(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022138230
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】半導体モジュール
(51)【国際特許分類】
H01L 25/07 20060101AFI20220915BHJP
H01L 23/28 20060101ALI20220915BHJP
H01L 23/34 20060101ALI20220915BHJP
H05K 5/00 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
H01L25/04 C
H01L23/28 K
H01L23/34 A
H05K5/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021037996
(22)【出願日】2021-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000233273
【氏名又は名称】株式会社 日立パワーデバイス
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】芦田 喜章
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 大助
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 康二
【テーマコード(参考)】
4E360
4M109
5F136
【Fターム(参考)】
4E360AA02
4E360AC03
4E360CA07
4E360ED22
4E360EE02
4E360GA26
4E360GB99
4E360GC08
4M109AA01
4M109BA04
4M109CA02
4M109DB10
4M109EA10
5F136BB04
5F136DA26
5F136DA28
5F136FA02
5F136FA15
5F136FA51
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ベースに接着する樹脂製ケースの接着位置のばらつきが少なく、ケースとベース接着部の応力を低減可能な半導体モジュールを提供する。
【解決手段】ベース2、絶縁基板、半導体チップ及びケース7を有する半導体モジュール1において、ベースは、板状のAlSiC材3と、それを被覆し、線膨張係数のより大きなAl材4と、で構成される。Al材4は、ベース角部に配置された広い第1の領域15と、ベース外周部に配置され、それよりも幅の狭い第2の領域16と、を有する。ケースは、ベース側面の一部を覆い接着されているとともに、線膨張係数は第1の材料よりも大きく、辺の中央から端部までの長さをL
1、第1の領域と第2の領域との境界までの長さをL
2としたとき、L
1-L
2が板厚よりも厚く、ベースとケースとを接着する接着材の角部側端部までの長さをL
3とした場合に、L
3≧L
2又はL
2-L
3≧L
1-L
2を満たす。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースと、
前記ベースに接合された絶縁基板と、
前記絶縁基板に接合された半導体チップと、
前記ベースに接着材により接着されたケースと、を有する半導体モジュールにおいて、
前記ベースは、板状の第1の材料と、前記第1の材料を被覆し、前記第1の材料よりも線膨張係数の大きい第2の材料と、で構成され、
前記ベースを平面視した場合に、前記第2の材料は、前記ベースの角部に配置された第1の領域と、前記ベースの外周部に配置され、前記第1の領域よりも幅の狭い第2の領域と、を有し、
前記ケースは、前記ベースの側面の少なくとも一部を覆い、少なくとも前記ベースの上面において前記接着材により前記ベースに接着されているとともに、前記ケースの線膨張係数は前記第1の材料の線膨張係数よりも大きく、
前記ベースの辺の中央から前記ベースの端部までの長さをL1、前記ベースの辺の中央から前記第1の領域と前記第2の領域との境界までの長さをL2としたとき、L1-L2が前記ベースの板厚よりも厚く、
前記ベースの辺の中央から前記ベースの側面における前記ベースと前記ケースとを接着する前記接着材の前記ベースの前記角部側の端部までの長さをL3とし、前記ベースの側面において前記接着材がない場合はL3=0とした場合に、L3≧L2またはL2-L3≧L1-L2を満たすことを特徴とする半導体モジュール。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体モジュールにおいて、
前記ベースの短辺側はL3≧L2を満たし、
前記ベースの長辺側はL2-L3≧L1-L2を満たすことを特徴とする半導体モジュール。
【請求項3】
請求項1に記載の半導体モジュールにおいて、
前記第1の材料は、AlSiCであり、
前記第2の材料は、Alであることを特徴とする半導体モジュール。
【請求項4】
請求項1に記載の半導体モジュールにおいて、
前記ベースの辺の中央から、前記ベースの側面と相対する前記ケースの端部までの長さは、前記L3と同じであることを特徴とする半導体モジュール。
【請求項5】
請求項1に記載の半導体モジュールにおいて、
前記ベースを平面視した場合に、前記第1の領域は、前記ベースの角部と前記ベースの角部以外の場所に互いに離間して配置されていることを特徴とする半導体モジュール。
【請求項6】
請求項5に記載の半導体モジュールにおいて、
前記第1の領域は、前記ベースの4つの角部と、前記ベースの2つの長辺の中央近傍に互いに離間して配置されており、
前記ベースの側面と相対する前記ケースは、前記ベースの長辺方向において、前記2つの長辺の中央近傍に配置された第1の領域を挟んで2つに分割して配置されていることを特徴とする半導体モジュール。
【請求項7】
請求項1に記載の半導体モジュールにおいて、
前記L3=0であり、前記ベースの側面において、前記ベースと前記ケースとの間に前記接着材はなく、
前記ケースは、前記ベースの上面において、前記接着材により前記ベースに接着されていることを特徴とする半導体モジュール。
【請求項8】
請求項1に記載の半導体モジュールにおいて、
前記ケースは、前記接着材を介して前記ベースの側面と相対する突起部を有し、
前記突起部は、前記ベースの側面の少なくとも一部を覆うように設けられていることを特徴とする半導体モジュール。
【請求項9】
請求項3に記載の半導体モジュールにおいて、
前記ケースの材料は、PBTまたはPPSであることを特徴とする半導体モジュール。
【請求項10】
請求項1に記載の半導体モジュールにおいて、
前記半導体チップは、IGBTが搭載された半導体チップであることを特徴とする半導体モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体モジュールの構造に係り、特に、IGBT等のパワー半導体チップを有する半導体モジュールの実装構造に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、風力発電等の発電システムや鉄道、さらには電気自動車、ハイブリッド自動車等に搭載される電力制御装置として、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等のパワー半導体チップを有する半導体モジュールの需要が拡大しており、製造ばらつきを抑制して製品品質を確保できるモジュール構造の開発が益々重要となっている。
【0003】
一方、IGBT等のパワー半導体チップを有する半導体モジュールは、使用される動作条件に応じて熱の上昇、下降が生じる。この熱の上昇、下降によって半導体モジュールの内部構造や実装構造は熱ストレスを受けて疲労、劣化が進む。
【0004】
そのため、半導体モジュールの信頼性評価試験の1つとして、ON/OFFを繰返すことによる電気的及び熱的ストレスの変化に対する耐性を評価するパワーサイクル試験(温度サイクル試験)が行われている。
【0005】
パワーサイクル試験(温度サイクル試験)では、パワー半導体チップに大きな電力を印加し、チップの自己発熱と冷却を繰り返すことで、線膨張係数が違う各部材の熱応力に対する耐性を評価する。チップや基板、はんだ、ボンディングワイヤ等の各部材のそれぞれの界面における接合信頼性や、チップやパッケージ樹脂の歪、クラックに対する耐久性評価に利用される。
【0006】
本技術分野の背景技術として、例えば、特許文献1のような技術がある。特許文献1には、「ケースの長辺方向L2と直行する辺の樹脂部肉厚t1を、モジュール短辺方向L1と直行する辺の樹脂部の肉厚t2より厚くする(L1<L2,t1>t2)ことで、モジュールとしての変形を抑制しつつ、部品としての精度も向上させ、さらに、樹脂ケース108と底面金属基板205との接着面積が確保でき温度サイクル等による樹脂ケース108と底面金属基板205との剥離の不良も発生しない」ことが記載されている。(特許文献1の段落[0032]等)
また、特許文献2には、「ベース板1とケース9とにより、絶縁基板3および半導体チップ5を収納するための容器状の筐体10を構成し、ケース9は、ベース板1、絶縁基板3および半導体チップ5の接合構造を収納可能とすべく、上記接合構造よりもZ方向に関する厚みを大きくする」ことが記載されている。(特許文献2の段落[0015]等)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002-164503号公報
【特許文献2】特開2018-10989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、現在のパワー半導体チップを有する半導体モジュールは、後述するように、IGBT等のパワー半導体チップが搭載されたセラミック製の絶縁基板が基板接合用はんだによってベース上に接合され、ベースの上面に樹脂製のケースが接着材と固定用ネジにより固定される実装構造が主流となっている。
【0009】
樹脂製のケースは、パワー半導体チップと絶縁基板を囲んでおり、ケースの内部には封止材であるシリコーンゲルが充填される。
【0010】
ベースには、銅(Cu)や炭化ケイ素粒子強化アルミ複合材(AlSiC)などの金属材料が用いられる。
【0011】
AlSiCは、その線膨張係数がセラミック製の絶縁基板の線膨張係数と同程度に小さいため、基板接合用はんだへの負荷を低減できる材料であり、熱伝導性にも優れるため、パワー半導体チップを有する半導体モジュールのベース材としてよく使用される。
【0012】
ベースの材質にAlSiCを採用する場合、一般的に、AlSiCの母材の上面及び側面にアルミニウム(Al)膜を被覆して用いられる。AlSiCを被覆するAl膜は、ベースの加工性及びはんだ濡れ性を確保するために使用される。
【0013】
しかしながら、Alと樹脂の線膨張係数は、AlSiCの線膨張係数よりも大きいため、パワーサイクル試験(温度サイクル試験)等の温度変動時に応力が発生し、ベースに接着する樹脂製ケースの接着位置のばらつき等の接着状態によっては、AlSiCを被覆するAl膜や母材であるAlSiCにき裂が発生する可能性があることが分かった。
【0014】
上記特許文献1及び特許文献2のいずれにも、上述したようなAlSiCを用いたベースでの温度変動に伴うき裂の問題やその解決手段に関する記載はない。
【0015】
そこで、本発明の目的は、パワー半導体チップを有する半導体モジュールにおいて、ベースに接着する樹脂製ケースの接着位置のばらつきが少なく、ケースとベース接着部の応力を低減可能な組立品質及び信頼性の高い半導体モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明は、ベースと、前記ベースに接合された絶縁基板と、前記絶縁基板に接合された半導体チップと、前記ベースに接着材により接着されたケースと、を有する半導体モジュールにおいて、前記ベースは、板状の第1の材料と、前記第1の材料を被覆し、前記第1の材料よりも線膨張係数の大きい第2の材料と、で構成され、前記ベースを平面視した場合に、前記第2の材料は、前記ベースの角部に配置された第1の領域と、前記ベースの外周部に配置され、前記第1の領域よりも幅の狭い第2の領域と、を有し、前記ケースは、前記ベースの側面の少なくとも一部を覆い、少なくとも前記ベースの上面において前記接着材により前記ベースに接着されているとともに、前記ケースの線膨張係数は前記第1の材料の線膨張係数よりも大きく、前記ベースの辺の中央から前記ベースの端部までの長さをL1、前記ベースの辺の中央から前記第1の領域と前記第2の領域との境界までの長さをL2としたとき、L1-L2が前記ベースの板厚よりも厚く、前記ベースの辺の中央から前記ベースの側面における前記ベースと前記ケースとを接着する前記接着材の前記ベースの前記角部側の端部までの長さをL3とし、前記ベースの側面において前記接着材がない場合はL3=0とした場合に、L3≧L2またはL2-L3≧L1-L2を満たすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、パワー半導体チップを有する半導体モジュールにおいて、ベースに接着する樹脂製ケースの接着位置のばらつきが少なく、ケースとベース接着部の応力を低減可能な組立品質及び信頼性の高い半導体モジュールを実現することができる。
【0018】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の比較例として示す半導体モジュールの下面図である。
【
図3】
図1の半導体モジュールのベース側面における応力を概念的に示す図である。
【
図4】本発明の実施例1に係る半導体モジュールの下面図である。
【
図6】本発明の実施例2に係る半導体モジュールの下面図である。
【
図8】
図6の半導体モジュールにおける接着領域と発生応力(GS)の関係を示す図である。
【
図10】本発明の実施例3に係る半導体モジュールの下面図である。
【
図11】本発明の実施例4に係る半導体モジュールの下面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。なお、各図面において同一の構成については同一の符号を付し、重複する部分についてはその詳細な説明は省略する。
【実施例0021】
先ず、
図1から
図3を参照して、本発明の対象となる半導体モジュールの基本構造とその課題について説明する。
図1は、本発明の比較例として示す半導体モジュールの下面図であり、
図2は、
図1のA-A’断面図である。
図3は、
図1の半導体モジュールのベース側面に発生する応力を概念的に示す図である。
【0022】
なお、半導体モジュールの各構成部品の詳細については、本発明の実施形態の記載において詳しく説明する。また、ここで説明する構成は、課題に係わる構成を除いて、本発明の各実施例にも共通する。ここで説明する構成と異なる構成については、各実施例において説明する。
【0023】
図1及び
図2に示すように、半導体モジュール1は、銅(Cu)や炭化ケイ素粒子強化アルミ複合材(AlSiC)等の金属材料からなる板状のベース2の上に、回路配線パターン20と下面導体層21とが形成されたセラミック製の絶縁基板22が基板接合用はんだ24によって接合されており、回路配線パターン20上に半導体チップ23がチップ接合用はんだ25によって接合されている。
【0024】
なお、図示しないが、半導体モジュール1には、外部と電気的に接続するための端子および金属ワイヤが備えられている。
【0025】
ベース2の上面には、PBT(Polybutylene Terephtalate)やPPS(Polyphenylene Sulfide)等の樹脂製のケース7が接着材8と固定用ネジ6により固定されている。ベース2には、半導体モジュール1を放熱用フィン(図示せず)に固定するための固定用穴5が設けられている。ケース7は、半導体チップ23を搭載した絶縁基板22を囲んでおり、ケース7の内部にはシリコーンゲル26が満たされている。更に、ケース7の上面には樹脂製のフタ27が備えられている。シリコーンゲル26による封止およびフタ27によって、半導体チップ23が保護されている。
【0026】
ここで、ベース2に対するケース7の接着位置ずれが発生した場合、シリコーンゲル26による封止が不完全となる可能性があるため、ケース7の接着位置決め精度を確保することは重要である。そのため、ケース7の4辺の下面側にケース突起部12を設け、ケース7のベース2への接着工程において、このケース突起部12をベース2の4辺の側面に相対するように設置し、ケース7の接着位置決め精度を確保している。したがって、ケース7は、
図2に示すように、接着材8の接着材上面部9及び接着材側面部10により、ベース2の上面及び側面と接着される。
【0027】
上述した本発明が解決しようとする課題について、上記の比較例を用いて詳しく説明する。
【0028】
ベース2の材質に、炭化ケイ素粒子強化アルミ複合材(AlSiC)が使用されている場合を想定する。
図1及び
図2に示すように、ベース2は、AlSiC材3と、AlSiC材3の上面および側面に被覆されたAl材4の2種類の材料で構成されている。
【0029】
AlSiCは、その線膨張係数が絶縁基板22の線膨張係数と同程度に小さいため、基板接合用はんだ24への負荷を低減できる材料である。更に、熱伝導性にも優れるため、パワー半導体チップを有する半導体モジュールのベース材としてよく使用される。AlSiC材3を被覆するAl材4は、ベース2の加工性及びはんだ濡れ性を確保するために使用されている。また、Al材4の線膨張係数は、AlSiC材3の線膨張係数よりも大きい。
【0030】
ここで、本願発明者らは、ケース7とベース2の側面との接着端部13が、Al材4のy方向寸法が広い領域15から狭い領域16に変化する境界14近傍の狭い領域16側に位置する場合、半導体モジュール1の温度が高温から低温に変化した際に、ベース2の側面に発生する応力が増大する可能性があることを見い出した。
【0031】
図3に、応力が増大するメカニズムを説明する模式図を示す。対称性を考慮して、半導体モジュール1の1/4モデルを示している。長辺または短辺のうち、例えば長辺側に着目すると、半導体モジュール1の温度が高温から低温に変化した場合、Al材4の幅(長辺側に着目した場合はy方向の長さ)が広くなっているAl材4の広い領域(第1の領域)15では、図中の矢印で示す通り、線膨張係数の大きいAl材4が収縮する。また、ベース2の側面と接着している線膨張係数の大きいケース7も収縮する。両部材の収縮により、接着端部13のAl材表面、すなわちAl材4の狭い領域(第2の領域)16に発生するx方向応力は増大すると考えられる。
【0032】
このメカニズムを検証するため、半導体モジュールを対象とした熱応力解析を実施した。解析モデルは、
図3に示す1/4モデルとし、温度条件は、高温=125℃から低温=-40℃に低下させる条件とした。ベース2の側面とケース7との接着有無の2つのケースについて解析を実施し、ベース2の側面に被覆されたAl材に発生する応力を比較評価した。接着端部13の位置は、
図3中に示す距離x
1が1mmの場合とした。
【0033】
その結果、側面接着ありの場合、Al材に発生する応力は接着端部13において最大値となることが確認できた。また、側面接着ありの場合の最大応力値は、側面接着なしの場合と比較して、約1.4倍に増加することが確認できた。本解析結果より、
図3に示した応力が増大するメカニズムは妥当と考えられる。
【0034】
したがって、パワーサイクル試験(温度サイクル試験)等の温度変動時に応力が発生し、ベース2に接着する樹脂製のケース7の接着位置のばらつき等の接着状態によっては、AlSiC材3を被覆するAl材4に応力の増大によるき裂が発生する可能性があることが分かる。
【0035】
次に、
図4及び
図5を参照して、本発明の実施例1に係る半導体モジュールについて説明する。
図4は、本実施例の半導体モジュールの下面図であり、
図5は、
図4のB-B’断面図である。
図4及び
図5は、上述した比較例の
図1及び
図2にそれぞれ相当する。
【0036】
図4及び
図5に示すように、本実施例の半導体モジュール1は、AlSiC材3およびAl材4からなる板状のベース2の上に、回路配線パターン20と下面導体層21とが形成されたセラミック製の絶縁基板22が基板接合用はんだ24によって接合されており、回路配線パターン20上に半導体チップ23がチップ接合用はんだ25によって接合されている。
【0037】
なお、図示しないが、半導体モジュール1には、外部と電気的に接続するための端子および金属ワイヤが備えられている。
【0038】
ベース2の上面には、PBTやPPS等の樹脂製のケース7が接着材8と固定用ネジ6により固定されている。ベース2には、半導体モジュール1を放熱用フィン(図示せず)に固定するための固定用穴5が設けられている。ケース7は、半導体チップ23を搭載した絶縁基板22を囲んでおり、ケース7の内部にはシリコーンゲル26が満たされている。更に、ケース7の上面には樹脂製のフタ27が備えられている。シリコーンゲル26による封止およびフタ27によって、半導体チップ23が保護されている。
【0039】
ケース7の4辺の下面側にはケース突起部12が設けられている。ケース突起部12は、ベース2の側面と相対しており、ベース2の側面の少なくとも一部を覆うように設けられている。これは、ケース7のベース2への接着工程において、このケース突起部12をベース2の4辺の側面に相対するように設置し、ケース7の接着位置決め精度を確保するためである。ケース7は、
図5に示すように、接着材8の接着材上面部9及び接着材側面部10により、ベース2の上面及び側面と接着される。
【0040】
ベース2について、詳細に説明する。
図4及び
図5に示すように、ベース2は、AlSiC材3と、AlSiC材3の少なくとも上面及び側面に被覆されたAl材4の2種類の材料で構成されている。AlSiCは、その線膨張係数が絶縁基板22の線膨張係数と同程度に小さいため、基板接合用はんだ24への負荷を低減できる材料である。更に、熱伝導性にも優れるため、パワー半導体チップを有する半導体モジュールのベース材としてよく使用される。
【0041】
AlSiCを被覆するAl膜は、ベースの加工性及びはんだ濡れ性を確保するために使用されている。また、Alの線膨張係数は、AlSiCの線膨張係数よりも大きい。
【0042】
長辺または短辺のうち、例えば長辺側に着目すると、ベース2を平面的に見た場合、Al材4は、ベース2の角部に配置されたAl材4の広い領域(第1の領域)15と、ベース2の外周部に配置され、Al材4の広い領域(第1の領域)15よりも幅(長辺側に着目した場合はy方向の長さ)が狭いAl材4の狭い領域(第2の領域)16とで構成されている。ベース2の角部には、ベース2を放熱用フィン(図示せず)に固定するための固定用穴5及びケース7を固定用ネジ6により固定するための穴を加工する必要があるため、加工性に優れた材質であるAl材4を用いている。
【0043】
次に、ベース2の側面とケース7の接着領域について、詳細に説明する。ケース7は、ベース2の側面の少なくとも一部を覆い、少なくともベース2の上面において接着材8を介してベース2に接着されている。
【0044】
本実施例の半導体モジュール1では、ベース2とケース7の接着端部13の位置を、
図4に示すように、ベース2の辺の中央からベース2の端部までの長さ(L1)、ベース2の辺の中央から第1の領域15と第2の領域16との境界までの長さ(L2)、ベース2の辺の中央からベース2の側面におけるベース2とケース7とを接着する接着材8(より具体的には接着材側面部10)の端部までの長さ(L3)、及びベース2の板厚を用いて規定している。
【0045】
本実施例では、L1とL2の差分(L1-L2)、すなわち、Al材4の広い領域(第1の領域)15のx方向の長さが、ベース2の板厚よりも大きくなるように、Al材4の広い領域(第1の領域)15を設けている。また、L3がL2以上(L3≧L2)となるように、接着端部13の位置を規定している。
【0046】
ここで、上述したように、半導体モジュール1の温度が高温から低温に変化した場合を考える。半導体モジュール1の温度が高温から低温に変化した場合、ベース2の側面と接着している線膨張係数の大きいケース7は、x方向に収縮する。しかし、接着端部13はAl材4の広い領域(第1の領域)15に位置しているので、Al材4の幅(長辺側に着目した場合はy方向の長さ)は広く、剛性が大きいため、ケース7の収縮による接着端部13でのAl材4の変形は小さく、発生する応力も抑制される。
【0047】
この効果を確認するため、上述した比較例での検討と同様に、本実施例の半導体モジュール1を対象とした熱応力解析を実施した。解析モデル、負荷条件などは、比較例と同一条件とし、接着端部13の位置をL3-L2=1mmの位置とした。
【0048】
その結果、側面接着ありの最大応力値は、側面接着なしの場合とほぼ同等であった。したがって、L3≧L2の条件を満足する本実施例では、接着端部13においてベース2(AlSiC材3及びAl材4)に発生する応力を抑制し、構造信頼性を向上させることが可能となる。
【0049】
なお、本実施例では、半導体モジュール1の長辺側(
図4のx方向側)の接着領域を対象として、ベース2、ケース7及び接着部の寸法の関係と、その効果を説明したが、半導体モジュール1の短辺側(
図4のy方向側)においても、同様の寸法関係とその効果の関係が成り立つ。
本実施例では、L1とL2の差分(L1-L2)、すなわち、Al材4の広い領域(第1の領域)15のx方向の長さが、ベース2の板厚よりも大きくなるように、Al材4の広い領域(第1の領域)15を設けている。また、L2とL3の差分(L2-L3)が、L1とL2の差分(L1-L2)以上(L2-L3≧L1-L2)となるように、接着端部13の位置を規定している。
ここで、上述したように、半導体モジュール1の温度が高温から低温に変化した場合を考える。半導体モジュール1の温度が高温から低温に変化した場合、Al材4の幅(長辺側に着目した場合はy方向の長さ)が広い領域15では、線膨張係数の大きいAl材4がx方向に収縮する。したがって、この収縮によって、ベース2の側面の丸印部の領域17をx方向に引っ張る応力が発生する。また、ベース2の側面と接着している線膨張係数の大きいケース7はx方向に収縮する。したがって、ベース2の側面の丸印部の領域18をx方向に引っ張る応力が発生する。
しかし、本実施例の場合、2つの領域17,18が十分に離れているため、発生する応力が重畳することがなく、ベース2の側面のAl材4の表面に発生する応力を抑制することが可能となる。
この効果を確認するため、上述した比較例での検討と同様に、本実施例の半導体モジュール1を対象とした熱応力解析を実施した。解析モデル、負荷条件などは、比較例と同一条件とし、接着端部13の位置を示すL2-L3をパラメータとした。
したがって、L2-L3≧L1-L2の条件を満足する本実施例では、接着端部13のベース2(AlSiC材3及びAl材4)に発生する応力を抑制し、構造信頼性を向上させることが可能となる。