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特開2022-138169空気二次電池用触媒、空気極及び空気二次電池
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  • 特開-空気二次電池用触媒、空気極及び空気二次電池 図1
  • 特開-空気二次電池用触媒、空気極及び空気二次電池 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022138169
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】空気二次電池用触媒、空気極及び空気二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20220915BHJP
   H01M 12/08 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
H01M4/86 M
H01M4/86 B
H01M12/08 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021037882
(22)【出願日】2021-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000231372
【氏名又は名称】日本重化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】井上 実紀
(72)【発明者】
【氏名】梶原 剛史
(72)【発明者】
【氏名】夘野木 昇平
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 賢大
(72)【発明者】
【氏名】渡部 芳克
【テーマコード(参考)】
5H018
5H032
【Fターム(参考)】
5H018AA10
5H018AS03
5H018EE13
5H018EE18
5H018HH00
5H018HH05
5H032AA02
5H032AS01
5H032AS11
5H032CC11
5H032CC16
5H032EE01
5H032EE02
5H032EE05
5H032EE13
5H032EE15
5H032EE18
5H032HH01
(57)【要約】
【課題】従来よりも触媒活性の高い空気二次電池用触媒、この空気二次電池用触媒を含む空気極及びこの空気極を含む空気二次電池を提供する。
【解決手段】電池2は、セパレータ14を介して重ね合わされた空気極16及び負極12を含む電極群10と、電極群10をアルカリ電解液82とともに収容している容器4と、を備え、空気極16は、空気二次電池用触媒を含んでおり、この空気二次電池用触媒は、ナトリウムを含んでいるビスマスルテニウム複合酸化物であって、パイロクロア型の結晶構造を有しており、前記結晶構造における格子定数が、10.33Å以上、10.47Å以下であるビスマスルテニウム複合酸化物からなる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナトリウムを含んでいるビスマスルテニウム複合酸化物であって、パイロクロア型の結晶構造を有しており、前記結晶構造における格子定数が、10.33Å以上、10.47Å以下であるビスマスルテニウム複合酸化物からなる、空気二次電池用触媒。
【請求項2】
前記ビスマスルテニウム複合酸化物に含まれるナトリウムとルテニウムとの比を表すNa/Ruが、0.11以下である、請求項1に記載の空気二次電池用触媒。
【請求項3】
空気極用基体と、
前記空気極用基体に保持された空気極合剤と、を備えており、
前記空気極合剤は、請求項1又は2に記載の空気二次電池用触媒、及び前記空気二次電池用触媒を担持する触媒担持導電材を含んでいる、空気極。
【請求項4】
前記触媒担持導電材は、ニッケルである、請求項3に記載の空気極。
【請求項5】
前記空気極合剤は、撥水剤を更に含んでいる、請求項3又は4に記載の空気極。
【請求項6】
前記撥水剤は、フッ素樹脂である、請求項5に記載の空気極。
【請求項7】
前記フッ素樹脂は、ポリテトラフルオロエチレンである、請求項6に記載の空気極。
【請求項8】
容器と、
前記容器内に配設された電極群と、
前記容器内に注入されたアルカリ電解液と、を備え、
前記電極群は、セパレータを介して重ね合わされた空気極及び負極を含んでおり、
前記空気極は、請求項3~7の何れかに記載の空気極である、空気二次電池。
【請求項9】
前記負極は、水素吸蔵合金を含んでいる、請求項8に記載の空気二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気二次電池用触媒、この空気二次電池用触媒を含む空気極及びこの空気極を含む空気二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気中の酸素を正極活物質とする空気電池が、エネルギー密度が高く、小型、軽量化が容易であること等の理由から注目を集めている。このような空気電池においては、亜鉛空気一次電池が補聴器用の電源として実用化されている。
【0003】
また、充電が可能な空気電池として、負極用金属に、Li、Zn、Al、Mgなどを用いる空気二次電池の研究がなされており、このような空気二次電池は、リチウムイオン二次電池のエネルギー密度を超える可能性がある新しい二次電池として期待されている。
【0004】
このような空気二次電池の一種として、電解液にアルカリ性水溶液(以下、アルカリ電解液とも表記する)を用い、負極活物質に水素を用いる空気水素二次電池が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に代表されるような空気水素二次電池は、負極用金属として水素吸蔵合金を用いているが、空気水素二次電池における負極活物質は、上記した水素吸蔵合金に吸蔵放出される水素であるので、電池における充放電の際の化学反応(以下、電池反応とも表記する)にともない水素吸蔵合金自体の溶解析出反応は起こらない。このため、空気水素二次電池は、負極用金属が樹枝状に析出するいわゆるデンドライト成長による内部短絡の発生やシェイプチェンジによる電池容量の低下といった問題が起こらないメリットを有している。
【0005】
上記の空気水素二次電池のようにアルカリ電解液を用いる空気二次電池では、正極(以下、空気極とも表記する)において以下に示すような充放電反応が起こる。
【0006】
充電(酸素発生反応):4OH→O+2HO+4e・・・(I)
放電(酸素還元反応):O+2HO+4e→4OH・・・(II)
【0007】
反応式(I)で示すように、空気二次電池は、充電時に空気極で酸素が発生する。この酸素は、空気極内部の空隙を通って、空気極における大気に開放されている部分から大気中に放出される。一方、放電時は、大気中から取り込まれた酸素が反応式(II)で表されるように還元されて水酸化物イオンが生成される。
【0008】
上記した空気二次電池の正極である空気極としては、上記した充放電反応を促進させる触媒が用いられている。空気二次電池においては、エネルギー効率の向上や高出力化を図るため、空気極の充放電反応における過電圧を低減することが望まれている。このため、空気極に用いられる触媒となる材料に関しては、過電圧の低減に有効な材料の検討がなされている。そのような過電圧の低減に有効な材料としては、貴金属、金属酸化物、金属錯体が挙げられる。そのような材料のなかでも、パイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物は、酸素還元及び酸素発生の2元機能を有しており、充電時の過電圧及び放電時の過電圧を低減することができるため、空気二次電池用の触媒として有望である。
【0009】
ところで、充放電反応における過電圧をより低減させるためには、触媒の比表面積を大きくすることが有効である。比表面積が大きい触媒を合成する方法としては、特許文献1に開示されているように、共沈法により作製した触媒の前駆体を熱処理してパイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物を得る方法が挙げられる。詳しくは、2種類以上の金属イオンを含む溶液に沈殿剤としての水酸化ナトリウム水溶液を添加して酸化物等の難溶性塩を沈殿粒子として析出させ、得られた沈殿粒子(前駆体)を、大気中にて焼成することでビスマスルテニウム複合酸化物(触媒)を得る。共沈法によれば、微細な沈殿粒子が得られるので、焼成後の触媒粒子も微粒子となり、触媒の比表面積は大きくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2019-179592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、充放電反応における過電圧をより低減させるには、触媒の比表面積の増大とともに触媒自体の活性(以下、触媒活性とも表記する)を高める必要がある。つまり、従来よりも触媒活性の高い空気二次電池用触媒の開発が望まれている。しかしながら、従来のパイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物においては、触媒活性を高めることに関して十分に検討されていないのが現状である。
【0012】
本発明は、上記の事情に基づいてなされたものであり、その目的とするところは、従来よりも触媒活性の高い空気二次電池用触媒、この空気二次電池用触媒を含む空気極及びこの空気極を含む空気二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明によれば、ナトリウムを含んでいるビスマスルテニウム複合酸化物であって、パイロクロア型の結晶構造を有しており、前記結晶構造における格子定数が、10.33Å以上、10.47Å以下であるビスマスルテニウム複合酸化物からなる、空気二次電池用触媒が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る空気二次電池用触媒は、ナトリウムを含んでいるビスマスルテニウム複合酸化物であって、パイロクロア型の結晶構造を有しており、前記結晶構造における格子定数が、10.33Å以上、10.47Å以下であるビスマスルテニウム複合酸化物からなる。格子定数が、10.33Å以上、10.47Å以下の範囲にあると、パイロクロア型の結晶構造内の空間が広がり酸素イオンの移動が容易になることで、結晶格子中の酸素の移動が関与する酸素還元触媒反応に優位に影響すると考えられる。このため、本発明に係る空気二次電池用触媒は、触媒活性が高くなり、この空気二次電池用触媒を空気極に用いた空気二次電池は、従来の空気二次電池よりも充放電反応における過電圧を低減できる。よって、本発明によれば、従来よりも触媒活性が高く、もって、充放電反応における過電圧の低減を図ることができる空気二次電池用触媒、この空気二次電池用触媒を含む空気極及びこの空気極を含む空気二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】一実施形態に係る空気水素二次電池を概略的に示した断面図である。
図2】ビスマスルテニウム複合酸化物のXRDプロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、一実施形態に係る空気二次電池用の空気極触媒を含む空気水素二次電池(以下、電池とも表記する)2について図面を参照して説明する。
【0017】
図1に示すように、電池2は、容器4と、この容器4の中にアルカリ電解液82とともに入れられた電極群10とを備えている。
【0018】
電極群10は、負極12と、空気極(正極)16とがセパレータ14を介して重ね合わされて形成されている。
【0019】
負極12は、多孔質構造をなし多数の空孔を有する導電性の負極基材と、前記した空孔内及び負極基材の表面に担持された負極合剤とを含んでいる。上記したような負極基材としては、例えば発泡ニッケルを用いることができる。
【0020】
負極合剤は、負極活物質としての水素を吸蔵及び放出可能な水素吸蔵合金粒子の集合体である水素吸蔵合金粉末と、導電材と、結着剤とを含む。ここで、導電材としては、黒鉛の粉末、カーボンブラックの粉末等を用いることができる。
【0021】
水素吸蔵合金粒子を構成する水素吸蔵合金としては、特に限定されるものではないが、例えば、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金を用いることが好ましい。この希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金の組成は自由に選択できるが、例えば、
一般式:Ln1-aMgNib-c-dAl・・・(III)
で表されるものを用いることが好ましい。
【0022】
ただし、一般式(III)中、Lnは、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Sc、Y、Zr及びTiよりなる群から選ばれた少なくとも1種の元素を表し、Mは、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Mn、Fe、Co、Ga、Zn、Sn、In、Cu、Si、P及びBよりなる群から選ばれた少なくとも1種の元素を表し、添字a、b、c、dは、それぞれ、0.01≦a≦0.30、2.8≦b≦3.9、0.05≦c≦0.30、0≦d≦0.50の関係を満たす数を表す。
【0023】
ここで、水素吸蔵合金粒子は、例えば以下のようにして得られる。
まず、所定の組成となるように金属原材料を計量して混合し、この混合物を不活性ガス雰囲気下にて、例えば、高周波誘導溶解炉で溶解した後、冷却してインゴットにする。得られたインゴットは、不活性ガス雰囲気下にて900~1200℃に加熱され、その温度で5~24時間保持する熱処理が施され均質化される。この後、インゴットを粉砕し、篩分けを行うことにより所望粒径の水素吸蔵合金粒子の集合体である水素吸蔵合金粉末を得る。
【0024】
結着剤としては、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、スチレンブタジエンゴム等が用いられる。
【0025】
ここで、負極12は、例えば以下のようにして製造することができる。
まず、水素吸蔵合金粒子の集合体である水素吸蔵合金粉末、導電材、結着剤及び水を混練して負極合剤ペーストを調製する。得られた負極合剤ペーストは負極基材に充填され、その後、乾燥処理が施される。乾燥後、水素吸蔵合金粒子等が付着した負極基材はロール圧延されて、単位体積当たりの合金量を高められ、その後、裁断がなされ、これにより負極12が得られる。この負極12は、全体として板状をなしている。負極12に含まれる負極合剤層は、水素吸蔵合金の粒子、導電材の粒子等により形成されているので、粒子間に隙間があり、全体として多孔質構造をなしている。
【0026】
次に、空気極16は、網目構造を有する導電性の空気極基材と、前記した空気極基材に保持された空気極合剤(正極合剤)により形成された空気極合剤層(正極合剤層)とを備えている。上記したような空気極基材としては、例えば、ニッケルメッシュを用いることができる。
【0027】
空気極合剤は、酸化還元触媒(空気極触媒)、導電材、及び結着剤を含む。
酸化還元触媒としては、酸化還元の二元機能を有するものを用いる。このような二元機能を有する触媒は、充電過程でも、放電過程でも電池の過電圧を低減させることに寄与する。このような酸化還元触媒としては、例えば、パイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物が用いられる。このビスマスルテニウム複合酸化物は、酸素発生及び酸素還元の2元機能を有している。
【0028】
本実施形態においては、ナトリウムを含有しているビスマスルテニウム複合酸化物が用いられる。このビスマスルテニウム複合酸化物は、組成式がBi2-xRu7-z(ただし、xは0≦x≦1、zは0≦z≦1の関係を満たしている。)で表されるパイロクロア型の結晶構造を有しており、上記した結晶構造内にナトリウムが取り込まれている。このナトリウムは、製造過程において不可避的に含まれる。そして、上記した結晶構造における格子定数が、10.33Å以上、10.47Å以下であるビスマスルテニウム複合酸化物を用いる。
【0029】
ここで、本願の発明者は、空気二次電池における充放電反応の過電圧の低減について鋭意研究したところ、空気極触媒としてのビスマスルテニウム複合酸化物の格子定数が大きいほど、特に放電反応の過電圧を大きく低減させることができることを見出した。これは、パイロクロア型の結晶構造の格子定数が大きくなると、パイロクロア型の結晶構造内の空間が広がり、酸素イオンの移動が容易になることで、結晶格子内の酸素の移動が関与する酸素還元触媒反応に優位に影響し、その結果、放電反応の過電圧が低下したものと考えられる。放電反応の過電圧の低下の効果は、格子定数が10.33Å以上となると著しくなる。国際回折データセンター(International Centre for Diffraction Data, ICDD、以下、ICDDとも表記する)に報告されている一般的なパイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物(Bi2-xRu7-z)の格子定数は、10.28Å以上10.30Å以下である。本実施形態に係るパイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物は、上記した一般的なパイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物に比べ、その格子定数が大きいことを特徴としている。
【0030】
格子定数が大きいほど酸素イオンの移動が容易になるので、そのようなパイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物を空気極触媒として含む空気二次電池の放電反応の過電圧は、より低減できると予想される。しかしながら、格子定数は幾何学的な制約を受ける。具体的には、格子定数が大きくなるように合成条件等を変更していくと、やがて相分離やその他の結晶構造をとるようになる。A元素及びB元素の陽イオンからなるパイロクロア型酸化物は、一般式Aで表される立方晶系化合物である。各原子位置はイオン半径と電荷バランスを保ちながら様々に置換でき、ある程度の原子欠損も許容できることから、多くの化合物群が存在する。本実施形態のビスマスルテニウム複合酸化物は、AサイトにBi、BサイトにRu、そしてNaが含まれていることが特徴である。イオン半径の大きいNaは、AサイトのBiの一部と置換されていると考えられるため、格子定数は大きくなる。しかし、Naと置換された態様であって格子定数が10.33と大きい値を示す態様は報告されていない。一方、ビスマスルテニウム複合酸化物では、ICDDの調査から格子定数が10.47Åである態様が最も高い値であった。このビスマスルテニウム酸化物は、Bi(Ru1.45Bi0.55)Oという組成になっており、BiがRuと比べると過剰である。パイロクロア型において、この10.47Åの構造もとり得ることから、格子定数の上限は10.47Åとした。
【0031】
また、本実施形態におけるパイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物は、その中に含まれるナトリウムとルテニウムとの比を表すNa/Ruが、0.11以下である。Na/Ruが、0.11以下であると、ビスマスルテニウム複合酸化物の結晶構造内に取り込まれているナトリウムが少ない状態となる。ナトリウムが少ないと、触媒における酸化反応に好影響を与え触媒活性がより高くなる。触媒活性を高めるためには、ナトリウムの量を極力少なくすることが有効であるが、現状のビスマスルテニウム複合酸化物の製造方法で低減できるナトリウムの量には限界がある。Na/Ruの具体的な値としては、0.02が下限となる。
【0032】
上記したようなパイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物は、例えば、以下のようにして製造することができる。
【0033】
Bi(NO・5HO及びRuCl・3HOを準備する。そして、モル比でRuが1.00に対し、Biが0.50以上0.80未満となるように、Bi(NO・5HOと、RuCl・3HOとを計量する。計量されたBi(NO・5HO及びRuCl・3HOを所定の溶液の中に投入し、撹拌してBi(NO・5HO及びRuCl・3HOの混合水溶液を調製する。このとき、所定の溶液としては、蒸留水、希硝酸水溶液等が挙げられ、これらの溶液の温度は、60℃以上、90℃以下とする。そして、この混合水溶液に、1mol/L以上、3mol/L以下のNaOH水溶液を加えて前駆体を析出させる(共沈工程)。この前駆体が沈殿した後、当該混合水溶液を撹拌する。この撹拌操作は、酸素バブリングをともなって12時間~48時間の間行う。ここで、撹拌操作を行っている間、当該混合水溶液については、pHが11となるように維持するとともに、温度が60℃以上、90℃以下になるように維持する。撹拌操作の終了後、混合水溶液を12時間~48時間静置する。静置した後、生じた沈殿物を吸引ろ過して回収する。回収された沈殿物は、80℃以上、100℃以下に保持して水分の一部を蒸発させてペーストを形成する。このペーストを蒸発皿に移し、100℃以上、150℃以下に加熱し、その状態で1時間以上、5時間以下保持して乾燥させ、ペーストの乾燥物を得る。得られたペーストの乾燥物を乳鉢に入れ、乳棒ですりつぶして粉砕し、未洗浄の前駆体の粉末を得る。
【0034】
次に、上記のようにして得られた未洗浄の前駆体の粉末に対して洗浄を行う(洗浄工程)。この洗浄の作業は、例えば、60℃以上90℃以下に保持された水を未洗浄の前駆体の粉末にかけ流しながら洗浄する、あるいは、60℃以上90℃以下に保持された水に前駆体の粉末を浸漬させ3.0時間以内の撹拌を実施して洗浄することにより行う。この洗浄工程において、前駆体の粉末に付着しているナトリウムを含む不純物の大部分を除去する。ここで、洗浄に用いる水としては、蒸留水、イオン交換水等を用いることができる。なお、水による洗浄に先立ち、酸洗浄を行うことが好ましい。酸洗浄を追加すると、より確実に不純物を除去できる。酸洗浄に用いる酸としては、例えば、硝酸水溶液が挙げられる。
【0035】
その後、前駆体の粉末を吸引ろ過して回収し、回収された粉末を60℃以上、130℃以下に加熱し、その状態で1時間以上、12時間以下保持して乾燥させる(乾燥工程)。これにより、洗浄済みの前駆体の粉末を得る。
【0036】
次に、洗浄済みの前駆体の粉末を、空気雰囲気下で400℃以上、700℃以下の温度に加熱し、0.5時間以上、4時間以下保持することにより熱処理を施す(焼成工程)。熱処理が終了した粉末は、60℃以上、90℃以下の蒸留水を用いて水洗された後、乾燥処理が施される。この乾燥処理は、水洗後の粉末を60℃以上、130℃以下で1時間以上、12時間以下保持することにより行われる。これにより、パイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物(Bi2-xRu7-z)が得られる。
【0037】
次に、得られたビスマスルテニウム複合酸化物を硝酸水溶液に浸漬させ、酸処理を施すことが好ましい。具体的には、以下の通りである。
【0038】
まず、硝酸水溶液を準備する。ここで、硝酸水溶液の濃度は、5mol/L以下とすることが好ましい。硝酸水溶液の量は、ビスマスルテニウム複合酸化物1gに対して20mLの割合となる量を準備することが好ましい。硝酸水溶液の温度は、20℃以上、25℃以下に設定することが好ましい。
【0039】
そして、準備された硝酸水溶液の中に、ビスマスルテニウム複合酸化物を浸漬し、1時間以上、6時間以下撹拌する。所定時間撹拌した後、硝酸水溶液中からビスマスルテニウム複合酸化物を吸引濾過する。濾別されたビスマスルテニウム複合酸化物は、60℃以上、80℃以下に設定された蒸留水に投入され洗浄される。
【0040】
洗浄されたビスマスルテニウム複合酸化物は、60℃以上、130℃以下で1時間以上、12時間以下保持され、乾燥処理が施される。
【0041】
以上のようにして、酸処理が施されたビスマスルテニウム複合酸化物を得る。このように酸処理を施すことにより、ビスマスルテニウム複合酸化物の焼成工程で生じる副生成物、特にアモルファス状の副生成物を除去することができる。なお、酸処理に用いられる酸性水溶液は、硝酸水溶液に限定されるものではなく、硝酸水溶液の他に塩酸水溶液、硫酸水溶液を用いることができる。これら、塩酸水溶液及び硫酸水溶液においても、硝酸水溶液と同様に副生成物を除去できるという効果が得られる。
【0042】
上記のようにして得られたビスマスルテニウム複合酸化物は所定の粒径に調整すべく、必要に応じ機械的に粉砕される。これにより、所定粒径の粒子の集合体であるビスマスルテニウム複合酸化物の粉末が得られる。
【0043】
本実施形態のビスマスルテニウム複合酸化物の製造方法においては、共沈工程で水酸化ナトリウム水溶液を沈殿剤として用いるので、沈殿粒子は微細になるが、不可避的にナトリウムが残留する。この残留したナトリウムは、洗浄工程で十分に除去されるので、ナトリウムが少ない状態で、後段の焼成工程を実行することができる。このため、得られるビスマスルテニウム複合酸化物は、その結晶構造内に取り込まれるナトリウムの量が低く抑えられている。
【0044】
次に、導電材について説明する。導電材は、空気二次電池の高出力化を図るべく内部抵抗を低下させるため、及び、上記した酸化還元触媒の担体として用いられる。
【0045】
このような導電材としては、例えば、ニッケル粒子からなるニッケル粉末を用いることが好ましい。上記したニッケル粒子の平均粒径としては、特に限定されるものではなく、空気極に所望の導電性を付与できる大きさとすることが好ましい。
【0046】
上記したニッケル粉末は、空気極合剤中において、60質量%以上含有させることが好ましい。このニッケル粉末の含有量の上限は、空気極合剤における他の構成材料との関係から80質量%以下とすることが好ましい。また、ニッケル粉末としては、フィラメント状のニッケル粉末を用いることが好ましい。
【0047】
結着剤は、空気極合剤の構成材料を結着させるとともに空気極16に適切な撥水性を付与する働きをする。ここで、結着剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、フッ素樹脂が用いられる。なお、好ましいフッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEとも表記する)が用いられる。
【0048】
空気極16は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、ビスマスルテニウム複合酸化物粒子の集合体である触媒粉末、導電材としてのNi粒子の集合体である導電材粉末、結着剤及び水を準備する。そして、これら触媒粉末、導電材粉末、結着剤及び水を混錬して空気極合剤ペーストを調製する。
【0049】
得られた空気極合剤ペーストは、例えば、ローラプレスを施すことによりシート状に成形され、25℃程度の室温で乾燥処理が施される。これにより、空気極合剤シート得る。その後、空気極合剤シートは、ニッケルメッシュ(空気極基材)にプレス圧着され、これにより、空気極の中間製品が得られる。
【0050】
次いで、得られた中間製品は、熱処理炉に投入され熱処理(焼成)が施される。この熱処理は、不活性ガス雰囲気中で行われる。この不活性ガスとしては、例えば、窒素ガスやアルゴンガスが用いられる。熱処理の条件としては、200℃以上、400℃以下の温度に加熱し、この状態で、10分以上、40分以下の間保持する。その後、中間製品を熱処理炉内で自然冷却し、中間製品の温度が150℃以下になったところで大気中に取り出す。これにより、熱処理が施された中間製品が得られる。この熱処理後の中間製品を所定形状に裁断することにより、空気極16が得られる。この空気極16は、空気極合剤により形成された空気極合剤層を備えている。空気極合剤は、ビスマスルテニウム複合酸化物の粒子等を含んでいるので、斯かる空気極合剤で形成された空気極合剤層は、全体として多数の細孔を含む多孔質構造をなしており、ガス拡散性に優れている。
【0051】
上記のようにして得られた空気極16及び負極12は、セパレータ14を介して積層され、これにより電極群10が形成される。このセパレータ14は、空気極16及び負極12の間の短絡を避けるために配設され、電気絶縁性の材料が採用される。このセパレータ14に採用される材料としては、例えば、ポリアミド繊維製不織布に親水性官能基を付与したもの、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン繊維製不織布に親水性官能基を付与したもの等を用いることができる。
【0052】
形成された電極群10は、アルカリ電解液とともに容器4の中に入れられる。この容器4としては、電極群10とアルカリ電解液とを収容できるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、アクリル製の箱状の容器4が用いられる。この容器4は、例えば、図1に示すように、容器本体6と、蓋8とを含んでいる。
【0053】
容器本体6は、底壁18と、底壁18の周縁部から上方に延びる側壁20とを有する箱形状をなしている。側壁20の上端縁21で囲まれた部分は、開口している。つまり、底壁18の反対側には、開口部22が設けられている。また、側壁20においては、右側壁20R及び左側壁20Lの所定位置に、それぞれ貫通孔が設けられており、これら貫通孔は、後述するリード線の引出口24、26となる。
【0054】
更に、容器本体6には、電解液貯蔵部80が取り付けられている。この電解液貯蔵部80は、アルカリ電解液82を収容する容器であり、例えば、底壁18に設けられた貫通孔19と連通する連結部84を介して取り付けられている。連結部84は、容器4の内部と電解液貯蔵部80との間を連通するアルカリ電解液82の流路である。このように、容器4の内部と電解液貯蔵部80とは連通しているため、アルカリ電解液82は、容器4の内部と電解液貯蔵部80との間を移動することができる。
【0055】
蓋8は、容器本体6の平面視形状と同じ平面視形状をなしており、容器本体6の上部に被せられ、開口部22を塞ぐ。蓋8と、側壁20の上端縁21との間は液密に封止される。
【0056】
蓋8において、容器本体6の内側に臨む内面部28には、通気路30が設けられている。通気路30は、容器本体6の内側に面する部分が開放されており、全体として1本のサーペンタイン形状をなしている。更に、蓋8の所定位置には、厚さ方向に貫通する入側通気孔32及び出側通気孔34が設けられている。入側通気孔32は、通気路30の一方端と連通しており、出側通気孔34は、通気路30の他方端と連通している。つまり、通気路30は、入側通気孔32及び出側通気孔34を介して大気に開放されている。なお、入側通気孔32には、図示しない圧送ポンプを取り付けることが好ましい。この圧送ポンプを駆動することにより入側通気孔32から通気路30に空気を送り込むことができる。
【0057】
容器本体6の底壁18の上には、必要に応じて、調整部材36を配置する。調整部材36は、容器4内において、電極群10の高さ方向の位置合わせに用いられる。調整部材36としては、例えば、発泡ニッケルのシートが用いられる。
【0058】
調整部材36の上には、電極群10が配設される。このとき、電極群10の負極12は、調整部材36と接するように配設される。
【0059】
一方、電極群10の空気極16側には、空気極16と接するように撥水通気部材40が配設される。この撥水通気部材40は、PTFE多孔膜42に不織布拡散紙44が組み合わされたものである。撥水通気部材40は、PTFEにより撥水効果を発揮するとともに、気体の通過を許容する。撥水通気部材40は、蓋8と空気極16との間に介在し、蓋8及び空気極16の両方に密着している。この撥水通気部材40は、蓋8の通気路30、入側通気孔32及び出側通気孔34の全体をカバーする大きさを有している。
【0060】
上記のような、電極群10、調整部材36及び撥水通気部材40を収容した容器本体6には、蓋8が被せられる。そして、図1において概略的に描かれているように、容器4(容器本体6及び蓋8)の周端縁部46、48が連結具50、52により上下から挟みこまれる。その後、所定量のアルカリ電解液82が電解液貯蔵部80から注入され、容器4内にアルカリ電解液82が満たされる。このようにして、電池2が形成される。
【0061】
なお、上記したアルカリ電解液82としては、アルカリ二次電池に用いられる一般的なアルカリ電解液が好適に用いられ、具体的には、NaOH、KOH及びLiOHのうち、少なくとも1種を溶質として含む水溶液が用いられる。
【0062】
ここで、電池2においては、蓋8の通気路30は撥水通気部材40に相対している。撥水通気部材40は、気体は通すが水分は遮断するので、空気極16は撥水通気部材40、通気路30、入側通気孔32及び出側通気孔34を介して大気に開放されることになる。つまり、空気極16は、撥水通気部材40を通じて大気と接することになる。
【0063】
また、この電池2においては、空気極(正極)16に空気極リード(正極リード)54が電気的に接続されており、負極12に負極リード56が電気的に接続されている。これら空気極リード54及び負極リード56は、図1中においては概略的に描かれているが、気密性及び液密性を保持した状態で引出口24、26から容器4の外に引き出されている。そして、空気極リード54の先端には空気極端子(正極端子)58が設けられており、負極リード56の先端には負極端子60が設けられている。したがって、電池2においては、これら空気極端子58及び負極端子60を利用して充放電の際の電流の入力及び出力が行われる。
【0064】
[実施例]
1.電池の製造
(実施例1)
(1)空気極触媒の合成
1)共沈工程
Bi(NO・5HO及びRuCl・3HOを準備した。そして、モル濃度比でRuが1.00に対し、Biが0.75となるように、Bi(NO・5HOと、RuCl・3HOとを計量した。計量されたBi(NO・5HO及びRuCl・3HOをあわせて75℃の希硝酸水溶液の中に投入し、撹拌してBi(NO・5HO及びRuCl・3HOの混合水溶液を調製した。そして、得られた混合水溶液に、2mol/LのNaOH水溶液を徐々に加えて前駆体を析出させた。この前駆体が沈殿した後、当該混合水溶液を撹拌した。この撹拌操作は、酸素バブリングを行いながら24時間行った。この撹拌操作を行っている間、当該混合水溶液については、pHを11に維持するとともに、温度を75℃に維持した。撹拌操作の終了後、当該混合水溶液を24時間静置した。静置した後、生じた沈殿物をろ過することにより回収した。回収された沈殿物は、85℃に保持して水分の一部を蒸発させてペースト状とした。得られたペーストを蒸発皿に移し、120℃に加熱し、その状態で3時間保持して乾燥処理を施し、前駆体の乾燥物を得た。得られた前駆体の乾燥物を乳鉢に入れ、乳棒ですりつぶして粉砕し、粉末状とした。このようにして未洗浄の前駆体の粉末を得た。
【0065】
2)洗浄工程
上記のようにして得られた未洗浄の前駆体の粉末を、75℃に保持したイオン交換水に浸漬させ1時間撹拌した後、濾過する手順で洗浄作業を行った。
【0066】
3)乾燥工程
洗浄後の前駆体の粉末を吸引ろ過して回収し、回収された粉末を60℃に加熱し、12時間保持して乾燥させた。これにより、洗浄済みの前駆体の粉末を得た。
【0067】
ここで、予め取り分けておいた未洗浄の前駆体の粉末、及び上記のようにして得られた洗浄済みの前駆体の粉末についてX線回折(XRD)分析を行った。XRD分析には平行ビームX線回折装置を用いた。ここでの分析の条件は、X線源がCuKα、管電圧が15kV、管電流が15mA、スキャンスピードが1度/min、ステップ幅が0.01度とした。分析の結果、未洗浄の前駆体の粉末に係る回折チャートパターンにおいては、NaNO、NaClといった不純物のピークが確認された。一方、洗浄済みの前駆体の粉末に係る回折チャートパターンにおいては、NaNO、NaClといった不純物のピークがほぼ消失していることが確認された。この分析結果より、上記した洗浄作業により、前駆体の粉末に付着しているナトリウムを含む不純物の大部分が除去されたことがわかった。
【0068】
4)焼成工程
得られた前駆体の粉末を、空気雰囲気下で500℃に加熱し3時間保持する熱処理を施した。当該熱処理が終了した後の前駆体の粉末を、70℃の蒸留水を用いて水洗した後、吸引濾過し、120℃で3時間保持する乾燥処理を施した。これにより、焼成された粉末を得た。得られた粉末につき、XRD分析を行った。XRD分析には平行ビームX線回折装置を用いた。ここでの分析の条件は、X線源がCuKα、管電圧が15kV、管電流が15mA、スキャンスピードが1度/min、ステップ幅が0.01度とした。分析の結果、得られた回折チャートパターンを図2に示す。得られた回折チャートパターンから、焼成された粉末の主相はBi2-xRu7-zのパイロクロア型結晶であることが確認でき、また、焼成前には存在していなかったRuOの副相が形成されていることが確認できた。
【0069】
つまり、この焼成工程により、パイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物(空気極触媒)が得られたことが確認できた。なお、得られたパイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物は、およそ12gであった。
【0070】
更に、(222)面、(440)面、及び(622)面に由来するそれぞれのピーク位置を読み取り、読み取ったピーク位置からパイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物の格子定数を求めた。具体的には、ブラッグの式である2dsinθ=nλ(dは結晶面の間隔、θは結晶面とX線がなす角度、λはX線の波長(本実施例ではλ=1.54Å)、nは自然数である。)及び(hkl)面の方程式を用いて結晶面の間隔dを求める。ここで、(hkl)面の方程式は一般的にhx+ky+lz-a=0であり、原点との距離が(hkl)面の結晶面の間隔dに等しく、d=a*(h^2+k^2+l^2)^(-1/2)となる。得られたdの値を、解析ソフト「CellCalc」に入力して格子定数を算出した。その結果、実施例1のBi2-xRu7-z触媒の格子定数は10.33Åであった。
【0071】
5)酸処理工程
ビスマスルテニウム複合酸化物の粉末1gを20mLの硝酸水溶液とともにスターラーの撹拌槽に入れ、当該硝酸水溶液の温度を25℃に保持したまま1時間撹拌して酸処理を施した。ここで、硝酸水溶液の濃度は2mol/Lとした。
【0072】
撹拌が終了した後、硝酸水溶液中からビスマスルテニウム複合酸化物の粉末を吸引濾過することにより取り出した。取り出されたビスマスルテニウム複合酸化物の粉末は、75℃に加熱した蒸留水1リットルで洗浄した。洗浄後、ビスマスルテニウム複合酸化物の粉末を、120℃の雰囲気下で3時間保持することにより乾燥させた。
【0073】
以上のようにして、酸処理されたビスマスルテニウム複合酸化物の粉末、すなわち、空気二次電池用の空気極触媒(Bi2-xRu7-z触媒)の粉末を得た。得られた空気極触媒においては、上記したように酸処理を施すことにより、ビスマスルテニウム複合酸化物の製造過程で生じるアモルファス状の副生成物が除去された。
【0074】
得られたビスマスルテニウム複合酸化物の粉末に関し、走査型電子顕微鏡による二次電子像を観察した結果、ビスマスルテニウム複合酸化物の粒子径は0.1μm以下であった。
【0075】
更に、得られたビスマスルテニウム複合酸化物の粉末の分析用試料について、走査型電子顕微鏡で観察するとともにエネルギー分散型X線分光法により元素分析を行う、いわゆるSEM/EDSにより組成分析を行った。このときの分析条件は、加速電圧が15keV、測定倍率が2000倍、積算回数が50回であった。具体的には、平均粒径に近い粒子を選別し、分析対象とした。そして、この分析対象に電子線をスポット照射した。その際に生じる特性X線を分光することで、スポット照射した領域におけるNa、Bi及びRuのモル比を算出し、これら元素の元素濃度を求めた。分析の結果、各元素のモル比はNa:Bi:Ru=6.3:36.9:56.8となった。そして、NaとRuとの比を表すNa/Ruは、Na/Ru=0.11であった。更に、Naと、Bi及びRuの合計との比を表すNa/(Bi+Ru)は、Na/(Bi+Ru)=0.07であった。
【0076】
(2)空気極の製造
Ni粒子の集合体であるNi粉末を準備した。このNi粒子は、フィラメント状をなしており、平均粒径が10~20μmであった。
【0077】
更に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ディスパージョン及びイオン交換水を準備した。
【0078】
上記のようにして得られたビスマスルテニウム複合酸化物の粉末(空気極触媒)に、ニッケル粉末、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ディスパージョン及びイオン交換水を加えて混合した。このとき、ビスマスルテニウム複合酸化物の粉末は20重量部、ニッケル粉末は70重量部、PTFEのディスパージョンは10重量部、イオン交換水は10重量部の割合で均一に混合して空気極合剤のペーストを製造した。
【0079】
得られた空気極合剤のペーストをシート状に成形し、このシート状の空気極合剤のペーストを25℃の室温で乾燥させた後、メッシュ数60、線径0.08mm、開口率60%のニッケルメッシュにプレス圧着させた。これにより、空気極の中間製品を得た。
【0080】
次に、得られた中間製品を熱処理(焼成)した。熱処理条件は、中間製品を窒素ガス雰囲気下で340℃の熱処理温度に加熱し、この温度で13分間保持した。熱処理された中間製品は、縦40mm、横40mmに裁断され、これにより、空気極16を得た。この空気極16の厚さは0.23mmであった。なお、得られた空気極16において、ビスマスルテニウム複合酸化物の粉末(空気極触媒)の量は0.25gであった。
【0081】
(3)負極の製造
Nd、Mg、Ni、Alの各金属材料を所定のモル比となるように混合した後、高周波誘導溶解炉に投入しアルゴンガス雰囲気下にて溶解させ、得られた溶湯を鋳型に流し込み、25℃の室温まで冷却してインゴットを製造した。
【0082】
ついで、このインゴットに対し、温度1000℃のアルゴンガス雰囲気下にて10時間保持する熱処理を施した後、25℃の室温まで冷却した。冷却後、当該インゴットをアルゴンガス雰囲気下で機械的に粉砕して、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金粉末を得た。得られた希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金粉末について、レーザー回折・散乱式粒径分布測定装置により体積平均粒径(MV)を測定した。その結果、体積平均粒径(MV)は60μmであった。
【0083】
この水素吸蔵合金粉末の組成を高周波プラズマ分光分析法(ICP)によって分析したところ、組成は、Nd0.89Mg0.11Ni3.33Al0.17であった。
【0084】
得られた水素吸蔵合金の粉末100重量部に対し、ポリアクリル酸ナトリウムの粉末0.2重量部、カルボキシメチルセルロースの粉末0.04重量部、スチレンブタジエンゴムのディスパージョン3.0重量部、カーボンブラックの粉末0.5重量部、水22.4重量部を添加して25℃の環境下において混練し、負極合剤ペーストを調製した。
【0085】
この負極合剤ペーストを面密度(目付)が約250g/m、厚みが約0.6mmの発泡ニッケルのシートに充填した。そして、負極合剤ペーストを乾燥させ、負極合剤が充填された発泡ニッケルのシートを得た。得られたシートは圧延され、単位体積当たりの合金量を高められた後、縦40mm、横40mmに裁断された。このようにして負極12を得た。なお、負極12の厚さは、0.77mmであった。
【0086】
次に、得られた負極12に、活性化処理を施した。この活性化処理の手順を以下に示す。
まず、一般的な焼結式の水酸化ニッケル正極を準備した。なお、この水酸化ニッケル正極としては、その正極容量が負極12の負極容量よりも十分大きいものを準備した。そして、この水酸化ニッケル正極と、得られた負極12とを、これらの間にポリエチレンの不織布で形成されたセパレータを介在させた状態で重ね合わせて、活性化処理用電極群を形成した。この活性化処理用電極群を所定量のアルカリ電解液とともにアクリル樹脂製の容器に収容した。これにより、負極容量規制のニッケル水素二次電池の単極セルを形成した。
【0087】
この単極セルに対し、温度25℃の環境下にて、5時間静置後、0.5Itで2.8時間の充電を行った後、0.5Itで電池電圧が0.70Vになるまで放電させた。この充放電サイクルを5回行うことにより負極12の活性化処理を行った。また、各充放電サイクルにおいては単極セルの容量を求めた。そして、得られた容量の最大値を負極容量とした。なお、負極容量は2500mAhであった。
【0088】
その後、0.5Itで2.8時間の充電を行った後、単極セルから負極12を取り外した。このようにして、活性化処理及び充電が済んだ負極12を得た。
【0089】
(4)空気水素二次電池の製造
得られた空気極16及び負極12を、これらの間にセパレータ14を挟んだ状態で重ね合わせ、電極群10を製造した。この電極群10の製造に使用したセパレータ14はスルホン基を有するポリプロピレン繊維製不織布により形成されており、その厚みは0.1mm(目付量53g/m)であった。
【0090】
次いで、容器本体6を準備し、この容器本体6内に上記した電極群10を収容した。このとき、容器本体6の底壁18の上に調整部材36としての発泡ニッケルのシートを配置し、この調整部材36の上に電極群10を載置した。ここで、調整部材36としての発泡ニッケルのシートは、厚さが1mmであり、縦40mm、横40mmの正方形状をなしている。
【0091】
次いで、電極群10の上(空気極16の上)に撥水通気部材40を配設した。ここで、撥水通気部材40は、縦が45mm、横が45mm、厚さが0.1mmであるPTFE多孔膜42と、縦が40mm、横が40mm、厚さが0.2mmである不織布拡散紙44とが組み合わされて形成されている。
【0092】
次いで、容器本体6の開口部22を塞ぐように蓋8を被せた。このとき、蓋8の内面部28における通気路30、入側通気孔32及び出側通気孔34を含むエリアの全体が撥水通気部材40で覆われるように、当該エリアと撥水通気部材40とを密着させる。ここで、通気路30は、全体として1本のサーペンタイン形状をなしている。通気路30の横断面は、矩形状をなしており、当該矩形における縦寸法が1mm、横寸法が1mmである。この通気路30は、撥水通気部材40側が開放されている。
【0093】
容器本体6及び蓋8が組み合わされて形成された容器4については、その周端縁部46、48が連結具50、52により上下から挟みこまれる。なお、容器本体6と蓋8との接触部には、図示しない樹脂製のパッキンが配設されており、アルカリ電解液の漏れを防止する。
【0094】
次いで、電解液貯蔵部80にアルカリ電解液82として5mol/LのKOH水溶液を注入した。なお、このとき注入したKOH水溶液の量は50mLであった。
以上のようにして、図1に示すような電池2を製造した。
【0095】
なお、空気極16には空気極リード54が、負極12には負極リード56が、それぞれ電気的に接続されており、これら空気極リード54及び負極リード56は、容器4の気密性及び液密性を保持した状態でリード線の引出口24、26から容器4の外側へ適切に延びている。また、空気極リード54の先端には空気極端子58が取り付けられており、負極リード56の先端には負極端子60が取り付けられている。
【0096】
(実施例2)
洗浄工程において、2mol/Lの硝酸水溶液に未洗浄の前駆体の粉末を投入し、1時間撹拌して酸洗浄を施し、その後、硝酸水溶液から濾別した前駆体の粉末を75℃に保持したイオン交換水をかけて洗浄を行ったことを除いて、実施例1と同様にして空気水素二次電池を製造した。ここで、実施例2のビスマスルテニウム複合酸化物(空気極触媒)は、主相がBi2-xRu7-zのパイロクロア型結晶であることを確認でき、格子定数は10.33Åであった。また、焼成後のビスマスルテニウム複合酸化物における各元素のモル比はNa:Bi:Ru=1.9:39.7:58.5となった。そして、Na/Ru=0.03であり、Na/(Bi+Ru)=0.04であった。
【0097】
(比較例1)
洗浄工程及び乾燥工程を省略し、未洗浄の前駆体の粉末を対象に焼成工程を実施したことを除いて、実施例1と同様にして空気水素二次電池を製造した。なお、比較例1のBi2-xRu7-z触媒の格子定数は10.24Åであった。ここで、比較例1のビスマスルテニウム複合酸化物(空気極触媒)は、主相がBi2-xRu7-zのパイロクロア型結晶であることを確認でき、格子定数は10.24Åであった。また、焼成後のビスマスルテニウム複合酸化物における各元素のモル比はNa:Bi:Ru=12.4:38.2:49.4となった。そして、Na/Ru=0.25であり、Na/(Bi+Ru)=0.14であった。
【0098】
(比較例2)
共沈工程において、モル濃度比でRuが1.00に対し、Biが0.80となるように、Bi(NO・5HOと、RuCl・3HOとを計量したこと、洗浄工程及び乾燥工程を省略し、未洗浄の前駆体の粉末を対象に焼成工程を実施したことを除いて、実施例1と同様にして空気水素二次電池を製造した。ここで、比較例2のビスマスルテニウム複合酸化物(空気極触媒)は、主相がBi2-xRu7-zのパイロクロア型結晶であることを確認でき、格子定数は10.27Åであった。また、焼成後のビスマスルテニウム複合酸化物における各元素のモル比はNa:Bi:Ru=9.5:41.7:48.8となった。そして、Na/Ru=0.19であり、Na/(Bi+Ru)=0.10であった。
【0099】
2.空気水素二次電池の評価
【0100】
(1)電池特性評価
実施例1~2、及び比較例1~2の空気水素二次電池については、25℃の雰囲気下で、空気極端子58及び負極端子60を介して、0.1Itで10時間充電し、0.2Itで電池電圧が0.4Vになるまで放電することを1サイクルとする充放電を繰り返した。なお、負極容量の80%に相当する2000mAhを1.0Itとした。
【0101】
上記した充放電操作において、充電と放電との間、及び放電と充電との間には、それぞれ10分間の休止期間を設けた。そして、各サイクルにおいて、放電容量及び電池電圧を測定した。
【0102】
放電電圧が安定している1サイクル目の放電容量を基準放電容量とし、2サイクル目以降において、放電容量が上記した基準放電容量の半分の値になった時の電池電圧を放電中間電圧として記録した。得られたデータを表1に示した。
【0103】
なお、上記した充放電操作において、充放電に関わらず、入側通気孔32から空気を入れ、出側通気孔34から空気を排出するようにして、通気路30には、33mL/minの割合で常に空気を供給し続けた。
【0104】
【表1】
【0105】
(2)考察
表1より、格子定数と触媒中のナトリウムの割合との間には、負の相関がみられる。また、放電中間電圧は、ICDDに記載された標準的なBi2―xRu7-zの格子定数である10.28Å~10.30Åの範囲から外れると高くなり、特に、実施例2の10.33Åで最も高くなっていることがわかる。組成や結晶構造を一般的なBi2-xRu7-zからずらすことで、格子ひずみや酸素欠損を誘発させ、結晶格子内の酸素の移動が関与する触媒活性を向上させることができたと推測することができる。本実施例では、格子定数が増大したことにより酸素イオンの移動がより容易になったと推測することができる。
【0106】
<本発明の態様>
本発明の第1の態様は、ナトリウムを含んでいるビスマスルテニウム複合酸化物であって、パイロクロア型の結晶構造を有しており、前記結晶構造における格子定数が、10.33Å以上、10.47Å以下であるビスマスルテニウム複合酸化物からなる、空気二次電池用触媒である。
【0107】
この第1の態様によれば、従来よりも格子定数が大きいためパイロクロア型の結晶構造内の空間が広がり酸素イオンの移動が容易となり、結晶構造内の酸素イオンの移動が関与する触媒活性を向上させることができる。その結果、空気二次電池の充放電反応における過電圧を従来よりも低減させることができる。
【0108】
本発明の第2の態様は、上記した本発明の第1の態様において、前記ビスマスルテニウム複合酸化物に含まれるナトリウムとルテニウムとの比を表すNa/Ruが、0.11以下である、空気二次電池用触媒に関する。
【0109】
この第2の態様によれば、ビスマスルテニウム複合酸化物の結晶構造内に取り込まれているナトリウムが少ない状態となることにより、酸化反応に好影響を与え触媒活性がより高くなる。
【0110】
本発明の第3の態様は、空気極用基体と、前記空気極用基体に保持された空気極合剤と、を備えており、前記空気極合剤は、上記した本発明の第1の態様又は第2の態様の空気二次電池用触媒、及び前記空気二次電池用触媒を担持する触媒担持導電材を含んでいる、空気極に関する。
【0111】
この第3の態様によれば、触媒活性の高い空気二次電池用触媒を含んでいることから、充放電反応における過電圧をより低減させることができる。
【0112】
本発明の第4の態様は、上記した本発明の第3の態様において、前記触媒担持導電材が、ニッケルである、空気極に関する。
【0113】
この第4の態様によれば、空気極の導電性が向上する。
【0114】
本発明の第5の態様は、上記した本発明の第3の態様又は第4の態様において、前記空気極合剤が、撥水剤を更に含んでいる、空気極に関する。
【0115】
この第5の態様によれば、空気極の撥水性が向上し、三相界面が形成されやすくなり、良好な充放電反応が進行する。
【0116】
本発明の第6の態様は、上記した本発明の第5の態様において、前記撥水剤が、フッ素樹脂である、空気極に関する。
【0117】
この第6の態様によれば、撥水剤としてのフッ素樹脂は入手が容易であり、空気極の製造コスト削減に寄与する。
【0118】
本発明の第7態様は、上記した本発明の第6の態様において、前記フッ素樹脂が、ポリテトラフルオロエチレンである、空気極に関する。
【0119】
この第7の態様によれば、ポリテトラフルオロエチレンが機械的応力を受けることにより繊維化するので、空気極合剤の結着性が高まり、空気極の強度の向上に寄与する。
【0120】
本発明の第8の態様は、容器と、前記容器内に配設された電極群と、前記容器内に注入されたアルカリ電解液と、を備え、前記電極群は、セパレータを介して重ね合わされた空気極及び負極を含んでおり、前記空気極は、上記した本発明の第3~7の態様の何れかの空気極である、空気二次電池に関する。
【0121】
この第8の態様によれば、従来の空気二次電池よりも充放電時の過電圧が低減された空気二次電池が得られる。
【0122】
本発明の第9の態様は、前記負極は、水素吸蔵合金を含んでいる、上記した第3の態様の空気二次電池である。
【0123】
この第9の態様によれば、充放電時の過電圧が低減された空気水素二次電池が得られる。
【0124】
なお、本発明は上記した実施形態及び実施例に限定されるものではない。例えば、本発明は、空気水素二次電池に限定されるものではなく、負極に用いる金属として、Zn、Al、Mg、Liなどを用いた他の空気二次電池であっても構わない。これら他の空気二次電池においては、空気極での反応が、本実施形態の空気水素二次電池と同様であり、電池の過電圧の低減効果が同様に得られる。
【符号の説明】
【0125】
2 電池(空気水素二次電池)
4 容器
6 容器本体
8 蓋
10 電極群
12 負極
14 セパレータ
16 空気極(正極)
30 通気路
40 撥水通気部材
図1
図2