(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022138397
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】金属酸化物の製造方法、及び金属窒化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01F 7/36 20060101AFI20220915BHJP
D01F 9/10 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
C01F7/36
D01F9/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021038264
(22)【出願日】2021-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100090251
【氏名又は名称】森田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】小坂 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】高橋 克洋
(72)【発明者】
【氏名】村上 泰
(72)【発明者】
【氏名】小林 正美
【テーマコード(参考)】
4G076
4L037
【Fターム(参考)】
4G076AA02
4G076AA11
4G076AB12
4G076AB13
4G076BA14
4G076BA40
4G076BA42
4G076BA50
4G076BC09
4G076BE20
4G076CA07
4G076CA40
4G076FA01
4L037CS18
4L037PA41
4L037PA63
(57)【要約】
【課題】金属アルコキシド溶液中の金属アルコキシドを加水分解させ縮重合させて調製した曳糸性ゾル溶液を用いて金属酸化物または金属窒化物を製造する際に、安定して金属酸化物または金属窒化物を製造できる製造方法を提供する。
【解決手段】前記金属アルコキシド溶液が炭素数5~8のアルキルアルコールを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属アルコキシド溶液中の金属アルコキシドを加水分解させ縮重合させて調製した曳糸性ゾル溶液を用いてゲル状構造体を調製し、前記ゲル状構造体を焼成して金属酸化物または金属窒化物を製造する方法において、前記金属アルコキシド溶液が炭素数5~8のアルキルアルコールを含む、前記製造方法。
【請求項2】
(i)金属アルコキシドと、炭素数5~8のアルキルアルコールとを含む金属アルコキシド溶液を用意する工程、
(ii)前記金属アルコキシド溶液中の金属アルコキシドを加水分解させ縮重合させることにより、曳糸性ゾル溶液を調製する工程、
(iii)前記曳糸性ゾル溶液を用いて、ゲル状構造体を調製する工程、及び
(iv)前記ゲル状構造体を焼成して金属酸化物を得る工程、
を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
(i)金属アルコキシドと、炭素数5~8のアルキルアルコールとを含む金属アルコキシド溶液を用意する工程、
(ii)前記金属アルコキシド溶液中の金属アルコキシドを加水分解させ縮重合させることにより、曳糸性ゾル溶液を調製する工程、
(iii)前記曳糸性ゾル溶液を用いて、ゲル状構造体を調製する工程、及び
(iv)前記ゲル状構造体を、窒化物ガス雰囲気下で焼成して金属窒化物を得る工程、
を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
(i)金属アルコキシドと、炭素数5~8のアルキルアルコールとを含む金属アルコキシド溶液を用意する工程、
(ii)前記金属アルコキシド溶液中の金属アルコキシドを加水分解させ縮重合させることにより、曳糸性ゾル溶液を調製する工程、
(iii)前記曳糸性ゾル溶液を用いて、ゲル状構造体を調製する工程、及び
(iv)前記ゲル状構造体と窒化物を、不活性ガス雰囲気下で焼成して金属窒化物を得る工程、
を含む、請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物の製造方法、及び金属窒化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物及び金属窒化物は、高熱伝導性や、耐衝撃性、耐酸性などの物性を有し、放熱材などの様々な産業用途に使用されている。
このような金属酸化物の一種であるアルミナ繊維を製造できる方法として、例えば、特開2017-053078号公報(特許文献1)に、アルミニウムアルコキシドを含む溶液を加水分解及び縮重合させて曳糸性ゾル溶液を調製し、前記曳糸性ゾル溶液を紡糸し焼成する、アルミナ繊維の製造方法が開示されている。
また、このような金属窒化物の一種である窒化アルミニウムを製造できる方法として、例えば、特開2020-001981号公報(特許文献2)に、アルミニウムアルコキシドを含む溶液を加水分解及び縮重合させて曳糸性ゾル溶液を調製し、前記曳糸性ゾル溶液を用いて窒化アルミニウム前駆体を調製し、前記窒化アルミニウム前駆体を窒化物ガス雰囲気下で焼成する、あるいは前記窒化アルミニウム前駆体と窒化物を不活性ガス雰囲気下で焼成する、窒化アルミニウムの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-053078号公報
【特許文献2】特開2020-001981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載のアルミナ繊維の製造方法、及び、特許文献2に記載の窒化アルミニウムの製造方法において、曳糸性ゾル溶液に含まれるアルミニウムアルコキシドの加水分解物の縮重合が過剰に進行して曳糸性ゾル溶液がゲル化してアルミナ繊維、窒化アルミニウムが製造できなくなることがあり、曳糸性ゾル溶液の安定性が劣ることがあった。また、アルミニウムアルコキシド以外の金属アルコキシドから製造された曳糸性ゾル溶液でも同様の問題が発生するものであった。
本発明はこのような状況下においてなされたものであり、曳糸性ゾル溶液を用いて金属酸化物または金属窒化物を製造する際に、安定して金属酸化物または金属窒化物を製造できる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、金属酸化物の製造時、及び金属窒化物の製造時に、金属アルコキシド溶液中に、金属アルコキシドの他に炭素数5~8のアルキルアルコールを含んでいると、曳糸性ゾル溶液が安定し、曳糸性ゾル溶液から金属酸化物及び金属窒化物が安定して製造できることを見出した。
【0006】
本発明の請求項1にかかる発明は、「金属アルコキシド溶液中の金属アルコキシドを加水分解させ縮重合させて調製した曳糸性ゾル溶液を用いてゲル状構造体を調製し、前記ゲル状構造体を焼成して金属酸化物または金属窒化物を製造する方法において、前記金属アルコキシド溶液が炭素数5~8のアルキルアルコールを含む、前記製造方法。」である。
本発明の請求項2にかかる発明は、「(i)金属アルコキシドと、炭素数5~8のアルキルアルコールとを含む金属アルコキシド溶液を用意する工程、(ii)前記金属アルコキシド溶液中の金属アルコキシドを加水分解させ縮重合させることにより、曳糸性ゾル溶液を調製する工程、(iii)前記曳糸性ゾル溶液を用いて、ゲル状構造体を調製する工程、及び(iv)前記ゲル状構造体を焼成して金属酸化物を得る工程、を含む、請求項1に記載の製造方法。」である。
本発明の請求項3にかかる発明は、「(i)金属アルコキシドと、炭素数5~8のアルキルアルコールとを含む金属アルコキシド溶液を用意する工程、(ii)前記金属アルコキシド溶液中の金属アルコキシドを加水分解させ縮重合させることにより、曳糸性ゾル溶液を調製する工程、(iii)前記曳糸性ゾル溶液を用いて、ゲル状構造体を調製する工程、及び(iv)前記ゲル状構造体を、窒化物ガス雰囲気下で焼成して金属窒化物を得る工程、を含む、請求項1に記載の製造方法。」である。
本発明の請求項4にかかる発明は、「(i)金属アルコキシドと、炭素数5~8のアルキルアルコールとを含む金属アルコキシド溶液を用意する工程、(ii)前記金属アルコキシド溶液中の金属アルコキシドを加水分解させ縮重合させることにより、曳糸性ゾル溶液を調製する工程、(iii)前記曳糸性ゾル溶液を用いて、ゲル状構造体を調製する工程、及び(iv)前記ゲル状構造体と窒化物を、不活性ガス雰囲気下で焼成して金属窒化物を得る工程、を含む、請求項1に記載の製造方法。」である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、曳糸性ゾル溶液を用いて金属酸化物または金属窒化物を製造する際に、安定して金属酸化物または金属窒化物を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明における、金属酸化物の製造方法は、
(i)金属アルコキシドと、炭素数5~8のアルキルアルコールとを含む金属アルコキシド溶液を用意する工程、
(ii)前記金属アルコキシド溶液中の金属アルコキシドを加水分解させ縮重合させることにより、曳糸性ゾル溶液を調製する工程、
(iii)前記曳糸性ゾル溶液を用いて、ゲル状構造体を調製する工程、及び
(iv)前記ゲル状構造体を焼成する工程、
を含む。
【0009】
また、本発明における、金属窒化物の製造方法は、
(i)金属アルコキシドと、炭素数5~8のアルキルアルコールとを含む金属アルコキシド溶液を用意する工程、
(ii)前記金属アルコキシド溶液中の金属アルコキシドを加水分解させ縮重合させることにより、曳糸性ゾル溶液を調製する工程、
(iii)前記曳糸性ゾル溶液を用いて、ゲル状構造体を調製する工程、及び
(iv’)前記ゲル状構造体を、窒化物ガス雰囲気下で焼成する工程、
を含むか、あるいは、
(i)金属アルコキシドと、炭素数5~8のアルキルアルコールとを含む金属アルコキシド溶液を用意する工程、
(ii)前記金属アルコキシド溶液中の金属アルコキシドを加水分解させ縮重合させることにより、曳糸性ゾル溶液を調製する工程、
(iii)前記曳糸性ゾル溶液を用いて、ゲル状構造体を調製する工程、及び
(iv”)前記ゲル状構造体と窒化物を、不活性ガス雰囲気下で焼成する工程、
を含む。
【0010】
本発明の製造方法によれば、金属アルコキシド溶液中の金属アルコキシドを加水分解させ縮重合させることにより調製した、曳糸性ゾル溶液からゲル状構造体を調製し、前記ゲル状構造体を大気中など、酸素を含む環境下で焼成することにより、金属酸化物を得ることができる。また、前記ゲル状構造体を窒化物ガス雰囲気下で、あるいは、窒化物を含有する不活性ガス雰囲気下で焼成することにより、金属窒化物を得ることができる。
本発明の製造方法によれば、前記金属アルコキシド溶液が炭素数5~8のアルキルアルコールを含むため、金属酸化物または金属窒化物を安定して製造することができる。これは、本発明者の推測によれば、前記アルキルアルコールが、曳糸性ゾル溶液に含まれる金属アルコキシドの加水分解物の縮重合を抑制し、曳糸性ゾル溶液のゲル化を抑制しているものと考えられる。なお、本発明は前記推測により限定解釈されるものではない。
【0011】
本発明の製造方法における工程(i)では、金属アルコキシドと、炭素数5~8のアルキルアルコールとを含む金属アルコキシド溶液を用意する。前記金属アルコキシド溶液は、炭素数5~8のアルキルアルコールを含むこと以外は、一般的に用いられる金属アルコキシド溶液と同様にして調製することができる。
【0012】
前記金属アルコキシドは下記式(1):
MR2
m(OR1)n-m (1)
で表され、式中、Mは酸化数nの金属、R1、R2はそれぞれ独立したアルキル基を表し、mは0~(n-1)の整数をそれぞれ表す。
【0013】
金属(M)としては、例えば、リチウム、ベリリウム、ホウ素、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、カリウム、カルシウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ヒ素、ルビジウム、ストロンチウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、カドミウム、インジウム、スズ、アンチモン、テルル、セシウム、バリウム、ランタン、ハフニウム、タンタル、タングステン、水銀、タリウム、鉛、ビスマス、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、又はルテチウムなどを挙げることができる。
【0014】
また、アルキル基R1、R2は同一でも異なっていても良く、R1、R2は炭素数4以下のアルキル基であるのが好ましく、例えば、メチル基CH3(以下、Meで表す)、エチル基C2H5(以下、Etで表す)、プロピル基C3H7(以下、Prで表す)、イソプロピル基i-C3H7(以下、Pr-iで表す)、ブチル基C4H9(以下、Buで表す)、イソブチル基i-C4H9(以下、Bu-iで表す)等の低級アルキル基を挙げることができる。
【0015】
より具体的には、金属アルコキシドとして、リチウムエトキシドLiOEt、ニオブエトキシドNb(OEt)5、マグネシウムイソプロポキシドMg(OPr-i)2、アルミニウムイソプロポキシドAl(OPr-i)3、アルミニウムブトキシドAl(OBu)4、亜鉛プロポキシドZn(OPr)2、テトラエトキシシランSi(OEt)4、チタンイソプロポキシドTi(OPr-i)4、チタンテトラブトキシドTi(OBu)4、バリウムエトキシドBa(OEt)2、バリウムイソプロポキシドBa(OPr-i)2、トリエトキシボランB(OEt)3、ジルコニウムプロポキシドZr(OPr)4、ジルコニウムブトキシドZr(OBu)4、スズブトキシドSn(OBu)4、ランタンプロポキシドLa(OPr)3、イットリウムプロポキシドY(OPr)3、鉛イソプロポキシドPb(OPr-i)2などを挙げることができる。このような金属アルコキシドは2種類以上を併用することもできる。また、加水分解反応及び縮重合反応が起こりうる部位を有する限り、このような金属アルコキシドはメチル基やエポキシ基などで有機修飾されていても良い。
【0016】
金属アルコキシドを安定化するために、溶媒で希釈することができる。このような安定化のための溶媒としては、金属アルコキシドを溶解することができ、かつ水と均一に混合できるものであれば良く、特に限定するものではないが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどの脂肪族の低級アルコール、ジメチルホルムアミド、水などを挙げることができる。なお、これらの混合溶媒とすることもできる。
【0017】
本発明における、金属アルコキシドが縮重合して曳糸性ゾルを調製するための金属アルコキシド溶液には、加水分解のための水を含有している。なお、金属アルコキシドの種類などによって、最適な水の量が異なるため、金属アルコキシド溶液における水の含有量は特に限定されるものではない。
【0018】
炭素数5~8のアルキルアルコールとしては、下記式(2):
R3-OH (2)
で表されるアルコールを挙げることができる。式中、R3は炭素数5~8の直鎖又は分岐のアルキル基を表す。
直鎖のアルキル基としては、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-へプチル基、n-オクチル基を挙げることができる。
分岐状のアルキル基としては、2-メチルブチル基、2-エチルブチル基、3-メチルブチル基、3-エチルブチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、4-メチルペンチル基、2-エチルヘキシル基を挙げることができる。
【0019】
前記式(2)で表されるアルコールとしては、炭素数5~8の直鎖又は分岐のアルキル基を有する1価のアルコールを挙げることができる。具体的には、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、1-ヘプタノール、1-オクタノール、2-エチル-1-ヘキサノールなどを挙げることができる。これらのアルコールの中でも、金属アルコキシドの加水分解物の縮重合の速度を適度に調節し、より安定して金属酸化物または金属窒化物を製造することができることから、1-ヘキサノール、2-メチル-1-ヘキサノールがより好ましい。
【0020】
金属アルコキシド溶液中に含まれる、金属アルコキシドに対する炭素数5~8のアルキルアルコールのモル比は、炭素数5~8のアルキルアルコールの含有量が少なすぎると曳糸性ゾル溶液に含まれる金属アルコキシドの加水分解物の縮重合が過剰に進行するおそれがある一方、炭素数5~8のアルキルアルコールの含有量が多すぎると、金属アルコキシドの加水分解物の縮重合が起こらず、曳糸性ゾルの製造が困難になるおそれがあることから、0.001~0.40が好ましく、0.005~0.30がより好ましく、0.01~0.27が更に好ましい。
【0021】
また、金属アルコキシドを縮重合させるための金属アルコキシド溶液には、加水分解反応が円滑に進行するように、触媒を含んでいることができる。この触媒としては、金属アルコキシドの種類などによって、最適な触媒が異なるため、特に限定するものではないが、例えば、塩酸、硝酸、水酸化ナトリウム、アンモニアなどを挙げることができる。
【0022】
なお、チタン、ジルコニウム、アルミニウム、スズ、ハフニウム等の反応性の高い金属アルコキシドの場合には、非共有電子対をもつN、O、Sが、N-N結合、N-O結合、N-C=N結合、又はN-C=S結合を形成してなるアミン系化合物の塩を触媒として用いるのが好ましい。より具体的には、N-N結合を有するアミン系化合物として、ヒドラジン一塩酸塩(H2N-NH2・HCl)、塩化ヒドラジニウム(H2N-NH2・2HCl)、N-O結合を有するアミン系化合物として、ヒドロキシルアミン(HO-NH2)を酸で中和した塩、N-C=N結合を有するアミン系化合物として、アセトアミジン[H3C-C(=NH)-NH2]、グアニジンを酸で中和した塩、N-C=S結合を有するアミン系化合物として、チオ尿酸誘導体、チウラム誘導体、ジチオカルバミン酸誘導体を、それぞれ酸で中和した塩、をそれぞれ挙げることができる。
【0023】
また、反応性の高い金属アルコキシドの場合、金属アルコキシドの反応性を制御するために、金属アルコキシドに配位可能な配位子を添加することができる。例えば、グリコール類(例えば、ジエチレングリコール)、β-ジケトン類(例えば、アセチルアセトン)、アルカノールアミン類(例えば、ジエタノールアミン)、カルボン酸類、α-ヒドロキシカルボン酸エステル類(例えば、乳酸エチル)、ヒドキシニトリル類などを添加することができる。
【0024】
本発明においては、金属アルコキシド溶液は更に、例えば、金属アルコキシドを安定化させるキレート剤、シランカップリング剤、圧電性などの各種機能を付与することができる化合物、接着性改善のための有機化合物(例えば、ポリメチルメタクリレート)、あるいは染料などの添加剤を含ませることができる。なお、これらの添加剤は、加水分解を行う際、又は加水分解後に添加することができる。
【0025】
更に、金属アルコキシド溶液は無機系又は有機系の微粒子を含んでいることができる。無機系微粒子としては、例えば、酸化イットリウム、酸化チタン、二酸化マンガン、酸化銅、二酸化珪素、活性炭、金属(例えば、白金)を挙げることができ、有機系微粒子として、色素又は顔料などを挙げることができる。また、微粒子の平均粒径は特に限定されるものではないが、好ましくは0.001~1μm、より好ましくは0.002~0.1μmである。このような微粒子を含んでいることによって、光学機能、多孔性、触媒機能、吸着機能、或いはイオン交換機能などを付与することができる。
【0026】
次に、本発明の製造方法における工程(ii)では、前記金属アルコキシド溶液中の金属アルコキシドを加水分解させ縮重合させることにより、曳糸性ゾル溶液を調製する。
金属アルコキシド溶液中の金属アルコキシドを加水分解させる際の溶液の反応温度は、低くすることで加水分解の速度を落としてゾルが高次元になることを抑制し、低温で焼成しても金属窒化物を製造しやすくなることから、35℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましく、25℃以下が更に好ましい。一方、溶液の反応温度が低過ぎると、反応時に使用する反応釜やフラスコ中の大気に含まれる水蒸気が液化して水になり、前記水が溶液に混入し加水分解反応が急速に進行するおそれがあることから、0℃以上が好ましい。
【0027】
さらに、加水分解に続く縮重合の際の溶液の反応温度は、加水分解時の温度よりも高ければよく、特に限定するものではないが、25℃以上で実施すれば、効率的に縮重合させることができる。
【0028】
なお、「曳糸性」の有無は、以下の(判定法)に示す条件で判断できる。
(判定法)
アースした金属板に対し、水平方向に配置した金属ノズル(内径:0.4mm)から紡糸溶液(固形分濃度:10~50wt%)を吐出する(吐出量:0.5~1.0g/hr)と共に、ノズルに電圧を印加(電界強度:1~3kV/cm、極性:プラス印加又はマイナス印加)し、ノズルの先端に溶液の固化を生じさせることなく、1分間以上連続して紡糸し、金属板上に繊維を集積させる。
この集積した繊維の走査電子顕微鏡写真を撮り、観察し、液滴がなく、繊維の平均繊維径(50点の算術平均値)が5μm以下、アスペクト比が100以上の繊維を製造できる条件が存在する場合、その紡糸溶液は「曳糸性あり」と判断する。これに対して、前記条件(すなわち、濃度、押出量、電界強度、及び/又は極性)を変え、いかに組み合わせても、液滴がある場合、オイル状で一定した繊維形態でない場合、平均繊維径が5μmを超える場合、あるいは、アスペクト比が100未満の場合(例えば、粒子状)で、前記繊維を製造できる条件が存在しない場合、その紡糸溶液は「曳糸性なし」と判断する。
【0029】
次に、本発明の製造方法における工程(iii)では、前記曳糸性ゾル溶液を用いて、ゲル状構造体を調製する。本発明の金属酸化物の製造方法では、前記ゲル状構造体を金属酸化物前駆体と呼ぶことがあり、本発明の金属窒化物の製造方法では、前記ゲル状構造体を金属窒化物前駆体と呼ぶことがある。
【0030】
前記ゲル状構造体としてゲル状繊維を調製する場合には、曳糸性ゾルを紡糸する工程を実施してゲル状繊維を紡糸する。ゲル状繊維の紡糸方法としては、例えば、乾式紡糸法、電界の作用による紡糸法(いわゆる静電紡糸法)、ガスの作用による紡糸法(例えば、特開2009-287138号公報に開示されているような紡糸方法)、電界の作用とガスの作用とを併用する紡糸法を挙げることができる。これらの中でも、静電紡糸法によれば、繊維径が小さく、繊維径の揃ったゲル状繊維を紡糸できるため好適である。
【0031】
いずれの紡糸方法の場合であっても、ゲル状繊維を安定して紡糸できるように、曳糸性ゾルの粘度は10mPa・s以上であるのが好ましく、50mPa・s以上であるのがより好ましく、100mPa・s以上であるのが更に好ましい。粘度の上限は特に限定するものではないが、繊維径が3μm以下の細い繊維を紡糸する場合には、細径化できるように、10Pa・s以下であるのが好ましく、5Pa・s以下であるのがより好ましく、3Pa・s以下であるのが更に好ましい。なお、これらの各上限値および各下限値は、任意に組み合わせることができる。
【0032】
なお、紡糸する際に、曳糸性ゾルの供給部(例えば、ノズル先端)を、反応液の溶媒と同様の溶媒ガス雰囲気とすることにより、曳糸性ゾルの粘度が10Pa・sを超える場合であっても紡糸可能な場合がある。なお、本発明における「粘度」は、粘度・粘弾性測定装置レオストレス6000(HAAKE製)を使用し、せん断速度100s-1の値をいう。
【0033】
次に、本発明における、金属酸化物の製造方法の工程(iv)では、前記工程(iii)で得られたゲル状構造体(金属酸化物前駆体)を焼成することにより、金属酸化物を製造することができる。
この焼成は、例えば、オーブン、焼成炉等を用いることにより実施することができる。
【0034】
この焼成は、例えば、オーブン、焼成炉を用いて実施することができる。焼成温度が低いと結晶子の成長を抑制することができ、結晶子サイズの小さい金属酸化物が実現できることから、焼成温度は1200℃以下がより好ましく、1100℃以下が更に好ましい。焼成温度の下限は、金属酸化物が生成できれば特に限定されるものではないが、金属酸化物前駆体に含まれる有機成分が分解されるように、500℃以上が好ましい。焼成時間は、十分に金属酸化物化させて、優れた熱伝導性を発揮できるように、また、金属酸化物の結晶が成長しすぎて金属酸化物の結晶子サイズが大きくなりすぎないように適宜調整するが、具体的には、1~5時間であるのが好ましく、1~3時間であるのがより好ましい。
【0035】
本発明における、金属窒化物の製造方法の工程(iv’)又は(iv”)では、前記工程(iii)で得られたゲル状構造体(金属窒化物前駆体)を窒化物ガス雰囲気下で(工程(iv’))、あるいは、窒化物を含有する不活性ガス雰囲気下で(工程(iv”))焼成することにより、金属窒化物を製造することができる。
【0036】
本明細書において「窒化物ガス」とは、分子中に窒素原子と窒素原子と結合するほかの原子を有する分子を含むガスのことをいい、例えば、アンモニアガスが挙げられる。
また、本明細書において「窒化物」とは、分子中に窒素原子とほかの原子が結合した部分を有する物質をいい、例えば、ヒドラジン、ジエタノールアミン、アンモニアなどが挙げられる。
更に、本明細書において「不活性ガス」とは、他の物質と反応しない、もしくは非常に反応しにくい分子で構成されたガスのことをいい、例えば、窒素ガスやアルゴンガスが挙げられる。前記金属窒化物前駆体を不活性ガス雰囲気下で焼成する場合は、ヒドラジンやジエタノールアミンなどの、金属窒化物前駆体と反応する窒化物を含んだ状態で焼成する必要がある。なお、前記金属窒化物前駆体を窒化物ガス雰囲気下で焼成する場合に、窒化金属窒化物前駆体と反応する窒化物を含んでいてもよい。
【0037】
この焼成は、例えば、オーブン、焼成炉を用いて実施することができる。焼成温度が低いと結晶子の成長を抑制することができ、結晶子サイズの小さい金属窒化物が実現できることから、焼成温度は1500℃以下がより好ましく、1400℃以下が更に好ましい。焼成温度の下限は、金属窒化物が生成できれば特に限定されるものではないが、金属酸化物前駆体に含まれる有機成分が分解されるように、600℃以上が好ましい。焼成時間は、十分に金属窒化物化させて、優れた熱伝導性を発揮できるように、また、金属窒化物の結晶が成長しすぎて金属窒化物の結晶子サイズが大きくなりすぎないように適宜調整するが、具体的には、1~7時間であるのが好ましく、1~5時間であるのがより好ましい。
【実施例0038】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0039】
《実施例1》
アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート、水、2-プロパノール、1-ヘキサノールを1:1:6:0.01のモル比になるように温度25℃で混合し、温度25℃で24時間攪拌して加水分解させた後、温度70℃で24時間加熱撹拌して、縮重合させた。そして、エバポレータにより、アルミナ濃度が20mass%になるまで濃縮した後、粘度が2000~3000mPa・sになるまで増粘させて、曳糸性アルミナゾル溶液Aを得た。
【0040】
その後、前記曳糸性アルミナゾル溶液Aを用い、特開2017-053078号公報の
図3に示す静電紡糸装置を用いて、以下に示す紡糸条件で静電紡糸した後、焼成炉を用いて以下に示す焼成条件で焼成して、平均繊維径0.6μmのアルミナ連続繊維からなるアルミナ連続繊維シートを得た。なお、以下の各実施例および各比較例においても同じ静電紡糸装置を用いた。
(紡糸条件)
・ノズルからの吐出量:1.0g/時間
・ノズル先端とドラム捕集体との距離:10cm
・紡糸容器内の温湿度:25℃/30%RH
・ノズルへの印加電圧:+10kV
(焼成炉での焼成条件)
・雰囲気:大気、焼成温度:1000℃/2時間
【0041】
《実施例2》
アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート、水、2-プロパノール、1-ヘキサノールを1:1:6:0.27のモル比になるように温度25℃で混合し、温度25℃で24時間攪拌して加水分解させた後、温度70℃で24時間加熱撹拌して、縮重合させた。そして、エバポレータにより、アルミナ濃度が20mass%になるまで濃縮した後、粘度が2000~3000mPa・sになるまで増粘させて、曳糸性アルミナゾル溶液Bを得た。
その後、前記曳糸性アルミナゾル溶液Bを用い、実施例1と同じ紡糸条件で静電紡糸した後、焼成炉を用いて実施例1と同じ焼成条件で焼成して、平均繊維径1.1μmのアルミナ連続繊維からなるアルミナ連続繊維シートを得た。
【0042】
《実施例3》
アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート、水、2-プロパノール、2-メチル-1-ヘキサノールを1:1:6:0.02のモル比になるように温度25℃で混合し、温度25℃で24時間攪拌して加水分解させた後、温度70℃で24時間加熱撹拌して、縮重合させた。そして、エバポレータにより、アルミナ濃度が20mass%になるまで濃縮した後、粘度が2000~3000mPa・sになるまで増粘させて、曳糸性アルミナゾル溶液Cを得た。
その後、前記曳糸性アルミナゾル溶液Cを用い、実施例1と同じ紡糸条件で静電紡糸した後、焼成炉を用いて実施例1と同じ焼成条件で焼成して、平均繊維径1.3μmのアルミナ連続繊維からなるアルミナ連続繊維シートを得た。
【0043】
《実施例4》
実施例1と同じ曳糸性アルミナゾル溶液Aを用い、実施例1と同じ紡糸条件で静電紡糸した後、焼成炉を用いて以下に示す焼成条件で焼成して、平均繊維径0.6μmの窒化アルミニウム連続繊維からなる窒化アルミニウム連続繊維シートを得た。
(焼成炉での焼成条件)
・雰囲気:アンモニア、焼成温度:1350℃/5時間
【0044】
《実施例5》
実施例2と同じ曳糸性アルミナゾル溶液Bを用い、実施例4と同じ紡糸条件(すなわち、実施例1と同じ紡糸条件)で静電紡糸した後、焼成炉を用いて実施例4と同じ焼成条件で焼成して、平均繊維径1.1μmの窒化アルミニウム連続繊維からなる窒化アルミニウム連続繊維シートを得た。
【0045】
《実施例6》
実施例3と同じ曳糸性アルミナゾル溶液Cを用い、実施例4と同じ紡糸条件で静電紡糸した後、焼成炉を用いて実施例4と同じ焼成条件で焼成して、平均繊維径1.3μmの窒化アルミニウム連続繊維からなる窒化アルミニウム連続繊維シートを得た。
【0046】
《比較例1》
アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート、水、2-プロパノールを1:1:6のモル比になるように温度25℃で混合し、温度25℃で24時間攪拌して加水分解させた後、温度70℃で24時間加熱撹拌して、縮重合させた。そして、エバポレータにより、アルミナ濃度が20mass%になるまで濃縮させたところ、ゲル化してしまい曵糸性アルミナゾル溶液を得ることができなかった。