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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022138949
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】チェーンテンショナ
(51)【国際特許分類】
   F16H 7/08 20060101AFI20220915BHJP
   F02B 67/06 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
F16H7/08 B
F02B67/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021039126
(22)【出願日】2021-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】鬼丸 好一
【テーマコード(参考)】
3J049
【Fターム(参考)】
3J049AA08
3J049AB03
3J049BB02
3J049BB13
3J049BB23
3J049BB26
3J049BB35
3J049BH01
3J049CA02
3J049CA03
(57)【要約】
【課題】安定した大きさのダンパ力を得ることが可能なチェーンテンショナを提供する。
【解決手段】チェックバルブ17のバルブシート22は、インナースリーブ16とは別体の部材であり、バルブシート22の外周には、プランジャ10の内周に軸方向に摺動可能に嵌合する嵌合円筒面26が形成され、嵌合円筒面26とプランジャ10の内周との間にリーク隙間27が形成され、バルブシート22は、インナースリーブ16に対する相対移動を許容するようにインナースリーブ16のプランジャ10内への挿入端で支持されていることを特徴とするチェーンテンショナ。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向の一端を閉塞端とし、軸方向の他端を開口端とするシリンダ(9)と、
前記シリンダ(9)に軸方向に摺動可能に挿入され、前記シリンダ(9)内への挿入端が開口し、前記シリンダ(9)からの突出端が閉塞した筒状のプランジャ(10)と、
軸方向の一端が前記プランジャ(10)内に挿入され、軸方向の他端が前記プランジャ(10)から突出した状態となるように前記プランジャ(10)に挿入され、前記プランジャ(10)からの突出端が前記シリンダ(9)の閉塞端で支持されたインナースリーブ(16)と、
前記インナースリーブ(16)と前記プランジャ(10)の内部領域を、前記インナースリーブ(16)の側のリザーバ室(18)と前記プランジャ(10)の側の圧力室(19)とに区画し、前記リザーバ室(18)の側から前記圧力室(19)の側へのオイルの流れのみを許容するチェックバルブ(17)と、
前記シリンダ(9)の外部から供給されるオイルを前記リザーバ室(18)に導入する給油通路(30)と、
前記プランジャ(10)を前記シリンダ(9)から突出する方向に付勢するリターンスプリング(20)と、を有し、
前記チェックバルブ(17)は、前記圧力室(19)と前記リザーバ室(18)の間を連通する弁孔(21)が形成されたバルブシート(22)と、前記弁孔(21)の圧力室(19)の側の端部を開閉する弁体(23)とを有するチェーンテンショナにおいて、
前記バルブシート(22)は、前記インナースリーブ(16)とは別体の部材であり、
前記バルブシート(22)の外周には、前記プランジャ(10)の内周に軸方向に摺動可能に嵌合する嵌合円筒面(26)が形成され、
前記嵌合円筒面(26)と前記プランジャ(10)の内周との間に、前記圧力室(19)からオイルをリークさせる円筒状のリーク隙間(27)が形成され、
前記バルブシート(22)は、前記インナースリーブ(16)に対する相対移動を許容するように前記インナースリーブ(16)の前記プランジャ(10)内への挿入端で支持されている、ことを特徴とするチェーンテンショナ。
【請求項2】
前記バルブシート(22)は、前記インナースリーブ(16)に対する径方向の移動を許容するように前記インナースリーブ(16)の外周に径方向隙間(35)をもって嵌合する円筒部(36)と、前記インナースリーブ(16)の前記プランジャ(10)内への挿入端で軸方向に支持されるシート本体部(37)と、を有する請求項1に記載のチェーンテンショナ。
【請求項3】
前記バルブシート(22)は、前記インナースリーブ(16)に対する傾動を許容するように、前記インナースリーブ(16)の前記プランジャ(10)内への挿入端に形成された環状の部分球面(42)で摺動可能に支持されている請求項1または2に記載のチェーンテンショナ。
【請求項4】
前記バルブシート(22)は、前記インナースリーブ(16)に対する傾動を許容するように、前記インナースリーブ(16)の前記プランジャ(10)内への挿入端に形成された環状のテーパ面(46)で摺動可能に支持される断面凸円弧状の環状の被支持面(45)を有する請求項1または2に記載のチェーンテンショナ。
【請求項5】
前記インナースリーブ(16)に、前記圧力室(19)から前記リーク隙間(27)を通ってリークしたオイルを前記リザーバ室(18)に戻す通油路(33)が形成されている請求項1から4のいずれかに記載のチェーンテンショナ。
【請求項6】
前記シリンダ(9)には、前記プランジャ(10)の前記シリンダ(9)内への挿入端よりも前記シリンダ(9)の閉塞端に近い側において前記シリンダ(9)の内周と前記インナースリーブ(16)の外周とで半径方向に挟まれる筒状空間(32)から、前記シリンダ(9)の外部に連通するエア抜き通路(47)が設けられている請求項5に記載のチェーンテンショナ。
【請求項7】
前記エア抜き通路(47)は、前記シリンダ(9)の外周から内周に貫通して形成されたねじ穴(48)と、そのねじ穴(48)にねじ込まれた雄ねじ部材(49)との間に形成されたねじ隙間である請求項6に記載のチェーンテンショナ。
【請求項8】
前記インナースリーブ(16)の前記プランジャ(10)からの突出端には、前記シリンダ(9)の閉塞端に軸方向に当接するフランジ部(38)が形成され、
前記シリンダ(9)の閉塞端に回り止め突起(50)が設けられ、
前記フランジ部(38)には、前記回り止め突起(50)と係合することで、前記通油路(33)が上側にくるように前記インナースリーブ(16)と前記シリンダ(9)の相対位置を周方向に位置決めする切り欠き(51)が形成されている請求項5から7のいずれかに記載のチェーンテンショナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、チェーンの張力保持に用いられるチェーンテンショナに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等のエンジンに使用されるチェーン伝動装置として、例えば、クランクシャフトの回転をカムシャフトに伝達するものや、クランクシャフトの回転をオイルポンプやウォーターポンプやスーパーチャージャー等の補機に伝達するものや、クランクシャフトの回転をバランサシャフトに伝達するものや、ツインカムエンジンの吸気カムと排気カムを互いに連結するものなどがある。これらのチェーン伝動装置のチェーンの張力を適正範囲に保つために、チェーンテンショナが使用される。
【0003】
このような用途に使用されるチェーンテンショナとして、本願の発明者は、既に特許文献1に記載のものを提案している。特許文献1のチェーンテンショナは、シリンダと、そのシリンダに軸方向に摺動可能に挿入された筒状のプランジャと、そのプランジャに挿入されたインナースリーブとを有する。
【0004】
シリンダは、軸方向の一端を閉塞端とし、軸方向の他端を開口端とする筒状の部材である。プランジャは、シリンダ内への挿入端が開口し、シリンダからの突出端が閉塞した筒状の部材である。インナースリーブは、軸方向の一端がプランジャ内に挿入され、軸方向の他端がプランジャから突出した状態となるように前記プランジャ内に挿入され、そのインナースリーブのプランジャからの突出端が、シリンダの閉塞端で支持されている。インナースリーブの外周とプランジャの内周とは、軸方向に摺動可能に嵌合している。インナースリーブのプランジャ内への挿入端と、プランジャとの間には、プランジャをシリンダから突出する方向に付勢するリターンスプリングが組み込まれている。
【0005】
また、特許文献1のチェーンテンショナにおいて、インナースリーブのプランジャ内への挿入端に、チェックバルブが設けられている。チェックバルブは、インナースリーブとプランジャの内部領域を、インナースリーブの側のリザーバ室とプランジャの側の圧力室とに区画している。チェックバルブは、リザーバ室の側から圧力室の側へのオイルの流れのみを許容するように構成されている。シリンダには、シリンダの外部から供給されるオイルをリザーバ室に導入する給油通路が形成されている。インナースリーブの外周とプランジャの内周との間に、圧力室からオイルをリークさせる円筒状のリーク隙間が形成されている。
【0006】
ここで、チェックバルブは、圧力室とリザーバ室の間を連通する弁孔が形成されたバルブシートと、弁孔の圧力室の側の端部を開閉する弁体とを有する。バルブシートは、インナースリーブのプランジャへの挿入端に、インナースリーブと継ぎ目の無い一体に形成されている。
【0007】
この特許文献1のチェーンテンショナは、エンジン作動中にチェーンの張力が大きくなると、そのチェーンの張力によって、プランジャがシリンダ内に押し込まれる方向(以下、「押し込み方向」という)に移動し、チェーンの緊張を吸収する。このとき、圧力室からリーク隙間を通って流出するオイルの粘性抵抗によってダンパ力が発生するので、プランジャはゆっくりと移動する。
【0008】
一方、エンジン作動中にチェーンの張力が小さくなると、リターンスプリングの付勢力と圧力室の油圧とによって、プランジャがシリンダから突出する方向(以下、「突出方向」という)に移動し、チェーンの弛みを吸収する。このとき、チェックバルブが開き、リザーバ室から圧力室内にオイルが流入するので、プランジャは速やかに移動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2019-152285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、特許文献1のチェーンテンショナにおいて、プランジャが押し込み方向に移動するとき、圧力室のオイルがリーク隙間を通ってリザーバ室に流出し、このときリーク隙間を流れるオイルの粘性抵抗によってダンパ力が発生する。このダンパ力の大きさは、インナースリーブの外周とプランジャの内周との間に形成される円筒状のリーク隙間の寸法を管理することで、所望の大きさに調整することができる。
【0011】
しかしながら、本願の発明者が、社内において、特許文献1のチェーンテンショナを試作評価したところ、ダンパ力の大きさが安定せず、予定した大きさのダンパ力が得られない場合があることが分かった。
【0012】
そこで、発明者が、ダンパ力の大きさが安定しない原因を調査したところ、プランジャに対するインナースリーブの位置精度に起因して、リーク隙間の大きさが不均一となり、その結果、ダンパ力の大きさが不安定となるおそれがあることが判明した。
【0013】
例えば、特許文献1の図1のように、インナースリーブのプランジャからの突出端を、シリンダの閉塞端に形成されたスリーブ嵌合凹部に圧入して支持する場合、スリーブ嵌合凹部の中心と、シリンダの内周面の中心との同心度が低いと、スリーブ嵌合凹部に圧入されたインナースリーブの軸心とシリンダに挿入されたプランジャの軸心との間にずれが生じるので、インナースリーブの外周とプランジャの内周との間に形成される円筒状のリーク隙間の大きさが周方向で不均一となり、その結果、予定した大きさのダンパ力が得られなくなる。
【0014】
また、例えば、特許文献1の図6のように、インナースリーブのプランジャからの突出端が、シリンダの閉塞端の内面に軸方向に当接して支持される場合、シリンダの閉塞端の内面の平面度や軸方向に対する直角度が低いと、シリンダの閉塞端の内面で支持されたインナースリーブの軸心方向が、プランジャの軸心方向に対して傾くので、インナースリーブの外周とプランジャの内周との間に形成される円筒状のリーク隙間の大きさが軸方向で不均一となり、その結果、予定した大きさのダンパ力が得られなくなる。
【0015】
また、例えば、チェーンの側からプランジャにモーメント荷重が作用し、そのモーメント荷重によってプランジャに傾きが生じた場合にも、インナースリーブの外周とプランジャの内周との間に形成される円筒状のリーク隙間の大きさが軸方向で不均一となり、その結果、予定した大きさのダンパ力が得られなくなる。さらにこの場合、インナースリーブの外周とプランジャの内周との間にかじり(局所的な溶着)が生じるおそれもある。
【0016】
この発明が解決しようとする課題は、安定した大きさのダンパ力を得ることが可能なチェーンテンショナを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するため、この発明では、以下の構成のチェーンテンショナを提供する。
軸方向の一端を閉塞端とし、軸方向の他端を開口端とするシリンダと、
前記シリンダに軸方向に摺動可能に挿入され、前記シリンダ内への挿入端が開口し、前記シリンダからの突出端が閉塞した筒状のプランジャと、
軸方向の一端が前記プランジャ内に挿入され、軸方向の他端が前記プランジャから突出した状態となるように前記プランジャに挿入され、前記プランジャからの突出端が前記シリンダの閉塞端で支持されたインナースリーブと、
前記インナースリーブと前記プランジャの内部領域を、前記インナースリーブの側のリザーバ室と前記プランジャの側の圧力室とに区画し、前記リザーバ室の側から前記圧力室の側へのオイルの流れのみを許容するチェックバルブと、
前記シリンダの外部から供給されるオイルを前記リザーバ室に導入する給油通路と、
前記プランジャを前記シリンダから突出する方向に付勢するリターンスプリングと、を有し、
前記チェックバルブは、前記圧力室と前記リザーバ室の間を連通する弁孔が形成されたバルブシートと、前記弁孔の圧力室の側の端部を開閉する弁体とを有するチェーンテンショナにおいて、
前記バルブシートは、前記インナースリーブとは別体の部材であり、
前記バルブシートの外周には、前記プランジャの内周に軸方向に摺動可能に嵌合する嵌合円筒面が形成され、
前記嵌合円筒面と前記プランジャの内周との間に、前記圧力室からオイルをリークさせる円筒状のリーク隙間が形成され、
前記バルブシートは、前記インナースリーブに対する相対移動を許容するように前記インナースリーブの前記プランジャ内への挿入端で支持されている、ことを特徴とするチェーンテンショナ。
【0018】
このようにすると、バルブシートが、インナースリーブに対する相対移動を許容するように支持され、そのバルブシートの外周に、リーク隙間を形成するための嵌合円筒面が形成されているので、プランジャに対するインナースリーブの位置精度が低い場合にも、バルブシートがインナースリーブに対して相対移動することで、バルブシートの外周の嵌合円筒面とプランジャの内周との間のリーク隙間の大きさを均一化することが可能である。そのため、安定したダンパ力を得ることができる。
【0019】
前記バルブシートは、前記インナースリーブに対する径方向の移動を許容するように前記インナースリーブの外周に径方向隙間をもって嵌合する円筒部と、前記インナースリーブの前記プランジャ内への挿入端で軸方向に支持されるシート本体部と、を有する構成を採用すると好ましい。
【0020】
このようにすると、バルブシートの円筒部とインナースリーブの外周との間に設けた径方向隙間の範囲で、バルブシートがインナースリーブに対して径方向に移動可能なので、インナースリーブの軸心と、シリンダに挿入されたプランジャの軸心との間にずれがある場合にも、そのずれに応じてバルブシートがインナースリーブに対して径方向に移動し、バルブシートの外周の嵌合円筒面とプランジャの内周との間のリーク隙間の大きさを、径方向で均一化することができる。そのため、安定したダンパ力を得ることが可能である。
【0021】
前記バルブシートは、前記インナースリーブに対する傾動を許容するように、前記インナースリーブの前記プランジャ内への挿入端に形成された環状の部分球面で摺動可能に支持されている構成を採用すると好ましい。
【0022】
このようにすると、バルブシートがインナースリーブのプランジャ内への挿入端の部分球面で傾動可能に支持されているので、インナースリーブの軸心方向が、シリンダに挿入されたプランジャの軸心方向に対して傾いている場合にも、その傾きに応じてバルブシートがインナースリーブに対して傾動し、バルブシートの外周の嵌合円筒面とプランジャの内周との間のリーク隙間の大きさを、軸方向で均一化することができる。そのため、安定したダンパ力を得ることが可能である。
【0023】
また、前記バルブシートは、前記インナースリーブに対する傾動を許容するように、前記インナースリーブの前記プランジャ内への挿入端に形成された環状のテーパ面で摺動可能に支持される断面凸円弧状の環状の被支持面を有する構成を採用することもできる。
【0024】
このようにすると、バルブシートがインナースリーブに対して傾動可能なので、インナースリーブの軸心方向が、シリンダに挿入されたプランジャの軸心方向に対して傾いている場合にも、その傾きに応じてバルブシートがインナースリーブに対して傾動し、バルブシートの外周の嵌合円筒面とプランジャの内周との間のリーク隙間の大きさを、軸方向で均一化することができる。そのため、安定したダンパ力を得ることが可能である。
【0025】
前記インナースリーブに、前記圧力室から前記リーク隙間を通ってリークしたオイルを前記リザーバ室に戻す通油路を形成すると好ましい。
【0026】
このようにすると、プランジャが押し込み方向に移動するときに、圧力室からリーク隙間を通ってオイルがリークし、このとき圧力室からリークしたオイルの一部が通油路を通ってリザーバ室に戻る。そのため、チェーンテンショナから外部に排出されるオイルの量を低減することができ、チェーンテンショナでのオイル消費量を抑えることが可能となる。
【0027】
この場合、前記シリンダには、前記プランジャの前記シリンダ内への挿入端よりも前記シリンダの閉塞端に近い側において前記シリンダの内周と前記インナースリーブの外周とで半径方向に挟まれる筒状空間から、前記シリンダの外部に連通するエア抜き通路を設けると好ましい。
【0028】
このようにすると、シリンダの内周とインナースリーブの外周とで半径方向に挟まれる筒状空間に存在するエアが、エア抜き通路を通ってシリンダの外部に排出されるので、筒状空間にエアが滞留しにくい。そのため、筒状空間に存在するエアが、インナースリーブに形成された通油路を通ってリザーバ室に混入するのを防止することができ、安定したダンパ力を得ることが可能となる。
【0029】
前記エア抜き通路は、前記シリンダの外周から内周に貫通して形成されたねじ穴と、そのねじ穴にねじ込まれた雄ねじ部材との間に形成されたねじ隙間を採用することができる。
【0030】
前記インナースリーブの前記プランジャからの突出端には、前記シリンダの閉塞端に軸方向に当接するフランジ部が形成され、
前記シリンダの閉塞端に回り止め突起が設けられ、
前記フランジ部には、前記回り止め突起と係合することで、前記通油路が上側にくるように前記インナースリーブと前記シリンダの相対位置を周方向に位置決めする切り欠きが形成されている構成を採用すると好ましい。
【0031】
このようにすると、インナースリーブのフランジ部に形成された切り欠きと、シリンダの閉塞端に設けられた回り止め突起との係合により、通油路が上側にくるようにインナースリーブがシリンダに対して周方向に位置決めされるので、リザーバ室に存在するエアを、通油路を通って円滑に排出することが可能となる。
【発明の効果】
【0032】
この発明のチェーンテンショナは、プランジャに対するインナースリーブの位置精度が低い場合にも、バルブシートがインナースリーブに対して相対移動することで、バルブシートの外周の嵌合円筒面とプランジャの内周との間のリーク隙間の大きさを均一化することが可能である。そのため、安定したダンパ力を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】この発明の第1実施形態のチェーンテンショナを組み込んだチェーン伝動装置を示す図
図2図1のチェーンテンショナ近傍の拡大断面図
図3図2のチェックバルブ近傍の拡大断面図
図4図2のインナースリーブの変形例を示す断面図
図5図2の給油通路の変形例を示す断面図
図6図2のチェーンテンショナにアシストスプリングを追加した変形例を示す断面図
図7】この発明の第2実施形態のチェーンテンショナを示す要部断面図
図8図7のチェックバルブ近傍の拡大断面図
図9図8に示す円筒部の長さを異ならせたバルブシートを示すチェックバルブ近傍の拡大断面図
図10図8のバルブシートの変形例を示す断面図
図11】この発明の第3実施形態のチェーンテンショナのバルブシートの近傍を示す断面図
図12図2に示すシリンダにエア抜き通路を設けた変形例を示す断面図
図13図5に示すシリンダにエア抜き通路を設けた変形例を示す断面図
図14図4に示すインナースリーブを周方向に位置決めする回り止め突起を設けた変形例を示す断面図
図15図14のXV-XV線に沿った断面図
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1に、この発明の第1実施形態のチェーンテンショナ1を組み込んだチェーン伝動装置を示す。このチェーン伝動装置は、エンジンのクランクシャフト2に固定されたスプロケット3と、カムシャフト4に固定されたスプロケット5とがチェーン6を介して連結されており、そのチェーン6がクランクシャフト2の回転をカムシャフト4に伝達し、そのカムシャフト4の回転により燃焼室のバルブ(図示せず)の開閉を行なう。
【0035】
エンジンが作動しているときのクランクシャフト2の回転方向は一定(図では右回転)であり、このときチェーン6は、クランクシャフト2の回転に伴ってスプロケット3に引き込まれる側(図の右側)の部分が張り側となり、スプロケット3から送り出される側(図の左側)の部分が弛み側となる。そして、チェーン6の弛み側の部分には、支点軸7を中心として揺動可能に支持されたチェーンガイド8が接触している。チェーンテンショナ1は、チェーンガイド8を介してチェーン6を押圧している。
【0036】
図2に示すように、チェーンテンショナ1は、軸方向の一端を閉塞端とし、軸方向の他端を開口端とする筒状のシリンダ9と、シリンダ9に軸方向に摺動可能に挿入されたプランジャ10とを有する。プランジャ10のシリンダ9からの突出端はチェーンガイド8を押圧している。
【0037】
シリンダ9は、アルミ合金で一体成形されている。シリンダ9は、シリンダ9の外周に一体に形成された複数の取り付け片11にボルト12(図1参照)を締め込むことによって、エンジンブロック13(図15参照)に固定されている。ここで、シリンダ9は、プランジャ10のシリンダ9からの突出方向が、水平よりも下側に傾斜する方向となる状態に取り付けられている。シリンダ9の外周には、シリンダ9の軸心と平行な平面状の座面14(図15参照)が形成され、その座面14が、上下に延びるエンジン壁面15(図15参照)に突き合わせられている。エンジン壁面15は、エンジンブロック13の側面である。
【0038】
図2に示すように、プランジャ10は、プランジャ10のシリンダ9内への挿入端が開口し、プランジャ10のシリンダ9からの突出端が閉塞した筒状に形成されている。プランジャ10の材質は、鉄系材料(例えばSCM(クロムモリブデン鋼)やSCr(クロム鋼)等の鋼材)である。
【0039】
プランジャ10には、軸方向の一端がプランジャ10内に挿入され、軸方向の他端がプランジャ10から突出した状態となるようにインナースリーブ16が挿入されている。インナースリーブ16は、軸方向の両端がいずれも開放した筒状の部材である。インナースリーブ16は、プランジャ10と同様、鉄系材料(例えばSCr材やSCM材)で形成されている。インナースリーブ16のプランジャ10からの突出端は、シリンダ9の閉塞端で支持されている。
【0040】
インナースリーブ16のプランジャ10内への挿入端には、チェックバルブ17が取り付けられている。チェックバルブ17は、インナースリーブ16とプランジャ10の内部領域を、インナースリーブ16の側のリザーバ室18とプランジャ10の側の圧力室19とに区画している。ここで、リザーバ室18の容積は、プランジャ10が軸方向移動しても変化せず、一定である。一方、圧力室19の容積は、プランジャ10がシリンダ9から突出する方向に軸方向移動するときは拡大し、プランジャ10がシリンダ9に押し込まれる方向に軸方向移動するときは縮小する。
【0041】
圧力室19には、リターンスプリング20が組み込まれている。リターンスプリング20は、金属製の線材を螺旋状に巻回した圧縮コイルばねである。リターンスプリング20は、一端がチェックバルブ17で支持され、他端がプランジャ10を軸方向に押圧し、その押圧によって、プランジャ10をシリンダ9から突出する方向に付勢している。
【0042】
図3に示すように、チェックバルブ17は、弁孔21が形成されたバルブシート22と、弁孔21の圧力室19の側の端部を開閉する球状の弁体23と、弁体23を開弁位置から閉弁位置に向けて付勢するバルブスプリング24と、弁体23の移動範囲を規制するリテーナ25とを有する。弁孔21は、圧力室19とリザーバ室18の間を連通するようにバルブシート22に形成された軸方向の貫通孔である。チェックバルブ17は、圧力室19の側からリザーバ室18の側へのオイルの流れを制限し、リザーバ室18の側から圧力室19の側へのオイルの流れのみを許容する。
【0043】
バルブシート22の外周には、プランジャ10の内周に軸方向に摺動可能に嵌合する嵌合円筒面26が形成されている。嵌合円筒面26は、軸方向に沿って外径が変化せず一定の円筒面である。プランジャ10の内周も、軸方向に沿って内径が変化せず一定の円筒面とされている。嵌合円筒面26とプランジャ10の内周との間には、圧力室19の容積が縮小するときに圧力室19からオイルをリークさせるリーク隙間27が形成されている。リーク隙間27は、半径方向の幅が0.010~0.050mmの範囲に設定された円筒状の微小隙間である。
【0044】
図2に示すように、プランジャ10のシリンダ9内への挿入部分の外周は、軸方向に沿って外径が変化せず一定の円筒面とされている。シリンダ9の内周の、プランジャ10の外周を軸方向に摺動可能に支持する部分も、軸方向に沿って内径が変化せず一定の円筒面とされている。シリンダ9の内周とプランジャ10の外周との間には、円筒状のガイド隙間28が形成されている。ガイド隙間28の半径方向の幅は、リーク隙間27の半径方向の幅よりも大きく設定され、例えば、0.015~0.065mmの範囲に設定することができる。
【0045】
シリンダ9およびインナースリーブ16には、シリンダ9の外部から供給されるオイルをリザーバ室18に導入する給油通路30が設けられている。給油通路30は、シリンダ9の外部から供給されるオイルをシリンダ9の内部に導入するようにシリンダ9に形成されたシリンダ側油路31と、シリンダ9の内周とインナースリーブ16の外周との間に形成される筒状空間32と、インナースリーブ16のプランジャ10からの突出部分に設けられた通油路33とで構成されている。
【0046】
図15に示すように、シリンダ側油路31は、シリンダ9の外周から内周に貫通して形成された孔である。シリンダ側油路31のシリンダ9の外周側の端部は、エンジン壁面15に開口する油孔34に接続するように座面14に開口している。座面14は、エンジン壁面15に対する合わせ面である。油孔34は、オイルポンプ(図示せず)から送り出されるオイルをチェーンテンショナ1に供給する給油用の孔である。
【0047】
図2に示すように、筒状空間32は、プランジャ10のシリンダ9内への挿入端よりもシリンダ9の閉塞端に近い側において、シリンダ9の内周とインナースリーブ16の外周とで半径方向に挟まれる円筒状の領域である。シリンダ側油路31のシリンダ9の内周側の端部は、筒状空間32に接続するように開口している。
【0048】
通油路33は、インナースリーブ16を径方向に貫通して形成された貫通孔である。通油路33は、給油通路30の一部でもあり、圧力室19からリーク隙間27を通って筒状空間32にリークしたオイルを、筒状空間32からリザーバ室18に戻すための油回収孔でもある。
【0049】
図3に示すように、バルブシート22は、インナースリーブ16とは別体の部材である。バルブシート22は、リターンスプリング20の付勢力によってインナースリーブ16に押し付けられている。バルブシート22は、インナースリーブ16に対する径方向の相対移動を許容するように、インナースリーブ16のプランジャ10内への挿入端で支持されている。具体的には、バルブシート22は、インナースリーブ16に対する径方向の移動を許容するようにインナースリーブ16の外周に径方向隙間35をもって嵌合する円筒部36と、インナースリーブ16のプランジャ10内への挿入端で軸方向に支持されるシート本体部37とを有する。シート本体部37のインナースリーブ16に対する接触面は、軸方向に直角な平面とされている。
【0050】
次に、このチェーンテンショナ1の動作例を説明する。
【0051】
エンジン作動中に、図1に示すチェーン6の張力が大きくなると、そのチェーン6の張力によって、プランジャ10がシリンダ9内に押し込まれる方向に移動し、チェーン6の緊張を吸収する。このとき、図2に示す圧力室19の圧力がリザーバ室18の圧力よりも高くなるので、チェックバルブ17は閉じた状態となる。また、プランジャ10の移動に応じて圧力室19の容積が縮小するので、その縮小した容積の分、圧力室19からリーク隙間27を通ってオイルがリークし、このときリーク隙間27を流れるオイルの粘性抵抗でダンパ力が発生し、そのダンパ力によってチェーン6のばたつきが防止される。そして、圧力室19からリーク隙間27を通って筒状空間32にリークしたオイルの大部分は、通油路33を通ってリザーバ室18に戻る。また、圧力室19からリーク隙間27を通って筒状空間32にリークしたオイルの一部は、ガイド隙間28を潤滑する。
【0052】
一方、エンジン作動中に、図1に示すチェーン6の張力が小さくなると、図2に示すリターンスプリング20の付勢力と圧力室19の油圧とによって、プランジャ10が突出方向に移動し、チェーン6の弛みを吸収する。このとき、プランジャ10の移動に応じて圧力室19の容積が拡大するので、圧力室19の圧力がリザーバ室18の圧力よりも低くなり、チェックバルブ17が開く。そして、リザーバ室18からチェックバルブ17を通って圧力室19にオイルが流入し、プランジャ10が速やかに移動する。このとき、シリンダ9の外部の油孔34(図15参照)から給油通路30を通ってリザーバ室18にオイルが導入される。
【0053】
エンジンが停止し、その後、エンジンが再始動するとき、一般に油孔34(図15参照)内のオイルの油面はいったん下がった状態となっていることから、油孔34からチェーンテンショナ1へのオイル供給が開始するまでに時間がかかる。この場合、エンジンが再始動してから、油孔34からのオイル供給が開始されるまでの間、リザーバ室18内にあらかじめ溜まったオイルが、チェックバルブ17を通って圧力室19に流入することで、圧力室19がオイルで満たした状態に保たれる。そのため、エンジン再始動の直後からダンパ力を発生することが可能であり、チェーン6のばたつきを抑えることが可能となっている。
【0054】
このチェーンテンショナ1は、図3に示すように、バルブシート22の円筒部36とインナースリーブ16の外周との間に設けた径方向隙間35の範囲で、バルブシート22がインナースリーブ16に対して径方向に移動可能なので、インナースリーブ16の軸心と、シリンダ9に挿入されたプランジャ10の軸心との間にずれがある場合にも、そのずれに応じてバルブシート22がインナースリーブ16に対して径方向に移動して調心され、バルブシート22の外周の嵌合円筒面26とプランジャ10の内周との間のリーク隙間27の大きさを、径方向で均一化することができる。そのため、インナースリーブ16の中心と、シリンダ9の内周面の中心との同心度が低い場合にも、安定したダンパ力を得ることが可能である。
【0055】
また、このチェーンテンショナ1は、図2に示すプランジャ10が押し込み方向に移動するときに、圧力室19からリーク隙間27を通ってオイルがリークし、このとき圧力室19からリークしたオイルの一部が、インナースリーブ16に形成された通油路33を通ってリザーバ室18に戻る。そのため、チェーンテンショナ1から外部に排出されるオイルの量を低減することができ、チェーンテンショナ1でのオイル消費量を抑えることが可能となっている。
【0056】
図4に、上記実施形態のインナースリーブ16の変形例を示す。図4において、インナースリーブ16のプランジャ10からの突出端には、シリンダ9の閉塞端に軸方向に当接するフランジ部38が形成されている。このようにすると、インナースリーブ16の姿勢を安定させることができるとともに、アルミ合金で形成されたシリンダ9の閉塞端に、インナースリーブ16との接触による圧痕が生じるのを抑制することが可能となる。
【0057】
図5に、上記実施形態の給油通路30の変形例を示す。図5において、給油通路30は、シリンダ9の閉塞端に形成された凹部39と、シリンダ9の外周から凹部39に貫通して形成された孔40とからなる。この変形例において、インナースリーブ16に設けられた通油路33は、圧力室19(図2参照)からリーク隙間27を通って筒状空間32にリークしたオイルを、筒状空間32からリザーバ室18に戻すための油回収孔として機能する(シリンダ9の外部から供給されるオイルをリザーバ室18に導入する給油通路としては機能していない)。
【0058】
図6に、上記実施形態にアシストスプリング41を追加した変形例を示す。図6において、プランジャ10のシリンダ9内への挿入端を押圧するアシストスプリング41が、筒状空間32に組み込まれている。アシストスプリング41は、金属製の線材を螺旋状に巻回した圧縮コイルばねである。このアシストスプリング41を設けると、プランジャ10をシリンダ9から突出させる方向の付勢力が高まり、チェーンガイド8(図1参照)のチェーン6に対する追従性を向上させることが可能となる。また、アシストスプリング41の一端を、インナースリーブ16のプランジャ10からの突出端に形成されたフランジ部38で支持することにより、インナースリーブ16の姿勢の安定性を高めることができる。
【0059】
図7図8に、この発明の第2実施形態のチェーンテンショナを示す。第1実施形態に対応する部分は同一の符号を付して説明を省略する。
【0060】
バルブシート22は、インナースリーブ16とは別体の部材である。バルブシート22は、リターンスプリング20の付勢力によってインナースリーブ16に押し付けられている。バルブシート22は、インナースリーブ16に対する相対的な傾き方向の移動を許容するように、インナースリーブ16のプランジャ10内への挿入端で支持されている。具体的には、バルブシート22は、インナースリーブ16に対する傾動を許容するように、インナースリーブ16のプランジャ10内への挿入端に形成された環状の部分球面42で摺動可能に支持されている。部分球面42は、インナースリーブ16の軸心L上に中心をもつ球面の一部分である。
【0061】
また、バルブシート22は、インナースリーブ16に対する径方向の移動を許容するようにインナースリーブ16の外周に径方向隙間35をもって嵌合する円筒部36と、インナースリーブ16のプランジャ10内への挿入端で軸方向に支持されるシート本体部37とを有する。シート本体部37のインナースリーブ16に対する接触面は、環状のテーパ面43である。テーパ面43は、部分球面42と円環状の部位で線接触している。
【0062】
このチェーンテンショナ1は、バルブシート22がインナースリーブ16のプランジャ10内への挿入端の部分球面42で傾動可能に支持されているので、インナースリーブ16の軸心方向が、シリンダ9に挿入されたプランジャ10の軸心方向に対して傾いている場合にも、その傾きに応じてバルブシート22がインナースリーブ16に対して傾動して調心され、バルブシート22の外周の嵌合円筒面26とプランジャ10の内周との間のリーク隙間27の大きさを、軸方向で均一化することができる。そのため、インナースリーブ16の軸心方向が、プランジャ10の軸心方向に対して傾いている場合にも、安定したダンパ力を得ることが可能である。
【0063】
また、このチェーンテンショナ1は、チェーンガイド8(図1参照)からプランジャ10にモーメント荷重が作用し、そのモーメント荷重によってプランジャ10に傾きが生じた場合にも、インナースリーブ16の外周とプランジャ10の内周との間にかじり(局所的な溶着)が生じるのを防止することが可能である。
【0064】
また、このチェーンテンショナ1は、第1実施形態と同様に、インナースリーブ16の軸心と、シリンダ9に挿入されたプランジャ10の軸心との間にずれがある場合にも、そのずれに応じてバルブシート22がインナースリーブ16に対して径方向に移動して調心されるので、安定したダンパ力を得ることが可能である。
【0065】
また、図8図9に示すように、円筒部36の軸方向長さを変化させることで、嵌合円筒面26の軸方向長さが互いに異なる複数種類のバルブシート22を製作し、リーク隙間27の長さが異なる複数種類のチェーンテンショナ1を製造することができる。このようにすると、ダンパ力が異なる複数種類のチェーンテンショナ1を、バルブシート22以外の部品(プランジャ10やインナースリーブ16など)を共通化して製造することが可能となる。これにより、チェーンテンショナ1の製造コストを低減することができる。嵌合円筒面26の外径寸法が互いに異なる複数種類のバルブシート22を製作することで、リーク隙間27の径方向寸法が異なる複数種類のチェーンテンショナ1を製造することも可能である。
【0066】
図10に、第2実施形態のバルブシート22の変形例を示す。図10において、シート本体部37のインナースリーブ16に対する接触面は、環状の部分凹球面44である。部分凹球面44は、インナースリーブ16の軸心L上に中心をもつ凹球面の一部分である。部分凹球面44は、部分球面42と面接触している。
【0067】
図11に、第3実施形態のチェーンテンショナ1のバルブシート22の近傍を示す。図11において、バルブシート22は、断面凸円弧状の環状の被支持面45を有する。被支持面45は、バルブシート22のインナースリーブ16に対する傾動を許容するように、インナースリーブ16のプランジャ10内への挿入端に形成された環状のテーパ面46で摺動可能に支持されている。
【0068】
上記各実施形態において、図12図13に示すように、筒状空間32から、シリンダ9の外部に連通するエア抜き通路47を設けることができる。エア抜き通路47は、シリンダ9の外周から内周に貫通して形成されたねじ穴48と、そのねじ穴48にねじ込まれた雄ねじ部材49との間に形成されたねじ隙間である。
【0069】
このエア抜き通路47を設けると、シリンダ9の内周とインナースリーブ16の外周とで半径方向に挟まれる筒状空間32に存在するエアが、エア抜き通路47を通ってシリンダ9の外部に排出されるので、筒状空間32にエアが滞留しにくい。そのため、筒状空間32に存在するエアが、インナースリーブ16に形成された通油路33を通ってリザーバ室18に混入するのを防止することができ、安定したダンパ力を得ることが可能となる。
【0070】
また、図14図15に示すように、回り止め突起50でインナースリーブ16を周方向に位置決めしてもよい。図14図15において、シリンダ9の閉塞端には、回り止め突起50が設けられている。一方、インナースリーブ16のプランジャ10からの突出端には、シリンダ9の閉塞端に軸方向に当接するフランジ部38が形成されている。フランジ部38には、回り止め突起50と係合する切り欠き51が形成されている。切り欠き51と回り止め突起50は、互いに係合することで、通油路33が上側にくるようにインナースリーブ16とシリンダ9の相対位置を周方向に位置決めしている。
【0071】
このようにすると、インナースリーブ16のフランジ部38に形成された切り欠き51と、シリンダ9の閉塞端に設けられた回り止め突起50との係合により、通油路33が上側にくるようにインナースリーブ16がシリンダ9に対して周方向に位置決めされるので、リザーバ室18に存在するエアを、通油路33を通って円滑に排出することが可能となる。
【0072】
上記各実施形態では、チェーンテンショナ1を、クランクシャフト2の回転をカムシャフト4に伝達するチェーン伝動装置に組み込んだ例を挙げて説明したが、チェーンテンショナ1は、クランクシャフト2の回転をオイルポンプやウォーターポンプやスーパーチャージャー等の補機に伝達するチェーン伝動装置や、クランクシャフト2の回転をバランサシャフトに伝達するチェーン伝動装置や、ツインカムエンジンの吸気カムと排気カムを互いに連結するチェーン伝動装置に組み込むことも可能である。
【0073】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0074】
1 チェーンテンショナ
9 シリンダ
10 プランジャ
16 インナースリーブ
17 チェックバルブ
18 リザーバ室
19 圧力室
20 リターンスプリング
21 弁孔
22 バルブシート
23 弁体
26 嵌合円筒面
27 リーク隙間
30 給油通路
32 筒状空間
33 通油路
35 径方向隙間
36 円筒部
37 シート本体部
38 フランジ部
42 部分球面
45 被支持面
46 テーパ面
47 エア抜き通路
48 ねじ穴
49 雄ねじ部材
50 回り止め突起
51 切り欠き
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15