(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022138935
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】積層造形用粉末材料
(51)【国際特許分類】
B22F 10/34 20210101AFI20220915BHJP
B22F 3/16 20060101ALI20220915BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20220915BHJP
【FI】
B22F10/34
B22F3/16
B33Y70/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021039103
(22)【出願日】2021-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】特許業務法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金井 大輔
(72)【発明者】
【氏名】関本 光一郎
(72)【発明者】
【氏名】臼田 輝貴
(72)【発明者】
【氏名】山中 利文
(72)【発明者】
【氏名】酒井 拓也
(72)【発明者】
【氏名】山田 慎之介
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA06
4K018AA07
4K018AA10
4K018AA24
4K018AA33
4K018AB01
4K018AB02
4K018AB03
4K018BA03
4K018BA04
4K018BA13
4K018BA17
4K018BB04
4K018BB05
(57)【要約】
【課題】動的な状態での流動性に優れた積層造形用粉末材料を提供する。
【解決手段】金属粒子を含有し、粉体動摩擦角が22°以下であり、アバランシェエネルギーが15mJ/kg以下である、積層造形用粉末材料とする。前記積層造形用粉末材料は、流動化剤、セラミックス粒子、および有機材料よりなるバインダーを含有しないことが好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粒子を含有し、
粉体動摩擦角が22°以下であり、
アバランシェエネルギーが15mJ/kg以下である、積層造形用粉末材料。
【請求項2】
流動化剤を含有しない、請求項1に記載の積層造形用粉末。
【請求項3】
セラミックス粒子を含有しない、請求項1に記載の積層造形用粉末材料。
【請求項4】
有機材料よりなるバインダーを含有しない、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の積層造形用粉末材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形用粉末材料に関し、さらに詳しくは、積層造形法において原料として用いることができる、金属粒子を含有した粉末材料に関する。
【背景技術】
【0002】
三次元造形物を製造する新しい技術として、付加製造技術(Additive Manufacturing;AM)の発展が近年著しい。付加製造技術の一種として、粉末材料のエネルギー線照射による固化を利用した積層造形法がある。金属粉末材料を用いた積層造形法としては、粉末積層溶融法と、粉末堆積法の2種が代表的である。
【0003】
粉末積層溶融法の具体例として、選択的レーザー溶融法(Selective Laser Melting;SLM)、電子線溶融法(Electron Beam Melting;EBM)等の方法を挙げることができる。これらの方法においては、金属よりなる粉末材料を、ベースとなる基材上に供給して粉末床を形成し、三次元設計データをもとに、粉末床の所定の位置に、レーザービーム、電子線等のエネルギー線を照射する。すると、照射を受けた部位の粉末材料が、溶融と再凝固によって固化し、造形物が形成される。粉末床への粉末材料の供給とエネルギー線照射による造形を繰り返し、造形物を層状に順次積層して形成していくことで、三次元造形物が得られる。
【0004】
一方、粉末堆積法の具体例としては、レーザー金属堆積法(Laser Metal Deposition;LMD)を挙げることができる。この方法においては、三次元造形物を形成したい位置に、ノズルを用いて金属粉末を噴射しながら、同時に、レーザービームの照射を行い、所望の形状を有する三次元造形物を形成する。
【0005】
上記のような積層造形法を用いて、金属材料よりなる三次元造形物を製造する際に、得られる三次元造形物に、空隙や欠陥等、構成材料の分布が不均一になった構造が生じる場合がある。そのような不均一構造の生成は、極力抑制することが望ましい。金属材料を用いた積層造形法において、製造される三次元造形物の内部に、構成材料の不均一な分布が生じる原因は、複数考えられるが、要因の1つとして、エネルギー線照射前の粉末材料の状態が、得られる三次元造形物の状態に、大きな影響を与えうる。
【0006】
例えば、粉末積層溶融法において、基材上に粉末材料を円滑に供給し、粉末材料が均一に敷き詰められた粉末床を安定に形成することができれば、また、粉末床において、粉末材料を高密度で充填することができれば、粉末床へのエネルギー線の照射を経て、均質性の高い三次元造形物が得られやすい。粉末堆積法においても、ノズルから粉末材料を、円滑に、また均一性高く供給することで、三次元造形物を安定に形成することができる。このように、積層造形法によって三次元造形物を製造する際に、原料として用いる粉末材料が高い流動性を有するほど、粉末材料の円滑な供給や、高密度での充填を促進することができ、エネルギー線の照射を経て、均一性の高い三次元造形物を得ることができる。
【0007】
例えば、特許文献1に、粉末積層造形に用いるものとして、最適な粉末流動性の範囲を持つとされる造形用粉末が開示されている。特許文献1の造形用粉末は、セラミックスの粉末とバインダー粉末を主な構成材料としており、所定の範囲の安息角、Hausner比(タップ密度/静かさ密度の比)、圧縮度((タップ密度-静かさ密度)/タップ密度)×100)を有している。ここで、「静かさ密度」とは、JIS Z 2504に規定される見掛密度に対応する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、積層造形法において、良質な三次元造形物を製造する観点から、原料粉末が高い流動性を有することが重要である。特許文献1で、造形用粉末に対して規定されている安息角やHausner比は、主に静的な状態での粉末材料の流動性をよく反映するパラメータである。しかし、積層造形法は、粉末材料を敷き詰める工程(スキージング工程)等、動的な過程を多く含んでいる。よって、緻密で均一性の高い組織を有する良質な三次元造形物を製造するためには、原料粉末が、動的な状態において高い流動性を有することが重要となる。静的な状態での流動性の高さは、必ずしも、動的な状態での流動性の高さに対応しない。
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、動的な状態での流動性に優れた積層造形用粉末材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明にかかる積層造形用粉末材料は、金属粒子を含有し、粉体動摩擦角が22°以下であり、アバランシェエネルギーが15mJ/kg以下である。
【0012】
ここで、前記積層造形用粉末材料は、流動化剤を含有しないとよい。また、前記積層造形用粉末材料は、セラミックス粒子を含有しないとよい。前記積層造形用粉末材料は、有機材料よりなるバインダーを含有しないとよい。
【発明の効果】
【0013】
上記発明にかかる積層造形用粉末材料は、それぞれ所定の上限以下に抑えられた粉体動摩擦角と、アバランシェエネルギーとを有している。粉体動摩擦角およびアバランシェエネルギーはいずれも、粉体の動的な状態における流動性の高さを示す指標となり、それらの値が小さいほど、粉末材料が動的流動性に優れたものとなる。よって、上記発明にかかる積層造形用粉末材料は、動的流動性に優れ、積層造形に含まれる各工程の中で、敷き詰め工程等、粉末材料の動的な流動を伴う工程を、円滑に、また高い均一性をもって進めることができる。その結果、積層造形によって、均一性の高い組織を有する三次元造形物を与えうる原料粉末となる。
【0014】
ここで、上記積層造形用粉末材料においては、粉体動摩擦角およびアバランシェエネルギーを所定の上限以下に抑えることで、十分に流動性を高めることができるので、流動性を向上させる目的で、流動化剤を含有させる必要はない。積層造形用粉末材料を、流動化剤を含有しないものとすることで、積層造形用粉末材料を用いて製造される三次元造形物において、流動化剤として導入される物質の影響を排除できる。
【0015】
また、金属粒子の方が、セラミックス粒子よりも、ハマカー(Hamaker)定数が大きく、粒子間に働くファンデルワールス力が大きいため、流動性が低くなるが、上記発明にかかる積層造形用粉末材料においては、セラミックス粒子を含有しない場合にも、上記の上限以下に抑えられた粉体動摩擦角とアバランシェエネルギーを有することで、十分に高い動的流動性を確保することができる。
【0016】
積層造形用粉末材料が、有機材料よりなるバインダーを含有しない場合には、積層造形用粉末材料の動的流動性を、バインダーによる影響を受けずに高めることができる。また、積層造形用粉末材料を用いて製造される三次元造形物において、有機物の存在による欠陥の形成が抑えられるので、原料粉末の動的流動性を高めることで、製造される三次元造形物の組織の均一性を高める効果が、欠陥の発生によって損なわれにくい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】種々の粉末材料の粉体動摩擦角およびアバランシェエネルギーと、積層造形への適合性との相関を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態にかかる粉末材料について、詳細に説明する。本明細書において、ある成分について、「含有しない」、「含有されない」との状態には、全くその成分が含有されない状態のみならず、不可避的不純物としてその成分が含有される状態も、含むものとする。
【0019】
本発明の一実施形態にかかる積層造形用粉末材料(以下、単に粉末材料と称する場合がある)は、金属粒子を含んでおり、粉体動摩擦角が22°以下であり、かつアバランシェエネルギーが15mJ/kg以下である。本実施形態にかかる積層造形用粉末材料は、そのような粉体動摩擦角およびアバランシェエネルギーを有していることで、高い動的流動性を有するものとなっている。
【0020】
[構成材料]
本実施形態にかかる粉末材料は、金属粒子を含んでいる。ここで、金属粒子とは、表面の酸化等の不可避的な変性や、原料残渣等の不可避的な不純物の混入を除いて、金属のみよりなる粒子を指す。金属粒子を構成する金属種は、特に限定されるものではないが、積層造形用の原料として好適に用いることができる金属種として、ステンレス鋼をはじめとする鉄基合金、ニッケル基合金、チタン基合金、コバルト基合金を例示することができる。特に、積層造形工程を経て、硬さ等の特性に優れた三次元造形物を与える等の点で、鉄基合金またはニッケル基合金を用いることが好ましい。粉末材料は、金属粒子として、1種の粒子のみを含有していても、2種以上の粒子を含有していてもよい。
【0021】
金属粒子の粒径は、特に限定されるものではないが、積層造形用の原料として好適に用いられるようにする観点から、ミクロンオーダーの粒径を有していることが好ましい。具体的には、金属粒子の粒径は、平均粒径(d50)で、10μm以上、500μm以下とすることができる。平均粒径で、10μm以上、また100μm以下であれば、特に好ましい。なお、平均粒径(d50)とは、質量基準分布における篩下積算分率が50%となる粒子径を指す。
【0022】
本実施形態にかかる粉末材料は、不可避的不純物を除いて、金属粒子のみより構成されても、金属粒子に加えて、他の物質を含有するものであってもよい。粉末材料に添加することができる、上記ミクロンオーダーの金属粒子以外の物質として、ナノ粒子を例示することができる。ナノ粒子は、隣接する金属粒子の間に介在し、金属粒子の間に距離を確保することで、ファンデルワールス力、静電引力等、金属粒子間に働く引力を低減するものとなる。その結果として、金属粒子からなる粉末材料の流動性を高めることができる。
【0023】
ナノ粒子は、ナノメートルオーダーの粒径を有するものであれば、種類や具体的な粒径を特に指定されるものではないが、粒径として1nm以上、また、100nm以下である場合を、好適なものとして例示することができる。ナノ粒子は、金属よりなっていても、金属化合物よりなっていてもよいが、金属粒子間の引力を効果的に低減する観点から、金属化合物よりなっていることが好ましい。金属化合物としては、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物等を例示することができる。中でも、活性の低さやナノ粒子の入手の容易性等の観点から、金属酸化物であることが好ましい。金属化合物を構成する金属種は、特に限定されないが、SiやAl,Ti等の軽金属元素を用いる形態が、好適である。これらの元素の酸化物(SiO2,Al2O3,TiO2等)のナノ粒子は、積層造形工程を経て、金属よりなる三次元造形物中に含まれても、深刻な影響を与えにくい。特に、ナノ粒子として、Siの酸化物(シリカ)を用いることが好ましい。ナノ粒子としては、1種のみを用いても、2種以上を混合してもよい。
【0024】
ナノ粒子は、不可避的不純物を除いて、金属酸化物等、主材料のみより構成されるものであってもよいが、表面処理を施されていることが好ましい。好適な表面処理としては、疎水化処理を挙げることができる。疎水化処理としては、シランカップリング剤等の有機分子による表面修飾を例示することができる。疎水化処理により、水分子や水酸基の吸着によるナノ粒子間の凝集、およびそれによる粉末材料の流動性の低下を抑制することができる。また、ナノ粒子は、粉末材料において、金属粒子とは独立して分散されていても、金属粒子の表面に付着していてもよい。粉末材料におけるナノ粒子の含有量は、特に限定されるものではないが、金属粒子の質量を基準として、0.001質量%以上、また0.1質量%以下の範囲を例示することができる。
【0025】
本実施形態にかかる粉末材料は、主材料たる金属粒子、およびナノ粒子以外の成分は、不可避的不純物を除いて含まないことが好ましい。粉末材料に含有されない方がよい物質として、流動化剤を挙げることができる。流動化剤とは、金属粒子よりなる粉体に混合することで、粉体の流動性を向上させられる物質であり、金属化合物の粒子等より構成される。代表的な流動化剤として、Si、Ti、Al等の金属の酸化物粒子を挙げることができる。本実施形態にかかる粉末材料は、所定の上限以下の粉体動摩擦角およびアバランシェエネルギーを有することで、十分に高い流動性を有するものであるので、流動性の向上を目的として、流動化剤を添加する必要はない。流動化剤を添加しないことで、粉末材料を用いて形成される三次元造形物において、流動化剤として粉末材料に添加される物質が、不純物として作用するなどの影響を及ぼす事態を、回避できる。なお、上記で説明したナノ粒子は、流動化剤には含まれない。
【0026】
流動化剤として機能するもの以外にも、本実施形態にかかる粉末材料は、セラミックス粒子を含有しない方がよい。セラミックス粒子も、積層造形の原料として用いられるものではあるが、本実施形態にかかる粉末材料は、積層造形によって金属部材を形成するための原料としての使用を想定しており、セラミックス粒子を含有しないことが好ましい。一般に、金属粒子は、セラミックス粒子よりもハマカー定数が大きく、粒子間に作用するファンデルワールス力が大きくなるため、粉末材料の流動性が低くなりやすいが、本実施形態にかかる粉末材料は、ミクロンオーダーの粒径を有する粒子として含まれる物質が、金属粒子のみであっても、粉体動摩擦角およびアバランシェエネルギーが上記の範囲に制御されていることで、高い動的流動性を示すものとなる。なお、ここで粉末材料に含有されない方がよい物質として挙げているセラミックス粒子には、上記で説明したナノ粒子としての金属化合物は含まない。ナノ粒子は、小体積であるため、製造される金属部材に含有されても、その部材の金属としての性質に影響を与えにくいからである。
【0027】
さらに他に、本実施形態にかかる粉末材料に含有されない方がよい物質として、有機材料よりなるバインダーを挙げることができる。バインダーは、積層造形工程において、粉末材料の固化による三次元造形物の形成を補助するものとなるが、粉末材料の流動性に影響を与える場合もあり、粉末材料にバインダーを含有させないことで、金属粒子、および任意に添加されるナノ粒子によって実現される流動性への影響を回避することができる。また、バインダー等の有機材料は、積層造形工程において、炭化水素系ガスの発生により、三次元造形物に空孔を形成し、組織の不均一な分布の原因となりうる。本実施形態にかかる粉末材料は、高い動的流動性を有することで、積層造形工程を経て製造される三次元造形物において、組織の均質性を高める効果を有するが、有機物の含有に起因する欠陥の形成によって組織の均質性が低下するのを避けることで、その効果を高めることができる。なお、セラミックス材料や有機材料は、独立した粒子やバインダー以外の形態でも、不可避的不純物を除いて粉末材料に含まれないことが好ましく、例えば、金属粒子の表面は、セラミックス層等の金属化合物の層や有機物質の層等、意図的に設けられた金属材料以外の層に被覆されず、金属面を露出させていることが好ましい。なお、ナノ粒子が疎水化処理されている場合に、ナノ粒子の体積の小ささに対応して、その疎水化処理に用いられる有機分子はごく少量であるため、製造される三次元造形物に対して実質的な影響を与えるものとはならない。
【0028】
本実施形態にかかる粉末材料においては、流動性、特に粉体動摩擦角およびアバランシェエネルギーの小ささとして現れる動的流動性を向上させるための好適な手段として、上記で説明した金属酸化物等のナノ粒子の添加を挙げることができる。他に、粉末材料の流動性を向上させるのに有効な手段としては、金属粒子として、円形度の高い、球形に近似できる形状と、平滑な表面を有するものを使用することが挙げられる。金属粒子の円形度を向上させる方法としては、アトマイズ法等によって製造した金属粉末に対して、せん断力の印加によって凝集を解消させることや、分級によって粒度分布の選別を行うこと、プラズマ加熱等によって表面融解を起こすこと等の手段が例示できる。また、上記のように、金属材料以外の含有を避けるという観点からは、金属粒子の表面にセラミックス材料等の金属化合物の層や、有機材料の層が設けられない方がよいが、流動性向上の観点からは、金属酸化物、金属窒化物等、不活性な金属化合物の層や、有機材料等の疎水性物質の層を、金属粒子の表面に設けてもよい。また、粉末材料を乾燥させ、水分含有量を減少させることも、流動性の向上に効果を有する。
【0029】
[粉体動摩擦角]
本実施形態にかかる粉末材料は、粉体動摩擦角が、22°以下に抑えられている。粉体動摩擦角は、JIS Z 8835に基づくせん断試験による限界状態線(Critical State Line;CSL)から求めることができる。具体的には、2つのセルに充填した粉末材料に対して、垂直応力(せん断面に垂直な応力)を印加しながら、2つのセルに充填した粉末材料の間に生じるせん断応力を計測する。そして、一定値に達したときのせん断応力と、せん断面に作用する垂直応力との関係として限界状態線を得たうえで、その限界状態線と垂直応力軸とのなす角度を粉体動摩擦角とすればよい。
【0030】
粉体動摩擦角が小さいほど、粉末材料に作用するせん断応力が小さいことを意味し、粉末材料の流動性が高いことが示される。粉末材料の流動性としては、容器に充填された状態等、粉末材料が拘束され、流動していない静的な状態における流動性を示す静的流動性と、粉末材料が拘束されずに流動した動的状態おける流動性を示す動的流動性の2種類の寄与が存在するが、粉体動摩擦角は、これらのうち、動的流動性を主に反映するものとなる。粉体動摩擦角を評価するための限界状態線の取得が、2つのセルに充填した粉末材料の層間に、並進運動または回転運動によってせん断力を印加しながら行われることに対応するものである。特に、粉末材料を構成する粒子が、高い円形度および平滑な表面を有し、粒子間にせん断応力が働きにくくなっている場合に、そのことが、粉体動摩擦角の小ささとして、よく反映される。
【0031】
本実施形態にかかる粉末材料は、粉体動摩擦角が22°以下であることで、積層造形用の原料粉末として適した、高い動的流動性を有するものとなっている。粉体動摩擦角が19°以下であると、さらに好ましい。粉末材料の粉体動摩擦角には、特に下限は設けられないが、粉末床への粉末材料の敷き詰めを行いやすくする観点から、例えば10°以上としておくとよい。
【0032】
[アバランシェエネルギー]
本実施形態にかかる粉末材料は、アバランシェエネルギーが15mJ/kg以下となっている。アバランシェエネルギー(Avalanche Energy;AE)は、雪崩現象に伴う粉末材料の位置エネルギーの変化を示すパラメータである。粉末材料を収容した回転ドラムを回転させた際に、回転に伴って上方へ引き上げられた粉末材料が崩れ落ちる雪崩現象の前後における、位置エネルギーの変化量として、アバランシェエネルギーを評価することができる。
【0033】
アバランシェエネルギーが小さいほど、集合した粉末材料が崩れやすいことを意味する。つまり、アバランシェエネルギーが小さいほど、粉末材料が高い流動性を有していることが示される。アバランシェエネルギーは、粉末材料を収容した回転ドラムを回転させ、粉末材料を流動させながら評価されるものであることから、粉末材料の動的流動性をよく反映するものとなる。特に、ファンデルワールス力、静電引力等、粒子間に働く引力による粉末材料の付着性が小さくなっている場合に、そのことが、アバランシェエネルギーの小ささとして、よく反映される。
【0034】
本実施形態にかかる粉末材料においては、アバランシェエネルギーが15mJ/kg以下であることで、粉末材料が、積層造形用の原料粉末として適した、高い動的流動性を有するものとなっている。アバランシェエネルギーが10mJ/kg以下であると、さらに好ましい。粉末材料のアバランシェエネルギーには、特に下限は設けられないが、粉末床への粉末材料の敷き詰めを行いやすくする観点から、例えば5mJ/kg以上としておくとよい。
【0035】
[粉末材料の特性]
本実施形態にかかる粉末材料は、粉体動摩擦角が22°以下に抑えられるとともに、アバランシェエネルギーが15mJ/kg以下に抑えられている。粉体動摩擦角およびアバランシェエネルギーがそのように小さく抑えられていることにより、本実施形態にかかる粉末材料は、流動性、特に動的流動性に優れたものとなっている。さらに、その動的流動性の高さは、粒子間に生じるせん断応力の小ささ、および粒子の付着性の低さをともに反映するものとなる。金属粒子を含んだ粉末材料が、高い動的流動性を備えていることで、積層造形の原料として、粉末材料を好適に利用することができる。
【0036】
積層造形を行うための各工程には、粉末材料を動的に流動させる工程が多く含まれる。例えば、積層造形法のうち、SLMやEBM等の粉末積層溶融法を実施する場合には、ホッパーから粉末材料を供給し、基材の上に敷き詰めて、粉末床を形成する。この際、粉末材料が高い流動性を有することにより、ホッパーから安定して粉末材料を流出させることができる。また、リコーター等を用いて、粉末材料を敷き詰めて、粉末床とする際に(スキージング)、粉末材料の敷き詰めを、高密度に、また均質に行いやすくなる。このように、粉末材料が高い動的流動性を有することは、均一性が高く、かつ高密度の粉末床を安定して形成するうえで、重要である。そして、均一性および密度の高い粉末床に対して、エネルギー線が照射され、積層造形を行うことにより、組織の均一性が高く、緻密で欠陥の少ない三次元造形物を形成しやすくなる。LMDをはじめとする粉末堆積法による積層造形においても、動的流動性に優れた粉末材料を用いることで、ノズルに粉末材料を安定して供給することができる。また、ノズルから造形を行う箇所に向かって、気流とともに粉末材料を噴射する際に、粉末材料の供給を、高い均一性をもって継続し、造形を安定して進めることができる。なお、積層造形を行う装置としては、実施例ではConcept Laser社の製品を用いているが、この製品に限らず、種々の積層造形用装置で積層造形を行うのに、本実施形態にかかる粉末材料を好適に利用することができる。
【実施例0037】
以下、実施例を用いて本発明をより具体的に説明する。ここでは、種々の粉末材料について、粉体動摩擦角およびアバランシェエネルギーと積層造形への適合性との関係を調べた。本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0038】
(試料の準備)
鉄基合金およびニッケル基合金よりなる金属粒子を含む粉末材料を、複数準備した。
図1中に「ナノ有」と表示した粉末材料以外は、不可避的不純物を除いて、それら金属粒子のみを含む粉末材料である。「ナノ有」とした粉末材料は、金属よりなる粒子に加えて、SiO
2のナノ粒子を含有するものである。いずれの粉末材料においても、金属粒子の粒径は、平均粒径で14μm以上50μm以下の範囲となっている。また、「ナノ有」の粉末材料において、ナノ粒子の粒径は12nm以上15nm以下の範囲であり、ナノ粒子の添加量は、金属粒子の質量に対して0.01質量%以下の範囲となっている。
【0039】
(粉体動摩擦角の評価)
JIS Z 8835に準拠し、回転セル型のせん断試験装置を用いて、各粉末材料の粉体動摩擦角を評価した。2つのセルに充填した粉末材料の間のせん断面に作用するせん断応力と、せん断面に作用する垂直応力との関係を、せん断応力を縦軸に、垂直応力を横軸にとってプロットし、原点を通る近似直線として限界状態線を得た。そして、その限界状態線と横軸がなす角度として、粉体動摩擦角を求めた。粉体動摩擦角の評価は、室温にて、湿度15%RHの環境で行った。
【0040】
(アバランシェエネルギーの評価)
回転ドラム式の粉体流動性測定装置を用いて、各粉末材料のアバランシェエネルギーを評価した。透明な回転ドラムに粉末材料を収容し、0.6rpmの回転速度で回転させながら、粉体の状態を回転ドラムの外側から撮影し、ドラム底部を基準とした粉体面の高さを記録した。そして、雪崩現象が起こる前後の粉末材料の全位置エネルギーの差を、アバランシェエネルギーとした。ここで、粉末材料の全位置エネルギーは、ドラム底部を基準とした位置エネルギーを撮影像のピクセルごとに計算し、総和を取ることで見積もった。アバランシェエネルギーの評価は、室温にて、湿度5%RH以下の環境で行った。
【0041】
(積層造形への適合性の評価)
各粉末材料の積層造形への適合性を、SLMによる積層造形を行うことで評価した。具体的には、各粉末材料を基材上にホッパーから供給したうえで、リコーターを用いて基材上に粉末材料を敷き詰めて、粉末床を形成した。そして、粉末床にレーザービームを照射し、造形物を形成した。粉末材料の敷き詰めとレーザービームの照射を交互に繰り返すことで、三次元造形物を形成した。積層造形にかかる条件は、以下のとおりとした。
・用いた装置:Concept Laser社製 「M2」
・用いたレーザービーム:波長 1070nm、エネルギー密度 60~100J/mm3
・1回に敷き詰めた粉末材料の層の厚さ:50μm
・形成した三次元造形物の形状:ブロック形(12mm×12mm×12mm)
【0042】
ホッパーからの粉末材料の供給またはリコーターによる粉末材料の敷き詰めが円滑に行えなかった試料については、積層造形不可能(×)と評価した。これは、粉末材料の流動性が極めて低いことにより、ホッパーからの粉末材料の流出やリコーターによる粉末材料の分散が正常に行えなかったものと解釈できる。粉末床の形成が問題なく行えた試料については、形成した三次元造形物を中心部にて切断し、断面に、造形ムラ(構成材料の不均一な分布)が形成されているか否かを、断面の撮影像に基づいて評価した。具体的には、撮影像を二値化して、金属材料が占める領域の面積率を見積もった。金属材料が占める領域の面積率が99.9%以下となっており、造形ムラが生じているとみなされる試料については、積層造形への適合性が低い(△)と評価した。一方、金属材料が占める領域の面積率が99.9%を超えており、造形ムラが生じていないとみなせる試料については、積層造形への適合性が高い(○)と評価した。粉末材料の流動性が高い場合に、造形ムラのない均一性の高い組織が形成されるものと解釈できる。
【0043】
(評価結果)
図1に、各粉末材料について、粉体動摩擦角およびアバランシェエネルギーと積層造形への適合性と関係を表示している。粉体動摩擦角を縦軸に、アバランシェエネルギーを横軸にとって、積層造形への適合性をプロット記号によって示している。プロット記号としては、積層造形への適合性が高かったもの(〇)を丸印、積層造形への適合性が低かったもの(△)を三角印、積層造形不可能であったもの(×)をバツ印で表示している。さらに、金属粒子が鉄基合金より構成されている場合には、各記号を黒塗りで表示し、金属粒子がニッケル基合金より構成されている場合には、各記号をグレー塗りで表示している。また、粉末材料にナノ粒子が添加されている場合には、各記号を白抜きで表示している。ただし、各材料種について、「〇」「△」「×」の全てのデータ点が存在しているわけではない。
【0044】
図1によると、図中に破線で表示したように、粉体動摩擦角が22°以下、かつアバランシェエネルギーが15mJ/kg以下の領域に、丸印で表示される積層造形への適合性が高い試料のデータ点が分布している。一方、その領域の外側に、三角印で表示される積層造形への適合性が低い試料、およびバツ印で表示される積層造形不可能であった試料のデータ点が分布している。このことから、粉体動摩擦角が22°以下、またアバランシェエネルギーが15mJ/kg以下の粉末材料を用いることで、粉末材料の供給および敷き詰めを円滑に行うことができ、かつ組織の均一性の高い三次元造形物を与える高い動的流動性が得られることが分かる。粉体動摩擦角とアバランシェエネルギーのいずれか一方のみに閾値を設けるのでは、高い動的流動性を有し、積層造形への適合性に優れた粉末材料を、正確に選別することはできず、両方のパラメータを指標として用いてはじめて、積層造形原料として適した高い流動性を有する粉末材料を選定することが可能となっている。
【0045】
さらに、
図1において、粉体動摩擦角22°以下かつアバランシェエネルギー15mJ/kg以下の領域内にある粉末材料が高い積層造形への適合性を示し、その領域の外側にある粉末材料が積層造形への適合性が低い、あるいは積層造形不可能となっているという傾向は、金属粒子が鉄基合金より構成されているか、ニッケル基合金より構成されているか、またナノ粒子が添加されているか否かに関わらず、共通に見られている。このことから、粉末材料を構成する金属の種類や、ナノ粒子の含有の有無等、粉末材料の詳細な材料構成によらず、粉体動摩擦角およびアバランシェエネルギーを指標とし、それぞれの値が22°以下また15mJ/kgとなるように、積層造形の原料として用いる粉末材料を選定することで、粉末材料の高い動的流動性を利用して、組織の均一性の高い良質な三次元造形物を形成できると言える。
【0046】
以上、本発明の実施形態および実施例について説明した。本発明は、これらの実施形態および実施例に特に限定されることなく、種々の改変を行うことが可能である。