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特開2022-138412真空積層システムおよび真空積層方法
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  • 特開-真空積層システムおよび真空積層方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022138412
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】真空積層システムおよび真空積層方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 43/34 20060101AFI20220915BHJP
   B29C 43/56 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
B29C43/34
B29C43/56
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021038285
(22)【出願日】2021-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】山本 隆幸
【テーマコード(参考)】
4F204
【Fターム(参考)】
4F204AC03
4F204AG01
4F204AM28
4F204AM32
4F204FA01
4F204FA15
4F204FB01
4F204FF36
4F204FG02
4F204FN11
4F204FN15
(57)【要約】
【課題】 比較的容易に搬送フィルムに対する積層成形物の位置ずれを防止することのできる真空積層システムまたは真空積層方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 搬送フィルムF1を用いて積層成形物Mを真空積層装置12のチャンバC内へ搬送し積層成形を行う真空積層方法において、積層成形物Mと当接する部分に粘着材料F1bが付着された搬送フィルムF1を用いて積層成形物Mの搬送を行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送フィルムを用いて積層成形物を真空積層装置のチャンバ内へ搬送し積層成形を行う真空積層システムにおいて、
積層成形物と当接される部分に粘着材料が付着された搬送フィルムを用いた積層成形物の搬送機構を備えた、真空積層システム。
【請求項2】
前記粘着材料はシリコーンを主成分とすることを特徴とする請求項1に記載の真空積層システム。
【請求項3】
搬送フィルムを用いて積層成形物を真空積層装置のチャンバ内へ搬送し積層成形を行う真空積層方法において、
積層成形物と当接する部分に粘着材料が付着された搬送フィルムを用いて積層成形物の搬送を行う、真空積層方法。
【請求項4】
上側の搬送フィルムと下側の搬送フィルムを用いて積層成形物を真空積層装置のチャンバ内へ搬送し積層成形を行う真空積層方法において、
下側の積層成形物を載置する搬送フィルムにのみに、積層成形物と当接される部分に粘着材料が付着された搬送フィルムを使用して積層成形物の搬送を行う、真空積層方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送フィルムを用いて積層成形物を真空積層装置のチャンバ内へ搬送し積層成形を行う真空積層システムおよび真空積層方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
搬送フィルムを用いて積層成形物を真空積層装置のチャンバ内へ搬送し積層成形を行う真空積層システムの場合、チャンバ内を真空吸引する際などに搬送フィルム上の積層成形物が位置ずれを起こす場合がある。そして前記位置ずれが発生すると加圧成形された積層成形物は成形不良となることが多い。前記問題に対応するものとして特許文献1、特許文献2に記載されたものが知られている。
【0003】
特許文献1には搬送フィルムに突起部を形成したり上下の搬送フィルムを仮貼することにより移動阻止部を形成して積層成形物の位置ずれを防止することが記載されている。また特許文献2には、一対の搬送用フィルムの端部をクリンピング機構により仮接着して積層成形物の位置ずれを防止することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-29002号公報
【特許文献2】特開2020-44703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら特許文献1、特許文献2のように積層成形物が載置される部分の周囲の搬送フィルムに移動阻止部を形成したり上下の搬送フィルムを仮接着する場合、次のような問題があった。即ち積層成形物の外周から余裕をもった間隔を隔てて移動阻止部等を形成する場合には移動阻止部等の内側で積層成形物の位置ずれが発生する場合があった。また移動阻止部等の積層成形物の外周近傍のギリギリの部分に形成する場合には移動阻止部等を形成する装置の精度が求められる。または移動阻止部を設けた搬送フィルムに積層成形品を載置する際に、移動阻止部に積層成形品が重なって載置されてしまうこともあった。また真空積層装置で積層成形される積層成形物が異なる大きさの積層成形物に変更された際には、移動阻止部を形成する装置の調整や変更を行う作業が発生するが、それらの調整や変更は容易な作業ではなかった。
【0006】
本発明では上記の問題を鑑みて、比較的容易に搬送フィルムに対する積層成形物の位置ずれを防止することのできる真空積層システムまたは真空積層方法を提供することを目的とする。その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施の形態に係る真空積層システムは、搬送フィルムを用いて積層成形物を真空積層装置のチャンバ内へ搬送し積層成形を行う真空積層システムにおいて、積層成形物と当接する部分に粘着材料が付着された搬送フィルムを用いて積層成形物の搬送を行う、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の真空積層システムは、搬送フィルムを用いて積層成形物を真空積層装置のチャンバ内へ搬送し積層成形を行う真空積層システムにおいて、積層成形物と当接する部分に粘着材料が付着された搬送フィルムを用いて積層成形物の搬送を行うので、比較的容易に搬送フィルムに対する積層成形物の位置ずれを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態の真空積層システムの概略説明図である。
図2】本実施形態の真空積層システムに使用される搬送フィルムの例を示す図である。
図3図2のA-A断面、B-B断面を示す断面図である。
図4】第2の実施形態の真空積層システムの概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態の真空積層システム11について、図1を参照して説明する。本実施形態の真空積層システム11は、搬送フィルムF1,F2を用いて積層成形物Mを構成する積層材と被積層材を真空積層装置12のチャンバC内の成形位置へ搬送し、真空積層装置12の成形位置で積層成形するものである。真空積層装置12は、上盤13と下盤14を閉鎖した際に真空吸引可能なチャンバCが形成され、少なくともいずれか一方の盤13,14に設けられた弾性膜体15(シリコーンゴム等の耐熱ゴムからなるダイアフラム)を前記チャンバC内で他方の盤14,13に向けて膨出させて積層成形物Mを加圧し積層成形する。
<真空積層成形システムの真空積層装置の構造>
【0011】
より具体的には真空積層装置12は、上盤13に対して下盤14が相対向している。下盤14は上盤13に対して図示しない昇降装置により近接離間移動可能となっている。そして上盤13に対して下盤14が上昇して上盤13と下盤14の間が閉鎖された際に、両者の間に真空ポンプ16により真空吸引可能な所定容積のチャンバCが形成されるようになっている。上盤13の下面の中央には加熱可能な熱板17が取り付けられている。そして上盤13の熱板17の下面全面にはシリコーンゴム膜等の耐熱ゴムからなる弾性膜体26が貼付けられている。上盤13の下面の周囲の部分には下盤14側の側壁部19と対向する位置に側壁部25が設けられている。
【0012】
一方、下盤14の上面の中央にも加熱可能な熱板18が取り付けられている。下盤14の上面のうちの周囲の部分には額縁状の側壁部19が取付けられている。前記側壁部19の下面と下盤14に挟まれ、熱板18の上面を覆う形で弾性膜体15(ダイアフラム)が取付けられている。チャンバCの中央部の成形位置は、弾性膜体15により均等な圧力で加圧可能であるが、チャンバCの端部は均等な圧力で加圧可能ではない場合がある。側壁部19の上面(上盤13との対向面)にはチャンバCを囲むようにOリング45が取付けられている。上盤13の側壁部25の一側部分(前工程側であって図1において右側)と下盤14の側壁部19の一側部分の間の部分は積層成形物Mが搬送フィルムF1,F2とともに搬入される搬入口27となっている。また上盤13の側壁部25の他側部分と下盤14の側壁部19の他側部分(後工程側であって図1において左側)の間の部分は加圧成形の終了した積層成形物Mが搬送フィルムF1,F2とともに搬出される搬出口28となっている。
【0013】
弾性膜体15の下方の熱板18またはその周囲等には管路20が接続され、管路20は開閉バルブ21を介して加圧用のコンプレッサ22に接続されている。また管路20の開閉バルブとコンプレッサ22の間の部分から分岐された管路23は開閉バルブ24を介して真空ポンプ16に接続されている。従って弾性膜体15の下方の部分は、開閉バルブ21、24を制御することにより減圧用の真空ポンプ16と加圧用のコンプレッサ22の両方に切換えて接続可能となっている。そして弾性膜体15の裏面側の管路が真空ポンプ16に接続された際には弾性膜体15は熱板18に密着され、コンプレッサ22に接続された際には弾性膜体15はチャンバC内に膨出されるようになっている。これら弾性膜体15とコンプレッサ22は真空積層装置12の加圧手段を構成する。
【0014】
真空ポンプ16に接続される管路29は、前記管路23が分岐された先の部分に設けられた開閉バルブ30を介して上盤13と下盤14の間に形成されるチャンバC内に接続されている。より具体的には管路29は上盤13に接続された管路31に接続され、熱板17の全周囲と側壁部25の間の吸引口46からチャンバC内の大気が略均等に吸引が可能となっている。
【0015】
なお真空積層装置12は真空吸引可能なチャンバC内の成形位置で積層成形物Mの加圧成形が行えるものであれば上記に限定されない。一例として真空積層装置のチャンバ内で、ダイアフラム以外の弾性平板と加圧シリンダの組み合わせを用いた加圧手段で成形物を積層成形するものでもよい。或いは気圧(相対的な圧力差を含む)のみにより加圧を行う加圧手段で搬送フィルムF1,F2を介して積層成形物Mを積層成形するものでもよい。
<真空積層成形システムの積層成形物の搬送機構>
【0016】
次に真空積層システム11の上下の搬送フィルムF1,F2と積層成形物Mの積層成形物の搬送機構32について説明する。真空積層システム11の搬送機構32は、真空積層装置12の一側(前工程側であって図1において右側)の下方には積層成形物Mを真空積層装置12に搬入するための下側の搬送フィルムF1の巻き出しロール33が設けられている。巻き出しロール33は図示しないサーボモータにより駆動制御される。巻き出しロール33にセットされ巻き出しロール33から巻き出された下側の搬送フィルムF1は、回転可能な従動ロール34により水平方向に移送方向が変更される。また真空積層装置12の他側の下方には下側の搬送フィルムF1の巻き取りロール35が設けられている。巻き取りロール35は図示しないサーボモータにより駆動制御される。そして真空積層装置12の搬出口28から出てきた下側の搬送フィルムF1は、回転可能な従動ロール36により方向が変更され、前記下側の巻き取りロール35に巻き取られる。
【0017】
前記巻き出しロール33から従動ロール34までの間の位置には回転可能な剥離用従動ロール37が設けられ、搬送フィルムF1の内の剥離フィルムF1cのみがこの剥離用従動ロール37により剥離される。そして剥離フィルムF1cは剥離フィルムF1c用の巻き取りロール38により巻き取られる。本実施形態では前記巻き取りロール38は、自重により巻き出しロール33に当接しており、巻き出しロール33の回転とともに従動状態で回転される。なお巻き取りロール38はモータにより自転するものでもよい。
【0018】
そして下側の搬送フィルムF1が水平方向で送られる部分には積層成形物Mの供給ステージS1が設けられている。本実施形態では供給ステージS1において吸着具等の保持具を備えた搬入装置39により積層成形物Mが下側の搬送フィルムF1の上に載置される。この際に積層成形物Mは、成形される基板や半導体等と積層材であるフィルムが最初からセットされたものでもよく供給ステージS1で積層されるものでもよい。
【0019】
真空積層装置12の一側であって、真空積層装置12と供給ステージS1と間の部分の上方には上側の搬送フィルムF2の巻き出しロール40が設けられている。巻き出しロール40もまたは図示しないサーボモータにより駆動制御される。そして巻き出しロール40にセットされ巻き出しロール40から巻き出された上側の搬送フィルムF1は、回転可能な従動ロール41により下側の搬送フィルムF1と重ねられるとともに水平方向に移送方向が変更される。そして上下の搬送フィルムF1,F2はその間に積層成形物Mを挟んだ状態で真空積層装置12の搬入口27からチャンバC内に送り込まれるようになっている。
【0020】
また真空積層装置12の他側の上方には上側の搬送フィルムF2の巻き取りロール42が設けられている。巻き取りロール42は図示しないサーボモータにより駆動制御される。そして真空積層装置12の搬出口28から出てきた上側の搬送フィルムF2は、回転可能な従動ロール43により下側の搬送フィルムF1から剥離されて上方に向けて移送方向され前記上側の巻き取りロール42に巻き取られる。なお本発明において上側の搬送フィルムF2は必須ではなく、積層成形物Mの上に積層成形物Mよりも面積の大きいカバーフィルムを被せることによっても溶融樹脂の真空積層装置12への付着防止の目的は達成できる。
【0021】
そして真空積層装置12の搬入口27、チャンバC、搬出口28を通過し、上側の搬送フィルムF2が除去された後の下側の搬送フィルムF1が水平方向に移送される位置には成形の完了した積層成形物Mを外部に取り出す取出ステージS2が設けられている。そして取出ステージS2の上方には吸着具を備えた搬出装置44が設けられ、積層成形物Mが後工程に向けて取り出される。そして下側の搬送フィルムF1はその後、前記のように従動ロール36により方向が変更され巻き取りロール35に巻き取られる。
【0022】
なお搬送機構32の巻き出しロール33,40、巻き取りロール35,42は、サーボモータにより駆動されるものに限定されず他の電動機を用いたものであってもよい。また巻き取りロール35,42の駆動のみサーボモータを使用し、逆方向にテンションをかける巻き出しロール33,40はトルクモータ等を使用してもよい。更に搬送機構32の一部は、搬送フィルムF1,F2の側部を把持して図1において右側から左側へ移動させるフィルム移送装置によって、1ピッチ分の搬送フィルムF1,F2の水平移動を正確に行うようにしてもよく、その場合巻き取りロール35,42はサーボモータを使用しないものでもよい。また真空積層装置12の後工程に積層成形物Mの表面を更に平坦にする目的の平坦化プレス装置を1台ないし2台設置してもよい。
<真空積層成形システムに使用される搬送フィルム>
【0023】
本実施形態の真空積層システムおよび真空積層方法に使用される搬送フィルムF1は、キャリアフィルムとも呼ばれ、積層成形物Mと当接する部分に粘着材料が付着されたものである。具体的には搬送フィルムF1は、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンなど熱可塑性樹脂の芯材フィルムF1aを備えている。芯材フィルムF1aは基材フィルムとも呼ばれ、金額の問題から前記したような熱可塑性樹脂からなるものが望ましい。芯材フィルムF1aは一層には限定されずフッソ樹脂コーティング層など他の樹脂層を備えたものでもよい。芯材フィルムF1aの厚みは、これに限定されるものではないが一例として0.05mmないし0.30mmであることが望ましい。
【0024】
搬送フィルムF1の前記芯材フィルムF1aの一方の面にシリコーンを主成分とする粘着材料F1bが層状に付着されている。ここにおいて「シリコーンを主成分とする粘着材料」とは、シリコーンゴムとシリコーンレジンに各種添加剤を加えたものである。以下の明細書では、「シリコーンを主成分とする粘着材料」をシリコーン系粘着材料F1bと称す。またシリコーン系粘着材料F1bは一般的にはシリコーン粘着剤とも称される。シリコーン系粘着材料F1bにおけるシリコーンゴムの配合比率は、これに限定されるものではないが一例として30ないし80重量%である。また本発明に使用可能な粘着材料としては、シリコーンゴム以外のウレタン系粘着材料、アクリル系粘着材料、フッ素系粘着材料であってもよく、それらを複数用いたものであってもよい。層状である粘着材料F1bの厚みは、これに限定されるものではないが一例として0.005mmないし0.080mm、更に好ましくは0.018mmないしは0.050mmであることが望ましい。また本実施形態のシリコーン系粘着材料F1bの粘着力はシリコーンゴムの架橋方法やシリコーンゴムとシリコーンレジンの配合率の調整等により行われるが微粘着の粘着力を備えたものが好ましい。より具体的にはこれに限定されるものではないが一例として、ガラス平滑面に対する粘着力は、0.1gf25mmないし10.0gf25mm、更には0.5gf25mmないし5.0gf25mm程度の粘着力を備えたものがより一層好ましい。
【0025】
シリコーン系粘着材料F1bの層の更に一方の面(シリコーン系粘着材料F1bと芯材フィルムF1aが貼着されている面とは反対側の面)にはポリエチレンテレフタレートやポリエチレンなどの熱可塑性樹脂からなる剥離フィルムが配置されている。本発明において剥離フィルムは必須のものではないが、フィルムロールF1dの状態からの巻き出し時に、
芯材フィルムF1aから粘着材料F1bの層が剥離されずに両者が一体の積層フィルムとして良好に巻き出されるのを助長する作用を備える。上記のように搬送フィルムF1は、芯材フィルムF1aと芯材フィルムF1aに付着されるシリコーン系粘着材料F1bと剥離フィルムF1cが積層されてこれに限定されるものではないが一例として1,000m分が巻かれたフィルムロールF1dの状態で搬送機構32の巻き出しロール33にセットされる。
<搬送フィルムの粘着材料の形態>
【0026】
本実施形態の搬送フィルムF1は、図2(a)および図3(a)に示されるように芯材フィルムF1aの全面にシリコーン系粘着材料F1bがほぼ均厚な層状に付着されており、表面は平滑面となっている。しかしながら図2(b)に示されるように全面にシリコーン系粘着材料F1bが層状に付着されており、前記層状の部分に更に格子状にシリコーン系粘着材料F1bの突起部が形成されたものでもよい。また図2(c)に示されるように全面のシリコーン系粘着材料F1bが付着されており、更に円形や多角形等のシリコーン系粘着材料F1bの突起部が多数形成されエンボス状の表面を備えたものでもよい。また図2(d)に示されるように、両側の積層成形品Mが載置・当接されない部分にはシリコーン系粘着材料F1bが付着されておらず、中央側の積層成形品Mが載置・当接される部分のみに表面が平滑な層状やエンボス状のシリコーン系粘着材料F1bが付着されたものでもよい。なおシリコーン系粘着材料F1bの表面粗度は適宜に調整される。図3(a)は、図2(a)のA-A断面を示すものであり、載置された半導体ウエハ等の積層成形物Mの裏面M1とシリコーン系粘着材料F1bの表面はほぼ密着状態となっている。
【0027】
また搬送フィルムF1は、図2(e)、(f)、(g)、(h)、および図3(e)に示されるように、芯材フィルムf1aの表面の一部にシリコーン系粘着材料F1bが付着されたものでもよい。図2(e)は、線状にシリコーン系粘着材料F1bの突起部が形成されたものである。シリコーン系粘着材料F1bの凸条が形成される方向は搬送フィルムF1の搬送方向と同方向であっても他方向であってもよい。また図2(f)は、芯材フィルムF1aの上に格子状にシリコーン系粘着材料F1bの突起部が形成されたものである。更に図2(g)は、芯材フィルムF1aの上に円形、多角形等のシリコーン系粘着材料F1bの突起部が多数形成されたエンボス状の表面を備えている。図2(h)は、芯材フィルムF1aの上にシリコーン系粘着材料F1bがランダムに付着されたものである。上記各例においてもシリコーン系粘着材料F1bの表面粗度は適宜に調整される。これらの図2(e)、(f)、(g)、(h)は、表面にポリエチレンテレフタレート等の芯材フィルムF1aの一部が露出している。そのため図2(e)、(f)、(g)、(h)の搬送フィルムF1は、シリコーン系粘着材料F1bの使用量を少なくできる場合もある。図3(e)は、図2(e)のB-B断面を示すものであり、載置された半導体ウエハ等の積層成形物Mの裏面M1は、シリコーン系粘着材料F1bの突出している部分のみにより支持され、支持される部分以外の裏面M1と芯材フィルムF1aの表面の間には空隙Dが形成される。
【0028】
図2の(b)、(c)も含めて積層成形品Mの裏面M1と芯材フィルムF1aの表面の間に空隙Dが形成されていると真空積層装置12において積層成形物Mを積層成形した後の取出時に、搬送フィルムF1と積層成形物Mの間の離型が良好になる場合が多い。ただし積層成形物Mの材質や粘着材料の硬度にもよるが、前記空隙Dが大きくなると積層成形時にシリコーン系粘着材料F1bの突起部の部分のみが強く加圧されて加圧ムラによる影響が出る場合もあり、搬送フィルムF1は積層成形物Mに応じて最適のものが選択される。またシリコーン系粘着材料F1b自体の粘着力や表面粗度と離型性の関係も同様に最適のものが選択される。
【0029】
これら本発明のシリコーンゴムを主成分とする粘着材料(シリコーン系粘着材料F1b)が付着された搬送フィルムF1は、一般的に流通しているポリエチレンテレフタレートのみからなる搬送フィルムと比較して高価であるので、本発明では積層成形物Mを載置する下側の搬送フィルムF1のみに使用している。そして上側の搬送フィルムF2は一般的なポリエチレンテレフタレートのみからなる搬送フィルムF2が使用されている。下側の搬送フィルムF1は積層成形物Mの自重が及ぼされ、搬送フィルムF1の上側表面と積層成形物Mの下側裏面M1の間の摩擦係数は最も積層成形物Mの位置ずれに与える影響が大きいからである。
【0030】
しかしながら積層成形物Mの種類によっては、上側と下側の搬送フィルムF1,F2にシリコーン系粘着材料F1bが付着された搬送フィルムを使用してもよい。上側の搬送フィルムF2についてシリコーン系粘着材料F1bが付着された搬送フィルムを用いる場合は、水平搬送時に芯材フィルムの下側となる面にシリコーン系粘着材料F1bが付着されており、シリコーン系粘着材料F1bと積層成形物Mとが当接される状態で使用される。または積層成形物Mによっては上側の搬送フィルムF2のみにシリコーン系粘着材料F1bが付着された搬送フィルムを使用してもよく、シリコーン系粘着材料F1bが付着された搬送フィルムは、上側と下側の搬送フィルムF1,F2の少なくとも一方に使用される。
<真空積層成形システムの真空積層方法>
【0031】
次に図1により本実施形態の真空積層システム11の真空積層方法について説明する。積層成形を開始する前にシリコーン系粘着材料F1bが付着された搬送フィルムF1は、フィルムロールF1dが搬送機構32の巻き出しロール33にセットされるとともに、巻き出しロール33から巻き出され真空積層装置12を経て巻き取りロール35に巻き取られるようにセットされる。そして巻き出しロール33から繰り出された搬送フィルムF1のうちの剥離フィルムF1cのみは、剥離用従動ロール37の部分で芯材フィルムF1aとシリコーン系粘着材料F1bの層から分離され、折り返されて剥離フィルム巻き取りロール38により巻き取られるようにセットされる。また上側の搬送フィルムF2もフィルムロールF2aが巻き出しロール40にセットされるとともに、巻き出しロール40から巻き出され真空積層装置12を経て巻き取りロール42に巻き取られるようにセットされる。
【0032】
そして剥離フィルムF1cが剥離された残りの搬送フィルムF1は、従動ロール34の部分で折り返されて芯材フィルムF1aの上にシリコーン系粘着材料F1bの層が積層された状態で載置ステージS1に移動される。載置ステージS1では搬入装置39を用いて、前記シリコーン系粘着材料F1bの層の上に積層成形物Mが載置される。本実施形態で積層成形される積層成形物Mは特に限定されないが、搬送時や真空積層装置12のチャンバC内の真空吸引時に位置ずれを起こしやすいものが対象となる。従って積層成形物が軽量なものや、裏面が平滑であって摩擦係数が小さいものが対象となる。特にウエハの場合は、裏面の平均粗さRaが0.2um以下のものは滑りやすいので対象となる。また一度に積層成形される積層成形物の個数は限定されないが、特に多数個(一例として9個以上)を同時に真空積層装置12で成形する場合や、真空積層装置12でサイズの異なる積層成形物を少量づつ順次成形する場合は、上記の特許文献1や特許文献2のような装置を用いる場合は調整が困難であるので本発明の搬送フィルムF1を用いることが有効である。
【0033】
そして真空積層装置12において前回の積層成形が完了すると、下盤14が下降されチャンバCが開放される。次に搬送機構32の下側の搬送フィルムF1の巻き取りロール35の図示しないサーボモータが駆動され下側の搬送フィルムF1はフィルムロールF1dから繰り出され、他側(後工程側であって図1においては左側)に向けて引っ張られて移動される。それに伴い供給ステージS1にて載置された積層成形物Mは前記下側の搬送フィルムF1とともに真空積層装置12のチャンバC内に向けて搬送される。この際に上側の搬送フィルムF2も巻き取りロール42のサーボモータが駆動されフィルムロールF2aから繰り出され他側に向けて引っ張られて移動される。そして従動ロール41の部分からは下側の搬送フィルムF1上の積層成形物Mの上に上側の搬送フィルムF2が重ねられ、上下の搬送フィルムF1,F2は同じ速度で真空積層装置12の搬入口27に向けて積層成形物Mとともに搬送される。この際、下側の搬送フィルムF1の巻き出しロール33と上側の搬送フィルムF2の巻き出しロール40はサーボモータにより搬送フィルムF1,F2をフィルムロールF1d,F2aに巻き取る方向にトルクを付与し、上下の搬送フィルムF1,F2にテンションがかかった状態を維持することが望ましい。
【0034】
そして上下の搬送フィルムF1,F2が1ピッチ分移動され、積層成形物Mが真空積層装置12のチャンバCの成形位置に搬送されると上下の搬送フィルムF1,F2による搬送は停止される。この際下側の搬送フィルムF1の停止によるショックにより積層成形物Mに対して前方方向への慣性力が働いたとしても、前記搬送フィルムF1の上面の積層成形物Mに当接している部分の少なくとも一部はシリコーン系粘着材料F1bからなっており、積層成形物Mの裏面M1に対して粘着作用を備えているので、積層成形物Mの位置ずれは防止される。
【0035】
積層成形物Mが成形位置にセットされると図示しない昇降装置の作動により下盤14が上昇して上盤13との間にチャンバCが形成される。そして開閉バルブ24,30が制御され前記チャンバC内の大気は真空ポンプ16により吸引され所定圧まで減圧(真空化)される。この際、従来のポリエチレンテレフタレートのみからなる搬送フィルムの場合は、チャンバC内に発生する気流やそれに伴う搬送フィルムF1,F2の振動により積層成形物Mが最初の成形位置から別の位置へ予期せず移動していしまう「位置ずれ」を起こすことがあった。しかし本発明では下側の搬送フィルムF1の上面の積層成形物Mに当接している部分の少なくとも一部はシリコーン系粘着材料F1bであるので、例えチャンバC内に気流や搬送フィルムF1,F2の振動が発生したとしても前記位置ずれが阻止される。また同様に加圧時の弾性膜体15の膨出による積層成形物Mの位置ずれも防止される。
【0036】
そして真空積層装置12では、熱板17,18の温度を一例として100℃ないし180℃とし、コンプレッサ22から管路20を介して弾性膜体15の裏面側に加圧空気を送り込んで弾性膜体15を膨出させ、搬送フィルムF1,F2を介して積層成形物Mの加圧成形が所定時間行われる。しかしシリコーンゴムの耐熱温度は前記の熱板17,18の温度以上であり、搬送フィルムF1のシリコーン系粘着材料F1bが変質して積層成形に悪影響を及ぼすことは無い。加圧成形が終了すると次にチャンバC内の真空破壊が行われ、その後に下盤14が下降してチャンバCが開放される。そして上下の搬送フィルムF1,F2の巻き取りロール35,42の駆動により上下の搬送フィルムF1,F2と成形の完了した積層成形物Mは真空積層装置12の搬出口28から他側に送られる。そして上側の搬送フィルムF2は従動ロール34の部分で剥離され、下側の搬送フィルムF1と前記積層成形物Mが取出ステージS2に送られ停止する。
【0037】
そして次に搬出装置44により前記積層成形物Mが取り出される。この際に搬送フィルムF1の芯材フィルムF1aに付着されたシリコーン系粘着材料F1bは、微粘着であって積層成形物Mの離型に最適な剥離力(粘着力)を備えており、搬送フィルムF1の芯材フィルムF1aと積層成形物Mが強固に接着されている訳ではないので積層成形物Mにダメージを与えず良好な離型が可能である。逆説的に述べれば、積層成形物Mの位置ずれ防止性能、積層成形性能、離型性能のバランスから最適な粘着材料の種類や形状、厚み等を備えた粘着材料が選択され搬送フィルムF1に使用される。
【0038】
また上記に関連して本実施形態のシリコーン系粘着材料F1bが加圧面全体に層状に付着した搬送フィルムF1は積層成形物Mの位置ずれ防止だけでなく、積層成形物Mの成形にも有効な場合がある。具体的にはシリコーン系粘着材料F1bの硬度(JIS-K 6353 デュロメータータイプA硬度)は、これに限定されるものではないが一例として15ないし80の間で選択できる。そのため前記A硬度が低い場合は、積層成形物Mのうちの基板やウエハ側の凹部への溶融状態の樹脂フィルムの埋め込み性の改善に寄与する場合がある。特に基板やウエハの凹部や溝が狭い場合や深い場合に有効である。そして下側の搬送フィルムF1のみシリコーン系粘着材料F1bが層状に付着された搬送フィルムF1である場合は、基板やウエハの前記凹部や溝がある側を搬送フィルムF1と対向するように下面に向けて加圧成形が行われる。また基板等の両面に前記凹部や溝がある場合は、上下の搬送フィルムF1,F2にシリコーンゴム層等のシリコーン系粘着材料を備えた搬送フィルムを用いて埋め込み性の改善を図ってもよい。
【0039】
次に図4により第2の実施形態の真空積層システム51について図1の本実施形態との相違点を中心に説明する。ただし図1と同一部分は同一符号を用いて説明を省略する。第2実施形態では上下の搬送フィルムF1,F2は、一般的なポリエチレンテレフタレート等のみからなる搬送フィルムが用いられる。そして積層成形物の搬送機構32の巻き出しロール33から繰り出された芯材フィルムF1aに相当する搬送フィルムF1の積層成形物Mと当接される側の面に対して真空積層システム51の粘着剤塗布装置52によりシリコーン系粘着材料F1b等の粘着材料が塗布される。なお粘着剤塗布装置52の種類は限定されず、ダイコーターやロール式等、各種のものから適切なものが選択される。
【0040】
芯材フィルムF1aであるポリエチレンテレフタレート等の搬送フィルムF1に対してシリコーン系粘着材料F1b等の粘着材料を塗布する部分は、図2の各例に示されるように全面に塗布してもよく部分的に塗布してもよい。粘着材料が塗布された搬送フィルムF1は、乾燥に必要なピッチ数(積層成形回数)を経て積層成形物Mの載置ステージS1に移動される。第2の実施形態では、真空積層装置12における積層成形に必要な時間(チャンバC内を真空化する時間等を含む)は1分程度であり、2ピッチ分の約2分の間に粘着材料が乾燥される。なお必要に応じて粘着材料の乾燥を促進するため搬送フィルムF1の搬送路に対向する位置に、粘着材料の加熱乾燥装置53を配置してもよい。
【0041】
第2の実施形態によれば、粘着剤塗布装置52を含む真空積層システム51自体の装置コストはアップするが、廉価なポリエチレンテレフタレート等の一般的な搬送フィルムを使用することができるので、それに別途、粘着材料を準備して塗布したとしてもランニングコストを低減できる場合が多い。
【0042】
本発明については、一々列挙はしないが、上記した本実施形態のものに限定されず、当業者が本発明の趣旨を踏まえて変更を加えたもの、および上記の実施形態の各部分を組み合わせたものについても、適用されることは言うまでもないことである。
【符号の説明】
【0043】
11,51 真空積層システム
12 真空積層装置
32 搬送機構
C チャンバ
F1 下側の搬送フィルム
F1a 芯材フィルム
F1b シリコーン系粘着材料
F1c 剥離フィルム
F2 上側の搬送フィルム
M 積層成形物
図1
図2
図3
図4