(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022138042
(43)【公開日】2022-09-22
(54)【発明の名称】目的核種の生成方法
(51)【国際特許分類】
G21G 4/08 20060101AFI20220914BHJP
【FI】
G21G4/08 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021037814
(22)【出願日】2021-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000142791
【氏名又は名称】株式会社アトックス
(71)【出願人】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田沢 周作
(72)【発明者】
【氏名】竹村 友紀
(72)【発明者】
【氏名】結城 真美
(72)【発明者】
【氏名】竹内 康隆
(72)【発明者】
【氏名】芝原 裕規
(72)【発明者】
【氏名】羽場 宏光
(72)【発明者】
【氏名】横北 卓也
(57)【要約】 (修正有)
【課題】核種の放射壊変によって放射性の目的核種を生成する目的核種の生成方法において、生成される目的核種及びその目的核種の元素の同位体の割合の安定化、すなわち、比放射能の安定化を図ることが可能な目的核種の生成方法を提供する。
【解決手段】親核種の1又は、複数回の放射壊変によって放射性の目的核種を生成する方法で、前記親核種を含む原料から前記目的核種及び前記目的核種の元素の同位体を取り除く第1工程S202及び、前記目的核種を生成するために用いられる試薬から前記目的核種及び前記目的核種の元素の同位体を取り除く第2工程S204の少なくとも一方を実行する除去工程を含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
親核種の1又は、複数回の放射壊変によって放射性の目的核種を生成する方法であって、
前記親核種を含む原料から前記目的核種及び前記目的核種の元素の同位体を取り除く第1工程及び、前記目的核種を生成するために用いられる試薬から前記目的核種及び前記目的核種の元素の同位体を取り除く第2工程の少なくとも一方を実行する除去工程を含む
ことを特徴とする目的核種の生成方法。
【請求項2】
前記親核種から娘核種を生成する娘核種生成工程と、
前記娘核種から前記目的核種を生成する目的核種生成工程と、を含み、
前記第1工程は、前記娘核種生成工程において前記親核種を含む前記原料から前記目的核種及び前記目的核種の元素の同位体を除去する工程を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の目的核種の生成方法。
【請求項3】
前記親核種から娘核種を生成する娘核種生成工程と、
前記娘核種から前記目的核種を生成する目的核種生成工程と、を含み、
前記第1工程は、前記目的核種生成工程の前に前記娘核種から前記目的核種及び前記目的核種の元素の同位体を除去する工程を含む
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の目的核種の生成方法。
【請求項4】
親核種から娘核種を生成する娘核種生成工程と、
前記娘核種から前記目的核種を生成する目的核種生成工程と、を含み、
前記除去工程は、前記第2工程を含み、
前記目的核種生成工程は、前記娘核種から生成された前記目的核種を吸着材に吸着させる吸着工程と、
前記試薬を用いて前記吸着材から前記目的核種を溶離させる溶離工程と、
を含む
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の目的核種の生成方法。
【請求項5】
前記第1工程は、前記親核種及び娘核種の少なくとも一方の半減期に基づいて定められたタイミングで実行されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の目的核種の生成方法。
【請求項6】
前記溶離工程は、前記娘核種及び目的核種の少なくとも一方の半減期に基づいて定められたタイミングで実行されることを特徴とする請求項4又は5に記載の目的核種の生成方法。
【請求項7】
親核種の放射壊変によって放射性の目的核種を生成する方法であって、
前記親核種を含む原料から前記目的核種及び前記目的核種の元素の同位体を取り除く第1工程及び、前記目的核種を生成するために用いられる試薬から前記目的核種及び前記目的核種の元素の同位体を取り除く第2工程の少なくとも一方を実行する除去工程と、
前記親核種から娘核種を生成する娘核種生成工程と、
前記娘核種から前記目的核種を生成する目的核種生成工程と、を含み、
前記親核種は、Th-228であり、前記娘核種は、Ra-224であり、前記目的核種は、Pb-212であり、
前記除去工程において、Pb-204、Pb-206、Pb-207及び、Pb-208のうち、少なくとも1種を除去することを特徴とする目的核種の生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親核種の放射壊変によって放射性の目的核種を生成する目的核種の生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
α線放出核種は、医療分野、アイソトープ電池、分析機器等様々な分野に用いられている。例えば、医療分野においては、癌治療においてα線放出核種を用いる標的療法(Targeted Alpha Therapy, TAT)が行われている。
【0003】
このようなα線放出核種としては、例えば、Bi-213がある。Bi-213は、Ra-225やAc-225の放射壊変で得られることが知られている。例えば、特許文献1においては、Ra-225及びAc-225を親核種としてBi-213を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、親核種であるRa-225やAc-225から目的核種であるBi-213を生成する前の段階で、Bi-213そのものやBiの同位体が、その親核種である原料や生成のために用いられている試薬に混在していることがある。
【0006】
そのような原料や試薬を用いて目的核種を生成すると、最終的に生成される生成物の中に、原料や試薬に混在していた目的核種やその目的核種の元素の同位体も混在することになる。すなわち、目的核種やその目的核種の元素の同位体が生成物に混在する量は、生成操作毎に異なる。
【0007】
そのため、生成物に含まれる目的核種とその目的核種の元素の同位体との割合が、原料や試薬に混在していた目的核種とその目的核種の元素の同位体とによって、生成操作を行う毎に変化してしまうおそれがある。
【0008】
ここで、例えば、Bi-213の同位体には、Bi-209のような非常に長い半減期を有する安定同位体がある。そのため、そのように目的核種とその目的核種の元素の同位体との割合が生成操作毎に変化してしまうと、最終的な生成物に期待されている比放射能が得られないおそれがある。
【0009】
例えば、原料や試薬に、安定同位体が多い場合には、最終的な生成物の比放射能が想定よりも低くなってしまうことになる。一方で、安定同位体が少ない場合には、最終的な生成物の比放射能が想定よりも高くなってしまうことがある。
【0010】
すなわち、そのような原料や試薬を用いると、目的核種の元素の同位体によって最終的な生成物の比放射能が安定しなくなるおそれがある。しかし、目的核種とその目的核種の元素の同位体は同じ元素であるので、最終的な生成物からその同位体のみを取り除くことは困難である。
【0011】
本発明は、親核種の放射壊変によって放射性の目的核種を生成する目的核種の生成方法において、生成される目的核種及びその目的核種の元素の同位体の割合の安定化、すなわち、比放射能の安定化を図ることが可能な目的核種の生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の目的核種の生成方法は、親核種の1又は、複数回の放射壊変によって放射性の目的核種を生成する方法であって、前記親核種を含む原料から前記目的核種及び前記目的核種の元素の同位体を取り除く第1工程及び、前記目的核種を生成するために用いられる試薬から前記目的核種及び前記目的核種の元素の同位体を取り除く第2工程の少なくとも一方を実行する除去工程を含むことを特徴とする目的核種の生成方法である。
【0013】
本発明の目的核種の生成方法によれば、第1工程及び第2工程において、目的核種及びその目的核種の元素の同位体を除去することによって、その段階における核種の純度を向上させることができる。
【0014】
これにより、最終的に生成される生成物には、目的核種を生成する前の段階に存在していた(すなわち、原料や試薬に混在していた)目的核種及びその目的核種の元素の同位体が混在してしまうことが抑制される。
【0015】
したがって、本発明の目的核種の生成方法によれば、原料や試薬に混在していた目的核種及びその目的核種の元素の同位体が、生成物に混入してしまうことが抑制されるので、生成物の目的核種とその目的核種の元素の同位体との割合を安定したものにできる。ひいては、最終的に生成される目的核種の比放射能を安定させることができる。
【0016】
尚、本明細書において比放射能は、次のように定義される。
比放射能=(目的とする目的核種の放射能量Bq)/[(目的とする目的核種の質量g) + (目的核種の元素の同位体の質量g)]
【0017】
本発明の目的核種の生成方法において、前記親核種から娘核種を生成する娘核種生成工程と、前記娘核種から前記目的核種を生成する目的核種生成工程と、を含み、前記第1工程は、前記娘核種生成工程において前記親核種を含む前記原料から前記目的核種及び前記目的核種の元素の同位体を除去する工程を含むことが好ましい。
【0018】
このような態様によれば、娘核種生成工程において親核種を含む原料から目的核種及びその目的核種の元素の同位体を除去することにより、目的核種生成工程に用いる原料の純度、すなわち娘核種の純度が高まるので、原料に含まれている目的核種及びその目的核種の元素の同位体を減少させることができる。その結果、最終的に得られる目的核種の比放射能を安定させることが可能となる。
【0019】
本発明の目的核種の生成方法において、前記親核種から娘核種を生成する娘核種生成工程と、前記娘核種から前記目的核種を生成する目的核種生成工程と、を含み、前記第1工程は、前記目的核種生成工程の前に前記娘核種から前記目的核種及び前記目的核種の元素の同位体を除去する工程を含むことが好ましい。
【0020】
このような態様によれば、目的核種生成工程の前に娘核種を含む原料から目的核種及びその目的核種の元素の同位体を除去することにより、目的核種生成工程に用いる原料の純度、すなわち娘核種の純度が高まるので、原料に含まれている目的核種及びその目的核種の元素の同位体を減少させることができる。その結果、最終的に得られる目的核種の比放射能を安定させることが可能となる。
【0021】
本発明の目的核種の生成方法において、親核種から娘核種を生成する娘核種生成工程と、前記娘核種から前記目的核種を生成する目的核種生成工程と、を含み、前記除去工程は、前記第2工程を含み、前記目的核種生成工程は、前記娘核種から生成された前記目的核種を吸着材に吸着させる吸着工程と、前記試薬を用いて前記吸着材から前記目的核種を溶離させる溶離工程と、を含むこと、が好ましい。
【0022】
このような態様によれば、溶離工程に用いられる試薬にも、空気中に存在する目的核種の元素の同位体が、混入してしまうことがある。そこで、このように、その試薬からも目的核種及びその目的核種の元素の同位体を除去することによって、試薬の純度を高め、かつ溶離工程の溶離を効率的に行うことができるため、最終的に得られる目的核種の比放射能を安定させることが可能となる。
【0023】
本発明の目的核種の生成方法において、前記第1工程は、前記親核種及び娘核種の少なくとも一方の半減期に基づいて定められたタイミングで実行されることが好ましい。
【0024】
このような態様によれば、親核種及び娘核種の少なくとも一方の半減期に基づいて定められたタイミングで除去工程を実行することにより、前記親核種の放射壊変によって生成される娘核種の生成の安定化を図ることができるので、目的核種の生成の安定化を図ることができる。
【0025】
例えば、親核種及び娘核種の少なくとも一方の半減期に基づいて定められたタイミングを、娘核種の量に応じたタイミングとすることにより、親核種から放射壊変によって生成される娘核種の比放射能を最適化できる。
【0026】
本発明の目的核種の生成方法において、前記溶離工程は、前記娘核種及び目的核種の少なくとも一方の半減期に基づいて定められたタイミングで実行されることが好ましい。
【0027】
このような態様によれば、娘核種及び目的核種の少なくとも一方の半減期に基づいて定められたタイミングで除去工程を実行することにより、前記娘核種の放射壊変によって生成される目的核種の生成の安定化を図ることができるので、目的核種の比放射能の安定化を図ることができる。
【0028】
例えば、娘核種の半減期に基づいて定められたタイミングを、目的核種の量に応じたタイミングとすることにより、娘核種から放射壊変によって生成される目的核種の比放射能を最適化できる。
【0029】
また、例えば、目的核種の半減期に基づいて定められたタイミングを、目的核種の量に応じたタイミングとすることにより、放射壊変によって減少する目的核種の量を限りなく少なくすることができる。
【0030】
目的核種の生成方法は、親核種の放射壊変によって放射性の目的核種を生成する方法であって、前記親核種を含む原料から前記目的核種及び前記目的核種の元素の同位体を取り除く第1工程及び、前記目的核種を生成するために用いられる試薬から前記目的核種及び前記目的核種の元素の同位体を取り除く第2工程の少なくとも一方を実行する除去工程と、前記親核種から娘核種を生成する娘核種生成工程と、前記娘核種から前記目的核種を生成する目的核種生成工程と、を含み、前記親核種は、Th-228であり、前記娘核種は、Ra-224であり、前記目的核種は、Pb-212であり、前記除去工程において、Pb-204、Pb-206、Pb-207及び、Pb-208のうち、少なくとも1種を除去することを特徴とする。
【0031】
このような態様によれば、生成される目的核種であるPb-212の純度を高めることが可能となる。したがって、生成された目的核種の全Pb量あたりの比放射能を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】親核種から娘核種を生成する娘核種生成工程を示すフロー図である。
【
図2】ジェネレータの構成の一例を示す概略構成図である。
【
図3】娘核種から目的核種を生成する目的核種生成工程を示すフロー図である。
【
図4】酸濃度に対する吸着分配係数を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の目的核種の生成方法は、親核種の1又は、複数回の放射壊変によって放射性の目的核種を生成する方法である。
【0034】
目的核種の生成方法は、例えば、親核種から娘核種を生成する娘核種生成工程と、娘核種から目的核種を生成する目的核種生成工程と、を含む。尚、本発明の目的核種の生成方法は、娘核種から目的核種を生成する目的核種生成工程のみが実行されてもよい。
【0035】
目的核種は、実施するユーザが適宜設定することができ、例えば、親核種から生成された娘核種であってもよいし、娘核種から生成された孫核種であってもよい。本実施形態において、娘核種から生成された孫核種を目的核種とした例を説明する。
【0036】
目的核種は、放射性であれば特には限定されないが、例えば、Bi-213、Pb-211、Pb-212等が挙げられる。特に、Pb-211及びPb-212は、天然(安定)同位体(Pb-204、Pb-206、Pb-207及び、Pb-208)を複数種類有するため、比放射能の安定化を図るという観点で目的核種として好ましい。
【0037】
娘核種は、目的核種を生成可能な放射性のものであれば特には限定されないが、例えば、目的核種がPb-212である場合、Ra-224とするとよい。また、目的核種がBi-213である場合、Ac-225とするとよい。さらに、目的核種がPb-211である場合、Ra-223とするとよい。
【0038】
親核種は、娘核種を生成可能な放射性のものであれば特には限定されないが、例えば、娘核種がRa-224である場合、Th-228とするとよい。また、娘核種がAc-225である場合、親核種はTh-229とするとよい。さらに、娘核種がRa-223である場合、親核種はTh-227とするとよい。
【0039】
以下、本発明の一実施形態として、親核種をTh-228とし、娘核種をRa-224とし、目的核種であるPb-212を生成する場合を説明する。
【0040】
図1は、親核種から娘核種を生成する娘核種生成工程を示すフロー図である。
図1に示すように、上記の親核種(Th-228)を含む原料から、目的核種(Pb-212)及びその目的核種の元素の同位体を取り除く除去工程である第1工程が行われる(ステップS101)。尚、この工程で目的核種自体も原料から除去される。第1工程は、親核種を含む原料の目的核種の元素の同位体の量が、例えば、第1工程が実行される前の1/10~1/10000となるように行われるとよく、好ましくは、1/100~1/10000となるように行われるとよく、さらに、好ましくは1/1000~1/10000となるように行われるとよい。
【0041】
第1工程は、目的核種の元素の同位体を吸着する吸着材を用いて行うことができ、例えば、固相抽出剤を用いるカラム分離法によって行うことができる。尚、目的核種の元素の同位体の除去は、イオン交換樹脂カラム分離法、キレート樹脂カラム分離法、溶媒抽出法、沈殿法等によって行われてもよい。
【0042】
目的核種の元素の同位体の除去は、例えば、目的核種の元素をPbとした場合、Pbを吸着可能な高選択性固相抽出剤に分類されるdi-t-butylcyclohexano 18-crown-6(クラウンエーテル)を用いることができる。このような、高選択性固相抽出剤としては、例えば、(商品名:Pb Resin(Pb レジン) eichrom社製)を用いることができる。また、Pbを吸着可能な樹脂を用いて行ってもよく、このような樹脂としては、イオン交換樹脂やキレート樹脂を用いることができる。
【0043】
尚、目的核種をPb-212とした場合、その元素の同位体は、例えば、Pb-204、Pb-206、Pb-207及び、Pb-208等が挙げられる。
【0044】
親核種を含む原料を所定期間保管することにより、親核種の放射壊変によって娘核種が生成される(ステップS102)。親核種を含む原料を保管する所定期間は、親核種から娘核種を効率的に生成することができる期間とするとよく、例えば、親核種の半減期及び娘核種の半減期に基づいて定められるとよい。
【0045】
親核種から娘核種を効率的に生成することができる期間は、例えば、シミュレーションソフトを用いて算出することができる。このようなシミュレーションソフトは、特には限定されないが、例えば、ORIGEN(ORNL Isotope Generation and Depletion Code)(リリース元:オークリッジ国立研究所(ORNL))を用いることができる。親核種を含む原料を保管する所定期間は、親核種がTh-228である場合、例えば、1~100日とするとよく、好ましくは1~30日とするとよく、さらに好ましくは10~20日とするとよい。
【0046】
所定期間が100日を超えると、当該原料中の目的核種(Pb-212)及びその目的核種の元素の同位体の量が増加し、除去工程である第1工程を行った効果が薄れる傾向がある。一方で、生成される娘核種であるRa-224の量を考慮すると、所定期間は30日以内であることが好ましい。さらに、生成される娘核種であるRa-224の量及び生成される目的核種であるPb-212の放射能量を考慮すると、所定期間は、10~20日であることが好ましい。
【0047】
親核種を含む原料を保管する所定期間は、少なくとも必要とする放射能量のRa-224が得られる期間とするとよい。期間を短くすると必要とする放射能量のRa-224を得るために必要なTh-228の放射能量は大きくなり、シミュレーションソフト(ORIGEN)を用いてシミュレーションすることができる。
【0048】
放射壊変に要する十分な時間(所定期間)が経過すると、親核種を含む原料に対して分離操作が行われる(ステップS103)。分離操作は、アイソトープジェネレータ(以下、単にジェネレータとも称する)を用いて行うことができる。
【0049】
図2は、ジェネレータの構成の一例を示す概略構成図である。
図2に示すように、ジェネレータ100は、陰イオン交換樹脂カラム10を有する。イオン交換樹脂カラム10は、例えば、親核種を吸着させることが可能であり、かつ娘核種を吸着させることができない吸着材がカラム内に設けられている。
【0050】
ジェネレータ100は、第1シリンジポンプ20を有する。第1シリンジポンプ20には、例えば、親核種を含む原料が充填されている。
【0051】
第1シリンジポンプ20及び第2シリンジポンプ30は、三方コック40を介して陰イオン交換樹脂カラム10に充填物を供給可能に接続されている。
【0052】
ジェネレータ100は、回収部50を有する。回収部50は、イオン交換樹脂カラム10で親核種を含む原料から分離された娘核種を含む原料を回収可能である。
【0053】
ジェネレータ100は、第2シリンジポンプ30を有する。第2シリンジポンプ30には、例えば、陰イオン交換樹脂カラムに吸着された親核種を含む原料を溶離させることが可能な試薬が充填されている。
【0054】
分離操作は、核種を吸着材に吸着させる吸着工程と、試薬を用いて吸着材から核種を溶離させる溶離工程と、を含む。吸着工程において、第1シリンジポンプ20から親核種を含む原料が陰イオン交換樹脂カラム10に供給されると、陰イオン交換樹脂カラム10の吸着材が親核種を吸着する。娘核種は吸着材に吸着されずに陰イオン交換樹脂カラム10から流出する。陰イオン交換樹脂カラム10から流出された娘核種を含む流出液は、回収部50において回収される。これによって親核種から娘核種を分離回収できる。
【0055】
溶離工程において、第2シリンジポンプ30から試薬が陰イオン交換樹脂カラム10に供給されると、吸着材に吸着された親核種が溶離され、陰イオン交換樹脂カラム10から流出する。親核種を含む流出液は、予め交換された回収部50において回収される。回収された親核種を含む流出液は、必要に応じて原料の親核種として再利用されてもよい。
【0056】
分離操作によって得られた娘核種を含む原料から、目的核種及びその目的核種の元素の同位体を取り除く除去工程である第1工程が行われる(ステップS104)。この第1工程は、ステップS101の第1工程と同様に行うことができる。すなわち、ステップS104では、ステップS101の親核種を含む原料を、娘核種を含む原料とし、例えば、固相抽出剤カラム分離法によって目的核種を除去することができる。
【0057】
ステップS104の第1工程は、娘核種の半減期に基づいて定められたタイミングで実行されるとよい。例えば、Ra-224を娘核種とする場合、Ra-224の半減期は、3.6319日である。
【0058】
よって、ステップS104の第1工程は、ステップS103の分離操作が実行された後、時間の経過に伴ってRa-224の放射能量が減衰するため、ステップS103の分離操作から連続して実施することが好ましい。
【0059】
例えば、ステップS103の分離操作から4日以上経過すると、Ra-224は、ステップS103の工程が終了した直後から50%より少ない放射能量に減衰する恐れがある。また、ステップS103の分離操作から20日以上経過すると、Ra-224は、ステップS103の工程が終了した直後から10%より少ない放射能量に減衰する恐れがある。したがって、ステップS104の第1工程は、ステップS103の分離操作が終了してから4日以内に行われることが好ましい。
【0060】
このようにして得られたRa-224を含む原料は、娘核種から目的核種を生成する目的核種生成工程の原料となる(ステップS105)。
【0061】
図3は、娘核種から目的核種を生成する目的核種生成工程を示すフロー図である。Pb-212は、半減期が10.64時間である。このため、Pb-212を長期間保管することは困難である。そこで、半減期がPb-212よりも十分に長いRa-224を保管し、Pb-212が使用されるタイミングに応じて、これを放射壊変させてPb-212を生成する。
図3に示すように、娘核種であるRa-224を含む原料が所定期間、保管される(ステップS201)。
【0062】
上記の娘核種を含む原料から、目的核種及びその目的核種の元素の同位体を取り除く除去工程である第1工程が行われる(ステップS202)。この第1工程は、ステップS104と同様に行うことができる。このように、第1工程は、目的核種生成工程の前、すなわち、後述する放射壊変工程(ステップS203)が行われる前に娘核種から目的核種及びその目的核種の元素の同位体を除去する工程(ステップS202)を含む。
【0063】
娘核種を含む原料を所定期間を保管することにより、娘核種の放射壊変によって目的核種が生成される(放射壊変工程:ステップS203)。所定期間は、娘核種が生成する目的核種の量が十分に多く(最適な量であり)、かつそのような目的核種を生成することができる期間であるとよく、例えば、娘核種の半減期等に基づいて定められるとよい。
【0064】
娘核種を含む原料を保管する所定期間は、ステップS102と同様にシミュレーションによって算出することができる。所定期間は、娘核種がRa-224である場合、例えば、1時間~36日とするとよく、1~40時間とすることが好ましい。」
【0065】
所定期間が、36日を超えると、Ra-224の放射能量が減少し、生成直後の1/1000となる恐れがある。また、生成されるPb-212の放射能量を考慮すると、1~40時間とするとよい。
【0066】
所定期間は、必要とする比放射能のPb-212が得られる期間である。期間を短くするとより高い比放射能のPb-212を得ることができるが、必要な放射能量のPb-212を得るために必要なRa-224の放射能量は大きくなりシミュレーションソフト(ORIGEN)を用いてシミュレーションすることができる。
【0067】
除去工程として、試薬に含有されている目的核種及びその目的核種の元素の同位体が除去される(第2工程)(ステップS204)。第2工程における目的核種の元素の同位体、特に安定同位体の除去は、ステップS101、ステップS104に準じた方法で行うことができる。試薬は、後述する溶離工程に用いられるものであることが好ましく、例えば、塩酸、硝酸等を用いることができる。
【0068】
放射壊変に要する十分な時間(所定期間)が経過すると、娘核種を含む原料に対して分離操作が行われる(ステップS205)。分離操作は、ジェネレータを用いて、ステップS103と同様の方法で行うことができる。
【0069】
尚、ステップS205の分離操作は、ステップS103の分離操作の際に説明したジェネレータ100を用いて行うことができる。また、ステップS205に用いるジェネレータ100は、陰イオン交換樹脂カラム10に代えて固相抽出材カラム10を用いて行うとよい。
【0070】
すなわち、吸着工程において、第1シリンジポンプ20から娘核種を含む原料が固相抽出材カラム10に供給されると、固相抽出材カラム10の吸着材が目的核種及びその目的核種の元素の同位体を吸着する。娘核種及び目的核種以外の目的核種(例えばBi-212など)は、吸着材に吸着されずに固相抽出材カラム10から溶離する。これによって娘核種及び目的核種以外の核種(例えばBi-212)から目的核種を分離できる。なお、娘核種及び目的核種以外の核種(例えばBi-212)を含む固相抽出材カラム10から溶離した溶離液は、回収部50において回収される。尚、溶離液の娘核種は必要に応じて目的核種を生成するための原料として再利用されてもよい。
【0071】
溶離工程において、第2シリンジポンプ30から試薬が固相抽出材カラム10に供給されると、吸着材に吸着された目的核種及びその目的核種の元素の同位体が溶離される。目的核種及びその目的核種の元素の同位体を含む溶離液は、予め交換された回収部50において回収される。
【0072】
ステップS205の溶離工程においては、ステップS204で精製した試薬を用いるとよい。また、当該溶離工程は、娘核種及び目的核種の少なくとも一方の半減期に基づいて定められたタイミングで実行されるとよい。
【0073】
例えば、Ra-224を娘核種とする場合、Ra-224の半減期は、3.6319日である。Pb-212を目的核種とする場合、Pb-212の半減期は、10.64時間である。
【0074】
したがって、Pb-212を溶離させる場合、溶離工程のタイミングは、1時間後~36日後とするとよく、さらには1~40時間後とするとよい。
【0075】
このようにして生成されたPb-212は、例えば、標的治療等の治療薬に用いることができる。(ステップS206)。
【0076】
このように、本発明の目的核種の生成方法は、娘核種を含む原料から目的核種及びその目的核種の元素の同位体を取り除く第1工程及び、目的核種を生成するために用いられる試薬から目的核種及びその目的核種の元素の同位体を取り除く第2工程の少なくとも一方を実行する除去工程を含む。尚、除去工程は、第1工程及び第2工程のうちいずれかが、1回でも行われていればよく、第1工程及び第2工程の各々が複数回行われるようにしてもよい。
【0077】
尚、上記の除去工程においては、目的核種の元素の同位体に関係なく、目的核種及びその目的核種の元素の同位体は吸着材に吸着される。したがって、原料からは、目的核種の元素の同位体とともに、その目的核種が取り除かれる。
【0078】
例えば、Pb-212を目的とする目的核種とする場合、除去工程においては、Pb-204、Pb-206、Pb-207及び、Pb-208のうち、少なくとも1種が除去され、同位体を選択的に吸着することが可能な吸着材を用いない限り、これらは区別なく除去工程において除去される。
【実施例0079】
[試験例1](比放射能の比較)
(比較例によるPb-212の生成)
以下の手順で比較例によるPb-212の生成を行った。
【0080】
Th-228(10MBq)の原料を取得した。Th-228(10MBq)の原料は、使用するまで100日間経過した後、さらに2週間保管されたものを使用した。
工程(1-1) 親核種(Th-228)を含む上記の原料を陰イオン交換樹脂カラム分離法で30分かけて娘核種を分離した。
工程(1-2) 工程(1-1)において分離された娘核種(Ra-224)を含む原料を50時間保管した。
工程(1-3) 娘核種(Ra-224)を含む原料をさらに40時間保管して放射壊変によりPb-212を生成した。
工程(1-4) 工程(1-3)で生成した原料を2時間かけて、陽イオン交換樹脂カラム分離法でRa-224、Bi-212等からPb-212を溶離した。
【0081】
上記の工程(1-1)~(1-4)が終了した時点でのそれぞれの溶液中に含まれる親核種Th-228、娘核種Ra-224、目的核種Pb-212及びその目的核種の元素の同位体Pb-208の放射能量と質量をシミュレーションソフト(ORIGEN)を用いて算出した。その結果を表1に示す。
【0082】
表1に示すように、Th-228(10 MBq)を原料としたときの目的核種であるPb-212の生成放射能量は、4.4 MBq(8.6 x 10-11 g)であった。このPb-212には3.2x10-8gのPb-208が含まれる。
【0083】
Pb-212の比放射能を(Pb-212の放射能量Bq)/[(Pb-212の質量g) + (Pb-208の質量g)]と定義すると、Pb-212の比放射能は1.4 x 1014 Bq/gである。
ここで、キャリヤ―フリーのPb-212の比放射能である5.14 x 1016 Bq/gと比較すると、Pb-212の比放射能はその0.3%である。表3にその結果を示す。
【0084】
【0085】
(実施例によるPb-212の生成)
以下の手順で実施例によるPb-212の生成を行った。
【0086】
Th-228(10 MBq)の原料を取得し、使用するまで100日間保管した。
工程(2-1) 原料を使用する直前に、Pb Resinを用いて、Th-228溶液に含まれる目的核種(Pb-212及びPb-208等)をその量が1/1000になるよう除去した(除去工程 第1工程)。
工程(2-2) Th-228溶液における娘核種の量が1/100になるように娘核種及び目的核種の除去を行った。娘核種及び目的核種の除去は、陰イオン交換樹脂カラム分離法で30分行った。
工程(2-3) 工程(2-3)実施後のTh-228を所定期間(2週間)保管して放射壊変によりRa-224を生成した。
工程(2-4) 保管後の親核種を含む原料から30分かけて娘核種を分離した。
工程(2-5) Pb Resinを用いて、Ra-224溶液に含まれる目的核種(Pb-212及びPb-208)をその量が1/100になるよう除去した(除去工程 第1工程)。
工程(2-6) 工程(2-6)が行われた娘核種Ra-224を含む原料を50時間保管した。
工程(2-7) Pb Resinを用いて、Ra-224溶液に含まれる目的核種(Pb-212及びPb-208)をその量が1/100になるよう除去した(除去工程 第1工程)。
工程(2-8) Ra-224を含む原料を10時間保管して放射壊変によりPb-212を生成した。
工程(2-9) 溶離工程に用いられる試薬に含まれる目的核種の元素の同位体(Pb-204, Pb-206, Pb-207及びPb-208等)をPb Resinを用いてその濃度が1×10-12 g /mL (1ppt)以下になるよう除去した(除去工程 第2工程)。
工程(2-10) 工程(2-9)で生成したPb-212等を含むRa-224原料を1時間かけて、固相抽出剤カラム分離法(Pb Resinカラム法)で分離操作してRa-224、Bi-212等からPb-212を分離した。
【0087】
上記の工程(2-1)~(2-10)が終了した時点でのそれぞれの溶液中に含まれる親核種Th-228、娘核種Ra-224、目的核種Pb-212及びその目的核種の元素の同位体Pb-208の放射能量と質量をシミュレーションソフト(ORIGEN)を用いて算出した。その結果を表2に示す。
【0088】
その結果によると、本発明の目的核種の生成方法を用いて、Th-228(10 MBq)を原料としたときの目的核種であるPb-212の放射能量は2.4 MBq(4.7 × 10-11 g)であった。このPb-212には1.8 ×10-11gのPb-208が含まれていた。
【0089】
比較例の説明と同様にしてPb-212の比放射能を定義し算出した結果、実施例で得られるPb-212の比放射能は3.7 × 1016 Bq/gであった。この比放射能は、キャリヤフリーPb-212の比放射能の72%である。
【0090】
【0091】
【0092】
上述の通り、本発明の目的核種の生成方法で得られる実施例のPb-212製品の比放射能は、既往の方法で生成した比較例のPb-212よりも約240倍高い。
【0093】
[試験例2](目的核種の生成時間の比較)
試験例1で説明した、比較例の工程(1-6)の保管時間を10時間とした場合、実施例の工程(2-9)の保管時間を10時間とした場合の各々のPb-212の量及び比放射能を表4に示す。ただし、条件を揃えるために分離操作時間を含めなかった。
【0094】
【0095】
試験例1で説明した、比較例の工程(1-6)の保管時間を40時間とした場合、実施例の工程(2-9)の保管時間を40時間とした場合の各々のPb-212の量及び比放射能を表5に示す。ただし、条件を揃えるために分離操作時間を含めなかった。
【0096】
【0097】
表4及び表5に示すように、実施例で生成したPb-212の比放射能は、比較例よりも高いことが分かった。また、比較例及び実施例で生成したPb-212の比放射能は、保管時間40時間よりも保管時間10時間の方が高いことが分かった。しかも実施例で顕著であった。
【0098】
[試験例3](酸濃度に対する吸着分配係数の測定)
酸濃度が異なる溶液を用いてPb吸着試験を行い、分配係数を算出した。すなわち、吸着材であるPb Resin(eichrom社製)へのTh(IV)、Ra(II)、Pb(II)及びBi(III)の吸着挙動を試験した。
【0099】
(分配係数の算出)
分配係数(K
d)は、下記の式(1)によって求めた。
【数1】
【0100】
(元素濃度及び放射能濃度の測定)
Th、Pb、Bi等の元素濃度の測定は、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS;Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry)、放射能濃度の測定はGe検出器を用いたガンマ線スペクトロメトリーにて行った。
【0101】
(酸濃度の測定)
酸として、硝酸溶液を用いた。硝酸溶液の酸濃度は、フェノールフタレインを指示薬として中和滴定により決定した。
【0102】
図4は、酸濃度に対する吸着分配係数の測定結果を示している。具体的には、
図4は、Pb ResinへのRa(II)及びPb(II)の吸着挙動を調べた結果を示している。
図4に示すように、高濃度の硝酸溶液(例えば8M HNO
3)からでもPb(II)が高効率でPb Resinに吸着すること(KD = 600~700mL/g)、及び8 M HNO
3中からTh(IV)はPb Resinに吸着しないこと(KD = <10 mL/g)が解った。
【0103】
これに基づき、Pb Resinカラムを通して、主にTh-228、Pb-212及びPb-208を含む8 M HNO3溶液を流すことによって、Th-228溶液中に含まれる鉛の同位体、即ちPb-212及びPb-208等を、その当初含まれていた量の1,000分の1以下に低減することができる。
【0104】
また、広範囲の濃度の硝酸溶液からPb(II)が高効率でPb Resinに吸着すること、及びRa(II)はPb Resinに吸着しないことが解った。例えば1M HNO3溶液からのPb Resinへの分配係数は、Pb(II)についてKD = 2,000~3,000 mL/g、及びRa(II)についてKD = 10mL/gであった。これに基づき、Pb Resinを用いて、Ra-224溶液中に含まれる鉛同位体の全量を、その初期量の100分の1以下に低減することができる。