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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022138337
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】キャリアおよび遊星減速機
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/28 20060101AFI20220915BHJP
【FI】
F16H1/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021038160
(22)【出願日】2021-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000107147
【氏名又は名称】日本電産シンポ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】杉下 健治
(72)【発明者】
【氏名】石丸 智也
【テーマコード(参考)】
3J027
【Fターム(参考)】
3J027FA23
3J027GB03
3J027GC13
3J027GC22
3J027GD04
3J027GD08
3J027GD12
3J027GE01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】遊星ギアの軸受を良好に潤滑させることができる遊星減速機を提供する。
【解決手段】遊星減速機のキャリア70は、遊星支持面71と、第1凹部74とを有する。遊星支持面71は、中心軸A1に対して垂直に拡がる。遊星支持面71は、遊星ギアの軸方向の端面と接触するか、または、遊星ギアの軸方向の端部に配置される円環状のワッシャと接触する。第1凹部74は、遊星支持面71から軸方向に凹み、当該第1凹部74に潤滑油を保持させることができる。これにより、第1凹部74から遊星ギアの軸受へ、潤滑油を供給する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊星減速機に使用されるキャリアであって、
中心軸に対して垂直に拡がる遊星支持面と、
前記遊星支持面から軸方向に凹む凹部と、
を有し、
前記遊星減速機において使用されるときに、前記遊星支持面は、遊星ギアの軸方向の端面と接触するか、または、前記遊星ギアの軸方向の端部に配置される円環状のワッシャと接触する、キャリア。
【請求項2】
請求項1に記載のキャリアであって、
前記遊星支持面として、第1遊星支持面および第2遊星支持面を有し、
前記遊星減速機において使用されるときに、
前記第1遊星支持面は、前記遊星ギアの軸方向の一方の端面と接触するか、または、前記遊星ギアの軸方向の一方の端部に配置される円環状のワッシャと接触し、
前記第2遊星支持面は、前記遊星ギアの軸方向の他方の端面と接触するか、または、前記遊星ギアの軸方向の他方の端部に配置される円環状のワッシャと接触し、
前記凹部として、
前記第1遊星支持面から軸方向一方側へ凹む第1凹部と、
前記第2遊星支持面から軸方向他方側へ凹む第2凹部と、
を有する、キャリア。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のキャリアであって、
径方向に貫通し、遊星減速機における使用時に前記遊星ギアが配置される貫通孔を有し、
前記凹部は、前記貫通孔において、前記遊星支持面の径方向外側の端部から径方向内側の端部まで、径方向に延びる、キャリア。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のキャリアを備えた遊星減速機であって、
前記中心軸を中心として回転する太陽ギアと、
前記太陽ギアの径方向外側に位置し、前記中心軸を中心とする円環状のインタナルギアと、
前記太陽ギアおよび前記インタナルギアと噛み合い、前記中心軸と平行な遊星軸を中心として自転する前記遊星ギアと、
前記遊星軸に沿って延び、前記遊星ギアを自転可能に支持するキャリアピンと、
前記キャリアピンと前記遊星ギアとの間に介在し、互いに隣接する複数のニードルローラと、
前記キャリアピンが固定される前記キャリアと、
を備え、
前記遊星ギアの前記自転に伴い、前記遊星ギアおよび前記インタナルギアのいずれか一方が、前記中心軸を中心として回転する、遊星減速機。
【請求項5】
請求項4に記載の遊星減速機であって、
前記凹部にグリスが保持されている、遊星減速機。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の遊星減速機であって、
前記ワッシャをさらに備える、遊星減速機。
【請求項7】
請求項6に記載の遊星減速機であって、
前記キャリアピンの外周面と、前記ワッシャの内周部との間に、間隙が存在する、遊星減速機。
【請求項8】
請求項4から請求項7までのいずれか1項に記載の遊星減速機であって、
前記凹部の周方向の幅が、前記キャリアピンの外径よりも大きく、
軸方向に視たときに、前記キャリアピンが、前記凹部の周方向の一端と他端との間に位置する、遊星減速機。
【請求項9】
請求項6または請求項7に記載の遊星減速機であって、
前記凹部の周方向の幅が、前記ワッシャの内径よりも大きく、
軸方向に視たときに、前記ワッシャの中央に設けられた円孔が、前記凹部の周方向の一端と他端との間に位置する、遊星減速機。
【請求項10】
請求項4から請求項9に記載の遊星減速機であって、
前記凹部の周方向の幅が、前記ニードルローラの中心線を結ぶピッチ円の径よりも小さい、遊星減速機。
【請求項11】
請求項5に記載の遊星減速機であって、
JIS K 2220の試験方法による前記グリスのちょう度は、265以上かつ340以下である、遊星減速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャリアおよび遊星減速機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、太陽ギアと、太陽ギアの周囲に配置された複数の遊星ギアと、複数の遊星ギアを包囲するインタナルギアとを有する遊星減速機が知られている。遊星減速機は、太陽ギアに入力される回転運動により、遊星ギアを自転および公転させ、遊星ギアの公転運動を出力することにより、回転運動を減速させる。従来の遊星減速機については、例えば、特開2020-106083号公報に記載されている。
【特許文献1】特開2020-106083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
遊星減速機は、遊星ギアの自転軸に沿って延びるキャリアピンを備える。また、遊星減速機は、キャリアピンと遊星ギアとの間に、軸受として、ニードルベアリングを備える場合がある。ニードルベアリングは、キャリアピンの周りに配置された複数のニードルローラを有する。遊星ギアは、キャリアピンに対して、ニードルベアリングを介して、自転可能に支持される。
【0004】
ニードルベアリングは、ニードルローラの数が多いほど、耐荷重性能が高くなる。ただし、ニードルローラの数が多くなると、各ニードルローラに潤滑油であるグリスが行き渡りにくくなる。したがって、複数のニードルローラを良好に潤滑させることが困難となる。
【0005】
本発明の目的は、遊星減速機において、遊星ギアの軸受を良好に潤滑させることができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、遊星減速機に使用されるキャリアであって、中心軸に対して垂直に拡がる遊星支持面と、前記遊星支持面から軸方向に凹む凹部と、を有し、前記遊星減速機において使用されるときに、前記遊星支持面は、遊星ギアの軸方向の端面と接触するか、または、前記遊星ギアの軸方向の端部に配置される円環状のワッシャと接触する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、キャリアの凹部に潤滑油を保持させることができる。これにより、凹部から遊星ギアの軸受へ、潤滑油を供給できる。その結果、遊星ギアの軸受を良好に潤滑させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、遊星減速機の縦断面図である。
図2図2は、太陽ギア、インタナルギア、複数の遊星ギア、複数のキャリアピン、およびキャリアを、軸方向に視た平面図である。
図3図3は、キャリアの斜視図である。
図4図4は、キャリアの1つの貫通孔に、遊星ギアが配置された状態を示す斜視図である。
図5図5は、キャリアおよび遊星ギアの部分断面図である。
図6図6は、第1変形例に係る遊星減速機の縦断面図である。
図7図7は、第2変形例に係るキャリアの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の例示的な実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本願では、遊星減速機の中心軸と平行な方向を「軸方向」、中心軸に直交する方向を「径方向」、中心軸を中心とする円弧に沿う方向を「周方向」、とそれぞれ称する。ただし、上記の「平行な方向」は、略平行な方向も含む。また、上記の「直交する方向」は、略直交する方向も含む。
【0010】
また、また、本願において「回転数」とは、単位時間あたりに物体が回転する回数(回転速度)を意味する。
【0011】
<1.遊星減速機の全体構成>
図1は、一実施形態に係る遊星減速機1の縦断面図である。図の煩雑化を避けるため、図1では、断面を示すハッチングが省略されている。この遊星減速機1は、モータから入力される第1回転数の回転運動を、第1回転数よりも低い第2回転数の回転運動に減速して出力する装置である。遊星減速機1は、例えば、産業ロボット等の各種産業機器に組み込まれて使用される。ただし、遊星減速機1は、アシストスーツ、無人搬送台車などの他の装置に用いられるものであってもよい。
【0012】
図1に示すように、本実施形態の遊星減速機1は、ケーシング10、入力シャフト20、太陽ギア30、インタナルギア40、複数の遊星ギア50、複数のキャリアピン60、キャリア70、および出力シャフト80を備えている。
【0013】
ケーシング10は、太陽ギア30、インタナルギア40、複数の遊星ギア50、複数のキャリアピン60、およびキャリア70を内部に収容する筐体である。ケーシング10は、中心軸A1を中心とする略筒状の外形を有する。本実施形態のケーシング10は、第1ケーシング部材11と、第2ケーシング部材12とを有する。第1ケーシング部材11は、第2ケーシング部材12の軸方向一方側に隣接して配置される。第1ケーシング部材11と第2ケーシング部材12とは、互いに固定されている。ただし、ケーシング10を構成する部材の数は、1つであってもよく、3つ以上であってもよい。ケーシング10は、駆動対象となる装置のフレームに固定される。
【0014】
入力シャフト20は、中心軸A1を中心とする円柱状または円筒状の部材である。入力シャフト20の少なくとも一部分は、ケーシング10の径方向内側に位置する。第1ケーシング部材11の内周面と入力シャフト20の外周面との間の径方向の間隙には、第1軸受91が介在する。これにより、入力シャフト20は、ケーシング10に対して、回転可能に支持される。入力シャフト20は、駆動源であるモータと接続されている。入力シャフト20は、モータから供給される駆動力により、中心軸A1を中心として、第1回転数で回転する。
【0015】
太陽ギア30は、中心軸A1に沿って配置されるギアである。太陽ギア30は、入力シャフト20とともに、中心軸A1を中心として、第1回転数で回転する。本実施形態では、入力シャフト20と太陽ギア30とが、単一の部材で形成されている。ただし、入力シャフト20と太陽ギア30とは、別部材であってもよい。その場合、太陽ギア30は、入力シャフト20に対して、相対回転不能な状態に固定されていればよい。太陽ギア30は、外周面に複数の外歯31を有する。複数の外歯31は、周方向に一定のピッチで設けられている。各外歯31は、径方向外側へ突出する。
【0016】
インタナルギア40は、中心軸A1を中心とする円環状のギアである。インタナルギア40は、太陽ギア30の径方向外側に位置する。インタナルギア40は、第2ケーシング部材12に固定されている。したがって、遊星減速機1の駆動時にも、インタナルギア40は、ケーシング10に対して静止した状態に保たれる。インタナルギア40は、内周面に複数の内歯41を有する。複数の内歯41は、周方向に一定のピッチで設けられている。各内歯41は、径方向内側へ突出する。なお、第2ケーシング部材12およびインタナルギア40は、単一の部材により形成されていてもよい。
【0017】
遊星ギア50は、太陽ギア30およびインタナルギア40と噛み合うギアである。複数の遊星ギア50は、太陽ギア30の径方向外側、かつ、インタナルギア40の径方向内側に位置する。図2は、太陽ギア30、インタナルギア40、複数の遊星ギア50、複数のキャリアピン60、およびキャリア70を、軸方向に視た平面図である。ただし、図2では、図の煩雑化を避けるために、各ギアの歯の図示が省略されている。図2に示すように、本実施形態では、3つの遊星ギア50が、周方向に間隔をあけて配置されている。ただし、遊星減速機1が有する遊星ギア50の数は、2つであってもよく、4つ以上であってもよい。
【0018】
各遊星ギア50は、中心軸A1と平行な遊星軸A2を中心として、回転可能に支持される。また、遊星ギア50は、外周面に複数の外歯51を有する。複数の外歯51は、遊星軸A2を中心として一定の角度ピッチで設けられている。各外歯51は、遊星軸A2から離れる方向へ向けて突出する。遊星ギア50の外歯51は、太陽ギア30の外歯31と噛み合う。また、遊星ギア50の外歯51は、インタナルギア40の内歯41とも噛み合う。
【0019】
キャリアピン60は、遊星ギア50を回転可能に支持するピンである。図2に示すように、本実施形態では、3本のキャリアピン60が、周方向に間隔をあけて配置されている。各遊星ギア50は、中央に軸孔52を有する。キャリアピン60は、軸孔52に挿入され、遊星軸A2に沿って軸方向に延びる。キャリアピン60の軸方向の両端部は、キャリア70に固定される。キャリア70に対するキャリアピン60の固定方法には、例えば圧入が用いられる。
【0020】
また、遊星減速機1は、複数のニードルローラ63を有する。ニードルローラ63は、円柱状の部品である。複数のニードルローラ63は、キャリアピン60とともに、遊星ギア50の軸孔52に挿入される。複数のニードルローラ63は、キャリアピン60の外周面と、遊星ギア50の内周面との間に介在する。遊星ギア50は、キャリアピン60に対して、複数のニードルローラ63を介して、回転可能に支持される。すなわち、複数のニードルローラ63は、キャリアピン60に対して遊星ギア50を回転可能に支持する軸受となる。
【0021】
本実施形態では、複数のニードルローラ63が、キャリアピン60の周囲の全周に配列されている。すなわち、本実施形態では、複数のニードルローラ63を等間隔に配置するためのケージが無い。したがって、隣り合うニードルローラ63は、互いに接触可能である。このようにすれば、キャリアピン60の周囲に、ケージによりニードルローラ63を等間隔に配置する場合と比べて、多数のニードルローラ63を、キャリアピン60の周囲に配置できる。したがって、複数のニードルローラ63による遊星ギア50の支持力を向上させることができる。その結果、遊星ギア50の耐荷重性能を向上させることができる。
【0022】
キャリア70は、複数の遊星ギア50を周方向に間隔をあけた状態で保持する部品である。キャリア70は、中心軸A1を中心とする略円筒状である。第1ケーシング部材11およびインタナルギア40の内周面と、キャリア70の外周面との間の径方向の間隙には、第2軸受92が介在する。これにより、キャリア70は、ケーシング10に対して、回転可能に支持される。
【0023】
図3は、キャリア70の斜視図である。図3に示すように、キャリア70は、複数の貫通孔73を有する。貫通孔73は、キャリア70を径方向に貫通する孔である。複数の貫通孔73は、中心軸A1を中心として等間隔に設けられている。遊星ギア50は、キャリア70の貫通孔73内に配置される。図4は、キャリア70の1つの貫通孔73に、遊星ギア50が配置された状態を示す斜視図である。キャリアピン60の軸方向の両端部は、キャリア70に固定される。したがって、中心軸A1を中心としてキャリア70が回転すると、キャリア70とともに、キャリアピン60および遊星ギア50も、中心軸A1を中心として回転する。
【0024】
図5は、キャリア70および遊星ギア50の部分断面図である。図の煩雑化を避けるため、図5では、断面を示すハッチングが省略されている。図5に示すように、キャリア70は、第1遊星支持面71と、第2遊星支持面72とを有する。第1遊星支持面71および第2遊星支持面72は、中心軸A1に対して垂直に拡がる平面である。第1遊星支持面71と第2遊星支持面72とは、軸方向に対向する。上述した貫通孔73は、第1遊星支持面71と第2遊星支持面72との間の空間である。したがって、遊星ギア50は、第1遊星支持面71と第2遊星支持面72との間に位置する。
【0025】
また、図5に示すように、遊星減速機1は、第1ワッシャ61および第2ワッシャ62を有する。第1ワッシャ61および第2ワッシャ62は、遊星軸A2を中心とする円環状の板である。第1ワッシャ61は、遊星ギア50の軸方向一方側の端部に配置される。キャリアピン60の外周面と、第1ワッシャ61の内周部との間には、間隙が存在する。第2ワッシャ62は、遊星ギア50の軸方向他方側の端部に配置される。キャリアピン60の外周面と、第2ワッシャ62の内周部との間にも、間隙が存在する。
【0026】
第1ワッシャ61は、複数のニードルローラ63の軸方向の一端と、第1遊星支持面71との間に位置する。第1ワッシャ61の軸方向一方側の面は、第1遊星支持面71と接触する。第2ワッシャ62は、複数のニードルローラ63の軸方向の他端と、第2遊星支持面72との間に位置する。第2ワッシャ62の軸方向他方側の面は、第2遊星支持面72と接触する。
【0027】
このように、第1ワッシャ61と第2ワッシャ62との間に、複数のニードルローラ63を配置することで、ニードルローラ63の軸方向の移動が抑制される。また、ニードルローラ63は、硬度が高い軸受鋼により形成される。このため、もし、ニードルローラ63の端部が第1遊星支持面71および第2遊星支持面72に直接接触すると、第1遊星支持面71および第2遊星支持面72が、摩耗する場合がある。このため、本実施形態では、ニードルローラ63と第1遊星支持面71の間に第1ワッシャ61を設け、ニードルローラ63と第2遊星支持面72の間に第2ワッシャ62を設けている。第1ワッシャ61および第2ワッシャ62の材料には、キャリア70よりも硬度が高い金属を使用することが望ましい。これにより、ニードルローラ63による第1遊星支持面71および第2遊星支持面72の摩耗を抑制できる。
【0028】
図1に戻る。出力シャフト80は、中心軸A1に沿って配置される円柱状の部材である。第2ケーシング部材12の内周面と出力シャフト80の外周面との間の径方向の間隙には、第3軸受93が介在する。これにより、出力シャフト80は、ケーシング10に対して、回転可能に支持される。本実施形態では、キャリア70と出力シャフト80とが、一体の部材により形成されている。したがって、出力シャフト80は、キャリア70とともに、中心軸A1を中心として回転する。ただし、キャリア70と出力シャフト80とは、別部品であってもよい。その場合、出力シャフト80が、キャリア70に対して、相対回転不能な状態で固定されていればよい。
【0029】
太陽ギア30が第1回転数で回転すると、遊星ギア50は、太陽ギア30との噛み合いにより、遊星軸A2を中心として回転(以下「自転」という)する。また、遊星ギア50は、太陽ギア30だけではなく、インタナルギア40とも噛み合っている。このため、遊星ギア50は、遊星軸A2を中心として自転しながら、中心軸A1を中心として、太陽ギア30の周りを回転(以下「公転」という)する。すなわち、複数の遊星ギア50は、遊星軸A2を中心として自転しながら、中心軸A1を中心として公転する。このとき、中心軸A1を中心とする遊星ギア50の公転の回転数は、第1回転数よりも低い第2回転数となる。
【0030】
また、遊星ギア50が第2回転数で公転すると、複数のキャリアピン60、キャリア70、および出力シャフト80も、中心軸A1を中心として第2回転数で回転する。したがって、出力シャフト80から、減速後の第2回転数の回転運動を出力することができる。
【0031】
<2.グリスの保持構造について>
続いて、上述した複数のニードルローラ63を潤滑させるためのグリスの保持構造について、説明する。
【0032】
図3図5に示すように、キャリア70は、第1凹部74、第2凹部75、第1ピン孔76、および第2ピン孔77を有する。第1凹部74および第2凹部75は、潤滑油であるグリスを保持するための溝である。第1凹部74は、第1遊星支持面71から、軸方向一方側へ向けて凹む。第2凹部75は、第2遊星支持面72から、軸方向他方側へ向けて凹む。第1ピン孔76は、キャリアピン60の軸方向一方側の端部が固定される孔である。第1ピン孔76は、第1凹部74の一部分から軸方向一方側へ向けて、キャリア70を貫通する。第2ピン孔77は、キャリアピン60の軸方向他方側の端部が固定される孔である。第2ピン孔77は、第2凹部75の一部分から軸方向他方側へ向けて、キャリア70を貫通する。
【0033】
第1凹部74および第2凹部75は、貫通孔73に面する。第1凹部74は、貫通孔73において、第1遊星支持面71の径方向外側の端部から径方向内側の端部まで、径方向に延びる。第2凹部75は、貫通孔73において、第2遊星支持面72の径方向外側の端部から径方向内側の端部まで、径方向に延びる。貫通孔73は、キャリア70を径方向に加工することにより形成される。その際、貫通孔73とともに第1凹部74および第2凹部75も、径方向に加工することにより形成される。これにより、貫通孔73と、第1凹部74および第2凹部75とを別々に加工する場合と比べて、キャリア70の製造工数を低減できる。
【0034】
第1凹部74および第2凹部75には、グリスが保持される。遊星減速機1の駆動時には、第1凹部74に保持されたグリスが、キャリアピン60と第1ワッシャ61との間の間隙を通って、複数のニードルローラ63へ、徐々に供給される。また、遊星減速機1の駆動時には、第2凹部75に保持されたグリスが、キャリアピン60と第2ワッシャ62との間の間隙を通って、複数のニードルローラ63へ、徐々に供給される。これにより、複数のニードルローラ63を良好に潤滑させることができる。
【0035】
特に、本実施形態の構造では、ニードルローラ63の軸方向の片側ではなく、軸方向の両側に、グリスを保持した凹部が存在する。このため、複数のニードルローラ63に対して、軸方向の両側からグリスを供給できる。
【0036】
また、第1凹部74および第2凹部75は、いずれも、キャリア70の径方向外側の端部から径方向内側の端部まで、径方向に延びる。このため、第1凹部74および第2凹部75がキャリア70の径方向外側の端部から径方向内側の端部まで延びていない場合と比べて、第1凹部74および第2凹部75に保持されるグリスの量を増加させることができる。したがって、グリス切れを抑制し、複数のニードルローラ63を、より良好に潤滑させることができる。
【0037】
図5に示すように、第1凹部74および第2凹部75の周方向の幅d1は、キャリアピン60の外径d2よりも大きい。すなわち、第1凹部74および第2凹部75の周方向の幅d1は、第1ピン孔76および第2ピン孔77の内径よりも大きい。軸方向に視たときに、キャリアピン60は、第1凹部74および第2凹部75の周方向の一端と、第1凹部74および第2凹部75の周方向の他端と、の間に位置する。このため、第1凹部74および第2凹部75に保持されたグリスが、軸方向に移動することで、キャリアピン60の周囲に配置された複数のニードルローラ63に、グリスが良好に供給される。
【0038】
また、第1凹部74および第2凹部75の周方向の幅d1は、第1ワッシャ61および第2ワッシャ62の内径d3よりも大きい。軸方向に視たときに、第1ワッシャ61および第2ワッシャ62の中央に設けられた円孔は、第1凹部74および第2凹部75の周方向の一端と、第1凹部74および第2凹部75の周方向の他端と、の間に位置する。このため、第1凹部74に保持されたグリスは、キャリアピン60と第1ワッシャ61との間の間隙を通って、複数のニードルローラ63へ、良好に供給される。また、第2凹部75に保持されたグリスは、キャリアピン60と第2ワッシャ62との間の間隙を通って、複数のニードルローラ63へ、良好に供給される。
【0039】
ただし、第1凹部74および第2凹部75の周方向の幅d1が大き過ぎると、第1ワッシャ61と第1遊星支持面71との接触面積、および、第2ワッシャ62と第2遊星支持面72との接触面積が低下する。そうすると、第1ワッシャ61と第1遊星支持面71との間に作用する単位面積あたりの圧力、および、第2ワッシャ62と第2遊星支持面72との間に作用する単位面積あたりの圧力が、増加する。しかしながら、本実施形態では、第1凹部74および第2凹部75の周方向の幅d1は、複数のニードルローラ63の中心線を結ぶピッチ円の径d4よりも小さい。これにより、第1ワッシャ61と第1遊星支持面71との接触面積、および、第2ワッシャ62と第2遊星支持面72との接触面積を、十分に確保できる。したがって、第1ワッシャ61と第1遊星支持面71との間に作用する単位面積あたりの圧力、および、第2ワッシャ62と第2遊星支持面72との間に作用する単位面積あたりの圧力を抑えることができる。その結果、第1遊星支持面71および第2遊星支持面72の摩耗を抑制できる。
【0040】
第1凹部74および第2凹部75に保持されるグリスは、例えば、JIS K 2220の試験方法によるちょう度が、265以上かつ340以下のグリスとすればよい。このようなちょう度のグリスを使用すれば、第1凹部74および第2凹部75から流れ出すことなく、第1凹部74および第2凹部75にグリスを良好に保持できる。また、第1凹部74および第2凹部75から複数のニードルローラ63へ、グリスを徐々に供給できる。
【0041】
<3.変形例>
以上、本発明の第1実施形態および第2実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態には限定されない。
【0042】
<3-1.第1変形例>
図6は、第1変形例に係る遊星減速機1の縦断面図である。図の煩雑化を避けるため、図6では、断面を示すハッチングが省略されている。図6の遊星減速機1は、入力シャフト20、太陽ギア30、インタナルギア40、複数の遊星ギア50、複数のキャリアピン60、およびキャリア70を備えている。ただし、図6の例では、キャリア70が、駆動対象となる装置のフレームに固定される。したがって、遊星減速機1の駆動時にも、キャリア70およびキャリアピン60は、回転しない。一方、インタナルギア40は、中心軸A1を中心として回転可能に支持されている。
【0043】
図6の構造では、太陽ギア30が第1回転数で回転すると、遊星ギア50は、公転することなく、太陽ギア30との噛み合いにより、遊星軸A2を中心として自転する。そして、遊星ギア50とインタナルギア40との噛み合いにより、インタナルギア40が、中心軸A1を中心として、第1回転数よりも低い第2回転数で回転する。このように、遊星減速機1は、キャリア70を固定し、インタナルギア40から減速後の回転運動を出力する構造であってもよい。
【0044】
図6の構造においても、キャリア70の第1遊星支持面71に第1凹部74を設け、第2遊星支持面72に第2凹部75を設けることができる。そして、当該第1凹部74および第2凹部75に、グリスを保持させることができる。これにより、第1凹部74および第2凹部75から複数のニードルローラ63へ、グリスを供給できる。その結果、複数のニードルローラ63を良好に潤滑させることができる。
【0045】
<3-2.第2変形例>
図7は、第2変形例に係るキャリア70の斜視図である。図7のキャリア70は、第1凹部74の形状が、上記の実施形態と異なる。上記の実施形態では、第1凹部74が、第1遊星支持面71の径方向外側の端部から径方向内側の端部まで、径方向に延びていた。これに対し、図7のキャリア70の第1凹部74は、第1遊星支持面71の径方向外側の端部から径方向内側の端部まで延びていない。第1凹部74は、第1ピン孔76の周囲のみに形成された円形の溝である。このような形状でも、第1凹部74にグリスを保持させることができる。そして、第1凹部74から複数のニードルローラ63へ、グリスを供給できる。第2凹部75についても、第1凹部74と同様に、円形であってもよい。
【0046】
<3-3.他の変形例>
上記の実施形態では、遊星ギア50の軸方向一方側の端面と第1遊星支持面71との間に、第1ワッシャ61が介在していた。また、上記の実施形態では、遊星ギア50の軸方向他方側の端面と第2遊星支持面72との間に、第2ワッシャ62が介在していた。しかしながら、これらの第1ワッシャ61および第2ワッシャ62を省略してもよい。すなわち、遊星ギア50の軸方向一方側の端面と、第1遊星支持面71とを、直接接触させてもよい。また、遊星ギア50の軸方向他方側の端面と、第2遊星支持面72とを、直接接触させてもよい。
【0047】
また、上記の実施形態では、第1凹部74および第2凹部75に、流動性の低いグリスを保持させていた。しかしながら、第1凹部74および第2凹部75に、グリスよりも流動性の高いオイルを保持させてもよい。すなわち、第1凹部74および第2凹部75は、グリス、オイル等の潤滑油を保持するものであればよい。
【0048】
また、上記の実施形態では、キャリア70の第1遊星支持面71に第1凹部74が形成され、第2遊星支持面72に第2凹部75が形成されていた。しかしながら、第1凹部74および第2凹部75のいずれか一方を省略してもよい。
【0049】
また、遊星減速機の細部の形状については、本願の各図に示された形状と相違していてもよい。また、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に取捨選択してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、遊星減速機に利用できる。
【符号の説明】
【0051】
1 遊星減速機
10 ケーシング
11 第1ケーシング部材
12 第2ケーシング部材
20 入力シャフト
30 太陽ギア
31 外歯
40 インタナルギア
41 内歯
50 遊星ギア
51 外歯
52 軸孔
60 キャリアピン
61 第1ワッシャ
62 第2ワッシャ
63 ニードルローラ
70 キャリア
71 第1遊星支持面
72 第2遊星支持面
73 貫通孔
74 第1凹部
75 第2凹部
76 第1ピン孔
77 第2ピン孔
80 出力シャフト
91 第1軸受
92 第2軸受
93 第3軸受
A1 中心軸
A2 遊星軸

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7