射量が最も多いインジェクタを「上限インジェクタ31U」と称する。また、製造される複数のインジェクタのうち、所定通電期間における燃料噴射量が中央値であるインジェクタを「中央インジェクタ31M」と称する。また、製造される複数のインジェクタのうち、所定通電期間における燃料噴射量が最も少ないインジェクタを「下限インジェクタ31L」と称する。
【0039】
ここで、噴射量設定部211が、ガバナマップ221を用いて、中央インジェクタ31Mにおける全噴射量を3mm3/stに設定する場合を例に挙げて説明する。また、噴射期間マップ222が、中央インジェクタ31Mにおける燃料噴射量(すなわち要求噴射量)とインジェクタ31の通電期間との関係を示す分布図を含む場合を例に挙げて説明する。
【0040】
この場合において、噴射量設定部211がプレ噴射量を0.9mm
3/stの絶対値で指示すると、
図5に表したように、通電期間設定部212は、噴射期間マップ222を用いてインジェクタ31の通電期間を0.26msecに設定する。しかし、そうすると、下限インジェクタ31Lがエンジン3に搭載された場合には、下限インジェクタ31Lの燃料噴射量はゼロとなる。そのため、下限インジェクタ31Lがエンジン3に搭載された場合には、プレ噴射が消失する。このように、エンジン3に搭載されたインジェクタ31が上限インジェクタ31U、中央インジェクタ31Mおよび下限インジェクタ31Lのいずれであるかをインジェクタ制御装置2が判別できないため、噴射量設定部211がプレ噴射量を絶対値で指示すると、プレ噴射が消失することがある。
【0041】
これに対して、本実施形態に係るインジェクタ制御装置2の噴射量設定部211は、全噴射量に対する所定割合の燃料噴射量をプレ噴射量に設定する。これについて、
図4および
図5を参照して詳しく説明する。
【0042】
まず、ステップS11において、微小噴射量領域判定部214は、微小噴射量領域判定を実行し、全噴射量が微小噴射量領域に含まれるか否かを判定する。
図4に表した例では、微小噴射量領域判定部214は、エンジン3から入出力部23を介して受信したエンジン回転数が所定回転数(例えば2400rpm)以下であり、かつ、全噴射量が所定燃料噴射量(例えば6mm
3/st)以下であるか否かを判定する。
【0043】
エンジン3から入出力部23を介して受信したエンジン回転数が所定回転数(例えば2400rpm)以下、かつ、全噴射量が所定燃料噴射量(例えば6mm3/st)以下の判定条件が満たされる場合には(ステップS11:YES)、ステップS12において、演算処理部21は、先行噴射(本実施形態ではプレ噴射)割合制御をオンに設定する。そうすると、噴射量設定部211は、全噴射量に対する所定割合(%)の燃料噴射量を先行噴射量(本実施形態ではプレ噴射量)に設定する。
【0044】
この場合において、前述した例と同様に、噴射量設定部211が、ガバナマップ221を用いて、中央インジェクタ31Mにおける全噴射量を3mm3/stに設定する場合を例に挙げて説明する。また、前述した例と同様に、噴射期間マップ222が、中央インジェクタ31Mにおける燃料噴射量(すなわち要求噴射量)とインジェクタ31の通電期間との関係を示す分布図を含む場合を例に挙げて説明する。さらに、所定割合が30%である場合、すなわち、噴射量設定部211が全噴射量の30%の燃料噴射量をプレ噴射量に設定する場合を例に挙げて説明する。
【0045】
この場合において、中央インジェクタ31Mがエンジン3に搭載された場合には、ステップS12において、噴射量設定部211は、0.9mm
3/st(=3mm
3/st×30%)をプレ噴射量に設定する。続いて、ステップS14において、
図5に表したように、通電期間設定部212は、噴射期間マップ222を用いてインジェクタ31の通電期間を0.26msecに設定する。この場合には、中央インジェクタ31Mがエンジン3に搭載されているため、中央インジェクタ31Mのプレ噴射量は、0.9mm
3/stとなる。
【0046】
一方で、下限インジェクタ31Lがエンジン3に搭載された場合には、メイン噴射量およびプレ噴射量の合計の燃料噴射量としての全噴射量が減少するため、エンジン回転数が下がろうとする。そうすると、噴射量設定部211は、ガバナ制御を実行し、エンジン回転数を一定に維持するためにガバナマップ221を用いて燃料噴射量(すなわち要求噴射量)を増加させる。これにより、
図5に表したように、噴射量設定部211は、下限インジェクタ31Lにおける全噴射量が3mm
3/stとなるように、燃料噴射量(すなわち要求噴射量)を5.3mm
3/stに設定する。そして、ステップS12において、噴射量設定部211は、1.6mm
3/st(≒5.3mm
3/st×30%)をプレ噴射量に設定する。
【0047】
そうすると、ステップS14において、
図5に表したように、通電期間設定部212は、噴射期間マップ222を用いてインジェクタ31の通電期間を0.27msecに設定する。この場合には、下限インジェクタ31Lがエンジン3に搭載されているため、下限インジェクタ31Lのプレ噴射量は、0.6mm
3/stとなる。そのため、下限インジェクタ31Lがエンジン3に搭載された場合であっても、プレ噴射は、消失しない。
【0048】
エンジン3から入出力部23を介して受信したエンジン回転数が所定回転数(例えば2400rpm)以下、かつ、全噴射量が所定燃料噴射量(例えば6mm
3/st)以下の判定条件が満たされない場合には(ステップS11:NO)、ステップS13において、演算処理部21は、先行噴射(本実施形態ではプレ噴射)割合制御をオフに設定する。そうすると、噴射量設定部211は、先行噴射量(本実施形態ではプレ噴射量)を所定燃料噴射量(例えば2mm
3/st)の絶対値に設定する。続いて、ステップS14において、
図5に表したように、通電期間設定部212は、噴射期間マップ222を用いてインジェクタ31の通電期間を0.275msecに設定する。この場合には、全噴射量が微小噴射量領域に含まれないため、保証最小噴射量(例えば2mm
3/st)以上のプレ噴射量が確保される。そのため、下限インジェクタ31Lがエンジン3に搭載された場合であっても、プレ噴射は、消失しない。
【0049】
続いて、ステップS15において、演算処理部21は、エンジン3を停止するか否かを判定する。エンジン3を停止する場合には(ステップS15:YES)、インジェクタ制御装置2は、動作を停止する。一方で、エンジン3を停止しない場合には(ステップS15:NO)、ステップS11において、微小噴射量領域判定部214は、微小噴射量領域判定を実行し、全噴射量が微小噴射量領域に含まれるか否かを判定する。
【0050】
本実施形態に係るインジェクタ制御装置2によれば、噴射量設定部211は、絶対値の燃料噴射量ではなく全噴射量に対する所定割合の燃料噴射量をプレ噴射量に設定する。つまり、本実施形態に係るインジェクタ制御装置2は、プレ噴射量を絶対値で指示する制御ではなく、プレ噴射量を全噴射量に対する割合で指示する制御を実行する。そのため、本実施形態に係るインジェクタ制御装置2は、多段噴射のうちメイン噴射よりも先に実行されるプレ噴射が消失することを抑えつつ、プレ噴射量をメイン噴射量よりも少ない燃料噴射量に設定することができる。
【0051】
また、噴射量設定部211が全噴射量に対する所定割合の燃料噴射量をプレ噴射量に設定するため、全噴射量に対するプレ噴射量の割合が、インジェクタ31の個体差やECUの個体差に依らず維持される。これにより、本実施形態に係るインジェクタ制御装置2は、インジェクタ31の個体差やECUの個体差に依らず、多段噴射による騒音低減の効果を維持することができる。
【0052】
また、微小噴射量領域判定部214は、全噴射量が微小噴射量領域に含まれるか否かを判定する。そして、全噴射量が微小噴射量領域に含まれることを微小噴射量領域判定部214が判定すると、噴射量設定部211は、全噴射量に対する所定割合の燃料噴射量をプレ噴射量に設定する。そのため、全噴射量が微小噴射量(例えば約6mm3/st程度以下)に設定される小排気量(例えば1000cc未満)のエンジン3においても、本実施形態に係るインジェクタ制御装置2は、多段噴射のうちメイン噴射よりも先に実行されるプレ噴射が消失することを抑えつつ、プレ噴射量をメイン噴射量よりも少ない燃料噴射量に設定することができる。
【0053】
一方で、全噴射量が微小噴射量領域に含まれないことを微小噴射量領域判定部214が判定した場合には、噴射量設定部211は、予め設定された所定燃料噴射量をプレ噴射量に設定する。そのため、全噴射量が微小噴射量領域に含まれないことを微小噴射量領域判定部214が判定した場合には、噴射量設定部211は、絶対値の燃料噴射量をプレ噴射量に設定する。これにより、本実施形態に係るインジェクタ制御装置2は、全噴射量が例えば高噴射量領域などの微小噴射量領域以外に含まれる場合に、プレ噴射量が過多になることを抑えることができる。
【0054】
図6は、本発明者が実施した検討結果の一例を例示するグラフである。
本発明者は、以下の運転条件において、プレ噴射量(QPRE)と燃焼騒音レベル(CNL)との関係について実測による検討を行った。
[エンジンの運転条件]
(1)エンジン回転数:1300rpm(無負荷の状態)
(2)実噴射量(本実施形態における全噴射量に相当):3.7mm
3/st
(3)多段噴射の時間的間隔:2.3msec
【0055】
検討結果の一例は、
図6に表したグラフの通りである。すなわち、プレ噴射量が1.0mm
3/st±0.5mm
3/stである場合には、プレ噴射量がゼロである場合(プレ噴射を行わない場合)における燃焼騒音レベルを基準として、燃焼騒音レベルを4dB低減できることが分かった。これにより、下限インジェクタ31Lのプレ噴射量が、
図4および
図5に関して例を挙げて説明した0.6mm
3/stの場合であっても、プレ噴射量がゼロである場合における燃焼騒音レベルを基準として、燃焼騒音レベルを4dB低減できることが分かる。
【0056】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は、上記実施形態に限定されず、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で種々の変更を行うことができる。上記実施形態の構成は、その一部を省略したり、上記とは異なるように任意に組み合わせたりすることができる。
【符号の説明】
【0057】
2、2A:インジェクタ制御装置、 3:エンジン、 4:スロットルセンサ、 21:演算処理部、 22:記憶部、 23:入出力部、 31:インジェクタ、 31L:下限インジェクタ、 31M:中央インジェクタ、 31U:上限インジェクタ、 211:噴射量設定部、 212:通電期間設定部、 213:インジェクタ駆動部、 214:微小噴射量領域判定部、 221:ガバナマップ、 222:噴射期間マップ、 223:プログラム、 224:ISC制御