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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022138749
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】スケール抑制ユニット
(51)【国際特許分類】
   C23F 14/00 20060101AFI20220915BHJP
   C02F 5/00 20060101ALI20220915BHJP
   C02F 5/08 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
C23F14/00
C02F5/00 620B
C02F5/08 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021038811
(22)【出願日】2021-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】520145137
【氏名又は名称】株式会社小澤製作所
(71)【出願人】
【識別番号】520144417
【氏名又は名称】野城 清
(74)【代理人】
【識別番号】100100859
【弁理士】
【氏名又は名称】有賀 昌也
(72)【発明者】
【氏名】香山 健二
(72)【発明者】
【氏名】澤井 大輔
(72)【発明者】
【氏名】野城 清
【テーマコード(参考)】
4K062
【Fターム(参考)】
4K062AA05
4K062BA05
4K062BA08
4K062DA05
4K062FA04
4K062FA12
4K062FA18
4K062GA10
(57)【要約】
【課題】スケール付着の程度に応じてリン酸イオンの溶解速度を変更することができ、より確実にスケールの付着を抑制できると共に、各種システム内に低廉かつ容易にスケール抑制手段を施工できるスケール抑制ユニットを提供する。
【解決手段】本発明のスケール抑制ユニット1は、P含有合金2と、P含有合金2を収納すると共に温泉または熱温水が内外に流通可能なP含有合金収納部3を有している。このため、P含有合金2の表面積を調整することでスケール付着の程度に応じてリン酸イオンの溶解速度を変更してより確実にスケールの付着を抑制できると共に、各種システム内に低廉かつ容易に施工できる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ろう材にて形成されたP含有合金と、該P含有合金を収納すると共に温泉または熱温水が内外に流通可能なP含有合金収納部とを有していることを特徴とするスケール抑制ユニット。
【請求項2】
前記P含有合金は、ろう材にて形成されている請求項1に記載のスケール抑制ユニット。
【請求項3】
前記P含有合金は、箔状体が屈曲または湾曲されて構成されている請求項1または2に記載のスケール抑制ユニット。
【請求項4】
前記P含有合金収納部は、筒状網体にて構成されている請求項1ないし3のいずれかに記載のスケール抑制ユニット。
【請求項5】
P含有合金と、該P含有合金を収納する外筒部を有していることを特徴とするスケール抑制ユニット。
【請求項6】
前記P含有合金は、ろう材にて形成されている請求項5に記載のスケール抑制ユニット。
【請求項7】
前記スケール抑制ユニットは、温泉または熱温水が内外に流通可能な内筒部を有しており、前記P含有合金は、該内筒部と前記外筒部との間隙に配されている請求項5または6に記載のスケール抑制ユニット。
【請求項8】
前記P含有合金は、箔状体が屈曲または湾曲されて構成されている請求項5ないし7のいずれかに記載のスケール抑制ユニット。
【請求項9】
前記内筒部は、網体にて構成されている請求項6ないし8のいずれかまたは6に記載のスケール抑制ユニット。
【請求項10】
前記外筒部内に配されたP含有合金は、前記外筒部の軸方向に沿って配された長尺体である請求項5または6に記載のスケール抑制ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として地熱発電システム、温泉供給システムまたは給湯システム等に使用して好適なスケール抑制ユニットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、源泉からの温泉を利用した地熱発電システムにおいて、特に温度変化が激しい貯湯タンク15(図8参照)内や配管100(図22参照)内にスケールS(炭酸カルシウムや塩化カルシウム)が付着して目詰まり等による供給不全を引き起こすことが懸案となっている。特に、ミネラル含有量が多い硬水の欧州や北米などではスケールの付着がより顕著である。
【0003】
また、源泉からの温泉を加温、冷却、希釈等して浴槽に供給する温泉供給システムでも、温泉が流通する部位、特に温度変化が激しい温泉調整タンク41(図20参照)内や調整済温泉用配管33(図19参照)内などにスケールが付着して目詰まり等による供給不全を引き起こすことから、週1~2回程度のスケール除去作業(メンテナンス)が必要で、温泉提供者への著しい経済的または労働的負担となっている。
【0004】
さらに、家庭内等の給湯システムでも、特に深夜電力を利用する給湯システム50(図21参照)に炭酸カルシウムが堆積することが懸案となっている。
【0005】
そして、これらの問題を解決する方法として、例えば、温泉や熱温水が流通する部位にスケールの付着を抑制するP含有鍍金皮膜を形成する方法が提案されている(特開2017-52984号公報)。
【0006】
しかし、P含有鍍金皮膜を形成する方法では、リン酸イオンの溶解速度がP含有鍍金皮膜を形成する部位の表面積や配管の内径や外径により一義的に決定されてしまうため、スケール付着の程度によっては十分にスケールの付着を抑制することができなかった。また、スケール抑制のためには温泉や熱温水が流通する部位全てにP含有鍍金皮膜を施すことが望ましいが、施工に伴う経済的負担が著しく大きくなるため採用されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2017-52984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明の課題は、スケール付着の程度に応じてリン酸イオンの溶解速度を変更することができ、より確実にスケールの付着を抑制できると共に、各種システム内に低廉かつ容易にスケール抑制手段を施工できるスケール抑制ユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するものは、ろう材にて形成されたP含有合金と、該P含有合金を収納すると共に温泉または熱温水が内外に流通可能なP含有合金収納部とを有していることを特徴とするスケール抑制ユニットである(請求項1)。前記P含有合金は、ろう材にて形成されていることが好ましい(請求項2)。前記P含有合金は、箔状体が屈曲または湾曲されて構成されていることが好ましい(請求項3)。前記P含有合金収納部は筒状網体にて構成されていることが好ましい(請求項4)。
【0010】
また、上記課題を解決するものは、ろう材にて形成されたP含有合金と、該P含有合金を収納する外筒部を有していることを特徴とするスケール抑制ユニットである(請求項5)。前記P含有合金は、ろう材にて形成されていることが好ましい(請求項6)前記スケール抑制ユニットは、温泉または熱温水が内外に流通可能な内筒部を有しており、前記P含有合金は、該内筒部と前記外筒部との間隙に配されていることが好ましい(請求項7)。前記P含有合金は、箔状体が屈曲または湾曲されて構成されていることが好ましい(請求項8)。前記内筒部は網体にて構成されていることが好ましい(請求項9)。前記外筒部内に配されたP含有合金は、前記外筒部の軸方向に沿って配された長尺体(棒状体または帯状体)であってもよい(請求項10)。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載したスケール抑制ユニットによれば、地熱発電システムの貯湯タンク内等に配する際に、ろう材にて形成されたP含有合金の表面積(例えばP含有合金の接液面積や量)を調整してスケール付着の程度に応じてリン酸イオンの溶解速度を変更でき、より確実にスケールの付着を抑制できると共に、各種システム内に低廉かつ容易に施工できる。
請求項2に記載したスケール抑制ユニットによれば、上記請求項1に記載したスケール抑制ユニットの効果を奏するスケール抑制ユニットを極めて低廉に作成できる。
請求項3に記載したスケール抑制ユニットによれば、例えば、箔状体の量や種類、屈曲または湾曲の程度などを調整することでP含有合金と温泉や熱温水との接触面積をより増大させることができ、スケール付着の程度に応じてリン酸イオンの溶解速度を変更してより確実にスケールの付着を抑制できる。
請求項4に記載したスケール抑制ユニットによれば、上記請求項1または2に記載の効果を奏するスケール抑制ユニットをより簡素な構造で構成できる。
請求項5に記載したスケール抑制ユニットによれば、地熱発電システム等の配管として使用する際に、ろう材にて形成されたP含有合金の表面積を調整してスケール付着の程度に応じてリン酸イオンの溶解速度を変更でき、より確実にスケールの付着を抑制できると共に、各種システム内に低廉かつ容易に施工できる。
請求項6に記載したスケール抑制ユニットによれば、上記請求項5に記載したスケール抑制ユニットの効果を奏するスケール抑制ユニットを極めて低廉に作成できる。
請求項7に記載したスケール抑制ユニットによれば、上記請求項4に記載の効果を奏するスケール抑制ユニットをより簡素な構造で構成できる。
請求項8に記載したスケール抑制ユニットによれば、例えば、箔状体の量や種類、屈曲または湾曲の程度などを調整することでP含有合金と温泉や熱温水との接触面積をより増大させることができ、スケール付着の程度に応じてリン酸イオンの溶解速度を変更してより確実にスケールの付着を抑制できる。
請求項9に記載したスケール抑制ユニットによれば、上記請求項4ないし6のいずれかに記載の効果を奏するスケール抑制ユニットをより簡素な構造で構成できる。
請求項10に記載したスケール抑制ユニットによれば、P含有合金の形態(例えば長尺体の接液面積や本数など)を調整することでP含有合金と温泉や熱温水との接触面積をより増大させることができ、スケール付着の程度に応じてリン酸イオンの溶解速度を変更してより確実にスケールの付着を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明のスケール抑制ユニットの一実施例の縦断面概略図である。
図2図1のA-A線部分断面図である。
図3図1に示したスケール抑制ユニットのP含有合金の展開図である。
図4図1に示したスケール抑制ユニットのP含有合金収納部の正面概略図である。
図5図4の平面図である。
図6図1に示したスケール抑制ユニットの蓋体の正面図である。
図7図6の平面図である。
図8】本発明のスケール抑制ユニットを使用した地熱発電システムの説明図である。
図9】本発明のスケール抑制ユニットの他の実施例の正面図である。
図10図9に示したスケール抑制ユニットの縦断面図である。
図11図9のB-B線断面図である。
図12図9のC-C線断面図である。
図13図9に示したスケール抑制ユニットのP含有合金の正面図である。
図14図9に示したスケール抑制ユニットのP含有合金の展開図である。
図15】本発明のスケール抑制ユニットの他の実施例の正面図である。
図16図15に示したスケール抑制ユニットの縦断面図である。
図17図15のD-D線拡大断面図である。
図18図15に示したスケール抑制ユニットのP含有合金の拡大正面図である。
図19】本発明のスケール抑制ユニットを使用した温泉供給システムの説明図である。
図20】本発明のスケール抑制ユニットを使用した他の温泉供給システムの説明図である。
図21】本発明のスケール抑制ユニットを使用した給湯システムの説明図である。
図22】従来の地熱発電システムにおける配管内にスケールが付着した状態を説明するための拡大断面図である。
図23図1に示したスケール抑制ユニットを温泉供給システムの温度調整用タンク内に配置した場合の温度調整用タンク内の写真である。
図24図1に示したスケール抑制ユニットを温泉供給システムの温度調整用タンク内に配置する前の温度調整用タンク内の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明では、地熱発電システム、温泉供給システムまたは給湯システム等の各種タンク内に配置して使用するものとして、ろう材にて形成されたP含有合金2と、P含有合金2を収納すると共に温泉または熱温水が内外に流通可能なP含有合金収納部3を有することで、スケール付着の程度に応じてリン酸イオンの溶解速度を変更したり、P含有合金2の接液面積を調整して、より確実にスケールの付着を抑制できると共に、各種システム内に低廉かつ容易に施工できるスケール抑制ユニット1を実現した。
【0014】
また、本発明では、地熱発電システム、温泉供給システムまたは給湯システム等の各種配管または配管の一部として使用するものとして、ろう材にて形成されたP含有合金72と、P含有合金72を収納する外筒部71を有していることで、スケール付着の程度に応じてリン酸イオンの溶解速度を変更したり、P含有合金2の接液面積を調整して、より確実にスケールの付着を抑制できると共に、各種システム内に低廉かつ容易に施工できるスケール抑制ユニット70を実現した。
【実施例0015】
本発明のスケール抑制ユニットを図1ないし図7に示した一実施例を用いて説明する。
この実施例のスケール抑制ユニット1は、ろう材にて形成されたP含有合金2と、P含有合金2を収納すると共に温泉または熱温水が内外に流通可能なP含有合金収納部3を有している。以下、各構成について順次詳述する。
【0016】
この実施例のスケール抑制ユニット1は、地熱発電システム、温泉供給システムまたは給湯システム等へのスケール付着を抑制するためのものであり、それらの各種タンク内に配置して使用するものである。
【0017】
具体的には、ろう材にて形成されたP含有合金2は、地熱発電システム、温泉供給システムまたは給湯システム等におけるスケール付着を抑制するために配するものであり、P(リン)を含有するろう材を広く包含し、P(リン)の他に例えば、Ni、W、Fe、Co、Cr、Cu、Ag(殺菌性が付加される)などを含有するものであってもよいが、人体に悪影響を及ぼす可能性があるPbなどを含むものは好ましくない。なお、本願において「ろう材」とは、ろう付に使用される合金を言い、接合する部材(母材)よりも融点の低い合金(ろう)を溶かして一種の接着剤として用いるものである。
【0018】
このように、ろう材にて形成されたP含有合金2を、地熱発電システム、温泉供給システムまたは給湯システム等内に配するのは、スケールの主成分が炭酸カルシウムや塩化カルシウムであり、この炭酸カルシウムや塩化カルシウムの付着量は、ポリ塩化ビニル、炭素鋼またはステンレス(SUS)に比して、P含有合金が1/3~1/4程度との知見に基づくものである。
【0019】
この実施例のろう材にて形成されたP含有合金2としては、Pが10重量%、Niが43重量%、Feが27重量%およびCr20重量%の箔状体のろう材が使用されている。この実施例では、P含有合金2として、ろう材を使用することによって、極めて低廉に各種システム内におけるスケールの付着を抑制できる。具体的には、ろう材はP-Wi合金に比して1/10程度と安価である。また、この実施例では、温泉や熱温水が流通する部位にスケールの付着を抑制するP含有鍍金皮膜を形成するのではなく、ろう材にて形成されたP含有合金2の表面積を適宜調整し、スケール付着の程度に応じてリン酸イオンの溶解速度を変更したり、P含有合金2の接液面積を調整することで、より確実にスケールの付着を抑制できる。さらに、この実施例では、煩雑な鍍金を行わず、スケール抑制ユニット1を各種タンクに取り付けるだけで施工も極めて容易である。
【0020】
より具体的には、この実施例のろう材にて形成されたP含有合金2は、展開すると図3の箔状体を屈曲させ、図1または図2に示すように蓋体4(図6または図7)の下方に延出した取り付け棒5の周囲に放射状に固定して配置されている。6はスケール抑制ユニット1を各種タンク内に装着する際に把持する把持部である。また、この実施例では、図1に示すように取り付け棒5の長手方向に沿って8個(数量は適宜設計変更可能である。)のろう材にて形成されたP含有合金2が固定されている。なお、この実施例のP含有合金2は、温泉や熱温水との接触面積を大きくするために、複数個所にて屈曲されているが、これに限定されるものではなく、湾曲させて温泉や熱温水との接触面積を大きくしスケール抑制効率を高めたものも本発明の範疇に包含される。
【0021】
P含有合金収納部3は、P含有合金2を収納すると共に温泉または熱温水を内外に流通可能とするものであり、この実施例では、図4に示すように、筒状網体にて構成されている。ただし、P含有合金収納部3は筒状網体に限定されるものではなく、P含有合金2を収納すると共に温泉または熱温水を内外に流通可能とするものであればどのようなものでもよく、例えば多数の孔を有した筒状体などであってもよい。また、この実施例のスケール抑制ユニット1は、各種タンク内に配置して使用する形態のものであって、温泉または熱温水を内外に流通可能とするP含有合金収納部3内に屈曲された箔状体を配したものであるが、これに限定されるものではなく、P含有合金収納部3内に複数の長尺体(帯状体、棒状体)を配したもの、または、有底網体などのP含有合金収納部(容器)内にP含有合金の粒状体などを多数収納したものなども本発明の範疇に包含される。
【0022】
つぎに、スケール抑制ユニット1の使用方法を各種システムにおける使用例を用いて順次説明する。
図8はスケール抑制ユニット1を使用した地熱発電システム10の説明図である。
地熱発電システム10は、高温熱源をバイナリー発電13側に供給する高温熱源側11と、バイナリー発電機13と、低温熱源をバイナリー発電機13に供給する低温熱源側12とからなる。このバイナリー発電機13は、高温熱源側11と低温媒体系統を使用する低温熱源側12の二つの熱サイクルを利用して蒸気でタービンを回し発電するものである。
【0023】
高温熱源側11は、源泉14と貯湯タンク15とを連通する源泉用配管16と、貯湯タンク15と、貯湯タンク15と熱交換器17とを連通する高温熱源供給用配管18と、熱交換器17と排水用配管19とを有している。20はポンプ、21は蒸発器、22はタービン、23は凝縮器、24は冷却器である。
【0024】
そして、この地熱発電システム10において、貯湯タンク15内にスケール抑制ユニット1が配されることにより、貯湯タンク15内の温泉との接触面積が極めて大きい、ろう材にて形成されたP含有合金2と温泉とが接触することによって貯湯タンク15内におけるスケールの付着が抑制されるように構成されている。
【0025】
図20はスケール抑制ユニット1を使用した温泉供給システム40の説明図である。
温泉供給システム40は、温度調整または成分調整を行う温泉調整用タンク41と、温泉調整用タンク41と浴槽42とを連通する調整済温泉用配管43と、源泉44と温泉調整用タンク41とを連通する源泉用配管45とを有している。この実施例では、源泉44からの温泉に対して加温が行われるため、温泉調整用タンク41は加温タンクであり、内部に配された伝熱板46内にボイラー47からの熱水が還流することにより、温泉調整用タンク41の温泉が加温されるように構成されている。
【0026】
そして、この温泉供給システム40において、温泉調整用タンク41内にスケール抑制ユニット1が配されることにより、温泉調整用タンク41内の温泉との接触面積が極めて大きい、ろう材にて形成されたP含有合金2と温泉が接触することで温泉調整用タンク41内におけるスケールの付着が抑制されるように構成されている。
【0027】
図21はスケール抑制ユニット1を使用した給湯システム50の説明図である。
給湯システム50は、ヒートポンプ部51と貯湯タンク部52とを有し、冷媒に二酸化炭素を用いる給湯システムである。具体的には、この給湯システム50は、外気53をヒートポンプ部51内に取込み、空気熱交換器54にて二酸化炭素を温め圧縮機55に送って圧縮することで高温にする。高温化した二酸化炭素を熱交換器56に導入して貯湯タンク部52に供給される水を温める。これにより、給水57した水を加温して給湯58するシステムである。
【0028】
そして、この給湯システム50において、貯湯タンク部52内にスケール抑制ユニット1が配されることにより、貯湯タンク部52内の熱温水との接触面積が極めて大きい、ろう材にて形成されたP含有合金2と熱温水が接触することで貯湯タンク部52内におけるスケールの付着が抑制されるように構成されている。
【実施例0029】
さらに、図9ないし図14に示した本発明の他の実施例のスケール抑制ユニット70について説明する。
この実施例のスケール抑制ユニット70は、ろう材にて形成されたP含有合金72と、P含有合金72を収納する外筒部71と、温泉または熱温水が内外に流通可能な内筒部73を有しており、P含有合金72は、内筒部73と外筒部71との間隙に配されている。以下、各構成について順次詳述する。
【0030】
この実施例のスケール抑制ユニット70は、地熱発電システム、温泉供給システムまたは給湯システム等のスケール付着を抑制するためのものであり、それらの配管の一部または配管の代替として使用されるものである。
【0031】
ろう材にて形成されたP含有合金72は、地熱発電システム、温泉供給システムまたは給湯システム等におけるスケール付着を抑制するために配するものであり、P(リン)を含有するろう材を広く包含し、P(リン)の他に、例えば、Ni、W、Fe、Co、Cu、Cr、Ag(殺菌性が付加される)などを含有するものであってもよいが、人体に悪影響を及ぼす可能性があるPbなどを含むものは好ましくない。
【0032】
具体的には、この実施例のろう材にて形成されたP含有合金72は、Pが10重量%、Niが43重量%、Feが27重量%およびCr20重量%の箔状体のろう材が使用されている。P含有合金72として、ろう材を使用することによって、極めて低廉に各種システム内におけるスケールの付着を抑制できる。また、本発明においては、温泉や熱温水が流通する部位にスケールの付着を抑制するP含有鍍金皮膜を形成するのではなく、ろう材にて形成されたP含有合金2の表面積を適宜調整し、スケール付着の程度に応じてリン酸イオンの溶解速度を変更したり、P含有合金2の接液面積を調整して、より確実にスケールの付着を抑制できる。さらに、煩雑な鍍金を行わないため施工もより容易なものとなる。
【0033】
この実施例のろう材にて形成されたP含有合金72は、展開すると図14の箔状体を、図12または図13に示すように、複数屈曲させた箔状体(プリーツ状箔状体)である。このP含有合金72は温泉が流通可能な内筒部73と外筒部71との間隙において円周上に沿って配されている。より具体的には、円周上に沿って配されたプリーツ状のP含有合金72は外筒部71の軸方向に沿って多数(具体的には10個、ただし、数量は接液面積の調整のため適宜設計変更可能である。)隣接配置されている。なお、P含有合金72は、図12または図13に示すように、複数個所にて屈曲されているが、これに限定されるものではなく、湾曲させて温泉との接触面積を大きくしスケール抑制効率を高めたものも本発明の範疇に包含される。
【0034】
外筒部71は、温泉または熱温水を流通させる管であり、地熱発電システム、温泉供給システムまたは給湯システムなどの配管の一部として使用される場合は、図9または図10に示すように上流側または下流側に配された管継手90を介して配管に接続される。なお、この実施例のスケール抑制ユニット70は、地熱発電システム、温泉供給システムまたは給湯システムなどの配管の一部として使用される場合の実施例であるが、本発明のスケール抑制ユニットには、地熱発電システム、温泉供給システムまたは給湯システムなどの配管に全体的に使用されるものも包含される。
【0035】
また、この実施例の外筒部71は、鋼管からなる金属製配管であるが、これに限定されるものではなく、内部に温泉を流通させることができる管であればどのようなものであってもよく、例えば高分子樹脂製配管などであってもよい。
【0036】
内筒部73は、温泉を内外(内筒部73内と、外筒部71と内筒部73との間隙)に流通可能とするものであり、この実施例では、図10または図12に示すように、筒状網体にて構成されている。ただし、内筒部73は筒状網体に限定されるものではなく、温泉を内外に流通可能とするものであればどのようなものでもよく、例えば多数の孔を有した筒状体などであってもよい。また、この実施例のスケール抑制ユニット70は、外筒部71と内筒部73との間隙に箔状体を配したものであるが、これに限定されるものではなく、外筒部71と内筒部73との間隙にP含有合金の粒状体などを多数収納したものなども本発明の範疇に包含される。
【0037】
つぎに、スケール抑制ユニット70の使用方法を各種システムにおける使用例を用いて順次説明する。
図8はスケール抑制ユニット70を使用した地熱発電システム10の説明図である。
地熱発電システム10は、高温熱源をバイナリー発電13側に供給する高温熱源側11と、バイナリー発電機13と、低温熱源をバイナリー発電機13に供給する低温熱源側12とからなる。
高温熱源側11は、源泉14と貯湯タンク15とを連通する源泉用配管16と、貯湯タンク15と、貯湯タンク15と熱交換器17とを連通する高温熱源供給用配管18と、熱交換器17と排水用配管19とを有している。20はポンプ、21は蒸発器、22はタービン、23は凝縮器、24は冷却器である。そして、この地熱発電システム10において、源泉用配管16と高温熱源供給用配管18にそれぞれスケール抑制ユニット70が配されることにより、温泉との接触面積が極めて大きい、ろう材にて形成されたP含有合金72と温泉とが接触することによって源泉用配管16または高温熱源供給用配管18内におけるスケールの付着が抑制されるように構成されている。
【0038】
図19はスケール抑制ユニット70を使用した温泉供給システム30の説明図である。
この温泉供給システム30は、温度調整または成分調整を行う温泉調整用タンク31と、温泉調整用タンク31と浴槽32とを連通する調整済温泉用配管33と、源泉34と温泉調整用タンク31とを連通する源泉用配管35と、温泉調整用タンク31内には配置され上端部より調整済温泉が流入すると共に調整済温泉用配管33と連通する温泉供給管36と、調整済温泉用配管33と温泉調整用タンク31とを連通する還流管37とを有している。この実施例では、源泉5からの温泉に対して加温が行われるため、温泉調整用タンク31は加温タンクであり、内部に配された伝熱板39内にボイラー38からの熱水が還流することにより、温泉調整用タンク31の温泉が加温されるように構成されている。
【0039】
そして、この温泉供給システム30において、調整済温泉用配管33と、源泉用配管35と、温泉供給管36と、還流管37にそれぞれスケール抑制ユニット70が配されることにより、温泉との接触面積が極めて大きい、ろう材にて形成されたP含有合金72と温泉とが接触することで、調整済温泉用配管33、源泉用配管35、温泉供給管36また還流管37内におけるスケールの付着が抑制されるように構成されている。温泉供給システム30を新設する場合は上記管として使用され、既設の温泉供給システム30では、上記管と取り換えて使用される。これらによって、より容易かつより低廉に温泉供給システム30内におけるスケール抑制を行うことができる。
【実施例0040】
さらに、図15ないし図18に示した本発明のスケール抑制ユニットの他の実施例について説明する。
この実施例のスケール抑制ユニット80も、地熱発電システム、温泉供給システムまたは給湯システムにおいて配管または配管の一部として使用されるスケール抑制ユニットであって、ろう材にて形成されたP含有合金81と、該P含有合金を収納する外筒部71を有し、P含有合金81は、外筒部71の軸方向に沿って配された複数の長尺体である。
【0041】
この実施例のスケール抑制ユニット80と前述したスケール抑制ユニット70との基本的な相違点は、ろう材にて形成されたP含有合金81の組成と、外筒部71内に配されたP含有合金81が外筒部71の軸方向に沿って配された長尺体である点と、スケール抑制ユニット80は内筒部を有していない点であり、他は同様である。以下、各構成について詳述するが、スケール抑制ユニット70と同一構成部分については同一符号を付し説明を省略する。
【0042】
ろう材にて形成されたP含有合金81は、地熱発電システムまたは温泉供給システム等におけるスケール付着を抑制するためのものであり、P(リン)を含有するろう材を広く包含し、P(リン)の他に、例えば、Ni、W、Fe、Co、Cu、Cr、Ag(殺菌性が付加される)などを含有するものであってもよいが、人体に悪影響を及ぼす可能性があるPbなどを含むものは好ましくない。この実施例では、Pが5重量%、Niが4重量%、Snが15重量%およびCu76重量%のろう材が使用されている。
【0043】
外筒部71内に配されたろう材にて形成されたP含有合金81は、外筒部71の軸方向に沿って配された長尺体(図16または図18参照)であり、この実施例のろう材にて形成されたP含有合金81は温泉や熱温水が流通可能な外筒部71内において円周上に沿って等間隔または等角度離隔して32本配されている。なお、この実施例における外筒部71の軸方向に沿って配されたろう材にて形成されたP含有合金81は棒状体であるが、これに限定されるものではなく、長尺体であればどのような形態でもよく例えば帯状体のものなども本発明の範疇に包含される。また、ろう材にて形成されたP含有合金81の本数や太さなどもこれに限定されるものではなく、温泉や熱温水との接触面積を大きくしてスケール抑制効率を高めるために適宜設計変更可能である。さらに、図16または図17に示すように、ろう材にて形成されたP含有合金81の上下端部にそれぞれ設けられた屈曲部81a,81bが、それぞれ環状係止体82,83に係止されて外筒部71内に長尺体が配置されている。
【0044】
また、スケール抑制ユニット80には内筒部は設けられておらず、上流側に設けられた管継手90の上端開口91から流入した温泉や熱温水がスケール抑制ユニット80内に流入し、下流側に設けられた管継手90に流入するまでの間に、外筒部71内のろう材にて形成されたP含有合金81に接触してスケールの発生を抑制するように構成されている。
【0045】
(実証試験)
長野県松本市白骨温泉の温泉供給施設において、温泉調整用タンク内に温泉供給管として本発明のスケール抑制ユニット70を立設した。
【0046】
(試験結果)
図23は本発明のスケール抑制ユニット70を温泉供給管として設置した場合の温泉調整用タンク(加温タンク)内の写真であり、清掃後12週間使用後でもスケールの付着は極めて散在的であった。
他方、図24は既存供給管(耐熱性硬質ポリ塩化ビニル管)を設置した場合の温泉調整用タンク(加温タンク)内の写真であり、伝熱板や内壁に略一様に数mm程度のスケールが付着している状況が観察された。
これらの対比より、温泉供給管として本発明のスケール抑制ユニット70を設置するのみでも、温泉調整用タンク(加温タンク)の内壁面や伝熱板へのスケール付着が抑制されていることが明らかとなり、温泉調整用タンクの熱交換効率の低下も抑制できると推測される。
【符号の説明】
【0047】
1 スケール抑制ユニット
2 P含有合金
3 P含有合金収納部
4 蓋体
5 取り付け棒
6 把持部
70 スケール抑制ユニット
71 外筒部
72 P含有合金(屈曲された箔状体)
73 内筒部
80 スケール抑制ユニット
81 P含有合金(長尺体)
82 環状係止体
83 環状係止体
90 管継手
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