(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022138180
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】吸音材
(51)【国際特許分類】
G10K 11/168 20060101AFI20220915BHJP
G10K 11/16 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
G10K11/168
G10K11/16 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021037902
(22)【出願日】2021-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】591060980
【氏名又は名称】岡山県
(71)【出願人】
【識別番号】594073554
【氏名又は名称】三乗工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100187838
【弁理士】
【氏名又は名称】黒住 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100220892
【弁理士】
【氏名又は名称】舘 佳耶
(74)【代理人】
【識別番号】100205589
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 和将
(74)【代理人】
【識別番号】100194478
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 文彦
(72)【発明者】
【氏名】眞田 明
(72)【発明者】
【氏名】岩田 和大
(72)【発明者】
【氏名】小野 裕行
(72)【発明者】
【氏名】萩原 淳之
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 博文
(72)【発明者】
【氏名】中田 耕輔
【テーマコード(参考)】
5D061
【Fターム(参考)】
5D061AA04
5D061AA06
5D061AA16
5D061AA22
5D061AA26
5D061BB37
(57)【要約】 (修正有)
【課題】吸音材の厚さを抑えながらも、低周波数帯域を含む広い周波数帯域で優れた吸音効果を奏することのできる吸音材を提供する。
【解決手段】吸音材10は、通気性を有する吸音材本体11と、吸音材本体11の少なくとも一側の表面α
1に、非通気性を有し、吸音材本体11への入射音波を回折させる遮音部12とを有する。吸音材本体11の流れ抵抗は、10
7N・s/m
4以下とすることが好ましく、遮音部12の流れ抵抗は、10
8N・s/m
4以上とすることが好ましい。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
通気性を有する吸音材本体における少なくとも一側の表面に、非通気性を有し、吸音材本体への入射音波を回折させる遮音部を配したことを特徴とする吸音材。
【請求項2】
前記表面に、複数の遮音部が互いに隙間を隔てた状態で繰り返し配された請求項1記載の吸音材。
【請求項3】
吸音材本体の流れ抵抗が、107 N・s/m4以下であり、
遮音部の流れ抵抗が、108N・s/m4以上である
請求項1又は2記載の吸音材。
【請求項4】
遮音部の面密度が、0.01kg/m2以上とされた請求項1~3いずれか記載の吸音材。
【請求項5】
吸音材本体が、多孔質素材によって形成された請求項1~4いずれか記載の吸音材。
【請求項6】
遮音部が、吸音材本体における前記表面に取り付けられたパッチ状部材とされた請求項1~5いずれか記載の吸音材。
【請求項7】
遮音部が、吸音材本体における前記表面に塗布された塗料系材料によって形成された請求項1~5いずれか記載の吸音材。
【請求項8】
遮音部が、吸音材本体の前記表面に形成された溶融膜部である請求項1~5いずれか記載の吸音材。
【請求項9】
吸音材本体における前記表面の面積S1に対する、前記表面に配置された遮音部の合計面積S2の比S2/S1が、0.1以上とされた請求項1~8いずれか記載の吸音材。
【請求項10】
遮音部における吸音材本体とは反対側の表面を、通気性を有する吸音被覆材で被覆した請求項1~9いずれか記載の吸音材。
【請求項11】
請求項1~10いずれか記載の複数の吸音材を厚さ方向に重ねた重合タイプの吸音材。
【請求項12】
一の層を為す吸音材の遮音部と、当該一の層の上側に配された他の層を為す吸音材の遮音部とが、厚さ方向に重ならないように配された請求項11記載の重合タイプの吸音材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸音材に関する。
【背景技術】
【0002】
吸音材や吸音構造としては、これまでに各種のものが提案されている。例えば、
図1に示すように、ウレタンフォーム等の多孔質材料で形成した多孔質型の吸音材や、
図2に示すように、多数の孔を有する板で形成した孔あき板型の吸音材や、
図3に示すように、板の裏側に空気層を介在させた空気層介在型の吸音構造等が知られている(例えば、特許文献1~3を参照。)。これらの吸音材や吸音構造は、乗り物や、建築物や、道路施設等において採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-037582号公報
【特許文献2】特開2018-141839号公報
【特許文献3】特開2005-283703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、多孔質型の吸音材は、
図1の右側のグラフに示すように、高周波数帯域では、ある程度広い範囲で高い吸音率が得られるものの、低周波数帯域では、吸音率が低くなるという欠点を有していた。ただし、この多孔質型の吸音材でも、その厚さを大きくすれば、低周波数帯域における吸音率を高めることはできる。しかし、この場合には、厚さが制限されるアプリケーションではこの吸音材を採用しにくくなるという問題が生ずる。
【0005】
これに対して、孔あき板型の吸音材や、空気層介在型の吸音構造では、
図2及び
図3の右側のグラフに示すように、低周波数帯域で高い吸音率を得ることができる。しかし、孔あき板型の吸音材や、空気層介在型の吸音構造において、そのような高い吸音率が得られるのは、特定の周波数付近に限られるという欠点があった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために為されたものであり、吸音材の厚さを抑えながらも、低周波数帯域を含む広い周波数帯域で優れた吸音効果を奏することのできる吸音材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、通気性を有する吸音材本体における少なくとも一側の表面に、非通気性を有し、吸音材本体への入射音波を回折させる遮音部を配したことを特徴とする吸音材を提供することによって解決される。
【0008】
というのも、一般的な吸音材(例えば、上記の多孔質型の吸音材)では、その厚さが入射音波の波長の1/4に一致するときに、吸音率が高くなるところ、本発明の吸音材のように、通気性を有する吸音材本体の前記表面に、通気性を有さない遮音部を配することで、吸音材本体への入射音波が遮音部によって回折するようになる。このため、吸音材本体の内部における入射音波の経路長を長くし(吸音材本体の見掛けの厚さを大きくし)、吸音率が高くなる周波数帯域を低周波数側にシフトさせることができる。したがって、吸音材本体を厚くしなくても、低周波数から吸音することが可能になるからである。
【0009】
本発明の吸音材において、遮音部は、吸音材本体における少なくとも一側(音が入射する側)の表面に配すればよいが、吸音材本体における両側(音が入射する側及び音が透過する側)に配することもできる。以下においては、吸音材本体における、遮音部を配する側(又は遮音部を配した側)の表面を「遮音部配置表面」と呼ぶことがある。
【0010】
本発明の吸音材において、遮音部は、吸音材本体の遮音部配置表面の少なくとも1箇所に設けられていればよい。このように、1つの遮音部でも、上記の回折作用が得られるので、吸音率が高くなる周波数帯域を低周波数側にシフトさせることができるからである。ただし、複数個所に遮音部を設けた方が、吸音材本体の場所によらず均一な吸音効果が得られやすくなる。このため、遮音部は、吸音材本体の遮音部配置表面における複数個所に設けることが好ましい。この場合には、遮音部配置表面に、複数の遮音部を、互いに隙間を隔てた状態で繰り返し配置することがより好ましい。遮音部の寸法形状は、1種類又は複数種類で揃えてもよいし、遮音部ごとに異ならせてもよい。
【0011】
本発明の吸音材において、吸音材本体の流れ抵抗(通気抵抗)は、遮音部の流れ抵抗(通気抵抗)よりも低くなっている。吸音材本体の流れ抵抗(国際標準化機構による規格「ISO 9053」又はアメリカ材料試験協会による規格「ASTM C522」に規定される方法で測定された流れ抵抗のこと。以下同じ。)は、107 N・s/m4以下とすることが好ましい。一方、遮音部の流れ抵抗は、108N・s/m4以上とすることが好ましい。吸音材本体の流れ抵抗が、上記の値(107 N・s/m4)よりも高いと、吸音材本体で音が反射しやすくなり、吸音材の吸音性能が低下するおそれがあり、遮音部の流れ抵抗が、上記の値(108N・s/m4)よりも低いと、遮音部の遮音性能が低下して、上記の回折が生じにくくなるおそれがあるからである。
【0012】
本発明の吸音材において、遮音部の面密度は、特に限定されない。しかし、一般的に、面密度が低い材料は遮音性が低い。このため、遮音部の面密度が低いと、上述したような効果(吸音率が高くなる周波数帯域を低周波数側にシフトさせる効果)が奏されにくくなるおそれがある。したがって、遮音部の面密度は、0.01kg/m2以上とすることが好ましい。後述するように、遮音部は、吸音材本体に一体化する場合と一体化しない場合とがあるところ、遮音部を吸音材本体に一体化しない場合には、遮音部の面密度は、0.1kg/m2以上とすることがより好ましい。
【0013】
ここで、「遮音部を吸音材本体に一体化する」とは、遮音部と吸音材本体とが一体となって振動するように、遮音部を吸音材本体に一体化させることをいう。これに対し、「遮音部を吸音材本体に一体化しない」とは、遮音部を吸音材本体に密着(接触)させるか否かにかかわらず、遮音部と吸音材本体とが一体となって振動せず、それぞれが独立に振動する状態(付いたり離れたりしてお互いの振動に影響を及ぼさない状態。理想的には、遮音部と吸音材本体との間に薄い空気層(無限小の厚みの空気層)があるものとして考えることができる状態)で遮音部と吸音材本体とを設けることをいう。
【0014】
本発明の吸音材において、吸音材本体を形成する素材は、所望の通気性(吸音性)を有するのであれば、特に限定されない。吸音材本体を形成する素材(通気性を有する素材)としては、多孔質材料を挙げることができる。多孔質材料としては、ウレタンフォームやポリエチレンフォーム等の発泡樹脂(連通気泡型のもの)や、化学繊維フェルトや天然繊維フェルト等の不織布が例示される。「不織布」の概念には、グラスウールやロックウールも含まれる。
【0015】
本発明の吸音材において、遮音部を形成する素材は、所望の非通気性(遮音性)を有するのであれば、特に限定されない。遮音部は、吸音材本体における前記表面に取り付けられたパッチ状部材(面状のものだけでなく、細長い帯状のもの等も含む。)とすることができる。また、遮音部は、吸音材本体における前記表面に塗布された塗料系材料によって形成することもできる。さらに、遮音部は、吸音材本体の前記表面に形成された溶融膜部とすることもできる。
【0016】
本発明の吸音材において、吸音材本体の遮音部配置表面にどの程度の割合で遮音部を設けるかは、特に限定されない。しかし、遮音部を設ける割合が小さすぎると、上述した回折現象が生じにくくなるおそれがある。このため、吸音材本体における遮音部配置表面の面積S1に対する、同遮音部配置表面に配置された遮音部の合計面積S2の比S2/S1は、0.1以上とすることが好ましい。
【0017】
本発明の吸音材においては、遮音部における吸音材本体とは反対側の表面を、通気性を有する吸音被覆材で被覆することも好ましい。これにより、吸音率が高くなる周波数帯域をさらに低周波数側にシフトさせるだけでなく、高周波数帯域での吸音率も改善することができ、より広い周波数帯域で吸音効果が得られるようになる。吸音被覆材は、上述した吸音材本体と同様の素材で形成することができる。吸音被覆材は、厚手のもの(吸音材本体と同程度の厚みを有するもの)としてもよいし、薄手のもの(膜状のもの)としてもよい。
【0018】
上述した本発明の吸音材は、それを厚さ方向に複数重ねて、重合タイプの吸音材とすることもできる。これにより、吸音率が高くなる周波数帯域をさらに低周波数側にシフトさせる等、より広い周波数帯域で吸音効果が得られるようになる。重合タイプの吸音材においては、一の層を為す吸音材の遮音部と、当該一の層の上側に配された他の層を為す吸音材の遮音部とが、厚さ方向に重ならないように配することも好ましい。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明によって、吸音材の厚さを抑えながらも、低周波数帯域を含む広い周波数帯域で優れた吸音効果を奏することのできる吸音材を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】従来の多孔質型の吸音材の外観と、その吸音特性を示した図である。
【
図2】従来の孔あき板型の吸音材の外観と、その吸音特性を示した図である。
【
図3】従来の空気層介在型の吸音材の構造と、その吸音特性を示した図である。
【
図4】第一実施形態の吸音材の外観を示した斜視図である。
【
図5】第一実施形態の吸音材をその表面に垂直な断面で切断した状態を示した断面図である。
【
図6】第一実施形態の吸音材の外観を撮影した写真である。
【
図7】第二実施形態の吸音材の外観を示した斜視図である。
【
図8】第三実施形態の吸音材の外観を示した斜視図である。
【
図9】第四実施形態の吸音材の外観を示した斜視図である。
【
図10】第五実施形態の吸音材の外観を示した斜視図である。
【
図11】第六実施形態の吸音材の外観を示した斜視図である。
【
図12】第七実施形態の吸音材の外観を示した斜視図である。
【
図13】第八実施形態の吸音材の外観を示した断面図である。
【
図14】第九実施形態の吸音材の外観を示した断面図である。
【
図15】第十実施形態の吸音材の外観を示した断面図である。
【
図16】第十一実施形態の吸音材の外観を示した断面図である。
【
図17】第十二実施形態の吸音材の外観を示した断面図である。
【
図18】第十三実施形態の吸音材の外観を示した断面図である。
【
図19】第十四実施形態の吸音材の外観を示した断面図である。
【
図20】第十五実施形態の吸音材の外観を示した断面図である。
【
図21】第十六実施形態の吸音材の外観を示した断面図である。
【
図22】第十七実施形態の吸音材の外観を示した断面図である。
【
図23】第十八実施形態の吸音材の外観を示した断面図である。
【
図24】数値解析1で用いた吸音材の有限要素モデルを示した図である。
【
図25】数値解析1で求めた音圧分布及び粒子速度分布を示した図である。
【
図26】実験1で用いた垂直入射吸音率測定装置を音響管の中心線を含む平面で切断した状態を示した断面図である。
【
図27】実験1で用いた試料(比較例1及び実施例1.1~1.3の試料)を示した斜視図である。
【
図28】実験1で測定した、各試料(比較例1及び実施例1.1~1.3の試料)の垂直入射吸音率を示したグラフである。
【
図29】実験2で用いた試料(比較例2及び実施例2.1,2.2の試料)を撮影した写真である。
【
図30】実験2で測定した、各試料(比較例2及び実施例2.1,2.2の試料)の残響室法吸音率を示したグラフである。
【
図31】実験3で用いた試料(比較例3及び実施例3.1,3.2の試料)を示した断面図である。
【
図32】実験3で測定した、各試料(比較例3及び実施例3.1,3.2の試料)の残響室法吸音率を示したグラフである。
【
図33】数値解析2で定義した試料(実施例4.1~4.9の試料)を示した斜視図である。
【
図34】数値解析2で求めた、各試料(比較例4及び実施例4.1~4.9の試料)の垂直入射吸音率を示したグラフである。
【
図35】数値解析3で定義した試料(実施例5.1~5.5の試料)を示した斜視図である。
【
図36】数値解析3で求めた、各試料(比較例5及び実施例5.1~5.5の試料)の垂直入射吸音率を示したグラフである。
【
図37】実験4で用いた試料(比較例6及び実施例6.1,6.2の試料)を示した斜視図である。
【
図38】実験4で測定した各試料(比較例6及び実施例6.1,6.2の試料)の垂直入射吸音率を示したグラフである。
【
図40】遮音部のまた別の変形例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
1.本発明の吸音材
本発明の吸音材の好適な実施形態について、図面を用いてより具体的に説明する。以下においては、第一実施形態から第十八実施形態までの18の実施形態の吸音材を例に挙げて、本発明の吸音材を説明するが、本発明の吸音材に係る技術的範囲は、これらの実施形態に限定されない。本発明の吸音材は、発明の趣旨を損なわない範囲でその構成を適宜変更することができる。
【0022】
1.1 第一実施形態の吸音材
まず、第一実施形態の吸音材について説明する。
図4は、第一実施形態の吸音材10の外観を示した斜視図である。
図5は、第一実施形態の吸音材10をその表面α
1に垂直な断面で切断した状態を示した断面図である。
図6は、第一実施形態の吸音材10の外観を撮影した写真である。
【0023】
第一実施形態の吸音材10は、
図5に示すように、表面α
1側から吸音材本体11に入射する入射音波50を吸収するものとなっている。この吸音材10は、
図4~6に示すように、通気性(吸音性)を有する吸音材本体11と、非通気性(遮音性)を有する遮音部12とで構成されている。
【0024】
遮音部12は、吸音材本体11の表面α1,α2の両方に設けてもよいが、第一実施形態の吸音材10では、一方の表面α1のみに設けている。換言すると、吸音材本体11の一対の表面α1,α2のうち、入射音波50が入射する側の表面α1のみが、「遮音部配置表面」となっている。遮音部12は、吸音材本体11の表面α1の全領域を覆うように配するのではなく、表面α1側から見たときに、その表面α1の少なくとも一部の領域が露出するように、局所的に配される。
【0025】
遮音部12は、1つの吸音材10における遮音部配置表面α1につき、1箇所のみ設けてもよい。しかし、第一実施形態の吸音材10では、複数の遮音部12を、互いに隙間を隔てた状態で遮音部配置表面α1に繰り返し配している。このように、複数の遮音部12を繰り返し設けることによって、後述する回折現象が遮音部配置表面α1におけるあらゆる箇所で同等に生ずるようにし、吸音材10の全体で略均一な吸音特性を得ることが可能になる。
【0026】
第一実施形態の吸音材10では、
図5に示すように、表面α
1側から吸音材本体11に入射する入射音波50を遮音部12で回折させることができる。このため、吸音材本体11の内部における入射音波50の経路長を長くして、吸音材本体11の見掛けの厚さを大きくすることができる。
【0027】
既に述べたように、一般的な吸音材では、その厚さが入射音波の波長の1/4に一致するときに、吸音率が高くなるところ、第一実施形態の吸音材10をはじめ、本発明の吸音材10では、上記の回折現象によって、吸音材本体11の見掛けの厚さが大きくなるために、吸音率が高くなる周波数帯域を低周波数側にシフトさせることができる。したがって、吸音材本体11を厚くしなくても、低周波数帯域で効果的に吸音することができる。例えば、吸音材本体11の素材によっても異なるが、吸音材本体11の厚さを40mm以下や、30mm以下としても、低周波数帯域で効果的に吸音することが可能になる。
【0028】
吸音材本体11を形成する素材(通気性を有する素材)としては、ウレタンフォームやポリエチレンフォーム等の発泡樹脂(連通気泡型のもの)や、化学繊維フェルトや天然繊維フェルト等の不織布の多孔質材料を挙げることができる。吸音材本体11は、その形態を特に限定されない。
図4~6に示した吸音材10においては、吸音材本体11を、ウレタンフォームで形成した平板状部材としている。
【0029】
一方、遮音部12を形成する素材(非通気性を有する素材)としては、ゴム、樹脂又は金属等からなる板材又はシート材等を挙げることができる。遮音部12は、パッチ状部材として設けることもできるし、吸音材本体11の遮音部配置表面α
1に塗布された塗料系材料や、吸音材本体11の遮音部配置表面α
1に局所的に形成した溶融膜部の形で設けることもできる。遮音部12の形状(平面視形状)も、特に限定されず、四角形等の多角形のほか、円形や楕円形等、各種の形状を採用することができる。
図4~6に示した吸音材10においては、遮音部12を、ゴムで形成した正方形状(四角形状)のシート材としている。
【0030】
上述したように、吸音材本体11は、通気性を有する素材(流れ抵抗が小さい素材)で形成される。この点、吸音材本体11の吸音性を考慮すると、吸音材本体の流れ抵抗(通気抵抗)は、107 N・s/m4以下とすることが好ましい。吸音材本体の流れ抵抗は、106N・s/m4以下とすることがより好ましく、105N・s/m4以下とすることがさらに好ましい。
【0031】
ただし、吸音材本体の流れ抵抗を低くしすぎても、吸音材本体の吸音性能が低下するおそれがある。このため、吸音材本体の流れ抵抗は、10N・s/m
4以上とすることが好ましい。吸音材本体の流れ抵抗は、10
2N・s/m
4以上とすることがより好ましく、10
3N・s/m
4以上とすることがさらに好ましい。
図4~6で示した吸音材10では、吸音材本体11の流れ抵抗は、1.1×10
4N・s/m
4となっている。
【0032】
一方、遮音部12は、非通気性を有する素材(流れ抵抗が大きい素材)で形成される。この点、遮音部12における回折のしやすさを考慮すると、遮音部12の流れ抵抗(通気抵抗)は、10
8N・s/m
4以上とすることが好ましい。遮音部の流れ抵抗は、10
9N・s/m
4以上とすることがより好ましく、10
10N・s/m
4以上とすることがさらに好ましい。遮音部を完全に非通気の素材で形成すると、遮音部の流れ抵抗は無限大となる。
図4~6で示した吸音材10では、遮音部12の流れ抵抗は、5.62×10
8N・s/m
4(使用した測定器の測定限界値)以上となっている。
【0033】
吸音材本体11の音響特性は、特に限定されない。しかし、吸音材本体11のポロシティ(多孔度)が小さすぎると、流れ抵抗(通気抵抗)が高くなり、吸音材本体11に音波が侵入しなくなるため、吸音材本体11の吸音性を確保しにくくなる。このため、吸音材本体11のポロシティは、0.7以上とすることが好ましい。吸音材本体11のポロシティは、0.8以上とすることがより好ましく、0.9以上とすることがさらに好ましい。
【0034】
ただし、吸音材本体11のポロシティが1(全て空気の場合の値)に近すぎても、吸音材本体11の吸音性を確保しにくくなる。このため、吸音材本体11のポロシティは、0.999以下とすることが好ましい。吸音材本体11のポロシティは、0.998以下とすることがより好ましく、0.994以下とすることがさらに好ましい。
図4~6に示した吸音材10において、吸音材本体11のポロシティは、0.986となっている。
【0035】
一方、遮音部12の面密度は、遮音部12を吸音材本体11に一体化させるかさせないか等によっても異なり、特に限定されない。というのも、遮音部12の面密度が小さいと、音波により遮音部12が大きく振動し、振動から音が反対側に再放射されて、音が透過しやすくなり、遮音部12の遮音性を確保しにくくなるところ、遮音部12を吸音材本体11に一体化させない場合には、遮音部12の質量や剛性自体で遮音性を確保しなければならないため、遮音部12の面密度を大きくする必要が生じるのに対して、遮音部12を吸音材本体11に一体化させる場合には、吸音材本体11の質量や剛性によって遮音部12が振動しにくくなるため、遮音部12の面密度を小さくすることができるからである。
【0036】
以上のことを考慮すると、遮音部12を吸音材本体11に一体化させる場合には、遮音部の面密度は、0.01kg/m2以上とすることが好ましい。この場合において、遮音部の面密度は、0.05kg/m2以上とすることがより好ましく、0.1kg/m2以上とすることがさらに好ましい。
【0037】
一方、遮音部12を吸音材本体11に一体化させない場合には、0.1kg/m
2以上とすることが好ましい。この場合において、遮音部の面密度は、0.5kg/m
2以上とすることがより好ましく、1.0kg/m
2以上とすることがさらに好ましい。遮音部12の面密度の上限は、特に制限されないが、通常、50kg/m
2以下とされる。
図4~6に示した吸音材10において、遮音部12の面密度は、2.24kg/m
2となっている。
【0038】
既に述べたように、遮音部12は、吸音材本体11の遮音部配置表面α1に局所的に設けられる。吸音材本体11の遮音部配置表面α1にどの程度の割合で遮音部12を設けるかは、特に限定されない。しかし、遮音部12を設ける割合が小さすぎると、上述した回折現象が生じにくくなるおそれがある。このため、吸音率が高くなる周波数帯域を低周波数側にシフトさせにくくなる。
【0039】
したがって、吸音材本体11の遮音部配置表面α1の面積S1に対する、その遮音部配置表面α1に配置された遮音部12の合計面積S2の比S2/S1は、0.1以上とすることが好ましい。比S2/S1は、0.2以上とすることがより好ましく、0.3以上とすることがさらに好ましい。
【0040】
ただし、比S2/S1を大きくしすぎると、後述の実験結果でも説明するように、吸音率が高くなる周波数帯域は、低周波数側にシフトするものの、その周波数付近に先鋭な吸音ピークが1つ形成されるようになり、高い吸音率が得られる周波数の幅が狭くなる。これは、比S2/S1を大きくしすぎると、上述した回折現象が生じるのではなく、孔あき板吸音構造と同じヘルムホルツ共鳴が生じるためであると考えられる。したがって、比S2/S1は、ヘルムホルツ共鳴が生じない程度(例えば、0.99以下)に抑えることが好ましい。
【0041】
また、第一実施形態の吸音材10のように、複数の遮音部12を繰り返し配置する場合には、隣り合う遮音部12の隙間の幅も、吸音材10の吸音特性に影響を及ぼす。すなわち、この隙間が狭いと、必然的に、上記の比S2/S1が大きくなり、回折ではなく、上記のヘルムホルツ共鳴が生じるようになり、高い吸音率が得られる周波数の幅が狭くなるからである。
【0042】
したがって、隣り合う遮音部12の隙間の幅は、通常、1mm以上とされる。隣り合う遮音部12の隙間の幅は、3mm以上とすることが好ましく、5mm以上とすることがより好ましい。隣り合う遮音部12の隙間の幅に特に上限はないが、通常、100~300mm程度までである。
【0043】
さらに、後述の実験結果でも説明するように、遮音部12の寸法も、吸音材10の吸音特性に影響を及ぼす。すなわち、それぞれの遮音部12の寸法が大きくなると、より低周波数から効果的に吸音できるようになる。このため、それぞれの遮音部12の寸法は、ある程度大きくした方が好ましい。
【0044】
遮音部12の具体的な寸法は、遮音部12の素材や形状等によっても異なるが、それぞれの遮音部12の差し渡し(等価円直径)は、通常、10mm以上に設定される。それぞれの遮音部12の差し渡しは、20mm以上とすることが好ましく、30mm以上とすることがより好ましく、40mm以上とすることがさらに好ましい。それぞれの遮音部12の差し渡しに上限は特にないが、通常、500mm程度までである。
【0045】
1.2 第二実施形態の吸音材
続いて、第二実施形態の吸音材について説明する。
図7は、第二実施形態の吸音材の外観を示した斜視図である。上述した第一実施形態の吸音材10(
図4)では、遮音部12を四角形状としていたところ、第二実施形態の吸音材10では、
図7に示すように、遮音部12を円形状としている。このように、遮音部12の形状は、四角形状以外の形状を採用することもできる。第二実施形態の吸音材10で特に言及しない構成については、第一実施形態の吸音材10で述べたものと同様の構成を採用することができる。
【0046】
1.3 第三実施形態の吸音材
続いて、第三実施形態の吸音材について説明する。
図8は、第三実施形態の吸音材の外観を示した斜視図である。上述した第一実施形態の吸音材10(
図4)や第二実施形態の吸音材10(
図8)では、遮音部12の形状が1種類のみとなっていたところ、第三実施形態の吸音材10では、
図8に示すように、遮音部12として、四角形状のものと円形状のものとを混在させている。このように、異なる形状の遮音部12を複数種類組み合わせることによって、回折する距離にバラツキを持たせることができ、一の周波数周辺だけでなく、複数の周波数周辺で吸音率が高くなるようにすることが可能になる。第三実施形態の吸音材10で特に言及しない構成については、他の実施形態の吸音材10で述べたものと同様の構成を採用することができる。
【0047】
1.4 第四実施形態の吸音材
続いて、第四実施形態の吸音材について説明する。
図9は、第四実施形態の吸音材の外観を示した斜視図である。上述した第一実施形態の吸音材10(
図4)や第二実施形態の吸音材10(
図8)では、遮音部12の寸法が1種類のみとなっていたところ、第四実施形態の吸音材10では、
図9に示すように、遮音部12として、様々な寸法のもの(大きな寸法を有するものや小さな寸法を有するもの)を混在させている。このように、異なる寸法の遮音部12を複数種類組み合わせることによっても、回折する距離にバラツキを持たせることができ、一の周波数周辺だけでなく、複数の周波数周辺で吸音率が高くなるようにすることが可能になる。第四実施形態の吸音材10で特に言及しない構成については、他の実施形態の吸音材10で述べたものと同様の構成を採用することができる。
【0048】
1.5 第五実施形態の吸音材
続いて、第五実施形態の吸音材について説明する。
図10は、第五実施形態の吸音材の外観を示した斜視図である。上述した第一実施形態から第四実施形態までの吸音材10(
図4及び
図7~9)では、複数の遮音部12が四角格子の格子点上に規則正しく配置されていたところ、第五実施形態の吸音材10では、
図10に示すように、複数の遮音部12が不規則(ランダム)に配置されている。第五実施形態の吸音材10で特に言及しない構成については、他の実施形態の吸音材10で述べたものと同様の構成を採用することができる。
【0049】
1.6 第六実施形態の吸音材
続いて、第六実施形態の吸音材について説明する。
図11は、第六実施形態の吸音材の外観を示した斜視図である。上述した第一実施形態から第五実施形態までの吸音材10(
図4及び
図7~10)では、パッチ状の遮音部12を2方向(縦方向及び横方向)に繰り返し配置していたところ、第六実施形態の吸音材10では、
図11に示すように、一の方向(縦方向)に帯状に延びる遮音部12を他の方向(横方向)に繰り返し配置している。隣り合う遮音部12は、略平行に配置しており、その隙間がスリット状に形成されている。第六実施形態の吸音材10で特に言及しない構成については、他の実施形態の吸音材10で述べたものと同様の構成を採用することができる。
【0050】
1.7 第七実施形態の吸音材
続いて、第七実施形態の吸音材について説明する。
図12は、第七実施形態の吸音材の外観を示した斜視図である。上述した第一実施形態から第六実施形態までの吸音材10(
図4及び
図7~11)では、1つの吸音材本体11に複数の遮音部12を配置していたところ、第七実施形態の吸音材10では、
図12に示すように、1つの吸音材本体11につき遮音部12を1つのみ配置している。第七実施形態の吸音材10で特に言及しない構成については、他の実施形態の吸音材10で述べたものと同様の構成を採用することができる。
【0051】
1.8 第八実施形態の吸音材
続いて、第八実施形態の吸音材について説明する。
図13は、第八実施形態の吸音材の外観を示した断面図である。上述した第一実施形態から第七実施形態までの吸音材10(
図4及び
図7~12)では、遮音部12における吸音材本体11とは反対側の面には何も配置していなかったところ、第八実施形態の吸音材10では、
図13に示すように、遮音部12における吸音材本体11とは反対側の面に厚手の通気性材料(ウレタンフォーム等)からなる吸音被覆材13を配置している。これにより、後述する実験3で説明するように、高周波数帯域での吸音を改善することが可能になる。第八実施形態の吸音材10で特に言及しない構成については、他の実施形態の吸音材10で述べたものと同様の構成を採用することができる。
【0052】
1.9 第九実施形態の吸音材
続いて、第九実施形態の吸音材について説明する。
図14は、第九実施形態の吸音材の外観を示した断面図である。上述した第一実施形態から第七実施形態までの吸音材10(
図4及び
図7~12)では、遮音部12における吸音材本体11とは反対側の面には何も配置していなかったところ、第九実施形態の吸音材10では、
図14に示すように、遮音部12における吸音材本体11とは反対側の面に薄手の通気性材料(メルトブローン不織布等の不織布膜)からなる吸音被覆材13を配置している。これにより、後述する実験4で説明するように、より低周波数側から吸音をすることが可能になる。第九実施形態の吸音材10で特に言及しない構成については、他の実施形態の吸音材10で述べたものと同様の構成を採用することができる。
【0053】
1.10 第十実施形態の吸音材
続いて、第十実施形態の吸音材について説明する。
図15は、第十実施形態の吸音材の外観を示した断面図である。上述した第一実施形態から第九実施形態までの吸音材10(
図4及び
図7~14)のうち、第七実施形態の吸音材10(
図12)を除いたもの(複数の遮音部12を有するもの)においては、一の遮音部12に重なる吸音材本体11と、他の遮音部12に重なる吸音材本体11とが連続していたところ、第十実施形態の吸音材10では、
図15に示すように、一の遮音部12に重なる吸音材本体11と、他の遮音部12に重なる吸音材本体11とが分断されている。換言すると、遮音部12に重なる箇所周辺にのみ吸音材本体11を配置しており、遮音部12の隙間に重なる箇所には吸音材本体11を配置していない。第十実施形態の吸音材10で特に言及しない構成については、他の実施形態の吸音材10で述べたものと同様の構成を採用することができる。
【0054】
1.11 第十一実施形態の吸音材
続いて、第十一実施形態の吸音材について説明する。
図16は、第十一実施形態の吸音材の外観を示した断面図である。第十実施形態の吸音材10では、
図16に示すように、吸音材10の裏側(吸音材本体11の面α
2側)に空気層14を設けている。このように、吸音材10の面α
2側(透過側)には、空気層14を設けることもできる。第十一実施形態の吸音材10で特に言及しない構成については、他の実施形態の吸音材10で述べたものと同様の構成を採用することができる。
【0055】
1.12 第十二実施形態の吸音材
続いて、第十二実施形態の吸音材について説明する。
図17は、第十二実施形態の吸音材の外観を示した断面図である。上述した第十一実施形態の吸音材10(
図16)では、一の遮音部12に重なる吸音材本体11と、他の遮音部12に重なる吸音材本体11とが連続していたところ、第十二実施形態の吸音材10では、
図17に示すように、一の遮音部12に重なる吸音材本体11と、他の遮音部12に重なる吸音材本体11とが分断されている。換言すると、第十二実施形態の吸音材10は、第十一実施形態の吸音材10(
図16)に、第十実施形態の吸音材10(
図15)の構成を組み合わせたものとなっている。第十二実施形態の吸音材10で特に言及しない構成については、他の実施形態の吸音材10で述べたものと同様の構成を採用することができる。
【0056】
1.13 第十三実施形態の吸音材
続いて、第十三実施形態の吸音材について説明する。
図18は、第十三実施形態の吸音材の外観を示した断面図である。上述した第一実施形態から第十二実施形態までの吸音材10(
図4及び
図7~17)では、吸音材本体11の表側(音が入射する面α
1側)に遮音部12を設けていたところ、第十三実施形態の吸音材10では、
図18に示すように、吸音材本体11の裏側(音が透過する面α
2側)に遮音部12を設けている。第十三実施形態の吸音材10で特に言及しない構成については、他の実施形態の吸音材10で述べたものと同様の構成を採用することができる。
【0057】
1.14 第十四実施形態の吸音材
続いて、第十四実施形態の吸音材について説明する。
図19は、第十四実施形態の吸音材の外観を示した断面図である。上述した第十三実施形態の吸音材10(
図18)では、一の遮音部12に重なる吸音材本体11と、他の遮音部12に重なる吸音材本体11とが連続していたところ、第十四実施形態の吸音材10では、
図19に示すように、一の遮音部12に重なる吸音材本体11と、他の遮音部12に重なる吸音材本体11とが分断されている。換言すると、第十四実施形態の吸音材10は、第十三実施形態の吸音材10(
図18)に、第十実施形態の吸音材10(
図15)の構成を組み合わせたものとなっている。第十四実施形態の吸音材10で特に言及しない構成については、他の実施形態の吸音材10で述べたものと同様の構成を採用することができる。
【0058】
1.15 第十五実施形態の吸音材
続いて、第十五実施形態の吸音材について説明する。
図20は、第十五実施形態の吸音材の外観を示した断面図である。上述した第一実施形態から第十四実施形態までの吸音材10(
図4及び
図7~19)では、吸音材本体11が単層構造となっていたところ、第十五実施形態の吸音材10では、
図20に示すように、吸音材本体11が複層構造を有している。具体的には、流れ抵抗等の異なる複数種類の吸音材料11a,11b,11cを積層することで、吸音材本体11を構成している。
図20に示した例では、吸音材本体11を3層構造としているが、吸音材本体11は、2層とすることもできるし、4層以上とすることもできる。第十五実施形態の吸音材10で特に言及しない構成については、他の実施形態の吸音材10で述べたものと同様の構成を採用することができる。
【0059】
1.16 第十六実施形態の吸音材
続いて、第十六実施形態の吸音材について説明する。
図21は、第十六実施形態の吸音材の外観を示した断面図である。第十六実施形態の吸音材10では、
図21に示すように、吸音材本体11を複層構造にするとともに、吸音材10の裏側(吸音材本体11の面α
2側)に空気層14を設けている。換言すると、第十六実施形態の吸音材10は、第十五実施形態の吸音材10(
図20)に、第十一実施形態の吸音材10(
図16)の構成を組み合わせたものとなっている。第十六実施形態の吸音材10で特に言及しない構成については、他の実施形態の吸音材10で述べたものと同様の構成を採用することができる。
【0060】
1.17 第十七実施形態の吸音材
続いて、第十七実施形態の吸音材について説明する。
図22は、第十七実施形態の吸音材の外観を示した断面図である。第十七実施形態の吸音材は、
図22に示すように、吸音材本体11及び複数の遮音部12からなる吸音材10を、厚さ方向に2枚重ねた重合タイプのものとなっている。この第十七実施形態の吸音材のように、複数枚の吸音材10を重ねて配置することができる。これにより、より低周波数側から吸音を行うことが可能になる。吸音材10を重ねる枚数は、2枚に限定されず、3枚以上とすることもできる。第十七実施形態の吸音材で特に言及しない構成については、他の実施形態の吸音材10で述べたものと同様の構成を採用することができる。
【0061】
1.18 第十八実施形態の吸音材
続いて、第十八実施形態の吸音材について説明する。
図23は、第十八実施形態の吸音材の外観を示した断面図である。上述した第十七実施形態の吸音材(
図22)では、異なる層の吸音材10を構成する遮音部12同士が、吸音材10の厚さ方向で重なるように配されていたところ、第十八実施形態の吸音材では、
図23に示すように、異なる層の吸音材10を構成する遮音部12同士が、吸音材10の厚さ方向で重ならないように互い違いに配している。これにより、さらに低周波数側から吸音を行うことが可能になる。異なる層の吸音材10を構成する遮音部12は、一の方向(
図23の紙面に向かって左右方向)だけでなく、他の方向(同図の紙面に垂直な方向)でも互い違いに配することがより好ましい。第十八実施形態の吸音材で特に言及しない構成については、他の実施形態の吸音材10で述べたものと同様の構成を採用することができる。
【0062】
1.19 その他
以上で説明した第一実施形態から第十八実施形態の吸音材10では、いずれも、複数の遮音部12(パッチ状部材)が、互いに離隔して配されていたが、遮音部12で入射音波を回折することにより、上述した原理で、吸音する周波数帯域を低周波数側にシフトできるのであれば、これらの遮音部12は、互いに繋がった形態とすることもできる。
図39は、遮音部12の変形例を示した図である。
図40は、遮音部12のまた別の変形例を示した図である。
図39及び
図40に示した遮音部12は、方形部を市松模様状に繰り返し配置したものとなっている。
図39の遮音部12では、それぞれの方形部の角部頂点で点状に繋がった状態となっており、
図40の遮音部12では、それぞれの方形部の角部が僅かに重なる形で繋がった状態となっている。
図39及び
図40に示した例では、遮音部12を形成する単位を方形部としたが、遮音部12を形成する単位の形状は、方形以外(例えば、円形や楕円形等)とすることもできる。また、複数種類の形状を組み合わせて配置することもできる。
【0063】
2.数値解析及び実験
本発明の吸音材の有効性を確認するため、以下の数値解析1~4及び実験1~3を行った。
【0064】
2.1 数値解析1
まず、本発明の吸音材において、入射音波が吸音材本体の内部をどのように伝搬するのかを確認する数値解析1を行った。この数値解析1を含め、後述する数値解析2~3では、FEM(Finite Element Methоd:有限要素法)により行った。音響解析ソフトは、Siemens社製の「Simcenter3D」を用いた。
図24は、数値解析1で用いた吸音材の有限要素モデルを示した図である。数値解析1では、吸音材本体の厚さを20mmに設定した場合と、60mmに設定した場合との2つの場合について行った。
【0065】
図25に、数値解析1で求めた音圧分布及び粒子速度分布を示す。
図25(a),(b)は、吸音材本体の厚さを20mmにしたときの結果を示し、このうち、
図25(a)は音圧分布を、
図25(b)は粒子速度分布をそれぞれ示している。また、
図25(c),(d)は、吸音材本体の厚さを60mmにしたときの結果を示し、このうち、
図25(c)は音圧分布を、
図25(d)は粒子速度分布をそれぞれ示している。
図25を見ると、遮音部の縁で入射音波が回折し、遮音部の裏側に回り込んでいることが分かる。また、吸音材本体の厚さが大きい場合(
図25(d))よりも、吸音材本体の厚さが小さい場合(
図25(b))の方が、回折具合が大きくなることも分かる。既に述べたように、本発明の吸音材で低周波数から吸音できるようになる理由として、吸音材本体への入射音波が遮音部で回折することで、吸音材本体の内部における入射音波の経路長を長くなることを挙げていたところ、この現象が数値解析1の結果から裏付けられた。
【0066】
2.2 実験1
続いて、本発明に係る吸音材の垂直入射吸音率を測定する実験1を行った。
図26は、実験1で用いた垂直入射吸音率測定装置を音響管の中心線を含む平面で切断した状態を示した断面図である。
図26に示すように、内径100mmの円筒型の音響管の内部における中途部分に円盤状の試料(吸音材)を配置し、音響管の一端部に設けた音源から試料(吸音材)に対して音波を垂直に入射させ、音源と試料(吸音材)との間に配置したマイクで反射波の強度を検出することにより、試料(吸音材)の反射率を求め、垂直入射吸音率を算出した。
【0067】
図27は、実験1で用いた試料(比較例1及び実施例1.1~1.3の試料)を示した斜視図である。
図27に示すように、本発明に係る吸音材(実施例1.1~1.3の試料)は、いずれも、外径が100mmで厚さが20mmの円盤状を為す吸音材本体と、吸音材本体における片面(音波が入射する側の面)の中心部に設けられた円形状の遮音部とで構成している。遮音部の直径は、実施例1.1の試料では40mm、実施例1.2の試料では60mm、実施例1.3の試料では80mmとなっている。吸音材本体は、ウレタンフォームで形成しており、遮音部は、ゴムシートで形成している。実験1では、本発明の吸音材の有効性を確認するため、遮音部を設けていない比較例1の試料についても同様の測定を行った。比較例1の試料における吸音材本体の寸法や素材は、実施例1.1~1.3で用いた吸音材本体と同じである。
【0068】
図28に、実験1で測定した、各試料(比較例1及び実施例1.1~1.3の試料)の垂直入射吸音率のグラフを示す。
図28を見ると、比較例1の試料よりも、本発明に係る吸音材(実施例1.1~1.3の試料)の方が、低周波数帯域での吸音率が高くなっていることが分かる。このことから、本発明の吸音材が、低周波数帯域から吸音できるものであることが分かった。また、
図28からは、遮音部の直径が40mmの実施例1.1の試料よりも、遮音部の直径が60mmの実施例1.2の試料の方が低周波数帯域から吸音しており、さらに、遮音部の直径が60mmの実施例1.2の試料よりも、遮音部の直径が80mmの実施例1.3の試料の方が低周波数帯域から吸音していることも分かる。このことから、遮音部の寸法を大きくすることでより低周波数帯域から吸音できることも分かった。
【0069】
2.3 実験2
続いて、本発明に係る吸音材の残響室法吸音率を測定する実験2を行った。実験2における残響室法吸音率の測定は、JISA1409「残響室法吸音率の測定方法」に規格化された方法に準拠して行った。
【0070】
図29は、実験2で用いた試料(比較例2及び実施例2.1,2.2の試料)を撮影した写真である。本発明に係る吸音材(実施例2.1及び実施例2.2の試料)は、面積が4m
2(=2m×2m)で厚さが20mmのウレタンフォームからなる吸音材本体の片面に、ゴム製の複数の遮音部を四角格子の格子点上に配置したものである。実施例2.1の試料において、それぞれの遮音部は、80mm×80mmの正方形状を為しており、実施例2.2の試料において、それぞれの遮音部は、200mm×200mmの正方形状を為しいている。遮音部の個数及び隙間は、実施例2.1及び実施例2.2の試料において、上記の比S
2/S
1が0.64で等しくなるように設定した。実験2では、遮音部を設けていないこと以外は、実施例2.1及び実施例2.2の試料と同一条件の比較例2の試料についても同様の測定を行った。
【0071】
図30に、実験2で測定した、各試料(比較例2及び実施例2.1,2.2の試料)の残響室法吸音率のグラフを示す。
図30の結果からも、本発明に係る吸音材(実施例2.1及び実施例2.2の試料)の方が、低周波数帯域から吸音できていることが分かる。また、実施例2.1及び実施例2.2の試料についての測定結果の比較から、比S
2/S
1を一定とした場合でも、それぞれの遮音部の寸法を大きくした方が、低周波数帯域から吸音できることが分かった。なお、
図30では吸音率が1を超えている(入射音のエネルギーよりも吸収されたエネルギーが大きい)ところ(例えば、実施例2.1における、1000Hz、1250Hz及び1600Hz帯域)があるが、これは、試験体面積が規格で規定された10m
2よりも小さいために生じる面積効果が原因である。大きな試験体で測定を行えば、吸音率は、この測定値より小さくなるが、試験体間の大小関係は変わらないと考えられる。
【0072】
2.4 実験3
続いて、実験2と同様の残響室吸音率を、ウレタンフォーム(吸音材本体又は吸音被覆材)を2枚重ねた試料についても測定する実験3を行った。
図31は、実験3で用いた試料(比較例3及び実施例3.1及び実施例3.2の試料)を示した断面図である。実施例3.1の試料は、吸音材本体を、厚さ20mmのウレタンフォームを2枚重ねて構成し、当該吸音材本体における表層に、200mm×200mmの正方形状を為す遮音部を四角格子の格子点上に配置したものである。また、実施例3.2の試料は、厚さ20mmのウレタンフォームからなる1枚の吸音材本体の表層に、200mm×200mmの正方形状を為す遮音部を四角格子の格子点上に配置するとともに、遮音部における吸音材本体とは反対側の表面を、厚さ20mmのウレタンフォームからなる1枚の吸音被覆材で覆ったものである。この実施例3.2の試料は、2枚のウレタンフォームの間(中間層)に遮音部を配置したものと捉えることもできる。さらに、比較例3の試料は、実施例3.1の試料から遮音部を取り除いたものである。
【0073】
図32に、実験3で測定した、各試料(比較例3及び実施例3.1,3.2の試料)の残響室法吸音率のグラフを示す。
図32を見ると、遮音部を表層に配置した実施例3.1の試料よりも、遮音部を中間層に配置した実施例3.2の試料の方が、高周波数帯域での吸音率が改善していることが分かる。このことから、遮音部における吸音材本体とは反対側の表面を、通気性を有する吸音被覆材で被覆すること(吸音性を有する材料で遮音部を挟み込んだ構造とすること)によって、低周波数帯域から高周波数帯域に至るまでの広い範囲で優れた吸音効果が奏されることが分かった。
【0074】
2.5 数値解析2
続いて、垂直入射吸音率に対する比S
2/S
1の依存性を確認する数値解析2を行った。
図33は、数値解析2で定義した試料(実施例4.1~4.9の試料)を示した斜視図である。実施例4.1~4.9の試料において、遮音部は、いずれも、100mm×100mmの正方形状で定義しており、吸音材本体は、いずれも、厚さ20mmの繊維系吸音材料で定義している。実施例4.1~4.9の試料においては、遮音部の面積を一定としながらも、吸音材本体の面積を変化させることで、比S
2/S
1を異なるものとした。比S
2/S
1の値は、実施例4.1の試料で約0.995、実施例4.2の試料で約0.990、実施例4.3の試料で約0.980、実施例4.4の試料で約0.943、実施例4.5の試料で約0.907、実施例4.6の試料で約0.640、実施例4.7の試料で約0.503、実施例4.8の試料で約0.401、実施例4.9の試料で約0.200となっている。比較例4の試料は、実施例4.1の試料から遮音部を取り除いたものとなっている。
【0075】
図34に、数値解析2で求めた、各試料(比較例4及び実施例4.1~4.9の試料)の垂直入射吸音率のグラフを示す。
図34を見ると、比S
2/S
1が小さくなればなるほど、低周波数帯域を含むより広い周波数帯域で吸音効果が生じていることが分かる。具体的には、比S
2/S
1が0.990未満の実施例4.3~4.9の試料において、比較的広い周波数帯域で吸音効果が得られている。一方、比S
2/S
1が大きい場合(例えば、比S
2/S
1が0.990以上の実施例4.1及び実施例4.2の試料)では、周波数帯域においては、優れた吸音効果が得られるものの、そのような効果が得られる周波数の幅は狭くなることが分かった。その理由は、比S
2/S
1を大きしていくと、上述した回折現象による効果よりも、ヘルムホルツ共鳴による影響が強く表われるからであると考えられる。
【0076】
2.6 数値解析3
続いて、比S
2/S
1を一定としたときの、垂直入射吸音率に対する遮音部及び吸音材本体の寸法の依存性を確認する数値解析3を行った。
図35は、数値解析3で定義した試料(実施例5.1~5.5の試料)を示した斜視図である。実施例5.1~5.5の試料においては、比S
2/S
1を0.5で一定としている。吸音材本体はいずれも、厚さ80mmの繊維系吸音材料で定義した。ただし、遮音部及び吸音材本体の寸法は、実施例5.1の試料から実施例5.5の試料にかけて、段階的に大きくしている。すなわち、実施例5.1の試料においては、遮音部の寸法を100mm×100mmとし、実施例5.2の試料においては、遮音部の寸法を150mm×150mmとし、実施例5.3の試料においては、遮音部の寸法を200mm×200mmとし、実施例5.4の試料においては、遮音部の寸法を300mm×300mmとし、実施例5.5の試料においては、遮音部の寸法を500mm×500mmとしている。これらの寸法の遮音部のもと、比S
2/S
1が0.5となるように吸音材本体の寸法を調整している。比較例5の試料は、実施例5.1の試料から遮音部を取り除いたものとなっている。
【0077】
図36に、数値解析3で求めた、各試料(比較例5及び実施例5.1~5.5の試料)の垂直入射吸音率のグラフを示す。
図36を見ると、比S
2/S
1が一定である場合においては、遮音部及び吸音材本体の寸法が大きくなるほど、吸音効果が得られる周波数帯域が低周波数側にシフトすることが分かる。その理由は、既に述べたように、一般的な吸音材では、その厚さが入射音波の波長の1/4に一致するときに、吸音率が高くなり、吸音材本体の表面に遮音部を配した本発明の吸音材では、遮音部の縁部で生じる回折現象によって、吸音材本体の内部における入射音波の経路長を長くする(吸音材本体の見掛けの厚さが大きくなる)ことで、吸音率が高くなる周波数帯域を低周波数側にシフトさせるところ、遮音部の寸法が大きくなると、回折する距離が長くなり、吸音材本体の見掛けの厚さが大きくなるためと考えられる。
【0078】
2.7 実験4
最後に、遮音部における吸音材本体とは反対側の表面に、吸音被覆材として不織布膜を配した場合の吸音効果について確認する実験4を行った。
図37は、実験4で用いた試料(比較例6及び実施例6.1,6.2の試料)を示した斜視図である。実施例6.1の試料は、厚さ20mmの円盤状を為すウレタンフォームからなる吸音材本体の片面の中心部に、直径80mmの円形を為す遮音部を設けたものとなっている。実施例6.2の試料は、実施例6.1の試料における、遮音部のさらに上側(遮音部における吸音材本体とは反対側の表面)を、不織布膜(メルトブローン不織布)からなる吸音被覆材で覆ったものとなっている。比較例6の試料は、実施例6.1の試料から遮音部を取り除いたものとなっている。
【0079】
図38に、実験4で測定した各試料(比較例6及び実施例6.1,6.2の試料)の垂直入射吸音率のグラフを示す。
図38を見ると、不織布膜からなる吸音被覆材を有さない実施例6.1の試料よりも、不織布膜からなる吸音被覆材を有する実施例6.2の試料の方が、低周波数側から優れた吸音率が得られることが分かる。このことから、より低周波数側から優れた吸音率を得るためには、不織布膜からなる吸音被覆材で遮音部を覆うことが有効であることが分かった。
【符号の説明】
【0080】
10 吸音材
11 吸音材本体
11a 吸音材料
11b 吸音材料
11c 吸音材料
12 遮音部
13 吸音被覆材
14 空気層
20 壁
50 入射音波
α1 表面(遮音部配置表面)
α2 表面