(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022138736
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】グルコマンナンを含有する多孔質体
(51)【国際特許分類】
A23L 5/00 20160101AFI20220915BHJP
A23L 35/00 20160101ALN20220915BHJP
【FI】
A23L5/00 A
A23L5/00 N
A23L35/00
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021038788
(22)【出願日】2021-03-10
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-04-22
(71)【出願人】
【識別番号】512196415
【氏名又は名称】株式会社倉島食品
(71)【出願人】
【識別番号】590002389
【氏名又は名称】静岡県
(74)【代理人】
【識別番号】100205512
【弁理士】
【氏名又は名称】出雲 暖子
(72)【発明者】
【氏名】倉島 康司
(72)【発明者】
【氏名】三宅 健司
【テーマコード(参考)】
4B035
4B036
【Fターム(参考)】
4B035LC16
4B035LE05
4B035LG01
4B035LG24
4B035LP01
4B035LP21
4B035LP24
4B035LP31
4B035LP43
4B036LF13
4B036LH01
4B036LH11
4B036LP01
4B036LP02
4B036LP09
4B036LP14
4B036LP17
(57)【要約】
【課題】 乾燥したままの状態で使用でき、水や油脂の吸収量が多く、水や油脂の吸収速度が速く、水に油脂を吸収させると弾力を有し、乾燥した状態でつぶれにくい、グルコマンナンを含有する多孔質体を提供する。
【解決手段】 グルコマンナンと、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のうち少なくとも一つを含有する多孔質体であって、
前記グルコマンナンの質量を1とした場合、前記アルカリ金属の質量と前記アルカリ土類金属の質量とを合計した質量は0.01以上0.1以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコマンナンと、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のうち少なくとも一つを含有する多孔質体であって、
前記グルコマンナンの質量を1とした場合、前記アルカリ金属の質量と前記アルカリ土類金属の質量とを合計した質量は0.01以上0.1以下である、
グルコマンナンを含有する多孔質体。
【請求項2】
前記多孔質体の含水率は0.1%以上20%以下である、
請求項1に記載のグルコマンナンを含有する多孔質体。
【請求項3】
前記多孔質体は、前記多孔質体の質量の10倍以上30倍以下の水を吸収する、
請求項1又は請求項2に記載のグルコマンナンを含有する多孔質体。
【請求項4】
前記多孔質体は、前記多孔質体の質量の10倍以上20倍以下の油脂を吸収する、
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のグルコマンナンを含有する多孔質体。
【請求項5】
前記多孔質体の質量の少なくとも10倍以上の水又は油脂を吸収させた多孔質体の80%圧縮応力は、200,000N/平方メートル以上700,000N/平方メートルである、
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のグルコマンナンを含有する多孔質体。
【請求項6】
前記多孔質体の破断応力は、1,500,000N/平方メートル以上2,500,000N/平方メートルである
請求項2ないし請求項5のいずれか1項に記載のグルコマンナンを含有する多孔質体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全性・生物親和性が求められる食品、化粧品、医薬部外品及び医薬品、又は生化学の研究用材料など、広範囲の技術分野での利用が可能なグルコマンナンを含有する多孔質体に関する。
【背景技術】
【0002】
グルコマンナンを用いたこんにゃくは、多くの食物繊維を含み、低カロリーであることから、健康食材としての利用価値が高い、しかしながら、こんにゃくは、水分が95%以上含まれるため、保存期間が短い。一般的に市販されているこんにゃくは、凍結・解凍・乾燥させると、組織が収縮して硬化し、乾燥したままの状態では使用しづらい上、水や液状の油脂をほとんど吸収しないため、乾燥食品としての応用が困難である(
図3参照)。
【0003】
従来から、北関東地方等では、凍みこんにゃくと呼ばれる乾燥した保存食が知られている。上記凍みこんにゃくは、でんぷんを多く含むこんにゃく粉に通常のこんにゃくの約3倍の量の凝固剤(水酸化カルシウム)を加えて作ったこんにゃくを、凍結・解凍を繰り返し行って水分を除去し、その後に乾燥することで製造される。そのため、凍みこんにゃくは、凝固剤(水酸化カルシウム)が多く残留し、食品として使用する場合には、凝固剤(水酸化カルシウム)がえぐみ等の雑味となるという問題点がある。また、化粧品、医薬部外品及び医薬品、又は生化学の研究用材料として使用する場合にも凝固剤の残留は支障となる。そのため、凍みこんにゃくは、使用する前に、凝固剤を除去するために多量の水に浸漬するなどしなくてはならならず、乾燥したままの状態で使用できないという問題点がある。
【0004】
凍みこんにゃくは、乾燥した多孔質体であるが、水や液状の油脂の吸収量が少なく、吸収速度が遅いという問題点や、水や油脂を吸収させた凍みこんにゃくは弾力がほとんどないという問題点や、孔を形成する繊維の強度が弱くつぶれやすいという問題点がある。そして、凍みこんにゃくは製造するために、凍結・解凍を繰り返すため、時間がかかるという問題点がある。
【0005】
特許文献1のこんにゃくスポンジは、容易にほぐれない糸こんにゃく状を呈するこんにゃく粉製素材を乾燥処理して得るものであって、製造方法が簡便で容易に工業的製造を行うことが可能であることが開示されているのみであり、こんにゃくスポンジの弾力、吸水性、吸油性、強度などについての記載は一切なく、凍みこんにゃくの有する上記問題点の解決には至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、乾燥したままの状態で使用でき、水や油脂の吸収量が多く、水や油脂の吸収速度が速く、水に油脂を吸収させると弾力を有し、乾燥した状態ではつぶれにくい、グルコマンナンを含有する多孔質体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明は次の内容のものである。
【0009】
グルコマンナンと、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のうち少なくとも一つを含有する多孔質体であって、
前記グルコマンナンの質量を1とした場合、前記アルカリ金属の質量と前記アルカリ土類金属の質量とを合計した質量は0.01以上0.1以下である。
【0010】
前記多孔質体の含水率は0.1%以上20%以下である。
【0011】
前記多孔質体は、前記多孔質体の質量の10倍以上30倍以下の水を吸収する。
【0012】
前記多孔質体は、前記多孔質体の質量の10倍以上20倍以下の油脂を吸収する。
【0013】
前記多孔質体の質量の少なくとも10倍以上の水又は油脂を吸収させた多孔質体の80%圧縮応力は、200,000N/平方メートル以上700,000N/平方メートルである。
【0014】
前記多孔質体は含水率が0.1%以上20%以下の場合、前記多孔質体の破断応力は、1,500,000N/平方メートル以上2,500,000N/平方メートルである。
【発明の効果】
【0015】
本発明のグルコマンナンを含有する多孔質体は、乾燥したままの状態で使用でき、水や油脂の吸収量が多く、水や油脂の吸収速度が速く、水に油脂を吸収させると弾力を有し、つぶれにくい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明のグルコマンナンを含有する多孔質体の一例を示す写真である。
【
図2】本発明のグルコマンナンを含有する多孔質体の一部の拡大写真(400倍)の一例である。
【
図3】市販のこんにゃくを凍結後乾燥させた写真の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態の例について説明する。尚、本発明は、以下の形態の例に限定されるものではない。
【0018】
本発明のグルコマンナンを含有する多孔質体(
図1参照)は、グルコマンナンと、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のうち少なくとも一つを含有する。前記グルコマンナンの質量を1とした場合、前記アルカリ金属の質量と前記アルカリ土類金属の質量とを合計した質量は0.01以上0.1以下である。
【0019】
一例として、本発明のグルコマンナンを含有する多孔質体は、含水率が0.1%以上20%以下の乾燥物である。
【0020】
本発明におけるグルコマンナンとは、サトイモ科に属するこんにゃくいもの塊茎に含まれる。具体的には、こんにゃくいもを水洗後剥片に切って乾燥し、粉砕後でんぷんを除去して得られるこんにゃく粉(精粉)、こんにゃく粉を更にアルコール精製して不純物を除きグルコマンナン含有量を高めた精製こんにゃく粉などを用いることができる。こんにゃく粉は、グルコマンナンの含有量が60%以上のもの(いわゆる、特等粉)や、グルコマンナン以外にでんぷん等が比較的多く含まれるもの(いわゆる、中粉、微粉など)を用いてもよい。
【0021】
本発明のグルコマンナンを含有する多孔質体に含まれるアルカリ金属、アルカリ土類金属は、一例として、カルシウム、カリウム、ナトリウム、マグネシウムなどが挙げられ、好ましくはカルシウムとする。本発明のグルコマンナンを含有する多孔質体に含まれるアルカリ金属の質量とアルカリ土類金属の質量とを合計した質量は、通常の灰分の測定方法により測定することができ、一例として、使用したグルコマンナンの質量と、アルカリ金属の質量とアルカリ土類金属の質量とを合計した質量と、の質量比率は、100:1~10である。
【0022】
一例として、本発明のグルコマンナンを含有する多孔質体における孔の短径は、約1μm~約100μmである。孔の形状は、略円形、略楕円形、略多角形など種々の形状を有する。孔の短径、長径、形状は拡大写真撮影機材を用いて、倍率100倍~1,000倍で測定、観察することができる。
図2の拡大写真は、走査電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製 TM-1000)を使用して観察し、写真を撮影したものである。
【0023】
本発明のグルコマンナンを含有する多孔質体は、一例として、水1000mlにグルコマンナン約20g以上約100g以下と凝固剤約0.5g以上約5g以下を加え、攪拌するなどして溶解させた後、冷凍処理を行う。冷凍処理にて完全に凍結させた後、解凍し、乾燥させることにより製造することができる。
【0024】
本発明品の製造に用いるグルコマンナンは、一例として、前述のとおりこんにゃく粉を用いることができる。凝固剤としては、一例として、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸物、炭酸化物などを用いることができ、好ましくは水酸化カルシウムを用いる。冷凍処理の方法はどのような方法でもよく、一例として、冷凍庫で凍結させるなどすればよい。解凍は自然解凍でもよいが、水、温水、熱水に浸漬させるなどして解凍してもよい。乾燥の方法はどのような方法でもよく、一例として、自然乾燥、送風乾燥、加熱乾燥など、又はこれらの組み合わせを用いることができる。
【実施例0025】
次に実施例、比較例を挙げ、本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら制約されるものではない。
【0026】
実施例に用いたグルコマンナンを含む多孔質体は、以下の工程で製造したものを使用した。ステンレス容器に水1000ml、グルコマンナン40g、水酸化カルシウム1.5gを加え、ミキサーで攪拌して溶解させた後、バットに入れて―25℃で1晩放置して凍結させた。凍結したものを熱湯に投入して融かした後、取り出して厚さ約10mmにスライスし、熱風乾燥(約85℃)を行い、含水率が10%程度になるように乾燥させた。乾燥物を1辺が約7~約10mmの立方体になるように切断したものを実施例として用いた。
【0027】
比較例は、市販の凍みこんにゃく(株式会社クリタ製、商品名大子グルメフーズ奥久慈凍みこんにゃく、厚さ約7~約10mm)を、1辺が約7~約10mmの立方体になるように切断したものを用いた。比較例の含水率は、実施例と同様に10%程度であった。
【0028】
実施例及び比較例の含水率は、105℃で4時間常圧乾燥し、乾燥前後の質量変化から算出した。
【0029】
吸水試験として、実施例及び比較例の各3検体を、常温の水に1分浸漬した後の吸水量を測定し、表1にまとめた。
【0030】
【0031】
表1より、本発明のグルコマンナンを含む多孔質体は、市販の凍みこんにゃくに比べて吸水量が多く、多孔質体の質量の約10倍以上約30倍以下の水を吸収することが分かった。
【0032】
吸油試験として、実施例及び比較例の各3検体を、常温のサラダ油(市販品)に1分浸漬した後の吸水量を測定し、表2にまとめた。
【0033】
【0034】
表2より、本発明のグルコマンナンを含む多孔質体は、市販の凍みこんにゃくに比べて吸油量が多く、多孔質体の質量の約10倍以上約20倍以下の油脂を吸収することが分かった。
【0035】
実施例及び比較例の各5検体に、各検体の質量の10倍以上の質量の水を吸収させた後、室温下で直径3mmの円柱プランジャーを用い、圧縮速度1mm/sec、圧縮距離(歪率)95%までの応力を測定した。測定機器はクリープメーター(株式会社山電製、RE-33005)を用いた。80%圧縮時の応力を表3にまとめた。
【0036】
【0037】
表3より、本発明のグルコマンナンを含む多孔質体は、市販の凍みこんにゃくに比べて80%圧縮応力が高いことから、弾力があり、80%圧縮応力は約200,000N/平方メートル以上約700,000N/平方メートルであることが分かった。本発明のグルコマンナンを含む多孔質体は、水又は油脂を吸収させると、噛み応えがある。
【0038】
実施例及び比較例の各3検体(いずれも含水率10%程度)につき、各検体の10倍以上の水を吸収させた後、室温下で直径3mmの円柱プランジャーを用い、圧縮速度1mm/secで各検体が破断した時点での応力を測定し、表4にまとめた。
【0039】
【0040】
表4より、本発明のグルコマンナンを含む多孔質体は、市販の凍みこんにゃくに比べて破断応力が高いことから、孔を形成する繊維が強くつぶれにくく、破断応力は約1,500,000N/平方メートル以上約2,500,000N/平方メートルであることが分かった。
【0041】
本発明品のグルコマンナンを含む多孔質体の食品への利用として、本発明のグルコマナンを含む多孔質体を水に浸漬させた後余分な水を除き、ある程度の大きさに切断したものをひき肉の代わりとして用いたハンバーグを製造し、官能検査を行った。比較品は、ひき肉の代わりに大豆を用いた市販の大豆ハンバーグとした。官能検査は、6人のパネリストに、外観、香り、かたさ、歯ごたえ、味を7段階で評価しもらい、平均値を表5にまとめた。
【0042】
【0043】
表5より、本発明のグルコマンナンを含む多孔質を用いたハンバーグは、大豆ハンバーグと外観、香り、味において劣ることはなく、大豆ハンバーグより柔らかいにも拘わらず、肉のような歯ごたえがあり、おいいしいと感じることが分かった。本発明のグルコマンナンを含む多孔質は、前述のとおり、80%圧縮応力が高く噛み応えがあり、食品として加工した場合もその噛み応えは失われることなく歯ごたえを生じさせることが分かった。
【0044】
本発明のグルコマンナンを含む多孔質体は、食物繊維が豊富であること、低カロリー・低糖質であることなどから、食品としての有用性が高い。また、宗教上の理由等から肉食が禁止されている人や、ベジタリアンの人等に対してフェイクミートとして利用もできる。
本発明のグルコマンナンを含む多孔質体は、食品素材である食物繊維のグルコマンナンを用いていることから、低カロリー素材として、生活習慣病予防の商品に利用できる。そして、本発明のグルコマンナンを含む多孔質体は、乾燥状態である程度の強度を有し、乾燥したまま使用できることから製菓等にも利用できる。そして吸水性ばかりでなく吸油性も高いので、油性食品との混合も可能である。更に、食品素材のみから製造できることから、安全性が高く、化粧品、医薬部外品及び医薬品、又は生化学の研究用材料としても使用できる。