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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022138310
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】移植機
(51)【国際特許分類】
   A01B 69/00 20060101AFI20220915BHJP
   A01C 11/02 20060101ALI20220915BHJP
   G05D 1/02 20200101ALI20220915BHJP
【FI】
A01B69/00 301
A01C11/02 322D
A01C11/02 331D
G05D1/02 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021038117
(22)【出願日】2021-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000001878
【氏名又は名称】三菱マヒンドラ農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】特許業務法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宇山 昌樹
【テーマコード(参考)】
2B043
2B062
5H301
【Fターム(参考)】
2B043AA04
2B043AB11
2B043BA02
2B043BB06
2B043DA15
2B043EA04
2B043EA16
2B043EA32
2B043EA35
2B043EB02
2B043EB12
2B043EC14
2B043ED27
2B043EE02
2B043EE05
2B062AA02
2B062AA08
2B062AB01
2B062BA22
2B062BA26
2B062BA62
2B062CA18
2B062CB01
5H301AA03
5H301BB01
5H301CC03
5H301CC10
5H301GG12
(57)【要約】
【課題】オペレータが正しい下降開始位置や植付開始位置で植付作業機の下降操作や植付クラッチの接続操作を容易に行うことが可能な移植機の提供。
【解決手段】乗用田植機が枕地において旋回開始されると、報知ブザーによる第三報知態様の報知が開始される(S65)。乗用田植機が第一の報知開始位置を超えた場合、報知ブザーによる第一報知態様の報知が実行される(S71)。乗用田植機が第二の報知開始位置を超えた場合、報知ブザーによる第二報知態様の報知が実行される(S69)。こうした報知ブザーによる報知に従って、オペレータは適切な下降開始位置での植付作業機の下降操作や、適切な植付開始位置での植付クラッチの接続操作を容易に行うことができ、例え植付自動制御時に位置ずれが生じても、オペレータはリカバリー操作を適切な位置(タイミング)で行い得る。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体と、前記走行機体に支持される植付作業機と、を備え、走行しながら前記植付作業機によって圃場へ苗を移植する移植機において、
前記走行機体を操向操作する操作手段と、
前記植付作業機へ供給する動力を断接する植付クラッチと、
前記植付作業機を昇降する昇降手段と、
前記走行機体の走行位置を検出する位置検出手段と、
報知手段と、
前記走行機体の旋回が開始されると前記植付クラッチを切断すると共に前記植付作業機を上昇させ、前記走行機体が第一走行位置に到達したときに前記植付作業機を下降させ、前記走行機体が前記第一走行位置より遠い第二走行位置に到達したときに前記植付クラッチを接続する植付自動制御と、前記報知手段を制御して報知を行う報知制御と、を実行可能な制御手段と、を備え、
前記報知制御は、前記走行機体が前記第一走行位置を含む第一走行領域を通過する間は第一報知態様で前記報知手段に報知させる第一報知処理と、前記走行機体が前記第二走行位置を含む第二走行領域を通過する間は第二報知態様で前記報知手段に報知させる第二報知処理と、前記植付自動制御の開始から終了までの間で且つ前記第一走行領域及び前記第二走行領域を通過していない間は前記第一報知態様及び前記第二報知態様とは異なる第三報知態様で前記報知手段に報知させる第三報知処理と、を含む、
ことを特徴とする移植機。
【請求項2】
前記制御手段は、前記植付自動制御が解除された場合、前記第三報知処理を終了する一方、前記第一報知処理及び前記第二報知処理を継続する、
ことを特徴とする請求項1に記載の移植機。
【請求項3】
前記報知手段は、前記第三報知態様として断続音を発生し、前記第一報知態様及び前記第二報知態様として連続音を発生する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の移植機。
【請求項4】
前記報知手段は、前記第三報知態様として第一発生周期の断続音を発生し、前記第一報知態様及び前記第二報知態様として前記第一発生周期よりも短い第二発生周期の断続音を発生する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の移植機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圃場を往復走行しながら苗を移植する移植機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圃場を往復走行しながら苗を移植する植付作業を行う際に、植付工程の終端で走行機体の旋回が開始された場合に、植付クラッチを切断して植付作業機を上昇させ、旋回が終了したら、次工程において下降開始位置で植付作業機を下降し、植付開始位置で植付クラッチを接続する一連の制御を自動的に行う移植機が提案されている(特許文献1)。特許文献1に記載の移植機では、走行機体の旋回が開始されてからの一連の制御を自動で行う場合に(植付自動制御と呼ぶ)、報知ブザーを短音で鳴らして植付自動制御中であることを作業者(オペレータと呼ぶ)に報知し、また報知ブザーを長音で鳴らして植付自動制御時の植付クラッチの自動接続を報知するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6361758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記の植付自動制御では走行機体の走行位置をドライブシャフトの回転数などから検出することから、車輪のスリップやオペレータによる旋回開始のタイミングなどの影響を受け、検出される走行機体の走行位置が実際の走行位置と異なることがある(位置ずれ)。それ故、実際の走行位置が下降開始位置や植付開始位置でないにも関わらず、植付作業機が下降され植付クラッチが接続されてしまうことが生じ得る。しかし、特許文献1に記載の移植機の場合、オペレータは植付クラッチの自動接続が行われるまで(報知ブザーが長音で鳴るまで)、下降開始位置や植付開始位置でない位置で植付作業機の下降や植付クラッチの接続が行われたことに気づき難い。そのため、オペレータは、手動により正しい下降開始位置や植付開始位置で植付作業機の下降や植付クラッチの接続を行う、所謂リカバリー操作を行うことが難しかった。
【0005】
本発明は上記点に鑑みてなされたもので、オペレータが正しい下降開始位置や植付開始位置で植付作業機の下降操作や植付クラッチの接続操作を容易に行うことが可能な移植機の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施態様に係る移植機(P)は、走行機体(1)と、前記走行機体に支持される植付作業機(3)と、を備え、走行しながら前記植付作業機によって圃場へ苗を移植する移植機において、
前記走行機体を操向操作する操作手段(20a)と、
前記植付作業機へ供給する動力を断接する植付クラッチ(8)と、
前記植付作業機を昇降する昇降手段(25)と、
前記走行機体の走行位置を検出する位置検出手段(55)と、
報知手段(61)と、
前記走行機体の旋回が開始されると前記植付クラッチを切断すると共に前記植付作業機を上昇させ、前記走行機体が第一走行位置(L1)に到達したときに前記植付作業機を下降させ、前記走行機体が前記第一走行位置より遠い第二走行位置(L2)に到達したときに前記植付クラッチを接続する植付自動制御と、前記報知手段を制御して報知を行う報知制御と、を実行可能な制御手段(50)と、を備え、
前記報知制御は、前記走行機体が前記第一走行位置を含む第一走行領域(LH)を通過する間は第一報知態様で前記報知手段に報知させる第一報知処理(S71)と、前記走行機体が前記第二走行位置を含む第二走行領域(LK)を通過する間は第二報知態様で前記報知手段に報知させる第二報知処理(S69)と、前記植付自動制御の開始から終了までの間で且つ前記第一走行領域及び前記第二走行領域を通過していない間は前記第一報知態様及び前記第二報知態様とは異なる第三報知態様で前記報知手段に報知させる第三報知処理(S65)と、を含む、
ことを特徴とする。
【0007】
前記制御手段(50)は、前記植付自動制御が解除された場合、前記第三報知処理を終了する一方、前記第一報知処理及び前記第二報知処理を継続する。
【0008】
前記報知手段(61)は、前記第三報知態様として断続音を発生し、前記第一報知態様及び前記第二報知態様として連続音を発生する。
【0009】
前記報知手段(61)は、前記第三報知態様として第一発生周期の断続音を発生し、前記第一報知態様及び前記第二報知態様として前記第一発生周期よりも短い第二発生周期の断続音を発生する。
【0010】
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これにより特許請求の範囲に記載の構成に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る本発明によると、オペレータは報知手段による異なる報知態様での報知に従って、適切な下降開始位置での植付作業機の下降操作や、適切な植付開始位置での植付クラッチの接続操作を容易に行うことが可能となる。したがって、植付自動制御時に車輪のスリップや旋回開始タイミングなどの影響により位置ずれが生じても、オペレータはリカバリー操作を適切に行い得る。
【0012】
請求項2に係る本発明によると、植付自動制御の解除に伴い第三報知態様での報知が終了しても、第一報知処理及び第二報知処理が継続されることから、オペレータは適切な下降開始位置での植付作業機の下降操作や、適切な植付開始位置での植付クラッチの接続操作を行うことができる。
【0013】
請求項3に係る本発明によると、第三報知態様として発生される音と、第一報知態様及び第二報知態様として発生される音が異なることから、オペレータは下降開始位置や植付開始位置を判断しやすくなる。
【0014】
請求項4に係る本発明によると、第三報知態様として発生される音と、第一報知態様及び第二報知態様として発生される音が異なることから、オペレータは下降開始位置や植付開始位置を判断しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態の乗用田植機を示す側面図。
図2】乗用田植機を示す平面図。
図3】油圧コントロール機構を示す側面図。
図4】作業機レバーを示す斜視図。
図5】制御部を示すブロック図。
図6】作業機制御処理を示すフロー図。
図7】作業機操作制御処理を示すフロー図。
図8】植付自動制御処理を示すフロー図。
図9】タイミング報知制御処理を示すフロー図。
図10】タイミング報知について説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に沿って、本実施形態の移植機について説明する。図1図2に示すように、移植機としての乗用田植機Pは、走行装置としての一対の前輪9及び一対の後輪10により支持される走行機体1を有しており、走行機体1の後部には、昇降リンク機構2を介して植付作業機3が連結されている。走行機体1と植付作業機3との間には、リフトシリンダ4が介設されており、リフトシリンダ4の油圧伸縮動作に応じて植付作業機3が昇降される。
【0017】
植付作業機3は、マット苗が載置される苗載台5、苗載台5から苗を掻取って圃場に植付ける植付機構6、圃場面を滑降するフロート7などを備えて構成されており、走行機体1から供給される植付動力で植付作業を行う。走行機体1の前部には、エンジン(図示せず)やトランスミッションが搭載されている。トランスミッションは、植付クラッチ8を有している。エンジンが出力する動力は、トランスミッションで変速されて前輪9及び後輪10に伝動されることに加えて、植付クラッチ8を介して植付作業機3にも伝動される。
【0018】
植付クラッチ8は、エンジンからの動力が植付作業機3へ供給されない切断状態と、エンジンからの動力が植付作業機3へ供給される接続状態とに切替えられて、植付作業機3に対する植付動力の伝動が断接される。なお、植付クラッチ8を切断状態から接続状態へ切替えることを植付クラッチ8の接続と呼び、植付クラッチ8を接続状態から切断状態へ切替えることを植付クラッチ8の切断と呼ぶ。
【0019】
走行機体1には、作業者(オペレータ)が乗車して操作する運転部17が配置されており、運転部17には運転席19及び操向装置20が配置されている。操向装置20は、操作手段としてのステアリングハンドル20a、操作レバー40(図4参照)、ステアリングコラム20b、タイロッド(図示せず)、及びステアリングコラム20bを軸方向を中心に回転させるステアリングモータ60(図5参照)を有し、オペレータによるステアリングハンドル20aの回転操作またはステアリングモータ60の駆動によりステアリングコラム20bが軸方向を中心に回転し、タイロッドを介して前輪9が操向されて、走行機体1の走行方位が変化する。植付作業機3の左右には使用位置及び格納位置に移動自在に線引きマーカ21が配置され、また走行機体1と植付作業機3の間には整地装置22が配置されている。
【0020】
また、走行機体1には、植付作業機3の昇降制御を行う油圧コントロール機構25(図3参照)が設けられている。図3に、昇降手段としての油圧コントロール機構25を示す。図3に示す油圧コントロール機構25は、植付クラッチ8やリフトシリンダ4(図1参照)の油圧制御バルブ(不図示)に連繋される作業機操作カム31、回動ピン33を中心に揺動し植付クラッチ8を断接するクラッチアーム35、作業機操作カム31の回動に伴い開閉する油圧コントロールバルブ29、及び作業機操作カム31の回転軸と同軸上に固定されて作業機操作カム31の回動位置を検出する作業機操作カムポテンショ32を備えている。
【0021】
作業機操作カム31は、作業機操作カムモータ30の駆動に基づいて、「上昇」、「固定」、「自動(下降)」、「植付」の各ポジションに回動操作され、各ポジションが作業機操作カムポテンショ32によって検出される。作業機操作カム31の回動に伴い油圧コントロールバルブ29が開閉されると、トランスミッションに設けられた油圧ポンプ(図示せず)の油圧を開放又は遮断することによりリフトシリンダ4が伸縮して、植付作業機3(図1参照)が昇降する。作業機操作カム31は、「上昇」ポジションでは植付作業機3を上昇させ、「固定」ポジションでは植付作業機3を任意の高さで固定し、「自動(下降)」ポジションでは植付作業機3をフロート7(図1参照)が接地するまで下降させる。なお、「自動(下降)」及び「植付」ポジションでは、フロート7による対地高さ検出に基づいた機械的な自動昇降制御が実行される。
【0022】
クラッチアーム35は、上端が作業機操作カム31の外周に追従し、作業機操作カム31の回動に伴って前後方向に揺動する。クラッチアーム35の揺動に伴い、作業機操作カム31が「上昇」、「固定」及び「下降(自動)」の各ポジションに位置している間は、植付クラッチ8が切断状態となり植付機構6(図1参照)は作動せず、「植付」ポジションに位置している間は、植付クラッチ8が接続状態となり植付機構6が作動可能となる。
【0023】
次いで、操作レバー40について、図4を用いて説明する。操作レバー40は、上下方向及び左右方向に揺動操作可能に構成され、図示しない付勢部材等によって中立位置に付勢され、上下方向又は左右方向に揺動操作された後は中立位置に復帰するように構成されている。図示を省略したが、操向装置20には操作レバー40による操作を、植付作業機3の上昇/下降に設定する上側/下側スイッチと、植付クラッチ8の断接に設定するスイッチと、マーカ21の姿勢切換に設定するスイッチなどが設けられている。これらのスイッチを操作することにより、オペレータは、操作レバー40の上方揺動操作によって植付作業機3の上昇作動・植付クラッチ8の切断を操作でき、下方揺動操作によって植付作業機3の下降作動・植付クラッチ8の接続を操作できる。また、オペレータは、操作レバー40の左右揺動操作によってマーカ21の姿勢切換を操作できる。
【0024】
<ブロック図>
走行機体1には、乗用田植機Pの各部を制御する制御手段としての制御部50が設けられている。図5は、制御部50を示す制御ブロック図である。図5に示すように、制御部50の入力側には、植付クラッチ8(図1参照)の接続を許可するON状態と、植付クラッチ8の接続を規制するOFF状態とに切替える作業機準備スイッチ52、植付自動スイッチ54、操作レバー40(図4参照)の上げ操作により作動する作業機上側スイッチ51a、操作レバー40の下げ操作により作動する作業機下側スイッチ51b、作業機操作カムポテンショ32、昇降リンク機構2(図1参照)の角度により植付作業機3の昇降位置を検出するリフト角ポテンショ53、トランスミッションのドライブシャフト(不図示)の回転量を検出する回転センサ55、及びステアリングハンドル20aの操作による前輪9の切れ角を検出する前輪切れ角センサ38が接続されている。制御部50は位置検出手段としての回転センサ55の検出結果に基づいて、走行機体1の走行位置や走行速度を検出できる。
【0025】
制御部50は、作業機準備スイッチ52が入操作(ON操作)されると、植付作業機3を駆動可能な状態とする一方で、作業機準備スイッチ52が切操作(OFF操作)されると、植付作業機3の駆動を規制した状態とする。制御部50は、植付自動スイッチ54が入操作(ON操作)されると、自動的に乗用田植機Pを直進走行させて圃場における苗の植付作業を行う自動直進制御と共に、往復植えによる植付作業の1行程が完了して枕地における乗用田植機Pの旋回中に苗の植付作業を一時停止させる植付自動制御を実行可能な状態とする。また、制御部50は、植付自動スイッチ54が切操作(OFF操作)されると、植付自動制御の実行を規制する一方で、オペレータによる苗の植付作業に関する各種操作を実行可能な状態とする。
【0026】
他方、制御部50の出力側には、植付作業機3の昇降を操作する作業機操作カムモータ30、ステアリングモータ60、制御部50の各種の状態を報知可能な報知手段としての報知ブザー61が接続されている。制御部50は、ステアリングモータ60を駆動することにより、オペレータによるステアリングハンドル20aの操向操作によらず、前輪9を操向可能に構成されている。
【0027】
<作業機制御処理>
次に、走行機体1が圃場端で旋回動作を繰返しながら圃場を往復走行して、植付作業機3により圃場へ苗を移植する植付作業を行う際に、制御部50が実行する作業機制御処理について、図1図2図5等を参照しながら図6乃至図10を用いて説明する。
【0028】
制御部50は、乗用田植機Pの主電源(図示せず)がON状態になると、図6に示す作業機制御処理を実行する。図6に示すように、作業機制御処理は、作業機操作制御処理(S1)、植付自動制御処理(S2)、タイミング報知制御処理(S3)を含み、乗用田植機Pの主電源がON状態に維持される限り、制御部50によって繰り返し実行される。なお、制御部50は作業機制御処理の実行中、回転センサ55の検出結果に基づいて走行機体1の走行位置を検出している。
【0029】
<作業機操作処理>
作業機操作制御処理(図6のS1参照)について説明する。図7に示すように、まず、操作レバー40の下側スイッチによる短時間(長押しでない)の信号があるか否か判定され(S11)、ある場合(S11のあり)、作業機準備スイッチ52のON、OFFが判定される(S12)。作業機準備スイッチ52がONの場合、作業機操作カムポテンショ32により作業機操作カム31のポジション(操作カムポジション)が上昇か否かを判定される(S13)。操作カムポジションが上昇以外の場合、同様に作業機操作カムポテンショ32により自動か自動以外かを判定され(S14)、更に自動以外の場合、固定か固定以外かを判定される(S15)。固定以外、即ち(植付)作業位置の場合、そのまま植付状態が継続され(リターン)、固定の場合、作業機操作カムモータ30を自動(下降)にセットして、植付作業機3は下降してフロート7が接地した自動位置となる(S16)。
【0030】
ステップS12にて、作業機準備スイッチ52がOFFの場合、操作カムポジションが上昇か否か判定され(S17)、上昇以外の場合、操作カムポジションが固定(位置)か否か判定され(S18)、固定にある場合、自動(下降)にセットされ、植付作業機3はフロート7が接地した自動(下降)状態となる(S19)。
【0031】
ステップS14にて、操作カムポジションが自動(下降)位置にある場合、リフト角ポテンショ53により植付作業機3が下降動作中か否かを判断され(S20)、下降動作中である場合(S20のNO)、植付クラッチ入待ち状態となり(S21)、停止状態であれば(YES)、作業機操作カム31が植付位置に設定されて植付作業が開始される(S22)。同時に、植付自動制御時における乗用田植機Pの旋回走行位置Lがリセットされ、植付作業での走行位置(植付走行位置Lo)のカウントが開始される。
【0032】
ステップS13、S17にて、植付作業機3が上昇にある場合、作業機操作カム31は固定にセットされて植付作業機3は固定状態となり(S23)、リターンされる。また、ステップS18にて、固定以外と判定された場合にもリターンされる。
【0033】
したがって、オペレータが操作レバー40により下側に短時間(1ショット)操作すると、作業機操作カム31は1段階下側、即ち上昇→固定、固定→自動(下降)、自動(下降)→植付に変更される(植付はそのまま維持)。
【0034】
ステップS11にて、操作レバー40の下側スイッチによる短時間(長押しでない)の信号がないと判定した場合(S11のなし)、操作レバー40の上側スイッチの短時間操作があるか否か判定される(S24)。操作がない場合、上記ステップS21の植付クラッチ入待ち状態か否か判定され(S25)、入待ち状態であると(S25のYES)、リフト角ポテンショ53により作業機下降動作停止か否か判定される(S26)。停止中である場合(S26のYES)、ステップS22と同様に、作業機操作カム31が植付位置に設定されて植付作業が開始される(S27)。また、乗用田植機Pの旋回走行位置Lがリセットされ、植付走行位置Loのカウントが開始される。
【0035】
ステップS24にて上側操作の短時間操作がある場合、植付作業機3が上昇にあるか否か判定される(S28)。植付作業機3が上昇にある場合、そのまま継続されてリターンされる。植付作業機3が上昇以外の場合、操作カムポジションが固定(位置)か否かを検出し(S29)、固定にある場合には作業機操作カム31が上昇位置に設定される(S32)。この際には、乗用田植機Pの旋回走行位置Lのカウントが開始される。固定以外である場合には、ステップS30に進む。
【0036】
ステップ30では、植付作業機3が自動(下降)か植付か判定され、自動(下降)である場合、リフト角ポテンショ53により作業機下降動作が停止状態か判定される(S31)。動作停止状態である場合(S31のYES)、作業機操作カム31は上昇位置に設定される(S32)。この際には、乗用田植機Pの旋回走行位置Lのカウントが開始される。下降動作中である場合(S31のNO)、作業機操作カム31は固定位置に設定されて植付作業機3は固定状態となる(S33)。ステップ30で植付位置にあると判定された場合、作業機操作カム31が自動(下降)になるようにセットされ、植付クラッチ8は切状態に切換えられる(S34)。
【0037】
<植付自動制御>
次に、植付自動制御処理(図6のS2参照)について、図8を用いて説明する。図8に示すように、まず、植付自動スイッチ54がONか否か判定され(S41)、植付自動スイッチ54がON(S41のYES)の場合、ステアリングハンドル20a(前輪操舵角)が所定切れ角α以上で操作されたか判定される(S42)。オペレータが枕地旋回を意図してステアリングハンドル20aを所定切れ角α以上で操作すると(S42のYES)、乗用田植機Pの植付走行位置Loが所定位置以上であるか否か判定される(S43)。
【0038】
前輪切れ角センサ38による切れ角信号が所定切れ角α以上であり、かつ上記ステップS27、S22並びに後述のステップS49でカウント開始される植付走行位置Loが所定位置以上であると、図10に示すように乗用田植機Pが、往復植えによる植付作業の1行程が完了して枕地において旋回されたと判定される(S42のYES、S43のYES)。乗用田植機Pが後輪基準とした旋回開始位置L0から旋回開始されることに伴い、作業機操作カム31が上昇位置に切換えられ、乗用田植機Pの旋回走行位置Lのカウントが開始され、植付自動フラグがONに設定される(S44)。また、植付走行位置Loがリセットされる。この状態では、作業機操作カム31の上昇位置への切換えにより植付クラッチ8は切となって、圃場における苗の植付作業は一時停止される。
【0039】
上記「植付自動フラグ」は、植付自動制御が開始され実行中であることをONで示し、植付自動制御が解除されたことをOFFで示す。乗用田植機Pの主電源ONに伴う作業機制御処理の開始時(初期段階)には、植付自動フラグがOFFに設定されている。
【0040】
ステアリングハンドル20aが所定切れ角α以上で操作されていない場合(S42のNO)、植付自動フラグがONに設定されているか否かを判定する(S45)。植付自動フラグがONに設定されていない場合(S45のNO)、リターンされる。植付自動フラグがONに設定されている場合(S45のYES)、オペレータが操作レバー40を操作したか否か判定される(S46)。オペレータが操作レバー40を操作した場合(S46のYES)、植付自動制御は解除(キャンセル)され、植付自動フラグはOFFに設定され、乗用田植機Pの旋回走行位置L、走行位置Lsはリセット(クリア)される(S47)。
【0041】
オペレータが操作レバー40を操作していない場合(S46のNO)、乗用田植機Pが枕地で180度旋回して次の植付に移りつつある状態であり、ステップS44(図7のS32参照)でカウント開始される乗用田植機Pの旋回走行位置Lと、予め設定される位置(植付開始位置L2、図10参照)と比較され(S48)、旋回走行位置Lが植付開始位置L2に至っていない場合(S48のNO)、さらに旋回走行位置Lと、予め設定される植付開始位置L2よりも短い位置(下降開始位置L1、図10参照)とが比較される(S50)。旋回走行位置Lが下降開始位置L1(第一走行位置)を超えていない場合(S50のNO)、リターンされる。旋回走行位置Lが下降開始位置L1を超えた場合(L≧L1、S50のYES)、つまりは乗用田植機Pが下降開始位置L1に到達した場合、作業機操作カム31が下降位置に切換えられ(S51)、植付作業機3はフロート7が接地するように下降する。
【0042】
乗用田植機Pの旋回走行位置Lが植付開始位置L2(第二走行位置)を超えた場合(L≧L2)(S48のYES)、つまりは乗用田植機Pが植付開始位置L2に到達した場合、作業機操作カム31が植付位置に切換えられ、かつ旋回走行位置L、走行位置Lsがリセットされると共に、植付自動フラグがOFFに設定される(S49)。また、植付走行位置Loのカウントが開始される。
【0043】
こうして、旋回開始位置からカウントした乗用田植機Pの旋回走行位置Lが予め定めた下降開始位置L1より長くなると、非作業位置に上昇作動された植付作業機3を下降作動させ、更に旋回走行位置Lが植付開始位置L2(>下降開始位置L1)よりも長くなると、枕地でのUターンが終了したものとして、植付作業機3が植付状態に切換えられて圃場における苗の植付作業が再開される。
【0044】
<タイミング報知制御処理>
本実施形態では、乗用田植機Pの枕地での旋回開始に応じて、報知ブザー61(図5参照)から音を鳴らすことにより、オペレータに対し、上記した植付自動制御の実行状態を報知したり、また植付作業機3の下降タイミングや植付クラッチ8の接続タイミングを報知したりできるようにしている。これを実現するタイミング報知制御処理(図6のS3参照)について、図9及び図10を用いて説明する。
【0045】
図9に示すように、まず、植付自動スイッチ54がONか否か判定される(S61)。植付自動スイッチ54がOFFの場合(S61のNO)、枕地において上述した植付自動制御が行われないので、報知ブザー61による何らの報知も行うことなく、リターンされる。他方、植付自動スイッチ54がOFFの場合には(S61のYES)、タイミング報知フラグがONか否か判定される(S62)。タイミング報知フラグは、オペレータに対し植付作業機3の下降タイミングや植付クラッチ8の接続タイミングを報知するか否かを決めるために用いられるフラグである。本実施形態の場合、後述するように、タイミング報知フラグがONである場合に、報知ブザー61による植付作業機3の下降タイミングや植付クラッチ8の接続タイミングの報知が許容される。乗用田植機Pの主電源ONに伴う作業機制御処理の開始時(初期段階)には、タイミング報知フラグがOFFに設定されている。
【0046】
タイミング報知フラグがOFFである場合(S62のNO)、上述した植付自動フラグがONであるか否か判定される(S63)。植付自動フラグがOFFである場合には(S63のNO)、前回の作業機制御処理終了時における植付自動フラグ(区別するために、前回植付自動フラグと呼ぶ)がONか否か判定される(S66)。他方、植付自動フラグがONである場合には(S63のYES)、前回植付自動フラグがOFFか否か判定される(S64)。ここではステップS63、S64、S66の処理によって、植付自動フラグが前回と同じOFFのままである場合(S63とS66が共にNO)、植付自動フラグが前回ONから今回OFFになった場合(S63がNO、S66がYES)、植付自動フラグが前回OFFから今回ONになった場合(S63、S64が共にYES)、植付自動フラグが前回と同じONのままである場合(S63がYES、S64がNO)、の4つの場合ごとに処理を分けている。
【0047】
植付自動フラグが前回と同じOFFのままである場合には(S63とS66が共にNO)、リターンされる。植付自動フラグが前回ONから今回OFFになった場合には(S63がNO、S66がYES)、後述する報知ブザー61による第三報知態様の報知を終了する(S67)。植付自動フラグが前回OFFから今回ONになった場合には(S63、S64が共にYES)、報知ブザー61による第三報知態様の報知(第三報知処理)を開始し、走行位置Lsのカウントを開始し、タイミング報知フラグをONに設定する(S65)。植付自動フラグが前回と同じONのままである場合には(S63がYES、S64がNO)、リターンされる。
【0048】
ステップS62において、タイミング報知フラグがONである場合には(S62のYES)、走行位置Lsと、第二の報知開始位置l2(図10参照)とが比較され(S68)、走行位置Lsが報知開始位置l2に至っていない場合(S68のNO)、さらに走行位置Lsと、報知開始位置l2よりも近い第一の報知開始位置l1(l1<l2、図10参照)とが比較される(S70)。図10に示すように、乗用田植機Pの旋回(進行)方向において、報知開始位置l2は植付開始位置L2よりも手前側に設定され、報知開始位置l1は下降開始位置L1よりも手前側に設定されている。
【0049】
走行位置Lsが報知開始位置l1を超えていない場合(S70のNO)、リターンされる。他方、走行位置Lsが報知開始位置l1を超えた場合には(Ls≧l1、S70のYES)、所定時間に亘り報知ブザー61による第一報知態様の報知(第一報知処理)を実行する(S71)。
【0050】
走行位置Lsが報知開始位置l2を超えた場合には(Ls≧l2、S68のYES)、報知ブザー61による第二報知態様の報知(第二報知処理)を実行すると共に、タイミング報知フラグがOFFに設定される(S69)。
【0051】
本実施形態の場合、第三報知態様の報知として、例えば発生周期が第一発生周期の断続音(例えばピッピッピッと鳴る音、短音)を報知ブザー61に発生させる。これに対し、第一報知態様及び第二報知態様の報知として、例えば発生周期が上記した第一発生周期よりも短い第二発生周期の断続音(例えばピピピピと鳴る音、短音)を所定時間に亘って報知ブザー61に発生させる。あるいは、第一報知態様及び第二報知態様の報知として、そうした断続音(短音)でなく、所定時間に亘って続く連続音(例えばピーと連続して鳴る音、長音と呼ぶ)を所定時間に亘って報知ブザー61に発生させてもよい。なお、第一報知態様の報知と第二報知態様の報知とは、同じ報知態様でなくてよく、それぞれが第三報知態様と異なる報知態様であればよい。
【0052】
図10を用いて、報知ブザー61による報知について具体的に例を挙げて説明する。図10に示すように、乗用田植機Pが枕地において旋回開始位置L0で旋回開始されると、ピッピッピッと鳴る断続音(第三報知態様)による報知が開始される。これにより、オペレータは植付自動制御が開始されたことを把握できる。
【0053】
乗用田植機Pが報知開始位置l1を超えると、ピピピピと鳴る断続音(あるいはピーと鳴る連続音、第一報知態様)による報知が開始される。報知ブザー61の音がピッピッピッと鳴る断続音からピピピピと鳴る断続音に変わることで、オペレータは下降開始位置L1に近いことを把握できる。このピピピピと鳴る断続音は、報知開始位置l1を含む第一走行領域LHを通過する間(所定時間)、鳴り続ける。
【0054】
これにより、オペレータは下降開始位置L1を把握できるので、報知により把握した下降開始位置L1が植付作業機3を下降するのに最適でない位置であると判断すれば、人為的な植付作業機3の下降操作を所望の位置(タイミング)で行い得る。なお、乗用田植機Pが下降開始位置L1に近づくに連れて、ピピピピと鳴る断続音の発生周期を徐々に短くしていくと、オペレータは下降開始位置L1をより把握し易くなるので好ましい。
【0055】
人為的な植付作業機3の下降操作が行われなかった場合、乗用田植機Pが下降開始位置L1を超えると、ピッピッピッと鳴る断続音(第三報知態様)による報知に戻る。他方、人為的な植付作業機3の下降操作が行われた場合には、ピピピピと鳴る断続音(第一報知態様)、ピッピッピッと鳴る断続音(第三報知態様)とも終了され無音になる。即ち、人為的な操作によって植付自動制御が解除されると、ピッピッピッと鳴る断続音(第三報知態様)による報知は終了される。
【0056】
人為的な植付作業機3の下降操作が行われなかった場合、乗用田植機Pが報知開始位置l2を超えると、報知ブザー61の音がピッピッピッと鳴る断続音(第三報知態様)からピピピピと鳴る断続音(第二報知態様)に変わるので、オペレータは植付開始位置L2に近いことを把握できる。本実施形態の場合、植付自動制御の開始から終了までの間で且つ第一走行領域LH及び第二走行領域LKを通過していない間、第三報知態様での報知が行われる。
【0057】
他方、人為的な植付作業機3の下降操作が行われた場合には、乗用田植機Pが報知開始位置l2を超えると、報知ブザー61からピピピピと鳴る断続音(第二報知態様)が発生される。即ち、人為的な操作によって植付自動制御が解除された後でも、植付開始位置L2の報知は継続される。この断続音(第二報知態様)は、報知開始位置l2を含む第二走行領域LKを通過する間(所定時間)、鳴り続ける。そして、乗用田植機Pが植付開始位置L2を超えると、報知ブザー61による報知が終了され無音になる。
【0058】
これにより、オペレータは植付開始位置L2を把握できるので、報知により把握した植付開始位置L2が植付クラッチ8を接続するのに最適でない位置であると判断すれば、人為的な植付クラッチ8の接続操作を所望の位置(タイミング)で行い得る。なお、乗用田植機Pが植付開始位置L2に近づくに連れて、ピピピピと鳴る断続音の発生周期を徐々に短くしていくと、オペレータは植付開始位置L2をより把握し易くなるので好ましい。
【0059】
以上のように、本実施形態の乗用田植機Pは、乗用田植機Pが枕地において旋回開始位置L0で旋回開始されると、報知ブザー61による第三報知態様での報知が開始される。そして、乗用田植機Pが報知開始位置l1を超えると、報知ブザー61による第一報知態様での報知が開始される。また、乗用田植機Pが報知開始位置l2を超えると、報知ブザー61による第二報知態様での報知が開始される。これにより、オペレータは報知ブザー61による報知に従って、適切な下降開始位置での植付作業機3の下降操作や、適切な植付開始位置での植付クラッチ8の接続操作を容易に行うことが可能となる。したがって、植付自動制御時に車輪のスリップや旋回開始タイミングなどの影響により位置ずれが生じても、オペレータは人為的なリカバリー操作を適切な位置(タイミング)で行い得る。
【0060】
なお、上述した実施形態では、報知手段として報知ブザー61を作動させて音による報知を行うものを例に示したが、これに限らない。報知手段はオペレータに対する報知が可能であればよく、例えば、LEDやランプ等の光による報知や、液晶ディスプレイ等の表示による報知であってもよい。また、音による報知として、ブザーの音の高低や音色などを変化させてもよい。
【0061】
また、上述した実施形態では、前輪9及び後輪10に支持される走行機体1を備えた乗用田植機Pについて説明をしたが、これに限定されない。移植機は、走行装置としてのクローラに支持された走行機体1を備えていてもよい。
【符号の説明】
【0062】
1・・・走行機体
3・・・植付作業機
8・・・植付クラッチ
20a・・・操作手段(ステアリングハンドル)
25・・・昇降手段(油圧コントロール機構)
50・・・制御手段(制御部)
55・・・位置検出手段(回転センサ)
61・・・報知手段(報知ブザー)
L1・・・第一走行位置(下降開始位置)
L2・・・第二走行位置(植付開始位置)
LH・・・第一走行領域
LK・・・第二走行領域
P・・・移植機(乗用田植機)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10