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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022138559
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】A重油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10L 1/04 20060101AFI20220915BHJP
【FI】
C10L1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021038501
(22)【出願日】2021-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000105567
【氏名又は名称】コスモ石油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】特許業務法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三浦 靖智
(57)【要約】
【課題】発熱量の低下や着火性の低下を抑制しつつ低温下におけるワックス分の生成を効果的に抑制し得る新規なA重油組成物を提供する。
【解決手段】(i)セタン指数が44.0以上、(ii)ワックス析出点が3.0℃以下、(iii)鎖式飽和炭化水素の含有割合/環式飽和炭化水素の含有割合で表される比が、容量比で0.50~0.85、(iv)15℃における密度が0.8500g/cm~0.8750g/cmであることを特徴とするA重油組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)セタン指数が44.0以上、
(ii)ワックス析出点が3.0℃以下、
(iii)鎖式飽和炭化水素の含有割合/環式飽和炭化水素の含有割合で表される比が、容量比で0.50~0.85、
(iv)15℃における密度が0.8500g/cm~0.8750g/cm
であることを特徴とするA重油組成物。
【請求項2】
(a)15℃における密度が0.8200g/cm以上、
(b)10%残油の残留炭素分が0.05質量%以下、
(c)引火点が60.0℃以上、
(d)硫黄分含有割合が10質量ppm以下、
(e)環式飽和炭化水素の含有割合が60.0容量%~100.0容量%
である環式飽和炭化水素系基材を8.0容量%~35.0容量%含有する請求項1に記載のA重油組成物。










【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、A重油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、重油組成物は、各種産業分野において種々の用途に使用されており、JIS K2205において、動粘度により、1種(A重油)、2種(B重油)及び3種(C重油)の3種類に分類されている。
これらの重油組成物のうち、A重油は、一般にハウス加温栽培用暖房機の燃料油や、ビル等の暖房機の燃料油や、漁船の燃料油等として用いられている。
【0003】
ところで、A重油は、ガソリンや灯油に比較してより重質な成分を多量に含むため、冬季における低温下や寒冷地の低温環境下において、分子量の大きな飽和炭化水素(パラフィン分)が結晶化してワックス分を生成し、析出したワックス分が燃焼機器等に設けられている夾雑物阻止用のろ過器のフィルターを閉塞させ易いことから、こうしたA重油の低温性能の改善が求められるようになっていた。
【0004】
そこで、分子量の大きな飽和炭化水素の析出を抑制するために、A重油の製造に通常使用される基材の中でも軽質な基材である灯油を混合したり、芳香族炭化水素の配合割合を高める方法が提案されるようになっていた(例えば、特許文献1(特許第3945798号公報)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3945798号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、灯油は、冬期における需要も高いことから、特許文献1記載の方法では、特に冬期において灯油およびA重油の両者を経済的に生産し、供給する上で支障を生じ易い。
また、基材として灯油を使用した場合には、密度低下を生じて得られるA重油の発熱量の低下を招き易くなる。
一方、芳香族炭化水素の含有割合が高くなると、それに従って得られるA重油組成物の着火性の低下を招き易い。
【0007】
このような状況下、本発明は、発熱量の低下や着火性の低下を抑制しつつ低温下におけるワックス分の生成を効果的に抑制し得る新規なA重油組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記技術課題を解決するために本発明者等が鋭意検討したところ、(i)セタン指数が44.0以上、(ii)ワックス析出点が3.0℃以下、(iii)鎖式飽和炭化水素の含有割合/環式飽和炭化水素の含有割合で表される比が、容量比で0.50~0.85、(iv)15℃における密度が0.8500g/cm~0.8750g/cmであるA重油組成物により、上記技術課題を解決し得ることを見出し、本知見に基づいて本発明を完成するに至ったものである。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)(i)セタン指数が44.0以上、
(ii)ワックス析出点が3.0℃以下、
(iii)鎖式飽和炭化水素の含有割合/環式飽和炭化水素の含有割合で表される比が、容量比で0.50~0.85、
(iv)15℃における密度が0.8500g/cm~0.8750g/cm
であることを特徴とするA重油組成物、
(2)(a)15℃における密度が0.8200g/cm以上、
(b)10%残油の残留炭素分が0.05質量%以下、
(c)引火点が60.0℃以上、
(d)硫黄分含有割合が10質量ppm以下、
(e) 環式飽和炭化水素の含有割合が60.0容量%~100.0容量%
である環式飽和炭化水素系基材を8.0容量%~35.0容量%含有する上記(1)に記載のA重油組成物、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、発熱量の低下や着火性の低下を抑制しつつ低温下におけるワックス分の生成を効果的に抑制し得る新規なA重油組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
なお、本明細書中、数値範囲を現す「~」は、その上限及び下限としてそれぞれ記載されている数値を含む範囲を表す。また、「~」で表される数値範囲において上限値のみ単位が記載されている場合は、下限値も同じ単位であることを意味する。
本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。
本明細書において組成物中の各成分の含有率又は含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
本明細書において、好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0012】
本明細書において、下記項目の値は、特に断らない限り、各々以下の試験方法及び計算を用いて求めた値を意味する。
・「セタン指数」;
JIS K 2280-5:2013に規定されている4変数方程式による方法。
・「ワックス析出点」;
ワックス析出点は、試料中のワックスが析出し始める温度を意味し、以下に記載するとおり、DSC(示差走査熱量計)を用い、試料を一定速度で冷却して測定したDSC曲線の発熱ピークの補外開始温度より求める。
すなわち、(株)リガク製示差走査熱量計DSCvestaを用いて、試料約10mgを、流量毎分50mlの窒素雰囲気中で室温から毎分5℃の速度で冷却し、ワックス析出による発熱ピークを取得する。その後、発熱ピークの立ち上がり部分の最大傾斜点で接線を引き、ピーク前のベースラインと接線が交わった点の温度をワックス析出点として求める。
・「鎖式飽和炭化水素の含有割合および環式飽和炭化水素の含有割合」;
まず高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて、以下の条件により飽和分 (飽和炭化水素)と芳香族分(芳香族炭化水素)とを分取する。
装置:(株)島津製作所製 Prominence ISO-UV System (CBM20A)
カラム:Develosil 30-3 (4.6mmx250mm 野村化学(株)製)
カラム温度:室温
移動相:n-ヘキサン (HPLC用) 1.0mL/min 5.3MPa
試料希釈:n-ヘキサンで20容量%に希釈
サンプルラック温度:室温
続いて、分取した飽和分と芳香族分とを下記の条件で水素炎イオン化検出器付ガス クロマトグラフ(GC-FID)で測定し、それぞれの面積比を質量%として算出する。
装置:アジレント・テクノロジー社製Agilent 7890B
カラム:DB-HT SimDis 5m×0.53mmI.D.×0.15um (145-1001 Agilent社)
オーブン温度:40℃(1min)-(30℃/min)-350℃(2min)
注入口温度:オーブントラックモード(オーブン+3℃)
検出器:FID 400℃
キャリアガス:He 0.45702psi 3.51mL/min コンスタントフロー 27.453cm/sec
注入方法:オンカラム注入4μl
次に、分取した飽和分を以下の条件でガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)で測定し、平均マススペクトルを求めた後、ASTM D 2786に従って解析を行い、鎖式飽和炭化水素と環式飽和炭化水素の容量比を求める。
装置:アジレント・テクノロジー社製Agilent 7890A Agilent 5975C 四重極質量分析計
カラム:DB-1HT 30m×0.32mmI.D.×0.10um
オーブン温度:40℃(2min)-(20℃/min)-300℃(5min)
注入口温度:オーブントラックモード(オーブン+3℃)
トランスファライン温度:300℃
キャリアガス:He定圧モード30kPa 初期2.1mL/min 52cm/sec
溶媒待ち時間:2.5分
質量範囲:30-750 Threshold:100 Sampling♯2 2.07scan/sec
イオン化電圧:EI 70eV
注入方法:オンカラム注入0.5μl
最後に、飽和分と芳香族分の密度が同一と仮定し、GC-FIDで求めた飽和分の質量%に、GC/MSで求めた鎖式飽和炭化水素と環式飽和炭化水素の容量比を乗算することで、組成物中における鎖式飽和炭化水素の容量%と環式飽和炭化水素の容量%とを求める。
・「15℃における密度(密度(15℃))」;
JIS K 2249-1:2011「原油及び石油製品-密度の求め方―(振動法)」に規定されている方法。
・「50℃における動粘度(動粘度(50℃))」;
JIS K 2283:2000「原油及び石油製品-動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」に規定されている方法。
・「硫黄分含有割合」;
500質量ppm以下の硫黄分:JIS K 2541-6:2003「原油及び石油製品-硫黄分試験方法-第6部:紫外蛍光法」に規定されている方法。
500質量ppmを超える硫黄分:JIS K 2541-4:2003「原油及び石油製品-硫黄分試験方法-第4部:放射線式励起法」に規定されている方法。
・「10%残油の残留炭素分(10%残留炭素分)」;
JIS K 2270-2:2009「原油及び石油製品―残留炭素分の求め方―第2部:ミクロ法」に規定されている方法。
・「スラッジ量」;
全漁連A重油ドライスラッジ測定法 Z・G・ST-100に規定されている方法。
・「残留炭素分」:
JIS K 2270-2:2009「原油及び石油製品―残留炭素分の求め方―第2部:ミクロ法」に規定されている方法。
・「引火点」
JIS K 2265-3:2007「引火点の求め方―第3部:ペンスキーマルテンス密閉法」に規定されている方法(ただし、常圧蒸留残渣油と環式飽和炭化水素系基材はJIS K 2265-1:2007「引火点の求め方―第1部:タグ密閉式」に規定されている方法)。
・「流動点(PP)」
JIS K 2269:1987「原油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法」に規定されている方法。
・「曇り点」
JIS K 2269:1987「原油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法」に規定されている方法。
・「常圧蒸留における蒸留性状(留出温度)」;
JIS K 2254:1998「石油製品-蒸留試験方法」に規定されている「常圧法蒸留試験方法」に規定されている方法。
・「直鎖飽和炭化水素(n-パラフィン)の含有割合」;
以下の測定条件により水素炎イオン化検出器付ガスクロマトグラフ(GC-FID)により測定して炭素数毎のn-パラフィン含有割合を求める。
装置:アジレント・テクノロジー社製Agilent 6890N
カラム:DB-1 60m×0.32mmID DF:0.25μm
検出器:FID 350℃
オーブン温度:60℃(5min)-6℃/min-340℃(14min)
注入口:オーブントラックモード(オーブン温度+3℃)
キャリアガス:He 152kPa(2.9ml/min)定圧
メイクアップガス:窒素 25ml/min
FID燃焼ガス:H2 30ml/min Air 400ml/min
注入量:0.5μl オンカラム注入
定量方法:内標法 (内標 フタル酸ジ-n-ブチル)
試料希釈:試料0.1g 内標液1ml トルエン4ml
ベースライン:補正有り
【0013】
本発明に係るA重油組成物は、
(i)セタン指数が44.0以上、
(ii)ワックス析出点が3.0℃以下、
(iii)鎖式飽和炭化水素の含有割合/環式飽和炭化水素の含有割合で表される容量比が0.50~0.85、
(iv)15℃における密度が0.8500g/cm~0.8750g/cm
であることを特徴とするものである。
【0014】
本発明に係るA重油組成物は、(i)セタン指数が、44.0以上であるものであり、44.5以上であることが好ましく、45.0以上であることがより好ましい。
【0015】
本発明に係るA重油組成物において、(i)セタン指数の上限は特に制限されないが、(i)セタン指数は、通常60.0以下である。
【0016】
本発明に係るA重油組成物のセタン指数が44.0以上あることにより、A重油組成物を燃焼させる際に良好な発熱量の下で、好適な燃焼状態を容易に発揮することができる。
【0017】
本発明に係るA重油組成物は、(ii)ワックス析出点が、3.0℃以下であり、2.8℃以下であることが好ましく、2.6℃以下であることがより好ましい。
【0018】
本発明に係るA重油組成物のワックス析出点が3.0℃以下であることにより、低温下におけるワックス分の析出を効果的に抑制することができる。
【0019】
本発明に係るA重油組成物は、(iii)鎖式飽和炭化水素の含有割合/環式飽和炭化水素の含有割合で表される比が、容量比で、0.50~0.85であり、0.50~0.83であることが好ましく、0.55~0.83であることがより好ましい。
【0020】
上述したように、A重油組成物は、ガソリンや灯油に比較してより重質な鎖式飽和炭化水素を多量に含み、直鎖状の飽和炭化水素(n-パラフィン)が結晶化することによってワックス分を生成すると考えられる。
係るワックス分の生成を抑制するために、上述したように、芳香族炭化水素の含有割合を高める対応が考えられ、典型的には、流動接触分解装置又は残油流動接触分解装置において重質油を接触分解処理したときに得られる、芳香族炭化水素を豊富に含む接触分解軽油(LCO(ライトサイクルオイル))を構成基材として所定量配合する対応が考えられるものの、A重油組成物中の芳香族炭化水素の含有割合が高くなるに従い、着火性の低下を招き易くなる。
【0021】
本発明者等が検討したところ、所定量の鎖式飽和炭化水素に対して芳香族炭化水素を配合した場合に比較して、係る芳香族炭化水素と同量の環式飽和炭化水素を配合した場合の方がワックス析出点を低温度に抑制できることを見出した。
その上で、本発明者等は、A重油組成物を構成する鎖式飽和炭化水素に対し、芳香族炭化水素に代えて環式飽和炭化水素を多量に配合して、得られるA重油組成物の「鎖式飽和炭化水素の含有割合/環式飽和炭化水素の含有割合で表される比」を容量比で所定範囲内に制御した場合に、発熱量の低下や着火性の低下を抑制しつつ低温下におけるワックス分の生成を効果的に抑制し得ることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0022】
本発明に係るA重油組成物において、鎖式飽和炭化水素の含有割合/環式飽和炭化水素の含有割合で表される比が、容量比で上記範囲内にあることにより、発熱量の低下や着火性の低下を抑制しつつ低温下におけるワックス分の生成を効果的に抑制することができる。
【0023】
本発明に係るA重油組成物は、(iv)15℃における密度が、0.8500g/cm~0.8750g/cmであり、0.8550g/cm~0.8750g/cmであることが好ましく、0.8600g/cm~0.8750g/cmであることがより好ましい。
【0024】
本発明に係るA重油組成物の15℃における密度が上記範囲内にあることにより、A重油組成物を燃焼させる際に良好な燃焼状態を容易に達成することができる。
【0025】
本発明に係るA重油組成物は、50℃における動粘度が、20.000mm/秒以下(0.000mm/秒~20.000mm/秒以下)であることが好ましく、5.000mm/秒以下(0.000mm/秒~5.000mm/秒)であることがより好ましく、4.000mm/秒以下(0.000mm/秒~4.000mm/秒であることがさらに好ましい。
本発明に係るA重油組成物の50℃における動粘度が上記範囲内にあることにより、燃焼の不均一性及び失火を抑制することが可能となり、A重油組成物を安定して供給することが可能となる。
【0026】
本発明に係るA重油組成物は、硫黄分含有割合が、2.0質量%以下(0.0質量%~2.0質量%)であることが好ましく、1.0質量%以下(0.0質量%~1.0質量%)であることがより好ましく、0.5質量%以下(0.0質量%~0.5質量%)であることがさらに好ましい。
本発明に係るA重油組成物の硫黄分含有割合が上記範囲内にあることにより、本発明に係るA重油組成物において、硫黄分の含有量を適正な範囲に容易に制御して、燃焼時における硫黄化合物の生成を容易に抑制することができる。
【0027】
本発明に係るA重油組成物は、10%残油の残留炭素分が、0.20質量%~1.30質量%であることが好ましく、0.20質量%~1.00質量%であることがより好ましく、0.20質量%~0.80質量%であることがさらに好ましい。
本発明に係るA重油組成物の10%残油の残留炭素分が上記範囲にあることにより、スラッジの生成を好適に抑制することができる。
【0028】
本発明に係るA重油組成物は、スラッジ量が、10.0mg/100ml以下であることが好ましく、5.0mg/100ml以下であることがより好ましく、2.0mg/100ml以下であることがさらに好ましい。
【0029】
本発明に係るA重油組成物のスラッジ量が10.0mg/100ml以下であることにより、夾雑物阻止用に設けられるろ過器中のフィルターの閉塞を抑制し、フィルター通油性の高いA重油組成物を容易に提供することができる。
【0030】
本発明に係るA重油組成物は、引火点が、60.0℃以上であることが好ましく、65.0℃以上であることがより好ましく、70.0℃以上であることがさらに好ましい。
本発明に係るA重油組成物の引火点が60.0℃以上であることにより、より安全に取り扱うことが可能となる。
【0031】
本発明に係るA重油組成物は、流動点が、5.0℃以下であることが好ましく、0.0℃以下であることがより好ましく、-5.0℃以下であることがさらに好ましい。
本発明に係るA重油組成物の流動点が5.0℃以下であることにより、冬季の寒冷地においてもA重油組成物の流動性を好適に確保することができる。
本発明に係るA重油組成物の流動点の下限値については、特に制限されないが、本発明に係るA重油組成物の流動点は、通常は-60.0℃以上である。
【0032】
本発明に係るA重油組成物は、
(a)15℃における密度が0.8200g/cm以上、
(b)10%残油の残留炭素分が0.05質量%以下、
(c)引火点が60.0℃以上、
(d)硫黄分含有割合が10質量ppm以下、
(e)環式飽和炭化水素の含有割合が60.0容量%~100.0容量%
である環式飽和炭化水素系基材を8.0容量%~35.0容量%含有することが好ましい。
【0033】
本発明に係るA重油組成物において、環式飽和炭化水素系基材の(a)15℃における密度は、0.8200g/cm以上であることが好ましく、0.8200g/cm~0.8800g/cmであることがより好ましく、0.8300g/cm~0.8800g/cmであることがさらに好ましく、0.8350g/cm~0.8750g/cmであることが一層好ましい。
【0034】
本発明に係るA重油組成物において、環式飽和炭化水素系基材の(a)15℃における密度が上記範囲内にあることにより、本発明に係るA重油組成物において、発熱量の低下を抑制しつつ、ワックス分の生成を効果的に抑制することができる。
【0035】
本発明に係るA重油組成物において、環式飽和炭化水素系基材の(b)10%残油の残留炭素分は、0.05質量%以下(0.00質量%~0.05質量%)であることが好ましく、0.03質量%以下(0.00質量%~0.03質量%)であることがより好ましく、0.02質量%以下(0.00質量%~0.02質量%)であることがさらに好ましい。
【0036】
本発明に係るA重油組成物において、環式飽和炭化水素系基材の(b)10%残油の残留炭素分が上記範囲内にあることにより、本発明に係るA重油組成物において、スラッジの生成を好適に抑制することができる。
【0037】
本発明に係るA重油組成物において、環式飽和炭化水素系基材の(c)引火点は、60.0℃以上であり、65.0℃以上であることがより好ましく、70.0℃以上であることがさらに好ましい。
本発明に係るA重油組成物において、環式飽和炭化水素系基材の(c)引火点の上限は特に制限されないが、環式飽和炭化水素系基材の(c)引火点は、通常80.0℃以下である。
【0038】
本発明に係るA重油組成物において、環式飽和炭化水素系基材の(c)引火点が60.0℃以上であることにより、本発明に係るA重油組成物の引火点の低下を容易に抑制し易くなる。
【0039】
本発明に係るA重油組成物において、環式飽和炭化水素系基材の(d)硫黄分含有割合は、10質量ppm以下(0質量ppm~10質量ppm)が好ましく、8質量ppm以下(0質量ppm~8質量ppm)がより好ましく、5質量ppm以下(0質量ppm~5質量ppm)がさらに好ましく、3質量ppm以下(0質量ppm~3質量ppm)が一層好ましい。
【0040】
本発明に係るA重油組成物において、環式飽和炭化水素系基材の(d)硫黄分含有割合が上記範囲内にあることにより、本発明に係るA重油組成物において、硫黄分の含有量を適正な範囲に容易に制御することができ、燃焼時における硫黄化合物の生成を容易に抑制することができる。
【0041】
本発明に係るA重油組成物において、環式飽和炭化水素系基材の(e)環式飽和炭化水素の含有割合は、60.0容量%~100.0容量%であることが好ましく、65.0容量%~100.0容量%であることがより好ましく、70.0容量%~100.0容量%であることがさらに好ましい。
【0042】
本発明に係るA重油組成物において、環式飽和炭化水素系基材の(e)環式飽和炭化水素の含有割合が上記範囲内にあることにより、本発明に係るA重油組成物中における「(iii)鎖式飽和炭化水素の含有割合/環式飽和炭化水素の含有割合」で表される比を容易に制御して、発熱量の低下や着火性の低下を抑制しつつ低温下におけるワックス分の生成を効果的に抑制することができる。
【0043】
本発明に係るA重油組成物において、環式飽和炭化水素系基材の15℃における密度は、0.8200g/cm~0.8800g/cmであり、0.8300g/cm~0.8800g/cmであることが好ましく、0.8350g/cm~0.8750g/cmであることがより好ましい。
【0044】
本発明に係るA重油組成物において、環式飽和炭化水素系基材の50℃における動粘度は、1.000mm/秒~5.000mm/秒であることが好ましく、1.200mm/秒~3.000mm/秒であることがより好ましく、1.400mm/秒~2.500mm/秒であることがさらに好ましい。
【0045】
本発明に係るA重油組成物において、環式飽和炭化水素系基材の常圧蒸留における10.0容量%留出温度は、200.0℃~230.0℃であることが好ましく、205.0℃~230.0℃であることがより好ましく、210.0℃~230.0℃であることがさらに好ましい。
【0046】
本発明に係るA重油組成物において、環式飽和炭化水素系基材の常圧蒸留における50.0容量%留出温度は、210.0℃~230.0℃であることが好ましく、215.0℃~240.0℃であることがより好ましく、220.0℃~240.0℃であることがさらに好ましい。
【0047】
本発明に係るA重油組成物において、環式飽和炭化水素系基材の常圧蒸留における90.0容量%留出温度は、225.0℃~260.0℃であることが好ましく、230.0℃~260.0℃であることがより好ましく、230.5℃~260.0℃であることがさらに好ましい。
【0048】
本発明に係るA重油組成物において、環式飽和炭化水素系基材の含有割合は、8.0容量%~35.0容量%であることが好ましく、10.0容量%~35.0容量%であることがより好ましく、10.0容量%~33.0容量%であることがさらに好ましい。
【0049】
本発明に係るA重油組成物において、環式飽和炭化水素系基材の含有割合が上記範囲内にあることにより、「(iii)鎖式飽和炭化水素の含有割合/環式飽和炭化水素の含有割合で表される比」を所望範囲に容易に制御して、発熱量の低下や着火性の低下を抑制しつつ低温下におけるワックス分の生成を効果的に抑制することができる。
【0050】
本発明に係るA重油組成物において、環式飽和炭化水素系基材の製造方法は特に限定されないが、接触改質装置から得られる沸点範囲がおよそ200.0℃~300.0℃の重質留分を核水素化してなるものが挙げられる。
【0051】
本発明に係るA重油組成物において、上述した環式飽和炭化水素系基材とともに使用し得る構成基材としては、A重油組成物の構成基材として通常使用されているものであれば特に制限されず、例えば、直留軽油、減圧軽油、直接脱硫軽質軽油、直接脱硫重質軽油、水素化脱硫軽油、間接脱硫軽油、熱分解軽油、重質接触分解軽油、脱硫減圧軽油、接触分解軽油、常圧蒸留残渣油、減圧蒸留残渣油、エキストラクト油等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0052】
本発明に係るA重油組成物は、接触分解軽油の含有割合が低減されていたり、接触分解軽油を含まない、芳香族炭化水素の含有割合が低減されてなるものであっても、ワックス析出点を低温度に容易に抑制することができる。
【0053】
本発明に係るA重油組成物は、上述した各種基材とともに、各種の添加剤が配合されたものであってもよい。
上記添加剤としては、A重油組成物に通常添加されるものであれば特に制限されず、低温流動性向上剤、流動点降下剤、スラッジ分散剤、防錆剤、酸化防止剤、防食剤、防カビ剤、静電気防止剤、セタン価向上剤、金属不活性化剤等から選ばれる一種以上を挙げることができる。また、本発明に係るA重油組成物は、軽油引取税の観点よりクマリンが配合されたものであってもよい。
【0054】
本発明に係るA重油組成物は、例えば上述した各種の基材を、必要に応じて各種添加剤とともに混合することにより調製することができる。
この場合、上記各基材および添加剤の混合順序や混合方法は特に制限されない。
【0055】
本発明によれば、発熱量の低下や着火性の低下を抑制しつつ低温下におけるワックス分の生成を効果的に抑制し得る新規なA重油組成物を提供することができる。
【実施例0056】
以下、実施例を参照して本発明を更に詳しく説明するが、これらの実施例は本発明を実施した場合の代表的な例を示すもので、本発明は本実施例により何ら限定されるものではない。
表中の分析値は上記各測定方法に基づいて測定した値である。また、「―」となっている項目は未測定ないし含有しないことを示す。
【0057】
以下の実施例および比較例においては、以下の構成基材を採用した。各構成基材の物性を表1に示す。
なお、以下の基材Gおよび基材Hが環式飽和炭化水素系基材に相当する。
【0058】
(構成基材)
・基材A:直留軽油
・基材B:水素化脱硫直留軽油
・基材C:間接脱硫軽油
・基材D:減圧軽油
・基材E:接触分解軽油
・基材F:常圧蒸留残渣油
・基材G:接触改質装置から得られる沸点範囲が220.0℃~300.0℃である重質留分を核水素化したもの。
・基材H:接触改質装置から得られる沸点範囲が210.0℃~280.0℃である重質留分を核水素化したもの。
【0059】
【表1】
【0060】
(実施例1~実施例4、比較例1~比較例3)
実施例1~実施例4および比較例1~比較例3に係るA重油組成物として、上記基材A~基材Hを、各々、表2に示す割合になるように配合することにより各A重油組成物を調製した。
実施例1~実施例4および比較例1~比較例3で得られたA重油組成物の性状を表3および表4に示す。
【0061】
【表2】
【0062】
【表3】
【0063】
【表4】
【0064】
表3より、実施例1~実施例4で得られた本発明に係るA重油組成物は、(iii)鎖式飽和炭化水素の含有割合/環式飽和炭化水素の含有割合で表される比(容量比)および(iv)15℃における密度を各々所定範囲内に制御しつつ、(i)セタン指数および(ii)ワックス析出点について各々所定範囲内に制御したものであることにより、発熱量の低下や着火性の低下を抑制し、直鎖飽和炭化水素(n-パラフィン)の含有割合が比較例1~比較例3と同等であるにも拘わらず(表4)、低温下におけるワックス分の生成を効果的に抑制し得るものであることが分かる。
【0065】
これに対して、表3より、比較例1~比較例3で得られたA重油組成物は、環式飽和炭化水素の含有割合が低く、(iii)鎖式飽和炭化水素の含有割合/環式飽和炭化水素の含有割合で表される比(容量比)が所定範囲外であるために、(ii)ワックス析出点が3.0℃を超えてしまったり(比較例1および比較例2)、環式飽和炭化水素の含有割合が高く、(iii)鎖式飽和炭化水素の含有割合/環式飽和炭化水素の含有割合で表される比(容量比)が所定範囲外であるために、(i)セタン指数が45.0未満となり(比較例3)、低温下におけるワックス分の生成を抑制し得なかったり、発熱量の低下を招くものであることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によれば、発熱量の低下や着火性の低下を抑制しつつ低温下におけるワックス分の生成を効果的に抑制し得る新規なA重油組成物を提供することができる。