(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022138953
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】チェーンテンショナ
(51)【国際特許分類】
F16H 7/08 20060101AFI20220915BHJP
F02B 67/06 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
F16H7/08 B
F02B67/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021039131
(22)【出願日】2021-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】鬼丸 好一
【テーマコード(参考)】
3J049
【Fターム(参考)】
3J049AA08
3J049AB03
3J049BB02
3J049BB13
3J049BB23
3J049BB26
3J049BB35
3J049BH01
3J049CA02
3J049CA03
(57)【要約】
【課題】安定した大きさのダンパ力を得ることが可能なチェーンテンショナを提供する。
【解決手段】シリンダ9に挿入された筒状のプランジャ10と、プランジャ10に挿入された第1スリーブ13と、第1スリーブ13に接続して設けられた第2スリーブ14と、第2スリーブ14に組み込まれたチェックバルブ15と、第2スリーブ14の外周に形成された嵌合円筒面25とを有し、第1スリーブ13には、シート部材21を押圧するリリーフスプリング34が組み込まれ、第2スリーブ14にはリリーフシート面36が形成され、シート部材21とリリーフスプリング34とリリーフシート面36はリリーフバルブ38を構成するチェーンテンショナ。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向の一端を閉塞端とし、軸方向の他端を開口端とするシリンダ(9)と、
前記シリンダ(9)に軸方向に摺動可能に挿入され、前記シリンダ(9)内への挿入端が開口し、前記シリンダ(9)からの突出端が閉塞した筒状のプランジャ(10)と、
軸方向の一端が前記プランジャ(10)内に挿入され、軸方向の他端が前記プランジャ(10)から突出した状態となるように前記プランジャ(10)に挿入され、前記プランジャ(10)からの突出端が前記シリンダ(9)の閉塞端で支持された第1スリーブ(13)と、
前記第1スリーブ(13)の前記プランジャ(10)内への挿入端に接続して設けられ、前記第1スリーブ(13)とは別体の第2スリーブ(14)と、
前記第1スリーブ(13)と前記プランジャ(10)の内部領域を、前記第1スリーブ(13)の側のリザーバ室(16)と前記プランジャ(10)の側の圧力室(17)とに区画するように前記第2スリーブ(14)に組み込まれ、前記リザーバ室(16)の側から前記圧力室(17)の側へのオイルの流れのみを許容するチェックバルブ(15)と、
前記第2スリーブ(14)の外周に形成され、前記プランジャ(10)の内周に軸方向に摺動可能に嵌合する嵌合円筒面(25)と、
前記嵌合円筒面(25)と前記プランジャ(10)の内周との間に形成され、前記圧力室(17)からオイルをリークさせる円筒状のリーク隙間(26)と、
前記シリンダ(9)の外部から供給されるオイルを前記リザーバ室(16)に導入する給油通路(30)と、
前記プランジャ(10)を前記シリンダ(9)から突出する方向に付勢するリターンスプリング(18)と、を有し、
前記チェックバルブ(15)は、前記圧力室(17)と前記リザーバ室(16)の間を連通する弁孔(20)が形成されたシート部材(21)と、前記弁孔(20)の圧力室(17)の側の端部を開閉する弁体(22)とを有し、
前記シート部材(21)は、前記第2スリーブ(14)に対して軸方向に移動可能に設けられ、
前記第1スリーブ(13)には、前記シート部材(21)を前記リザーバ室(16)の側から前記圧力室(17)の側に向けて軸方向に押圧するリリーフスプリング(34)が組み込まれ、
前記第2スリーブ(14)には、前記シート部材(21)を前記圧力室(17)の側から接触して支持する環状のリリーフシート面(36)が形成され、
前記シート部材(21)と前記リリーフスプリング(34)と前記リリーフシート面(36)は、前記圧力室(17)の圧力が予め設定した圧力よりも大きくなったときに前記圧力室(17)から前記リザーバ室(16)にオイルを逃がすリリーフバルブ(38)を構成するチェーンテンショナ。
【請求項2】
前記第1スリーブ(13)に、前記圧力室(17)から前記リーク隙間(26)を通ってリークしたオイルを前記リザーバ室(16)に戻す通油路(33)が形成されている請求項1に記載のチェーンテンショナ。
【請求項3】
前記第1スリーブ(13)の前記プランジャ(10)内への挿入部分の外周は、前記嵌合円筒面(25)よりも小径に形成されている請求項1または2に記載のチェーンテンショナ。
【請求項4】
前記シート部材(21)の前記リリーフシート面(36)との接触面(37)、または前記リリーフシート面(36)に、前記シート部材(21)が前記リリーフシート面(36)に接触した状態で前記第2スリーブ(14)内のエアを前記リザーバ室(16)に排出するエア抜き溝(43)が形成されている請求項1から3のいずれかに記載のチェーンテンショナ。
【請求項5】
前記シート部材(21)の前記弁体(22)との接触面に、前記弁体(22)が前記弁孔(20)の圧力室(17)の側の端部を閉じた状態で前記第2スリーブ(14)内のエアを前記弁孔(20)に排出するエア抜き溝(44)が形成されている請求項1から4のいずれかに記載のチェーンテンショナ。
【請求項6】
前記第2スリーブ(14)は、前記第1スリーブ(13)に対する前記第2スリーブ(14)の径方向の移動を許容するように前記第1スリーブ(13)の前記プランジャ(10)内への挿入端で摺動可能に支持されている請求項1から5のいずれかに記載のチェーンテンショナ。
【請求項7】
前記第1スリーブ(13)の前記プランジャ(10)内への挿入端に環状凸部(50)が形成され、
前記第2スリーブ(14)には、前記環状凸部(50)に嵌合して前記第2スリーブ(14)を前記第1スリーブ(13)に対して径方向に位置決めする環状凹部(51)が形成されている請求項1から5のいずれかに記載のチェーンテンショナ。
【請求項8】
前記第1スリーブ(13)の前記プランジャ(10)からの突出端は、前記シリンダ(9)の閉塞端に軸方向に当接して支持される環状の部分球面(52)を有し、
前記シリンダ(9)の閉塞端は、前記第1スリーブ(13)の傾動を許容するように前記部分球面(52)を摺動可能に支持する凹テーパ面(53)または凹球面(54)を有する請求項7に記載のチェーンテンショナ。
【請求項9】
前記リターンスプリング(18)を前記第2スリーブ(14)で支持した請求項1から8のいずれかに記載のチェーンテンショナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、チェーンの張力保持に用いられるチェーンテンショナに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等のエンジンに使用されるチェーン伝動装置として、例えば、クランクシャフトの回転をカムシャフトに伝達するものや、クランクシャフトの回転をオイルポンプやウォーターポンプやスーパーチャージャー等の補機に伝達するものや、クランクシャフトの回転をバランサシャフトに伝達するものや、ツインカムエンジンの吸気カムと排気カムを互いに連結するものなどがある。これらのチェーン伝動装置のチェーンの張力を適正範囲に保つために、チェーンテンショナが使用される。
【0003】
このような用途に使用されるチェーンテンショナとして、本願の発明者は、既に特許文献1に記載のものを提案している。特許文献1のチェーンテンショナは、シリンダと、そのシリンダに軸方向に摺動可能に挿入された筒状のプランジャと、そのプランジャに挿入されたスリーブとを有する。
【0004】
シリンダは、軸方向の一端を閉塞端とし、軸方向の他端を開口端とする筒状の部材である。プランジャは、シリンダ内への挿入端が開口し、シリンダからの突出端が閉塞した筒状の部材である。スリーブは、軸方向の一端がプランジャ内に挿入され、軸方向の他端がプランジャから突出した状態となるように前記プランジャ内に挿入され、そのスリーブのプランジャからの突出端が、シリンダの閉塞端で支持されている。スリーブの外周とプランジャの内周とは、軸方向に摺動可能に嵌合している。スリーブのプランジャ内への挿入端と、プランジャとの間には、プランジャをシリンダから突出する方向に付勢するリターンスプリングが組み込まれている。
【0005】
また、特許文献1のチェーンテンショナは、スリーブのプランジャ内への挿入端に、チェックバルブを有する。このチェックバルブは、スリーブとプランジャの内部領域を、スリーブの側のリザーバ室とプランジャの側の圧力室とに区画している。チェックバルブは、リザーバ室の側から圧力室の側へのオイルの流れのみを許容するバルブである。シリンダには、シリンダの外部から供給されるオイルをリザーバ室に導入する給油通路が形成されている。スリーブの外周とプランジャの内周との間に、圧力室からオイルをリークさせる円筒状のリーク隙間が形成されている。
【0006】
ここで、チェックバルブは、圧力室とリザーバ室の間を連通する弁孔が形成されたバルブシートと、弁孔の圧力室の側の端部を開閉する弁体とを有する。バルブシートは、スリーブのプランジャへの挿入端に、スリーブと継ぎ目の無い一体に形成されている。
【0007】
この特許文献1のチェーンテンショナは、エンジン作動中にチェーンの張力が大きくなると、そのチェーンの張力によって、プランジャがシリンダ内に押し込まれる方向(以下、「押し込み方向」という)に移動し、チェーンの緊張を吸収する。このとき、圧力室からリーク隙間を通って流出するオイルの粘性抵抗によってダンパ力が発生するので、プランジャはゆっくりと移動する。
【0008】
一方、エンジン作動中にチェーンの張力が小さくなると、リターンスプリングの付勢力と圧力室の油圧とによって、プランジャがシリンダから突出する方向(以下、「突出方向」という)に移動し、チェーンの弛みを吸収する。このとき、チェックバルブが開き、リザーバ室から圧力室内にオイルが流入するので、プランジャは速やかに移動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、特許文献1のチェーンテンショナは、温度変化に応じて、ダンパ力が大きく変化するという問題がある。すなわち、特許文献1のチェーンテンショナにおいて、プランジャが押し込み方向に移動するとき、圧力室のオイルがリーク隙間を通ってリザーバ室に流出し、このときリーク隙間を流れるオイルの粘性抵抗によってダンパ力が発生する。ここで、オイルの粘度は、オイルの温度が低くなるほど高くなるため、オイルが低温のときは、リーク隙間を流れるオイルの粘性抵抗が高くなり、ダンパ力が大きくなる。一方、オイルが高温のときは、リーク隙間を流れるオイルの粘性抵抗が低くなり、ダンパ力が小さくなる。
【0011】
そのため、リーク隙間の大きさを大きく設定した場合は、低温時のダンパ力が過大となるのを防ぐことができるが、高温時のダンパ力が過小となってチェーンのばたつきが生じるおそれがある。一方、リーク隙間の大きさを小さく設定した場合は、高温時のダンパ力が過小となるのを防ぐことができるが、低温時のダンパ力が過大となってチェーンの張力が過大となるおそれがある。
【0012】
そこで、本願の発明者は、温度変化によらず安定したダンパ力を得るため、特許文献1のチェーンテンショナに、圧力室の圧力が予め設定した圧力よりも大きくなったときに圧力室からオイルを逃がすリリーフバルブを設けることを検討した。リリーフバルブを設けると、低温時は、リリーフバルブが開くことによって圧力室の圧力上昇が抑えられるので、ダンパ力が過大となるのを防ぐことができ、一方、高温時は、リーク隙間を流れるオイルの粘性抵抗によるダンパ力の大きさを確保し、チェーンのばたつきを防止することが可能となる。
【0013】
ここで、本願の発明者は、特許文献1のチェーンテンショナにリリーフバルブを設けるに際し、リリーフバルブを、スリーブのプランジャ内への挿入端のチェックバルブの位置に設けることを検討した。このようにすると、リリーフバルブが開いたときに、リリーフバルブを通って圧力室から流出するオイルを、リザーバ室に回収することができるので、チェーンテンショナでのオイル消費量を抑えることが可能となる。
【0014】
さらに、本願の発明者は、スリーブのプランジャ内への挿入端のチェックバルブの位置にリリーフバルブを組み付ける方法として、リリーフバルブとチェックバルブを一体化したバルブユニットを、スリーブのプランジャへの挿入端に圧入する方法を検討した。
【0015】
しかしながら、この方法でリリーフバルブを組み付けると、チェーンテンショナのダンパ力の大きさが不安定となる可能性があることが分かった。
【0016】
すなわち、リリーフバルブとチェックバルブを一体化したバルブユニットを、スリーブのプランジャへの挿入端に圧入する場合、その圧入による変形で、スリーブの外径寸法がわずかに拡大する。ここで、スリーブの内径寸法は公差の範囲でばらつきを有し、バルブユニットの外径寸法も公差の範囲でばらつきを有するため、スリーブにバルブユニットを圧入したときのスリーブの外径寸法の拡大量もばらついたものとなり、スリーブの外径寸法を一定に管理することが難しい。その結果、スリーブの外周とプランジャの内周との間に形成されるリーク隙間の大きさが安定せず、リーク隙間を流れるオイルの粘性抵抗によって生じるダンパ力の大きさが不安定となる可能性があることが分かった。
【0017】
この発明が解決しようとする課題は、安定した大きさのダンパ力を得ることが可能なチェーンテンショナを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するため、本願の発明者は、特許文献1のチェーンテンショナのスリーブに相当する部材を、リザーバ室を形成するための第1スリーブと、リーク隙間を形成するための第2スリーブとに分割し、その第2スリーブにチェックバルブを組み込むとともに、第2スリーブにリリーブバルブのシート面を直接形成するという着想を得た。
【0019】
この着想に基づき、この発明では、以下の構成のチェーンテンショナを提供する。
軸方向の一端を閉塞端とし、軸方向の他端を開口端とするシリンダと、
前記シリンダに軸方向に摺動可能に挿入され、前記シリンダ内への挿入端が開口し、前記シリンダからの突出端が閉塞した筒状のプランジャと、
軸方向の一端が前記プランジャ内に挿入され、軸方向の他端が前記プランジャから突出した状態となるように前記プランジャに挿入され、前記プランジャからの突出端が前記シリンダの閉塞端で支持された第1スリーブと、
前記第1スリーブの前記プランジャ内への挿入端に接続して設けられ、前記第1スリーブとは別体の第2スリーブと、
前記第1スリーブと前記プランジャの内部領域を、前記第1スリーブの側のリザーバ室と前記プランジャの側の圧力室とに区画するように前記第2スリーブに組み込まれ、前記リザーバ室の側から前記圧力室の側へのオイルの流れのみを許容するチェックバルブと、
前記第2スリーブの外周に形成され、前記プランジャの内周に軸方向に摺動可能に嵌合する嵌合円筒面と、
前記嵌合円筒面と前記プランジャの内周との間に形成され、前記圧力室からオイルをリークさせる円筒状のリーク隙間と、
前記シリンダの外部から供給されるオイルを前記リザーバ室に導入する給油通路と、
前記プランジャを前記シリンダから突出する方向に付勢するリターンスプリングと、を有し、
前記チェックバルブは、前記圧力室と前記リザーバ室の間を連通する弁孔が形成されたシート部材と、前記弁孔の圧力室の側の端部を開閉する弁体とを有し、
前記シート部材は、前記第2スリーブに対して軸方向に移動可能に設けられ、
前記第1スリーブには、前記シート部材を前記リザーバ室の側から前記圧力室の側に向けて軸方向に押圧するリリーフスプリングが組み込まれ、
前記第2スリーブには、前記シート部材を前記圧力室の側から接触して支持する環状のリリーフシート面が形成され、
前記シート部材と前記リリーフスプリングと前記リリーフシート面は、前記圧力室の圧力が予め設定した圧力よりも大きくなったときに前記圧力室から前記リザーバ室にオイルを逃がすリリーフバルブを構成するチェーンテンショナ。
【0020】
このようにすると、低温時は、リーク隙間を流れるオイルの粘性抵抗が高くなり、圧力室の圧力が上昇しやすくなるが、圧力室の圧力が予め設定した圧力よりも大きくなると、その圧力室の圧力によってシート部材がリリーフシート面から離反し、そのシート部材とリリーフシート面の間の隙間を通って圧力室のオイルがリザーバ室に逃がされる。そのため、圧力室の圧力上昇が抑えられ、ダンパ力が過大となるのを防ぐことができる。一方、高温時は、リーク隙間を流れるオイルの粘性抵抗によるダンパ力の大きさを確保し、チェーンのばたつきを防止することが可能となる。
【0021】
また、リリーフバルブのリリーフシート面が、第1スリーブとは別体の第2スリーブに形成されているので、第1スリーブと第2スリーブを分割した状態でリリーフバルブの構成部材を組み付けることでき、リリーフバルブの組み立て作業性を確保することが可能である。また、リリーフシート面を有する第2スリーブの外周に直接、プランジャの内周に軸方向に摺動可能に嵌合する嵌合円筒面が形成されているので、リリーフシート面を形成した部材の圧入等により嵌合円筒面の寸法が変化するのを防止することができ、嵌合円筒面の寸法を精度良く一定に管理することができる。そのため、嵌合円筒面とプランジャの内周との間のリーク隙間の大きさを、高い寸法精度をもって管理することができ、安定した大きさのダンパ力を得ることが可能である。
【0022】
前記第1スリーブに、前記圧力室から前記リーク隙間を通ってリークしたオイルを前記リザーバ室に戻す通油路を形成すると好ましい。
【0023】
このようにすると、プランジャが押し込み方向に移動するときに、圧力室からリーク隙間を通ってオイルがリークし、このとき圧力室からリークしたオイルの一部が通油路を通ってリザーバ室に戻る。そのため、チェーンテンショナから外部に排出されるオイルの量を低減することができ、チェーンテンショナでのオイル消費量を抑えることが可能となる。
【0024】
前記第1スリーブの前記プランジャ内への挿入部分の外周は、前記嵌合円筒面よりも小径に形成すると好ましい。
【0025】
このようにすると、第1スリーブの外周とプランジャの内周との間の隙間が比較的大きいものとなり、その隙間を流れるオイルの粘性抵抗を小さく抑えることができるので、プランジャの移動により第1スリーブのプランジャ内への挿入長さが変化したときにダンパ力の大きさが変化しにくく、安定したダンパ力を得ることができる。
【0026】
前記シート部材の前記リリーフシート面との接触面、または前記リリーフシート面に、前記シート部材が前記リリーフシート面に接触した状態で前記第2スリーブ内のエアを前記リザーバ室に逃がすエア抜き溝を形成すると好ましい。
【0027】
このようにすると、第2スリーブ内に存在するエアが、エア抜き溝を通ってリザーバ室に排出されるので、より安定したダンパ力を得ることが可能となる。
【0028】
また、前記シート部材の前記弁体との接触面に、前記弁体が前記弁孔の圧力室の側の端部を閉じた状態で前記第2スリーブ内のエアを前記弁孔に排出するエア抜き溝を形成すると好ましい。
【0029】
このようにすると、第2スリーブ内に存在するエアが、エア抜き溝と弁孔を順に通ってリザーバ室に排出されるので、より安定したダンパ力を得ることが可能となる。
【0030】
前記第2スリーブは、前記第1スリーブに対する前記第2スリーブの径方向の移動を許容するように前記第1スリーブの前記プランジャ内への挿入端で摺動可能に支持することができる。
【0031】
このようにすると、第1スリーブの軸心と、シリンダに挿入されたプランジャの軸心との間にずれがある場合にも、そのずれに応じて第2スリーブが第1スリーブに対して径方向に移動し、第2スリーブの外周の嵌合円筒面とプランジャの内周との間のリーク隙間の大きさが、径方向で均一化される。そのため、安定したダンパ力を得ることが可能である。
【0032】
前記第1スリーブの前記プランジャ内への挿入端に環状凸部が形成され、
前記第2スリーブには、前記環状凸部に嵌合して前記第2スリーブを前記第1スリーブに対して径方向に位置決めする環状凹部が形成された構成を採用することができる。
【0033】
このようにすると、環状凸部と環状凹部の嵌合により、第1スリーブの軸心と第2スリーブの軸心とを合致させることが可能となる。
【0034】
この場合、前記第1スリーブの前記プランジャからの突出端は、前記シリンダの閉塞端に軸方向に当接して支持される環状の部分球面を有し、
前記シリンダの閉塞端は、前記第1スリーブの傾動を許容するように前記部分球面を摺動可能に支持する凹テーパ面または凹球面を有する構成を採用すると好ましい。
【0035】
このようにすると、第1スリーブの軸心と、シリンダに挿入されたプランジャの軸心との間にずれがある場合にも、そのずれに応じて第1スリーブがシリンダに対して傾動し、第2スリーブの外周の嵌合円筒面とプランジャの内周との間のリーク隙間の大きさが、軸方向で均一化される。そのため、安定したダンパ力を得ることが可能である。
【0036】
前記リターンスプリングを前記第2スリーブで支持した構成を採用すると好ましい。
【0037】
このようにすると、リターンスプリングがプランジャを付勢する力の反力で第2スリーブが第1スリーブに押し付けられるので、エンジンの振動等により第1スリーブと第2スリーブが離反するのを防止することができる。
【発明の効果】
【0038】
この発明のチェーンテンショナは、リリーフバルブのリリーフシート面が、第1スリーブとは別体の第2スリーブに形成されているので、第1スリーブと第2スリーブを分割した状態でリリーフバルブの構成部材を組み付けることでき、リリーフバルブの組み立て作業性を確保することが可能である。また、リリーフシート面を有する第2スリーブの外周に直接、プランジャの内周に軸方向に摺動可能に嵌合する嵌合円筒面が形成されているので、リリーフシート面を形成した部材の圧入等により嵌合円筒面の寸法が変化するのを防止することができ、嵌合円筒面の寸法を精度良く一定に管理することができる。そのため、嵌合円筒面とプランジャの内周との間のリーク隙間の大きさを、高い寸法精度をもって管理することができ、安定した大きさのダンパ力を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】この発明の第1実施形態のチェーンテンショナを組み込んだチェーン伝動装置を示す図
【
図4】
図3のリリーフバルブが開いた状態を示すシート部材の近傍の拡大断面図
【
図5】
図3のリリーフシート面と、リリーフシート面に対する接触面との変形例を示す図
【
図6】
図3のシート部材に通油溝を追加した変形例を示す図
【
図8】
図3のシート部材のリリーフシート面との接触面にエア抜き溝を形成した変形例を示すシート部材の斜視図
【
図9】
図8に示すシート部材を組み込んだチェーンテンショナのシート部材の近傍の拡大断面図
【
図10】
図3のシート部材の弁体との接触面にエア抜き溝を形成した変形例を示すシート部材の近傍の拡大断面図
【
図11】
図3のシート部材のリリーフシート面との接触面にエア抜き溝を形成し、さらに、シート部材の弁体との接触面にもエア抜き溝を形成した変形例を示すシート部材の近傍の拡大断面図
【
図12】この発明の第2実施形態のチェーンテンショナを示す要部断面図
【
図14】
図12の第1スリーブのプランジャからの突出端の近傍の拡大断面図
【
図15】
図14のシリンダの閉塞端を凹球面とした変形例を示す拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0040】
図1に、この発明の第1実施形態のチェーンテンショナ1を組み込んだチェーン伝動装置を示す。このチェーン伝動装置は、エンジンのクランクシャフト2に固定されたスプロケット3と、カムシャフト4に固定されたスプロケット5とがチェーン6を介して連結されており、そのチェーン6がクランクシャフト2の回転をカムシャフト4に伝達し、そのカムシャフト4の回転により燃焼室のバルブ(図示せず)の開閉を行なう。
【0041】
エンジンが作動しているときのクランクシャフト2の回転方向は一定(図では右回転)であり、このときチェーン6は、クランクシャフト2の回転に伴ってスプロケット3に引き込まれる側(図の右側)の部分が張り側となり、スプロケット3から送り出される側(図の左側)の部分が弛み側となる。そして、チェーン6の弛み側の部分には、支点軸7を中心として揺動可能に支持されたチェーンガイド8が接触している。チェーンテンショナ1は、チェーンガイド8を介してチェーン6を押圧している。
【0042】
図2に示すように、チェーンテンショナ1は、軸方向の一端を閉塞端とし、軸方向の他端を開口端とする筒状のシリンダ9と、シリンダ9に軸方向に摺動可能に挿入されたプランジャ10とを有する。プランジャ10のシリンダ9からの突出端はチェーンガイド8を押圧している。
【0043】
シリンダ9は、アルミ合金で一体成形されている。シリンダ9は、シリンダ9の外周に一体に形成された複数の取り付け片11にボルト12を締め込むことによって、エンジンブロック(図示せず)に固定されている。ここで、シリンダ9は、プランジャ10のシリンダ9からの突出方向が、水平よりも下側に傾斜する方向となる状態に取り付けられている。
【0044】
プランジャ10は、プランジャ10のシリンダ9内への挿入端が開口し、プランジャ10のシリンダ9からの突出端が閉塞した筒状に形成されている。プランジャ10の材質は、鉄系材料(例えばSCM(クロムモリブデン鋼)やSCr(クロム鋼)等の鋼材)である。
【0045】
プランジャ10には、軸方向の一端がプランジャ10内に挿入され、軸方向の他端がプランジャ10から突出した状態となるように第1スリーブ13が挿入されている。第1スリーブ13は、軸方向の両端がいずれも開放した筒状の部材である。第1スリーブ13は、プランジャ10と同様、鉄系材料で形成されている。第1スリーブ13のプランジャ10からの突出端は、シリンダ9の閉塞端で支持されている。
【0046】
第1スリーブ13のプランジャ10内への挿入端には、第1スリーブ13とは別体の第2スリーブ14が接続して設けられている。第2スリーブ14は、第1スリーブ13と軸方向に一列に並んで配置された筒状の部材である。第2スリーブ14の軸方向長さは、第1スリーブ13の軸方向長さよりも短く、例えば、第1スリーブ13の軸方向長さの1/3以下に設定することができる。第2スリーブ14は、プランジャ10と同様、鉄系材料で形成されている。
【0047】
第2スリーブ14には、チェックバルブ15が組み込まれている。チェックバルブ15は、第1スリーブ13とプランジャ10の内部領域を、第1スリーブ13の側のリザーバ室16とプランジャ10の側の圧力室17とに区画している。ここで、リザーバ室16の容積は、プランジャ10が軸方向移動しても変化せず、一定である。一方、圧力室17の容積は、プランジャ10がシリンダ9から突出する方向に軸方向移動するときは拡大し、プランジャ10がシリンダ9に押し込まれる方向に軸方向移動するときは縮小する。
【0048】
圧力室17には、リターンスプリング18が組み込まれている。リターンスプリング18は、金属製の線材を螺旋状に巻回した圧縮コイルばねである。リターンスプリング18は、一端が第2スリーブ14で支持され、他端がプランジャ10を軸方向に押圧し、その押圧によって、プランジャ10をシリンダ9から突出する方向に付勢している。
【0049】
図3に示すように、チェックバルブ15は、弁孔20が形成されたシート部材21と、弁孔20の圧力室17の側の端部を開閉する球状の弁体22とを有する。弁孔20は、圧力室17とリザーバ室16の間を連通するようにシート部材21に形成された軸方向の貫通孔である。弁体22は、鋼球である。弁体22は、第2スリーブ14に形成された端板23で軸方向の移動範囲が制限されている。端板23には、オイルが端板23を通過することができるように複数の貫通孔24が形成されている。チェックバルブ15は、圧力室17の側からリザーバ室16の側へのオイルの流れを制限し、リザーバ室16の側から圧力室17の側へのオイルの流れのみを許容する。
【0050】
第2スリーブ14の外周には、プランジャ10の内周に軸方向に摺動可能に嵌合する嵌合円筒面25が形成されている。嵌合円筒面25は、軸方向に沿って外径が変化せず一定の円筒面である。プランジャ10の内周も、軸方向に沿って内径が変化せず一定の円筒面とされている。嵌合円筒面25とプランジャ10の内周との間には、圧力室17の容積が縮小するときに圧力室17からオイルをリークさせるリーク隙間26が形成されている。リーク隙間26は、半径方向の幅が0.010~0.050mmの範囲に設定された円筒状の微小隙間である。
【0051】
図2に示すように、第1スリーブ13のプランジャ10内への挿入部分の外周は、軸方向に沿って外径が変化せず一定の円筒面とされ、その外径が、第2スリーブ14の外周の嵌合円筒面25よりも小径となるように形成されている。また、プランジャ10のシリンダ9内への挿入部分の外周も、軸方向に沿って外径が変化せず一定の円筒面とされている。シリンダ9の内周の、プランジャ10の外周を軸方向に摺動可能に支持する部分も、軸方向に沿って内径が変化せず一定の円筒面とされている。シリンダ9の内周とプランジャ10の外周との間には、円筒状のガイド隙間27が形成されている。ガイド隙間27の半径方向の幅は、リーク隙間26の半径方向の幅よりも大きく設定され、例えば、0.015~0.065mmの範囲に設定することができる。
【0052】
シリンダ9および第1スリーブ13には、シリンダ9の外部の図示しないオイルポンプから供給されるオイルをリザーバ室16に導入する給油通路30が設けられている。給油通路30は、シリンダ9の外周から内周にオイルを導入するようにシリンダ9に形成されたシリンダ側油路31と、シリンダ9の内周と第1スリーブ13の外周との間に形成される筒状空間32と、第1スリーブ13のプランジャ10からの突出部分に設けられた通油路33とで構成されている。
【0053】
筒状空間32は、プランジャ10のシリンダ9内への挿入端よりもシリンダ9の閉塞端に近い側において、シリンダ9の内周と第1スリーブ13の外周とで半径方向に挟まれる円筒状の領域である。シリンダ側油路31のシリンダ9の内周側の端部は、筒状空間32に接続する位置に開口している。
【0054】
通油路33は、第1スリーブ13を径方向に貫通して形成された貫通孔である。通油路33は、給油通路30の一部でもあり、圧力室17からリーク隙間26を通って筒状空間32にリークしたオイルを、筒状空間32からリザーバ室16に戻すための油回収孔でもある。
【0055】
図3に示すように、チェックバルブ15のシート部材21は、第2スリーブ14とは別体に形成された部材であり、第2スリーブ14に対して軸方向に移動可能に設けられている。第1スリーブ13には、シート部材21をリザーバ室16の側から圧力室17の側に向けて軸方向に押圧するリリーフスプリング34が組み込まれている。リリーフスプリング34は、金属製の線材を螺旋状に巻回した圧縮コイルばねである。リリーフスプリング34の一端は、第1スリーブ13の内周に形成された段部35(
図2参照)で支持され、リリーフスプリング34の他端は、シート部材21を軸方向に押圧している。
【0056】
シート部材21は、リリーフスプリング34の押圧力によって、第2スリーブ14に形成されたリリーフシート面36に押し付けられている。リリーフシート面36は、シート部材21を圧力室17の側(図では右側)から接触して支持する断面凸円弧状の環状の面である。シート部材21のリリーフシート面36との接触面37は、リリーフシート面36と円環状の部位で線接触するテーパ面とされている。
【0057】
ここで、シート部材21とリリーフスプリング34とリリーフシート面36は、圧力室17の圧力が予め設定した圧力よりも大きくなったときに圧力室17からリザーバ室16にオイルを逃がすリリーフバルブ38を構成している。すなわち、圧力室17の圧力が予め設定した圧力よりも大きくなると、その圧力室17の圧力によって、
図4に示すように、シート部材21がリリーフスプリング34の付勢力に抗して圧力室17の側(図では右側)からリザーバ室16の側(図では左側)に移動し、リリーフシート面36から離反する。そして、そのシート部材21とリリーフシート面36の間の隙間を通って、圧力室17のオイルがリザーバ室16に逃げ、圧力室17の圧力上昇が抑えられる。
【0058】
図3に示すように、第2スリーブ14は、第1スリーブ13に対する第2スリーブ14の径方向の移動を許容するように第1スリーブ13のプランジャ10内への挿入端で摺動可能に支持されている。具体的には、第1スリーブ13のプランジャ10内への挿入端に軸方向に直角な平面39が形成され、その平面39に第2スリーブ14の軸方向端面40が軸方向に当接し、平面39と軸方向端面40とが径方向に摺動可能に接触している。
【0059】
次に、このチェーンテンショナ1の動作例を説明する。
【0060】
エンジン作動中に、
図1に示すチェーン6の張力が大きくなると、そのチェーン6の張力によって、プランジャ10がシリンダ9内に押し込まれる方向に移動し、チェーン6の緊張を吸収する。このとき、
図2に示す圧力室17の圧力がリザーバ室16の圧力よりも高くなるので、チェックバルブ15は閉じた状態となる。また、プランジャ10の移動に応じて圧力室17の容積が縮小するので、その縮小した容積の分、圧力室17からリーク隙間26を通ってオイルがリークし、このときリーク隙間26を流れるオイルの粘性抵抗でダンパ力が発生し、そのダンパ力によってチェーン6のばたつきが防止される。そして、圧力室17からリーク隙間26を通って筒状空間32にリークしたオイルの大部分は、通油路33を通ってリザーバ室16に戻る。また、圧力室17からリーク隙間26を通って筒状空間32にリークしたオイルの一部は、ガイド隙間27を潤滑する。
【0061】
一方、エンジン作動中に、
図1に示すチェーン6の張力が小さくなると、
図2に示すリターンスプリング18の付勢力と圧力室17の油圧とによって、プランジャ10が突出方向に移動し、チェーン6の弛みを吸収する。このとき、プランジャ10の移動に応じて圧力室17の容積が拡大するので、圧力室17の圧力がリザーバ室16の圧力よりも低くなり、チェックバルブ15が開く。そして、リザーバ室16からチェックバルブ15を通って圧力室17にオイルが流入し、プランジャ10が速やかに移動する。このとき、シリンダ9の外部から給油通路30を通ってリザーバ室16にオイルが導入される。
【0062】
ここで、オイルの粘度は、オイルの温度が低くなるほど高くなる。また、低温時は各部材が収縮するのでリーク隙間26も小さくなる。そのため、低温時は、リーク隙間26を流れるオイルの粘性抵抗が高くなり、圧力室17の圧力が上昇しやすくなる。そして、圧力室17の圧力が予め設定した圧力よりも大きくなると、その圧力室17の圧力によってシート部材21がリリーフシート面36から離反し(
図4参照)、そのシート部材21とリリーフシート面36の間の隙間を通って圧力室17のオイルがリザーバ室16に逃がされる。そのため、圧力室17の圧力上昇が抑えられ、ダンパ力が過大となるのを防ぐことができる。
【0063】
エンジンが停止し、その後、エンジンが再始動するとき、一般に、シリンダ9の外部の図示しない油路内のオイルの油面はいったん下がった状態となっていることから、シリンダ側油路31からチェーンテンショナ1へのオイル供給が開始するまでに時間がかかる。この場合、エンジンが再始動してから、オイル供給が開始されるまでの間、
図2に示すようにリザーバ室16内にあらかじめ溜まったオイルが、チェックバルブ15を通って圧力室17に流入することで、圧力室17がオイルで満たした状態に保たれる。そのため、エンジン再始動の直後からダンパ力を発生することが可能であり、チェーン6のばたつきを抑えることが可能となっている。
【0064】
このチェーンテンショナ1は、
図3に示すように、リリーフバルブ38のリリーフシート面36が、第1スリーブ13とは別体の第2スリーブ14に形成されているので、第1スリーブ13と第2スリーブ14を分割した状態でリリーフバルブ38の構成部材を組み付けることでき、リリーフバルブ38の組み立て作業性を確保することが可能である。
【0065】
また、このチェーンテンショナ1は、リリーフシート面36を有する第2スリーブ14の外周に直接、プランジャ10の内周に軸方向に摺動可能に嵌合する嵌合円筒面25が形成されているので、リリーフシート面36を形成した部材の圧入等により嵌合円筒面25の寸法が変化するのを防止することができ、嵌合円筒面25の寸法を精度良く一定に管理することができる。そのため、嵌合円筒面25とプランジャ10の内周との間のリーク隙間26の大きさを、高い寸法精度をもって管理することができ、安定した大きさのダンパ力を得ることが可能である。
【0066】
また、このチェーンテンショナ1は、
図2に示すプランジャ10が押し込み方向に移動するときに、圧力室17からリーク隙間26を通ってオイルがリークし、このとき圧力室17からリークしたオイルの一部が、第1スリーブ13に形成された通油路33を通ってリザーバ室16に戻る。そのため、チェーンテンショナ1から外部に排出されるオイルの量を低減することができ、チェーンテンショナ1でのオイル消費量を抑えることが可能である。
【0067】
また、このチェーンテンショナ1は、
図2に示すように、第1スリーブ13のプランジャ10内への挿入部分の外周が、第2スリーブ14の外周の嵌合円筒面25よりも小径に形成されているので、第1スリーブ13の外周とプランジャ10の内周との間の隙間が比較的大きく、その隙間を流れるオイルの粘性抵抗が小さい。そのため、プランジャ10の移動により第1スリーブ13のプランジャ10内への挿入長さが変化したときにダンパ力の大きさが変化しにくく、安定したダンパ力を得ることができる。
【0068】
また、このチェーンテンショナ1は、
図3に示すように、第2スリーブ14が、第1スリーブ13に対する第2スリーブ14の径方向の移動を許容するように支持されているので、第1スリーブ13の軸心と、シリンダ9に挿入されたプランジャ10の軸心との間にずれがある場合にも、そのずれに応じて第2スリーブ14が第1スリーブ13に対して径方向に移動し、第2スリーブ14の外周の嵌合円筒面25とプランジャ10の内周との間のリーク隙間26の大きさが、径方向で均一化される。そのため、安定したダンパ力を得ることが可能である。
【0069】
また、このチェーンテンショナ1は、
図3に示すように、リターンスプリング18を第2スリーブ14で支持しているので、リターンスプリング18がプランジャ10(
図2参照)を付勢する力の反力で第2スリーブ14が第1スリーブ13に押し付けられる。そのため、エンジンの振動等により第1スリーブ13と第2スリーブ14が離反するのを防止することができる。
【0070】
上記実施形態では、第2スリーブ14に形成するリリーフシート面36を断面凸円弧状の環状面とし、シート部材21のリリーフシート面36との接触面37をテーパ面としたものを例に挙げて説明したが、
図5に示すように、第2スリーブ14に形成するリリーフシート面36をテーパ面とし、シート部材21のリリーフシート面36との接触面37を断面凸円弧状の環状面としてもよい。
【0071】
図6、
図7に、シート部材21の変形例を示す。
図6において、シート部材21は、リリーフシート面36との接触位置よりもリザーバ室16の側(図では左側)に、第1スリーブ13または第2スリーブ14の内周で軸方向に移動可能に案内される外周円筒面41と、その外周円筒面41を周方向に分断するように軸方向に貫通して形成された通油溝42とが形成されている。
図7に示すように、通油溝42は、周方向に間隔をおいて複数設けられている。この構成を採用すると、シート部材21がリリーフシート面36から離反したときのシート部材21の姿勢を外周円筒面41で安定させるとともに、シート部材21がリリーフシート面36から離反したときのオイルの流路を通油溝42で確保することが可能となる。
【0072】
図8、
図9に示すように、シート部材21のリリーフシート面36との接触面37に、エア抜き溝43を形成してもよい。
図8、
図9において、エア抜き溝43は、シート部材21とリリーフシート面36とが接触する円環状の部位を横切って延びる溝である。このエア抜き溝43を設けると、
図9に示すように、シート部材21がリリーフシート面36に接触した状態で、第2スリーブ14内に存在するエアが、エア抜き溝43を通ってリザーバ室16に排出される。そのため、より安定したダンパ力を得ることが可能となる。エア抜き溝43は、リリーフシート面36に設けるようにしてもよい。
【0073】
図10に示すように、シート部材21の弁体22との接触面(すなわち、チェックバルブ15のシート面)に、エア抜き溝44を形成してもよい。
図10において、エア抜き溝44は、弁体22とシート部材21とが接触する円環状の部位を横切って延びる溝である。このエア抜き溝44を設けると、弁体22が弁孔20の圧力室17の側の端部を閉じた状態で、第2スリーブ14内に存在するエアが、エア抜き溝44と弁孔20を順に通ってリザーバ室16に排出される。そのため、より安定したダンパ力を得ることが可能となる。
【0074】
図11に示すように、シート部材21のリリーフシート面36との接触面37にエア抜き溝43を形成するとともに、シート部材21の弁体22との接触面にエア抜き溝44を形成することも可能である。
【0075】
図12~
図14に、この発明の第2実施形態のチェーンテンショナ1を示す。第1実施形態に対応する部分は同一の符号を付して説明を省略する。
【0076】
図13に示すように、第1スリーブ13のプランジャ10内への挿入端には、環状凸部50が形成されている。環状凸部50は、第1スリーブ13の軸心を中心とする環状の軸方向突起である。第2スリーブ14には、環状凸部50に嵌合する環状凹部51が形成されている。環状凹部51は、第2スリーブ14の軸心を中心とする環状の軸方向の凹みである。第2スリーブ14は、環状凸部50と環状凹部51の嵌合により、第1スリーブ13に対して径方向に位置決めされている。
【0077】
図12、
図14に示すように、第1スリーブ13のプランジャ10からの突出端は、シリンダ9の閉塞端に軸方向に当接して支持される環状の部分球面52を有する。部分球面52は、第1スリーブ13の軸心上に中心をもつ球面の一部分である。シリンダ9の閉塞端は、第1スリーブ13の傾動を許容するように部分球面52を摺動可能に支持する凹テーパ面53を有する。
【0078】
この実施形態のチェーンテンショナ1は、環状凸部50と環状凹部51の嵌合により、第1スリーブ13の軸心と第2スリーブ14の軸心とを合致させることが可能である。そのため、リーク隙間26のオイルの流れを安定させることが可能となる。
【0079】
また、この実施形態のチェーンテンショナ1は、第1スリーブ13のプランジャ10からの突出端が、シリンダ9の閉塞端で傾動可能に支持されているので、第1スリーブ13の軸心と、シリンダ9に挿入されたプランジャ10の軸心との間にずれがある場合にも、そのずれに応じて第1スリーブ13がシリンダ9に対して傾動し、第2スリーブ14の外周の嵌合円筒面25とプランジャ10の内周との間のリーク隙間26の大きさが、軸方向で均一化される。そのため、安定したダンパ力を得ることが可能である。
【0080】
図13に示す環状凸部50と環状凹部51の間に、締め代を設定すると好ましい。このようにすると、その締め代によって第2スリーブ14が第1スリーブ13に固定されるので、第1スリーブ13、第2スリーブ14、リリーフスプリング34、シート部材21、弁体22とを一体化した組立体(アッシー)として扱うことが可能となり、チェーンテンショナ1の組み立て作業性を向上させることができる。
【0081】
環状凸部50と環状凹部51の間に締め代を設定する場合、その締め代によってリーク隙間26の大きさが変化しないよう、
図13に示すように、環状凸部50と環状凹部51とが嵌合する部位の軸方向長さを短く(例えば、
図13に示す第2スリーブ14の半径方向の肉厚未満に)設定するとともに、環状凸部50と環状凹部51とが嵌合する部位を、嵌合円筒面25と半径方向に重なり合わないように配置すると好ましい。
【0082】
図14では、シリンダ9の閉塞端に凹テーパ面53を形成した例を示したが、
図15に示すように、シリンダ9の閉塞端に凹球面54を形成するようにしてもよい。
図15において、第1スリーブ13のプランジャ10からの突出端の部分球面52は、シリンダ9の閉塞端に形成された凹球面54で摺動可能に支持され、その摺動によって第1スリーブ13の傾動を許容するようになっている。
【0083】
上記各実施形態では、チェーンテンショナ1を、クランクシャフト2の回転をカムシャフト4に伝達するチェーン伝動装置に組み込んだ例を挙げて説明したが、チェーンテンショナ1は、クランクシャフトの回転をオイルポンプやウォーターポンプやスーパーチャージャー等の補機に伝達するチェーン伝動装置や、クランクシャフトの回転をバランサシャフトに伝達するチェーン伝動装置や、ツインカムエンジンの吸気カムと排気カムを互いに連結するチェーン伝動装置に組み込むことも可能である。
【0084】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0085】
1 チェーンテンショナ
9 シリンダ
10 プランジャ
13 第1スリーブ
14 第2スリーブ
15 チェックバルブ
16 リザーバ室
17 圧力室
18 リターンスプリング
20 弁孔
21 シート部材
22 弁体
25 嵌合円筒面
26 リーク隙間
30 給油通路
33 通油路
34 リリーフスプリング
36 リリーフシート面
37 接触面
38 リリーフバルブ
43 エア抜き溝
44 エア抜き溝
50 環状凸部
51 環状凹部
52 部分球面
53 凹テーパ面
54 凹球面