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特開2022-138505圧粉磁心、インダクタ、及び圧粉磁心の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022138505
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】圧粉磁心、インダクタ、及び圧粉磁心の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/153 20060101AFI20220915BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20220915BHJP
   H01F 17/04 20060101ALI20220915BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
H01F1/153 166
H01F1/153 175
H01F1/153 133
H01F27/255
H01F17/04 F
H01F41/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021038421
(22)【出願日】2021-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000134257
【氏名又は名称】株式会社トーキン
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】御子柴 駿
(72)【発明者】
【氏名】嶋 博司
(72)【発明者】
【氏名】八巻 真
(72)【発明者】
【氏名】大西 直人
(72)【発明者】
【氏名】小林 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】浦田 顕理
【テーマコード(参考)】
5E041
5E070
【Fターム(参考)】
5E041AA11
5E041BD03
5E041CA03
5E041NN15
5E070AA01
5E070AB10
5E070BB02
(57)【要約】
【課題】小型化を実現しつつ、高周波領域において低損失を実現可能な圧粉磁心を提供することである。
【解決手段】本発明の一態様にかかる圧粉磁心は、磁性粉末がバインダ層を介して結着された圧粉磁心である。圧粉磁心は88体積%以上の磁性粉末を含有しており、磁性粉末間に存在するバインダ層のうち厚さが20nm以下のバインダ層の割合が6%以下(0を含まず)である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性粉末がバインダ層を介して結着された圧粉磁心であって、
前記圧粉磁心は88体積%以上の磁性粉末を含有しており、
前記磁性粉末間に存在するバインダ層のうち厚さが20nm以下のバインダ層の割合が6%以下(0を含まず)である、
圧粉磁心。
【請求項2】
前記磁性粉末間に存在するバインダ層のうち厚さが20nm以下のバインダ層の割合が3.3%以下である、請求項1に記載の圧粉磁心。
【請求項3】
前記磁性粉末は鉄元素を含有する軟磁性粉末であり、
前記磁性粉末の粒径が2μm以上25μm以下である、
請求項1または2に記載の圧粉磁心。
【請求項4】
前記磁性粉末は金属ガラスまたはナノ結晶粉末である、請求項3に記載の圧粉磁心。
【請求項5】
前記バインダ層は低融点ガラスと樹脂材料とを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の圧粉磁心。
【請求項6】
前記磁性粉末に対する前記低融点ガラスおよび前記樹脂材料の総量が10体積%未満である、請求項5に記載の圧粉磁心。
【請求項7】
前記磁性粉末に対する前記低融点ガラスの体積割合が0.5体積%以上6体積%以下である、請求項6に記載の圧粉磁心。
【請求項8】
前記前記磁性粉末に対する前記樹脂材料の体積割合が0.5体積%以上9体積%以下である、請求項6または7に記載の圧粉磁心。
【請求項9】
前記低融点ガラスはリン酸塩系またはスズリン酸塩系ガラスである、請求項5~8のいずれか一項に記載の圧粉磁心。
【請求項10】
前記樹脂材料は、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、及びアクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項5~9のいずれか一項に記載の圧粉磁心。
【請求項11】
前記圧粉磁心の鉄損が1500kW/m以下である、請求項1~10のいずれか一項に記載の圧粉磁心。
【請求項12】
前記圧粉磁心の垂直方向の長さが3.5mmよりも長い場合、前記圧粉磁心の水平断面において前記圧粉磁心を成形型で挟んだ成形型間の距離のうち、前記圧粉磁心を熱間成形した際に前記圧粉磁心の内部に熱が伝達するのに最も時間がかかる部分が伸びる方向と略垂直な方向における成形型間の距離を3.5mm以下とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の圧粉磁心。
【請求項13】
前記圧粉磁心の垂直方向の長さが3.5mm以下である、請求項1~11のいずれか一項に記載の圧粉磁心。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の圧粉磁心とコイルとを備えるインダクタ。
【請求項15】
磁性粉末に低融点ガラスをコーティングする工程と、
前記低融点ガラスがコーティングされた磁性粉末に樹脂材料をコーティングして造粒する工程と、
前記造粒後の磁性粉末を熱間成形する工程と、を備え、
前記熱間成形後の成形体が88体積%以上の磁性粉末を含有しており、
前記磁性粉末間には前記低融点ガラスと前記樹脂材料とを含むバインダ層が形成されており、
前記磁性粉末間に存在するバインダ層のうち厚さが20nm以下のバインダ層の割合を6%以下とする、
圧粉磁心の製造方法。
【請求項16】
前記磁性粉末は金属ガラスであり、
前記熱間成形する際の温度は、前記低融点ガラスの軟化温度および前記磁性粉末のガラス転移温度のうち高い方の温度以上、前記磁性粉末の結晶化温度以下である、
請求項15に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項17】
前記磁性粉末はナノ結晶粉末であり、
前記熱間成形する際の温度は、前記低融点ガラスの軟化温度および前記磁性粉末の第1結晶化温度のうち高い方の温度以上、前記磁性粉末の第2結晶化温度以下である、
請求項15に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項18】
前記磁性粉末に対する前記低融点ガラスおよび前記樹脂材料の総量が10体積%未満である、請求項15~17のいずれか一項に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項19】
前記造粒後の磁性粉末に含まれる前記低融点ガラスの前記磁性粉末に対する体積割合が0.5体積%以上6体積%以下である、請求項18に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項20】
前記造粒後の磁性粉末に含まれる前記樹脂材料の前記磁性粉末に対する体積割合が0.5体積%以上9体積%以下である、請求項18または19に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項21】
前記低融点ガラスはリン酸塩系またはスズリン酸塩系ガラスである、請求項15~20のいずれか一項に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項22】
前記樹脂材料は、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、及びアクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項15~21のいずれか一項に記載の圧粉磁心の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧粉磁心、インダクタ、及び圧粉磁心の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インダクタは様々な電子機器に用いられている。特にパソコン等の電子機器に用いられるインダクタは小型化が求められると共に、大電流を流した場合でも高いインダクタンス特性を示すことが求められる。特許文献1には、高周波領域における透磁率の低下が少ない非晶質軟磁性合金の圧粉成形体の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-212503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように、インダクタは小型化が求められると共に、大電流を流した場合でも高いインダクタンス特性を示すことが求められる。特にパソコン等の電子機器で用いられるインダクタは高周波領域(例えば、750kHz~2MHz)で用いられるため、高周波領域において低損失なインダクタが求められている。
【0005】
上記課題に鑑み本発明の目的は、小型化を実現しつつ、高周波領域において低損失を実現可能な圧粉磁心、インダクタ、及び圧粉磁心の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様にかかる圧粉磁心は、磁性粉末がバインダ層を介して結着された圧粉磁心であって、前記圧粉磁心は88体積%以上の磁性粉末を含有しており、前記磁性粉末間に存在するバインダ層のうち厚さが20nm以下のバインダ層の割合が6%以下(0を含まず)である。
【0007】
本発明の一態様にかかる圧粉磁心の製造方法は、磁性粉末に低融点ガラスをコーティングする工程と、前記低融点ガラスがコーティングされた磁性粉末に樹脂材料をコーティングして造粒する工程と、前記造粒後の磁性粉末を熱間成形する工程と、を備える。前記熱間成形後の成形体が88体積%以上の磁性粉末を含有しており、前記磁性粉末間には前記低融点ガラスと前記樹脂材料とを含むバインダ層が形成されており、前記磁性粉末間に存在するバインダ層のうち厚さが20nm以下のバインダ層の割合を6%以下(0を含まず)とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、小型化を実現しつつ、高周波領域において低損失を実現可能な圧粉磁心、インダクタ、及び圧粉磁心の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態にかかるインダクタの一例を示す斜視図である。
図2】従来技術の圧粉磁心と本発明の圧粉磁心の電子顕微鏡写真である。
図3】従来技術の圧粉磁心の微細構造と本発明の圧粉磁心の微細構造を説明するための模式図である。
図4】実施の形態にかかる圧粉磁心の微細構造を示す電子顕微鏡写真である。
図5】実施の形態にかかる圧粉磁心の製造方法を説明するためのフローチャートである。
図6】実施の形態にかかる圧粉磁心の製造方法を説明するための模式図である。
図7】実施の形態にかかる圧粉磁心の水平断面図である。
図8】実施の形態にかかる圧粉磁心の水平断面図である。
図9】実施の形態にかかる圧粉磁心の水平断面図である。
図10】実施の形態にかかる圧粉磁心の水平断面図である。
図11】バインダ量および磁性粉末の粒径を同一条件としたサンプルの鉄損と20nm以下のバインダ層の割合とをプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<インダクタ>
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本実施の形態にかかるインダクタの一例を示す斜視図である。図1に示すように、本実施の形態にかかるインダクタ1は、圧粉磁心10_1、10_2およびコイル13を備える。圧粉磁心10_1は、中央部を垂直方向に貫通している空洞を有し、コイル13の外側を囲むように配置される。圧粉磁心10_2は、コイル13の内側に設けられており、断面コ字状のコイル13の凹部に配置される。
【0011】
例えば、図1に示すインダクタ1は、コイル13の凹部に圧粉磁心10_2を配置した後、上部から圧粉磁心10_1を圧入することで形成できる。これにより、コイル13が圧粉磁心10_1、10_2に囲まれたインダクタ1を形成できる。なお、本明細書では圧粉磁心10_1、10_2を総称して圧粉磁心10とも記載する。また、図1に示したインダクタ1の構成は一例であり、本実施の形態にかかる圧粉磁心10は、図1以外の構成を備えるインダクタに用いてもよい。本実施の形態にかかる圧粉磁心は、小型化を実現しつつ、高周波領域において低損失を実現していることを特徴としている。以下、本実施の形態にかかる圧粉磁心について詳細に説明する。
【0012】
<圧粉磁心>
本実施の形態にかかる圧粉磁心は、磁性粉末がバインダ層を介して結着された圧粉磁心である。圧粉磁心は88体積%以上の磁性粉末を含有しており、磁性粉末間に存在するバインダ層のうち厚さが20nm以下のバインダ層の割合が6%以下(0を含まず)である。このような構成を備えることで、小型化を実現しつつ、高周波領域において低損失を実現可能な圧粉磁心を提供できる。磁性粉末間に存在するバインダ層のうち厚さが20nm以下のバインダ層の割合は、好ましくは3.3%以下であってもよい。
【0013】
本実施の形態にかかる圧粉磁心に用いられる磁性粉末は鉄元素を含有する軟磁性粉末である。例えば、磁性粉末の粒径は2μm以上25μm以下、好ましくは5μm以上15μm以下である。なお、本発明において粒径はメジアン径D50であり、レーザー回折・散乱法を用いて測定した値である。
【0014】
本実施の形態では、磁性粉末として金属ガラスを用いることができる。例えば、金属ガラスとして、アトマイズ法で作製した非晶質金属ガラスを用いることができる。例えば、Fe-P-B合金、Fe-B-P-Nb-Cr合金、Fe-Si-B合金、Fe-Si-B-P合金、Fe-Si-B-P-Cr合金、Fe-Si-B-P-C合金を用いることができ、アトマイズ法により粉末化することで、ガラス転移点を有する金属ガラスを形成できる。特に本発明では、Fe-B-P-Nb-Cr系の材料を用いることが好ましい。なお、アトマイズ法によって得られる金属ガラスはこれらに限定されず、ガラス転移点を有さない金属ガラスを用いることもできる。
【0015】
また、本実施の形態では、例えば、磁性粉末としてナノ結晶粉末を用いてもよい。例えば、ナノ結晶粉末として、アトマイズ法で作製したナノ結晶粉末を用いてもよい。例えば、Fe-Si-B-P-C-Cu系、Fe-Si-B-Cu-Cr系、Fe-Si-B-P-Cu-Cr系、Fe-B-P-C-Cu系、Fe-Si-B-P-Cu系、Fe-B-P-Cu系、Fe-Si-B-Nb-Cu系の材料をアトマイズ法により粉末化することで、磁性粉末の熱処理工程において結晶化を示す発熱ピークを少なくとも2つ有するナノ結晶粉末を形成できる。使用するナノ結晶粉末は特に限定されることはないが、例えばFe-Si-B-P-Cu-Cr系の材料を用いることが好ましい。
【0016】
本実施の形態において磁性粉末の粒子形状は球状に近いほど好ましい。粒子の球状度が低いと、粒子表面に突起が生じ、成形圧力を印加した際に該突起に周囲の粒子からの応力が集中して被覆が破壊され、絶縁性が十分に保たれず、その結果、得られる圧粉磁芯の磁気特性(特に損失)が悪化する場合がある。なお、粒子の球状度は、磁性粉末の製造条件、例えば水アトマイズ法であればアトマイズに用いる高圧水ジェットの水量や水圧、溶融原料の温度及び供給速度などの調整によって、好適な範囲に制御可能である。具体的な製造条件は、製造する磁性粉末の組成や、所望の生産性によって変化する。
【0017】
本実施の形態にかかる圧粉磁心においてバインダ層は、磁性粉末同士を結着する機能を備える。バインダ層は低融点ガラスと樹脂材料とを含む。本実施の形態において、低融点ガラスおよび樹脂材料の総量は圧粉磁心の磁性粉末に対して10体積%未満である。低融点ガラスには、リン酸塩系、スズリン酸塩系、ホウ酸塩系、ケイ酸塩系、ホウケイ酸塩系、バリウムケイ酸塩系、酸化ビスマス系、ゲルマネート系、バナデート系、アルミノリン酸塩系、砒酸塩系及びテルライド系等を用いることができる。特に本発明では、リン酸塩系またはスズリン酸塩系の低融点ガラスを用いることが好ましい。また、磁性粉末に対する低融点ガラスの体積割合は0.5体積%以上6体積%以下、好ましくは1.25体積%以上3体積%以下である。
【0018】
また、バインダ層に含まれる樹脂材料として、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、及びアクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも一種を用いることができる。また、磁性粉末に対する樹脂材料の体積割合は0.5体積%以上9体積%以下、好ましくは1体積%以上5体積%以下である。
【0019】
以上の構成を備える本実施の形態にかかる圧粉磁心は、88体積%以上の磁性粉末を含有しており、磁性粉末間に存在するバインダ層のうち厚さが20nm以下のバインダ層の割合が6%以下(0を含まず)である。したがって、バインダ層を薄くして磁性粉末の充填率を高めつつ、磁性粉末間の絶縁性を十分に保つことが可能となる。よって、本実施の形態にかかる圧粉磁心により、小型化を実現しつつ、高周波領域におけるインダクタの損失を低減できる。
【0020】
図2は、従来技術の圧粉磁心と本発明の圧粉磁心の電子顕微鏡写真である。図2の従来技術では、磁性粉末の充填率が低い。これに対して本発明の圧粉磁心では、従来技術の圧粉磁心と比べて磁性粉末の充填率が高い。よって、大電流を流した場合でも高いインダクタンス特性を示す。
【0021】
図3は、従来技術の圧粉磁心の微細構造と本発明の圧粉磁心の微細構造を説明するための模式図である。図3の従来技術では、磁性粉末121間にあるバインダ層122の厚さが不均一である。例えば、領域131ではバインダ層122の厚さが厚いが、領域132、133では、バインダ層122の厚さが薄い。つまりこの場合は、磁性粉末121間に存在するバインダ層122のうち厚さが20nm以下のバインダ層の割合(つまり、領域132、133のようにバインダ層が薄い箇所の割合)が高い。したがって、結果としてバインダ層122が厚い部分の割合が高くなる。
【0022】
これに対して本発明の圧粉磁心では、磁性粉末21間にあるバインダ層22の厚さが均一である。つまり、磁性粉末21間に存在するバインダ層22のうち厚さが20nm以下のバインダ層の割合(つまり、バインダ層が薄い箇所の割合)が少ない。したがって、結果としてバインダ層22が厚い部分の割合が低くなり、バインダ層22が全体的に均一になる。一例を挙げると、本発明の圧粉磁心は、バインダ層22の厚さの中央値が31~68nmである。
【0023】
図4は、本実施の形態にかかる圧粉磁心の微細構造を示す電子顕微鏡写真であり、「磁性粉末間に存在するバインダ層のうち厚さが20nm以下のバインダ層の割合」を求める方法を説明するための図である。バインダ層の厚さを測定する際は、圧粉磁心の電子顕微鏡写真(SEM像)を用いて、磁性粉末間にバインダが充填されており、かつ、100nm以上の長さに亘って磁性粉末同士の間隔が200nm以下の領域を特定する。そして、特定した領域において、100nm毎にバインダ層の厚さを測定する。図4の右図に測定例を示している。なお、磁性粉末間にバインダが存在するか否かについては、SEM像のコントラストやEDX(Energy dispersive X-ray spectroscopy)での元素分析の結果を用いて判断することができる。例えば、バインダ層の厚さの測定点は400点以上とすることが好ましい。なお、磁性粉末同士の間隔は、一方の磁性粉末の表面上の点における法線を想定し、その法線方向において2つの粉末間の距離を測定すればよい。
【0024】
例えば、測定点が400点であり、そのうちバインダ層の厚さが20nm以下の測定点が20箇所であった場合、「磁性粉末間に存在するバインダ層のうち厚さが20nm以下のバインダ層の割合」=(20/400)×100=5[%]となる。
【0025】
なお、図4の左下の図のように、磁性粉末の間隔が200nm以下(図示の箇所は90nm)であっても、バインダが充填されていない場合は、測定対象から除外する。
【0026】
<圧粉磁心の製造方法>
次に、本実施の形態にかかる圧粉磁心の製造方法について説明する。図5は、本実施の形態にかかる圧粉磁心の製造方法を説明するためのフローチャートである。図6は、本実施の形態にかかる圧粉磁心の製造方法を説明するための模式図である。
【0027】
図5に示すように、圧粉磁心を製造する際は、まず、磁性粉末を準備する(ステップS1)。磁性粉末には上述した磁性粉末を用いることができる。磁性粉末には、400℃以上で軟化する磁性材料(熱間成形時に容易に変形する材料)を用いることが好ましい。例えば、磁性粉末の原料を真空溶解した後、水アトマイズ法を用いて粉末化と急冷とを同時に行うことで、非晶質の磁性粉末を得ることができる。このようにして得られた磁性粉末は、必要に応じて分級を行い、異常に粗大化した粉末を除去してもよい。
【0028】
次に、磁性粉末に低融点ガラスをコーティングする(ステップS2)。低融点ガラスには、400℃以上で軟化する材料、つまり、熱間成形時に軟化するとともに、熱間成形後に絶縁材、結着材として働く材料を用いることが好ましい。例えば、低融点ガラスとしてリン酸塩系ガラスを用いることができる。磁性粉末に低融点ガラスをコーティングする際は、メカノフュージョン法、ゾル-ゲル法等の湿式薄膜作製法、またはスパッタリング等の乾式薄膜作製法等を用いることができる。例えば、メカノフュージョン法は、強い機械的エネルギーを加えながら磁性粉末と低融点ガラス粉末とを混合することで、磁性粉末の表面に低融点ガラスの層を形成することができる。
【0029】
一例を挙げると、磁性粉末1000gと低融点ガラス粉末10gを混合し、メカノフュージョン法を用いて磁性粉末に低融点ガラスをコーティングする。これにより、コーティングされた低融点ガラスの磁性粉末に対する体積割合を0.5体積%以上6体積%以下とすることができる。
【0030】
次に、低融点ガラスがコーティングされた磁性粉末に樹脂材料をコーティングして造粒する(ステップS3)。樹脂材料には上述した樹脂材料を用いることができる。樹脂材料には、100℃程度で軟化するとともに、熱間成形後に絶縁材、結着材として働く材料を用いることが好ましい。また、樹脂材料として、熱間成形時(高温時)に分解しにくい材料を用いることが好ましい。樹脂材料をコーティング(造粒)する際は、転動造粒法やスプレードライ法などを用いることができる。具体的には、有機溶剤で溶解した樹脂材料と、低融点ガラスがコーティングされた磁性粉末とを混合して乾燥させることで、磁性粉末の低融点ガラス上に樹脂層を形成できる。
【0031】
図6の左図に造粒後の磁性粉末20を示す。図6に示すように、造粒後の磁性粉末20は、磁性粉末21の上に低融点ガラス31がコーティングされており、更に低融点ガラス31の上に樹脂材料32がコーティングされている。一例を挙げると、磁性粉末21の直径は9μm、低融点ガラス31の厚さは20nm、樹脂材料の厚さは20nmである。
【0032】
次に、造粒後の磁性粉末を予備成形する(ステップS4)。例えば予備成形は、造粒後の磁性粉末を金型に投入して加圧し(例えば、室温で500kgf/cm)、その後、加圧なしで圧粉体を所定の温度(例えば、100℃~150℃)で加熱し硬化することで実施できる。使用する樹脂材料が熱硬化性樹脂の場合は、加熱時の樹脂の硬化を用いて、中間成形体を成形する。使用する樹脂材料が熱可塑性樹脂の場合は、加熱時の樹脂の軟化と冷却時の固化により中間成形体を成形する。
【0033】
つまり、図6の中央図に示すように、予備成形した場合は、最表面の樹脂材料32を介して、磁性粉末21(低融点ガラス31がコーティングされている)が結着して中間成形体25が形成される。なお、低融点ガラスは予備成形の温度(例えば150℃)では軟化しないので、結着性、流動性は示さない。なお、予備成形工程(ステップS4)は、省略してもよい。
【0034】
次に、予備成形後の中間成形体(ステップS4を省略する場合は、造粒後の磁性粉末)を熱間成形する(ステップS5)。熱間成形は、金型に予備成形後の中間成形体(または、造粒後の磁性粉末)を入れた状態で加圧しながら加熱することで実施する。このときの加熱温度は例えば以下のように設定する。
【0035】
使用した磁性粉末が金属ガラスの場合、熱間成形する際の温度は、低融点ガラスの軟化温度および磁性粉末のガラス転移温度のうち高い方の温度以上、磁性粉末の結晶化温度以下に設定する。熱間成形温度を磁性粉末のガラス転移温度以上とすることにより、磁性粉末の塑性変形がより生じやすくなるため、磁性粉末の高い充填率が得られる。一例を挙げると、450℃以上500℃以下である。
【0036】
使用した磁性粉末がナノ結晶粉末の場合、熱間成形する際の温度は、低融点ガラスの軟化温度および磁性粉末の第1結晶化温度のうち高い方の温度以上、磁性粉末の第2結晶化温度以下に設定する。熱間成形温度を第1結晶化温度前後とすることにより、α-Fe相が晶出すると同時に、磁性粉末の塑性変形がより生じやすくなるため、磁性粉末の高い充填率が得られる。一例を挙げると、400℃以上500℃以下である。また、本発明においては、低融点ガラスの軟化温度および磁性粉末の第1結晶化温度+40℃のうち高い方の温度以上であることが好ましい。ここで、第1結晶化温度および第2結晶化温度とは以下の通りである。すなわち、非晶質構造の磁性材料を熱処理すると結晶化が2回以上起こる。最初に結晶化を開始する温度が第1結晶化温度であり、その後、結晶化を開始する温度が第2結晶化温度である。より詳しくは、磁性粉末は、示差走査熱量測定(DSC)により得られるDSC曲線の加熱過程に、結晶化を示す発熱ピークを少なくとも2つ有している。前記発熱ピークのうち、最も低温側の発熱ピークがα-Fe相が晶出する第1結晶化温度であり、その次の発熱ピークがホウ化物などが晶出する第2結晶化温度である。
【0037】
本実施の形態では、加熱温度を上述の温度範囲に設定するとともに、圧粉磁心の鉄損の値が低くなる温度条件とすることが好ましい。
【0038】
また、熱間成形する際の圧力は、例えば5~10ton・f/cmとする。圧力が低すぎると成形体(圧粉磁心)の充填率が低くなり、圧粉磁心の鉄損が大きくなる。逆に圧力が高すぎると、金型の摩耗が激しくなり、コスト的に好ましくない。したがって、上述の範囲に圧力を設定することが好ましい。
【0039】
また、熱間成形の時間は、5~60秒の範囲で行うことが好ましく、30秒以下で行うことがより好ましい。成形時間が短すぎると、成形体の内部まで十分に熱が伝わらず、磁性粉末の軟化による変形が十分に得られないため、成形体の充填率が低くなり、圧粉磁心の鉄損が大きくなる。逆に成形時間が長すぎると、バインダ層に用いた樹脂材料の熱分解が進むため、低融点ガラスの流動性を抑制する効果が低くなり、圧粉磁心の鉄損が大きくなる。したがって、熱間成形の時間は、成形体の内部まで十分に熱が伝わり、磁性粉体の軟化による変形が完了し、かつバインダ層に用いた樹脂材料の熱分解を抑えてコスト的に好ましい範囲で設定すればよく、上述の範囲に成形時間を設定することが好ましい。
【0040】
一例を挙げると、熱間成形の条件は、熱間成形温度:480℃、熱間成形圧力:8ton・f/cm、熱間成形時間:10秒とすることができる。
【0041】
図6の右図に示すように、熱間成形後の成形体(圧粉磁心)10は、磁性粉末21同士が、低融点ガラスと樹脂材料とを含むバインダ層22を介して結着している。本実施の形態では、圧粉磁心10が含有する磁性粉末の体積割合を88体積%以上とする。また、磁性粉末間に存在するバインダ層のうち厚さが20nm以下のバインダ層の割合を6%以下とする。これにより、磁性粉末の充填率を高めるとともに、磁性粉末間の絶縁性を十分に保つことが可能となる。よって、本実施の形態にかかる圧粉磁心の製造方法により、小型化を実現しつつ、高周波領域において低損失を実現可能な圧粉磁心を製造することができる。
【0042】
背景技術で説明したように、インダクタは小型化が求められると共に、大電流を流した場合でも高いインダクタンス特性を示すことが求められる。また、高周波領域において低損失なインダクタが求められている。このようなインダクタを実現するためには、インダクタに使用する圧粉磁心において、磁性粉末の充填率を高めるとともに、磁性粉末間の絶縁性を十分に保つ必要がある。しかしながら、従来技術では、磁性粉末の充填率を高めることと、磁性粉末間の絶縁性を十分に保つことは両立することが困難であった。
【0043】
これに対して本実施の形態にかかる圧粉磁心の製造方法では、低融点ガラスと樹脂材料とを用いてバインダ層を形成している。このように、バインダとして低融点ガラスと樹脂材料とを用いることで、バインダの添加量が少量であっても、薄くて均一な厚さのバインダ層(絶縁層)を形成することができる。つまり、熱間成形温度において、流動しやすいバインダ成分(低融点ガラス)と、流動しにくいバインダ成分(樹脂材料)とを混合して使用することで、バインダ添加量を少量にした場合であっても磁性粉末間の絶縁性を保持できる。すなわち、本実施の形態では、熱間成形中に意図的に樹脂を残留させることにより、磁性粉末よりも相対的に柔らかい低融点ガラスの流動をある程度抑制できるので、磁性粉末同士がバインダ層(絶縁層)を介さずに接触することを抑制できる。
【0044】
また、本実施の形態にかかる圧粉磁心の製造方法では、バインダとして使用する樹脂材料の量を少量としているので、熱間成形時に樹脂材料の分解に伴い発生するガスの量を低減できる。したがって、発生ガスに起因する成形体(圧粉磁心)のひび割れを抑制できる。
【0045】
なお、本実施の形態において、圧粉磁心の鉄損は2500kW/m以下であることが好ましく、1500kW/m以下であることがより好ましい。
【0046】
<圧粉磁心の寸法>
次に、本実施の形態にかかる圧粉磁心の寸法について説明する。
本実施の形態では、圧粉磁心の垂直方向の長さ(図1に示す例では、距離h)が3.5mmよりも長い場合、圧粉磁心の水平断面において圧粉磁心を成形型で挟んだ成形型間の距離のうち、圧粉磁心を熱間成形した際に圧粉磁心の内部に熱が伝達するのに最も時間がかかる部分が伸びる方向と略垂直な方向における成形型間の距離を3.5mm以下とする。以下、具体例を用いて説明する。
【0047】
例えば、圧粉磁心の水平断面の形状が図7に示す圧粉磁心10_1のような形状である場合(図7に示す圧粉磁心10_1は、図1に示した圧粉磁心10_1に対応している)、熱間成形時に成形型61で圧粉磁心10_1を挟んだ状態で成形する。このとき、成形型61から圧粉磁心10_1に熱が伝わるが、圧粉磁心10_1の内部において最も熱が伝わりにくい部分は、符号71で示す部分となる。本実施の形態では、圧粉磁心10_1の内部に熱が伝達するのに最も時間がかかる部分71が伸びる方向と略垂直な方向における成形型間の距離bを3.5mm以下とする。このような寸法とすることで、熱間成形時に圧粉磁心10_1全体に熱を迅速に伝達することができる。
【0048】
また、例えば、圧粉磁心の水平断面の形状が図8に示す圧粉磁心52のような形状(つまり、中央部に空洞がない形状)である場合、熱間成形時に成形型62で圧粉磁心52を挟んだ状態で成形する。このとき、成形型62から圧粉磁心52に熱が伝わるが、圧粉磁心52の内部において最も熱が伝わりにくい部分は、符号72で示す部分となる。本実施の形態では、圧粉磁心52の内部に熱が伝達するのに最も時間がかかる部分72が伸びる方向と略垂直な方向における成形型間の距離b2を3.5mm以下とする。このような寸法とすることで、熱間成形時に圧粉磁心52全体に熱を迅速に伝達することができる。
【0049】
また、例えば、圧粉磁心の水平断面の形状が図9に示す圧粉磁心53のような形状(つまり、中央部に空洞が2つある形状)である場合、熱間成形時に成形型63で圧粉磁心53を挟んだ状態で成形する。このとき、成形型63から圧粉磁心53に熱が伝わるが、圧粉磁心53の内部において最も熱が伝わりにくい部分は、符号73で示す部分となる。本実施の形態では、圧粉磁心53の内部に熱が伝達するのに最も時間がかかる部分73が伸びる方向と略垂直な方向における成形型間の距離b3を3.5mm以下とする。このような寸法とすることで、熱間成形時に圧粉磁心53全体に熱を迅速に伝達することができる。
【0050】
また、例えば、圧粉磁心の水平断面の形状が図10に示す圧粉磁心54のような形状(つまり、E型コア)である場合、熱間成形時に成形型64で圧粉磁心54を挟んだ状態で成形する。このとき、成形型64から圧粉磁心54に熱が伝わるが、圧粉磁心54の内部において最も熱が伝わりにくい部分は、符号74で示す部分となる。本実施の形態では、圧粉磁心54の内部に熱が伝達するのに最も時間がかかる部分74が伸びる方向と略垂直な方向における成形型間の距離b4を3.5mm以下とする。このような寸法とすることで、熱間成形時に圧粉磁心54全体に熱を迅速に伝達することができる。
【0051】
なお、図7図10に示した構成例は一例であり、本実施の形態にかかる圧粉磁心の寸法は、他の構成を備える圧粉磁心にも適用することができる。また、例えば、圧粉磁心の水平断面の形状が円形である場合は、圧粉磁心54の内部に熱が伝達するのに最も時間がかかる部分は点となる。この場合は、この点を通る円の直径を3.5mm以下とする。また、本実施の形態では、圧粉磁心の垂直方向の長さを3.5mm以下としてもよい。このように、圧粉磁心の垂直方向の長さを3.5mm以下とした場合は、圧粉磁心の水平断面における成形型間の距離は任意に設定することができる。
【0052】
以上で説明したように、本実施の形態にかかる圧粉磁心の寸法を上述の寸法とすることで熱間成形時に圧粉磁心に熱が伝わりやすくすることができる。したがって、熱間成形時間の短縮が可能となり、樹脂材料の熱分解を抑制することができる。よって、低融点ガラスの流動性を抑制する効果が高まり、圧粉磁心の鉄損が低減できる。
【実施例0053】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0054】
<実験1>
上述の圧粉磁心の製造方法(図5参照)を用いて、実験1にかかるサンプルを作製した。実験1にかかる圧粉磁心の形状は、外径13mm、内径8mm、長さ5mmのトロイダル形状とした。具体的には、まず、磁性粉末を準備した。磁性粉末には、粒径が9μm(メジアン径D50)の金属ガラス粉末であるFe-B-P-Nb-Cr系の粉末を用いた。次に、磁性粉末と低融点ガラス粉末とを混合し、メカノフュージョン法を用いて磁性粉末に低融点ガラスをコーティングした。低融点ガラスにはリン酸塩系ガラスを用いた。このとき、磁性粉末に対して2.5体積%の低融点ガラスを混合した。
【0055】
その後、低融点ガラスがコーティングされた磁性粉末に樹脂材料をコーティングして造粒した。樹脂材料にはそれぞれ、表1に示す樹脂を用いた。このとき、磁性粉末に対して2.5体積%の樹脂材料を各々混合した。なお、表1における「樹脂の500℃加熱減量」とは、樹脂の熱重量分析結果(測定条件:大気雰囲気、昇温速度100℃/min)であり、加熱減量が小さいほど、樹脂の耐熱性が高いことを示している。
【0056】
次に、造粒後の磁性粉末を金型に投入して500kgf/cmの条件で加圧したあと、加圧なしで圧粉体を温度150℃で加熱し硬化することで予備成形した。その後、予備成形後の中間成形体を金型に入れた状態で熱間成形した。熱間成形の条件は、成形温度490℃、加圧圧力8tonf/cm、加圧時間30秒とした。
【0057】
上述のようにして作製した各々のサンプルに対して、磁心の粉末充填率、透磁率、鉄損、磁性粉末間に存在するバインダ層のうち厚さが20nm以下のバインダ層の割合、及びバインダ層の厚さの中央値を測定した。なお、バインダ層の厚さの測定点は1000点とした。
【0058】
磁心の粉末充填率は、磁心に含まれる磁性粉末の体積と、アルキメディス法で測定した磁心全体の体積を比較することで求めた。磁心に含まれる磁性粉末の体積は、磁心全体の重量から、バインダとして加えた低融点ガラスと、残留している樹脂材料の重さを除くことで、磁心に含まれる磁性粉末の重量を求め、磁性粉末の重量を磁性粉末の真密度で割ることで求められる。
【0059】
透磁率は、周波数1MHzでインピーダンスアナライザを用いて求め、鉄損は、トロイダル形状の圧粉磁心を作製し、この作製した圧粉磁心をB-Hアナライザ(岩崎通信機株式会社製)を用いて2コイル法で測定することで求めた。測定条件としては、1MHz、50mTの正弦波励磁条件とした。
【0060】
磁性粉末間に存在するバインダ層のうち厚さが20nm以下のバインダ層の割合(以下、「20nm以下のバインダ層の割合」と記載する)は、電子顕微鏡写真を用いて、上述の方法を使用して測定した。また、バインダ層の厚さの中央値についても電子顕微鏡写真を用いて測定した。
【0061】
表1に、各々のサンプルで使用した樹脂の種類と、各々のサンプルの測定結果を示す。表1に示すように、バインダ用の樹脂としてフェノール樹脂を用いた実施例1-1、ポリイミド樹脂を用いた実施例1-2、エポキシ樹脂を用いた実施例1-3、及びアクリル樹脂を用いた実施例1-4では、鉄損の値が1100以下となり良好な値を示した。また、実施例1-1~実施例1-4では、20nm以下のバインダ層の割合が2.2%以下となり良好であった。特に、実施例1-1~実施例1-3では、20nm以下のバインダ層の割合が1%よりも低くなり、また鉄損の値も1000よりも小さい値となった。
【0062】
一方、バインダ用の樹脂としてシリコン樹脂を用いた比較例1-1、PVB(ポリビニルブチラール)樹脂を用いた比較例1-2、及び樹脂を用いなかった比較例1-3では、鉄損の値が5500以上となり、大きな値となった。
【0063】
以上の結果から、バインダ層に用いる樹脂として、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、及びアクリル樹脂を用いることが好ましいといえる。
【0064】
【表1】
【0065】
<実験2>
実験2として、磁性粉末である金属ガラス粉末の粒径(メジアン径D50)を変化させた圧粉磁心を作製した。実験2では、バインダ用の材料としてリン酸塩系ガラスとフェノール樹脂を用いた。圧粉磁心の作製、及びサンプルの測定には、実験1と同様の方法を用いた。なお、比較例2-1、実施例2-1では、リン酸塩系ガラスの磁性粉末に対する体積割合を5体積%とし、フェノール樹脂の磁性粉末に対する体積割合を2.5体積%とした。実施例2-2では、リン酸塩系ガラスの磁性粉末に対する体積割合を2.5体積%とし、フェノール樹脂の磁性粉末に対する体積割合を2.5体積%とした。また、表2に示すように、リン酸塩系ガラスの軟化温度は400℃、磁性粉末のガラス転移温度は480℃、磁性粉末の結晶化温度は510℃であるので、成形温度を490℃に設定した。
【0066】
表2に示すように、金属ガラス粉末の粒径が4μmである比較例2-1では、鉄損の値が12000、20nm以下のバインダ層の割合が13.5%となり、これらの値がともに大きな値となった。一方、金属ガラス粉末の粒径が7μmである実施例2-1、及び金属ガラス粉末の粒径が9μmである実施例2-2では、鉄損の値がそれぞれ1100、900となり、良好な値を示した。また、実施例2-1および実施例2-2では、20nm以下のバインダ層の割合がそれぞれ、1.7%、0.92%となり、良好な値を示した。よって、実験2では、金属ガラス粉末の粒径が7μm以上の場合に、鉄損、及び20nm以下のバインダ層の割合が良好な値となった。
【0067】
なお、実験2ではバインダ用の材料としてリン酸塩系ガラスとフェノール樹脂を用いたが、本発明者らは、磁性粉末に対して5体積%のリン酸塩系ガラスと、2.5体積%のポリイミド樹脂とをバインダとして用いた実験も実施した。この場合は、金属ガラス(磁性粉末)の粒径が2μmの場合であっても、圧粉磁心の充填率が88体積%以上、20nm以下のバインダ層の割合が6%以下、鉄損が2500以下となることを確認している。
【0068】
【表2】
【0069】
<実験3>
実験3として、Fe-Si-B-P-Cu-Cr系の磁性粉末であるナノ結晶粉末の粒径(メジアン径D50)を変化させた圧粉磁心を作製した。実験3では、バインダ用の材料としてリン酸塩系ガラスとフェノール樹脂を用いた。圧粉磁心の作製、及びサンプルの測定には、実験1と同様の方法を用いた。実験3では、リン酸塩系ガラスの磁性粉末に対する体積割合を2.5体積%とし、フェノール樹脂の磁性粉末に対する体積割合を2.5体積%とした。また、表3に示すように、成形温度は、低融点ガラスの軟化温度(400℃)および磁性粉末の第1結晶化温度のうち高い方の温度と磁性粉末の第2結晶化温度の間の温度となるように設定した。
【0070】
表3に示すように、ナノ結晶粉末の粒径が11μmである実施例3-1、ナノ結晶粉末の粒径が14μmである実施例3-2、及びナノ結晶粉末の粒径が23μmである実施例3-3では、鉄損の値が2500以下、20nm以下のバインダ層の割合が1%以下となり、良好な値を示した。特に、ナノ結晶粉末の粒径が11μmである実施例3-1では、鉄損の値が860となり、非常に良好な値を示した。一方、ナノ結晶粉末の粒径が41μmである比較例3-1では、鉄損の値が5300と大きくなり、また、20nm以下のバインダ層の割合も0%となった。
【0071】
実験2および実験3の結果から、粒径が小さすぎると、バインダ層厚さの中央値が薄くなりすぎることにより、磁性粉末間の絶縁性が十分に保たれず、磁性粉末間の渦電流損失により圧粉磁心の鉄損が大きくなることがわかった。一方、粒径が大きすぎると、バインダ層厚さの中央値が厚くなることにより、磁性粉末間の絶縁性は充分に確保できるが、磁性粉末の粒子内の渦電流損失により圧粉磁心の鉄損が大きくなることがわかった。以上により、磁性粉末の粒径は2μm以上25μm以下が好ましく、5μm以上15μm以下がより好ましいといえる。
【0072】
【表3】
【0073】
<実験4>
実験4として、バインダ用の材料であるリン酸塩系ガラスとフェノール樹脂の配合比を変化させた圧粉磁心を作製した。実験4では、磁性粉末として粒径が9μm(メジアン径D50)の金属ガラス粉末を用いた。圧粉磁心の作製、及びサンプルの測定には、実験1と同様の方法を用いた。表4に、各々のサンプルのリン酸塩系ガラスとフェノール樹脂の配合比を示す。
【0074】
表4に示すように、リン酸塩系ガラスとフェノール樹脂の配合比(体積%)が、2.5:0(つまり、フェノール樹脂を添加しない)である比較例4-1では、鉄損の値が17000、20nm以下のバインダ層の割合が13.3%となり、これらの値がともに大きな値となった。また、リン酸塩系ガラスとフェノール樹脂の配合比(体積%)が、2.5:2.5である実施例4-1では、鉄損の値が900、20nm以下のバインダ層の割合が0.92%となり、良好な値を示した。リン酸塩系ガラスとフェノール樹脂の配合比(体積%)が、2.5:5である実施例4-2では、鉄損の値が1100、20nm以下のバインダ層の割合が0.57%となり、良好な値を示した。一方、リン酸塩系ガラスとフェノール樹脂の配合比(体積%)が、2.5:10である比較例4-2では、鉄損の値が2100であったが、20nm以下のバインダ層の割合が0%であり、また粉末充填率が84.2%と低い値となった。
【0075】
【表4】
【0076】
<実験5>
実験5として、バインダ用の材料であるリン酸塩系ガラスとフェノール樹脂の配合比を変化させた圧粉磁心を作製した。実験5では、磁性粉末として粒径が11μm(メジアン径D50)のナノ結晶粉末を用いた。圧粉磁心の作製、及びサンプルの測定には、実験1と同様の方法を用いた。表5に、各々のサンプルのリン酸塩系ガラスとフェノール樹脂の配合比を示す。
【0077】
表5に示すように、実施例5-1~実施例5-5では、鉄損が2500以下、20nm以下のバインダ層の割合が6%以下(0を含まず)となり、良好な値を示した。特に、リン酸塩系ガラスとフェノール樹脂の配合比(体積%)が、2.5:2.5である実施例5-3では、鉄損の値が860となり、非常に良好な値を示した。一方、比較例5-1~比較例5-3では鉄損が2500以下となったが、圧粉磁心の充填率が88体積%よりも低い値となり、また透磁率も78以下と低い値となった。
実験4および実験5の結果から、磁性粉末に対する低融点ガラスおよび樹脂材料の総量は10体積%未満であることが好ましいといえる。
【0078】
【表5】
【0079】
<実験6>
実験6として、外径40mmの円柱状で垂直方向の長さ(厚さh)を変化させたサンプルを作製した。実験6では、磁性粉末として粒径が11μm(メジアン径D50)のナノ結晶粉末を用いた。また、バインダ用の材料としてリン酸塩系ガラスとフェノール樹脂を用いた。リン酸塩系ガラスの磁性粉末に対する体積割合を2.5体積%とし、フェノール樹脂の磁性粉末に対する体積割合を2.5体積%とした。圧粉磁心の作製には、実験1と同様の方法を用いた。また、実験6では、作製した圧粉磁心を、実験1と同様の形状(外径13mm、内径8mm、長さ5mmのトロイダル形状)に切削加工し、測定用のサンプルを作製した。そして、実験1と同様の方法を用いて、サンプルの測定を行った。
【0080】
なお、表6に示すように、各々のサンプルの成形時間は、最小部の厚さに応じて変化させた。つまり、圧粉磁心の内部に熱が伝達するのに最も時間がかかる部分に熱が伝達され、圧粉磁心全体に熱が伝達するように、厚さhが厚くなるほど、サンプルの成形時間を長くした。より詳しくは、圧粉磁心の垂直方向の長さ(厚さh)の中間部分に熱が伝わり、圧粉磁心全体の磁性粉末の軟化による変形が十分に得られるように、成形時間を設定した。
【0081】
表6に示すように、厚さhが1.7mmの実施例6-1、厚さhが2.5mmの実施例6-2、厚さhが3.0mmの実施例6-3、及び厚さhが3.5mmの実施例6-4では、鉄損の値が2500以下、20nm以下のバインダ層の割合が6%以下(0を含まず)となった。特に、厚さhが1.7mmの実施例6-1では、鉄損の値が860となり、非常に良好な値を示した。
【0082】
一方、厚さhが4.5mmの比較例6-1、厚さhが7mmの比較例6-2、及び厚さhが14mmの比較例6-3では、鉄損の値が2500よりも大きくなり、また、20nm以下のバインダ層の割合も6%よりも大きくなった。
【0083】
以上の結果から、圧粉磁心を熱間成形した際に圧粉磁心の内部に熱が伝達するのに最も時間がかかる部分である、圧粉磁心の垂直方向の長さ(厚さh)が3.5mm以下とすることが好ましいといえる。すなわち、熱間成形時に圧粉磁心全体に熱を迅速に伝達することにより、バインダ樹脂の熱分解を抑制して低融点ガラスの流動性を抑制する効果の低下を防止し、良好な鉄損の値を得る事ができる。また、圧粉磁心全体への熱の伝達が迅速に行われるため、熱間成形の時間を短縮することができ、製造時間とコストの削減が可能となる。なお、実験6では、圧粉磁心の垂直方向の長さを変えて実験を行ったが、圧粉磁心の内部に熱が伝達するのに最も時間がかかる部分が伸びる方向と略垂直な方向における成形型間の距離を3.5mm以下とすることも、同様の理由により好ましいといえる。
【0084】
【表6】
【0085】
<実験7>
実験7として、バインダ用の材料である低融点ガラスの種類を変化させたサンプルを作製した。実験7では、粒径が9μm(メジアン径D50)、第1結晶化温度(Tg)が480℃、第2結晶化温度(Tx)が510℃の金属ガラス粉末を磁性粉末として用いた。バインダ用の樹脂にはフェノール樹脂を用いた。各々の低融点ガラスの磁性粉末に対する体積割合を2.5%体積%とし、フェノール樹脂の磁性粉末に対する体積割合を2.5体積%とした。圧粉磁心の作製、及びサンプルの測定には、実験1と同様の方法を用いた。
【0086】
表7に示すように、低融点ガラスとしてリン酸塩系ガラスを用いた実施例7-1、及びスズリン酸塩系ガラスを用いた実施例7-2では、鉄損の値がそれぞれ900、1600となり、また20nm以下のバインダ層の割合がそれぞれ0.92%、3.6%となり良好な値を示した。
【0087】
一方、低融点ガラスとして酸化ビスマス系ガラスを用いた比較例7-1、ホウケイ酸塩系ガラスを用いた比較例7-2、及びバリウムケイ酸塩系ガラスを用いた比較例7-3では、鉄損の値が2500よりも大きく、また、20nm以下のバインダ層の割合も6%よりも大きくなった。
【0088】
【表7】
【0089】
図11は、上記実験1~7において、バインダ量および磁性粉末の粒径を同一条件としたサンプルの鉄損と20nm以下のバインダ層の割合とをプロットしたグラフである。図11に示すグラフにおいて、サンプルのバインダ量は磁性粉末に対して2.5体積%の低融点ガラスと、2.5体積%の樹脂材料を用いており、磁性粉末の粒径は9μmである。図11のグラフに示すように、20nm以下のバインダ層の割合が増加するほど、鉄損が増加する傾向にあった。本発明では、20nm以下のバインダ層の割合を6%以下(0を含まず)とすることで、鉄損を2500以下とすることができ、この範囲が実施例の範囲である。
【0090】
以上、本発明を上記実施の形態に即して説明したが、本発明は上記実施の形態の構成にのみ限定されるものではなく、本願特許請求の範囲の請求項の発明の範囲内で当業者であればなし得る各種変形、修正、組み合わせを含むことは勿論である。
【符号の説明】
【0091】
1 インダクタ
10_1、10_2 圧粉磁心
13 コイル
20 造粒後の磁性粉末
21 磁性粉末
22 バインダ層
25 中間成形体
31 低融点ガラス
32 樹脂材料
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11