(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022138675
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】Ni基合金の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21J 5/00 20060101AFI20220915BHJP
【FI】
B21J5/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021038691
(22)【出願日】2021-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】特許業務法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】大竹 拓至
(72)【発明者】
【氏名】濱井 拓也
(72)【発明者】
【氏名】黒川 武紀
【テーマコード(参考)】
4E087
【Fターム(参考)】
4E087AA01
4E087BA03
4E087BA14
4E087BA24
4E087CA02
4E087CA03
4E087CC02
4E087CC04
4E087EA11
4E087EC01
4E087HA31
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ビレットを繰り返し据込及び鍛伸し導入されるひずみによる再結晶化により結晶粒の細かい内部組織を得るNi基合金の製造方法において、高い歩留まりを確保できる製造方法の提供。
【解決手段】鍛造加工でひずみを導入し再結晶化させるNi基合金の製造方法である。長手の合金ビレットを軸線に沿って上下一対の金敷2の間で両端部から圧縮するように据え込む据込工程と、合金ビレットを側面から圧縮し軸線に沿って鍛伸する鍛伸工程と、を繰り返して柱状に成形加工する成形加工工程を含み、合金ビレット1の端面1aを部分的に軸線Aに沿って押し込んでいき、端部にひずみを部分的に導入する端部圧縮工程を含むことを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍛造加工でひずみを導入し再結晶化させるNi基合金の製造方法であって、
長手の合金ビレットを軸線に沿って上下一対の金敷の間で両端部から圧縮するように据え込む据込工程と、
前記合金ビレットを側面から圧縮し前記軸線に沿って鍛伸する鍛伸工程と、を繰り返して柱状に成形加工する成形加工工程を含み、
前記合金ビレットの端面を部分的に前記軸線に沿って押し込んでいき、前記端部にひずみを部分的に導入する端部圧縮工程を含むことを特徴とするNi基合金の製造方法。
【請求項2】
前記端部圧縮工程は、前記端面の位置を前記軸線に沿った方向に所定量だけ移動させるように制御されることを特徴とする請求項1記載のNi基合金の製造方法。
【請求項3】
前記端部圧縮工程は、前記成形加工工程の間に行われることを特徴とする請求項1又は2に記載のNi基合金の製造方法。
【請求項4】
前記端部圧縮工程は、前記成形加工工程の後に行われることを特徴とする請求項1又は2に記載のNi基合金の製造方法。
【請求項5】
前記端部圧縮工程は、前記軸線を挟んだ前記端面の一方の周縁部から前記端面の他方の周縁部へ向けて押し込む位置を順に移動させることを特徴とする請求項4記載のNi基合金の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍛造加工でひずみを導入し再結晶化させるNi基合金の製造方法に関し、特に、ビレットを繰り返し据込及び鍛伸し導入されるひずみによる再結晶化によって結晶粒の細かい内部組織を得るNi基合金の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Ni基合金からなるビレットを高温で繰り返し据込及び鍛伸し、ビレット全体にひずみを導入しておいて再結晶化を促進させ、結晶粒の細かい内部組織を作り込もうとするNi基合金の製造方法が知られている。一方で、外部からハンマーなどで変形を与える鍛造工程によるひずみの導入が十分でないと、特に、大型のビレット中心部などでは外部からの鍛造ひずみが到達しづらいため、結果として、再結晶化を均一に得られないといった問題が指摘されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、鍛造によって中央部にひずみを導入しづらい円柱状の鍛造品、特に、太径の鍛造品において、最終の鍛造品、すなわち、仕上げ鍛造加工後の円柱状の部材に求められる中心部までの内部組織の作り込みを鍛造工程初期の粗鍛造加工時に行っておくとするNi基合金の製造方法を開示している。詳細には、粗鍛造加工において、1180~1280℃でのMC型晶出物を母相に固溶させる高温でのソーキングを行った上で、1030~1150℃の温度範囲で、圧下率20%以上の据込及び鍛伸を合せて2回以上繰り返して行い、中心部に到るまで十分なひずみを導入しておく。その上で、最終の仕上げ鍛造加工において、1080℃以下の比較的低い温度で設定結晶粒度を確保しながら、4面鍛造加工によって所定形状に成形するとしている。最終仕上げの4面鍛造加工では中心部まで十分なひずみを導入できないとしても、かかる方法によれば、被鍛造材全体にひずみを十分に導入でき、再結晶化を良好に得られるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
長手の合金ビレットを軸線に沿った方向に据込鍛造する工程時の上下面の金型接触部は、ひずみの小さい若しくはひずみの与えられないデッドメタルとなって、再結晶化を十分に得られないことがある。そのため、ビレットの上下面を切り落とすことが考慮されるが、製造の歩留まりを低下させることとなる。
【0006】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、ビレットを繰り返し据込及び鍛伸し導入されるひずみによる再結晶化によって結晶粒の細かい内部組織を得るNi基合金の製造方法において、高い歩留まりを確保できる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による方法は、鍛造加工でひずみを導入し再結晶化させるNi基合金の製造方法であって、長手の合金ビレットを軸線に沿って上下一対の金敷の間で両端部から圧縮するように据え込む据込工程と、前記合金ビレットを側面から圧縮し前記軸線に沿って鍛伸する鍛伸工程と、を繰り返して柱状に成形加工する成形加工工程を含み、前記合金ビレットの端面を部分的に前記軸線に沿って押し込んでいき、前記端部にひずみを部分的に導入する端部圧縮工程を含むことを特徴とする。
【0008】
かかる特徴によれば、合金ビレットに導入されるひずみ分布を制御し、内部組織を均質化させ規格外となり得る部分を抑制し、高い歩留まりを確保できるのである。
【0009】
上記した発明において、前記端部圧縮工程は、前記端面の位置を前記軸線に沿った方向に所定量だけ移動させるように制御されることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、合金ビレットに導入されるひずみ分布を簡便に制御し、高い歩留まりを確保できるのである。
【0010】
上記した発明において、前記端部圧縮工程は、前記成形加工工程の間に行われることを特徴としてもよい。また、前記端部圧縮工程は、前記成形加工工程の後に行われることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、据え込み及び鍛伸によって合金ビレットに導入されるひずみ分布に対応させてこれを正確に制御し、高い歩留まりを確保できるのである。
【0011】
上記した発明において、前記端部圧縮工程は、前記軸線を挟んだ前記端面の一方の周縁部から前記端面の他方の周縁部へ向けて押し込む位置を順に移動させることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、合金ビレットに導入されるひずみ分布を詳細且つ簡便に制御できて、高い歩留まりを確保できるのである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】合金ビレットの(a)据え込み工程及び(b)鍛伸工程を示す側面図である。
【
図2】合金ビレットの端部圧縮工程を示す側面図である。
【
図3】合金ビレットの端部圧縮工程を示す上面図である。
【
図5】シミュレーションによる累積ひずみの分布を示すビレットの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明による1つの実施例としてNi基合金の製造方法について、
図1に沿って説明する。本実施例では、Ni基合金の製造方法のうち、合金ビレットの鍛造加工による成形加工工程について説明する。
【0014】
図1に示すように、合金ビレット1は、(a)据込工程及び(b)鍛伸工程を複数回組み合わせた成形加工工程によって柱状に成形される。このように据込工程と鍛伸工程とを繰り返すのは、Ni基合金による合金ビレット1の全体に亘ってひずみを導入して加熱による再結晶化を促し、微細な金属組織を合金ビレット1全体に得るためである。据込工程では、上下一対の金敷2の間で、両端部からその長手方向の軸線Aに沿って圧縮するように据え込む。一方、鍛伸工程では、合金ビレット1を側面から圧縮して縮径させつつ軸線Aに沿った方向に伸ばすように鍛伸する。
【0015】
ここで、据込工程では、合金ビレット1の端面1aの全面に金敷2が接触し、端面1aの近傍にひずみの導入されない端部領域3が存在し、成形加工工程においてひずみの導入されないデッドメタルを生じることがある。一般的には、成形加工工程の後に端部を切り捨ててこの端部領域3を除去するが、歩留まりを低下させてしまう。そこで、本実施例においては、合金ビレット1の端部にひずみを部分的に導入させる端部圧縮工程を成形加工工程に含めている。
【0016】
図2に示すように、端部圧縮工程では、端面1aを部分的に軸線Aに沿って押し込むことで、端部を容易に変形させ得て、その結果、端部領域3にもひずみを導入できる。金敷2を圧下する力が一定であれば、押し込む部分の面積を小さくすることで、応力を大きくし、軸線Aに沿った方向へのひずみの伝達を少なくする一方で、端部領域3に局所的なひずみを導入させることができる。
【0017】
図2(a)に示すように、ここでは、まず金敷2を軸線Aから離間する方向へ相対的にオフセットさせ、金敷2の水平方向の端部近傍を用いて、合金ビレットの軸線Aを挟んだ一方の周縁部を部分的に押し込む。上下一対の金敷2は、押圧面を同様の形状としており、合金ビレット1の上下の端面1aに略同一の形状で接触し、上下の端部を同時にかつ部分的に押し込むことができる。その結果、この最初の押し込み位置は、端面1aに形成された凹部1b(
図2(b)参照)となる。
【0018】
次いで、
図2(b)に示すように、金敷2を合金ビレット1に対して相対的に他方の周縁部へ向けて移動させ、端面aの凹部1b以外の部分を同様に部分的に押し込む。このとき、押し込み量は最初の押し込み位置の押し込み量と同じとする。つまり、最初の押し込み位置と次の押し込み位置とで押し込んだ結果として略平面をなし、結果として凹部1bを拡げたことになる(
図2(c)参照)。
【0019】
図2(c)に示すように、さらに金敷2を順に移動させて部分的な押し込みを繰り返し、他方の周縁部を最後に押し込み位置として部分的に押し込む。これによって、端面1aの全面を複数回に分けて部分的に押し込むことができる。このようにして、端部圧縮工程では、端面1aの位置を軸線Aに沿った方向に所定量だけ移動させるように制御される。この、端面1aの全面の所定量の押し込みを端部圧縮工程の1セットとする。
【0020】
そして、
図3に示すように、1セット目において一方の周縁部の最初の押し込み位置内の点P1から軸線Aを通過する方向に向けて相対的に金敷2を移動させた場合(
図3(aa)参照)、2セット目は点P1を軸線Aの周りに90度回転させた点P2を含む部分を最初の押し込み位置として、点P2を通過する方向に向けて相対的に金敷2を移動させて(
図3(b)参照)部分的な押し込みを行う。このように、目標寸法となるまで複数セットを繰り返す。実際には、金敷2に対して合金ビレット1を移動させることになるので、1セット毎に合金ビレット1を軸線Aの周りに所定角度回転させることが好ましい。なお、端部圧縮工程は1セットで終えてもよい。また、端部圧縮工程は、部分的な押し込みが可能であれば、他の方法であってもよい。
【0021】
図4に示すように、例えば、直径500mm、高さ1800mmの合金ビレット1を素材とする成形加工工程では、まず据込(据込工程:S1)と端部圧縮(端部圧縮工程:S2)とで高さ900mm(鍛錬成形比1/2U)とする。この場合、最初の据込工程では940mmの高さとしておき、2セットの端部圧縮で合金ビレット1を高さ900mmに成形する。つまり、1セットの端部圧縮において圧下量を20mm程度とする。
【0022】
なお、端部圧縮工程(S2)では、端面1aの広くなった据込工程(S1)後であると、押し込み位置を容易に定め得て好ましい。また、端部圧縮工程(S2)は、作業効率の観点から、据込工程(S1)と同一パス(同一ヒート)において行うことが好ましい。
【0023】
続いて鍛伸(鍛伸工程:S3)において対辺の距離を500mmとする八角形断面を有する高さ1660mmの柱状に成形し、さらに据込工程(S4)、端部圧縮工程(S5)で高さ830mm(鍛錬成形比1/2U)とし、鍛伸工程(S6)によって直径318mmの円形断面を有する円柱状にして成形加工を完了する。最後の鍛伸工程(S6)は、合金ビレット1を所望の形状に成形するため、複数パスとしてもよい。
【0024】
このように成形加工工程の間に端部圧縮工程を行うことで、予め端部領域3にひずみを導入できて成形加工工程全体を通して導入されるひずみ分布を正確に制御できる。ひずみ分布を制御することで、成形加工後に得られる合金ビレット1の内部の金属組織を均質化させることができる。例えば、導入されたひずみの累積である累積ひずみを合金ビレット1の全体で均一にするようにしてもよい。
【0025】
なお、端部圧縮工程は成形加工工程の後に行ってもよい。この場合、最終工程で端部領域3にひずみを追加導入し、最終的なひずみ分布を制御できる。このようなひずみの制御によって、内部組織を均質化してもよい。
【0026】
図5には、成形加工工程により合金ビレット1に導入された累積ひずみの分布をシミュレーションにより得た結果を合金ビレット1の端部から中央部付近まで示した。ここでは、成形加工工程は7パスで行い、そのうち1パス目、及び3パス目が据込工程、他は鍛伸工程である。端部圧縮工程を1パス目と3パス目の据込工程後に加えた場合と、端部圧縮工程を加えなかった場合とを比較した。なお、端部圧縮工程を加える場合、端部圧縮工程による変形量分を残して据込工程を行った。つまり、端部圧縮工程後と、端部圧縮工程を行わなかった据込工程後とで合金ビレット1を同じ寸法とするようにした。
【0027】
端部圧縮工程を加えた場合(
図5(a)参照)、合金ビレット1の全体に亘って比較的均一にひずみが導入されていることが判る。これに対して、端部圧縮工程を加えなかった場合(
図5(b)参照)、端部に導入されたひずみは少なく、比較的偏りを大きくしていることが判る。
【0028】
このように、端部圧縮工程を加えることにより、端部にもひずみを導入でき、合金ビレット1の全体に導入されるひずみを制御することができる。その結果、合金ビレット1の内部組織を均質化させることができる。これによって規格外となり得る内部組織の部分の端部領域3での生成を抑制して端部の切り捨てを不要とし、高い歩留まりを確保してNi基合金を製造することができる。
【0029】
以上、本発明の代表的な実施例及びこれに基づく改変例を説明したが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、種々の代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。
【符号の説明】
【0030】
1 合金ビレット
1a 端面
2 金敷
A 軸線