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特開2022-138815めっき処理方法、及びその方法を用いて得られる配線板
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  • 特開-めっき処理方法、及びその方法を用いて得られる配線板 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022138815
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】めっき処理方法、及びその方法を用いて得られる配線板
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/20 20060101AFI20220915BHJP
   C23C 18/30 20060101ALI20220915BHJP
   C23C 18/32 20060101ALI20220915BHJP
   H05K 3/18 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
C23C18/20 A
C23C18/30
C23C18/32
H05K3/18 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021038913
(22)【出願日】2021-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】599141227
【氏名又は名称】学校法人関東学院
(71)【出願人】
【識別番号】391028339
【氏名又は名称】日本カニゼン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124327
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 勝博
(72)【発明者】
【氏名】小岩 一郎
(72)【発明者】
【氏名】森田 顕
(72)【発明者】
【氏名】川口 純
【テーマコード(参考)】
4K022
5E343
【Fターム(参考)】
4K022AA13
4K022AA14
4K022AA16
4K022AA18
4K022AA31
4K022AA42
4K022BA08
4K022BA14
4K022BA16
4K022BA32
4K022CA03
4K022CA12
4K022DA01
4K022DB29
5E343AA16
5E343AA17
5E343BB24
5E343BB44
5E343CC73
5E343DD33
5E343DD43
5E343EE32
5E343ER04
5E343GG20
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、樹脂材と金属からなる配線との密着性を安定的に高めると共に処理コストを抑えながらも、高周波回路用として好適な配線を形成することのできるめっき方法及びそれを用いて得られる配線板を提供することにある。
【解決手段】上記課題を解決するため、樹脂材表面の紫外線照射箇所にのみ導体層を形成するめっき方法であって、当該樹脂材のレーザー顕微鏡を用いた非接触式の測定による算術平均高さSaが500nm以下であるめっき被処理面に対して形状変形が生じない程度の紫外線を照射する紫外線照射工程と、当該紫外線照射工程を行った後、当該樹脂材のめっき被処理面に対して25~60℃の脱脂剤を5分間~10分間接触させて脱脂を行う脱脂工程とを含み、その後、めっき処理を行い当該導体層を形成することを特徴とするめっき方法等を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材表面の紫外線照射箇所にのみ導体層を形成するめっき方法であって、
当該樹脂材のレーザー顕微鏡を用いた非接触式の測定による算術平均高さSaが500nm以下であるめっき被処理面に対して形状変形が生じない程度の紫外線を照射する紫外線照射工程と、
当該紫外線照射工程を行った後、当該樹脂材のめっき被処理面に対して25~60℃の脱脂剤を5分間~10分間接触させて脱脂を行う脱脂工程とを含み、
その後、めっき処理を行い当該導体層を形成することを特徴とするめっき方法。
【請求項2】
前記紫外線照射工程の直前と直後における、前記めっき被処理面の前記算術平均高さSaの差を10nm~1000nmとする請求項1に記載のめっき方法。
【請求項3】
前記脱脂工程の直前と直後における、前記めっき被処理面の前記算術平均高さSaの差を3nm~10nmとする請求項1又は請求項2に記載のめっき方法。
【請求項4】
前記めっき処理は、前記めっき被処理面に対して、塩化第一スズを主成分として含む溶液を30秒間~3分間接触させてスズイオンを吸着させるセンシタイジング処理工程と、
当該センシタイジング処理工程の後、当該めっき被処理面に対して、塩化パラジウムを主成分として含む溶液を30秒間~3分間接触させてパラジウムを析出させるアクティベーティング処理工程と、
当該アクティベーティング処理工程の後、当該めっき被処理面にめっきにより前記導体層を形成する導体層形成工程とを含む請求項1~請求項3のいずれかに記載のめっき方法。
【請求項5】
前記導体層形成工程は、前記めっき被処理面に厚さ0.1~5μmのニッケル-リン層を形成した後に、
当該ニッケル-リン層の表面に厚さ10~35μmの銅層を形成する請求項4に記載のめっき方法。
【請求項6】
前記導体層形成工程で用いるめっき浴の浴温が50℃~80℃である請求項4又は請求項5に記載のめっき方法。
【請求項7】
前記樹脂材がエポキシ樹脂材、液晶ポリマー材、ポリフェニレンサルファイド樹脂材、又はABS樹脂材である請求項1~請求項6のいずれかに記載のめっき方法。
【請求項8】
請求項1~請求項7のいずれかに記載のめっき方法を用いて得られることを特徴とする配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき処理方法、及びその方法を用いて得られる配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の軽薄短小化、高性能化、形状の多様化が進んでいる。また、近年はIoT(Internet of Things)時代であるために種々のセンサが用いられ、配線回路を形成する基材が平板形状だと適応が難しい場合がある。そのため、小型で複雑形状の基材の表面に配線回路を形成できる立体回路成形部品(MID:Molded Interconnected Device)が、通信、医療、及び自動車等の様々な産業分野で今後の潮流になると予測される。こうした背景から、今後の電子機器においては、構成する配線板の配線に関して更なる微細化が求められると共に、当該配線と配線基材との密着性の更なる向上が求められている。
【0003】
配線基材の原料には、信号の伝送損失を低減すべく、低誘電率である樹脂材料が主に用いられている。そのため、樹脂材の表面に金属からなる配線(導体層)を形成するに際しては、主に無電解めっきが使用される。しかしながら、無電解めっき処理を行って、樹脂材の表面に導体層を形成した場合には、当該樹脂材と当該導体層との密着性が不十分となりやすい。このとき、樹脂材の表面をエッチング液(従来の過マンガン酸カリウムやマンガン酸ナトリウムや、近年の硫酸一過酸化水素系薬液等)を用いてエッチングすることにより粗面化し、アンカー効果を利用して当該樹脂材と当該導体層との密着性を得る従来の手法では、当該樹脂材の表面平滑度が低下し、微細な配線パターンを精度よく形成することができないといった問題が生じる。また、アンカー効果を利用した従来の手法を経て得られる導体層は、その表面粗度も大きくなり、1GHz以上の高周波信号を伝送した際に表皮効果の影響が現われて伝送特性の低下を招くおそれがある。表面粗度の大きな導体層を電子機器に用いた場合には、電気的特性の向上を図ることができないといった問題が生じてしまう。
【0004】
上述した問題に対して、レーザーダイレクトストラクチャリング(LDS:Laser Direct Structuring)工法が実用化されている。LDS工法では、配線回路形成用の樹脂材として、レーザー照射により活性化される有機金属化合物(金属錯体)を含んだLDS添加剤を配合したものを用いる。そして、現行においては当該樹脂材の配線形成予定箇所に赤外光のレーザーを照射することで、レーザー照射領域に存在するこの有機金属化合物を、表面に露出させると共に触媒として活性化させる。その結果、配線形成予定領域に選択的に無電解めっき被膜を形成することができる。さらに、LDS工法では、樹脂材にレーザー処理を施すことにより、この配線形成予定領域の表面に粗化処理を施すことができる。そのため、アンカー効果により、配線となるめっき被膜を当該樹脂材の表面に強固に固定させることが可能となる。なお、LDS工法に関する技術としては、例えば特許文献1や特許文献2等に開示がされている。LDS工法は、レーザー処理を採用するため、立体配線板であっても、レーザーを走査して微細で複雑な配線を高精度で形成することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2004-534408号公報
【特許文献2】特表2010-536947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、LDS工法では、樹脂材に配合されたLDS添加剤を表出させなければならず、その分余計にレーザー照射を行う必要がある。そのため、LDS工法を用いた場合には、めっき被処理面の粗さが大きくなってしまい、最終的に得られる配線板が高周波回路用として適さなくなるおそれがある。また、LDS工法では、樹脂材にLDS添加剤を配合する必要があるため、このLDS添加剤の種類によっては、当該樹脂材の特性(機械的強度等)に悪影響が生じるおそれがある。さらに、LDS工法では、用いるLDS添加剤が特殊であるため、めっき工程の管理が煩雑化する場合もある。
【0007】
以上のことから、本発明の課題は、樹脂材と導体層との密着性を高めると共に処理コストを抑えながらも、高周波回路用として好適な導体層を安定的に形成することのできるめっき方法及びそれを用いて得られる配線板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意研究を行った結果、以下のめっき方法、及びその方法を用いて得られる配線板を採用することで上記課題を達成するに到った。
【0009】
本発明に係るめっき方法は、樹脂材表面の紫外線照射箇所にのみ導体層を形成するめっき方法であって、当該樹脂材のレーザー顕微鏡を用いた非接触式の測定による算術平均高さSaが500nm以下であるめっき被処理面に対して形状変形が生じない程度の紫外線を照射する紫外線照射工程と、当該紫外線照射工程を行った後、当該樹脂材のめっき被処理面に対して25~60℃の脱脂剤を5分間~10分間接触させて脱脂を行う脱脂工程とを含み、その後、めっき処理を行い当該導体層を形成することを特徴とする。
【0010】
本発明に係るめっき方法は、前記紫外線照射工程の直前と直後における、前記めっき被処理面の前記算術平均高さSaの差を10nm~1000nmとすることが好ましい。
【0011】
本発明に係るめっき方法は、前記脱脂工程の直前と直後における、前記めっき被処理面の前記算術平均高さSaの差を3nm~10nmとすることが好ましい。
【0012】
本発明に係るめっき方法において、前記めっき処理は、前記めっき被処理面に対して、塩化第一スズを主成分として含む溶液を30秒間~3分間接触させてスズイオンを吸着させるセンシタイジング処理工程と、当該センシタイジング処理工程の後、当該めっき被処理面に対して、塩化パラジウムを主成分として含む溶液を30秒間~3分間接触させてパラジウムを析出させるアクティベーティング処理工程と、当該アクティベーティング処理工程の後、当該めっき被処理面にめっきにより前記導体層を形成する導体層形成工程とを含むことが好ましい。
【0013】
本発明に係るめっき方法において、前記導体層形成工程は、前記めっき被処理面に厚さ0.1~5μmのニッケル-リン層を形成した後に、当該ニッケル-リン層の表面に厚さ10~35μmの銅層を形成することが好ましい。
【0014】
本発明に係るめっき方法は、前記導体層形成工程で用いるめっき浴の浴温が50℃~80℃であることが好ましい。
【0015】
本発明に係るめっき方法は、前記樹脂材がエポキシ樹脂材、液晶ポリマー材、ポリフェニレンサルファイド樹脂材、又はABS樹脂材であることが好ましい。
【0016】
本発明に係る配線板は、上述しためっき方法を用いて得られることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、樹脂材と金属からなる配線との密着性を高めると共に処理コストを抑えながらも、高周波回路用として好適な配線を安定的に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態における配線形成方法の構成を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係るめっき方法、及びその方法を用いて得られる配線板の実施の形態について説明する。なお、本発明の態様は、以下に示す実施の形態に限定されるものではない。
【0020】
A.本発明に係るめっき方法
本発明に係るめっき方法は、樹脂材表面の紫外線照射箇所にのみ導体層を形成するめっき方法である。そして、「当該樹脂材のレーザー顕微鏡を用いた非接触式の測定による算術平均高さSa(ISO25178に規定される面粗さパラメータ。以下同様。)が500nm以下であるめっき被処理面に対して形状変形が生じない程度の紫外線を照射する紫外線照射工程」と、「当該紫外線照射工程を行った後、当該樹脂材のめっき被処理面に対して25~60℃の脱脂剤を5分間~10分間接触させて脱脂を行う脱脂工程」を必須としている。その後、めっき処理を行い当該導体層を形成する。以下に、本発明のめっき前処理としての、当該紫外線照射工程と当該脱脂工程について説明する。
【0021】
A-1.めっき前処理
以下、紫外線照射工程と脱脂工程とに分けて説明する。
【0022】
<紫外線照射工程について>
本発明に係るめっき方法は、アンカー効果を得るためのエッチング処理工程や触媒付与を促進させるための界面活性剤吸着工程の代わりに、めっき被処理面に対して形状変形が生じない程度の紫外線を照射する工程を有するものである。本発明に係るめっき方法は、この紫外線照射工程において、導体層を形成する樹脂材のめっき被処理面に紫外線を照射することで、当該めっき被処理面を親水性に改質する。めっき被処理面の親水性を向上させることで、当該めっき被処理面に触媒として機能し得る金属を吸着させやすくなり、当該樹脂材と当該導体層との界面における密着力を化学的に向上させることが可能となる。
【0023】
ここで、上述した、樹脂材の表面を親水性に変化させるための改質に関して説明する。この改質は、紫外線の照射により、樹脂材のめっき被処理面の構造特性や機能性を向上させるものである。具体的には、樹脂材に対する適切な波長の紫外線の照射により、樹脂材表面の高分子の化学結合が切断され、当該樹脂材表面に酸化に伴う官能基(ヒドロキシル基(-OH)やカルボキシル基(-COOH)等の親水性基)が生成されることを言う。この改質により、無電解めっきを行う場合に、当該樹脂材に対して触媒イオンを選択的に吸着させることが可能となる。
【0024】
ところで、本発明に係るめっき方法において、樹脂材に照射する紫外線の波長域は、当該樹脂材の材質にもよるが、150~400nmの範囲で適宜選択することができる。樹脂材のめっき被処理面に対して当該樹脂材の材質に適切な波長の紫外線を照射することによって当該めっき被処理面が酸化され、親水性基が付与される。一般的に、この親水性基が多くなるほど、親水性が増大するとされる。
【0025】
なお、本発明に係るめっき方法において、上述した紫外線の発生源は、特に限定されるものではなく、UVランプ、気体レーザー、固体レーザー等から適宜選択して用いることができる。ここで、気体レーザーとしては、例えばKrFレーザーやArFレーザー等のエキシマレーザーが挙げられる。また、固体レーザーとしては、例えばYAGレーザーが挙げられる。参考までに、エキシマレーザーは、波長が短いため細密な加工を行うことができる。さらに、走査性にも優れるため、樹脂材の形状が複雑な三次元形状であったとしても、その樹脂材の表面に所謂立体配線を形成することが他の紫外線発生源に比べて容易となる。
【0026】
また、本発明に係るめっき方法において、上述した樹脂材としては紫外線の照射によって当該樹脂材のめっき被処理面が改質し得るものであれば用いることができる。例えば、当該樹脂材として、LCP(液晶ポリマー)、PPS(ポリフェニレンサルファイト樹脂)、POM(ポリアセタール)、PC(ポリカーボネート)、PMMA(ポリメチルメタアクリレート)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、PS(ポリスチレン)、PVC(ポリ塩化ビニル)、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレンポリマー)等の熱可塑性樹脂や、PE(フェノール樹脂)、EP(エポキシ樹脂)等の熱硬化性樹脂を用いることができる。ここに挙げた樹脂材の中でも、配線基板材料としての有用性や高周波用配線基板への適合性を考慮すると、特にエポキシ樹脂材、液晶ポリマー材、ポリフェニレンサルファイド樹脂材、又はABS樹脂材を用いることが好ましい。
【0027】
そして、本発明に係るめっき方法において、用いる樹脂材は、めっき被処理面の算術平均高さSaが500nm以下となるものである。この条件を満たすめっき被処理面に対して形状変形が生じない程度の紫外線を照射することで、当該めっき被処理面を親水性に改質しながらも、当該めっき被処理面をナノメートルオーダーの微細構造に維持することができる。めっき被処理面の表面平滑度がこの水準であれば、当該めっき被処理面に導体層を形成した際に当該導体層の高周波領域における伝送損失が小さくなる。なお、当該導体層において、高周波領域における伝送損失抑制の安定化や、10GHz以上の超高周波領域での伝送損失の改善を図る場合には、当該めっき被処理面の算術平均高さSaは300nm以下であることがより好ましく、60nm以下であることがさらに好ましい。当該めっき被処理面の算術平均高さSaが60nm以下となる高周波回路であれば、次世代通信規格「5G」、「6G」の高周波を用いた電子機器等にも好適に用いることが可能となる。
【0028】
本発明に係るめっき方法では、樹脂材のめっき被処理面に対する紫外線の照射条件を、当該めっき被処理面に形状変形が生じない程度としている。しかし、高速電送に対応した回路用として好適な導体層を形成することと、樹脂材と当該導体層との密着性を高周波回路基板に求められる水準まで向上させることを考慮すると、紫外線照射工程の直前と直後における、めっき被処理面の算術平均高さSaの差を10nm~1000nmとすることが好ましい。ここで、紫外線照射工程の直前と直後における、めっき被処理面の算術平均高さSaの差が10nm未満の場合には、当該めっき被処理面を十分に親水性に改質させることができず、樹脂材と導体層との密着性を安定的に高めることができない。一方、めっき被処理面の算術平均高さSaの差が1000nmを超える場合には、当該めっき被処理面に形成した導体層において、高周波信号を伝送する際にシグナル電流に大きな伝送損失が発生し好ましくない。このめっき被処理面の算術平均高さSaの差の上限値は、上述した「高速電送に対応した回路用として好適な導体層を形成する」効果を安定的且つ十分に得る上で、200nmであることがより好ましく、60nmであることがさらに好ましい。
【0029】
<脱脂工程について>
本発明に係るめっき方法は、上述した紫外線照射工程を行った後に、樹脂材のめっき被処理面に対して以下に示す条件の脱脂工程を行うことで、当該めっき被処理面の表面粗さを極力変化させずに、樹脂材と導体層との界面における密着力を物理的にも向上させることができる。すなわち、上述した紫外線照射工程で樹脂材のめっき被処理面に紫外線を照射すると、当該めっき被処理面において、分子間結合の分子鎖を切断する光分解加工が施される。その後、本発明の脱脂工程を行うことで、この光分解加工を行った際に生じる加工残渣が取り除かれて、当該めっき被処理面にアンカー効果を有するナノメートルオーダーの微細凹凸を備える表面が形成される。その結果、当該めっき被処理面の表面粗さの増大を最小限に抑えつつ、当該樹脂材と当該導体層との密着性を必要十分に確保することが可能となる。
【0030】
本発明の脱脂工程は、樹脂材のめっき被処理面に対して25~60℃の脱脂剤を5分間~10分間接触させて脱脂を行うものである。本発明の脱脂工程で用いる脱脂剤は特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム溶液を含むアルカリ脱脂剤や酸性脱脂剤等の公知の脱脂剤を適宜採用することができる。ここで、脱脂剤の温度が25℃未満又は樹脂材の表面に脱脂剤を接触させる時間が5分間未満の場合には、上述した紫外線照射工程で生じた加工残渣を十分に取り除くことができず、樹脂材と導体層との密着性を安定的に向上させることができない。また、当該樹脂材に付着している油脂や汚れ等を完全に取り除くことも困難であるため、後工程において金属触媒の吸着力を向上させることができず、当該めっき被処理面にめっきを十分に析出させることができない。一方、脱脂剤の温度が60℃を超え又は樹脂材の表面に脱脂剤を接触させる時間が10分間を超える場合には、樹脂材のめっき被処理面のみならず全面が親水化してしまい選択めっき性の低下を招くおそれがある。なお、本発明の脱脂工程において、脱脂剤を樹脂材の表面に接触させる方法は特に限定されず、浸漬法や噴霧法を採用することができる。
【0031】
また、本発明に係るめっき方法では、脱脂工程の直前と直後における、樹脂材のめっき被処理面の算術平均高さSaの差を3nm~10nmとすることが好ましい。樹脂材のめっき被処理面に対してこの条件を満たすように脱脂剤を接触させることで、樹脂材と導体層との密着性を十分に確保して、高速電送に対応した回路用として好適な導体層をより安定的に形成することが可能となる。ここで、脱脂工程の直前と直後における、当該めっき被処理面の算術平均高さSaの差が3nm未満の場合には、樹脂材と導体層との密着強度の向上を必要十分に図れなくなってしまう。一方、当該めっき被処理面の算術平均高さSaの差が10nmを超える場合には、当該めっき被処理面に形成した導体層は、高周波シグナルへの表皮効果の影響が顕著となり、伝送信号の遅延を引き起こすおそれがある。
【0032】
以上のことから、本発明に係るめっき方法は、上述しためっき前処理を採用することで、LDS工法のように特殊なLDS添加剤を用いなくとも、樹脂材と導体層とが所望する密着強度を維持しつつ、高精度にパターニングされた回路配線を形成するのに必要な選択めっき性を向上させることが可能となる。さらに、上述しためっき前処理を採用することで、処理工程の簡素化も図ることができる。
【0033】
次に、本発明に係るめっき方法は、めっき処理として、「樹脂材の表面に対して、塩化第一スズを主成分として含む溶液を30秒間~3分間接触させてスズイオンを吸着させるセンシタイジング処理工程」と、「当該センシタイジング処理工程の後、当該樹脂材のめっき被処理面に対して、塩化パラジウムを主成分として含む溶液を30秒間~3分間接触させてパラジウムを析出させるアクティベーティング処理工程」と、「当該アクティベーティング処理工程の後、当該樹脂材のめっき被処理面にめっきにより導体層を形成する導体層形成工程」とを含むことが好ましい。
【0034】
本発明に係るめっき方法では、上述したセンシタイジング処理工程とアクティベーティング処理工程とをこの順番で行うことにより、紫外線照射面の触媒吸着量が多くなり、紫外線非照射面に対する活性度の差により導体層形成工程で選択的なめっき析出が可能となる。なお、本発明に係るめっき方法において、センシタイジング処理工程とアクティベーティング処理工程とは、繰り返して複数回行うこともできる。以下に、本発明のめっき処理である、センシタイジング処理工程、アクティベーティング処理工程、及び導体層形成工程について説明する。
【0035】
A-2.めっき処理
以下、センシタイジング処理工程とアクティベーティング処理工程と導体層形成工程とに分けて説明する。
【0036】
<センシタイジング処理工程について>
本発明のセンシタイジング(感受性化)処理工程では、樹脂材の表面に対して、塩化第一スズを主成分として含む溶液を30秒間~3分間接触させてスズイオン(Sn2+)を吸着させる。上述した脱脂工程の後にこの条件で樹脂材のめっき被処理面に還元力の強いスズイオンを吸着させることで、後のアクティベーティング処理工程で活性なパラジウム触媒核を当該めっき被処理面に吸着させることができ、当該めっき被処理面の表面に導体層を均一に形成することが可能となる。なお、このような効果を安定的に得るには、当該溶液中のスズ濃度は、1~100mmol/Lであることが好ましい。ここで、樹脂材の表面に塩化第一スズを主成分として含む溶液を接触させる時間が30秒間未満の場合には、樹脂材のめっき被処理面にスズイオンを十分に吸着させることができないため、選択めっき性の向上を十分に図ることができない。一方、樹脂材の表面に塩化第一スズを主成分として含む溶液を接触させる時間が3分間を超える場合には、当該めっき被処理面の表面に導体層を均一に形成する効果が飽和してコストメリットがない。
【0037】
<アクティベーティング処理工程について>
本発明のアクティベーティング(触媒化)処理工程では、樹脂材の表面に対して、塩化パラジウムを主成分として含む溶液を30秒間~3分間接触させてパラジウムイオン(Pd2+)をパラジウム金属(Pd)として析出させる。上述したセンシタイジング処理工程の後にこの条件で樹脂材のめっき被処理面に触媒核となるパラジウムを析出(パラジウム活性化)させることで、後工程において無電解めっき反応を良好にすることができ、当該めっき被処理面に導体層を均一に形成することが可能となる。パラジウムは塩酸酸性で可溶のため、濃塩酸を0.1~10ml/L添加する。なお、このような効果を安定的に得るには、当該溶液中のパラジウム濃度は、0.1~5mmol/Lであることが好ましい。ここで、樹脂材の表面に塩化パラジウムを主成分として含む溶液を接触させる時間が30秒間未満の場合には、樹脂材のめっき被処理面にパラジウムを十分に析出させることができないため、選択めっき性の向上を十分に図ることができない。一方、樹脂材の表面に塩化パラジウムを主成分として含む溶液を接触させる時間が3分間を超える場合には、当該めっき被処理面の表面に導体層を均一に形成する効果が飽和してコストメリットがない。
【0038】
なお、本発明に係るめっき方法では、上述したアクティベーティング処理工程と後述する導体層形成工程との間で、樹脂材の紫外線照射していない部分に吸着したパラジウムを除去する脱パラジウム工程を含むことも好ましい。本脱パラジウム工程を採用することで、選択めっき性の更なる向上を図ることができる。ここで、パラジウムを除去する方法は特に限定されるものではなく、例えばクエン酸三ナトリウム溶液や市販のパラジウム除去剤等を含有する水溶液に当該樹脂材を浸漬する方法を採用することができる。
【0039】
上述したセンシタイジング処理工程、及びアクティベーティング処理工程は、樹脂材等の不導体素地への触媒付与方法の一つとして知られており、スズイオンの還元力を利用した「センシタイザー-アクティベーター法(sensitizer-activator process)」で経る工程である。本発明では、めっき処理として、このセンシタイザー-アクティベーター法を採用することで、後の導体層形成工程で安定的に均一な導体層を形成することが可能となる。
【0040】
また、以上ではパラジウム活性化方法として、センシタイザー-アクティベーター法を示したが、本発明に係るめっき方法はこの方法に限定されない。センシタイザー-アクティベーター法はセンシタイザー処理とアクティベーター処理とが別々の処理液を用いる所謂二液型処理であるが、本発明に係るめっき方法では、1つの処理液を用いてパラジウム活性化を行う所謂1液型処理を採用することもできる。1液型処理では、例えば、塩酸酸性水溶液中に塩化パラジウムと塩化スズとを含む溶液、また、酸性が弱い食塩タイプの水溶液に塩化パラジウムと塩化スズとを含む溶液、パラジウム錯体を含有する水溶液等の処理液を用いることができる。また、その後必要に応じて余分なスズを取り除く促進処理を行うこともできる。
【0041】
<導体層形成工程について>
本発明の導体層形成工程は、上述したアクティベーティング処理工程の後、樹脂材のめっき被処理面に導体層を形成するものである。当該導体層形成工程で形成される導体層は、センシタイザー-アクティベーター法を経ることで、めっき被処理面をナノメートルオーダーの微細構造に維持しつつ、当該めっき被処理面に対する当該導体層の密着性を高めることができる。従って、本発明の導体層形成工程で形成される導体層は、高周波信号を遅延なく安定的に伝送させることができ、電子機器に用いた場合に電気的特性のさらなる向上を図ることができるようになる。なお、この導体層形成工程では、導体層を形成する方法として、電解めっき処理及び無電解めっき処理のいずれを用いてもよい。また、これらめっき処理の条件は特に限定されるものではなく、公知の条件を適宜採用することができる。従って、当該めっき処理で用いるめっき浴には、任意の添加剤(クエン酸等の錯化剤や鉛またはビスマス等の安定剤等)を添加することも可能である。
【0042】
上述のめっき処理で用いるめっき浴の浴温は、特に限定されないが、50℃~80℃であることが好ましい。めっき浴の浴温がこの条件を満たす場合には、このめっき浴に触媒付与された樹脂材が浸漬されたときに、当該樹脂材の表面にめっきが安定的に析出される。ここで、当該めっき浴の浴温が50℃未満の場合には、めっきの析出速度が低下する場合があるため好ましくない。一方、当該めっき浴の浴温が80℃を超える場合には、形成しためっき被膜に膨れ、割れ、剥離等の不良が生じるおそれがあるため好ましくない。
【0043】
また、本発明の導体層形成工程は、樹脂材のめっき被処理面に厚さ0.1~5μmのニッケル-リン層を形成した後に、当該ニッケル-リン層の表面に厚さ10~35μmの銅層を形成することが好ましい。ニッケル-リン層は、めっき処理によって樹脂材のめっき被処理面の形状に影響されずに均一な厚みに形成することができ、また、樹脂材との密着力をより強固なものとすることができる。従って、本発明の導体層は、このような層構成とすることで、樹脂材と導体層との界面における接合強度を維持しつつ、高周波信号の伝送損失を小さく抑えることができる。
【0044】
ここで、上述したニッケル-リン層の厚さが0.1μm未満の場合には、導体層の強度低下を招くと共に、当該ニッケル-リン層の被覆が不十分となり、樹脂材に対するアンカー効果を十分に得ることができない。一方、上述したニッケル-リン層の厚さが5μmを超える場合には、当該ニッケル被膜の形成に時間がかかり、コストメリットがない。
【0045】
また、上述した銅層の厚さが10μm未満の場合には、上述したニッケル-リン層との接合強度を向上させる効果を十分に得ることができない。一方、上述した銅層の厚さが35μmを超える場合には、当該銅層の形成に時間がかかり、コストメリットがない。
【0046】
B.本発明に係る配線板
本発明に係る配線板は、上述した本発明に係るめっき方法を用いて得られることを特徴とする。ゆえに、本発明に係る配線板は、配線(導体層)が微細化しても当該配線と配線基材との密着性に優れたものとなる。また、本発明に係る配線板は、配線の表面粗度が低く抑えられたものとなり、表皮効果による信号の遅延が抑制されるため、高周波回路用として好適である。
【0047】
以上に、本発明に係るめっき方法、及びそれを用いた配線板に関して説明したが、以下に本発明の実施例を示し、本発明をより詳細に説明する。なお、本発明はこれらの例により何ら限定されるものではない。
【実施例0048】
本実施例1では、試験体として、50mm×50mm×厚さ5mmの大きさで、算術平均高さSaが500nmのLCP基板を樹脂材として用意した。そして、当該樹脂材の表面に幅10mmで長さ50mmの矩形状の導体層をめっきにより形成した。具体的には、図1のフローチャートに示す如く、紫外線照射工程(ステップS10)、アルカリ脱脂工程(ステップS20)、センシタイジング処理工程(ステップS30)、アクティベーティング処理工程(ステップS40)、脱パラジウム工程(ステップS50)、無電解ニッケル-リンめっき処理工程(ステップS60)、無電解銅めっき処理工程(ステップS70)を順に行い、当該樹脂材の表面に導体層を形成した。そして、このめっき方法を用いて形成された導体層(めっき被膜)について、めっきの選択性、めっき被膜表面の平滑性、及び樹脂材に対するめっき被膜の密着性の確認を行った。
【0049】
本実施例1では、めっき前処理として、紫外線照射工程、及びアルカリ脱脂工程を実施した。紫外線照射工程では、この樹脂材のめっき被処理面に対してKrFレーザーにより紫外線を照射した。このとき、紫外線照射工程の直前と直後における、めっき被処理面の算術平均高さSaの差は12nmであった。その後、アルカリ脱脂工程では、当該樹脂材を、40℃の水酸化ナトリウム溶液(日本カニゼン株式会社製「品番:K-350」)に5分間浸漬させてアルカリ脱脂を行った。このとき、脱脂工程の直前と直後における、めっき被処理面の算術平均高さSaの差は5nmであった。
【0050】
次いで、めっき処理として、センシタイジング処理工程、アクティベーティング処理工程、脱パラジウム工程、無電解ニッケル-リンめっき処理工程、及び無電解銅めっき処理工程を実施した。センシタイジング処理工程では、試験体となる樹脂材を、塩化第一スズを主成分として含む溶液(日本カニゼン株式会社製「品名:ピンクシューマー」)に3分間浸漬した。その後、アクティベーティング処理工程では、当該樹脂材を、塩化パラジウムを主成分として含む溶液(日本カニゼン株式会社製「品名:レッドシューマー」)を通常の4分の1に希釈した溶液に3分間浸漬して、めっき被処理面に対して触媒を吸着させた。その後、脱パラジウム工程では、当該樹脂材を、クエン酸三ナトリウム溶液(20g/L)に5分間攪拌(300rpm)させながら浸漬した。その後、無電解ニッケル-リンめっき処理工程では、当該めっき被処理面に対し、無電解ニッケルめっき液(日本カニゼン株式会社製「品番:シューマーSK101」)(温度:70℃、pH:10)を用いて15分間のめっき処理を施した。その後、無電解銅めっき処理工程では、当該無電解ニッケル-リンめっき処理工程を行った後直ぐに無電解銅めっき液(奥野製薬工業社製「OPCカッパーMIC-BL」)(温度:70℃、pH:10)を用いて15分間のめっき処理を施した。
【0051】
実施例1では、上述した各工程を経て得られためっき被膜について、選択めっき性を評価した。具体的に、選択めっき性の評価では、めっき被処理面における所定の箇所にめっきが正確に析出しているかを電子顕微鏡(倍率100倍)により確認した。ここで、選択めっき性の評価は、紫外線照射部には完全に無電解ニッケル-リンめっき被膜が形成され、且つ紫外線未照射部には全くめっき析出がみられない場合を「〇」とし、紫外線照射部に少しでもめっき未析出がみられる場合、又は紫外線未照射部に少しでもめっき析出がみられた場合を「△」とし、紫外線照射部においてめっき未析出が顕著な場合、又は紫外線未照射部においてめっき析出が顕著な場合を「×」とした。
【0052】
また、実施例1では、上述した各工程を経て得られためっき被膜において、めっき被膜表面の平滑性を評価した。めっき被膜表面の平滑性の評価は、算術平均高さSaで評価した。このとき、算術平均高さSaは、レーザー顕微鏡「株式会社キーエンス製 VK-X型」を使用して測定した。当該めっき被膜の表面粗さは、1GHz帯の高周波信号を伝送することを想定して、算術平均高さSaが600nm未満を「〇」とし、算術平均高さSaが600nm以上で且つ1000nm未満の場合を「△」とし、算術平均高さSaが1000nm以上の場合を「×」とした。参考までに、実施例1におけるめっき被膜の表面粗さは、算術平均高さSaの平均値で約550nmであった。
【0053】
さらに、実施例1では、上述した各工程を経て得られためっき被膜の密着性を、スタッドプル(stud pull)と称される試験方法で評価した。具体的には、樹脂材表面に形成しためっき被膜の表面にアルミニウム製のスタッドピン(直径7.1mm)を接着剤を用いて接合し、当該樹脂材を支えた上で当該スタッドピンに垂直引張荷重(1.0kg/s)を加えていき、破断点での荷重(kg/cm)を測定した。
【0054】
以下に示す表1には、上述した条件で選択めっき性、めっき平滑性、及びめっき密着力について確認を行った結果を示す。表1には、実施例1以外にも、実施例2,3、比較例1~3の結果を併せて示す。
【実施例0055】
実施例2では、実施例1と同様に、めっきの選択性、めっき被膜表面の平滑性、及び樹脂材に対するめっき被膜の密着性の確認を行った。実施例2では、試験体として実施例1と同じ樹脂材を用意した。また、実施例2では、実施例1と同様に図1のフローチャートに示す工程を行い、当該樹脂材の表面に導体層を形成した。
【0056】
実施例2において実施例1と異なる条件は、紫外線照射工程で紫外線照射工程の直前と直後におけるめっき被処理面の算術平均高さSaの差が58nmである点、アルカリ脱脂工程で25℃の水酸化ナトリウム溶液に浸漬させ、脱脂工程の直前と直後におけるめっき被処理面の算術平均高さSaの差が3nmである点、センシタイジング処理工程及びアクティベーティング処理工程で樹脂材を浸漬させる時間が1分間である点である。図1のフローチャートに示す各工程に関する詳細は、既に実施例1で説明しているため、ここでは省略する。
【0057】
表1には、上述した条件で選択めっき性、めっき平滑性、及びめっき密着力について確認を行った結果を示す。参考までに、実施例2におけるめっき被膜の表面粗さは、算術平均高さSaの平均値で約590nmであった。ここで、これらの確認を行うに際して、実施例1と同じ方法を採用した。そのため、これら方法に関する説明は省略する。
【実施例0058】
実施例3では、実施例1と同様に、めっきの選択性、めっき被膜表面の平滑性、及び樹脂材に対するめっき被膜の密着性の確認を行った。実施例3では、試験体として実施例1と同じ樹脂材を用意した。また、実施例3では、実施例1と同様に図1のフローチャートに示す工程を行い、当該樹脂材の表面に導体層を形成した。
【0059】
実施例3において、実施例1と異なる条件は、紫外線照射工程で紫外線照射工程の直前と直後におけるめっき被処理面の算術平均高さSaの差が6nmである点、アルカリ脱脂工程で25℃の水酸化ナトリウム溶液に浸漬させ、脱脂工程の直前と直後におけるめっき被処理面の算術平均高さSaの差が3nmである点、センシタイジング処理工程及びアクティベーティング処理工程で樹脂材を浸漬させる時間が30秒間である点、無電解ニッケル-リンめっき処理工程及び無電解銅めっき処理工程でめっき浴の温度が60℃である点である。図1のフローチャートに示す各工程に関する詳細は、既に実施例1で説明しているため、ここでは省略する。
【0060】
表1には、上述した条件で選択めっき性、めっき平滑性、及びめっき密着力について確認を行った結果を示す。参考までに、実施例3におけるめっき被膜の表面粗さは、算術平均高さSaの平均値で約530nmであった。ここで、これらの確認を行うに際して、実施例1と同じ方法を採用した。そのため、これら方法に関する説明は省略する。
【比較例】
【0061】
[比較例1]
比較例1では、実施例1と同様に、めっきの選択性、めっき被膜表面の平滑性、及び樹脂材に対するめっき被膜の密着性の確認を行った。比較例1では、試験体として実施例1と同じ樹脂材を用意した。また、比較例1では、実施例1と同様に図1のフローチャートに示す工程を行い、当該樹脂材の表面に導体層を形成した。
【0062】
比較例1において、実施例1と異なる条件は、紫外線照射工程で紫外線照射工程の直前と直後におけるめっき被処理面の算術平均高さSaの差が1043nmである点、アルカリ脱脂工程で25℃の水酸化ナトリウム溶液に浸漬させ、脱脂工程の直前と直後におけるめっき被処理面の算術平均高さSaの差が3nmである点、センシタイジング処理工程及びアクティベーティング処理工程で樹脂材を浸漬させる時間が45秒間である点、無電解ニッケル-リンめっき処理工程及び無電解銅めっき処理工程でめっき浴の温度が60℃である点である。図1のフローチャートに示す各工程に関する詳細は、既に実施例1で説明しているため、ここでは省略する。
【0063】
表1には、上述した条件で選択めっき性、めっき平滑性、及びめっき密着力について確認を行った結果を示す。参考までに、比較例1におけるめっき被膜の表面粗さは、算術平均高さSaの平均値で約1600nmであった。ここで、これらの確認を行うに際して、実施例1と同じ方法を採用した。そのため、これら方法に関する説明は省略する。
【0064】
[比較例2]
比較例2では、実施例1と同様に、めっきの選択性、めっき被膜表面の平滑性、及び樹脂材に対するめっき被膜の密着性の確認を行った。比較例2では、試験体として実施例1と同じ樹脂材を用意した。また、比較例2では、紫外線照射工程を行っていない点を除き、実施例1と同様に図1のフローチャートに示す工程を行い、当該樹脂材の表面に導体層を形成した。
【0065】
比較例2において、紫外線照射工程を行っていないことの他、実施例1と異なる条件は、アルカリ脱脂工程で25℃の水酸化ナトリウム溶液に浸漬させ、脱脂工程の直前と直後におけるめっき被処理面の算術平均高さSaの差が1nmである点、センシタイジング処理工程及びアクティベーティング処理工程で樹脂材を浸漬させる時間が1分間である点、無電解ニッケル-リンめっき処理工程及び無電解銅めっき処理工程でめっき浴の温度が60℃である点である。図1のフローチャートに示す各工程に関する詳細は、既に実施例1で説明しているため、ここでは省略する。
【0066】
表1には、上述した条件で選択めっき性、めっき平滑性、及びめっき密着力について確認を行った結果を示す。参考までに、比較例2におけるめっき被膜の表面粗さは、算術平均高さSaの平均値で約620nmであった。ここで、これらの確認を行うに際して、実施例1と同じ方法を採用した。そのため、これら方法に関する説明は省略する。
【0067】
[比較例3]
比較例3では、実施例1と同様に、めっきの選択性、めっき被膜表面の平滑性、及び樹脂材に対するめっき被膜の密着性の確認を行った。比較例3では、試験体として実施例1と同じ樹脂材を用意した。また、比較例3では、紫外線照射工程及びアルカリ脱脂工程を行っていない点を除き、実施例1と同様に図1のフローチャートに示す工程を行い、当該樹脂材の表面に導体層を形成した。
【0068】
比較例3において、紫外線照射工程及びアルカリ脱脂工程を行っていないことの他、実施例1と異なる条件は、センシタイジング処理工程及びアクティベーティング処理工程で樹脂材を浸漬させる時間が1分間である点、無電解ニッケル-リンめっき処理工程及び無電解銅めっき処理工程でめっき浴の温度が60℃である点である。図1のフローチャートに示す各工程に関する詳細は、既に実施例1で説明しているため、ここでは省略する。
【0069】
表1には、上述した条件で選択めっき性、めっき平滑性、及びめっき密着力について確認を行った結果を示す。参考までに、比較例3におけるめっき被膜の表面粗さは、算術平均高さSaの平均値で約900nmであった。ここで、これらの確認を行うに際して、実施例1と同じ方法を採用した。そのため、これら方法に関する説明は省略する。
【0070】
【表1】
【0071】
(結果及び評価)
表1より、樹脂材のめっき被処理面に対して、本発明の紫外線照射工程の条件「樹脂材の算術平均高さSaが60nm以下であるめっき被処理面に対して形状変形が生じない程度の紫外線を照射する」、及び本発明の脱脂工程の条件「樹脂材のめっき被処理面に対して25~60℃の脱脂剤を5分間~10分間接触させて脱脂を行う」を満たすことで、選択めっき性、めっき平滑性、及びめっき密着性において総じて優れた結果が得られた。この結果より、これら条件を満たすことで、高周波信号の伝送速度の高速化を実現した導体層を樹脂材表面に形成できることが分かる。
【0072】
また、紫外線照射工程の直前と直後におけるめっき被処理面の算術平均高さSaの差の条件「10nm~1000nm」、及び脱脂工程の直前と直後におけるめっき被処理面の算術平均高さSaの差の条件「3nm~10nm」を満たす実施例1,2の試験体は、この条件を満たさない他の試験体に比べて選択めっき性及びめっき密着性に優れた結果が得られた。この結果より、さらにこれら条件を満たすことで、微細でありながら剥離や断線が生じ難い導体層を樹脂材表面に形成する効果が得られることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明に係るめっき方法によれば、樹脂材と導体層との密着性を高めると共に、高周波回路用として好適な導体層を安定的に形成することができる。さらに、選択的に導体層を形成することが可能である。従って、本発明に係るめっき方法は、電子部品の小型軽量化、及び高性能化に対応することができ、加えて複雑な形状の樹脂材の表面に配線(立体配線)を精密に形成することができるという顕著な効果を奏する。また、本発明に係るめっき方法は、複雑な工程や装置を必要としないため、設備や処理のコストを抑え、安価な製品を提供するという点でも有利である。さらに、本発明は、有害物質である6価クロムを用いて樹脂材表面の粗化を行うエッチング処理工程が不要であるため、環境面でも好適である。
【符号の説明】
【0074】
S10…紫外線照射工程
S20…アルカリ脱脂工程
S30…センシタイジング処理工程
S40…アクティベーティング処理工程
S50…脱パラジウム工程
S60…無電解ニッケル-リンめっき処理工程
S70…無電解銅めっき処理工程
図1