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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022138496
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】胚盤胞の調製方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/073 20100101AFI20220915BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
C12N5/073
C12N1/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021038411
(22)【出願日】2021-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】598015084
【氏名又は名称】学校法人福岡大学
(71)【出願人】
【識別番号】520358623
【氏名又は名称】古賀 文敏
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100145104
【弁理士】
【氏名又は名称】膝舘 祥治
(72)【発明者】
【氏名】宮本 新吾
(72)【発明者】
【氏名】立花 克郎
(72)【発明者】
【氏名】平川 豊文
(72)【発明者】
【氏名】古賀 文敏
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA93X
4B065AC20
4B065BB02
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】受精卵から胚盤胞へと分化誘導する胚盤胞の調製方法を提供する。
【解決手段】胚盤胞の調製方法は、還元性ガスを含むバブルを含む培養液中で、受精卵を培養することを含む。還元性ガスは、水素、一酸化炭素、一酸化窒素及び硫化水素からなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよい。また、バブルは、10nm以上1000nm以下の平均粒径を有していてよい。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元性ガスを含むバブルを含む培養液中で、受精卵を培養することを含む胚盤胞の調製方法。
【請求項2】
前記還元性ガスは、水素、一酸化炭素、一酸化窒素及び硫化水素からなる群から選択される少なくとも1種を含む請求項1に記載の調製方法。
【請求項3】
前記バブルは、10nm以上1000nm以下の平均粒径を有する請求項1又は2に記載の調製方法。
【請求項4】
前記受精卵が、ヒト受精卵である請求項1から3のいずれか1項に記載の調製方法。
【請求項5】
前記受精卵が、非ヒト哺乳動物の受精卵である請求項1から3のいずれか1項に記載の調製方法。
【請求項6】
還元性ガスを含むバブルを含む培養液中で、受精卵を培養することを含む受精卵の胚盤胞への誘導方法。
【請求項7】
還元性ガスを含むバブルを含む細胞培養液。
【請求項8】
前記還元性ガスは、水素、一酸化炭素、一酸化窒素及び硫化水素からなる群から選択される少なくとも1種を含む請求項7に記載の細胞培養液。
【請求項9】
前記バブルは、10nm以上1000nm以下の平均粒径を有する請求項7又は8に記載の細胞培養液。
【請求項10】
受精卵の培養に用いられる請求項7から9のいずれか1項に記載の細胞培養液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胚盤胞の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本においては、現在5組に1組の夫婦が不妊症と診断され、増加の一途をたどっている。不妊の原因の1つに着床不全によるものがあるが、現行の生殖医療技術では、治療することが困難である。着床不全の治療には、例えば、子宮内膜の再生、着床する受精卵の卵質の改善等が考えられる。特に、受精卵の成熟(例えば、胚細胞から胚盤胞への分化誘導)を活性化することができれば、着床率ひいては妊娠率は大きく改善することが期待できる。
【0003】
例えば、特許文献1には、水素、酸素及び窒素のナノバブルを含む組成物が細胞増殖促進効果を有することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-63804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、受精卵から胚盤胞へと分化誘導する胚盤胞の調製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための具体的手段は以下の通りであり、本発明は以下の態様を包含する。第1の態様は、還元性ガスのバブルを含む培養液中で、受精卵を培養することを含む胚盤胞の調製方法である。前記還元性ガスは、水素、一酸化炭素、一酸化窒素及び硫化水素からなる群から選択される少なくとも1種であってよい。前記バブルは、10nm以上1000nm以下の平均粒径を有していてよい。前記受精卵は、ヒト受精卵又は非ヒト哺乳動物の受精卵であってよい。
【0007】
第2の態様は、還元性ガスを含むバブルを含む培養液中で、受精卵を培養することを含む受精卵の胚盤胞への誘導方法である。前記還元性ガスは、水素、一酸化炭素、一酸化窒素及び硫化水素からなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよい。前記バブルは、10nm以上1000nm以下の平均粒径を有していてよい。前記受精卵は、ヒト受精卵又は非ヒト哺乳動物の受精卵であってよい。
【0008】
第3の態様は、還元性ガスを含むバブルを含む細胞培養液である。前記還元性ガスは、水素、一酸化炭素、一酸化窒素及び硫化水素からなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよい。前記バブルは、10nm以上1000nm以下の平均粒径を有していてよい。前記細胞培養液は、受精卵の培養に用いられてよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、受精卵から胚盤胞へと分化誘導する胚盤胞の調製方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1に係る一酸化炭素バブルのバブル径分布を示す図である。
図2】比較例1に係る酸素バブルのバブル径分布を示す図である。
図3】バブル含有培養液を用いた受精卵の分化率(%)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在す。る場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。さらに本明細書に記載される数値範囲の上限及び下限は、当該数値を任意に選択して組み合わせることが可能である。以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための、胚盤胞の調製方法を例示するものであって、本発明は、以下に示す胚盤胞の調製方法に限定されない
【0012】
胚盤胞の調製方法
胚盤胞の調製方法は、還元性ガスを含むバブルを含有する培養液(以下、バブル含有培養液ともいう)中で、受精卵を培養する培養工程を含む。還元性ガスをバブルとして含む培養液中で、受精卵をin vitro培養することで、効率的に受精卵を胚盤胞へと分化誘導することができる。また、受精卵(胚細胞)の発育・分化速度を亢進させることができる。
【0013】
受精卵は、卵生殖を行う生物種の雌雄の配偶子が結合して形成する最初の細胞である。受精卵を培養すると、2細胞期胚、4細胞期胚、8細胞期胚、桑実胚を経て胚盤胞にまで分化する。そして胚盤胞はさらに、初期胚盤胞、中期胚盤胞、及び後期(拡張)胚盤胞に分類される。受精卵を胚盤胞まで分化誘導した後、子宮内に移植することで不妊治療における着床率を向上できる。
【0014】
受精卵の由来は、哺乳動物であればよい。哺乳動物としては、ヒト、サル、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター等を挙げることができる。受精卵の由来はヒトであってもよく、非ヒト哺乳動物であってもよい。
【0015】
受精卵の培養は、還元性ガスを含むバブルを含む培養液中で行われる。バブルを含有させる培養液は、受精卵の培養が可能である培養液であれば特に制限されない。受精卵用の培養液としては、例えば、KSOM、PAM-5、ORIGIO Seqential Fert(ORIGIO社製)、ORIGIO Seqential Blast(ORIGIO社製)、Cleav、ORIGIO Seqential(ORIGIO社製)、SAGE 1-Step(ORIGIO社製)、ARTEC(コージンバイオ株式会社製)、HIGROW OVIT(扶桑薬品工業株式会社製)、QA Cleavage Medium(Sage BioPharma,Inc.社製)、後期用培地として、Complete Blastocyst Medium(Irvine Scientific Sales Co,Inc.社製)等を挙げることができ、これらの混合培地であってもよい。また、培養液には、血清、血清代替物、血漿、血清アルブミン、タンパク質、成長因子、サイトカイン、ホルモン、アミノ酸、ビタミン、抗生物質等の添加剤がさらに含まれていてもよい。
【0016】
培養液が含むバブルを構成する気体としては、例えば、胚盤胞への分化誘導能の観点から、還元性ガスであってよい。還元性ガスとしては、例えば水素、一酸化炭素、一酸化窒素、硫化水素、二酸化硫黄等を挙げることができ、これらからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、水素、一酸化炭素、一酸化窒素及び硫化水素からなる群から選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。バブルを構成する気体は、窒素、酸素、二酸化炭素等を含んでいてもよく、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、シクロプロパン、シクロブタン、シクロブタン、エチレン、プロピレン、プロパジエン、ブテン、アセチレン、プロピン等の炭素数が5以下の低分子炭化水素を含んでいてもよい。バブルを構成する気体は1種のみであってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。バブルを構成する気体中の還元性ガスの含有率は、例えば、60体積%以上であってよく、好ましくは80体積%以上、90体積%以上、又は95体積%以上であってよく、実質的に還元性ガスのみであってもよい。ここで「実質的に」とは、不可避的に混入する還元性ガス以外のその他のガスを排除しないことを意味し、具体的にはその他のガスの含有率が5体積%未満、又は1体積%未満であることを意味する。
【0017】
培養液が含むバブルは、ウルトラファインバブル又はナノバブルであってよく、その平均粒径は、例えば10nm以上1000nm以下であってよく、好ましくは50nm以上500nm以下、又は100nm以上300nm以下であってもよい。また、バブルの平均粒径は、例えば10nm以上100nm以下、好ましくは10nm以上50nm以下であってもよい。培養液が含むバブルの含有量(個数)は、例えば1×10個(particles)/ml以上であってよく、好ましくは1×10個/ml以上、5×10以上、又は1×10個/ml以上であってよい。培養液が含むバブルの個数の上限は、例えば、1×1011個/ml以下であってよく、好ましくは1×1010個/ml以下であってよい。
【0018】
バブルの平均粒径は、例えば、例えば、レーザー回折・散乱法、ナノ粒子トラッキング解析法、電気抵抗法、AFM(Atomic Force Microscope)、レーザー顕微鏡による観測等により測定することができる。レーザー回折・散乱法による測定装置としては、例えばベックマン・コールター社製のフローサイトメーター(商品名:CytoFlex)等を挙げることができる。ナノ粒子トラッキング解析法による測定装置としては、Malvern社製のナノ粒子解析システム(商品名:Nonosight)等を挙げることができる。また、AFMを測定する装置としては、例えば、Malvern社製の共振式粒子計測システム(商品名:アルキメデス)を用いることができる。
【0019】
培養液中にバブル発生させる技術としては、例えば、旋回液流式、スタティックミキサー式、ベンチュリー式、加圧溶解式、細孔式等を挙げることができる。また、製造容器内に培養液を注入し、所望の気体を封入した状態で、製造容器を振動させることで培養液中にバブルを発生させてもよい。
【0020】
具体的には以下のようにして、培養液内にバブルを発生させることができる。培養液内にバブルを発生させる方法は、製造容器を準備することと、培養液を製造容器の所定の高さまで注入することと、製造容器内に所望のガスを充填させた状態で製造容器を密閉することと、所定の回転数で製造容器を振動させることと、を含んでいてよい。
【0021】
製造容器として、開口部を有し、培養液を収容する容器本体と、容器本体を密閉可能な蓋とを備える製造容器を準備する。容器本体は、例えば、外形が有底円筒状をなしていてよい。具体的には、例えば、容量が0.5mlから20ml程度のバイアル瓶を用いることができる。バイアル瓶の寸法は、例えば長手方向の長さXが、35mmから60mm程度であり、外径 が、10mmから40mm程度であってよい。蓋は、容器本体の開口部に密着する円盤状のゴム栓(セプタム)と、ゴム栓を容器本体に固定する締付部とを備えていてよい。ゴム栓は、例えば、シリコン製のゴム栓であってよい。締付部は、ゴム栓の縁部を覆うように構成され、その平面視略中央に開口を有していてよい。
【0022】
容器本体には、所定の高さまで培養液が注入される。培養液が注入された容器本体を水平に静置した状態において、容器本体の高さ(長手方向の長さ)をX[mm]とし、容器本体における培養液の液面の高さをY[mm]とすると、0.2≦Y/X≦0.7の関係を満足してよい。この状態であれば、容器本体に収容された培養液の上に、十分な大きさの空隙部が存在することになる。この状態で製造容器を振動させることで、培養液を製造容器の上下面および側面に、より勢いよく衝突させることができる。この衝突により、培養液中に衝撃波が生じ、培養液中にバブルを容易に形成することができる。
【0023】
培養液を注入した容器本体は、所望の気体が充填された状態で密閉される。具体的には、培養液が注入された容器本体の空隙部を、所望の気体でパージした後、蓋を容器本体の開口部に締付ける。これにより、製造容器内に培養液と所望の気体とが密閉される。容器本体の空隙部を所望の気体でパージする方法としては、例えば、培養液が注入された容器本体をチャンバー内に移動させ、チャンバー内の空気を所望の気体で置換した後、蓋を容器本体の開口部に締付ける方法を挙げることができる。密封された製造容器は、所望の気体で加圧された状態であってもよい。密封された製造容器内に、注射器等を用いて所望の気体を追加することで、密封された製造容器内を加圧状態にすることができる。
【0024】
培養液と所望の気体が密封された製造容器を振動させることで、培養液中にバブルが発生する。製造容器の振動は、例えば、製造容器の略長手方向における往復運動であってよい。これにより、培養液が製造容器内を上下に移動して製造容器の上下面および側面に繰り返し衝突することになる。培養液が製造容器の内面に衝突すると培養液内に衝撃波が発生し、その圧力により気体が培養液中に微分散して、バブルが形成される。振動数は、例えば5000rpm以上であればよく、好ましくは6000rpm以上20000rpm以下、又は6000rpm以上7000rpm以下であってよい。
【0025】
製造容器の長手方向の振動幅は、例えば0.7X[mm]以上1.5X[mm]以下程度であってよく、好ましくは0.8X[mm]以上1X[mm]以下程度である。製造容器を振動させる時間は、例えば10秒以上120秒以下程度であってよく、好ましくは30秒以上90秒以下程度である。振動時間を上記範囲内とすることにより、培養液が製造容器と衝突する回数が十分に多くなるため、培養液中に、多量のバブルを生成させることができる。なお、振動時間を上記範囲内で長く設定することにより、培養液中に生成されるバブルの量をより多くすることができる。製造容器の振動は、振動時間を分割して実施してもよい。例えば、5秒以上30秒以下の振動を3回から10回程度繰り返して、製造容器を振動させてもよい。
【0026】
製造容器を振動させることができる装置としては、例えば、ビーズ方式の高速細胞破砕システム(ホモジナイザー)を用いることができる。具体例としては、バーティンテクノロジーズ(bertin Technologies)社製のプレセリーズ(R)(Precellys)等を用いることができる。なお、培養液中にバブルを生成する方法の詳細については、例えば、国際公開第2016/163439号の明細書等を参照することができる。
【0027】
胚盤胞の調製方法では、バブル含有培養液中で受精卵を培養する。受精卵の培養条件は、一般に採用されている条件であってよい。例えば、ヒトの受精卵の場合、37℃、5%COであってよい。また、ブタ、ウシ、ウマ等の場合は、例えば38℃から39℃、5%COであってよい。培養時間は、胚盤胞が形成されるまでであればよく、例えば、2日以上10日以下であってよい。受精卵の培養数は1つの容器あたり、1個であってもよく、複数個であってもよい。
【0028】
本発明の別態様は、還元性ガスを含むバブルを含む培養液中で、受精卵を培養することを含む受精卵の胚盤胞への誘導方法、または分化誘導方法であってよい。また、別態様では、還元性ガスを含むバブルを含む培養液中で、受精卵を培養することを含む胚盤胞の製造方法であってもよい。
【0029】
バブル含有細胞培養液
バブル含有細胞培養液は、還元性ガスを含むバブルを含む。バブル含有細胞培養液が含むバブルはウルトラファインバブル又はナノバブルであってよい。バブル含有細胞培養液中で細胞を培養することにより、培養細胞の発育速度を亢進させることができる。また、バブル含有細胞培養液中で受精卵を培養することで、優れた効率で受精卵から胚盤胞へ分化誘導することができ、受精卵(胚細胞)の発育・分化速度を亢進させることができる。
【0030】
バブル含有細胞培養液は、通常用いられる細胞培養液中に還元性ガスを含むバブルを生成することで調製することができる。バブルを構成する気体の詳細、バブルの生成方法については既述の通りである。
【0031】
細胞培養液は、通常の動物細胞培養用の培養液であればよく、既述の受精卵用の培養液であってもよい。動物細胞培養用の培養液としては、例えば、Dulbecco’s modified Eagle’s培地(DMEM)(日水製薬株式会社等)、α-MEM(大日本製薬株式会社等)、DMEM:Ham’s F12混合培地(1:1)(大日本製薬株式会社等)、Ham’s F12 medium(大日本製薬株式会社等)、MCDB201培地(機能性ペプチド研究所)等を挙げることができる。細胞培養液には、必要に応じて、血清、血清代替物、血漿、血清アルブミン、タンパク質、成長因子、サイトカイン、ホルモン、アミノ酸、ビタミン、抗生物質等の添加剤がさらに含まれていてもよい。
【0032】
細胞培養液が含むバブルの平均粒径は、例えば10nm以上1000nm以下であってよく、好ましくは50nm以上500nm以下、又は100nm以上300nm以下であってもよい。また、バブルの平均粒径は、例えば10nm以上100nm以下、好ましくは10nm以上50nm以下であってもよい。細胞培養液が含むバブルの含有量(個数)は、例えば1×10個(particles)/ml以上であってよく、好ましくは1×10個/ml以上、5×10個/ml以上、又は1×10個/ml以上であってよい。培養液が含むバブルの個数の上限は、例えば、1×1011個/ml以下であってよく、好ましくは1×1010個/ml以下であってよい。
【0033】
バブル含有細胞培養液が適用される細胞は、動物細胞であれば、種及び由来組織は特に制限されず、体細胞、受精卵等のいずれであってもよい。また、生体より採取した直後の細胞、樹立細胞系等であってもよい。動物細胞の由来としてはヒトを含む哺乳動物であればよい。好ましくは、バブル含有細胞培養液は受精卵の培養に用いられてよい。
【0034】
不妊症の処置方法
不妊症の処置方法は、対象の不妊症を処置する方法であり、還元性ガスを含むバブルを含む培養液中で、受精卵を培養することで受精卵を胚盤胞への分化誘導することと、分化誘導された胚盤胞を対象の子宮内に移植することと、を含んでいてよい。分化誘導された胚盤胞を移植することで、着床率が向上する。不妊症の処置方法の対象となる動物は、哺乳動物であればよく、哺乳動物にはヒトが含まれる。また対象は非ヒト哺乳動物であってもよい。
【0035】
着床不全改善方法
着床不全改善方法は、対象の着床不全を改善する方法であり、還元性ガスを含むバブルを含む培養液中で、受精卵を培養することで受精卵を胚盤胞への分化誘導することと、分化誘導された胚盤胞を対象の子宮内に移植することと、を含んでいてよい。分化誘導された胚盤胞を移植することで、着床率が向上する。着床不全改善方法の対象となる動物は、哺乳動物であればよく、哺乳動物にはヒトが含まれる。また対象は非ヒト哺乳動物であってもよい。
【実施例0036】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0037】
実施例1
受精卵培養液としてKSOMを準備した。1mlのKSOMを容量2mlのバイアル瓶に入れ、一酸化炭素でパージしてから蓋を挿着して密封した。注射器を使ってバイアル瓶内に2mlの一酸化炭素を加えた。密封したバイアル瓶をbertin Technologies社製のPrecellys(R)(高速細胞破砕システム)を用いて、6500rpmで10秒間振動させることを6回繰り返して、一酸化炭素バブルを含む培養液を得た。
【0038】
ナノ粒子解析システム(NanoSight;Malvern社製)を用いて、バブル含有培養液に含まれるバブルのバブル径分布測定を行った。その結果を図1に示す。バブルの平均粒径は175nmであり、モード径が142nmであった。また、バブルの含有量は1.9×10個/mlであった。
【0039】
比較例1
一酸化炭素の代わりに、酸素を用いたこと以外は実施例1と同様にして酸素バブルを含む培養液を得た。
【0040】
バブル径分布測定を行った結果を図2に示す。バブルの平均粒径は150nmであり、モード径が137nmであった。また、バブルの含有量は5.9×10個/mlであった。
【0041】
評価
培養液として、実施例1で得られた培養液(NB(CO)-KSOM)、比較例1で得られた培養液(NB(O2)-KSOM)、及びバブルを形成していない培養液(KSOM)を用いて、以下のようにして受精卵の分化状態を評価した。細胞培養皿に培養液の液滴を形成し、液滴内にICRマウスの2細胞期胚を播種し、37℃、5%COで培養を開始した。培養開始から96時間後まで毎日観察し、4細胞期胚、8細胞期胚、桑実胚、初期胚盤胞、中期胚盤胞、後期胚盤胞までの分化率(%)をそれぞれ算出した。結果を図3と表1に示す。なお、図3中、*は、NB(CO)-KSOMとKSOMの間に、有意差(p<0.05)があることを示す。有意差はマン・ホイットニーのU検定で検定した。
【0042】
【表1】
【0043】
表1及び図3に示されるように、還元性ガスを含むバブルを含む培養液中で受精卵を培養することで、受精卵が効率よく分化した。
図1
図2
図3