IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱マテリアル株式会社の特許一覧

特開2022-138051コロイド粒子の製造方法及びコロイド粒子
<>
  • 特開-コロイド粒子の製造方法及びコロイド粒子 図1
  • 特開-コロイド粒子の製造方法及びコロイド粒子 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022138051
(43)【公開日】2022-09-22
(54)【発明の名称】コロイド粒子の製造方法及びコロイド粒子
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/24 20060101AFI20220914BHJP
   B22F 9/00 20060101ALI20220914BHJP
【FI】
B22F9/24 Z
B22F9/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021037835
(22)【出願日】2021-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】生田 大悟
(72)【発明者】
【氏名】樋上 晃裕
【テーマコード(参考)】
4K017
【Fターム(参考)】
4K017AA04
4K017AA08
4K017BA09
4K017BB17
4K017CA08
4K017DA01
4K017EJ01
(57)【要約】
【課題】量子収率の低下を抑制する。
【解決手段】コロイド粒子の製造方法は、InAsコロイド粒子を準備するInAsコロイド粒子準備ステップS10と、InAsコロイド粒子にCd及びSeを含む原料を供給して、InAsコロイド粒子の表面がCdSeシェルで被覆されたコロイド粒子を生成するコロイド粒子生成ステップS16と、を含む。コロイド粒子生成ステップS16においては、供給される原料に含まれるCd及びSeの全てがCdSeシェルを形成されるために用いられたと仮定した場合に、CdSeシェルの厚みが2.1nm以上4.2nm以下となる量である原料供給量の原料を供給する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
InAsコロイド粒子を準備するInAsコロイド粒子準備ステップと、
前記InAsコロイド粒子にCd及びSeを含む原料を供給して、前記InAsコロイド粒子の表面がCdSeシェルで被覆されたコロイド粒子を生成するコロイド粒子生成ステップと、
を含み、
前記コロイド粒子生成ステップにおいては、供給される前記原料に含まれるCd及びSeの全てが前記CdSeシェルを形成されるために用いられたと仮定した場合に、前記CdSeシェルの厚みが2.1nm以上4.2nm以下となる量である原料供給量の前記原料を供給する、コロイド粒子の製造方法。
【請求項2】
InAsコロイド粒子が分散した分散液を準備する分散液準備ステップをさらに含み、
前記コロイド粒子生成ステップにおいては、前記分散液に、Cdを含むCd原料液とSeを含むSe原料液とを前記原料として添加して、前記コロイド粒子を生成する、請求項1に記載のコロイド粒子の製造方法。
【請求項3】
前記分散液を240℃以上260℃以下に加熱する加熱ステップをさらに含み、
前記コロイド粒子生成ステップにおいては、240℃以上260℃以下の前記分散液に、前記Cd原料液と前記Se原料液とを添加する、請求項2に記載のコロイド粒子の製造方法。
【請求項4】
前記コロイド粒子生成ステップにおいては、前記原料供給量よりも少ない量の前記原料を供給して所定時間保持する工程を繰り返して、前記原料の合計供給量を前記原料供給量とする、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のコロイド粒子の製造方法。
【請求項5】
前記InAsコロイド粒子準備ステップは、Inを含むIn原料液と、トリフェニルアルシンから製造されてAsを含むAs原料液とを混合して、InAsコロイド粒子を製造する、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のコロイド粒子の製造方法。
【請求項6】
コアとなるInAsコロイド粒子と、前記InAsコロイド粒子を被覆するCdSeシェルと、を含むコロイド粒子であって、
前記CdSeシェルの厚みが、1.0nm以上2.4nm以下である、コロイド粒子。
【請求項7】
前記InAsコロイド粒子の量子収率が、0.1以下である、請求項6に記載のコロイド粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コロイド粒子の製造方法及びコロイド粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽電池、光検出器(赤外線センサ等)、レーザ等の材料として、InAsコロイド粒子を用いることが検討されている。InAsコロイド粒子の製造方法としては、塩化インジウム(InCl)とトリメチルシリルアルシン(As[Si(CH)])の反応を用いる手法が挙げられる。例えば非特許文献1、2には、トリメチルシリルアルシンを用いて生成したInAsコロイド粒子の表面にCdSeシェルを被覆して量子収率を向上させる旨が記載されている。しかし、トリメチルシリルアルシンは、水蒸気と反応して、毒性が極めて高くかつ爆発のおそれもあるアルシン(AsH)が生成される問題点があった。そのため、非特許文献3及び特許文献1には、トリメチルシリルアルシンの代わりに、安全かつ簡便で処理し易いトリフェニルアルシン(As(C)を用いてInAsコロイド粒子を製造する旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-131685号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Y.W.Cao, U.Banin; J.Am.Chem.Soc., 2000, 122, 9692-9072
【非特許文献2】A.Aharoni, U.Banin; J.Am.Chem.Soc., 2006, 128, 257-264
【非特許文献3】上杉秀雄、界面活性剤により相および形状が制御されたコロイダル半導体量子ドットの合成法に関する研究、大阪大学大学院工学研究科マテリアル生産科学専攻博士論文、2015年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
InAsコロイド粒子は、量子収率が低くなることによってコロイド粒子としての機能が低下するという問題がある。特にトリフェニルアルシンを用いた場合には、InAsコロイド粒子は、欠陥が多くなり、量子収率の低下が顕著となる。従って、InAsを含むコロイド粒子について、量子収率の低下を抑制することが求められている。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、量子収率の低下を抑制可能なコロイド粒子の製造方法及びコロイド粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係るコロイド粒子の製造方法は、InAsコロイド粒子を準備するInAsコロイド粒子準備ステップと、前記InAsコロイド粒子にCd及びSeを含む原料を供給して、前記InAsコロイド粒子の表面がCdSeシェルで被覆されたコロイド粒子を生成するコロイド粒子生成ステップと、を含み、前記コロイド粒子生成ステップにおいては、供給される前記原料に含まれるCd及びSeの全てが前記CdSeシェルを形成されるために用いられたと仮定した場合に、前記CdSeシェルの厚みが2.1nm以上4.2nm以下となる量である原料供給量の前記原料を供給する。
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係るコロイド粒子は、コアとなるInAsコロイド粒子と、前記InAsコロイド粒子を被覆するCdSeシェルと、を含むコロイド粒子であって、前記CdSeシェルの厚みが、1.0nm以上2.4nm以下である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、量子収率の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本実施形態に係るコロイド粒子の製造方法を説明するフローチャートである。
図2図2は、本実施形態に係るコロイド粒子の模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための形態(以下、実施形態という)により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0012】
図1は、本実施形態に係るコロイド粒子の製造方法を説明するフローチャートであり、図2は、本実施形態に係るコロイド粒子の模式的な断面図である。図2に示すように、本実施形態に係るコロイド粒子10は、InAsで構成されるコロイド粒子であるInAsコロイド粒子12の表面が、CdSeで構成されるシェルであるCdSeシェル14で被覆されたコロイド粒子である。以下、本実施形態に係るコロイド粒子の製造方法について説明する。
【0013】
(コロイド粒子の製造方法)
(InAsコロイド粒子準備ステップ)
本製造方法においては、図1に示すように、コアとなるInAsコロイド粒子12を準備する(ステップS10;InAsコロイド粒子準備ステップ)。本ステップにおいては、InとAsの原料液を調製する原料液調整工程と、各原料液を合成してInAsコロイド粒子12を得る合成工程と、得られたInAsコロイド粒子12を回収する回収工程とを実行する。
【0014】
(原料液調整工程)
原料液調整工程においては、インジウム原料液(In原料液)を調製する。
【0015】
In原料液の調整用のIn源としては、臭化インジウム(InBr)を用いてよい。この場合、不活性ガスで置換した雰囲気下で、容器にIn源としてのInBrを入れ、これに界面活性剤としてトリオクチルホスフィン(C2451P:TOP)と、オレイルアミン(C1837N:OLA)とを加えて混合する。なお、不活性ガスは、例えばArガスなどの希ガスであるが、それに限られず例えば窒素ガスなどであってもよい。次に、上記混合液を所定温度に保持した恒温槽内で振とう機に所定時間かけてInBrを溶解して、In原料液を調製する。添加するTOPは、OLAに対して、モル比で、0.75以上かつ2.0以下が好ましく、1.4以上かつ2.0以下がより好ましい。即ち、TOP/OLAが、モル比で、好ましくは0.75以上かつ2.0以下、より好ましくは1.4以上かつ2.0以下となるように、TOPがOLAに対して添加される。また、TOP及びOLAからなる界面活性剤は、InBr(In源)に対して、モル比で、好ましくは40以上かつ109以下、より好ましくは86以上かつ109以下の割合で添加される。即ち、界面活性剤/InBrが、モル比で、好ましくは40以上かつ109以下、より好ましくは86以上かつ109以下となるように、界面活性剤がInBrに対して添加される。また、振とう機にかけるときの恒温槽内の所定温度は50℃以上70℃以下であることが好ましく、60℃であることが更に好ましい。更に、振とう機にかける所定時間は、0.5時間以上5時間以下であることが好ましく、1時間であることが更に好ましい。
【0016】
TOP/OLAを好ましくはモル比で0.75以上とし、界面活性剤/InBrを好ましくはモル比で40以上とすることで、InAsの収率の低下を抑制し、TOP/OLAを好ましくはモル比で2.0以下とし、界面活性剤/InBrを好ましくはモル比で109以下とすることで、凝集が生じることを抑制できる。また、振とう機にかけるときの恒温槽内の好ましい所定温度を50℃以上とすることで、InBr3又はInIの溶解速度の低下を抑制し、80℃以下とすることで、振とう機の耐熱性に問題が発生することを抑制できる。更に、振とう機にかける好ましい所定時間を0.5時間以上とすることで、InBr3又はInIの未溶解物が残存することを抑制し、5時間以下とすることで、作業効率の低下を抑制できる。
【0017】
In原料液の調整用のIn源としては、ヨウ化インジウム(InI)を用いてよい。この場合、In源がInBr3である場合と同様にして、In原料液を調製する。添加するTOPは、OLAに対して、モル比で、0.14以上かつ2.0以下が好ましく、1.4以上かつ2.0以下がより好ましい。即ち、TOP/OLAが、モル比で、好ましくは0.14以上かつ2.0以下、より好ましくは1.4以上かつ2.0以下となるように、TOPがOLAに対して添加される。また、TOP及びOLA からなる界面活性剤は、InI(In源)に対して、モル比で、好ましくは40以上かつ109以下、より好ましくは86以上かつ109以下の割合で添加される。即ち、界面活性剤/InIが、モル比で、好ましくは40以上かつ109以下、より好ましくは86以上かつ109以下となるように、界面活性剤がInIに対して添加される。また、振とう機にかけるときの恒温槽内の温度や時間は、In源がInBr3である場合と同様であるので、繰返しの説明を省略する。このように、TOP/OLAを好ましくはモル比で0.14以上とし、界面活性剤/InIを好ましくはモル比で40以上とすることで、InAsの収率の低下を抑制し、TOP/OLAを好ましくはモル比で2.0以下とし、界面活性剤/InIを好ましくはモル比で109以下とすることで、凝集が生じることを抑制できる。
【0018】
原料液調整工程においては、ひ素原料液(As原料液)を調製する。この場合、不活性ガスで置換した雰囲気下で、容器にAs源としてのトリフェニルアルシン(As(C)を入れ、これに溶媒としてのオクタデセン(C1836:ODE)を加えて混合し、トリフェニルアルシン((AsC)をオクタデセン(C1836:ODE)に溶解することにより、As原料液を調製する。
【0019】
(合成工程)
合成工程においては、In原料液とAs原料液とを混合して、In原料液とAs原料液とが混合された溶液を合成する。本実施形態では、不活性ガスで置換した雰囲気下で、As原料液が入っている容器にIn原料液を入れて、ミキサー等で十分撹拌し、In原料液とAs原料液とを混合した溶液を調製する。
【0020】
合成工程においては、上記溶液を、好ましくは300℃以上350℃以下、より好ましくは320℃以上330℃以下に加熱して、InAsコロイド粒子12の核を生成させる。ここで、溶液を加熱する温度を300℃以上とすることで、InAsコロイド粒子12の核を適切に生成させ、350℃以下とすることで、溶液中の有機溶媒の揮発の影響を抑制できる。また、溶液を加熱する温度に20分以上40分以下程度(約30分間)保持すると、溶液が着色し始めてInAsコロイド粒子12の核が生成される。次に、InAsコロイド粒子12の核が生成した溶液を上記の温度で所定の時間保持してInAsコロイド粒子12の核を粒成長させる。着色後の加熱保持時間は、好ましくは5分以上50分以下、より好ましくは15分以上40分以下である。ここで、この加熱保持時間を5分以上とすることで、InAsコロイド粒子12の収量の減少を抑制してInAsコロイド粒子12の製造効率低下を抑制し、50分以下とすることで、量産したときの経済効率の低下を抑制できる。
【0021】
次に、InAsコロイド粒子12の核が粒成長してInAsコロイド粒子12が分散した溶液を室温まで冷却する。この溶液の冷却は、大気中に放置する自然冷却でもよいが、冷却時間を短縮できるファンを用いた強制冷却でもよい。
【0022】
(回収工程)
回収工程においては、合成工程で得られたInAsコロイド粒子12を回収する。本実施形態では、室温まで冷却した溶液にエタノールを添加して凝集させた後に、遠心分離により遠沈物(InAsコロイド粒子12)と上澄液とに分離する。次いで、遠沈物(InAsコロイド粒子12)にヘキサノールを添加して洗浄した後に、遠心分離により遠沈物(InAsコロイド粒子12)と上澄液とに分離する。次に、遠心分離により得られた遠沈物をチューブミキサーと超音波洗浄機を用いて撹拌し、InAs及び有機物を含んだ凝集物を解砕する。更に、この解砕物を減圧乾燥してInAsコロイド粒子12の乾燥物を得る。
【0023】
本実施形態に係るInAsコロイド粒子準備ステップでは、以上のような方法でInAsコロイド粒子12を製造するが、InAsコロイド粒子12は、任意の方法で製造されてよい。ただし、本実施形態においては、Inを含むIn原料液と、トリフェニルアルシンから製造されてAsを含むAs原料液とを混合して、InAsコロイド粒子12を製造することが好ましい。トリフェニルアルシンを用いてInAsコロイド粒子12を製造することで、トリメチルシリルアルシンを用いる必要がなくなり、アルシン(AsH)が生成されることを防止できる。
【0024】
(分散液準備ステップ)
InAsコロイド粒子12が準備されたら、InAsコロイド粒子12が分散した分散液を準備する(ステップS12;分散液準備ステップ)。本実施形態では、容器にInAsコロイド粒子12を入れ、これに溶媒としてのオクタデセン(C1836:ODE)と、界面活性剤としてのオクタデシルアミン(CH(CH17NH:ODA)とを加えて混合し、InAsコロイド粒子12が分散した分散液とする。添加するODEの量は、InAsコロイド粒子12に対して、モル比で、100以上かつ3000以下が好ましく、300以上かつ2500以下がより好ましい。また、添加するODAの量は、InAsコロイド粒子12に対して、モル比で、50以上かつ800以下が好ましく、100以上かつ700以下がより好ましい。ODEやODAの添加量がこの範囲となることで、InAsコロイド粒子12を適切に分散できる。
【0025】
(加熱ステップ)
次に、分散液を加熱する(ステップS14;加熱ステップ)。本実施形態では、得られた分散液を、空気を脱気しつつ不活性ガスで置換した雰囲気下で、所定の加熱温度に加熱する。加熱温度は、240℃以上260℃以下であることが好ましく、245℃以上255℃以下であることがより好ましい。加熱温度を240℃以上とすることで、InAsコロイド粒子12の表面にCdSeシェルを適切に形成させ、加熱温度を260℃以下とすることで、InAsコロイド粒子12の表面以外の箇所でCdSeが析出することを抑制できる。ただし、加熱ステップは必須のプロセスではない。
【0026】
(コロイド粒子生成ステップ)
次に、Cd及びSeを含む原料を、InAsコロイド粒子12が分散した分散液に添加して、InAsコロイド粒子12の表面をCdSeシェル14で被覆して、コロイド粒子10を生成する(S16:コロイド粒子生成ステップ)。本実施形態では、Cd及びSeを含む原料として、Cd原料液とSe原料液とを用いる。また、本実施形態では、分散液を加熱温度に加熱した環境下で、分散液に、Cd原料液とSe原料液を供給することで、コロイド粒子10を生成する。コロイド粒子生成ステップでは、分散液に分散した状態でのコロイド粒子10が得られる。
【0027】
(Cd原料液)
Cd原料液は、Cdを含む溶液である。本実施形態においては、オレイン酸とオクタデセンの混合溶液に、無水酢酸カドミウム二水和物を添加し、不活性ガスで置換した雰囲気下で、所定の温度に加熱しながら所定の時間攪拌することで、無水酢酸カドミウム二水和物を溶解させて、溶液状のCd原料液を製造する。Cd原料液におけるオレイン酸の量は、Cdに対して、モル比で6以上10以下であることが好ましく、7以上9以下であることがより好ましい。また、オクタデセンの量は、Cdに対して、モル比で50以上90以下であることが好ましく、60以上80以下であることがより好ましい。すなわち、本実施形態では、Cdの含有量が上記数値範囲となる量の無水酢酸カドミウム二水和物を、オレイン酸とオクタデセンの混合溶液に添加することが好ましい。Cdの含有量が上記数値範囲となることで、InAsコロイド粒子12の表面にCdSeシェルを適切に形成させることができる。また、無水酢酸カドミウム二水和物を溶解させる際の温度は、180℃以上220℃以下が好ましく、190℃以上210℃以下がより好ましい。また、攪拌する時間は、20分以上3時間以下が好ましく、30分以上2時間以下がより好ましい。加熱する温度や攪拌する時間をこの範囲とすることで、無水酢酸カドミウム二水和物を適切に溶解できる。ただし、Cd原料液の製造方法は以上の説明に限られず任意であってよい。
【0028】
(Se原料液)
Se原料液は、Seを含む溶液である。本実施形態においては、オクタデセンの溶液に、固体状の単体セレン(ここでは粉末状の単体セレン)を添加し、不活性ガスで置換した雰囲気下で、所定の温度に加熱しながら所定の時間攪拌することで、単体セレンを溶解させて、溶液状のSe原料液を製造する。Se原料液におけるオクタデセンの量は、Seに対して、モル比で60以上100以下であることが好ましく、70以上90以下であることがより好ましい。すなわち、本実施形態では、Seの含有量が上記数値範囲となる量の単体セレンを、オクタデセンの溶液に添加することが好ましい。Seの含有量が上記数値範囲となることで、InAsコロイド粒子12の表面にCdSeシェルを適切に形成させることができる。また、単体セレンを溶解させる際の温度は、270℃以上310℃以下が好ましく、280℃以上300℃以下がより好ましい。また、攪拌する時間は、20分以上3時間以下が好ましく、30分以上2時間以下がより好ましい。加熱する温度や攪拌する時間をこの範囲とすることで、セレンを適切に溶解できる。ただし、Se原料液の製造方法は以上の説明に限られず任意であってよい。
【0029】
(Cd原料液とSe原料液の供給量)
ここで、分散液に添加するCd原料液及びSe原料液の合計量を、言い換えれば、InAsコロイド粒子12に供給するCd及びSeを含む原料の量を、原料供給量とする。また、InAsの結晶格子の長さを1ML(1モノレイヤー)とする。この場合、本実施形態では、供給したCd及びSeを含む原料(ここではCd原料液及びSe原料液)に含まれるCd及びSeの全てがCdSeシェル14を形成されるために用いられたと仮定した場合に、CdSeシェル14の厚みが6ML以上12ML以下となる原料の量を、原料供給量とする。すなわち本実施形態では、原料供給量の分のCd及びSeを含む原料が供給され、かつ、供給された原料に含まれるCd及びSeの全てがCdSeシェル14を形成されるために用いられたと仮定した場合には、CdSeシェル14の厚みが6ML以上12ML以下となる、といえる。また、原料供給量は、供給したCd及びSeを含む原料(ここではCd原料液及びSe原料液)に含まれるCd及びSeの全てがCdSeシェル14を形成されるために用いられたと仮定した場合に、CdSeシェル14の厚みが4ML以上14ML以下となる量であることが好ましく、5ML以上13ML以下となる量であることがより好ましい。
【0030】
なお、Cd及びSeを含む原料に含まれるCd及びSeの全てがCdSeシェル14を形成されるために用いられたと仮定した場合に、CdSeシェル14が所定厚みとなるために必要な原料の供給量は、CdSeシェル14の所定厚みに基づいて算出できる。一例として、InAsの結晶格子の長さである1MLが0.35nm、InAsコロイド粒子12の粒径が4.4nm、InAsコロイド粒子12の合計重量が1.8mg(0.0095mmol)である場合に、InAsコロイド粒子12のそれぞれに対してCdSeシェル14の厚みを1MLとする場合の、原料の供給量を説明する。この場合、1つのInAsコロイド粒子12の表面積を33.5nmと見積ると、それぞれのInAsコロイド粒子12の合計の表面積が1.06×1018nmとなり、それらのInAsコロイド粒子12の全てを1ML(0.35nm)の厚みで被覆したCdSeシェル14の体積は、3.71×1017nmとなる。それにCdSe密度5.82×10-21g/nmを乗じると、必要なCdSe重量は2.16mg(1.13×10-5mol)となる。これを、例えばCd原料液およびSe原料液の濃度0.04mol/Lで割ると、CdSeシェル14の厚みを1MLとするのに必要なCd原料液及びSe原料液の供給量は、いずれも0.28mL(合計で0.56mL)であることが分かる。そのため例えば、CdSeシェル14の厚みを6MLとする場合の原料供給量は、以上の計算で用いた数値を適用した場合には、Cd原料液及びSe原料液のいずれも、1.68mL(合計で3.36mL)となる。ただし、上記の原料の供給量の計算に用いた数値は一例である。
【0031】
上述のように、InAsの結晶格子の長さである1MLは、0.35nmである。従って、原料供給量は、CdSeシェル14の厚みをnmオーダーとして規定することもできる。この場合、本実施形態では、原料供給量は、供給したCd及びSeを含む原料(ここではCd原料液及びSe原料液)に含まれるCd及びSeの全てがCdSeシェル14を形成されるために用いられたと仮定した場合に、CdSeシェル14の厚みが2.1nm以上4.2nm以下となる量であり、CdSeシェル14の厚みが1.4nm以上4.9nm以下となる量であることが好ましく、CdSeシェル14の厚みが1.8nm以上4.6nm以下となる量であることがより好ましい。
【0032】
以上のように、原料供給量を、CdSeシェル14の厚みが6ML(2.1nm)以上となる量にすることで、InAsコロイド粒子12の表面を十分に被覆して、量子収率を適切に向上させることができる。また、原料供給量を、CdSeシェル14の厚みが12ML(4.2nm)以下となる量にすることで、CdSeシェル14の内部での欠陥生成を抑制して、量子収率を適切に向上させることができる。なお、量子収率については後述で説明する。
【0033】
なお、本実施形態においては、上述の原料供給量よりも少ない量の原料(Cd原料液及びSe原料液)を分散液に供給して所定時間保持する工程を複数回繰り返して、原料の合計の供給量を、原料供給量とする。このように少量ずつの原料を加えて所定時間保持する工程を繰り返すことで、CdやSeの濃度が上昇することを抑制して、InAsコロイド粒子12の表面以外の箇所にCdSeが析出することを抑制できる。なお、このように少量ずつ添加する工程を繰り返す場合には、各工程での原料の添加量は均等であることが好ましい。また、工程の繰り返し回数は任意であってよいが、例えば2回以上5回以下が好ましく、2回以上3回以下がより好ましい。また、少量の原料を添加した後の保持時間は、5分以上30分以下が好ましく、10分以上20分以下がより好ましい。工程の繰り返し回数や保持時間をこの範囲とすることで、CdやSeの濃度が上昇することを抑制しつつ、InAsコロイド粒子12の表面にCdSeを適切に析出させることができる。ただし、このように工程を繰り返すことは必須ではなく、1回に原料供給量の全量の原料を、分散液に供給してもよい。
【0034】
(回収ステップ)
次に、得られたコロイド粒子10を回収する(S18:回収ステップ)。回収ステップにおいては、コロイド粒子10が分散した分散液を室温まで冷却する。分散液の冷却は、大気中に放置する自然冷却でもよいが、冷却時間を短縮できるファンを用いた強制冷却でもよい。そして、室温まで冷却した分散液にエタノールを添加して凝集させた後に、遠心分離により遠沈物(コロイド粒子10)と上澄液とに分離する。次いで、遠沈物(コロイド粒子10)にヘキサノールを添加して洗浄した後に、遠心分離により遠沈物(コロイド粒子10)と上澄液とに分離する。次に、遠心分離により得られた遠沈物をチューブミキサーと超音波洗浄機を用いて撹拌し、コロイド粒子10及び有機物を含んだ凝集物を解砕する。更に、この解砕物を減圧乾燥してコロイド粒子10の乾燥物を得る。
【0035】
(コロイド粒子分散液調整ステップ)
次に、コロイド粒子10の乾燥物にテトラクロロエチレンを添加して、コロイド粒子10が分散したコロイド粒子分散液を調製する(S20:コロイド粒子分散液調整ステップ)。
【0036】
本製造方法では、以上の工程により、コロイド粒子10を製造する。
【0037】
(コロイド粒子)
次に、本実施形態に係るコロイド粒子10の特性について説明する。本実施形態に係るコロイド粒子10は、上述で説明した本実施形態に係る製造方法で製造される。ただし、本実施形態に係るコロイド粒子10は、上述で説明した本実施形態に係る製造方法で製造されることに限られず、任意の方法で製造されてもよい。
【0038】
図2に示すように、コロイド粒子10は、コアであるInAsコロイド粒子12の表面がCdSeシェル14で覆われた構成となっている。
【0039】
InAsコロイド粒子12の平均粒径D1は、3.8nm以上5.6nm以下であることが好ましく、4.0nm以上5.2nm以下であることがより好ましい。平均粒径D1がこの範囲となることで、量子サイズ効果に基づいたコロイド粒子としての機能を適切に発揮できる。なお、本実施形態でのInAsコロイド粒子12の平均粒径D1は、X線小角散乱法により測定した平均粒径である。
【0040】
InAsコロイド粒子12の量子収率は、例えば0.1以下であってよい。InAsコロイド粒子12は、例えばトリフェニルアルシンを用いて製造されることにより、トリメチルシリルアルシンを用いる必要がなくなり、製造時にアルシン(AsH)が生成されることを防止できるが、比較的欠陥が大きくなることで、量子収率がこのような比較的小さな値となる。それに対し、本実施形態においては、InAsコロイド粒子12がCdSeシェル14で覆われるため、表面の欠陥による量子収率の低下を抑制できる。
【0041】
量子収率は、粒子が吸収した光子数に対して発光する光子数の割合を指す。量子収率は、対象物の吸光度及び発光強度を測定して発光ピーク面積を算出し、標準物質についても同様の測定を行って、対象物の測定値と標準物質の測定値とに基づき、算出できる。具体的には、対象物の量子収率をΦとすると、量子収率Φは、次の式(1)で算出できる。
【0042】
Φ= Φst×(S/Sst)×(Ast/A)×(N/Nst) ・・・(1)
【0043】
ここで、Sは、対象物(ここではInAsコロイド粒子12やコロイド粒子10)の発光ピーク面積である。本実施形態では、対象物をテトラクロロエチレン溶媒に再分散させて、所定波長(例えば400nm)の励起光を照射する。そして、テトラクロロエチレン溶媒に対象物が分散した対象液に対して励起光を照射した場合の発光強度を、発光分光光度計(堀場製作所製)により測定して、発光強度の測定結果の波形から、発光ピーク位置での波形の面積を、発光ピーク面積Sとして算出する。
Aは、対象物についての、発光強度の測定に用いた励起光と同じ波長の入射光を対象液に照射した場合の吸光度であり、吸光分光光度計(日立ハイテクサイエンス製)により測定できる。
Nは、溶媒であるテトラクロロエチレンの屈折率であり、ここでは1.5018である。
Φstは、標準物質の量子収率で既知の値である。標準物質の量子収率Φstは、標準物質としてインドシアニングリーンを使用して、インドシアニングリーンのジメチルスルホキシド溶液についての量子収率である。Φstは、例えば10.6%である。
Sstは、標準物質の発光ピーク面積であり、インドシアニングリーンのジメチルスルホキシド溶液について、対象物と同様の方法で発光強度を測定した場合の、発光ピーク位置での波形の面積である。
Astは、標準物質についての、発光強度の測定に用いた励起光と同じ波長の入射光を対象液に照射した場合の吸光度であり、対象物と同様の方法で測定できる。
Nstは、標準物質の溶媒であるジメチルスルホキシドの屈折率であり、ここでは1.4787である。
【0044】
なお、コロイド粒子10にコアとして含まれるInAsコロイド粒子12の量子収率は、コロイド粒子10からCdSeシェル14を除去して、残ったInAsコロイド粒子12について吸光度及び発光強度を測定して、上述の方法を用いて算出できる。
【0045】
コロイド粒子10の平均粒径D2は、6.0nm以上9.8nm以下であることが好ましく、6.2nm以上9.6nm以下であることがより好ましい。平均粒径D2がこの範囲となることで、量子サイズ効果に基づいたコロイド粒子としての機能を適切に発揮できる。なお、本実施形態でのコロイド粒子10の平均粒径D2は、X線小角散乱法により測定した平均粒径である。
【0046】
コロイド粒子10の量子収率は、1.0%以上であることが好ましい。
【0047】
CdSeシェル14の平均厚みD3は、2.9ML以上6.9ML以下であり、2.3ML以上7.4ML以下であることが好ましく、2.6ML以上7.1ML以下であることがより好ましい。また上述のように1MLは0.35nmなので、CdSeシェル14の平均厚みD3は、1.0nm以上2.4nm以下であり、0.80nm以上2.6nm以下であることが好ましく、0.90nm以上2.5nm以下であることがより好ましいといえる。平均厚みD3が2.9ML(1.0nm)以上となる量にすることで、InAsコロイド粒子12の表面を十分に被覆して、量子収率を適切に向上させることができる。また、平均厚みD3を6.9ML(2.4nm)以下とすることで、CdSeシェル14の内部での欠陥生成を抑制して、量子収率を適切に向上させることができる。なお、本実施形態では、CdSeシェル14の厚みが6ML以上12ML以下となるように原料供給量を決めていたが、実際には原料中の全てのCd及びSeがCdSeシェル14として使用されないため、実際のCdSeシェル14の平均厚みD3が、上述の範囲となる。
【0048】
なお、CdSeシェル14の平均厚みD3は、MLオーダーの場合には、コロイド粒子10の平均粒径D2(nm)とコロイド粒子10の平均粒径D2(nm)との差分を0.7で除することで求められ、nmオーダーの場合には、コロイド粒子10の平均粒径D2(nm)とコロイド粒子10の平均粒径D2(nm)との差分を2で除することで求められる。
【0049】
(効果)
以上説明したように、本実施形態に係るコロイド粒子10の製造方法は、InAsコロイド粒子12を準備するInAsコロイド粒子準備ステップS10と、InAsコロイド粒子12にCd及びSeを含む原料を供給して、InAsコロイド粒子12の表面がCdSeシェル14で被覆されたコロイド粒子10を生成するコロイド粒子生成ステップS16と、を含む。コロイド粒子生成ステップS16においては、供給される原料に含まれるCd及びSeの全てがCdSeシェル14を形成されるために用いられたと仮定した場合に、CdSeシェル14の厚みが2.1nm以上4.2nm以下となる量である原料供給量分の原料を供給する。InAsを含むコロイド粒子は、量子収率が低くなることによるコロイド粒子としての機能の低下という問題がある。それに対し、本実施形態に係る製造方法においては、CdSeシェル14の厚みが2.1nm以上4.2nm以下となる量の原料を用いて、InAsコロイド粒子12の表面をCdSeシェル14で被覆することで、CdSeシェル14を適切に形成して、表面欠陥に起因する量子収率の低下を抑制できる。
【0050】
本製造方法は、InAsコロイド粒子12が分散した分散液を準備する分散液準備ステップS12をさらに含み、コロイド粒子生成ステップS16においては、分散液に、Cdを含むCd原料液とSeを含むSe原料液とを原料として添加して、コロイド粒子10を生成することが好ましい。本製造方法によると、このような方法を用いることで、コロイド粒子10を適切に製造できる。
【0051】
本製造方法は、分散液を240℃以上260℃以下に加熱する加熱ステップS14をさらに含み、コロイド粒子生成ステップS16においては、240℃以上260℃以下の分散液に、Cd原料液とSe原料液とを添加することが好ましい。本製造方法によると、この温度環境下でCd原料液とSe原料液とを添加するため、InAsコロイド粒子12の表面にCdSeシェル14を適切に形成できる。
【0052】
コロイド粒子生成ステップS16においては、原料供給量よりも少ない量の原料を供給して所定時間保持する工程を繰り返して、原料の合計供給量を原料供給量とすることが好ましい。このように少量ずつの原料を加えて所定時間保持する工程を繰り返すことで、CdやSeの濃度が上昇することを抑制して、InAsコロイド粒子12の表面以外の箇所にCdSeが析出することを抑制できる。
【0053】
InAsコロイド粒子準備ステップS10は、Inを含むIn原料液と、トリフェニルアルシンから製造されてAsを含むAs原料液とを混合して、InAsコロイド粒子12を製造することが好ましい。本製造方法によると、トリメチルシリルアルシンを用いる必要がなくなり、製造時にアルシン(AsH)が生成されることを防止できるが、比較的欠陥が大きくなることで、量子収率の低下が顕著となる。それに対し、本実施形態においては、InAsコロイド粒子12をCdSeシェル14で適切に覆うため、表面の欠陥による量子収率の低下を抑制できる。
【0054】
本実施形態に係るコロイド粒子10は、コアとなるInAsコロイド粒子12と、InAsコロイド粒子12を被覆するCdSeシェル14と、を含むものであって、CdSeシェル14の厚みが、1.0nm以上2.4nm以下である。本実施形態に係るコロイド粒子10は、CdSeシェル14の厚みがこの範囲となることで、表面欠陥に起因する量子収率の低下を抑制できる。
【0055】
本実施形態に係るコロイド粒子10は、InAsコロイド粒子12の量子収率が、0.1以下であってよい。本実施形態においては、InAsコロイド粒子12がCdSeシェル14で覆われるため、InAsコロイド粒子12の表面欠陥による量子収率の低下を適切に抑制できる。
【0056】
(実施例)
次に、実施例について説明する。表1は、各例を示す表である。
【0057】
【表1】
【0058】
(実施例1)
(InAsコロイド粒子の準備)
実施例1においては、本実施形態で説明した方法を用いて、反応時間を5分としてコアであるInAsコロイド粒子を製造した。すなわち、実施例1では、Inを含むIn原料液と、トリフェニルアルシンから製造されてAsを含むAs原料液とを混合して、InAsコロイド粒子を製造した。InAsコロイド粒子の平均粒径は、4.4nmであった。平均粒径は、X線小角散乱法で測定した。また、InAsコロイド粒子の量子収率を、本実施形態と同様の方法で算出したところ、0.005%であった。
(Cd原料液の準備)
実施例1においては、無水酢酸カドミウム二水和物(53.3mg, 0.2mmol)をオレイン酸(0.5mL, 1.6mmol)とオクタデセン(4.5mL, 14.1mmol)の混合溶液にアルゴン雰囲気下で200℃に加熱しながら1時間撹拌することで溶解し調製して、Cd濃度0.04mol/Lで無色透明のCd原料液を得た。
(Se原料液の準備)
実施例1においては、Se粉末(15.8mg, 0.2mmol)をオクタデセン(5mL, 15.7mmol)にアルゴン雰囲気下で290℃に加熱しながら1時間撹拌することで溶解し調製して、Se濃度0.04mol/Lで薄黄色透明のSe原料液を得た。
(コロイド粒子の製造)
実施例1では、InAsコロイド粒子を乾燥重量1.8mg(0.0095mmol)採取し、オクタデセン(1.64ml, 5.12mmol)溶媒に分散させた。この分散液とオクタデシルアミン(389mg, 1.44mmol)を反応用の50ml三口フラスコに装入した。反応用フラスコを真空ポンプラインおよびアルゴンガスラインおよびリービッヒ冷却器に結合し、反応液を撹拌子で撹拌しながら真空脱気を非加熱で20分、さらに100℃に昇温して40分行なった後、真空を停止してアルゴンガスを100ml/minの流量で5分間流して反応槽内部をアルゴンガスで置換した。その後にアルゴンガスを30ml/minの流量で流しながら反応フラスコをさらに昇温し、反応フラスコ内液の温度が240℃~260℃を維持するように加熱してから、非加熱のCd原料液とSe原料液を反応フラスコ内に所定量インジェクションした。注入に要した時間は1秒程であり、反応溶液の温度はそのまま240℃~260℃の範囲を維持するように加熱を継続しながら1回のインジェクション毎に15分間反応させた。反応終了後に急冷して反応を停止した。これにより、InAsコロイド粒子の表面にCdSeシェルが被覆されたコロイド粒子を得た。
実施例1においては、Cd原料液及びSe原料液の供給量は、供給されるCd原料液及びSe原料液に含まれるCd及びSeの全てがCdSeシェルを形成されるために用いられたと仮定した場合に、CdSeシェルの厚みが6ML(2.1nm)となる量とした。
(コロイド粒子の回収)
反応溶液にエタノールを添加してコロイド粒子を軽く凝集し、遠心分離によってこれを沈降してコロイド遠沈物を得て、その上澄液を除去した。このコロイド遠沈物にヘキサノールを添加して洗浄した後に、遠心分離により遠沈物と上澄みとに分離した。洗浄後に得られたコロイド遠沈物を室温で減圧乾燥し、残存するヘキサノールを除去した。
(測定)
得られたコロイド粒子の平均粒径を、X線小角散乱法で測定した。そして、測定したコロイド粒子の平均粒径とInAsコロイド粒子の平均粒径とから、本実施形態で説明した方法で、CdSeシェルの厚みを算出した。
また、得られたコロイド粒子の量子収率を、本実施形態で説明した方法で算出した。
【0059】
(実施例2-4、比較例1-3)
Cd原料液及びSe原料液の供給量を表1に示すように異ならせた以外は、実施例1と同様の方法で、コロイド粒子を得た。
【0060】
(評価)
実施例1から実施例4に示すように、Cd原料液及びSe原料液の供給量を、CdSeシェルの厚みが6ML以上12ML以下(2.1nm以上4.2nm)となる量とした場合には、量子収率が1.0%以上となり、量子収率の低下を抑制できることが分かる。
【0061】
一方、比較例1及び比較例2に示すように、Cd原料液及びSe原料液の供給量を、CdSeシェルの厚みが6MLより小さくなる量とした場合には、CdSeシェルが適切に形成されず、量子収率の低下を抑制できないことが分かる。また、比較例3に示すように、Cd原料液及びSe原料液の供給量を、CdSeシェルの厚みが12MLより大きくなる量とした場合には、CdSeシェルの欠陥が多くなり、量子収率の低下を抑制できないことが分かる。
【0062】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態の内容により実施形態が限定されるものではない。また、前述した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、前述した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。さらに、前述した実施形態の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0063】
10 コロイド粒子
12 InAsコロイド粒子
14 CdSeシェル
図1
図2