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特開2022-138390感染リスク計測システム、感染リスク判定システム及び感染リスク計測方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022138390
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】感染リスク計測システム、感染リスク判定システム及び感染リスク計測方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/34 20060101AFI20220915BHJP
   C12Q 1/26 20060101ALI20220915BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
C12M1/34 A
C12Q1/26
C12Q1/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021038247
(22)【出願日】2021-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】室伏 祥子
(72)【発明者】
【氏名】石井 浩介
(72)【発明者】
【氏名】高橋 克巳
(72)【発明者】
【氏名】倉田 孝男
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029AA27
4B029BB13
4B029CC01
4B029CC02
4B029FA11
4B029FA12
4B063QA01
4B063QA18
4B063QA20
4B063QQ10
4B063QQ35
4B063QQ63
4B063QQ79
4B063QQ89
4B063QR03
4B063QR43
4B063QX02
4B063QX04
(57)【要約】
【課題】ウイルスの感染リスクを判定することが可能な感染リスク計測システム、感染リスク判定システム及び感染リスク計測方法を提供する。
【解決手段】感染リスク計測システム1は、アデノシン三リン酸の量又はアデノシン三リン酸の量に対応するパラメータである第1パラメータを測定する第1測定部10を備える。感染リスク計測システム1は、人の体液に含まれる成分の量又は上記成分の量に対応するパラメータである第2パラメータを測定する第2測定部20を備える。感染リスク計測システム1は、参照データを参照し、検査サンプルについて第1測定部10で測定された第1パラメータの値と第2測定部20で測定された第2パラメータの値との組み合わせに基づき、測定対象箇所の表面の感染リスクレベルを判定する判定部30を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アデノシン三リン酸の量又はアデノシン三リン酸の量に対応するパラメータである第1パラメータを測定する第1測定部と、
人の体液に含まれる成分の量又は前記成分の量に対応するパラメータである第2パラメータを測定する第2測定部と、
前記第1パラメータの値と前記第2パラメータの値との組み合わせごとに感染リスクレベルが予め割り当てられた参照データを参照し、測定対象箇所の表面から採取された検査サンプルについて前記第1測定部で測定された前記第1パラメータの値と前記第2測定部で測定された前記第2パラメータの値との組み合わせに基づき、前記測定対象箇所の表面の感染リスクレベルを判定する判定部と、
前記判定部によって判定された判定結果を出力する出力部と、
を備える、感染リスク計測システム。
【請求項2】
前記アデノシン三リン酸の量に対応するパラメータはルシフェラーゼの作用による発光量である、請求項1に記載の感染リスク計測システム。
【請求項3】
前記成分の量に対応するパラメータは導電率及びイオン濃度の少なくともいずれか一方である、請求項1又は2に記載の感染リスク計測システム。
【請求項4】
前記成分は人の唾液に含まれるタンパク質であり、前記成分の量に対応するパラメータは前記タンパク質の活性である、請求項1~3のいずれか一項に記載の感染リスク計測システム。
【請求項5】
前記検査サンプルの前記第2パラメータの値は前記測定対象箇所の周囲温度及び周囲湿度の少なくともいずれか一方に応じて補正され、前記判定部は前記検査サンプルについて前記第1測定部で測定された前記第1パラメータの値と補正された第2パラメータの値との組み合わせに基づき前記感染リスクレベルを判定する、請求項1~4のいずれか一項に記載の感染リスク計測システム。
【請求項6】
前記参照データには、前記測定対象箇所の表面の材質、前記第1パラメータの値及び前記第2パラメータの値の組み合わせごとに感染リスクレベルが予め割り当てられ、前記判定部は前記参照データを参照し、前記材質に応じた感染リスクレベルを判定する、請求項1~5のいずれか一項に記載の感染リスク計測システム。
【請求項7】
測定対象箇所の表面から採取された検査サンプルのアデノシン三リン酸の量又はアデノシン三リン酸の量に対応するパラメータである第1パラメータの値と、前記検査サンプルにおける人の体液に含まれる成分の量又は前記成分の量に対応するパラメータである第2パラメータの値を入力する入力部と、
前記第1パラメータの値と前記第2パラメータの値との組み合わせごとに感染リスクレベルが予め割り当てられた参照データを参照し、前記入力部から入力された前記第1パラメータの値と前記入力部から入力された前記第2パラメータの値との組み合わせに基づき、前記測定対象箇所の表面の感染リスクレベルを判定する判定部と、
前記判定部によって判定された判定結果を出力する出力部と、
を備える、感染リスク判定システム。
【請求項8】
アデノシン三リン酸の量又はアデノシン三リン酸の量に対応するパラメータである第1パラメータを測定する工程と、
人の体液に含まれる成分の量又は前記成分の量に対応するパラメータである第2パラメータを測定する工程と、
前記第1パラメータの値と前記第2パラメータの値との組み合わせごとに感染リスクレベルが予め割り当てられた参照データを参照し、測定対象箇所の表面から採取された検査サンプルについて測定された前記第1パラメータの値と前記検査サンプルについて測定された前記第2パラメータの値との組み合わせに基づき、前記測定対象箇所の表面の感染リスクレベルを判定する工程と、
判定された判定結果を出力する工程と、
を含む、感染リスク計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、感染リスク計測システム、感染リスク判定システム及び感染リスク計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、測定対象箇所の表面の清浄度を確認するための検査として特許文献1に示されるATP(アデノシン三リン酸)拭き取り検査が知られている。ATP拭き取り検査は、測定対象箇所の表面を拭き取って得られた検査サンプルと、ルシフェラーゼを含む発光試薬とを反応させ、その反応による発光量を測定することにより、検査サンプルに含まれるATP量を測定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-35673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ATPは細菌などの微生物内に存在し、検査サンプルと発光試薬との反応液はATP量に比例して発光する。そのため、ATP拭き取り検査によれば、測定対象箇所の微生物による汚染度を簡易に評価することができる。しかしながら、ウイルスは自らATPを合成せず、ATPを保有しない。そのため、ATP拭き取り検査だけでは、ウイルスの感染リスクを判定することは容易ではない。
【0005】
そこで、本開示は、ウイルスの感染リスクを判定することが可能な感染リスク計測システム、感染リスク判定システム及び感染リスク計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る感染リスク計測システムは、アデノシン三リン酸の量又はアデノシン三リン酸の量に対応するパラメータである第1パラメータを測定する第1測定部を備える。感染リスク計測システムは、人の体液に含まれる成分の量又は上記成分の量に対応するパラメータである第2パラメータを測定する第2測定部を備える。感染リスク計測システムは、第1パラメータの値と第2パラメータの値との組み合わせごとに感染リスクレベルが予め割り当てられた参照データを参照し、測定対象箇所の表面から採取された検査サンプルについて第1測定部で測定された第1パラメータの値と第2測定部で測定された第2パラメータの値との組み合わせに基づき、測定対象箇所の表面の感染リスクレベルを判定する判定部を備える。感染リスク計測システムは、判定部によって判定された判定結果を出力する出力部を備える。
【0007】
アデノシン三リン酸の量に対応するパラメータはルシフェラーゼの作用による発光量であってもよい。
【0008】
上記成分の量に対応するパラメータは導電率及びイオン濃度の少なくともいずれか一方であってもよい。
【0009】
上記成分は人の唾液に含まれるタンパク質であり、上記成分の量に対応するパラメータはタンパク質の活性であってもよい。
【0010】
検査サンプルの第2パラメータの値は測定対象箇所の周囲温度及び周囲湿度の少なくともいずれか一方に応じて補正され、判定部は検査サンプルについて第1測定部で測定された第1パラメータの値と補正された第2パラメータの値との組み合わせに基づき感染リスクレベルを判定してもよい。
【0011】
参照データには、測定対象箇所の表面の材質、第1パラメータの値及び第2パラメータの値の組み合わせごとに感染リスクレベルが予め割り当てられ、判定部は参照データを参照し、材質に応じた感染リスクレベルを判定してもよい。
【0012】
本開示に係る感染リスク判定システムは、測定対象箇所の表面から採取された検査サンプルのアデノシン三リン酸の量又はアデノシン三リン酸の量に対応するパラメータである第1パラメータの値と、検査サンプルにおける人の体液に含まれる成分の量又は上記成分の量に対応するパラメータである第2パラメータの値を入力する入力部を備える。感染リスク判定システムは、第1パラメータの値と第2パラメータの値との組み合わせごとに感染リスクレベルが予め割り当てられた参照データを参照し、入力部から入力された第1パラメータの値と入力部から入力された第2パラメータの値との組み合わせに基づき、測定対象箇所の表面の感染リスクレベルを判定する判定部を備える。感染リスク判定システムは、判定部によって判定された判定結果を出力する出力部を備える。
【0013】
本開示に係る感染リスク計測方法は、アデノシン三リン酸の量又はアデノシン三リン酸の量に対応するパラメータである第1パラメータを測定する工程を含む。上記方法は、人の体液に含まれる成分の量又は上記成分の量に対応するパラメータである第2パラメータを測定する工程を含む。上記方法は、第1パラメータの値と第2パラメータの値との組み合わせごとに感染リスクレベルが予め割り当てられた参照データを参照し、測定対象箇所の表面から採取された検査サンプルについて測定された第1パラメータの値と検査サンプルについて測定された第2パラメータの値との組み合わせに基づき、測定対象箇所の表面の感染リスクレベルを判定する工程を含む。上記方法は、判定された判定結果を出力する工程を含む。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、ウイルスの感染リスクを判定することが可能な感染リスク計測システム、感染リスク判定システム及び感染リスク計測方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】一実施形態に係る感染リスク計測システムを示す概略図である。
図2】一実施形態に係る判定マップを示す図である。
図3】感染リスク計測システムの処理手順を示すフローチャートである。
図4】参考例1及び参考例2の測定結果がプロットされたグラフである。
図5】参考例3及び参考例4の測定結果がプロットされたグラフである。
図6】参考例5の測定結果がプロットされたグラフである。
図7】参考例6の測定結果がプロットされたグラフである。
図8】参考例7の測定結果がプロットされたグラフである。
図9】参考例8の測定結果がプロットされたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、いくつかの例示的な実施形態について、図面を参照して説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0017】
本実施形態に係る感染リスク計測システム1は、図1に示すように、第1測定部10と、第2測定部20と、判定部30と、温度計31と、湿度計32と、数値入力部40と、出力部50とを備えている。感染リスク計測システム1では、測定対象箇所の表面から採取された検査サンプルを第1測定部10及び第2測定部20で測定し、判定部30で感染リスクレベルが判定される。
【0018】
測定対象箇所の表面形状及び材質は特に限定されない。具体的には、測定対象箇所の表面形状は、平坦な形状であってもよく、凹凸を有する形状であってもよい。また、測定対象箇所の材質は、プラスチック、ゴム、金属、布、木材、紙、コンクリート又はセラミックスなどであってもよい。測定対象箇所は、室内に存在する有体物の表面であってもよい。
【0019】
第1測定部10は、ATPの量又はATPの量に対応するパラメータである第1パラメータを測定する。ATPはADP(アデノシン二リン酸)と無機リン酸とに加水分解されることによりエネルギーが放出されることから、細胞のエネルギー源として細胞内の様々な反応に利用されている。ウイルスは通常ATPを保有していないが、人から発せられる唾液又は鼻水などの体液には細菌などの微生物が含まれており、微生物内にはATPが存在している。そのため、第1パラメータは測定対象箇所の表面に付着している微生物の量を評価する指標となる。第1測定部10で測定されるATPの量は、グラム単位で表される量、体積単位で表される量、又は、モル単位で表される量であってもよい。
【0020】
ATPの量に対応するパラメータは、ルシフェラーゼの作用による発光量であってもよい。ルシフェラーゼの作用による発光量はATP量に比例するため、検査サンプルの発光量を測定することにより、その場で簡易にATP量を測定することができる。このような発光を利用した測定方法の例としては、ATP拭き取り検査法が挙げられる。第1測定部10は、具体的には、発光量を測定可能なルミノメータを含んでいてもよい。ルミノメータは、サンプル保持部11と、検知部12と、演算部13とを含んでいてもよい。
【0021】
サンプル保持部11は、サンプル容器を保持することが可能なように設けられている。サンプル容器には、検査サンプルと発光試薬とを反応させて得られた反応液が収容される。検査サンプルは、測定対象箇所の表面を布又は綿棒などの拭き取り部材を用いて採取することができる。発光試薬は、ルシフェラーゼと、ルシフェリンと、マグネシウムイオンとを含んでいてもよい。拭き取り部材に付着した検査サンプルを発光試薬に接触させることにより、検査サンプルに含まれるATPと発光試薬に含まれるルシフェリンとがルシフェラーゼの触媒作用により反応し、反応によって生成された反応生成物が発光する。
【0022】
検知部12は、フォトダイオード又は光電子増倍管を含んでいてもよい。検知部12は、ルシフェラーゼの触媒作用によって反応液から発せられる光を検知し、検知した光量に応じた電気信号を生成する。検知部12で生成された電気信号は、演算部13に送信される。
【0023】
演算部13は、プロセッサを含んでおり、検知部12で生成された電気信号から発光量(RLU:Relative Light Unit)を演算する。発光量はATP量に比例するため、演算部13は検知部12で生成された電気信号からATP量を演算してもよい。
【0024】
なお、ATPの量に対応するパラメータが発光量である例について説明したが、ATPの量に対応するパラメータは発光量及びATP濃度の少なくともいずれか一方であってもよい。ATP濃度は、水に検査サンプルを溶解させた水溶液中のATP量を測定することによって得ることができる。
【0025】
第1測定部10は、上述のように第1パラメータを測定する。しかしながら、第1測定部10で測定された第1パラメータの値が大きく、ATP量が多い場合であっても、測定対象箇所の表面に自生した菌類に由来するATPである可能性がある。したがって、第1パラメータの測定だけでは、ウイルスによる感染リスクを適切に評価できないおそれがある。そこで、本実施形態に係る感染リスク計測システム1は、第2測定部20を備えている。
【0026】
第2測定部20は、人の体液に含まれる成分の量又は上記成分の量に対応するパラメータである第2パラメータを測定する。第2測定部20によって第2パラメータが測定されることにより、咳、くしゃみ及び会話などによって飛散した体液が測定対象箇所へ付着した量を示す指標を得ることができる。人の体液に含まれる成分の量は、グラム単位で表される量、体積単位で表される量、又は、モル単位で表される量であってもよい。
【0027】
上記成分の量に対応するパラメータは、導電率及びイオン濃度の少なくともいずれか一方であってもよい。すなわち、第2測定部20は、導電率及びイオン濃度を測定してもよく、導電率又はイオン濃度のいずれか一方を測定してもよい。これにより、第2測定部20は第2パラメータを迅速かつ簡易に測定することができる。第2測定部20は、検査サンプルを水に溶解させた水溶液の導電率又はイオン濃度を測定してもよい。
【0028】
導電率は、導電率測定器又は塩分濃度測定器によって測定することができる。例えば唾液には、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン及び塩化物イオンなどの無機成分が含まれている。これらの無機成分が水中に多く含まれるほど、水溶液の導電率の値が大きくなる傾向にある。そのため、検査サンプルの導電率を測定することにより、体液に含まれる成分の量を間接的に測定することができる。導電率は、交流2電極方式、交流4電極方式及び電磁誘導方式などのいずれの方式によって測定してもよい。
【0029】
イオン濃度は、イオンセンサ又は塩分濃度測定器によって測定することができる。イオンセンサは、ナトリウムイオンセンサ、カリウムイオンセンサ、カルシウムイオンセンサ及び塩化物イオンセンサからなる群より選択される少なくとも一種のセンサを含んでいてもよい。ナトリウムイオンセンサはナトリウムイオン濃度を測定し、カリウムイオンセンサはカリウムイオン濃度を測定し、カルシウムイオンセンサはカルシウムイオン濃度を測定し、塩化物イオンセンサは塩化物イオン濃度を測定する。イオンセンサは、人の体液に含まれるイオンに対して選択的に応答するイオン選択電極を含んでいる。イオン選択電極は、上記のような特定のイオンと選択的に相互作用する感応膜を含んでいる。感応膜は、固体膜であってもよく、液体膜であってもよい。感応膜は、支持体と、支持体に保持され、イオン交換体又はニュートラルキャリアが溶媒に溶解した溶液とを含んでいてもよい。ニュートラルキャリアとしては、例えば、バリノマイシン及びクラウンエーテルなどが挙げられる。
【0030】
塩分濃度測定器は、検査サンプルの塩分濃度を測定することができる。また、上記のように、例えば唾液にはナトリウムイオン及び塩化物イオンが含まれているため、塩分濃度測定器で塩分濃度を測定することにより、体液に含まれる成分の量を間接的に測定することができる。塩分濃度測定器は、電気伝導度法又はイオン電極法により塩分濃度を測定してもよい。
【0031】
上記体液に含まれる成分は人の唾液に含まれるタンパク質であり、上記成分の量に対応するパラメータはタンパク質の活性であってもよい。これにより、検査サンプルに唾液に由来する成分が含まれていることを、より確実に把握することができる。第2測定部20は、検査サンプルを水に溶解させた水溶液のタンパク質の活性を測定してもよい。唾液に含まれるタンパク質としては、例えばアミラーゼ及びマルターゼなどの酵素、並びに、ラクトフェリンなどの糖タンパク質が挙げられる。
【0032】
タンパク質の活性は、アミラーゼ活性であってもよい。すなわち、第2測定部20は、アミラーゼ活性を測定してもよい。具体的には、第2測定部20は、検査サンプルに含まれるアミラーゼの加水分解作用を利用してアミラーゼ活性を測定してもよい。アミラーゼ活性は、検査サンプルを水に溶解させた水溶液と基質とを接触させ、基質が分解されて遊離した分子の発色度を測定することにより、測定することができる。基質としては、Gal-G2-CNP(2-クロロ-4-ニトロフェニル-4-ガラクトピラノシルマルトシド)のようなCNP(2-クロロ-4-ニトロフェノール)を有する分子が例として挙げられる。このような基質が分解され、遊離したCNPの発色度を測定することにより、アミラーゼ活性を容易に確認することができる。発色度は、色差計又は吸光光度計を用いて測定することができる。
【0033】
判定部30は、参照データを参照し、第1測定部10で測定された検査サンプルにおける第1パラメータの値と第2測定部20で測定された検査サンプルにおける第2パラメータの値との組み合わせとに基づき、測定対象箇所の感染リスクレベルを判定する。これにより、ATP検査だけでは判定することができなかったウイルスに対する感染リスクレベルを判定することができる。判定部30は、第1測定部10及び第2測定部20と有線で電気的に接続されていてもよく、無線で電気的に接続されていてもよい。
【0034】
参照データは、第1パラメータの値と第2パラメータの値との組み合わせごとに感染リスクレベルが予め割り当てられている。参照データは、例えば判定マップであってもよい。判定マップは、例えば以下のようにして作成することができる。まず、判定マップを作成するための複数の参照サンプルを準備する。複数の参照サンプルは、異なる複数の測定対象箇所から取得される。参照サンプルを作製するための測定対象箇所は、人の体液の付着の程度及びATPの付着の程度がそれぞれ異なることが好ましい。このような測定対象箇所としては、例えば後述する参考例で示されるような、プラスチック板、使用前後の手袋、手のひら、階段手摺、デスク及び食卓などが挙げられる。測定対象箇所は、感染者が唾液の飛沫を飛散させた場合を想定した疑似サンプルを作製してもよい。例えば、唾液の模擬液を調製し、模擬液をプラスチックに吹き付けてもよい。
【0035】
次に、各参照サンプルの第1パラメータを第1測定部10で測定し、第2パラメータを第2測定部20で測定する。そして、測定して得られた第1パラメータの値及び第2パラメータの値を、参照サンプルごとにグラフにプロットする。グラフは線形グラフ、片対数グラフ、両対数グラフのいずれでもよい。そして、複数の参照サンプルの測定結果がプロットされたグラフに対し、各参照サンプルの性状に応じて感染リスクレベルを設定する。具体的には、図2に示すように、エリアA、エリアB、エリアC、エリアD及びエリアEのようにウイルスの感染リスクレベルを区分けし、第1パラメータの値と第2パラメータの値との組み合わせごとに各感染リスクレベルを割り当ててもよい。
【0036】
エリアAは、第1パラメータとしての発光量の値、及び第2パラメータとしての導電率の値が最も大きいエリアである。そのため、エリアAは、唾液などによって汚染されている可能性が高く、感染リスクが最も高いと考えられるエリアである。
【0037】
エリアBは、発光量の値はエリアAよりも小さいが、導電率の値がエリアAと同様に大きいエリアである。そのため、エリアBは、人が頻繁に触れている可能性が高く、唾液以外の人に由来する汚染が存在するか、又は、唾液などによって汚染されてから時間が経過し、ウイルスの活性が低下していると考えられるエリアである。したがって、エリアBは、感染リスクがエリアAよりも低いと考えられるエリアである。
【0038】
エリアCは、発光量の値及び導電率の値が最も小さいエリアである。そのため、エリアCは、清掃されているエリアであり、過去に唾液の飛沫による汚染があったとしても、清掃によってウイルスの存在量が低減していると考えられるエリアである。したがって、エリアCは、感染リスクが最も低いと考えられるエリアである。
【0039】
エリアDは、導電率の値はエリアA及びエリアBと同様に大きいが、発光量の値がエリアA及びエリアBよりも小さいエリアである。エリアDは、唾液の飛沫による汚染又は人の接触による汚染の可能性があるものの、汚染から時間が経過し、ウイルスの活性が低下していると考えられるエリアである。したがって、エリアDは、感染リスクがエリアBよりも低いと考えられるエリアである。
【0040】
エリアEは、発光量の値はエリアAと同様に大きいが、導電率の値がエリアAよりも小さいエリアである。エリアEは、微生物が存在する可能性は高いものの、人に由来する汚染の可能性は低いと考えられるエリアである。したがって、エリアEは、感染リスクがエリアAよりも低いと考えられるエリアである。
【0041】
なお、本実施形態では、判定マップをエリアA~エリアEに区分けしたが、エリアの総数及び各エリアの大きさなどは適宜設定することができる。例えば、エリアA及びエリアBを、エリアC、エリアD及びエリアEよりも感染リスクレベルの高いエリアZとして区分けしてもよい。
【0042】
また、参照データには、測定対象箇所の材質、第1パラメータの値及び第2パラメータの値の組み合わせごとに感染リスクレベルが予め割り当てられ、判定部30は参照データを参照し、測定対象箇所の材質に応じた感染リスクレベルを判定してもよい。ウイルスの生存時間は付着した材質によって生存時間が異なるため、測定対象箇所の材質に応じて感染リスクレベルを判定することにより、感染リスクレベルをより正確に計測することができる。参照データは、上述したように、複数の参照サンプルの第1パラメータ及び第2パラメータを材質ごとに測定し、得られた値を参照サンプルごとにグラフにプロットして感染リスクレベルを割り当てればよい。
【0043】
判定部30は、参照データを参照し、検査サンプルについて第1測定部10で測定された第1パラメータの値と、第2測定部20で測定された第2パラメータの値との組み合わせに基づき、測定対象箇所の表面の感染リスクレベルを判定する。判定部30は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)を含んでいてもよい。CPUは、ROMに記憶されたプログラム及び参照データを読み込み、プログラムに従って測定対象箇所の感染リスクレベルを判定することができる。上述した判定マップは、データテーブル形式でROMに記憶されていてもよい。プログラム及び参照データは、図示しない外部の記憶装置に記憶されていてもよい。RAMは、第1測定部10、第2測定部20、温度計31、湿度計32などから取得した情報を一時的に記憶し、CPUはRAMに記憶された情報を読み出して演算などの処理に用いることができる。
【0044】
なお、各参照サンプル及び検査サンプルは、測定対象箇所から採取される部分の表面積が同じになるように採取されるか、又は、採取される部分の表面積が同じになるように検査サンプルの第1パラメータの値及び第2パラメータの値が補正されることが好ましい。
【0045】
検査サンプルの第2パラメータの値は、測定対象箇所の周囲温度及び周囲湿度の少なくともいずれか一方に応じて補正されてもよい。そして、判定部30は検査サンプルについて第1測定部10で測定された第1パラメータの値と補正された第2パラメータの値との組み合わせに基づき感染リスクレベルを判定してもよい。周囲温度及び周囲湿度は、ウイルスの不活性化状態に影響を及ぼす。例えば、周囲温度が高い場合、ウイルスは不活性化されやすい。そのため、判定部30は、予め実験などで定めておいた係数などによって第2測定部20で測定された第2パラメータの値を補正し、第1測定部10で測定された第1パラメータの値と補正された第2パラメータの値とに基づき、判定リスクを判定してもよい。判定部30は、温度計31によって測定された周囲温度、湿度計32によって測定された周囲湿度に基づいて第2パラメータの値を補正してもよい。また、周囲温度及び周囲湿度は数値入力部40を介してユーザに入力されてもよく、判定部30は入力された周囲温度及び周囲湿度に基づいて第2パラメータの値を補正してもよい。数値入力部40は、数値を入力可能なキーボード又はタッチパネルを含んでいてもよい。
【0046】
出力部50は、判定部30によって判定された判定結果を出力する。出力部50は、ディスプレイ又はプリンタであってもよい。出力部50は、上述したようなエリアA~エリアEをそのまま判定結果として出力してもよく、エリアA~エリアEをリスクレベル1~リスクレベル5とそれぞれ読み替えたものを判定結果として出力してもよい。また、出力部50は、エリアAをハイレベル、エリアBをミドルレベル、エリアC~エリアEをローレベルと読み替えたものを判定結果として出力してもよい。
【0047】
次に、本実施形態に係る感染リスク計測システム1の処理手順を、図3のフローチャートを用いて説明する。
【0048】
感染リスク計測システム1による測定が開始されると、ステップS101において、第1測定部10は、検査サンプルの第1パラメータを測定する。ステップS102において、第2測定部20は、検査サンプルの第2パラメータを測定する。ステップS103において、判定部30は、ROMから判定データを読み出す。ステップS104において、判定部30は、判定データを参照し、検査サンプルの第1パラメータの値と第2パラメータの値との組み合わせに基づき、測定対象箇所の感染リスクレベルを判定する。ステップS105において、出力部50は、判定部30によって判定された判定結果を出力し、感染リスク計測システム1による測定が終了する。なお、フローチャートでは、第1測定部10が第1パラメータを測定した後に、第2測定部20が第2パラメータを測定しているが、第2測定部20が第2パラメータを測定した後に、第1測定部10が第1パラメータを測定してもよい。また、第1測定部10が第1パラメータを測定すると同時に第2測定部20が第2パラメータを測定してもよい。
【0049】
以上説明した通り、本実施形態に係る感染リスク計測システム1は、第1測定部10と、第2測定部20と、判定部30と、出力部50とを備えている。第1測定部10は、アデノシン三リン酸の量又はアデノシン三リン酸の量に対応するパラメータである第1パラメータを測定する。第2測定部20は、人の体液に含まれる成分の量又は上記成分の量に対応するパラメータである第2パラメータを測定する。判定部30は、参照データを参照し、検査サンプルについて第1測定部10で測定された第1パラメータの値と第2測定部20で測定された第2パラメータの値との組み合わせに基づき、測定対象箇所の表面の感染リスクレベルを判定する。参照データは、第1パラメータの値と第2パラメータの値との組み合わせごとに感染リスクレベルが予め割り当てられている。検査サンプルは、測定対象箇所の表面から採取される。出力部50は、判定部30によって判定された判定結果を出力する。
【0050】
また、本実施形態に係る感染リスク計測方法は、アデノシン三リン酸の量又はアデノシン三リン酸の量に対応するパラメータである第1パラメータを測定する工程を含む。上記方法は、人の体液に含まれる成分の量又は上記成分の量に対応するパラメータである第2パラメータを測定する工程を含む。上記方法は、参照データを参照し、検査サンプルについて測定された第1パラメータの値と検査サンプルについて測定された第2パラメータの値との組み合わせに基づき、測定対象箇所の表面の感染リスクレベルを判定する工程を含む。参照データは、第1パラメータの値と第2パラメータの値との組み合わせごとに感染リスクレベルが予め割り当てられている。検査サンプルは、測定対象箇所の表面から採取されている。上記方法は、判定された判定結果を出力する工程を含む。
【0051】
このように、感染リスク計測システム1及び感染リスク計測方法は、第1パラメータ及び第2パラメータを用いて感染リスクを判定する。第1パラメータは測定対象箇所の表面に付着している微生物の量を評価する指標となり、第2パラメータは測定対象箇所の表面に付着している体液の量を評価する指標となる。感染した人の唾液及び鼻水にはウイルス及び細菌が多く含まれており、検査サンプルに唾液及び鼻水が多く含まれていると、第1パラメータの値及び第2パラメータの値が大きくなる傾向にある。そのため、参照データを参照し、これらのパラメータに基づいて感染リスクレベルを判定することで、ATP拭き取り検査だけでは判定することが容易ではなかったウイルスの感染リスクを判定することができる。感染リスクが高い汚染箇所を計測することにより、ATP量が多い場所であっても感染リスクが低いような上述したエリアEの箇所などにおいて、必要以上の除菌作業が行われることを抑制することができる。
【0052】
本実施形態に係る感染リスク計測システム1及び感染リスク計測方法は、病院、介護施設、保育園、幼稚園、学校、商業施設、工場、オフィス及び家庭などのような複数の人が出入りする場所で使用することが特に適している。また、感染リスク計測システム1及び感染リスク計測方法は、オゾンなどにより適正に除菌ができているか評価することにも適している。
【0053】
[感染リスク判定システム]
次に、本実施形態に係る感染リスク判定システム100について図1を用いて説明する。本実施形態に係る感染リスク判定システム100は、入力部110と、判定部30と、出力部50とを備えている。
【0054】
入力部110は、測定対象箇所の表面から採取された検査サンプルのATPの量又はATPの量に対応するパラメータである第1パラメータの値を入力する。また、入力部110は、検査サンプルにおける人の体液に含まれる成分の量又は上記成分の量に対応するパラメータである第2パラメータの値を入力する。入力部110は第1測定部10を含んでいてもよく、第1パラメータの値は第1測定部10によって入力されてもよい。また、入力部110は第2測定部20を含んでいてもよく、第2パラメータの値は第2測定部20によって入力されてもよい。また、入力部110は数値入力部40を含んでおり、第1パラメータの値及び第2パラメータの値の少なくともいずれか一方は数値入力部40によって入力されてもよい。第1測定部10、第2測定部20及び数値入力部40は上述したものを用いることができる。
【0055】
判定部30は、参照データを参照し、入力部110から入力された第1パラメータの値と入力部110から入力された第2パラメータの値との組み合わせに基づき、測定対象箇所の感染リスクレベルを判定する。参照データは、上述したように、第1パラメータの値と第2パラメータの値との組み合わせごとに感染リスクレベルが予め割り当てられている。判定部30は、上述したものを用いることができる。
【0056】
出力部50は、判定部30によって判定された判定結果を出力する。出力部50は上述したものを用いることができる。
【0057】
本実施形態に係る感染リスク判定システム100は、感染リスク計測システム1と同様に、ウイルスの感染リスクを判定することができる。
【0058】
以下、本実施形態を参考例によりさらに詳細に説明するが、本実施形態はこれらの参考例に限定されるものではない。
【0059】
[参考例1]
まず、塩化ナトリウム5g、イースト菌(サフ社製、インスタントドライイースト)0.5g及びイオン交換水450mLを容器に入れて撹拌し、塩化ナトリウムを溶解した。その後、この溶液をメスシリンダーに移し替え、イオン交換水で500mLまでメスアップして唾液模擬液を調製した。なお、飛沫として飛散する唾液は粘性が低く、唾液内の水分量は多くなっていると想定される。すなわち、飛沫に含まれる菌数は口内の総菌数よりも少なくなっていると想定されるため、唾液模擬液中のイースト菌量は、一般的な人の口内の総菌数の1/10~1/1000程度となるように調製されている。次に、唾液模擬液をプラスチック板に所定量噴霧し、乾燥させたものを測定対象箇所とした。これらを参考例1-1~参考例1-4として表1に示す。
【0060】
[参考例2]
まず、参考例1と同様に、唾液模擬液をプラスチック板に所定量噴霧し、乾燥させた。次に、唾液模擬液が噴霧された箇所を、エタノール(EtOH)又は次亜塩素酸(HClO)を浸み込ませた布で拭いたものを測定対象箇所とした。これらを参考例2-1~参考例2-5として表2に示す。
【0061】
[参考例3]
未使用又は所定時間着用した使い捨てゴム手袋の内側を測定対象箇所とした。これらを参考例3-1~参考例3-7として表3に示す。
【0062】
[参考例4]
手洗い前後の手のひらを測定対象箇所とした。これらを参考例4-1~参考例4-3として表4に示す。
【0063】
[参考例5]
階段の手摺を測定対象箇所とした。これらを参考例5-1~参考例5-8として表5に示す。
【0064】
[参考例6]
まず、イースト菌(サフ社製、インスタントドライイースト)0.5g及びイオン交換水450mLを容器に入れて撹拌した。その後、液体をメスシリンダーに移し替え、イオン交換水で500mLまでメスアップして菌液を調製した。なお、菌液中のイースト菌量は、一般的な人の唾液内の総菌数の1/10~1/1000程度となるように調製されている。次に、菌液をプラスチック板に1mLスプレーで吹き付け、乾燥させたものを測定対象箇所とした。これらを参考例6-1~参考例6-2として表6に示す。
【0065】
[参考例7]
拭き取り前又は次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)若しくはエタノール(EtOH)をスプレーした後に拭き取ったデスクを測定対象箇所とした。これらを参考例7-1~参考例7-21として表7に示す。
【0066】
[参考例8]
食卓を測定対象箇所とした。これらを参考例8-1~参考例8-2として表8に示す。
【0067】
(ATP拭き取り検査)
参考例1~参考例2及び参考例6~参考例8については、測定対象箇所に10cm×10cmの枠を置き、ATP拭き取り検査用の綿棒で枠内の測定対象箇所の表面を拭き取った。参考例3~参考例5については、拭き取り面積が100cmとなるようにATP拭き取り検査用の綿棒で測定対象箇所の表面を拭き取った。拭き取った綿棒を、ATP測定用試薬(3MTMCrean-TraceTM UXL100)の入った測定チューブ内に挿入して振り、拭き取った測定対象物と試薬とを反応させた。次に、綿棒を挿入した測定チューブを、ATP測定器(ルミノメーター)(3MTMCrean-TraceTM NG)にセットし、測定対象物の発光量(RLU:Relative Light Unit)を測定した。なお、上述したように、発光量(RLU)はATP量に比例するため、ここでは発光量(RLU)をATP量とみなして議論している。
【0068】
(導電率)
参考例1~参考例2及び参考例6~参考例8については、ATP拭き取り検査で枠を置いた場所とは異なる位置であって、ATP拭き取り検査で枠を置いた場所と近接する位置に10cm×10cmの枠を置いた。次に、水を含ませた脱脂綿(大衛株式会社 アメジスト(登録商標)ママとベビーの水だけぬれコットン)をピンセットでつかみ、枠内の測定対象箇所の表面を拭き取った。参考例3~参考例5については、拭き取り面積が100cmとなるように、水を含ませた脱脂綿で測定対象箇所の表面を拭き取った。次に、2本のピンセットを用い、測定箇所を拭いた面が下になるようにして脱脂綿を絞り、得られた数滴の水を電気伝導率計(株式会社堀場製作所製のLAQUA(登録商標)twin EC-33B)で測定した。なお、本装置では交流2電極方式によって導電率が測定され、25℃における導電率に換算されている。
【0069】
上記のようにして得られた参考例のATP量(RLU)と導電率(μS/cm)との関係についてプロットした結果を表1~表8及び図4図9に示す。なお、グラフのX軸はATP量(RLU)を、Y軸は導電率(μS/cm)を常用対数で表示している。同様に、各表に記載のATP量(RLU)及び導電率も常用対数で表示している。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
【表3】
【0073】
【表4】
【0074】
【表5】
【0075】
【表6】
【0076】
【表7】
【0077】
【表8】
【0078】
表1及び図4に示すように、参考例1の検査サンプルは、ATPがLog103RLU以上であり、導電率がLog102μS/cm以上であった。参考例1がプロットされるエリアは、測定対象箇所に付着した唾液量が多く、感染リスクが高いエリアと考えられる。また、感染した人は免疫力が下がり、唾液模擬液よりも体液内の微生物が多く、ATP量が多くなる場合も予想される。したがって、参考例1がプロットされるエリアと、参考例1よりもATP量が多いエリアを、唾液の飛沫によって汚染されている可能性が高く、感染リスクが最も高いと考えられるエリアAとして設定した。
【0079】
一方、表2及び図4に示すように、参考例2の検査サンプルは、ATPがLog104.5RLU未満であり、導電率がLog102μS/cm未満であった。これらの結果から、プラスチック板に唾液模擬液が付着しても、拭き掃除によって除去されることが分かる。したがって、参考例2がプロットされたエリアを、清掃されていると考えられるエリアCとして設定した。
【0080】
表3及び図5に示すように、所定時間着用した手袋の内側は、未使用の手袋の内側と比較し、ATP量の値が大きくなる傾向にあることが分かる。また、表4及び図5に示すように、手のひらは、所定時間着用した手袋の内側と同等のATP量及び導電率であることが分かる。したがって、参考例3及び参考例4がプロットされるエリアを、人が頻繁に触れている可能性が高いと考えられるエリアBとして設定した。
【0081】
表5及び図6に示すように、参考例5は、未使用手袋を除く参考例3及び参考例4よりもATP量が少なかった。階段で会話をする人はほとんどいないため、唾液の飛沫による汚染は少ないと考えられる。また、階段手摺は、毎日清掃されているため、人の接触も少ないと考えられる。したがって、参考例5がプロットされるエリアを、唾液の飛沫による汚染又は人の接触による汚染の可能性があるものの、汚染から時間が経過し、ウイルスの活性が低下していると考えられるエリアDとして設定した。
【0082】
なお、図示しないが、エリアA又はエリアBにプロットされるような検査サンプルであっても、時間の経過に伴ってATP量の値が低下することを確認している。これは、細菌などの微生物は増殖時にATPを生産するが、微生物が死滅した後はATPが生産されず、細胞に残存する酵素等によって、ATPが分解されるだけになるからと考えられる。
【0083】
表6及び図7に示すように、参考例6の検査サンプルは、ATPがLog104.5RLU以上であり、かつ、導電率がLog102μS/cm未満であった。菌液を塗布したプラスチック板は、人の体液に由来する汚れではなく、ウイルスの付着が少ないと考えらえる。したがって、参考例7がプロットされるエリアを、微生物が存在する可能性は高いものの、人に由来する汚染の可能性は低いと考えられるエリアEとして設定した。
【0084】
表7及び図8に示すように、拭き取り前のデスクは、エリアA又はエリアBにプロットされた。しかしながら、図8の矢印で示すように、次亜塩素酸ナトリウム又はエタノールで拭き取った後のデスクは、ATP量及び導電率が低下し、エリアCにプロットされる傾向にあった。
【0085】
表8及び図9に示すように、参考例8-1はエリアCに分類されたが、参考例8-2はエリアAに分類された。参考例8-1の食卓は清掃されて感染リスクが低くなっているのに対し、参考例8-2の食卓は会話により唾液が飛散し、感染リスクが高くなっていると考えられる。
【0086】
以上説明した通り、第1パラメータ及び第2パラメータを測定し、作成した参照データを参照することで感染リスクレベルを判定することができた。これにより、感染リスク計測システム、感染リスク判定システム及び感染リスク計測方法によれば、ウイルスの感染リスクを判定することが可能であることが理解できる。
【0087】
いくつかの実施形態を説明したが、上記開示内容に基づいて実施形態の修正または変形をすることが可能である。上記実施形態のすべての構成要素、及び請求の範囲に記載されたすべての特徴は、それらが互いに矛盾しない限り、個々に抜き出して組み合わせてもよい。
【0088】
本開示は、例えば、国際連合が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標3『あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する』に貢献することができる。
【符号の説明】
【0089】
1 感染リスク計測システム
10 第1測定部
20 第2測定部
30 判定部
40 数値入力部
50 出力部
100 感染リスク判定システム
110 入力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9