(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022138676
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】ポリヌクレオチド、翻訳鋳型mRNA、転写鋳型DNA、翻訳鋳型mRNAの生産方法およびポリペプチドの生産方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20220915BHJP
C12N 15/10 20060101ALI20220915BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220915BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20220915BHJP
C12P 19/34 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
C12N15/11 Z ZNA
C12N15/10 Z
C12N15/63 Z
C12P21/02 C
C12P19/34 A
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021038692
(22)【出願日】2021-03-10
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】517418057
【氏名又は名称】NUProtein株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167689
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 征二
(72)【発明者】
【氏名】南 賢尚
(72)【発明者】
【氏名】多田 裕昭
(72)【発明者】
【氏名】加藤 晃
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 将太朗
【テーマコード(参考)】
4B064
【Fターム(参考)】
4B064AF27
4B064AG01
4B064CC24
4B064DA13
(57)【要約】 (修正有)
【課題】無細胞タンパク質合成系において、キャップ構造を有さない翻訳鋳型mRNAに適した翻訳促進活性を有するポリヌクレオチドを提供する。
【解決手段】無細胞タンパク質合成系において翻訳反応促進のために使用される、以下の(1)~(3)から選択されるいずれか一つのポリヌクレオチド。
(1)ある特定の8種の塩基配列から選択されるいずれか一つのポリヌクレオチド。
(2)前記(1)のポリヌクレオチドにおいて、1または数個の塩基が置換、欠損もしくは付加された塩基配列を有し、かつ前記ある特定の8種の塩基配列から選択されるいずれか一つのポリヌクレオチドと同等の翻訳促進活性を有するポリヌクレオチド。
(3)前記(1)のポリヌクレオチドと相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ前記(1)のポリヌクレオチドと同等の翻訳促進活性を有するポリヌクレオチド。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無細胞タンパク質合成系において翻訳反応促進のために使用される、以下の(1)~(3)から選択されるいずれか一つのポリヌクレオチド。
(1)配列番号1~8に示す塩基配列から選択されるいずれか一つのポリヌクレオチド、
(2)配列番号1~8に示す塩基配列から選択されるいずれか一つのポリヌクレオチドにおいて、1または数個の塩基が置換、欠損もしくは付加された塩基配列を有し、かつ配列番号1~8に示す塩基配列から選択されるいずれか一つのポリヌクレオチドと同等の翻訳促進活性を有するポリヌクレオチド、
(3)配列番号1~8に示す塩基配列から選択されるいずれか一つのポリヌクレオチドと相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ配列番号1~8に示す塩基配列から選択されるいずれか一つのポリヌクレオチドと同等の翻訳促進活性を有するポリヌクレオチド。
【請求項2】
請求項1に記載のポリヌクレオチドの5’末端から全長に対し半分の長さを有する前半分の部分配列である、
ポリヌクレオチド。
【請求項3】
請求項2に記載のポリヌクレオチドは、配列番号9に示す塩基配列である、
ポリヌクレオチド。
【請求項4】
無細胞タンパク質合成系に用いる翻訳鋳型mRNAであって、
翻訳鋳型mRNAは、
請求項1~請求項3のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドと、
ポリヌクレオチドの3’末端側に配置されるポリペプチドをコードするコーディング領域と、
を含む、翻訳鋳型mRNA。
【請求項5】
無細胞タンパク質合成系に用いる転写鋳型DNAであって、
転写鋳型DNAは、
プロモータ領域と、
請求項1~請求項3のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドと、
ポリペプチドをコードするコーディング領域と、
を含み、
ポリヌクレオチドは、プロモータ領域の3’末端側に配置され、
コーディング領域は、ポリヌクレオチドの3’末端側に配置される、
転写鋳型DNA。
【請求項6】
無細胞タンパク質合成系に用いる翻訳鋳型mRNAの生産方法であって、
細胞の不存在下であって、かつ転写鋳型DNAをmRNAに転写するための要素の存在下で請求項5に記載の転写鋳型DNAを用いて翻訳鋳型mRNAを合成する工程、
を備える、翻訳鋳型mRNAの生産方法。
【請求項7】
無細胞タンパク質合成系によるポリペプチドの生産方法であって、
細胞の不存在下であって、かつ翻訳鋳型mRNAをポリペプチドに翻訳するための要素の存在下で、請求項4に記載の翻訳鋳型mRNAまたは請求項6に記載の翻訳鋳型mRNAの生産方法で生産した翻訳鋳型mRNAを用いてポリペプチドを合成する工程、
を備える、ポリペプチドの生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願における開示は、ポリヌクレオチド、翻訳鋳型mRNA、転写鋳型DNA、翻訳鋳型mRNAの生産方法およびポリペプチドの生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無細胞タンパク質合成系は、タンパク質合成に関わる細胞内要素を含む媒体を準備して、鋳型DNAの転写から翻訳まで無細胞で行う。そして、無細胞タンパク質合成系は、転写鋳型である鋳型DNAを媒体に適用して最終産物であるタンパク質を合成する系と、翻訳鋳型であるmRNAを媒体に適用してタンパク質を合成する系とがある。
【0003】
無細胞タンパク質合成系は、真核生物・細胞を利用しないためウィルス等が混入するリスクがなく、細胞毒性のあるタンパク質の合成も可能であり、安定的な合成が行えることから、広範な研究分野での利用が期待されている。一方で、無細胞タンパク質合成系は、真核生物あるいは大腸菌等の大量培養による合成と比較して、一般的にタンパク質合成量が劣るとされている。そのため、タンパク質合成に用いるmRNA配列、特にmRNAの5’非翻訳領域(5’UTR)における翻訳促進活性を有するエンハンサー配列の最適化によるタンパク質の高発現化が課題となっている。
【0004】
翻訳促進活性を有する配列は、例えば、細胞内の全mRNA種の翻訳状態を解析し、翻訳状態が良く活発に翻訳されているmRNAの5’UTRから取得できる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、シロイヌナズナを用いて、成長段階に応じて全mRNA種の翻訳状態を解析し、全ての成長段階において活発に翻訳されているmRNAを取得し、当該mRNAの5’UTRを、任意のタンパク質をコードするポリヌクレオチドの5'側上流に付加させて、タンパク質を発現させることが開示されている。
【0007】
ところで、真核生物のmRNAは、DNAより転写された後、スプライシングやポリAテールの付加、キャップ構造の付加などの様々な修飾が行われていることが知られている。ポリAテールおよびキャップ構造の付加により、真核生物mRNAは、リボソームの40sサブユニットへの結合が促進される。従来、真核生物由来の無細胞タンパク質合成用抽出液を用いる場合、効率的な翻訳反応を行うために、転写反応系に市販のキャップアナログを添加してmRNAのキャッピングを行ってきた。しかし、キャップアナログは高価であり、転写効率を著しく減少させmRNAも少量しか得られないという問題があった。したがって、キャップ構造を有さないmRNAにおいても翻訳促進活性を有する配列が求められている。
【0008】
特許文献1に開示された5’UTRを取得する手法では、キャップ構造を有するmRNAについて解析が行われており、得られた5’UTRはキャップ構造を有さないmRNAに適した翻訳促進活性を有しているか不明である。
【0009】
そこで、出願人は、(1)細胞から抽出したmRNAからキャップ構造を取り除きキャップ構造を持たない多種多様なmRNA配列を準備し、(2)それを無細胞タンパク質合成系でまとめて翻訳させ、(3)次世代シーケンサーを用いた翻訳効率の評価法であるポリソーム/改変CAGE解析を行った。その結果、出願人は、キャップ構造を有さない鋳型ポリヌクレオチドに適した翻訳促進活性を有するポリヌクレオチドを新たに見出した。
【0010】
すなわち、本出願の開示の目的は、ポリヌクレオチド、翻訳鋳型mRNA、転写鋳型DNA、翻訳鋳型mRNAの生産方法およびポリペプチドの生産方法を提供することである。本出願における開示のその他の任意付加的な効果は、発明を実施するための形態において明らかにされる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
[1]無細胞タンパク質合成系において翻訳反応促進のために使用される、以下の(1)~(3)から選択されるいずれか一つのポリヌクレオチド。
(1)配列番号1~8に示す塩基配列から選択されるいずれか一つのポリヌクレオチド、
(2)配列番号1~8に示す塩基配列から選択されるいずれか一つのポリヌクレオチドにおいて、1または数個の塩基が置換、欠損もしくは付加された塩基配列を有し、かつ配列番号1~8に示す塩基配列から選択されるいずれか一つのポリヌクレオチドと同等の翻訳促進活性を有するポリヌクレオチド、
(3)配列番号1~8に示す塩基配列から選択されるいずれか一つのポリヌクレオチドと相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ配列番号1~8に示す塩基配列から選択されるいずれか一つのポリヌクレオチドと同等の翻訳促進活性を有するポリヌクレオチド。
[2]上記[1]に記載のポリヌクレオチドの5’末端から全長に対し半分の長さを有する前半分の部分配列である、
ポリヌクレオチド。
[3]上記[2]に記載のポリヌクレオチドは、配列番号9に示す塩基配列である、
ポリヌクレオチド。
[4]無細胞タンパク質合成系に用いる翻訳鋳型mRNAであって、
翻訳鋳型mRNAは、
上記[1]~[3]のいずれか一つに記載のポリヌクレオチドと、
ポリヌクレオチドの3’末端側に配置されるポリペプチドをコードするコーディング領域と、
を含む、翻訳鋳型mRNA。
[5]無細胞タンパク質合成系に用いる転写鋳型DNAであって、
転写鋳型DNAは、
プロモータ領域と、
上記[1]~[3]のいずれか一つに記載のポリヌクレオチドと、
ポリペプチドをコードするコーディング領域と、
を含み、
ポリヌクレオチドは、プロモータ領域の3’末端側に配置され、
コーディング領域は、ポリヌクレオチドの3’末端側に配置される、
転写鋳型DNA。
[6]無細胞タンパク質合成系に用いる翻訳鋳型mRNAの生産方法であって、
細胞の不存在下であって、かつ転写鋳型DNAをmRNAに転写するための要素の存在下で上記[5]に記載の転写鋳型DNAを用いて翻訳鋳型mRNAを合成する工程、
を備える、翻訳鋳型mRNAの生産方法。
[7]無細胞タンパク質合成系によるポリペプチドの生産方法であって、
細胞の不存在下であって、かつ翻訳鋳型mRNAをポリペプチドに翻訳するための要素の存在下で、上記[4]に記載の翻訳鋳型mRNAまたは上記[6]に記載の翻訳鋳型mRNAの生産方法で生産した翻訳鋳型mRNAを用いてポリペプチドを合成する工程、
を備える、ポリペプチドの生産方法。
【発明の効果】
【0012】
無細胞タンパク質合成系において、キャップ構造を有さない翻訳鋳型mRNAに適した翻訳促進活性を有するポリヌクレオチドを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】
図2A;ポリソーム分画法の概略図。
図2B;ポリソームプロファイルを示す図。
【
図3】実施例1で作製した転写鋳型DNA1の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本出願で開示する、ポリヌクレオチド、翻訳鋳型mRNA、転写鋳型DNA、翻訳鋳型mRNAの生産方法およびポリペプチドの生産方法について詳しく説明する。なお、以下の説明は、理解を容易にするためのものであり、本出願で開示する技術事項の範囲は、以下の説明に限定されない。以下の例示以外にも、本出願で開示する趣旨を損なわない範囲で適宜変更できることは言うまでもない。
【0015】
本明細書において、ポリヌクレオチドは、特にことわりがない限り、DNAでもよく、RNAでもよい。また、塩基配列においてチミン(T)とウラシル(U)は、塩基配列情報として同等であるので、以下において塩基配列を表記した際、チミンはウラシルであってもよく、ウラシルはチミンであってもよい。
【0016】
(ポリヌクレオチドの実施形態)
実施形態に係るポリヌクレオチドは、無細胞タンパク質合成系において翻訳反応促進のために使用される、以下の(1)~(3)から選択されるいずれか一つのポリヌクレオチドである。
【0017】
(1)配列番号1~8に示す塩基配列から選択されるいずれか一つのポリヌクレオチド、
(2)配列番号1~8に示す塩基配列から選択されるいずれか一つのポリヌクレオチドにおいて、1または数個の塩基が置換、欠損もしくは付加された塩基配列を有し、かつ配列番号1~8に示す塩基配列から選択されるいずれか一つのポリヌクレオチドと同等の翻訳促進活性を有するポリヌクレオチド、
(3)配列番号1~8に示す塩基配列から選択されるいずれか一つのポリヌクレオチドと相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ配列番号1~8に示す塩基配列から選択されるいずれか一つのポリヌクレオチドと同等の翻訳促進活性を有するポリヌクレオチド。
【0018】
上記した(1)のポリヌクレオチドの内、配列番号1に示す塩基配列を有するポリヌクレオチドは、イネのOs10t0377150-00遺伝子において5’UTRをコードするポリヌクレオチドである。配列番号2に示す塩基配列を有するポリヌクレオチドは、イネのOs10t0483900-01遺伝子において5’UTRをコードするポリヌクレオチドである。配列番号3に示す塩基配列を有するポリヌクレオチドは、イネのOs03t0670700-01遺伝子において5’UTRをコードするポリヌクレオチドである。配列番号4に示す塩基配列を有するポリヌクレオチドは、イネのOs03t0151600-02遺伝子において5’UTRをコードするポリヌクレオチドである。配列番号5に示す塩基配列を有するポリヌクレオチドは、イネのOs09t0514600-00遺伝子において5’UTRをコードするポリヌクレオチドである。配列番号6に示す塩基配列を有するポリヌクレオチドは、イネのOs06t0115700-02遺伝子において5’UTRをコードするポリヌクレオチドである。配列番号7に示す塩基配列を有するポリヌクレオチドは、イネのOs09t0417400-00遺伝子において5’UTRをコードするポリヌクレオチドである。配列番号8に示す塩基配列を有するポリヌクレオチドは、イネのOs02t0799700-01遺伝子において5’UTRをコードするポリヌクレオチドである。
【0019】
配列番号1~8に示す塩基配列を有するポリヌクレオチドは、後述するポリソーム/改変CAGE解析によってキャップ構造を有さないmRNAに対し翻訳効率が高いとされた塩基配列である。したがって、配列番号1~8に示す塩基配列を有するポリヌクレオチドは、キャップ構造を有さない翻訳鋳型mRNAに適した翻訳促進活性を有している。
【0020】
上記した(2)のポリヌクレオチドにおいて、置換、欠失若しくは付加される塩基の数については、1又は数個であればよいが、具体的には1~15個、好ましくは1~10個、更に好ましくは1~8個、特に好ましくは1~8個、1~7個、1~6個、1~5個、1~4個、1~3個、1または2個、あるいは1個が挙げられる。
【0021】
上記した(3)のポリヌクレオチドにおいて、本明細書における「ストリンジェントな条件」とは、配列類似性が高い一対のポリヌクレオチドが特異的にハイブリダイズできる条件を意味する。配列類似性が高い一対のポリヌクレオチドとは、例えば80%以上、好ましくは90%以上、更に好ましくは95%、特に好ましくは98%以上の同一性を有するポリヌクレオチドを意味する。一対のポリヌクレオチド間の同一性は、ブラストの相同性検索ソフトウェアをデフォルトの設定で利用して算出することができる。また、「ストリンジェントな条件」とは、具体的には、5×SSC(83mM NaCl、83mM クエン酸ナトリウム)を用いて42℃での温度条件下でハイブリダイズさせる条件等が挙げられる。
【0022】
また、上記した(2)および(3)のポリヌクレオチドにおいて、「配列番号1~8に示す塩基配列から選択されるいずれか一つのポリヌクレオチドと同等の翻訳促進活性を有する」とは、(2)または(3)のポリヌクレオチドをエンハンサーとして使用してポリペプチド合成を行った場合、配列番号1~8に示す塩基配列から選択されるいずれか一つのポリヌクレオチドをエンハンサーとして使用した場合に比べて、ポリペプチドの発現量が同等であることを意味する。具体的には、配列番号1~8に示す塩基配列から選択されるいずれか一つのポリヌクレオチドをエンハンサーとして使用してポリペプチド合成を行った際のポリペプチドの発現量を100%とすると、(2)または(3)のポリヌクレオチドをエンハンサーとして使用して組み換えポリペプチド合成を行った場合に、組み換えポリペプチドの発現量が、80%以上、好ましくは85~120%、更に好ましくは90~120%、特に好ましくは95~120%である。
【0023】
さらに、実施形態に係るポリヌクレオチドは、上記した(1)~(3)における配列番号1~8に示す塩基配列の部分配列であってもよい。無細胞タンパク質合成系で転写鋳型DNAを使用する際、mRNAの合成効率の観点から、目的ポリペプチドのコーディング領域以外の配列は短い方が好ましい。したがって、配列番号1~8に示す塩基配列と配列類似性が高く、かつ長さが短いポリヌクレオチドとして、配列番号1~8に示す塩基配列の一部である部分配列を、キャップ構造を有さないmRNAのエンハンサーとして用いてもよい。当該部分配列は、配列番号1~8に示す塩基配列の一部の配列を有していれば、特に制限はない。例えば、配列番号1~8に示す塩基配列の全長に対し半分の長さであってもよく、配列番号1~8に示す塩基配列の全長に対し6割、7割、8割または9割であってもよい。また、その場所は、配列番号1~8に示す塩基配列の5’末端側からの部分配列、中央の部分配列、3’末端側からの部分配列であってもよい。例えば、配列番号1~8に示す塩基配列の部分配列を5’末端から全長に対し半分の長さを有する前半分とするのであれば、配列番号1~8に示す塩基配列の部分配列は、5’側の先頭から半分までの塩基配列となる。なお、本明細書中において、「全長に対し半分の長さ」というのは、塩基配列の全長に0.5を乗じて、小数点以下端数が出た場合は、小数点以下を切り上げるものとする。(例えば、塩基配列全長を11であれば、全長に対し半分の長さは6とする)。また、塩基配列の全長に対し6割、7割、8割または9割についても同様である。
【0024】
上記した(1)のポリヌクレオチドは、イネの細胞から公知の手法に従って取得できるが、化学合成によって得ることもできる。また、上記した(2)および(3)のポリヌクレオチドは、(1)のポリヌクレオチドを公知の遺伝子工学的手法を用いて改変することで得ることができ、また化学合成によって得ることもできる。
【0025】
(翻訳鋳型mRNAの実施形態)
翻訳鋳型mRNAの実施形態について説明する。翻訳鋳型mRNAは、上記した実施形態に係るポリヌクレオチドと、ポリヌクレオチドの3’末端側に配置される目的ポリペプチドをコードするコーディング領域とを含む。そして、実施形態に係る翻訳鋳型mRNAは、キャップ構造を有さない。
【0026】
コーディング領域の5’上流側に実施形態に係るポリヌクレオチドが配置されるため、コーディング領域にコードされた目的ポリペプチドの翻訳を促進できる。ポリヌクレオチドが翻訳鋳型mRNAに適用される場合には、一本鎖のポリヌクレオチドである。
【0027】
(転写鋳型DNAの実施形態)
転写鋳型DNAの実施形態について説明する。転写鋳型DNAは、プロモータ領域と上記した実施形態に係るポリヌクレオチドと、目的ポリペプチドをコードするコーディング領域とを含む。そして、実施形態に係るポリヌクレオチドはプロモータ領域の3’末端側に配置され、コーディング領域は、当該ポリヌクレオチドの3’末端側に配置される。実施形態に係るポリヌクレオチドは、既に説明済みであることから、プロモータ領域とコーディング領域について、以下により詳しく説明をする。
【0028】
プロモータ領域は、遺伝子の転写が行われるときの転写開始部分として機能すれば、配列は特に制限はなく、当該技術分野で公知のプロモータ配列を採用することができる。プロモータ領域を構成する配列としては、例示であって限定するものではないが、公知のT7プロモータ配列、SP6プロモータ配列、T3プロモータ配列などが挙げられる。
【0029】
コーディング領域は、目的ポリペプチドのアミノ酸をコードする配列であり、且つ、プロモータ領域によって作動可能となるように連結されていれば特に制限はない。ポリペプチドとしては、例えば、酵素、転写因子、サイトカイン、膜結合タンパク質、各種ペプチドホルモン(例えば、インスリン、成長ホルモン、ソマトスタチン等)、ワクチン、抗体等が挙げられる。また、コーディング領域には、目的ポリペプチドに付加するタグ配列を連結してもよい。タグ配列は、コーディング領域の5’末端側(N末端プロテインタグ)または3’末端側(C末端プロテインタグ)のいずれか一方に連結してもよく、両方に連結してもよい。
【0030】
N末端プロテインタグおよびC末端プロテインタグは、例えば、Hisタグ、GSTタグ、MBPタグ、mycタグ、FLAGタグ、BCCPタグが挙げられる。また、視覚的に検出可能なものとしては、例えば、GFP(Green Fluorescent Protein)、BFP(Blue Fluorescent Protein)、CFP(Cyan Fluorescent Protein)、RFP(Red Fluorescent Protein)、YFP(Yellow Fluorescent Protein)、EGFP(Enhanced Green Fluorescent Protein)、ECFP(Enhanced Cyan Fluorescent Protein)、ERFP(Enhanced Red Fluorescent Protein)、EYFP(Enhanced Yellow Fluorescent Protein)、TMR(TetraMethyl-Rhodamine)、ルシフェラーゼ等が挙げられる。なお、上記N末端プロテインタグおよびC末端プロテインタグは、単なる例示で、その他のプロテインタグであってもよい。
【0031】
なお、N末端プロテインタグ配列およびC末端プロテインタグ配列は、任意のポリペプチド配列のN末端および/またはC末端に対して直接連結されてもよいし、適当なリンカー配列を介して連結されてもよい。
【0032】
転写鋳型DNAは、無細胞タンパク質合成系に用いる要素の一つである。転写鋳型DNAは、PCR等で合成された直鎖状の他、プラスミドなどの環状体であってもよい。
【0033】
転写鋳型DNAは、公知の化学的又は遺伝子工学的方法により取得できるが、後述するように、PCR等の核酸増幅反応を利用して遺伝子やcDNAを鋳型として取得することもできる。
【0034】
無細胞タンパク質合成系のための転写鋳型DNAの生産方法は、目的ポリペプチドのコーディング領域を含むDNAに対して核酸増幅反応を実施して、転写鋳型DNAを合成する工程、を備えることができる。転写鋳型DNAは、例えば、適宜設計したプライマーセットを用いて、目的ポリペプチドのアミノ酸配列をコードするコーディング領域を含むDNAに対して、PCRの核酸増幅反応により得ることができる。
【0035】
また、転写鋳型DNAは、ベクターを用いて取得することもできる。ポリペプチドのアミノ酸配列をコードするコーディング領域を少なくとも含むDNAをベクターに挿入することによって鋳型核酸を取得できる。こうして作製したベクターは、それ自体を転写鋳型DNAとして用いることができるし、ベクターから転写鋳型DNAに相当するDNA断片を切り出して用いることもできる。
【0036】
転写鋳型DNAは、例えば、PCR反応液(すなわち、転写鋳型DNAを精製することなく)として、無細胞タンパク質合成系に適用してもよいし、適宜精製等して無細胞タンパク質合成系に適用してもよい。
【0037】
(翻訳鋳型mRNAの生産方法の実施形態)
無細胞タンパク質合成系のための翻訳鋳型mRNAの生産方法は、細胞の不存在下であって、かつ転写鋳型DNAをmRNAに転写するための要素の存在下で転写鋳型DNAを用いて翻訳鋳型mRNAを合成する工程、を備えることができる。より具体的には、転写鋳型DNAを含むPCR反応液又はベクターに由来する転写鋳型DNAに対して、転写鋳型DNAが備えるプロモータ領域に適合するRNAポリメラーゼおよびRNA合成用の基質(4種類のリボヌクレオシド3リン酸)等を転写反応に必要な成分を含む組成の下で、例えば、約20℃~60℃、好ましくは、約30℃~42℃で適当な時間インキュベートすることにより翻訳鋳型mRNAを得ることができる。なお、上記の例は、転写鋳型DNAから翻訳鋳型mRNAを合成する手順を示している。代替的に、mRNAの長さにもよるが、核酸合成により翻訳鋳型mRNAを直接合成してもよい。
【0038】
翻訳鋳型mRNAの生産方法は、無細胞タンパク質合成系としての転写/翻訳系の一部として実施することができるし、翻訳鋳型mRNAの翻訳系への適用に先立つ工程として実施することもできる。こうして得られた翻訳鋳型mRNAは、その反応液を、翻訳系に適用することができる。
【0039】
(ポリペプチドの生産方法の実施形態)
ポリペプチドの生産方法は、細胞の不存在下であって、かつ翻訳鋳型mRNAからタンパク質に翻訳するための要素の存在下で、翻訳鋳型mRNAを用いてポリペプチドを合成する工程、を備えることができる。ポリペプチドの生産方法は、また、細胞の不存在下であって、かつ転写鋳型DNAをmRNAに転写するための要素の存在下で転写鋳型DNAを用いて翻訳鋳型mRNAを合成する工程も備えることができる。さらに、ポリペプチドの生産方法は、目的ポリペプチドのコーディング領域を含むDNAに対して核酸増幅反応を実施して、前記転写鋳型DNAを合成する工程を備えることもできる。本出願で開示するポリペプチドの生産方法は、上記の実施形態に係るポリヌクレオチドを含む翻訳鋳型mRNA、転写鋳型DNAを用いるために、無細胞タンパク質合成系において、キャップ構造を有さない翻訳鋳型mRNAに対しポリペプチドを高発現できる。
【0040】
以下に実施例を掲げ、本出願で開示する実施形態を具体的に説明するが、この実施例は単に実施形態の説明のためのものである。本出願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。
【実施例0041】
[1.キャップ構造を有さないmRNAに対し翻訳促進活性を有するエンハンサー候補の取得]
[イネ培養細胞]
以下の検討には、イネ培養細胞(Oryza sativa cv. Nipponbare)を用いた。培養は、30℃、暗期、攪拌速度90rpm(EYELA,MULTI SHAKER)の条件で行い、95mLのR2S培地を300mL容の三角フラスコに入れて使用した。一週間ごとに定常期に達した細胞8mLを新しい培地95mLに移植して継代培養を行った。
【0042】
[キャップ構造を有さないmRNAの調整]
以下に示す手順でイネ培養細胞からキャップ構造を有さないmRNAを調整した。
【0043】
(1)イネ培養細胞からtotalRNAの抽出
totalRNAの抽出には、TRIzol regentを用いた。
【0044】
(2)totalRNAからmRNAの分離
mRNAの分離にはDynabeads(登録商標)mRNA Direct Kits(Thermo Fisher)を用いた。
【0045】
(3)mRNAからのキャップ構造の分離
上記(2)で分離されたmRNAは、5’末端にキャップ構造を有している。このmRNAが有するキャップ構造を分離した。分離されたmRNAを、Cap-Clip Acid Pyrophosphatase(CellScript)で処理することで、キャップ構造を加水分解し、キャップ構造を有さないmRNAを得た。
【0046】
[mRNAの翻訳状態の評価法としてのポリソーム/改変CAGE解析]
一般的にmRNAの翻訳状態は、mRNAに多数のリボソームが結合していれば翻訳が活発に行われており(ポリソーム)、リボソームが結合していなければ翻訳が行われていない(ノンポリソーム)というように、mRNAに結合するリボソームの数を指標として判断されている(Bailey-Serres, J., Sorenson, R., Juntawong, O. (2009). Getting the message across: cytoplasmic ribonucleoprotein complex. Trends Plant Sci. 14:443-453)。このような手法はポリソーム解析と呼ばれており、例えば、DNAマイクロアレイ解析と組み合わせることでmRNAの翻訳状態をゲノムスケールで評価することができる。
【0047】
結合したリボソームの数でmRNAを分画した後、改変Cap Analysis of Gene Expression(CAGE)解析を行った。
【0048】
一般的にCAGE解析は、転写開始点(TSS)の同定と、TSS毎の転写産物量の定量とが可能な方法である。CAGE解析の概念図を
図1に示す。
図1に示すように、細胞や組織から抽出した全RNAから、ランダムプライマーを用いて相補鎖cDNAを合成し、キャップ・トラッピング法によりcDNAの5’末端を選別する。RNA鎖を除去して得られる一本鎖cDNAの5’末端にシーケンシングプライマーの認識部位および目印になる短い特異的塩基配列を含むアダプターを結合する。また、cDNAの3’末端にもシーケンシングプライマーの認識部位を含むアダプターを結合する。第2鎖cDNAを合成し、CAGEリードとする。このようにして得られたリードのDNA配列を次世代シークエンサーで決定し、ゲノム上にマッピングする。これによって、様々なmRNAの転写開始点の特定つまり5’UTRの推定を行うことができる。さらにmRNA量の定量も行うことができる。なお、
図1においては、転写開始点が異なる3種のバリアント(mRNA A、mRNA B、及びmRNA C)を例示しており、代表してmRNA Bの5’UTR領域を表示している。
【0049】
本出願で開示する改変CAGEには、キャップ構造を有さないmRNAを用いた。そのため、改変CAGEは、キャップ・トラッピング法において、通常とは逆のトラップされなかったRNAを使用した。そして、キャップ・トラッピング法でトラップされなかったmRNAには断片RNAが含まれるため、断片RNAを取り除きCAGEリードを作製し、リードのDNA配列を次世代シークエンサーで決定して、ゲノム上にマッピングした。
【0050】
[キャップ構造を有さないmRNAへのリボソームの結合]
キャップ構造を有さないmRNAへリボソームの結合を行った。リボソームの結合には、コムギ胚芽由来翻訳反応液110μlに対しキャップ構造を有さないmRNAが30μgとなるように調整し、0、1、2、6または12時間反応させた。反応後のコムギ胚芽由来翻訳反応液の一部をショ糖密度勾配遠心に供し、その他の反応液は精製してトータルmRNAを取得した。なお、当該その他の反応液の精製は、Maxwell(登録商標)RSC Plant RNA Kitを用いた。また、精製時には、補正用の外部標準RNAとして、人工合成したR-luc mRNAを、反応後のコムギ胚芽由来翻訳反応液に含まれるキャップ構造を有さないmRNA1μgあたりに5ng加えた。
【0051】
[ショ糖密度勾配遠心を利用したポリソーム解析]
図2Aに、ポリソーム分画法の概略を示す。ポリソーム分画法はショ糖密度勾配遠心を利用する。ポリソーム分画は、若干の改変を加えた以外は基本的にDaviesらの方法に従って行った(Davies and Abe, 1995)。
【0052】
反応後のコムギ胚芽由来翻訳反応液に約7倍量(w/v)のExtraction Bufferを加え、緩やかに懸濁させた。遠心(14,000×g,10min,4℃)し、その上清をRNA粗抽出液とした。この粗抽出液をExtraction BufferによりRNA濃度333ng/μlに調整し、26.25~71.25%ショ糖密度勾配液(ショ糖,200mM Tris-HCl,200mM KCl,200mM MgCl
2)4.85mL上に300μL重層し、超遠心を行った(SW55Ti rotor,55,000rpm,50min,4℃,brake-off)(Optima,Beckman Coulter)。ピストン・グラジェント・フラクショネーター(BioComp, Churchill Row, Canada)によってショ糖密度勾配の上部より約1mL/minの速さで吸引すると同時に、BIO-MINI UV MONITOR AC-5200 (ATTO)を用いて254nmの吸光度を記録した。分画後のショ糖液の254nmの吸光度を測定することによって、mRNAの全体的な翻訳状態を反映したポリソームプロファイルを取得した。
図2Bには、ポリソーム分画によって得られる一般的なポリソームプロファイルを示す。吸引されたショ糖密度勾配液のうち、ポリソームのピーク以降(全画分のうち重い約50%の画分)を回収し、Maxwell RSC Plant RNA Kitを用いて精製することで、ポリソームmRNAとした。精製時には、補正用の外部標準RNAとして、人工合成したR-luc mRNAを、反応後のコムギ胚芽由来翻訳反応液に含まれるキャップ構造を有さないmRNA1μgあたりに5ng加えた。
【0053】
なお、Extraction Bufferは、200mM Tris-HCl,pH8.5,50mM KCl,25mM MgCl2,2mM EGTA,100μg/ml heparin,100μg/ml cycloheximide,4%polyoxyethylene 10-tridecyl ether,2%sodium deoxycholate,2%Polyvinylpyrrolidoneの組成からなる。
【0054】
[改変CAGEライブラリーの作製および次世代シークエンサーによる解析]
ポリソーム解析によって得られたポリソームmRNAおよびトータルmRNAを改変CAGEライブラリーの作製に供した。改変CAGEライブラリーの作製手法は、若干の改変を加えた以外は基本的にMurataらのnAnT-iCAGEライブラリーの作製手法に従った(Murata, M., Nishiyori-Sueki, H., Kojima-Ishiyama, M., Carninci,P., Hayashizaki, Y., Itoh, M.(2014). Detecting expressed genes using CAGE. Methods Mol. Biol. 1164: 67-85.)。概略は次の通りである。N15ランダムプライマーを用いて相補鎖cDNAを合成し、精製した。次いで、RNase Iを用いてRNA鎖を除去して得られた一本鎖cDNAの5’末端と3’末端側とにアダプターを結合させ、改変CAGEライブラリーとした。Illumina(登録商標)HiSeq 2500を用い、5’末端に結合させたアダプター内に存在するシークエンスプライマー認識部位を用いたシングルリードにて、付属のプロトコールに従ってシーケンスを行った。
【0055】
[データ処理とマッピング]
シークエンスによって得られたrawデータのそれぞれのリード(シーケンス情報)からCAGEリンカー配列を除去した。その後、正確に読み取れていないことを示すNが配列中に存在するリード、混入したrRNA由来のリードを除去した。その後、Os-Nipponbare-Reference-IRGSP-1.0(http://rapdb.dna.affrc.go.jp/)の情報を基にマッピングを行った。この際に、複数個所にマッピングされたマッピングクオリティが低いリード、及び5’末端にミスマッチが存在し末端位置がずれている可能性があるリードは除去した。また、分解中間産物の5’末端を含む信頼性の低いリードを除去した。その結果、キャップ構造を有さないmRNAにおいて、2,266のmRNAの配列と翻訳効率(Polysome Ratio:PR)のデータを取得できた。なお、PR値は、mRNAにおけるポリソームの形成度合を表す値であり、それぞれのmRNAのトータルmRNA量に対してのポリソーム画分に存在する量の比を数値化した値である。また、PR値を算出する際、反応時間1h、2h、6h、12hの各タイムポイントについて取得したポリソームmRNAとトータルmRNAのそれぞれについて、精製時に添加された外部標準R-lucの量で補正した。
【0056】
得られた2,266のデータは、mRNAにリボソームを結合させた反応時間1h、2h、6h、12hの全てのタイムポイントで翻訳効率を評価することができたmRNAである。加えて、すべての反応時間における数値を標準化後に平均した総合的な翻訳効率スコア(Translation Efficiency Score: TE-Score)の評価も行った。このTE-scoreが高いmRNAは、1hから12hを通して常に高い効率で翻訳されていることを意味している。そのため、翻訳効率のランキングには、特定のタイムポイントの評価値を使用するのではなく、総合的なスコアであるTE-Scoreを基準とした。
【0057】
[翻訳状態のランキングの作成およびエンハンサー候補の抽出]
ポリソーム/改変CAGE解析によりTE-Scoreのランキングを作成し、ランキング上位のmRNAの5’UTR配列をエンハンサー候補として選抜した。その際に、エンハンサー候補として可能性が高くなるよう追加のフィルタリングを行った。具体的には、(1)翻訳が正しく行われない可能性が高いATGを有している配列、(2)30塩基より短い配列、(3)長いCDSを有する配列はTE-Scoreを高くしてしまう可能性があるため、CDS長が1,000塩基よりも長い遺伝子を除去した。その結果、エンハンサー候補として1,188データが得られた。その後、無細胞タンパク質合成系での使用を考慮して、下記表1に配列番号1~8に示す塩基配列を抽出した。また、mRNAの合成効率の観点から、転写鋳型DNAの目的ポリペプチドのコーディング領域以外の配列は短い方が好ましい。そこで、塩基配列の長さをより短くした塩基配列をエンハンサー候補とした。塩基配列の長さを短くした配列番号9に示す塩基配列を表1に示す。配列番号9に示す塩基配列は、配列番号6に示す塩基配列の部分配列である。なお、表1における配列番号9に示す塩基配列は、配列番号6に示す塩基配列の5’末端から全長に対し半分の長さを有する前半分の部分配列である。
【0058】
【0059】
[2.エンハンサー候補塩基配列による転写鋳型DNAの作製、翻訳鋳型RNAの作製およびGFP合成]
<実施例1>
[転写鋳型DNAの構造]
図3を参照して、転写鋳型DNA1の概略について説明する。
図3は、実施例1で作製した転写鋳型DNA1の概略図である。
図3に示すように転写鋳型DNA1は、
5’非翻訳領域(5’UTR):T7プロモータ2+エンハンサー配列3、
コーディング領域4:GFP-His、
3’非翻訳領域(3’UTR)5、
から構成されている。
【0060】
実施例1では、エンハンサー配列3に配列番号1に示す塩基配列を用いた。エンハンサー配列3を除く配列は、下記表2のとおりである。
【0061】
【0062】
[PCRによる転写鋳型DNAの作製]
転写鋳型DNAは、下記表3に示されるプライマー(フォワード側:Rnk-1、リバース側:RV)を設計し、転写鋳型DNAをPCRにより作製した。なお、プライマーは、受託合成サービス(ユーロフィンジェノミクス株式会社)により作製した。フォワードプライマーRnk-1の太字アンダーライン部分は、配列番号1に示す塩基配列である。後述する実施例2~8、10のフォワードプライマーは、下記表3のRnk-1の太字アンダーライン部分を、それぞれ、表1の配列番号に示す塩基配列に置き換えたものを使用した。
【0063】
【0064】
PCRの反応溶液組成を下記表4に示す。また、反応サイクルを下記表5に示す。なお、使用した試薬および機械は以下のとおり。
・PCR酵素:東洋紡株式会社 KOD-Plus-Neo
・Thermal Cycler:eppendorf社製 Mastecycler X50s
【0065】
【0066】
【0067】
[転写反応]
次に、作製した転写鋳型DNAを用いて、翻訳鋳型mRNAを作製した。転写反応は、NUProtein社製PSS4050の以下の表6に示す反応液を用い、先に作製したPCR反応溶液(転写鋳型DNA含有)2.5μlを用いて、37℃で3時間行った。
【0068】
【0069】
転写反応液25μlに対して10μlの4M 酢酸アンモニウムを加えてよく混合し、さらに、100μlの100%エタノールを加え転倒混和し、卓上遠心機で数秒間遠心分離した後、-20℃で10分静置した。その後、遠心分離(12,000rpm、15分、4°C)した。上清を除去後、卓上遠心機を用い数秒間遠心した。再度上清を除去し、沈殿が乾燥するまで静置した。その後、転写反応液25μlに対して40μlのRNase free水(DEPC水)を加え、チップで沈殿をよく懸濁した。PSS4050プロトコルに従い、110μl翻訳溶液中のmRNA量を35μgとなるように核酸濃度測定を行い、160μlにフィルアップし、これを翻訳鋳型mRNA溶液とした。
【0070】
[翻訳反応]
次に、下記表7に示す組成の翻訳反応液を用いて、16℃のインキュベーターにいれて10時間反応させた。なお、以下の組成のうち、翻訳鋳型mRNAを除いた組成液を調製し、その後、この組成液を室温に戻した後に、翻訳鋳型mRNAを添加して、泡を立てないようにポンピングして、反応させた。Wheat germ extractおよびamino acid mixは、NUProtein社製PSS4050用いた。
【0071】
【0072】
反応後、反応液をエッペンドルフチューブに回収し、遠心分離(15,000rpm、15分、4℃)を行い、上清を翻訳完了後のGFP溶液とした。
【0073】
<実施例2>
転写鋳型DNAの作製において、表3に示すフォワードプライマーの太字アンダーライン部分を配列番号2に示す塩基配列とし、転写鋳型DNAのエンハンサー配列を配列番号2に示す塩基配列とした以外は、実施例1と同様である。
【0074】
<実施例3>
転写鋳型DNAの作製において、表3に示すフォワードプライマーの太字アンダーライン部分を配列番号3に示す塩基配列とし、転写鋳型DNAのエンハンサー配列を配列番号3に示す塩基配列とした以外は、実施例1と同様である。
【0075】
<実施例4>
転写鋳型DNAの作製において、表3に示すフォワードプライマーの太字アンダーライン部分を配列番号4に示す塩基配列とし、転写鋳型DNAのエンハンサー配列を配列番号4に示す塩基配列とした以外は、実施例1と同様である。
【0076】
<実施例5>
転写鋳型DNAの作製において、表3に示すフォワードプライマーの太字アンダーライン部分を配列番号5に示す塩基配列とし、転写鋳型DNAのエンハンサー配列を配列番号5に示す塩基配列とした以外は、実施例1と同様である。
【0077】
<実施例6>
転写鋳型DNAの作製において、表3に示すフォワードプライマーの太字アンダーライン部分を配列番号6に示す塩基配列とし、転写鋳型DNAのエンハンサー配列を配列番号6に示す塩基配列とした以外は、実施例1と同様である。
【0078】
<実施例7>
転写鋳型DNAの作製において、表3に示すフォワードプライマーの太字アンダーライン部分を配列番号7に示す塩基配列とし、転写鋳型DNAのエンハンサー配列を配列番号7に示す塩基配列とした以外は、実施例1と同様である。
【0079】
<実施例8>
転写鋳型DNAの作製において、表3に示すフォワードプライマーの太字アンダーライン部分を配列番号8に示す塩基配列とし、転写鋳型DNAのエンハンサー配列を配列番号8に示す塩基配列とした以外は、実施例1と同様である。
【0080】
<比較例1>
転写鋳型DNAの作製において、表3に示すフォワードプライマーの太字アンダーライン部分を下記表8に示すE02の塩基配列とし、転写鋳型DNAのエンハンサー配列をE02の塩基配列とした以外は、実施例1と同様である。なお、比較例1に用いたE02は、Nami Kamura et al, Selection of 5’-untranslated sequences that enhance initiation of translation in a cell-free protein synthesis system from wheat embryos, Bioorganic & Medicclinal Chemistry Letters 15 (2005) 5402-5406に記載される翻訳促進活性を有する公知のエンハンサー配列である。なお、E02がキャップ構造を有さないmRNAの翻訳に適したエンハンサー配列であるかを調べたという事例は認められていない。
【0081】
【0082】
[合成されたGFPの蛍光測定]
<実施例9>
実施例1~8および比較例1で合成されたGFPの蛍光測定を行った。合成されたGFPを含む溶液220μlを試料とし、波長475nmの励起光を照射して、GFPからの蛍光をプレートリーダで測定した(吸収フィルター500-550nm)。プレートリーダには、GloMax(登録商標)プレートリーダ(プロメガ社)を用いた。
【0083】
測定結果を
図4に示す。比較例1のエンハンサー配列がE02の蛍光量を基準とした。実施例1~8すべてにおいて、比較例1よりも高い蛍光量であった。実施例1~8におけるエンハンサー配列は、キャップ構造を有さないmRNAにおいて翻訳が活発に行われる配列である。したがって、実施例1~8におけるエンハンサー配列は、キャップ構造を有さないmRNAの翻訳に適しており、比較例1よりも高い翻訳促進活性を有していることが示された。
【0084】
[3.エンハンサー候補塩基配列の部分配列を用いたGFP合成]
実施例9の結果から、実施例6(エンハンサー配列:配列番号6)が最も翻訳促進活性が高かった。そこで、配列番号6に示す塩基配列の部分配列である配列番号9に示す塩基配列をエンハンサーとして、転写鋳型DNAを作製しGFPを合成した。
【0085】
<実施例10>
転写鋳型DNAの作製において、表4に示すフォワードプライマーの太字アンダーライン部分を配列番号9に示す塩基配列とし、転写鋳型DNAのエンハンサー配列を配列番号9に示す塩基配列とした以外は、実施例1と同様である。
【0086】
[合成されたGFPの蛍光測定]
<実施例11>
実施例10で合成されたGFPの蛍光測定を行った。測定は、実施例9と同様である。
【0087】
結果を
図5に示す。
図5には、実施例6、実施例10および比較例1の蛍光量を示し、比較例1の蛍光量を基準とした。
図5から、配列番号6に示す塩基配列の部分配列である配列番号9に示す塩基配列をエンハンサーとした実施例10は、配列番号6に示す塩基配列をエンハンサーとする実施例6と同等の翻訳促進活性を有した。このことから、配列番号9に示す塩基配列のように翻訳促進活性を有する塩基配列の部分配列を有していれば、翻訳促進活性を有する元の塩基配列と同等の翻訳促進活性を有することが示された。また、実施例11の結果から、配列番号6以外の配列番号1~5、7および8に示す塩基配列の部分配列をエンハンサーに適用しても、配列番号1~5、7および8に示す塩基配列と同等の翻訳促進活性を有する蓋然性が高いと推測できる。
【0088】
以上の実施例より、本出願で開示するポリヌクレオチドは、無細胞タンパク質合成系におけるキャップ構造を有さないmRNAに対し、翻訳促進活性を有する。
本出願で開示するポリヌクレオチドは、キャップ構造を有さないmRNAに適した翻訳促進活性を有する。したがって、製薬業界、研究機関等、無細胞タンパク質合成が必要な産業に有用である。