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  • 特開-連作障害抑制方法 図1
  • 特開-連作障害抑制方法 図2
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  • 特開-連作障害抑制方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022138839
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】連作障害抑制方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 7/00 20060101AFI20220915BHJP
   G06Q 50/02 20120101ALI20220915BHJP
【FI】
A01G7/00 605Z
A01G7/00 603
G06Q50/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021038945
(22)【出願日】2021-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】520360486
【氏名又は名称】サンリット・シードリングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】719002492
【氏名又は名称】改森 由紀子
(72)【発明者】
【氏名】小野 曜
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049CC01
(57)【要約】
【課題】同一地域とみなしうる範囲の複数の圃場で同一作物を連作する場合において連作障害を効率的に抑制する農作物栽培方法を提供する。また、微生物を利用する農作物栽培方法において、微生物の施用量を低減し、かつ、微生物が奏する作物栽培への有益な効果をより確実に発揮させられる農作物栽培方法を提供する。
【解決手段】圃場の微生物叢分析を行い、その圃場の微生物叢に対して栽培しやすいと考えられる農作物を栽培する栽培作物に決定し、栽培作物の栽培に有益な機能を有する微生物を特定する。そして、営農支援者による施肥設計に基づいて土壌の物理化学的特性を整えた圃場で、特定した微生物と栽培作物との共生関係を人為的に誘導して農作物栽培を行う。
【選択図】図4



【特許請求の範囲】
【請求項1】
農作物栽培を開始する前の農地の微生物叢を分析し、
前記微生物叢分析を参照して、前記農地で栽培する農作物である栽培作物と、当該農地で当該栽培作物の栽培を行う栽培担当者と、を決定する農作物栽培方法。
【請求項2】
前記微生物叢分析を参照して、前記栽培作物にとって有益な共生関係を構築する微生物であるサポート微生物を特定し、当該サポート微生物との共生関係を人為的に構築させて当該栽培作物を前記農地で栽培する請求項1に記載の農作物栽培方法。
【請求項3】
農作物栽培を開始する前の農地の微生物叢を分析し、
前記微生物叢分析を参照して、前記農地で栽培する農作物である栽培作物を決定するとともに、当該栽培作物にとって有益な共生関係を構築する微生物であるサポート微生物を特定し、
前記農地の土壌の物理化学的特性を、前記栽培作物と前記サポート微生物との生育に好ましい条件とした後、
前記栽培作物を前記農地に導入して、前記サポート微生物との共生関係を人為的に構築させて栽培する農作物栽培方法。
【請求項4】
前記微生物は、糸状菌である請求項1から3のいずれかに記載の農作物栽培方法。
【請求項5】
前記微生物は、菌根を形成せずに前記栽培作物に共生する非菌根性糸状菌である請求項4に記載の農作物栽培方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の農作物栽培方法を実施する営農者の支援方法であって、前記栽培作物と前記サポート微生物との共生関係を人為的に構築させるための資材を調製して前記営農者に提供する、連作障害を抑制する営農者支援方法。
【請求項7】
複数の農地について各農地を一意に特定する農地識別符号と当該農地で農作物を栽培することが許可された栽培許可者とが紐づけられた耕作許可者抽出用情報と、
複数種類の農作物について各農作物を一意に特定する農作物識別符号と当該農作物の栽培ができる栽培技能者とが紐づけられた栽培技能者抽出用情報と、を記憶するデータベースと、
特定の農地の農地識別符号と当該農地で栽培する栽培作物の農作物識別符号とが入力されると、前記データベースを参照して、当該特定の農地の栽培許可者であり当該栽培作物の栽培ができる栽培技能者でもある栽培担当者候補を出力する営農支援システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農作物栽培方法に関し、特に土壌の連作障害を抑制する農作物栽培方法、営農支援方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、同一の農地(圃場)で同一の農作物を繰り返し栽培し続けると、病害が発生したり生育が悪くなったりするという連作障害が発生することが知られている。農業の生産性を向上させるためには、広い土地で単一の農作物を栽培する、すなわち連作することが好ましいが、大規模な農地で連作を行う場合、連作障害が発生した場合の損害も大きくなる。
【0003】
こうした連作障害を防止する方法として、従来、土壌を消毒することで連作障害の原因となる病原菌を殺菌する方法がある。しかし、土壌消毒を行うと植物の生育に有益な生物にもダメージを与えるという問題がある。
【0004】
そこで土壌消毒に代わり、病害菌に対する拮抗作用持つ微生物(以下、「対抗微生物」)を土壌に散布する方法が提案されている(特許文献1)。特許文献1に記載された方法によれば、植物の生育に有益な生物にダメージを与えることを回避して、連作障害の原因となる病原菌を抑制することができる。また、農作物を栽培する前の農地の土壌分析を行い、栽培する農作物(栽培作物)の病害菌の存在量を把握して、病原菌の存在量に応じて対抗微生物の散布量を制御する方法も提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9-154570号
【特許文献1】特開2006-219387号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、土壌には0.1ヘクタールあたり700kgともいわれる膨大な量の微生物が存在しており、土壌に散布した微生物が散布前から土壌に存在していた微生物との競争に負けるなどして期待された効果が得られないこともある。このため、病原菌の存在量に応じた散布量の調整を行う場合でも、対抗微生物の散布量を多く要するといった課題がある。
【0007】
そもそも連作障害は、同じ土地で同じ植物を繰り返し栽培することにより、その植物を宿主とする微生物が増殖することにより発生する。このため連作障害は、別の植物を栽培する輪作により抑制でき、特に別の科の植物を栽培することが好ましい。しかし、植物の栽培には植物種ごとの栽培ノウハウや設備、資材を要するため、栽培する植物を変更する場合、変更後に栽培する植物の栽培ノウハウ等を要し、手間がかかる。
【0008】
近年では、半径数km~数10km程度の範囲の地域の複数の区画の農地(圃場)において複数の耕作者が共同で農業を行っている例も多い。このような同一地域での複数耕作者による大規模な共同型の農業において、特定の種類(例えばネギ)の農作物を栽培し、産地と紐づけた地域ブランド農作物として周知を図り、高付加価値化する努力も行われている。このような地域特産農作物を栽培し、ブランド化するためには、品質が高い農作物を安定して栽培して供給するため、特定の地域で大規模な周年栽培や連作が求められる。
【0009】
しかし、前述したとおり周年栽培を含む連作は連作障害のリスクと表裏一体の関係にあり、連作障害により被る損害も大規模になる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記課題に対し、農地の生態系に与えるダメージが少なく、大量の対抗微生物の散布を必要とせず、栽培植物種の変更コストを低減できる連作抑制方法を提供する。本発明は特に、複数人で栽培を行う大規模な農作物栽培地帯において、その地帯を代表する少数(2~3種程度)の農作物を、連作障害を抑制して栽培する農作物栽培方法を提供する。
【0011】
本発明では、農作物を栽培する前の農地から試料を採取し、採取した試料の環境DNA分析を行い、その農地の微生物叢を分析してから、その農地の微生物叢を考慮してその農地で栽培する作物を決定する。そして、栽培作物の栽培ノウハウを有する栽培者を決定する。
【0012】
従来、特定の農地の耕作者は、その農地を所有する一自然人に固定されてきた。しかし農業人口が減少する中で、農地の所有者以外の者による農地の耕作が認められるようになり、車での移動や集荷が可能で同一地域とみなしうる範囲(半径数km~50km程度)の複数の区画の圃場で、複数の耕作者が共同で農作物栽培を行っている例もある。このように同一地域とみなしうる範囲の複数の圃場で、複数の耕作者が栽培する農作物は、単一種であることも多く、地域の特産品としてのブランド化が図られることもある。
【0013】
本発明は、このように同一地域とみなしうる範囲の複数の圃場で複数の耕作者が協力して農作物栽培を行っている農業に好適に適用できる。本発明は、特に、同一地域で栽培する農作物を2種以上として、各農作物の栽培ノウハウを蓄積する栽培担当者を決定する場合に特に好適に適用できる。
【0014】
具体的には、同一地域とみなしうる範囲の複数の圃場において、各圃場の耕作を行いうる者と、前記複数の圃場で栽培する2種以上の栽培候補農作物とを想定しておく。そして、各圃場の微生物叢を分析したうえで、栽培候補農作物の中から、その圃場の微生物叢から栽培しやすいと考えられる植物を特定して栽培作物を決定する。そして、その圃場の耕作を行いうる者の中から、その栽培作物の栽培ノウハウを持つ者をその圃場の栽培担当者とする。
【0015】
このように、農地の耕作者を固定して同じ農地で同一の農作物を連作する代わりに、特定の農作物を栽培する農地を同一地域内で変更させながらその農作物を栽培する栽培者が栽培を担当する農地を移動する。これにより、連作障害を抑制すると同時に一人の栽培者に複数種類の農作物の栽培ノウハウを持つことが求められる負荷を低減する。
【0016】
ここで、農地の微生物叢を分析し、栽培作物を決定した後に、栽培作物の生育に有益な微生物(サポート微生物)を特定して、栽培作物とサポート微生物とが共生関係を構築するよう、人為的な操作を行い、その栽培作物を栽培することが好ましい。
【0017】
ここで本明細書において、「微生物」とは、肉眼で観察できない1mm程度以下の生物を指すものとする。微生物には、ダニ、センチュウ、ウイルス、細菌、放線菌、糸状菌などが含まれる。これらのうち、糸状菌は一般に(すなわち酵母などの例外を除き)複数の細胞が糸状に連なった菌糸を形成し、菌類、または真菌とも呼ばれる。糸状菌の中には、「菌根」と呼ばれる植物根との間で特殊な形状の共生組織を形成して植物と共生関係を構築するもの(菌根菌)がある。菌根は、植物根と菌糸とが一体化した特徴的な構造の共生体であり、多くの草本・木本植物と関係するアーバスキュラー菌根菌や、ブナ科・マツ科などと共生する外生菌根菌、ツツジ科植物と共生するエリコイド菌根菌などに分類されてきた。
【0018】
菌根菌は、基本的に、植物と糸状菌と双方の生育にお互いを必要とする(以下、「絶対共生型」と称する)ため、植物根と共生させた状態または特殊な培地や特殊な培養法でしか人工的に増殖させることができない。一方、菌根を形成することなく植物体内に菌糸を侵入させる糸状菌(以下、「非菌根性糸状菌」)は、植物根と共生させない条件下でも、一般的な培地や動植物残渣を基質としてその菌だけを人工的に純粋培養(単離)できる(以下、「単独培養型」と称する)。
【0019】
このため単独培養型の非菌根性糸状菌は、菌根菌に比べて、入手や取り扱いが容易な培地を用いて、短期間で大量に増殖させられる。このため、サポート微生物としては非菌根性糸状菌を用いるのが好ましい。非菌根性糸状菌は、菌根菌のように特殊な培地や培養技術がなくても短期で大量に増殖させられるため、菌体の増殖コストを低減できるためである。
【0020】
サポート微生物は、その農地の微生物叢および栽培対象とした植物(栽培作物)と親和性が高い微生物(以下、「高親和性微生物」)の中から、栽培作物と共生関係を構築できる微生物を選定して特定する。高親和性微生物は、分析対象とした農地の微生物叢を構成している微生物であってもよく、その微生物叢に含まれていないがその微生物叢を構成している微生物と相性が良い微生物であってもよい。
【0021】
高親和性微生物やサポート微生物は、文献調査や植物への接種試験、微生物データベースの照合や特願2020-039972号に記載した方法などを用いて選定し、特定できる。
【0022】
サポート微生物は、菌糸が伸長する状態としたものを栽培植物の根に接種することで人為的に共生関係を構築させることができる。具体的には、試料から単離する、または単離された菌株の譲渡を受けるなどした種菌(培地で純粋培養された微生物)を、増殖用の培養基質(腐葉土など)で増殖させて菌糸が伸長している状態の菌床を作製し、この菌床中または菌床を含ませた培土で植物根を発根または伸長させるとよい。サポート微生物と栽培植物とを人為的に共生させる方法としては、特願2021-38477に記載された方法が挙げられる。
【0023】
サポート微生物としては、土着の微生物、すなわち栽培植物を栽培する農地やその近傍(概ね半径3~5km)、あるいは同一地域とみなしうる範囲に存在している微生物を用いることが好ましい。遺伝資源の人為的な移動を回避するとともに、その土地の自然資源を活用するためである。具体的には、サポート微生物をある属(例えばトリコデルマ属)の糸状菌と特定した場合、農地やその近傍、または同一地域とみなしうる範囲の土壌などから、同じ属の糸状菌を単離する。そして、単離した(トリコデルマ属の)糸状菌を純粋培養した種菌を増殖用の基質で増殖させ、必要に応じて培土に含ませて、栽培植物の根に人為的に侵入させる条件を整えるとよい。なお、サポート微生物を種レベルで特定する場合は、同じ種の微生物を現地で採取、単離するとよい。
【0024】
このように、農地の微生物叢を分析し、その微生物叢から栽培しやすい栽培作物を決定し、サポート微生物と栽培作物との共生関係を人為的に構築させることで、その栽培作物とサポート微生物との間に確実な共生ネットワークを構築させ、サポート微生物の先住効果により連作障害の抑制力を高めることができる。
【0025】
ここで同一農地の耕作者を変更しない場合は、請求項3に記載の発明を用いることができる。例えば、連作障害を防止するために休耕用の作物を栽培するといった場合において、休耕用の作物の適切な選定に寄与し、休耕用の作物栽培による連作障害の抑制効果の向上が期待できる。
【0026】
特定の農地における栽培作物やサポート微生物などを決定した後、栽培作物の栽培を始めるに先立ち、その農地の土壌の物理化学的特性を、栽培作物およびサポート微生物の生育に適した状態とすることが好ましい。具体的には、土壌の物理性(団粒構造など)を整えるための土壌改良材や、土壌の化学性(窒素、リン、カリウム、その他の微量元素の含有量やバランスなど)を整えるための各種の肥料(以下、土壌改良剤や肥料を「土壌用資材」と総称する)について、使用する土壌用資材の種類、使用量、使用するタイミングを定める施肥設計を行う。そして、施肥設計に基づいて土壌用資材を農地に導入する。土壌用資材の導入タイミングは施肥設計に従えばよい。一般的には、土壌用資材を農地に導入して土壌の物理化学的特性を整えた後、栽培作物を農地に導入することが求められる。ただし、土壌の物理化学的特性が栽培作物とサポート微生物の生育に適した状態となっている場合のように、栽培作物とサポート微生物を導入した後、土壌用資材を適宜、農地に投入してもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、農地に生息する生物を死滅させる薬剤を用いることなく、また、大量の対抗微生物の散布を必要とせず、農作物栽培における連作障害を抑制できる。本発明は特に、同一地域とみなしうる範囲の複数の圃場で、複数人で2種前後の農作物を大規模に栽培する農作物栽培において、連作障害を抑制できる農作物栽培方法を提供する。本発明はさらに、取り扱いが容易で短期で大量に増殖させることができる微生物を用いて、栽培対象植物との共生関係をより確実に構築させることで、従来の微生物資材を利用する場合に比して簡便かつより効果的に連作障害を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】記憶装置に保持され、耕作許可者抽出用情報を保持するデータベースの一例。
図2】記憶装置に保持され、栽培技能者抽出用情報を保持するデータベースの一例。
図3】第1実施態様に係る農作物栽培方法における、8圃場の微生物叢分析結果を示すグラフである。
図4】栽培作物とサポート微生物とを人為的に共生させたネギ苗(共生誘導例1)と、人為的な共生を行わなかったネギ苗(比較例1)。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係る第1実施態様として実施例1について説明する。第1実施態様に係る農作物栽培方法では、京都府内、京都市を中心にした半径約30kmの範囲にある同一地域とみなしうる範囲で、ネギを栽培している8圃場における農作物栽培方法を例として説明する。
【0030】
第1実施態様では、8圃場はそれぞれ3人(法人含む)の営農者のいずれかが営農権を持ち、営農権を持つ3人の営農者のいずれかと雇用関係を持つ耕作者(栽培技能者)10名によりネギが栽培されている。
【0031】
図1に、複数の農地(圃場)について各農地を一意に特定する農地識別符号と当該農地で農作物を栽培することが許可された栽培許可者とが紐づけられた耕作許可者抽出用情報の一例を示す。図1に示すように、各圃場について一つの圃場を一意に特定する農地IDが付与されている。この例では、農地IDに紐づけられて、その農地の所在地や地目、地積、所有者などの土地所有情報と、その農地で農業を営む権利(営農権)を有する営農権者、さらにその農地で栽培を行うことができる栽培許可者とが記憶されている。
【0032】
図2は、複数種類の農作物について各農作物を一意に特定する農作物識別符号と当該農作物の栽培ができる栽培技能者とが紐づけられた栽培技能者抽出用情報の一例を示す。図2に示すように、農作物栽培を行う複数の栽培技能者に対し、各々を一意に特定する栽培技能者IDが付与されている。また栽培技能者IDに紐づけられ、労働契約先と農作物を栽培できる農地とが同時に特定できる識別符号(栽培許可地ID)と、その栽培技能者が栽培できる農作物名とそれを一意に識別する識別符号とが紐づけられて記憶されている。
【0033】
これらの情報は情報記憶装置に記憶しておく。一方、コンピュータのCPUなどの演算処理装置には、農地識別符号と、農作物識別符号とが入力されると、図1図2に示した情報が記憶されている記憶装置から、図1に示す耕作許可者抽出用情報データベースと、図2に示す栽培技能者抽出用情報データベースとを参照し、入力された農地において入力された農作物の栽培を行いうる担当者を抽出する演算処理プログラムを記憶させておく。
【0034】
以下、ネギを栽培している状態の8圃場について、微生物叢(糸状菌叢)分析を行った結果(実施例1)を参照して、さらに説明する。図3に、圃場7を除いて各圃場から2つずつの試料を採取し、糸状菌を分析対象とした環境DNA分析を行った結果を示す。糸状菌をターゲットとした微生物叢分析の結果、ネギの生育が悪い圃場6と圃場8について、連作障害の発生リスクが高い微生物叢になっていることが判明した。
【0035】
具体的には、圃場6は糸状菌ではない微生物(矢印で示す部分で、例えば細菌のような微生物)の存在割合が多く、糸状菌叢にはネギの病害菌と考えられている糸状菌(四角で囲った部分)の存在割合が多かった。圃場8も糸状菌以外の微生物(矢印の部分)の存在割合が高く、糸状菌叢についても、病害菌と考えられている糸状菌(四角の部分)が優占している状態であった。
【0036】
そこで圃場6または圃場8について、ネギ以外の作物を栽培することを検討した。ネギ以外に栽培する作物としては、1年に複数回の栽培ができ、成育が早いコマツナやホウレンソウ、イネ、ムギ、トウモロコシなどが候補として考えられた。ここでアブラナ科であるコマツナ、アカザ科に分類されるホウレンソウ、イネ科であるイネ、ムギおよびトウモロコシはいずれもアーバスキュラー菌根菌とは共生しない。そこで、非菌根性糸状菌の中からこれらの栽培候補作物とネギの両方の生育を良好にできる可能性を持つサポート微生物を選定することとした。
【0037】
ここでネギの生育が良好な圃場2では、非菌根性糸状菌であるトリコデルマ属が最も存在割合が多かった(星印を付した部分)。トリコデルマ属糸状菌はイネ科の植物とも共生でき、その生育を良好にできると判断されたため、トリコデルマ属糸状菌をサポート微生物とすることにした。そこで、京都府および滋賀県の土壌から採取した試料からPDA培地を用いて単離した種菌を、腐葉土などを含む菌床で増殖させて、菌糸が伸長する状態とした培土に栽培作物の種を播種して発根させて、単離したトリコデルマ属糸状菌と栽培作物とを人為的に共生させることにした。
【0038】
具体的には、単離した後にオートミール培地で培養しておいたトリコデルマ属糸状菌を種菌として、腐葉土などを含む菌床に接種して増殖させた。このようにして菌糸が伸長する状態とした菌床を含ませた培土にネギの種を播種して発根させた。これにより、トリコデルマ属糸状菌の菌糸をネギの根に侵入させ、共生関係を人為的に誘導した。種菌の増殖、培土の調製などの共生関係の誘導法は、特願2021-38477に記載された方法と同様とした。
【0039】
図4に播種から5週間経過後のネギの苗を示す。図4の左端1列(5セル)が糸状菌を含ませなかった培土で発芽、成育させた苗(比較例1の苗)、トリコデルマ属糸状菌の菌糸を伸長させた培土の苗(共生誘導例1の苗)である。図4に示す通り、共生誘導例1の苗は比較例1より生育が良好であった。また、顕微鏡観察により、共生誘導例1の苗には菌糸が侵入していることが確認できた。
【0040】
トリコデルマ属糸状菌は、ネギのほか、イネ科やアブラナ科などの植物とも共生しうることが確認できている。よって、トリコデルマ属糸状菌をサポート微生物とする場合、ネギに代わる栽培作物としては、上記した植物すべてが栽培作物となりうる。そこで、圃場6および圃場8について、耕作することが可能な耕作者を抽出し、その耕作者が栽培ノウハウを有する農作物として、トウモロコシを栽培作物とすることを決定した。
【0041】
そこで圃場6および圃場8について、土壌の物理性と化学性とを分析し、その結果も参照して営農支援者が、土壌の物理性と化学性がトウモロコシ栽培に適するような施肥設計を行った。そして、ネギを収穫した後、営農支援者が設計した施肥計画に従って、圃場6に土壌改良材(堆肥と粘土鉱物)および肥料を投入することとした。また、これらの土壌用資材を投入した後、単離したトリコデルマ属糸状菌を含む培土にトウモロコシを播種することとした。
【0042】
そこで、図1図2に示す情報を記憶させたコンピュータに、圃場6を一意に特定する識別符号(KTKF-O5678 -9)と、圃場6で栽培するトウモロコシを一意に特定する識別符号(KK IN TM)とを入力し、当該コンピュータの演算処理装置を用いて演算処理をさせたところ、圃場6の栽培担当者候補として「主水 一郎」が抽出された。
【0043】
この結果を参照し、圃場6について、栽培担当者と栽培する農作物を変更することとし、トリコデルマ属糸状菌を含む培土を、施肥設計に基づく施肥が施された圃場6の畝に所定の量で投入して遅滞なくトウモロコシを播種する栽培計画を立てた。
【0044】
すなわちトウモロコシと有益な共生関係を構築するサポート微生物であると特定したトリコデルマ属糸状菌を含む培土にトウモロコシを播種し、発芽させることでトウモロコシとトリコデルマ属糸状菌との共生関係を人為的に誘導する。
【0045】
以上のように、農作物栽培を開始する前の農地の微生物叢を分析し、その分析結果を参照して、その農地で栽培する農作物、その農作物との共生関係を構築しうるサポート微生物、栽培担当者とを決定し、サポート微生物を増殖させた培土で農作物を発根させることで、連作障害を抑制する。
図1
図2
図3
図4