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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022138526
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】電子機器
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20220915BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
H01L23/36 Z
H01L23/36 D
H05K7/20 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021038452
(22)【出願日】2021-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮脇 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】酒井 賢一
(72)【発明者】
【氏名】和田 章良
【テーマコード(参考)】
5E322
5F136
【Fターム(参考)】
5E322AA02
5E322AB04
5E322AB06
5E322AB11
5E322FA04
5E322FA09
5F136BA30
5F136BA31
5F136BC02
5F136BC04
5F136DA17
5F136FA01
5F136FA02
5F136FA53
(57)【要約】
【課題】流動性のある熱伝導材を用い、半導体チップの放熱性能を確保しつつ、熱伝導材に起因するシール部材内の圧力増大を抑制でき、信頼性が向上した電子機器を提供する。
【解決手段】電子機器1は、回路基板3上に半導体チップ2および放熱部材4が配置され、半導体チップ2と放熱部材4とが流動性のある熱伝導材5を介して熱的に接続されている。電子機器1は、熱伝導材5がシール部材6に囲まれると共に、放熱部材4のうちシール部材6よりも内側に位置する領域に溝部41が形成されている。熱伝導材5は、少なくとも半導体チップ2の作動時に流動性のある熱伝導材料により構成される。電子機器1は、シール部材6に囲まれた内側空間と外部空間とが溝部41により連通することで、熱伝導材5が水分と反応して水素を生じさせた場合であっても、内側空間の内圧上昇が抑制される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体チップ(2)と、
前記半導体チップが搭載される回路基板(3)と、
前記半導体チップのうち前記回路基板と向き合う面を裏面(2b)として、前記裏面とは反対の表面(2a)の側に配置される放熱部材(4)と、
前記半導体チップと前記放熱部材との隙間に配置され、少なくとも前記半導体チップの作動時において流動性を有する熱伝導材(5)と、
前記熱伝導材を囲む枠体状のシール部材(6)と、を備え、
前記放熱部材は、前記熱伝導材と接する下面(4a)に溝部(41)を有し、
前記放熱部材のうち前記シール部材よりも内側の領域を内側領域として、前記溝部は、少なくとも前記内側領域に形成されている、電子機器。
【請求項2】
半導体チップ(2)と、
前記半導体チップが搭載される回路基板(3)と、
前記半導体チップのうち前記回路基板と向き合う面を裏面(2b)として、前記裏面とは反対の表面(2a)の側に配置される放熱部材(4)と、
少なくとも、前記半導体チップと前記放熱部材との隙間に配置され、前記半導体チップの作動時において流動性を有する熱伝導材(5)と、
前記熱伝導材を囲む枠体状のシール部材(6)と、を備え、
前記回路基板は、前記半導体チップが搭載される搭載面(3a)に溝部(32)を有し、
前記回路基板のうち前記シール部材よりも内側の領域を第1領域とし、前記シール部材よりも外側の領域を第2領域として、前記溝部は、少なくとも前記第1領域に形成されている、電子機器。
【請求項3】
前記溝部の一部は、前記シール部材を跨ぐ位置に配置されている、請求項1または2に記載の電子機器。
【請求項4】
前記熱伝導材は、Gaを主成分とする液体金属である、請求項1ないし3のいずれか1つに記載の電子機器。
【請求項5】
前記溝部は、延設される方向に対して直交する方向における幅が1mm以下である、請求項1ないし4のいずれか1つに記載の電子機器。
【請求項6】
前記放熱部材は、前記熱伝導材に対する濡れ性が前記放熱部材の前記溝部よりも前記下面のほうが大きい、請求項1、3ないし5のいずれが1つに記載の電子機器。
【請求項7】
前記回路基板は、前記熱伝導材に対する濡れ性が前記回路基板の前記溝部よりも前記搭載面のほうが大きい、請求項2ないし5のいずれが1つに記載の電子機器。
【請求項8】
前記シール部材は、前記回路基板と前記放熱部材との間に配置され、前記回路基板および前記放熱部材に当接している、請求項1ないし7のいずれか1つに記載の電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体チップと放熱部材との間に流動性を有する熱伝導材料が配置された電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、CPU(Central Processing Unitの略)やGPU(Graphics Processing Unitの略)などに用いられる半導体チップは、ヒートシンクなどの放熱部材に放熱ゲル等の熱伝導材を介して接続され、外部に熱を放出する構成とされる。このような外部放熱を有する電子機器としては、例えば特許文献1に記載のものが挙げられる。
【0003】
特許文献1に記載の電子機器は、半導体チップと、半導体チップが搭載される回路基板と、放熱部材と、半導体チップと放熱部材との隙間に配置される熱伝導材と、回路基板と放熱部材との隙間に配置されるシール部材とを備える。この電子機器は、熱伝導材として流動性を有する液体金属が用いられると共に、シール部材が半導体チップを囲む構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2020/162417号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らが、この種の電子機器について鋭意検討を行った結果、熱伝導材として液体金属を用いることにより、信頼性が低下するおそれがあることが判明した。具体的には、液体金属が水分と反応することで水素が発生してシール部材の内側空間の圧力が増大し、シール部材の破損あるいは放熱部材からの剥離が生じることが判明した。この場合、液体金属がシール部材の外側領域といった必要以上の領域に濡れ広がってしまい、半導体チップの放熱性能が低下し、電子機器の信頼性が低下するおそれがある。
【0006】
本発明は、上記の点に鑑み、流動性のある熱伝導材を用い、半導体チップの放熱性能を確保しつつ、熱伝導材に起因するシール部材内の圧力増大を抑制でき、信頼性が向上した電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の電子機器は、半導体チップ(2)と、半導体チップが搭載される回路基板(3)と、半導体チップのうち回路基板と向き合う面を裏面(2b)として、裏面とは反対の表面(2a)の側に配置される放熱部材(4)と、半導体チップと放熱部材との隙間に配置され、少なくとも半導体チップの作動時において流動性を有する熱伝導材(5)と、熱伝導材を囲む枠体状のシール部材(6)と、を備え、放熱部材は、熱伝導材と接する下面(4a)に溝部(41)を有し、放熱部材のうちシール部材よりも内側の領域を内側領域として、溝部は、少なくとも内側領域に形成されている。
【0008】
これによれば、半導体チップと放熱部材とが流動性のある熱伝導材を介して熱的に接続され、熱伝導材を囲むシール部材を有する電子機器において、放熱部材のうち枠体状のシール部材よりも内側に位置する領域に溝部が設けられた構造となる。この電子機器では、熱伝導材として水分と反応して水素が発生する材料を用いた場合であっても、放熱部材の溝部によりシール部材に囲まれた内側空間内における圧力増大が緩和される。そのため、流動性のある熱伝導材による放熱性能を確保しつつも、熱伝導材に起因するシール部材に囲まれた内側空間の圧力増大を緩和でき、信頼性が向上した電子機器となる。
【0009】
請求項2に記載の電子機器は、半導体チップ(2)と、半導体チップが搭載される回路基板(3)と、半導体チップのうち回路基板と向き合う面を裏面(2b)として、裏面とは反対の表面(2a)の側に配置される放熱部材(4)と、少なくとも、半導体チップと放熱部材との隙間に配置され、半導体チップの作動時において流動性を有する熱伝導材(5)と、熱伝導材を囲む枠体状のシール部材(6)と、を備え、回路基板は、半導体チップが搭載される搭載面(3a)に溝部(32)を有し、回路基板のうちシール部材よりも内側の領域を第1領域とし、シール部材よりも外側の領域を第2領域として、溝部は、少なくとも第1領域に形成されている。
【0010】
これによれば、半導体チップと放熱部材とが流動性のある熱伝導材を介して熱的に接続され、熱伝導材を囲むシール部材を有する電子機器において、回路基板のうち枠体状のシール部材よりも内側に位置する領域に溝部が設けられた構造となる。この電子機器においても、熱伝導材として水分と反応して水素が発生する材料を用いた場合であっても、回路基板の溝部によりシール部材に囲まれた内側空間内における圧力増大が緩和される。そのため、この電子機器においても、放熱性能を確保しつつも、内側空間の内圧増大抑制による信頼性向上の効果が得られる。
【0011】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態の電子機器の一例を示す断面図である。
図2】第1実施形態の電子機器を図1のII方向から見た矢視図である。
図3図2のIII-III間の断面構成を示す断面図である。
図4】第1実施形態の電子機器に係る放熱部材の第1変形例を示す平面図である。
図5】第1実施形態の電子機器に係る放熱部材の第2変形例を示す平面図である。
図6】第1実施形態の電子機器に係る放熱部材の第3変形例を示す平面図である。
図7】第2実施形態の電子機器の一例を示す断面図である。
図8図7のVIII-VIII間の断面構成を示す断面図である。
図9】第3実施形態の電子機器の一例を示す断面図である。
図10】第3実施形態の電子機器に係る回路基板の一例を示す平面図である。
図11】第4実施形態の電子機器の一例を示す断面図である。
図12】熱伝導材の他の配置例を示す断面図である。
図13】シール部材の他の配置例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0014】
(第1実施形態)
第1実施形態の電子機器1について、図1図3を参照して説明する。
【0015】
図1図3では、見易くするため、後述する被搭載物7についてはその一部のみを示している。これは、後述する図8図9図11および図12についても同様である。図2では、電子機器1の構成についての理解を助けるため、後述する半導体チップ2の外郭を破線で、後述する放熱部材4および溝部41の外郭を二点鎖線でそれぞれ示すと共に、後述する回路基板3、熱伝導材5、シール部材6の外郭を実線で示している。また、図2では、断面を示すものではないが、見易くするため、熱伝導材5およびシール部材6にハッチングを施している。
【0016】
〔基本構成〕
本実施形態の電子機器1は、例えば図1に示すように、半導体チップ2と、回路基板3と、放熱部材4と、熱伝導材5と、シール部材6とを備え、回路基板3を介して被搭載物7に接合される。電子機器1は、例えば、半導体チップ2が回路基板3に接合材21を介して搭載されると共に、半導体チップ2と放熱部材4との間に熱伝導材5が配置され、これらが熱伝導材5を介して熱的に接続されている。電子機器1は、回路基板3と放熱部材4との間に枠体状のシール部材6が配置されると共に、例えば図2に示すように、半導体チップ2および熱伝導材5がシール部材6により囲まれている。電子機器1は、本実施形態では、放熱部材4のうち半導体チップ2と向き合う下面4aであって、シール部材6よりも内側に位置する内側領域に溝部41の一部が形成されている。
【0017】
半導体チップ2は、例えば、CPUやGPUなどとして機能する構成である。半導体チップ2は、例えば、回路基板3と向き合う裏面2b側がはんだ等の導電性の接合材21を介して回路基板3の図示しない電極等に接合されている。半導体チップ2は、回路基板3を介して図示しない外部の電源や制御回路等との電気的なやり取りが可能となっている。
【0018】
半導体チップ2は、例えば、裏面2bにBGA(Ball Grid Arrayの略)が形成され、回路基板3とフリップチップ実装されるが、回路基板3への実装方法やパッケージ構造については任意であり、この例に限定されるものではない。例えば、半導体チップ2は、BGAのほか、PGA(Pin Grid Arrayの略)、LGA(Land Grid Arrayの略)やQFP(Quad Flat Packageの略)などの他のパッケージ構造であってもよい。また、半導体チップ2と回路基板3との隙間に絶縁性材料によりなるアンダーフィルが配置されてもよいし、平面視にて半導体チップ2が例えばQFP構造のようにその側面から突出するリード端子を有する場合には、リード端子が絶縁材に覆われていてもよい。半導体チップ2は、裏面2bの反対面である表面2aに、熱伝導材5が配置されており、作動時に生じる熱が熱伝導材5および放熱部材4を介して外部に放出される構成となっている。
【0019】
回路基板3は、半導体チップ2が搭載される基板であり、例えば、半導体チップ2が搭載される搭載面3aに図示しない配線や回路パターン等が形成されている。回路基板3は、例えば、半導体チップ2のほか、図示しないキャパシタ等の複数の電子部品が搭載される。回路基板3は、例えば、搭載面3aの図示しない配線等と搭載面3aとは反対側の接続面3bとを繋ぐ図示しないスルーホールや貫通電極を備えると共に、接続面3bがはんだ等の接合材31を介して被搭載物7に電気的に接続される。
【0020】
放熱部材4は、例えば、Al(アルミニウム)等の熱伝導率が高い金属材料やその合金等により構成され、半導体チップ2の作動時の熱を外部に放出する部材である。放熱部材4は、例えばヒートシンクであり、半導体チップ2と向き合う面を下面4aとして、その反対面に任意の形状の放熱フィンが形成されていてもよい。放熱部材4は、半導体チップ2から熱伝導材5を介して伝達された熱を外部に効率的に放出できる構成であればよく、ヒートパイプなどを有する構成であってもよい。放熱部材4は、例えば図1に示すように、下面4aに熱伝導材5が入り込まない溝部41が形成されている。
【0021】
溝部41は、放熱部材4の下面4aのうちシール部材6によりも内側の領域(以下「内側領域」という)と、シール部材6よりも外側の領域(以下「外側領域」という)とを繋ぐように設けられた有底溝である。溝部41は、回路基板3と放熱部材4とにより挟まれた空間であって、シール部材6により囲まれた空間(以下「内側空間」という)と、外部の空間とを連通させ、熱伝導材5に起因する内側空間の圧力上昇を緩和するために設けられる。熱伝導材5に起因する内側空間の圧力上昇については後述する。
【0022】
以下、説明の便宜上、図2紙面上における左右方向を「横方向」と称し、同紙面上において横方向に直交する方向を「縦方向」と称する。また、以下、本明細書では、説明の便宜上、電子機器1のうち回路基板3と放熱部材4との隙間であって、シール部材6により囲まれた空間を「内側空間」と称するのに対し、シール部材6よりも外側の空間を「外部空間」と称する。
【0023】
例えば、溝部41は、図2に示すように、平面視にて、縦方向に延設された縦溝と横方向に延設された横溝とによりなり、それぞれの溝が内側領域と外側領域とを繋ぐ構成とされる。溝部41は、例えば、図3に示すように、流動性のある熱伝導材5が入り込まないように、縦溝および横溝の幅がそれぞれ1mm以下となっている。これは、溝部41が熱伝導材5によって充填されることを防ぎ、熱伝導材5に起因して生じる気体をより効率的に外部空間に逃がすためである。
【0024】
なお、溝部41は、半導体チップ2の作動時に液状となる熱伝導材5がその表面張力によって入り込まない幅となっていればよく、その延設方向に対して直交する方向の幅については、熱伝導材5の材料に応じて適宜変更され得る。溝部41の幅や深さについては、一様であってもよいし、部分的に異なっていてもよい。
【0025】
また、溝部41は、液状の熱伝導材5の濡れ性が下面4aよりも低い状態とされることがより好ましい。例えば、放熱部材4がAlを主成分とする材料で構成される場合、下面4aをAl膜とSiO膜との積層構造とし、当該SiO膜の一部を削ってAl膜を露出させることで溝部41を構成する。これにより、下面4aにおける熱伝導材5に対する濡れ性が、溝部41よりも大きくなり、溝部41に熱伝導材5が入り込むことをより抑制することができる。このように、溝部41と下面4aとの間で熱伝導材5の濡れ性に差が生じさせ、溝部41に熱伝導材5が侵入することを抑制してもよい。溝部41および下面4aそれぞれの表面構成については、放熱部材4の構成材料に応じて適宜変更され得る。
【0026】
熱伝導材5は、流動性および高い熱伝導率を有する材料である。熱伝導材5としては、例えば、融点29.7℃、熱伝導率40.6W/m・K(27℃)のGa(ガリウム)のみによりなる液体金属、あるいはGaを主成分とし、In(インジウム)やSn(錫)などの他の金属材料を含む液体金属もしくは合金が用いられ得る。熱伝導材5は、少なくとも半導体チップ2の作動時に液状となり、半導体チップ2の熱を放熱部材4に伝達できればよく、半導体チップ2の非作動時には液状、固体状、ペースト状等の種々の状態であってもよい。
【0027】
熱伝導材5は、例えば図1に示すように、半導体チップ2の表面2aの全域を覆うように配置されている。熱伝導材5は、枠体状のシール部材6により囲まれており、必要以上に広い領域に濡れ広がらない状態となっている。熱伝導材5は、半導体チップ2の作動時に流動性があるため、固体状やペースト状である場合に比べて、表面2aの凹凸形状や半導体チップ2の反り等にも追従でき、接触面積が増大して熱抵抗が小さくなり、半導体チップ2の放熱性能を向上させる。
【0028】
シール部材6は、例えば図2に示すように、平面視にて、環状の枠体形状の部材である。シール部材6は、弾性変形する材料、例えば、ゴム、スポンジ、シリコーンや発泡性を有する任意の樹脂材料などにより構成される。
【0029】
シール部材6は、回路基板3と放熱部材4との間であって、回路基板3のうち半導体チップ2よりも外側の領域に配置され、回路基板3および放熱部材4それぞれに当接している。シール部材6は、例えば、回路基板3および放熱部材4のそれぞれに接着される。シール部材6は、本実施形態では、半導体チップ2の厚みよりも大きい厚みとされ、半導体チップ2および熱伝導材5を囲むように配置されている。これにより、熱伝導材5がシール部材6により周囲を囲まれ、熱伝導材5が必要以上の領域に濡れ広がること、ひいてはこれに起因する熱抵抗の増大、放熱性能の低下が抑制される。
【0030】
被搭載物7は、例えば、回路基板3を第1の回路基板として、図示しない配線や回路パターン等を有する第2の回路基板である。被搭載物7は、回路基板3を搭載可能な構成であればよく、その構成については適宜変更されうる。
【0031】
以上が、本実施形態の電子機器1の基本的な構成である。この電子機器1は、半導体チップ2の熱がGaを主成分とする液状の熱伝導材5を介して放熱部材4に伝わるため、放熱性能が確保されると共に、放熱部材4が溝部41を有するため、熱伝導材5に起因する内側空間の圧力上昇が抑制される構造である。
【0032】
具体的には、熱伝導材5は、Gaを主成分として構成されているため、水分と反応して水酸化し、水素を生じさせる。そのため、半導体チップ2とヒートシンクとがGaを主成分とする液体金属を介して熱的に接続され、枠体状のシール材により液体金属および半導体チップ2が密閉された構造の電子機器では、シール材に囲まれた空間内の圧力が時間経過に伴って上昇する。さらに内側空間の圧力が上昇すると、シール材の破損あるいはシール材とヒートシンクとの剥離が生じ、液体金属がシール材の外側の領域、すなわち必要以上に広い領域にまで濡れ広がってしまう。液体金属が必要以上に広い領域にまで濡れ広がると、半導体チップ2からヒートシンクへの放熱性能が低下し、ひいては電子機器の信頼性が低下してしまう。
【0033】
本実施形態の電子機器1は、放熱部材4に溝部41が設けられ、内側空間と外部空間とが溝部41により連通しているため、熱伝導材5に起因する水素が内側空間に生じたとしても、内側空間における圧力上昇を緩和できる構造である。そのため、Gaを主成分とする熱伝導材5を用いても、内側空間における圧力上昇が抑制され、信頼性を確保することができる。
【0034】
本実施形態によれば、流動性のある熱伝導材5により半導体チップ2の放熱性能を確保しつつも、放熱部材4に設けられた溝部41により、熱伝導材5に起因する内側空間の圧力上昇が抑制され、信頼性が向上した電子機器1となる。
【0035】
(第1実施形態の変形例)
次に、放熱部材4の変形例について、図4図6を参照して説明する。
【0036】
図4図6では、放熱部材4の下面4aと、半導体チップ2、回路基板3およびシール部材6との位置関係を分かり易くするため、平面視にて、半導体チップ2およびシール部材6が位置する領域の外郭を破線で示している。また、図4図6では、同様の目的で、回路基板3が位置する領域の外郭を二点鎖線で示している。
【0037】
以下、説明の便宜上、図4図6の紙面左右方向に沿った方向を「横方向」と称し、図4図6の紙面において横方向に直交する方向を「縦方向」と称し、紙面上における他の方向を「斜め方向」と称する。
【0038】
溝部41は、例えば図2に示される例に限定されるものでなく、その数、延設方向や配置等については適宜変更され得る。例えば、溝部41は、図4に示すように、横方向および縦方向に沿って複数形成されてもよいし、例えば図5に示すように、斜め方向に沿って複数形成されてもよい。溝部41は、例えば図6に示すように、複数本形成されると共に、これらが交差することなく、それぞれ異なる位置でシール部材6を跨ぐように形成されてもよい。
【0039】
このように、溝部41は、本実施形態では、少なくとも一部がシール部材6に囲まれた内側空間と外部空間とを連通していればよく、放熱部材4の外郭まで延設されていなくてもよいし、その数や配置等についても適宜変更され得る。また、溝部41は、1つのみであってもよいし、複数であってもよい。溝部41は、複数設けられる場合には、すべて同じ幅や長さであってもよいし、幅や深さ等が一部またはすべて異なっていてもよい。
【0040】
上記の変形例によっても、上記第1実施形態と同様の効果が得られる電子機器1となる。
【0041】
(第2実施形態)
第2実施形態の電子機器1について、図7図8を参照して説明する。
【0042】
図7では、図2と同様に、半導体チップ2の外郭を破線で、放熱部材4および溝部41の外郭を二点鎖線で、回路基板3、熱伝導材5およびシール部材6の外郭を実線でそれぞれ示している。また、図7では、断面を示すものではないが、見易くするため、熱伝導材5およびシール部材6にハッチングを施している。
【0043】
本実施形態の電子機器1は、例えば図7に示すように、放熱部材4の溝部41がシール部材6に囲まれた内側領域にのみ形成されている点で上記第1実施形態と相違する。本実施形態では、この相違点について主に説明する。
【0044】
放熱部材4は、本実施形態では、例えば図8に示すように、溝部41が下面4aのうちシール部材6よりも内側に位置する内側領域にのみ形成されている。溝部41は、例えば、一端が下面4aのうち熱伝導材5に接触する領域に位置すると共に、他端がシール部材6の近傍に位置するように延設される。溝部41は、本実施形態では、Gaを主成分とする熱伝導材5と水分との反応により生じる水素をシール部材6の近傍に誘導する役割を果たす。
【0045】
これにより、熱伝導材5に起因してシール部材6の内側空間に水素が生じても、その水素が溝部41によりシール部材6の近傍に誘導される。また、シール部材6は、本実施形態では、例えば発泡性を有する樹脂材料などのクッション性を有する構成となっており、水素などの気体を遮蔽する効果が低い。そのため、内側空間に熱伝導材5に起因する水素が生じても、当該水素は、溝部41によりシール部材6の近傍に誘導され、シール部材6を透過し、あるいはシール部材6と他部材との界面を通じて外部に放出される。
【0046】
なお、溝部41の数や配置等については、下面4aのうちシール部材6よりも内側の領域において、上記第1実施形態と同様に、適宜変更され得る。また、上記第1実施形態と同様に、溝部41は、熱伝導材5に対する濡れ性を下面4aよりも低い構成であってもよい。
【0047】
本実施形態によっても、流動性のある熱伝導材5を用いて半導体チップ2の放熱性能を確保しつつも、溝部41およびシール部材6により熱伝導材5に起因する内側空間の圧力上昇を緩和し、信頼性が向上した電子機器1となる。
【0048】
(第3実施形態)
第3実施形態の電子機器1について、図9図10を参照して説明する。
【0049】
図10では、回路基板3と、半導体チップ2およびシール部材6との位置関係を分かり易くするため、回路基板3のうち半導体チップ2が搭載される領域の外郭を破線で、シール部材6が配置される領域の外郭を二点鎖線で、それぞれ示している。
【0050】
本実施形態の電子機器1は、例えば図9に示すように、放熱部材4が溝部41を有しておらず、回路基板3が搭載面3aに溝部32を有する点で上記第1実施形態と相違する。本実施形態では、この相違点について主に説明する。
【0051】
回路基板3は、本実施形態では、例えば図10に示すように、搭載面3aのうちシール部材6の内側に位置する領域を第1領域とし、シール部材6よりも外側に位置する領域を第2領域として、第1領域と第2領域とを繋ぐ溝部32を有する。溝部32は、シール部材6を跨ぐように形成されており、シール部材6の内側空間と外部空間とを連通する。溝部32は、内側空間に熱伝導材5に起因する水素が生じても、当該水素を外部空間に逃がし、内側空間の内圧増大を抑制する役割を果たす。
【0052】
なお、溝部32は、例えば、上記各実施形態の溝部41と同様に、延設方向に対して直交する方向の幅が1mm以下とされるが、熱伝導材5が回路基板3と接触しない配置とされる場合、これに限られず、1mmを超える幅であっても構わない。溝部32の数や配置等については、図10に示す例に限られるものではなく、回路基板3の配線や回路パターン等に応じて適宜変更され得る。
【0053】
本実施形態によれば、流動性のある熱伝導材5を用いて半導体チップ2の放熱性能を確保しつつも、回路基板3の溝部32により熱伝導材5に起因する内側空間の内圧増大を抑制でき、信頼性が向上した電子機器1となる。
【0054】
(第4実施形態)
第4実施形態の電子機器1は、例えば図11に示すように、放熱部材4の下面4aに形成された溝部41に加えて、回路基板3が搭載面3aにも溝部32が形成された構成である点で上記第1実施形態と相違する。
【0055】
本実施形態の電子機器1は、便宜上、放熱部材4の溝部41を第1溝部とし、回路基板3の溝部32を第2溝部として、例えば、第1溝部および第2溝部を通じて、シール部材6に囲まれた内側空間と外部空間とが連通した構成である。これにより、熱伝導材5に起因する内側空間の内圧上昇が抑制される。
【0056】
なお、必ずしも溝部32、41の双方が内側空間と外部空間とを連通していなくてもよく、溝部32、41の一方のみがシール部材6を跨ぐ位置に形成され、内側空間と外部空間とを連通する構成であってもよい。
【0057】
本実施形態によっても、上記第1実施形態や上記第3実施形態と同様の効果が得られる電子機器1となる。また、溝部41が下面4aの外側領域にも延設されている場合には、内側空間の内圧上昇を抑制する効果がより大きくなる。
【0058】
(他の実施形態)
本発明は、実施例に準拠して記述されたが、本発明は当該実施例や構造に限定されるものではないと理解される。本発明は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらの一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本発明の範疇や思想範囲に入るものである。
【0059】
(1)上記各実施形態では、熱伝導材5が半導体チップ2の表面2aの全域を覆うと共に、回路基板3に接触しない配置とされた例について説明したが、これに限定されるものではない。
【0060】
例えば、熱伝導材5は、図12に示すように、半導体チップ2の全体を覆い、回路基板3および放熱部材4の双方に接触する配置であってもよい。この場合、電子機器1は、例えば、半導体チップ2と回路基板3との隙間が絶縁性の樹脂材料によりなるアンダーフィル8により充填され、熱伝導材5が当該隙間に侵入しない構成とされる。また、この場合、回路基板3は、熱伝導材5による短絡を防ぐため、熱伝導材5が配置される領域については、ソルダーレジストなどの任意の絶縁膜が形成された構成とされる。
【0061】
このように、熱伝導材5は、少なくとも一部が半導体チップ2の表面2aと放熱部材4との隙間に配置されていればよく、他の部分における配置については適宜変更され得る。
【0062】
(2)上記各実施形態では、シール部材6が平面視にて半導体チップ2よりも外側の領域に配置され、熱伝導材5のほか、半導体チップ2を囲む配置とされた例について説明したが、この例に限定されない。
【0063】
例えば、電子機器1は、例えば図13に示すように、シール部材6が半導体チップ2の表面2a上に配置され、熱伝導材5がシール部材6に囲まれた構成であってもよい。この場合、電子機器1は、少なくとも放熱部材4の下面4aに溝部41が形成され、溝部41がシール部材6に囲まれた内側空間と外部空間とを連通する構成とされる。なお、ここでいう内側空間とは、半導体チップ2と放熱部材4との隙間であって、シール部材6により囲まれた空間を意味する。
【0064】
このように、シール部材6は、熱伝導材5が必要以上の領域に濡れ広がらないように、熱伝導材5を囲んでいればよく、その配置については適宜変更され得る。
【符号の説明】
【0065】
2・・・半導体チップ、2a・・・表面、2b・・・裏面、
3・・・回路基板、3a・・・搭載面、32・・・(回路基板の)溝部、
4・・・放熱部材、4a・・・下面、41・・・(放熱部材の)溝部、
5・・・熱伝導材、6・・・シール部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13