(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022138432
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】感染リスク分布可視化システム
(51)【国際特許分類】
G16H 50/80 20180101AFI20220915BHJP
G08B 21/12 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
G16H50/80
G08B21/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021038312
(22)【出願日】2021-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】510099970
【氏名又は名称】学校法人順天堂大学
(74)【代理人】
【識別番号】100139103
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 卓志
(74)【代理人】
【識別番号】100139114
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 貞嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100214260
【弁理士】
【氏名又は名称】相羽 昌孝
(72)【発明者】
【氏名】川村 聡宏
(72)【発明者】
【氏名】山本 ミゲイル
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 弥
(72)【発明者】
【氏名】三浦 靖弘
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 圭一
(72)【発明者】
【氏名】栗原 隆
(72)【発明者】
【氏名】冨田 賢吾
(72)【発明者】
【氏名】堀 賢
【テーマコード(参考)】
5C086
5L099
【Fターム(参考)】
5C086AA02
5C086AA38
5C086AA52
5C086CA25
5C086CB01
5C086CB11
5C086CB36
5C086FA01
5C086FA15
5C086FA17
5C086FA20
5L099AA01
(57)【要約】
【課題】 対象空間内の二酸化炭素を計測して手間がかからず的確に特定のウイルスの知見に基づいた感染リスクの分布を作成することができる感染リスク分布可視化システムを提供する。
【解決手段】 感染リスク分布可視化システム1は、対象空間内の二酸化炭素の濃度を測定する二酸化炭素濃度計11と、二酸化炭素濃度計11が測定した各位置の二酸化炭素濃度から対象空間の濃度分布を求める二酸化炭素濃度分布演算部12と、使用者が対象とする感染症を入力する感染症パラメータ入力部21と、二酸化炭素濃度分布演算部12が求めた対象空間の二酸化炭素の濃度分布と感染症パラメータ入力部21で選択された感染症のパラメータから、対象空間で飛沫核によって感染症に感染するリスク分布を演算する飛沫核による感染リスク分布演算部51と、演算されたリスク分布を可視化する感染リスク可視化部60と、を備えることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象空間内の二酸化炭素の濃度を測定する二酸化炭素濃度計と、
前記二酸化炭素濃度計が測定した各位置の二酸化炭素濃度から対象空間の濃度分布を求める二酸化炭素濃度分布演算部と、
使用者が対象とする感染症を入力する感染症パラメータ入力部と、
前記二酸化炭素濃度分布演算部が求めた対象空間の二酸化炭素の濃度分布と前記感染症パラメータ入力部で選択された感染症のパラメータから、対象空間で飛沫核によって感染症に感染するリスク分布を演算する飛沫核による感染リスク分布演算部と、
前記飛沫核による感染リスク分布演算部で演算されたリスク分布を可視化する感染リスク可視化部と、
を備える
ことを特徴とする感染リスク分布可視化システム。
【請求項2】
前記飛沫核による感染リスク分布演算部は、以下の式(1)及び(2)から感染リスクを算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の感染リスク分布可視化システム。
【数1】
ここで、
V:拡散される室内空気の容積[m
3]、
V
e:室内空気に含まれる呼気の等価容積[m
3]、
C:室内空気中のCO
2の容積分率[ppm]、
C
o:室外空気中のCO
2の容積分率[ppm]、
C
a:呼吸時に呼気に加えられるCO
2の容積分率[ppm]、
I:感染者数[人]、
q:飛沫核による感染性粒子発生量[quanta/h]、
n:対象空間の人数[人]、
t:滞在時間[h]、
P:感染確率、
である。
【請求項3】
対象空間内の二酸化炭素の濃度を測定する二酸化炭素濃度計と、
前記二酸化炭素濃度計が測定した各位置の二酸化炭素濃度から対象空間の濃度分布を求める二酸化炭素濃度分布演算部と、
使用者が対象とする感染症を入力する感染症パラメータ入力部と、
前記二酸化炭素濃度分布演算部が求めた対象空間の二酸化炭素の濃度分布と前記感染症パラメータ入力部で選択された感染症のパラメータから、対象空間で飛沫核によって感染症に感染するリスク分布を演算する飛沫核による感染リスク分布演算部と、
前記対象空間内の人の位置を測定する人測位部と、
前記人測位部が求めた人の位置情報と前記感染症パラメータ入力部で選択された感染症のパラメータから、対象空間で飛沫によって感染症に感染するリスク分布を演算する飛沫による感染リスク分布演算部と、
前記飛沫核による感染リスク分布演算部及び前記飛沫による感染リスク分布演算部で演算されたリスク分布を可視化する感染リスク可視化部と、
を備える
ことを特徴とすることを特徴とする感染リスク分布可視化システム。
【請求項4】
前記飛沫核による感染リスク分布演算部は、以下の式(1)及び(5)から感染リスクを算出する
ことを特徴とする請求項3に記載の感染リスク分布可視化システム。
【数2】
ここで、
V:拡散される室内空気の容積[m
3]、
V
e:室内空気に含まれる呼気の等価容積[m
3]、
C:室内空気中のCO
2の容積分率[ppm]、
C
o:室外空気中のCO
2の容積分率[ppm]、
C
a:呼吸時に呼気に加えられるCO
2の容積分率[ppm]、
I:感染者数[人]、
q:飛沫核による感染性粒子発生量[quanta/h]、
n:対象空間の人数[人]、
t:滞在時間[h]、
P
d:飛沫の伝播確率、
I
near:飛沫の感染性粒子を発生させる感染者数[人]、
q
near:飛沫による感染性粒子発生量[quanta/h]、
s:感染症に免疫がない人へ飛沫が粘膜に直接もしくは間接的に接触し、感染症を発症する確率、
P:感染確率、
である。
【請求項5】
前記感染リスク可視化部は、使用者自身を感染者数に含まない
ことを特徴とする請求項3又は4に記載の感染リスク分布可視化システム。
【請求項6】
対象空間にいる人の状態を検知する状態検知部をさらに備え、
前記状態検知部が検知した人の状態によって、前記飛沫による感染リスク分布演算部で演算する際の感染症パラメータPdの数値を変更する
ことを特徴とする請求項3乃至5のいずれか1つに記載の感染リスク分布可視化システム。
【請求項7】
対象空間の感染リスクの大きい領域内にいる人に警報を発信する警報部をさらに備える
ことを特徴とする請求項3乃至6いずれか1つに記載の感染リスク分布可視化システム。
【請求項8】
対象空間の感染リスクの大きい領域内にいる人を、感染リスクの小さい領域に誘導する誘導部をさらに備える
ことを特徴とする請求項3乃至7いずれか1つに記載の感染リスク分布可視化システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象空間において空気を介した感染のリスクを可視化する感染リスク分布可視化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空間における感染性物質への感染リスクを特定する技術が開示されている(特許文献1参照)。特許文献1に記載された技術は、空間に滞在する人の位置と、特定した人の感染性物質への感染レベルと、に基づいて、空間内の位置毎に感染性物質への感染リスクを示すマップ情報を生成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-67939号公報
【非特許文献1】Rudnick, S.N., Milton, D.K., Risk of indoor airborne infection transmission estimated from carbon dioxide concentration. Indoor Air 13(3), 237-245., 2003
【非特許文献2】Brent Stephens: HVAC filtration and the Wells-Riley approach to assessing risks of infectious airborne diseases, Final Report, 2012
【非特許文献3】Chanjuan Sun, Zhiqiang Zhai(John):The Efficacy of social distance and ventilation effectiveness in preventing COVID-19 transmission, Sustainable Cities and Society 62, 2020
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された感染リスク特定システムは、感染リスクマップを生成する際に、自分自身の体調を自分自身で携帯端末に入力している。しかしながら、感染レベルと特定するためには、対象空間に滞在する人が毎日自分自身の健康状態について申告しなければならない。また、対象空間に滞在する人が虚偽の申告をしても対応することができず、信頼性の低い感染リスクマップが生成されるおそれがあった。
【0005】
本発明は、二酸化炭素を計測して対象空間に滞在する人の手間がかからず的確に感染リスクの分布を作成することができる感染リスク特定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかる感染リスク分布可視化システムは、
対象空間内の二酸化炭素の濃度を測定する二酸化炭素濃度計と、
前記二酸化炭素濃度計が測定した各位置の二酸化炭素濃度から対象空間の濃度分布を求める二酸化炭素濃度分布演算部と、
使用者が対象とする感染症を入力する感染症パラメータ入力部と、
前記二酸化炭素濃度分布演算部が求めた対象空間の二酸化炭素の濃度分布と前記感染症パラメータ入力部で選択された感染症のパラメータから、対象空間で飛沫核によって感染症に感染するリスク分布を演算する飛沫核による感染リスク分布演算部と、
前記飛沫核による感染リスク分布演算部で演算されたリスク分布を可視化する感染リスク可視化部と、
を備える
ことを特徴とする。
【0007】
本発明にかかる感染リスク分布可視化システムでは、
前記飛沫核による感染リスク分布演算部は、以下の式(1)及び(2)から感染リスクを算出する
ことを特徴とする。
【数1】
ここで、
V:拡散される室内空気の容積[m
3]、
V
e:室内空気に含まれる呼気の等価容積[m
3]、
C:室内空気中のCO
2の容積分率[ppm]、
C
o:室外空気中のCO
2の容積分率[ppm]、
C
a:呼吸時に呼気に加えられるCO
2の容積分率[ppm]、
I:感染者数[人]、
q:飛沫核による感染性粒子発生量[quanta/h]、
n:対象空間の人数[人]、
t:滞在時間[h]、
P:感染確率、
である。
【0008】
本発明にかかる感染リスク分布可視化システムは、
対象空間内の二酸化炭素の濃度を測定する二酸化炭素濃度計と、
前記二酸化炭素濃度計が測定した各位置の二酸化炭素濃度から対象空間の濃度分布を求める二酸化炭素濃度分布演算部と、
使用者が対象とする感染症を入力する感染症パラメータ入力部と、
前記二酸化炭素濃度分布演算部が求めた対象空間の二酸化炭素の濃度分布と前記感染症パラメータ入力部で選択された感染症のパラメータから、対象空間で飛沫核によって感染症に感染するリスク分布を演算する飛沫核による感染リスク分布演算部と、
前記対象空間内の人の位置を測定する人測位部と、
前記人測位部が求めた人の位置情報と前記感染症パラメータ入力部で選択された感染症のパラメータから、対象空間で飛沫によって感染症に感染するリスク分布を演算する飛沫による感染リスク分布演算部と、
前記飛沫核による感染リスク分布演算部及び前記飛沫による感染リスク分布演算部で演算されたリスク分布を可視化する感染リスク可視化部と、
を備える
ことを特徴とすることを特徴とする。
【0009】
本発明にかかる感染リスク分布可視化システムでは、
前記飛沫核による感染リスク分布演算部は、以下の式(1)及び(5)から感染リスクを算出する
ことを特徴とする。
【数2】
ここで、
V:拡散される室内空気の容積[m
3]、
V
e:室内空気に含まれる呼気の等価容積[m
3]、
C:室内空気中のCO
2の容積分率[ppm]、
C
o:室外空気中のCO
2の容積分率[ppm]、
C
a:呼吸時に呼気に加えられるCO
2の容積分率[ppm]、
I:感染者数[人]、
q:飛沫核による感染性粒子発生量[quanta/h]、
n:対象空間の人数[人]、
t:滞在時間[h]、
P
d:飛沫の伝播確率、
I
near:飛沫の感染性粒子を発生させる感染者数[人]、
q
near:飛沫による感染性粒子発生量[quanta/h]、
s:感染症に免疫がない人へ飛沫が粘膜に直接もしくは間接的に接触し、感染症を発症する確率、
P:感染確率、
である。
【0010】
本発明にかかる感染リスク分布可視化システムでは、
前記感染リスク可視化部は、使用者自身を感染者数から除外する
ことを特徴とする。
【0011】
本発明にかかる感染リスク分布可視化システムは、
対象空間にいる人の状態を検知する状態検知部をさらに備え、
前記状態検知部が検知した人の状態によって、前記飛沫による感染リスク分布演算部で演算する際の感染症パラメータPdの数値を変更する
ことを特徴とする。
【0012】
本発明にかかる感染リスク分布可視化システムは、
対象空間の感染リスクの大きい領域内にいる人に警報を発信する警報部をさらに備える
ことを特徴とする。
【0013】
本発明にかかる感染リスク分布可視化システムは、
対象空間の感染リスクの大きい領域内にいる人を、感染リスクの小さい領域に誘導する誘導部をさらに備える
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明にかかる感染リスク特定システムによれば、二酸化炭素を計測して手間がかからず的確に的確に感染リスクの分布を作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1実施形態の感染リスク特定システムの一例を示す。
【
図2】第1実施形態の感染リスク特定システムにおける飛沫核による感染リスク分布図の一例を示す。
【
図3】第1実施形態の感染リスク特定システムに用いる二酸化炭素濃度に対する感染確率の一例を示す。
【
図4】第2実施形態の感染リスク特定システムの一例を示す。
【
図5】第2実施形態の感染リスク特定システムにおける飛沫核による感染リスク分布図の一例を示す。
【
図6】第2実施形態の感染リスク特定システムにおける飛沫による感染リスク分布図の一例を示す。
【
図7】第2実施形態の感染リスク特定システムにおける感染リスク分布図の一例を示す。
【
図8】第2実施形態の感染リスク特定システムに用いる二酸化炭素濃度に対する感染確率の一例を示す。
【
図9】第3実施形態の感染リスク特定システムにおける飛沫による感染リスク分布図の一例を示す。
【
図10】第4実施形態の感染リスク特定システムの一例を示す。
【
図11】第4実施形態の感染リスク特定システムにおける飛沫による感染リスク分布図の一例を示す。
【
図12】第5実施形態の感染リスク特定システムの一例を示す。
【
図13】第5実施形態の感染リスク特定システムにおける飛沫による感染リスク分布図の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明にかかる一実施形態の感染リスク特定システム1を説明する。本実施形態の感染リスク特定システム1は、呼気に含まれる二酸化炭素を基に感染症に感染するリスクを求める。ここで、本実施形態の感染リスク特定システム1は、空気感染及び飛沫感染を対象とし、接触感染を対象としない。感染粒子は、例えば、カビ、細菌、又はウイルス等である。
【0017】
飛沫核を対象とした感染粒子は、空気中に長期間浮遊すると仮定する。このような感染粒子は、くしゃみ又は咳等を含む呼気が媒体となり、室内に拡散する。人の呼気に含まれる二酸化炭素濃度は、人の運動量によって変化するが、一般に、外気の350ppm-400ppmに対して、10,000ppm-90,000ppm程度まで変化する。また、ほとんどの建物の室内において、二酸化炭素の発生源は人の呼気なので、二酸化炭素は、呼気曝露のマーカーとして有効である。
【0018】
このように、呼気曝露による感染を前提とした感染リスクの指標として二酸化炭素濃度を用いると、運用者は、二酸化炭素濃度を連続的に計測するのみで感染リスク分布を把握できる。つまり、建物内の人に特定のデバイスや計測機器を持たせる必要がなく、自身の健康状態についての申告も必要がないため、運用者は、作業の手間を小さくすることができる。
【0019】
図1は、第1実施形態の感染リスク特定システム1の一例を示す。
【0020】
第1実施形態の感染リスク特定システム1は、対象空間内の二酸化炭素の濃度を測定する二酸化炭素濃度計11と、二酸化炭素濃度計11が測定した各位置の二酸化炭素濃度から対象空間の濃度分布を求める二酸化炭素濃度分布演算部12と、使用者が対象とする感染症を入力する感染症パラメータ入力部21と、二酸化炭素濃度分布演算部12が求めた対象空間の二酸化炭素の濃度分布と感染症パラメータ入力部21で選択された感染症のパラメータから、対象空間で飛沫核によって感染症に感染するリスク分布を演算する飛沫核による感染リスク分布演算部51と、飛沫核感染リスク分布演算部51で演算された感染リスク分布を可視化する感染リスク可視化部60と、を備える。
【0021】
二酸化炭素濃度計11は、対象空間内の二酸化炭素の濃度を計測する。二酸化炭素濃度計11は、予め建物や建具に固定して設置されてもよく、携帯端末等の持ち歩き可能なデバイスに設けられてもよい。二酸化炭素濃度計11は、対象空間内に少なくとも1つ、好ましくは複数有するとよい。
【0022】
二酸化炭素濃度分布演算部12は、二酸化炭素濃度計11が測定した各位置の二酸化炭素濃度から対象空間の濃度分布を求める。濃度分布は、二酸化炭素濃度計11によって計測された箇所の離散化したデータを基に、データ間を内挿することで連続的に形成される。
【0023】
図2は、第1実施形態の感染リスク特定システム1における飛沫核による感染リスク分布図の一例を示す。図中、三角形は二酸化炭素濃度計11の位置を示す。
図2において、二酸化炭素の濃度は、色が濃いレベル5から色が薄いレベル1へ向かって低くなる。なお、境界線を用いることなく、全体をグラデーションで表現してもよい。
【0024】
二酸化炭素濃度分布のデータ間の内挿手法は、線形補間、スプライン補間、Kriging、多項式補間、Natural Neighbor 、IDW法等を用いてもよい。例えば、空間的な自己相関を考慮する場合、内挿手法は Kriging を用いればよい。また、空気中の二酸化炭素が強制対流しておらず等方的に拡散している場合、内挿手法は単純な線形補間を用いればよい。
【0025】
飛沫核による感染リスク分布演算部51は、二酸化炭素濃度分布演算部12が求めた対象空間の二酸化炭素の濃度分布と感染症パラメータ入力部21で入力された感染症のパラメータから、対象空間で飛沫核によって感染症に感染するリスク分布を演算する。
【0026】
感染症のリスク分布は、 非特許文献1に示される Rudnick と Milton によって提案された修正 Wells-Riley モデルを用いて評価を行う。以下の式(1)及び(2)は、二酸化炭素濃度を感染確率のパラメータとしており、後述する感染症パラメータを入力することで、感染リスクを算出することができる。
【数3】
ここで、
V:拡散される室内空気の容積[m
3]、
V
e:室内空気に含まれる呼気の等価容積[m
3]、
C:室内空気中のCO
2の容積分率[ppm]、
C
o:室外空気中のCO
2の容積分率[ppm]、
C
a:呼吸時に呼気に加えられるCO
2の容積分率[ppm]、
I:感染者数[人]、
q:飛沫核による感染性粒子発生量[quanta/h]、
n:対象空間の人数[人]、
t:滞在時間[h]、
P:感染確率、
である。
また、感染症パラメータfは室容積に対する呼気の等価容積の割合である。この値は瞬時的な値、又は、一定時間の平均値のどちらでもよい。
さらに、式(2)は、飛沫核による感染リスク分布を示す。
【0027】
第1実施形態の感染リスク特定システム1は、飛沫核による感染のみ考慮するので、飛沫核による感染リスク分布演算部51は、式(2)の飛沫核による感染リスク分布を演算する。なお、飛沫核は、二酸化炭素の挙動と同様に空気の流れに沿って拡散し、空気中に長期間浮遊すると仮定する。
【0028】
第1実施形態の感染リスク特定システム1は、感染症パラメータI、q、n、t を一定の値として入力することで、特定の感染症に対する感染確率を二酸化炭素濃度の計測値のみで算出できる。感染症パラメータは、建物利用者の感染状況や特定のウイルス毎に特性が異なるが、知見に基づき設定することで科学的根拠のある感染リスク分布を作成できる。
【0029】
Iは感染者数を示すが、運用側で人を感染者であるか否かの判断ができない。したがって、システムの運用時には、I/nを一定の確率で与えることでリスク分布を可視化してもよい。なお、対象空間の人数nは人測位部31によって得られる情報を基に変動する値とし、Iは固定値としてもよい。
【0030】
軽作業時の呼気中の二酸化炭素濃度は約30000ppm程度であり、外気の二酸化炭素濃度は約350-400ppm程度である。呼吸時に呼気に加えられるCO2の容積分率Ca及び室外空気中のCO2の容積分率Coは、一定の値として設定することで、人の作業強度及び外気状況を一定条件で仮定した感染リスク分布を算出することができる。
【0031】
図3は、第1実施形態の感染リスク特定システム1に用いる二酸化炭素濃度に対する感染確率の一例を示す。
【0032】
二酸化炭素濃度に対する感染確率を求めるために、感染リスク特定システム1の運用者又はユーザーは、特定のウイルスの知見に基づいて、感染症パラメータを設定する。表1は、第1実施形態の感染リスク特定システム1に用いる感染症パラメータの一例を示す。
(表1)
Co:室外空気中の二酸化炭素の容積分率 400ppm
Ca:呼吸時に呼気に加えられる二酸化炭素の容積分率 30000ppm
I:感染者数 1人
q:感染性粒子発生量 200/h
n:対象空間の人数 5人
t:滞在時間(総曝露時間) 1hour
【0033】
感染症パラメータの感染性粒子発生量qは、非特許文献2で示されるBrent Stephens 等の研究成果を参考に決定すればよい。
【0034】
感染リスク可視化部60は、二酸化炭素濃度分布演算部12が求めた対象空間の二酸化炭素の濃度分布と感染症パラメータ入力部21で選択された感染症のパラメータから、対象空間で感染症に感染するリスク分布を可視化する。
【0035】
このように、第1実施形態の感染リスク特定システム1によれば、室内の二酸化炭素濃度を計測することで、特定のウイルスの知見に基づいた感染リスク分布を作成することができる。
【0036】
図4は、第2実施形態の感染リスク特定システム1の一例を示す。
【0037】
第2実施形態の感染リスク特定システム1は、対象空間内の二酸化炭素の濃度を測定する二酸化炭素濃度計11と、二酸化炭素濃度計11が測定した各位置の二酸化炭素濃度から対象空間の濃度分布を求める二酸化炭素濃度分布演算部12と、使用者が対象とする感染症を入力する感染症パラメータ入力部21と、対象空間内の人の位置を測定する人測位部31と、二酸化炭素濃度分布演算部12が求めた対象空間の二酸化炭素の濃度分布と感染症パラメータ入力部21で選択された感染症のパラメータから、対象空間で飛沫核によって感染症に感染するリスク分布を演算する飛沫核による感染リスク分布演算部51と、人測位部31が求めた人の位置情報と感染症パラメータ入力部21で選択された感染症のパラメータから、対象空間で飛沫によって感染症に感染するリスク分布を演算する飛沫による感染リスク分布演算部52と、飛沫核による感染リスク分布演算部51及び飛沫による感染リスク分布演算部52で演算された感染リスク分布を可視化する感染リスク可視化部60と、を備える。
【0038】
第2実施形態の二酸化炭素濃度計11、二酸化炭素濃度分布演算部12、及び、感染症パラメータ入力部21は、第1実施形態と同一なので、異なる部分について説明する。
【0039】
第2実施形態の感染リスク特定システム1は、二酸化炭素濃度に加えて、人の位置情報を基にリスク分布を可視化する。すなわち、第2実施形態の感染リスク特定システム1は、第1実施形態で想定した飛沫核による感染に加えて、感染者を中心として所定の範囲での飛沫による感染を考慮する。
【0040】
二酸化炭素濃度が高い領域は、人の呼気の影響を受けて上昇しているので、感染リスクが高いと示唆できる。しかしながら、個人ブースのような空間において一人で作業をしている場合、二酸化炭素濃度が高くても、他人と近接することに比べて感染リスクは低いと思われる。そのため、第2実施形態の感染リスク特定システム1は、人の位置情報を加味した感染リスク分布を作成する。
【0041】
人測位部31は、対象空間内の人の位置を測定する。例えば、人測位部31は、ビーコン、Wi-Fi、RFID ( Radio Frequency Identefier )、UWB( Ultra Wide Band )等を用いればよい。
【0042】
飛沫による感染リスク分布演算部52は、人測位部31が求めた人の位置情報と感染症パラメータ入力部21で選択された感染症パラメータから、対象空間で飛沫によって感染症に感染するリスク分布を演算する。すなわち、飛沫による感染リスク分布演算部52は、飛沫による感染リスクを示す以下の式(3)の飛沫による感染リスク分布を演算する。
【数4】
ここで、
t:滞在時間[h]、
P
d:飛沫の伝播確率、
I
near:飛沫の感染性粒子を発生させる感染者数[人]、
q
near:飛沫による感染性粒子発生量[quanta/h]、
s:感染症に免疫がない人へ飛沫が粘膜に直接もしくは間接的に接触し、感染症を発症する確率、
P:感染確率、
である。
【0043】
感染リスク特定システム1は、最も近くに存在する人が感染者であることを前提として、感染リスクマップを作成する。そのため、Inearは基本的に1とする。ただし、空間内の感染者が一定の確率で存在していると仮定してqnearが導出された場合、Inearを感染者の存在確率で与えてもよい。
【0044】
飛沫による感染リスク分布の式は、非特許文献3を参考に決定した。飛沫の伝播確率Pdの分布は、人測位部31により取得した人の位置座標を原点とし、原点からの距離の関数を基に作成される。Pdに対する式は、飛沫の初速5m/sとし、飛沫の蒸発を考慮した条件を概算して、以下の式(4)の近似式を導出している。本実施形態も式(4)を流用するが、飛沫拡散時の初速の違い、蒸発速度の違い、又は、その他の医学的知見等が出た場合には、Pdの関数は、修正してもよい。なお、Pdが負の値になる場合、Pd=0とする。
Pd=(-18.19ln(d)+43.276)/100 (4)
【0045】
第2実施形態の感染リスク特定システム1は、飛沫核と飛沫の両方の感染を考慮するので、飛沫核による感染リスク分布演算部51は、式(2)の飛沫核による感染リスク分布を演算し、飛沫による感染リスク分布演算部52は、式(3)の飛沫による感染リスク分布を演算する。
【0046】
図5は、第2実施形態の感染リスク特定システム1における飛沫核による感染リスク分布図の一例を示す。
図6は、第2実施形態の感染リスク特定システム1における飛沫による感染リスク分布図の一例を示す。
【0047】
感染症パラメータfは、二酸化炭素濃度と比例関係にあるため、
図5に示す分布は、
図2に示した二酸化炭素濃度分布と同様の傾向となる。
図6において、○は人の存在をする場所を示している。人が存在する場合、対象空間内の人それぞれが感染源である可能性を加味し、人の位置を中心として、その周囲の所定半径の円形領域をリスクのある領域として感染症パラメータPdにおく範囲とする。円形領域が重なった場合には、Pdが大きい方を採用する。
【0048】
図7は、第2実施形態の感染リスク特定システムにおける感染リスク分布図の一例を示す。
【0049】
感染リスク可視化部60は、飛沫核による感染リスク分布演算部51及び飛沫による感染リスク分布演算部52で演算されたリスク分布を用いて、リスク分布を演算し、可視化する。一例として、第2実施形態の感染リスク可視化部60は、飛沫核による感染リスク分布演算部51及び飛沫による感染リスク分布演算部52で演算されたリスク分布を重ねあわせて可視化する。すなわち、感染リスク可視化部60は、以下の式(5)の感染リスク分布を演算し可視化する。
【数5】
【0050】
図8は、第2実施形態の感染リスク特定システム1に用いる二酸化炭素濃度に対する感染確率の一例を示す。
【0051】
表2は、第2実施形態の感染リスク特定システム1に用いる感染症パラメータの一例を示す。
(表2)
Co:室外空気中の二酸化炭素の容積分率 400ppm
Ca:呼吸時に呼気に加えられる二酸化炭素の容積分率 30000ppm
I:感染者数 1人
q:感染性粒子発生量 200/h
n:対象空間の人数 5人
t:滞在時間(総曝露時間) 1hour
qnear:飛沫による感染性粒子発生量 0.5 quanta/h
【0052】
図8に示すように、近似する人との距離が近くなるほど感染確率は高くなることがわかる。
【0053】
このように、第2実施形態の感染リスク特定システム1によれば、室内の二酸化炭素濃度及び室内に存在する人を計測することで、特定のウイルスの感染リスクの高い領域と低い領域を相対的に把握させることができる。対象空間の使用者は、感染リスク分布を見ることで、感染リスクの低い領域を把握し、その領域を選んで滞在することができるので、感染リスクを低減させることができる。
【0054】
図9は、第3実施形態の感染リスク特定システム1における飛沫による感染リスク分布図の一例を示す。
【0055】
第3実施形態の感染リスク特定システム1は、各個人に向けた感染リスク分布を可視化できることが第2実施形態と異なる点である。第2実施形態の感染リスク特定システム1は、利用者へ向けて全員に同じ感染リスク分布を可視化できるシステムである。しかしながら、自分自身に対して自分も感染源として扱われることとなってしまう。つまり、自分自身の存在のために自分の周囲が高い感染リスクの領域と表示されてしまう。そのため、第3実施形態の感染リスク特定システム1は、
図9に示すように、自分の存在位置の周囲に関しては、自らの飛沫による感染リスクの影響がでない表示とする。
【0056】
このように、第3実施形態の感染リスク特定システム1によれば、第2実施形態の効果に加えて、各個人毎に適切な注意喚起を図ることができる。
【0057】
なお、第3実施形態の感染リスク特定システム1における感染リスク可視化部60は、
図9に示した飛沫による感染リスク分布図と
図5に示した飛沫核による感染リスク分布図を重ね合わせ、
図7に示したような感染リスク分布図のように可視化すればよい。
【0058】
図10は、第4実施形態の感染リスク特定システム1の一例を示す。
図11は、第4実施形態の感染リスク特定システム1における飛沫による感染リスク分布図の一例を示す。
【0059】
第4実施形態の感染リスク特定システム1は、第2実施形態又は第3実施形態の感染リスク特定システム1に加えて、状態検知部41を設ける。状態検知部41は、対象空間にいる人の状態を検知する。
【0060】
例えば、状態検知部41は、対象空間にいる人のマスクの着用状態を検知する。マスクの着用を検知する場合、状態検知部41はカメラを用いればよい。状態検知部41がマスクの着用が有ると検知した場合、飛沫による感染リスク分布演算部52で演算する際の感染症パラメータPdにおく影響範囲を小さくし、状態検知部41がマスクの着用が無いと検知した場合、飛沫による感染リスク分布演算部52で演算する際の感染症パラメータPdにおく影響範囲を大きくする。
【0061】
また、状態検知部41は、対象空間にいる人の発熱状態を検知してもよい。発熱状態を検知する場合、状態検知部41は熱画像カメラを用いればよい。状態検知部41が予め定めた所定の熱より低いと検知した場合、飛沫による感染リスク分布演算部52で演算する際の感染症パラメータPdにおく影響範囲を小さくし、状態検知部41が予め定めた所定の熱より高いと検知した場合、飛沫による感染リスク分布演算部52で演算する際の感染症パラメータPdにおく影響範囲を大きくする。
【0062】
その他、状態検知部41は、対象空間にいる人の移動、心拍数、呼吸数、会話量、咳、又は、くしゃみ等の動作の発生頻度を検知してもよい。
【0063】
第4実施形態の感染リスク特定システム1は、
図11に示すように、感染症パラメータPdに対応して人を中心とした半径の大きさを表示させる。例えば、マスクを着用せず発熱のある人を中心とした円の半径は、マスクを着用し発熱のない人を中心とした円の半径よりも大きい。
【0064】
なお、感染リスク特定システム1は、基本的にパラメータs=1で稼働している。しかしながら、各個人に向けた可視化に関して、自分がマスクを着用した場合にパラメータsの値を小さくして、飛沫によりリスクが小さくなるようにしてもよい。
【0065】
このように、第4実施形態の感染リスク特定システム1によれば、他の実施形態の効果に加えて、人の状態等の個人属性を感染リスクに組み込むことができ、特定のウイルスの感染リスクの高い領域と低い領域をより的確に把握させることができる。
【0066】
なお、第4実施形態の感染リスク特定システム1における感染リスク可視化部60は、
図11に示した飛沫による感染リスク分布図と
図5に示した飛沫核による感染リスク分布図を重ね合わせ、
図7に示したような感染リスク分布図のように可視化すればよい。
【0067】
図12は、第5実施形態の感染リスク特定システム1の一例を示す。
図13は、第5実施形態の感染リスク特定システム1における飛沫による感染リスク分布図の一例を示す。
【0068】
第5実施形態の感染リスク特定システム1は、第4実施形態の感染リスク特定システム1に加えて、少なくとも警報部71又は誘導部72を有する。警報部71は、対象空間の感染リスクの大きい領域内にいる人に警報を発信する。警報部71が発信する警報は、音、振動、又は、表示等でよい。
【0069】
誘導部72は、対象空間の感染リスクの大きい領域内にいる人を、感染リスクの小さい領域に誘導する。感染リスクの小さい領域は、優先度を付与してもよい。例えば、距離を優先した場合、予め設定した感染リスクの範囲内において現在いる場所から最も近い領域に誘導すればよい。また、感染リスクを優先した場合、予め設定した距離の範囲内において最も感染リスクの低い領域に誘導すればよい。ただし、他の人と同じ領域に誘導しないようにすることが好ましい。
【0070】
また、感染リスク特定システム1は、座席記憶部80を有してもよい。座席記憶部80は、運用者が予め登録した対象空間の座席を記憶する。感染リスク特定システム1は、
図13に示すように、誘導部72が人を誘導する際に、最も感染リスクの小さい座席に誘導するように設定できる。
【0071】
感染リスクの小さい座席は、優先度を付与してもよい。例えば、距離を優先した場合、予め設定した感染リスクの範囲内において現在いる場所から最も近い座席に誘導すればよい。また、感染リスクを優先した場合、予め設定した距離の範囲内において最も感染リスクの低い座席に誘導すればよい。ただし、他の人と同じ座席に誘導しないようにすることが好ましい。
【0072】
このように、第5実施形態の感染リスク特定システム1によれば、他の実施形態の効果に加えて、警報部71を有することによって、特定のウイルスの感染リスクの高い領域にいる人に危険を知らせることができ、感染リスクを減らすことができる。また、誘導部72を有することによって、人を感染リスクの小さい領域に誘導することができ、感染リスクを減らすことができる。さらに、座席記憶部80を有することによって、人を感染リスクの小さい座席に誘導することができ、感染リスクを減らすことができる。
【0073】
なお、第5実施形態の感染リスク特定システム1における感染リスク可視化部60は、
図13に示した飛沫による感染リスク分布図と
図5に示した飛沫核による感染リスク分布図を重ね合わせ、
図7に示したような感染リスク分布図のように可視化すればよい。
【0074】
以上、本実施形態の感染リスク分布可視化システム1は、対象空間内の二酸化炭素の濃度を測定する二酸化炭素濃度計11と、二酸化炭素濃度計11が測定した各位置の二酸化炭素濃度から対象空間の濃度分布を求める二酸化炭素濃度分布演算部12と、使用者が対象とする感染症を入力する感染症パラメータ入力部21と、二酸化炭素濃度分布演算部12が求めた対象空間の二酸化炭素の濃度分布と感染症パラメータ入力部21で選択された感染症のパラメータから、対象空間で飛沫核によって感染症に感染するリスク分布を演算する飛沫核による感染リスク分布演算部51と、飛沫核による感染リスク分布演算部51で演算されたリスク分布を可視化する感染リスク可視化部60と、を備える。したがって、本実施形態の感染リスク特定システム1によれば、室内の二酸化炭素濃度を計測することで、特定のウイルスの知見に基づいた感染リスク分布を作成することができる。
【0075】
本発明にかかる感染リスク分布可視化システム1では、飛沫核による感染リスク分布演算部51は、以下の式(1)及び(2)から感染リスクを算出する。
【数6】
ここで、
V:拡散される室内空気の容積[m
3]、
V
e:室内空気に含まれる呼気の等価容積[m
3]、
C:室内空気中のCO
2の容積分率[ppm]、
C
o:室外空気中のCO
2の容積分率[ppm]、
C
a:呼吸時に呼気に加えられるCO
2の容積分率[ppm]、
I:感染者数[人]、
q:飛沫核による感染性粒子発生量[quanta/h]、
n:対象空間の人数[人]、
t:滞在時間[h]、
P:感染確率、
である。
【0076】
したがって、特定のウイルスの知見に基づいた感染リスク分布を作成することができる。
【0077】
本発明にかかる感染リスク分布可視化システム1は、対象空間内の二酸化炭素の濃度を測定する二酸化炭素濃度計11と、二酸化炭素濃度計11が測定した各位置の二酸化炭素濃度から対象空間の濃度分布を求める二酸化炭素濃度分布演算部12と、使用者が対象とする感染症を入力する感染症パラメータ入力部21と、二酸化炭素濃度分布演算部12が求めた対象空間の二酸化炭素の濃度分布と感染症パラメータ入力部21で選択された感染症のパラメータから、対象空間で飛沫核によって感染症に感染するリスク分布を演算する飛沫核による感染リスク分布演算部51と、対象空間内の人の位置を測定する人測位部31と、人測位部31が求めた人の位置情報と感染症パラメータ入力部21で選択された感染症のパラメータから、対象空間で飛沫によって感染症に感染するリスク分布を演算する飛沫による感染リスク分布演算部52と、飛沫核による感染リスク分布演算部51及び飛沫による感染リスク分布演算部52で演算されたリスク分布を可視化する感染リスク可視化部60と、を備える。したがって、本実施形態の感染リスク特定システム1によれば、対象空間内の二酸化炭素を計測して手間がかからず的確に特定のウイルスの知見に基づいた感染リスクの分布を作成することができる。
【0078】
本実施形態の感染リスク分布可視化システム1では、飛沫核による感染リスク分布演算部51は、以下の式(1)及び(5)から感染リスクを算出する。
【数7】
ここで、
V:拡散される室内空気の容積[m
3]、
V
e:室内空気に含まれる呼気の等価容積[m
3]、
C:室内空気中のCO
2の容積分率[ppm]、
C
o:室外空気中のCO
2の容積分率[ppm]、
C
a:呼吸時に呼気に加えられるCO
2の容積分率[ppm]、
I:感染者数[人]、
q:飛沫核による感染性粒子発生量[quanta/h]、
n:対象空間の人数[人]、
t:滞在時間[h]、
P
d:飛沫の伝播確率、
I
near:飛沫の感染性粒子を発生させる感染者数[人]、
q
near:飛沫による感染性粒子発生量[quanta/h]、
s:感染症に免疫がない人へ飛沫が粘膜に直接もしくは間接的に接触し、感染症を発症する確率、
P:感染確率、
である。
【0079】
したがって、特定のウイルスの知見に基づいた感染リスク分布を作成することができる。
【0080】
本実施形態の感染リスク分布可視化システム1では、感染リスク可視化部60は、使用者自身を感染者数から除外する。したがって、各個人毎に適切な注意喚起を図ることができる。
【0081】
本実施形態の感染リスク分布可視化システム1は、対象空間にいる人の状態を検知する状態検知部41をさらに備え、状態検知部41が検知した人の状態によって、飛沫感染リスク分布演算部52で演算する際の感染症パラメータPdの数値を変更する。したがって、人の状態等の個人属性を感染リスクに組み込むことができ、特定のウイルスの感染リスクの高い領域と低い領域をより的確に把握させることができる。
【0082】
本実施形態の感染リスク分布可視化システム1は、対象空間の感染リスクの大きい領域内にいる人に警報を発信する警報部71をさらに備える。したがって、対象空間内の二酸化炭素を計測して手間がかからず的確に特定のウイルスの知見に基づいた感染リスクの分布を作成することができる。
【0083】
本実施形態の感染リスク分布可視化システム1は、対象空間の感染リスクの大きい領域内にいる人を、感染リスクの小さい領域に誘導する誘導部72をさらに備える。したがって、人を感染リスクの小さい領域に誘導することができ、感染リスクを減らすことができる。
【0084】
なお、この実施形態によって本発明は限定されるものではない。すなわち、実施形態の説明に当たって、例示のために特定の詳細な内容が多く含まれるが、当業者であれば、これらの詳細な内容に色々なバリエーションや変更を加えてもよい。
【符号の説明】
【0085】
1…感染リスク分布可視化システム
11…二酸化炭素濃度計
12…二酸化炭素濃度分布演算部
21…感染症パラメータ入力部
31…人測位部
41…状態検知部
51…飛沫核による感染リスク分布演算部
52…飛沫による感染リスク分布演算部
60…感染リスク可視化部
71…警報部
72…誘導部
80…座席記憶部