(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022138102
(43)【公開日】2022-09-22
(54)【発明の名称】還元性粒子分散体及びこれを含有した筆記具用水性インク組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 33/04 20060101AFI20220914BHJP
C09D 11/18 20060101ALI20220914BHJP
C08F 20/10 20060101ALI20220914BHJP
【FI】
C08L33/04
C09D11/18
C08F20/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021185069
(22)【出願日】2021-11-12
(31)【優先権主張番号】P 2021037351
(32)【優先日】2021-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021150431
(32)【優先日】2021-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【弁理士】
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】羽賀 久人
【テーマコード(参考)】
4J002
4J039
4J100
【Fターム(参考)】
4J002BG051
4J002EH056
4J002EJ036
4J002EL096
4J002EU026
4J002GC00
4J002HA06
4J039AD21
4J039BC07
4J039BC19
4J039BC20
4J039BC29
4J039GA27
4J100AL03P
4J100AL03Q
4J100AL08P
4J100AL08Q
4J100BC04P
4J100BC04Q
4J100CA04
4J100JA07
(57)【要約】 (修正有)
【課題】酸素に対する還元性能(酸素吸収能)の強さと持続性(徐放性)をもちながら、他の配合成分等に悪影響を及ぼすことがなく、しかも、分散安定性に優れ、防腐性を有する還元性粒子分散体及びこれを含有した筆記具用水性インク組成物を提供する。
【解決手段】本発明の還元性粒子分散体は、少なくとも、下記一般式(I)で表される(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、下記A群から選ばれる少なくとも1種の還元性成分とで構成される還元性粒子が水に分散されていることを特徴とする。
〔上記式(I)中、Aは、水素原子(H)又はメチル基(CH
3)であり、Rは、水素原子(H)、炭素数1~22のアルキル基等を表す。〕
A群:ポリフェノール類、銅クロロフィル、フラボノイド類、アントシアニジン類、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール
前記還元性粒子には、更に、防腐剤成分が含まれることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、下記一般式(I)で表される(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、下記A群から選ばれる少なくとも1種の還元性成分とで構成される還元性粒子が水に分散されていることを特徴とする還元性粒子分散体。
【化1】
〔上記式(I)中、Aは、水素原子(H)又はメチル基(CH
3)であり、Rは、水素原子(H)、炭素数1~22のアルキル基、又はアルキレン鎖の炭素数が2~18であるポリアルキレングリコール鎖を有する置換基を表し、該アルキル基又はポリアルキレングリコール鎖を有する置換基は、置換基としてフェニル基、ベンジル基、エポキシ基、水酸基、ジアルキルアミノ基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数1~18のパーフルオロアルキル基、又はトリアルコキシシリル基を有していてもよい。〕
A群:ポリフェノール類、銅クロロフィル、フラボノイド類、アントシアニジン類、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール
【請求項2】
前記一般式(I)で表される(メタ)アクリル酸エステルモノマーの含有量が還元性粒子分散体を構成する全ポリマー成分に対して、30~95質量%であることを特徴とする請求項1に記載の還元性粒子分散体。
【請求項3】
前記還元性成分は、還元性粒子を構成する全ポリマー成分に対して、1質量%以上含有されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の還元性粒子分散体。
【請求項4】
前記還元性成分が、クロロゲン酸、タンニン、カテキン、ピセアタンノール、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソールから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1~3の何れか一つに記載の還元性粒子分散体。
【請求項5】
前記還元性粒子には、更に、防腐剤成分が含まれることを特徴とする請求項1~4の何れか一つに記載の還元性粒子分散体。
【請求項6】
前記還元性粒子分散体の平均粒子径は、10~800nmであることを特徴とする請求項1~5の何れか一つに記載の還元性粒子分散体。
【請求項7】
前記還元性粒子分散体を含むことを特徴とする請求項1~6の何れか一つに記載の筆記具用水性インク組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素に対する還元性能(酸素吸収能)の強さと持続性(徐放性)をもちながら、他の配合成分等に悪影響を及ぼすことがなく、しかも、分散安定性に優れ、防腐性を有する還元性粒子分散体及びこれを含有した筆記具用水性インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、酸素吸収材として、多種多様のものが知られており、食品、薬剤、医薬品、化粧品、電子部品、インクなどの用途毎、鉄粉系、カテコール、アスコルビン酸など酸素吸収材種毎に各種のものが知られている。
【0003】
例えば、粉状酸素吸収材としては、ムーニー粘度が10~400であり、且つ示差走査熱量計(DSC)で測定したとき結晶融解ピークを有さない又は融点が75℃未満である、アリル水素および/または3級炭素と結合した水素を分子中に有する熱可塑性重合体(A)及び酸化促進成分(B)を含み、比表面積が60cm2/g以上であることを特徴とする粉状酸素吸収材(例えば、特許文献1参照)、
また、酸素吸収性粒子としては、有機系被酸化物、遷移金属化合物、無機粒子、及び有機高分子を含み、前記無機粒子は、無機多孔質粒子及び無機層状化合物粒子から選ばれ、前記有機系被酸化物の少なくとも一部及び前記遷移金属化合物の少なくとも一部が、それぞれ前記無機粒子の細孔内又は層間に存在し、かつ、前記有機高分子の少なくとも一部が、前記無機粒子の外表面の少なくとも一部を被覆している、酸素吸収性粒子(例えば、特許文献1参照)などが知られている。
【0004】
しかしながら、上記特許文献1及び2の粉状酸素吸収材などは、主に、食品、薬剤、医薬品、化粧品、電子部品などの包装袋に封入されるものであり、これらは酸素に対する還元性能(酸素吸収能)を有するものであるが、その持続性に難点があったり、また、インク等の液体などに用いることを前提にするものでなく、その用途に用いることに制限を伴うなどの課題がある。
【0005】
一方、酸素吸収能を有する化合物等を水性インク組成物中に含有せしめて、経時による気泡の発生を抑制して安定した筆記性能などを得ることができる筆記具用水性インク組成物として、例えば、
1)着色剤、水、水溶性有機溶剤、剪断減粘性付与剤、及び特定式で示されるカテキン類を含んでなるボールペン用水性インキ(例えば、特許文献3参照)、
2)少なくとも着色剤と、水溶性有機溶剤と、水とを含んでなる筆記具用水性インキ組成物において、クロロゲン酸類を含んでなる筆記具用水性インキ組成物(例えば、特許文献4参照)、
3)軸筒内に、内外圧の変化に応じてインキ貯蔵部に直接収容したインキを一時的に溜めるペン芯を収容してなり、前記ペン芯の先端部にペン先を設け、且つ、ペン芯にはインキ貯蔵部からインキをペン先へ誘導するためのインキ誘導芯が配置されてなるペン芯式筆記具に収容されるインキ組成物であって、前記インキ組成物中に酸素吸収能を有する化合物を添加してなるペン芯式筆記具用インキ組成物(例えば、特許文献5参照)。
4)着色剤と、水と、縮合型タンニンを含んでなる筆記具用水性インキ組成物(例えば、特許文献6参照)、
5)着色剤と、水と、特定式で示される化合物(ジュンサイノサイドA)とを含んでなる筆記具用水性インキ組成物(例えば、特許文献7参照)
などが知られている。
しかしながら、上記特許文献3~7に記載の各筆記具用水性インク組成物は、経時的に凝集の発生があったり、酸素吸収能の持続性に難点があったり、更に、他の配合成分等に悪影響を及ぼすことがあったりするなどの課題があるのが現状であった。
通常、還元剤(抗酸化剤等)を含む水系液体では、上記筆記具用水性インク組成物等と同様に、それを含む組成物が不安定化、分散系が不安定化、物理的にゲル化、または、分離するといった問題が未だ生じることなどがあった。さらには還元剤(抗酸化剤等)それ自体に防腐性を有するものが少なく、水系液体では還元剤(抗酸化剤等)と防腐剤を併用する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開2006/095640(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献2】特開2020-100801号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献3】特開平10-298483号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献4】特開2005-194342号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献5】特開2006-274017号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献6】特開2014-91797号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献7】特開2018-184514号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の課題及び現状等に鑑み、これを解消しようとするものであり、酸素に対する還元性能(酸素吸収能)の強さと持続性(徐放性)をもちながら、他の配合成分等に悪影響を及ぼすことがなく、しかも、分散安定性に優れ、防腐性を有する還元性粒子分散体及びこれを含有した筆記具用水性インク組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記従来の課題等に鑑み、鋭意研究を行った結果、少なくとも、特定式で表される(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、特定の還元性成分とで構成される還元性粒子分散体とすることなどにより、上記目的の還元性粒子分散体及びこれを含有した筆記具用水性インク組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0009】
すなわち、本発明の還元性粒子分散体は、少なくとも、下記一般式(I)で表される(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、下記A群から選ばれる少なくとも1種の還元性成分とで構成される還元性粒子が水に分散されていることを特徴とする。
【化1】
〔上記式(I)中、Aは、水素原子(H)又はメチル基(CH
3)であり、Rは、水素原子(H)、炭素数1~22のアルキル基、又はアルキレン鎖の炭素数が2~18であるポリアルキレングリコール鎖を有する置換基を表し、該アルキル基又はポリアルキレングリコール鎖を有する置換基は、置換基としてフェニル基、ベンジル基、エポキシ基、水酸基、ジアルキルアミノ基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数1~18のパーフルオロアルキル基、又はトリアルコキシシリル基を有していてもよい。〕
A群:ポリフェノール類、銅クロロフィル、フラボノイド類、アントシアニジン類、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール
前記一般式(I)で表される(メタ)アクリル酸エステルモノマーの含有量が還元性粒子分散体を構成する全ポリマー成分に対して、30~95質量%であることが好ましい。
前記還元性成分は、還元性粒子を構成する全ポリマー成分に対して、1%質量%以上含有されていることが好ましい。
前記還元性成分は、クロロゲン酸、タンニン、カテキン、ピセアタンノール、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソールから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
前記還元性粒子には、更に、防腐剤成分が含まれていることが好ましい。
前記還元性粒子分散体の平均粒子径は、10~800nmであることが好ましい。
本発明の筆記具用水性インク組成物は、前記還元性粒子分散体を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、酸素に対する還元性能(酸素吸収能)の強さと持続性(徐放性)をもちながら、他の配合成分等に悪影響を及ぼすことがなく、しかも、分散安定性に優れ、防腐性を有する還元性粒子分散体及びこれを含有した筆記具用水性インク組成物が提供される。
本発明の目的及び効果は、特に請求項において指摘される構成要素及び組み合わせを用いることによって認識され且つ得られるものである。上述の一般的な説明及び後述の詳細な説明の両方は、例示的及び説明的なものであり、特許請求の範囲に記載されている本発明を制限するものではない。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態について詳しく説明する。但し、本発明の技術的範囲は下記で詳述するそれぞれの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。
本発明の還元性粒子分散体は、少なくとも、下記一般式(I)で表される(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、下記A群から選ばれる少なくとも1種の還元性成分とで構成される還元性粒子が水に分散されていることを特徴とするものである。
【化2】
〔上記式(I)中、Aは、水素原子(H)又はメチル基(CH
3)であり、Rは、水素原子(H)、炭素数1~22のアルキル基、又はアルキレン鎖の炭素数が2~18であるポリアルキレングリコール鎖を有する置換基を表し、該アルキル基又はポリアルキレングリコール鎖を有する置換基は、置換基としてフェニル基、ベンジル基、エポキシ基、水酸基、ジアルキルアミノ基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数1~18のパーフルオロアルキル基、又はトリアルコキシシリル基を有していてもよい。〕
A群:ポリフェノール類、銅クロロフィル、フラボノイド類、アントシアニジン類、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール
【0012】
本発明に用いる上記一般式(I)で表される(メタ)アクリル酸エステルモノマーは、内包可能な還元成分の強さと持続的で安定な粒子を作製できる点、他の配合成分等に悪影響を及ぼすことがない、効果の持続性が高いなどの点などから用いるものである。
上記一般式(I)中のRは、水素原子(H)、炭素数1~22のアルキル基、又はアルキレン鎖の炭素数が2~18であるポリアルキレングリコール鎖を有する置換基を表し、該アルキル基又はポリアルキレングリコール鎖を有する置換基は、置換基としてフェニル基、ベンジル基、エポキシ基、水酸基、ジアルキルアミノ基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数1~18のパーフルオロアルキル基、又はトリアルコキシシリル基を有していてもよいものであり、例えば、炭素数1~20の直鎖又は分岐を有するアルキル基、炭素数3~10のシクロアルキル基、炭素数1~18の、置換基としてエポキシ基、水酸基、ジアルキルアミノ基、炭素数1~4のアルコキシ基を有していてもよいアルキル基が挙げられ、とりわけ炭素数1~6の、置換基としてエポキシ基、水酸基、炭素数1~2のアルコキシ基を有していてもよいアルキル基、炭素数1~6の、置換基としてエポキシ基を有していてもよいアルキル基が挙げられる。
好ましくは、上記一般式(I)中のRは、炭素数1~20の直鎖又は分岐を有するアルキル基、炭素数3~10のシクロアルキル基、ヒドロキシル基、トリフルオロエチル基、ジメチルアミノエチル基、メトキシエチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、アリル基、テトラヒドロフルフリル基、フェニル基、ベンジル基、ブトキシジエチレングリコール基、メトキシポリエチレングリコール基、ジメチルアミノエチル基、ジエチルアミノエチル基、ジメチルアミノエチル基、グリシジル基、リン酸エチル、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオールなどが望ましい。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」の表記は、「アクリル酸及び/又はメタクリル酸」を表す。
【0013】
用いる上記一般式(I)で表される(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸パルミチル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ベヘニル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-エトキシエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド塩、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸トリエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸1,3-ブチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸1,6-ヘキサンジオール、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパン、フタル酸2-(メタ)アクロイルオキシエチル、ヘキサヒドロフタル酸2-(メタ)アクロイルオキシエチル、(メタ)アクリル酸トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシテトラエチレングリコール、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル、(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、(メタ)アクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル、2-(ジメチルアミノ)プロピル、(メタ)アクリル酸2-(ジメチルアミノ)ブチル、(メタ)アクリル酸2-イソシアノエチル、(メタ)アクリル酸2-(アセトアセトキシ)エチル、炭素数1~18のパーフルオロアルキルを有するパーフルオロエチルメタクリレート、(メタ)アクリル酸2-(リン酸)エチル〔2-(Methacryloyloxy)ethyl phosphate〕、(メタ)アクリル酸トリアルコキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸ジアルコキシメチルシリルプロピル等の少なくとも1種(各単独又は2種以上、以下同様)が挙げられる。
これらのうち、工業的に入手が容易であり、製造時に取り扱いが容易で安全である点、本発明の効果を更に向上させる点などから、好ましくは、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルが望ましい。
【0014】
本発明においては、上記(メタ)アクリル酸エステルモノマーの他に、更に、持続的な還元効果を得る点等から、好ましくは、上記(メタ)アクリル酸エステルモノマー以外の疎水性ビニルモノマー、水性モノマーを用いることができる。
疎水性ビニルモノマーとしては、例えば、上記(メタ)アクリル酸エステルモノマー以外の、スチレン、メチルスチレンなどのスチレン類などの少なくとも1種のモノマーを用いることができる。
用いることができる疎水性ビニルモノマーとしては、例えば、スチレン、メチルスチレン、クロロメチルスチレン、炭素数1~12までのアルキル基を有するアルキルスチレン、メトキシスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン、ジビニルベンゼン、フェニルスチレン、ビニルナフタレン等の少なくとも1種が挙げられる。
用いることができる水性モノマーとしては、例えば、グリセリンモノメタクリレート、メタクリル酸2-スルホエチルナトリウム、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、ポリエチレングリコール-プロピレングリコールモノメタクリレート、ポリエチレングリコール-テトラメチレングリコール-モノメタクリレート、プロピレングリコール-ポリブチレングリコール-モノメタクリレート等の少なくとも1種が挙げられる。
【0015】
本発明に用いる還元性成分は、酸素に対する還元性能(酸素吸収能)を有するものであり、A群:ポリフェノール類、銅クロロフィル、フラボノイド類、アントシアニジン類、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
用いることができるポリフェノール類は、複数のヒドロキシ基を有するフェノール性分子を有するものである。用いることができるポリフェノール類、フラボノイド類、アントシアニジン類としては、例えば、カテキン(エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレートなど)、タンニン酸、タンニン、クロロゲン酸、カフェイン酸、ネオクロロゲン酸、シアニジン、プロアントシアニジン、テアルビジン、ルチン、フラボノイド(ケルシトリン、アントシアニン、フラバノン、フラバノール、フラボノール、イソフラボンなど)、フェルラ酸、ショウガオール、アントシアニジン類(ペラルゴジニン、シアニジン、デルフィニジン、ペオニジン、マルビジン、ペチュニジン)、フラボン、カルコン類(ナリンゲニンカルコンなど)、キサントフィル、カルノシン酸、エリオシトリン、ノビレチン、タンジェレチン、マグノロール、ホノキオール、エラグ酸、リグナン、クルクミン、クマリン、カテコール、プロシアニジン、テアフラビン、ロズマリン酸、キサントン、ケルセチン、レスベラトロール、没食子酸、没食子酸プロピル、フロロタンニン、ピセアタンノール〔5-(ジヒドロキシフェニルエテニル)レゾルシン〕(製品名「パセノールPA」)、レスベラトロール(3,5,4'-トリヒドロキシ-trans-スチルベン)、などが挙げられる。
【0016】
好ましい還元性成分としては、還元性の強さの点、安全性の点から、カテキン、タンニン、クロロゲン酸、ピセアタンノール、銅クロロフィル、フェルラ酸、クルクミン、ショウガオール、ルチン、アントシアニン、イソフラボン、アントシアニジン類(ペラルゴジニン、シアニジン、デルフィニジン、ペオニジン、マルビジン、ペチュニジン)、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)であり、更に好ましくは、クロロゲン酸、タンニン、カテキン、フェルラ酸、ピセアタンノール、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)である。
【0017】
本発明の還元性粒子分散体は、少なくとも、上記一般式(I)で表される(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、上記A群から選ばれる少なくとも1種の還元性成分とで構成されるものであり、その製造法としては、例えば、上記(メタ)アクリル酸エステルモノマー(各単独又は2種以上、以下同様)に、または、上記(メタ)アクリル酸エステルモノマーとこれ以外の疎水性ビニルモノマー及び/又は水性モノマーを含む混合モノマーに、上記A群の還元性成分を溶解し、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化水素などを重合開始剤として、また還元剤を更に併用した重合開始剤とし、更にトリアリルイソシアヌレート、イソシアヌル酸トリアリル、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ペンタエリスリトールアクリレート、ジトリメチロールプロパンアクリレート、ジペンタエリスリトールアクリレート、メトキシ化ビスフェノールAメタクリレート、ペンタエリスリトールメタクリレート、ジトリメチロールプロパンメタクリレート、ジペンタエリスリトールメタクリレート、エトキシ化ポリグリセリンメタクリレートなどの架橋剤や、必要に応じて、ポリオキシエチレン-1-(アリルオキシメチル)-アルキルエーテル硫酸アンモニウム、エーテルサルフェート、ポリオキシエチレンノニルプロペニルフェニルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンノニルプロペニルフェニルエーテル、ポリアクリル酸アンモニウム、スチレン-マレイン酸コポリマーアンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシアルキレンデシルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ジオクチルスルホコハク酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(ポリソルベート20)、パルミチン酸ポリオキシエチレンソルビタン(ポリソルベート40)、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(ポリソルベート60)、オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(ポリソルベート80)などの重合性界面活性剤(乳化剤)を用いて乳化重合することなどにより製造することができ、還元性粒子分散体の分散液として製造された後、乾燥などにより、還元性粒子分散体とすることができる。
上記トリアリルイソシアヌレートなどの架橋剤を用いると、還元性粒子分散体の耐熱性、機械的特性、耐加水分解性、耐候性が向上できるので好ましい。
【0018】
本発明において、上記乳化重合の際には、上記(メタ)アクリル酸エステルモノマーなどに、更に、ジシクロペンタ(テ)ニル(メタ)アクリレートモノマーなどを適宜量混合して乳化重合を行ってもよい。このジシクロペンタ(テ)ニル(メタ)アクリレートモノマーを更に、混合して乳化重合したものでは、分散液中の水分が揮発したとしても安定性が損なわれにくく、更に安定性に優れた還元性粒子分散体の分散液、還元性粒子分散体が得られるものとなる。
用いることができるジシクロペンタ(テ)ニル(メタ)アクリレートモノマーには、ジシクロペンタニルアクリレートモノマー、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレートモノマー、ジシクロペンテニルメタクリレートを含むものである。
また、本発明において、上記乳化重合の際には、上記(メタ)アクリル酸エステルモノマー、これ以外の上記疎水性ビニルモノマーなど、上記ジシクロペンタ(テ)ニル(メタ)アクリレートモノマーの他に、エポキシ基、ヒドロキシメチルアミド基、イソシアネート基などの反応性架橋基を有するモノマーや2つ以上のビニル基を有する多官能性モノマーを適宜量配合して架橋してもよい。
【0019】
本発明において、前記還元性粒子分散体を構成するポリマー成分のうち、上記(メタ)アクリル酸エステルルモノマーの含有量は、還元性粒子分散体を構成する全ポリマー成分に対して、30質量%以上であることが必要であり、好ましくは、30~95質量%、更に好ましくは、30~70質量%であることが望ましい。
なお、本発明において、「全ポリマー成分」とは、還元性粒子分散体を構成する重合性成分をいい、具体的には、用いる(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、用いる他のモノマー成分と、後述する架橋剤の合計量をいう。
上記(メタ)アクリル酸エステルモノマーの含有量を全ポリマー成分に対して、30質量%以上とすることにより、本発明の効果を発揮せしめることができ、一方、この含有量が30質量%未満であると、経時安定性が劣ることとなり、好ましくない。
【0020】
また、前記還元性粒子分散体を構成するポリマー成分のうち、上記(メタ)アクリル酸エステルモノマー以外の他のモノマー成分の含有量は、用いる(メタ)アクリル酸エステルモノマーと後述する架橋剤との合計量の残部となるものである。
好ましくは、他のモノマー成分の含有量は、本発明の効果を更に発揮せしめる点、分散性の点、反応性の点から、全ポリマー成分に対して、0.5~70質量%とすることが望ましい。
【0021】
本発明において、上記還元性成分の(固形分)含有量は、十分な酸素に対する還元性能(酸素吸収能)を得る点、持続的な還元効果が得られる点、安定性などの点から、全ポリマー成分に対して、1質量%以上、好ましくは、5質量%以上とすることが望ましく、更に好ましくは、10~50質量%、特に好ましくは、15~40質量%とすることが望ましい。
この還元性成分の含有量を1質量%以上とすることにより、十分な酸素に対する還元性能(酸素吸収能)、持続的な還元効果を発揮せしめることができ、一方、還元性成分の含有量が1質量%未満であると、酸素に対する還元性能(酸素吸収能)が十分でなく、本発明の効果を発揮できないものとなる。
【0022】
上記必要に応じて用いることができる重合性界面活性剤としては、上記乳化重合に通常用いられる重合性界面活性剤であれば特に制限はないが、例えば、重合性界面活性剤としては、アニオン系またはノニオン系などの重合性界面活性剤であり、アデカ(株)製のアデカリアソープNE-10、同NE-20、同NE-30、同NE-40、同SE-10N、花王(株)製のラテムルS-180、同S-180A、同S-120A、三洋化成工業(株)製のエレミノールJS-20、第一工業製薬社製のアクアロンKH-10などの少なくとも1種が挙げられる。これらの重合性界面活性剤の使用量は、上記モノマー全量に対して、0~50質量%、好ましくは、0.1~50質量%が望ましい。
また、上記トリアリルイソシアヌレートなどの架橋剤の含有量は、上記モノマー全量に対して、0~50質量%、好ましくは、0.1~25質量%が望ましい。
【0023】
本発明において、上記好ましい態様、具体的には、少なくとも、上記(メタ)アクリル酸エステルモノマーに、上述の還元性成分を溶解し、乳化重合することにより、または、少なくとも、上記(メタ)アクリル酸エステルモノマーと他のモノマー成分を含む混合モノマーの重合後に還元性成分を溶解して乳化重合することにより、還元性粒子が水に分散されている還元性粒子分散体(分散液)が得られる。これらの製造条件で得られる還元性粒子分散体中の還元性粒子は、用いる上記(メタ)アクリル酸エステルモノマー、還元性成分などの配合量、重合条件などにより、その製造量は変動するものであり、製造性、作業性、効率性など点から、固形分量で1~50質量%となるように製造することが好ましい。更に好ましくは、固形分量で10~40質量%となるように製造することが好ましい。
【0024】
本発明では、更に、防腐効果を高めるために、前記還元性粒子には、上記還元性成分と共に、防腐剤成分を含むことができる。
本発明の還元性粒子には、広い抗菌スペクトル、防腐効果(防かび効果を含む)を更に発揮せしめる点から、上記還元性成分と共に、防腐剤成分を含む還元性粒子としてもよいものである。
【0025】
本発明に用いることができる防腐剤成分は、従来より公知のものを用いることができ、好ましくは、安全性が高く、内包する還元性成分に悪影響を及ぼすことがないもの、また、長期にわたり抗菌性・防かび性を有する化合物であればよく、例えば、下記B群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
B群:ヨードプロパギル化合物、ペンタクロロフェノールナトリウム、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン、2,3,5,6-テトラクロロ-4(メチルスルフォニル)ピリジン、パラオキシ安息香酸エステル、フェノール、安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、モルホリン、クレゾール、メチルイソチアゾリノン、クロロメチルイソチアゾリノン、オクチルイソチアゾリノン、ジクロロオクチルイソチアゾリノン、ヘキサヒドロ-1,3,5-トリス(2-ヒドロキシエチル)-1,3,5-トリアジン、2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール、2-ピリジンチオール-1-オキシドナトリウム、ピリチオンナトリウム、2-(4-チオゾリル)ベンズイミダゾール、4-ターピネノール、1,8-シネオール、チモール、ジイソチオシアネート、ユーカリオイル、ロンギフォーレン、イソプロピルメチルフェノール、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、シトラール、オイゲノール、アリルイソチオシアネート、d-リモネン、タンニン酸、エチルパラベン、塩化ベンザルコニウム、カプリル酸グリセリル、グリセリン脂肪酸エステル、クロルフェネシン、サリチル酸、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸メチル、ビサボロール、ヒノキチオール、フェニルエチルアルコール、フェネチルアルコール、フェノキシエタノール、ブチルパラベン、プロピルパラベン、ベンザルコニウムクロリド、メチルパラベン、2-(4-チアゾリル)ベンズイミダゾール
【0026】
上記B群の中で、更に好ましい防腐剤成分としては、経時安定性の点、比較的入手しやすくコストも安価に抑えられる点、安全性の点から、ヨードプロパギル化合物、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン、2,3,5,6-テトラクロロ-4(メチルスルフォニル)ピリジン、安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、クレゾール、メチルイソチアゾリノン、クロロメチルイソチアゾリノン、オクチルイソチアゾリノン、ジクロロオクチルイソチアゾリノン、ヘキサヒドロ-1,3,5-トリス(2-ヒドロキシエチル)-1,3,5-トリアジン、2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール、2-ピリジンチオール-1-オキシドナトリウム、ピリチオンナトリウム、2-(4-チオゾリル)ベンズイミダゾール、4-ターピネノール、1,8-シネオール、ジイソチオシアネート、イソプロピルメチルフェノール、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、シトラール、オイゲノール、アリルイソチオシアネート、D-リモネン、タンニン酸、エチルパラベン、塩化ベンザルコニウム、グリセリン脂肪酸エステル、サリチル酸、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸メチル、ヒノキチオール、フェニルエチルアルコール、フェネチルアルコール、フェノキシエタノール、ブチルパラベン、プロピルパラベン、ベンザルコニウムクロリド、メチルパラベン、2-(4-チアゾリル)ベンズイミダゾールが望ましい。
【0027】
本発明において、防腐剤成分を用いる場合の防腐剤成分の(固形分)含有量は、防腐剤を含有せしめる更なる効果を得る点、持続的な防腐効果が得られる点、安定性などの点から、全ポリマー成分に対して、1質量%以上、好ましくは、5質量%以上とすることが望ましく、更に好ましくは、10~50質量%、特に好ましくは、15~40質量%とすることが望ましい。
この防腐剤成分の含有量を1質量%以上とすることにより、更なる十分な防腐効果(酸素吸収能)、持続的な還元効果を発揮せしめることができ、一方、防腐剤成分の含有量が1質量%未満であると、防腐剤を含有せしめる本発明の更なる効果を発揮できないものとなる。
【0028】
上記還元性成分と共に、防腐剤成分を含む還元性粒子の製造は、上記還元性成分を含む還元性粒子の製造に準拠することができ、少なくとも、上記(メタ)アクリル酸エステルモノマーに、上述の還元性成分、防腐剤成分を溶解し、乳化重合することにより、または、少なくとも、上記(メタ)アクリル酸エステルモノマーと他のモノマー成分を含む混合モノマーの重合後に還元性成分、防腐剤成分を溶解して乳化重合することにより、還元性粒子が水に分散されている還元性粒子分散体(分散液)が得られる。これらの製造条件で得られる還元性粒子分散体中の還元性粒子は、用いる上記(メタ)アクリル酸エステルモノマー、還元性成分、防腐剤成分などの配合量、重合条件などにより、その製造量は変動するものであり、製造性、作業性、効率性など点から、固形分量で1~50質量%となるように製造することが好ましい。更に好ましくは、固形分量で10~40質量%となるように製造することが好ましい。
【0029】
また、本発明において、得られる還元性粒子(還元性成分含有、または、還元性成分+防腐剤成分含有、以下同様)の平均粒子径は、上記一般式(I)の構造単位を有するモノマー、含有量、重合の際の重合条件等により変動するものであるが、好ましくは、10~800nm、更に好ましくは、20~400nm、更に好ましくは、30~200nmであることが望ましい。
上記好ましい平均粒子径の範囲とすることにより、各種用途に好適に用いることができ、また、保存安定性などに優れたものとなる。
なお、本発明で規定する「平均粒子径」は、散乱光強度分布によるヒストグラム平均粒子径であり、本発明(後述する実施例を含む)では、粒度分布測定装置〔FPAR1000(大塚電子社製)〕にて、測定した値D50の値である。
【0030】
本発明の還元性粒子分散体は、上記還元性成分を含む特性の粒子が酸素に対する還元性能(酸素吸収能)と、防腐性能を高度に両立すると共に、その持続性(徐放性)をもちながら、他の配合成分等に悪影響を及ぼすことがなく、しかも、分散安定性に優れるものとなり、上記防腐効果(防かび効果を含む)はグラム陰性菌、グラム陽性菌などの多くの細菌類やかび類に抗菌効果(防かび効果を含む)を発揮することができ、その防腐性能と還元性能の持続効果も長期間に亘るものとなる。
また、上述の還元性成分と防腐剤成分を含む還元性粒子は、粒子による抗菌・防かび効果と、防腐剤成分の防腐効果と還元性成分の還元性能との作用が、互いに悪影響を及ぼすことなく、酸素に対する還元性能(酸素吸収能)と、粒子による抗菌・防かび効果と防腐剤成分による防腐性能(以下、これらの防腐性能を「複合防腐性能」という)を高度に両立すると共に、その持続性(徐放性)をもちながら、他の配合成分等に悪影響を及ぼすことがなく、しかも、分散安定性に優れる、今までにない還元性粒子分散体が得られるものとなる。
【0031】
本発明の還元性粒子分散体(分散液)は、上述の如く、優れた作用効果を発揮するので、例えば、医療用具、ベビー用品、介護用品、浴場用品、台所用品、食器、飲料水配管部品 、生活衛生用品、家電製品、衣料品、建築資材、農業用資材、自動車用内装部品、文房具、筆記具やインクジェットプリンターなどのインク組成物など、様々な製品に還元性および防腐性を付与するために利用することができる。
具体的な用途としては、上記などの他に、例えば、洗濯洗浄剤、柔軟剤、住居用洗剤、食器洗浄剤、硬質表面用洗浄剤等の洗浄剤用途;シャンプー、リンス、化粧水、乳液、クリーム、日焼け止め、ファンデーション、アイメイク製品、制汗剤、歯磨き粉等のパーソナルケア用途、塗料、接着剤、建材、樹脂エマルジョン、木材防腐剤、セメント混和剤、ボイラ、冷却設備、排水処理設備、工業用水(製紙工程における抄紙工程水、各種工業用の冷却水や洗浄水)等の工業用水処理用途;医療器具、食品添加物、太陽電池モジュールや有機素子デバイス、熱線遮蔽フィルムなどの電子機器用途等に加えて、水生生物(魚類等)への水カビ抑制として水槽及び薬浴用途にも好適に用いることができる。
【0032】
更に、本発明の還元性粒子分散体(分散液)をサインペンやマーキングペン、ボールペンなどの筆記具用水性インク組成物に利用した場合の形態等を以下に詳述する。
本発明の筆記具用水性インク組成物は、少なくとも、上記構成の還元性粒子分散体を含有することを特徴とするものであり、この還元性粒子分散体の他、着色剤、水溶性有機溶剤を含有することができる。
インク組成物中の還元性粒子の含有量は、筆記性能を損なうことなく、本発明の効果を発揮せしめる点、保存安定性点から、インク組成物全量に対して、固形分量で0.1~30.0質量%であることが好ましく、更に好ましくは、1.0~15.0質量%であることが望ましい。
【0033】
用いることができる着色剤としては、水溶性染料、顔料、例えば、無機顔料、有機顔料、プラスチックピグメント、粒子内部に空隙のある中空樹脂粒子は白色顔料として、または、発色性、分散性に優れる染料で染色した樹脂粒子(擬似顔料)等も使用できる。
水溶性染料としては、直接染料、酸性染料、食用染料、塩基性染料のいずれも本発明の効果を損なわない範囲で適宜量用いることができる。
これらの着色剤の含有量は、筆記具種などにより変動するものであるが、インク組成物全量に対して、1~30質量%である。
【0034】
用いることができる水溶性有機溶剤としては、例えば、エチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジ オール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2,5-ヘキサンジオール、3-メチル1,3-ブタンジオール、2メチルペンタン -2,4-ジオール、3-メチルペンタン-1,3,5トリオール、1,2,3-ヘキサントリオールなどのアルキレングリコール類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール類、グリセロール、ジグリセロール、トリグリセロールなどのグリセロール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルなどのグリコールの低級アルキルエーテル、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダリジノンなどの少なくとも1種が挙げられる。
【0035】
その他にも、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、ヘキシルアルコール、オクチルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ベンジルアルコールなどのアルコール類、ジメチルホルムアミド、ジエチルアセトアミドなどのアミド類、アセトンなどのケトン類などの水溶性溶剤を混合することもできる。
これらの水溶性有機溶剤の含有量は、サインペンやマーキングペン、ボールペンなどの筆記具種により変動するものであり、インク組成物全量に対して、1~40質量%、描線乾燥性を更に向上させる点から、10質量%以下としたインク組成に対して特に有効であり、より好ましくは、3~8質量%とすることが望ましい。
【0036】
本発明の筆記具用水性インク組成物には、上記特性の粒子、着色剤、水溶性溶剤の他、残部として溶媒である水(水道水、精製水、蒸留水、イオン交換水、純水等)の他、本発明の効果を損なわない範囲で、分散剤、潤滑剤、pH調整剤、防錆剤、増粘剤、蒸発抑制剤、界面活性剤、固着剤などを適宜含有することができる。
【0037】
用いることができる分散剤としては、ノニオン、アニオン界面活性剤や水溶性樹脂が用いられる。好ましくは水溶性高分子が用いられる。
潤滑剤としては、顔料の表面処理剤にも用いられる多価アルコールの脂肪酸エステル、糖の高級脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン高級脂肪酸エステル、アルキル燐酸エステルなどのノニオン系や、高級脂肪酸アミドのアルキルスルホン酸塩、アルキルアリルスルホン酸塩などのアニオン系、ポリアルキレングリコールの誘導体やフッ素系界面活性剤、ポリエーテル変性シリコーンなどが挙げられる。
【0038】
pH調整剤としては、アンモニア、尿素、モノエタノーアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンや、トリポリリン酸ナトリウム、炭酸ナトリウムなとの炭酸やリン酸のアルカリ金属塩、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水和物などが挙げられる。また、防錆剤としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ジシクロへキシルアンモニウムナイトライト、サポニン類などが挙げられる。
増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩、発酵セルロース、結晶セルロースなどのセルロース誘導体、多糖類などが挙げられる。用いることができる多糖類としては、例えば、キサンタンガム、グアーガム、ヒドロキシプロピル化グアーガム、カゼイン、アラビアガム、ゼラチン、アミロース、アガロース、アガロペクチン、アラビナン、カードラン、カロース、カルボキシメチルデンプン、キチン、キトサン、クインスシード、グルコマンナン、ジェランガム、タマリンドシードガム、デキストラン、ニゲラン、ヒアルロン酸、プスツラン、フノラン、HMペクチン、ポルフィラン、ラミナラン、リケナン、カラギーナン、アルギン酸、トラガカントガム、アルカシーガム、サクシノグリカン、ローカストビーンガム、タラガムなどが挙げられ、これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、これらの市販品があればそれを使用することができる。
蒸発抑制剤としては、例えば、ペンタエリスリトール、p-キシレングリコール、トリメチロールプロパン、トリエチロールプロパン、デキストリンなどが挙げられる。
界面活性剤としては、例えば、フッ素系、シリコーン系、アセチレングリコール系などが挙げられる。
固着剤としては、ポリアクリル酸、水溶性スチレン-アクリル樹脂、水溶性スチレン・マレイン酸樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、水溶性マレイン酸樹脂、水溶性スチレン樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、水溶性エステル-アクリル樹脂、エチレン-マレイン酸共重合体、ポリエチレンオキサイド、水溶性ウレタン樹脂等の分子内に疎水部を持つ水溶性樹脂、また、ポリオレフィン系エマルジョン、アクリル系エマルジョン、酢酸ビニル系エマルジョン、ウレタン系エマルジョン、スチレン-ブタジエンエマルジョン、スチレンアクリロニトリルエマルジョンなどの樹脂エマルジョンなどから選ばれる少なくとも1種が挙げられ、これらはそれぞれ1種類以上、計2種類以上の使用が望ましい。
【0039】
本発明の筆記具用水性インク組成物は、上記特性の粒子、水溶性溶剤、その他の各成分を筆記具用(ボールペン用、マーキングペン用等)インクの用途に応じて適宜組み合わせて、ホモミキサー、ホモジナイザーもしくはディスパー等の攪拌機により攪拌混合することにより、更に必要に応じて、ろ過や遠心分離によってインク組成物中の粗大粒子を除去すること等によって筆記具用水性インク組成物を調製することができる。
【0040】
また、本発明の筆記具用水性インク組成物のpH(25℃)は、使用性、安全性、インク自身の安定性、インク収容体とのマッチング性の点からpH調整剤などにより5~10に調整されることが好ましく、更に好ましくは、6~9.5とすることが望ましい。
【0041】
本発明の筆記具用水性インク組成物は、ボールペンチップ、繊維チップ、フェルトチップ、プラスチックチップなどのペン先部を備えたボールペン、マーキングペン等に搭載される。
ボールペンとしては、上記組成の筆記具用水性インク組成物を直径が0.18~2.0
mmのボールを備えたボールペン用インク収容体(リフィール)に収容すると共に、該インク収容体内に収容された水性インク組成物とは相溶性がなく、かつ、該水性インク組成物に対して比重が小さい物質、例えば、ポリブテン、シリコーンオイル、鉱油等がインク追従体として収容されるものが挙げられる。
なお、ボールペン、マーキングペンの構造は、特に限定されず、例えば、軸筒自体をインク収容体として該軸筒内に上記構成の筆記具用水性インク組成物を充填したコレクター構造(インク保持機構)を備えた直液式のボールペン、マーキングペンであってもよいものである。
【0042】
このように構成される本発明の筆記具用水性インク組成物にあっては、用いる上記特性の還元性粒子分散体が筆記具用水性インク組成物中に配合されているため、インク組成物中で酸素に対する還元性能(酸素吸収能)の強さと持続性(徐放性)をもちながら、他の配合成分等に悪影響を及ぼすことがなく、しかも、分散安定性に優れ、防腐性を有するので、防腐性能(複合防腐性能を含む)と、気泡の発生を抑制することができ、その持続効果を長期間に亘り、しかも、これらの粒子は保存安定性、筆記性能を損なわないため、インク設計の自由度を更に高めることができ、ボールペン、マーキングペンなどの筆記具に好適な筆記具用水性インク組成物が得られることとなる。
【実施例0043】
次に、製造例、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記実施例等に限定されるものではない。
〔製造例1~11:還元性粒子分散体(粒子1~11)の製造〕
下記製造例1~11により、各還元性粒子分散体を製造した。なお、以下の「部」は質量部を表す。還元性成分は固形分量である。
【0044】
(製造例1)
2リットルのフラスコに、撹拌機、還流冷却器、温度計、窒素ガス導入管、モノマー投入用1000ml分液漏斗を取り付け、温水槽にセットし、蒸留水329.5部、グリセリンモノメタクリレート〔ブレンマーGLM、日油社製〕5部、メタクリル酸2-スルホエチルナトリウム〔アクリルエステルSEM-Na、三菱ケミカル社製〕5部、重合性界面活性剤〔ADEKA社製、アデカリアソープSE-10N、エーテルサルフィート〕20部及び過硫酸アンモニウム0.5部を仕込んで、窒素ガスを導入しながら、内温を50℃まで昇温した。
【0045】
一方、メタクリル酸シクロヘキシルモノマー55部と、メタクリル酸n-ブチル20部とからなる混合モノマーに、還元性成分〔タンニン、富士化学工業社製(タンニン酸S)〕40部、架橋剤〔トリアリルイソシアヌレート、日本化成社製、タイク(TAIC)〕10部を混合した液を調製した。
この調製液を上記分液漏斗から温度50℃付近に保った上記フラスコ内に撹拌下で3時間にわたって添加し、乳化重合を行った。さらに5時間熟成して重合を終了し、還元性粒子分散体(分散液)(粒子1)を得た。
前記メタクリル酸エステルモノマーの含有量は、還元性粒子を構成する全ポリマー成分に対して、50.0質量%、前記還元性成分の含有量は全ポリマー成分に対して、36.4質量%であった。また、還元性粒子の平均粒子径は、46nmであった。
【0046】
(製造例2)
上記製造例1において、蒸溜水を340.5部とし、メタクリル酸シクロヘキシルモノマーの量を30部とし、メタクリル酸n-ブチルの量を45部とし、また、還元性成分として、還元性成分〔クロロゲン酸、富士化学工業社製(カフェノールP100)〕44部を用いた以外は、上記製造例1と同様にして、還元性粒子分散体(分散液)(粒子2)を得た。
前記メタクリル酸エステルモノマーの含有量は、還元性粒子を構成する全ポリマー成分に対して、31.6質量%、前記還元性成分の含有量は全ポリマー成分に対して、46.3質量%であった。また、還元性粒子の平均粒子径は、87nmであった。
【0047】
(製造例3)
上記製造例1において、蒸溜水を333.5部とし、メタクリル酸シクロヘキシルモノマーの量を60部とし、メタクリル酸n-ブチルの量を30部とし、また、還元性成分として、還元性成分〔カテキン、富士フィルム和光純薬社製((-)-カテキン, 緑茶由来)〕36部を用いた以外は、上記製造例1と同様にして、還元性粒子分散体の分散液(粒子3)を得た。
前記メタクリル酸エステルモノマーの含有量は、還元性粒子を構成する全ポリマー成分に対して、54.5質量%、前記還元性成分の含有量は全ポリマー成分に対して、32.7質量%であった。また、還元性粒子の平均粒子径は、63nmであった。
【0048】
(製造例4)
上記製造例1において、蒸溜水を309.5部とし、メタクリル酸シクロヘキシルモノマーの量を60部とし、メタクリル酸n-ブチルの量を35部とし、また、還元性成分として、還元性成分〔銅クロロフィル、富士フィルム和光純薬社製(銅クロロフィリン三ナトリウム塩)〕45部を用いた以外は、上記製造例1と同様にして、還元性粒子分散体(分散液)(粒子4)を得た。
前記メタクリル酸エステルモノマーの含有量は、還元性粒子を構成する全ポリマー成分に対して、52.2質量%、前記還元性成分の含有量は全ポリマー成分に対して、39.1質量%であった。また、還元性粒子の平均粒子径は、120nmであった。
【0049】
(製造例5)
上記製造例1において、蒸溜水を340.5部とし、メタクリル酸シクロヘキシルモノマーの量を30部とし、メタクリル酸n-ブチルの量を45部とし、また、還元性成分として、還元性成分〔ピセアタンノール、森永製菓株式会社社製(パセノールLA)〕44部を用いた以外は、上記製造例1と同様にして、還元性粒子分散体(分散液)(粒子5)を得た。
前記メタクリル酸エステルモノマーの含有量は、還元性粒子を構成する全ポリマー成分に対して、31.6質量%、前記還元性成分の含有量は全ポリマー成分に対して、46.3質量%であった。また、還元性粒子の平均粒子径は、78nmであった。
【0050】
(製造例6)
上記製造例1において、蒸溜水を340.5部とし、メタクリル酸シクロヘキシルモノマーの量を30部とし、メタクリル酸n-ブチルの量を45部とし、また、還元性成分として、還元性成分〔没食子酸プロピル、富士フィルム和光純薬社製〕44部を用いた以外は、上記製造例1と同様にして、還元性粒子分散体(分散液)(粒子6)を得た。
前記メタクリル酸エステルモノマーの含有量は、還元性粒子を構成する全ポリマー成分に対して、31.6質量%、前記還元性成分の含有量は全ポリマー成分に対して、46.3質量%であった。また、還元性粒子の平均粒子径は、77nmであった。
【0051】
(製造例7)
上記製造例1において、蒸溜水を340.0部とし、メタクリル酸シクロヘキシルモノマーの量を30.5部とし、メタクリル酸n-ブチルの量を45部とし、また、還元性成分として、還元性成分〔ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、日揮ユニバーサル社製「BHT」〕44部を用いた以外は、上記製造例1と同様にして、還元性粒子分散体(分散液)(粒子7)を得た。
前記メタクリル酸エステルモノマーの含有量は、還元性粒子を構成する全ポリマー成分に対して、30.5質量%、前記還元性成分の含有量は全ポリマー成分に対して、45.8質量%であった。また、還元性粒子の平均粒子径は、80nmであった。
【0052】
(製造例8)
上記製造例1において、蒸溜水を340.5部とし、メタクリル酸シクロヘキシルモノマーの量を25部とし、メタクリル酸n-ブチルの量を50部とし、また、還元性成分として、還元性成分〔ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、日揮ユニバーサル社製「サステン1―F(BHA)」〕45部を用いた以外は、上記製造例1と同様にして、還元性粒子分散体(分散液)(粒子8)を得た。
前記メタクリル酸エステルモノマーの含有量は、還元性粒子を構成する全ポリマー成分に対して、29.3質量%、前記還元性成分の含有量は全ポリマー成分に対して、46.8質量%であった。また、還元性粒子の平均粒子径は、78nmであった。
【0053】
(製造例9)
2リットルのフラスコに、撹拌機、還流冷却器、温度計、窒素ガス導入管、モノマー投入用1000ml分液漏斗を取り付け、温水槽にセットし、蒸留水329.5部、グリセリンモノメタクリレート〔ブレンマーGLM、日油社製〕5部、メタクリル酸2-スルホエチルナトリウム〔アクリルエステルSEM-Na、三菱ケミカル社製〕5部、重合性界面活性剤〔ADEKA社製、アデカリアソープSE-10N、エーテルサルフィート〕20部及び過硫酸アンモニウム0.5部を仕込んで、窒素ガスを導入しながら、内温を50℃まで昇温した。
【0054】
一方、メタクリル酸シクロヘキシルモノマー50部と、メタクリル酸n-ブチル40部とからなる混合モノマーに、還元性成分〔タンニン、富士化学工業社製(タンニン酸S)〕30部、防腐剤成分〔フェノキシエタノール、四日市合成社製〕10部、架橋剤〔トリアリルイソシアヌレート、日本化成社製、タイク(TAIC)〕10部を混合した液を調製した。
この調製液を上記分液漏斗から温度50℃付近に保った上記フラスコ内に撹拌下で3時間にわたって添加し、乳化重合を行った。さらに5時間熟成して重合を終了し、還元性粒子分散体(分散液)(粒子9)を得た。
前記メタクリル酸エステルモノマーの含有量は、還元性粒子を構成する全ポリマー成分に対して、46.3質量%、前記還元性成分の含有量は全ポリマー成分に対して、25.5質量%、前記防腐剤成分の含有量は全ポリマー成分に対して、15.5質量%であった。また、還元性粒子の平均粒子径は、100nmであった。
【0055】
(製造例10)
上記製造例9において、蒸溜水を340.5部とし、メタクリル酸シクロヘキシルモノマーの量を45部とし、メタクリル酸n-ブチルの量を45部とし、また、還元性成分として、還元性成分〔タンニン、富士化学工業社製(タンニン酸S)〕28部、防腐剤成分としてベンズイソチアゾリノン(BIT)、大和化学工業社製)を12部を用いた以外は、上記製造例9と同様にして、還元性粒子分散体(分散液)(粒子9)を得た。
前記メタクリル酸エステルモノマーの含有量は、還元性粒子を構成する全ポリマー成分に対して、53質量%、前記還元性成分の含有量は全ポリマー成分に対して、21.3質量%、前記防腐剤成分の含有量は全ポリマー成分に対して、15.1質量%であった。また、還元性粒子の平均粒子径は、98nmであった。
【0056】
(製造例11)
上記製造例9において、蒸溜水を340.5部とし、メタクリル酸シクロヘキシルモノマーの量を30部とし、メタクリル酸n-ブチルの量を45部とし、また、還元性成分として、還元性成分〔クロロゲン酸、富士化学工業社製(カフェノールP100)〕30.5部、防腐剤成分としてメチルイソチアゾリン(MIT)を大和化学工業社製、14.5部を用いた以外は、上記製造例9と同様にして、還元性粒子分散体の分散液(粒子11)を得た。
前記メタクリル酸エステルモノマーの含有量は、還元性粒子を構成する全ポリマー成分に対して、38.9質量%、前記還元性成分の含有量は全ポリマー成分に対して、28.1質量%、前記防腐剤成分の含有量は全ポリマー成分に対して、17.7質量%であった。また、還元性粒子の平均粒子径は、78nmであった。
【0057】
上記製造例1~11で得た各還元性粒子分散体(分散液)を得た。この製造例1~8で得た各還元性粒子分散体中の還元性粒子の固形分量は、35~40質量%であった。
上記で得られた製造例1~11の還元性粒子分散体(分散液)を用いて、下記評価方法により、還元性能(溶存酸素の除去能)の持続性、分散安定性、防腐性能について評価した。
参考例として、特開2020-55971号公報に記載の製造例1の粒子Aを用いた。
これらの結果を下記表1に示す。
【0058】
(還元性能の評価方法)
上記で得られた製造例1~11の還元性粒子分散体(分散液)を用いて、還元性を溶存酸素量を測定することで評価した。評価は、溶存酸素メータ:WQ-320(堀場製作所社製)の溶存酸素計を用い、還元性粒子分散体作成後に温度25℃、保管期間48時間および3か月で放置し、測定温度25℃で測定したときの、還元性能の持続性を下記評価基準で評価した。
評価基準:
A:溶存酸素量が0.1~10mg/L未満。
B:溶存酸素量が10~20mg/L未満。
C:溶存酸素量が20mg/L以上。
【0059】
(分散安定性の評価方法)
上記で得られた製造例1~11の還元性粒子分散体(分散液)を用いて、得られた各還元性粒子水分散体10mlを、15mlのガラス製蓋付き瓶に、攪拌ボール(φ6.4mm、ステンレス鋼製)とともに充填し、密封した後に、キャップを上向きにして40℃の条件下1ヶ月保存した後、夫々の分散体を振った。撹拌ボールがガラス製蓋付き瓶中で移動し始めるまでに振った回数により分散安定性を下記の評価基準で評価した。
評価基準:
A:0~3回。
B:4~10回。
C:11回以上。
※0回:ガラス製蓋付き瓶を傾けたときに攪拌ボールの動きが確認できる
【0060】
(防腐効果(防菌性・防かび性)の試験方法)
上記で得られた製造例1~11の還元性粒子分散体(分散液)を用いて、ISO 11930:2012(保存効力試験または微生物学的リスク評価、またはその両方によって生成されたデータの解釈のための手順)に準拠した下記の微生物試験方法で行った。
下記細菌群、酵母、糸状菌の三群でチャレンジテストを実施した。
細菌群: Stapylococcus aureus NBRC13276、 Escherichia coli NBRC3972
酵母: Candida albicans NBRC1594
糸状菌: Aspergillus brasiliensis
〈接種菌液の調製〉
接種菌液の調製:ISO 11930:2012に従って菌液を調製した。
細菌群:各菌種毎にISO 11930:2012に従って菌液を調製した。菌種毎に1×107~1×108cfu/mlに調整した菌液を三種等量混合し接種菌液とした。
酵母:ISO 11930:2012に従い、1×106~1×107cfu/mlになるように菌液を調製した。
糸状菌:ISO 11930:2012に従い、1×106~ 1×107cfu/mlになるように菌液を調製した。
〈接種〉
筆記具用インク組成物に対し、1質量%の量の菌液を接種した。〈保管〉接種した筆記具用インク組成物は、温度22.5±2.5℃に保管し指定された期間ごとに検出培養を行った。
〈検出培養〉
細菌群はSCD寒天培地で、酵母はSD寒天培地で、糸状菌はPD寒天培地でそれぞれ10枚に合計1g塗抹し、細菌群と酵母は32.5℃、2日間、糸状菌は22.5℃、5日間培養した。
〈評価基準〉
A+:3日目の時点でコロニーが出現しない。
A:7日目の時点でコロニーが出現しない。
B:21日目の時点でコロニーが出現しない。
C:28日目の時点で数個から数十個のコロニーが出現している。
D:28日の時点で明らかに増えている。
【0061】
【0062】
上記表1の結果から明らかなように、上記で得られた製造例1~11の還元性粒子分散体(分散液)は、還元性能(溶存酸素の除去能)の持続性、分散安定性、防腐性に優れていることが判明した。
更に、製造例9~11の還元性粒子分散体(分散液)は、更に、防腐効果を高めるために、還元性成分と共に、防腐剤成分を含有したものであり、製造例1~8の還元性成分を含む還元性粒子分散体(分散液)よりも、防腐性能を更に高めながら、その持続効果、他の配合成分等に悪影響を及ぼすことがなく、しかも、分散安定性に優れていることを確認した。
【0063】
〔実施例1~11及び比較例1~3:筆記具用水性インク組成物の調製〕
実施例1~11用として、上記製造例1~11で得た各還元性粒子分散体(分散液)を得た。この製造例1~11で得た各還元性粒子分散体中の還元性粒子の固形分量は、35~40質量%であった。
一方、比較例1~3用として、下記3種の既知の酸素吸収剤を用いた。
比較例1はL-アスコルビン酸ナトリウム、比較例2はN-アセチル-システイン、比較例3はN-ビニル-2-ピロリドンのオリゴマー(重合度:2~6)を用いた。
【0064】
上記製造例1~11により製造した各還元性粒子分散体(粒子1~11)、上記比較例1~3を用いて、下記に示す配合組成(全量100質量%)により常法により各筆記具用水性インク組成物を調製した。
インク組成:(全量100質量%)
各還元性粒子分散体(粒子1~8)又は比較例1~3 15.0質量%
着色剤(カーボンブラックMA100、三菱化学社製 ) 5.4質量%
pH調整剤(トリエタノールアミン) 1.4質量%
水溶性有機溶剤(プロピレングリコール) 15.0質量%
イオン交換水 63.2質量%
【0065】
得られた各筆記具用水性インク組成物(全量100質量%)について、下記構成の筆記具A、B、下記評価方法により、筆記性(上下描線濃度差)、経時後の気泡発生状況の評価、衝撃を与えた後の気泡発生状況の評価について評価した。
下記表2に実施例1~11及び比較例1~3の各評価結果を示す。
【0066】
(筆記具:ボールペンの作製)
ボールペンA〔三菱鉛筆株式会社製、商品名:シグノUM-100〕の軸を使用し、内径4.0mm、長さ113mmポリプロピレン製インク収容管とステンレス製チップ(超硬合金ボール、ボール径0.5mm)及び該収容管と該チップを連結する継手からなるリフィールに上記各水性インク組成物を充填し、インク後端に鉱油を主成分とするインク追従体を装填し、水性ボールペンを作製した。
ボールペンB〔三菱鉛筆株式会社製、商品名:シグノUMN152〕の軸を使用し、内径4.0mm、長さ113mmポリプロピレン製インク収容管とステンレス製チップ(超硬合金ボール、ボール径0.5mm)及び該収容管と該チップを連結する継手からなるリフィールに上記各水性インク組成物を充填し、インク後端に鉱油を主成分とするインク追従体を装填し、ノック式水性ボールペンを作製した。
【0067】
〔筆記性(上下描線濃度差)の評価方法〕
上記構成の各水性ボールペンAを、室温(25℃、以下同様)下で、1ヶ月放置後、終筆まで筆記をし、書き始めと描き終わりの描線の濃度差を比較し、下記評価基準で評価した。
評価基準:
A:濃度差がない。
B:やや濃度差が認められる。
C:濃度差がはっきりと認められる。
D:濃度差が顕著であり、描線の視認が困難な箇所が認められる。
【0068】
<経時後の気泡発生状況の評価方法>
上記構成の各ボールペンAにおいて、ペン先を下向きにして、50℃、30%RHの雰囲気下で1ヶ月保管し、左記の期間が経過した後に、ペン先を下向きのまま室温で6時間放置し、インクとインク追従体界面に出現する気泡を目視にて確認し、下記評価基準で評価した。
【0069】
<衝撃を与えた後の気泡発生状況の評価方法>
上記構成のノック式ボールペンBを、ペン先を下向きにして、ノックを5回行った後、ペン先を下向きにして、上記50℃、30%RHの雰囲気下で1週間保管し、左記の期間が経過した後に、ペン先を下向きのまま室温で6時間放置し、インクとインク追従体界面に出現する気泡を目視にて確認し、下記評価基準で評価した。
評価基準:
A:インクとインク追従体界面に気泡が全く存在しない。
B:インクとインク追従体界面に直径1mm未満の気泡が1個存在する。
C:インクとインク追従体界面に直径1mm以上の気泡が1個以上、若しくは直径1mm未満の気泡が2個以上存在する。
D:インク追従体が気泡で押し上げられ、インク界面との間に空隙が存在する。
【0070】
得られた各筆記具用水性インク組成物(全量100質量%)について、ISO 11930:2012(保存効力試験または微生物学的リスク評価、またはその両方によって生成されたデータの解釈のための手順)に準拠した下記の微生物試験方法で行った。
下記細菌群、酵母、糸状菌の三群でチャレンジテストを実施した。
細菌群: Stapylococcus aureus NBRC13276、 Escherichia coli NBRC3972
酵母: Candida albicans NBRC1594
糸状菌: Aspergillus brasiliensis
〈接種菌液の調製〉
接種菌液の調製:ISO 11930:2012に従って菌液を調製した。
細菌群:各菌種毎にISO 11930:2012に従って菌液を調製した。菌種毎に1×107~1×108cfu/mlに調整した菌液を三種等量混合し接種菌液とした。
酵母:ISO 11930:2012に従い、1×106~1×107cfu/mlになるように菌液を調製した。
糸状菌:ISO 11930:2012に従い、1×106~1×107cfu/mlになるように菌液を調製した。
〈接種〉
筆記具用インク組成物に対し、1質量%の量の菌液を接種した。
〈保管〉
接種した筆記具用インク組成物は、温度22.5±2.5℃に保管し指定された期間ごとに検出培養を行った。〈検出培養〉細菌群はSCD寒天培地で、酵母はSD寒天培地で、糸状菌はPD寒天培地でそれぞれ10枚に合計1g塗抹し、細菌群と酵母は32.5℃、2日間、糸状菌は22.5℃、5日間培養した。
〈評価基準〉
A+:3日目の時点でコロニーが出現しない。
A:7日目の時点でコロニーが出現しない。
B:21日目の時点でコロニーが出現しない。
C:28日目の時点で数個から数十個のコロニーが出現している。
D:28日の時点で明らかに増えている。
【0071】
【0072】
上記表2を考察すると、本発明範囲となる実施例1~11は、本発明の範囲外となる比較例3に較べ、筆記性(上下描線濃度差)、経時後でも気泡発生はなく、また、衝撃を与えた後においても気泡の発生はなく、酸素に対する還元性能(酸素吸収能)の強さと持続性をもちながら、他のインクの配合成分に悪影響を及ぼすことがないことが確認できた。
更に、実施例9~11の還元性粒子分散体(分散液)を用いた筆記具用水性インク組成物は、更に、防腐効果を高めるために、還元性成分と共に、防腐剤成分を含むものとしたものであり、実施例1~8の還元性成分を含む還元性粒子分散体(分散液)よりも、防腐性能を更に高めながら、その持続効果、他の配合成分等に悪影響を及ぼすことがなく、しかも、分散安定性に優れていることを確認した。
また、上記で作製した各ボールペンA、Bは、共に、カスレもなく、滲まず、十分な描線濃度を有し、鮮明な描線となることを確認した。
本発明の還元性粒子分散体は、酸素に対する還元性能(酸素吸収能)の強さと持続性(徐放性)をもちながら、他の配合成分等に悪影響を及ぼすことがなく、しかも、分散安定性に優れ、防腐性を有するので、例えば、医療用具、ベビー用品、介護用品、浴場用品、台所用品、食器、飲料水配管部品、生活衛生用品、家電製品、衣料品、建築資材、農業用資材、自動車用内装部品、文房具、筆記具やインクジェットプリンターなどのインク組成物など、様々な製品に還元性および防腐性を付与するために利用することができる。