(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022138066
(43)【公開日】2022-09-22
(54)【発明の名称】診断装置及び診断方法
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20220914BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021037856
(22)【出願日】2021-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003942
【氏名又は名称】日新電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】山里 将史
(72)【発明者】
【氏名】増田 新
【テーマコード(参考)】
2G024
【Fターム(参考)】
2G024BA25
2G024BA27
2G024CA13
2G024FA04
2G024FA06
2G024FA11
(57)【要約】
【課題】フランジ接続部を簡便に診断することが可能な診断装置及び診断方法を提供する。
【解決手段】診断装置(1)は、一方のフランジ(11)に設けられた第1の圧電素子(2)と、所定の第1周波数範囲をスイープする入力信号を第1の圧電素子(2)に印加する信号発生部(4)と、他方のフランジ(12)に設けられて、第1の圧電素子(2)による振動に応じた出力信号を出力する第2の圧電素子(3)と、入力信号と出力信号とから伝達量を演算し、その演算結果に応じてフランジ接続部(10)の締結状態を判断する演算部(6)を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
診断対象の設備に設けられたフランジ接続部を診断する診断装置であって、
前記フランジ接続部は、スペーサを介して、ボルトとナットにより締結された一対のフランジを有するフランジ接続部であり、
前記一対のフランジの一方のフランジに設けられた振動子と、
前記振動子を振動させるための入力信号を発生する信号発生部であって、所定の第1周波数範囲をスイープする入力信号を前記振動子に印加する信号発生部と、
前記一対のフランジの他方のフランジに設けられて、前記振動子による振動に応じた出力信号を出力する検出素子と、
前記入力信号と前記出力信号とから伝達量を演算し、その演算結果に応じて前記フランジ接続部の締結状態を判断する、演算部と、を備える、診断装置。
【請求項2】
前記演算部は、
前記伝達量として、周波数成分ごとの前記入力信号と前記出力信号との比である伝達関数を求めるとともに、
求めた伝達関数の、所定の第2周波数範囲内の平均的な大きさと予め定められたしきい値とを比較することにより、前記フランジ接続部の締結状態を判断する、請求項1に記載の診断装置。
【請求項3】
前記演算部が前記所定の第2周波数範囲内の平均的な大きさが前記しきい値以下であることを判別した場合に、警報を出力する出力部を、さらに備える、請求項2に記載の診断装置。
【請求項4】
前記診断対象の設備は、前記フランジが設けられた管路を具備する電力設備であり、当該管路の内部には絶縁性流体が充填されている、請求項1から3のいずれか1項に記載の診断装置。
【請求項5】
前記診断対象の設備の前記スペーサは、エポキシ樹脂からなる、請求項4に記載の診断装置。
【請求項6】
前記振動子及び前記検出素子は、圧電素子である、請求項1から5のいずれか1項に記載の診断装置。
【請求項7】
診断対象の設備に設けられたフランジ接続部を診断する診断方法であって、
前記フランジ接続部は、スペーサを介して、ボルトとナットにより締結された一対のフランジを有するフランジ接続部であり、
前記一対のフランジの一方のフランジに設けられた振動子に対して、所定の第1周波数範囲をスイープする入力信号を前記振動子に印加する印加ステップと、
前記一対のフランジの他方のフランジに設けられた検出素子によって前記振動子による振動に応じた出力信号を検出する検出ステップと、
前記入力信号と前記出力信号とから伝達量を演算し、その演算結果に応じて前記フランジ接続部の締結状態を判断する判断ステップと、を備える、診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フランジ接続部を診断する診断装置及び診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ガス絶縁遮断器などを具備する電力設備では、高電圧な電気配線を遮蔽するために、当該電気配線を内部に配した管路を介在させて複数の電気機器を電気的に接続している。また、このようなシステムでは、一般的に、フランジ接続部を用いて、隣接する2つの管路を接続している。すなわち、フランジ接続部では、例えば、絶縁スペーサを介して、上記2つの管路の端部にそれぞれ設けられた2つのフランジを配置するとともに、複数のボルトとナットによってこれら一対のフランジを締結することにより、2つの管路を互いに接続している。
【0003】
従来、管路の劣化を診断する技術には、放射線を管路に透過して放射線透過写真を撮影し、放射線透過写真に基づき管路の腐食状況を測定する測定方法が知られている(例えば、下記特許文献1)。また、管路に対して、少なくとも一対の超音波接触子を設けて、超音波の透過エコーの信号と超音波の反射エコーの信号とを取得し、取得した少なくとも3組の信号を基に、管路の腐食状態を診断する診断方法も知られている(例えば、下記特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平04-009606号公報
【特許文献2】特開2009‐008422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1及び2の従来技術は、フランジ接続部を診断する技術ではなかった。
【0006】
本開示は上記の問題点を鑑みてなされたものであり、フランジ接続部を簡便に診断することが可能な診断装置及び診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本開示の一側面に係る診断装置は、診断対象の設備に設けられたフランジ接続部を診断する診断装置であって、前記フランジ接続部は、スペーサを介して、ボルトとナットにより締結された一対のフランジを有するフランジ接続部であり、前記一対のフランジの一方のフランジに設けられた振動子と、前記振動子を振動させるための入力信号を発生する信号発生部であって、所定の第1周波数範囲をスイープする入力信号を前記振動子に印加する信号発生部と、前記一対のフランジの他方のフランジに設けられて、前記振動子による振動に応じた出力信号を出力する検出素子と、前記入力信号と前記出力信号とから伝達量を演算し、その演算結果に応じて前記フランジ接続部の締結状態を判断する、演算部と、を備える。
【0008】
また、本開示の一側面に係る診断方法は、診断対象の設備に設けられたフランジ接続部を診断する診断方法であって、前記フランジ接続部は、スペーサを介して、ボルトとナットにより締結された一対のフランジを有するフランジ接続部であり、前記一対のフランジの一方のフランジに設けられた振動子に対して、所定の第1周波数範囲をスイープする入力信号を前記振動子に印加する印加ステップと、前記一対のフランジの他方のフランジに設けられた検出素子によって前記振動子による振動に応じた出力信号を検出する検出ステップと、前記入力信号と前記出力信号とから伝達量を演算し、その演算結果に応じて前記フランジ接続部の締結状態を判断する判断ステップと、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一態様によれば、フランジ接続部を簡便に診断することが可能な診断装置及び診断方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の一実施形態に係る診断装置の診断対象であるフランジ接続部の構成例を説明する図である。
【
図3】上記診断装置の要部の測定動作例を示す図である。
【
図4】(A)は上記フランジ接続部の締結状態が正常である場合での動作例を説明する図であり、(B)は上記フランジ接続部の締結状態が異常である場合での動作例を説明する図である。
【
図5】
図2に示した第2の圧電素子の出力信号の具体例を示す波形図である。
【
図6】
図2に示した演算部での伝達関数の具体的な計算方法を説明する図である。
【
図8】上記演算部でのフランジ接続の締結状態の判断動作の具体例を説明するグラフである。
【
図9】上記診断装置の動作例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔実施形態〕
以下、本発明の一実施形態について、
図1及び
図2を用いて詳細に説明する。
図1は、本開示の一実施形態に係る診断装置の診断対象であるフランジ接続部の構成例を説明する図である。
図2は、上記診断装置の構成例を説明する図である。
【0012】
まず、本実施形態の診断装置1の診断対象の設備に設けられたフランジ接続部10について説明する。フランジ接続部10は、スペーサとしての絶縁スペーサ13を介して、複数組のボルト16とナット17により締結された一対のフランジとしての第1のフランジ11及び第2のフランジ12を有する。
【0013】
絶縁スペーサ13は、例えば、エポキシ樹脂からなり、絶縁性を備えている。尚、この説明以外に、スペーサとして、他の合成樹脂からなる絶縁スペーサや金属製のスペーサを用いることもできる。
【0014】
第1のフランジ11は、管路としての第1の管路14の端部に設けられている。また、第1のフランジ11は、Oリング18aを介在させて絶縁スペーサ13に気密に接合されている。
【0015】
第2のフランジ12は、管路としての第2の管路15の端部に設けられている。また、第2のフランジ12は、Oリング18bを介在させて絶縁スペーサ13に気密に接合されている。
【0016】
また、第1の管路14、絶縁スペーサ13、及び第2の管路15の内部は、例えば、円筒状の空間が形成されており、この空間の中心部分には、図略の電気配線が配置されている。さらに、第1の管路14、絶縁スペーサ13、及び第2の管路15の内部には、ガス(例えば、SF6ガス)または絶縁油などの絶縁性流体ZRが充填されており、絶縁性流体ZRによる絶縁耐力により電気配線と第1の管路14または第2の管路15との間で短絡が発生するのが極力低減されている。
【0017】
また、上記電気配線には、例えば、ガス絶縁遮断器などの電気機器が接続されている。つまり、本実施形態の診断装置1は、第1の管路14及び第2の管路15を具備する電力設備を診断対象の設備とし、その電力設備に設けられたフランジ接続部10の診断を行い、そのフランジ接続部10の締結状態を判断する。
【0018】
<診断装置>
図2に示すように、本実施形態の診断装置1は、一方のフランジとしての第1のフランジ11に設けられた第1の圧電素子2と、他方のフランジとしての第2のフランジ12に設けられた第2の圧電素子3とを備える。
【0019】
第1の圧電素子2は、振動を発生する振動子を構成している。また、第2の圧電素子3は、第1の圧電素子2による振動を検出して、検出した振動に応じた出力信号を出力する検出素子を構成している。
【0020】
なお、上記の説明以外に、第1の圧電素子2に代えて、例えば、水晶振動子などの他の振動子を用いることもできる。また、第2の圧電素子3に代えて、例えば、振動に応じた距離の変化を光学的に検出することで振動を検出する検出素子を用いることもできる。
【0021】
但し、本実施形態のように、一対の圧電素子を振動子及び検出素子に用いる場合の方が、診断装置1の部品種類数が増加するのを抑制しつつ、各圧電素子を振動子または検出素子として使用することができることから、各圧電素子のフランジへの取り付けを簡単に行うことが可能となってフランジ接続部10の診断を容易に行うことができる点で好ましい。
【0022】
また、第1の圧電素子2及び第2の圧電素子3がそれぞれ第1のフランジ11及び第2のフランジ12に対して着脱自在に設けられるようにすることで、診断対象の設備を容易に変更できるようにすることも可能である。
【0023】
また、診断装置1は、第1の圧電素子2に接続されて、当該第1の圧電素子2を振動させるための入力信号を発生する信号発生部4と、第2の圧電素子3に接続されて、当該第2の圧電素子3からの出力信号を入力する測定・記録部5とを備えている。
【0024】
信号発生部4は、電源4a(
図3)を備え、当該電源4aから第1の圧電素子2に設けられた一対の電極(図示せず)に対して、入力信号としての高周波電圧を印加する。また、信号発生部4は、印加する入力信号として、所定の第1周波数範囲をスイープ(掃引)して、第1の圧電素子2に印加する。
【0025】
測定・記録部5は、RAMなどの記録媒体(図示せず)を備え、第2の圧電素子3に設けられた一対の電極(図示せず)から当該第2の圧電素子3からの出力信号である出力電圧を入力して測定し、当該記録媒体に記録する。また、測定・記録部5は、信号発生部4に接続されており、当該信号発生部4が印加した上記印加電圧をも記録する。
【0026】
更に、診断装置1は、測定・記録部5に接続された演算部6と、演算部6に接続された出力部7とを有する。
【0027】
演算部6は、CPU、MPU,あるいはASICなどの処理部(図示せず)を備え、測定・記録部5から当該測定・記録部5に記録されている、入力信号と出力信号とを取得する。また、演算部6は、取得した入力信号と出力信号とから第1の圧電素子2による振動のフランジ接続部10での伝達量を演算する。
【0028】
更に、演算部6は、演算結果に応じてフランジ接続部10の締結状態を判断する。すなわち、演算部6は、フランジ接続部10の締結状態において、接続不具合が発生しているか否かについて判断する。なお、演算部6での上記伝達量の演算及び演算結果による締結状態の判断の詳細については、後述する。
【0029】
出力部7は、演算部6の演算結果に応じて、警報を出力する。具体的には、出力部7は、例えば、演算部6がフランジ接続部10の締結状態に接続不具合が発生していると判断した場合に、警報を出力する。
【0030】
また、出力部7が出力する警報は、上記締結状態を示すものであれば、音声や情報表示などに限定されない。すなわち、出力部7は、スピーカなどの音声出力部や、フラッシュライトあるいはLEDまたはディスプレイなどの表示部を含むことができ、接続不具合である場合、つまり締結状態に異常が生じている場合に限らず、締結状態が正常である場合に、締結状態に応じた警報を外部に適宜報知することができる。
【0031】
<動作例>
次に、
図3~
図9も参照して、本実施形態の診断装置1の動作について具体的に説明する。
【0032】
まず、
図3を用いて、信号発生部4及び測定・記録部5の動作について具体的に説明する。
図3は、上記診断装置の要部の測定動作例を示す図である。
【0033】
図3に示すように、信号発生部4では、電源4aが第1の圧電素子2の両電極に接続されている。そして、電源4aが、第1の圧電素子2の両電極に対して、振幅が一定で、かつ、所定の第1周波数範囲(例えば、10kHz~150kHz)を、例えば、10秒間にスイープする入力信号を印加する。すると、当該第1の圧電素子2は、入力信号に応じた振動を発生する。
【0034】
この結果、フランジ接続部10は、第1の圧電素子2からの振動に応じて加振されて、
図3に円弧状の破線及び矢印にて例示するように、振動が当該フランジ接続部10の内部、つまり第1のフランジ11、絶縁スペーサ13、及び第2のフランジ12の内部を順次伝わって第2の圧電素子3側に伝達される。そして、第2の圧電素子3は、到達した振動に応じた出力信号(電圧信号)を当該第2の圧電素子3の両電極から測定・記録部5に出力する。
【0035】
次に、
図4の(A)及び
図4の(B)を用いて、フランジ接続部10の締結状態に応じた振動の伝達状況について具体的に説明する。
図4の(A)は上記フランジ接続部の締結状態が正常である場合での動作例を説明する図であり、
図4の(B)は上記フランジ接続部の締結状態が異常である場合での動作例を説明する図である。
【0036】
図4の(A)に示すように、フランジ接続部10の締結状態に接続不具合が発生していない場合、つまり締結状態が正常である場合、第1のフランジ11と絶縁スペーサ13との接合面及び絶縁スペーサ13と第2のフランジ12との接合面には、腐食などによる隙間が発生していない。なお、このような隙間が発生する原因としては、第1のフランジ11、第2のフランジ12あるいは絶縁スペーサ13の腐食によるものの他に、絶縁スペーサ13の経時的な収縮が挙げられる。
【0037】
それ故、
図4の(A)に円弧状の破線及び矢印にて示すように、第1の圧電素子2からの振動は、上記隙間によって減衰されることなく、フランジ接続部10の内部を伝播して第2の圧電素子3に伝達される。
【0038】
一方、
図4(B)に示すように、フランジ接続部10の締結状態に接続不具合が発生している場合、つまり締結状態が異常である場合、腐食などによる隙間Fが、例えば、第1のフランジ11と絶縁スペーサ13との接合面に生じている。
【0039】
具体的には、第1のフランジ11及び絶縁スペーサ13では、腐食などに起因して、それらの各厚みが減少して、隙間Fが発生する。また、この隙間Fにより、
図4の(B)に点線にて示すように、ボルト16が第1のフランジ11の表面から浮いた状態となって、当該ボルト16による締結力が弱まる。
【0040】
この結果、
図4の(B)に円弧状の破線及び矢印にて示すように、第1の圧電素子2からの振動は、上記隙間Fによって減衰されて、第2の圧電素子3に伝達される。すなわち、フランジ接続部10に異常がある場合では、正常である場合に比べて、第1の圧電素子2からの振動の伝達量が減少する。
【0041】
また、フランジ接続部10の締結状態が悪化すると、最悪の状況として、上記のような隙間Fが第1の管路14の内部と外部とを連通して、当該第1の管路14内に充填された絶縁性流体ZRの漏洩を発生し上記絶縁耐力の低下を生じる恐れがある。
【0042】
次に、
図5を用いて、第2の圧電素子3の出力信号について具体的に説明する。
図5は、
図2に示した第2の圧電素子の出力信号の具体例を示す波形図である。
【0043】
図5に例示するように、測定・記録部5は、信号発生部4による第1の圧電素子2への電圧が印加されると、第2の圧電素子3から出力信号を入力する。第1の圧電素子2に対して、10秒間の印加時間において、10kHz~150kHzの第1周波数範囲でスイープされた電圧の印加が行われると、第2の圧電素子3からの出力信号の大きさは、周波数に応じて変化する。
【0044】
図5において、上記出力信号の振幅が大きい箇所が、その大きい箇所での周波数の振動の伝達量が大きいことを示している。具体的には、
図5に示すように、出力信号の振幅が最大値である箇所は、印加時間が5.6秒経過した時点であり、当該時点での周波数は78.4kHz(=(150-10)x5.6/10)である。すなわち、
図5に示す例では、78.4kHzの周波数のときに、振動の伝達量が最大値となっている。
【0045】
次に、
図6及び
図7を用いて、演算部6での上記伝達量の演算方法について具体的に説明する。
図6は、
図2に示した演算部での伝達関数の具体的な計算方法を説明する図である。
図7は、上記伝達関数の具体例を示す波形図である。
【0046】
演算部6は、上記伝達量として、周波数成分ごとの第1の圧電素子2への入力信号と第2の圧電素子3からの出力信号との比である伝達関数を求める。
【0047】
具体的にいえば、演算部6は、
図6に示すように、信号発生部4から上記入力信号である、時間領域の印加電圧Aを入力して、当該時間領域の印加電圧Aに対して、周波数分解、例えば、高速フーリエ変換(FFT;Fast Fourier Transform)を行うことにより、周波数領域の印加電圧Bを求める。
【0048】
また、演算部6は、第2の圧電素子3からの上記出力信号である、時間領域の出力電圧Cに対して、周波数分解、例えば、高速フーリエ変換を行うことにより、周波数領域の出力電圧Dを求める。
【0049】
そして、演算部6は、上記のように、周波数分解した周波数領域の印加電圧B及び周波数領域の出力電圧Dについて、周波数ごとに周波数領域の出力電圧Dを周波数領域の印加電圧Bで除算することにより、複素数で示される、伝達関数Eを求める。
【0050】
図7において、伝達関数Eの大きさが大きい周波数は、当該周波数の上記振動の伝達量が大きいことを示している。具体的には、
図7に示すように、例えば、108.9kHzのときに、伝達関数Eの大きさが大きくなっており、108.9kHzの周波数の振動では、第2の圧電素子3側に伝達された伝達量が大きいことを示している。
【0051】
次に、
図8も用いて、演算部6での演算結果による締結状態の判断方法について具体的に説明する。
図8は、上記演算部でのフランジ接続の締結状態の判断動作の具体例を説明するグラフである。
【0052】
演算部6は、求めた伝達関数Eの平均的な大きさと予め定められたしきい値とを比較することにより、フランジ接続部10の締結状態を判断する。フランジ接続部10では、一般的な傾向として、締結が緩むにつれて、上記振動の伝達量が小さくなり、伝達関数Eの大きさも小さくなる。
【0053】
それゆえ、演算部6は、求めた伝達関数Eの、例えば、所定の第2周波数範囲内の平均的な大きさと予め定められたしきい値とを比較することにより、フランジ接続部10の締結状態を判断することができる。
【0054】
具体的にいえば、演算部6は、例えば、第2周波数範囲として、第1周波数範囲のスイープ幅の全範囲の伝達関数Eの二乗平均平方根(RMS;Root Mean Square)を算出する。演算部6は、算出した二乗平均平方根の値がしきい値以下であることを判別したときに、フランジ接続部10の締結状態に異常(接続不具合)が発生していると判断する。
【0055】
つまり、演算部6は、
図8のグラフ70に示すように、伝達関数Eの二乗平均平方根の値がしきい値以下となったことを判別すると、フランジ接続部10でのボルト16の緩み度合いが許容レベル以下となったと判断して、フランジ接続部10の締結状態に異常が発生していると判断する。
【0056】
なお、上記所定の第2周波数範囲は、上記第1周波数範囲と同じであっても、異なっていてもよい。つまり、第2周波数範囲として、第1周波数範囲と同じである、10kHz~150kHzの範囲を選択することもできるし、例えば、50kHz~120kHzの範囲を選択することもできる。
【0057】
以上のように、演算部6が、フランジ接続部10の締結状態の判断基準に用いる周波数範囲を第2周波数範囲として設定することにより、上記振動の伝達量において、判断基準となる第2周波数範囲の絞り込み(設定)を適切に行うことが可能となり、フランジ接続部10の締結状態の判断精度を容易に向上させることができる。
【0058】
また、本実施形態の診断装置1では、信号発生部4が、上記のように、第1周波数範囲の周波数のスイープされた電圧印加を行うことにより、単一の周波数での電圧印加を行う場合に比べ、演算部6でのフランジ接続部10の締結状態の判断精度を大幅に向上させることができる。
【0059】
つまり、第1の圧電素子2への入力信号の周波数範囲を広げることにより、演算部6において、上記隙間Fによって減衰され難い周波数の振動の周波数成分のみが伝達関数Eとして求められる可能性を低減することができる。この結果、本実施形態の診断装置1では、フランジ接続部10の締結状態の判断精度を容易に向上させることができる。
【0060】
次に、
図9を参照して、本実施形態の診断装置1の動作例について具体的に説明する。
図9は、上記診断装置の動作例を示すフローチャートである。
【0061】
図9に示すように、本実施形態の診断装置1では、操作者の操作に従って、当該診断装置1が起動されると、信号発生部4は、第1のフランジ11に設けられた第1の圧電素子2に対して、所定の第1周波数範囲をスイープする入力信号を当該第1の圧電素子2に印加する印加ステップを行う(S1)。
【0062】
具体的には、ステップS1において、信号発生部4は、第1の圧電素子2へ第1の周波数範囲である、10kHz~150kHzを10秒間で掃引した高周波電圧(印加電圧)を印加して、当該第1の圧電素子2を振動させる。また、信号発生部4は、印加電圧を測定・記録部5にも出力し、測定・記録部5は、入力した印加電圧を記録する。
【0063】
次に、測定・記録部5は、第2のフランジ12に設けられた第2の圧電素子3によって第1の圧電素子2による振動に応じた出力信号を検出する検出ステップを行う(S2)。
【0064】
具体的には、ステップS2において、第1の圧電素子2が発生した振動は、第1のフランジ11から絶縁スペーサ13を通って反対側の第2のフランジ12へ伝わる。そして、第2の圧電素子3は、伝えられた振動を検出して、電圧信号である検出信号を測定・記録部5に出力する。測定・記録部5は、入力した検出信号(出力電圧)を測定し記録する。
【0065】
次に、演算部6は、測定・記録部5に記録された印加電圧(入力信号)と、測定・記録部5に記録された出力電圧(出力信号)とから振動の伝達量を演算し、その演算結果に応じてフランジ接続部10の締結状態を判断する判断ステップを行う(S3~S6)。
【0066】
具体的には、ステップS3において、演算部6は、測定・記録部5が記録した、印加電圧と出力電圧とを各々高速フーリエ変換し、周波数成分ごとに出力電圧を印加電圧で除算して、伝達関数を求める。
【0067】
続いて、ステップS4において、演算部6は、求めた伝達関数の二乗平均平方根(RMS)を計算する。
【0068】
次に、ステップS5において、演算部6は、計算した伝達関数の二乗平均平方根の値が予め定められたしきい値以下であるかどうかについて判別する。
【0069】
演算部6が、伝達関数の二乗平均平方根の値がしきい値以下でないことを判別すれば(S5でNO)、診断装置1は、動作を終了する。
【0070】
一方、演算部6が、伝達関数の二乗平均平方根の値がしきい値以下であることを判別すれば(S5でYES)、ステップS6において、演算部6は、フランジ接続部10の締結状態に接続不具合が発生していると判断して、出力部7に対して、警報を出力するように指示する。そして、出力部7は、演算部6からの指示に従って、警報を出力する。
【0071】
以上のように構成された本実施形態の診断装置1は、絶縁スペーサ13を介して、ボルト16とナット17により締結された第1のフランジ11及び第2のフランジ12を有するフランジ接続部10を診断する。第1のフランジ11には、第1の圧電素子(振動子)2が設けられる。信号発生部4は、所定の第1周波数範囲をスイープする入力信号を第1の圧電素子2に印加して、当該第1の圧電素子2を振動させる。また、第2のフランジ12には、第1の圧電素子2による振動に応じた出力信号を出力する第2の圧電素子(検出素子)3が設けられる。演算部6は、上記入力信号と上記出力信号とから伝達量を演算し、その演算結果に応じてフランジ接続部10の締結状態を判断する。これにより、本実施形態の診断装置1では、フランジ接続部10を簡便に診断することができる。
【0072】
すなわち、本実施形態の診断装置1では、上記特許文献1に記載の従来技術と異なり、放射線を照射する照射装置や放射線透過写真を撮影する撮影装置等の設置を割愛することができるとともに、放射線の使用許可や放射線を取り扱う資格を有する資格者などを不要として、フランジ接続部10を簡便に診断することができる。
【0073】
また、本実施形態の診断装置1では、上記特許文献2に記載の従来技術と異なり、超音波発生装置等の設置を割愛することができるとともに、超音波探傷検査方法に精通した操作者を不要として、フランジ接続部10を簡便に診断することができる。
【0074】
また、本実施形態の診断装置1は、フランジ接続部10の締結状態を検出して判断することができるので、フランジ接続部10からの絶縁性流体ZRの漏洩の発生の可能性を未然に抑えることができ、当該絶縁性流体ZRによる絶縁耐力の低下に起因する短絡事故などの重大事故の発生の可能性をも未然に抑えることができる。
【0075】
また、本実施形態の診断装置1は、フランジ接続部10の締結状態を検出して判断することができるので、フランジ接続部10に設けられたボルト16とナット17の間の締結自体の緩みによる変化も捉えることができる。すなわち、本実施形態の診断装置1では、
図4の(B)に示したように、ボルト16の微小な変化も検知することができる。
【0076】
<変形例1>
本変形例1の演算部6は、伝達関数の二乗平均平方根の値に代えて、2つ以上の周波数成分での入力信号と出力信号との比を用いて、フランジ接続部10の締結状態を判断してもよい。
【0077】
<変形例2>
本変形例2の演算部6は、伝達関数の二乗平均平方根の値に代えて、予め基準とした基準周波数での入力信号と出力信号との比を用いて、フランジ接続部10の締結状態を判断してもよい。
【0078】
<変形例3>
本変形例3の演算部6は、伝達関数の二乗平均平方根の値に代えて、伝達関数の平均二乗偏差(RMSD;Root Mean Square Deviation)の値を用いて、フランジ接続部10の締結状態を判断してもよい。
【0079】
<変形例4>
本変形例4の演算部6は、伝達関数の二乗平均平方根の値に代えて、伝達関数の平均二乗誤差(RMSE;Root Mean Square error)の値を用いて、フランジ接続部10の締結状態を判断してもよい。
【0080】
また、上記の説明以外に、上記本実施形態、及び変形例1~4を適宜組み合わせた構成でもよい。
【0081】
なお、上記の説明では、診断装置1の診断対象の設備として電力設備を示した場合について説明したが、本実施形態の診断装置1は、スペーサを介して、ボルトとナットにより締結された一対のフランジを有するフランジ接続部を有する設備であれば何等限定されるものではなく、例えば、水道設備等のインフラ設備などを対象に診断することもできる。
【0082】
〔ソフトウェアによる実現例〕
診断装置1の機能ブロック(特に、演算部6)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0083】
後者の場合、演算部6は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば1つ以上のプロセッサを備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本開示の目的が達成される。
【0084】
上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、磁気ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などを更に備えていてもよい。
【0085】
また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0086】
〔まとめ〕
上記の課題を解決するために、本開示の一側面に係る診断装置は、診断対象の設備に設けられたフランジ接続部を診断する診断装置であって、前記フランジ接続部は、スペーサを介して、ボルトとナットにより締結された一対のフランジを有するフランジ接続部であり、前記一対のフランジの一方のフランジに設けられた振動子と、前記振動子を振動させるための入力信号を発生する信号発生部であって、所定の第1周波数範囲をスイープする入力信号を前記振動子に印加する信号発生部と、前記一対のフランジの他方のフランジに設けられて、前記振動子による振動に応じた出力信号を出力する検出素子と、前記入力信号と前記出力信号とから伝達量を演算し、その演算結果に応じて前記フランジ接続部の締結状態を判断する、演算部と、を備える。
【0087】
上記構成によれば、フランジ接続部を簡便に診断することができる。
【0088】
上記一側面に係る診断装置において、前記演算部は、前記伝達量として、周波数成分ごとの前記入力信号と前記出力信号との比である伝達関数を求めるとともに、求めた伝達関数の、所定の第2周波数範囲内の平均的な大きさと予め定められたしきい値とを比較することにより、前記フランジ接続部の締結状態を判断してもよい。
【0089】
上記構成によれば、フランジ接続部の締結状態を精度よく判断することができる。
【0090】
上記一側面に係る診断装置において、前記演算部が前記所定の第2周波数範囲内の平均的な大きさが前記しきい値以下であることを判別した場合に、警報を出力する出力部を、さらに備えてもよい。
【0091】
上記構成によれば、フランジ接続部の締結状態に異常がある場合に、警報を出力することができ、当該異常を報知することができる。
【0092】
上記一側面に係る診断装置において、前記診断対象の設備は、前記フランジが設けられた管路を具備する電力設備であり、当該管路の内部には絶縁性流体が充填されてもよい。
【0093】
上記構成によれば、管路の内部から外部に絶縁性流体が漏洩する可能性を大幅に低減することができる。
【0094】
上記一側面に係る診断装置において、前記診断対象の設備の前記スペーサは、エポキシ樹脂からなってもよい。
【0095】
上記構成によれば、エポキシ樹脂からなるスペーサを介在させたフランジ接続部を容易に診断することができる。
【0096】
上記一側面に係る診断装置において、前記振動子及び前記検出素子は、圧電素子であってもよい。
【0097】
上記構成によれば、一対の圧電素子によって振動子及び検出素子が構成されることとなり、診断装置の部品種類数が増加するのを抑制しつつ、各圧電素子を振動子または検出素子として使用することができることから、各圧電素子のフランジへの取り付けを簡単に行うことが可能となってフランジ接続部の診断を容易に行うことができる。
【0098】
また、本開示の一側面に係る診断方法は、診断対象の設備に設けられたフランジ接続部を診断する診断方法であって、前記フランジ接続部は、スペーサを介して、ボルトとナットにより締結された一対のフランジを有するフランジ接続部であり、前記一対のフランジの一方のフランジに設けられた振動子に対して、所定の第1周波数範囲をスイープする入力信号を前記振動子に印加する印加ステップと、前記一対のフランジの他方のフランジに設けられた検出素子によって前記振動子による振動に応じた出力信号を検出する検出ステップと、前記入力信号と前記出力信号とから伝達量を演算し、その演算結果に応じて前記フランジ接続部の締結状態を判断する判断ステップと、を備える。
【0099】
上記構成によれば、フランジ接続部を簡便に診断することが可能になる。
【0100】
本開示は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本開示の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0101】
1 診断装置
2 第1の圧電素子(振動子)
3 第2の圧電素子(検出素子)
4 信号発生部
6 演算部
7 出力部
10 フランジ接続部
11 第1のフランジ
12 第2のフランジ
13 絶縁スペーサ
14 第1の管路
15 第2の管路
16 ボルト
17 ナット
ZR 絶縁性流体