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  • 特開-サージ防護素子及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022138781
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】サージ防護素子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01T 4/12 20060101AFI20220915BHJP
   H01T 1/22 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
H01T4/12 F
H01T1/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021038863
(22)【出願日】2021-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120396
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】野本 雅樹
(72)【発明者】
【氏名】杉本 良市
(72)【発明者】
【氏名】山田 真
(57)【要約】
【課題】 放電開始電圧の個体差や経時的な放電開始電圧の変化を抑制可能なサージ防護素子及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 互いに間隔を空けて対向配置された一対の放電電極と、両端に前記一対の放電電極を配して前記一対の放電電極の少なくとも互いの対向面を放電制御ガスと共に内部に封止する絶縁性管とを備え、前記放電電極が、金属で形成され前記対向面を有した電極本体4を備え、前記対向面に、誘電体膜5で覆われた領域Aと、誘電体膜5で覆われていない領域Bとが設けられている。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに間隔を空けて対向配置された一対の放電電極と、
両端に前記一対の放電電極を配して前記一対の放電電極の少なくとも互いの対向面を放電制御ガスと共に内部に封止する絶縁性管とを備え、
前記放電電極が、金属で形成され前記対向面を有した電極本体を備え、
前記対向面に、誘電体膜で覆われた領域と、前記誘電体膜で覆われていない領域とが設けられていることを特徴とするサージ防護素子。
【請求項2】
請求項1に記載のサージ防護素子において、
前記誘電体膜の外縁部に、前記対向面の金属の酸化膜が含有され、
前記対向面の前記誘電体膜の外縁部直下に、前記対向面の金属の酸化膜が除去された酸化膜除去部が形成されていることを特徴とするサージ防護素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のサージ防護素子において、
前記誘電体膜の誘電体材料が、ケイ酸ナトリウム又はケイ酸カリウムであることを特徴とするサージ防護素子。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のサージ防護素子の製造方法であって、
互いに間隔を空けて対向配置される一対の放電電極の対向面に、誘電体材料を含有した水溶液を塗布して乾燥させ、前記対向面に誘電体膜で覆われた領域と、前記誘電体膜で覆われていない領域とを設ける誘電体膜形成工程を有していることを特徴とするサージ防護素子の製造方法。
【請求項5】
請求項4のサージ防護素子の製造方法において、
前記誘電体膜形成工程後、両端に前記一対の放電電極を配して前記一対の放電電極の少なくとも互いの対向面を放電制御ガスと共に絶縁性管の内部に封止する封止工程と、
前記封止工程後に、前記一対の放電電極間に直流電圧又は交流電圧を印加するエージング工程とを有していることを特徴とするサージ防護素子の製造方法。
【請求項6】
請求項4又は5のサージ防護素子の製造方法において、
前記水溶液が、前記誘電体材料としてケイ酸ナトリウム又はケイ酸カリウムを含有した水ガラスの水溶液であることを特徴とするサージ防護素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、落雷等で発生するサージから様々な機器を保護し、事故を未然に防ぐのに使用するサージ防護素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電話機、ファクシミリ、モデム等の通信機器用の電子機器が通信線との接続する部分、電源線、アンテナ或いはCRT駆動回路等、雷サージや静電気等の異常電圧(サージ電圧)による電撃を受けやすい部分には、異常電圧によって電子機器やこの機器を搭載するプリント基板の熱的損傷又は発火等による破壊を防止するために、サージ防護素子が接続されている。
【0003】
従来、応答性の良好なサージ防護素子として、例えば特許文献1に示すように、いわゆるマイクロギャップを有するサージ吸収素子を用いたサージ防護素子などが提案されている。このサージ防護素子は、導電性被膜で被包した円柱状の絶縁性部材であるセラミックス部材の周面に、マイクロギャップが形成されていると共に、セラミックス部材の両端に一対のキャップ電極を有するサージ吸収素子が放電制御ガスと共にガラス管内に収容され、円筒状のガラス管の両端にリード線を有する封止電極(いわゆるスラグリード)が高温加熱で封着されたサージアブソーバである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3265874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
上記従来のサージ防護素子では、放電開始電圧の個体差が大きく、また経時的に放電開始電圧が変化してしまう不都合があった。
【0006】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、放電開始電圧の個体差や経時的な放電開始電圧の変化を抑制可能なサージ防護素子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、第1の発明のサージ防護素子は、互いに間隔を空けて対向配置された一対の放電電極と、両端に前記一対の放電電極を配して前記一対の放電電極の少なくとも互いの対向面を放電制御ガスと共に内部に封止する絶縁性管とを備え、前記放電電極が、金属で形成され前記対向面を有した電極本体を備え、前記対向面に、誘電体膜で覆われた領域と、前記誘電体膜で覆われていない領域とが設けられていることを特徴とする。
【0008】
このサージ防護素子では、電極本体の対向面に、誘電体膜で覆われた領域と、誘電体膜で覆われていない領域とが設けられているので、部分的に設けられた誘電体膜で覆われた領域では対向面の金属が酸化し難くなると共に、誘電体膜の外縁部近傍に電気力線が集まって電界が集中することで、放電し易くなり、安定した放電開始電圧が得られる。
【0009】
第2の発明に係るサージ防護素子は、第1の発明において、前記誘電体膜の外縁部に、前記対向面の金属の酸化膜が含有され、前記対向面の前記誘電体膜の外縁部直下に、前記対向面の金属の酸化膜が除去された酸化膜除去部が形成されていることを特徴とする。
すなわち、このサージ防護素子では、対向面の誘電体膜の外縁部直下に、対向面の金属の酸化膜が除去された酸化膜除去部が形成されているので、対向面の酸化膜が除去された酸化膜除去部により、電界がさらに集中することで、より安定した放電開始電圧が得られる。
【0010】
第3の発明に係るサージ防護素子は、第1又は第2の発明において、前記誘電体膜の誘電体材料が、ケイ酸ナトリウム又はケイ酸カリウムであることを特徴とする。
【0011】
第4の発明に係るサージ防護素子の製造方法では、第1から第3の発明のいずれかのサージ防護素子の製造方法であって、互いに間隔を空けて対向配置される一対の放電電極の対向面に、誘電体材料を含有した水溶液を塗布して乾燥させ、前記対向面に誘電体膜で覆われた領域と、前記誘電体膜で覆われていない領域とを設ける誘電体膜形成工程を有していることを特徴とする。
すなわち、このサージ防護素子の製造方法では、互いに間隔を空けて対向配置される一対の放電電極の対向面に、誘電体材料を含有した水溶液を塗布して乾燥させ、対向面に誘電体膜で覆われた領域と、誘電体膜で覆われていない領域とを設ける誘電体膜形成工程を有しているので、誘電体を含有した水溶液の塗布及び乾燥によって容易に誘電体膜で覆われた領域と、誘電体膜で覆われていない領域とを設けることができる。
【0012】
第5の発明に係るサージ防護素子の製造方法では、第4の発明において、前記誘電体膜形成工程後、両端に前記一対の放電電極を配して前記一対の放電電極の少なくとも互いの対向面を放電制御ガスと共に絶縁性管の内部に封止する封止工程と、前記封止工程後に、前記一対の放電電極間に直流電圧又は交流電圧を印加するエージング工程とを有していることを特徴とする。
すなわち、このサージ防護素子の製造方法では、一対の放電電極間に直流電圧又は交流電圧を印加するエージング工程を有しているので、エージングにより電子が対向面の金属の酸化膜に当たって酸化膜の除去効果が促進されると共に、対向面の誘電体膜の外縁部直下の金属が活性化され、酸化膜が除去された酸化膜除去部を形成することができる。また、エージングにより絶縁性管内の余剰酸素が誘電体膜に包含されることで、より安定した放電開始電圧が得られる。
【0013】
第6の発明に係るサージ防護素子の製造方法では、第4又は第5の発明において、前記水溶液が、前記誘電体材料としてケイ酸ナトリウム又はケイ酸カリウムを含有した水ガラスの水溶液であることを特徴とする。
すなわち、このサージ防護素子の製造方法では、水溶液が、誘電体材料としてケイ酸ナトリウム又はケイ酸カリウムを含有した水ガラスの水溶液であるので、塗布及び乾燥が容易で、ケイ酸ナトリウム又はケイ酸カリウムの誘電体膜を得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係るサージ防護素子によれば、電極本体の対向面に、誘電体膜で覆われた領域と、誘電体膜で覆われていない領域とが設けられているので、誘電体膜で覆われた領域では対向面の金属が酸化し難くなると共に、誘電体膜の外縁部近傍に電気力線が集まって電界が集中することで、放電し易くなり、安定した放電開始電圧が得られる。
また、本発明に係るサージ防護素子の製造方法によれば、互いに間隔を空けて対向配置される一対の放電電極の対向面に、誘電体材料を含有した水溶液を塗布して乾燥させ、対向面に誘電体膜で覆われた領域と、誘電体膜で覆われていない領域とを設ける誘電体膜形成工程を有しているので、誘電体を含有した水溶液の塗布及び乾燥によって容易に誘電体膜で覆われた領域と、誘電体膜で覆われていない領域とを設けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係るサージ防護素子及びその製造方法の第1実施形態において、サージ防護素子を示す絶縁性管を破断した正面図である。
図2】第1実施形態において、電極本体の対向面を模式的に示す平面図である。
図3】第1実施形態において、サージ防護素子の製造方法の誘電体膜形成工程を説明するための斜視図である。
図4】本発明に係るサージ防護素子及びその製造方法の第2実施形態において、サージ防護素子を示す絶縁性管を破断した正面図である。
図5】本発明に係るサージ防護素子及びその製造方法の実施例において、電極本体の対向面を示すSEM組成像である。
図6】エージング後の比較例(a)と本発明の実施例(b)との放電開始電圧Vsの経時的変化を示すグラフである。
図7】本発明に係るサージ防護素子及びその製造方法の比較例(a)と実施例(b)との絶縁抵抗(IR)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るサージ防護素子及びその製造方法の第1実施形態を、図1から図3を参照しながら説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能又は認識容易な大きさとするために縮尺を適宜変更している。
【0017】
本実施形態のサージ防護素子1は、図1及び図2に示すように、互いに間隔を空けて対向配置された一対の放電電極2と、両端に一対の放電電極2を配して一対の放電電極2の少なくとも互いの対向面4aを放電制御ガスと共に内部に封止する絶縁性管3とを備えている。
上記放電電極2は、金属で形成され対向面4aを有した電極本体4を備えている。
【0018】
上記対向面4aには、図2に示すように、誘電体膜5で覆われた領域Aと、誘電体膜5で覆われていない領域Bとが設けられている。
すなわち、誘電体膜5で覆われていない領域Bには、電極本体4内部を構成する金属や対向面4a上に形成された金属膜及びこれらの酸化膜が露出している。
本実施形態では、電極本体4の対向面4aには銅(Cu)の膜が形成されており、誘電体膜5で覆われていない領域Bには銅の酸化膜(CuO、CuO)が薄く形成されている。
【0019】
上記誘電体膜5の外縁部には、対向面4aの金属の酸化膜(CuO、CuO)が含有され、対向面4aの誘電体膜5の外縁部直下には、対向面4aの金属の酸化膜(CuO、CuO)が除去された酸化膜除去部5aが形成されている。
上記誘電体膜5の誘電体材料は、ケイ酸ナトリウムである。なお、誘電体として、ケイ酸カリウムを採用しても構わない。
【0020】
また、本実施形態のサージ防護素子1は、軸線方向中央部の放電ギャップ部Gを介して周面に導電性被膜6aが分割形成された柱状又は筒状の絶縁性部材6を備えている。
上記放電電極2は、絶縁性部材6の両端に導電部材である金属キャップ7を介して対向配置されている。
上記絶縁性部材6は、ムライト焼結体などのセラミックス材料からなり、表面に導電性被膜6aとして物理蒸着(PVD)法や化学蒸着(CVD)法などの薄膜形成技術によるSnO等が形成されている。
【0021】
上記放電ギャップ部Gは、導電性被膜6aの軸線方向中央に、絶縁性部材6の周面に沿ってYAGレーザからのレーザ光を照射し、導電性被膜6aを分断することによって形成される。
一対の金属キャップ7は、絶縁性部材6よりも硬度が低く塑性変形できる、例えば銅やステンレスなどの金属から形成されている。また、一対の金属キャップ7は、絶縁性部材6の両端にそれぞれ係合されており、互いに対向する面が放電電極2の内面と共に主放電面となっている。
【0022】
上記放電電極2の電極本体4は、Fe(鉄)-Ni(ニッケル)合金等の金属表面を銅及び酸化銅で被覆した封止電極であって、円板状又は円柱状となっている。そして、電極本体4の一方の面が金属キャップ7と接触しており、他方の面にリード線8が溶接されている。このリード線8は、銅覆鋼線等で形成されている。
すなわち、電極本体4にリード線8が取り付けられた放電電極2は、いわゆるスラグリードである。
【0023】
上記絶縁性管3は、鉛ガラスやソーダ石灰ガラスのような軟質ガラスで構成されており、円筒状となっている。また、絶縁性管3の両端近傍において放電電極2の外周面が絶縁性管3の内周面と溶着されている。
上記放電制御ガスは、放電開始電圧などの電気特性が所望の値となるように組成などを調整された封止ガスであって、He、Ar、Ne、Xe、SF、CO、C、C、CF、H及びこれらの混合ガス等の不活性ガスである。
なお、本実施形態では、放電制御ガスとしてArを採用している。
【0024】
次に、本実施形態のサージ防護素子1の製造方法について説明する。
本実施形態のサージ防護素子1の製造方法では、互いに間隔を空けて対向配置される一対の放電電極2の対向面4aに、図3に示すように、誘電体材料を含有した水溶液Lを塗布して乾燥させ、対向面4aに誘電体膜5で覆われた領域Aと、誘電体膜5で覆われていない領域Bとを設ける誘電体膜形成工程を有している。
また、本実施形態のサージ防護素子の製造方法は、上記誘電体膜形成工程後、両端に一対の放電電極2を配して一対の放電電極2の少なくとも互いの対向面4aを放電制御ガスと共に絶縁性管3の内部に封止する封止工程と、封止工程後に、一対の放電電極2間に直流電圧又は交流電圧を印加するエージング工程とを有している。
【0025】
上記水溶液Lは、誘電体材料としてケイ酸ナトリウムを含有した水ガラスの水溶液である。なお、水溶液Lは、誘電体材料としてケイ酸カリウムを含有したカリ水ガラスの水溶液を採用しても構わない。
本実施形態では、水溶液Lとして例えば水ガラスの重量5~50倍の希薄溶液を使用する。なお、水ガラスを上記希薄溶液としているため、ほとんど水と同様のハンドリングで水滴を対向面4a上に塗布して付着させることができる。
水溶液Lを対向面4aに塗布する場合、スポイト等で塗布するが、ディスペンサー等で塗布しても構わない。
【0026】
上記塗布した水溶液Lの乾燥工程は、例えば150℃,10minで乾燥させる。
塗布した水溶液Lは、図2に示すように、上記乾燥時に対向面4a上で1箇所又は複数箇所に部分的に集まって点在した状態で誘電体膜5を形成する。
また、上記封止工程では、例えば絶縁性管3を700℃加熱して、Ar(800torr)の放電制御ガスを封止すると共に、電極本体4の外周面と絶縁性管3の内周面とを接合する。
さらに、上記エージング工程では、例えばAC100mA,2sec:2kV,20kΩでエージングを行う。
【0027】
このように本実施形態のサージ防護素子1では、電極本体4の対向面4aに、誘電体膜5で覆われた領域Aと、誘電体膜5で覆われていない領域Bとが設けられているので、部分的に設けられた誘電体膜5で覆われた領域Aでは対向面4aの金属が酸化し難くなると共に、誘電体膜5の外縁部近傍に電気力線が集まって電界が集中することで、放電し易くなり、安定した放電開始電圧が得られる。
また、対向面4aの誘電体膜5の外縁部直下に、対向面4aの金属の酸化膜が除去された酸化膜除去部5aが形成されているので、酸化膜が除去された酸化膜除去部5aにより、電界がさらに集中することで、より安定した放電開始電圧が得られる。
【0028】
本実施形態のサージ防護素子1の製造方法では、互いに間隔を空けて対向配置される一対の放電電極2の対向面4aに、誘電体材料を含有した水溶液Lを塗布して乾燥させ、対向面4aに誘電体膜5で覆われた領域Aと、誘電体膜5で覆われていない領域Bとを設ける誘電体膜形成工程を有しているので、誘電体を含有した水溶液Lの塗布及び乾燥によって容易に誘電体膜5で覆われた領域Aと、誘電体膜5で覆われていない領域Bとを設けることができる。
【0029】
また、一対の放電電極2間に直流電圧又は交流電圧を印加するエージング工程を有しているので、エージングにより電子が対向面4aの金属の酸化膜に当たって酸化膜の除去効果が促進されると共に、誘電体膜5の外縁部直下の金属が活性化され、酸化膜が除去された酸化膜除去部5aを形成することができる。また、エージングにより絶縁性管3内の余剰酸素が誘電体膜5に包含されることで、より安定した放電開始電圧が得られる。
さらに、水溶液Lが、誘電体材料としてケイ酸ナトリウム又はケイ酸カリウムを含有した水ガラスの水溶液であるので、塗布及び乾燥が容易で、ケイ酸ナトリウム又はケイ酸カリウムの誘電体膜5を得ることができる。
【0030】
次に、本発明に係るサージ防護素子及びその製造方法の第2実施形態について、図4を参照して以下に説明する。なお、以下の実施形態の説明において、上記実施形態において説明した同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0031】
第2実施形態と第1実施形態との異なる点は、第1実施形態では、放電ギャップ部Gを介して導電性被膜6aが分割形成された柱状又は筒状の絶縁性部材6を備え、一対の放電電極2が、絶縁性部材6の両端に導電部材である金属キャップ7を介して対向配置されているのに対し、第2実施形態のサージ防護素子21では、図4に示すように、一対の放電電極22の電極本体24が板状の絶縁性部材26を対向面4aで直接挟んだ状態で対向配置されている点である。
【0032】
上記板状の絶縁性部材26は、例えばSiOで形成されている。
このように第2実施形態では、第1実施形態に比べて絶縁性管23を短くでき、小型化が可能である。
また、第2実施形態のサージ防護素子21でも、第1実施形態と同様に、電極本体24の対向面4aに誘電体膜5で覆われた領域Aと、誘電体膜5で覆われていない領域Bとが設けられているので、安定した放電開始電圧が得られる。
【実施例0033】
次に、上記第2実施形態のサージ防護素子を、上記製造方法により作製した実施例について、電極本体24の対向面4aを示すSEM組成像を、図5に示す。
なお、このSEM組成像では、明るいほど(白いほど)原子番号の大きな元素が存在することを表している。本実施形態では、白い部分が銅(酸化銅を含む)である。また、黒い部分はケイ酸ナトリウムを含んだ水ガラス塗布による誘電体膜5を表している。さらに、誘電体膜5の外縁部に影のように滲んだ部分は、対向面4a表面の酸化銅が誘電体膜5に拡散して対向面4a表面から除去されている部分である。
【0034】
この画像からわかるように、電極本体24の対向面4aに、誘電体膜5で覆われた領域Aと、誘電体膜5で覆われていない領域Bとが設けられている。
また、対向面4aの誘電体膜5の外縁部直下に、対向面4aの金属(銅)の酸化膜が除去された酸化膜除去部5aが形成されている。
【0035】
次に、本発明の上記実施例について、上記エージングの条件でACエージングを行った場合の放電開始電圧Vsの経時的変化を測定した結果を、図6の(b)に示す。なお、比較のため、対向面4aに上記水溶液Lを塗布せず誘電体膜5で覆われた領域Aのない比較例についても、同様にエージングを行った場合の放電開始電圧Vsの経時的変化を測定した結果を、図6の(a)に示す。
これらの結果からわかるように、対向面4aに誘電体膜5で覆われた領域Aのない比較例では、エージング後でもエージング効果が効かない個体があり、放電開始電圧のばらつきが大きいのに対し、対向面4aに誘電体膜5で覆われた領域Aを有する本発明の実施例では、いずれの個体もエージングの効果が大きく、放電開始電圧のばらつきが小さい。
【0036】
次に、本発明の上記実施例について、絶縁抵抗(IR)の変化を測定した結果を図7の(b)に示す。なお、比較のため、対向面4aに上記水溶液Lを塗布せず誘電体膜5で覆われた領域Aのない比較例についても、同様に絶縁抵抗の変化を測定した結果を図7の(a)に示す。
これらの結果からわかる様に、比較例では、絶縁抵抗が低下する個体が多数発生したのに対し、本発明の実施例では、絶縁抵抗が安定している。
【0037】
なお、本発明の技術範囲は上記各実施形態および実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0038】
1,21…サージ防護素子、2,22…放電電極、3,23…絶縁性管、4,24…電極本体、4a…対向面、5…誘電体膜、5a…酸化膜除去部、A…誘電体膜で覆われた領域、B…誘電体膜で覆われていない領域、L…水溶液
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7