(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022138521
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】回転伝達装置、および車両用ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
F16D 27/112 20060101AFI20220915BHJP
F16D 27/102 20060101ALI20220915BHJP
F16D 41/10 20060101ALI20220915BHJP
F16D 41/06 20060101ALI20220915BHJP
F16D 41/064 20060101ALI20220915BHJP
F16D 41/067 20060101ALI20220915BHJP
F16C 23/06 20060101ALI20220915BHJP
F16C 35/077 20060101ALI20220915BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20220915BHJP
F16J 15/18 20060101ALI20220915BHJP
F16J 15/10 20060101ALI20220915BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
F16D27/112 V
F16D27/112 G
F16D27/102
F16D41/10
F16D41/06 D
F16D41/064
F16D41/067
F16D27/112 Z
F16D27/112 W
F16C23/06
F16C35/077
F16C19/06
F16J15/18 C
F16J15/10 C
B62D5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021038446
(22)【出願日】2021-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 光司
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 隆英
【テーマコード(参考)】
3D333
3J012
3J040
3J043
3J117
3J701
【Fターム(参考)】
3D333CB02
3D333CB31
3D333CB32
3D333CB45
3D333CC23
3D333CE42
3J012AB02
3J012BB01
3J012CB03
3J012FB10
3J012GB10
3J040AA17
3J040BA01
3J043AA16
3J043FB04
3J117AA01
3J117DA01
3J117DB04
3J701AA03
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA71
3J701FA60
3J701GA16
(57)【要約】
【課題】振動や衝撃を受けたときにも安定して動作する回転伝達装置を提供する。
【解決手段】運動変換機構33が、アーマチュア31と一体に軸方向移動するようにアーマチュア31に固定されたくさび部材37と、ローラ保持器10に形成された傾斜摺接面38a,38bとで構成されている回転伝達装置において、ハウジング4の端部内周に、第1軸受41が軸方向移動するのを規制するフランジ部42を形成した。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一端(2)と前記第一端(2)とは軸方向の反対側に位置する第二端(3)とをもち、前記第一端(2)と前記第二端(3)とがいずれも開口した筒状のハウジング(4)と、
一端が前記ハウジング(4)内に収容され、他端が前記ハウジング(4)の前記第一端(2)から突出した状態に設けられた出力軸(5)と、
一端が前記ハウジング(4)内に収容され、他端が前記ハウジング(4)の前記第二端(3)から突出した状態に設けられた入力軸(6)と、
前記出力軸(5)の外周と前記ハウジング(4)の内周との間に嵌合して設けられた第1軸受(41)と、
前記入力軸(6)の外周と前記ハウジング(4)の内周との間に嵌合して設けられた第2軸受(44)と、
前記出力軸(5)と一体に回転するように前記出力軸(5)のハウジング(4)内への収容部分に設けられた外輪(7)と、
前記入力軸(6)と一体に回転するように前記入力軸(6)のハウジング(4)内への収容部分に設けられた内輪(8)と、
前記外輪(7)の内周と内輪(8)の外周との間に周方向に対向して組み込まれた一対の係合子(9a,9b)と、
前記一対の係合子(9a,9b)を前記外輪(7)の内周と前記内輪(8)の外周との間に係合させる係合位置と、前記一対の係合子(9a,9b)の前記外輪(7)の内周と前記内輪(8)の外周との間への係合を解除する係合解除位置との間で前記内輪(8)に対して周方向に移動可能に支持された係合子保持器(10)と、
前記内輪(8)に対して軸方向に移動可能に支持されたアーマチュア(31)と、
通電により前記アーマチュア(31)を軸方向に移動させる電磁石(30)と、
前記アーマチュア(31)が軸方向に移動する動作を、前記係合子保持器(10)が前記係合位置から係合解除位置に周方向に移動する動作に変換する運動変換機構(33)とを有し、
前記運動変換機構(33)は、前記アーマチュア(31)と一体に軸方向移動するように前記アーマチュア(31)に固定されたくさび部材(37)と、前記係合子保持器(10)に形成され、前記くさび部材(37)が摺接する傾斜摺接面(38a,38b)とで構成されている回転伝達装置において、
前記ハウジング(4)の前記第一端(2)の側の端部内周に、前記第1軸受(41)が前記ハウジング(4)の前記第一端(2)に向かう側に軸方向移動するのを規制するフランジ部(42)を形成したことを特徴とする回転伝達装置。
【請求項2】
前記ハウジング(4)の前記第二端(3)の側の端部内周に、前記第2軸受(44)が前記ハウジング(4)の前記第二端(3)の側に向かう側に軸方向移動するのを規制する止め輪(46)を装着した請求項1に記載の回転伝達装置。
【請求項3】
前記フランジ部(42)と前記第1軸受(41)との間に、前記第1軸受(41)を前記第2軸受(44)の側に向かって軸方向に付勢する弾性部材(43)を組み込んだ請求項2に記載の回転伝達装置。
【請求項4】
前記ハウジング(4)の内周の、前記第1軸受(41)の嵌合部分よりも前記ハウジング(4)の前記第一端(2)に近い側の部分に、前記ハウジング(4)内への異物侵入を防止する第1シール部材(45)を装着した請求項1から3のいずれかに記載の回転伝達装置。
【請求項5】
前記ハウジング(4)の内周の、前記第2軸受(44)の嵌合部分よりも前記ハウジング(4)の前記第二端(3)に近い側の部分に、前記ハウジング(4)内への異物侵入を防止する第2シール部材(47)を装着した請求項1から4のいずれかに記載の回転伝達装置。
【請求項6】
前記ハウジング(4)は、前記第一端(2)をもつ筒状のハウジング本体(4A)と、前記ハウジング本体(4A)の一端に取り付けられ、前記第二端(3)をもつ環状の蓋体(4B)とからなり、
前記ハウジング本体(4A)と前記蓋体(4B)との対向面間に第3のシール部材(49)を設けた請求項1から5のいずれかに記載の回転伝達装置。
【請求項7】
前記蓋体(4B)は、前記電磁石(30)の外周に嵌合する円筒部(13)を有し、
前記蓋体(4B)は磁性体金属で形成され、前記ハウジング本体(4A)は非磁性体金属で形成されている請求項6に記載の回転伝達装置。
【請求項8】
前記蓋体(4B)の表面に防錆皮膜を設けた請求項7に記載の回転伝達装置。
【請求項9】
前記ハウジング本体(4A)の表面に腐食防止皮膜を設けた請求項7または8に記載の回転伝達装置。
【請求項10】
第一端(2)と前記第一端(2)とは軸方向の反対側に位置する第二端(3)とをもち、前記第一端(2)と前記第二端(3)とがいずれも開口した筒状のハウジング(4)と、
一端が前記ハウジング(4)内に収容され、他端が前記ハウジング(4)の前記第一端(2)から突出した状態に設けられた出力軸(5)と、
一端が前記ハウジング(4)内に収容され、他端が前記ハウジング(4)の前記第二端(3)から突出した状態に設けられた入力軸(6)と、
前記出力軸(5)と一体に回転するように前記出力軸(5)のハウジング(4)内への収容部分に設けられた外輪(7)と、
前記入力軸(6)と一体に回転するように前記入力軸(6)のハウジング(4)内への収容部分に設けられた内輪(8)と、
前記外輪(7)の内周と内輪(8)の外周との間に周方向に対向して組み込まれた一対の係合子(9a,9b)と、
前記一対の係合子(9a,9b)間の距離を広げる方向に前記一対の係合子(9a,9b)を付勢する係合子離反ばね(17)と、
前記係合子離反ばね(17)を前記内輪(8)に保持するように前記内輪(8)の外周に取り付けられたばね保持器(23)と、
前記一対の係合子(9a,9b)を前記外輪(7)の内周と前記内輪(8)の外周との間に係合させる係合位置と、前記一対の係合子(9a,9b)の前記外輪(7)の内周と前記内輪(8)の外周との間への係合を解除する係合解除位置との間で前記内輪(8)に対して周方向に移動可能に支持された係合子保持器(10)と、
前記内輪(8)に対して軸方向に移動可能に支持されたアーマチュア(31)と、
通電により前記アーマチュア(31)を軸方向に移動させる電磁石(30)と、
前記アーマチュア(31)が軸方向に移動する動作を、前記係合子保持器(10)が前記係合位置から係合解除位置に周方向に移動する動作に変換する運動変換機構(33)とを有し、
前記運動変換機構(33)は、前記アーマチュア(31)と一体に軸方向移動するように前記アーマチュア(31)に固定されたくさび部材(37)と、前記係合子保持器(10)に形成され、前記くさび部材(37)が摺接する傾斜摺接面(38a,38b)とで構成されている回転伝達装置において、
前記内輪(8)の外周に、前記ばね保持器(23)を軸方向に固定する止め輪(50)を装着したことを特徴とする回転伝達装置。
【請求項11】
第一端(2)と前記第一端(2)とは軸方向の反対側に位置する第二端(3)とをもち、前記第一端(2)と前記第二端(3)とがいずれも開口した筒状のハウジング(4)と、
一端が前記ハウジング(4)内に収容され、他端が前記ハウジング(4)の前記第一端(2)から突出した状態に設けられた出力軸(5)と、
一端が前記ハウジング(4)内に収容され、他端が前記ハウジング(4)の前記第二端(3)から突出した状態に設けられた入力軸(6)と、
前記出力軸(5)と一体に回転するように前記出力軸(5)のハウジング(4)内への収容部分に設けられた外輪(7)と、
前記入力軸(6)と一体に回転するように前記入力軸(6)のハウジング(4)内への収容部分に設けられた内輪(8)と、
前記外輪(7)の内周と前記内輪(8)の外周との間に嵌合して設けられた中間軸受(48)と、
前記外輪(7)の内周と内輪(8)の外周との間に周方向に対向して組み込まれた一対の係合子(9a,9b)と、
前記一対の係合子(9a,9b)間の距離を広げる方向に前記一対の係合子(9a,9b)を付勢する係合子離反ばね(17)と、
前記係合子離反ばね(17)を前記内輪(8)に保持するように前記内輪(8)の外周に取り付けられたばね保持器(23)と、
前記一対の係合子(9a,9b)を前記外輪(7)の内周と前記内輪(8)の外周との間に係合させる係合位置と、前記一対の係合子(9a,9b)の前記外輪(7)の内周と前記内輪(8)の外周との間への係合を解除する係合解除位置との間で前記内輪(8)に対して周方向に移動可能に支持された係合子保持器(10)と、
前記内輪(8)に対して軸方向に移動可能に支持されたアーマチュア(31)と、
通電により前記アーマチュア(31)を軸方向に移動させる電磁石(30)と、
前記アーマチュア(31)が軸方向に移動する動作を、前記係合子保持器(10)が前記係合位置から係合解除位置に周方向に移動する動作に変換する運動変換機構(33)とを有し、
前記運動変換機構(33)は、前記アーマチュア(31)と一体に軸方向移動するように前記アーマチュア(31)に固定されたくさび部材(37)と、前記係合子保持器(10)に形成され、前記くさび部材(37)が摺接する傾斜摺接面(38a,38b)とで構成されている回転伝達装置において、
前記ばね保持器(23)を、前記中間軸受(48)と前記内輪(8)の外周に形成された段部(52)との間に配置するとともに、前記ばね保持器(23)と前記中間軸受(48)の間に、軸方向隙間を詰める間座(53)を組み込むことで、前記ばね保持器(23)を軸方向に固定したことを特徴とする回転伝達装置。
【請求項12】
第一端(2)と前記第一端(2)とは軸方向の反対側に位置する第二端(3)とをもち、前記第一端(2)と前記第二端(3)とがいずれも開口した筒状のハウジング(4)と、
一端が前記ハウジング(4)内に収容され、他端が前記ハウジング(4)の前記第一端(2)から突出した状態に設けられた出力軸(5)と、
一端が前記ハウジング(4)内に収容され、他端が前記ハウジング(4)の前記第二端(3)から突出した状態に設けられた入力軸(6)と、
前記出力軸(5)と一体に回転するように前記出力軸(5)のハウジング(4)内への収容部分に設けられた外輪(7)と、
前記入力軸(6)と一体に回転するように前記入力軸(6)のハウジング(4)内への収容部分に設けられた内輪(8)と、
前記外輪(7)の内周と前記内輪(8)の外周との間に嵌合して設けられた中間軸受(48)と、
前記外輪(7)の内周と内輪(8)の外周との間に周方向に対向して組み込まれた一対の係合子(9a,9b)と、
前記一対の係合子(9a,9b)間の距離を広げる方向に前記一対の係合子(9a,9b)を付勢する係合子離反ばね(17)と、
前記係合子離反ばね(17)を前記内輪(8)に保持するように前記内輪(8)の外周に取り付けられたばね保持器(23)と、
前記一対の係合子(9a,9b)を前記外輪(7)の内周と前記内輪(8)の外周との間に係合させる係合位置と、前記一対の係合子(9a,9b)の前記外輪(7)の内周と前記内輪(8)の外周との間への係合を解除する係合解除位置との間で前記内輪(8)に対して周方向に移動可能に支持された係合子保持器(10)と、
前記内輪(8)に対して軸方向に移動可能に支持されたアーマチュア(31)と、
通電により前記アーマチュア(31)を軸方向に移動させる電磁石(30)と、
前記アーマチュア(31)が軸方向に移動する動作を、前記係合子保持器(10)が前記係合位置から係合解除位置に周方向に移動する動作に変換する運動変換機構(33)とを有し、
前記運動変換機構(33)は、前記アーマチュア(31)と一体に軸方向移動するように前記アーマチュア(31)に固定されたくさび部材(37)と、前記係合子保持器(10)に形成され、前記くさび部材(37)が摺接する傾斜摺接面(38a,38b)とで構成されている回転伝達装置において、
前記ばね保持器(23)の径方向内端に軸方向に延びる円筒部(54)を一体に形成し、その円筒部(54)を、前記中間軸受(48)と前記内輪(8)の外周に形成された段部(52)との間で軸方向に挟み込むことで、前記ばね保持器(23)を軸方向に固定したことを特徴とする回転伝達装置。
【請求項13】
車両の左右方向に移動可能に支持され、その移動に応じて左右一対の車輪(64)の向きが変化するように前記一対の車輪(64)に左右両端が連結されるステアリングラック(60)と、
前記ステアリングラック(60)に噛み合うステアリングピニオン(61)と、
運転者が回転操作するステアリングホイール(62)と、
前記ステアリングホイール(62)と前記ステアリングピニオン(61)との間で回転を伝達する回転伝達経路(63)と、
前記回転伝達経路(63)に設けられた請求項1から12のいずれかに記載の回転伝達装置(1)と、を有する車両用ステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、回転の伝達と遮断の切り換えに用いられる回転伝達装置、およびその回転伝達装置を用いた車両用ステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
入力軸と出力軸の間で回転が伝達する締結状態と、入力軸と出力軸の間での回転の伝達が遮断される空転状態とを切り換える回転伝達装置として、例えば、特許文献1に記載のものが知られている。
【0003】
特許文献1に記載の回転伝達装置は、第一端と第二端とがいずれも開口した筒状のハウジングと、一端がハウジング内に収容され、他端がハウジングの第一端から突出した状態に設けられた出力軸と、一端がハウジング内に収容され、他端がハウジングの第二端から突出した状態に設けられた入力軸と、出力軸と一体に回転するように出力軸のハウジング内への収容部分に設けられた外輪と、入力軸と一体に回転するように入力軸のハウジング内への収容部分に設けられた内輪と、外輪の内周と内輪の外周との間に周方向に対向して組み込まれた一対の係合子と、一対の係合子間の距離を広げる方向に一対の係合子を付勢する係合子離反ばねと、一対の係合子を保持する係合子保持器とを有する。ハウジングの第一端と第二端は、互いに軸方向の反対側に位置する端部である。
【0004】
一対の係合子を保持する係合子保持器は、相対回転可能に支持された2個の分割保持器からなる。この2個の分割保持器は、一対の係合子を外輪の内周と内輪の外周との間に係合させる係合位置と、その一対の係合子の外輪の内周と内輪の外周との間への係合を解除する係合解除位置との間で内輪に対して周方向に移動可能となっている。
【0005】
また、特許文献1の回転伝達装置は、係合子保持器(2個の分割保持器)を係合位置から係合解除位置に移動させる駆動機構として、内輪に対して軸方向に移動可能に支持されたアーマチュアと、通電によりアーマチュアを軸方向に移動させる電磁石と、アーマチュアが軸方向に移動する動作を、係合子保持器が係合位置から係合解除位置に周方向に移動する動作に変換する運動変換機構とからなるものを有する。運動変換機構は、アーマチュアと一体に軸方向移動するようにアーマチュアに固定されたくさび部材と、係合子保持器に形成された傾斜摺接面とで構成されている。傾斜摺接面は、くさび部材と摺接している。
【0006】
特許文献1の回転伝達装置は、電磁石への通電を停止しているときは、一対の係合子間の距離が広がる方向に各係合子を付勢する係合子離反ばねの付勢力によって、一対の係合子が外輪の内周と内輪の外周との間に係合し、入力軸と出力軸の間で回転が伝達する締結状態となる。
【0007】
一方、電磁石に通電したときは、電磁石の吸引力によってアーマチュアが軸方向に移動し、そのアーマチュアと一体に軸方向移動するくさび部材が、係合子保持器(2個の分割保持器)に形成された傾斜摺接面を押圧し、係合子保持器が係合位置から係合解除位置に周方向移動する。その結果、一対の係合子間の距離が狭まる方向に各係合子が移動し、外輪の内周と内輪の外周との間への各係合子の係合が解除され、入力軸と出力軸の間での回転の伝達が遮断される空転状態となる。
【0008】
ここで、この特許文献1の回転伝達装置において、出力軸は、出力軸の外周とハウジングの内周との間に嵌合して設けられた第1軸受で回転可能に支持され、入力軸は、入力軸の外周とハウジングの内周との間に嵌合して設けられた第2軸受で回転可能に支持されている。また、外輪の内周と内輪の外周との間に嵌合して設けられた中間軸受で、外輪と内輪とが相対回転可能に連結されている。また、一対の係合子を付勢する係合子離反ばねは、内輪の外周に取り付けられたばね保持器によって内輪に保持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、特許文献1の回転伝達装置において、ハウジングは、ハウジング本体と、ハウジング本体の一端に取り付けられた蓋体とで構成されている。そして、出力軸を回転可能に支持する第1軸受は、ハウジング本体の内周に圧入することで固定されている。また、入力軸を回転可能に支持する第2軸受も、蓋体の内周に圧入することで固定されている。
【0011】
しかしながら、特許文献1のように、第1軸受と第2軸受とを圧入により固定したのでは、回転伝達装置が振動や衝撃を受けたときに、第1軸受または第2軸受に軸方向の位置ずれが生じるおそれがある。第1軸受または第2軸受に軸方向の位置ずれが生じると、電磁石とアーマチュアの軸方向の相対位置関係に誤差が生じ、回転伝達装置の動作が不安定になるおそれがある。
【0012】
また、特許文献1の回転伝達装置においては、第1軸受がハウジングの第一端の開口から露出しており、第2軸受もハウジングの第二端の開口から露出しているため、ハウジングの外部から内部に、泥水やダスト等の異物が侵入するおそれがある。ここで、第1軸受や第2軸受として、シール付の軸受を採用することもできるが、軸受の内部のシールでは、十分なシール性を確保することが難しい。そして、ハウジングの内部に異物が侵入すると、回転伝達装置の動作が不安定になるおそれがある。
【0013】
また、特許文献1の回転伝達装置においては、係合子離反ばねを保持するばね保持器が、内輪の外周に圧入等の方法で固定されている。しかしながら、ばね保持器を圧入により固定したのでは、回転伝達装置が振動や衝撃を受けたときに、ばね保持器に軸方向の位置ずれが生じるおそれがある。ばね保持器に軸方向の位置ずれが生じると、それに応じて係合子離反ばねの位置も軸方向にずれ、一対の係合子に対する係合子離反ばねの押圧位置が軸方向にずれるため、一対の係合子の姿勢が不安定になるおそれがある。
【0014】
この発明が解決しようとする課題は、振動や衝撃を受けたときにも安定して動作する回転伝達装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するため、この発明では、以下の構成の回転伝達装置を提供する。
第一端と前記第一端とは軸方向の反対側に位置する第二端とをもち、前記第一端と前記第二端とがいずれも開口した筒状のハウジングと、
一端が前記ハウジング内に収容され、他端が前記ハウジングの前記第一端から突出した状態に設けられた出力軸と、
一端が前記ハウジング内に収容され、他端が前記ハウジングの前記第二端から突出した状態に設けられた入力軸と、
前記出力軸の外周と前記ハウジングの内周との間に嵌合して設けられた第1軸受と、
前記入力軸の外周と前記ハウジングの内周との間に嵌合して設けられた第2軸受と、
前記出力軸と一体に回転するように前記出力軸のハウジング内への収容部分に設けられた外輪と、
前記入力軸と一体に回転するように前記入力軸のハウジング内への収容部分に設けられた内輪と、
前記外輪の内周と内輪の外周との間に周方向に対向して組み込まれた一対の係合子と、
前記一対の係合子を前記外輪の内周と前記内輪の外周との間に係合させる係合位置と、前記一対の係合子の前記外輪の内周と前記内輪の外周との間への係合を解除する係合解除位置との間で前記内輪に対して周方向に移動可能に支持された係合子保持器と、
前記内輪に対して軸方向に移動可能に支持されたアーマチュアと、
通電により前記アーマチュアを軸方向に移動させる電磁石と、
前記アーマチュアが軸方向に移動する動作を、前記係合子保持器が前記係合位置から係合解除位置に周方向に移動する動作に変換する運動変換機構とを有し、
前記運動変換機構は、前記アーマチュアと一体に軸方向移動するように前記アーマチュアに固定されたくさび部材と、前記係合子保持器に形成され、前記くさび部材が摺接する傾斜摺接面とで構成されている回転伝達装置において、
前記ハウジングの前記第一端の側の端部内周に、前記第1軸受が前記ハウジングの前記第一端に向かう側に軸方向移動するのを規制するフランジ部を形成したことを特徴とする回転伝達装置。
【0016】
このようにすると、ハウジングの第一端の側の端部内周に形成したフランジ部が、第1軸受の軸方向移動を規制するので、振動や衝撃を受けたときに、第1軸受に軸方向の位置ずれが生じにくい。そのため、回転伝達装置が振動や衝撃を受けたときにも、電磁石とアーマチュアの軸方向の相対位置関係に誤差が生じにくく、回転伝達装置の動作が安定したものとなる。
【0017】
前記ハウジングの前記第二端の側の端部内周に、前記第2軸受が前記ハウジングの前記第二端の側に向かう側に軸方向移動するのを規制する止め輪を装着すると好ましい。
【0018】
このようにすると、ハウジングの第二端の側の端部内周に装着した止め輪が、第2軸受の軸方向移動を規制するので、振動や衝撃を受けたときに、第2軸受に軸方向の位置ずれが生じにくい。そのため、回転伝達装置が振動や衝撃を受けたときにも、電磁石とアーマチュアの軸方向の相対位置関係に誤差が生じにくく、回転伝達装置の動作が安定したものとなる。
【0019】
この場合、前記フランジ部と前記第1軸受との間に、前記第1軸受を前記第2軸受の側に向かって軸方向に付勢する弾性部材を組み込むと好ましい。
【0020】
このようにすると、弾性部材が、第1軸受とフランジ部の間の軸方向の遊びと、第2軸受と止め輪の間の軸方向の遊びとを吸収するので、電磁石とアーマチュアの軸方向の相対位置関係を高精度に管理することが可能となる。
【0021】
前記ハウジングの内周の、前記第1軸受の嵌合部分よりも前記ハウジングの前記第一端に近い側の部分に、前記ハウジング内への異物侵入を防止する第1シール部材を装着すると好ましい。
【0022】
このようにすると、第1シール部材が、ハウジングの第一端の開口からハウジングの内部に泥水やダスト等の異物が侵入するのを防止するので、より効果的に、回転伝達装置の動作を安定させることが可能となる。
【0023】
前記ハウジングの内周の、前記第2軸受の嵌合部分よりも前記ハウジングの前記第二端に近い側の部分に、前記ハウジング内への異物侵入を防止する第2シール部材を装着すると好ましい。
【0024】
このようにすると、第2シール部材が、ハウジングの第二端の開口からハウジングの内部に泥水やダスト等の異物が侵入するのを防止するので、より効果的に、回転伝達装置の動作を安定させることが可能となる。
【0025】
前記ハウジングが、前記第一端をもつ筒状のハウジング本体と、前記ハウジング本体の一端に取り付けられ、前記第二端をもつ環状の蓋体とからなる場合、前記ハウジング本体と前記蓋体との対向面間に第3のシール部材を設けると好ましい。
【0026】
このようにすると、第3のシール部材が、泥水やダスト等の異物がハウジング本体と蓋体の対向面間を通ってハウジングの内部に侵入するのを防止するので、より効果的に、回転伝達装置の動作を安定させることが可能となる。
【0027】
前記蓋体は、前記電磁石の外周に嵌合する円筒部を有し、
前記蓋体は磁性体金属で形成され、前記ハウジング本体は非磁性体金属で形成されている構成を採用すると好ましい。
【0028】
このようにすると、電磁石に通電したときに、蓋体の円筒部が、電磁石から発生する磁束の通り道(磁路)になるので、効率的にアーマチュアを電磁石に吸引することが可能となる。
【0029】
この場合、前記蓋体の表面に防錆皮膜を設けると好ましい。
【0030】
このようにすると、蓋体の表面に錆が発生するのを防止することができる。
【0031】
また、前記ハウジング本体の表面に腐食防止皮膜を設けると好ましい。
【0032】
このようにすると、蓋体の材質である磁性体金属と、ハウジング本体の材質である非磁性体金属との間の電位差によって、ハウジング本体が腐食するのを防止することができる。
【0033】
またこの発明では、上記課題を解決するため、以下の構成の回転伝達装置も併せて提供する。
第一端と前記第一端とは軸方向の反対側に位置する第二端とをもち、前記第一端と前記第二端とがいずれも開口した筒状のハウジングと、
一端が前記ハウジング内に収容され、他端が前記ハウジングの前記第一端から突出した状態に設けられた出力軸と、
一端が前記ハウジング内に収容され、他端が前記ハウジングの前記第二端から突出した状態に設けられた入力軸と、
前記出力軸と一体に回転するように前記出力軸のハウジング内への収容部分に設けられた外輪と、
前記入力軸と一体に回転するように前記入力軸のハウジング内への収容部分に設けられた内輪と、
前記外輪の内周と内輪の外周との間に周方向に対向して組み込まれた一対の係合子と、
前記一対の係合子間の距離を広げる方向に前記一対の係合子を付勢する係合子離反ばねと、
前記係合子離反ばねを前記内輪に保持するように前記内輪の外周に取り付けられたばね保持器と、
前記一対の係合子を前記外輪の内周と前記内輪の外周との間に係合させる係合位置と、前記一対の係合子の前記外輪の内周と前記内輪の外周との間への係合を解除する係合解除位置との間で前記内輪に対して周方向に移動可能に支持された係合子保持器と、
前記内輪に対して軸方向に移動可能に支持されたアーマチュアと、
通電により前記アーマチュアを軸方向に移動させる電磁石と、
前記アーマチュアが軸方向に移動する動作を、前記係合子保持器が前記係合位置から係合解除位置に周方向に移動する動作に変換する運動変換機構とを有し、
前記運動変換機構は、前記アーマチュアと一体に軸方向移動するように前記アーマチュアに固定されたくさび部材と、前記係合子保持器に形成され、前記くさび部材が摺接する傾斜摺接面とで構成されている回転伝達装置において、
前記内輪の外周に、前記ばね保持器を軸方向に固定する止め輪を装着したことを特徴とする回転伝達装置。
【0034】
このようにすると、内輪の外周に装着した止め輪が、ばね保持器の軸方向移動を阻止するので、振動や衝撃を受けたときに、ばね保持器に軸方向の位置ずれが生じにくい。そのため、回転伝達装置が振動や衝撃を受けたときにも、係合子離反ばねの位置が軸方向にずれにくく、回転伝達装置の動作が安定したものとなる。
【0035】
またこの発明では、上記課題を解決するため、以下の構成の回転伝達装置も併せて提供する。
第一端と前記第一端とは軸方向の反対側に位置する第二端とをもち、前記第一端と前記第二端とがいずれも開口した筒状のハウジングと、
一端が前記ハウジング内に収容され、他端が前記ハウジングの前記第一端から突出した状態に設けられた出力軸と、
一端が前記ハウジング内に収容され、他端が前記ハウジングの前記第二端から突出した状態に設けられた入力軸と、
前記出力軸と一体に回転するように前記出力軸のハウジング内への収容部分に設けられた外輪と、
前記入力軸と一体に回転するように前記入力軸のハウジング内への収容部分に設けられた内輪と、
前記外輪の内周と前記内輪の外周との間に嵌合して設けられた中間軸受と、
前記外輪の内周と内輪の外周との間に周方向に対向して組み込まれた一対の係合子と、
前記一対の係合子間の距離を広げる方向に前記一対の係合子を付勢する係合子離反ばねと、
前記係合子離反ばねを前記内輪に保持するように前記内輪の外周に取り付けられたばね保持器と、
前記一対の係合子を前記外輪の内周と前記内輪の外周との間に係合させる係合位置と、前記一対の係合子の前記外輪の内周と前記内輪の外周との間への係合を解除する係合解除位置との間で前記内輪に対して周方向に移動可能に支持された係合子保持器と、
前記内輪に対して軸方向に移動可能に支持されたアーマチュアと、
通電により前記アーマチュアを軸方向に移動させる電磁石と、
前記アーマチュアが軸方向に移動する動作を、前記係合子保持器が前記係合位置から係合解除位置に周方向に移動する動作に変換する運動変換機構とを有し、
前記運動変換機構は、前記アーマチュアと一体に軸方向移動するように前記アーマチュアに固定されたくさび部材と、前記係合子保持器に形成され、前記くさび部材が摺接する傾斜摺接面とで構成されている回転伝達装置において、
前記ばね保持器を、前記中間軸受と前記内輪の外周に形成された段部との間に配置するとともに、前記ばね保持器と前記中間軸受の間に、軸方向隙間を詰める間座を組み込むことで、前記ばね保持器を軸方向に固定したことを特徴とする回転伝達装置。
【0036】
このようにすると、ばね保持器と中間軸受の間に組み込んだ間座が、ばね保持器の軸方向移動を阻止するので、振動や衝撃を受けたときに、ばね保持器に軸方向の位置ずれが生じにくい。そのため、回転伝達装置が振動や衝撃を受けたときにも、係合子離反ばねの位置が軸方向にずれにくく、回転伝達装置の動作が安定したものとなる。
【0037】
またこの発明では、上記課題を解決するため、以下の構成の回転伝達装置も併せて提供する。
第一端と前記第一端とは軸方向の反対側に位置する第二端とをもち、前記第一端と前記第二端とがいずれも開口した筒状のハウジングと、
一端が前記ハウジング内に収容され、他端が前記ハウジングの前記第一端から突出した状態に設けられた出力軸と、
一端が前記ハウジング内に収容され、他端が前記ハウジングの前記第二端から突出した状態に設けられた入力軸と、
前記出力軸と一体に回転するように前記出力軸のハウジング内への収容部分に設けられた外輪と、
前記入力軸と一体に回転するように前記入力軸のハウジング内への収容部分に設けられた内輪と、
前記外輪の内周と前記内輪の外周との間に嵌合して設けられた中間軸受と、
前記外輪の内周と内輪の外周との間に周方向に対向して組み込まれた一対の係合子と、
前記一対の係合子間の距離を広げる方向に前記一対の係合子を付勢する係合子離反ばねと、
前記係合子離反ばねを前記内輪に保持するように前記内輪の外周に取り付けられたばね保持器と、
前記一対の係合子を前記外輪の内周と前記内輪の外周との間に係合させる係合位置と、前記一対の係合子の前記外輪の内周と前記内輪の外周との間への係合を解除する係合解除位置との間で前記内輪に対して周方向に移動可能に支持された係合子保持器と、
前記内輪に対して軸方向に移動可能に支持されたアーマチュアと、
通電により前記アーマチュアを軸方向に移動させる電磁石と、
前記アーマチュアが軸方向に移動する動作を、前記係合子保持器が前記係合位置から係合解除位置に周方向に移動する動作に変換する運動変換機構とを有し、
前記運動変換機構は、前記アーマチュアと一体に軸方向移動するように前記アーマチュアに固定されたくさび部材と、前記係合子保持器に形成され、前記くさび部材が摺接する傾斜摺接面とで構成されている回転伝達装置において、
前記ばね保持器の径方向内端に軸方向に延びる円筒部を一体に形成し、その円筒部を、前記中間軸受と前記内輪の外周に形成された段部との間で軸方向に挟み込むことで、前記ばね保持器を軸方向に固定したことを特徴とする回転伝達装置。
【0038】
このようにすると、中間軸受と内輪の外周の段部とが、ばね保持器の径方向内端に一体に形成された円筒部の軸方向移動を阻止するので、振動や衝撃を受けたときに、ばね保持器に軸方向の位置ずれが生じにくい。そのため、回転伝達装置が振動や衝撃を受けたときにも、係合子離反ばねの位置が軸方向にずれにくく、回転伝達装置の動作が安定したものとなる。
【0039】
またこの発明では、上記の回転伝達装置を用いた車両用ステアリング装置として、以下の構成のものを併せて提供する。
車両の左右方向に移動可能に支持され、その移動に応じて左右一対の車輪の向きが変化するように前記一対の車輪に左右両端が連結されるステアリングラックと、
前記ステアリングラックに噛み合うステアリングピニオンと、
運転者が回転操作するステアリングホイールと、
前記ステアリングホイールと前記ステアリングピニオンとの間で回転を伝達する回転伝達経路と、
前記回転伝達経路に設けられた上記の回転伝達装置と、を有する車両用ステアリング装置。
【発明の効果】
【0040】
この発明の回転伝達装置は、ハウジングの第一端の側の端部内周に形成したフランジ部が、第1軸受の軸方向移動を規制するので、振動や衝撃を受けたときに、第1軸受に軸方向の位置ずれが生じにくい。そのため、回転伝達装置が振動や衝撃を受けたときにも、電磁石とアーマチュアの軸方向の相対位置関係に誤差が生じにくく、回転伝達装置の動作が安定したものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】この発明の第1実施形態にかかる回転伝達装置を示す断面図
【
図3】
図2に示すローラ保持器が係合位置から係合解除位置に移動した状態を示す図
【
図4】
図1に示すローラ保持器(第1の分割保持器および第2の分割保持器)、保持プレート、アーマチュアの分解斜視図
【
図6】この発明の第2実施形態にかかる回転伝達装置を
図5に対応して示す図
【
図7】この発明の第3実施形態にかかる回転伝達装置を
図5に対応して示す図
【
図8】この発明の第4実施形態にかかる回転伝達装置を
図5に対応して示す図
【
図9】
図1の回転伝達装置を組み込んだ車両用ステアリング装置を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0042】
図1に、この発明の第1実施形態にかかる回転伝達装置1を示す。この回転伝達装置1は、第一端2と第二端3とがいずれも開口した筒状のハウジング4と、一端がハウジング4内に収容され、他端がハウジング4の第一端2から突出した状態に設けられた出力軸5と、一端がハウジング4内に収容され、他端がハウジング4の第二端3から突出した状態に設けられた入力軸6と、出力軸5のハウジング4内への収容部分に設けられた外輪7と、入力軸6のハウジング4内への収容部分に設けられた内輪8と、外輪7の内周と内輪8の外周との間に組み込まれた複数のローラ9a,9bと、これらのローラ9a,9bを保持するローラ保持器10とを有する。
【0043】
ハウジング4の第一端2と第二端3は、互いに軸方向の反対側に位置する端部である。ハウジング4は、筒状のハウジング本体4Aと、ハウジング本体4Aの一端に取り付けられた蓋体4Bとで構成されている。ハウジング本体4Aはハウジング4の第一端2を有し、蓋体4Bはハウジング4の第二端3を有する。ハウジング本体4Aには、径方向外向きのフランジ部11が継ぎ目のない一体に形成され、そのフランジ部11に、図示しないボルトで蓋体4Bが固定されている。
【0044】
蓋体4Bは、ハウジング本体4Aのフランジ部11と軸方向に突き合わさる円環板部12と、円環板部12からハウジング本体4Aの内周に沿って軸方向に延び出す円筒部13と、円環板部12からハウジング本体4Aの側とは反対側に延び出す第2円筒部14とを有する。ハウジング4の第二端3は、第2円筒部14の先端である。
【0045】
ハウジング本体4Aは、非磁性体金属(アルミ合金、銅合金など)で形成されている。一方、蓋体4Bは、磁性体金属(鉄、珪素鋼など)で形成されている。ハウジング本体4Aの表面には、表面処理(陽極酸化処理、リン酸亜鉛処理、めっき処理など)を施すことで腐食防止皮膜が形成されている。蓋体4Bの表面には、表面処理(亜鉛めっき処理、リン酸塩皮膜処理など)を施すことで防錆皮膜が形成され、これにより、蓋体4Bの表面の錆の発生を防止している。
【0046】
出力軸5と外輪7は、両者が一体に回転するように継ぎ目のない一体の部材として形成されている。出力軸5と外輪7は、別部材として形成し、その両者が一体に回転するようにセレーション嵌合等で結合してもよい。出力軸5と入力軸6は同軸上に一列に並んで配置されている。
【0047】
入力軸6は、外部から回転が入力される軸である。入力軸6と内輪8は、両者が一体に回転するように継ぎ目のない一体の部材として形成されている。入力軸6と内輪8は、別部材として形成し、その両者が一体に回転するようにセレーション嵌合等で結合してもよい。
【0048】
図2に示すように、内輪8の外周には、周方向に等間隔に複数のカム面15が設けられている。カム面15は、前方カム面15aと、前方カム面15aに対して内輪8の正転方向後方に配置された後方カム面15bとからなる。外輪7の内周には、カム面15と半径方向に対向する円筒面16が設けられている。
【0049】
カム面15と円筒面16の間には、ローラ離反ばね17を間に挟んで周方向に対向する一対のローラ9a,9bが組み込まれている。この一対のローラ9a,9bのうち正転方向の前側のローラ9aは前方カム面15aと円筒面16の間に配置され、正転方向の後側のローラ9bは後方カム面15bと円筒面16の間に配置されている。ローラ離反ばね17は、一対のローラ9a,9bの間隔を広げる方向に各ローラ9a,9bを押圧している。
【0050】
カム面15と円筒面16の間には、周方向中央から周方向両端に向かって次第に狭小となるくさび空間が形成されている。すなわち、前方カム面15aは、円筒面16との間の径方向の距離が、ローラ9aの位置から正転方向前方に向かって次第に小さくなるように形成されている。後方カム面15bは、円筒面16との間の径方向の距離が、ローラ9bの位置から正転方向後方に向かって次第に小さくなるように形成されている。
【0051】
図2では、前方カム面15aと後方カム面15bを、相反する方向に傾斜した別々の平面となるように形成しているが、前方カム面15aと後方カム面15bは、単一平面の正転方向の前側部分が前方カム面15a、後側部分が後方カム面15bとなるように、同一平面上に形成することも可能である。また、前方カム面15aと後方カム面15bは、曲面とすることも可能であるが、図のように平面とすると加工コストを低減することができる。
【0052】
図2、
図4に示すように、ローラ保持器10は、ローラ離反ばね17を間にして周方向に対向する一対のローラ9a,9bのうち一方のローラ9aをローラ離反ばね17の付勢力に抗して周方向に支持する第1の分割保持器10Aと、他方のローラ9bをローラ離反ばね17の付勢力に抗して周方向に支持する第2の分割保持器10Bとからなる。第1の分割保持器10Aと第2の分割保持器10Bは相対回転可能に支持されており、その相対回転に応じて一対のローラ9a,9bの間隔が変化するように一対のローラ9a,9bを個別に支持している。
【0053】
図4に示すように、第1の分割保持器10Aは、周方向に間隔をおいて配置された複数の第1柱部18aと、これらの第1柱部18aの軸方向の一方の端部同士を連結する第1環状部19aと、第1柱部18aの軸方向の他方の端部同士を連結する第1環状部20aとを有する。また、第2の分割保持器10Bは、周方向に間隔をおいて配置された複数の第2柱部18bと、これらの第2柱部18bの軸方向の一方の端部同士を連結する第2環状部19bとを有する。
【0054】
図2に示すように、第1柱部18aと第2柱部18bは、外輪7と内輪8の間を周方向に交互に並ぶように配置されている。また、第1柱部18aと第2柱部18bは、一対のローラ9a,9bを間に挟んで周方向に対向している。すなわち、第1柱部18aと第2柱部18bは、ローラ離反ばね17を間にして周方向に対向する一対のローラ9a,9bを周方向の両側から挟み込むように、外輪7の内周と内輪8の外周の間に挿入されている。
【0055】
図1に示すように、第1環状部19aは、内輪8の外周で回転可能に支持されている。第2環状部19bは、第1環状部19aの外径よりも大きい内径を有し、第1環状部19aの外周に嵌合している。第2環状部19bは、第1環状部19aの外周で回転可能に支持されている。ここで、第1の分割保持器10Aと第2の分割保持器10Bは、それぞれ内輪8に対して回転可能となっている。その結果、第1の分割保持器10Aと第2の分割保持器10Bは、一対のローラ9a,9bの間隔を広げることにより円筒面16とカム面15との間に各ローラ9a,9bを係合させる係合位置(
図2参照)と、一対のローラ9a,9bの間隔を狭めることにより円筒面16とカム面15との間への各ローラ9a,9bの係合を解除する係合解除位置(
図3参照)との間で周方向に移動可能となっている。
【0056】
図4に示すように、第1環状部19a,20aの外周には、第1柱部18aが連結されている。第2環状部19bの内周には、第1柱部18aとの干渉を避けるための切り欠き21が周方向に間隔をおいて複数形成されている。第2柱部18bは、第2環状部19bの側面から軸方向に突出している。
【0057】
図1に示すように、内輪8の外周には、第1環状部19aおよび第2環状部19bに軸方向に隣接して保持プレート22が固定されている。保持プレート22は、第1環状部19aおよび第2環状部19bのローラ9a,9bから遠ざかる側の軸方向移動を規制するように、第1環状部19aおよび第2環状部19bの側面を支持している。第1環状部19aおよび第2環状部19bは、保持プレート22に周方向に摺動可能に接触している。
【0058】
図5に示すように、内輪8の外周には、ローラ離反ばね17を内輪8に保持するばね保持器23が装着されている。ばね保持器23は、内輪8の外周に嵌合する円環部24と、円環部24から軸方向に延び出すばね保持片25とを有する。円環部24は、内輪8の外周に締め代をもって嵌合することにより、内輪8に固定されている。ばね保持片25は、ローラ離反ばね17を間に挟んで内輪8の外周と径方向に対向するように配置されている。ばね保持片25には、ローラ離反ばね17を収容する凹部26が形成されている。ローラ離反ばね17は圧縮コイルばねである。このばね保持片25は、ローラ離反ばね17を凹部26で保持することにより、ローラ離反ばね17がローラ9a,9bの中央を押圧するようにローラ離反ばね17を位置決めしている。
【0059】
図1に示すように、ハウジング4内には、環状の電磁石30と、その電磁石30の通電により軸方向に移動するように支持されたアーマチュア31と、電磁石30とアーマチュア31の間に配置されたロータ32と、アーマチュア31が軸方向に移動する動作を、ローラ保持器10(第1の分割保持器10Aと第2の分割保持器10B)が係合位置(
図2参照)から係合解除位置(
図3参照)に周方向に移動する動作に変換する運動変換機構33とが組み込まれている。
【0060】
アーマチュア31は、内輪8の外周に固定されたスリーブ34の外周にスライド可能に嵌合している。アーマチュア31は、このスリーブ34の外周で、内輪8に対して回転可能かつ軸方向に移動可能に支持されている。
【0061】
ロータ32は、入力軸6に対して軸方向と周方向のいずれにも相対移動しないように、入力軸6の外周に固定されている。ロータ32は、電磁石30とアーマチュア31の軸方向の対向面間に配置されるフランジ状の部分と、電磁石30の径方向内側に対向する筒状の部分とを有する断面L字状の部材である。ロータ32とアーマチュア31は、いずれも磁性材料(鉄、珪素鋼など)で形成されている。
【0062】
電磁石30は、磁性材料からなるフィールドコア35と、フィールドコア35に巻回されたソレノイドコイル36とを有する。電磁石30は、電磁石30の外周が蓋体4Bの円筒部13に嵌合し、かつ、電磁石30の軸方向端面が蓋体4Bの円環板部12に突き合わさった状態となるように組み付けられている。この電磁石30は、ソレノイドコイル36に通電することにより、フィールドコア35とロータ32と円筒部13とアーマチュア31を通る磁路を形成し、アーマチュア31をロータ32に吸着させる。
【0063】
図4に示すように、運動変換機構33は、アーマチュア31と一体に軸方向移動するようにアーマチュア31に固定されたくさび部材37と、ローラ保持器10(第1の分割保持器10Aと第2の分割保持器10B)に形成された傾斜摺接面38a,38bとで構成されている。傾斜摺接面38a,38bは、くさび部材37と摺接する面である。
【0064】
具体的には、
図2に示すように、第1柱部18aは、ローラ9aを支持する面とは周方向の反対側に第1傾斜摺接面38aを有し、第2柱部18bも、ローラ9bを支持する面とは周方向の反対側に第2傾斜摺接面38bを有する。第1傾斜摺接面38aと第2傾斜摺接面38bは、周方向に対向している。
【0065】
図4に示すように、第1傾斜摺接面38aと第2傾斜摺接面38bは、いずれもアーマチュア31に近づく側の軸方向に沿って周方向に後退する傾斜面である。くさび部材37は、周方向に隣り合う第1柱部18aと第2柱部18bの間に挿入されるように、アーマチュア31から軸方向に突出して設けられている。くさび部材37は、アーマチュア31から軸方向に遠ざかるにしたがって周方向幅が次第に広くなる形状を持つくさび形状部39を有し、そのくさび形状部39が第1傾斜摺接面38aと第2傾斜摺接面38bの両者に摺接している(
図2参照)。保持プレート22には、くさび部材37との干渉を避けるために、くさび部材37を挿通させる貫通穴40が形成されている。
【0066】
この運動変換機構33は、
図1に示すアーマチュア31が電磁石30に向かって軸方向移動したときに、そのアーマチュア31と一体に
図4に示すくさび部材37が軸方向移動し、そのくさび部材37のくさび形状部39が、第1傾斜摺接面38aと第2傾斜摺接面38bとを周方向に押圧し、その結果、
図3に示すように、第1柱部18aと第2柱部18bとが一対のローラ9a,9b間の距離を狭める方向に第1の分割保持器10Aと第2の分割保持器10Bがそれぞれ周方向移動するように動作する。
【0067】
図1に示すように、出力軸5の外周とハウジング本体4Aの内周との間には、第1軸受41が嵌合している。第1軸受41は、例えば、シール付き深溝玉軸受である。ハウジング4の第一端2の側の端部内周には、径方向内向きに延びるフランジ部42が形成されている。フランジ部42は、第1軸受41に対してハウジング4の第一端2に近い側に軸方向に対向し、第1軸受41がハウジング4の第一端2に向かう側に軸方向移動するのを規制している。また、フランジ部42と第1軸受41との間には、弾性部材43が組み込まれている。弾性部材43としては、例えば、皿ばね、波ばね、圧縮コイルばねを採用することができる。弾性部材43は、第1軸受41を第2軸受44の側に向かって軸方向に付勢している。
【0068】
ハウジング本体4Aの内周の、第1軸受41の嵌合部分よりもハウジング4の第一端2に近い側の部分には、第1シール部材45が装着されている。第1シール部材45の外周は、ハウジング本体4Aに固定され、第1シール部材45の内周は、出力軸5の外周に摺接している。第1シール部材45は、例えば、オイルシールである。第1シール部材45は、フランジ部42で軸方向に位置決めされている。この第1シール部材45によって、ハウジング本体4Aの側からハウジング4内に泥水やダスト等の異物が侵入するのが防止されている。
【0069】
入力軸6の外周と蓋体4Bの第2円筒部14の内周との間には、第2軸受44が嵌合している。第2軸受44は、例えば、シール付き深溝玉軸受である。ハウジング4の第二端3の側の端部(ここでは蓋体4Bの第2円筒部14)の内周には、止め輪46が装着されている。止め輪46は、第2軸受44に対してハウジング4の第二端3に近い側に軸方向に対向し、第2軸受44がハウジング4の第二端3に向かう側に軸方向移動するのを規制している。第2軸受44は、弾性部材43の付勢力によって止め輪46に押し付けられている。
【0070】
蓋体4Bの第2円筒部14の内周の、第2軸受44の嵌合部分よりもハウジング4の第二端3に近い側の部分には、第2シール部材47が装着されている。第2シール部材47の外周は、蓋体4Bの第2円筒部14に固定され、第2シール部材47の内周は、入力軸6の外周に摺接している。第2シール部材47は、例えば、オイルシールである。この第2シール部材47によって、蓋体4Bの側からハウジング4内に泥水やダスト等の異物が侵入するのが防止されている。
【0071】
外輪7の内周と内輪8の外周との間には、中間軸受48が嵌合して設けられている。中間軸受48は、内輪8と外輪7を相対回転可能に連結している。中間軸受48は、例えば、深溝玉軸受である。
【0072】
ハウジング本体4Aの内周と、蓋体4Bの円筒部13の外周との径方向の対向面間に、第3のシール部材49が組み込まれている。第3のシール部材49は、ハウジング本体4Aのフランジ部11と、蓋体4Bの円環板部12との軸方向の対向面間に組み込むようにしてもよい。第3のシール部材49は、例えば、Oリングである。
【0073】
上記の回転伝達装置1の動作例を説明する。
【0074】
図1に示すように、電磁石30への通電を停止しているとき、この回転伝達装置1は、入力軸6と出力軸5の間で回転が伝達する締結状態となる。すなわち、電磁石30への通電を停止しているとき、アーマチュア31は、ローラ離反ばね17からローラ9a,9bと運動変換機構33とを介して伝達する力によってロータ32から軸方向に離反した状態となっている。また、このとき、
図2に示すように、ローラ離反ばね17が一対のローラ9a,9bを押圧する力によって、正転方向の前側のローラ9aは、外輪7の内周の円筒面16と内輪8の外周の前方カム面15aとの間に係合し、かつ、正転方向の後側のローラ9bは、外輪7の内周の円筒面16と内輪8の外周の後方カム面15bとの間に係合した状態となっている。この状態で、内輪8が正転方向に回転すると、その回転は、正転方向の後側のローラ9bを介して内輪8から外輪7に伝達する。また、内輪8が逆転方向に回転すると、その回転は、正転方向の前側のローラ9aを介して内輪8から外輪7に伝達する。
【0075】
一方、
図1の電磁石30に通電すると、この回転伝達装置1は、入力軸6と出力軸5の間での回転の伝達が遮断される空転状態となる。すなわち、電磁石30に通電すると、アーマチュア31がロータ32に吸着され、このときのアーマチュア31の軸方向移動が運動変換機構33を介して第1の分割保持器10Aと第2の分割保持器10Bとに伝わり、第1の分割保持器10Aと第2の分割保持器10Bとが周方向に移動する。そして、この第1の分割保持器10Aと第2の分割保持器10Bの周方向移動により、
図3に示すように、第1柱部18aと第2柱部18bとが一対のローラ9a,9b間の距離が狭まる方向に各ローラ9a,9bを押圧し、その結果、正転方向の前側のローラ9aの係合待機状態(正転方向の前側のローラ9aと円筒面16の間に微小隙間があるが、内輪8が逆転方向に回転するとローラ9aが直ちに円筒面16と前方カム面15aの間に係合する状態)が解除されるとともに、正転方向の後側のローラ9bの係合待機状態(正転方向の後側のローラ9bと円筒面16の間に微小隙間があるが、内輪8が正転方向に回転するとローラ9bが直ちに円筒面16と後方カム面15bの間に係合する状態)も解除された状態となる。この状態で、内輪8に回転が入力されても、その回転は内輪8から外輪7に伝達せず、内輪8は空転する。
【0076】
この回転伝達装置1は、ハウジング4の第一端2の側の端部内周に形成したフランジ部42が、第1軸受41の軸方向移動を規制するので、振動や衝撃を受けたときに、第1軸受41に軸方向の位置ずれが生じにくい。そのため、回転伝達装置1が振動や衝撃を受けたときにも、電磁石30とアーマチュア31とロータ32の軸方向の相対位置関係に誤差が生じにくく、回転伝達装置1の動作が安定している。
【0077】
また、この回転伝達装置1は、ハウジング4の第二端3の側の端部内周に装着した止め輪46が、第2軸受44の軸方向移動を規制するので、振動や衝撃を受けたときに、第2軸受44に軸方向の位置ずれが生じにくい。そのため、回転伝達装置1が振動や衝撃を受けたときにも、電磁石30とアーマチュア31とロータ32の軸方向の相対位置関係に誤差が生じにくく、回転伝達装置1の動作が安定している。
【0078】
また、この回転伝達装置1は、フランジ部42と第1軸受41との間に弾性部材43が組み込まれ、その弾性部材43が、第1軸受41とフランジ部42の間の軸方向の遊びと、第2軸受44と止め輪46の間の軸方向の遊びとを吸収するので、電磁石30とアーマチュア31とロータ32の軸方向の相対位置関係を高精度に管理することが可能である。
【0079】
また、この回転伝達装置1は、第1シール部材45が、ハウジング4の第一端2の開口からハウジング4の内部に泥水やダスト等の異物が侵入するのを防止するので、回転伝達装置1の動作が効果的に安定したものとなっている。
【0080】
また、この回転伝達装置1は、第2シール部材47が、ハウジング4の第二端3の開口からハウジング4の内部に泥水やダスト等の異物が侵入するのを防止するので、回転伝達装置1の動作が効果的に安定したものとなっている。
【0081】
また、この回転伝達装置1は、第3のシール部材49が、泥水やダスト等の異物がハウジング本体4Aと蓋体4Bの対向面間を通ってハウジング4の内部に侵入するのを防止するので、回転伝達装置1の動作が効果的に安定したものとなっている。
【0082】
また、この回転伝達装置1は、電磁石30の外周に嵌合する円筒部13をもつ蓋体4Bが、磁性体金属で形成されているので、電磁石30に通電したときに、蓋体4Bの円筒部13が、電磁石30から発生する磁束の通り道(磁路)になる。そのため、電磁石30に通電したときに、効率的にアーマチュア31を電磁石30に吸引することが可能である。
【0083】
また、この回転伝達装置1は、ハウジング本体4Aの表面に腐食防止皮膜を設けているので、蓋体4Bの材質である磁性体金属と、ハウジング本体4Aの材質である非磁性体金属との間の電位差によって、ハウジング本体4Aが腐食するのを防止することが可能となっている。
【0084】
図6に、この発明の第2実施形態を示す。第2実施形態は、第1実施形態と比べてばね保持器23の固定方法のみが異なり、それ以外の構成は同一である。そのため、第1実施形態に対応する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0085】
内輪8の外周には、ばね保持器23を軸方向に固定する止め輪50が装着されている。
図6において、ばね保持器23の円環部24は、内輪8の外周に形成された段部51で軸方向の一方の移動が規制され、内輪8の外周に装着された止め輪50で軸方向の他方の移動が規制されている。円環部24と段部51の間には、第1の分割保持器10Aの第1環状部20aが挟み込まれている。
【0086】
この第2実施形態の構成を採用すると、内輪8の外周に装着した止め輪50が、ばね保持器23の軸方向移動を阻止するので、振動や衝撃を受けたときに、ばね保持器23に軸方向の位置ずれが生じにくい。そのため、回転伝達装置1が振動や衝撃を受けたときにも、ローラ離反ばね17の位置が軸方向にずれにくく、回転伝達装置1の動作が安定したものとなる。
【0087】
図7に、この発明の第3実施形態を示す。第3実施形態は、第1実施形態と比べてばね保持器23の固定方法のみが異なり、それ以外の構成は同一である。そのため、第1実施形態に対応する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0088】
ばね保持器23の円環部24は、内輪8の外周に装着された中間軸受48と、内輪8の外周に形成された段部52との間に配置されている。また、ばね保持器23の円環部24と中間軸受48との間には、軸方向隙間を詰める間座53が組み込まれ、この間座53によってばね保持器23が軸方向に固定されている。
【0089】
この第3実施形態の構成を採用すると、ばね保持器23と中間軸受48の間に組み込んだ間座53が、ばね保持器23の軸方向移動を阻止するので、振動や衝撃を受けたときに、ばね保持器23に軸方向の位置ずれが生じにくい。そのため、回転伝達装置1が振動や衝撃を受けたときにも、ローラ離反ばね17の位置が軸方向にずれにくく、回転伝達装置1の動作が安定したものとなる。
【0090】
図8に、この発明の第4実施形態を示す。第4実施形態は、第1実施形態と比べてばね保持器23の固定方法のみが異なり、それ以外の構成は同一である。そのため、第1実施形態に対応する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0091】
ばね保持器23の円環部24の径方向内端には、軸方向に延びる円筒部54が一体に形成されている。円筒部54は、中間軸受48と、内輪8の外周に形成された段部52との間で軸方向に挟み込まれている。この挟み込みにより、ばね保持器23が軸方向に固定されている。
【0092】
この第4実施形態の構成を採用すると、中間軸受48と内輪8の外周の段部52とが、ばね保持器23の径方向内端に一体に形成された円筒部54の軸方向移動を阻止するので、振動や衝撃を受けたときに、ばね保持器23に軸方向の位置ずれが生じにくい。そのため、回転伝達装置1が振動や衝撃を受けたときにも、ローラ離反ばね17の位置が軸方向にずれにくく、回転伝達装置1の動作が安定したものとなる。
【0093】
上述の回転伝達装置1は、例えば、
図9に示す車両用ステアリング装置に使用することができる。この車両用ステアリング装置は、車両の左右方向に移動可能に支持されたステアリングラック60と、ステアリングラック60に噛み合うステアリングピニオン61と、運転者が回転操作するステアリングホイール62と、ステアリングホイール62とステアリングピニオン61との間で回転を伝達する回転伝達経路63と、回転伝達経路63に駆動力を入力して一対の車輪64を操舵する操舵モータ65と、回転伝達装置1とを有する。
【0094】
ステアリングラック60は、左右両端が露出した状態で中央部がラックハウジング67に収容されている。ラックハウジング67は、ステアリングラック60を車両の左右方向に移動可能に支持している。ステアリングラック60の左右両端は、ステアリングラック60の移動に応じて左右一対の車輪64の向きが変化するように、タイロッド66を介して左右一対の車輪64に連結されている。ステアリングピニオン61は、ラックハウジング67で回転可能に支持されている。
【0095】
回転伝達経路63の途中には、ステアリングホイール62の側からステアリングピニオン61の側に向かって順に、反力モータ68、回転伝達装置1、操舵モータ65が設けられている。反力モータ68は、運転者の操舵によるステアリングホイール62の回転方向とは反対方向の操舵反力をステアリングホイール62に付与する電動モータである。操舵モータ65は、運転者によるステアリングホイール62の操舵トルクに応じて、回転伝達経路63に駆動力を入力する電動モータである。
【0096】
回転伝達装置1は、正常時は、ステアリングホイール62とステアリングピニオン61の間での回転の伝達を遮断する。一方、電源喪失時などの異常時は、ステアリングホイール62とステアリングピニオン61の間で回転を伝達する。このように、回転伝達装置1は、車両用ステアリング装置のバックアップクラッチとして機能する。
【0097】
上記実施形態では、外輪7の内周と内輪8の外周との間に係合子としてローラ9a,9bを組み込んだ例を挙げて説明したが、この発明は、係合子としてボール、スプラグなどを使用した回転伝達装置1にも同様に適用することができる。
【0098】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0099】
1 回転伝達装置
2 第一端
3 第二端
4 ハウジング
4A ハウジング本体
4B 蓋体
5 出力軸
6 入力軸
7 外輪
8 内輪
9a,9b ローラ
10 ローラ保持器(係合子保持器)
13 円筒部
17 ローラ離反ばね(係合子離反ばね)
23 ばね保持器
30 電磁石
31 アーマチュア
33 運動変換機構
37 くさび部材
38a,38b 傾斜摺接面
41 第1軸受
42 フランジ部
43 弾性部材
44 第2軸受
45 第1シール部材
46 止め輪
47 第2シール部材
48 中間軸受
49 第3のシール部材
50 止め輪
52 段部
53 間座
54 円筒部
60 ステアリングラック
61 ステアリングピニオン
62 ステアリングホイール
63 回転伝達経路
64 車輪