(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022138703
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】横編機によるパイル編地の編成方法
(51)【国際特許分類】
D04B 1/00 20060101AFI20220915BHJP
D04B 1/02 20060101ALI20220915BHJP
D04B 7/12 20060101ALI20220915BHJP
D04B 35/04 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
D04B1/00 Z
D04B1/02
D04B7/12
D04B35/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021038733
(22)【出願日】2021-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000151221
【氏名又は名称】株式会社島精機製作所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 昌紀
【テーマコード(参考)】
4L002
4L054
【Fターム(参考)】
4L002BA00
4L002BA04
4L002BA05
4L002BB04
4L002EA00
4L054BB04
4L054JA04
4L054LA02
4L054NA03
(57)【要約】
【課題】単一カムシステムでパイル糸とシメ糸による編成を完結でき、パイル編地を効率よく編成する。
【構成】クリアリングポジションまで進出した編針1を天山カム17の作用を受けて編針1のフックで編糸を喰うことが可能な引下げルートR2と天山カム13の作用を受けずに編針1をクリアリングポジションに維持させたまま天山カム17を通過させる通過ルートR1とに選択的に切り換え可能に構成し、パイル編成を行うコースでは、パイルループを形成する編針1がパイル糸33とシメ糸31のうちパイル糸33だけを喰い、パイル編地のベースを形成する編針1がパイル糸33とシメ糸31の両方を喰うようにして横編機でパイル編地を編成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の編針を配置させた前後針床上を往復走行するキャリッジに前記編針に備わるバットを上昇させる上げカム面を有し、編針をクリアリングポジションへ進出させるニードルレイジングカムと、前記バットを下降させる下げカム面を有し、編針のフックで編糸を喰うことが可能な引下げルートへ案内する天山カム、を備えた少なくとも1つの前後のカムシステムを備えた横編機を用いて、パイル糸とシメ糸を給糸し、一方の針床の編針でパイル糸とシメ糸による編目でパイル編地のベースを形成し、他方の針床の編針で前記ベースの裏側に現れるパイル糸のみからなるパイルループを形成することでパイル編地を編成する方法において、
前記カムシステムのうち少なくともパイルループを形成する側のカムシステムを、
ニードルレイジングカムによってクリアリングポジションまで進出した編針のバットを天山カムの作用を受けて編針のフックで編糸を喰うことが可能な引下げルートと、
天山カムの作用を受けずに編針のバットをクリアリングポジションに維持させたまま天山カムを通過させる通過ルート、とに選択的に切り換え可能に構成するとともに、
カムシステムには、先行側にシメ糸を給糸するシメ糸用給糸口と、後行側にパイル糸を給糸するパイル糸用給糸口、の2つの給糸口を進行方向に位相差を設けて割り当て、
パイル編成を行うコースでは、パイルループを形成する側のカムシステムでは、前記通過ルートに切り換えてシメ糸を編針の開いたベラ先端よりも下側に、パイル糸をベラ先端よりもフック側に、それぞれ給糸するようにして編針をパイル糸とシメ糸のうちパイル糸だけを喰い、
パイル編地のベースを形成する側のカムシステムでは前記引下げルートに案内して編針をパイル糸とシメ糸の両方を喰うステップを含むことを特徴とする横編機によるパイル編地の編成方法。
【請求項2】
前後のカムシステムのそれぞれを引下げルートと通過ルートとに選択的に切り換え可能に構成し、パイル編地の表裏にパイルループを形成することを特徴とする請求項1に記載の横編機によるパイル編地の編成方法。
【請求項3】
複数の編針を配置させた前後針床上を往復走行するキャリッジに前記編針に備わるバットを上昇させる上げカム面を有し、編針をクリアリングポジションへ進出させるニードルレイジングカムと、前記バットを下降させる下げカム面を有し、編針のフックで編糸を喰うことが可能な引下げルートへ案内する天山カム、を備えた少なくとも1つのカムシステムを備えた横編機を用いて、パイル糸とシメ糸を給糸し、
一方の針床の1本置きの編針でパイル糸とシメ糸による編目でパイル編地のベースを形成し、前記一方の針床の前記1本置きの編針に隣接する残る1本置きの編針で前記ベースの裏側に現れるパイル糸のみからなるパイルループを形成することでパイル編地を編成する方法であって、
カムシステムを
ニードルレイジングカムによってクリアリングポジションまで進出した編針のバットを天山カムの作用を受けて編針のフックで編糸を喰うことが可能な引下げルートと、
天山カムの作用を受けずに編針のバットをクリアリングポジションに維持させたまま天山カムを通過させる通過ルート、とに選択的に切り換え可能に構成するとともに、
カムシステムには、先行側にシメ糸を給糸するシメ糸用給糸口と、後行側にパイル糸を給糸するパイル糸用給糸口、の2つの給糸口を進行方向に位相差を設けて割り当て、
パイル編成を行うコースでは、パイルループを形成する編針を前記通過ルートに案内してシメ糸を編針の開いたベラ先端よりも下側に、パイル糸をベラ先端よりもフック側に、それぞれ給糸するようにして編針がパイル糸とシメ糸のうちパイル糸だけを喰い、
パイル編地のベースを形成する編針を前記引下げルートに案内して編針がパイル糸とシメ糸の両方を喰うステップを含むことを特徴とする横編機によるパイル編地の編成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は横編機によるパイル編地の編成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パイル編地とは、前針床(FB)と後針床(BB)のうち一方の針床の編針でパイル糸とシメ糸による編目でパイル編地のベースを形成し、ベースの裏側にパイル糸のみから成るパイルループを他方の針床の編針で形成したものである。
【0003】
特許文献1には、シンカー装置を備えた横編機によりパイル編地を編成する方法が開示されている。しかしながら、特許文献1に記載のパイル編地の編成方法は、パイル糸を引き出すためのシンカー装置を備えていない横編機では形成することができない。
【0004】
図3は、特許文献1とは異なる方法によるパイル編地の編成方法を示す。この方法では2つのカムシステム(SYS1、SYS2)を搭載したキャリッジで行うものである。FBの編針でパイル編地のベースを形成し、BBの編針でパイルループを形成する。パイル糸用給糸口P、シメ糸用給糸口Bの2つの給糸口を用意し、先行カムシステム(SYS1)にはパイル糸33、後行カムシステム(SYS2)にはシメ糸31、をそれぞれ割り当てる。
【0005】
SYS1ではFB、BBの編針を進退させてパイル糸33を引き込む。このときFBの編針を1つ前のコースで形成された旧編目が編針の先端からノックオーバーされない程度まで引き込み、この状態を維持したまま後行のSYS2へと案内する。SYS2ではBBの編針を動作させず、FBの前記状態の編針のみを再度進退させてシメ糸31を喰わせる。これによりFBの編針は、パイル糸33とシメ糸31の両方を引き込むことで旧編目をノックオーバーさせる。その後、図示は省略するがBBの編針に対し、編糸を給糸させることなく進退させ、SYS1で引き込んだパイル糸33を編針から外してパイルループを形成する。このような編成を繰り返し行うことでパイル編地を編成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記
図3による方法では、SYS1ではFBの編針が前コースで形成した旧編目を針先端からノックオーバーされないように度山カムの位置を調整する、あるいは取り外すなどの必要があった。さらに2つのカムシステムを必要とするため生産性も低くなるなどの問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、複数の編針を配置させた前後針床上を往復走行するキャリッジに前記編針に備わるバットを上昇させる上げカム面を有し、編針をクリアリングポジションへ進出させるニードルレイジングカムと、前記バットを下降させる下げカム面を有し、編針のフックで編糸を喰うことが可能な引下げルートへ案内する天山カム、を備えた少なくとも1つの前後のカムシステムを備えた横編機を用いて、パイル糸とシメ糸を給糸し、一方の針床の編針でパイル糸とシメ糸による編目でパイル編地のベースを形成し、他方の針床の編針で前記ベースの裏側に現れるパイル糸のみからなるパイルループを形成することでパイル編地を編成する方法において、
前記カムシステムのうち少なくともパイルループを形成する側のカムシステムを、
ニードルレイジングカムによってクリアリングポジションまで進出した編針のバットを天山カムの作用を受けて編針のフックで編糸を喰うことが可能な引下げルートと、
天山カムの作用を受けずに編針のバットをクリアリングポジションに維持させたまま天山カムを通過させる通過ルート、とに選択的に切り換え可能に構成するとともに、
カムシステムには、先行側にシメ糸を給糸するシメ糸用給糸口と、後行側にパイル糸を給糸するパイル糸用給糸口、の2つの給糸口を進行方向に位相差を設けて割り当て、
パイル編成を行うコースでは、パイルループを形成する側のカムシステムでは、前記通過ルートに切り換えてシメ糸を編針の開いたベラ先端よりも下側に、パイル糸をベラ先端よりもフック側に、それぞれ給糸するようにして編針をパイル糸とシメ糸のうちパイル糸だけを喰い、
パイル編地のベースを形成する側のカムシステムでは前記引下げルートに案内して編針をパイル糸とシメ糸の両方を喰うステップを含むようにした。
【0009】
好ましくは、前後のカムシステムのそれぞれを引下げルートと通過ルートとに選択的に切り換え可能に構成し、パイル編地の表裏にパイルループを形成するようにした。
【0010】
また本発明では、複数の編針を配置させた前後針床上を往復走行するキャリッジに前記編針に備わるバットを上昇させる上げカム面を有し、編針をクリアリングポジションへ進出させるニードルレイジングカムと、前記バットを下降させる下げカム面を有し、編針のフックで編糸を喰うことが可能な引下げルートへ案内する天山カム、を備えた少なくとも1つのカムシステムを備えた横編機を用いて、パイル糸とシメ糸を給糸し、
一方の針床の1本置きの編針でパイル糸とシメ糸による編目でパイル編地のベースを形成し、前記一方の針床の前記1本置きの編針に隣接する残る1本置きの編針で前記ベースの裏側に現れるパイル糸のみからなるパイルループを形成することでパイル編地を編成する方法であって、
カムシステムを、
ニードルレイジングカムによってクリアリングポジションまで進出した編針のバットを天山カムの作用を受けて編針のフックで編糸を喰うことが可能な引下げルートと、
天山カムの作用を受けずに編針のバットをクリアリングポジションに維持させたまま天山カムを通過させる通過ルート、とに選択的に切り換え可能に構成するとともに、
カムシステムには、先行側にシメ糸を給糸するシメ糸用給糸口と、後行側にパイル糸を給糸するパイル糸用給糸口、の2つの給糸口を進行方向に位相差を設けて割り当て、
パイル編成を行うコースでは、パイルループを形成する編針を前記通過ルートに案内してシメ糸を編針の開いたベラ先端よりも下側に、パイル糸をベラ先端よりもフック側に、それぞれ給糸するようにして編針がパイル糸とシメ糸のうちパイル糸だけを喰い、
パイル編地のベースを形成する編針を前記引下げルートに案内して編針がパイル糸とシメ糸の両方を喰うステップを含むようにした。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、パイル編成を行うコースにおいて、編地のベースとなる側のカムシステムではパイル糸とシメ糸の両方を引き込むことができ、前記カムシステムと対向するパイルループを形成する側のカムシステムではシメ糸とパイル糸の両方が通過ルートに案内されるが、先行するシメ糸と後行するパイル糸の位相差によりシメ糸は開いたベラの先端よりも下側、パイル糸はベラ先端よりもフック側に位置するように設定されて給糸が行われるので編針のフックはパイル糸だけを喰うことになる。この結果、単一カムシステムでパイル糸とシメ糸による編成を完結でき、パイル編地を効率よく編成することができる。
【0012】
また前後のカムシステムのそれぞれを引下げルートと通過ルートとに選択的に切り換え可能にすればパイル編地の表裏にパイルループを形成することができる。
【0013】
同じ針床の1本置きの編針を引下げルートに案内してパイル糸とシメ糸による編目でパイル編地のベースを形成し、残る1本置きの編針を通過ルートに案内してパイル糸だけでパイルループを形成するので一方の針床だけでパイル編地を編成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、実施例1に係るパイル編成を行うための編針と、カムシステムとの対応関係を示す概略説明図である。
【
図2】
図2は、
図1のY位置における編針1に対するシメ糸31とパイル糸33との位置関係を示す図である。
【
図3】
図3は、従来の横編機によるパイル編成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を
図1、
図2に基づいて説明する。
【実施例0016】
以下、本実施例では2枚ベッド横編機を用いた例を説明する。横編機は、複数の編針1が配置された針床(FB、BB)と編針1を駆動させるカムシステム3を搭載したキャリッジと針床に編糸を給糸する複数の給糸口を備える。なお、カムシステム3に搭載されるカムやプレッサの駆動方式や針床の構成や編針の選針方法などは特許第5057996号公報などに開示された公知の横編機と同じであるので説明は省略する。また本実施例では後述するパイルループ形成のための天山カムとハーフプレッサーを前後のカムシステム3の一方に設けてパイル編地のベースの裏側にパイルループを形成することができるカムシステムの例とする。したがってパイル編地のベースを編成する側のカムシステムは公知のものが使用される。
【0017】
図1は、カムシステム3と編針1との対応関係を示す概略説明図である。編針1は、ニードル本体5とニードルジャック7とセレクトジャック9とセレクタ11とを備える。ニードルジャック7には編針1の進退操作用のバット7a、セレクトジャック9にはA,H,Bポジション選択用のバット9aが設けられている。図ではセレクトジャック9はHポジションに選針された状態を示す。
【0018】
カムシステム3は、ニット・タック・ミスを実施できるカムシステムであるが、編目の目移しも可能な複合カムシステムであってもよい。図はカムシステム3が左向きに走行して編成を行なうときの状態を示す。カムシステム3は、バット7aに作用する複数のカムとバット9aに作用する複数のプレッサを備える。カムシステム3には中央にニードルレイジングカム13とその上位に天山カム17、これを挟んで左右に設けた度山カム15,15、ニードルレイジングカム13の下方にはタックプレッサー19、左右一対のハーフプレッサー21、ウエルトプレッサー23、さらにその下位には選針機構25が備えられている。
【0019】
ニードルレイジングカム13は、バット7aに作用して編針1をニット位置まで上昇させる上げカムである。天山カム17はフル高さの部分17hとハーフ高さの部分17lで構成し、通過ルートR1に相当する部分をハーフ高さの部分17lとし、バット7aの突出量に応じて引下げルートR2と通過ルートR1に仕分ける。すなわち天山カム17を度山カム15やニードルレイジングカム13と同じ厚さの部分(17h)と半分程度の厚さの部分(17l)で構成し、後述するハーフプレッサー21のバット9aに対する押圧量をウェルトプレッサー23やタックプレッサー19の半分程度(ハーフ高さのプレッサー)に構成している。ハーフプレッサー21は、ソレノイドなどの駆動手段により駆動され、セレクトジャック9のバット9aを押圧する作用位置と押圧しない不作用位置に出没可能に構成されている。
【0020】
パイルループを形成するカムシステム3では、ハーフプレッサー21によってセレクトジャック9のバット9aは半分だけ押し込まれるのでニードルジャック7のバット7aも半分沈められる。その結果、バット7aは天山カム17のハーフ高さの部分17lの作用を受けずに通過ルートR1に案内された後、度山カム15によって引き込まれる。
【0021】
ウェルトプレッサー23は選針の初期位置となるBポジションに配置され、選針機構25で選針されなかったセレクトジャック9を押圧して編針1をミスにさせる。タックプレッサ19がAポジションに配置、ハーフプレッサー21がHポジションに配置されている。左右一対のハーフプレッサー21のうち後行側のハーフプレッサー21は、ニードルレイジングカム13により上昇した編針1に対し、作用することで天山カム17のハーフ高さの部分17lの作用を受けない通過ルートR1へと案内し、編針1にパイル糸31を喰わせるがシメ糸33を喰わないように作用する。
【0022】
なお、上記に代えて天山カム17のハーフ高さの部分17lをソレノイドなどの駆動手段で出没制御させてニードルジャック7のバット7aに作用できる作用位置と不作用位置とに切り換え可能に構成してもよい。ただし、この場合は、パイルループを編成するコースにおいてパイルループの形成と通常のニットループの形成を混在させた編成を行うことはできなくなる。給糸口に関しては、先行側に配置してシメ糸31を給糸するシメ糸用給糸口Bと、後行側に配置してパイル糸33を給糸するパイル糸用給糸口Pとを、カムシステム3に対して図に示す位置に保持して走行させる。
【0023】
以上説明したカムシステム3を備えた横編機を用いてパイル編地を編成する方法について説明する。以下の例ではパイル編地のベースはFBの編針で形成され、パイルループはBBの編針で形成されるものとする。
【0024】
図1はカムシステム3が左向きに走行時のパイルループを形成するBBのカムシステム3の状態を示す。編針1がHポジション、先行側のハーフプレッサー21を不作用位置で後行側のハーフプレッサー21のみを作用位置にセットされる。パイル編地のベースを形成するFBのカムシステム3では編針1のセレクトジャックのバット7aはHポジション、ハーフプレッサー21は先行・後行ともに不作用位置にセットされる。
【0025】
X位置では、FB,BBのHポジションに選針されたセレクトジャック9のバット9aは共にニードルレイジングカム13の作用を受けてクリアリングポジションまで上昇した後、FBでは天山カム17の作用を受けて引き下げられるのでシメ糸31とパイル糸33の両方を編針1のフックで喰って編目を形成する。一方、BBでは後行側のハーフプレッサー17の作用を受けてバット9aが半分沈められることになり、通過ルートR1へ案内される。
【0026】
先行するシメ糸用給糸口Bと後行するパイル糸用給糸口Pは進行方向に対する位相差が設定された状態で移動するためY位置では編針1に対するシメ糸31とパイル糸33との位置関係は
図2に示す状態となっている。すなわちシメ糸31は編針1の開いたベラ先端1aよりも下側に位置し、一方、パイル糸33はベラ先端1aよりも上側であるフック側に位置することになる。そのため度山カム15による引き込みにより編針1のフックはパイル糸33だけを喰ってパイルループを形成することになる。この結果、単一カムシステムでパイル糸33とシメ糸31による編成を完結でき、パイル編地を効率よく編成することができる。しかる後、パイルループを係止したBBの編針1に対し、編糸を給糸せずに進退させてパイル糸を編針1から外す。このような編成を繰り返し行うことで編地のベースの裏側にパイルループを有するパイル編地(片面パイル)を編成することができる。
【0027】
またハーフ高さの部分を有する天山カム17とハーフプレッサー21をFBのカムシステムにも設けて通過ルートR1と引下げルートR2を選択可能にして、パイルループを形成するカムシステム3をコース毎に前後切り換えて編成を行えば、編地のベースの表裏両方にパイルループを有するパイル編地(両面パイル)を編成することもできる。
【0028】
なお、本明細書でいうシメ糸とは、編針でパイル糸と一緒に引き込まれて編目を形成する糸を意味するものであり、パイル糸と異種の糸であっても同種の糸であってもよい。
以下は、前後一対の針床のうち一方の針床だけを使用してパイル編成を行う場合の例を示す。この場合、例えばFBの1本置きの編針、例えば奇数番目の編針でパイル糸とシメ糸による編目でパイル編地のベースを形成し、前記針に隣接する偶数番目の編針でベースの裏側に現れるパイル糸のみからなるパイルループを形成することでパイル編地を編成する方法である。
パイル編成を行うカムシステムは、前記実施例1と同じように引下げルートと通過ルートを選択的に切り換え可能に構成するとともにシメ糸用給糸口とパイル糸用給糸口に進行方向に対して位相差を設ける。そしてパイル編成を行うコースでは、偶数番目の編針を前記通過ルートに案内してパイル糸だけを喰わせ、奇数番目の編針を前記引下げルートに案内してパイル糸とシメ糸の両方を喰うようにしてパイル編地のベースを形成する。
パイルループを係止したFBの偶数番目の編針からパイル糸を外す。このような編成を繰り返し行うことで編地のベースの裏側にパイルループを有するパイル編地を一方の針床だけで編成することができる。さらに前後針床を使用して前編地と後編地を周回状に編成しながら上記のパイル編成を行えばベース編地を筒状とし、しかも筒状編地の内側にパイルループを形成することができる。