(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022138948
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】アルコール飲料、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12G 3/06 20060101AFI20220915BHJP
【FI】
C12G3/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021039125
(22)【出願日】2021-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】303040183
【氏名又は名称】サッポロビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(72)【発明者】
【氏名】岡本 千晶
【テーマコード(参考)】
4B115
【Fターム(参考)】
4B115MA03
(57)【要約】
【課題】濃縮液(シロップ)のアルコール安定性に優れるアルコール飲料を提供すること。
【解決手段】アルコール飲料であって、上記アルコール飲料に含まれる粒子のメディアン径が0.2nm以上1.0nm以下である、アルコール飲料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール飲料であって、
前記アルコール飲料に含まれる粒子のメディアン径が0.2nm以上1.0nm以下である、アルコール飲料。
【請求項2】
混濁果汁を含有し、
前記混濁果汁の含有量が、0.1w/v%以上5.0w/v%以下である、請求項1に記載のアルコール飲料。
【請求項3】
前記メディアン径が、0.4nm以上0.6nm以下である、請求項1又は2に記載のアルコール飲料。
【請求項4】
pHが2.8以上4.0以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のアルコール飲料。
【請求項5】
乳化香料を含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載のアルコール飲料。
【請求項6】
アルコール飲料の製造方法であって、
前記アルコール飲料に含まれる粒子のメディアン径を0.2nm以上1.0nm以下の範囲内に調整することを含む、製造方法。
【請求項7】
シロップのアルコール安定性を向上させる方法であって、
前記シロップを希釈して得られるアルコール飲料に含まれる粒子のメディアン径が0.2nm以上1.0nm以下の範囲内になるようにシロップを調整することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコール飲料、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にRTD(Ready To Drink)と呼ばれるアルコール飲料等の飲料は、濃縮液(シロップ)を水又は炭酸水で希釈して製造するのが一般的である。アルコール飲料を製造する際のシロップは、高濃度のアルコールを含むため、例えば、シロップを冷蔵保存した際などに配合成分の沈殿、凝集又は分離が生じ易い。
【0003】
例えば、特許文献1には、高濃度のアルコールを使用しても、乳化香料組成物を長期間安定な乳化状態を保って透明に分散させ、更にその飲料が果汁を含む場合でも乳化状態を損なうことなく、安定的かつ透明に分散させる技術手段として、ガティガム及び/又はアラビアガムを含有し、乳化粒子の平均粒子径が0.4μm以下である乳化香料組成物とすることにより、アルコール濃度が30~60v/v%のアルコール含有組成物中に、当該乳化香料組成物を安定的かつ透明に分散させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シロップにおいて、配合成分の沈殿、凝集又は分離が生じてしまうと、均一なアルコール飲料を製造するのが困難となるため、これらを抑制する手段が望まれる。特許文献1は、高濃度のアルコールに対して安定な乳化香料組成物を開示するものである。しかし、アルコール飲料中には、香料以外にも多種多様な成分(例えば、混濁果汁等)が配合されることがあり、その場合でも配合成分の沈殿、凝集又は分離を抑制することが求められる。
【0006】
そこで、本発明は、濃縮液(シロップ)のアルコール安定性に優れるアルコール飲料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、シロップを希釈して得られるアルコール飲料に含まれる粒子のメディアン径が所定の範囲内にあると、シロップの配合成分の沈殿、凝集又は分離が抑制され、アルコール安定性に優れることを知見した。本発明は、この知見に基づくものである。
【0008】
本発明は、アルコール飲料であって、上記アルコール飲料に含まれる粒子のメディアン径が0.2nm以上1.0nm以下である、アルコール飲料に関する。本発明に係るアルコール飲料は、それに含まれる粒子のメディアン径が所定の範囲内に調整されているため、その濃縮液(シロップ)はアルコール安定性に優れたものとなる。
【0009】
上記アルコール飲料は、混濁果汁を含有し、上記混濁果汁の含有量が、0.1w/v%以上5.0w/v%以下であってもよい。混濁果汁は、沈殿、凝集又は分離を生じ易い配合成分であるが、本発明に係るアルコール飲料は、メディアン径が所定の範囲内に調整されているため、混濁果汁を含む場合であってもその濃縮液(シロップ)はアルコール安定性に優れたものとなる。
【0010】
上記アルコール飲料は、メディアン径が、0.4nm以上0.6nm以下であってもよい。メディアン径がこの範囲内にあると、上述したアルコール安定性に加え、アルコール飲料が、官能特性(「ボディー感」、「心地よい余韻」、「スムース」及び「飲料としての総合評価」)にも優れたものとなる。
【0011】
上記アルコール飲料は、pHが2.8以上4.0以下であってもよい。pHがこの範囲内にあると、上述したアルコール安定性に加え、官能特性(「ボディー感」、「心地よい余韻」、「スムース」及び「飲料としての総合評価」)にも優れたものとなる。
【0012】
上記アルコール飲料は、乳化香料を含有するものであってよい。
【0013】
本発明はまた、アルコール飲料の製造方法であって、上記アルコール飲料に含まれる粒子のメディアン径を0.2nm以上1.0nm以下の範囲内に調整することを含む、製造方法にも関する。
【0014】
本発明は更に、シロップのアルコール安定性を向上させる方法であって、上記シロップを希釈して得られるアルコール飲料に含まれる粒子のメディアン径が0.2nm以上1.0nm以下の範囲内になるようにシロップを調整することを含む、方法にも関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、濃縮液(シロップ)のアルコール安定性が向上したアルコール飲料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
本実施形態に係るアルコール飲料は、アルコール飲料に含まれる粒子のメディアン径が0.2nm以上1.0nm以下である。
【0018】
本明細書において、「アルコール飲料に含まれる粒子のメディアン径」とは、アルコール飲料を試料とし、ナノ粒子径分布測定装置SALD-7500nano(株式会社島津製作所製)で測定したときのメディアン径を意味する。当該メディアン径に寄与する配合成分は、これに限られるものではないが、例えば、乳化粒子(例えば、乳化香料等)、コロイド粒子(例えば、混濁果汁に含まれる食物繊維等)が挙げられる。
【0019】
本実施形態に係るアルコール飲料は、アルコール飲料に含まれる粒子のメディアン径が所定の範囲内に調整されているため、その濃縮液(シロップ)はアルコール安定性に優れたものとなる。この観点から、本実施形態に係るアルコール飲料は、濃縮液(シロップ)を希釈して得られたものであることが好ましい。濃縮液(シロップ)の希釈は、例えば、シロップに水又は炭酸水を混合することにより行うことができる。希釈倍率に特に制限はないが、通常2倍~6倍程度である。同様に、濃縮液(シロップ)の濃縮率は、通常2倍~6倍程度である。また、本発明では、シロップのアルコール安定性が優れているため、更に高度に濃縮したシロップを調製することができる。この観点から、濃縮液(シロップ)の濃縮率は、例えば、2~10倍程度であってよく、3~9倍程度であってよく、4~8倍程度であってよい。同様に、希釈倍率は、例えば、2~10倍程度であってよく、3~9倍程度であってよく、4~8倍程度であってよい。シロップの濃縮率をより高くすることで、製造コストをより低減することができる。
【0020】
アルコール飲料に含まれる粒子のメディアン径は、例えば、0.25nm以上、0.3nm以上、0.35nm以上、又は0.4nm以上であってよく、0.9nm以下、0.8nm以下、0.7nm以下、0.6nm以下、又は0.5nm以下であってよい。
【0021】
アルコール飲料に含まれる粒子のメディアン径は、例えば、0.4nm以上0.6nm以下であってよく、0.4nm以上0.5nm以下であってもよい。当該メディアン径がこれらの範囲内にあると、上述したアルコール安定性に加え、アルコール飲料が、官能特性(「ボディー感」、「心地よい余韻」、「スムース」及び「飲料としての総合評価」)にも優れたものとなる。
【0022】
アルコール飲料に含まれる粒子のメディアン径は、例えば、配合成分の種類及び使用量を調整することにより、上記範囲に適宜設定することができる。
【0023】
一般的に、平均粒子経は、粒子経分布の一端又は両端に大きくはずれた粒子(極端に粒子経の大きい粒子、又は極端に粒子経の小さい粒子)の影響を大きく受ける。また、アルコール飲料には、例えば、果汁などの様々な粒子経の粒子を含む成分が配合される場合が多い。したがって、平均粒子経を制御しても、必ずしも所望の効果が得られるとは限らない。一方、本実施形態に係るアルコール飲料は、メディアン径を所定の範囲内に制御しているため、その濃縮液(シロップ)のアルコール安定性が優れるという効果を安定して発揮することができる。
【0024】
本実施形態に係るアルコール飲料は、アルコールを含むものである。本実施形態に係るアルコール飲料のアルコール度数は、特に制限されず、例えば、0.1v/v%以上、0.3v/v%以上、0.5v/v%以上、0.7v/v%以上、1v/v%以上、2v/v%以上、3v/v%以上、4v/v%以上、又は5v/v%以上であってよい。また、本実施形態に係るアルコール飲料のアルコール度数は、例えば、20v/v%以下、15v/v%以下、10v/v%以下、9v/v%以下、8v/v%以下、7v/v%以下、6v/v%以下、5v/v%以下、4v/v%以下、3v/v%以下、2v/v%以下、1v/v%以下、0.8v/v%以下、0.6v/v%以下、0.4v/v%以下、又は0.2v/v%以下であってよい。なお、本明細書においてアルコールとは、特に言及しない限りエタノールを意味する。
【0025】
本実施形態に係るアルコール飲料は、混濁果汁を含有するものであってもよい。混濁果汁は、沈殿、凝集又は分離を生じ易い配合成分であるが、本実施形態に係るアルコール飲料は、メディアン径が所定の範囲内に調整されているため、混濁果汁を含む場合であってもその濃縮液(シロップ)はアルコール安定性に優れたものとなる。
【0026】
混濁果汁の原料となる果実に特に制限はなく、例えば、うんしゅうみかん、オレンジ、グレープフルーツ、レモン及びライム等の柑橘類果実、りんご、なし、かき及びびわ等の仁果類果実、もも、うめ及びネクタリン等の核果類果実、ぶどう等のしょう果類果実、並びにパインアップル、バナナ、ライチー及びマンゴー等の熱帯性及び亜熱帯性果実が挙げられる。混濁果汁は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0027】
本実施形態に係るアルコール飲料が混濁果汁を含有する場合、混濁果汁の含有量に特に制限はないが、例えば、0.1w/v%以上9.0w/v%以下であってよく、0.1w/v%以上8.0w/v%以下であってよく、0.1w/v%以上7.0w/v%以下であってよく、0.1w/v%以上6.0w/v%以下であってよく、0.1w/v%以上5.0w/v%以下であってよく、0.1w/v%以上4.0w/v%以下であってよい。混濁果汁の含有量が上記範囲内程度であれば、本発明によるアルコール安定性の効果にほとんど影響を及ぼさない。
【0028】
本実施形態に係るアルコール飲料は、乳化香料を含有するものであってもよい。乳化香料には、様々な乳化状態(粒径)を有するものが市販品として入手可能である。本実施形態に係るアルコール飲料が、乳化香料を含有する場合、乳化香料の種類等を適宜選択することで、アルコール飲料に含まれる粒子のメディアン径の調整をより容易に実施することができる。
【0029】
乳化香料の種類に特に制限はなく、例えば、アルコールフレーバー(例えば、ジンフレーバー等)、ヨーグルトフレーバー、フルーツフレーバー(例えば、レモンフレーバー、梅フレーバー等)等を使用することができる。
【0030】
本実施形態に係るアルコール飲料のpHは特に制限されるものではないが、本発明による効果をより顕著に発揮できることから、2.8以上6.0以下であってよく、2.8以上5.0以下であってよく、2.8以上4.0以下であってよい。特に、本実施形態に係るアルコール飲料のpHが2.8以上4.0以下の範囲内であると、アルコール安定性に加え、官能特性(「ボディー感」、「心地よい余韻」、「スムース」及び「飲料としての総合評価」)にも優れたものとなる。本実施形態に係るアルコール飲料のpHは、pH調節剤(例えば、クエン酸、クエン酸三ナトリウム、リンゴ酸、リン酸等)の添加により調整することができる。
【0031】
本実施形態に係るアルコール飲料は、飲料に通常配合される着色料、甘味料、高甘味度甘味料、酸化防止剤、酸味料、香料(上述した乳化香料以外の香料)、塩類等の添加剤を含んでいてもよい。着色料としては、例えば、カラメル色素、クチナシ色素、果汁色素、野菜色素、合成色素を挙げることができる。甘味料としては、例えば、果糖ぶどう糖液糖、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、ラクトース、スクロース、マルトース、グリコーゲン、デンプンを挙げることができる。高甘味度甘味料としては、例えば、ネオテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、サッカリン、サッカリンナトリウム、グリチルリチン酸二ナトリウム、チクロ、ズルチン、ステビア、グリチルリチン、ソーマチン、モネリン、アスパルテーム、アリテームを挙げることができる。酸化防止剤としては、例えば、ビタミンC、ビタミンE、ポリフェノールを挙げることができる。酸味料としては、例えば、クエン酸、クエン酸三ナトリウム、グルコン酸、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、DL-酒石酸、L-酒石酸、DL-酒石酸ナトリウム、L-酒石酸ナトリウム、乳酸、乳酸ナトリウム、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、DL-リンゴ酸、DL-リンゴ酸ナトリウム、リン酸を挙げることができる。香料としては、例えば、アルコールフレーバー(例えば、ジンフレーバー、ブランデーフレーバー等)、ヨーグルトフレーバー、香辛料フレーバー(例えば、ジンジャーフレーバー等)、フルーツフレーバー(例えば、レモンフレーバー、梅フレーバー等)を挙げることができる。塩類としては、例えば、食塩、酸性りん酸カリウム、酸性りん酸カルシウム、りん酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、メタ重亜硫酸カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硝酸カリウム、硫酸アンモニウムを挙げることができる。
【0032】
本実施形態に係るアルコール飲料は、非発泡性であってもよく、発泡性であってもよい。ここで、非発泡性とは、20℃におけるガス圧が0.049MPa(0.5kg/cm2)未満であることをいい、発泡性とは、20℃におけるガス圧が0.049MPa(0.5kg/cm2)以上であることをいう。発泡性とする場合、ガス圧の上限は0.294MPa(3.0kg/cm2)程度としてもよい。
【0033】
本実施形態に係るアルコール飲料は、例えば、チューハイテイスト飲料であってよい。本明細書において、チューハイテイスト飲料とは、チューハイ、又はチューハイ様の香味を有する飲料を意味する。チューハイテイスト飲料は、フルーツフレーバー、果汁を含有していてもよい。フルーツフレーバー及び果汁の果実種は、例えば、梅、リンゴ、イチゴ、桃等のバラ科果実、レモン、ミカン、グレープフルーツ、オレンジ、ライム、ゆず、かぼす、すだち、シークァーサー等の柑橘類果実、ぶどう果実等が挙げられる。
【0034】
本実施形態に係るアルコール飲料は、容器に入れて、容器入り飲料として提供することができる。容器は密閉できるものであればよく、金属製(アルミニウム製又はスチール製など)のいわゆる缶容器・樽容器を適用することができる。また、容器は、ガラス容器、ペットボトル容器、紙容器、パウチ容器等を適用することもできる。容器の容量は特に限定されるものではなく、現在流通しているどのようなものも適用することができる。なお、気体、水分及び光線を完全に遮断し、長期間常温で安定した品質を保つことが可能な点から、金属製の容器を適用することが好ましい。
【0035】
本実施形態に係るアルコール飲料は、RTD又はRTS(Ready To Serve)の形態であってもよい。RTDは、蓋を開けてそのまま飲用されるものである。RTSは、氷、水、湯等で割ることにより飲用されるものである。
【0036】
本実施形態に係るアルコール飲料の製造方法は、アルコール飲料に含まれる粒子のメディアン径を0.2nm以上1.0nm以下の範囲内に調整すること(メディアン径調整工程)を含む。メディアン径は、例えば、配合成分の種類及び使用量を調整することにより、上記範囲に適宜設定することができる。
【0037】
本実施形態に係る製造方法は、メディアン径調整工程を実施すること以外は、常法に従って実施することができる。一実施形態に係る製造方法は、メディアン径調整工程に加えて、例えば、アルコール(例えば、原料用アルコール、スピリッツ、ウォッカ等の蒸留アルコール)、並びに必要に応じて水、混濁果汁、乳化香料及び/又は各種添加剤を原料タンクに配合し、濃縮液(シロップ)を調製する配合工程と、配合工程で得られた濃縮液(シロップ)と、水又は炭酸水とを混合してアルコール飲料を製造する希釈工程と、を含む製造方法により得ることができる。
【0038】
本実施形態に係る製造方法は、希釈工程において得たアルコール飲料をろ過するろ過工程と、ろ過工程でろ過したろ過液を殺菌する第一の殺菌工程と、第一の殺菌工程で殺菌した殺菌済みのろ過液をビン、缶、ビン、ペットボトル等の容器に充填する充填工程と、充填工程で容器に充填されたろ過液を容器ごと殺菌する第二の殺菌工程と、を更に含んでいてもよい。
【0039】
配合工程は、各成分がよく混ざるよう、撹拌機等により撹拌しながら混合してもよい。また、ろ過工程は、一般的なフィルター又はストレーナーによって行うことができる。第一の殺菌工程は、処理速度等の観点から、プレート殺菌によって行ってもよく、同様の処理を行うことができるのであれば、これに限定されることなく適用可能である。充填工程は、飲料の製造において通常行われる程度にクリーン度を保ったクリーンルームにて充填してもよい。第二の殺菌工程は、所定の温度及び所定の時間でろ過液を容器ごと加熱することにより行うことができる。第二の殺菌工程を行わない無殺菌充填を行うことも可能である。
【0040】
配合工程で調製する濃縮液(シロップ)は、濃縮率をより高くすることで、製造コストをより低減することができる。一般に、アルコール飲料の濃縮液(シロップ)は、濃縮率をより高くすることで、アルコールを高濃度で含むことになるため、他の配合成分の沈殿、凝集又は分離が生じ易くなる。一方、本発明では、濃縮液(シロップ)のアルコール安定性に優れているため、配合成分の沈殿、凝集又は分離の問題を生じることなく、濃縮率をより高くすることができる。一態様において、本実施形態に係る濃縮液(シロップ)のアルコール度数は、例えば、25v/v%以上であってよく、26v/v%以上であってよく、27v/v%以上であってよく、28v/v%以上であってよく、29v/v%以上であってよく、30v/v%以上であってよく、また例えば、40v/v%以下であってよく、35v/v%以下であってよい。また、本実施形態に係る製造方法では、このように濃縮率の高いシロップを調製することができるため、製造コストをより低減することもできる。
【0041】
本実施形態に係るシロップのアルコール安定性を向上させる方法は、シロップを希釈して得られるアルコール飲料に含まれる粒子のメディアン径が0.2nm以上1.0nm以下の範囲内になるようにシロップを調整することを含む。メディアン径は、例えば、配合成分の種類及び使用量を調整することにより、上記範囲に適宜設定することができる。
【0042】
なお、アルコール安定性とは、例えば、冷蔵(4℃)の状態で一晩静置したときに、沈殿、凝集及び分離がなく、一様に分散している状態を保っていることをいう。
【実施例0043】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0044】
〔試験例1:アルコール飲料の製造及び評価〕
(シロップの製造)
酸味料(クエン酸無水物及びクエン酸三ナトリウム)1.96重量部、L-アスコルビン酸ナトリウム0.48重量部、濃縮レモン果汁(混濁果汁,Brix40)1.70重量部、果糖ぶどう糖液糖28.60重量部、及びウォッカ(アルコール度数65.5v/v%)46.85重量部、及び水(残部)を混合し、4倍濃縮のシロップ(アルコール度数30v/v%)を製造した。その際、クエン酸無水物及びクエン酸三ナトリウムの量を調整することでpHを調整した。なお、香料(レモンフレーバー)として、非乳化香料、並びに乳化状態の異なる乳化香料をそれぞれ使用することで、複数種類のシロップを得た。
【0045】
(アルコール安定性の評価)
上記で得たシロップを冷蔵(4℃)の状態で一晩静置した。その後、目視により、アルコール安定性を評価した。評価基準は以下のとおりである。
○:沈殿、凝集及び分離がなく、一様に分散している。
×:沈殿、凝集又は分離がある。
結果を表1~3に示す。
【0046】
(アルコール飲料の調製)
上記で得た各シロップをそれぞれ炭酸水で4倍に希釈して(シロップのアルコール度数30v/v%)、各アルコール飲料(アルコール度数7.5v/v%)を調製した。
【0047】
(メディアン径の測定)
調製したアルコール飲料を試料とし、試料中に含まれる全粒子のメディアン径をナノ粒子径分布測定装置SALD-7500nano(株式会社島津製作所製)を使用して測定した。結果を表1~3に示す。なお、シロップを希釈して得たアルコール飲料に含まれる粒子のメディアン径は、炭酸水で希釈しただけであるので、シロップに含まれる粒子のメディアン径と同視することができる。
【0048】
(pHの測定)
調製したアルコール飲料のpHをpHメーターを使用して測定した。結果を表1~3に示す。
【0049】
(官能評価)
調製したアルコール飲料に対して、「ボディー感」、「心地よい余韻」、「スムース」及び「飲料としての総合評価」の評価項目について官能評価を実施した。官能評価は、選抜された識別能力のあるパネル4名により実施した。いずれの評価項目も評点1~5の5段階で評価し、その平均値を評価スコアとした。
【0050】
「ボディー感」は、レモン本来の果汁感や厚みを感じる感覚であり、評点が高いほどこれを強く感じることを示す。「心地よい余韻」は、飲用後に口内に心地よく残る味わいを感じる感覚であり、評点が高いほどこれを強く感じることを示す。「スムース」は、飲み口の滑らかさや丸みを感じる感覚であり、評点が高いほどこれを強く感じることを示す。「飲料としての総合評価」は、飲料としての香味バランスであり、評点が高いほどこれが良いことを示す。なお、「ボディー感」、「心地よい余韻」及び「スムース」の評価項目は、試験例1-1のアルコール飲料の評点をいずれも1点として固定し、これを基準として他のアルコール飲料を評価した。結果を表1~3に示す。
【0051】
【0052】
メディアン径が0.2nm以上1.0nm以下の範囲内にあるアルコール飲料は、アルコール安定性に優れていた(表1及び表2参照)。また、メディアン径が0.4nm以上0.6nm以下の範囲内にあるアルコール飲料は、アルコール安定性が優れることに加え、「ボディー感」、「心地よい余韻」、「スムース」及び「飲料としての総合評価」の評価スコアが高く、飲料としての完成度が高かった(表2参照)。また、メディアン径が上記範囲内にあるアルコール飲料は、pHが2.99~4.40の範囲で変動してもアルコール安定性に影響がなかった(表3参照)。特に、メディアン径が上記範囲内にあり、かつpHが2.8~4.0以下の範囲内にあるアルコール飲料は、アルコール安定性が優れることに加え、「ボディー感」、「心地よい余韻」、「スムース」及び「飲料としての総合評価」の評価スコアが高く、飲料としての完成度が高かった(表3参照)。
【0053】
〔試験例2:アルコール飲料の製造及び評価〕
濃縮レモン果汁(混濁果汁,Brix40)及び水の混合量を変更した(4倍希釈したアルコール飲料の段階で、果汁含有量が0.1w/v%、又は1w/v%となるように調整)こと以外は、試験例1と同様にシロップ及びアルコール飲料を製造した。また、試験例1と同様にアルコール安定性の評価、メディアン径の測定、及びpHの測定を実施した。結果を表4に示す。
【0054】
【0055】
混濁果汁の含有量を変更した場合でも、メディアン径が0.2nm以上1.0nm以下の範囲内にあるアルコール飲料は、アルコール安定性に優れていた(表4参照)。