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特開2022-138142抗体-リソソーム酵素融合蛋白質の製造方法
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  • 特開-抗体-リソソーム酵素融合蛋白質の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022138142
(43)【公開日】2022-09-22
(54)【発明の名称】抗体-リソソーム酵素融合蛋白質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 21/02 20060101AFI20220914BHJP
   C07K 19/00 20060101ALN20220914BHJP
   C07K 16/46 20060101ALN20220914BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20220914BHJP
   C07K 16/18 20060101ALN20220914BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20220914BHJP
   C12N 15/62 20060101ALN20220914BHJP
【FI】
C12P21/02 C ZNA
C07K19/00
C07K16/46
C07K16/28
C07K16/18
C12N15/13
C12N15/62 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】36
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022034887
(22)【出願日】2022-03-08
(31)【優先権主張番号】P 2021037528
(32)【優先日】2021-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000228545
【氏名又は名称】JCRファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128897
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 佳希
(74)【代理人】
【識別番号】100225118
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 慧
(72)【発明者】
【氏名】柿本 真司
(72)【発明者】
【氏名】福井 剛
(72)【発明者】
【氏名】秦野 勇吉
(72)【発明者】
【氏名】小谷 彩夏
(72)【発明者】
【氏名】三浦 拓也
(72)【発明者】
【氏名】石黒 俊史
【テーマコード(参考)】
4B064
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG26
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE11
4B064CE12
4B064DA01
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA21
4H045GA23
4H045GA26
(57)【要約】
【課題】抗体をリソソーム酵素と融合させた融合蛋白質の製造方法を提供すること。
【解決手段】抗体とヒトリソソーム酵素とを融合させた融合蛋白質の製造方法であって;(a)該融合蛋白質を産生する哺乳動物細胞を無血清培地中で培養して該融合蛋白質を培養液中に分泌させ,(b)該培養液から該哺乳動物細胞を除去することにより培養上清を回収し,(c)該培養上清から,該抗体に親和性を有する物質を結合させた材料を固定相として用いたカラムクロマトグラフィーと,陰イオン交換カラムクロマトグラフィーと,陽イオン交換カラムクロマトグラフィーと,及びサイズ排除カラムクロマトグラフィーとを用いて,該融合蛋白質を精製する,ことを含んでなるものである,製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体とヒトリソソーム酵素とを融合させた融合蛋白質の製造方法であって;
(a)該融合蛋白質を産生する哺乳動物細胞を無血清培地中で培養して該融合蛋白質を培養液中に分泌させ,
(b)該培養液から該哺乳動物細胞を除去することにより培養上清を回収し,
(c)該培養上清から,該抗体に親和性を有する物質を結合させた材料を固定相として用いたカラムクロマトグラフィーと,陰イオン交換カラムクロマトグラフィーと,陽イオン交換カラムクロマトグラフィーと,及びサイズ排除カラムクロマトグラフィーとを用いて,該融合蛋白質を精製する,
ことを含んでなるものである,製造方法。
【請求項2】
該抗体に親和性を有する物質を結合させた材料を固定相として用いたカラムクロマトグラフィーと,該陰イオン交換カラムクロマトグラフィーと,該陽イオン交換カラムクロマトグラフィーと,及び該サイズ排除カラムクロマトグラフィーとを,この順で用いてなるものである,請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
該抗体に親和性を有する物質が,該抗体の重鎖のCH領域に親和性を有するものである,請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
該陰イオン交換カラムクロマトグラフィーに使用した陰イオン交換体が,強陰イオン交換体である,請求項1乃至3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
該陽イオン交換カラムクロマトグラフィーに使用した陽イオン交換体が,弱陽イオン交換体である,請求項1乃至4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
該ヒトリソソーム酵素と融合させた該抗体が,ヒト化抗体又はヒト抗体である,請求項1乃至5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
該ヒトリソソーム酵素と融合させた該抗体が,ヒト化抗体である,請求項1乃至5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
該ヒトリソソーム酵素と融合させた該抗体が,血管内皮細胞の表面に存在する分子を抗原とするものである,請求項1乃至7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
血管内皮細胞の表面に存在する該分子が,トランスフェリン受容体(TfR),インスリン受容体,レプチン受容体,リポ蛋白質受容体,IGF受容体,OATP-F,有機アニオントランスポーター,MCT-8,モノカルボン酸トランスポーター,及びFc受容体からなる群から選択されるものである,請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
該血管内皮細胞が脳血管内皮細胞である,請求項8に記載の製造方法。
【請求項11】
該脳血管内皮細胞の表面に存在する分子が,トランスフェリン受容体(TfR),インスリン受容体,レプチン受容体,リポ蛋白質受容体,IGF受容体,OATP-F,有機アニオントランスポーター,MCT-8,及びモノカルボン酸トランスポーターからなる群から選択されるものである,請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
該血管内皮細胞が,ヒトの血管内皮細胞である,請求項8乃至11のいずれかに記載の製造方法。
【請求項13】
該抗体が,抗ヒトトランスフェリン受容体抗体であって,
該抗体が重鎖の可変領域において,CDR1が配列番号13又は配列番号14のアミノ酸配列を含んでなり,CDR2が配列番号15又は配列番号16のアミノ酸配列を含んでなり,及びCDR3が配列番号17又は配列番号18のアミノ酸配列を含んでなり,且つ
該抗体が軽鎖の可変領域において,CDR1が配列番号8又は配列番号9のアミノ酸配列を含んでなり,CDR2が配列番号10若しくは配列番号11のアミノ酸配列,又はアミノ酸配列Lys-Val-Serを含んでなり,及びCDR3が配列番号12のアミノ酸配列を含んでなるものである,請求項1乃至12のいずれかに記載の製造方法。
【請求項14】
該抗体が,重鎖のフレームワーク領域3が配列番号19のアミノ酸配列を含んでなるものである,請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
該抗体における該重鎖の可変領域が,配列番号21のアミノ酸配列を含んでなるものである,請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
該抗体が重鎖の可変領域において,配列番号21のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるものであり,且つ
CDR1が配列番号13又は配列番号14のアミノ酸配列を含んでなり,
CDR2が配列番号15又は配列番号16のアミノ酸配列を含んでなり,
CDR3が配列番号17又は配列番号18のアミノ酸配列を含んでなり,及び
フレームワーク領域3が配列番号19のアミノ酸配列を含んでなるものである,請求項13又は14に記載の製造方法。
【請求項17】
該抗体が重鎖の可変領域において,配列番号21のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるものであり,且つ
CDR1が配列番号13又は配列番号14のアミノ酸配列を含んでなり,
CDR2が配列番号15又は配列番号16のアミノ酸配列を含んでなり,
CDR3が配列番号17又は配列番号18のアミノ酸配列を含んでなり,及び
フレームワーク領域3が配列番号19のアミノ酸配列を含んでなるものである,請求項13又は14に記載の製造方法。
【請求項18】
該抗体が重鎖の可変領域において,配列番号21のアミノ酸配列に対し1~5個のアミノ酸の置換,欠失又は付加による改変がなされたアミノ酸配列を含んでなるものであり,且つ
CDR1が配列番号13又は配列番号14のアミノ酸配列を含んでなり,
CDR2が配列番号15又は配列番号16のアミノ酸配列を含んでなり,
CDR3が配列番号17又は配列番号18のアミノ酸配列を含んでなり,及び
フレームワーク領域3が配列番号19のアミノ酸配列を含んでなるものである,請求項13又は14に記載の製造方法。
【請求項19】
該抗体が重鎖の可変領域において,配列番号21のアミノ酸配列に対し1~3個のアミノ酸の置換,欠失又は付加による改変がなされたアミノ酸配列を含んでなるものであり,且つ
CDR1が配列番号13又は配列番号14のアミノ酸配列を含んでなり,
CDR2が配列番号15又は配列番号16のアミノ酸配列を含んでなり,
CDR3が配列番号17又は配列番号18のアミノ酸配列を含んでなり,及び
フレームワーク領域3が配列番号19のアミノ酸配列を含んでなるものである,請求項13又は14に記載の製造方法。
【請求項20】
該抗体の軽鎖の可変領域が,配列番号20のアミノ酸配列を含んでなるものである,請求項13乃至19のいずれかに記載の製造方法。
【請求項21】
該抗体が軽鎖の可変領域において,配列番号20のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるものであり,且つ
CDR1が配列番号8又は配列番号9のアミノ酸配列を含んでなり,
CDR2が配列番号10若しくは配列番号11のアミノ酸配列,又はアミノ酸配列Lys-Val-Serを含んでなり,
CDR3が配列番号12のアミノ酸配列を含んでなるものである,請求項13乃至19のいずれかに記載の製造方法。
【請求項22】
該抗体が軽鎖の可変領域において,配列番号20のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるものであり,且つ
CDR1が配列番号8又は配列番号9のアミノ酸配列を含んでなり,
CDR2が配列番号10若しくは配列番号11のアミノ酸配列,又はアミノ酸配列Lys-Val-Serを含んでなり,
CDR3が配列番号12のアミノ酸配列を含んでなるものである,請求項13乃至19のいずれかに記載の製造方法。
【請求項23】
該抗体が軽鎖の可変領域において,配列番号20のアミノ酸配列に対し1~5個のアミノ酸の置換,欠失又は付加による改変がなされたアミノ酸配列を含んでなるものであり,且つ
CDR1が配列番号8又は配列番号9のアミノ酸配列を含んでなり,
CDR2が配列番号10若しくは配列番号11のアミノ酸配列,又はアミノ酸配列Lys-Val-Serを含んでなり,
CDR3が配列番号12のアミノ酸配列を含んでなるものである,請求項13乃至19のいずれかに記載の製造方法。
【請求項24】
該抗体が軽鎖の可変領域において,配列番号20のアミノ酸配列に対し1~3個のアミノ酸の置換,欠失又は付加による改変がなされたアミノ酸配列を含んでなるものであり,且つ
CDR1が配列番号8又は配列番号9のアミノ酸配列を含んでなり,
CDR2が配列番号10若しくは配列番号11のアミノ酸配列,又はアミノ酸配列Lys-Val-Serを含んでなり,
CDR3が配列番号12のアミノ酸配列を含んでなるものである,請求項13乃至19のいずれかに記載の製造方法。
【請求項25】
該抗体の該重鎖が,配列番号23のアミノ酸配列を含むものである,上記15に記載の製造方法。
【請求項26】
該抗体の該軽鎖が,配列番号22のアミノ酸配列を含むものである,上記20又は25に記載の製造方法。
【請求項27】
該抗体がFab,F(ab’),又はF(ab’)である,請求項1乃至26のいずれかに記載の製造方法。
【請求項28】
該融合蛋白質における該ヒトリソソーム酵素が,該抗体の軽鎖のC末端側又はN末端側に結合しているものである,請求項1乃至27のいずれかに記載の製造方法。
【請求項29】
該融合蛋白質における該ヒトリソソーム酵素が,該軽鎖のC末端側又はN末端側に,直接又はリンカーを介して,結合しているものである,請求項28に記載の製造方法。
【請求項30】
該融合蛋白質における該ヒトリソソーム酵素が,該重鎖のC末端側又はN末端側においてリンカーを介して結合しているものである,請求項28に記載の製造方法。
【請求項31】
該リンカー配列が,1~50個のアミノ酸残基からなるペプチドである,請求項29又は30に記載の製造方法。
【請求項32】
該リンカーが,1個のグリシン,1個のセリン,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,配列番号1のアミノ酸配列,配列番号2のアミノ酸配列,配列番号3のアミノ酸配列,配列番号4のアミノ酸配列,及びこれらのアミノ酸配列が1~10個連続してなるアミノ酸配列からなる群より選ばれるアミノ酸配列を含んでなるペプチドである,請求項31に記載の製造方法。
【請求項33】
該融合蛋白質における該ヒトリソソーム酵素が,ヒトα-L-イズロニダーゼである,請求項1乃至32のいずれかに記載の製造方法。
【請求項34】
該融合蛋白質における該抗体がFabであり,
該抗体の軽鎖が,配列番号22のアミノ酸配列を含んでなり,且つ
該抗体の重鎖が,そのC末端側で,配列番号4のアミノ酸配列を介して,ヒトα-L-イズロニダーゼと結合し,それにより該融合蛋白質が配列番号27のアミノ酸配列を形成しているものである,請求項33に記載の製造方法。
【請求項35】
該融合蛋白質における該抗体がFabであり,
該抗体の軽鎖が,配列番号22のアミノ酸配列からなり,且つ
該抗体の重鎖が,配列番号23のアミノ酸配列からなり,そのC末端側で,配列番号4のアミノ酸配列からなるリンカーを介して,配列番号6のアミノ酸配列からなるヒトα-L-イズロニダーゼと結合するものである,請求項33に記載の製造方法。
【請求項36】
該ヒトα-L-イズロニダーゼが,配列番号6又は7のアミノ酸配列を含んでなるものである,請求項33に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,抗体をリソソーム酵素と融合させた融合蛋白質の製造方法に関し,例えば,該融合蛋白質をコードする遺伝子を組み込んだ発現ベクターを導入した宿主細胞を培養することにより得られる組換え融合蛋白質を,医薬として利用できる純度にまで精製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在,組換え蛋白質を有効成分として含有してなる多くの医薬が市販されている。このような組換え蛋白質は,目的の蛋白質をコードする遺伝子を組み込んだ発現ベクターを導入した宿主細胞を培養することにより,培養上清中に得られたものである。培養上清中に得られた組換え蛋白質は,そのままでは夾雑物を含むので医薬として使用できない。医薬として使用するためには,培養上清中に含まれる組換え蛋白質を精製する必要がある。
【0003】
哺乳動物細胞を宿主細胞として用い,この宿主細胞を培養して培養上清中に得られた組換え蛋白質を,医薬として使用できるレベルにまで精製する方法が報告されている。例えば,赤芽球前駆細胞に働いて赤血球へと分化させ赤血球の産生を促進する糖蛋白質であるヒトエリスロポエチン(hEPO)を,宿主細胞としてCHO細胞を用いて組換え蛋白質として発現させ,これを培養上清から色素アフィニティーカラムクロマトグラフィーを含む各種クロマトグラフィーを用いて医薬に使用できるまで精製する方法が報告されている(特許文献1)。また例えば,卵巣でのエストロゲンの生産及び分泌を促進する活性を有する性腺刺激ホルモンの一種であるヒト卵胞刺激ホルモン(hFSH)を,宿主細胞としてCHO細胞を用いて組換え蛋白質として発現させ,これを培養上清から陽イオン交換カラムクロマトグラフィーを含む各種クロマトグラフィーを用いて医薬に使用できるまで精製する方法が報告されている(特許文献2)。また例えば,ヘパラン硫酸やデルマタン硫酸のようなグリコサミノグリカン(GAG)分子内に存在する硫酸エステル結合を加水分解する活性を有するライソソーム酵素の一種であるヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(hI2S)を,宿主細胞としてCHO細胞を用いて組換え蛋白質として発現させ,これを培養上清から陽イオン交換カラムクロマトグラフィーを含む各種クロマトグラフィーを用いて医薬に使用できるまで精製する方法が報告されている(特許文献3)。また例えば,糖脂質及び糖蛋白質の末端α-ガラクトシル結合を加水分解する活性を有するライソソーム酵素の一種であるヒトα-ガラクトシダーゼA(hα-Gal A)を,宿主細胞としてCHO細胞を用いて組換え蛋白質として発現させ,これを培養上清から陰イオン交換カラムクロマトグラフィーを含む各種クロマトグラフィーを用いて医薬に使用できるまで精製する方法が報告されている(特許文献4,特許文献5)。更に例えば,DNAを塩基配列非特異的に分解する活性を有するヒトDNaseIを,宿主細胞としてCHO細胞を用いて組換え蛋白質として発現させ,これを培養上清から陰イオン交換カラムクロマトグラフィー及び色素リガンドアフィニティーカラムクロマトグラフィーを含む各種クロマトグラフィーを用いて医薬に使用できるまで精製する方法が報告されている(特許文献6)。更に例えば,ヒトイズロン酸-2-スルファターゼと結合させた抗hTfR抗体を,宿主細胞としてCHO細胞を用いて組換え蛋白質として発現させ,これを培養上清からプロテインAアフィニティーカラムクロマトグラフィー,ハイドロキシアパタイトカラムクロマトグラフィー,及びサイズ排除カラムクロマトグラフィーとを用いて医薬に使用できるまで精製する方法が報告されている(特許文献7)。
【0004】
このように,医薬として使用できる組換え蛋白質を取得するために,それぞれの組換え蛋白質について,独自の精製方法が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2010-511378号公報
【特許文献2】特開2009-273427号公報
【特許文献3】特表2014-508506号公報
【特許文献4】国際公開第2014/017088号
【特許文献5】国際公開第2016/117341号
【特許文献6】国際公開第2016/067944号
【特許文献7】国際公開第2018/038243号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は,抗体とリソソーム酵素とを融合させた融合蛋白質を,組換え蛋白質として発現させて,これを医薬として市場に流通させることが可能な純度にまで精製する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的に向けた研究において,本発明者らは,鋭意検討を重ねた結果,抗トランスフェリン受容体抗体とヒトα-L-イズロニダーゼ(hIDUA)とを融合させた融合蛋白質をコードする遺伝子を組み込んだ発現ベクターを導入した哺乳動物細胞を無血清培地中で培養することにより,培養液中に得られる融合蛋白質を,該抗体に親和性を有する物質を結合させた材料を固定相として用いたカラムクロマトグラフィー,陰イオン交換カラムクロマトグラフィー,陽イオン交換カラムクロマトグラフィー,及びサイズ排除カラムクロマトグラフィーの組み合わせにより精製することによって,高い純度で効率よく精製することができることを見出した。本発明は,これらの知見に基づき更に検討を加えて完成させたものである。すなわち,本発明は以下を提供する。
1.抗体とヒトリソソーム酵素とを融合させた融合蛋白質の製造方法であって,
(a)該融合蛋白質を産生する哺乳動物細胞を無血清培地中で培養して該融合蛋白質を培養液中に分泌させるステップと,
(b)上記ステップ(a)で得られた培養液から該哺乳動物細胞を除去することにより培養上清を回収するステップと,
(c)上記ステップ(b)で得られた培養上清から,該抗体に親和性を有する物質を結合させた材料を固定相として用いたカラムクロマトグラフィーと,陰イオン交換カラムクロマトグラフィーと,陽イオン交換カラムクロマトグラフィーと,及びサイズ排除カラムクロマトグラフィーとを用いて,該融合蛋白質を精製するステップと,
を含んでなるものである,製造方法。
2.該ステップ(c)において,該抗体に親和性を有する物質を結合させた材料を固定相として用いたカラムクロマトグラフィーと,陰イオン交換カラムクロマトグラフィーと,陽イオン交換カラムクロマトグラフィーと,及びサイズ排除カラムクロマトグラフィーとを,この順で用いてなるものである,上記1の製造方法。
3.該抗体に親和性を有する物質が,該抗体の重鎖のCH領域に親和性を有するものである,上記1又は2の製造方法。
4.該陰イオン交換カラムクロマトグラフィーに使用した陰イオン交換体が,強陰イオン交換体である,上記1乃至3のいずれかの製造方法。
5.該陽イオン交換カラムクロマトグラフィーに使用した陽イオン交換体が,弱陽イオン交換体である,上記1乃至4のいずれかの製造方法。
6.該ヒトリソソーム酵素と融合させた該抗体が,ヒト化抗体又はヒト抗体である,上記1乃至5のいずれかの製造方法。
7.該ヒトリソソーム酵素と融合させた該抗体が,ヒト化抗体である,上記1乃至5のいずれかの製造方法。
8.該ヒトリソソーム酵素と融合させた該抗体が,血管内皮細胞の表面に存在する分子を抗原とするものである,上記1乃至7のいずれかの製造方法。
9.血管内皮細胞の表面に存在する該分子が,トランスフェリン受容体(TfR),インスリン受容体,レプチン受容体,リポ蛋白質受容体,IGF受容体,OATP-F,有機アニオントランスポーター,MCT-8,モノカルボン酸トランスポーター,及びFc受容体からなる群から選択されるものである,上記8の製造方法。
10.該血管内皮細胞が脳血管内皮細胞である,上記8の製造方法。
11.該脳血管内皮細胞の表面に存在する分子が,トランスフェリン受容体(TfR),インスリン受容体,レプチン受容体,リポ蛋白質受容体,IGF受容体,OATP-F,有機アニオントランスポーター,MCT-8,及びモノカルボン酸トランスポーターからなる群から選択されるものである,上記10の製造方法。
12.該血管内皮細胞が,ヒトの血管内皮細胞である,上記8乃至11のいずれかの製造方法。
13.該抗体が,抗ヒトトランスフェリン受容体抗体であって,
該抗体が重鎖の可変領域において,CDR1が配列番号13又は配列番号14のアミノ酸配列を含んでなり,CDR2が配列番号15又は配列番号16のアミノ酸配列を含んでなり,及びCDR3が配列番号17又は配列番号18のアミノ酸配列を含んでなり,且つ
該抗体が軽鎖の可変領域において,CDR1が配列番号8又は配列番号9のアミノ酸配列を含んでなり,CDR2が配列番号10若しくは配列番号11のアミノ酸配列,又はアミノ酸配列Lys-Val-Serを含んでなり,及びCDR3が配列番号12のアミノ酸配列を含んでなるものである,上記1乃至12のいずれかの製造方法。
14.該抗体が,重鎖のフレームワーク領域3が配列番号19のアミノ酸配列を含んでなるものである,上記13の製造方法。
15.該抗体における該重鎖の可変領域が,配列番号21のアミノ酸配列を含んでなるものである,上記14の製造方法。
16.該抗体が重鎖の可変領域において,配列番号21のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるものであり,且つ
CDR1が配列番号13又は配列番号14のアミノ酸配列を含んでなり,
CDR2が配列番号15又は配列番号16のアミノ酸配列を含んでなり,
CDR3が配列番号17又は配列番号18のアミノ酸配列を含んでなり,及び
フレームワーク領域3が配列番号19のアミノ酸配列を含んでなるものである,上記13又は14の製造方法。
17.該抗体が重鎖の可変領域において,配列番号21のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるものであり,且つ
CDR1が配列番号13又は配列番号14のアミノ酸配列を含んでなり,
CDR2が配列番号15又は配列番号16のアミノ酸配列を含んでなり,
CDR3が配列番号17又は配列番号18のアミノ酸配列を含んでなり,及び
フレームワーク領域3が配列番号19のアミノ酸配列を含んでなるものである,上記13又は14の製造方法。
18.該抗体が重鎖の可変領域において,配列番号21のアミノ酸配列に対し1~5個のアミノ酸の置換,欠失又は付加による改変がなされたアミノ酸配列を含んでなるものであり,且つ
CDR1が配列番号13又は配列番号14のアミノ酸配列を含んでなり,
CDR2が配列番号15又は配列番号16のアミノ酸配列を含んでなり,
CDR3が配列番号17又は配列番号18のアミノ酸配列を含んでなり,及び
フレームワーク領域3が配列番号19のアミノ酸配列を含んでなるものである,上記13又は14の製造方法。
19.該抗体が重鎖の可変領域において,配列番号21のアミノ酸配列に対し1~3個のアミノ酸の置換,欠失又は付加による改変がなされたアミノ酸配列を含んでなるものであり,且つ
CDR1が配列番号13又は配列番号14のアミノ酸配列を含んでなり,
CDR2が配列番号15又は配列番号16のアミノ酸配列を含んでなり,
CDR3が配列番号17又は配列番号18のアミノ酸配列を含んでなり,及び
フレームワーク領域3が配列番号19のアミノ酸配列を含んでなるものである,上記13又は14の製造方法。
20.該抗体における軽鎖の可変領域が,配列番号20のアミノ酸配列を含んでなるものである,上記13乃至19のいずれかの製造方法。
21.該抗体が軽鎖の可変領域において,配列番号20のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるものであり,且つ
CDR1が配列番号8又は配列番号9のアミノ酸配列を含んでなり,
CDR2が配列番号10若しくは配列番号11のアミノ酸配列,又はアミノ酸配列Lys-Val-Serを含んでなり,
CDR3が配列番号12のアミノ酸配列を含んでなるものである,上記13乃至19のいずれかの製造方法。
22.該抗体が軽鎖の可変領域において,配列番号20のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるものであり,且つ
CDR1が配列番号8又は配列番号9のアミノ酸配列を含んでなり,
CDR2が配列番号10若しくは配列番号11のアミノ酸配列,又はアミノ酸配列Lys-Val-Serを含んでなり,
CDR3が配列番号12のアミノ酸配列を含んでなるものである,上記13乃至19のいずれかの製造方法。
23.該抗体が軽鎖の可変領域において,配列番号20のアミノ酸配列に対し1~5個のアミノ酸の置換,欠失又は付加による改変がなされたアミノ酸配列を含んでなるものであり,且つ
CDR1が配列番号8又は配列番号9のアミノ酸配列を含んでなり,
CDR2が配列番号10若しくは配列番号11のアミノ酸配列,又はアミノ酸配列Lys-Val-Serを含んでなり,
CDR3が配列番号12のアミノ酸配列を含んでなるものである,上記13乃至19のいずれかの製造方法。
24.該抗体が軽鎖の可変領域において,配列番号20のアミノ酸配列に対し1~3個のアミノ酸の置換,欠失又は付加による改変がなされたアミノ酸配列を含んでなるものであり,且つ
CDR1が配列番号8又は配列番号9のアミノ酸配列を含んでなり,
CDR2が配列番号10若しくは配列番号11のアミノ酸配列,又はアミノ酸配列Lys-Val-Serを含んでなり,
CDR3が配列番号12のアミノ酸配列を含んでなるものである,上記13乃至19のいずれかの製造方法。
25.該抗体の該重鎖が,配列番号23のアミノ酸配列を含むものである,上記15の製造方法。
26.該抗体の該軽鎖が,配列番号22のアミノ酸配列を含むものである,上記20又は25の製造方法。
27.該抗体がFab,F(ab’),又はF(ab’)である,上記1乃至26のいずれかの製造方法。
28.該融合蛋白質における該ヒトリソソーム酵素が,該抗体の軽鎖のC末端側又はN末端側に結合しているものである,上記1乃至27のいずれかの製造方法。
29.該融合蛋白質における該ヒトリソソーム酵素が,該軽鎖のC末端側又はN末端側に,直接又はリンカーを介して,結合しているものである,上記28の製造方法。
30.該融合蛋白質における該ヒトリソソーム酵素が,該重鎖のC末端側又はN末端側においてリンカーを介して結合しているものである,上記28の製造方法。
31.該リンカー配列が,1~50個のアミノ酸残基からなるペプチドである,上記29又は30の製造方法。
32.該リンカーが,1個のグリシン,1個のセリン,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,配列番号1のアミノ酸配列,配列番号2のアミノ酸配列,配列番号3のアミノ酸配列,配列番号4のアミノ酸配列,及びこれらのアミノ酸配列が1~10個連続してなるアミノ酸配列からなる群より選ばれるアミノ酸配列を含んでなるペプチドである,上記31の製造方法。
33.該融合蛋白質における該ヒトリソソーム酵素が,ヒトα-L-イズロニダーゼである,上記1乃至32のいずれかの製造方法。
34.該融合蛋白質における該抗体がFabであり,
該抗体の軽鎖が,配列番号22のアミノ酸配列からなり,且つ
該抗体の重鎖が,そのC末端側で,配列番号4のアミノ酸配列からなるリンカーを介して,該ヒトα-L-イズロニダーゼと結合し,それにより該融合蛋白質が配列番号27のアミノ酸配列を形成しているものである,上記33の製造方法。
35.該融合蛋白質における該抗体がFabであり,
該抗体の軽鎖が,配列番号22のアミノ酸配列からなり,且つ
該抗体の重鎖が,配列番号23のアミノ酸配列からなり,そのC末端側で,配列番号4のアミノ酸配列からなるリンカーを介して,配列番号6のアミノ酸配列からなるヒトα-L-イズロニダーゼと結合するものである,上記33の製造方法。
36.該ヒトα-L-イズロニダーゼが,配列番号6又は7のアミノ酸配列を含んでなるものである,上記33の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば,中枢神経障害を伴うリソソーム病の治療剤として臨床的に用いることのできる純度にまで精製された,抗トランスフェリン受容体抗体とリソソーム酵素との融合蛋白質を提供することができる。特に,中枢神経障害を伴うハーラー症候群の治療剤として臨床的に用いることのできる純度にまで精製された,抗トランスフェリン受容体抗体とヒトIDUAとの融合蛋白質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例4で得られたヒト化抗hTfR抗体-hIDUA精製品のSE-HPLCのチャートを示す図。縦軸は215 nmでの吸光度,横軸は保持時間(分)を示す。(A)はヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの単量体に由来するピーク,(B)及び(C)はヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの重合体に由来するピークをそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は,抗トランスフェリン受容体抗体(抗TfR抗体)とヒトリソソーム酵素とを結合させた蛋白質の製造方法に関するものである。ここで,リソソーム酵素と結合させる抗体は,抗原に特異的に結合する性質を有するものである限り,抗体の動物種等に特に制限はないが,特にヒト抗体又はヒト化抗体である。例えば,抗体は,ヒト以外の哺乳動物の抗体であってもよく,またヒト抗体とヒト以外の他の哺乳動物の抗体とのキメラ抗体であってもよい。
【0011】
ヒト抗体は,その全体がヒト由来の遺伝子にコードされる抗体のことをいう。但し,遺伝子の発現効率を上昇させる等の目的で,元のヒトの遺伝子に変異を加えた遺伝子にコードされる抗体も,ヒト抗体である。また,ヒト抗体をコードする2つ以上の遺伝子を組み合わせて,ある一つのヒト抗体の一部を,他のヒト抗体の一部に置き換えた抗体も,ヒト抗体である。ヒト抗体は,免疫グロブリン軽鎖の3箇所の相補性決定領域(CDR)と免疫グロブリン重鎖の3箇所の相補性決定領域(CDR)を有する。免疫グロブリン軽鎖の3箇所のCDRは,N末端側にあるものから順にCDR1,CDR2及びCDR3という。免疫グロブリン重鎖の3箇所のCDRは,N末端側にあるものから順にCDR1,CDR2及びCDR3という。ある一つのヒト抗体のCDRを,その他のヒト抗体のCDRに置き換えることにより,ヒト抗体の抗原特異性,親和性等を改変した抗体も,ヒト抗体である。
【0012】
本発明において,元のヒト抗体の遺伝子を改変することにより,元の抗体のアミノ酸配列に置換,欠失,付加等の変異を加えた抗体も,ヒト抗体という。元の抗体のアミノ酸配列中のアミノ酸を他のアミノ酸へ置換させる場合,置換させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~20個であり,より好ましくは1~10個であり,更に好ましくは1~5個であり,更により好ましくは1~3個である。元の抗体のアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~20個であり,より好ましくは1~10個であり,更に好ましくは1~5個であり,更により好ましくは1~3個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えた抗体も,ヒト抗体である。アミノ酸を付加させる場合,元の抗体のアミノ酸配列中又はN末端側若しくはC末端側に,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~5個,更により好ましくは1~3個のアミノ酸が付加される。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えた抗体も,ヒト抗体である。変異を加えた抗体のアミノ酸配列は,元の抗体のアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,より好ましくは85%以上の同一性を示し,更に好ましくは90%以上の同一性を示し,更により好ましくは95%以上の同一性を示し,なおも更に好ましくは98%以上の同一性を示すものである。つまり,本発明において「ヒト由来の遺伝子」というときは,ヒト由来の元の遺伝子に加えて,ヒト由来の元の遺伝子に改変を加えることにより得られる遺伝子も含まれる。
【0013】
本発明において,「ヒト化抗体」の語は,可変領域の一部(例えば,特にCDRの全部又は一部)のアミノ酸配列がヒト以外の哺乳動物由来であり,それ以外の領域がヒト由来である抗体のことをいう。例えば,ヒト化抗体として,ヒト抗体を構成する免疫グロブリン軽鎖の3箇所の相補性決定領域(CDR)と免疫グロブリン重鎖の3箇所の相補性決定領域(CDR)を,他の哺乳動物のCDRによって置き換えることにより作製された抗体が挙げられる。ヒト抗体の適切な位置に移植されるCDRの由来となる他の哺乳動物の生物種は,ヒト以外の哺乳動物である限り特に限定はないが,好ましくは,マウス,ラット,ウサギ,ウマ,又はヒト以外の霊長類であり,より好ましくはマウス及びラットであり,例えばマウスである。
【0014】
本発明において,抗体がヒト抗体又はヒト化抗体である場合につき,以下詳述する。ヒト抗体及びヒト化抗体の軽鎖には,λ鎖とκ鎖がある。抗体を構成する軽鎖は,λ鎖とκ鎖のいずれであってもよい。また,ヒト抗体及びヒト化抗体の重鎖には,γ鎖,μ鎖,α鎖,σ鎖及びε鎖があり,それぞれ,IgG,IgM,IgA,IgD及びIgEに対応している。抗体を構成する重鎖は,γ鎖,μ鎖,α鎖,σ鎖及びε鎖のいずれであってもよいが,好ましくはγ鎖である。更に,抗体の重鎖のγ鎖には,γ1鎖,γ2鎖,γ3鎖及びγ4鎖があり,それぞれ,IgG1,IgG2,IgG3及びIgG4に対応している。抗体を構成する重鎖がγ鎖である場合,そのγ鎖は,γ1鎖,γ2鎖,γ3鎖及びγ4鎖のいずれであってもよいが,好ましくは,γ1鎖又はγ4鎖である。抗体が,ヒト化抗体又はヒト抗体であり,且つIgGである場合,その抗体の軽鎖はλ鎖とκ鎖のいずれでもあってもよく,その抗体の重鎖は,γ1鎖,γ2鎖,γ3鎖及びγ4鎖のいずれであってもよいが,好ましくは,γ1鎖又はγ4鎖である。例えば,好ましい抗体の一つの態様として,軽鎖がκ鎖であり重鎖がγ1鎖であるもの,軽鎖がλ鎖であり重鎖がγ1鎖であるものが挙げられる。
【0015】
本発明において,「キメラ抗体」の語は,2つ以上の異なる種に由来する,2つ以上の異なる抗体の断片が連結されてなる抗体のことをいう。
【0016】
ヒト抗体と他の哺乳動物の抗体とのキメラ抗体とは,ヒト抗体の一部がヒト以外の哺乳動物の抗体の一部によって置き換えられた抗体である。抗体は,以下に説明するFc領域,Fab領域及びヒンジ部とからなる。このようなキメラ抗体の具体例として,Fc領域がヒト抗体に由来する一方でFab領域が他の哺乳動物の抗体に由来するキメラ抗体が挙げられる。ヒンジ部は,ヒト抗体又は他の哺乳動物の抗体のいずれかに由来する。逆に,Fc領域が他の哺乳動物に由来する一方でFab領域がヒト抗体に由来するキメラ抗体が挙げられる。ヒンジ部は,ヒト抗体又は他の哺乳動物の抗体のいずれに由来してもよい。
【0017】
また,抗体は,可変領域と定常領域とからなるということもできる。キメラ抗体の他の具体例として,重鎖の定常領域(C)と軽鎖の定常領域(C)がヒト抗体に由来する一方で,重鎖の可変領域(V)及び軽鎖の可変領域(V)が他の哺乳動物の抗体に由来するもの,逆に,重鎖の定常領域(C)と軽鎖の定常領域(C)が他の哺乳動物の抗体に由来する一方で,重鎖の可変領域(V)及び軽鎖の可変領域(V)がヒト抗体に由来するものも挙げられる。ここで,他の哺乳動物の生物種は,ヒト以外の哺乳動物である限り特に限定はないが,好ましくは,マウス,ラット,ウサギ,ウマ,又はヒト以外の霊長類であり,より好ましくはマウスである。
【0018】
ヒト抗体とマウス抗体のキメラ抗体は,特に,「ヒト/マウスキメラ抗体」という。ヒト/マウスキメラ抗体には,Fc領域がヒト抗体に由来する一方でFab領域がマウス抗体に由来するキメラ抗体や,逆に,Fc領域がマウス抗体に由来する一方でFab領域がヒト抗体に由来するキメラ抗体が挙げられる。ヒンジ部は,ヒト抗体又はマウス抗体のいずれかに由来する。ヒト/マウスキメラ抗体の他の具体例として,重鎖の定常領域(C)と軽鎖の定常領域(C)がヒト抗体に由来する一方で,重鎖の可変領域(V)及び軽鎖の可変領域(V)がマウス抗体に由来するもの,逆に,重鎖の定常領域(C)と軽鎖の定常領域(C)がマウス抗体に由来する一方で,重鎖の可変領域(V)及び軽鎖の可変領域(V)がヒト抗体に由来するものが挙げられる。
【0019】
抗体は,本来,2本の免疫グロブリン軽鎖と2本の免疫グロブリン重鎖の計4本のポリペプチド鎖からなる基本構造を有する。但し,本発明において,「抗体」というときは,この基本構造を有するものに加え,
(1)1本の免疫グロブリン軽鎖と1本の免疫グロブリン重鎖の計2本のポリペプチド鎖からなるものや,以下に詳述するように,
(2)免疫グロブリン軽鎖のC末端側にリンカー配列を,そして更にそのC末端側に免疫グロブリン重鎖を結合させてなるものである一本鎖抗体,及び
(3)免疫グロブリン重鎖のC末端側にリンカー配列を,そして更にそのC末端側に免疫グロブリン軽鎖を結合させてなるものである一本鎖抗体も含まれる。また,
(4)本来の意味での抗体の基本構造からFc領域が欠失したものであるFab領域からなるもの及びFab領域とヒンジ部の全部若しくは一部とからなるもの(Fab,F(ab’)及びF(ab’)を含む)も,本発明における「抗体」に含まれる。
【0020】
ここでFabとは,可変領域とC領域(軽鎖の定常領域)を含む1本の軽鎖と,可変領域とC1領域(重鎖の定常領域の部分1)を含む1本の重鎖が,それぞれに存在するシステイン残基同士でジスルフィド結合により結合した分子のことをいう。Fabにおいて,重鎖は,可変領域とC1領域(重鎖の定常領域の部分1)に加えて,更にヒンジ部の一部を含んでもよいが,この場合のヒンジ部は,ヒンジ部に存在して抗体の重鎖どうしを結合するシステイン残基を欠くものである。Fabにおいて,軽鎖と重鎖とは,軽鎖の定常領域(C領域)に存在するシステイン残基と,重鎖の定常領域(C1領域)又はヒンジ部に存在するシステイン残基との間で形成されるジスルフィド結合により結合する。Fabを形成する重鎖のことをFab重鎖という。Fabは,ヒンジ部に存在して抗体の重鎖どうしを結合するシステイン残基を欠いているので,1本の軽鎖と1本の重鎖とからなる。Fabを構成する軽鎖は,可変領域とC領域を含む。Fabを構成する重鎖は,可変領域とC1領域からなるものであってもよく,可変領域,C1領域に加えてヒンジ部の一部を含むものであってもよい。但しこの場合,ヒンジ部で2本の重鎖の間でジスルフィド結合が形成されないように,ヒンジ部は重鎖間を結合するシステイン残基を含まないように選択される。F(ab’)においては,その重鎖は可変領域とC1領域に加えて,重鎖どうしを結合するシステイン残基を含むヒンジ部の全部又は一部を含む。F(ab’)は2つのF(ab’)が互いのヒンジ部に存在するシステイン残基どうしでジスルフィド結合により結合した分子のことをいう。F(ab’)又はF(ab’)を形成する重鎖のことをFab’重鎖という。また,複数の抗体が直接又はリンカーを介して結合してなる二量体,三量体等の重合体も,抗体である。更に,これらに限らず,免疫グロブリン分子の一部を含み,且つ,抗原に特異的に結合する性質を有するものは何れも,本発明でいう「抗体」に含まれる。即ち,本発明において免疫グロブリン軽鎖というときは,免疫グロブリン軽鎖に由来し,その可変領域の全て又は一部のアミノ酸配列を有するものが含まれる。また,免疫グロブリン重鎖というときは,免疫グロブリン重鎖に由来し,その可変領域の全て又は一部のアミノ酸配列を有するものが含まれる。従って,可変領域の全て又は一部のアミノ酸配列を有する限り,例えば,Fc領域が欠失したものも,免疫グロブリン重鎖である。
【0021】
また,ここでFc又はFc領域とは,抗体分子中の,C2領域(重鎖の定常領域の部分2),及びCH3領域(重鎖の定常領域の部分3)からなる断片を含む領域のことをいう。
【0022】
更には,本発明において,「抗体」というときは,
(5)上記(4)で示したFab,F(ab’)又はF(ab’)を構成する軽鎖と重鎖を,リンカー配列を介して結合させて,それぞれ一本鎖抗体としたscFab,scF(ab’),及びscF(ab’)も含まれる。ここで,scFab,scF(ab’),及びscF(ab’)にあっては,軽鎖のC末端側にリンカー配列を,そして更にそのC末端側に重鎖を結合させてなるものでもよく,また,重鎖のC末端側にリンカー配列を,そして更にそのC末端側に軽鎖を結合させてなるものでもよい。更には,軽鎖の可変領域と重鎖の可変領域をリンカー配列を介して結合させて一本鎖抗体としたscFvも,本発明における抗体に含まれる。scFvにあっては,軽鎖の可変領域のC末端側にリンカー配列を,そして更にそのC末端側に重鎖の可変領域を結合させてなるものでもよく,また,重鎖の可変領域のC末端側にリンカー配列を,そして更にそのC末端側に軽鎖の可変領域を結合させてなるものでもよい。
【0023】
更には,本明細書でいう「抗体」には,完全長抗体,上記(1)~(5)に示されるものに加えて,上記(4)及び(5)を含むより広い概念である,完全長抗体の一部が欠損したものである抗原結合性断片(抗体フラグメント)のいずれの形態も含まれる。
【0024】
「抗原結合性断片」の語は,抗原との特異的結合活性の少なくとも一部を保持している抗体の断片のことをいう。結合性断片の例としては,例えば上記(4)及び(5)に示されるものに加えて,Fab,Fab’,F(ab’),可変領域(Fv),重鎖の可変領域(V)と軽鎖の可変領域(V)とを適当なリンカーで連結させた一本鎖抗体(scFv),重鎖の可変領域(V)と軽鎖の可変領域(V)を含むポリペプチドの二量体であるダイアボディ,scFvの重鎖(H鎖)に定常領域の一部(C3)が結合したものの二量体であるミニボディ,その他の低分子化抗体等を包含する。但し,抗原との結合能を有している限りこれらの分子に限定されない。また,これらの結合性断片には,抗体蛋白質の全長分子を適当な酵素で処理したもののみならず,遺伝子工学的に改変された抗体遺伝子を用いて適当な宿主細胞において産生された蛋白質も含まれる。
【0025】
本発明において,「一本鎖抗体」というときは,免疫グロブリン軽鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列のC末端側にリンカー配列が結合し,更にそのC末端側に免疫グロブリン重鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列が結合してなり,特定の抗原に特異的に結合することのできる蛋白質をいう。また,免疫グロブリン重鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列のC末端側にリンカー配列が結合し,更にそのC末端側に免疫グロブリン軽鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列が結合してなり,特定の抗原に特異的に結合することのできる蛋白質も,本発明における「一本鎖抗体」である。例えば,上記(2)及び(3)に示されるものは一本鎖抗体に含まれる。免疫グロブリン重鎖のC末端側にリンカー配列を介して免疫グロブリン軽鎖が結合した一本鎖抗体にあっては,通常,免疫グロブリン重鎖は,Fc領域が欠失している。免疫グロブリン軽鎖の可変領域は,抗体の抗原特異性に関与する相補性決定領域(CDR)を3つ有している。同様に,免疫グロブリン重鎖の可変領域も,CDRを3つ有している。これらのCDRは,抗体の抗原特異性を決定する主たる領域である。従って,一本鎖抗体には,免疫グロブリン重鎖の3つのCDRが全てと,免疫グロブリン軽鎖の3つのCDRの全てとが含まれることが好ましい。但し,抗体の抗原特異的な親和性が維持される限り,CDRの1個又は複数個を欠失させた一本鎖抗体とすることもできる。
【0026】
一本鎖抗体において,免疫グロブリンの軽鎖と重鎖の間に配置されるリンカー配列は,好ましくは2~50個,より好ましくは8~50個,更に好ましくは10~30個,更により好ましくは12~18個又は15~25個,例えば15個若しくは25個のアミノ酸残基から構成されるペプチド鎖である。そのようなリンカー配列は,これにより両鎖が連結されてなる抗hTfR抗体がhTfRに対する親和性を保持する限り,そのアミノ酸配列に限定はないが,好ましくは,グリシンのみ又はグリシンとセリンから構成されるものであり,例えば,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Gly,アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号1),アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号2),アミノ酸配列Ser-Gly-Gly-Gly-Gly-Gly(配列番号3),又はこれらのアミノ酸配列が2~10回,あるいは2~5回繰り返された配列を有するものである。例えば,免疫グロブリン重鎖の可変領域の全領域からなるアミノ酸配列のC末端側に,リンカー配列を介して免疫グロブリン軽鎖の可変領域を結合させてScFVとする場合,アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号1)の3個が連続したものに相当する計15個のアミノ酸からなるリンカー配列(配列番号4)が好適に用いられる。
【0027】
本発明において,抗体が特異的に認識する抗原としては,例えば,血管内皮細胞の表面に存在する分子(表面抗原)である。かかる表面抗原としては,トランスフェリン受容体(TfR),インスリン受容体,レプチン受容体,リポ蛋白質受容体,IGF受容体,OATP-F等の有機アニオントランスポーター,MCT-8等のモノカルボン酸トランスポーター,Fc受容体が挙げられるが,これらに限定されるものではない。抗原は,好ましくはヒト血管内皮細胞の表面に存在するこれら分子(表面抗原)である。
【0028】
上記の表面抗原の中でも,トランスフェリン受容体(TfR),インスリン受容体,レプチン受容体,リポ蛋白質受容体,IGF受容体,OATP-F等の有機アニオントランスポーター,MCT-8等のモノカルボン酸トランスポーターは,血液脳関門(Blood Brain Barrier)を形成する脳毛細血管内皮細胞(脳血管内皮細胞)の表面に存在するものである。これら抗原を認識できる抗体は,抗原を介して脳毛細血管内皮細胞に結合できる。そして脳毛細血管内皮細胞に結合した抗体は,血液脳関門を通過して中枢神経系に到達することができる。従って,目的の蛋白質を,このような抗体と結合させることにより,中枢神経系にまで到達させることができる。目的の蛋白質としては,中枢神経系で薬効を発揮すべき機能を有する蛋白質が挙げられる。例えば,中枢神経障害を伴うリソソーム病患者において欠損しているか又は機能不全であるリソソーム酵素が,目的の蛋白質として挙げられる。かかるリソソーム酵素は,そのままでは中枢神経系に到達することができず,患者の中枢神経障害に対して薬効を示すことがないが,これらの抗体と結合させることにより血液脳関門を通過できるようになるので,リソソーム病患者において見られる中枢神経障害を改善することができる。
【0029】
本発明において,「ヒトトランスフェリン受容体」又は「hTfR」の語は,配列番号5に示されるアミノ酸配列を有する膜蛋白質をいう。本発明の抗hTfR抗体は,その一実施態様において,配列番号5で示されるアミノ酸配列中N末端側から89番目のシステイン残基からC末端のフェニルアラニンまでの部分(hTfRの細胞外領域)に対して特異的に結合するものであるが,これに限定されない。
【0030】
抗体の作製方法をhTfRに対する抗体を例にとって以下に説明する。hTfRに対する抗体の作製方法としては,hTfR遺伝子を組み込んだ発現ベクターを導入した細胞を用いて,組換えヒトトランスフェリン受容体(rhTfR)を作製し,このrhTfRを用いてマウス等の動物を用いて免疫して得る方法が一般的である。免疫後の動物からhTfRに対する抗体産生細胞を取り出し,これとミエローマ細胞とを癒合させることにより,hTfRに対する抗体産生能を有するハイブリドーマ細胞を作製することができる。
【0031】
また,マウス等の動物より得た免疫系細胞を体外免疫法によりrhTfRで免疫することによってもhTfRに対する抗体を産生する細胞を取得できる。体外免疫法により免疫する場合,その免疫系細胞が由来する動物種に特に限定はないが,好ましくは,マウス,ラット,ウサギ,モルモット,イヌ,ネコ,ウマ及びヒトを含む霊長類であり,より好ましくは,マウス,ラット及びヒトであり,更に好ましくはマウス及びヒトである。マウスの免疫系細胞としては,例えば,マウスの脾臓から調製した脾細胞を用いることができる。ヒトの免疫系細胞としては,ヒトの末梢血,骨髄,脾臓等から調製した細胞を用いることができる。ヒトの免疫系細胞を体外免疫法により免疫した場合,hTfRに対するヒト抗体を得ることができる。
【0032】
本発明において,抗体と結合させるべきヒトリソソーム酵素に特に限定はないが,α-L-イズロニダーゼ,イズロン酸-2-スルファターゼ,グルコセレブロシダーゼ,β-ガラクトシダーゼ,GM2活性化蛋白質,β-ヘキソサミニダーゼA,β-ヘキソサミニダーゼB,N-アセチルグルコサミン-1-フォスフォトランスフェラーゼ,α-マンノシダーゼ,β-マンノシダーゼ,ガラクトシルセラミダーゼ,サポシンC,アリールスルファターゼA,α-L-フコシダーゼ,アスパルチルグルコサミニダーゼ,α-N-アセチルガラクトサミニダーゼ,酸性スフィンゴミエリナーゼ,α-ガラクトシダーゼA,β-グルクロニダーゼ,ヘパランN-スルファターゼ,α-N-アセチルグルコサミニダーゼ,アセチルCoAα-グルコサミニドN-アセチルトランスフェラーゼ,N-アセチルグルコサミン-6-硫酸スルファターゼ,酸性セラミダーゼ,アミロ-1,6-グルコシダーゼ,シアリダーゼ,アスパルチルグルコサミニダーゼ,パルミトイル蛋白質チオエステラーゼ-1(PPT-1),トリペプチジルペプチダーゼ-1(TPP-1),ヒアルロニダーゼ-1,CLN1,CLN2,CLN3,CLN6,及びCLN8等のリソソーム酵素,が挙げられる。
【0033】
抗体が血管内皮細胞の表面に存在する分子(表面抗原)を特異的に認識するものである場合,抗体と結合させたヒトリソソーム酵素はそれぞれ,α-L-イズロニダーゼはハーラー症候群,ハーラー・シャイエ症候群,及びシャイエ症候群における中枢神経障害治療剤として,イズロン酸-2-スルファターゼはハンター症候群における中枢神経障害治療剤として,グルコセレブロシダーゼはゴーシェ病における中枢神経障害治療剤として,βガラクトシダーゼはGM1-ガングリオシドーシス1~3型における中枢神経障害治療剤として,GM2活性化蛋白質はGM2-ガングリオシドーシスAB異型における中枢神経障害治療剤として,β-ヘキソサミニダーゼAはサンドホフ病及びティサックス病における中枢神経障害治療剤として,β-ヘキソサミニダーゼBはサンドホフ病における中枢神経障害治療剤として,N-アセチルグルコサミン-1-フォスフォトランスフェラーゼはI-細胞病における中枢神経障害治療剤として,α-マンノシダーゼはα-マンノシドーシスにおける中枢神経障害治療剤として,β-マンノシダーゼはβ-マンノシドーシスにおける中枢神経障害治療剤として,ガラクトシルセラミダーゼはクラッベ病における中枢神経障害治療剤として,サポシンCはゴーシェ病様蓄積症における中枢神経障害治療剤として,アリールスルファターゼAは異染性白質変性症(異染性白質ジストロフィー)における中枢神経障害治療剤として,α-L-フコシダーゼはフコシドーシスにおける中枢神経障害治療剤として,アスパルチルグルコサミニダーゼはアスパルチルグルコサミン尿症における中枢神経障害治療剤として,α-N-アセチルガラクトサミニダーゼはシンドラー病及び川崎病における中枢神経障害治療剤として,酸性スフィンゴミエリナーゼはニーマン・ピック病における中枢神経障害治療剤として,α-ガラクトシダーゼAはファブリー病における中枢神経障害治療剤として,β-グルクロニダーゼはスライ症候群における中枢神経障害治療剤として,ヘパランN-スルファターゼ,α-N-アセチルグルコサミニダーゼ,アセチルCoAα-グルコサミニドN-アセチルトランスフェラーゼ及びN-アセチルグルコサミン-6-硫酸スルファターゼはサンフィリッポ症候群における中枢神経障害治療剤として,酸性セラミダーゼはファーバー病における中枢神経障害治療剤として,アミロ-1,6-グルコシダーゼはコリ病(フォーブス・コリ病)における中枢神経障害治療剤として,シアリダーゼはシアリダーゼ欠損症における中枢神経障害治療剤として,アスパルチルグルコサミニダーゼはアスパルチルグルコサミン尿症における中枢神経障害治療剤として,パルミトイル蛋白質チオエステラーゼ-1(PPT-1)は,神経セロイドリポフスチン症又はSantavuori-Haltia病における中枢神経障害治療剤として,トリペプチジルペプチダーゼ-1(TPP-1)は,神経セロイドリポフスチン症又はJansky-Bielschowsky病における中枢神経障害治療剤として,ヒアルロニダーゼ-1はヒアルロニダーゼ欠損症における中枢神経障害治療剤として,CLN1,CLN2,CLN3,CLN6,及びCLN8はバッテン病における中枢神経障害治療剤として使用できる。
【0034】
抗体が血管内皮細胞の表面に存在する分子(表面抗原)を特異的に認識するものである場合に,抗体と結合させるべきリソソーム酵素として好適なものとして,ヒトα-L-イズロニダーゼ(hIDUA)を挙げることができる。hIDUAは,ヘパラン硫酸やデルマタン硫酸のようなグリコサミノグリカン(GAG)分子内に存在するイズロン酸結合を加水分解する活性を有するライソソーム酵素の一種である。ムコ多糖症I型はこの酵素をコードする遺伝子の変異による遺伝子疾患である。ムコ多糖症I型はハーラー症候群,ハーラー・シャイエ症候群,及びシャイエ症候群に分類され,ハーラー症候群は重症型,ハーラー・シャイエ症候群は中間型,シャイエ症候群は軽症型である。これらの患者では,ヘパラン硫酸,デルマタン硫酸が組織内に蓄積する結果,角膜混濁,精神発達遅滞等の諸症状を示す。但し,軽症型の場合は精神発達遅延は観察されないこともある。当該抗体とhIDUAとの融合蛋白質は,BBBを通過することにより脳組織内に蓄積したGAGを分解することができるので,精神発達遅滞を示すハーラー症候群の患者に投与することにより,中枢神経障害治療剤として使用することができる。
【0035】
本発明において,「ヒトα-L-イズロニダーゼ」又は「hIDUA」の語は,特に野生型のhIDUAと同一のアミノ酸配列を有するhIDUAのことをいう。野生型のhIDUAは,配列番号6で示される628個のアミノ酸から構成されるアミノ酸配列を有する。配列番号7で示される626個のアミノ酸から構成されるアミノ酸配列を有するhIDUAのバリアントもhIDUAである。但し,これらに限らず,IDUA活性を有するものである限り,野生型のhIDUAのアミノ酸配列に置換,欠失,付加等の変異を加えたものもhIDUAに含まれる。hIDUAのアミノ酸配列のアミノ酸を他のアミノ酸へ置換させる場合,置換させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。hIDUAのアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。hIDUAにアミノ酸を付加させる場合,hIDUAのアミノ酸配列中又はN末端側若しくはC末端側に,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個,更により好ましくは1~2個のアミノ酸が付加される。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。変異を加えたhIDUAのアミノ酸配列は,元のhIDUAのアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の同一性を有し,より好ましくは85%以上の同一性を示し,更に好ましくは90%以上の同一性を示し,更により好ましくは95%以上の同一性を示し,更により好ましくは99%以上の同一性を示す。
【0036】
なお本発明において,元の蛋白質(抗体を含む)のアミノ酸配列と変異を加えた蛋白質のアミノ酸配列との同一性は,周知の同一性計算アルゴリズムを用いて容易に算出することができる。例えば,そのようなアルゴリズムとして,BLAST(Altschul SF. J Mol .Biol. 215. 403-10, (1990)),Pearson及びLipmanの類似性検索法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 85. 2444 (1988)),Smith及びWatermanの局所同一性アルゴリズム(Adv. Appl. Math. 2. 482-9(1981))等がある。
【0037】
また,元の蛋白質(抗体を含む)のアミノ酸配列中のアミノ酸の他のアミノ酸への置換は,例えば,アミノ酸のそれらの側鎖及び化学的性質で関連性のあるアミノ酸ファミリー内で起こるものである。かかるアミノ酸ファミリーとしては,以下のものがある:
(1)酸性アミノ酸であるアスパラギン酸とグルタミン酸,
(2)塩基性アミノ酸であるヒスチジン,リシン,及びアルギニン,
(3)芳香族アミン酸であるフェニルアラニン,チロシン,トリプトファン,
(4)ヒドロキシアミノ酸であるセリンとトレオニン,
(5)疎水性アミノ酸であるメチオニン,アラニン,バリン,ロイシン,及びイソロイシン,
(6)中性の親水性アミノ酸であるシステイン,セリン,トレオニン,アスパラギン,及びグルタミン,
(7)ペプチド鎖の配向に影響するアミノ酸であるグリシンとプロリン,
(8)アミド型アミノ酸であるアスパラギンとグルタミン,
(9)脂肪族アミノ酸である,アラニン,ロイシン,イソロイシン,及びバリン,
(10)側鎖の小さいアミノ酸であるアラニン,グリシン,セリン,及びトレオニン,
(11)側鎖の特に小さいアミノ酸であるアラニンとグリシン,
(12)分岐鎖を有するアミノ酸であるバリン,ロイシン,及びイソロイシン。
【0038】
本発明において,hIDUAがIDUA活性を有するというときは,hIDUAを抗体と融合させて融合蛋白質としたときに,天然型のhIDUAが本来有する活性に対して,3%以上の活性を有していることをいう。但し,その活性は,天然型のhIDUAが本来有する活性に対して,10%以上であることが好ましく,20%以上であることがより好ましく,50%以上であることが更に好ましく,80%以上であることが更により好ましい。抗体と融合させたhIDUAが変異を加えたものである場合も同様である。抗体は,例えば抗hTfR抗体である。
【0039】
本発明において「融合蛋白質」というときは,抗体とヒトリソソーム酵素とを,非ペプチドリンカー若しくはペプチドリンカーを介して,又は直接に結合させた物質のことをいう。抗体とヒトリソソーム酵素とを結合させる方法は,以下に詳述する。
【0040】
抗体とヒトリソソーム酵素とを結合させる方法としては,非ペプチドリンカー又はペプチドリンカーを介して結合させる方法がある。非ペプチドリンカーとしては,ポリエチレングリコール,ポリプロピレングリコール,エチレングリコールとプロピレングリコールとの共重合体,ポリオキシエチル化ポリオール,ポリビニルアルコール,多糖類,デキストラン,ポリビニルエーテル,生分解性高分子,脂質重合体,キチン類,及びヒアルロン酸,又はこれらの誘導体,若しくはこれらを組み合わせたものを用いることができる。ペプチドリンカーは,ペプチド結合した1~50個のアミノ酸から構成されるペプチド鎖若しくはその誘導体であって,そのN末端とC末端が,それぞれ抗体又はヒトリソソーム酵素のいずれかと共有結合を形成することにより,抗体とヒトリソソーム酵素とを結合させるものである。
【0041】
非ペプチドリンカーとしてビオチン-ストレプトアビジンを用いる場合,抗体がビオチンを結合させたものであり,ヒトリソソーム酵素がストレプトアビジンを結合させたものであり,このビオチンとストレプトアビジンとの結合を介して,抗体とヒトリソソーム酵素とを結合させてもよく,逆に,抗体がストレプトアビジンを結合させたものであり,ヒトリソソーム酵素がビオチンを結合させたものであり,このビオチンとストレプトアビジンとの結合を介して,抗体とヒトリソソーム酵素とを結合させてもよい。
【0042】
非ペプチドリンカーとしてPEGを用いて本発明の抗体とヒトリソソーム酵素とを結合させたものは,特に,抗体-PEG-ヒトリソソーム酵素という。抗体-PEG-ヒトリソソーム酵素は,抗体とPEGとを結合させて抗体-PEGを作製し,次いで抗体-PEGとヒトリソソーム酵素とを結合させることにより製造することができる。又は,抗体-PEG-ヒトリソソーム酵素は,ヒトリソソーム酵素とPEGとを結合させてヒトリソソーム酵素-PEGを作製し,次いでヒトリソソーム酵素-PEGと抗体とを結合させることによっても製造することができる。PEGを抗体及びヒトリソソーム酵素と結合させる際には,カーボネート,カルボニルイミダゾール,カルボン酸の活性エステル,アズラクトン,環状イミドチオン,イソシアネート,イソチオシアネート,イミデート,又はアルデヒド等の官能基で修飾されたPEGが用いられる。これらPEGに導入された官能基が,主に抗体及びヒトリソソーム酵素分子内のアミノ基と反応することにより,PEGと抗体及びヒトリソソーム酵素が共有結合する。このとき用いられるPEGの分子量及び形状に特に限定はないが,その平均分子量(MW)は,好ましくはMW=300~60000であり,より好ましくはMW=500~20000である。例えば,平均分子量が約300,約500,約1000,約2000,約4000,約10000,約20000等であるPEGは,非ペプチドリンカーとして好適に使用することができる。
【0043】
例えば,抗体-PEGは,抗体とアルデヒド基を官能基として有するポリエチレングリコール(ALD-PEG-ALD)とを,該抗体に対するALD-PEG-ALDのモル比が11,12.5,15,110,120等になるように混合し,これにNaCNBH等の還元剤を添加して反応させることにより得られる。次いで,抗体-PEGを,NaCNBH等の還元剤の存在下で,ヒトリソソーム酵素と反応させることにより,抗体-PEG-ヒトリソソーム酵素が得られる。逆に,先にヒトリソソーム酵素とALD-PEG-ALDとを結合させてヒトリソソーム酵素-PEGを作製し,次いでヒトリソソーム酵素-PEGと抗体を結合させることによっても,抗体-PEG-ヒトリソソーム酵素を得ることができる。
【0044】
抗体とヒトリソソーム酵素とは,抗体の重鎖又は軽鎖のC末端側又はN末端側に,リンカー配列を介して又は直接に,それぞれヒトリソソーム酵素のN末端又はC末端をペプチド結合により結合させることもできる。このように抗体とヒトリソソーム酵素とを結合させてなる融合蛋白質は,抗体の重鎖又は軽鎖をコードするcDNAの3’末端側又は5’末端側に,直接又はリンカー配列をコードするDNA断片を挟んで,ヒトリソソーム酵素をコードするcDNAがインフレームで配置されたDNA断片を,哺乳動物細胞,酵母等の真核生物用の発現ベクターに組み込み,この発現ベクターを導入した哺乳動物細胞を培養することにより,得ることができる。この哺乳動物細胞には,ヒトリソソーム酵素をコードするDNA断片を重鎖と結合させる場合にあっては,抗体の軽鎖をコードするcDNA断片を組み込んだ哺乳動物細胞用の発現ベクターも,同じホスト細胞に導入され,また,ヒトリソソーム酵素をコードするDNA断片を軽鎖と結合させる場合にあっては,抗体の重鎖をコードするcDNA断片を組み込んだ哺乳動物細胞用の発現ベクターも,同じホスト細胞に導入される。抗体が一本鎖抗体である場合,抗体とヒトリソソーム酵素とを結合させた融合蛋白質は,ヒトリソソーム酵素をコードするcDNAの5’末端側又は3’末端側に,直接,又はリンカー配列をコードするDNA断片を挟んで,1本鎖抗体をコードするcDNAを連結したDNA断片を,哺乳動物細胞,酵母等の真核生物用の発現ベクターに組み込み,この発現ベクターを導入したこれらの細胞中で発現させることにより,得ることができる。
【0045】
抗体の軽鎖のC末端側にヒトリソソーム酵素を結合させたタイプの融合蛋白質は,抗体が,軽鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列と,重鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列とを含むものであり,ヒトリソソーム酵素が,この抗体の軽鎖のC末端側に結合したものである。ここで抗体の軽鎖とヒトリソソーム酵素とは,直接結合してもよく,リンカーを介して結合してもよい。
【0046】
抗体の重鎖のC末端側にヒトリソソーム酵素を結合させたタイプの融合蛋白質は,抗体が,軽鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列と,重鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列とを含むものであり,ヒトリソソーム酵素が,この抗体の重鎖のC末端側に結合したものである。ここで抗体の重鎖とヒトリソソーム酵素とは,直接結合してもよく,リンカーを介して結合してもよい。
【0047】
抗体の軽鎖のN末端側にヒトリソソーム酵素を結合させたタイプの融合蛋白質は,抗体が,軽鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列と,重鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列とを含むものであり,ヒトリソソーム酵素が,この抗体の軽鎖のN末端側に結合したものである。ここで抗体の軽鎖とヒトリソソーム酵素とは,直接結合してもよく,リンカーを介して結合してもよい。
【0048】
抗体の重鎖のN末端側にヒトリソソーム酵素を結合させたタイプの融合蛋白質は,抗体が,軽鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列と,重鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列とを含むものであり,ヒトリソソーム酵素が,この抗体の重鎖のN末端側に結合したものである。ここで抗体の重鎖とヒトリソソーム酵素とは,直接結合してもよく,リンカーを介して結合してもよい。
【0049】
このとき抗体とヒトリソソーム酵素との間にリンカー配列を配置する場合,その配列は,好ましくは1~50個,より好ましくは1~17個,更に好ましくは1~10個,更により好ましくは1~5個のアミノ酸から構成されるものであるが,抗体に結合させるべきヒトリソソーム酵素によって,リンカー配列を構成するアミノ酸の個数は,1個,2個,3個,1~17個,1~10個,10~40個,20~34個,23~31個,25~29個等と適宜調整できる。そのようなリンカー配列は,これにより連結された抗体がhTfRとの親和性を保持し,且つ当該リンカー配列により連結されたヒトリソソーム酵素が,生理的条件下で当該蛋白質の生理活性を発揮できる限り,そのアミノ酸配列に限定はないが,好ましくは,グリシンとセリンから構成されるものであり,例えば,グリシン又はセリンのいずれか1個のアミノ酸からなるもの,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号1),アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号2),アミノ酸配列Ser-Gly-Gly-Gly-Gly-Gly(配列番号3),又はこれらのアミノ酸配列が1~10個,あるいは2~5個連続してなる1~50個のアミノ酸からなる配列,2~17個,2~10個,10~40個,20~34個,23~31個,25~29個のアミノ酸からなる配列等を有するものである。例えば,アミノ酸配列Gly-Serからなるもの,アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号1)が3個連続してなる15個のアミノ酸からなる配列(配列番号4)を有するものはリンカー配列として好適に用いることができる。抗体が1本鎖抗体であっても同様である。
【0050】
なお,本発明において,1つのペプチド鎖に複数のリンカー配列が含まれる場合,便宜上,各リンカー配列はN末端側から順に,第1のリンカー配列,第2のリンカー配列というように命名する。
【0051】
抗体が抗ヒトトランスフェリン受容体抗体である場合の,抗体の好ましい一実施形態として,
軽鎖の可変領域において:
(a)CDR1が配列番号8又は9で示されるアミノ酸配列を含んでなり,
(b)CDR2が配列番号10又は11で示されるアミノ酸配列を含んでなり,且つ
(c)CDR3が配列番号12で示されるアミノ酸配列を含んでなるものであり;
重鎖の可変領域において:
(d)CDR1が配列番号13又は14で示されるアミノ酸配列を含んでなり,
(e)CDR2が配列番号15又は16で示されるアミノ酸配列を含んでなり,且つ
(f)CDR3が配列番号17又は18で示されるアミノ酸配列を含んでなるものである,抗体が例示できる。ここで抗体は好ましくはヒト抗体又はヒト化抗体である。
【0052】
上記の(a)~(f)に示される各CDRのアミノ酸配列の組み合わせは,何れの組み合わせであってもよく,例えば,表1で示されるものが挙げられる。
【0053】
【表1】
【0054】
抗体が抗ヒトトランスフェリン受容体抗体である場合の,抗体の更なる好ましい一実施形態として,
(x)軽鎖の可変領域が配列番号20で示されるアミノ酸配列を有するものであり,重鎖の可変領域が配列番号21で示されるアミノ酸配列を含んでなるものである,抗体が例示できる。ここで抗体は好ましくはヒト抗体又はヒト化抗体である。
ここで,配列番号20で示される軽鎖の可変領域のアミノ酸配列は,CDR1として配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列を含み,CDR2として配列番号10及び配列番号11で示されるアミノ酸配列を含み,CDR3として配列番号12で示されるアミノ酸配列を含む。また,配列番号21で示される重鎖の可変領域のアミノ酸配列は,CDR1として配列番号13及び配列番号14で示されるアミノ酸配列を含み,CDR2として配列番号15及び配列番号16で示されるアミノ酸配列を含み,CDR3として配列番号17及び配列番号18で示されるアミノ酸配列を含む。更に,重鎖フレームワーク領域3として配列番号19で示されるアミノ酸配列を含む。
【0055】
但し,抗体がヒト化抗体であり且つ抗ヒトトランスフェリン受容体抗体である場合の,抗体の好ましい実施形態は,上記の(x)に限られるものではない。例えば,軽鎖の可変領域のアミノ酸配列が,上記の(x)における軽鎖の可変領域のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するものであり,重鎖の可変領域のアミノ酸配列が,上記の(x)における重鎖の可変領域のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するものである抗体も,hTfRに対して親和性を有する限り,本発明において用いることができる。
【0056】
更には,軽鎖の可変領域のアミノ酸配列が,上記の(x)における軽鎖の可変領域のアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するものであり,重鎖の可変領域のアミノ酸配列が,上記の(x)における重鎖の可変領域のアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するものである抗体,
軽鎖の可変領域のアミノ酸配列が,上記の(x)における軽鎖の可変領域のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するものであり,重鎖の可変領域のアミノ酸配列が,上記の(x)における重鎖の可変領域のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するものである抗体,及び
軽鎖の可変領域のアミノ酸配列が,上記の(x)における軽鎖の可変領域のアミノ酸配列と95%以上の同一性を有するものであり,重鎖の可変領域のアミノ酸配列が,上記の(x)における重鎖の可変領域のアミノ酸配列と95%以上の同一性を有するものである抗体も,hTfRに対して親和性を有する限り,本発明において用いることができる。
【0057】
軽鎖の可変領域のアミノ酸配列が,上記の(x)における軽鎖の可変領域のアミノ酸配列と同一性を有するものであり,重鎖の可変領域のアミノ酸配列が,上記の(x)における重鎖の可変領域のアミノ酸配列と同一性を有するものである抗体として,
(x-a)軽鎖の可変領域が配列番号20で示されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み,かつCDR1として配列番号8又は9のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号10又は11のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号12のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなり,重鎖の可変領域が,配列番号21で示されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み,かつCDR1として配列番号13又は14のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号15又は16のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号17又は18のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなるもの,
(x-b)軽鎖の可変領域が配列番号20で示されるアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み,かつCDR1として配列番号8又は9のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号10又は11のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号12のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなり,重鎖の可変領域が,配列番号21で示されるアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み,かつCDR1として配列番号13又は14のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号15又は16のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号17又は18のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなるもの,
(x-c)軽鎖の可変領域が配列番号20で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み,かつCDR1として配列番号8又は9のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号10又は11のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号12のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなり,重鎖の可変領域が,配列番号21で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み,かつCDR1として配列番号13又は14のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号15又は16のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号17又は18のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなるもの,
(x-d)軽鎖の可変領域が配列番号20で示されるアミノ酸配列と95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み,かつCDR1として配列番号8又は9のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号10又は11のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号12のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなり,重鎖の可変領域が,配列番号21で示されるアミノ酸配列と95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み,かつCDR1として配列番号13又は14のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号15又は16のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号17又は18のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなるもの,
が挙げられる。
【0058】
更に,抗体が且つ抗ヒトトランスフェリン受容体抗体である場合の,抗体の好ましい実施形態として,
上記の(x)における軽鎖の可変領域のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中1~5個のアミノ酸が置換,欠失又は付加したものであり,上記の(x)における重鎖の可変領域のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中1~5個のアミノ酸が置換,欠失又は付加したものであるもの,
上記の(x)における軽鎖の可変領域のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中1~3個のアミノ酸が置換,欠失又は付加したものであり,上記の(x)における重鎖の可変領域のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中1~3個のアミノ酸が置換,欠失又は付加したものであるもの,及び
上記の(x)における軽鎖の可変領域のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中1又は2個のアミノ酸が置換,欠失又は付加したものであり,上記の(x)における重鎖の可変領域のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中1又は2個のアミノ酸が置換,欠失又は付加したものであるものも,hTfRに対して親和性を有する限り,本発明において用いることができる。ここで抗体は好ましくはヒト抗体又はヒト化抗体である。
【0059】
抗体の軽鎖の可変領域のアミノ酸配列が,上記の(x)における軽鎖の可変領域のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中のアミノ酸が置換,欠失又は付加したものであり,上記の(x)における重鎖の可変領域のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中のアミノ酸が置換,欠失又は付加したものである抗体として,
(x-e)
軽鎖の可変領域のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中1~5個のアミノ酸が置換,欠失又は付加したものであり,且つCDR1として配列番号8又は9のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号10又は11のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号12のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなり,重鎖の可変領域のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中1~5個のアミノ酸が置換,欠失又は付加したものであり,かつCDR1として配列番号13又は14のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号15又は16のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号17又は18のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなるもの,
(x-f)
軽鎖の可変領域のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中1~3個のアミノ酸が置換,欠失又は付加したものであり,且つCDR1として配列番号8又は9のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号10又は11のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号12のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなり,重鎖の可変領域のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中1~3個のアミノ酸が置換,欠失又は付加したものであり,かつCDR1として配列番号13又は14のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号15又は16のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号17又は18のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなるもの,
(x-g)
軽鎖の可変領域のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中1又は2個のアミノ酸が置換,欠失又は付加したものであり,且つCDR1として配列番号8又は9のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号10又は11のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号12のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなり,重鎖の可変領域のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中1又は2個のアミノ酸が置換,欠失又は付加したものであり,かつCDR1として配列番号13又は14のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号15又は16のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号17又は18のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなるもの,
が挙げられる。
【0060】
上記の(x-a)~(x-g)において,各CDRのアミノ酸配列の組み合わせは,何れの組み合わせであってもよく,例えば,表2で示されるものが挙げられる。下記の(y-a)~(y-g)においても同様である。
【0061】
【表2】
【0062】
本発明において,抗体がヒト化抗体であり且つ抗ヒトトランスフェリン受容体抗体であるFabである場合の,好ましい一実施形態として,
(y)軽鎖が配列番号22で示されるアミノ酸配列を含むものであり,重鎖が配列番号23で示されるアミノ酸配列を含んでなるものであるFabである抗体が例示できる。ここで,軽鎖は可変領域として配列番号20で示されるアミノ酸配列を含み,重鎖は可変領域として配列番号21で示されるアミノ酸配列を含む。本発明において,Fabを構成する重鎖のことをFab重鎖という。すなわち,配列番号23で示されるアミノ酸配列からなる重鎖はFab重鎖である。
【0063】
抗体がヒト化抗体であり且つ抗ヒトトランスフェリン受容体抗体である場合の,抗体の好ましい実施形態は,上記の(y)に限られるものではない。例えば,軽鎖のアミノ酸配列が,上記の(y)における軽鎖のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するものであり,重鎖のアミノ酸配列が,上記の(y)における重鎖のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するものである抗体も,hTfRに対して親和性を有する限り,本発明において用いることができる。
【0064】
更には,軽鎖のアミノ酸配列が,上記の(y)における軽鎖のアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するものであり,重鎖のアミノ酸配列が,上記の(y)における重鎖のアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するものである抗体,
軽鎖のアミノ酸配列が,上記の(y)における軽鎖のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するものであり,重鎖のアミノ酸配列が,上記の(y)における重鎖のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するものである抗体,及び
軽鎖のアミノ酸配列が,上記の(y)における軽鎖のアミノ酸配列と95%以上の同一性を有するものであり,重鎖のアミノ酸配列が,上記の(y)における重鎖のアミノ酸配列と95%以上の同一性を有するものである抗体も,hTfRに対して親和性を有する限り,本発明において用いることができる。
【0065】
軽鎖のアミノ酸配列が,上記の(y)における軽鎖のアミノ酸配列と同一性を有するものであり,重鎖のアミノ酸配列が,上記の(y)における重鎖のアミノ酸配列と同一性を有するものである抗体として,
(y-a)軽鎖が配列番号22で示されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み,かつCDR1として配列番号8又は9のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号10又は11のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号12のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなり,重鎖が配列番号23で示されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み,かつCDR1として配列番号13又は14のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号15又は16のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号17又は18のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなるもの,
(y-b)軽鎖が配列番号22で示されるアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み,かつCDR1として配列番号8又は9のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号10又は11のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号12のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなり,重鎖が配列番号23で示されるアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み,かつCDR1として配列番号13又は14のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号15又は16のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号17又は18のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなるもの,
(y-c)軽鎖が配列番号22で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み,かつCDR1として配列番号8又は9のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号10又は11のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号12のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなり,重鎖が配列番号23で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み,かつCDR1として配列番号13又は14のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号15又は16のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号17又は18のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなるもの,
(y-d)軽鎖が配列番号22で示されるアミノ酸配列と95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み,かつCDR1として配列番号8又は9のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号10又は11のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号12のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなり,重鎖が配列番号23で示されるアミノ酸配列と95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み,かつCDR1として配列番号13又は14のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号15又は16のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号17又は18のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなるもの,が挙げられる。
【0066】
更に,抗体がヒト化抗体であり且つ抗ヒトトランスフェリン受容体抗体であるFabである場合の,抗体の好ましい実施形態として,抗体のアミノ酸配列が,
上記の(y)における軽鎖のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中1~5個のアミノ酸が置換,欠失又は付加したものであり,上記の(y)における重鎖のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中1~5個のアミノ酸が置換,欠失又は付加したもの,
上記の(y)における軽鎖のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中1~3個のアミノ酸が置換,欠失又は付加したものであり,上記の(y)における重鎖のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中1~3個のアミノ酸が置換,欠失又は付加したもの,及び,
上記の(y)における軽鎖のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中1又は2個のアミノ酸が置換,欠失又は付加したものであり,上記の(y)における重鎖のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中1又は2個のアミノ酸が置換,欠失又は付加したものであるものも,hTfRに対して親和性を有する限り,本発明において用いることができる。
【0067】
軽鎖のアミノ酸配列が,上記の(y)における軽鎖のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中のアミノ酸が置換,欠失又は付加したものであり,上記の(y)における重鎖のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中のアミノ酸が置換,欠失又は付加したものである抗体として,
(y-e)
軽鎖のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中1~5個のアミノ酸が置換,欠失又は付加したものであり,且つCDR1として配列番号8又は9のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号10又は11のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号12のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなり,重鎖のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中1~5個のアミノ酸が置換,欠失又は付加したものであり,かつCDR1として配列番号13又は14のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号15又は16のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号17又は18のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなるもの,
(y-f)
軽鎖のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中1~3個のアミノ酸が置換,欠失又は付加したものであり,且つCDR1として配列番号8又は9のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号10又は11のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号12のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなり,重鎖のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中1~3個のアミノ酸が置換,欠失又は付加したものであり,かつCDR1として配列番号13又は14のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号15又は16のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号17又は18のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなるもの,
(y-g)
軽鎖のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中1又は2個のアミノ酸が置換,欠失又は付加したものであり,且つCDR1として配列番号8又は9のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号10又は11のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号12のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなり,重鎖のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中1又は2個のアミノ酸が置換,欠失又は付加したものであり,かつCDR1として配列番号13又は14のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号15又は16のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号17又は18のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなるもの,
が挙げられる。
【0068】
抗体がヒト化抗ヒトトランスフェリン受容体抗体であり,ヒトリソソーム酵素がヒトα-L-イズロニダーゼ(hIDUA)である場合の,融合蛋白質の好ましい形態として,以下のものが挙げられる。すなわち,
配列番号22で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体の軽鎖と,配列番号23で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体のFab重鎖のC末端側に,配列番号6で示されるヒトα-L-イズロニダーゼが,配列番号4で示されるリンカー配列を介して結合したものとからなる,融合蛋白質。
【0069】
また,抗体がヒト化抗ヒトトランスフェリン受容体抗体であり,ヒトリソソーム酵素がヒトα-L-イズロニダーゼ(hIDUA)である場合の,融合蛋白質の好ましい形態として,以下のものが挙げられる。すなわち,
該ヒト化抗hTfR抗体の軽鎖が,配列番号22で示されるアミノ酸配列を有するものであり,
該ヒト化抗hTfR抗体のFab重鎖が,そのC末端側で,配列番号4で示されるアミノ酸配列を有するリンカーを介して,配列番号6で示されるヒトα-L-イズロニダーゼと結合しており,全体として配列番号27で示されるアミノ酸配列を有するものである,融合蛋白質。
【0070】
本発明において,抗体とヒトリソソーム酵素との融合蛋白質は,例えば,当該融合蛋白質をコードする遺伝子が発現又は強発現することによって,当該融合蛋白質を産生するように人為的な操作を加えた,哺乳動物細胞を培養することにより産生させることができる。このとき融合蛋白質を産生する哺乳動物細胞内で強発現させる該遺伝子は,該遺伝子が組み込まれた発現ベクターで形質転換させることにより該哺乳動物細胞に導入するのが一般的である。また,このとき用いられる哺乳動物細胞について特に限定はないが,ヒト,マウス,チャイニーズハムスター由来の細胞が好ましく,特にチャイニーズハムスター卵巣細胞由来のCHO細胞が好ましい。本発明において,融合蛋白質というときは,特に,このような融合蛋白質を産生する哺乳動物細胞を培養したときに,培地中に分泌される組換え融合蛋白質のことをいう。
【0071】
抗体とヒトリソソーム酵素との融合蛋白質は,抗体とヒトリソソーム酵素とをそれぞれ産生させた後,これらを非ペプチドリンカー又はペプチドリンカーで結合させることによっても製造することができる。このとき,抗体とヒトリソソーム酵素とは,これらをコードする遺伝子が発現又は強発現することによって,これらを産生するように人為的な操作を加えた,哺乳動物細胞を培養することにより組換え蛋白質として産生させることができる。
【0072】
融合蛋白質,抗体又はヒトリソソーム酵素をコードする遺伝子を組み込んで発現させるために用いる発現ベクターは,哺乳動物細胞内に導入させたときに,該遺伝子を発現させるものであれば特に限定なく用いることができる。発現ベクターに組み込まれた該遺伝子は,哺乳動物細胞内で遺伝子の転写の頻度を調節することができるDNA配列(遺伝子発現制御部位)の下流に配置される。本発明において用いることのできる遺伝子発現制御部位としては,例えば,サイトメガロウイルス由来のプロモーター,SV40初期プロモーター,ヒト伸長因子-1アルファ(EF-1α)プロモーター,ヒトユビキチンCプロモーター等が挙げられる。
【0073】
このような発現ベクターが導入された哺乳動物細胞は,発現ベクターに組み込まれた所望の蛋白質を発現するようになるが,その発現量は個々の細胞により異なり一様ではない。従って,組換え蛋白質を効率よく生産するためには,発現ベクターが導入された哺乳動物細胞から,所望の蛋白質の発現レベルが高い細胞を選択するステップが必要となる。この選択ステップを行うために,発現ベクターには選択マーカーとして働く遺伝子が組み込まれている。
【0074】
選択マーカーとして最も一般的なものはピューロマイシン,ネオマイシン等の薬剤を分解する酵素(薬剤耐性マーカー)である。哺乳動物細胞は一定濃度以上の上記薬剤の存在下で死滅する。しかし,発現ベクターが導入された哺乳動物細胞は,発現ベクターに組み込まれた薬剤耐性マーカーにより上記薬剤を分解し,これを無毒化又は弱毒化することができるので,上記薬剤存在下でも生存可能となる。選択マーカーとして薬剤耐性マーカーが組み込まれた発現ベクターを哺乳動物細胞に導入し,その薬剤耐性マーカーに対応する薬剤を含有する選択培地中で,その薬剤の濃度を徐々に上昇させながら培養を続けると,より高濃度の薬剤存在下でも増殖可能な細胞が得られる。このようにして選択された細胞では,薬剤耐性マーカーとともに,一般に,発現ベクターに組み込まれた所望の蛋白質をコードする遺伝子の発現量も増加するので,結果として所望の蛋白質の発現レベルの高い細胞が選択される。
【0075】
また,選択マーカーとして,グルタミン合成酵素(GS)を用いることもできる。グルタミン合成酵素は,グルタミン酸とアンモニアからグルタミンを合成する酵素である。哺乳動物細胞を,グルタミン合成酵素の阻害剤,例えばメチオニンスルホキシミン(MSX)を含有し,且つグルタミンを含有しない選択培地中で培養すると,細胞は死滅する。しかし,選択マーカーとしてグルタミン合成酵素が組み込まれた発現ベクターを哺乳動物細胞に導入すると,該細胞では,グルタミン合成酵素の発現レベルが上昇するようになるので,より高濃度のMSX存在下でも増殖可能となる。このとき,MSXの濃度を徐々に上昇させながら培養を続けると,より高濃度のMSX存在下でも増殖可能な細胞が得られる。このようにして選択された細胞では,グルタミン合成酵素とともに,一般に,発現ベクターに組み込まれた所望の蛋白質をコードする遺伝子の発現量も増加するので,結果として所望の蛋白質の発現レベルの高い細胞が選択される。
【0076】
また,選択マーカーとして,ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)を用いることもできる。DHFRを選択マーカーとして用いる場合,発現ベクターを導入した哺乳動物細胞は,メトトレキセート,アミノプテリン等のDHFR阻害剤を含有する選択培地中で培養される。DHFR阻害剤の濃度を徐々に上昇させながら培養を続けると,より高濃度のDHFR阻害剤存在下でも増殖可能な細胞が得られる。このようにして選択された細胞では,DHFRとともに,一般に,発現ベクターに組み込まれた所望の蛋白質をコードする遺伝子の発現量も増加するので,結果として所望の蛋白質の発現レベルの高い細胞が選択される。
【0077】
所望の蛋白質をコードする遺伝子の下流側に内部リボソーム結合部位(IRES: internal ribosome entry site)を介して,選択マーカーとしてグルタミン合成酵素(GS)を配置させた発現ベクターが知られている(国際特許公報WO2012/063799,WO2013/161958)。これら文献に記載された発現ベクターは,本発明の製造方法に特に好適に使用することができる。
【0078】
例えば,蛋白質を発現させるための発現ベクターであって,遺伝子発現制御部位,並びに,その下流に該蛋白質をコードする遺伝子,更に下流に内部リボソーム結合部位,及び更に下流にグルタミン合成酵素をコードする遺伝子を含み,且つ,該遺伝子発現制御部位の又は該遺伝子発現制御部位とは別の遺伝子発現制御部位の下流にジヒドロ葉酸レダクターゼ遺伝子又は薬剤耐性遺伝子を更に含んでなる,発現ベクターは,本発明の製造方法に好適に使用できる。この発現ベクターにおいて,遺伝子発現制御部位又は別の遺伝子発現制御部位としては,サイトメガロウイルス由来のプロモーター,SV40初期プロモーター,ヒト伸長因子-1アルファプロモーター(hEF-1αプロモーター),ヒトユビキチンCプロモーターが好適に用いられるが,hEF-1αプロモーターが特に好適である。
【0079】
また,内部リボソーム結合部位としては,ピコルナウイルス科のウイルス,口蹄疫ウイルス,A型肝炎ウイルス,C型肝炎ウイルス,コロナウイルス,ウシ腸内ウイルス,サイラーのネズミ脳脊髄炎ウイルス,コクサッキーB型ウイルス,ヒト免疫グロブリン重鎖結合蛋白質遺伝子,ショウジョウバエアンテナペディア遺伝子,ショウジョウバエウルトラビトラックス遺伝子からなる群から選択されるウイルス又は遺伝子の5’非翻訳領域に由来するものが好適に用いられるが,マウス脳心筋炎ウイルスの5’非翻訳領域に由来する内部リボソーム結合部位が特に好適である。マウス脳心筋炎ウイルスの5’非翻訳領域に由来する内部リボソーム結合部位を用いる場合,野生型のもの以外に,野生型の内部リボソーム結合部位に含まれる複数の開始コドンのうちの一部が破壊されたものも好適に使用できる。また,この発現ベクターにおいて,好適に用いられる薬剤耐性遺伝子は,好ましくはピューロマイシン又はネオマイシン耐性遺伝子であり,より好ましくはピューロマイシン耐性遺伝子である。
【0080】
また,例えば,蛋白質を発現させるための発現ベクターであって,hEF-1αプロモーター,その下流に該蛋白質をコードする遺伝子,更に下流にマウス脳心筋炎ウイルスの5’非翻訳領域に由来する内部リボソーム結合部位,及び更に下流にグルタミン合成酵素をコードする遺伝子を含み,且つ別の遺伝子発現制御部位及びその下流にジヒドロ葉酸レダクターゼ遺伝子を更に含む発現ベクターであって,該内部リボソーム結合部位が,野生型の内部リボソーム結合部位に含まれる複数の開始コドンのうちの一部が破壊されたものである発現ベクターは,本発明の製造方法に好適に使用できる。このような発現ベクターとして,WO2013/161958に記載された発現ベクターが挙げられる。
【0081】
また,例えば,蛋白質を発現させるための発現ベクターであって,hEF-1αプロモーター,その下流に該蛋白質をコードする遺伝子,更に下流にマウス脳心筋炎ウイルスの5’非翻訳領域に由来する内部リボソーム結合部位,及び更に下流にグルタミン合成酵素をコードする遺伝子を含み,且つ別の遺伝子発現制御部位及びその下流に薬剤耐性遺伝子を更に含む発現ベクターであって,該内部リボソーム結合部位が,野生型の内部リボソーム結合部位に含まれる複数の開始コドンのうちの一部が破壊されたものである発現ベクターは,本発明の製造方法に好適に使用できる。このような発現ベクターとして,WO2012/063799に記載されたpE-mIRES-GS-puro及びWO2013/161958に記載されたpE-mIRES-GS-mNeoが挙げられる。
【0082】
本発明において,融合蛋白質,抗体又はヒトリソソーム酵素をコードする遺伝子が組み込まれた発現ベクターが導入された哺乳動物細胞は,融合蛋白質,抗体又はヒトリソソーム酵素の発現レベルの高い細胞を選択するために,選択培地中で選択培養される。
【0083】
選択培養において,DHFRを選択マーカーとして使用する場合,選択培地に含まれるDHFR阻害剤の濃度を段階的に上昇させる。その最大濃度は,DHFR阻害剤がメトトレキセートの場合,好ましくは0.25~5μMであり,より好ましくは0.5~1.5μMであり,更に好ましくは約1.0μMである。
【0084】
GSを選択マーカーとして使用する場合,選択培地に含まれるGS阻害剤の濃度を段階的に上昇させる。その最大濃度は,GS阻害剤がMSXの場合,好ましくは100~1000μMであり,より好ましくは200~500μMであり,更に好ましくは約300μMである。またこのとき,一般的にグルタミンを含有しない培地が選択培地として用いられる。
【0085】
ピューロマイシンを分解する酵素を選択マーカーとして使用する場合,選択培地に含まれるピューロマイシンの最大濃度は,好ましくは3~30μg/mLであり,より好ましくは5~20μg/mLであり,更に好ましくは約10μg/mLである。
【0086】
ネオマイシンを分解する酵素を選択マーカーとして使用する場合,選択培地に含まれるG418の最大濃度は,好ましくは0.1mg~2mg/mLであり,より好ましくは0.5~1.5mg/mLであり,更に好ましくは約1mg/mLである。
【0087】
また,哺乳動物細胞の培養のための培地としては,選択培養で用いる培地,後述する融合蛋白質,抗体又はヒトリソソーム酵素を産生させるために用いる培地(組換え蛋白質産生用培地)ともに,哺乳動物細胞を培養して増殖させることのできるものであれば,特に限定なく用いることができるが,好ましくは無血清培地が用いられる。
【0088】
選択培養により選択された融合蛋白質,抗体又はヒトリソソーム酵素の発現レベルの高い細胞は,これらの産生細胞として,これらの生産に用いられる。融合蛋白質,抗体又はヒトリソソーム酵素の生産は,これらの産生細胞を組換え蛋白質産生用培地中で培養することにより行われる。この培養を生産培養という。
【0089】
本発明において,組換え蛋白質産生用培地として用いられる無血清培地としては,例えば,アミノ酸を3~700mg/L,ビタミン類を0.001~50mg/L,単糖類を0.3~10g/L,無機塩を0.1~10000mg/L,微量元素を0.001~0.1mg/L,ヌクレオシドを0.1~50mg/L,脂肪酸を0.001~10mg/L,ビオチンを0.01~1mg/L,ヒドロコルチゾンを0.1~20μg/L,インシュリンを0.1~20mg/L,ビタミンB12を0.1~10mg/L,プトレッシンを0.01~1mg/L,ピルビン酸ナトリウムを10~500mg/L,及び水溶性鉄化合物を含有する培地が好適に用いられる。所望により,チミジン,ヒポキサンチン,慣用のpH指示薬及び抗生物質を培地に添加してもよい。
【0090】
また組換え蛋白質産生用培地として用いられる無血清培地として,DMEM/F12培地(DMEMとF12の混合培地)を基本培地として用いてもよく,これら各培地は当業者に周知である。更にまた,無血清培地として,炭酸水素ナトリウム,L-グルタミン,D-グルコース,インスリン,ナトリウムセレナイト,ジアミノブタン,ヒドロコルチゾン,硫酸鉄(II),アスパラギン,アスパラギン酸,セリン及びポリビニルアルコールを含むものである,DMEM(HG)HAM改良型(R5)培地を使用してもよい。更には市販の無血清培地,例えば,CD OptiCHOTM培地,CHO-S-SFM II培地又はCD CHO培地(Thermo Fisher Scientific社),EX-CELLTM302培地又はEX-CELLTM325-PF培地(SAFC Biosciences社)等を基本培地として使用することもできる。例えば,16μmol/L チミジン,100μmol/L ヒポキサンチン,及び4mmol/L L-アラニル-L-グルタミンを含む無血清培地であるEX-CELLTM Advanced CHO Fed-batch培地(SAFC Biosciences社)は,融合蛋白質産生細胞の培養に好適に用いることができる。また例えば,16μmol/L チミジン,100μmol/L ヒポキサンチン,及び10mg/Lインスリンを含む無血清培地であるCD OptiCHOTM培地(Thermo Fisher Scientific社)も,融合蛋白質産生細胞の培養に好適に用いることができる。
【0091】
融合蛋白質,抗体又はヒトリソソーム酵素の産生細胞の生産培養は,これら産生細胞の組換え蛋白質産生用培地中における密度を,好ましくは0.2X10~5X10個/mL,より好ましくは1X10~4X10個/mL,更に好ましくは約3X10個/mLに調整して開始される。
【0092】
生産培養は,細胞の生存率(%)を経時的に観察しながら行い,生産培養期間中の細胞の生存率が,好ましくは80%以上,より好ましくは85%以上に維持されるようにして行われる。
【0093】
また,生産培養期間中,培養温度は,好ましくは33.5~37.5℃に維持され,生産培地中の溶存酸素飽和度は,好ましくは28~32%,より好ましくは約30%に維持される。ここで,溶存酸素飽和度とは,酸素の飽和溶解量を100%としたときの,同条件下での酸素の溶解量のことをいう。
【0094】
また,生産培養期間中,生産培地はインペラ(羽根車)で撹拌される。このときのインペラの回転速度は,好ましくは50~100回転/分であり,より好ましくは60~110回転/分,例えば90回転/分,100回転/分,110回転/分等に調整されるが,インペラの形状等によりその回転速度は適宜変更される。
【0095】
生産培養における好適な培養条件の初期条件として,例えば,生産培養の開始時における産生細胞の組換え蛋白質産生用培地中における密度が3X10個/mLであり,生産培養期間中の培養温度が34~37℃であり,生産培地中の溶存酸素飽和度が30%であり,且つ培地が約100回転/分の速度で回転するインペラで撹拌されるものが挙げられる。
【0096】
生産培養の終了後に培地を回収し,回収した培地を遠心分離することにより又は膜ろ過することにより,細胞等を除去して培養上清を得ることができる。この培養上清中に含まれる目的の融合蛋白質は,各種クロマトグラフィーを用いた工程により精製される。精製プロセスは,室温又は低温環境で行うことができるが,好ましくは低温環境で行われ,特に1~10℃の温度で行われることが好ましい。
【0097】
以下,培養上清中に含まれる抗体とヒトリソソーム酵素との融合蛋白質の精製方法の一実施形態について詳述する。この実施形態は,特に抗体がFabであるヒトIgG抗体であり,ヒトリソソーム酵素がhIDUAである融合蛋白質であるときに特に好適に使用できる。例えば,ヒト化抗hTfR抗体の軽鎖が,配列番号22で示されるアミノ酸配列を有するものであり,該ヒト化抗hTfR抗体のFab重鎖が,そのC末端側で,配列番号4で示されるアミノ酸配列を有するリンカーを介して,配列番号6で示されるヒトα-L-イズロニダーゼと結合しており,全体として配列番号27で示されるアミノ酸配列を有するものである,融合蛋白質の精製方法として好適である。
【0098】
精製工程の第一ステップは,抗体に親和性を有する物質を結合させた材料を固定相として用いたカラムクロマトグラフィーである。このとき用いられる抗体に親和性を有する物質に特に限定はないが,好ましくは,Fabに親和性を有する物質であり,特にFabの重鎖のCH領域に親和性を有する物質である。当該領域に対する抗体は,抗体に親和性を有する物質として用いることができる。FabがヒトIgG抗体である場合,抗ヒトIgG-CH抗体が好適に用いられる。抗体に親和性を有する物質が抗体である場合,固定相は,担体に抗体が結合したものである。ここで担体に特に限定はないが,例えばアガロースである。培養上清を負荷することにより,培養上清中に含まれる融合蛋白質をカラムに結合させ,カラムを洗浄した後に,融合蛋白質をカラムから溶出させる。こうして夾雑物の多くを除去することができる。
【0099】
培養上清は,容量が大きいことから,精製工程に供される前に濃縮することが好ましいが,濃縮操作は必須ではない。精製工程の第一ステップにおいて,培養上清又はその濃縮液には,これをカラムに負荷する前に,アルギニンが添加される。このときアルギニンは,溶液中の濃度が好ましくは0.1M~1.0Mとなるように,より好ましくは0.25M~1.0Mとなるように,更に好ましくは0.3M~1.0Mとなるように,更により好ましくは0.3~0.5Mとなるように,例えば0.4Mとなるように添加される。また,固定相は,培養上清を負荷する前に,予めアルギニンを含む緩衝液で平衡化される。このとき用いられる緩衝液のアルギニン濃度は,好ましくは0.1M~1.0Mであり,より好ましくは0.2M~0.8Mであり,更に好ましくは0.2M~0.6Mであり,更により好ましくは0.3~0.5Mであり,例えば0.4Mである。また,このとき用いられる緩衝液に特に限定はないが,好ましくはMES緩衝液であり,そのpHは好ましくは6.0~7.0であり,より好ましくは約6.5である。
【0100】
融合蛋白質を結合させた固定相を洗浄した後,融合蛋白質を,塩を含まない酸性の緩衝液で溶出させて,融合蛋白質を含有する画分を回収する。このときに用いられる緩衝液は,好ましくはグリシン緩衝液又は酢酸緩衝液であり,そのpHは好ましくは3.2~3.8であり,より好ましくは3.5である。回収した融合蛋白質を含有する溶液のpHは,速やかに中性付近となるように調整される。
【0101】
精製工程の第二ステップは陰イオン交換カラムクロマトグラフィーである。このとき用いられる陰イオン交換体に特に限定はないが,好ましくは強陰イオン交換体であり,特に静電相互作用,疎水性相互作用及び水素結合形成に基づく選択性を持つ陰イオン交換体である。マルチモーダル陰イオン交換体は,本発明において好適に使用することができ,例えば,官能基としてN-ベンジル-N-メチルエタノールアミン基を有する強陰イオン交換体は特に好適に用いることができる。Capto adhere(GE Healthcare社)は,N-ベンジル-N-メチルエタノールアミン基を有するマルチモーダル強陰イオン交換体の一つである。
【0102】
陰イオン交換カラムクロマトグラフィーに供される前に,精製工程の第一ステップで回収した溶液には,pHが中性付近に調整されるように,緩衝液が添加される。このとき用いられる緩衝液に特に限定はないが,例えばMES緩衝液である。また,このときpHは,好ましくは5.5~6.5,より好ましくは5.7~6.3,例えば6.0に調整される。また,固定相は,予め緩衝液で平衡化される。このとき用いられる緩衝液に特に限定はないが,好ましくはMES緩衝液であり,そのpHは好ましくは5.5~6.5であり,例えば6.0である。
【0103】
上記でpHを調整した精製工程の第一ステップにおけるカラムクロマトグラフィー回収画分を,上記で予め平衡化した陰イオン交換カラムに負荷し,融合蛋白質を含む非吸着画分を回収した後,緩衝液でカラムを洗浄する。このとき得られる洗浄液も非吸着画分として回収する。カラムの洗浄に用いられる緩衝液は,好ましくはMES緩衝液であり,そのpHは好ましくは5.5~6.5であり,例えば6.0である。
【0104】
精製工程の第三ステップは陽イオン交換クロマトグラフィーである。陽イオン交換クロマトグラフィーにおいてどの陽イオン交換樹脂を用いるかについて特段の限定はないが,弱陽イオン交換体が好ましく,より好ましいのは,疎水性相互作用及び水素結合形成の双方に基づく選択性を持つ弱陽イオン交換体である。例えば,Capto MMC(GE Healthcare社)等のような,フェニル基,アミド結合及びカルボキシル基を備え疎水性相互作用及び水素結合形成の双方に基づく選択性を持つ弱陽イオン交換体を使用することができる。
【0105】
陽イオン交換クロマトグラフィーにおいて,カラムは,予め緩衝液で平衡化される。このときに用いられる緩衝液は,好ましくはMES緩衝液であり,そのpHは好ましくは6.0~7.0であり,より好ましくは約6.5である。
【0106】
精製工程の第二ステップで回収された融合蛋白質含有画分及び洗浄液を,陽イオン交換カラムに負荷し,融合蛋白質を結合させたカラムを洗浄した後,融合蛋白質を溶出させる。溶出は,塩の濃度を高めた緩衝液によって行うことができる。このときに用いられる緩衝液は,好ましくはMES緩衝液であり,そのpHは好ましくは6.0~7.0であり,より好ましくは約6.5である。緩衝液中に加える塩は,塩化ナトリウムが好ましく,塩の濃度は,好ましくは0.5~1.5Mの範囲,より好ましくは0.8~1.2Mの範囲,更に好ましくは約1Mである。
【0107】
第三ステップで得られた溶出液の融合蛋白質含有画分のpHは,好ましくは5.5~6.1,より好ましくは約5.8に調整される。
【0108】
精製工程の第四ステップは,サイズ排除カラムクロマトグラフィーである。このステップは,エンドトトキシン等の低分子の不純物,融合蛋白質の多量体,分解物等を除去するためのものであり,これにより,実質的に純粋な融合蛋白質が得られる。
【0109】
加えて,抗体に親和性を有する物質を結合させた材料を固定相として用いたカラムクロマトグラフィー,陰イオン交換カラムクロマトグラフィー,陽イオン交換カラムクロマトグラフィー,及びサイズ排除カラムクロマトグラフィーをこの順で含んでなる上述の精製方法に,更に1つ又は2つ以上のカラムクロマトグラフィーを導入してもよい。そのような追加のカラムクロマトグラフィーは,例えば,リン酸基に対する親和性を有する固相を用いたカラムクロマトグラフィー,抗体に親和性を有する物質を結合させた材料を固定相として用いたカラムクロマトグラフィー,疎水性カラムクロマトグラフィー,陰イオン交換カラムクロマトグラフィー,陽イオン交換カラムクロマトグラフィー,及び色素親和性カラムクロマトグラフィーである。好適には,ブルートリアジン色素をリガンドとする色素親和性カラムクロマトグラフィーが,精製工程の第一ステップの前に,又は精製工程の第一ステップと第二ステップの間に導入される。
【0110】
融合蛋白質の精製工程において,培養上清から持ち込まれるおそれのあるウイルスを不活化する工程を追加させることもできる。このウイルス不活化工程は,精製工程の第一ステップの前に実施してもよく,精製工程の各ステップの間に実施してもよく,精製工程の終了後に実施してもよいが,例えば,精製工程の第一ステップの前に,又は精製工程の第一ステップと第二ステップの間に実施される。
【0111】
ウイルス不活化工程は,融合蛋白質を含む溶液に非イオン性界面活性剤を添加し,20~60℃で2~6時間,撹拌することにより行われる。このとき用いられる非イオン性界面活性剤の好適なものとして,ポリソルベート20,80,及びトリn-ブチルリン酸,又はこれらの混合物を挙げることができる。
【0112】
ウイルス不活化工程は,ウイルス除去膜を用いて行うこともできる。孔径が35 nm,20 nmのウイルス除去膜に,ヒト化抗hTfR抗体-hIDUAを含む溶液を通過させることにより,溶液中に含まれるウイルスを除くことができる。
【0113】
本発明の製造方法を用いて得られる融合蛋白質の精製品は,そのまま医薬として用いることのできる純度のものである。特に融合蛋白質が,ヒト化抗hTfR抗体の軽鎖が,配列番号22で示されるアミノ酸配列を有するものであり,該ヒト化抗hTfR抗体のFab重鎖が,そのC末端側で,配列番号4で示されるアミノ酸配列を有するリンカーを介して,配列番号6で示されるヒトα-L-イズロニダーゼと結合しており,全体として配列番号27で示されるアミノ酸配列を有するものである場合(ヒト化抗hTfR抗体-hIDUA),そのまま医薬として用いることのできる純度の精製品が得られる。
【0114】
本発明の製造方法を用いて得られる融合蛋白質,特にヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの精製品に含まれる宿主細胞由来蛋白質(HCP)の濃度は,100 ppm未満であり,例えば,60 ppm未満,40 ppm未満であり,例えば1~50 ppm,1~40 ppmである。
【0115】
本発明の製造方法を用いて得られる融合蛋白質,特にヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの精製品に含まれる,融合蛋白質全体に占める重合体の比率は,0.5%未満であり,例えば,0.2%未満,0.1%未満,0.05%未満等であり,例えば,0.01~0.1%,0.001~0.1%である。
【0116】
本発明の製造方法を用いて得られる融合蛋白質,特にヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの精製品は,医薬として供給する場合,適当な賦形剤を含む水性液剤又は凍結乾燥製剤として供給することができる。水性液剤とする場合,バイアルに充填した形態としてもよく,注射器に予め充填したものであるプレフィルド型の製剤として供給することもできる。凍結乾燥製剤の場合,使用前に水性媒質に溶解して使用する。
【実施例0117】
以下,実施例を参照して本発明を更に詳細に説明するが,本発明が実施例に限定されることは意図しない。
【0118】
〔実施例1〕ヒト化抗hTfR抗体-hIDUA融合蛋白質発現用ベクターの構築
ヒト化抗hTfR抗体-hIDUA融合蛋白質発現用ベクターは,抗体部分として配列番号22で示されるアミノ酸配列を有する軽鎖と,配列番号23で示されるアミノ酸配列を有する重鎖のFab領域とをコードする遺伝子を用いて構築した。
【0119】
〔pE-neoベクター及びpE-hygrベクターの構築〕
pEF/myc/nucベクター(インビトロジェン社)を,KpnIとNcoIで消化し,EF-1プロモーター及びその第一イントロンを含む領域を切り出し,これをT4 DNA ポリメラーゼで平滑末端化処理した。別に,pCI-neo(インビトロジェン社)を,BglII及びEcoRIで消化して,CMVのエンハンサー/プロモーター及びイントロンを含む領域を切除した後に,T4 DNA ポリメラーゼで平滑末端化処理した。これに,上記のEF-1αプロモーター及びその第一イントロンを含む領域(平滑末端化処理後のもの)を挿入して,pE-neoベクターを構築した。pE-neoベクターを,SfiI及びBstXIで消化し,ネオマイシン耐性遺伝子を含む約1 kbpの領域を切除した。pcDNA3.1/Hygro(+)(インビトロジェン社)を鋳型にしてプライマーHyg-Sfi5'(配列番号13)及びプライマーHyg-BstX3'(配列番号14)を用いて,PCR反応によりハイグロマイシン遺伝子を増幅した。増幅したハイグロマイシン遺伝子を,SfiI及びBstXIで消化し,上記のpE-neoベクターに挿入して,pE-hygrベクターを構築した。なお,pE-neoベクター及びpE-hygrベクターの構築は,特許文献(特第6279466号)を参考にして行った。
【0120】
〔pE-IRES-GS-puroの構築〕
発現ベクターpPGKIH(Miyahara M. et.al., J. Biol. Chem. 275,613-618(2000) )を制限酵素(XhoI及びBamHI)で消化し,マウス脳心筋炎ウイルス(EMCV)に由来する内部リボソーム結合部位(IRES),ハイグロマイシン耐性遺伝子(Hygr遺伝子)及びマウスホスホグリセリン酸キナーゼ(mPGK)のポリアデニル化領域(mPGKpA)を含むDNA断片を切り出した。このDNA断片をpBluescript SK(-) (Stratagene社)のXhoI及びBamHIサイト間に挿入し,これをpBSK(IRES-Hygr-mPGKpA)とした。
【0121】
pBSK (IRES-Hygr-mPGKpA)を鋳型とし,プライマーIRES5'(配列番号29)及びプライマーIRES3'(配列番号30)を用いて,PCRによりEMCVのIRESの一部を含むDNA断片を増幅させた。このDNA断片を制限酵素(XhoI及びHindIII)で消化し,pBSK(IRES-Hygr-mPGKpA) のXhoI及びHindIIIサイト間に挿入し,これをpBSK (NotI-IRES-Hygr-mPGKpA) とした。pBSK(NotI-IRES-Hygr-mPGKpA)を制限酵素(NotI及びBamHI)で消化し,pE-hygrベクターのNotI及びBamHIサイト間に挿入し,これをプラスミドpE-IRES-Hygrとした。
【0122】
発現ベクターpPGKIHをEcoRIで消化し,mPGKのプロモーター領域(mPGKp)を含む塩基配列よりなるDNA断片を切り出した。このDNA断片をpBluescript SK(-)(Stratagene社)のEcoRIサイトに挿入し,これをmPGK promoter/pBS(-)とした。mPGK promoter/pBS(-)を鋳型とし,プライマーmPGKP5'(配列番号31)及びプライマーmPGKP3'(配列番号32)を用いて,PCRによりmPGKのプロモーター領域(mPGKp)を含むDNA断片を増幅させた。このDNA断片を制限酵素(BglII及びEcoRI)で消化し,pCI-neo(Promega社)のBglII及びEcoRIサイト間に挿入し,これをpPGK-neoとした。pE-IRES-Hygrを制限酵素(NotI及びBamHI)で消化してDNA断片(IRES-Hygr)を切り出し,pPGK-neoのNotI及びBamHIサイト間に挿入し,これをpPGK-IRES-Hygrとした。
【0123】
CHO-K1細胞からcDNAを調製し,これを鋳型とし,プライマーGS5'(配列番号33)及びプライマーGS3'(配列番号34)を用いて,PCRによりGS遺伝子を含むDNA断片を増幅させた。このDNA断片を制限酵素(BalI及びBamHI)で消化し,pPGK-IRES-HygrのBalI及びBamHIサイト間に挿入し,これをpPGK-IRES-GS-ΔpolyAとした。
【0124】
pCAGIPuro(Miyahara M. et.al., J. Biol. Chem. 275,613-618(2000))を鋳型とし,プライマーpuro5'(配列番号35)及びプライマーpuro3'(配列番号36)を用いて,PCRによりピューロマイシン耐性遺伝子(puror遺伝子)を含むDNA断片を増幅させた。このDNA断片をpT7Blue T-Vector(Novagen社)に挿入し,これをpT7-puroとした。
pT7-puroを制限酵素(AflII及びBstXI)で消化し,発現ベクターpE-neoのAflII及びBstXIサイト間に挿入し,これをpE-puroとした。
【0125】
pE-puroを鋳型とし,プライマーSV40polyA5'(配列番号37)及びプライマーSV40polyA3'(配列番号38)を用いて,PCRによりSV40後期ポリアデニル化領域を含むDNA断片を増幅させた。このDNA断片を制限酵素(NotI及びHpaI)で消化し,発現ベクターpE-puroのNotI及びHpaIサイト間に挿入し,これをpE-puro(XhoI)とした。pPGK-IRES-GS-ΔpolyAを制限酵素(NotI及びXhoI)で消化し,IRES-GS領域を含むDNA断片を切り出し,これを発現ベクターpE-puro(XhoI)のNotI及びXhoIサイト間に挿入し,これをpE-IRES-GS-puroとした。なお,pE-IRES-GS-puroの構築は,特許文献(特第6279466号)を参考にして行った。
【0126】
〔pE-mIRES-GS-puro(ΔE)の構築〕
発現ベクターpE-IRES-GS-puroを鋳型とし,プライマーmIRES-GS5'(配列番号39)及びプライマーmIRES-GS3'(配列番号40)を用いて,PCRにより,EMCVのIRESからGSにかけての領域を増幅させ,EMCVのIRESの5'側から2番目に位置する開始コドン(ATG)に変異を加えて破壊したDNA断片を増幅させた。発現ベクターpE-IRES-GS-puroを鋳型として,このDNA断片と上記のプライマーIRES5'を用いて,PCRによりIRESからGSにかけての上記領域を含むDNA断片を増幅させた。このDNA断片を制限酵素(NotI及びPstI)で消化し,切り出されたDNA断片を,pBluescript SK(-)(Stratagene社)のNotI及びPstIサイト間に挿入し,これをmIRES/pBlueScript SK(-)とした。
【0127】
発現ベクターpE-IRES-GS-puroを,SphIで消化し,SV40エンハンサー領域を切除した。残りのDNA断片をセルフライゲーションし,これをpE-IRES-GS-puro(ΔE)とした。mIRES/pBlueScript SK(-)をNotI及びPstIで消化し,改変型IRES(mIRES)及びGS遺伝子の一部を含む領域を切り出した。別に,pE-IRES-GS-puro(ΔE)を,NotI及びPstIで消化して,上記のmIRES及びGS遺伝子の一部を含む領域を挿入して,pE-mIRES-GS-puro(ΔE)を構築した。
【0128】
〔pEM-hygr(LC3)及びpE-mIRES-GSp-Fab-IDUAの構築〕
β-Globin MAR (Matrix Attachment Region),CMVエンハンサー,ヒトEF-1αプロモーター,MluI及びBamHI切断サイト,インターフェロンβ Marを含むDNA断片(CMVE-EF-1αp-IFNβMAR)を人工的に合成した(配列番号41)。このDNA断片の5’側にはHindIII配列を,3’側にはEcoRI配列を導入した。このDNA断片をHindIII及びEcoRIで消化し,pUC57ベクターのHindIII及びEcoRIサイト間に挿入し,これをJCR69 in pUC57とした。MluI及びBamHI切断サイト,IRES,ハイグロマイシン耐性遺伝子及びmPGKポリアデニレーションシグナルを含むDNA断片(IRES-HygroR-mPGKpA)を人工的に合成した(配列番号42)。このDNA断片をJCR69 in pUC57のMluI及びBamHIサイトに挿入し,これをpEM hygroとした。
【0129】
配列番号22で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体の軽鎖の全長をコードする遺伝子を含むDNA断片(配列番号26)を人工的に合成してpUC57-Ampに挿入し,これをJCR131 in pUC57-Ampとした。このDNA断片の5’側にはMluI配列を,3’側にはNotI配列を導入した。このプラスミドDNAをMluIとNotIで消化し,発現ベクターpEM hygroのMluI-NotI間に組み込んだ。得られたベクターをヒト化抗hTfR抗体の軽鎖の発現用ベクターであるpEM-hygr(LC3)とした。
【0130】
配列番号27で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体の重鎖のFab領域のC末端側に,配列番号4で示されるリンカー配列を介して,配列番号6で示されるアミノ酸配列を有するヒトIDUAが結合した,全体として配列番号27で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子を含む配列番号28で示される塩基配列を有するDNA断片を人工的に合成した。このDNA断片の5’側にはMluI配列を,3’側にはNotI配列を導入した。このDNA断片をMluI及びNotIで消化し,pE-mIRES-GS-puro(ΔE)のMluIとNotIの間に組み込んだ。得られたベクターをヒト化抗hTfR抗体のFab重鎖のC末端側にhIDUAを結合させた蛋白質の発現用ベクターであるpE-mIRES-GSp-Fab-IDUAとした。
【0131】
〔実施例2〕ヒト化抗hTfR抗体-hIDUA融合蛋白質の高発現細胞株の作製
CHO細胞(CHO-K1:American Type Culture Collectionから入手)を,下記の方法により,NEPA21(NEPAGENE社)を用いて,実施例1で構築したpEM-hygr(LC3)とpE-mIRES-GSp-Fab-IDUAを形質転換した。
【0132】
細胞の形質転換は概ね以下の方法で行った。CHO-K1細胞を2×107細胞/mLの密度となるようにCD OptiCHOTM培地(Thermo Fisher Scientific社)及びPBSの1:1混合液で懸濁した。50 μLの細胞懸濁液を採取し,これにCD OptiCHOTM培地及びPBSの1:1混合液で200 μg/mLに希釈したpEM-hygr(LC3)プラスミドDNA溶液を50 μL添加した。NEPA21(NEPAGENE社)を用いて,エレクトロポレーションを実施し,細胞にpEM-hygr(LC3)プラスミドDNAを導入した。37℃,5% CO2の条件下で一晩培養した後,細胞を,0.5 mg/mLのハイグロマイシンを添加したCD OptiCHOTM培地で選択培養した。得られた細胞に同手法によりpE-mIRES-GSp-Fab-IDUAプラスミドDNA(AhdIで消化し,リニアライズしたもの)を導入した。37℃,5% CO2の条件下で一晩培養した後,細胞を,0.5 mg/mLのハイグロマイシン及び10 μg/mLのピューロマイシンを添加したCD OptiCHOTM培地で選択培養した。選択培養の際,MSXの濃度を段階的に上昇させて,最終的にMSX濃度を300 μMとして,薬剤耐性を示す細胞を選択的に増殖させた。
【0133】
次いで,限界希釈法により,1ウェルあたり1個以下の細胞が増殖してくるように,96ウェルプレート上に選択培養で選択された細胞を播種し,各細胞が単クローンコロニーを形成するように約2週間培養した。単クローンコロニーが形成されたウェルの培養上清を採取し,ヒト化抗体含量をELISA法にて調べ,ヒト化抗hTfR抗体-hIDUA融合蛋白質の高発現細胞株を選択した。
【0134】
このときのELISA法は概ね以下の方法で実施した。96ウェルマイクロタイタープレート(Nunc社)の各ウェルに,ニワトリ抗IDUAポリクローナル抗体溶液を0.05 M 炭酸水素塩緩衝液で5 μg/mLに希釈したものを100 μLずつ加え,室温又は4℃で少なくとも1時間静置して抗体をプレートに吸着させた。次いで,トリス緩衝生理食塩水(pH 8.0)に0.05% Tween20を添加したもの(TBS-T)で各ウェルを3回洗浄後,トリス緩衝生理食塩水(pH8.0)に1% BSAを添加したものを各ウェルに300 μLずつ加えてプレートを室温で1時間静置した。次いで,各ウェルをTBS-Tで3回洗浄した後,トリス緩衝生理食塩水(pH 8.0)に0.1% BSA及び0.05% Tween20を添加したもの(TBS-BT)で適当な濃度に希釈した培養上清又はヒト化抗hTfR抗体-hIDUA融合蛋白質精製品を,各ウェルに100 μLずつ加え,プレートを室温で1時間静置した。次いで,プレートをTBS-Tで3回洗浄した後,TBS-BTで希釈したHRP標識抗ヒトIgGポリクロ-ナル抗体溶液を,各ウェルに50 μLずつ加え,プレートを室温で1時間静置した。TBS-Tで各ウェルを3回洗浄後,ELISA POD基質TMBキット(Nakalai Tesque社)を用いて発色させた。次いで,1 mol/L 硫酸を50 μLずつ各ウェルに加えて反応を停止させ,96ウェルプレートリーダーを用いて,各ウェルにつき450 nmでの吸光度を測定した。高い測定値を示したウェルに対応する細胞を,ヒト化抗hTfR抗体-hIDUA融合蛋白質の高発現細胞株として選択した。こうして得られたヒト化抗hTfR抗体-hIDUA融合蛋白質の高発現細胞株を,ヒト化抗hTfR抗体-hIDUA発現株とした。この細胞株が発現するヒト化抗hTfR抗体とhIDUAとの融合蛋白質をヒト化抗hTfR抗体-hIDUA融合蛋白質(ヒト化抗hTfR抗体-hIDUA)とした。
【0135】
得られたヒト化抗hTfR抗体-hIDUA発現株を,10 mg/L インスリン,16 μmol/L チミジン,100 μmol/L ヒポキサンチン,500 μg/mL ハイグロマイシンB,10 μg/mLピューロマイシン,300 μmol/L MSX及び10% (v/v) DMSOを含有するCD OptiCHOTM培地に懸濁させてからクライオチューブに分注し,種細胞として液体窒素中で保存した。
【0136】
〔実施例3〕ヒト化抗hTfR抗体-hIDUA発現株の培養
ヒト化抗hTfR抗体-hIDUAを取得するために,ヒト化抗hTfR抗体-hIDUA発現株を以下の方法で培養した。実施例2で得たヒト化抗hTfR抗体-hIDUA発現株を,細胞密度が約3 X 105個/mLとなるように,10 mg/L インスリン,16 μmol/L チミジン,100 μmol/L ヒポキサンチンを含有する,pH6.9に調整した約170 Lの無血清培地(CD OptiCHOTM培地,ThermoFisher SCIENTIFIC社)に懸濁させた。この細胞懸濁液170 Lを培養槽に移した。培地をインペラ―で概ね100 rpmの速度で撹拌し,培地の溶存酸素飽和度を約30%に保持し,34~37℃の温度範囲で,約10日間細胞を培養した。培養期間中,細胞密度,細胞の生存率,培地のグルコース濃度及び乳酸濃度を監視した。培地のグルコース濃度が3.0 g/L以下となった場合には,直ちにグルコース濃度が3.5 g/Lとなるように,グルコース溶液を培地に添加した。培養期間中,フィード液(EFFICIENTFEED A+ TM,ThermoFisher SCIENTIFIC社)を適宜培地に添加した。培養終了後に培地を回収した。回収した培地を,Millistak+HC Pod Filter grade D0HC(Merck社)でろ過し,更にMillistak+ HCgrade X0HC (Merck社)でろ過して,ヒト化抗hTfR抗体-hIDUAを含む培養上清を得た。この培養上清を,PelliconTM 3 Cassette w/Ultracel PLCTK Membrane(孔径:30 kDa, 膜面積:1.14m2,Merck社)を用いて限外ろ過し,液量が約14分の1となるまで濃縮した。次いで,この濃縮液をOpticap XL600(0.22 μm, Merck社)を用いてろ過した。得られた液を濃縮培養上清とした。
【0137】
〔実施例4〕ヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの精製
実施例3で得た濃縮培養上清に,0.25倍容の2 M アルギニン溶液(pH 7.0)を添加した。この溶液を,カラム体積の4倍容の400 mM アルギニンを含有する25 mM MES緩衝液(pH6.5)で平衡化した,Capture SelectTM CH1-XLカラム(カラム体積:約3.1 L,ベッド高:約20 cm,Thermo Fisher Scientific社)に,100 cm/時の一定流速で負荷し,ヒト化抗hTfR抗体-hIDUAをカラムに吸着させた。Capture SelectTM CH1-XLカラムは,IgG抗体のCH1ドメインと特異的に結合する性質を有するリガンドが担体に固定化されたアフィニティーカラムである。
【0138】
次いで,カラム体積の5倍容の同緩衝液を同流速で供給してカラムを洗浄した。次いでカラム体積の3倍容の25 mM MES緩衝液(pH 6.5)を同流速で供給してカラムを更に洗浄した。次いで,カラム体積の5倍容の10 mM 酢酸ナトリウム-HCl緩衝液(pH 3.5)で,カラムに吸着したヒト化抗hTfR抗体-hIDUAを溶出させた。溶出液は,予め250 mM MES緩衝液(pH 6.0)を入れた容器に受けて,直ちに中和した。
【0139】
上記のアフィニティーカラムからの溶出液に,250 mM MES緩衝液(pH 6.5)を添加し,溶出液のpHを6.0に調整した。次いで,この溶出液を,Opticap XL600(孔径:0.22 μm, Merck社)でろ過した。このろ過後の溶液を,カラム体積の5倍容の15 mM NaClを含有する50 mM MES緩衝液(pH 6.0)で平衡化した,マルチモーダル陰イオン交換カラムであるCapto adhereカラム(カラム体積:約1.5 L,ベッド高:約10 cm,GE Healthcare社)に,300 cm/時の一定流速で負荷させた。このヒト化抗hTfR抗体-hIDUAを含む負荷液を回収した。Capto adhereは,N-ベンジル-N-メチルエタノールアミンをリガンドとするもので,静電相互作用,水素結合,疎水性相互作用等に基づく選択性を有する強陰イオン交換体である。
【0140】
次いで,カラム体積の5倍容の同緩衝液を同流速で供給してカラムを洗浄し,この洗浄液を回収した。
【0141】
上記負荷液及び洗浄液をカラム体積の4倍容の300 mM NaClを含有する25 mM MES緩衝液(pH 6.5)で平衡化した,マルチモーダル弱陽イオン交換カラムであるCapto MMCカラム(カラム体積:約3.1 L,ベッド高:約20 cm,GE Healthcare社)に,200 cm/時の一定流速で負荷させた。Capto MMCは,疎水性相互作用,水素結合形成等に基づく選択性を有する弱陽イオン交換体である。
【0142】
次いで,カラム体積の5倍容の同緩衝液を同流速で供給してカラムを洗浄した。次いで,カラム体積の10倍容の1 M NaClを含有する25 mM MES緩衝液(pH 6.5)で,弱陽イオン交換カラムに吸着したヒト化抗hTfR抗体-hIDUAを溶出させた。
【0143】
上記の弱陽イオン交換カラムからの溶出液に,0.5倍容の0.8 mg/mL NaCl及び75 mg/mL スクロースを含有する20 mM クエン酸緩衝液(pH 5.5)を加えてpHを5.8に調整した。次いで,PelliconTM 3 Cassette w/Ultracel PLCTK Membrane(孔径:30 kDa, 膜面積:0.57 m2,Merck社)を用いて限外ろ過し,溶液中のヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの濃度が約30 mg/mLとなるまで濃縮した。次いで,この濃縮液をOpticap XL600 (0.22 μm, Merck社)を用いてろ過した。
【0144】
上記の濃縮液を,カラム体積の1.5倍容の0.8 mg/mL NaCl及び75 mg/mL スクロースを含有する20 mM クエン酸緩衝液(pH 5.5)で平衡化した,サイズ排除カラムであるBioSECカラム(カラム体積:約9.4 L, ベッド高:30 cm, Merck社)に,40 cm/時の一定流速で負荷し,更に,同緩衝液を同じ流速で供給した。このとき,サイズ排除カラムからの溶出液の流路に,溶出液の吸光度を連続的に測定するための吸光光度計を配置して,280 nmの吸光度をモニターし,280 nmで吸収ピークを示した画分を,ヒト化抗hTfR抗体-hIDUAを含む画分として回収し,これをヒト化抗hTfR抗体-hIDUA精製品とした。
【0145】
〔実施例5〕精製各ステップにおけるヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの回収率の測定
アフィニティーカラムによる精製ステップにおけるヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの負荷量及び溶出液中に回収された量を実施例2に記載のELISA法を用いて測定した。また,それ以外の精製各ステップにおけるヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの負荷量及び溶出液中に回収された量を,分光光度計で280 nmにおける吸光度を測定して,算出した。その結果を表3に示す。当初,培養上清中に含まれた23.7 gのヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの約74.0%に相当する,17.5 gのヒト化抗hTfR抗体-hIDUAが,精製品として回収された。これらの結果は,上記実施例4に記載の精製法が,ヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの精製方法として非常に効率の高いものであることを示すものである。なお,表3において,工程回収率(%)は,各精製ステップにおける負荷したヒト化抗hTfR抗体-hIDUA量に対する回収されたヒト化抗hTfR抗体-hIDUA量の比率を意味し,総回収率(%)は,精製工程に供したヒト化抗hTfR抗体-hIDUA量の初期量に対する各精製ステップで回収されたヒト化抗hTfR抗体-hIDUA量の比率を意味する。
【0146】
【表3】
【0147】
〔実施例6〕ヒト化抗hTfR抗体-hIDUA精製品の分析(HCPの定量)
実施例4で得られたヒト化抗hTfR抗体-hIDUA精製品に含まれる宿主細胞由来蛋白質(HCP)の量をELISA法により定量した。まず,96ウェルプレート(Nunc社)の各ウェルに抗CHO細胞由来蛋白質抗体を100 μL添加し,一晩静置して抗体を吸着させた。各ウェルを3回洗浄した後,各ウェルにカゼインを含むブロッキング溶液を200 μL添加し,25℃で60分間振とうした。各ウェルを3回洗浄した後,各ウェルにヒト化抗hTfR抗体-hIDUA精製品を含む溶液(サンプル溶液)又はHCP標準溶液をそれぞれ100 μL添加して,25℃で2時間振とうした。各ウェルを3回洗浄した後,各ウェルにビオチン化抗CHO細胞由来蛋白質抗体を100 μL添加し,25℃で60分間振とうした。各ウェルを3回洗浄した後,HRP-conjugated streptavidin (Jackson Immuno Research Laboratories社)を100 μL添加し,25℃で60分間振とうした。各ウェルを3回洗浄した後,各ウェルにTMB基質溶液を100 μL添加し,25℃で発色させた。TMB基質溶液には,TMB microwell peroxidase substrate system (KPL社)のTMB peroxidase substrateとPeroxidase substrate solution Bを等量混合したものを用いた。発色後,各ウェルに6.75%リン酸を100 μL添加して酵素反応を停止させ,各ウェルの450 nmにおける吸光度を96ウェル用プレートリーダーで測定した。HCP標準溶液の測定値から検量線を作成し,これにサンプル溶液の値を内挿してヒト化抗hTfR抗体-hIDUA精製品に含まれるHCPを定量した。こうして求めたHCPの定量値と,実施例2に記載のELISA法を用いて測定したヒト化抗hTfR抗体-hIDUA精製品の定量値とから,ヒト化抗hTfR抗体-hIDUA精製品に含まれるHCPを定量した。その結果,ヒト化抗hTfR抗体-hIDUA精製品に含まれるHCPの量は,約35 ppm(即ち,1 mgのヒト化抗hTfR抗体-hIDUA精製品中に約35 ngのHCP)であることがわかった。
【0148】
〔実施例7〕ヒト化抗hTfR抗体-hIDUA精製品の分析(SE-HPLC分析)
TSKgel G3000SWXLカラム(内径7.8 mm X 高さ30 cm,東ソー社)をLC-20Aシステム,SPD-20AVのUV/VIS検出器(島津製作所社)にセットした。カラムを5% 2-プロパノールと20 mM NaClとを含む200 mM リン酸緩衝液で平衡化した。このカラムに,実施例4で得られたヒト化抗hTfR抗体-hIDUA精製品を1.0 mg/mLの濃度で含有する10 μLの溶液を,0.6 mL/分の一定流速で負荷し,更に同緩衝液を同じ流速で供給した。215 nmにおける吸光度を測定して作成した溶出プロファイルを図1に示す。得られたプロファイルは,ほぼヒト化抗hTfR抗体-hIDUAに由来する単一のピークのみを示した。但し,主ピーク(図中単量体ピーク)よりも前に検出されるヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの重合体に由来するピーク(図中重合体ピーク)が認められた。ピーク全体の面積と重合体ピークの面積の比率から,ヒト化抗hTfR抗体-hIDUA全体に占める重合体の比率は,約0.02%と計算された。
【0149】
〔実施例8〕ヒト化抗hTfR抗体-hIDUA精製品の分析(まとめ)
以上のヒト化抗hTfR抗体-hIDUA精製品の分析結果は,実施例4で得られたヒト化抗hTfR抗体-hIDUA精製品が,HCPを含む夾雑物をほとんど含まないものであること,及び,重合体の存在比率が極めて低いことを示すものである。すなわち,ヒト化抗hTfR抗体-hIDUA精製品は,医薬,例えば,静脈内,筋肉内,皮下,腹腔内,動脈内,又は病巣内投与剤として,そのまま使用できる品質のものであるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0150】
本発明によれば,例えば,医薬としてそのまま用いることのできる純度にまで精製された,抗体とリソソーム酵素とを結合させた融合蛋白質,特に抗体とhIDUAとを結合させた融合蛋白質を提供することができる。
【配列表フリーテキスト】
【0151】
配列番号1:リンカー例1のアミノ酸配列
配列番号2:リンカー例2のアミノ酸配列
配列番号3:リンカー例3のアミノ酸配列
配列番号4:リンカー例4のアミノ酸配列
配列番号5:ヒトトランスフェリン受容体のアミノ酸配列
配列番号6:ヒトIDUAのアミノ酸配列1
配列番号7:ヒトIDUAのアミノ酸配列2
配列番号8:抗hTfR抗体の軽鎖CDR1のアミノ酸配列1
配列番号9:抗hTfR抗体の軽鎖CDR1のアミノ酸配列2
配列番号10:抗hTfR抗体の軽鎖CDR2のアミノ酸配列1
配列番号11:抗hTfR抗体の軽鎖CDR2のアミノ酸配列2
配列番号12:抗hTfR抗体の軽鎖CDR3のアミノ酸配列1
配列番号13:抗hTfR抗体の重鎖CDR1のアミノ酸配列1
配列番号14:抗hTfR抗体の重鎖CDR1のアミノ酸配列2
配列番号15:抗hTfR抗体の重鎖CDR2のアミノ酸配列1
配列番号16:抗hTfR抗体の重鎖CDR2のアミノ酸配列2
配列番号17:抗hTfR抗体の重鎖CDR3のアミノ酸配列1
配列番号18:抗hTfR抗体の重鎖CDR3のアミノ酸配列2
配列番号19:抗hTfR抗体の重鎖フレームワーク領域3のアミノ酸配列
配列番号20:抗hTfR抗体の軽鎖の可変領域のアミノ酸配列
配列番号21:抗hTfR抗体の重鎖の可変領域のアミノ酸配列
配列番号22:抗hTfR抗体の軽鎖のアミノ酸配列
配列番号23:抗hTfR抗体のFab重鎖のアミノ酸配列
配列番号24:プライマーHyg-Sfi5’,合成配列
配列番号25:プライマーHyg-BstX3’,合成配列
配列番号26:抗hTfR抗体の軽鎖のアミノ酸配列をコードする塩基配列,合成配列
配列番号27:ヒト化抗hTfR抗体のFab重鎖とヒトIDUAの融合蛋白質のアミノ酸配列
配列番号28:ヒト化抗hTfR抗体のFab重鎖とヒトIDUAの融合蛋白質のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む塩基配列,合成配列
配列番号29:プライマーIRES5',合成配列
配列番号30:プライマーIRES3',合成配列
配列番号31:プライマーmPGKP5',合成配列
配列番号32:プライマーmPGKP3',合成配列
配列番号33:プライマーGS5',合成配列
配列番号34:プライマーGS3',合成配列
配列番号35:プライマーpuro5',合成配列
配列番号36:プライマーpuro3',合成配列
配列番号37:プライマーSV40polyA5',合成配列
配列番号38:プライマーSV40polyA3',合成配列
配列番号39:プライマーmIRES-GS5',合成配列
配列番号40:プライマーmIRES-GS3',合成配列
配列番号41:CMVE-EF-1αp-IFNβMAR,合成配列
配列番号42:IRES-HygroR-mPGKpA,合成配列
図1
【配列表】
2022138142000001.app