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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022138079
(43)【公開日】2022-09-22
(54)【発明の名称】手術システム並びに手術支援方法
(51)【国際特許分類】
   A61F 9/007 20060101AFI20220914BHJP
   A61B 34/37 20160101ALI20220914BHJP
【FI】
A61F9/007 200Z
A61F9/007 130B
A61B34/37
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021037873
(22)【出願日】2021-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニーグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093241
【弁理士】
【氏名又は名称】宮田 正昭
(74)【代理人】
【識別番号】100101801
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 英治
(74)【代理人】
【識別番号】100095496
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 榮二
(74)【代理人】
【識別番号】100086531
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】110000763
【氏名又は名称】特許業務法人大同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 裕之
(72)【発明者】
【氏名】宮本 敦史
(72)【発明者】
【氏名】大月 知之
(57)【要約】
【課題】外科手術において発生し易いトラブルの発生を抑制する手術システムを提供する。
【解決手段】手術システムは、術具を装着するロボットアームと、タスクに応じた前記術具に対する操作自由度の制約を設定する設定部と、前記操作自由度の制約に基づいて術具が操作されるように制御する制御部を具備する。前記設定部は、眼科手術の対象とする眼球を観察する顕微鏡画像及びOCT画像の少なくとも一方に基づいて前記操作自由度の制約を設定し、前記制御部は、前記操作自由度の制約に基づいて術具が操作されるように、前記ロボットアームの動作を制御する。
【選択図】 図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
術具を装着するロボットアームと、
タスクに応じた前記術具に対する操作自由度の制約を設定する設定部と、
前記操作自由度の制約に基づいて術具が操作されるように制御する制御部と、
を具備する手術システム。
【請求項2】
前記設定部は、手術の対象とする患部を観察するセンサによるセンサ情報に基づいて前記操作自由度の制約を設定する、
請求項1に記載の手術システム。
【請求項3】
前記設定部は、眼科手術の対象とする眼球を観察する顕微鏡画像及びOCT画像の少なくとも一方に基づいて前記操作自由度の制約を設定する、
請求項1に記載の手術システム。
【請求項4】
前記制御部は、前記操作自由度の制約に基づいて術具が操作されるように、前記ロボットアームの動作を制御する、
請求項1に記載の手術システム。
【請求項5】
前記手術システムは、前記ロボットアームを含むスレーブ装置と、前記ロボットアームの動作を指示する操作ユーザインターフェースを含むマスタ装置からなり、
前記制御部は、前記操作自由度の制約を逸脱する指示が行われないように、前記操作ユーザインターフェースに対する操作を規制する、
請求項1に記載の手術システム。
【請求項6】
前記操作自由度の制約に関する情報をユーザに提示する提示部をさらに備える、
請求項1に記載の手術システム。
【請求項7】
白内障手術で適用され且つ角膜切開のタスクの実施時において、
前記設定部は、角膜を前房に穿孔したポートを通過するほぼ水平な操作平面からなる前記操作自由度を設定し、
前期制御部は、前記術具の先端がこの操作平面から離間しないように制御する、
請求項1に記載の手術システム。
【請求項8】
白内障手術で適用され且つ水晶体の液化及び吸引のタスクの実施時において、
前記設定部は、角膜を前房に穿孔したポートに拘束点を設定し、且つ、後嚢に沿って仮想壁を設定し、
前記制御部は、前記術具を拘束点でピボット操作し且つ前記術具の先端が前記仮想壁を超えないように制御する、
請求項1に記載の手術システム。
【請求項9】
白内障手術で適用され且つ前嚢切開のタスクの実施時において、
前記設定部は、角膜を前房に穿孔したポートに拘束点を設定し、且つ、前嚢のうち切開すべき部分と角膜との間に、CCC鑷子の先端が通過可能な作業領域を設定し、
前記制御部は、前記CCC鑷子を拘束点でピボット操作し且つ前記CCC鑷子の先端が前記作業領域を超えないように制御する、
請求項1に記載の手術システム。
【請求項10】
術具を装着するロボットアームと備えた手術システムにおける手術支援方法であって、
患部を観察するセンサによるセンサ情報を取得するステップと、
前記センサ情報に基づいて、タスクの対象とする部位を検出するステップと、
前記検出した部位に基づいて、タスクに応じた操作自由度の制約を設定するステップと、
前記操作自由度の制約に基づいて術具が操作されるように前記ロボットアームの動作に関する制御を行うステップと、
を有する手術支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で開示する技術(以下、「本開示」とする)は、ロボティックス技術を適用して外科手術を支援する手術システム並びに手術支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に外科手術は、術者の感覚運動によって行われる難しい作業である。眼科手術のように、小規模で脆弱な環境下で微細な術具を使用する手術の場合、術者は手の振戦を抑制して、ミクロンオーダーの動作を行う必要がある。例えば白内障手術は、濁った水晶体を取り除き、その代わりに人口の水晶体(人工レンズ)を挿入する手術であるが、手技で行うと術者のスキルによって術後の成果にばらつきが生じる。具体的には、水晶体を格納する組織の切開(前嚢切開)では、後嚢やチン小帯を傷つけることなく、およそ5.5ミリメートルの円形を正確に作成することが重要である。
【0003】
このため、最近では、医療分野にもロボティックス技術が導入され、マスタスレーブ方式の手術システムを利用して安全且つ正確に手術を遂行するようになってきている。
【0004】
例えば、術者が顕微鏡画像に基づいてマニピュレータを操作し、操作量に応じて術具側のロボットを遠隔操作することで患者を治療する手術システムが提案されている(非特許文献1を参照のこと)。この手術システムによれば、マニピュレータの操作を通じて術者の手の振戦を抑制することができる。しかしながら、この手術システムでは、手術に関わるタスク遂行時の判断(適切な処置)は術者の力量に大きく委ねられるため、各タスクでトラブルの発生を回避できない場合がある。
【0005】
また、レーザビームによって角膜切開、前嚢切開、及び水晶体の破砕を行う、白内障手術のための装置が提案されている(特許文献1を参照のこと)。この装置を用いれば、レーザによって高い精度で真円形の前嚢切開を行うことができるが、水晶体の乳化及び吸引は物理操作を伴うため、人の手による作業が介在し、トラブルが発生し易くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-12201号公報
【特許文献2】WO2017/130562
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J.Wilson et al.,"Intraocular robotic interventional surgical system (IRISS): Mechanical design,evaluation, and master-slave manipulation," Int.J.Med.Robot.Comput.Assist.Surg.,vol.14,Jul.2017,doi: 10.1002/rcs.1842.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示の目的は、外科手術において発生し易いトラブルの発生を抑制する手術システム並びに手術支援方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、上記課題を参酌してなされたものであり、その第1の側面は、
術具を装着するロボットアームと、
タスクに応じた前記術具に対する操作自由度の制約を設定する設定部と、
前記操作自由度の制約に基づいて術具が操作されるように制御する制御部と、
を具備する手術システムである。
【0010】
但し、ここで言う「システム」とは、複数の装置(又は特定の機能を実現する機能モジュール)が論理的に集合した物のことを言い、各装置や機能モジュールが単一の筐体内にあるか否かは特に問わない。
【0011】
前記設定部は、眼科手術の対象とする眼球を観察する顕微鏡画像及びOCT画像の少なくとも一方に基づいて前記操作自由度の制約を設定する。
【0012】
前記制御部は、前記操作自由度の制約に基づいて術具が操作されるように、前記ロボットアームの動作を制御する。あるいは、前記制御部は、前記操作自由度の制約を逸脱する指示が行われないように、前記ロボットアームの動作を指示する操作ユーザインターフェースに対する操作を規制する。
【0013】
また、本開示の第2の側面は、術具を装着するロボットアームと備えた手術システムにおける手術支援方法であって、
患部を観察するセンサによるセンサ情報を取得するステップと、
前記センサ情報に基づいて、タスクの対象とする部位を検出するステップと、
前記検出した部位に基づいて、タスクに応じた操作自由度の制約を設定するステップと、
前記操作自由度の制約に基づいて術具が操作されるように前記ロボットアームの動作に関する制御を行うステップと、
を有する手術支援方法である。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、タスクに応じたトラブルの発生を回避するように外科手術を支援する手術システム並びに手術支援方法を提供することができる。
【0015】
なお、本明細書に記載された効果は、あくまでも例示であり、本開示によりもたらされる効果はこれに限定されるものではない。また、本開示が、上記の効果以外に、さらに付加的な効果を奏する場合もある。
【0016】
本開示のさらに他の目的、特徴や利点は、後述する実施形態や添付する図面に基づくより詳細な説明によって明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、マスタスレーブ方式の手術システム100の機能的構成例を示した図である。
図2図2は、前眼の解剖学を示した図である。
図3図3は、白内障手術のタスク(角膜切開)を示した図である。
図4図4は、白内障手術のタスク(前嚢切開)を示した図である。
図5図5は、白内障手術のタスク(水晶体の破砕、水晶体の超音波乳化及び吸引、水晶体残留物の吸引)を示した図である。
図6図6は、白内障手術のタスク(眼内レンズの留置)を示した図である。
図7図7は、角膜切開時に早期穿孔が発生した様子を示した図である。
図8図8は、角膜切開時における術具の操作自由度を制約する操作平面を眼球表面上で示した図である。
図9図9は、角膜切開時における術具の操作自由度を制約する操作平面を眼球断面上で示した図である。
図10図10は、操作UI部112の操作許容範囲が制約されている様子を示した図である。
図11図11は、術具と操作平面を表示した画面の例を示した図である。
図12図12は、術具にピボット操作するための拘束点を設定した様子示した図である。
図13図13は、後嚢に沿って仮想壁を設定した様子を示した図である。
図14図14は、OCT画像上で設定された術具の拘束点及び仮想壁を示した図である。
図15図15は、後嚢に沿って設定した仮想壁をOCT画像上に重畳表示したモニタ画面を示した図である。
図16図16は、前嚢切開用のCCC鑷子の拘束点と作業領域を設定した様子を示した図である。
図17図17は、角膜と前嚢の間に設定した前嚢切開用の作業領域をOCT画像上に重畳表示したモニタ画面を示した図である。
図18図18は、手術システム100によって眼科手術を支援するための動作手順を示したフローチャートである。
図19図19は、手術システム100の網膜硝子体手術への適用例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら本開示について、以下の順に従って説明する。
【0019】
A.手術システム
B.白内障手術について
C.手術システムによる眼科手術の支援
C-1.角膜切開時における操作支援
C-2.水晶体の乳化及び吸引時における操作支援
C-3.前嚢切開時における操作支援
C-4.動作手順
D.効果
E.変形例
【0020】
A.手術システム
本明細書では、主に本開示をマスタスレーブ方式の手術システムに適用した実施形態を中心に説明する。このような手術システムでは、術者などのユーザはマスタ側で操作を行い、スレーブ側ではユーザの操作に従ってロボットの駆動をコントロールすることによって手術を行う。手術システムにロボティックス技術を取り入れる目的として、術者の手の振戦の抑止、操作支援や術者間の技量の相違の吸収、遠隔からの手術の実施などが挙げられる。
【0021】
図1には、マスタスレーブ方式の手術システム100の機能的構成例を示している。図示の手術システム100は、ユーザ(術者)が手術などの作業を指示するマスタ装置110と、マスタ装置110からの指示に従って手術を実施するスレーブ装置120からなる。ここで言う手術として、主に網膜手術を想定している。マスタ装置110とスレーブ装置120間は、伝送路130を介して相互接続されている。伝送路130は、例えば光ファイバなどのメディアを用いて低遅延で信号伝送を行えることが望ましい。
【0022】
マスタ装置110は、マスタ側制御部111と、操作UI(User Interface)部112と、提示部113と、マスタ側通信部114を備えている。マスタ装置110は、マスタ側制御部111による統括的な制御下で動作する。
【0023】
操作UI部112は、ユーザ(術者など)が、スレーブ装置120において鉗子などの術具を操作するスレーブロボット112(後述)に対する指示を入力するためのデバイスからなる。操作UI部112は、例えば、コントローラやジョイスティックなどの専用の入力デバイス、さらにはマウス操作や指先のタッチ操作を入力するGUI画面などの汎用の入力デバイスで構成される。また、特許文献2で開示されるような、把持インターフェースをパラレルリンクで支持して構成される「医療用装置」を操作UI部112として利用することができる。
【0024】
提示部113は、主にスレーブ装置120側のセンサ部123(後述)で取得されるセンサ情報に基づいて、操作UI部112を操作しているユーザ(術者)に対して、スレーブ装置120において実施されている手術に関する情報を提示する。
【0025】
例えば、センサ部123が患部の表面を観察する顕微鏡画像を撮り込むRGBカメラやOCT(Optical Coherence Tomography:光干渉断層装置)を装備し、又はRGBカメラの撮像画像(以下、単に「顕微鏡画像」とする)やOCT画像を取り込むインターフェースを装備し、これらの画像データが伝送路130を介して低遅延でマスタ装置110に転送される場合、提示部113は、モニタディスプレイなどを使って、リアルタイムの患部の顕微鏡画像やOCT画像を画面表示する。
【0026】
また、センサ部123が、スレーブロボット112が操作する術具に作用する外力やモーメントを計測する機能を装備し、このような力覚情報が伝送路130を介して低遅延でマスタ装置110に転送される場合には、提示部113は、ユーザ(術者)に対して力覚提示を行う。例えば、提示部113は、操作UI部112を使ってユーザ(術者)に力覚提示を行うようにしてもよい。
【0027】
マスタ側通信部114は、マスタ側制御部111による制御下で、伝送路130を介したスレーブ装置120との信号の送受信処理を行う。例えば伝送路130が光ファイバからなる場合、マスタ側通信部114は、マスタ装置110から送出する電気信号を光信号に変換する電光変換部と、伝送路130から受信した光信号を電気信号に変換する光電変換部を備えている。
【0028】
マスタ側通信部114は、ユーザ(術者)が操作UI部112を介して入力した、スレーブロボット122に対する操作コマンドを、伝送路130を介してスレーブ装置120に転送する。また、マスタ側通信部114は、スレーブ装置120から送られてくるセンサ情報を、伝送路130を介して受信する。
【0029】
一方、スレーブ装置120は、スレーブ側制御部121と、スレーブロボット122と、センサ部123と、スレーブ側通信部124を備えている。スレーブ装置120は、スレーブ側制御部121による統括的な制御下で、マスタ装置110からの指示に応じた動作を行う。
【0030】
スレーブロボット122は、例えば多リンク構造からなるアーム型のロボットであり、先端(又は、遠位端)にエンドエフェクタとして鉗子などの術具を搭載している。スレーブ側制御部121は、伝送路130を介してマスタ装置110から送られてきた操作コマンドを解釈して、スレーブロボット122を駆動するアクチュエータの駆動信号に変換して出力する。そして、スレーブロボット122は、スレーブ側制御部121からの駆動信号に基づいて動作する。
【0031】
本実施形態では、スレーブロボット122として、主に網膜手術を行うことを想定しており、RCM(Remote Center of Motion)構造を有することを想定している。RCM構造は、モータなどの駆動機構の回転中心から離れた位置に回転中心(すなわち、遠隔回転中心)を配置し、ピボット(不動点)運動を実現する構造とする。RCM構造は、手術の際に患者の身体に開けた穴の位置(例えば、トロッカ位置)を常に通る構造を実現できることから安全性が高い。
【0032】
センサ部123は、スレーブロボット122やスレーブロボット122が実施している手術の患部における状況を検出する複数のセンサを備え、さらに手術室内に設置された各種センサ装置からセンサ情報を取り込むためのインターフェースを装備している。
【0033】
例えば、センサ部123は、スレーブロボット122の先端(遠位端)に搭載された術具に、手術中に作用する外力やモーメントを計測するための力覚センサ(Force Torque Sensor:FTS)を備えている。この力覚センサの構成及び外力やモーメントを計測するための演算処理の詳細については、後述に譲る。
【0034】
また、センサ部123は、スレーブロボット122が手術中の患部の表面の顕微鏡画像や患部(眼球)の断面をスキャンするOCT画像を取り込むインターフェースを装備している。
【0035】
スレーブ側通信部124は、スレーブ側制御部121による制御下で、伝送路130を介したマスタ装置110都の信号の送受信処理を行う。例えば伝送路130が光ファイバからなる場合、スレーブ側通信部124は、スレーブ装置120から送出する電気信号を光信号に変換する電光変換部と、伝送路130から受信した光信号を電気信号に変換する光電変換部を備えている。
【0036】
スレーブ側通信部124は、センサ部123によって取得される術具の力覚データや、患部の顕微鏡画像、患部断面をスキャンしたOCT画像などを、伝送路130を介してマスタ装置110に転送する。また、スレーブ側通信部124は、マスタ装置110から送られてくるスレーブロボット122に対する操作コマンドを、伝送路130を介して受信する。
【0037】
後述するように、本実施形態では、マスタスレーブ方式の手術システム100を主に白内障手術に適用することを想定している。また、手術システム100は、対象とする眼球(又は、水晶体付近)の3次元的な(又は、深さ方向を含む)環境情報を取得する必要性から、センサ部123としてOCTを使用することを想定してる。
【0038】
ここで、OCTは、非侵襲な光学的画像計測方式であり、1次元の深さ方向、2次元の断層画像及び3次元の体積画像をマイクロメーターレベルの分解能で数ミリメートルの深さにわたり、リアルタイムで測定することが可能である。OCTは、異なる物質の層より反射した光を用いて、サンプル内の構造を画像化する。
【0039】
なお、OCTイメージングは、超音波測定に類似するが、測定震度が若干浅くなるが、非常に高い分解能が得られるという特徴がある。ちなみに、OCTイメージングによれば、最大深さ数10ミリメートル、軸方向分解能5マイクロメートル以下でのイメージングが可能である。
【0040】
B.白内障手術について
白内障手術は、手技で行うと術者のスキルによって術後の成果にばらつきが生じる。例えば、水晶体を格納する組織の切開(前嚢切開)では、後嚢やチン小帯を傷つけることなく、およそ5.5ミリメートルの円形を正確に作成することが重要である。
【0041】
白内障手術は、濁った水晶体を取り除き、その代わりに人口の水晶体(人工レンズ)を挿入する手術であるが、レーザ支援手術に関しては凡そ以下の手順で行われる。
【0042】
(1)角膜切開
(2)前嚢切開
(3)水晶体の破砕
(4)水晶体の超音波乳化及び吸引
(5)水晶体残留物の吸引
(6)眼内レンズの留置
【0043】
ここで、参考のため、図2に前眼の解剖学を示す。そして、図3図6を参照しながら、上記の白内障手術において順次実施される各タスク(1)~(6)について説明する。
【0044】
まず、図3に示すように角膜を前房に穿孔して(角膜切開)、水晶体へアクセスするためのポートを設ける。次いで、図4に示すようにCCC(Continuous Curvicular Capslotomy)鑷子を用いて、前嚢を円形に除去する(前嚢切開)。次いで、図5に示すように、専用の超音波デバイスとチョッパを組み合わせて用い、水晶体の核と皮質を超音波で破砕し、さらに水晶体を乳化して吸引し、さらに水晶体残留物をかき集めて吸引して、眼球の外へ排出する。そして最後に、図6に示すように眼内レンズを中央に留置する。
【0045】
続いて、上記のタスク(1)~(6)からなる白内障手術において発生し得るトラブルについて説明する。
【0046】
図3には、角膜を切開してフラップを作成する様子を示したが、図7に示すように、最初に穿孔した場所から予定よりも近い位置に穿孔してしまう「早期穿孔」と呼ばれるトラブルがある。このトラブルは、作成したフラップが小さすぎるため、眼内レンズを留置できなくなるなどの原因になる。術者の手首構造が人間工学的に水平方向に術具を操作することが困難であることに起因して、早期穿孔が生じる。
【0047】
また、図5に示すように、粉砕した水晶体の核と皮質を除去するために超音波デバイスで乳化して吸引する際に発生する熱によって生体組織への侵襲が引き起こされる。これも、患者予後に関わる問題となり得る。したがって、上記のタスク(4)~(5)の作業を迅速に行うことが望ましい。
【0048】
フェムト病レーザを使った治療はタスク(1)~(3)に係るタスクが可能である。一方、それ以外のタスク(4)~(6)は、物理接触が必要になるタスクであり、レーザで行うことはできないため、手技による操作が必要である。
【0049】
C.手術システムによる眼科手術の支援
上記B項で説明したように、白内障手術においては、とりわけ手技による操作が必要となるタスクを実施時に術者のスキルに影響され易いために、タスク毎に発生し易いトラブルがある。そこで、本開示は、上記A項で説明したマスタスレーブ方式の手術システム100を用いて操作支援を通じて、タスクに応じたトラブルの発生を回避して、白内障手術などの眼科手術を安全且つ正確に遂行することを目的とする。
【0050】
すなわち、本開示を適用した手術システム100は、スレーブロボット122(又は、スレーブロボット122の遠位端に装着した術具先端)に対して、タスクに応じた操作自由度の制約を課すことによって、各タスクにおいて発生し易いトラブルに結び付く術具操作が実施されないようにする。手術システム100は、スレーブ装置120側において、タスクに応じて、スレーブロボット122に対してトラブルを回避するための操作自由度の制約を課すようにしてもよい。また、マスタ装置110側において、操作UI部112に対して操作自由度の制約を課すことによって、トラブルに結び付くようなスレーブロボット122の操作又は術具操作をユーザ(術者など)が指示できないようにしてもよい。
【0051】
スレーブ装置120及びマスタ装置110のいずれに対してタスクに応じた操作自由度の制約を課すようにしても、手術システム100は、白内障手術を安全且つ正確に遂行できるように操作支援することができる。
【0052】
スレーブ装置120側でタスクに応じた操作自由度の制約を課す場合には、マスタ装置110側でユーザが操作UI部112を通じていかなる術具操作を指示しても、トラブルに結び付くようなスレーブロボット122の動作を抑制することができる。但し、マスタ装置110側のユーザ操作とスレーブ装置120における術具操作が乖離してしまうため、ユーザは、操作性に不具合を感じたり、装置の誤動作や故障と誤解したりしてしまうおそれもある。
【0053】
一方、マスタ装置110側でタスクに応じた操作自由度の制約を課す場合には、マスタ装置110側のユーザ操作とスレーブ装置120における術具操作が乖離しない。但し、ユーザは、術部でトラブルを発生し得ない範囲でしか操作UI部112を操作できないという制約や、タスク毎に操作可能な範囲が変化することに慣れる必要がある。
【0054】
もちろん、マスタ装置110及びスレーブ装置120の両方で、タスクに応じた操作自由度の制約を課して、手術システム100が万全な操作支援を行うようにしてもよい。
【0055】
C-1.角膜切開時における操作支援
上記B項でも説明したように、角膜切開時に発生し易いトラブルとして、最初に穿孔した場所から予定よりも近い位置に穿孔してしまう「早期穿孔」(図7を参照のこと)を挙げることができる。図3にも示したように、術者は術具をほぼ水平方向に操作することが必要である。ところが、術者の手首構造が人間工学的に水平方向に術具を操作することが困難であることに起因して、早期穿孔が生じる。
【0056】
そこで、本開示に係る手術システム100では、角膜切開というタスク遂行時において、術具の操作をほぼ水平方向に拘束するように、操作自由度の制約を課す。具体的には、角膜を前房に穿孔したポートを通過するほぼ水平な操作平面を設定して、術具の先端がこの操作平面から離間しないように、操作自由度を操作平面に沿った並進2自由度に制約する。
【0057】
例えば、眼球の表面を観察する顕微鏡画像と、眼球の断面を捕捉するOCT画像を組み合わせて、角膜を前房に穿孔したポートを通過するように操作平面を計算して求めることができる。顕微鏡画像及びOCT画像を画像解析して、3次元計算により操作平面を算出するようにしてもよい。また、学習済みの機械学習モデルを使って、顕微鏡画像及びOCT画像から操作平面を推定するようにしてもよい。あるいは、顕微鏡画像やOCT画像を表示するモニタ画面上で、ユーザが直接カーソルで操作平面を指示するようにしてもよい。図8には、眼球の上面から操作平面801を眺めた様子を示している。また、図9には、眼球の断面上で操作平面901を示している。
【0058】
スレーブ側制御部121は、センサ部123から取得される眼球表面の顕微鏡画像及び眼球断面のOCT画像に基づいて、図8及び図9に示したような操作平面を生成する。また、スレーブ側制御部121は、生成した操作平面の情報をマスタ装置110側に伝送するようにしてもよい。マスタ装置110側では、提示部113がモニタディスプレイなどを使って患部の顕微鏡画像やOCT画像に操作平面を画面表示するようにしてもよい。
【0059】
そして、手術システム100は、術具の操作を操作平面に拘束するように、スレーブ装置120又はマスタ装置110の少なくとも一方において、術具の操作自由度を操作平面に制約するための制御を実施する。
【0060】
スレーブ装置120側で自動により操作自由度の制約を行う場合には、スレーブ側制御部121は、術具の動きを操作平面に制約するためのスレーブロボット122のアームの各関節の角度を逆キネマティクス演算により導出した結果に基づいて、スレーブロボット122の動作を拘束する。マスタ装置110側から操作平面を逸脱するような術具操作の指示が送られてきても、スレーブ側制御部121は、術具の動きを操作平面に制約するように、スレーブロボット122の動作を自動制御する。
【0061】
また、マスタ装置110側で自動により操作自由度の制約を行う場合には、マスタ側制御部111は、術具の動きを操作平面に制約するように、操作UI部112の操作自由度を制約する。スレーブ装置120は、マスタ装置110へ、術具の動きを操作平面に制約するためのスレーブロボット122のアームの各関節の角度の逆キネマティクス演算結果を送信する。これに対し、マスタ側制御部111は、スレーブロボット122のアームの各関節の角度を操作UI部112の操作量に変換して、その操作量の範囲のみで操作UI部112の操作を許容する。図10には、ユーザが操作する操作部分(ハンドルなど)がパラレルリンクに搭載して構成されるタイプ(例えば、特許文献2を参照のこと)の操作UI部112において、術具の操作平面に対応して操作の許容範囲が制約されている様子を示している。マスタ側制御部111は、許容された操作量を超えないように操作UI部112にブレーキをかけるようにしてもよい。このような場合、ユーザは、操作UI部112に対する操作が利かないことを通じて、術具の動きが操作平面に制約されていることを体感することができる。
【0062】
また、スレーブ装置120又はマスタ装置110により自動で術具の操作自由度を操作平面に制約する以外に、ユーザが手動により術具の操作を操作平面に制約できるように支援してもよい。例えば、図11に示すように、提示部113がモニタディスプレイに表示する患部(眼球の表面)の顕微鏡画像や眼球断面のOCT画像に、操作平面1101を重畳表示する。そして、ユーザは、画面上で、自分が操作中の術具の先端1102が操作平面1101を逸脱しないように、操作UI部112を通じて術具の操作を手動でコントロールする。
【0063】
C-2.水晶体の乳化及び吸引時における操作支援
上記B項では、図5を参照しながら、水晶体の乳化及び吸引のタスクについて説明した。このタスクでは、超音波デバイスを用いて水晶体の核と皮質を粉砕し吸引する際に、術具と後嚢が接触し、さらには術具が後嚢を突き破って硝子体を傷つけるというトラブルが発生し易い。また、水晶体を粉砕及び乳化して吸引する作業中に、超音波デバイスなどの術具の操作がトロッカー挿入点でのピボット操作から外れてしまうと、侵襲が引き起こされ、患者予後に関わる問題となり得る。
【0064】
そこで、本開示に係る手術システム100では、水晶体の乳化及び吸引というタスク遂行時において、図12に示すように、超音波デバイスなどの術具1201を、トロッカー挿入点1202を拘束点としてピボット操作するという操作自由度の制約を課す。これによって、水晶体の乳化及び吸引タスクを実施中における侵襲を抑制することができる。
【0065】
また、本開示に係る手術システム100では、水晶体の乳化及び吸引というタスク遂行時において、術具が後嚢に直接接触しないようにするために(又は、術具が後嚢を突き破って硝子体を傷つけないようにするために)、図13に示すように、後嚢に沿って仮想壁(virtual wall)1301を設定して、超音波デバイス1302などの術具の先端が後嚢に直接接触しないように、操作自由度の制約を課す。
【0066】
例えば、眼球の表面を観察する顕微鏡画像と眼球の断面を捕捉するOCT画像を組み合わせて、術具のピボット操作の拘束点となる、角膜を前房に穿孔したポートを検出することができる。顕微鏡画像のみからでも、眼球表面の拘束点を検出することができる。また、眼球の断面を捕捉するOCT画像から、水晶体の後嚢を特定して、仮想壁を設定することができる。また、学習済みの機械学習モデルを使って、顕微鏡画像及びOCT画像から拘束点又は仮想壁の少なくとも一方を推定するようにしてもよい。あるいは、顕微鏡画像やOCT画像を表示するモニタ画面上でユーザがカーソルを動かして、拘束点を指して指示したり、後嚢をなぞるようにして仮想壁を指示したりするようにしてもよい。図14には、OCT画像1400上に、術具のピボット操作のための拘束点1401及び仮想壁1402を設定した様子を示している。
【0067】
このような拘束点及び仮想壁の設定はスレーブ装置120又はマスタ装置110のいずれで行うようにしてもよい。スレーブ装置120で行われる場合には、スレーブ側制御部121が必要な演算処理を実行して、顕微鏡画像及びOCT画像の画像情報とともに、算出した拘束点及び仮想壁の情報をマスタ装置110に転送するようにする。また、マスタ装置110で行われる場合には、マスタ側制御部111が、スレーブ装置120から送られてきた顕微鏡画像及びOCT画像に基づいて必要な演算処理を実施して、拘束点及び仮想壁を算出する。あるいは、例えばOCT画像を表示するモニタ画面に対して、ユーザが操作UI部112を通じて指示した結果に基づいて、拘束点及び仮想壁を設定する。
【0068】
そして、手術システム100は、術具を拘束点でピボット操作し、且つ、術具の先端が仮想壁を超えないように、術具の操作自由度を制約するための制御を実施する。
【0069】
スレーブ装置120側で自動により操作自由度の制約を行う場合には、スレーブ側制御部121は、術具を拘束点でピボット操作し、且つ、術具の先端が仮想壁を超えないように制約するためのスレーブロボット122のアームの各関節の角度を逆キネマティクス演算により導出した結果に基づいて、スレーブロボット122の動作を拘束する。マスタ装置110側から仮想壁を逸脱するような術具操作の指示が送られてきても、スレーブ側制御部121は、仮想壁を超えないに術具の動きを制約しながら、スレーブロボット122の動作を自動制御する。
【0070】
また、マスタ装置110側で自動により操作自由度の制約を行う場合には、マスタ側制御部111は、術具を拘束点でピボット操作し、且つ、術具の先端が仮想壁を超えないように制約するように、操作UI部112の操作自由度を制約する。スレーブ装置120は、マスタ装置110へ、術具を拘束点でピボット操作し、且つ、術具の先端が仮想壁を超えないように制約するためのスレーブロボット122のアームの各関節の角度の逆キネマティクス演算結果を送信する。これに対し、マスタ側制御部111は、スレーブロボット122のアームの各関節の角度を操作UI部112の操作量に変換して、その操作量の範囲のみで操作UI部112の操作を許容する(例えば、図10を参照のこと)。マスタ側制御部111は、許容された操作量を超えないように操作UI部112にブレーキをかけるようにしてもよい。このような場合、ユーザは、操作UI部112に対する操作が利かないことを通じて、術具を拘束点でピボット操作し、且つ、術具の先端が仮想壁を超えないように、術具の操作自由度が制約されていることを体感することができる。
【0071】
また、スレーブ装置120又はマスタ装置110により自動で術具の操作自由度を仮想壁内に制約する以外に、ユーザが手動により術具の操作を仮想壁内に制約できるように支援してもよい。例えば、図15に示すように、提示部113がモニタディスプレイに表示する眼球断面のOCT画像に、仮想壁1501を重畳表示する。そして、ユーザは、画面上で、自分が操作中の術具の先端1502が仮想壁1501を逸脱しないように、操作UI部112を通じて術具の操作を手動でコントロールする。
【0072】
C-3.前嚢切開時における操作支援
上記B項で図3図6を参照しながら説明したように、白内障手術では、前嚢を円形に切開して形成した窓から水晶体を吸い出した後、眼内レンズを留置する。前嚢切開は、CCC鑷子を用いて行われるが、前嚢をきれいに円形に切開できるか否かが手術の精度を左右する重要なタスクである。
【0073】
そこで、本開示に係る手術システム100では、前嚢切開というタスク遂行時において、図16に示すように、CCC鑷子1601を眼球内に挿入するためのトロッカー挿入点1602を拘束点としてピボット操作するという操作自由度の制約を課す。さらに、前嚢のうち切開すべき部分と角膜との間に、CCC鑷子1601の先端が通過可能な作業領域1603を設定して、CCC鑷子1601の先端がこの作業領域1603から逸脱しないように、操作自由度の制約を課す。
【0074】
例えば、眼球の表面を観察する顕微鏡画像と眼球の断面を捕捉するOCT画像を組み合わせて、CCC鑷子のピボット操作の拘束点となる、角膜を前房に穿孔したポートを検出することができる。顕微鏡画像のみからでも、眼球表面の拘束点を検出することができる。また、眼球の断面を捕捉するOCT画像から、水晶体の前嚢を特定して、前嚢のうち切開すべき部分と角膜との間にCCC鑷子の先端が通過可能な作業領域を設定することができる。また、学習済みの機械学習モデルを使って、顕微鏡画像及びOCT画像から拘束点又は作業領域の少なくとも一方を推定するようにしてもよい。あるいは、顕微鏡画像やOCT画像を表示するモニタ画面上でユーザがカーソルを動かして、拘束点を指して指示したり、前嚢と角膜の間の領域を囲むようにして作業領域を指示したりするようにしてもよい。
【0075】
このような拘束点及び作業領域の設定はスレーブ装置120又はマスタ装置110のいずれで行うようにしてもよい。スレーブ装置120で行われる場合には、スレーブ側制御部121が必要な演算処理を実行して、顕微鏡画像及びOCT画像の画像情報とともに、算出した拘束点及び作業領域の情報をマスタ装置110に転送するようにする。また、マスタ装置110で行われる場合には、マスタ側制御部111が、スレーブ装置120から送られてきた顕微鏡画像及びOCT画像に基づいて必要な演算処理を実施して、拘束点及び作業領域を算出する。あるいは、例えばOCT画像を表示するモニタ画面に対して、ユーザが操作UI部112を通じて指示した結果に基づいて、拘束点及び作業領域を設定する。
【0076】
そして、手術システム100は、CCC鑷子を拘束点でピボット操作し、且つ、術具の先端が仮想壁を超えないように、CCC鑷子の操作自由度を制約するための制御を実施する。
【0077】
スレーブ装置120側で自動により操作自由度の制約を行う場合には、スレーブ側制御部121は、CCC鑷子を拘束点でピボット操作し、且つ、CCC鑷子の先端が作業領域を超えないように制約するためのスレーブロボット122のアームの各関節の角度を逆キネマティクス演算により導出した結果に基づいて、スレーブロボット122の動作を拘束する。マスタ装置110側から作業領域を逸脱するような術具操作の指示が送られてきても、スレーブ側制御部121は、作業領域を逸脱しないようにCCC鑷子の動きを制約しながら、スレーブロボット122の動作を自動制御する。
【0078】
また、マスタ装置110側で自動により操作自由度の制約を行う場合には、マスタ側制御部111は、CCC鑷子を拘束点でピボット操作し、且つ、CCC鑷子の先端が作業領域を超えないように制約するように、操作UI部112の操作自由度を制約する。スレーブ装置120は、マスタ装置110へ、CCC鑷子を拘束点でピボット操作し、且つ、CCC鑷子の先端が作業領域を逸脱しないように制約するためのスレーブロボット122のアームの各関節の角度の逆キネマティクス演算結果を送信する。これに対し、マスタ側制御部111は、スレーブロボット122のアームの各関節の角度を操作UI部112の操作量に変換して、その操作量の範囲のみで操作UI部112の操作を許容する(例えば、図10を参照のこと)。マスタ側制御部111は、許容された操作量を超えないように操作UI部112にブレーキをかけるようにしてもよい。このような場合、ユーザは、操作UI部112に対する操作が利かないことを通じて、CCC鑷子を拘束点でピボット操作し、且つ、CCC鑷子の先端が作業領域を逸脱しないように、CCC鑷子の操作自由度が制約されていることを体感することができる。
【0079】
また、スレーブ装置120又はマスタ装置110により自動でCCC鑷子の操作自由度を作業領域内に制約する以外に、ユーザが手動によりCCC鑷子の操作を作業領域内に制約できるように支援してもよい。例えば、図17に示すように、提示部113がモニタディスプレイに表示する眼球断面のOCT画像に、前嚢切開用の作業領域1701を重畳表示する。そして、ユーザは、画面上で、自分が操作中のCCC鑷子の先端1702が作業領域1701を逸脱しないように、操作UI部112を通じて術具の操作を手動でコントロールする。
【0080】
C-4.動作手順
図18には、本開示に係る手術システム100によって眼科手術を支援するための動作手順をフローチャートの形式で示している。図示のフローチャートでは、上記のC-1項~C-3項で説明したタスク毎の操作支援をすべて包含するように、動作手順を概略的に示している。
【0081】
まず、手術システム100において、センサ部123がセンサ情報を取得する(ステップS1801)。具体的には、センサ部123は、白内障手術中の眼球の表面を観察する顕微鏡と、眼球の断面をスキャンするOCTを含み(又は、顕微鏡画像及びOCT画像を撮り込むためのインターフェースを備えており)、顕微鏡画像及び、ステップS1801では、顕微鏡画像及びOCT画像を取得する。
【0082】
次いで、センサ情報から、現在のタスクにおいてターゲットとしている部位を検出する(ステップS1802)。具体的には、顕微鏡画像及びOCT画像から、眼球のうちタスクで対象としている部位を検出する。例えば、角膜切開であれば角膜を検出し、前嚢切開であれば、角膜に加えて水晶体の前嚢を検出し、水晶体の乳化及び吸引であれば水晶体を検出する。スレーブ装置120において手術支援を行う場合は、スレーブ側制御部121がこの処理を行い、マスタ装置110において手術支援を行う場合は、マスタ側制御部111がこの処理を行うようにすればよい。
【0083】
次いで、先行ステップ1802で検出した対象部位に基づいて、タスクに応じた操作自由度の制約を設定する(ステップS1803)。具体的には、タスクが角膜切開であれば、角膜を前房に穿孔したポートを通過するほぼ水平な操作平面を設定する。また、タスクが水晶体の乳化及び吸引であれば、術具をピボット操作する際の拘束点、及び水晶体の後嚢に沿った仮想壁を設定する。また、タスクが前嚢切開であれば、CCC鑷子をピボット操作する際の拘束点と、切開する前嚢の前方の作業領域を設定する。スレーブ装置120において手術支援を行う場合は、スレーブ側制御部121がこの処理を行い、マスタ装置110において手術支援を行う場合は、マスタ側制御部111がこの処理を行うようにすればよい。
【0084】
次いで、先行ステップS1804で設定した操作自由度の制約を、手術システム100に実装する(ステップS1804)。スレーブ装置120において手術支援を行う場合には、スレーブ側制御部121が、術具の操作自由度の制約を破らないように、スレーブロボット122の可動範囲を計算して、該当するタスク中は可動範囲を超えてスレーブロボット122が動作しないように設定する。また、マスタ装置110において手術支援を行う場合は、マスタ側制御部111が、術具の操作自由度の制約を破らないようにするための、操作UI部112の操作可能範囲を計算して、該当するタスク中は操作可能範囲を超えて操作UI部112を操作できないように設定する。
【0085】
そして、ユーザ(術者)がタスクを実行する(ステップS1805)。例えば、タスクが角膜切開であれば、角膜を前房に穿孔したポートを通過するほぼ水平な操作平面上を術具が移動するように、スレーブロボット122の動作又は操作UI部112の操作範囲を規制する。また、タスクが水晶体の乳化及び吸引であれば、超音波デバイスなどの術具が拘束点でピボット操作され、且つ、術具の先端が仮想壁を超えないように、スレーブロボット122の動作又は操作UI部112の操作範囲を規制する。タスクが前嚢切開であれば、CCC鑷子が拘束点でピボット操作され、且つ、CCC鑷子の先端が作業領域を逸脱しないように、スレーブロボット122の動作又は操作UI部112の操作範囲を規制する。
【0086】
タスクを継続中は、ステップS1801に戻って、顕微鏡画像及びOCT画像を定期的に取得して、上記と同様の処理を繰り返すようにしてもよい。また、タスクが切り替わると、あらたに図18に示した処理を起動するようにしてもよい。
【0087】
D.効果
このD項では、本開示に係る手術システム100を白内障手術に適用することによってもたらされる効果についてまとめておく。
【0088】
(1)本開示に係る手術システム100によれば、角膜切開において、術具の回転動作を規制することによって、早期穿孔を回避して、安定した角膜切開が可能になる。
【0089】
(2)本開示に係る手術システム100によれば、脆弱な生体組織に接触することなく、操作することが可能である。例えば、水晶体の破砕、乳化及び吸引のタスクにおいては、後嚢を突き破ることなく安全に実施することができる。また、タスクの処理時間を短縮することで、超音波で発生する熱による生体組織への侵襲性を低減することができる。
【0090】
(3)本開示に係る手術システム100によれば、前嚢切開において、CCC鑷子の回転動作と作業範囲を規制することによって、前嚢を正確に円形に切開することができ、その結果、眼内レンズの留置に至るまでの白内障手術を正確に遂行することが可能になる。
【0091】
E.変形例
これまでは、本開示に係る手術システム100を白内障手術に適用した実施形態を中心に説明してきたが、網膜硝子体手術の手術支援も行うことができる。
【0092】
図19には、網膜硝子体手術の一般的なレイアウトを用いて、手術システム100の網膜硝子体手術への適用例を示している。但し、同図はトロッカー及び術具(鉗子)が通過するように切断された眼球断面を示している。通常、手術の対象となる眼球には開瞼器(eyelid speculum)が取り付けられ、瞼が閉じないように固定されているが、図19では開瞼器の図示を省略している。
【0093】
眼球1000の表面には細径の管を有するトロッカー1901が刺されており、鉗子1902がトロッカー1901を介して眼球1900内に挿入され、さらに眼底に到達して、網膜手術が実施される。ここで、術者(又は、マスタ装置110を介して術者に遠隔操作されるスレーブロボット122)は、低侵襲の都合により、トロッカー1901と眼球1900の表面が交差するトロッカー挿入点付近に対してできるだけ小さな負荷で手術が行われるように常に配慮する必要がある。
【0094】
そこで、本開示に係る手術システム100では、トロッカー挿入点1903を拘束点としてピボット操作するという操作自由度の制約を課す。これによって、網膜硝子体手術中における侵襲を抑制することができる。
【0095】
また、本開示に係る手術システム100では、網膜のうち手術の対象となる患部の周辺に、作業領域1904を設定して、鉗子1902の先端がこの作業領域1904から逸脱しないように、操作自由度の制約を課す。これによって硝子体や網膜のうち対象外となる大部分への監視の移動が抑制されるので、低侵襲により網膜硝子体手術を遂行することができる。
【0096】
例えば、眼球の表面を観察する顕微鏡画像と眼球の断面を捕捉するOCT画像を組み合わせて、鉗子1902のピボット操作の拘束点1903となる、トロッカー挿入点を検出することができる。顕微鏡画像のみからでも、眼球表面のトロッカー挿入点を検出することができる。また、眼球の断面を捕捉するOCT画像から、網膜のうち患部となる部位を特定して、鉗子1902の先端が通過可能な作業領域1904を設定することができる。また、学習済みの機械学習モデルを使って、顕微鏡画像及びOCT画像から拘束点1903又は作業領域1904の少なくとも一方を推定するようにしてもよい。あるいは、顕微鏡画像やOCT画像を表示するモニタ画面上でユーザがカーソルを動かして、拘束点1903を指して指示したり、網膜のうち患部となる部位を囲むようにして作業領域1904を指示したりするようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0097】
以上、特定の実施形態を参照しながら、本開示について詳細に説明してきた。しかしながら、本開示の要旨を逸脱しない範囲で当業者が該実施形態の修正や代用を成し得ることは自明である。
【0098】
本明細書では、本開示を白内障手術に適用した実施形態を中心に説明してきたが、本開示の要旨はこれに限定されるものではない。本開示は、網膜硝子体手術など他の眼科手術や、眼科手術以外の例えば腹腔鏡手術にも同様に適用することができる。
【0099】
要するに、例示という形態により本開示について説明してきたのであり、本明細書の記載内容を限定的に解釈するべきではない。本開示の要旨を判断するためには、特許請求の範囲を参酌すべきである。
【0100】
なお、本開示は、以下のような構成をとることも可能である。
【0101】
(1)術具を装着するロボットアームと、
タスクに応じた前記術具に対する操作自由度の制約を設定する設定部と、
前記操作自由度の制約に基づいて術具が操作されるように制御する制御部と、
を具備する手術システム。
【0102】
(2)前記設定部は、手術の対象とする患部を観察するセンサによるセンサ情報に基づいて前記操作自由度の制約を設定する、
上記(1)に記載の手術システム。
【0103】
(3)前記設定部は、眼科手術の対象とする眼球を観察する顕微鏡画像及びOCT画像の少なくとも一方に基づいて前記操作自由度の制約を設定する、
上記(1)又は()2のいずれかに記載の手術システム。
【0104】
(4)前記制御部は、前記操作自由度の制約に基づいて術具が操作されるように、前記ロボットアームの動作を制御する、
上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の手術システム。
【0105】
(5)前記手術システムは、前記ロボットアームを含むスレーブ装置と、前記ロボットアームの動作を指示する操作ユーザインターフェースを含むマスタ装置からなり、
前記制御部は、前記操作自由度の制約を逸脱する指示が行われないように、前記操作ユーザインターフェースに対する操作を規制する、
上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の手術システム。
【0106】
(6)前記操作自由度の制約に関する情報をユーザに提示する提示部をさらに備える、
上記(1)乃至(5)のいずれかに記載の手術システム。
【0107】
(7)白内障手術で適用され且つ角膜切開のタスクの実施時において、
前記設定部は、角膜を前房に穿孔したポートを通過するほぼ水平な操作平面からなる前記操作自由度を設定し、
前期制御部は、前記術具の先端がこの操作平面から離間しないように制御する、
上記(1)乃至(6)のいずれかに記載の手術システム。
【0108】
(8)白内障手術で適用され且つ水晶体の液化及び吸引のタスクの実施時において、
前記設定部は、角膜を前房に穿孔したポートに拘束点を設定し、且つ、後嚢に沿って仮想壁を設定し、
前記制御部は、前記術具を拘束点でピボット操作し且つ前記術具の先端が前記仮想壁を超えないように制御する、
上記(1)乃至(6)のいずれかに記載の手術システム。
【0109】
(9)白内障手術で適用され且つ前嚢切開のタスクの実施時において、
前記設定部は、角膜を前房に穿孔したポートに拘束点を設定し、且つ、前嚢のうち切開すべき部分と角膜との間に、CCC鑷子の先端が通過可能な作業領域を設定し、
前記制御部は、前記CCC鑷子を拘束点でピボット操作し且つ前記CCC鑷子の先端が前記作業領域を超えないように制御する、
上記(1)乃至(6)のいずれかに記載の手術システム。
【0110】
(10)術具を装着するロボットアームと備えた手術システムにおける手術支援方法であって、
患部を観察するセンサによるセンサ情報を取得するステップと、
前記センサ情報に基づいて、タスクの対象とする部位を検出するステップと、
前記検出した部位に基づいて、タスクに応じた操作自由度の制約を設定するステップと、
前記操作自由度の制約に基づいて術具が操作されるように前記ロボットアームの動作に関する制御を行うステップと、
を有する手術支援方法。
【符号の説明】
【0111】
100…手術システム、110…マスタ装置
111…マスタ側制御部、112…操作UI部、113…提示部
114…マスタ側通信部、120…スレーブ装置
121…スレーブ側制御部、122…スレーブロボット
123…センサ部、124…スレーブ側通信部、130…伝送路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19