(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022138707
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】車両用制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 29/02 20060101AFI20220915BHJP
【FI】
F02D29/02 K
F02D29/02 311Z
F02D29/02 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021038742
(22)【出願日】2021-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129643
【弁理士】
【氏名又は名称】皆川 祐一
(72)【発明者】
【氏名】石谷 哲也
【テーマコード(参考)】
3G093
【Fターム(参考)】
3G093AA03
3G093AA04
3G093BA07
3G093CB01
3G093DB05
3G093EA03
(57)【要約】
【課題】手動変速機を搭載した車両において、ブレーキ操作部材とアクセル操作部材との操作間違いによる事故の被害を軽減ないしその事故の発生を抑制できる、車両用制御装置を提供する。
【解決手段】アクセルペダルの足踏み操作が行われて、アクセルペダルの踏込量であるAP踏込量が開始基準量Ap1より大きく、かつ、AP踏込量の変化速度であるAP踏込速度が基準速度Aosより大きい場合に(S1,S2:YES)、ペダル踏み間違い処理が行われる(S3)。ペダル踏み間違い処理では、クラッチペダルの踏込量であるCP踏込量に基づいて、エンジン2の出力を抑制するエンジン出力抑制制御を実施するか否かが決定される(S5,S6,S7)。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源と、前記駆動源からの動力を変速する手動変速機と、係合により前記駆動源と前記手動変速機とを接続し、解放により前記駆動源と前記手動変速機とを切断するクラッチと、車輪に制動力を作用させるブレーキ機構と、前記駆動源の出力の増大のために加速操作され、前記駆動源の出力の減少のために減速操作されるアクセル操作部材と、前記ブレーキ機構による制動力の増大のために制動操作され、前記ブレーキ機構による制動力の減少のために解除操作されるブレーキ操作部材と、前記クラッチの係合のために係合操作され、前記クラッチの解放のために解放操作されるクラッチ操作部材とを備える車両に用いられる制御装置であって、
前記アクセル操作部材の加速操作の度合いがアクセル基準より大きい場合に、前記クラッチ操作部材の解放操作の度合いに基づいて、前記駆動源による前記車両の走行を抑制するか否かを決定し、
前記車両の走行を抑制すると決定した場合に、前記車両の走行を抑制する、車両用制御装置。
【請求項2】
前記アクセル操作部材の加速操作の度合いが前記アクセル基準より大きく、かつ、前記クラッチ操作部材の解放操作の度合いがクラッチ基準以下である場合に、前記車両の走行を抑制すると決定し、
前記アクセル操作部材の加速操作の度合いが前記アクセル基準より大きく、かつ、前記クラッチ操作部材の解放操作の度合いが前記クラッチ基準より大きい場合に、前記車両の走行を抑制しないと決定する、請求項1に記載の車両用制御装置。
【請求項3】
前記アクセル操作部材の加速操作の度合いが前記アクセル基準より大きく、かつ、前記クラッチ操作部材の解放操作の度合いが前記クラッチ基準より大きい場合に、報知を行う、請求項2に記載の車両用制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手動変速機を搭載した車両に用いられる制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両のブレーキペダルとアクセルペダルとの踏み間違い事故、すなわち、運転者が車両を停止させるつもりでアクセルペダルとブレーキペダルを踏み誤り、車両が運転者の意思に反して加速することによる事故が頻発している。
【0003】
踏み間違い事故は、アクセルペダルとブレーキペダルとの2ペダルを備える車両(2ペダル式の車両)、つまり自動変速機を搭載した車両で起こり、アクセルペダル、ブレーキペダルおよびクラッチペダルの3ペダルを備える車両(3ペダル式の車両)、つまり手動変速機を搭載した車両では起こらないと一般的に考えられている。
【0004】
すなわち、2ペダル式の車両では、自動変速機の変速レンジがDレンジ(走行レンジ)に設定されているときには、エンジンと駆動輪とが動力を伝達可能に接続されているので、ブレーキペダルと間違えてアクセルペダルが踏み込まれると、エンジン回転数が上昇して、エンジン出力が増大し、車両が急加速するので、前方または後方の物体に衝突する事故を生じる可能性がある。これに対し、3ペダル式の車両では、車両を停止させるときには、クラッチペダルが踏み込まれて、エンジンが駆動輪から切り離されるので、ブレーキペダルと間違えてアクセルペダルが踏み込まれても、エンジン回転数が上昇(空ぶかし)するだけで、車両が急加速することがないので事故に至らないと一般には考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-170232号公報
【特許文献2】特開2019-38507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、本願発明者が車両の安全性について研究を進めるうちに、車両の状況によっては、3ペダル式の車両においても、ブレーキペダルとアクセルペダルとの踏み間違い事故が生じ得ることが判った。
【0007】
本発明の目的は、手動変速機を搭載した車両において、ブレーキ操作部材とアクセル操作部材との操作間違いによる事故の被害を軽減ないしその事故の発生を抑制できる、車両用制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するため、本発明に係る車両用制御装置は、駆動源と、駆動源からの動力を変速する手動変速機と、係合により駆動源と手動変速機とを接続し、解放により駆動源と手動変速機とを切断するクラッチと、車輪に制動力を作用させるブレーキ機構と、駆動源の出力の増大のために加速操作され、駆動源の出力の減少のために減速操作されるアクセル操作部材と、ブレーキ機構による制動力の増大のために制動操作され、ブレーキ機構による制動力の減少のために解除操作されるブレーキ操作部材と、クラッチの係合のために係合操作され、クラッチの解放のために解放操作されるクラッチ操作部材とを備える車両に用いられる制御装置であって、アクセル操作部材の加速操作の度合いがアクセル基準より大きい場合に、クラッチ操作部材の解放操作の度合いに基づいて、駆動源による車両の走行を抑制するか否かを決定し、車両の走行を抑制すると決定した場合に、車両の走行を抑制する。
【0009】
この構成によれば、アクセル操作部材の加速操作の度合いがアクセル基準より大きい場合に、クラッチ操作部材の解放操作の度合いに基づいて、駆動源による車両の走行を抑制するか否かが決定される。
【0010】
たとえば、アクセル操作部材、ブレーキ操作部材およびクラッチ操作部材のいずれも操作されていない状態での車両の走行中(空走中、クルーズコントロール走行中)に、進行方向の信号機の赤色灯が点灯したことによって、車両の減速が必要となり、ドライバがブレーキ操作部材の制動操作と間違えて、アクセル操作部材の加速操作を行った場合、クラッチが係合しているので、車両が急加速し、その急加速による事故が発生する可能性がある。
【0011】
そのため、アクセル操作部材の加速操作の度合いがアクセル基準より大きい場合であって、クラッチ操作部材の解放操作が行われない場合、または、クラッチ操作部材の解放操作が行われても、その解放操作の度合いが小さいために、クラッチの係合状態が維持されている場合には、車両の走行の抑制が決定されるとよい。これにより、車両の走行が抑制されるので、ブレーキ操作部材の制動操作と間違えて、アクセル操作部材の加速操作が行われた場合に、その操作間違いによる事故の被害を軽減ないし事故の発生を抑制することができる。
【0012】
一方、アクセル操作部材の加速操作の度合いがアクセル基準より大きくても、クラッチ操作部材の解放操作がアクセル操作部材の加速操作と並行して行われ、その解放操作の度合いが大きく、クラッチが解放されるような場合には、車両の走行を抑制しないことが決定されるとよい。クラッチの解放により、駆動源と手動変速機とが切り離され、アクセル操作部材の加速操作に応じて駆動源の出力が増大しても、車両が加速することがないので、操作間違いによる事故の被害を軽減ないし事故の発生を抑制することができる。
【0013】
しかも、駆動源の出力が増大したにもかかわらず、車両が加速しないことにより、ドライバがブレーキ操作部材の制動操作をアクセル操作部材の加速操作と間違えたことに気がつきやすい。そのため、操作間違いの発生からより早い時期に、アクセル操作部材の加速操作が止められて、ブレーキ操作部材の制動操作が行われることを期待できる。その結果、操作間違いによる事故の被害を一層軽減ないし事故の発生を一層抑制することができる。
【0014】
車両用制御装置は、アクセル操作部材の加速操作の度合いがアクセル基準より大きく、かつ、クラッチ操作部材の解放操作の度合いがクラッチ基準以下である場合に、駆動源による車両の走行を抑制すると決定し、アクセル操作部材の加速操作の度合いがアクセル基準より大きく、かつ、クラッチ操作部材の解放操作の度合いがクラッチ基準より大きい場合に、駆動源による車両の走行を抑制しないと決定してもよい。
【0015】
車両用制御装置は、アクセル操作部材の加速操作の度合いがアクセル基準より大きく、かつ、クラッチ操作部材の解放操作の度合いがクラッチ基準より大きい場合に、報知を行ってもよい。
【0016】
この構成では、ドライバがブレーキ操作部材の制動操作をアクセル操作部材の加速操作と間違えたことにより早期に気づくことができる。その結果、操作間違いの発生からより早い時期に、アクセル操作部材の加速操作が止められて、ブレーキ操作部材の制動操作が行われることを期待でき、操作間違いによる事故の被害をより一層軽減ないし事故の発生をより一層抑制することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ブレーキ操作部材とアクセル操作部材との操作間違いによる事故の被害を軽減ないし事故の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係る車両用制御装置が採用された車両の構成を示す図である。
【
図2】ペダル踏み間違い処理の開始、終了および内容を決定する処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0020】
<車両の構成>
図1は、本発明の一実施形態に係る車両用制御装置が採用された車両1の構成を示す図である。
【0021】
車両1は、エンジン(E/G)2を駆動源とする自動車である。エンジン2には、エンジン2の燃焼室への吸気量を調整するための電子スロットルバルブ、燃料を吸入空気に噴射するインジェクタ(燃料噴射装置)および燃焼室内に電気放電を生じさせる点火プラグなどが設けられている。また、エンジン2には、その始動のためのスタータが付随して設けられている。
【0022】
車両1には、エンジン2からの動力を変速する変速機として、手動変速機(MT:Manual Transmission)3が搭載されている。エンジン2と手動変速機3との間には、エンジン2と手動変速機3とを断続するクラッチ4が介装されている。クラッチ4が係合した状態で、エンジン2と手動変速機3とが接続される。このとき、エンジン2が出力する動力は、クラッチ4を介して手動変速機3に入力され、手動変速機3で変速されて、手動変速機3からデファレンシャルギヤ5に伝達され、デファレンシャルギヤ5から左右の駆動輪6に走行用の駆動力として伝達される。
【0023】
車両1の車室内には、運転席の足下に、エンジン2の出力を調節するためにドライバ(運転者)に足踏み操作されるアクセルペダル11と、駆動輪6を含む各車輪に作用する制動力を調節するためにドライバ(運転者)に足踏み操作されるブレーキペダル12と、クラッチ4の係合および解放を切り替えるためにドライバ(運転者)に足踏み操作されるクラッチペダル13とが設けられている。アクセルペダル11およびブレーキペダル12は、運転席に着座した運転者の右足での足踏み操作が便利な位置に、車両1の右側からその順に並べて配置されている。クラッチペダル13は、ブレーキペダル12から左側に離間して、運転席に着座した運転者の左足での足踏み操作が便利な位置に配置されている。
【0024】
また、車両1には、油圧式のブレーキ機構14が搭載されている。ブレーキ機構14には、ブレーキブースタ、マスタシリンダおよびブレーキアクチュエータが含まれる。ブレーキペダル12が踏まれると、そのブレーキペダル12に入力された踏力がブレーキブースタに伝達される。ブレーキブースタに伝達された踏力は、ブレーキブースタの負圧によって増幅(倍力)され、ブレーキブースタからマスタシリンダに入力される。マスタシリンダでは、ブレーキブースタから入力される力に応じた油圧が発生する。マスタシリンダの発生油圧は、ブレーキアクチュエータに伝達される。そして、ブレーキアクチュエータの機能により、各車輪に設けられたブレーキのホイールシリンダに油圧が分配され、その油圧により各ブレーキから車輪に制動力が付与される。
【0025】
クラッチ4には、たとえば、乾式単板クラッチの構成が採用されている。すなわち、クラッチ4は、エンジン2の出力軸に保持されるフライホイールと、フライホイールに固定されたクラッチカバーと、クラッチカバーに外周部が支持されるダイヤフラムスプリングと、フライホイールとダイヤフラムスプリングとの間に配置されるプレッシャプレートと、フライホイールとプレッシャプレートとの間に配置されるクラッチディスクとを備えている。
【0026】
クラッチペダル13が踏まれていない状態では、ダイヤフラムスプリングのばね力による押付力がダイヤフラムスプリングの外周部からプレッシャプレートに入力され、プレッシャプレートによりクラッチディスクがフライホイールに押し付けられる。この状態がクラッチ4が係合した状態(繋がった状態)であり、クラッチ4が係合した状態では、エンジン2の動力がクラッチ4を介して手動変速機3に伝達される。
【0027】
ダイヤフラムスプリングに対してプレッシャプレート側と反対側には、レリーズベアリングがダイヤフラムスプリングの内周部に対向して配置されている。クラッチペダル13には、マスタシリンダのピストンの先端部が接続されている。マスタシリンダには、リザーバとの間でオイルを流通させるリザーバホースと、レリーズシリンダに油圧を伝達するクラッチ配管とが接続されている。クラッチペダル13が踏み込まれると、クラッチペダル13によりマスタシリンダのピストンが押され、マスタシリンダに油圧が発生する。マスタシリンダで発生する油圧は、クラッチ配管を介してレリーズシリンダに伝達される。レリーズシリンダに伝達される油圧によりレリーズフォークが操作されて、レリーズフォークがレリーズベアリングをダイヤフラムスプリング側に押圧する。この押圧力がレリーズベアリングを介してダイヤフラムスプリングの内周部に入力され、ダイヤフラムスプリングが傾動および弾性変形し、ダイヤフラムスプリングの外周部からプレッシャプレートへの押付力の入力が解除される。その結果、クラッチディスクがフライホイールから離れた状態となる。この状態がクラッチ4が解放された状態(切れた状態)であり、クラッチ4が解放された状態では、エンジン2の動力が手動変速機3に伝達されない。
【0028】
また、車両1には、複数のECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)が搭載されている。各ECUは、マイコン(マイクロコントローラユニット)を備えており、マイコンには、たとえば、CPU、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリおよびDRAM(Dynamic Random Access Memory)などの揮発性メモリが内蔵されている。複数のECUは、CAN(Controller Area Network)通信プロトコルによる双方向通信が可能に接続されている。各ECUには、制御に必要な各種センサが接続されており、その接続されたセンサの検出信号が入力される。また、各ECUには、各種センサから入力される検出信号以外に制御に必要な情報が他のECUから入力される。
【0029】
図1には、複数のECUのうち、車両1の衝突による被害を軽減ないし衝突を回避する制御のためのECU21が示されている。ECU21には、アクセルセンサ22、ブレーキセンサ23、クラッチストロークセンサ24、車輪速センサ25、前方検知センサ26、舵角センサ27および勾配センサ28が接続されており、これらのセンサ類の検出信号が入力される。
【0030】
アクセルセンサ22は、アクセルペダル11の操作量に応じた検出信号を出力する。
【0031】
ブレーキセンサ23は、ブレーキペダル12の操作量に応じた検出信号を出力する。
【0032】
クラッチストロークセンサ24は、クラッチ4のマスタシリンダに付設されて、マスタシリンダのピストンの変位量に応じた検出信号を出力する。
【0033】
車輪速センサ25は、車両1の車輪(駆動輪6および従動輪)ごとに設けられており、各車輪の回転に同期したパルス信号を検出信号として出力する。車輪速センサ25の検出信号から、その検出信号(パルス信号)の周波数を求めて、その周波数から車輪速を求めることができる。さらに、車輪速から車両1の車速を求めることができる。
【0034】
前方検知センサ26は、車両1の前方に存在する障害物を検知するセンサである。前方検知センサ26には、ステレオカメラ、超音波ソナー、LIDARセンサまたはレーダを用いることができる。前方検知センサ26がステレオカメラである場合、そのステレオカメラは、車両1の前方を広角で撮像可能なように、たとえば、車室内の前部中央のルームミラーの前方に設置される。ステレオカメラでは、左右両眼のイメージセンサから入力される一対の画像データから、イメージセンサに撮像された各画像で同一対象物に対応する対象画素が抽出され、その一対の画像間での対象画素の位置のずれ量が検出されて、三角測量の原理で同一対象物までの距離が算出される。ステレオカメラは、その算出した距離に応じた検出信号を出力する。
【0035】
舵角センサ27は、車両1のステアリング機構(たとえば、ハンドル)の舵角中点に対する舵角(絶対舵角)に応じた検出信号を出力する。
【0036】
勾配センサ28は、車両1の走行路面の勾配を検出するセンサである。勾配センサ28には、たとえば、Gセンサを用いることができる。Gセンサは、錘の変位に応じた信号を車両1の加速度に応じた検出信号として出力する。Gセンサの検出信号から車両1の加速度を求めることができる。Gセンサの検出信号から求まる加速度には、車速の変化による加速度成分と、車両1が所在する路面の勾配による加速度成分とが含まれる。一方、車輪速センサ25の検出信号から求められる車速を微分して得られる加速度は、車速の変化による加速度成分のみである。したがって、Gセンサの検出信号から求まる加速度と車速の微分値との差を求めることにより、車両1が走行中の路面の勾配による加速度成分が得られるので、その加速度成分に基づいて、路面の勾配を推定することができる。
【0037】
なお、アクセルセンサ22、ブレーキセンサ23、クラッチストロークセンサ24、車輪速センサ25、前方検知センサ26、舵角センサ27および勾配センサ28の一部または全部が他のECUに接続されていてもよく、その場合、ECU21は、それらの検出信号から求められる情報を他のECUから通信により取得してもよい。
【0038】
ECU21は、各センサから入力される検出信号および/または他のECUから入力される情報に基づいて、不揮発性メモリに格納されているプログラムによる各種の処理を実施し、エンジン2を制御するエンジンECU、ブレーキ機構14を制御するブレーキECU、ならびに表示器31およびブザー32が配設されたメータパネルを制御するメータECUに指令を出力する。表示器31は、たとえば、メータパネルに配設されたマルチインフォメーションディスプレイであってもよいし、メータパネルに配設されたインジケータであってもよい。
【0039】
ECU21は、アクセルペダル11がブレーキペダル12と間違えて踏み込まれる踏み間違いの発生を判断し、踏み間違いが発生した場合、踏み間違いによる事故(衝突)の被害を軽減ないし事故の発生を抑制するため、ペダル踏み間違い処理を実施し、エンジンECUおよびメータECUに指令を出力する。
【0040】
また、ECU21は、車両1とその前方の障害物との衝突の可能性を判断し、車両1と障害物との衝突の可能性がある場合、その衝突による被害を軽減ないし衝突を回避するため、ブレーキ機構14から各車輪に制動力を自動的に作用させる自動ブレーキ制御を行うよう、ブレーキECUに指令を与える。また、ECU21は、自動ブレーキの作動時に、自動ブレーキの作動を報知するための表示器31の表示およびブザー32の吹鳴を行うよう、メータECUに指令を与える。
【0041】
衝突可能性の判断では、車両1の前方に障害物(物標)が存在する場合に、前方検知センサ26の検出信号から車両1と障害物との間の距離が取得されるととともに、車両1と障害物との相対速度が取得されて、その距離および相対速度から衝突予測時間(TTC:Time To Collision)が算出される。そして、ECU21では、衝突予測時間が所定時間になると、車両1と障害物との衝突の可能性があると判断される。
【0042】
<ペダル踏み間違い処理>
図2は、ペダル踏み間違い処理の開始、終了および内容を決定する処理の流れを示すフローチャートである。
【0043】
ペダル踏み間違い処理が行われていない状態では、アクセルセンサ22の検出信号からアクセルペダル11の踏込量であるAP踏込量およびそのAP踏込量の変化速度であるAP踏込速度が求められる。AP踏込量は、アクセルペダル11の最大踏込量に対する踏込量の割合(%)として求められ、AP踏込速度は、AP踏込量の時間微分により求められる。そして、AP踏込速度が所定の基準速度Aos(%/s)より大きいか否かが判定される(ステップS1)。また、AP踏込量が所定の開始基準量Ap1(%)より大きいか否かが判定される(ステップS2)。基準速度Aosおよび開始基準量Ap1は、たとえば、急制動の際にブレーキペダル12に入力される踏力でアクセルペダル11が踏み込まれた場合の踏込速度および踏込量をそれぞれ参考に設定される。
【0044】
アクセルペダル11は、ブレーキペダル12と比較して、ゆっくりと踏み込まれることが多い。そのため、アクセルペダル11が素早くかつ大きく踏み込まれた場合、アクセルペダル11がブレーキペダル12と間違えて踏み込まれた可能性がある。そこで、AP踏込量が開始基準量Ap1より大きく、かつ、AP踏込速度が基準速度Aosより大きい場合(ステップS1,S2のYES)、アクセルペダル11がブレーキペダル12と間違えて踏み込まれる踏み間違いが発生したと判断されて、ペダル踏み間違い処理の開始が決定される(ステップS3)。ペダル踏み間違い処理には、踏み間違いによる車両1の急加速(誤発進)を抑制するため、エンジン2の出力を抑制するエンジン出力抑制制御が含まれる。また、ペダル踏み間違い処理には、アクセルペダル11がブレーキペダル12と間違えて踏み込まれていることをドライバに報知するため、表示器31に警告を表示させ、ブザー32を吹鳴させるHMI(Human Machine Interface:ヒューマンマシンインタフェース)制御が含まれる。ペダル踏み間違い処理の開始の決定とともに、エンジン出力抑制制御およびHMI制御の実施が決定される。
【0045】
一方、AP踏込速度が基準速度Aos以下である場合は(ステップS1のNO)、ペダル踏み間違い処理が開始されず、AP踏込速度が再び求められて、その求められたAP踏込速度が基準速度Aosより大きいか否かが再び判定される(ステップS1)。また、AP踏込速度が基準速度Aosより大きくても、AP踏込量が開始基準量Ap1以下である場合には(ステップS2のNO)、ペダル踏み間違い処理が開始されず、AP踏込量およびAP踏込速度が再び求められて、AP踏込速度が基準速度Aosより大きいか否かの判定が再び行われ(ステップS1)、AP踏込速度が基準速度Aosより大きい場合、AP踏込量が開始基準量Ap1より大きいか否かの判定が再び行われる(ステップS2)。
【0046】
ペダル踏み間違い処理の開始の決定後、AP踏込量が再び求められて、その時点でのAP踏込量が所定の終了基準量Ap2未満であるか否かが判定される(ステップS4)。終了基準量Ap2は、開始基準量Ap1と同値であってもよいし、開始基準量Ap1と異なる値であってもよい。また、終了基準量Ap2は、固定値であってもよいし、エンジン出力抑制制御が実施されているか否かに応じて可変に設定されてもよい。
【0047】
AP踏込量が終了基準量Ap2以上である場合(ステップS4のNO)、クラッチストロークセンサ24の検出信号からクラッチペダル13の踏込量であるCP踏込量が求められる。CP踏込量は、クラッチペダル13の最大踏込量に対する踏込量の割合(%)として求められる。そして、CP踏込量が所定の基準量Cp(%)より大きいか否かが判定される(ステップS5)。基準量Cpは、クラッチ4が解放されるときのクラッチペダル13の踏込量を参考に、0に近い値、たとえば、10以下の値に設定される。
【0048】
CP踏込量が基準量Cp以下である場合(ステップS5のNO)、ペダル踏み間違い処理の継続が決定され、エンジン出力抑制制御およびHMI制御の実施が継続される(ステップS6)。エンジン出力抑制制御では、エンジン2の出力を抑制するため、たとえば、電子スロットルバルブが制御されて、エンジン2の回転数が所定回転数に下げられる。所定回転数は、たとえば、車両1の車速および手動変速機3の変速比(変速段)に基づいて、クラッチ4が係合している状態でエンジン2のストールが生じない最低の回転数が求められ、その回転数よりも所定量だけ高い回転数に設定される。その後、AP踏込量が再び求められて、その時点でのAP踏込量が所定の終了基準量Ap2未満であるか否かが判定される(ステップS4)。
【0049】
アクセルペダル11が終了基準量Ap2以上に踏み込まれたまま、クラッチペダル13が踏み込まれて、CP踏込量が基準量Cpよりも大きい場合(ステップS5のYES)、ペダル踏み間違い処理は継続されるが、エンジン出力抑制制御は終了され、HMI制御のみが継続して実施される(ステップS7)。アクセルペダル11が終了基準量Ap2以上に踏み込まれた状態でエンジン出力抑制制御が終了されるので、エンジン2の回転数が所定回転数からAP踏込量に応じた回転数に急上昇する。このとき、クラッチペダル13が基準量Cpよりも多く踏み込まれることにより、クラッチ4が解放されているので、エンジン2の回転数が上昇しても、駆動輪6に伝達される駆動力は上昇せず、エンジン2が空吹かしされた状態となる。その後は、AP踏込量が再び求められて、その時点でのAP踏込量が所定の終了基準量Ap2未満であるか否かが判定される(ステップS4)。
【0050】
アクセルペダル11の踏み込みが解除されて、AP踏込量が終了基準量Ap2未満に低下すると(ステップS4のYES)、ペダル踏み間違い処理の終了が決定されて、エンジン出力抑制制御およびHMI制御の実施がともに終了される(ステップS8)。
【0051】
<作用効果>
以上のように、アクセルペダル11の足踏み操作が行われて、その足踏み操作の度合いが所定以上、具体的には、アクセルペダル11の踏込量であるAP踏込量が開始基準量Ap1より大きく、かつ、AP踏込量の変化速度であるAP踏込速度が基準速度Aosより大きい場合に、ペダル踏み間違い処理が行われる。ペダル踏み間違い処理では、クラッチペダル13の解放操作の度合いであるCP踏込量に基づいて、エンジン2の出力を抑制するエンジン出力抑制制御を実施するか否かが決定される。
【0052】
たとえば、アクセルペダル11、ブレーキペダル12およびクラッチペダル13のいずれも操作されていない状態での車両1の走行中(空走中、クルーズコントロール走行中)に、進行方向の信号機の赤色灯が点灯したことによって、車両1の減速が必要となり、ドライバがブレーキペダル12の足踏み操作と間違えて、アクセルペダル11の足踏み操作を行った場合、クラッチ4が係合しているので、車両1が急加速し、その急加速による事故が発生する可能性がある。
【0053】
そのため、AP踏込量が開始基準量Ap1より大きく、かつ、AP踏込速度が基準速度Aosより大きい場合であって、CP踏込量が基準量Cp以下であり、クラッチ4の係合状態が維持されている場合には、エンジン出力抑制制御の実施が決定されて、エンジン出力抑制制御が実施される。これにより、エンジン2の出力が抑制されて、車両1の走行が抑制されるので、ブレーキペダル12の足踏み操作と間違えて、アクセルペダル11の足踏み操作が行われた場合に、その操作間違いによる事故の被害を軽減ないし事故の発生を抑制することができる。
【0054】
一方、AP踏込量が開始基準量Ap1より大きく、かつ、AP踏込速度が基準速度Aosより大きくても、CP踏込量が基準量Cpよりも大きく、クラッチ4が解放されている場合には、エンジン出力抑制制御を実施しない決定(終了する決定)がなされる。クラッチ4の解放により、エンジン2と手動変速機3とが切り離され、アクセルペダル11の足踏み操作に応じてエンジン2の回転数が上昇(エンジン2の出力が増大)しても、車両1が加速することがないので、操作間違いによる事故の被害を軽減ないし事故の発生を抑制することができる。
【0055】
しかも、エンジン2の回転数が上昇したにもかかわらず、車両1が加速しないことにより、ドライバがブレーキペダル12の足踏み操作をアクセルペダル11の足踏み操作と間違えたことに気がつきやすい。そのため、操作間違いの発生からより早い時期に、アクセルペダル11の足踏み操作が止められて、ブレーキペダル12の足踏み操作が行われることを期待できる。その結果、操作間違いによる事故の被害を一層軽減ないし事故の発生を一層抑制することができる。
【0056】
また、ペダル踏み間違い処理では、アクセルペダル11がブレーキペダル12と間違えて踏み込まれていることをドライバに報知するため、表示器31に警告を表示させ、ブザー32を吹鳴させるHMI制御が行われる。その報知により、ドライバがブレーキペダル12の制動操作をアクセルペダル11の加速操作と間違えたことにより早期に気づくことができる。その結果、操作間違いの発生からより早い時期に、アクセルペダル11の足踏み操作が止められて、ブレーキペダル12の足踏み操作が行われることを期待でき、操作間違いによる事故の被害をより一層軽減ないし事故の発生をより一層抑制することができる。
【0057】
<変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
【0058】
たとえば、前述の実施形態では、ペダル踏み間違い処理の開始の決定後、AP踏込量が再び求められて、AP踏込量が終了基準量Ap2未満である場合に、ペダル踏み間違い処理の終了が決定されるとしたが、AP踏込速度が求められて、AP踏込量が終了基準量Ap2未満であるか否かの判定に加えて、または、その判定に代えて、AP踏込速度が負の所定値未満であるか否か(AP踏込量の減少方向(アクセルペダル11の踏み込みが解除される方向)の変化の速度が所定値よりも大きいか否か)の判定が行われて、その判定が肯定された場合に、ペダル踏み間違い処理の終了が決定されてもよい。
【0059】
また、AP踏込速度の時間微分値であるAP踏込加速度が求められて、AP踏込量が終了基準量Ap2未満であるか否かの判定に加えて、または、その判定に代えて、AP踏込加速度が負の所定値未満であるか否か(AP踏込量の減少方向(アクセルペダル11の踏み込みが解除される方向)の変化の加速度が所定値よりも大きいか否か)の判定が行われて、その判定が肯定された場合に、ペダル踏み間違い処理の終了が決定されてもよい。
【0060】
アクセル操作部材、ブレーキ操作部材およびクラッチ操作部材として、それぞれアクセルペダル11、ブレーキペダル12およびクラッチペダル13を取り上げたが、アクセル操作部材、ブレーキ操作部材およびクラッチ操作部材は、足踏み操作されるペダルに限らず、手動操作されるレバーやグリップ回転式のものであってもよい。
【0061】
「アクセル操作部材の加速操作の度合いがアクセル基準より大きい場合」は、前述の実施形態では、AP踏込量が開始基準量Ap1よりも大きく、かつ、AP踏込速度が基準速度Aosより大きい場合としたが、AP踏込量が開始基準量Ap1よりも大きい場合およびAP踏込速度が基準速度Aosより大きい場合のいずれかであってもよい。
【0062】
前述の実施形態では、駆動源であるエンジン2の出力の抑制により、車両1の走行が抑制されるが、ブレーキ機構14から各車輪に制動力を自動的に作用させる自動ブレーキにより、車両1の走行が抑制されてもよい。
【0063】
また、ペダル踏み間違い処理には、エンジン出力抑制制御およびHMI制御が含まれるとしたが、HMI制御が省略されてもよく、また、自動ブレーキ制御が含まれてもよい。
【0064】
クラッチストロークセンサ24は、クラッチ4のマスタシリンダのピストンの変位量に応じた検出信号を出力する構成に限らず、レリーズフォークの変位量に応じた検出信号を出力する構成であってもよいし、クラッチペダル13の変位量に応じた検出信号を出力する構成など、クラッチ4の状態に応じた位置に変位される部材の変位量に応じた検出信号を出力する構成であればよい。
【0065】
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0066】
1:車両
2:エンジン(駆動源)
3:手動変速機
4:クラッチ
11:アクセルペダル(アクセル操作部材)
12:ブレーキペダル(ブレーキ操作部材)
13:クラッチペダル(クラッチ操作部材)
14:ブレーキ機構
21:ECU(車両用制御装置)
Aos:基準速度(アクセル基準)
Ap1:開始基準量(アクセル基準)
Cp:基準量(クラッチ基準)