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特開2022-138052リチウムイオン二次電池用正極活物質粒子及びその製造方法
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  • 特開-リチウムイオン二次電池用正極活物質粒子及びその製造方法 図1
  • 特開-リチウムイオン二次電池用正極活物質粒子及びその製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022138052
(43)【公開日】2022-09-22
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極活物質粒子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20220914BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220914BHJP
   C01B 25/45 20060101ALI20220914BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M4/36 C
H01M4/36 A
C01B25/45 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021037838
(22)【出願日】2021-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩▲崎▼ 麻由
(72)【発明者】
【氏名】山下 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】大神 剛章
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050CB29
5H050FA17
5H050FA18
5H050GA02
5H050GA06
5H050GA10
5H050GA22
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA04
5H050HA07
5H050HA17
(57)【要約】
【課題】リチウムイオン二次電池のサイクル特性を効果的に向上させることのできるリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】下記式(X):
LiaMnbFecxPO4・・・(X)
(式(X)中、MはMg、Al、Ti、Cu、Zn、Nb、Co、Ni、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd又はGdを示す。a、b、c、及びxは、0<a≦1.2、0≦b≦1.2、0≦c≦1.2、0≦x≦0.3、及びb+c≠0を満たし、かつa+(Mnの価数)×b+(Feの価数)×c+(Mの価数)×x=3を満たす数を示す。)
で表されるリチウム系ポリアニオン粒子Xの表面に炭素が被覆されてなり、
リチウム系ポリアニオン粒子Xの表面において、炭素被覆率が5%以上70%未満であり、かつ炭素被覆の最大厚みが5nm以上であるリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(X):
LiaMnbFecxPO4・・・(X)
(式(X)中、MはMg、Al、Ti、Cu、Zn、Nb、Co、Ni、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd又はGdを示す。a、b、c、及びxは、0<a≦1.2、0≦b≦1.2、0≦c≦1.2、0≦x≦0.3、及びb+c≠0を満たし、かつa+(Mnの価数)×b+(Feの価数)×c+(Mの価数)×x=3を満たす数を示す。)
で表されるリチウム系ポリアニオン粒子Xの表面に炭素が被覆されてなり、
リチウム系ポリアニオン粒子Xの表面において、炭素被覆率が5%以上70%未満であり、かつ炭素被覆の最大厚みが5nm以上であるリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子。
【請求項2】
炭素含有量が、0.5質量%~5.0質量%である請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子。
【請求項3】
導電率が、1.0×10-07S/cm以上である請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子。
【請求項4】
BET比表面積が、15.0m2/g~25.0m2/gである請求項1~3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子。
【請求項5】
次の工程(I)~(IV):
(I)リチウム化合物、少なくともマンガン化合物及び/又は鉄化合物を含む金属化合物、リン酸化合物、並びに水を添加してスラリー水aを得た後、水熱反応に付して、リチウム系ポリアニオン粒子Xの予備粒子xを得る工程
(II)得られたリチウム系ポリアニオン粒子Xの予備粒子x、炭素被覆剤B、炭素被覆阻害剤C、並びに水を添加してスラリー水bを得る工程
(III)得られたスラリー水bを噴霧乾燥に付して造粒体Yを得る工程
(IV)得られた造粒体Yを焼成する工程
を備え、
炭素被覆剤Bが、糖類から選ばれる1種又は2種以上の炭素材料であり、かつ
炭素被覆阻害剤Cが、糖類以外のポリオール、アミン、及びアミドから選ばれる1種又は2種以上の炭素材料である、請求項1~4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子の製造方法。
【請求項6】
工程(II)において、炭素被覆阻害剤Cの添加量が、リチウム系ポリアニオン粒子Xの予備粒子x100質量部に対して1質量部~20質量部である請求項5に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子の製造方法。
【請求項7】
工程(II)において、炭素被覆剤Bの炭素原子換算での添加量と炭素被覆阻害剤Cの添加量との質量比(B/C)が、0.05~3.00である請求項5又は6に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を効果的に向上させることのできるリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の二次電池は、携帯電話、デジタルカメラ、ノートPC、ハイブリッド自動車、電気自動車等広い分野に利用されている。こうしたリチウムイオン二次電池の正極材料として、その安全性の高さや容量の大きさから、LiMnxFe1-xPO4のような、いわゆるリチウム系ポリアニオン粒子が有望視されている。その一方で、こうしたリチウム系ポリアニオン粒子は導電性が低く、得られるリチウムイオン二次電池において充分に電池特性を高めるには、依然として改善を要することから、従来より種々の開発がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、LiMnxFe1-xPO4等の粒子の表面が炭素質被膜により被覆されてなる一次粒子が凝集した凝集粒子からなり、一次粒子の表面の炭素質被膜による被覆率が80%以上であるリチウムイオン電池用電極材料が開示されており、放電容量及び出力特性の向上を図っている。また、特許文献2には、LiFexMn1-x-yyPO4で表される無機粒子と、無機粒子の表面を50%以上被覆している炭素質被膜とを含み、特定のミクロ孔径分布のピークを有するリチウムイオン二次電池用電極材料が開示されており、充放電容量や活性化エネルギーを高める試みがなされている
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-60799号公報
【特許文献2】特開2017-69041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献に記載のような炭素質被膜を有するリチウム系ポリアニオン粒子であると、かかる粒子表面に存在する炭素が充放電中に電解液と反応して副生成物を生成するおそれがあるため、サイクル特性の向上を妨げる要因となり得ることが本発明者らにより判明した。
【0006】
したがって、本発明の課題は、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を効果的に向上させることのできるリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、リチウム系ポリアニオン粒子の表面に特定の条件にて炭素が被覆されてなることにより、得られるリチウムイオン二次電池において、優れたサイクル特性を発現できるリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子を見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、下記式(X):
LiaMnbFecxPO4・・・(X)
(式(X)中、MはMg、Al、Ti、Cu、Zn、Nb、Co、Ni、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd又はGdを示す。a、b、c、及びxは、0<a≦1.2、0≦b≦1.2、0≦c≦1.2、0≦x≦0.3、及びb+c≠0を満たし、かつa+(Mnの価数)×b+(Feの価数)×c+(Mの価数)×x=3を満たす数を示す。)
で表されるリチウム系ポリアニオン粒子Xの表面に炭素が被覆されてなり、
リチウム系ポリアニオン粒子Xの表面において、炭素被覆率が5%以上70%未満であり、かつ炭素被覆の最大厚みが5nm以上であるリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子を提供するものである。
【0009】
また、本発明は、次の工程(I)~(IV):
(I)リチウム化合物、少なくともマンガン化合物及び/又は鉄化合物を含む金属化合物、リン酸化合物、並びに水を添加してスラリー水aを得た後、水熱反応に付して、リチウム系ポリアニオン粒子Xの予備粒子xを得る工程
(II)得られたリチウム系ポリアニオン粒子Xの予備粒子x、炭素被覆剤B、炭素被覆阻害剤C、並びに水を添加してスラリー水bを得る工程
(III)得られたスラリー水bを噴霧乾燥に付して造粒体Yを得る工程
(IV)得られた造粒体Yを焼成する工程
を備え、
炭素被覆剤Bが、糖類から選ばれる1種又は2種以上の炭素材料であり、かつ
炭素被覆阻害剤Cが、糖類以外のポリオール、アミン、及びアミドから選ばれる1種又は2種以上の炭素材料である、上記リチウムイオン二次電池用正極活物質粒子の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子によれば、効果的にサイクル特性が高められたリチウムイオン二次電池を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例2で得られたリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子表面のTEM写真である。xnは、炭素が被覆されていない粒子Xの表面の周長さを示し、xcは、炭素が被覆されてなる粒子Xの表面の周長さを示す。
図2】比較例2で得られたリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子表面のTEM写真である。xnは、炭素が被覆されていない粒子Xの表面の周長さを示し、xcは、炭素が被覆されてなる粒子Xの表面の周長さを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子は、下記式(X):
LiaMnbFecxPO4・・・(X)
(式(X)中、MはMg、Al、Ti、Cu、Zn、Nb、Co、Ni、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd又はGdを示す。a、b、c、及びxは、0<a≦1.2、0≦b≦1.2、0≦c≦1.2、0≦x≦0.3、及びb+c≠0を満たし、かつa+(Mnの価数)×b+(Feの価数)×c+(Mの価数)×x=3を満たす数を示す。)
で表されるリチウム系ポリアニオン粒子Xの表面に炭素が被覆されてなり、
リチウム系ポリアニオン粒子Xの表面において、炭素被覆率が5%以上70%未満であり、かつ炭素被覆の最大厚みが5nm以上である。
【0013】
すなわち、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子は、かかる粒子を構成するリチウム系ポリアニオン粒子X(以下、「粒子X」とも称する)の表面において、炭素被覆率が5%以上70%未満なる低く限られた範囲の値を示しながらも、粒子Xにおける炭素被覆の最大厚みが5nm以上もの高い値を示すように、表面に炭素が偏在しつつ被覆してなる粒子Xにより構成される粒子である。
かかるリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子を正極材料として用いれば、得られるリチウムイオン二次電池の充放電中において、電解液と粒子表面に存在する炭素との反応により副生成物が生成されるのを有効に抑制し、サイクル特性を効果的に向上させることができる。
【0014】
なお、「リチウム系ポリアニオン粒子X(粒子X)」とは、いわゆる粒子Xの一次粒子に相当する、リチウム系ポリアニオン粒子Xの予備粒子x(以下、「予備粒子x」とも称する)が凝集してなる粒子(二次粒子)である。かかる予備粒子xは、後述する本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子の製造方法において、工程(I)により得られる粒子である。
したがって、「粒子Xの表面」とは、予備粒子xの表面のうち、粒子Xの内部に存在する凝集により予備粒子x同士が接合又は結合等した表面を除く、予備粒子xの最表面に相当し、炭素の被覆の有無は問わない。
【0015】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子を構成する粒子Xは、下記式(X):
LiaMnbFecxPO4・・・(X)
(式(X)中、MはMg、Al、Ti、Cu、Zn、Nb、Co、Ni、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd又はGdを示す。a、b、c、及びxは、0<a≦1.2、0≦b≦1.2、0≦c≦1.2、0≦x≦0.3、及びb+c≠0を満たし、かつa+(Mnの価数)×b+(Feの価数)×c+(Mの価数)×x=3を満たす数を示す。)
で表される。
【0016】
上記式(X)で表される粒子Xは、いわゆる少なくとも遷移金属としてマンガン(Mn)又は鉄(Fe)を含むオリビン型リン酸遷移金属リチウム化合物である。式(X)中、Mは、Mg、Al、Ti、Cu、Zn、Nb、Co、Ni、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd又はGdを示し、サイクル特性の向上の観点から、Mg、Al、Ti、Zn、Co、Sr又はZrが好ましい。
また、上記式(X)中のa、b、c、及びxは、0<a≦1.2、0≦b≦1.2、0≦c≦1.2、0≦x≦0.3、及びb+c≠0を満たし、かつa+(Mnの価数)×b+(Feの価数)×c+(Mの価数)×x=3を満たす数を示す。
上記式(X)で表されるリチウム系ポリアニオン粒子としては、サイクル特性の向上の観点から、aについては、0.6≦a≦1.2が好ましく、0.65≦a≦1.15がより好ましく、0.7≦a≦1.1がさらに好ましい。bについては、0.4≦b≦0.8が好ましい。cについては、0.2≦c≦0.6が好ましい。xについては、0≦z≦0.2が好ましく、0≦z≦0.15がより好ましく、0≦x≦0.1がさらに好ましい。
【0017】
具体的には、例えばLiMnPO4、LiMn0.3Fe0.7PO4、LiMn0.4Fe0.6PO4、LiMn0.45Fe0.55PO4、LiMn0.7Fe0.3PO4、LiMn0.9Fe0.1PO4、LiMn0.8Fe0.2PO4、LiMn0.75Fe0.15Mg0.1PO4、LiMn0.75Fe0.19Zr0.03PO4、LiMn0.6Fe0.4PO4、LiMn0.5Fe0.5PO4、Li1.2Mn0.63Fe0.27PO4、Li0.6Mn0.84Fe0.36PO4等が挙げられる。なかでもLiMn0.4Fe0.6PO4、LiMn0.45Fe0.55PO4、LiMn0.7Fe0.3PO4、LiMn0.8Fe0.2PO4、LiMn0.6Fe0.4PO4、Li1.2Mn0.63Fe0.27PO4が好ましい。
【0018】
上記式(X)で表される粒子Xは、その表面に炭素が被覆されてなる。かかる炭素は、糖類から選ばれる1種又は2種以上の炭素材料である炭素被覆剤Bが炭化されて炭素となり、これが上記粒子Xの表面に被覆してなるものである。
炭素被覆剤Bとは、糖類から選ばれる1種又は2種以上の炭素材料である。かかる炭素被覆剤Bとしては、具体的には、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース等の単糖類;マルトース、スクロース、セロビオース等の二糖類;デンプン、デキストリン、セルロース等の多糖類;セルロースナノファイバー、リグノセルロースナノファイバー、キチンナノファイバー、キトサンナノファイバー等の多糖類のナノファイバーから選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
なかでも、電子導電パスの低下を有効に抑制して、得られる電池におけるサイクル特性の向上に寄与する観点から、セルロースナノファイバー、リグノセルロースナノファイバー、キチンナノファイバー、又はキトサンナノファイバーが好ましい。
【0019】
粒子Xの表面における炭素被覆率は、かかる値を低く限られた範囲に制御しつつ、粒子Xの表面に炭素を偏在させて、サイクル特性を効果的に高める観点から、5%以上70%未満であって、好ましくは5%以上50%未満であり、より好ましくは10%~48%であり、さらに好ましくは15%~45%である。
【0020】
なお、粒子Xの表面における「炭素被覆率(%)」とは、次の方法により求めた値を意味する。具体的には、図1にも示すように、まずTEMの電子顕微鏡観察により、リチウムイオン二次電池用正極活物質粒子を撮影した1の視野において粒子Xの表面を観察し、炭素が被覆されていない粒子Xの表面、及び炭素が被覆されてなる粒子Xの表面を特定する。次いで、かかる視野中における、これら「炭素が被覆されていない粒子Xの表面の周長さxn」、及び「炭素が被覆されてなる粒子Xの表面の周長さxc」を測定し、xnとxcを合計して「粒子Xの表面の全周長さxA」とする。
得られた「粒子Xの表面の全周長さxA」と「炭素が被覆されてなる粒子Xの表面の周長さxc」の値を下記式(1)に導入して1の視野における炭素被覆率(%)を算出し、50視野において求めた値を平均して、粒子Xの表面における炭素被覆率(%)とする。
炭素被覆率(%)=[(炭素が被覆されてなる粒子Xの表面の周長さxc)/
(粒子Xの表面の全周長さxA)]×100・・・(1)
【0021】
粒子Xの表面における炭素被覆の最大厚みは、炭素被覆率を低く限られた範囲に制御しつつ、粒子Xの表面に炭素を偏在させることにより、リチウムイオン二次電池の充放電中における副生成物の生成を有効に抑制して、サイクル特性を有効に高める観点から、5nm以上であって、好ましくは8nm以上であり、より好ましくは10nm以上であり、さらに好ましくは15nm以上であり、上限値については特に制限はないが、好ましくは100nm以下である。
【0022】
なお、粒子Xの表面における「炭素被覆の最大厚み」とは、次の方法により求めた値を意味する。具体的には、まずTEMの電子顕微鏡観察により、リチウムイオン二次電池用正極活物質粒子を撮影した1の視野において粒子Xの表面を観察し、かかる視野中において炭素が最も厚く被覆されてなると認められるリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子の表面上の点Pを特定する。次いで、点Pを含む接線に対して垂直な直線を引き、この直線と粒子Xの表面と交わる交点Qを特定して、点Pと交点Qとの距離を1の視野における炭素被覆厚み(nm)として測定し、50視野において求めた値を平均して、粒子Xの表面における炭素被覆の最大厚み(nm)とする。
なお、炭素被覆厚み1nm未満は、TEMの電子顕微鏡観察における測定限界とする。
【0023】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子における炭素含有量は、炭素被覆剤Bが炭化されてなる炭素の含有量に相当するものであり、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子中に、好ましくは0.5質量%~5.0質量%であり、より好ましくは0.6質量%~5.0質量%であり、さらに好ましくは0.7質量%~5.0質量%である。
【0024】
なお、リチウムイオン二次電池用正極活物質粒子中に含有される炭素は、粒子X表面に存在する炭素被覆剤Bが炭化されてなる炭素、すなわち炭素被覆剤Bの原子換算量に相当するものであり、炭素・硫黄分析装置を用いた測定により求められる。
【0025】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子におけるBET比表面積は、サイクル特性の向上に寄与する観点から、好ましくは15.0m2/g~25.0m2/gであり、より好ましくは17.0m2/g~22.0m2/gであり、さらに好ましくは18.0m2/g~20.0m2/gである。
【0026】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子における導電率は、サイクル特性の向上に寄与する観点から、好ましくは1.0×10-07S/cm以上であり、より好ましくは5.0×10-07S/cm~1.0×10-02S/cmであり、さらに好ましくは1.0×10-06S/cm~1.0×10-02S/cmである。
【0027】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子は、次の工程(I)~(IV):
(I)リチウム化合物、少なくともマンガン化合物及び/又は鉄化合物を含む金属化合物、リン酸化合物、並びに水を添加してスラリー水aを得た後、水熱反応に付して、リチウム系ポリアニオン粒子Xの予備粒子xを得る工程
(II)得られたリチウム系ポリアニオン粒子Xの予備粒子x、炭素被覆剤B、炭素被覆阻害剤C、並びに水を添加してスラリー水bを得る工程
(III)得られたスラリー水bを噴霧乾燥に付して造粒体Yを得る工程
(IV)得られた造粒体Yを焼成する工程
を備え、
炭素被覆剤Bが、糖類から選ばれる1種又は2種以上の炭素材料であり、かつ
炭素被覆阻害剤Cが、糖類以外のポリオール、アミン、及びアミドから選ばれる1種又は2種以上の炭素材料である製造方法により得ることができる。
【0028】
本発明の製造方法が備える工程(I)は、リチウム化合物、少なくともマンガン化合物及び/又は鉄化合物を含む金属化合物、リン酸化合物、並びに水を添加してスラリー水aを得た後、水熱反応に付して、リチウム系ポリアニオン粒子Xの予備粒子xを得る工程である。
【0029】
用い得るリチウム化合物としては、水酸化物(例えばLiOH・H2O、LiOH)、炭酸塩、硫酸塩、酢酸塩が挙げられる。なかでも、水酸化物が好ましい。
用い得るマンガン化合物としては、酢酸マンガン、硝酸マンガン、硫酸マンガン等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。なかでも、電池特性を高める観点から、硫酸マンガンが好ましい。
用い得る鉄化合物としては、酢酸鉄、硝酸鉄、硫酸鉄等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。なかでも、電池特性を高める観点から、硫酸鉄が好ましい。
なお、これらマンガン化合物及び鉄化合物とともに、マンガン化合物及び鉄化合物以外の金属(M:Mは式(X)中のMと同義)化合物を用いてもよい。
用い得るリン酸化合物としては、オルトリン酸(H3PO4、リン酸)、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸、リン酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウム等が挙げられる。なかでもリン酸を用いるのが好ましく、70質量%~90質量%濃度の水溶液として用いるのが好ましい。
【0030】
工程(I)は、より具体的には、リチウム化合物を含むスラリー水a'に、リン酸化合物を混合して前駆体A'を得る工程(i-1)、
得られた前駆体A'、及び少なくともマンガン化合物又は鉄化合物を含む金属化合物を含有するスラリー水aを水熱反応に付して、リチウム系ポリアニオン粒子Xの予備粒子xを得る工程(i-2)
を備えるのが好ましい。
【0031】
工程(i-1)において、スラリー水a'におけるリチウム化合物の含有量は、水100質量部に対し、好ましくは5質量部~50質量部であり、より好ましくは7質量部~45質量部である。
スラリー水a'にリン酸化合物を添加する前に、予めスラリー水a'を撹拌しておくのが好ましい。かかるスラリー水a'の撹拌時間は、好ましくは1分~15分であり、より好ましくは3分~10分である。また、スラリー水a'の温度は、好ましくは20℃~90℃であり、より好ましくは20℃~70℃である。
【0032】
かかる工程(I)では、スラリー水a'にリン酸を混合するにあたり、スラリー水を撹拌しながらリン酸を滴下するのが好ましい。リン酸の上記スラリー水a'への滴下速度は、好ましくは15mL/分~50mL/分であり、より好ましくは20mL/分~45mL/分であり、さらに好ましくは28mL/分~40mL/分である。また、リン酸を滴下しながらのスラリー水a'の撹拌時間は、好ましくは0.5時間~24時間であり、より好ましくは3時間~12時間である。さらに、リン酸を滴下しながらのスラリー水a'の撹拌速度は、好ましくは200rpm~700rpmであり、より好ましくは250rpm~600rpmであり、さらに好ましくは300rpm~500rpmである。
なお、スラリー水a'を撹拌する際、さらにスラリー水a'の沸点温度以下に冷却するのが好ましい。具体的には、80℃以下に冷却するのが好ましく、20℃~60℃に冷却するのがより好ましい。
【0033】
リン酸化合物を混合した後のスラリー水a'は、リン酸1モルに対し、リチウムを2.0モル~4.0モル含有するのが好ましく、2.0モル~3.1モル含有するのがより好ましく、このような量となるよう、上記リチウム化合物とリン酸化合物を用いればよい。より具体的には、リン酸化合物を混合した後のスラリー水a'は、リン酸1モルに対し、リチウムを2.7モル~3.3モル含有するのが好ましく、2.8モル~3.1モル含有するのがより好ましい。
【0034】
リン酸化合物を混合した後のスラリー水a'に対して窒素をパージすることにより、かかるスラリー水中での反応を完了させて、上記(A)で表される粒子を構成する予備粒子xの前駆体A'をスラリーとして得る。窒素がパージされると、スラリー水a'中の溶存酸素濃度が低減された状態で反応を進行させることができ、また得られる前駆体A'を含有するスラリー水の溶存酸素濃度も効果的に低減されるため、次の工程で添加する金属化合物の酸化を抑制することができる。かかる前駆体A'を含有するスラリー水a'中において、上記(A)で表される粒子の前駆体は、微細な分散粒子として存在する。かかる前駆体A'は、リン酸三リチウム(Li3PO4)として得られる。
【0035】
次いで工程(i-2)では、工程(i-1)で得られた前駆体A'、及び少なくともマンガン化合物及び鉄化合物を含む金属化合物を含有するスラリー水aを水熱反応に付して、リチウム系ポリアニオン粒子Xの予備粒子xを得る。
【0036】
マンガン化合物及び鉄化合物の使用モル比(マンガン化合物:鉄化合物)は、好ましくは3:7~9:1であり、より好ましくは4:6~8:2であり、さらに好ましくは5:5~7:3である。また、これら金属化合物の合計添加量は、スラリー水A中に含有されるリン酸イオン1モルに対し、好ましくは0.99モル~1.01モルであり、より好ましくは0.995モル~1.005モルである。
【0037】
水熱反応に付する際に用いる水の使用量は、金属化合物の溶解性、撹拌の容易性、及び合成の効率等の観点から、スラリー水a中に含有されるリン酸イオン1モルに対し、好ましくは10モル~50モルであり、より好ましくは12.5モル~45モルである。
【0038】
マンガン化合物、鉄化合物及び金属(M)化合物の添加順序は特に制限されない。また、これらの金属化合物を添加するとともに、必要に応じて酸化防止剤を添加してもよい。かかる酸化防止剤としては、亜硫酸ナトリウム(Na2SO3)、ハイドロサルファイトナトリウム(Na224)、アンモニア水等を使用することができる。酸化防止剤の添加量は、マンガン化合物、鉄化合物及び必要に応じて用いる金属(M)化合物の合計1モルに対し、好ましくは0.01モル~1モルであり、より好ましくは0.03モル~0.5モルである。
【0039】
マンガン化合物及び/又は鉄化合物、並びに必要に応じて金属(M)化合物を含む金属化合物を添加し、必要に応じて酸化防止剤等を添加することにより得られるスラリー水a中における前駆体A'の含有量は、好ましくは10質量%~50質量%であり、より好ましくは15質量%~45質量%であり、さらに好ましくは20質量%~40質量%である。
【0040】
水熱反応は、100℃以上であればよく、130℃~180℃が好ましい。水熱反応は耐圧容器中で行うのが好ましく、130℃~180℃で反応を行う場合、この時の圧力は0.3MPa~0.9MPaであるのが好ましく、140℃~160℃で反応を行う場合の圧力は0.3MPa~0.6MPaであるのが好ましい。水熱反応時間は0.1時間~48時間が好ましく、さらに0.2時間~24時間が好ましい。
得られた予備粒子xは、ろ過後、水で洗浄し、乾燥することにより単離する。乾燥手段は、凍結乾燥、真空乾燥が用いられる。
【0041】
本発明の製造方法が備える工程(II)は、工程(I)で得られたリチウム系ポリアニオン粒子Xの予備粒子x、炭素被覆剤B、炭素被覆阻害剤C、並びに水を添加してスラリー水bを得る工程である。
炭素被覆剤Bとは、上記のとおり、糖類から選ばれる1種又は2種以上の炭素材料であり、具体的には、上記と同様のものを用いることができる。なかでも、電子導電パスの低下を有効に抑制して、得られる電池におけるサイクル特性の向上に寄与する観点から、セルロースナノファイバー、リグノセルロースナノファイバー、キチンナノファイバー、又はキトサンナノファイバーを用いるのが好ましい。
【0042】
炭素被覆阻害剤Cとは、糖類以外のポリオール、アミン、及びアミドから選ばれる1種又は2種以上の炭素材料、すなわち炭素被覆剤B以外のポリオール、及びアミン、及びアミドから選ばれる1種又は2種以上の炭素材料である。このように、工程(II)において、上記炭素被覆剤Bとともに炭素被覆阻害剤Cを添加することにより、続く工程(III)~(IV)を経るにつれ、粒子Xの表面の一部に炭素被覆阻害剤Cが被覆しながら、炭素被覆剤Bが被覆されるのを適度に阻害し、粒子Xの表面における炭素被覆率及び炭素被覆の最大厚みを上記範囲に制御することが可能となる。
なお、後述する工程(IV)を経ることにより、炭素被覆剤Bは炭化されて粒子Xの表面に炭素として被覆される一方、炭素被覆阻害剤Cは焼失し、リチウムイオン二次電池用正極活物質粒子に残存しないこととなる。
【0043】
糖類以外のポリオールとしては、具体的には、質量平均分子量1000以下のポリエチレングリコール、質量平均分子量2000以下のポリプロピレングリコールであるヒドロキシ基を2つ有するポリオール;質量平均分子量3000以下のヒドロキシ基を3つ以上有するポリエーテルポリオールが挙げられる。なかでも、揮発温度が170℃~400℃であるポリオールが好ましく、より具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、ヘプタンジオール、ヘプタントリオール、オクタンジオール、オクタントリオール、ノナンジオール、ノナントリオール、デカンジオール、デカントリオール、ドデカンジオール等のヒドロキシ基を2つ有するポリオール;
グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等のヒドロキシ基を3つ以上有するポリオールが挙げられる。
【0044】
アミン及びアミドとしては、揮発温度が170℃以上のものが好ましく、具体的には、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の脂肪族アミン、イミダゾール等の複素環式アミン;ホルムアミド、アセトアミド等のアミド;ポリアクリルアミド、ポリ-N-ビニルアセトアミド等のポリアミド;オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド等の脂肪酸アミドが挙げられる。
【0045】
かかる炭素被覆阻害剤Cとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、トリエタノールアミン、又はオレイン酸アミドが好ましい。
【0046】
リチウム系ポリアニオン粒子Xの予備粒子x、炭素被覆剤B、炭素被覆阻害剤C、及び水の添加順序は、特に制限されず、一括して添加してもよく、予備粒子xと水を先に混合した後に、炭素被覆剤Bと炭素被覆阻害剤Cを同時に添加してもよく、また、予備粒子xと水と炭素被覆阻害剤Cを先に混合し、その後炭素被覆剤Bを添加してもよいが、一括して添加するのが好ましい。
【0047】
炭素被覆剤Bの添加量は、リチウム系ポリアニオン粒子Xの予備粒子x100質量部に対し、炭素原子換算での添加量(添加する炭素被覆剤Bに含まれる炭素原子の質量)で、好ましくは0.5質量部~30質量部であり、より好ましくは1.0質量部~25質量部であり、さらに好ましくは1.5質量部~20質量部である。
【0048】
炭素被覆阻害剤Cの添加量は、リチウム系ポリアニオン粒子Xの予備粒子x100質量部に対し、好ましくは1質量部~20質量部であり、より好ましくは2質量部~18質量部であり、さらに好ましくは3質量部~15質量部である。
【0049】
炭素被覆剤Bの炭素原子換算での添加量と炭素被覆阻害剤Cの添加量との質量比(B/C)は、好ましくは0.05~3.00であり、より好ましくは0.10~2.00であり、さらに好ましくは0.15~1.50である。
【0050】
スラリー水bの固形分濃度は、好ましくは30質量%~70質量%であり、より好ましくは35質量%~65質量%であり、さらに好ましくは40質量%~60質量%である。
【0051】
水を添加した後、工程(III)へ移行する前にスラリー水bを予め撹拌するのが好ましい。かかるスラリー水bの撹拌時間は、好ましくは1分~30分であり、より好ましくは5分~20分である。また、スラリー水bの温度は、好ましくは10℃~50℃であり、より好ましくは15℃~35℃である。
【0052】
本発明の製造方法が備える工程(III)は、工程(II)で得られたスラリー水bを噴霧乾燥に付して造粒体Yを得る工程である。これにより、予備粒子xが凝集して粒子Xを構成しつつ、続く工程(IV)を経るにつれ、粒子Xの表面の一部に炭素被覆阻害剤Cが被覆しながら、炭素被覆剤Bが被覆されるのを適度に阻害し、粒子Xの表面における炭素被覆率及び炭素被覆の最大厚みを上記範囲に制御することができる。
【0053】
工程(III)では、噴霧乾燥において、用いる装置に応じて適宜運転条件を設定すればよい。例えば、4流体ノズルを備えたマイクロミストドライヤー(藤崎電気(株)製 MDL-050M)での処理条件としては、熱風温度が110℃~300℃であるのが好ましく、150℃~250℃であるのがより好ましい。また、熱風の供給量とスラリー水の供給量の比(熱風の供給量/スラリー水の供給量)が、500~10000であるのが好ましく、1000~9000であるのがより好ましい。
【0054】
本発明の製造方法が備える工程(IV)は、工程(III)で得られた造粒体Yを焼成する工程である。これにより、予備粒子xが凝集してなる粒子Xの表面において、炭素被覆阻害剤Cを焼失させる一方、炭素被覆剤Bが炭化されて粒子Xの表面に被覆されることとなる。
かかる工程(IV)の焼成条件は、還元雰囲気又は不活性雰囲気中であるのが好ましく、焼成温度は、好ましくは500℃~1000℃であり、より好ましくは550℃~900℃であり、焼成時間は、好ましくは0.5時間~12時間であり、より好ましくは1時間~6時間である。
【0055】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子は、リチウムイオン二次電池の正極活物質として用いる材料である。具体的には、例えば本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子と、アセチレンブラックやケッチェンブラック、ポリフッ化ビニリデン、N-メチル-2-ピロリドン等とを混練して正極スラリーを調製した後、集電体に塗工し、次いでプレス成形して正極を作製する。
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子を用いて得られた正極を適用できる、リチウムイオン二次電池としては、正極と負極と電解液とセパレータ、若しくは正極と負極と固体電解質を必須構成とするものであれば特に限定されない。
【0056】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子であれば、適度な炭素被覆率を保持しつつ炭素被覆の厚みが大きく、炭素が適度に偏在して表面に存在する粒子Xから構成されてなるため、サイクル特性を効果的に高めることのできる有用性の高い正極を得ることができる。
【0057】
ここで、負極については、リチウムイオンを充電時には吸蔵し、かつ放電時には放出することができれば、その材料構成で特に限定されるものではなく、公知の材料構成のものを用いることができる。たとえば、リチウム金属、グラファイト、シリコン系(Si、SiOx)、チタン酸リチウム又は非晶質炭素等の炭素材料等を用いることができる。そしてリチウムイオンを電気化学的に吸蔵・放出し得るインターカレート材料で形成された電極、特に炭素材料を用いることが好ましい。さらに、2種以上の上記の負極材料を併用してもよく、たとえばグラファイトとシリコン系の組み合わせを用いることができる。
【0058】
電解液は、有機溶媒に支持塩を溶解させたものである。有機溶媒は、通常リチウムイオン二次電池の電解液に用いられる有機溶媒であれば特に限定されるものではなく、例えば、カーボネート類、ハロゲン化炭化水素、エーテル類、ケトン類、ニトリル類、ラクトン類、オキソラン化合物等を用いることができる。
【0059】
支持塩は、その種類が特に限定されるものではないが、LiPF6、LiBF4、LiClO4及びLiAsF6から選ばれる無機塩、該無機塩の誘導体、LiSO3CF3、LiC(SO3CF32及びLiN(SO3CF32、LiN(SO2252及びLiN(SO2CF3)(SO249)から選ばれる有機塩、並びに該有機塩の誘導体の少なくとも1種であることが好ましい。
【0060】
セパレータは、正極及び負極を電気的に絶縁し、電解液を保持する役割を果たすものである。たとえば、多孔性合成樹脂膜、特にポリオレフィン系高分子(ポリエチレン、ポリプロピレン)の多孔膜を用いればよい。
【0061】
固体電解質は、正極及び負極を電気的に絶縁し、高いリチウムイオン電導性を示すものである。たとえば、La0.51Li0.34TiO2.94、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO43、Li7La3Zr212、50Li4SiO4・50Li3BO3、Li2.9PO3.30.46、Li3.6Si0.60.44、Li1.07Al0.69Ti1.46(PO43、Li1.5Al0.5Ge1.5(PO43、Li10GeP212、Li3.25Ge0.250.754、30Li2S・26B23・44LiI、63Li2S・36SiS2・1Li3PO4、57Li2S・38SiS2・5Li4SiO4、70Li2S・30P25、50Li2S・50GeS2、Li7311、Li3.250.954を用いればよい。
【0062】
上記の構成を有するリチウムイオン二次電池の形状としては、特に制限を受けるものではなく、コイン型、円筒型,角型等種々の形状や、ラミネート外装体に封入した不定形状であってもよい。
【実施例0063】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0064】
[実施例1]
LiOH・H2O 1272g、及び水4Lを混合してスラリー水a1を得た。次いで、得られたスラリー水a1を、25℃の温度に保持しながら3分間撹拌しつつ85%のリン酸水溶液1153gを35mL/分で滴下し、速度400rpmで12時間撹拌して、Li3PO4を含むスラリー水a2を得た。
得られたスラリー水a2に窒素パージして、スラリー水a2の溶存酸素濃度を0.5m
g/Lとした後、スラリー水a2全量に対し、MnSO4・5H2O 1688g、FeSO4・7H2O 834gを添加してスラリー水a3を得た。添加したMnSO4とFeSO4のモル比(マンガン化合物:鉄化合物)は、70:30であった。
【0065】
次いで、得られたスラリー水a3をオートクレーブに投入し、170℃で1時間水熱反
応を行った。オートクレーブ内の圧力は0.8MPaであった。水熱反応後、生成した結
晶をろ過し、次いで結晶1質量部に対し12質量部の水により洗浄した。洗浄した結晶を
-50℃で12時間凍結乾燥して、予備粒子x1を得た。
得られた予備粒子x1を1000g分取し、水1L、セルロースナノファイバー(Wma-10002、スギノマシン社製、繊維径4~20nm)108g(100質量部の予備粒子x1に対して、炭素原子換算量で1.2質量部)、及びプロピレングリコール 135gを一括して添加し混合して、スラリー水a5を得た。得られたスラリー水a5を超音波攪拌機(T25、IKA社製)で1分間分散処理して、全体を均一に呈色させた後、スプレードライ装置(MDL-050M、藤崎電機株式会社製)を用いて噴霧乾燥に付して造粒体Y1を得た。なお、噴霧乾燥の際の熱風温度を200℃とし、熱風の供給量とスラリー水の供給量の比(熱風の供給量/スラリー水の供給量)を2500とした。
得られた造粒体Y1をアルゴン水素雰囲気下(水素濃度3%)、700℃で1時間焼成して、0.8質量%の炭素が担持されたリチウム系ポリアニオン粒子(LiMn0.7Fe0.3PO4、平均粒径20μm)の集合体を得た。
【0066】
[実施例2]
セルロースナノファイバー108g、及びプロピレングリコール 135gを添加する代わりに、セルロースナノファイバー180g(100質量部の予備粒子x1に対して、炭素原子換算量で2.0質量部)、及びプロピレングリコール 45gを添加した以外、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池用正極活物質粒子を得た。
得られたリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子のTEM写真を図1に示す。
【0067】
[実施例3]
セルロースナノファイバー108g、及びプロピレングリコール 135gを添加する代わりに、セルロースナノファイバー450g(100質量部の予備粒子x1に対して、炭素原子換算量で5.0質量部)、及びプロピレングリコール 45gを添加した以外、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池用正極活物質粒子を得た。
【0068】
[実施例4]
セルロースナノファイバー108g、及びプロピレングリコール 135gを添加する代わりに、グルコース 50g(100質量部の予備粒子x1に対して、炭素原子換算量で2.0質量部)、及びプロピレングリコール 45gを添加した以外、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池用正極活物質粒子を得た。
【0069】
[比較例1]
プロピレングリコール 135gを添加する代わりに、プロピレングリコール 540gを添加した以外、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池用正極活物質粒子を得た。
【0070】
[比較例2]
セルロースナノファイバー108g、及びプロピレングリコール 135gを添加する代わりに、グルコース 50g(100質量部の予備粒子x1に対して、炭素原子換算量で2.0質量部)を添加し、かつプロピレングリコールを添加しなかった以外、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池用正極活物質粒子を得た。
得られたリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子のTEM写真を図2に示す。
【0071】
《リチウムイオン二次電池用正極活物質粒子の炭素含有量》
炭素・硫黄分析装置(EMIA-220V2、堀場製作所社製)を用い、得られたリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子の炭素含有量を測定した。
【0072】
《リチウムイオン二次電池用正極活物質粒子のBET比表面積》
流動式比表面積自動測定装置(FlowSorbIII2305、島津製作所社製)を用い、得られたリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子のBET比表面積を測定した。測定には、窒素を30%含有する窒素・ヘリウム混合ガスを使用した。
【0073】
《リチウムイオン二次電池用正極活物質粒子の導電率》
得られたリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子について、低抵抗率計(MCP-T610 、三菱アナリテック社製)を用い、リチウムイオン二次電池用正極活物質粒子3.0gに荷重20kNを負荷したときの導電率を測定した。
【0074】
《粒子Xの表面における炭素被覆率及び炭素被覆の最大厚み》
TEM(JEM-ARM200F、日本電子株式会社製)を用い、上記方法にしたがって、得られた各粒子Xにおける炭素被覆率及び炭素被覆の最大厚みを求めた。
結果を表1に示す。
【0075】
《電池特性(サイクル特性)の評価》
得られた各リチウムイオン二次電池用正極活物質粒子を正極材料として用い、リチウムイオン二次電池の正極を作製した。具体的には、得られた各正極活物質、アセチレンブラック、ポリフッ化ビニリデンを質量比90:5:5の配合割合で混合し、これにN-メチル-2-ピロリドンを加えて充分混練し、正極スラリーを調製した。正極スラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔からなる集電体に塗工機を用いて塗布し、80℃で12時間の真空乾燥を行った。その後、φ14mmの円盤状に打ち抜いてハンドプレスを用いて20kNで2分間プレスし、正極とした。
【0076】
次いで、上記正極を用いてコイン型二次電池を構築した。負極には、φ15mmに打ち抜いたリチウム箔を用いた。電解液には、エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートを体積比3:7の割合で混合した混合溶媒に、LiPF6を1mol/Lの濃度で溶解したものを用いた。セパレータには、高分子多孔フィルムを用いた。これらの電池部品を露点が-50℃以下の雰囲気で常法により組み込み収容し、コイン型二次電池(CR-2032)を得た。
【0077】
得られたコイン型二次電池を用い、放電容量測定装置(HJ-1001SD8、北斗電工社製)にて気温30℃環境での1C(170mAh/g)での充放電の50回繰り返しによる、下記式(2)によるサイクル特性の値を求めた。
サイクル特性=(50サイクル後の放電容量)/
(50サイクル中の最大放電容量)・・・(2)
【0078】
【表1】
図1
図2